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明細書 :運動装置の状態監視システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月16日(2017.3.16)
発明の名称または考案の名称 運動装置の状態監視システム
国際特許分類 G01H  17/00        (2006.01)
FI G01H 17/00 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 33
出願番号 特願2015-550662 (P2015-550662)
国際出願番号 PCT/JP2014/080485
国際公開番号 WO2015/079975
国際出願日 平成26年11月18日(2014.11.18)
国際公開日 平成27年6月4日(2015.6.4)
優先権出願番号 2013244250
優先日 平成25年11月26日(2013.11.26)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】森 圭史
【氏名】齊藤 俊
出願人 【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100060759、【弁理士】、【氏名又は名称】竹沢 荘一
【識別番号】100087893、【弁理士】、【氏名又は名称】中馬 典嗣
審査請求 未請求
テーマコード 2G064
Fターム 2G064AB01
2G064AB02
2G064AB12
2G064AB22
2G064BA02
2G064CC29
2G064CC41
要約 ケーシングまたは監視対象部の振動を測定するだけで、数学的な解析から、運動装置の異常とその故障原因を割り出すことができ、しかも大がかりな装置を必要としない運動装置の状態監視システムを提供する。
運動装置1の監視対象部の振動を、弾性ばね等の粘弾性部材の振動に置換し、かつこれらの粘弾性部材の振動が合成されたもの等と等価な振動の仮想的振動データを出力しうるようにした運動装置1の等価モデルを作成し、その等価モデルの数学的な解析から、ケーシング8または監視対象部の振動を測定するだけで運動装置1の異常とその故障原因を割り出すようにする。
特許請求の範囲 【請求項1】
運動装置におけるケーシング内部の監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の特性に起因する振動を粘弾性部材の特性に起因する振動に置換し、かつこれらの粘弾性部材の振動が合成されたものと等価な振動の仮想的振動データを出力しうるようにした運動装置の等価モデルからなるシミュレータと、
前記シミュレータにおける等価モデルから出力される前記仮想的振動データの波形を、運動装置の正常運転時におけるケーシングの振動測定データの波形に実質的に一致させるようにシミュレータを作動して得られた、前記粘弾性部材のばね定数またはばね定数と粘性減衰係数としてのパラメータを、運動装置の正常運転時のパラメータとして記憶するパラメータ記憶部と、
運動装置の実運転時において前記ケーシングの振動を、ケーシングにおける予め選択した任意の一もしくは複数の箇所で測定するケーシング振動測定部と、
前記粘弾性部材のパラメータを変化させて前記シミュレータを作動させることにより、等価モデルより出力される仮想的振動データの波形を、前記の予め選択した任意の一もしくは複数の箇所のケーシング振動測定部で得られた実運転時の振動波形とそれぞれ実質的に一致させて、前記粘弾性部材のパラメータを同定するパラメータ同定部と、
このパラメータ同定部で同定された実運転時のパラメータが、前記パラメータ記憶部により記憶されている運動装置の正常運転時におけるパラメータと対比して、どのように変化しているかを検証するパラメータ変化検証部と、
を備えることを特徴とする運動装置の状態監視システム。
【請求項2】
運動装置における監視対象部としての一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の特性に起因する振動を粘弾性部材の特性に起因する振動に置換し、前記監視対象部のうち、実運転時において振動を測定する予め選択した任意の一もしくは複数の監視対象部の各振動に対応して置換した粘弾性部材の各振動と等価な仮想的振動データ、または予め選択した任意の複数の監視対象部の各振動に対応して置換した粘弾性部材の各振動が合成されたものと等価な振動の仮想的振動データを出力しうるようにした運動装置の等価モデルからなるシミュレータと、
前記シミュレータにおける等価モデルから出力される前記仮想的振動データの波形を、運動装置の正常運転時における前記監視対象部のうち、実運転時において振動を測定する予め選択した任意の一もしくは複数の監視対象部の各振動測定データの波形、または予め選択した任意の複数の監視対象部の各振動測定データが合成された波形に実質的に一致させるようにシミュレータを作動して得られた、前記粘弾性部材のばね定数またはばね定数と粘性減衰係数としてのパラメータを、運動装置の正常運転時のパラメータとして記憶するパラメータ記憶部と、
運動装置の実運転時において前記監視対象部の振動を測定する監視対象部振動測定部と、
前記粘弾性部材のパラメータを変化させて前記シミュレータを作動させることにより、等価モデルより出力される仮想的振動データの波形を、前記監視対象部振動測定部で得られた実運転時の振動波形、またはこれらの振動が合成された波形と実質的に一致させて、前記粘弾性部材のパラメータを同定するパラメータ同定部と、
このパラメータ同定部で同定された実運転時のパラメータが、前記パラメータ記憶部により記憶されている運動装置の正常運転時におけるパラメータと対比して、どのように変化しているかを検証するパラメータ変化検証部と、
を備えることを特徴とする運動装置の状態監視システム。
【請求項3】
粘弾性部材を、弾性ばねとした請求項1または2に記載の運動装置の状態監視システム。
【請求項4】
粘弾性部材を、弾性ばねとダッシュポットとからなるものとした請求項1または2に記載の運動装置の状態監視システム。
【請求項5】
さらに、パラメータ変化検証部において検証された実運転時のパラメータの変化状況から、運動装置における監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の変化傾向を判定する変化傾向判定部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の運動装置の状態監視システム。
【請求項6】
さらに、パラメータ変化検証部において検証された実運転時のパラメータの変化量を、正常運転時のパラメータに基づいて予め設定した閾値と比較して、運動装置における監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の異常状態を判定する異常判定部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の運動装置の状態監視システム。
【請求項7】
運動装置が、電動機、クランクシャフト、コネクティンクロッド、およびピストンを備えており、等価モデルが、クランクシャフト、コネクティンクロッド、およびピストンの仮想の剛体を備えるものとした請求項1または2に記載の運動装置の状態監視システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、運動装置の状態監視システムに関する。
本明細書において、運動装置とは、装置の構成部材間において相対的な可動部を備える装置を称し、その代表的なものとして、往復運動式圧縮機等の往復運動機構を含む運動装置が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
化学プラントや機械部品製造工場、食品製造工場等においては、空気その他のガスを圧縮するのに往復運動式圧縮機が多く用いられている。
この種の往復運動装置では、運転中に予想外の破損が生じ、運転停止に至るなど多大な損害が生じている事例がある。
往復運動式圧縮機で突発的なトラブルが発生した場合、生産活動の停止により数千万円~数億円/日の生産損失が発生し、その件数は国内外で100件程度/年間である。その損傷原因の多くは、往復運動式圧縮機のクロスヘッドやピストンロッドの連結部の緩みやピストンリング、ライダリング、ピストンロッドパッキンといった摺動部の摩耗、基礎部分の剛性低下などが推定される。それらを検知するアプリケーションとして往復運動式圧縮機用の連続監視システムを、GE(Bently)を始め、ドイツのPrognost SYSTEMS、HOERBIGERが提供している。
基本的には3社の機能は同等であり、機械保護と状態監視に特化した設計となっており、シリンダの内圧と振動とクランクアングルを組み合わせることにより、様々な診断が可能となっている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2012-117522
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の連続監視システムを装備させるには、1千万円/機のコストがかかることや、国内の関連法規による事情から、国内ユーザーで使用されている例はない。海外ユーザーはというと、日本並みの高い保全技術がないことから、それをカバーするために装備されているのが実態である。しかし、現在の往復運動式圧縮機のモニタリング技術はクランク角度で時刻歴応答の衝撃ピーク(最大振幅)を観察し、クランク角度におけるロッドロード(慣性力+ガス圧)或いは、シリンダ圧力と関連付けている手法が一般的であるが、部位の特定や度合いを評価する手法は存在しない。
【0005】
現在、プラントを運転する為に監視技術や運転時計測技術が用いられているが、故障トラブルは減少していない。それは、全ての装置に対して汎用的な同評価が適用されていること、そして、発生メカニズムが解明されていない為に内部の状態を把握できないので基準がなく、適正な評価ができていないと考える。
また、同種類の装置であったとしても、設置環境やメンテナンスの方法などによって、各装置はそれぞれ固有の現象を所持しているため、個別的に評価する技術が必要である。
さらに、往復運動式圧縮機においては、運転中ケーシングに覆われている上に、高速運転を行っているため、往復圧縮機内部に発生している繰返し荷重や、各可動部の加速度変動等の実機を用いた測定および把握は困難である。その為、システムの動特性や各種パラメータ変化に対応した数学モデルを導入した診断技術が必要と考えられる。
【0006】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑みてなされたもので、ケーシングの振動を測定するだけで、または監視対象部の振動を測定することにより、数学的な解析から、運動装置の異常とその故障原因を割り出すことができ、しかも大がかりな装置を必要としない運動装置の状態監視システムを提供することを目的としている。
【0007】
すなわち、内部振動を同定する為に、実験モード解析より、内部の位置で発生した状態量を外部ケーシングに影響する振幅や位相の特性を把握するために伝達関数を算出し、入力同定を行う。マルチボディダイナミックス解析による数値シミュレーションからパラメータ診断を行うことで、外部のケーシングを測定することによって、内部状態を把握できる解析モデリング技術を提供するものである。また、併せて監視対象部の振動を測定し、同様な手法による解析モデリング技術を提供する。ここで監視対象部の振動とは、監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の特性に起因する振動を指称する。
この提案により、往復運動式圧縮機に特化した新たな監視技術および判定基準を作成することによって予知メンテナンスが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(A) パラメータ同定に基づく診断手法
一般的なピストン-クランク軸系のモデル化に於いては、各連結部を剛結合、または集中質量系としていることが挙げられる。この場合、クロスヘッドや支持部の摺動箇所の事象を把握することができない。そこで、本モデルは、往復運動式圧縮機の可動部であるクランクシャフト-コネクティングロッド-クロスヘッド-シリンダーロッド-シリンダ系を弾性ばねまたはばね定数と粘性減衰係数で連結された等価モデルとしてモデル化を行うことにより、事象ごとの発生メカニズムを解明することができると考える。
具体的には、外部ケーシングまたは監視対象部から測定した周波数応答データを使用して、往復運動式圧縮機の可動部であるクランクシャフト-コネクティングロッド-クロスヘッド-シリンダーロッド-シリンダー系を弾性ばねまたは弾性ばねとダッシュポットの粘弾性部材で連結された等価モデルを用いて、最小自乗法や滑降シンプレックス法(ダウンヒルシンプレックス法)などを用いた逆問題(パラメータ同定)を解くことで、各連結部のばね定数またはばね定数と粘性減衰係数のパラメータを算出(パラメータ同定)し、そのパラメータの変化から外部測定により内部の状態を推定することが可能である。
また、状態が変化した場合、クランク角度に応じた固有値解析の結果で得られた固有値、そして、周波数解析によって得られた周波数特性が変化する。これらを複合的に評価することで内部の状態を推定することができる。なお、本明細書において、「粘弾性部材」とは、弾性部材のみの場合と、弾性部材とともに粘性部材を含む場合の両者を指称する。
【0009】
(B)往復運動装置のモデリング
本対象装置の往復運動装置は、電動機、クランクシャフト、コネクティングロッド、クロスヘッド、ピストンロッド、ピストン、ケーシング(シリンダ)から構成されている。
本モデルの対象は、往復運動式圧縮機の可動部であるクランクシャフト、コネクティングロッド、クロスヘッド、ピストンロッド、ピストン、シリンダ系である。
また、往復運動装置では、連結部および摺動部の故障の頻度が高く、また、それらの故障は社会的影響および人身的影響をもたらす。その為、連結部および摺動部の剛性変化が観察(把握)できるモデリングをする必要があるので、各連結部および摺動部を弾性ばねまたは弾性ばねとダッシュポットの粘弾性部材で連結した等価モデルによりモデル化を行い、動的挙動を把握する。
往復運動装置の駆動部分を面内並進運動する剛体として扱い、構造上で回転運動が発生する可能性があるコネクティングロッドとピストンロッドおよびピストンに関しては運動方程式で回転運動を考慮する。また、各連結部には運動方向である水平方向と垂直方向に対してそれぞれ独立の弾性ばねを配置する。そして、クロスヘッド摺動部、ピストンロッド中間グランド部、ピストンのライダーリングにおいては、各部品が支持されている箇所であるので、上下方向の運動を拘束するばねを設置する。以上の仮定に基づき、多体動力学モデルの運動方程式を導出する。
【0010】
モデルの運動方程式に用いられる各連結部および摺動部に用いられているばね定数を求める。例えば、コネクティングロッドやピストンロッドの横方向のばねは等価ばね定数の式、縦方向のバネは梁理論の式、摺動部については、Heltz接触理論など、一般的な物理式を用いて、物理量を算出する。また、実機データと仮想的振動データの逆問題により、ばね定数、粘性減衰係数を未知パラメータとして導出する。
【0011】
例えば、コネクティングロッド廻りの連結部状態量を監視したい場合は、コネクティングロッド以降は一つの物体と考えてモデリングを行う。また、ピストンロッドの連結部状態量を把握したい場合は、ピストンロッドの中間支持部やピストンの回転などを考慮しない、9自由度系のモデリングを、そして、ピストンロッドの中間支持部やピストンの回転などを考慮した各部状態量を把握したい場合は、11自由度系のモデリングを行うなど、監視したい状態量によって、最適なモデリングを行うことが本診断システムでは可能であり、効率的な診断システムである。
【0012】
モデルの妥当性が判断できたら、往復運動装置の正常時の運転時データを用いて、逆問題によって未知パラメータ(各ばね定数または各ばね定数と各粘性減衰係数)を導出する。これによって、モデリングの完成である。
【0013】
(C)往復運動装置のモニタリング(内部振動推定法)
往復運動装置のモデルは内部の連結部や摺動部の状態量を把握できる。しかし、ケーシングで覆われている往復運動装置の内部に発生している繰り返し荷重や各可動部の加速度変動を推定する為に、入力信号と出力信号の関係を数学的に求めることができる伝達関数を用いて、外部ケーシングから計測した情報から内部の各可動部の状態量(加速度、速度、変位、力など)を算出する。外部ケーシングから内部状態量を推定する為に、逆行列や動質量法などに基づく入力同定手法を用いて内部振動を同定する。
【0014】
次に、往復運動装置の運転時に計測(連続モニタリング、スポット計測)を行い、その計測したデータを用いて、モデルの運動方程式とのパラメータ同定を行うことで、各可動部のパラメータを算出し、その得られたパラメータと剛性モデルでのパラメータと比較することで、剛性変化から状態量を把握する。
具体的には、内部の連結状態の変化によって、固有振動数が変化することが分かっている。固有振動数が変化しているということは、連結部のばね定数、粘性減衰係数が変化しているということであるので(重量の変化はない)、そのばね定数、粘性減衰係数の変化量から状態量を把握し、傾向管理を行うことができる。
【0015】
また、現在までに蓄積された故障データから、各可動部の故障・劣化が固有振動特性に影響している例を、異常時の振動パターンとして、メモリに保存しておく。
このように、蓄積された故障データおよびモデルの運動方程式を用いた動的応答解析(数値シミュレーション)でのパラメータ変化による故障時の状態変化を把握することで、各可動部の故障を推定し、異常の有無を判定することができる。また、入力同定によって得られた内部振動での正確な状態量となり、材料物性値から寿命予測を行うことも可能である。
【0016】
(D)本発明によると、上記課題は、具体的に次のようにして解決される。
(1)運動装置におけるケーシング内部の監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の特性に起因する振動を粘弾性部材の特性に起因する振動に置換し、かつこれらの粘弾性部材の振動が合成されたものと等価な振動の仮想的振動データを出力しうるようにした運動装置の等価モデルからなるシミュレータと、前記シミュレータにおける等価モデルから出力される前記仮想的振動データの波形を、運動装置の正常運転時におけるケーシングの振動測定データの波形に実質的に一致させるようにシミュレータを作動して得られた、前記粘弾性部材のばね定数またはばね定数と粘性減衰係数としてのパラメータを、運動装置の正常運転時のパラメータとして記憶するパラメータ記憶部と、運動装置の実運転時において前記ケーシングの振動を、ケーシングにおける予め選択した任意の一もしくは複数の箇所で測定するケーシング振動測定部と、前記粘弾性部材のパラメータを変化させて前記シミュレータを作動させることにより、等価モデルより出力される仮想的振動データの波形を、前記の予め選択した任意の一もしくは複数の箇所のケーシング振動測定部で得られた実運転時の振動波形とそれぞれ実質的に一致させて、前記粘弾性部材のパラメータを同定するパラメータ同定部と、このパラメータ同定部で同定された実運転時のパラメータが、前記パラメータ記憶部により記憶されている運動装置の正常運転時におけるパラメータと対比して、どのように変化しているかを検証するパラメータ変化検証部と、を備えることを特徴とする運動装置の状態監視システムとする。
【0017】
このような構成によると、ケーシングの振動を測定するだけで、数学的な解析から、運動装置の異常とその故障原因を割り出すことができるとともに、寿命予測による故障の未然防止、装置の信頼性の向上を図ることができる。
また、ケーシングの振動を外部から測定するだけで、内部の状態を推定することができる。
さらに、実測データや高価で大がかりな装置に頼ることなく、物理的および数学的な解析のみにより、故障原因を割り出すことができ、従来の運動装置の状態監視装置より安価に状態監視ができる。
【0018】
(2)運動装置における監視対象部としての一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の特性に起因する振動を粘弾性部材の特性に起因する振動に置換し、前記監視対象部のうち、実運転時において振動を測定する予め選択した任意の一もしくは複数の監視対象部の各振動に対応して置換した粘弾性部材の各振動と等価な仮想的振動データ、または予め選択した任意の複数の監視対象部の各振動に対応して置換した粘弾性部材の各振動が合成されたものと等価な振動の仮想的振動データを出力しうるようにした運動装置の等価モデルからなるシミュレータと、前記シミュレータにおける等価モデルから出力される前記仮想的振動データの波形を、運動装置の正常運転時における前記監視対象部のうち、実運転時において振動を測定する予め選択した任意の一もしくは複数の監視対象部の各振動測定データの波形、または予め選択した任意の複数の監視対象部の各振動測定データが合成された波形に実質的に一致させるようにシミュレータを作動して得られた、前記粘弾性部材のばね定数またはばね定数と粘性減衰係数としてのパラメータを、運動装置の正常運転時のパラメータとして記憶するパラメータ記憶部と、運動装置の実運転時において前記監視対象部の振動を測定する監視対象部振動測定部と、前記粘弾性部材のパラメータを変化させて前記シミュレータを作動させることにより、等価モデルより出力される仮想的振動データの波形を、前記監視対象部振動測定部で得られた実運転時の振動波形、またはこれらの振動が合成された波形と実質的に一致させて、前記粘弾性部材のパラメータを同定するパラメータ同定部と、このパラメータ同定部で同定された実運転時のパラメータが、前記パラメータ記憶部により記憶されている運動装置の正常運転時におけるパラメータと対比して、どのように変化しているかを検証するパラメータ変化検証部と、を備えることを特徴とする運動装置の状態監視システムとする。
【0019】
このような構成にすると、監視対象部の振動を測定して得たデータをもとに、数学的な解析から、運動装置の異常とその故障原因を割り出すことができ、寿命予測による故障の未然防止、装置の信頼性の向上を図ることができる。
【0020】
(3)上記(1)または(2)項において、粘弾性部材を、弾性ばねとする。
このような構成によると、弾性ばねのばね定数をパラメータとして、等価モデルを簡素化することができる。
【0021】
(4)上記(1)または(2)項において、粘弾性部材を、弾性ばねとダッシュポットとからなるものとする。
このような構成によると、弾性ばねの振動をダッシュポットにより緩和吸収する等価モデルを形成することができ、より精度の高いモニタリングを実現することができる。
【0022】
(5)上記(1)または(2)項において、さらに、パラメータ変化検証部において検証された実運転時のパラメータの変化状況から、運動装置における監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の変化傾向を判定する変化傾向判定部を備えるものとする。
【0023】
このような構成によると、変化傾向判定部によって、運動装置の内部の一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および摺動部の変化傾向を知ることができ、その結果から、運動装置の寿命等を、早期に発見することができる。
【0024】
(6)上記(1)または(2)項において、さらに、パラメータ変化検証部において検証された実運転時のパラメータの変化量を、正常運転時のパラメータに基づいて予め設定した閾値と比較して、運動装置における監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の異常状態を判定する異常判定部を備えるものとする。
【0025】
このような構成によると、異常判定部により、運動装置の内部の一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および/もしくは摺動部の異常状態を迅速に知ることができる。
【0026】
(7)上記(1)または(2)項において、運動装置が、電動機、クランクシャフト、コネクティンクロッド、およびピストンを備えており、等価モデルが、クランクシャフト、コネクティンクロッド、およびピストンの仮想の剛体を備えるものとする。
【0027】
このような構成によると、運動装置に特化した、より具体的な状態監視システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によると、ケーシングの振動を測定するだけで、または監視対象部の振動を測定することにより、数学的な解析から、運動装置の異常とその故障原因を割り出すことができ、しかも大がかりな装置を必要としない運動装置の状態監視システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の状態監視システムの一実施形態と、それによって監視しようとする運動装置の一例の縦断正面形とを示す図である。
【図2】本発明の状態監視システムの一実施形態のブロック図である。
【図3】運動装置の等価モデルの一例を示す図である。
【図4】図3における各弾性ばねのパラメータの正常時の値と、異常時の値との対応の一例を示す図である。
【図5】本発明の状態監視システムにおける運動装置の等価モデル作成時のフローチャートである。
【図6】同じく、運動装置のモニタリング時のフローチャートである。
【図7】図2におけるパラメータ同定部~パラメータ変化傾向判定部までの部分の変形例を示すブロック図である。
【図8】粘弾性部材を、弾性ばねとダッシュポットとをもって構成した変形例を示す図である。
【図9】故障事例における実機測定時の補修前後および損傷時の周波数解析結果を示す図である。
【図10】故障事例におけるシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の運動装置の状態監視システムの一実施形態を、添付図面を参照して説明する。
図1に示すように、状態監視しようとする運動装置1は、この例では、化学プラントにおいて、水素を圧縮するのに使用する往復移動式圧縮機としてある。

【0031】
この運動装置1は、クランク部2と、中間接続部3と、ピストン-シリンダ部4とからなり、クランク部2のクランクケース5と、中間接続部3のディスタンスピース6と、ピストン-シリンダ部4のシリンダ7とが一体となって、ケーシング8を形成している。

【0032】
クランク部2は、クランクケース5のほぼ中央に前後方向を向くようにして回転自在に枢支され、かつ前後位置をずらした2箇所の互いに180°の関係をなす偏心部に、2個のクランクピン9a(その一方のみを図示する)を有するクランクシャフト9と、各クランクピン9aに、クランクピンメタル10を介して基部が回転自在に外嵌され、かつ先端部がクランクシャフト9から互いに左右方向外向きに延出する左右1対のコネクティングロッド11と、各コネクティングロッド11の先端部に、前後方向を向くクロスヘッドピン12とクロスヘッドピンメタル13とをもって回転自在に連結され、クランクケース5内を左右方向に摺動するクロスヘッド14とを備えている。

【0033】
クランク部2は、クランクシャフト9を中心として、ほぼ左右対称構造をなし、その左右の外側に中間接続部3とピストン-シリンダ部4とがそれぞれ連結されているが、以下の説明では、理解を容易にするため、クランクシャフト9から右方の構造のみについて説明することとする。

【0034】
コネクティングロッド11の基部は、2分割した部分をボルト15をもって結合することにより、クランクピン9aに装着されている。
クロスヘッド13の外周には、クロスヘッドシュー16が設けられ、クランクケース5との摺動抵抗を軽減するようにしてある。

【0035】
クランク部2においては、クランクシャフト9を、クランクケース5外に設けた電動機(図示略)により回転させることにより、コネクティングロッド11を介して、クロスヘッド14が左右方向に直線往復運動させられるようになっている。

【0036】
クロスヘッド14には、中間接続部3のディスタンスピース6を貫通して、ピストン-シリンダ部4のシリンダ7内に至る左右方向を向くピストンロッド17の左端が接続されている。

【0037】
クランクケース5とディスタンスピース6との境界部におけるピストンロッド17の貫通部には、オイルワイパーリング18が設けられ、ディスタンスピース6の中間部におけるピストンロッド17の貫通部には、中間グランドパッキン19が設けられている。

【0038】
ピストン-シリンダ部4のシリンダ7におけるディスタンスピース6との接続部のピストンロッド17貫通部には、グランドパッキン20が設けられている。
また、シリンダ7には、多数の冷却材通路21が設けられ、その中を通る冷却材により、シリンダ7は冷却されるようになっている。

【0039】
シリンダ7内に進入したピストンロッド17の右端部には、外周面にピストンリング22およびライダーリング23を装着したピストン24が接続され、このピストン24が、シリンダ7の内面に設けたシリンダライナ25内を左右方向に往復運動することにより、ガス入口26から吸込弁27を介して吸入したガスを圧縮して、吐出弁28を介してガス出口29から吐出させるようになっている。
吸込弁27には、吸込弁開放式アンローダ30が接続されている。

【0040】
以上が状態監視しようとする運動装置1の大まかな構造であるが、このような運動装置1においては、各部の摺動部分、例えば、クランクケース5におけるクランクシャフト9の軸受部分、クランクピン9aとクランクピンメタル10との回転部分、クロスヘッドピン12とクロスヘッドピンメタル13との回転部分、クロスヘッドシュー16とクランクケース5との摺動部分、オイルワイパーリング18、中間グランドパッキン19、およびグランドパッキン20とピストンロッド17との摺動部分、ピストン24の外周面、ピストンリング22、およびライダーリング23とシリンダライナ25との摺動部分から振動が発生する。

【0041】
このような運動装置1を、実験モード解析より、内部の位置で発生した状態量を外部ケーシングに影響する振幅や位相の特性を把握するために伝達関数を算出し、入力同定を行い、マルチボディダイナミックス解析による数値シミュレーションからパラメータ診断、そして、固有値、周波数特性の変化を行うことで、外部のケーシングを測定することによって、内部状態を把握できる解析モデリングを行おうとするものである。

【0042】
そのための状態監視システム31は、運動装置1のケーシング8の一部、図示の例では、クランクケース5の下部に取付けられ、ケーシング8の振動を測定する振動センサ32と、この振動センサ32の出力を、RS232C等の出力用インターフェース33より送信可能なデータに変換する振動測定ユニット34とからなるケーシング振動測定部35と、振動測定ユニット34の出力用インターフェース33とケーブル36を介して接続された入力用インターフェース37を有し、マルチボディダイナミックス解析アプリケーション、FFTアナライザ、その他の必要なアプリケーションを組み込んだシミュレータとしての機能を有するパソコン(パーソナルコンピュータ)38とを備えている。

【0043】
パソコン38内の機能とケーシング振動測定部35とをブロック図で示すと、図2のようになる。
図2に示すように、状態監視システム31は、ケーシング振動測定部35とパソコン38とからなり、ケーシング振動測定部35は、振動センサ32と振動測定ユニット34とからなっている。

【0044】
パソコン38は、運動装置1におけるケーシング8内部の監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部の振動を、弾性ばねの振動に置換し、かつこれらの弾性ばねの振動が合成されたものと等価な振動の仮想的振動データを出力しうるようにした運動装置1の等価モデルからなるシミュレータ39と、シミュレータ39における等価モデルから出力される仮想的振動データの波形を、運動装置の正常運転時におけるケーシングの振動測定データの波形に実質的に一致させるようにシミュレータ39を作動して得られた、弾性ばねのばね定数としてのパラメータを、運動装置1の正常運転時のパラメータとして記憶するパラメータ記憶部40と、前記弾性ばねのパラメータを変化させてシミュレータ39を作動させることにより、等価モデルより出力される仮想的振動データの波形を、ケーシング振動測定部35で得られた実運転時の振動波形と実質的に一致させて、弾性ばねのパラメータを同定するパラメータ同定部41と、このパラメータ同定部41で同定された実運転時のパラメータが、パラメータ記憶部40により記憶されている運動装置の正常運転時におけるパラメータと対比して、どのように変化しているかを検証するパラメータ変化検証部42とを備えている。

【0045】
また、パソコン38は、さらに、パラメータ変化検証部42において検証された実運転時のパラメータの変化状況から、運動装置1の内部の一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および摺動部の変化傾向を判定するパラメータ変化傾向判定部43と、パラメータ変化検証部42において検証された実運転時のパラメータの変化量を、正常運転時のパラメータに基づいて予め設定した閾値と比較して、運動装置1の内部の一または複数の構成部材および/または構成部材間の連結部および摺動部の異常状態を判定する異常判定部44と、現在までに蓄積された故障データから、各可動部の故障・劣化が固有振動特性に影響している例を、異常時の振動パターンとして保存する故障データメモリ45とを備えている。
この故障データメモリ45は、等価モデルより出力される仮想的振動データの波形を、ケーシング振動測定部35で得られた実運転時の振動波形と実質的に一致させて、弾性ばねのパラメータを同定したときに、複数組のパラメータ同定結果が得られた場合に、過去の異常時の振動パターンと対比して、どの異常時の振動パターンに該当するかを決定するときにも有用である。

【0046】
より具体的には、シミュレータ39は、運動装置1におけるケーシング8内部の監視しようとする一または複数の構成部材および/または構成部材、すなわちクランクシャフト9、コネクティングロッド11、クロスヘッド14、ピストンロッド17、ピストン24を仮想の剛体とし、それらの相互間、およびそれらとケーシング8との間を粘弾性部材である弾性ばねSをもって接続したと仮定した、図3に示すような運動装置1の等価モデルを、パソコン38上で作成する。
図3において、図1における符号と同一の符号は、図1におけるのと同一の部材の仮想の剛体を示す。
各弾性ばねSのパラメータの正常時(初期状態)の値と、異常時の値との一例を図4に示す。

【0047】
次に、運動装置1の等価モデルの作成、すなわちモデリングについて、図5のフローチャートに基づいて説明する。
まず、対象装置の選定(S1)として、運動装置1を選定し、その可動部であるクランクシャフト9、コネクティングロッド11、クロスヘッド14、ピストンロッド17、ピストン24を仮想の剛体とし、それらの相互間、およびそれらとケーシング8との間を弾性ばねSをもって接続したものとする。

【0048】
モデリングにあたっては、回転運動が発生する可能性があるコネクティングロッド11とピストンロッド17およびピストン24に関しては運動方程式で回転運動を考慮する。また、各連結部には運動方向である水平方向と垂直方向に対してそれぞれ独立の弾性ばねSを配置する。
そして、クロスヘッド14摺動部、ピストンロッド17中間グランド部、ピストン24のライダーリングにおいては、各部品が支持されている箇所であるので、上下方向の運動を拘束するばねを設置し、観察箇所、故障箇所を、上記の連結部および摺動部とする(S2)。
以上の仮定に基づき、多体動力学モデルの運動方程式を導出する(S3)。

【0049】
シミュレータ39とパラメータ記憶部40とパラメータ同定部41とにおいては、ケーシング振動測定部35により測定したケーシング8からの周波数応答データを使用して、運動装置1の等価モデルを用いて、最小自乗法や滑降シンプレックス法(ダウンヒルシンプレックス法)などを用いた逆問題(パラメータ同定)を解くことで、各連結部のばね定数のパラメータを算出(パラメータ同定)し、そのパラメータの変化から外部測定により内部の状態を推定する(S4)。

【0050】
また、等価モデルの運動方程式に用いられる各連結部および摺動部に用いられているばね定数を求める。例えば、コネクティングロッド11やピストンロッド17の横方向のばねは等価ばね定数の式、縦方向のバネは梁理論の式、摺動部については、Heltz接触理論など、一般的な物理式を用いて、物理量を算出する。

【0051】
この等価モデルの妥当性を確認する為に、運動方程式に基づいて行った固有値解析結果と運動装置1の固有振動数から固有振動特性(装置が持っている特性)を検証する(S5)。
ここで、等価モデル(運動方程式)と運動装置の固有振動特性が一致しない場合は、モデルの再検討を行い、固有振動特性が一致する等価モデルとする。

【0052】
例えば、コネクティングロッド11廻りの連結部状態量を監視したい場合は、コネクティングロッド11以降は一つの物体と考えてモデリングを行う。また、ピストンロッド17の連結部状態量を把握したい場合は、ピストンロッド17の中間支持部やピストン24の回転などを考慮していない、9自由度系のモデリングを、そして、ピストンロッド17の中間支持部やピストン24の回転などを考慮した各部状態量を把握したい場合は、11自由度系のモデリングを行うなど、監視したい状態量によって、最適なモデリングを行う。

【0053】
等価モデルの妥当性が判断できたら、運動装置の正常時の運転時データを用いて、未知パラメータ(各ばね定数)を逆問題によってパラメータ同定(システム同定)によって導出し、それをパラメータ記憶部40に記憶させておく(S6)。
これによって、モデリングの完成である(S7)。

【0054】
運動装置1のモニタリングは、図6のフローチャートに示すように、次のようにして行う。
運動装置1の等価モデルは内部の連結部や摺動部の状態量を把握できる。しかし、ケーシング8で覆われている運動装置1の内部に発生している繰り返し荷重や各可動部の加速度変動を推定する為に、入力信号と出力信号の関係を数学的に求めることができる伝達関数を用いて、ケーシング8から計測した情報から内部の各可動部の状態量(加速度、速度、変位、力など)を算出する。ケーシング8から内部状態量を推定する為に、周波数応答関数測定を行い、算出結果の周波数ごとの係数を導出する(S8)。

【0055】
運動装置1の運転時に計測(連続モニタリング、スポット計測)を行い(S9)、その計測したデータを用いて、上記のように等価モデルの運動方程式とのパラメータ同定を行うことで(S10)、各可動部のパラメータを算出し、その得られたパラメータと等価モデルでのパラメータとを、パラメータ変化検証部42において、比較することで、剛性変化から状態量を把握する。
その具体的なパラメータの同定方法を、式をもって示すと次の通りである。
【数1】
JP2015079975A1_000003t.gif

【0056】
具体的には、内部の連結状態の変化によって、固有振動数が変化することが分かっている。固有振動数が変化しているということは、連結部のばね定数が変化しているということであるので(重量の変化はない)、そのばね定数の変化量から状態量を把握し、パラメータ変化傾向判定部43において、傾向管理を行う。

【0057】
また、現在までに蓄積された故障データから、各可動部の故障・劣化が固有振動特性に影響している例を、異常時の振動パターンとして、故障データメモリ45に保存しておく。
異常判定部44において、故障データメモリ45に蓄積された故障データおよび等価モデルの運動方程式を用いた動的応答解析(数値シミュレーション)でのパラメータ変化による故障時の状態変化を把握することで、各可動部の故障を推定し、異常の有無を判定し、異常と判定したときは、例えばブザーや警告灯等の警報装置46を作動させる(S11)。

【0058】
さらに、運動方程式に基づいて行った固有値解析結果と運動装置1の固有振動数から固有振動特性を検証することによって、等価モデルの妥当性を確認することができる(S12)。
また、伝達関数から得られた係数を計測データに与えることで、正確な状態量となり、材料物性値から寿命を予測したり、補修計画を立案したりすることができる(S13)。

【0059】
図7は、図2におけるパラメータ同定部41~パラメータ変化傾向判定部43までの部分の変形例を示す。
図7に示すように、パラメータ同定部41およびパラメータ変化検証部42と並列的に、周波数解析部47および周波数特性変化検証部48と、固有値解析部49および固有値変化検証部50とを設け、パラメータ変化検証部42と周波数特性変化検証部48と固有値変化検証部50との検証データを、結果記憶部51に記憶させた後、図2におけるパラメータ変化傾向判定部43を含む変化傾向判定部52において、それらの変化傾向を判定するようにしてもよい。

【0060】
また、以上の説明では、粘弾性部材として、弾性ばねSのみを用いたもとしたが、上述のすべての弾性ばねSを、図8に示すように、ダッシュポットDと並設し、弾性ばねSとダッシュポットDとによって粘弾性部材を構成するようにしてもよい。

【0061】
このように、粘弾性部材を、弾性ばねSとダッシュポットDとからなるものとすると、弾性ばねSの振動をダッシュポットDにより緩和吸収する等価モデルを形成することができ、より精度の高いモニタリングを実現することができる。

【0062】
次に、具体的な故障事例について説明する。
これは、往復運動装置1の運転中の振動値が上昇したことを受けて、想定される損傷時のシミュレーションを実施し、コネクティングロッド11およびクロスヘッド14の連結部回りの弾性ばね定数の低下に異常があると判定した事例である。
図9は、実機測定時の補修前後のおよび損傷時の周波数解析結果を示す。また、図10は補修前、および損傷時を想定したシミュレーション結果を示している。補修前の周波数データに対して、損傷時の周波数データが変化することから、モデルパラメータに変化が生じていることが予想され、パラメータ同定を行うことにより、損傷箇所やばね定数の低下の度合いを推定することができる。

【0063】
このときの故障原因は、実際にはクロスヘッドピン12の両端に設けたクロスヘッドピンカバー(図示略)のカバーボルト(図示略)からの押えナット(図示略)の脱落によるカバーボルトの緩みであった。
図8に示す補修前データから異常発生時データへの変化を説明するモデルパラメータ変化として、コネクティングロッドとクロスヘッド連結部のばね定数、および、クロスヘッド摺動部のばね定数が10分の1程度低下していることから、コネクティングロッド11およびクロスヘッド14の連結部の損傷であることが推認された。これらのデータは随時、故障データメモリ45に保存される。

【0064】
次に、数学的な解析について説明する。
<モデルの定式化>
図3に於いて、クランクシャフト9周りの中心0は、座標(0、0)に固定する。クランクシャフト9の位置(x0、y0)は、式(4.1)、(4.2)のように表すことができる。
【数2】
JP2015079975A1_000004t.gif
【数3】
JP2015079975A1_000005t.gif

【0065】
コネクティングロッド11の運動方程式を式(4.3)、(4.4)、(4.5)に表す。ここで、mc、lcはコネクティングロッド11の質量および長さ、φをコネクティングロッド11の重心周りの微小回転角度とし、lcgをコネクティングロッド11の重心位置長さとする。さらに、コネクティングロッド11に作用する慣性モーメントをlcとする。またkxc、kyc をクランクシャフト9とコネクティングロッド11の接合部の弾性ばねSとし、kxch、kych をコネクティングロッド11とクロスヘッド14の接合部の弾性ばねSとする。式(4.6)、(4.7)は、コネクティングロッド11に作用する力を表している。
【数4】
JP2015079975A1_000006t.gif
【数5】
JP2015079975A1_000007t.gif
【数6】
JP2015079975A1_000008t.gif
【数7】
JP2015079975A1_000009t.gif
【数8】
JP2015079975A1_000010t.gif

【0066】
クロスヘッド14の運動方程式を式(4.8)、(4.9)に表す。ここで、mch、lchはクロスヘッド14の質量および長さとする。lc、φはコネクティングロッド11の長さ及び重心周りの微小回転角度、そしてlpl、ξはピストンロッド17の長さ及び重心周りの微小回転角度とする。また、kxch、kych をコネクティングロッド11とクロスヘッド14の接合部の弾性ばねSとし、kxpl、kyplをクロスヘッド14とピストンロッド17の接合部の弾性ばねSとする。式(4.10)、(4.11)は、コネクティングロッド11に作用する力を表している。クロスヘッド摺動部の上下方向のばね支持をkzchとして、式(4.12)に表すようにクロスヘッド14に作用する上下方向の外力を、fzlとする。
【数9】
JP2015079975A1_000011t.gif
【数10】
JP2015079975A1_000012t.gif
【数11】
JP2015079975A1_000013t.gif
【数12】
JP2015079975A1_000014t.gif

【数13】
JP2015079975A1_000015t.gif

【0067】
ピストンロッド17の運動方程式を式(4.13)、(4.14)、(4.15)に表す。ここで、mpl、lplはピストンロッド17の質量および長さ、ξをピストンロッド17の重心周りの微小回転角度とし、ピストンロッド17に作用する慣性モーメントをlplとする。またkxpl、kyplをクロスヘッド14とピストンロッド17の接合部の弾性ばねSとし、kxp、kypをピストンロッド17とピストン24の接合部の弾性ばねSとする。式(4.16)、(4.17)は図3に示すように、ピストンロッド17に作用する力を表している。さらに、ピストンロッド17の中間グランド支持部の3点の上下方向の外力に対するばね支持を、kzbpl、kzpl、kzcplとして入力している。ピストンロッド17の運動に伴い、ばね支持位置が時刻毎で移動する。そのピストンロッド17にかかる上下方向の外力をfz2、fz3、fz4として、式(4.18)、(4.19)、(4.20)のように表す。
【数14】
JP2015079975A1_000016t.gif
【数15】
JP2015079975A1_000017t.gif
【数16】
JP2015079975A1_000018t.gif
【数17】
JP2015079975A1_000019t.gif
【数18】
JP2015079975A1_000020t.gif
【数19】
JP2015079975A1_000021t.gif
【数20】
JP2015079975A1_000022t.gif

【0068】
ピストン24の運動方程式を式(4.21)、(4.22)、(4.23)に表す。ここで、mp、lpはピストン24の質量および長さ、ξをピストン24の重心周りの微小回転角度とし、ピストン24に作用する慣性モーメントをlpとする。またkxp、kypをピストンロッド17とピストン24の接合部の弾性ばねSとする。式(4.24)、(4.25)は、図3に示すように、ピストン24に作用する力を表している。さらに、ピストン24の支持点であるライダーリングの摺動部の2点の上下方向の外力に対するばね支持をkzbp、kzcpとして入力している。ピストン24の運動に伴い、ばね支持位置が時刻毎で移動する。そのピストン24にかかる上下方向の外力をfz5、fz6として、式(4.26)、(4.27)のように表す。
【数21】
JP2015079975A1_000023t.gif
【数22】
JP2015079975A1_000024t.gif
【数23】
JP2015079975A1_000025t.gif
【数24】
JP2015079975A1_000026t.gif
【数25】
JP2015079975A1_000027t.gif
【数26】
JP2015079975A1_000028t.gif
【数27】
JP2015079975A1_000029t.gif

【0069】
<ルンゲクッタ法による応答計算>
往復動式圧縮機の回転入力周波数fを8 [Hz]として、各パーツの重心位置の加速度応答を求める。角振動数ωはf(周波数)とT(振周期)とω(角振動数)の関係から次式で与えられる。
【数28】
JP2015079975A1_000030t.gif

【0070】
これが単位時間当たりの入力となる。往復動圧縮機のクランクシャフト9に起因する入力振幅の大きさをx0、y0として、クランクシャフト9の半径をr [m]とすると、式(4.1)、(4.2)で与えられる。上記応答計算は、数値積分を用いた応答計算法であれば、制限されず、他にも、オイラー法など公知の手法を採用することもできる。

【0071】
<運転時の内部振動入力同定法>
運転時の内部振動である振動源から外部振動である応答(計測点)までの寄与を解析する技術として、伝達経路解析(Transfer Path Analysis, 以下TPA)がある。そのTPAに於ける伝達関数は運転時に計測することは不可能に近く、このように直接計測ができない場合に運転時の振動源を逆問題として入力同定する必要がある。入力同定手法として、広く用いられているのが逆行列法と動バネ法である。例えば、逆行列法を用いる場合について説明すれば、以下のようになる。即ち、逆行列法を用いたTPAを行うことで、加振試験から推定されるアクセレランスと運転時に計測して得られる加速度値(応答値)に基づいて入力同定を行う。逆行列法による入力同定を行う時は、H1推定章による周波数応答関数(Frequency Response Function, 以下FRF)を用いる。

【0072】
<逆行列法>
伝達関数逆行列法は、複雑なモデル(機構)の場合、同定精度を向上する為に応答点を増やし疑似逆行列を用いた計算を行う必要がある。まず、入力同定を行う前段階として、アクセレランス(Accelerance)を求める必要がある。提案する診断システムは、外部振動(応答)から内部振動(入力)を同定し、その推定された入力値を用いて数学モデルによるパラメータ解析を行う。計測の利便性を考えると、計測点はシリンダーに対して1点が理想である為、外部振動である応答点を基準に各部位の入出力2点間のFRFを推定する必要がある。また、加振点はF1~F5の5点とした場合の複数個の入力信号と出力信号の組合せによってFRFを推定した。以下に、FRF推定の導出及び入力同定の導出について述べる。

【0073】
クランク—ピストン機構の2点間における入出力の周波数領域における関係は、FRF行列を[Hn、n]、入力FRF行列を[Xn、m]、出力FRF行列を[Yn、m]とすると以下のように表わされる。
【数29】
JP2015079975A1_000031t.gif

【0074】
ここで、一般化逆行列を用いて、[H]を導出すると以下のように表わされる。
【数30】
JP2015079975A1_000032t.gif

【0075】
また、入力同定を行う場合、導出した伝達関数Hn、n、運転時の内部振動を入力信号Xn、m、外部振動を出力信号Yn、mとの間には以下の関係が成り立つ。この入力同定によって内部振動を推定することができる。
【数31】
JP2015079975A1_000033t.gif

【0076】
<小型実験機を用いたFRFの推定>
小型実験装置を用いてFRFの推定を行う。外部振動の計測点を基準として、構築した数学モデルに対応する部品毎に外部(ケーシング)と内部(部品毎)の入出力2点間とし、加振点については、クランク垂直方向(F1)、クランク軸方向(F2)、ピストンロッド垂直方向(F3)、ピストンロッド水平方向(F4)、ピストン軸方向(F5)のF1~F5の5点とした場合のFRFを推定する。
上記F1~F5の5点の加振点を、図1に示してある。
以下に、上記の条件によるFRF行列[H]の導出過程を示す。なお、ここでは、ピストンロッド(内部入力)-ケーシング(外部出力)に加速度センサーを設置した条件での結果を示す。

【0077】
ケーシングを出力信号Zk(1)、ピストンロッドを入力信号Zk(2)として、加振点F1~F5を式(7.1)に代入すると、以下のように表わされる。k = x,y,z(加速度センサー方向)
【数32】
JP2015079975A1_000034t.gif

【0078】
式(7.4)を式(7.2)のように一般化逆行列を行うと以下のように表わされる。
【数33】
JP2015079975A1_000035t.gif

【0079】
[Y]([X]T)は、以下となり、
【数34】
JP2015079975A1_000036t.gif

【0080】
[X]([X]T)-1は、以下となるので、
【数35】
JP2015079975A1_000037t.gif

【0081】
上記より、
【数36】
JP2015079975A1_000038t.gif

【0082】
本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱することなく、次のような変形した態様での実施が可能である。
(1) 振動センサ32を、クランクケース5の下部以外の、例えばディスタンスピース6またはシリンダ7等のケーシング8の一部だけでなく、クランクシャフト9、コネクティングロッド11、ピストンロッド17等の構成部材自体に取付ける。
(2) 図3におけるクロスヘッド14およびピストンロッド17を省略し、コネクティングロッド11を直接ピストン24に接続した等価モデルを作成する。
このような等価モデルは、例えば自動車のエンジン等の状態監視に使用することができる。
(3) ケーシングまたは監視対象部から得られる信号を、振動波形だけでなく、超音波、音響、歪み、等を示す各種の電気信号とする。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、往復移動式圧縮機等の往復運動装置の状態監視システムだけでなく、ケーシングを備えるその他のあらゆる運動装置の状態監視システムに適用することができるとともに、ケーシングを備えない運動装置の状態監視システムにも適用することができる。
例えば、自動車のエンジン等のように、大量生産するものであって、品質がほぼ一定しているものに関しては、1個の製品に関する等価モデルを、他の製品に関してもそのまま、または個体差に基づく若干の修整を加えた上で使用することができる。
また、システムを使用開始から設置して、データを連続的に取得することによって、ある期間までの、または期間を限定したデータを基準データ(初期値)として記憶させることにより、異常検出が可能となる。すなわち、基準データとの比較により、監視対象部のどこに異常があるかを検出することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 運動装置
2 クランク部
3 中間接続部
4 ピストン-シリンダ部
5 クランクケース
6 ディスタンスピース
7 シリンダ
8 ケーシング
9 クランクシャフト
9aクランクピン
10 クランクピンメタル
11 コネクティングロッド
12 クロスヘッドピン
13 クロスヘッドピンメタル
14 クロスヘッド
15 ボルト
16 クロスヘッドシュー
17 ピストンロッド
18 オイルワイパーリング
19 中間グランドパッキン
19a押えねじ
20 グランドパッキン
21 冷却材通路
22 ピストンリング
23 ライダーリング
24 ピストン
25 シリンダライナ
26 ガス入口
27 吸込弁
28 吐出弁
29 ガス出口
30 吸込弁開放式アンローダ
31 状態監視システム
32 振動センサ
33 出力用インターフェース
34 振動測定ユニット
35 ケーシング振動測定部
36 ケーブル
37 入力用インターフェース
38 パソコン
39 シミュレータ
40 パラメータ記憶部
41 パラメータ同定部
42 パラメータ変化検証部
43 パラメータ変化傾向判定部
44 異常判定部
45 故障データメモリ
46 警報装置
47 周波数解析部
48 周波数特性変化検証部
49 固有値解析部
50 固有値変化検証部
51 結果記憶部
52 変化傾向判定部
D ダッシュポット(粘弾性部材)
S 弾性ばね(粘弾性部材)
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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