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明細書 :細胞内へ物体を導入する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 細胞内へ物体を導入する方法
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12M   1/42        (2006.01)
FI C12Q 1/02 ZNA
C12Q 1/68 Z
C12M 1/00 A
C12M 1/42
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 24
出願番号 特願2016-510037 (P2016-510037)
国際出願番号 PCT/JP2015/001669
国際公開番号 WO2015/146153
国際出願日 平成27年3月24日(2015.3.24)
国際公開日 平成27年10月1日(2015.10.1)
優先権出願番号 2014059898
優先日 平成26年3月24日(2014.3.24)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】小椋 利彦
【氏名】野村 慎一郎
【氏名】齋藤 明
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100105991、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 玲子
【識別番号】100119183、【弁理士】、【氏名又は名称】松任谷 優子
【識別番号】100114465、【弁理士】、【氏名又は名称】北野 健
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B063
Fターム 4B029AA07
4B029AA24
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4B063QX01
4B063QX04
要約 従来技術に比してサイズの大きな物体であっても簡便に導入することができ、細胞の生存を損なうことがない細胞内物体導入方法として、物体を封入した巨大単層膜リポソーム(Giant Unilamellar Liposome)を細胞と電気融合させる手順を含む方法を提供する。この方法は、前記物体を封入した巨大単層膜リポソームと前記細胞との混合液に交流電場を印加する第一手順と、該第一手順の後に前記混合液に直流パルス電場を印加する第二手順と、を含む。この方法によれば、直径100nm以上の大きさの物体を細胞内に導入できる。
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞内に物体を導入する方法であって、
前記物体が封入され、負の表面電位を付された巨大単層膜リポソーム(Giant Unilamellar Liposome)と、前記細胞と、の混合液に交流電場を印加して、前記巨大単層膜リポソームと前記細胞とを配列させる第一手順と、
該第一手順の後に、前記混合液に直流パルス電場を印加して、前記巨大単層膜リポソームの膜と前記細胞の膜とを少なくとも一部融合させる第二手順と、
を含む方法。
【請求項2】
前記巨大単層膜リポソームが-40mV~-20mVの表面電位を有する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記巨大単層膜リポソームの膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記第一手順において、前記交流電場を5~15V/mmで、10~60秒印加し、前記第二手順において、前記直流パルス電場を100~175V/mmで、30~50マイクロ秒印加する請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記物体が、直径100nm以上の大きさである請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記物体が、粒子、核酸、高分子、微生物及び細胞内小器官からなる群より選択される一以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
巨大単層膜リポソームの製造方法であって、
該巨大単層膜リポソームの膜を構成する脂質を、前記巨大単層膜リポソームの表面電位が-40mV~-20mVとなるように調製することを含む製造方法。
【請求項8】
前記巨大単層膜リポソームの膜を構成する脂質を、該脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%となるように調製することを含む請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
-40mV~-20mVの表面電位を有する巨大単層膜リポソーム。
【請求項10】
膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%である請求項9記載の巨大単層膜リポソーム。
【請求項11】
粒子、核酸、高分子、微生物及び細胞内小器官からなる群より選択される一以上の物体が封入された請求項9又は10記載の巨大単層膜リポソーム。
【請求項12】
請求項1~6記載の方法により細胞内に物体を導入し、該物体の細胞内における搖動を検出することにより、細胞内の物理特性を測定する方法。
【請求項13】
請求項1~6記載の方法により細胞内に磁性を有する物体を導入し、細胞に磁場を印加することにより、細胞の位置を制御する方法。
【請求項14】
請求項1~6記載の方法により細胞内に金粒子及び/又は銀粒子を導入する手順を含む、表面増強ラマン散乱分光法。
【請求項15】
細胞内の所定のタンパク質あるいは該タンパク質が構成する細胞内器官に物理的な力を作用させる方法であって、
前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官に結合対の第一因子を付加する手順と、
結合対の第二因子を付加した磁性粒子を請求項1~6記載の方法により細胞内に導入する手順と、
前記第一因子及び前記第二因子が形成する結合対を介して前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官に結合した前記磁性粒子に磁場を作用させる手順と、
を含む方法。
【請求項16】
前記第一因子がビオチンであり、前記第二因子がストレプトアビジンであり、インビボビオチニレーション法によって前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官にビオチンを付加する請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項15又は16記載の方法により細胞内の所定のタンパク質あるいは該タンパク質が構成する細胞内器官に物理的な力を負荷し、負荷の前後における前記細胞内の遺伝子発現量の変化を検出する遺伝子発現解析方法。
【請求項18】
請求項1~6記載の方法により細胞内に酵素反応に関与する酵素及び/又は機能性分子を固定した人工DNAナノ構造(DNA origami)を導入することにより、細胞内代謝を改変する方法。
【請求項19】
請求項1~6記載の方法により細胞内に温度感受性ポリマーを導入する手順と、該温度感受性ポリマーの温度依存的な構造変化を検出する手順を含む、細胞内温度測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内へ物体を導入する方法に関する。より詳しくは、巨大単層膜リポソーム(Giant Unilamellar Liposome)を用いて、サイズの大きな物体を細胞内へ導入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な化学修飾がなされたマイクロビーズや機能性物質が開発され、研究や診断に利用されている。これらを細胞内に導入できれば、生きた細胞内の環境を観察することが可能となる。生細胞への物質導入方法として、従来、リポフェクションや電気穿孔法、パーティクルガン、マイクロインジェクションなどが用いられている。
【0003】
巨大単層膜リポソーム(Giant Unilamellar LiposomeあるいはGiant Unilamellar Vesicle、以下「GUV」と称する)は、脂質二重膜(lipid bilayer)が水溶液中で自然に閉じてできる人工膜小胞(liposome又はvesicle)であって、直径がマイクロメートルオーダー以上のものをいう(非特許文献1,2参照)。GUVは、細胞と同程度の大きさであり、位相差、蛍光、微分干渉、暗視野などの種々の光学顕微鏡法で直接観察ができる利点を持つ。GUVは、生体膜の形態形成や動態制御の機構をインビトロの系で研究する際、膜のモデルとして用いられてきている。
【0004】
特許文献1及び非特許文献3には、コネキシンから構成されるコネクソンを組み込んだリポソームを作製し、該リポソームの内部に物質を包含させ、細胞と接触させることによって、細胞に物質を注入する方法が記載されている。この方法では、リポソームの膜上に構成されたコネクソンがチャネルとして機能し、リポソーム内の物質が当該チャネルを通って細胞内に注入される。このため、細胞に注入可能な物質のサイズは、コネクソンの内径(2nm程度)によって制限される。
【0005】
非特許文献4には、細胞の長期凍結・乾燥保存を目的として、膜非透過性の凍結・乾燥保護物質(トレハロースなどの糖類)を含むGUVを細胞と電気融合させることで凍結・乾燥保護物質を細胞内に導入することが記載されている。当該文献は、トレハロース等の糖類に比してサイズが大きいマイクロビーズ等の物体を細胞内に導入すること及びそのためのGUVの調製方法や電気融合条件等については記載していない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特許第5057362号
【0007】

【非特許文献1】Nature, 1991, 349, 475-481
【非特許文献2】Biosystems, 2003, 71, 93-100
【非特許文献3】Biomaterials, 2009, 30, 3971-3977
【非特許文献4】Cryobiology, 2006, 53(3), 397
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リポフェクションや電気穿孔法、パーティクルガンのような従来の生細胞への物質導入方法では、導入可能な物質のサイズは、最大で100nm程度である。また、マイクロインジェクションでは、個々の細胞に微小な注射針を刺して物質を導入するため、作業に熟練と時間を要し、多数の細胞に物質を導入することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は、従来技術に比してサイズの大きな物体であっても簡便に導入することができ、細胞の生存を損なうことがない細胞内物体導入方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、以下の細胞内物体導入方法等を提供する。
[1]細胞内に物体を導入する方法であって、前記物体を封入した巨大単層膜リポソーム(Giant Unilamellar Liposome)を前記細胞と電気融合させる手順を含む方法。
[2]前記物体を封入した巨大単層膜リポソームと前記細胞との混合液に交流電場を印加する第一手順と、該第一手順の後に前記混合液に直流パルス電場を印加する第二手順と、を含む[1]記載の方法。
[3]前記第一手順は、GUVと前記細胞との混合液に交流電場を印加して前記GUVと前記細胞とを配列させる手順であり、
前記第二手順は、前記混合液に直流パルス電場を印加して前記GUVの膜と前記細胞の膜とを少なくとも一部融合させる手順である[3]記載の方法。
[4]前記GUVに負の表面電位が付されている[1]~[3]のいずかに記載の方法。
[5]前記GUVが-40mV~-20mVの表面電位を有する[4]記載の方法。
[6]前記GUVの膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%である[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]前記第一手順において、前記交流電場を5~15V/mmで、10~60秒印加し、前記第二手順において、前記直流パルス電場を100~175V/mmで、30~50マイクロ秒印加する[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記物体が、直径100nm以上の大きさである[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]前記物体が、粒子、核酸、高分子、微生物及び細胞内器官からなる群より選択される一以上である[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【0011】
[10]GUVの製造方法であって、該GUVの膜を構成する脂質を、前記GUVの表面電位が-40mV~-20mVとなるように調製することを含む製造方法。
[11]前記GUVの膜を構成する脂質を、該脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%となるように調製することを含む[10]記載の製造方法。
【0012】
[12]40mV~-20mVの表面電位を有するGUV。
[13]膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%である[12]記載のGUV。
[14]粒子、核酸、高分子、微生物及び細胞内小器官からなる群より選択される一以上の物体が封入された[12]又は[13]記載のGUV。
[15]直径100nm以上の大きさの物体が封入された[12]~[14]のいずれかに記載の巨大単層膜リポソーム。
【0013】
[16][1]~[9]記載の方法により細胞内に物体を導入し、該物体の細胞内における搖動を検出することにより、細胞内の物理特性を測定する方法。
[17][1]~[9]記載の方法により細胞内に磁性を有する物体を導入し、細胞に磁場を印加することにより、細胞の位置を制御する方法。
[18][1]~[9]記載の方法により細胞内に金粒子及び/又は銀粒子を導入する手順を含む、表面増強ラマン散乱分光法。
[19]細胞内の所定のタンパク質あるいは該タンパク質が構成する細胞内器官に物理的な力を作用させる方法であって、前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官に結合対の第一因子を付加する手順と、結合対の第二因子を付加した磁性粒子を[1]~[9]記載の方法により前記細胞内に導入する手順と、前記第一因子及び前記第二因子が形成する結合対を介して前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官に結合した前記磁性粒子に磁場を作用させる手順と、を含む方法。
[20]前記第一因子がビオチンであり、前記第二因子がストレプトアビジンであり、インビボビオチニレーション法によって前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官にビオチンを付加する[19]記載の方法。
[21][19]又は[20]記載の方法により細胞内の所定のタンパク質あるいは該タンパク質が構成する細胞内器官に物理的な力を負荷し、負荷の前後における前記細胞内の遺伝子発現量の変化を検出する遺伝子発現解析方法。
[22][1]~[9]記載の方法により細胞内に酵素反応に関与する酵素及び/又は機能性分子を固定した人工DNAナノ構造(DNA origami)を導入することにより、細胞内代謝を改変する方法。
[23][1]~[9]記載の方法により細胞内に温度感受性ポリマーを導入する手順と、該温度感受性ポリマーの温度依存的な構造変化を検出する手順を含む、細胞内温度測定方法。
【0014】
[24][1]~[9]記載の方法により細胞内にミトコンドリアを導入する手順を含む、ミトコンドリア病の治療方法。
[25]患者から分離された細胞に、[1]~[9]記載の方法により正常なミトコンドリアを導入する手順を含む、ミトコンドリア病の治療用細胞製剤の製造方法。
[26]前記細胞内小器官がミトコンドリアである[14]記載のGUV。
[27][26]記載のGUVと、細胞とを含む、ミトコンドリア病の治療用細胞組成物。
[28][26]記載のGUVと、患者から分離された細胞であって正常なミトコンドリアが導入された細胞と、を含む、ミトコンドリア病の治療用細胞組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、従来技術に比してサイズの大きな物体であっても簡便に導入することができ、細胞の生存を損なうことがない細胞内物体導入方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る細胞内物体導入方法におけるGUVと細胞の電気融合の手順を説明する模式図である。
【図2-1】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図2-2】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図2-3】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図2-4】DNA origamiの塩基配列を示す図である。
【図3】GUVとの電気融合により蛍光ビーズ(直径1μm)を導入した細胞の共焦点顕微鏡写真である。
【図4】サイズの異なる蛍光ビーズを封入したGUVと電気融合させた細胞の共焦点顕微鏡写真である。
【図5】GUVとの電気融合によりEGFP発現ベクターを導入した細胞の位相差顕微鏡写真及び共焦点顕微鏡写真である。
【図6】GUVとの電気融合によりDNA origamiを導入した細胞の位相差顕微鏡写真及び共焦点顕微鏡写真である。
【図7】本発明に係る細胞内物体導入方法により磁気ビーズを導入し、磁場を印加して回転させた細胞を撮影した連続写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。

【0018】
1.細胞内物体導入方法
本発明に係る細胞内物体導入方法は、物体を封入した巨大単層膜リポソーム(GUV)を細胞と電気融合させる手順を含むことを特徴とする。具体的には、本発明に係る細胞内物体導入方法は、(i)前記物体が封入され、負の表面電位を付されたGUVと前記細胞との混合液に交流電場を印加して、前記GUVと前記細胞とを配列させる第一手順と、(ii)該第一手順の後に、前記混合液に直流パルス電場を印加して、前記GUVの膜と前記細胞の膜とを少なくとも一部融合させる第二手順と、場合によって(iii)該第二手順の後に、前記混合液に交流電場を印加して、前記巨大単層膜リポソームの膜と前記細胞の膜との融合状態を維持する第三手順と、を含む。

【0019】
(1)GUV及びその製造方法
GUVの製造は、文献公知の静置水和法、エレクトロフォーメーション法及び界面通過法などの手法あるいはこれらの改良手法によって行うことができる。静置水和法は、試験管内に作製したリン脂質を主成分とする脂質フィルムに水溶液を加え静置してGUVを作製する方法である(J. Mol. Biol., 1999, 287, 293-300; J. Mol. Biol., 1998, 284, 1671-1681; Curr. Biol., 2009, 19, 140-145)。エレクトロフォーメーション法は、白金や透明導電ガラス(ITOガラスなど)の表面にリン脂質を主成分とする脂質を塗布しておき、水溶液中で交流電圧を印加してGUVを作製する方法である(Nature, 2010, 464, 864-869)。界面通過法は、油水界面にできる脂質の単層の膜(lipid monolayer)を利用してGUVを作製する方法である(Langmuir, 2011, 27, 11528-11535; Method Enzymol., 2009, 464, 31-53)。

【0020】
GUVの製造に用いられる脂質を列挙すれば、リン脂質、コレステロール、合成脂質などが挙げられる。

【0021】
リン脂質としてグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質等を挙げることができる。
グリセロ糖脂質としては、例えば、スルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド及びグリコシルジグリセリド等を挙げることができる。
スフィンゴ糖脂質としては、例えば、ガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等を挙げることができる。
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン及び水素添加リン脂質等の天然または合成のリン脂質を挙げることができる。

【0022】
上記ホスファチジルコリンとしては、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトオレオイルホスファチジルコリン及びジステアロイルホスファチジルコリン等を挙げることができる。
上記ホスファチジルエタノールアミンとしては、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトオレオイルホスファチジルエタノールアミン及びジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等を挙げることができる。
上記ホスファチジルセリンとしては、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、パルミトオレオイルホスファチジルセリン及びジステアロイルホスファチジルセリン等を挙げることができる。
上記ホスファチジルグリセロールとしては、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、パルミトオレオイルホスファチジルグリセロール及びジステアロイルホスファチジルグリセロール等を挙げることができる。
上記ホスファチジルイノシトールとしては、ジラウロイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、パルミトオレオイルホスファチジルイノシトール及びジステアロイルホスファチジルイノシトール等を挙げることができる。

【0023】
合成脂質としては、例えば、アルキル化アンモニウム塩を挙げることが出来る。アルキル化アンモニウム塩としては,ベンジルドデシルジメチルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、ベンジルオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジパルミチルアンモニウムブロミド、ジオクタデシルアンモニウムブロミド、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド1水和物等を挙げることができる。

【0024】
これらの脂質のうち、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジルイノシトールは形成されるGUVに負の表面電位を付与し、アルキル化アンモニウム塩は正の表面電位を付与する。これら2群の脂質の比率を調整することで、所望の表面電位を有するGUVを製造できる。GUVの表面電位は、好ましくは0mV未満であり、より好ましくは-20mV以下であり、さらに好ましくは、-40mV~-20mVである。このような表面電位を与える脂質組成として、ジオレオイルホスファチジルコリン:ジオレオイルフォスファチジルグリセロール:コレステロール=9:1:1(モル比)を例示できる。表面電位が高過ぎる場合、GUVと細胞との意図しない接着が生じ、GUVと細胞との電気融合が不能となったり、電気融合後にGUVと細胞を分離できなくなったりする。また、表面電位が上記範囲よりも低過ぎる場合、GUVが不安定となる。

【0025】
コレステロールとしては、コレステロール、ベーターコレステロール、ベーターシトステロール及びスティグマステロール等を挙げることができる。

【0026】
脂質全体に占めるコレステロールの割合を調整することで所望の膜強度を有するGUVを製造できる。脂質全体に占めるコレステロールの割合が大きい程膜強度は大きくなる。コレステロールの割合は、例えば0~20モル%、好ましくは0~15モル%、より好ましくは0~10モル%、さらに好ましくは0~5モル%、最も好ましくは0モル%である。すなわち、GUVはコレステロールを含まない脂質からなることが最も好ましい。

【0027】
GUVのサイズは、通常、直径でマイクロメートルオーダー以上とされる。GUVのサイズは、本発明においては、交流電場による細胞との配向の影響を考慮して、細胞と同程度のサイズとなる直径10μm以上50μm以下が好ましい。本発明に係る細胞内物体導入方法では、あらかじめGUVに封入した直径100nm以上の大きさの物体を細胞内に導入する。そのため、GUVのサイズは導入される物体よりも充分に大きいことが望ましい。

【0028】
(2)封入する物体
GUVに封入する物体は、粒子、核酸、高分子、微生物及び細胞内器官からなる群より選択される一以上であってよい。

【0029】
粒子としては、樹脂製又は金属製のマイクロビーズ、金コロイドや銀コロイドなどのコロイド粒子などが挙げられる。マイクロビーズは、化合物や高分子を修飾あるいは含有させたものであってもよく、抗体やアビジン/ビオチンなどを結合したアフィニティービーズや薬剤徐放ビーズなどとできる。化合物あるいは薬剤としては、センサー、細胞内反応の賦活剤や阻害剤、酸やアルカリなどが挙げられる。また、マイクロビーズは、フェライトビーズなどの磁性を有するものであってもよい。
核酸としては、DNA、RNA、プラスミド及び人工DNAナノ構造(例えばDNA origami)などが挙げられる。プラスミドは、細胞内で発現させる遺伝子と遺伝子発現のためのプロモータなどを組み込んだものであってよい。人工DNAナノ構造は、化合物や高分子を結合したものであってもよい。
高分子は、天然あるいは人工のものであってよく、タンパク質や種々のポリマーが挙げられる。タンパク質は、上記の抗体や、細胞内反応に関与する酵素、蛍光タンパク質などが挙げられる。ポリマーは、温度やpHに感応して構造が変化する機能性ポリマーであってよい。
微生物としては、例えば、らん藻やらい菌、乳酸菌、プロトバクテリアなどが挙げられる。また、細胞内器官としては、葉緑体やミトコンドリア、核(物体を導入する細胞とは異なる細胞種の核)などが挙げられる。さらに、GUVに封入する物体は、微小な電気回路やセンサー、ミラーなどのいわゆるナノデバイスであってもよい。

【0030】
本発明に係る細胞内物体導入方法において、GUVに封入する物体は、以上に例示したものに限られず、GUVに封入可能なまでの大きさのものであれば任意の物体であってよい。本発明に係る細胞内物体導入方法によれば、直径100nm以上の大きさの物体を細胞内に導入することが可能であるが、物体の大きさは、GUVへの封入及び細胞内への導入の効率の観点から直径1μm程度までが好ましい。ただし、直径2μm程度までの物体についてはGUVへの封入及び細胞内への導入が可能であることが確認されており(実施例参照)、直径5μm程度までの物体であれば細胞内に導入できる可能性がある。

【0031】
(3)GUV内への物体の封入
静置水和法、エレクトロフォーメーション法及び界面通過法などを用いてGUVを製造する際に、物体を含んだ溶液又は分散液を用いることで、内部に物体を取り込んだGUVを形成できる。誘電率の高い物体をGUV内に導入する場合には、エレクトロフォーメーション法以外の方法を用いることが好ましく、特に界面通過法を用いることが好ましい。

【0032】
このようにして製造される本発明に係るGUVは、好ましくは、粒子、核酸、高分子、微生物及び細胞内小器官からなる群より選択される一以上の物体を含み、-40mV~-20mVの表面電位を有し、膜を構成する脂質全体に占めるコレステロールの割合が0~15モル%とされたものである。

【0033】
(4)電気融合
GUVに封入した物体の細胞内への導入は、GUVと細胞を電気融合させることによって行うことができる。電気融合は、物体を封入したGUVと細胞との混合液に交流電場を印加する第一手順と、混合液に直流パルス電場を印加する第二手順と、場合によって混合液に再度交流電場を印加する第三手順を含む。電気融合の手順を図1に示す。

【0034】
[第一手順]
第一手順は、GUV1と細胞3との混合液に交流電場を印加してGUV1と細胞3とを配列させる手順である。まず、物体2を封入したGUV1と、細胞3とを適当な緩衝液中で懸濁、混合する。緩衝液は、特に限定されないが、細胞内溶液と浸透圧が同等または近いものが望ましい。例えば、300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム及び0.1mM塩化マグネシウムの溶液が挙げられる(図(A)参照)。

【0035】
次に、物体2を封入したGUV1と細胞3との混合液に交流電場を印加する(図(B)参照)。この手順は、一対の電極4,4間に混合液を導入して交流電場を印加することによって行うことができ、市販の細胞電気融合装置(電極及び電圧調整器等を含む)を用いて行うことができる。交流電圧としては、特に限定されないが、例えば5~15V/mm程度で10~60秒程度とされる。交流電場を印加することによって、GUV1と細胞3が電極4,4間に一列に配列し、互いに接触して数珠状(パールチェーン状)に連なった状態となる。

【0036】
[第二手順]
第二手順は、混合液に直流パルス電場を印加してGUV1の膜と細胞3の膜とを少なくとも一部融合させる手順である。(図(C)参照)。この手順では、直流パルス電圧の印加により、接触し合うGUV1の脂質膜と細胞3の細胞膜とが融合する。これにより、GUV1内の物体2が細胞3内に導入される(図(D)参照)。直流パルス電圧としては、特に限定されないが、例えば100~175V/mm程度で30~50マイクロ秒程度とされる。

【0037】
[第三手順]
第三手順は、混合液に交流電場を印加してGUV1の膜と細胞3の膜との融合状態を維持する手順である。この手順は、必要に応じて行われるものであるが、通常は省略でき、省略することが好ましい場合もある。交流電圧としては、特に限定されないが、例えば5~30V/mm程度で10秒程度以下とされる。電気融合後、細胞3を洗浄してGUV1と分離させる。

【0038】
以上の手順により、直径100nm以上の大きさの物体を、複雑な操作を要することなく、多数の生細胞(105個/ml程度)に同時に物体を導入できる(後述する実施例参照)。また、細胞内に導入された物体は一部核や小胞体、ミトコンドリアの内部に移行すると予想されるため、本発明に係る細胞内物体導入方法によれば、核、小胞体及びミトコンドリア等の細胞内器官内への物体の導入も可能である。

【0039】
2.応用例
(1)細胞内の物理特性測定
本発明に係る細胞内物体導入方法は、細胞内(核等の細胞内器官内を含む)の物理特性を測定するために応用できる。この細胞内物理特性測定方法は、本発明に係る細胞内物体導入方法により細胞内に物体を導入し、該物体の細胞内における搖動を検出する手順を含む。

【0040】
細胞内に導入する物体は、汎用の樹脂製マイクロビーズなどの粒子であってよい。粒子の搖動は、光学顕微鏡法下で細胞を撮像し、細胞内の粒子の動きを画像解析することによって検出できる。検出された粒子の搖動に基づけば、例えば細胞質や核の粘弾性などの物理特性を測定することができる。

【0041】
また、光ピンセットの技術は、集光したレーザー光により粒子を焦点位置の近傍に捕捉したり動かしたりすることできるため、粒子の搖動を制御しながら粘弾性等を測定するために利用できる。

【0042】
また、フェライト粒子などの市販の磁性マイクロビーズを細胞内に導入して、細胞内の物理特性を測定することもできる。例えば、細胞に磁場を印加して細胞内の磁性マイクロビーズを磁力で牽引しながら、磁性マイクロビーズの移動(速度、加速度等)を検出する。検出された速度及び加速度等に基づけば、細胞質や核の粘弾性を測定できる。

【0043】
(2)細胞の位置制御
本発明に係る細胞内物体導入方法は、細胞の位置を制御するために応用できる。この細胞位置制御方法は、本発明に係る細胞内物体導入方法により細胞内に磁性を有する物体を導入し、細胞に磁場を印加する手順を含む。

【0044】
細胞内に導入する磁性を有する物体には、フェライト粒子などの市販の磁性マイクロビーズを利用できる。磁性マイクロビーズを導入した細胞にネオジム磁石等を用いて磁場を印加することによって、細胞を移動、回転等させて細胞の位置を制御することができる。この細胞位置制御方法よれば、複数種の細胞を積層して3次元構造を構築することが可能となる。

【0045】
(3)生細胞の表面増強ラマン散乱測定
本発明に係る細胞内物体導入方法は、表面増強ラマン散乱分光法による生細胞の観察のために応用できる。この表面増強ラマン散乱分光法は、本発明に係る細胞内物体導入方法により細胞内に金粒子及び/又は銀粒子を導入する手順を含む。

【0046】
本発明に係る細胞内物体導入方法によれば、生きた細胞の細胞質内又は核内に金粒子や銀粒子を導入できるため、粒子表面での増強ラマン散乱を生細胞で検出、測定することができる。この表面増強ラマン散乱分光法によれば、生細胞の細胞質内あるいは核内に存在する単一タンパク質分子を測定することが可能となる。

【0047】
(4)細胞内器官に物理的な力を作用させる方法
本発明に係る細胞内物体導入方法は、細胞内の特定のオルガネラ(細胞内器官)に物理的な力を作用させるために応用が可能である。すなわち、本発明に係る細胞内器官に物理的な力を作用させる方法は、細胞内の所定のタンパク質あるいは該タンパク質が構成する細胞内器官に物理的な力を作用させる方法であって、前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官に結合対の第一因子を付加する手順(第1手順)と、結合対の第二因子を付加した磁性粒子を封入したGUVを前記細胞と電気融合させる手順(第2手順)と、前記第一因子及び前記第二因子が形成する結合対を介して前記所定のタンパク質あるいは前記細胞内器官に結合した前記磁性粒子に磁場を作用させる手順(第3手順)と、を含むことを特徴とする。

【0048】
[第1手順]
第1手順は、細胞内の所定のタンパク質あるいは該タンパク質が構成する細胞内器官に結合対の第一因子を付加する手順である。

【0049】
第一因子は、後述する第二因子と結合し得るものであればよく、例えばアビジンと結合するビオチンを用いることができる。第一因子の付加のための手法は、用いる因子に応じて適宜種々の手法が採用され得るが、例えばビオチンを用いる場合、インビボビオチニレーション法によって行うことができる。所定のタンパク質をコードするcDNAにビオチンタグを付加し、遺伝子導入によって細胞内にビオチンタグ融合タンパク質を発現させ、同時にビオチンリガーゼも発現させる。これにより、融合タンパク質にビオチンを付加できる。さらに、ビオチンが付加されたタンパク質が細胞内においてオルガネラを構成することで、ビオチンが付加されたオルガネラが得られる。

【0050】
[第2手順]
第2手順は、結合対の第二因子を付加した磁性粒子を封入したGUVを細胞と電気融合させる手順であり、本発明に係る細胞内物体導入方法に相当する手順である。

【0051】
第一因子は、第二因子と結合し得るものであればよく、例えばアビジンを用いることができる。磁性粒子へのアビジンの付加は、公知の手法によって行うことができ、フェライト粒子などの磁性粒子にストレプトアビジンを修飾した市販の磁性マイクロビーズを利用してもよい。

【0052】
[第3手順]
第3手順は、第一因子及び第二因子が形成する結合対を介して所定のタンパク質あるいは細胞内器官に結合した磁性粒子に磁場を作用させる手順である。

【0053】
磁性マイクロビーズを導入した細胞にネオジム磁石等を用いて磁場を印加することによって、アビジン/ビオチンを介して磁性マイクロビーズが結合しているタンパク質又はオルガネラに物理的な力を作用させることができる。

【0054】
この方法は、遺伝子発現解析方法に応用でき、具体的には、特定のオルガネラに対する力学刺激負荷に応答して発現量が変化する遺伝子の同定等に利用できる。例えば、アクチンやクロマチン等の各種核内タンパク質をビオチン化し、ストレプトアビジン修飾磁性マイクロビーズを結合させて物理的な力を負荷する。そして、負荷前後の細胞内の遺伝子発現量の変化を比較する。これにより、アクチン骨格やクロマチンへの力学刺激に応答して発現が増加又は減少する遺伝子を同定できる。なお、遺伝子発現量は、RNAシークエンス及びマイクロアレイなどの公知の手法によって測定できる。

【0055】
(5)細胞内代謝改変
[人工DNAナノ構造]
本発明に係る細胞内物体導入方法は、細胞内の代謝を改変するために応用できる。この細胞内代謝改変方法は、本発明に係る細胞内物体導入方法により細胞内に酵素及び/又は機能性分子を固定した人工DNAナノ構造(例えばDNA origami)を導入する手順を含む。

【0056】
一連の酵素反応に関与する酵素及び/又は機能性分子を固定したDNA origamiは、細胞外で反応を進行させ得ることが示されている(Single-step rapid assembly of DNA origami nanostructures for addressable nanoscale bioreactors. J. Am. Chem. Soc., 2013, 135:696-702)。DNA origamiへの酵素等の固定は、DNA origamiの表面に座標を設定し、反応に関与する分子を2次元ネットワークを形成するように各座標位置に配列していくことによって行う。後述する実施例では、表面に282個の蛍光分子を座標指定して配置したDNA origamiを細胞内へ導入できることが確認されている。DNA origamiのサイズもGUVに封入可能なまでの大きさであればよいが、例えば一辺100nm程度の矩形とされ得る。

【0057】
一連の酵素反応に関与する酵素及び/又は機能性分子を固定したDNA origamiを細胞内に導入し機能させることにより、細胞が元来有する代謝経路をその経路を維持したまま活性化あるいは抑制したり、経路を改変したりできる。また、細胞に、当該細胞が元来備えない新たな代謝機能を付与することもできる。この細胞内代謝改変方法は、例えば糖代謝系を活性化した場合における、脂肪球の消化や細胞周期の変化を解析するためなどに利用できる。

【0058】
[サブマイクロゲルビーズ]
本発明に係る細胞内代謝改変方法では、人工DNAナノ構造に替えて、サブマイクロゲルビーズを用いることもできる。種々の小分子・高分子を封入できる材料として,アルギン酸をカルシウムで架橋固定したマイクロゲルビーズ(人工イクラ)が知られている。マイクロゲルビーズは、凍結乾燥してすりつぶすなどの簡単な操作によって、サブマイクロメートルサイズに変換できる。ゲルにおいては、封入した高分子の拡散係数がほぼゼロとなり、封入した小分子の拡散係数は溶液中よりやや低いか同程度となる環境を設定できる。このため、高分子として酵素を、小分子として基質を、ゲルに封入することによって、一連の酵素反応に関与する酵素及び/又は機能性分子を封入した人工連鎖酵素反応球を作成できる。この人工連鎖酵素反応球によれば、上記のDNA origamiにおける2次元ネットワークよりも大規模な3次元ネットワークを形成した酵素反応経路を細胞に導入できる。

【0059】
(6)細胞内温度の測定
本発明に係る細胞内物体導入方法は、細胞内の温度を測定するために応用できる。この細胞内温度測定方法は、本発明に係る細胞内物体導入方法により細胞内に温度感受性ポリマーを導入する手順と、該温度感受性ポリマーの温度依存的な構造変化を検出する手順を含む。

【0060】
温度感受性ポリマーには、従来マイクロインジェクションにより細胞内に導入され、細胞内の温度を測定するために用いられている蛍光ポリマー(例えば、Diffusive Thermoprobe; Okabe, K., et. al., Nat. Commun., 2012, 28(3), 705参照)を利用できる。このような温度感受性蛍光ポリマーとして、例えば、温度感受性ユニット、親水性ユニット及び蛍光性ユニットから構成されるポリマーがある。このポリマーは、低温条件では構造内の水分子の存在により蛍光性ユニットの蛍光は弱い状態であるが、高温条件では温感性ユニットの疎水性相互作用によって小さく丸まった状態となり水分子が構造外へ排除され、強い蛍光を発する状態となる。従って、細胞内に導入した温度感受性蛍光ポリマーからの蛍光強度の変化に基づいてポリマーの温度依存的な構造変化を検出することで、細胞内の温度を評価・測定できる。

【0061】
本発明に係る細胞内温度測定方法は、細胞内の温度を測定して細胞の熱産生量を評価できるため、例えば、褐色脂肪細胞の脂肪燃焼を促進する薬剤をスクリーニングするために利用できる。

【0062】
(7)ミトコンドリア病の治療法
本発明に係る細胞内物体導入方法により、ミトコンドリアDNAに変異をもつミトコンドリア病の患者の細胞内に正常ミトコンドリアを導入することで、ミトコンドリア病の治療が可能となる。例えば、ミトコンドリア病の一種であるPearson病では、ミトコンドリアDNA異常のために貧血を主体とする汎血球減少症をきたすが、患者から分離した骨髄幹細胞、あるいは胚性幹細胞(ES細胞)や誘導性多能性細胞(iPS細胞)等の幹細胞から誘導して得た骨髄幹細胞に正常ミトコンドリアを導入し移植することで、根本的な治療が可能である。

【0063】
本発明に係る細胞内物体導入方法により細胞にミトコンドリアを導入する過程で生成する、GUVと細胞とを含む細胞組成物は、ミトコンドリア病の治療用に利用できる。ミトコンドリア病の患者から細胞を分離し、正常ミトコンドリアを封入したGUVとの電気融合を行うことで得られるミトコンドリア病の治療用細胞組成物は、GUVと正常なミトコンドリアが導入された細胞とを含み得る。

【0064】
また、ミトコンドリアに起源が近いプロトバクテリアを細胞内に導入して、ミトコンドリア機能を代替させることも考えられる。

【0065】
(8)細胞のリプログラミング
乳酸菌を細胞に取り込ませることでリプログラミングが生じうることが報告されている(Lactic acid bacteria convert human fibroblasts to multipotent cells. PLOS ONE)。本発明に係る細胞内物体導入方法により、乳酸菌などの細菌を細胞内に導入することで、細胞の初期化や多能性幹細胞の誘導が可能となる。
【実施例】
【0066】
<実施例1:細胞内への物体導入>
1.GUVの調製
文献(PNAS, 2003, 100:10718-10721; J. Physical Chemistry B Lett., 2008, 112:14678-14681; PNAS, 2012, 109:5942-5947)記載の油中水型エマルション通過法に従って、GUVを作製した。ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)及びコレステロールをモル比9:1:1(合計105mg)でクロロホルム(1050μl)に溶解した。溶液をガラスチューブに移し、アルゴンガス雰囲気下での乾燥と真空乾燥を行った後、液体パラフィン(500μl)と混合した。混合物を60℃で60分間超音波処理した。
【実施例】
【0067】
蛍光ビーズ、DNA origami又はプラスミドDNAを内部溶液(90mMスクロース、210mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)と混合し、この内部溶液(50μl)を上記脂質混合物に加えた。
【実施例】
【0068】
蛍光ビーズには、直径0.2、0.5、1.0、2.0μmのカルボン酸修飾されたFluoSpheres(登録商標、Invitrogen)を用いた。プラスミドDNAには、市販のキット(NucleoBond Xtra Midi plus kit, Macherey-Nagel GmbH & Co.)を用いて作製したEGFP発現ベクターを用いた。細断された矩形のDNA origami(60nm×90nm)を、ソフトウェア(caDNAno)を用いて設計した。図2に、DNA origamiの配列を示す。DNA origamiには、60×90nm2の面に282個のFITCラベルを配置した。
【実施例】
【0069】
チューブを撹拌して、マイクロメーターサイズのW/Oエマルションを生成させた。エマルションを外部溶液(300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)上に静かに注いだ。4℃で30分間遠心分離(18,000g)した後、エマルションを脂質で飽和させたW/O界面に通して二重膜を形成させた。油と水との混合を避けるため、チューブの底にニードルで開けた穴からGUVを抽出した。
【実施例】
【0070】
得られたGUVの平均直径は、顕微鏡下での画像解析により、20μmと推計された。蛍光顕微鏡下での画像解析により、各GUVに封入されたビーズの数は101~104オーダーと計測された。また、各GUVに封入されたプラスミド及びDNA origamiの濃度は、それぞれ220ng/μl、3.36nMと計算された。
【実施例】
【0071】
2.GUVと細胞の電気融合
HeLa細胞を融合バッファー(300mMマンニトール、0.1mM塩化カルシウム、0.1mM塩化マグネシウム)に分散させた。GUVのマンニトール溶液(400μl)と細胞分散液(400μl、1×105細胞/ml)の混合溶液を、細胞電気融合装置(ECFG21, NEPA GENE)の発電機に接続された電気融合チャンバ—(NEPA GENE)に設置した。GUV数は、顕微鏡下での画像解析により、2×104/mlと計測された。チャンバ—は、2mm間隔で配された2枚のプラチナ平行電極(2×80×5mm)を含む。
【実施例】
【0072】
混合溶液に15V/mmの交流電場を30秒かけ、細胞とGUVを一列に配列させた(第一手順)。次に、175V/mmの直流パルスを50マイクロ秒かけ、細胞とGUVを融合させた(第二手順)。細胞とGUVの融合は、細胞とGUVが接触している領域の膜が不可逆的に電気絶縁膜破壊されることによって引き起こされる。続いて、15V/mmの交流電場を10秒かけ、細胞とGUVの接触を維持した(第三手順)。その後、細胞をPBSで洗浄し、DMEMを入れた培養ディッシュに移した。
【実施例】
【0073】
3.細胞内への物体導入
(1)蛍光ビーズ
蛍光ビーズ(直径1μm)を封入したGUVと電気融合させた細胞を図3示す。図左上は立体観察像、左下は垂直断面観察像、右は水平断面観察像を示す。細胞内に蛍光ビーズが導入されているのが確認できる。
【実施例】
【0074】
直径0.2、0.5、1.0、2.0μmの蛍光ビーズを封入したGUVと細胞を電気融合させた結果を図4に示す。図は、細胞質、蛍光ビーズ及び核の蛍光観察像とこれらの合成像を示す。また、上段から対照(ビーズなし)、直径0.2、0.5、1.0、2.0μmの蛍光ビーズの結果を示す。直径0.2、0.5、1.0μmの蛍光ビーズが細胞内に導入されているのが確認できる。直径2μmの蛍光ビーズは、細胞内へ導入されなかった。細胞内への蛍光ビーズの導入率をフローサイトメータで測定した結果、直径0.2、0.5、1.0、2.0μmの蛍光ビーズでそれぞれ73、50、40、0.38%であった。
【実施例】
【0075】
(2)プラスミド
EGFP発現ベクターを封入したGUVと電気融合させた細胞を図5に示す。電気融合後1日及び5日の培養後、細胞のGFP発現が確認され、細胞内にEGFP発現ベクターを導入できたことが確認された。細胞へのEGFP発現ベクターの導入効率は約20%であった。
【実施例】
【0076】
(3)DNA origami
DNA origamiを封入したGUVと電気融合させた細胞を図6示す。FITCで標識されたDNA origamiが細胞内に導入されているのが確認できる。
【実施例】
【0077】
なお、蛍光ビーズ(直径1μm)を封入したGUVとEGFP発現ベクターを封入したGUVとを組み合わせて用いることにより、細胞内に蛍光ビーズとEGFP発現ベクターを同時に導入できることも分かった(不図示)。
【実施例】
【0078】
<実施例2:磁気ビーズの導入による細胞の磁気操作>
実施例1の蛍光ビーズと同様の手法により、細胞内に磁気ビーズ(FG-beads、多摩川精機)を導入した。
【実施例】
【0079】
磁気ビーズが導入された細胞に磁場を印加することにより、細胞を移動させた。図7に、磁石で磁気を作用させて細胞を回転(右回りに一回転)させながら撮影した連続写真を示す。図中矢印は、時間の進行を示す。磁気ビーズの導入により、磁石を用いて細胞を自在に移動させることができた。
【実施例】
【0080】
<実施例3:GUVの表面電位の検討>
実施例1の「1.GUVの調製」において、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)及びコレステロールのモル比を9:1:1のままあるいは9:0:1に変更し、実施例1で用いた蛍光ビーズ(直径0.2μm)が封入されたGUVを作製した。また、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC):ジオクタデシルアンモニウムブロミド(DODAB)及びコレステロールをモル比9:1.26:1で用いて同様に蛍光ビーズが封入されたGUVを作製した。
【実施例】
【0081】
以下の手順でGUVの表面電位(ゼータ電位)測定を行った。前記の脂質組成と手順でGUV(蛍光ビーズは封入しない)を調製し、エクストルーダー (Mini-Extruder,Avanti Polar Lipids社製)を使用して直径を1μmにそろえた(メンブレンポアサイズ1μm、液量1mlに対してポア通過21回)。このリポソーム分散溶液300μlを微粒子測定器(nano Partica SZ-100 series、堀場製作所製)に導入し、ゼータ電位の測定を行った。測定値を「表1」に示す。
【実施例】
【0082】
【表1】
JP2015146153A1_000003t.gif
【実施例】
【0083】
実施例1の「2.GUVと細胞の電気融合」と同様にしてHeLa細胞とGUVの電気融合を行い、蛍光ビーズを細胞に導入した。融合操作後,以下の手順で蛍光ビーズ(直径0.2μm)の細胞への導入率を算出した。導入細胞を遠心分離(1000g,3min)し、上清を取り除いた後、融合バッファーを用いて再懸濁し洗浄した。再懸濁後の細胞をフローサイトメータ(Cell Lab Quanta SC MPL、ベックマンコールター社製)によって解析し、細胞への物質導入効率を求めた。直径7μm以上の物質を計測対象とした。細胞の計測数(1.5×104cells)のうち、融合操作を行わないネガティブコントロール(検出した蛍光強度<1×10)以上の蛍光強度を有するものの割合を算出した。結果を「表2」に示す。
【実施例】
【0084】
【表2】
JP2015146153A1_000004t.gif
【実施例】
【0085】
負の表面電位を有するGUV(DOPC:DOPG:コレステロール=9:1:1あるいは9:0:1)では蛍光ビーズの導入が可能であったが、正の表面電位を有するGUV(DOPC:DODAB:コレステロール=9:1.26:1)では、電気融合後洗浄を経た細胞にもGUVが付着し、評価が不能であった。また、より低い負の表面電位を有するGUVにおいてより高い蛍光ビーズの導入効率が得られた。
【実施例】
【0086】
<実施例4:GUVのコレステロール含有率の検討>
実施例1の「1.GUVの調製」において、ジオレオイルフォスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイルフォスファチジルグリセロール(DOPG)及びコレステロールのモル比を9:1:1から9:1:0,9:1:0.1,9:1:0.4、9:1:2又は9:1:5に変更し、実施例1で用いた蛍光ビーズ(直径0.5μm)が封入されたGUVを作製した。
【実施例】
【0087】
実施例1の「2.GUVと細胞の電気融合」と同様にしてHeLa細胞とGUVの電気融合を行い、蛍光ビーズを細胞に導入した。実施例3と同様にしてフローサイトメータを用いて蛍光ビーズの細胞への導入率を算出した。結果を「表3」に示す。コレステロール比がより低いGUVにおいて、より高い蛍光ビーズの導入率が得られる傾向があった。コレステロールの割合は、好ましくは0~16.6モル%、より好ましくは0~9.1モル%、さらに好ましくは0~3.8モル%、さらにより好ましくは0~0.9モル%、最も好ましくは0モル%である。
【実施例】
【0088】
【表3】
JP2015146153A1_000005t.gif
【実施例】
【0089】
<実施例5:ポストフュージョン交流電場の印加時間の検討>
実施例1の「2.GUVと細胞の電気融合」の第三手順での交流電場(15V/mm)の印加時間を10秒から0,20,60秒に変化させて蛍光ビーズ(0.5μm)の細胞への導入を行った。実施例3と同様にしてフローサイトメータを用いて蛍光ビーズの細胞への導入率を算出した。結果を「表4」に示す。
【実施例】
【0090】
【表4】
JP2015146153A1_000006t.gif
図面
【図1】
0
【図2-1】
1
【図2-2】
2
【図2-3】
3
【図2-4】
4
【図3】
5
【図4】
6
【図5】
7
【図6】
8
【図7】
9