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明細書 :非酵素的核酸鎖結合方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年6月8日(2017.6.8)
発明の名称または考案の名称 非酵素的核酸鎖結合方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 15/00 ZNAG
C12Q 1/68 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 25
出願番号 特願2016-544965 (P2016-544965)
国際出願番号 PCT/JP2015/004294
国際公開番号 WO2016/031247
国際出願日 平成27年8月26日(2015.8.26)
国際公開日 平成28年3月3日(2016.3.3)
優先権出願番号 2014171540
優先日 平成26年8月26日(2014.8.26)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】阿部 洋
【氏名】丸山 豪斗
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS02
4B063QS03
4B063QS05
4B063QS25
4B063QS32
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX02
要約 核酸鎖と核酸鎖とを、天然型の構造あるいはこれに類似の構造によって結合するための技術として、核酸鎖と核酸鎖とを酵素反応に依らずに結合させる方法であって、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、求電子剤の存在下で、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と反応させる手順を含む、非酵素的核酸鎖結合方法を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
核酸鎖と核酸鎖とを酵素反応に依らずに結合させる方法であって、
ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、求電子剤の存在下で、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と反応させる手順を含む、非酵素的核酸鎖結合方法。
【請求項2】
前記ホスホロチオエート基が核酸鎖の3’末端に、前記水酸基又はアミノ基が核酸鎖の5’末端に存在する、請求項1記載の非酵素的核酸鎖結合方法。
【請求項3】
前記ホスホロチオエート基が核酸鎖の5’末端に、前記水酸基又はアミノ基が核酸鎖の3’末端に存在する、請求項1記載の非酵素的核酸鎖結合方法。
【請求項4】
前記求電子剤が下記式(I)又は式(II)で示される化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非酵素的核酸鎖結合方法。
【化1】
JP2016031247A1_000010t.gif
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立してNO2基、OCOCH3基、CN基、CF3基、CO2H基、CO2CH3基又はNH2基を示し、
Lは、F、Cl、SO3H及びSO2NR4から選択される脱離基を示し、
4は、NH2、NHPh、NHPh-OCH3を示す。)
【請求項5】
前記求電子剤が、1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン又はトリニトロクロロベンゼンである、請求項4記載の非酵素的核酸鎖結合方法。
【請求項6】
核酸鎖の塩基配列の決定方法であって、
前記核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、5’末端又は3’末端にホスホロチオエート基を有する相補鎖を、求電子剤の存在下で、3’位又は5’位に水酸基又はアミノ基を有し、塩基に応じて異なる標識がされたヌクレオシドの混合物と反応させる手順と、
前記相補鎖に結合したヌクレオシドの標識からの信号を検出する手順と、
前記信号に基づいて、塩基核酸鎖の塩基配列を決定する手順と、を含む方法。
【請求項7】
前記ヌクレオチドは、5’位又は3’位のホスホロチオエート基と、該ホスホロチオエート基にジスルフィド結合を介して結合した標識物質とを有し、
該標識物質からの信号を検出した後、前記ジスルフィド結合を還元して前記標識物質を前記相補鎖から遊離させる手順を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
機能性核酸分子を細胞内に導入する方法であって、
前記機能性核酸分子を構成し得る、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、前記機能性核酸分子を構成し得る、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、
求電子剤と、
を細胞内に導入する導入手順を含む方法。
【請求項9】
前記ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、前記求電子剤の作用により、前記水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、前記機能性核酸分子を細胞内で生成させる組立手順を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
機能性核酸分子を細胞内に導入する方法であって、
前記機能性核酸分子を構成し得る、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、求電子剤と反応させて、ホスホロチオエート基に求電子剤を結合させる活性化手順と、
前記機能性核酸分子を構成し得る、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、前記求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、を細胞内に導入する導入手順と、を含む方法。
【請求項11】
前記求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、該求電子剤の作用により、前記水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、前記機能性核酸分子を細胞内で生成させる組立手順を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
核酸鎖の非酵素的結合のためのキットであって、
核酸鎖をチオリン酸化するための試薬と、
求電子剤と、
5’位又は3’位にアミノ基を有するヌクレオシドと、を含むキット。
【請求項13】
核酸鎖の非酵素的結合のためのキットであって、
ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、
求電子剤と、
水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と、を含んでなるキット。
【請求項14】
ホスホロチオエート基と、該ホスホロチオエート基に結合された求電子基とを有する核酸鎖。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素反応に依らず化学反応によって核酸鎖と核酸鎖とを結合する方法、これを応用した核酸鎖の塩基配列の決定方法及び機能性核酸分子の細胞内導入方法に関する。より詳しくは、核酸鎖間の結合を、天然型構造又はこれに類似の構造で形成可能な非酵素的核酸鎖結合方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNA interference:RNAi)は、標的とする遺伝子の発現を特異的に抑制するための手法として、分子生物学、薬学及び医学等の分野で重要となっている。RNAiは、siRNA(small interfering RNA)と称される、20~23ヌクレオチドの短い2本鎖RNAを細胞内に導入することによって誘導できる。しかし、siRNAは、小分子であるものの細胞膜透過性が十分でなく、また血清中での安定性も不十分であるために、siRNAによるRNAiの誘導効率には改善の余地があった。また、siRNAは、Toll-like receptorなどのパターン認識受容体を介して自然免疫を活性化してしまうという問題がある。
【0003】
本発明者らは、特許文献1において、siRNAなどの機能性核酸分子を細胞に取り込み容易な形態にして細胞内に導入し、細胞内で機能性分子を構築する方法を開示している(非特許文献1も参照)。この方法は、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子の構築法であって、以下の工程1)および2)を含んでいる。
1)化学反応により相互結合する官能基対を対応する末端に付した2以上の断片を細胞内に導入する導入工程、
2)上記細胞内で上記官能基同士を反応させて断片同士を結合し、1または2本の核酸鎖からなる機能性核酸分子を生成する生成工程。
【0004】
上記の方法は、機能性核酸分子を構成する核酸鎖の少なくとも一部を複数の断片として細胞に導入し、細胞内で機能性核酸分子を構築させるものである(以下「細胞内ビルトアップ法」とも称する)。この方法では、一方の断片の「対応する末端」に求電子基を、他方の断片の「対応する末端」に求核基を結合させ、これらの化学反応により断片同士を結合させている。具体的には、求電子基としてヨードアセチル基、ブロモアセチル基又はヨード基を、求核基としてホスホロチオエート基を用い、これらの化学反応によって2つの断片のリボースを連結させている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2013/129663号
【0006】

【非特許文献1】Chem. Commun., 2014, 50, 1284-1287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される「細胞内ビルトアップ法」によれば、機能性核酸分子をより短い断片として用いることができるため、機能性核酸分子の細胞への取り込みが向上し、機能性核酸分子に起因する免疫応答も抑制できる。
【0008】
しかし、当該方法では、機能性核酸分子の断片に結合させた求電子基及び求核基に起因して、天然の核酸鎖には存在しない構造が生じてしまう。すなわち、天然の核酸鎖では、リボースはホスホジエステル結合によって結合されているが、ヨードアセチル基等とホスホロチオエート基との化学反応によって形成されるリボース間結合には、天然の核酸鎖には存在しない、硫黄原子を含む構造が生じる。細胞内で構築した機能性核酸分子を十分に機能させるためには、このような非天然型の構造が導入されないようにすることが好ましいと考えられる。
【0009】
そこで、本発明は、核酸鎖と核酸鎖とを、天然型の構造あるいはこれに類似の構造によって結合するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[14]を提供する。
[1]核酸鎖と核酸鎖とを酵素反応に依らずに結合させる方法であって、
ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、求電子剤の存在下で、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と反応させる手順を含む、非酵素的核酸鎖結合方法。
[2]前記ホスホロチオエート基が核酸鎖の3’末端に、前記水酸基又はアミノ基が核酸鎖の5’末端に存在する、[1]の非酵素的核酸鎖結合方法。
[3]前記ホスホロチオエート基が核酸鎖の5’末端に、前記水酸基又はアミノ基が核酸鎖の3’末端に存在する、[1]の非酵素的核酸鎖結合方法。
[4]前記求電子剤が下記式(I)又は式(II)で示される化合物である、[1]~[3]のいずれかの非酵素的核酸鎖結合方法。
【化1】
JP2016031247A1_000003t.gif
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立してNO2基、OCOCH3基、CN基、CF3基、CO2H基、CO2CH3基又はNH2基を示し、
Lは、F、Cl、SO3H及びSO2NR4から選択される脱離基を示し、
4は、NH2、NHPh、NHPh-OCH3を示す。)
[5]前記求電子剤が、1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン又はトリニトロクロロベンゼンである、[4]の非酵素的核酸鎖結合方法。
[6]核酸鎖の塩基配列の決定方法であって、
前記核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、5’末端又は3’末端にホスホロチオエート基を有する相補鎖を、求電子剤の存在下で、3’位又は5’位に水酸基又はアミノ基を有し、塩基に応じて異なる標識がされたヌクレオシドの混合物と反応させる手順と、
前記相補鎖に結合したヌクレオシドの標識からの信号を検出する手順と、
前記信号に基づいて、塩基核酸鎖の塩基配列を決定する手順と、を含む方法。
[7]前記ヌクレオチドは、5’位又は3’位のホスホロチオエート基と、該ホスホロチオエート基にジスルフィド結合を介して結合した標識物質とを有し、
該標識物質からの信号を検出した後、前記ジスルフィド結合を還元して前記標識物質を前記相補鎖から遊離させる手順を含む、[6]の方法。
[8]機能性核酸分子を細胞内に導入する方法であって、
前記機能性核酸分子を構成し得る、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、前記機能性核酸分子を構成し得る、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、
求電子剤と、
を細胞内に導入する導入手順を含む方法。
[9]前記ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、前記求電子剤の作用により、前記水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、前記機能性核酸分子を細胞内で生成させる組立手順を含む、[8]記載の方法。
[10]機能性核酸分子を細胞内に導入する方法であって、
前記機能性核酸分子を構成し得る、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、求電子剤と反応させて、ホスホロチオエート基に求電子剤を結合させる活性化手順と、
前記機能性核酸分子を構成し得る、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、前記求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、を細胞内に導入する導入手順と、を含む方法。
[11]前記求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、該求電子剤の作用により、前記水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、前記機能性核酸分子を細胞内で生成させる組立手順を含む、[10]の方法。
【0011】
[12]核酸鎖の非酵素的結合のためのキットであって、
核酸鎖をチオリン酸化するための試薬と、
求電子剤と、
5’位又は3’位にアミノ基を有するヌクレオシドと、を含むキット。
[13]核酸鎖の非酵素的結合のためのキットであって、
ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、
求電子剤と、
水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と、を含んでなるキット。
[14]ホスホロチオエート基と、該ホスホロチオエート基に結合された求電子基とを有する核酸鎖。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、核酸鎖と核酸鎖とを、天然型の構造あるいはこれに類似の構造によって結合するための非酵素的結合技術及び核酸鎖の塩基配列の決定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る核酸鎖結合方法における核酸鎖の結合反応を説明する図である。
【図2】本発明及び従来技術に係る核酸鎖結合方法により形成される結合部位の構造を説明する図である。(A)はリガーゼを用いた従来の酵素的結合、(B)は従来の非酵素的結合、(C)及び(D)は本発明に係る結合により生じる構造を示す。
【図3】本発明に係る核酸鎖の塩基配列の決定方法の手順を説明する図である。
【図4】3’末端ホスホロチオエート基の1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼンによる活性化反応を説明する図である(実施例1)。
【図5】3’末端ホスホロチオエート基の1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼンによる活性化反応の反応生成物の解析結果を説明する図である(実施例1)。
【図6】3’末端にホスホロチオエート基を有するDNA鎖と5’末端にアミノ基を有するDNA鎖との結合反応を説明する図である(実施例1)。
【図7】3’末端にホスホロチオエート基を有するDNA鎖と5’末端にアミノ基を有するDNA鎖との結合反応の反応生成物の解析結果を説明する図である(実施例1)。
【図8】3’末端にホスホロチオエート基を有するDNA鎖と5’末端に水酸基を有するDNA鎖との結合反応を説明する図である(実施例2)。
【図9】3’末端にホスホロチオエート基を有するDNA鎖と5’末端に水酸基を有するDNA鎖との結合反応効率の解析結果を説明する図である(実施例2)。
【図10】5’末端にホスホロチオエート基を有するRNA鎖と3’末端にアミノ基を有するRNA鎖との結合反応を説明する図である(実施例3)。
【図11】5’末端にホスホロチオエート基を有するRNA鎖と3’末端にアミノ基を有するRNA鎖との結合反応効率の解析結果を説明する図である(実施例3)。
【図12】本発明に係る核酸鎖結合方法により作成したsiRNAによるルシフェラーゼ遺伝子発現抑制試験の結果を説明する図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。

【0015】
1.核酸鎖の結合方法
本発明に係る核酸鎖結合方法は、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖(以下「核酸鎖1」と称する)を、求電子剤の存在下で、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖(以下「核酸鎖2」と称する)と反応させる手順を含む。図1に、本発明に係る核酸鎖結合方法における核酸鎖の結合反応を示す。図では、核酸鎖1と核酸鎖2とを、両核酸鎖に相補的な塩基配列を有する核酸鎖との2本鎖形成(ハイブリダイズ)状態で行う場合を示している。

【0016】
本発明に係る核酸鎖結合方法では、まず、核酸鎖1として、5’末端又は3’末端にホスホロチオエート基を有する核酸鎖を用いる。核酸鎖1の5’末端又は3’末端へのホスホロチオエート基の導入は、従来公知の手法によって行うことができる(Nucleic Acids Symposium Series, 2007, No. 51, p.353-354, Bioconjugate Chem, 2008, Vol.19, p.327-333, 非特許文献1等参照)。

【0017】
ここで、本発明において、「核酸鎖」には、天然型の核酸(DNA及びRNA)からなるものに限られず、天然型核酸の塩基、糖、リン酸ジエステル部に化学修飾を加えることで水素結合様式や高次構造さらには極性などの物性を変化させた人工核酸(LNA及びBNAなど)からなるものも含まれるものとする。本明細書で天然型核酸鎖に関して用いる「5’位」、「3’位」、「5’末端」、「3’末端」及び「リボース」等の用語は、非天然型核酸鎖についてはその化学修飾の態様に応じて適宜同一の意味の用語に読み替えられ得るものである。また、本発明に係る核酸鎖の結合方法において、結合対象とする核酸鎖の長さは特に限定されず、結合する2つの核酸鎖の長さは異なっていてもよい。

【0018】
本発明に係る核酸鎖結合方法に用いられる求電子剤は、ホスホロチオエート基を活性化して水酸基又はアミノ基との結合反応を可能とする化合物であれば特に限定されない。求電子剤は、水酸基の酸素原子又はアミノ基の窒素原子と求核置換可能な、脱離基を有する化合物であればよい。求電子剤には、例えば、以下の化合物を用いることができる。

【0019】
【化2】
JP2016031247A1_000004t.gif
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立してNO2基、OCOCH3基、CN基、CF3基、CO2H基、CO2CH3基又はNH2基を示し、
Lは、F、Cl、SO3H及びSO2NR4から選択される脱離基を示し、
4は、NH2、NHPh、NHPh-OCH3を示す。)
なお、R1、R2、R3及びR4は、上記に例示した具体的な置換基又は脱離基に限定されず、本発明の効果を奏する限りにおいて他の基を採用することもできる。

【0020】
これらのうち、核酸鎖2が水酸基を有する場合には、より反応性が高い式(I)の化合物を用いることが好ましい。式(I)及び式(II)の化合物として、具体的には以下の化合物が例示される。ここで、R’2は、上記のR4と同じである。

【0021】
【化3】
JP2016031247A1_000005t.gif

【0022】
【化4】
JP2016031247A1_000006t.gif

【0023】
【化5】
JP2016031247A1_000007t.gif

【0024】
【化6】
JP2016031247A1_000008t.gif

【0025】
これらのうち、1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン又はトリニトロクロロベンゼンが好適な化合物として例示される(実施例参照)。また、求電子剤として以下の化合物も挙げられる。

【0026】
【化7】
JP2016031247A1_000009t.gif

【0027】
さらに、求電子剤としては、例えば特開2001-194762号公報、特開2001-035550号公報、特開2000-100487号公報、特開平10-337195号公報などに記載の化合物も使用できる場合がある。

【0028】
図1に示すように、求電子剤は、脱離基(図ではフッ素原子)を脱離させて、当該脱離基が結合していた部位において核酸鎖1のホスホロチオエート基の硫黄原子に結合する。これにより、ホスホロチオエート基と、該ホスホロチオエート基に結合された求電子基とを有する核酸鎖1が中間体として生成する。

【0029】
さらに、求電子剤は、核酸鎖2の水酸基の酸素原子又はアミノ基の窒素原子と求核置換し、核酸鎖1のホスホロチオエート基から硫黄原子を、核酸鎖2の水酸基又はアミノ基から水素原子を抜き取って脱離する。これによって、核酸鎖1のリン酸基のリン原子と、核酸鎖2の酸素原子又は窒素原子との間で、核酸鎖1と核酸鎖2が結合される。

【0030】
核酸鎖1のホスホロチオエート基の求電子剤による活性化と、求電子剤の核酸鎖2の酸素原子又は窒素原子に対する求核置換は、適当な緩衝液中で行えばよく、反応温度及び反応時間等についても特に制限はない。この点、DNA/RNAリガーゼを用いた従来の酵素的結合では、酵素の活性を維持するために反応液の組成やpH,反応温度を最適化しておく必要があった。

【0031】
また、核酸鎖1のホスホロチオエート基の求電子剤による活性化と、求電子剤の核酸鎖2の酸素原子又は窒素原子に対する求核置換は、2段階の反応に分けて行ってもよく、1段階の反応で行ってもよい。

【0032】
核酸鎖2が水酸基を有する場合の結合部位の構造を図2(C)に、核酸鎖2がアミノ基を有する場合の結合部位の構造を図2(D)に示す。図2(A)は、DNA/RNAリガーゼを用いた従来の酵素的結合、(B)は従来の非酵素的結合(Nucleic Acids Symposium Series, 2007, No. 51, p.353-354, Bioconjugate Chem, 2008, Vol.19, p.327-333, 非特許文献1等参照)によって生じる構造を示す。

【0033】
従来の酵素的結合では、結合部位の構造は、天然型核酸と同様のホスホジエステル結合となる((A)参照)。一方、ホスホロチオエート基とヨードアセチル基を用いる従来の非酵素的結合では、結合部位に、天然の核酸鎖には存在しない、硫黄原子を含む構造((B)中、点線丸印参照)が生じる。このような硫黄原子を含む非天然型の構造は、天然型のリン酸ジエステル結合とは原子間の距離や電荷などの性質が異なり、結合後の核酸鎖に所望の生物活性を発現させるためには好ましくない場合がある。

【0034】
これに対して、本発明に係る方法では、核酸鎖2が水酸基を有する場合には、結合部位の構造は、天然型核酸と同様のホスホジエステル結合とできる((C)参照)。また、核酸鎖2がアミノ基を有する場合には、結合部位は、窒素原子が一置換した構造となる((D)参照)。この窒素原子を含む構造は非天然型であるものの、天然型のリン酸ジエステル結合との性質(原子間の距離や電荷など)の相違が硫黄原子を含む構造に比べて小さいので、結合後の核酸鎖の生物活性に与える影響は少ないと考えられる。事実、実施例において後述するように、この窒素原子を含む結合構造は、siRNAの遺伝子抑制効果活性に影響を与えないことが確認されている。

【0035】
図2では、ホスホロチオエート基が核酸鎖1の3’末端に、水酸基又はアミノ基が核酸鎖2の5’末端に存在する例を示した。本発明に係る核酸鎖結合方法においては、ホスホロチオエート基が核酸鎖1の5’末端に、水酸基又はアミノ基が核酸鎖の3’末端に存在していてもよい。この点、従来の酵素的結合では、5’位がリン酸基で3’位が水酸基であることが必要であった。

【0036】
2.キット
本発明は、上述した核酸鎖の結合方法の実施に供されるキットをも提供する。本発明に係る核酸鎖の非酵素的結合のためのキットは、
(A)ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、
(B)求電子剤と、
(C)水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と、を含む。
あるいは、本発明に係る核酸鎖の非酵素的結合のためのキットは、
(a)核酸鎖をチオリン酸化するための試薬と、
(B)求電子剤と、
(c)5’位又は3’位にアミノ基を有するヌクレオシドと、を含んでなるものであってもよい。

【0037】
構成(A)のホスホロチオエート基を有する核酸鎖は、上述した核酸鎖1である。構成(a)のチオリン酸化試薬は、ユーザが結合対象とする核酸鎖を予め用意し、当該核酸鎖のリン酸基に硫黄原子を導入してホスホロチオエート基を有する核酸鎖(核酸鎖1)を調製するために用いられる。

【0038】
また、構成(C)の水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖は、上述した核酸鎖2である。構成(c)のヌクレオシドは、ユーザが結合対象とする核酸鎖を予め用意し、当該核酸鎖の5’位又は3’位にアミノ基を導入して水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖(核酸鎖2)を調製するために用いられる。ユーザは、予め用意する核酸鎖を、核酸鎖2よりも1ヌクレオシドだけ短いものとして調製し、当該核酸鎖の5’位又は3’位に、アミノ基を有するアデニン、グアニン、チミン(ウラシル)、シトシンなどの天然型あるいはその他の人工型のヌクレオシドを結合させることによって、核酸鎖2を得ることができる。

【0039】
本発明に係るキットは、上述した構成に加えて、核酸鎖1のホスホロチオエート基の求電子剤による活性化反応、あるいは求電子剤の核酸鎖2の酸素原子又は窒素原子に対する求核置換反応に用いられる反応液及び緩衝液などを含んでいてもよい。さらに、本発明に係るキットは、次に説明する核酸鎖の塩基配列の読み取りに用いられる場合、後述する標識物質(蛍光物質)やプライマー、還元剤(DTT)などを含んでいてもよい。

【0040】
3.核酸鎖の塩基配列の決定方法
本発明に係る核酸鎖の結合方法は、核酸鎖の塩基配列の読み取り(シークエンス)に応用が可能である。

【0041】
すなわち、本発明に係る核酸鎖の塩基配列の決定方法は、以下の手順を含む。
(1)前記核酸鎖に相補的な塩基配列を有し、5’末端又は3’末端にホスホロチオエート基を有する相補鎖を、求電子剤の存在下で、3’位又は5’位に水酸基又はアミノ基を有し、塩基に応じて異なる標識がされたヌクレオシドの混合物と反応させる手順(ここで、前記ヌクレオチドは、5’位又は3’位のホスホロチオエート基と、該ホスホロチオエート基にジスルフィド結合を介して結合した標識物質とを有する)。
(2)前記相補鎖に結合したヌクレオシドの標識からの信号を検出する手順。
(3)前記ジスルフィド結合を還元して前記標識物質を前記相補鎖から遊離させる手順。(4)前記信号に基づいて、塩基核酸鎖の塩基配列を決定する手順。

【0042】
従来、シークエンスは、PCR増幅産物をテンプレートとして行われていた。具体的には、テンプレート、プライマー、DNAポリメラーゼ、dNTP(4種類のデオキシリボヌクレオチド三リン酸の混合物)、ddNTP(蛍光標識され、DNAの伸長反応を止めるdNTP)を含む反応液を調製し、テンプレートに特異的にアニーリングしたプライマーの3’末端から伸長反応を開始する。伸長反応は、テンプレートと相補的な塩基を含むdNTPをシークエンス反応産物に結合させながら進行するが、ddNTPがランダムにシークエンス反応産物に取り込まれると反応が停止する。それぞれのシークエンス反応産物はサイズが異なり、各産物の3’末端には蛍光標識されたddNTPが取り込まれている。シークエンス反応産物をキャピラリーアレイでサイズ分離し、各シークエンス反応産物からの蛍光を読み取ることで、テンプレートに相補的な塩基配列が明らかとなり、これによってテンプレートの塩基配列を決定することができる。

【0043】
これに対して、本発明に係る核酸鎖の結合方法を応用したシークエンスでは、原理的には、読み取り対象核酸をPCRにより増幅することなく、一分子の核酸をテンプレートして行うことが可能である。図3を参照して、本発明に係る核酸鎖の塩基配列の決定方法の手順を説明する。

【0044】
手順(1)
まず、読み取り対象核酸鎖(ターゲット鎖)に相補的な塩基配列を有する相補鎖(プライマー)を用意する。このプライマーは、従来のシークエンス法と同様にして設計すればよい。プライマーの3’末端には、ホスホロチオエート基が導入されている。

【0045】
次に、5’位にアミノ基(又は水酸基)を有し、3’位にホスホロチオエート基を有するヌクレオシド混合物を用意する。ヌクレオシド混合物中の各ヌクレオシドは、3’位のホスホロチオエート基にジスルフィド結合を介して結合した標識物質を有している。このヌクレオシド混合物は、アデニン、グアニン、シトシン及びチミンのいずれかの塩基が1’位に結合したヌクレオシドの混合物であり、それぞれ結合する塩基に応じて異なる特性を示す標識物質が修飾されている。標識物質は、従来のシークエンス法と同様の蛍光物質であってよい。

【0046】
本手順では、プライマーを、求電子剤の存在下で、ヌクレオシド混合物と反応させる。当該反応では、プライマーの3’末端のホスホロチオエート基の求電子剤による活性化と、ヌクレオシドの窒素原子(又は酸素原子)による求電子剤の求核置換反応によってプライマーとヌクレオシドが結合され、プライマーが伸長する。

【0047】
手順(2)
本手順では、プライマーに結合したヌクレオシドの蛍光物質からの蛍光を検出する。蛍光の検出は、従来のシークエンス法と同様にして行えばよい。

【0048】
手順(3)
本手順では、ヌクレオシドにジスルフィド結合を介して結合した蛍光物質を遊離させる。これにより、伸長したプライマーの3’末端は、再度、ホスホロチオエート基が導入された状態となる。ジスルフィド結合の切断は、ジチオスレイトール(DTT)などの汎用の還元剤を用いて行えばよい。

【0049】
手順(4)
上記の手順(1)~(3)を繰り返すことで、テンプレートと相補的な塩基を含むヌクレオシドを1つずつ結合させながらプライマーを伸長させる。この際、一塩基分を伸長させる毎に、蛍光物質からの蛍光の検出を行うことで、該蛍光に基づいて、ターゲット鎖に相補的な塩基配列を決定し、これによってターゲット鎖の塩基配列を決定することができる。

【0050】
ここでは、プライマーの3’末端のホスホロチオエート基、ヌクレオシドの5’位のアミノ基(又は水酸基)との結合によってプライマーの伸長反応を行う例を説明した。本発明に係る核酸鎖結合方法においては、上述の通り、ホスホロチオエート基が核酸鎖1の5’末端に、水酸基又はアミノ基が核酸鎖の3’末端に存在していてもよい。このため、本発明に係る核酸鎖の結合方法においても、プライマーの3’末端の水酸基又はアミノ基と、ヌクレオシドの5’位のホスホロチオエート基との結合によってプライマーの伸長反応を行うことが可能である。

【0051】
4.機能性核酸分子の細胞内導入方法
本発明に係る核酸鎖の結合方法は、前述した「細胞内ビルトアップ法」にも応用が可能である。

【0052】
すなわち、本発明に係る機能性核酸分子の細胞内導入方法は、以下の手順を含む。
(1-1)前記機能性核酸分子を構成し得る、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、前記機能性核酸分子を構成し得る、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、
求電子剤と、
を細胞内に導入する導入手順。
(2-1)前記ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、前記求電子剤の作用により、前記水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、前記機能性核酸分子を細胞内で生成させる組立手順。

【0053】
あるいは、本発明に係る機能性核酸分子の細胞内導入方法は、以下の手順を含むものであってもよい。
(1-2)前記機能性核酸分子を構成し得る、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、求電子剤と反応させて、ホスホロチオエート基に求電子剤を結合させる活性化手順と、
前記機能性核酸分子を構成し得る、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、前記求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、を細胞内に導入する導入手順。
(2-2)前記求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、該求電子剤の作用により、前記水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、前記機能性核酸分子を細胞内で生成させる組立手順。

【0054】
本発明に係る機能性核酸分子の細胞内導入方法は、特許文献1に開示される「細胞内ビルトアップ法」において、本発明に係る核酸結合方法を適用することによって実施できる。以下に手順の概要を説明する。

【0055】
手順(1-1)
本手順では、機能性核酸分子を2以上の核酸鎖(断片)とし、一方の核酸鎖にホスホロチオエート基を導入し、水酸基又はアミノ基を有する他方の核酸鎖及び求電子剤とともに細胞内に導入する。

【0056】
ここで、「機能性核酸分子」とは、複数個の核酸が鎖状に連結してなり(すなわち、オリゴまたはポリヌクレオチド)、発生・分化等の生命現象に対して所定の機能を発揮する核酸分子を指す。

【0057】
機能性核酸分子は、DNA分子、RNA分子、またはDNA・RNAハイブリッド分子であってよい。機能性核酸分子は、1本の核酸鎖から構成されるものであっても、2本の核酸鎖から構成されるものであってもよい。また、機能性核酸分子は、その一部に非天然型核酸を含んでいてもよい。

【0058】
上記DNA分子には、例えば、DNAアプタマー;CpGモチーフ;DNAザイム;等が含まれる。なお、本明細書において、ベースがDNA鎖であり、一部にRNAおよび/または非天然型核酸が導入されているものは、DNA分子に分類する。上記RNA分子には、例えば、RNAアプタマー;shRNA、siRNA、およびmicroRNA等のRNA干渉作用を示すRNA分子(RNAi用核酸分子);アンチセンスRNA分子;RNAリボザイム;等が含まれる。なお、本明細書において、ベースがRNA鎖であり、一部にDNAおよび/または非天然型核酸が導入されているものは、RNA分子に分類する。DNA・RNAハイブリッド分子としては、例えば、DNA・RNAハイブリッドアプタマー;等が挙げられる。

【0059】
機能性核酸分子は、その機能を発揮するために、核酸分子内でハイブリダイズするか、または異なる核酸分子間でハイブリダイズするハイブリダイズ領域を形成するものである。機能性核酸分子は、より好ましくは、核酸分子内または異なる核酸分子間でハイブリダイズしてなるハイブリダイズ領域を持つRNAi用核酸分子であり、さらに好ましくは2本の核酸鎖からなるRNAi用核酸分子である。2本鎖の核酸鎖からなるRNAi用核酸分子の長さ(mer)は、例えば、15~40merであり、好ましくは15~35merであり、より好ましくは20~35merである。ここで、RNAi用核酸分子を構成する2本の核酸鎖(センス鎖、アンチセンス鎖)の長さは異なっていてもよく、通常、センス鎖は13mer以上、アンチセンス鎖は19mer以上とされる。

【0060】
また、「機能性核酸分子を構成し得る核酸鎖」とは、機能性核酸分子を2以上に分割した核酸断片に相当する。そして、一つの機能性核酸分子に由来する全ての核酸鎖を適切な順序で連結すると機能性核酸分子が構築される。上記のRNAi用核酸分子において、センス鎖が20merである場合、「機能性核酸分子を構成し得る核酸鎖」とは、センス鎖を例えば10merずつに分割した2つの核酸断片である。また、同様に、アンチセンス鎖(例えば24mer)についても、これを例えば6merずつの4本の核酸鎖に分割することができる。センス鎖の核酸断片(10mer×2)とアンチセンス鎖の核酸断片(6mer×4)を適切な順序で連結することにより、一つのRNAi用核酸分子を構築できる。ただし、「機能性核酸分子を構成し得る核酸鎖」とは、機能性核酸分子を一度構築した後にこれを分断して当該核酸鎖を生成することを意図するものではない。また、一つの機能性核酸分子に由来する複数の核酸鎖の長さもそれぞれ特に限定されるものではなく、互いに異なっていてもよい。

【0061】
核酸鎖の調製は、ホスホロアミダイト法及びH-ホスホネート法等の化学合成方法、in vitro transcription合成方法、プラスミドもしくはウイルスベクターを用いる方法、またはPCRカセットによる方法等によって行うことができる。

【0062】
核酸鎖及び求電子剤の細胞内への導入は、従来公知の手法により細胞膜の物質透過性を亢進させる処理を行った上で、核酸鎖及び求電子剤を細胞の培養中に添加する、あるいは細胞表面に接触させることにより行うことができる。また、in vitroにおける導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、およびリン酸カルシウム法等も適用できる。さらに、in vivoにおける導入方法としては、例えば、局所投与、静脈内投与、および遺伝子銃を用いる方法等が挙げられる。in vivoに適用する場合、必要に応じて、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて薬学的組成物(例えば、リポソーム製剤等)を製造してもよい。

【0063】
また、核酸鎖及び求電子剤は、全てを混合して組成物として一度の操作で細胞内に導入してもよいし、別々に細胞内に導入してもよい。また、機能性核酸分子を構築するための2以上の核酸鎖を、一度の操作で細胞内に導入してもよいし、それぞれを別々に細胞内に導入してもよい。

【0064】
対象となる細胞は、特に限定されず、原核細胞及び真核細胞の何れでもよい。真核細胞としては、菌類、植物及び動物等に由来する細胞が挙げられる。動物細胞としては、昆虫細胞等の非哺乳類細胞及び哺乳類細胞が挙げられる。哺乳類細胞としては、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、イヌ、およびネコ等の非ヒト動物の細胞又はヒトの細胞が挙げられる。また、細胞は、培養細胞でもよいし、生体細胞(生体内にある単離されていない細胞)でもよい。細胞の好ましい一例は、ヒト及び各種動物の培養幹細胞(ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞などの万能分化能あるいは多分化能を有する細胞を含む)である。

【0065】
本手順(1-1)は、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖を求電子剤とともに細胞内に導入した後、細胞内において、求電子剤によりホスホロチオエート基を活性化して水酸基又はアミノ基との結合反応を誘起するものである。求電子剤によるホスホロチオエート基の活性化は、細胞内への導入前に行われてもよい。すなわち、手順(1-1)にかえて、上記手順(1-2)を採用することもできる。手順(1-2)では、まず、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、求電子剤と反応させて、ホスホロチオエート基に求電子剤を結合させて、ホスホロチオエート基を活性化する(活性化手順)。その後に、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、を細胞内に導入する(導入手順)。

【0066】
手順(2-1)
本手順では、細胞内において、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、求電子剤の作用により、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、機能性核酸分子を生成させる。この際、機能性核酸分子内または異なる核酸分子間でハイブリダイゼーションのような相互作用を生じて、機能性核酸分子が生成される場合もある。

【0067】
手順(1-2)により、予め、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、求電子剤と反応させて、ホスホロチオエート基に求電子剤を結合させた後に、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖を有する核酸鎖と、求電子剤が結合したホスホロチオエート基を有する核酸鎖と、を細胞内に導入する場合においても、求電子剤の作用によって、ホスホロチオエート基を有する核酸鎖を、水酸基又はアミノ基を有する核酸鎖と結合させて、機能性核酸分子を細胞内で生成させることが可能である(手順(2-2))。

【0068】
本発明に係る機能性核酸分子の細胞内導入方法によれば、機能性核酸分子を構成する核酸鎖の少なくとも一部を複数の断片として細胞に導入し、細胞内で機能性核酸分子を構築させることができる。従って、機能性核酸分子の細胞への取り込みが向上する。また、核酸鎖の少なくとも一部をより短い断片として用いるために、機能性核酸分子に対する免疫応答を抑制できる。
【実施例】
【0069】
<実施例1:3’末端にホスホロチオエート基を有するDNA鎖と5’末端にアミノ基を有するDNA鎖との結合>
(1) 3’末端ホスホロチオエート基の1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼンによる活性化
3’末端にホスホロチオエート基を有するDNA(3’PS DNA)と1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNFB)を混合し、ホスホロチオエート基の硫黄原子にDNFBの2,4-ジニトロベンゼンを結合させたDNA(3’DNP-PS DNA)を合成した(図4参照)。
【実施例】
【0070】
DNA及びRNAは、ホスホロアミダイト法に基づきDNA合成機(GeneWorld H8-SE)により合成した。アミダイト試薬としては、5’末端又は3’末端のリン酸化には、それぞれ3'-Phosphate CPG (Glen Research)とphosphorylation reagent (Glen reserch)を用いた。チオ化はSulfurizing Reagent (Glen Research)を用いて行った。末端のアミノ基の導入には、合成した5'-Amino dT Phosphoroamidite、3'-Amino dT Phosphoroamidite又は3'-Amino rC CPGを使用した。フルオレセイン(FAM)の導入は5'-Fluorescein Phosphoramidite (Glen Research)及び6-Fluorescein Phosphoramidite (Glen Research)を使用した。
【実施例】
【0071】
DNA及びRNAの脱保護は定法に従って行った。ホスホロチオエート基DNAは、粗精製のまま次の反応に用いた。5’アミノ基DNA及び5’水酸基DNAは、カートリッジ精製を行った。また、DNA及びRNAについては、適宜、HPLCやPAGEによる精製を行った。
【実施例】
【0072】
3’PS DNAのホスホロチオエート基の活性化は、下記の組成で調製した混合液を25℃で1時間インキュベートすることにより行った。
3'PS DNA 200 μM
DNFB (200 mM in DMSO) 20 mM
Sodium borate buffer (100 mM, pH 8.5) 20 mM
水で最終容量を100 μLに調整
【実施例】
【0073】
生成物をHPLCにより解析した結果を図5に示す。HPLCの条件は、以下の通りである。
カラム:Hydrosphere C18(YMC), S-5 μm, 12 nm, 250×4.6 mmI.D.
バッファー濃度:5 - 50 % (0 - 15 min)
溶液A:5 %アセトニトリル、50 mM TEAA添加水溶液
溶液B:100 % アセトニトリル
【実施例】
【0074】
(2) 5’末端アミノ基との結合
3’DNP-PS DNAと5’末端にアミノ基を有するDNA(5’NH2 DNA)を混合し、両者を結合させた(図6参照)。
【実施例】
【0075】
結合反応は、下記の組成で調製した混合液を25℃でインキュベートすることにより行った。
3'DNP-PS DNA 2 μM
5'NH2 DNA 4 μM
Phosphate buffer (100 mM, pH 8.0, 7.0, 6.0) 20 mM
MgCl2 10 mM
水で最終容量を25 μLに調整
【実施例】
【0076】
10、30、60、120分後にサンプリングを行った生成物に80% formamide, 10 mM EDTA を加えて、15 %ポリアクリルアミドゲル電気泳動 (5.6 M urea, 25% formamide, 1×TBE)により解析、定量した(ChemiDocTMXRS+ system (Bio-Rad))。結果を図7に示す。核酸鎖の結合反応の効率は、pH8の条件下で80%以上であった。
【実施例】
【0077】
<実施例2:3’末端にホスホロチオエート基を有するDNA鎖と5’末端に水酸基を有するDNA鎖との結合>
(1) 3’末端ホスホロチオエート基のトリニトロクロロベンゼンによる活性化
求電子剤をDNFBからトリニトロクロロベンゼン(TNCB)に変更した以外は、実施例1の手順(1)と同様にして、核酸鎖の3’末端ホスホロチオエート基を活性化した(図8参照)。
【実施例】
【0078】
(2) 5’末端水酸基との結合
得られた3’末端活性化核酸鎖と、5’末端に水酸基を有するDNA(5’OH DNA)とを混合し、両者を結合させた(図8参照)。
【実施例】
【0079】
結合反応は、下記の組成で調製した混合液を25℃でインキュベートすることにより行った。
3'-TNP-PS DNA 2 μM
5'OH DNA 4 μM
Trinitrochlorobenzene (100 mM in DMSO) 10 mM
Sodium phospahte buffer (100 mM, pH 7.0) 20 mM
MgCl2 10 mM
水で最終容量を25 μLに調整
【実施例】
【0080】
1、4、8、12時間後にサンプリングを行った生成物を電気泳動し、バンド定量により核酸鎖の結合反応の効率を算出した結果を図9に示す。反応効率は、10%以上であった。
【実施例】
【0081】
<実施例3:5’末端にホスホロチオエート基を有するRNA鎖と3’末端にアミノ基を有するRNA鎖との結合>
(1) 5’末端ホスホロチオエート基の1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼンによる活性化
5’末端にホスホロチオエート基を有するRNA(5’PS RNA)とDNFBを混合し、ホスホロチオエート基の硫黄原子にDNFBの2,4-ジニトロベンゼンを結合させたRNA(5’DNP-PS RNA)を合成した(図10参照)。反応条件は、実施例1と同様である。
【実施例】
【0082】
(2) 3’末端アミノ基との結合
DNP-PS RNAと3’末端にアミノ基を有するRNA(3’NH2 RNA)を混合し、両者を結合させた(図10参照)。反応条件は、実施例1と同様である。
【実施例】
【0083】
生成物を電気泳動し、バンド定量により核酸鎖の結合反応の効率を算出した結果を図11に示す。核酸鎖の結合反応の効率は、pH8の条件下で80%以上であった。
【実施例】
【0084】
5’末端にホスホロチオエート基を有するDNA鎖と3’末端にアミノ基を有するDNA鎖についても、本実施例と同様にして結合させることが可能であった。
【実施例】
【0085】
<実施例4:siRNAによる遺伝子発現抑制>
実施例3に記載の方法に従ってRNA鎖を結合して作成され、鎖中にホルホルアミデート結合を有するsiRNAを用いて、遺伝子の発現抑制試験を行った。
【実施例】
【0086】
ルシフェラーゼを遺伝子導入した細胞(HeLa-Luc)を10% FBSを含むDMEM (Wako)培地中で37℃, 5% CO2下培養し、96穴プレートに100 μL ずつ、4.0×103 cell/ウェルとなるよう播種した。さらに37℃, 5% CO2下で24時間培養し、約60%コンフルエントの状態で、siRNAをトランスフェクション試薬Lipofectamine 2000 (invitrogen)を用い、試薬添付のプロトコールに従ってコトランスフェクションした。
【実施例】
【0087】
トランスフェクション後、37℃, 5% CO2下6時間インキュベートし、培地を10% FBSを含むDMEM培地に交換した。37℃でさらに18 時間インキュベート後、Luciferase Assay System (プロメガ)を用い、添付のプロトコールに従いルシフェラーゼ発現量を定量した。
【実施例】
【0088】
結果を図12に示す。図中、「scramble RNA」はネガティブコントロール、「siRNA」はポジティブコントロールの結果を示す。なお、スクランブルsiRNAとは、標的遺伝子を抑制するためのsiRNAと同じヌクレオチドの構成比を有し、どの遺伝子とも異なる配列から成るRNAをいう。つまり、スクランブルsiRNAは、細胞の遺伝子の発現に影響しない外来RNAである。
【実施例】
【0089】
本発明に係る結合方法により作成されたsiRNA(図中「Phosphoroamideate型ligated siRNA」)は、通常のsiRNAと同等以上の遺伝子抑制効果を示した。この結果から、本発明に係る結合方法により、生理活性を維持した機能性核酸分子を作成できることが示された。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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