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明細書 :葉酸リセプターα及びβを認識する抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年1月19日(2017.1.19)
発明の名称または考案の名称 葉酸リセプターα及びβを認識する抗体
国際特許分類 C07K  16/28        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
C07K  16/46        (2006.01)
C12N  15/02        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  51/00        (2006.01)
A61K  49/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
FI C07K 16/28 ZNA
C07K 16/18
C07K 16/46
C12N 15/00 C
A61K 39/395 L
A61K 39/395 T
A61K 37/02
A61P 35/00
A61K 49/02 A
A61K 49/00 A
A61P 43/00 105
C12P 21/08
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 46
出願番号 特願2014-554580 (P2014-554580)
国際出願番号 PCT/JP2013/085026
国際公開番号 WO2014/104270
国際出願日 平成25年12月19日(2013.12.19)
国際公開日 平成26年7月3日(2014.7.3)
優先権出願番号 2012281525
優先日 平成24年12月25日(2012.12.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】松山 隆美
【氏名】永井 拓
【氏名】蓮井 和久
【氏名】高尾 尊身
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100169579、【弁理士】、【氏名又は名称】村林 望
審査請求
テーマコード 4B024
4B064
4C084
4C085
4H045
Fターム 4B024AA01
4B024AA11
4B024BA41
4B024BA61
4B024CA01
4B024CA09
4B024CA11
4B024CA20
4B024DA02
4B024DA06
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4B024GA11
4B024HA01
4B024HA09
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4B064AG26
4B064AG27
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4B064CA10
4B064CA19
4B064CA20
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4C084AA02
4C084DA33
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4C084ZB26
4C084ZC41
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA26
4C085AA27
4C085BB01
4C085CC22
4C085CC23
4C085CC24
4C085EE01
4C085GG01
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4C085HH11
4C085HH13
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4C085KA36
4C085KB82
4C085KB99
4C085LL18
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
要約 本発明は、葉酸リセプターα及び葉酸リセプターβに免疫学的に特異的に結合する抗体を提供することを目的とし、具体的には、重鎖可変領域(VH)のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号2、配列番号4及び配列番号6のアミノ酸配列であり、並びに軽鎖可変領域(VL)のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号10、配列番号12及び配列番号14のアミノ酸配列である抗体又はそのフラグメントに関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
葉酸リセプターα及び葉酸リセプターβに免疫学的に特異的に結合する抗体。
【請求項2】
抗体がモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、多重特異性抗体及びそれらのフラグメントから成る群より選択される、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
ヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項1又は2記載の抗体。
【請求項4】
重鎖可変領域(VH)のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号2、配列番号4及び配列番号6のアミノ酸配列であり、並びに軽鎖可変領域(VL)のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号10、配列番号12及び配列番号14のアミノ酸配列である抗体又はそのフラグメントである、請求項1~3のいずれか1項記載の抗体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載の抗体を含むか、あるいは該抗体に薬剤を結合してなる抗癌性分子標的薬。
【請求項6】
薬剤が、トキシン、細胞障害剤、酵素、サイトカイン及び化学療法薬から成る群より選択される、請求項5記載の抗癌性分子標的薬。
【請求項7】
トキシンが細菌由来トキシンである、請求項6記載の抗癌性分子標的薬。
【請求項8】
細菌由来トキシンが、シュードモナス毒素、ジフテリア毒素又はブドウ球菌毒素である、請求項7記載の抗癌性分子標的薬。
【請求項9】
抗癌性分子標的薬がイムノトキシンである、請求項5~8のいずれか1項記載の抗癌性分子標的薬。
【請求項10】
細胞障害剤が、抗腫瘍剤、腫瘍増殖抑制剤、腫瘍細胞アポトーシス誘導剤及び放射性核種から成る群より選択される、請求項6記載の抗癌性分子標的薬。
【請求項11】
請求項5~10のいずれか1項記載の抗癌性分子標的薬と薬学的に許容可能な担体とを含む癌治療用医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか1項記載の抗体に標識を結合してなる癌診断薬。
【請求項13】
標識が発蛍光団、色素又は放射性同位元素である、請求項12記載の癌診断薬。
【請求項14】
請求項1~4のいずれか1項記載の抗体又は請求項12若しくは13記載の癌診断薬を含む癌診断キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、葉酸リセプターα及びβを認識する抗体、及び当該抗体を含有する癌診断薬及び癌治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
葉酸リセプター(FR)は酸化型葉酸のリセプターであり、ヒト細胞ではFRα、FRβ及びFRγのアイソフォームが存在することが知られている(非特許文献1)。
FRαは、上皮細胞表面に発現し、種々の癌細胞で発現が増加する。最近では、卵巣癌患者において抗FRα抗体を用いたフェーズII臨床試験が米国で行われ、その効果が確かめられた(非特許文献2)。また、特許文献1は、抗FRα抗体を含む卵巣癌治療組成物を開示する。
一方、FRβの発現は健常者組織では少なく、関節リウマチ滑膜、変形性関節症滑膜、肺線維症の肺組織等の炎症組織の活性化マクロファージ表面に発現がみられる(非特許文献3~5)。さらに、本願発明者等は、抗ヒトFRβ抗体を作製し、種々の癌組織に存在する癌関連マクロファージの多くがFRβ発現マクロファージであること、及び膵臓癌においてFRβ発現マクロファージ数が増加した癌は生命予後が悪いことを示した(非特許文献6)。また、本願発明者等は、悪性グリオーマ移植モデルにおいて、抗FRβ抗体イムノトキシンを用いてFRβマクロファージを除去することにより、悪性グリオーマの増殖が抑制されることを示した(非特許文献7)。さらに、特許文献2~4は、FR-βに対する抗体及び該抗体とトキシンとを結合したFR-β抗体イムノトキシン、並びにこれら抗体及びイムノトキシンを含有する治療剤を開示する。
以上のように、これまで抗FRα抗体又は抗FRβ抗体イムノトキシン等の抗FRβ抗体結合物の単独使用による癌増殖抑制作用が知られている。しかしながら、抗FRα抗体又はその結合物と抗FRβ抗体又はその結合物とを用いた併用療法による癌増殖抑制効果は報告されていない。また、FRαとFRβとは、アミノ酸レベルで約70%の相同性を有するが、これまでにFRαとFRβの双方を認識する抗体は報告されていない。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特許第4805848号公報
【特許文献2】特許第4943144号公報
【特許文献3】特開2010-77026号公報
【特許文献4】国際公開第2012/128377号
【0004】

【非特許文献1】Elnakat H.,Ratnam M.,Distribution,functionality and gene regulation of folate receptor isoforms: implications in targeted therapy.Adv Drug Deliv Rev.,2004 Apr 29;56(8):1067-84
【非特許文献2】Jelovac D.,Armstrong DK.,Role of farletuzumab in epithelial ovarian carcinoma.Curr Pharm Des.,2012;18(25):3812-5
【非特許文献3】Nakashima-Matsushita N.,Homma T.,Yu S.,Matsuda T.,Sunahara N.,Nakamura T.,Tsukano M.,Ratnam M.,Matsuyama T.,Selective expression of folate receptor beta and its possible role in methotrexate transport in synovial macrophages from patients with rheumatoid arthritis.Arthritis Rheum.,1999 Aug;42(8):1609-16
【非特許文献4】Nagai T.,Tanaka M.,Hasui K.,Shirahama H.,Kitajima S.,Yonezawa S.,Xu B.,Matsuyama T.,Effect of an immunotoxin to folate receptor beta on bleomycin-induced experimental pulmonary fibrosis.Clin Exp Immunol.,2010 Aug;161(2):348-56
【非特許文献5】Tsuneyoshi Y.,Tanaka M.,Nagai T.,Sunahara N.,Matsuda T.,Sonoda T.,Ijiri K.,Komiya S.,Matsuyama T.,Functional folate receptor beta-expressing macrophages in osteoarthritis synovium and their M1/M2 expression profiles.Scand J Rheumatol.,2012;41(2):132-40
【非特許文献6】Kurahara H.,Takao S.,Kuwahata T.,Nagai T.,Ding Q.,Maeda K.,Shinchi H.,Mataki Y.,Maemura K.,Matsuyama T.,Natsugoe S.,Clinical significance of folate receptor β-expressing tumor-associated macrophages in pancreatic cancer.Ann Surg Oncol.,2012 Jul;19(7):2264-71
【非特許文献7】Nagai T.,Tanaka M.,Tsuneyoshi Y.,Xu B.,Michie SA.,Hasui K.,Hirano H.,Arita K.,Matsuyama T.,Targeting tumor-associated macrophages in an experimental glioma model with a recombinant immunotoxin to folate receptor beta.Cancer Immunol Immunother.,2009 Oct;58(10):1577-86
【発明の概要】
【0005】
上述のように、抗FRα抗体又はその結合物と抗FRβ抗体又はその結合物とを用いた併用療法による癌増殖抑制効果は報告されていない。
従来において、FRαとFRβを介した診断薬又は治療薬として、種々の葉酸結合物が提案されている(Muller C.,Folate based radiopharmaceuticals for imaging and therapy of cancer and inflammation.Curr Pharm Des.,2012;18(8):1058-83;Clifton GT.,Sears AK.,Clive KS.,Holmes JP.,Mittendorf EA.,Ioannides CG.,Ponniah S.,Peoples GE.,Folate receptor α:a storied past and promising future in immunotherapy.Hum Vaccin.,2011 Feb;7(2):183-90;及びLow PS.,Kularatne SA.,Folate-targeted therapeutic and imaging agents for cancer.Curr Opin Chem Biol.,2009 Jun;13(3):256-62)。しかしながら、葉酸は低分子であるため非特異的に吸収されることや健常組織の多くの細胞に発現しているプロトン連結葉酸トランスポーターによっても細胞内に取り込まれるため、これら葉酸結合物の作用はFRα発現細胞やFRβ発現細胞に特異的とはいえない。また、葉酸結合物の細胞内吸収は血中の葉酸濃度により干渉される。
一方、癌細胞を標的とした抗FRα抗体又は癌増殖を促進する癌関連マクロファージに向けられた抗FRβ抗体単独の使用に比べて、FRα及びFRβの双方に特異的な抗FRα/β抗体やその化合物を得ることができれば、当該抗FRα/β抗体やその化合物の使用により癌細胞と癌関連マクロファージを同時に傷害することにより、さらに癌を効果的に治療することができる。また、抗FRα/β抗体やその化合物の使用に比べて、従来の抗FRα抗体と抗FRβ抗体の二者併用療法を行う場合、抗FRα抗体とFRα発現癌細胞の結合と、抗FRβ抗体とFRβ発現マクロファージの結合との間の差異に起因して、両者の適正な使用量の決定が困難であると考えられる。さらに、抗FRα/β抗体は、抗FRα抗体と抗FRβ抗体の併用療法に比べて低用量で良く、経済的にも優位である。
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、癌診断薬及び癌治療薬に使用することができる、FRα及びFRβの双方に特異的に結合する抗体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、FRα及びFRβの双方に特異的に結合する抗体の作製に成功し、当該抗体が種々の癌組織における癌細胞と癌関連マクロファージに反応し、また当該抗体が補体存在下において、又は当該抗体に基づいて作製したイムノトキシンがFRα発現癌細胞及びFRβ発現細胞の双方に対して傷害能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)FRα及びFRβに免疫学的に特異的に結合する抗体。
(2)抗体がモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、多重特異性抗体及びそれらのフラグメントから成る群より選択される、(1)記載の抗体。
(3)ヒト抗体又はヒト化抗体である、(1)又は(2)記載の抗体。
(4)重鎖可変領域(VH)のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号2、配列番号4及び配列番号6のアミノ酸配列であり、並びに軽鎖可変領域(VL)のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列がそれぞれ配列番号10、配列番号12及び配列番号14のアミノ酸配列である抗体又はそのフラグメントである、(1)~(3)のいずれか1記載の抗体。
(5)(1)~(4)のいずれか1記載の抗体を含むか、あるいは該抗体に薬剤を結合してなる抗癌性分子標的薬。
(6)薬剤が、トキシン、細胞障害剤、酵素、サイトカイン及び化学療法薬から成る群より選択される、(5)記載の抗癌性分子標的薬。
(7)トキシンが細菌由来トキシンである、(6)記載の抗癌性分子標的薬。
(8)細菌由来トキシンが、シュードモナス毒素、ジフテリア毒素又はブドウ球菌毒素である、(7)記載の抗癌性分子標的薬。
(9)抗癌性分子標的薬がイムノトキシンである、(5)~(8)のいずれか1記載の抗癌性分子標的薬。
(10)細胞障害剤が、抗腫瘍剤、腫瘍増殖抑制剤、腫瘍細胞アポトーシス誘導剤及び放射性核種から成る群より選択される、(6)記載の抗癌性分子標的薬。
(11)(5)~(10)のいずれか1記載の抗癌性分子標的薬と薬学的に許容可能な担体とを含む癌治療用医薬組成物。
(12)(1)~(4)のいずれか1記載の抗体に標識を結合してなる癌診断薬。
(13)標識が発蛍光団、色素又は放射性同位元素である、(12)記載の癌診断薬。
(14)(1)~(4)のいずれか1記載の抗体又は(12)若しくは(13)記載の癌診断薬を含む癌診断キット。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2012-281525号の明細書及び/又は図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、(A)抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体重鎖領域の塩基配列(配列番号7)及びアミノ酸配列(配列番号8)並びに(B)抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体軽鎖領域の塩基配列(配列番号15)及びアミノ酸配列(配列番号16)を示す図である。
図2は、(A)ヒトFRβ発現細胞及び(B)ヒトFRα発現細胞に対する抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体の反応性を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
図3は、ヒト卵巣癌細胞株に対する抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体の反応性を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
図4は、卵巣癌組織への抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体の反応性を示す免疫染色の結果を示す図である。
図5は、抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体の葉酸リセプター発現細胞に対する補体依存的細胞傷害能を示す図である。
図6は、ヒト卵巣癌細胞株(FRα発現)及びヒトFRβ発現細胞に対する抗ヒトFRα/βイムノトキシンの増殖抑制効果を示すグラフである。
図7は、各固形癌の免疫染色における抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体による染色パターンを示す。
図8は、マクロファージによる葉酸リセプターα発現癌細胞の貪食能を促進する抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体の効果を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
図9は、FRα陽性ヒト癌細胞とFRβ陽性マウス浸潤マクロファージを標的とした抗体製剤による癌の治療に関する実験スケジュールと癌細胞移植後の追跡結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
<定義>
本明細書で使用される「葉酸リセプター(受容体)α」又は「FRα」という用語は、被験者の癌細胞表面に発現される受容体タンパク質を意味する。
本明細書で使用される「葉酸リセプター(受容体)β」又は「FRβ」という用語は、被験者の癌関連マクロファージの細胞表面に発現される受容体タンパク質を意味する。
本明細書で使用される「被験者」という用語には、ヒトを含む霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ等の家畜動物、イヌ、ネコ等のペット動物等の哺乳動物が含まれる。好ましい被験者はヒトである。
本明細書で使用される「FRα及びFRβに免疫学的に特異的に結合する抗体」又は「抗FRα/β抗体」という用語は、抗体がFRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの天然変異体以外のタンパク質と結合しないか、又は、実質的に結合しないことを意味する。
<抗FRα/β抗体>
本発明で使用される「抗FRα/β抗体」は、FRαタンパク質及びFRβタンパク質の双方を認識してこれらタンパク質に結合することができる抗体又はそのフラグメントであり、以下に述べるように、抗体の種類や形態は問わないものとする。これらの抗体は、癌細胞上の細胞表面FRαタンパク質、及び癌増殖を促進する癌関連マクロファージ上の細胞表面FRβタンパク質の双方に特異的に結合することを可能にする。
本発明において、上記抗体は、FRα及びFRβと免疫学的反応により結合するが、FRα及びFRβ又はそれらと90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を持つそれらの変異タンパク質以外のタンパク質とは実質的に結合しない。
本発明に係る抗FRα/β抗体は、いずれの免疫グロブリン(Ig)クラス(IgA、IgG、IgE、IgD、IgM、IgY等)及びサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2等)のものであってもよい。また、免疫グロブリンの軽鎖は、κ鎖又はλ鎖のいずれであってもよい。
具体的には、本発明に係る抗FRα/β抗体は、例えば、上記クラス又はサブクラスの完全構造を有する抗体又はそれらのフラグメント、組換え抗体、単鎖抗体(scFv)、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体、ダイアボディ、トリアボディ、ScDb(single chain diabody)、dsFv-dsFv等)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体等の抗体或いはそれらのフラグメントである。
本発明で使用可能な抗体のフラグメントは、7以上、より好ましくは8~12又はそれ以上の連続アミノ酸を有するFRαタンパク質抗原エピトープ及びFRβタンパク質抗原エピトープと結合可能である。
抗体フラグメントは、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、Fd、Fabc等を含む。このようなフラグメントの作製方法は当技術分野で公知であり、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼによる抗体分子の消化、或いは公知の遺伝子工学的手法により得ることができる。
以下、本発明において使用するための抗体の作製方法について詳述する。
本発明において使用可能な抗体を作製するにあたり、最初に免疫原(抗原)として使用するFRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片を調製する。
ここで、断片は、7~10又はそれ以上(例えば11~25)の連続アミノ酸から成るアミノ酸配列を有するものである。免疫原として使用することができるFRαタンパク質及びFRβタンパク質の由来は、標的とするFRα及びFRβと特異的に結合することができる抗体を誘導できるものであるものであれば特に限定されない。
FRα及びFRβと特異的に結合することができる抗体を誘導するために、FRα(FRβとアミノ酸レベルで約70%の配列同一性を有する)とFRβとのアラインメントをとり、連続する約7~20アミノ酸から成る配列部分で互いに同一性の高い部分配列から成る(ポリ)ペプチドを免疫原として選択することができる。この場合、さらに、FRαタンパク質及びFRβタンパク質の表面構造を、例えばKyte-Doolittleの親水性-疎水性予測やChou-Fasmanのアミノ酸配列からの二次構造予測(Biochemistry 1974,13:222-244)を利用して予測し、これらタンパク質の表面に露出する上記(ポリ)ペプチド配列を免疫原として選択することが好ましい。
本発明に係る抗体を作製するためのFRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片に関するヒトを含む哺乳動物FRαタンパク質及びFRβタンパク質のアミノ酸又は塩基配列情報は、例えばGenBank(NCBI、米国)、EMBL(EBI、欧州)等から入手可能である。GenBankに登録されたヒトFRαのアミノ酸配列及び塩基配列のアクセッション番号としては、例えばNM_016725(transcript variant 1)、NM_00802(transcript variant 2)、NM_016729(transcript variant 4)等が挙げられる。一方、GenBankに登録されたヒトFRβのアミノ酸配列及び塩基配列のアクセッション番号は、幾つかの公知のバリアント(variant)から成り、例えばNM_000803(transcript variant 1)、NM_001113534(transcript variant 2)、NM_001113535(transcript variant 3)等である。FRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片は、上記の配列情報に基づいて公知のペプチド合成技術や遺伝子組換え技術を利用して製造することができる。
同種又は異種動物におけるFRα及びFRβの変異体又はオーソログの検索は、例えばカーリン(Karlin)及びアルトシュル(Altschul)(1993)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877)に記載されたアルゴリズムや、その改良法であるカーリン及びアルトシュル(1990)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264)のアルゴリズムを用いて行うことができる。この種のアルゴリズムは、アルトシュルら(1990)J.Mol.Biol.215:403のNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれている。また、ギャップが導入されたアライメントを得るためには、アルトシュルら(1997)Nucleic Acids Res.25:3389に記載されたGapped BLASTを用いることができる。
ペプチド合成技術には、液相法と固相法が含まれる。これらの方法は、固相を使用するか否かの違いだけであるが、固相法の方が生成物の回収が容易であるという利点を有する。そのため、固相法を有利に使用できる。いずれの方法でも、タンパク質を構成する約5~10個の(保護)アミノ酸から成る多数のペプチドを合成し、それらを段階的に伸長してポリペプチドを合成し、最後に保護基を除去して目的のタンパク質を生成し、精製することを含む。ペプチド合成法は、例えば日本生化学編、生化学実験講座1巻、タンパク質の化学IV-化学修飾とペプチド合成-東京化学同人に記載されている。
遺伝子組換え技術による方法は、例えば、FRαタンパク質又はFRβタンパク質をコードするDNAを適当なベクターに連結し、該ベクターを適当な宿主細胞に導入し形質転換し、適当な培地で宿主細胞を培養し、FRαタンパク質又はFRβタンパク質を生産することができる。この手法は当業者に周知であり、使用するベクター、宿主細胞、形質転換法、培養法、タンパク質の精製法等の技術は、例えば、Sambrookら,Molecular Cloning A Laboratory Manual,2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1998)等に詳しく記載されている。
抗体産生細胞には、例えばSpodoptera frugiperda細胞等の昆虫細胞、例えばSaccharomyces cerevisiae及びSchizosaccharomyces pombe等の酵母細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)由来細胞、胎仔ハムスター腎細胞、ヒト胎児腎臓株293、正常イヌ腎臓細胞株、正常ネコ腎臓細胞株、サル腎細胞、アフリカミドリザル腎細胞、COS細胞、非腫瘍化マウス筋芽細胞G8細胞、線維芽細胞株、骨髄腫細胞株、マウスNIH/3T3細胞、LMTK細胞、マウスsertoli細胞、ヒト子宮頸癌細胞、バッファローラット肝細胞、ヒト肺細胞、ヒト肝細胞、マウス乳癌細胞、TRI細胞、MRC5細胞、及びFS4細胞等の哺乳類細胞が包含される。
上記のようにして製造したFRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片を免疫原として非ヒト動物を免疫し、以下に記載する方法によって本発明に係る抗体を製造することができる。また、FRαタンパク質及びFRβタンパク質のうちの一方のタンパク質又はその断片を免疫原として調製し、得られた抗体について、免疫原が由来するタンパク質に加えて他方のタンパク質への結合性を調べ、FRαタンパク質及びFRβタンパク質の双方に結合する抗体を本発明に係る抗FRα/β抗体とすることもできる。或いは、該抗体をコードする重鎖及び軽鎖の可変領域をコードするDNAを、免疫した非ヒト動物の脾臓細胞、リンパ系細胞等のmRNAから作製し、このDNAを使用してキメラ抗体等の種々の形態の合成抗体をコードするDNAを合成することができる。
本発明で使用しうる抗体類には、非限定的に、例えばポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体(例えば、キメラ抗体、単鎖抗体、多重特異性抗体、ヒト化抗体等)、ヒト抗体等が含まれる。
ポリクローナル抗体は、上記のようにして作製した免疫原を、哺乳動物(例えばウサギ、ラット、マウス等)に免疫して、抗血清を得ることによって製造することができる。具体的には、上記免疫原を、必要に応じて免疫原性を高めるためのアジュバントと共に、哺乳動物に静脈内、皮下又は腹腔内投与する。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム等のアルミニウム塩(Alum)、ムラミルペプチド(細菌細胞壁関連ペプチドの一種)等を使用することができる。その後、数日から数週間の間隔で、1~7回の免疫を行い、最後の免疫日から1~7日後に、ELISA等の酵素免疫測定法等によって抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血して抗血清を得ることができる。このようにして取得した抗血清は、そのまま使用してもよいし、或いは、FRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片ペプチドを固定化した親和性カラム(例えばアガロースゲルカラム使用)に抗血清をアプライし、カラムに結合する抗体を回収することを含む精製処理を行った後に使用してもよい。
モノクローナル抗体は、以下のようにして作製することができる。すなわち、上記のようにして免疫感作した非ヒト哺乳動物から得た抗体産生細胞(例えば脾臓細胞、リンパ系細胞等)と不死化ミエローマ細胞(「骨髄腫細胞」ともいう)から融合法によってハイブリドーマを調製し、ハイブリドーマをクローン化し、免疫に用いたFRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片ペプチド抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンをヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培地(「HAT培地」)を用いて選択することによって製造することができる。ハイブリドーマの製造方法は、例えばKohler及びMilsteinら(Nature(1975)256:495-96)の方法に準じて行うことができる。非ヒト哺乳動物の例は、マウス、ラット等のげっ歯類である。また、ミエローマ細胞としては、免疫感作した動物と同じ動物由来の細胞が好ましく使用され、例えばマウスミエローマ細胞、ラットミエローマ細胞等が挙げられる。特に、マウスミエローマ細胞株には、例えばP3-NS1/1-Ag4-1株、P3-x63-Ag8.653株、Sp2/0-Ag14株等が含まれる。抗体産生細胞とミエローマ細胞の融合は、平均分子量約1,500のポリエチレングリコール(PEG)を使用するか、或いは電気的融合法を用いて行うことができる。
キメラ抗体、組換え抗体、単鎖抗体、ヒト化抗体等は、FRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片ペプチドで免疫感作した非ヒト動物の脾臓細胞とミエローマ細胞から作製された特定のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ由来の該抗体をコードするDNAから製造することができる。
具体的には、上記ハイブリドーマ細胞から全RNAを抽出し、オリゴdTカラムと親和的に結合するmRNAを全RNAから回収し、cDNAを合成し、特定のモノクローナル抗体をコードするDNAをクローニングするか、或いは、公知のイムノグロブリン遺伝子配列に基づいてPCR法で増幅的に、抗体をコードするDNAを合成し、該DNA配列を決定する。ヒト、マウス等の動物の抗体の重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)における、可変領域並びに相補性決定領域(CDRs)及びフレームワーク領域(FRs)の配列及び位置を、例えばKabatのEUナンバリングインデックス(Kabat EA et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.Vol.1,Bethesda(MD):NIH,1991)に従って決定することができる。
遺伝子組換え技術を用いて組換え抗体の作製法をさらに具体的に説明する。
作製したハイブリドーマからモノクローナル抗体をコードする遺伝子をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞といった宿主に導入して、宿主において組換え抗体を生産させることができる(P.J.Delves.,ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES.,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean.,Monoclonal Antibodies.,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS,J.W.Goding.,Monoclonal Antibodies:principles and practice.,1993 ACADEMICPRESS)。或いは、トランスジェニック動物作製技術を用いて目的抗体の遺伝子座が内在性遺伝子座の領域に置換的に組み込まれたトランスジェニックなマウス、ウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタを作製し、FRαタンパク質及びFRβタンパク質又はそれらの断片ペプチドを抗原として免疫した後、そのトランスジェニック動物の血液や乳汁等からその抗体遺伝子に由来する抗体を取得することも可能である。また、上記トランスジェニック動物のなかには、内因性抗体遺伝子を欠失し、且つヒト抗体遺伝子を保有するマウスやウシ等のヒト抗体産生動物も知られているので、このような動物を利用する場合には、ヒトFRα及びFRβに結合する完全ヒト抗体を得ることができる(例えばWO96/34096、WO96/33735、WO98/24893等)。さらにまた、該動物の抗体産生細胞(例えばB細胞)とミエローマ細胞から作製したハイブリドーマをin vitroで培養する場合には、上記のような手法で、モノクローナル抗体を産生することもできる。
作製されたモノクローナル抗体は、当技術分野において公知の方法、例えばプロテインAあるいはプロテインGカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより精製することができる。
キメラ抗体は、H鎖及びL鎖における可変領域と定常領域がそれぞれ異なる動物由来のものである抗体を指す。例えば、H鎖及びL鎖における可変領域がマウス又はラット抗体由来である一方、定常領域がヒト抗体由来であるような抗体がキメラ抗体であり、この抗体をコードするDNAは、マウス又はラット抗体をコードするDNA配列中の定常領域をコードするDNA配列を、ヒト定常領域をコードするDNA配列で置換した塩基配列を有する。キメラ抗体は、例えばMorrison et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.,81:6851-6855;Neuberger et al.,1984,Nature,312:604-608;Takeda et al.,1985,Nature,314:452-454に記載される技術を用いて製造することができる。
ヒト化抗体は、H鎖及びL鎖における、CDR領域が非ヒト動物由来のものである一方、定常領域及びフレームワーク領域がヒト由来のものである抗体を指す。例えば、H鎖及びL鎖におけるCDR領域(CDR1、CDR2及びCDR3)がマウス又はラット抗体由来である一方、定常(C)領域及びフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)がヒト抗体由来であるような抗体がヒト化抗体であり、この抗体をコードするDNAは、マウス又はラット抗体をコードするDNA配列中の定常領域及びフレームワーク領域をコードするDNA配列を、ヒト定常領域及びフレームワーク領域をコードするDNA配列で置換した塩基配列を有する。ヒト化抗体を作製するための手法は、所謂、CDR移植法と呼ばれるものであり、本発明で使用される抗体のうち特にヒトに投与可能な抗体は、CDR移植法で作製されうるし(Jones et al.,Nature,321:522-525,1986;Reichmann et al.,Nature,332:323-329,1988;Presta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593-596,1992;Verhoeyen et al.,Science,239:1534-1536,1988)、或いは、後述するように、ヒト抗体産生非ヒト動物(例えばマウス)の使用(上記)やファージディスプレイ法等を利用して完全ヒト抗体を作製することができる。
ファージディスプレイ法は、繊維状ファージM13、T7ファージ等のファージを利用して、ファージコートタンパク質と外来ポリペプチド(例えば、組換え抗FRα/β抗体)を融合した形で発現させることでファージ表面に提示させる方法である(C.Barbas et al.,Phage Display:Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001等)。ファージコートタンパク質としては、M13ファージではg3pやg8pを外来ポリペプチドの提示のために利用しうるし、また、T7ファージではg10pを利用しうる。組換え抗FRα/β抗体として、H鎖可変領域(VH)とL鎖可変領域(VL)とをリンカー(例えば(GGGGS))で結合した単鎖抗体(scFv)、多重特異性抗体(2以上の異なるVHと2以上の異なるVLとの組み合わせを含む抗体)等の合成抗体、(ヒト)抗体の(組換え)H鎖(VHとCH)、L鎖(VLとCL)又はそれらの組み合わせ等が含まれる。
上記の方法で製造可能な本発明で使用されうる抗体の具体例として、以下のものが挙げられるが、それらに限定されない。また、以下の抗体類に加えて、該抗体類の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のそれぞれの相補性決定領域を含む、キメラ抗体、単鎖抗体、多重特異性抗体等の組換え抗体も本発明に係る組成物、キット、診断剤に有効成分として含めることができる。
図1に示す、下記の実施例における抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体(クローン名:No.5)由来の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号8、対応する塩基配列:配列番号7)、並びに軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号16、対応する塩基配列:配列番号15)を含む抗体又はそのフラグメント。
抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体(クローン名:No.5)由来の重鎖可変領域(VH)のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号2、配列番号4、配列番号6)、並びに軽鎖可変領域(VL)のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号10、配列番号12、配列番号14)を含む抗体又はそのフラグメント。
上記抗体は、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域、或いはフレームワーク領域又は定常領域に、1~3個、好ましくは1又は2個のアミノ酸残基の置換、欠失又は付加(若しくは挿入)の変異を含むことができる。そのような具体例は、以下の通りである。
抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体(クローン名:No.5)由来の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列(配列番号8、対応する塩基配列:配列番号7)において44番目のアミノ酸グリシンをシステインに変異させたアミノ酸配列(配列番号18、その対応する塩基配列:配列番号17)、並びに軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列(配列番号16、対応する塩基配列:配列番号15)において100番目のアミノ酸グリシンをシステインに変異させたアミノ酸配列(配列番号20、その対応する塩基配列:配列番号19)を含む抗体又はそのフラグメント。
ヒト化抗体は、例えば上記抗体のH鎖及びL鎖の各CDR1~CDR3、並びに、ヒト由来のH鎖及びL鎖の各フレームワーク及び定常領域の配列を含む。該フレームワーク領域及び定常領域のそれぞれのアミノ酸配列は、FRαタンパク質及びFRβタンパク質との結合特異性を変更することなく、1~3個、好ましくは1又は2個のアミノ酸残基の置換、欠失又は付加(若しくは挿入)の変異を含むことができる。具体的なヒト化抗体の例を以下に記載する。
重鎖可変領域(VH)のCDRH1、CDRH2及びCDRH3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号2、配列番号4、配列番号6)、並びに軽鎖可変領域(VL)のCDRL1、CDRL2及びCDRL3のアミノ酸配列(それぞれ配列番号10、配列番号12、配列番号14)を含むヒト化抗体又はそのフラグメント。
後述の実施例に記載されるように、上記の抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体(クローン名:No.5)にCys置換変異を導入して変異型VH及び変異型VLを作製し、変異型VHにトキシンポリペプチド(例えば緑膿菌由来外毒素(Pseudomonas Exotoxin(PE))を融合させてイムノトキシンVHを作製し、さらに変異型VLを結合して、イムノトキシンを作製することができる。
本発明に係る抗体類は、FRαタンパク質及びFRβタンパク質と免疫学的に特異的に結合するものであり、解離定数(K)が、例えば1×10-7M以下、1×10-8M以下、1×10-9M以下、1×10-10M以下、1×10-11M以下、1×10-12M以下、1×10-13M以下、1×10-14M以下、又は1×10-15M以下である。
<抗癌性分子標的薬>
本発明では、上記の抗体類に薬剤を結合してなる抗癌性分子標的薬が、癌治療薬として、又は癌治療薬の有効成分として、或いは癌治療薬の製造のために使用される。
あるいは、上記の抗体類が補体存在下においてFRα発現癌細胞及びFRβ発現細胞の双方に対して傷害能(補体依存的細胞傷害能)を有し、あるいはマクロファージによるFRα発現癌細胞の貪食能(抗体依存性細胞貪食作用ADCP(antibody-dependent cell mediated phagocytosis))を促進することから、上記の抗体類を含むか又はそれから成る抗癌性分子標的薬を、癌治療薬として、又は癌治療薬の有効成分として、或いは癌治療薬の製造のために使用できる。
FRαは、様々な癌(例えば卵巣癌、乳癌、悪性中皮腫、肺癌、大腸癌、悪性黒色腫、グリオブラストーマ、腎臓癌、膵臓癌等)の癌細胞上で発現され、且つFRβは、当該癌増殖を促進する癌関連マクロファージ上で発現される(非特許文献6及び7;Davidson B.,The diagnostic and molecular characteristics of malignant mesothelioma and ovarian/peritoneal serous carcinoma.Cytopathology.,2011 Feb;22(1):5-21.doi:10.1111/j.1365-2303;Parker N.,Turk MJ.,Westrick E.,Lewis JD.,Low PS.,Leamon CP.,Folate receptor expression in carcinomas and normal tissues determined by a quantitative radioligand binding assay.Anal Biochem.,2005 Mar 15;338(2):284-93;Sanchez-del-Campo L.,Montenegro MF.,Cabezas-Herrera J.,Rodriguez-Lopez JN.,The critical role of alpha-folate receptor in the resistance of melanoma to methotrexate.Pigment Cell MelanomaRes.,2009 Oct;22(5):588-600;Puig-Kroger A.,Sierra-Filardi E.,Dominguez-Soto A.,Samaniego R.,Corcuera MT.,Gomez-Aguado F.,Ratnam M.,Sanchez-Mateos P.,Corbi AL.,Folate receptor beta is expressed by tumor-associated macrophages and constitutes a marker for M2anti-inflammatory/regulatory macrophages.Cancer Res.2009 Dec15;69(24):9395-403)。また、癌関連マクロファージとしては、例えば浸潤先進部の膵臓癌細胞周囲に存在するFRβ発現マクロファージが挙げられる(特許文献4)。
従って、抗FRα/β抗体に薬剤を結合してなる抗癌性分子標的薬によれば、抗FRα/β抗体がFRα発現癌細胞及びFRβ発現癌関連マクロファージに結合し、抗癌性分子標的薬中の薬剤が、FRα発現癌細胞の増殖を抑制すると共に、FRβ発現癌関連マクロファージの増殖を抑制することで、癌を治療することができる。あるいは、抗FRα/β抗体を含むか又はそれから成る抗癌性分子標的薬によれば、FRα発現癌細胞及びFRβ発現癌関連マクロファージに結合し、補体依存的細胞傷害によりFRα発現癌細胞の増殖を抑制すると共に、FRβ発現癌関連マクロファージの増殖を抑制することで、癌を治療することができる。
抗癌性分子標的薬による治療対象の癌としては、癌細胞がFRαを発現し、癌関連マクロファージがFRβを発現する癌であれば、特に限定されるものではないが、例えば卵巣癌、乳癌、悪性中皮腫、肺癌、大腸癌、悪性黒色腫、グリオブラストーマ、腎臓癌、膵臓癌、口腔癌(口腔類表皮癌等)等が挙げられる。
抗FRα/β抗体に結合させる薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えばトキシン、細胞障害剤、酵素、サイトカイン及び化学療法薬等が挙げられる。
トキシン(「毒素」とも称する)には、非限定的に細菌由来毒素、植物由来毒素等の毒素を含み、また内毒素、外毒素等の毒素を含み、例えばジフテリア毒素、シュードモナス毒素、緑膿菌外毒素(Pseudomonas aeruginosa exotoxin)リシンA鎖(ricin A chain)又は脱糖鎖リシンA鎖(deglycosylated ricin A chain)、緑膿菌外毒素PE38、リボゾーム不活性化タンパク質(ribosome inactivating protein)、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファサルシン(alpha-sarcin)、ゲロニン(gelonin)、アスペルギリン(aspergillin)、リストリクトシン(restrictocin)、リボヌクレアーゼ(ribonuclease)、エポドフィロトキシン(epidophyllotoxin)、ジフテリアトキシン(diphtheria toxin)、ジフテリアA鎖、ブドウ球菌毒素(例えばブドウ球菌エンテロトキシン)等の細菌由来の毒素が含まれる。
腫瘍細胞に対する細胞障害剤には、抗腫瘍剤、腫瘍増殖抑制剤、細胞周期停止誘導剤、DNA合成阻害剤、転写阻害剤、翻訳・タンパク質合成阻害剤、細胞分裂阻害剤、ミクロチューブル阻害剤、各種シグナル伝達阻害剤、ミクロRNA、SiRNA、腫瘍細胞アポトーシス誘導剤、放射性核種等が含まれる。
細胞障害剤には、非限定的に、例えばヤマゴボウ抗ウイルス性タンパク質、アブリン、リシン及びそのA鎖、アルトレタミン、アクチノマイシンD、プリカマイシン、プロマイシン、グラミシジンD、ドキソルビシン、コルヒチン、サイトカラシンB、シクロホスファミド、エメチン、マイタンシン、アムサクリン、シスプラチン、エトポシド、エトポシドオルトキノン、テニポシド、ダウノルビシン、ゲムシタビン、ドキソルビシン、ミトキサントラオン(mitoxantraone)、ビサントレン、ブレオマイシン、メトトレキセート、ビンデシン、ビノレルビン、ポドフィロトキシン、アドリアマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、BCNU、タキソール、タルセバ、アバスチン、マイトマイシン、修飾シュードモナスエンテロトキシンA、カリチェアミシン、5-フルオロウラシル、シクロホスファミド等が含まれる。
放射性核種には、非限定的に、例えば鉛-212、ビスマス-212、アスタチン-211、ヨウ素-131、スカンジウム-47、レニウム-186、レニウム-188、サマリウム-153、イットリウム-90、ヨウ素-123、ヨウ素-125、ヨウ素-131、臭素-77、インジウム-111、リン-32、及びホウ素-10又はアクチニド等の核分裂性核種を含む放射性同位元素である。ラベル化は、例えばタンパク質のシステイン残基、リジン残基等のアミノ酸残基を介して行うことができる。ラベル化の手法については、例えばMonoclonal Antibodies in Immunoscintigraphy(Chatal,CRC Press 1989)に記載されている。
酵素としては、例えばRNA分解酵素、カスパーゼ等が挙げられる。
サイトカインとしては、例えばIL-2、TNF-α等が挙げられる。
化学療法薬としては、例えばマイタンシノイド、アウリスタチン、ペメトレゼート等が挙げられる。
本発明に係る抗癌性分子標的薬が上記抗体とトキシンから成る(すなわち、イムノトキシン)であるとき、これらの成分は融合タンパク質の形態をとることができる。この場合、トキシンは、抗体タンパク質の、例えば、可変領域のフレームワーク領域又はC末端領域、あるいは、定常領域のCH3領域又はC末端領域に、必要に応じてリンカー(例えばペプチド)を介して、結合することができる。一方、本発明に係る抗癌性分子標的薬が上記抗体とトキシン又は細胞障害剤から成るとき、これらの成分は、結合のための官能基を介して共有結合又は非共有結合によって結合することができる。例えば、抗体分子中の反応性基、例えばアミノ基、カルボキシル基、水酸基、メルカプト基等の官能基を利用し、反応性基を有するトキシン又は細胞障害剤と反応させることによって分子標的薬を製造しうる。例えばN-スクシンイミジルエステル基、N-スルホスクシンイミジルエステル基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、ジスルフィド基等が含まれる。結合には、二官能性カップリング剤、活性エステル、アルデヒド類、ビスアジド、イソシアネート等のカップリング剤を利用しうる。
さらに、他の薬剤についても、抗体に対するトキシン又は細胞障害剤の結合方法に準じて、抗体に結合させ、本発明に係る抗癌性分子標的薬を作製することができる。
<医薬組成物>
本発明はまた、上記の抗癌性分子標的薬を、薬学的に許容可能な担体と共に含む、癌治療用医薬組成物を提供する。
本発明に係る抗癌性分子標的薬は、癌細胞及び癌関連マクロファージの増殖を抑制するのみならず、転移(特にリンパ節転移又は血行性転移)を抑制することが可能である。これらの転移を抑制することで、他の臓器への腫瘍転移を抑制することができる。
本発明に係る抗癌性分子標的薬は、例えば浸潤性膵臓癌の浸潤先進部に存在するFRβ発現マクロファージ(特許文献4)及び当該膵臓癌細胞と特異的に結合するため、膵臓癌を選択的に攻撃し、正常細胞に及ぼす影響を最小に抑えることができる。
薬学的に許容される担体(又は賦形剤)は、液体及び固体のいずれをも含み、経口製剤又は非経口製剤の種類に応じて適宜選択可能であり、例えば滅菌水、PBS等の緩衝液、生理食塩水、リンゲル液、エタノール、グリセロール、植物油、ゼラチン、スクロース、ラクトース、アミロール、デンプン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース等を含む。このような担体の他に、上記医薬組成物にはさらに、必要に応じて、滑沢剤、保存料、安定剤、湿潤剤、乳化剤、崩壊剤、可溶化剤、等張化剤、結合剤、緩衝剤、着色剤等の助剤を混合することができる。
本発明に係る医薬組成物は、経口投与、静脈内投与、動脈内投与、粘膜投与、筋肉内投与、皮下投与、頬投与、腹腔内投与、関節内投与、滑膜内投与、胸骨内投与、鼻腔内投与、ボーラス注射、連続注入、患部への直接投与等の投与経路で投与しうる。
該医薬組成物は、上記投与経路に応じて製剤化する。製剤には、非限定的に、例えば注射剤、溶液剤、懸濁剤、錠剤、顆粒剤、粉末剤、噴霧剤、カプセル剤、腸溶製剤、徐放製剤、多層製剤等の種々の剤型に処方しうる。
本発明に係る医薬組成物中の有効成分である抗癌性分子標的薬は、治療上有効量で単位剤型中に含有される。投与用量は、被験者の性別、年齢、体重、重篤度、投与経路、副作用等の様々な要因に応じて変化させうるが、有効成分量は、1日当たり約1μg以上、例えば50~100μg又はそれ以上であるが、これらに限定されない。投与回数は、単回又は複数回のいずれでもよい。
本発明に係る医薬組成物は、癌の従来の治療剤を併用投与することも可能である。従来の治療剤には、例えばゲムシタビン、5-FU、シスプラチン、ジェムザール、TS-1等の医薬品が含まれる。これらの治療剤は、本発明に係る医薬組成物の投与の前、同時又は後に被験者に投与しうる。
また、本発明は、上述の本発明に係る抗FRα/β抗体、抗癌性分子標的薬又は癌治療用医薬組成物の治療上有効量を癌患者に投与することを含む、癌の治療方法に関する。
<癌の存在又は癌の悪性度の測定方法、癌治療の治療効果の判定方法、並びに、該測定又は判定のための癌診断薬及び癌診断キット>
本発明はさらに、別の態様において、被験者由来の生物学的サンプル(例えば、組織又は細胞サンプル)を、本発明に係る抗FRα/β抗体(発蛍光団、色素、放射性同位元素等のラベルで標識された抗体(癌診断薬)、或いは、非標識抗体)と接触させ、FRα発現癌細胞及びFRβ発現癌関連マクロファージの存在を指標として、癌の存在又は癌の悪性度を測定(検査)する方法を提供する。
例えば、被験者由来の膵臓癌組織サンプルを、本発明に係る抗FRα/β抗体(発蛍光団、色素、放射性同位元素等のラベルで標識された抗体(癌診断薬)、或いは、非標識抗体)と接触させて、FRα発現膵臓癌細胞が存在するか否か、及び、FRβ発現マクロファージが該組織中の先進部の膵臓癌細胞周囲に存在するか否かを調べ、FRα発現膵臓癌細胞が存在し、且つFRβ発現マクロファージが該先進部の膵臓癌細胞周囲に分布するとき、該組織が浸潤性であり且つ転移性であると判定し、膵臓癌の悪性度又は浸潤性膵臓癌の存在を検査することができる。本明細書で使用される「浸潤」は、腫瘍の運動性の亢進に伴い、病巣組織の深部、そして組織を超えて原発巣からの離脱を意味する。腫瘍の浸潤性は、腫瘍が転移性となり悪性化したことを示す。特許文献4に記載されるように、膵臓癌の先進部が浸潤性となることと、FRβ発現マクロファージが集積することとが相関しており、FRα発現膵臓癌細胞の存在及びFRβ発現マクロファージの存在を上記抗体又はそのフラグメントを使用して検出することによって、膵臓癌が浸潤性及び転移性であると判定(決定又は同定又は分類又は評価)することができる。
あるいは、本発明は、癌治療を受けているか又は受けた被験者由来の癌組織サンプルを、本発明に係る抗FRα/β抗体(発蛍光団、色素、放射性同位元素等のラベルで標識された抗体(癌診断薬)、或いは、非標識抗体)と接触させて、FRα発現癌細胞及びFRB発現癌関連マクロファージの存在又は不在を指標として癌治療の治療効果を判定する方法を提供する。
本明細書で使用する「判定する」という用語は、医師の判断、すなわち医療行為を意図したものではなく、医師に検査結果の情報又はデータを提示し、医師の判断を助けるための手段を意味する。従って、「判定する」という用語は、「測定する」、「検査する」、「決定する」又は「評価する」等の用語で置き換えることができる。
本発明はさらに、上記測定又は判定方法等において使用するための癌診断薬又は癌診断キットも提供する。
画像診断の場合、癌診断薬又は癌診断キットに、上記抗体又はそのフラグメントと標識とを結合した複合体を含めることができる。標識には、上記で例示したような発蛍光団、色素、放射性同位元素等が含まれる。
抗体によるFRα発現癌細胞及びFRβ発現マクロファージの検出は、ELISA、蛍光抗体法、放射免疫法、サンドイッチ法、組織染色法等によって行うことができる。二次抗体に、例えば酵素(例えばペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等)、発蛍光団(例えばFITC、テトラメチルローダミン、テキサスレッド等)、色素、放射性同位元素等のラベル(標識)を結合したものを使用して、癌細胞及びマクロファージに結合した抗体の複合体を検出する。ラベルの結合には、化学的結合法、ビオチン-(ストレプト)アビジン系を利用する結合法等が含まれる。
画像診断の場合には、薬学的に許容可能な放射性核種や発光体を抗体にラベルし、被験者に該抗体を投与し、PET/CT等の画像診断技術を使用して画像をとり、癌の存在を判定又は検査することができる。
本発明に係る癌診断キットには、上記(標識された、又は標識されない)抗体又はそのフラグメント或いはそれらを含む造影剤の他に、測定に使用するためのバッファー、ラベル化二次抗体等の試薬、測定手順を記載した使用説明書等を含めることができる。試薬は、別々の容器に密封される。
以上に説明する本発明に係る抗FRα/β抗体又はその結合物によれば、従来の癌細胞を標的とした抗FRα抗体又は癌増殖を促進する癌関連マクロファージに向けられた抗FRβ抗体単独の使用に比べて、FRα発現癌細胞、及びFRβ発現癌関連マクロファージを同時に傷害することにより癌を効果的に治療することができる。また様々な癌の存在、悪性度及び癌治療の治療効果を診断することができ、医薬産業上有用である。
また、従来の抗FRα抗体と抗FRβ抗体の二者併用療法を行う場合、抗FRα抗体とFRα発現癌細胞の結合と、抗FRβ抗体とFRβ発現マクロファージの結合との間の差異に起因して、両者の適正な使用量の決定が困難である。一方、本発明に係る抗FRα/β抗体又はその結合物は、抗FRα抗体と抗FRβ抗体の併用療法に比べて低用量で良く、経済的にも優位である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0008】
抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体(クローン名:No.5)の作製
[ヒトFRβ発現細胞の作製]
関節リウマチ滑膜からTrizol(GibcoBRL)、cDNA synthesis kit(Invitrogen)にて添付説明書に従って全RNAを抽出後、SuperScript plasmid System(Invitrogen)にて添付説明書に従ってcDNAを合成した。次に、1μlのリウマチ滑膜cDNAをBioneer PCR premix(Bioneer)に加え、10ピコモル量に調整したセンスプライマー:agaaagacatgggtctggaaatggatg(配列番号21);及びアンチセンスプライマー:catatggactgaactcagccaaggagccagagtt(配列番号22)を加え、94℃20秒、58℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させることにより、ヒトFRβ遺伝子を増幅した。増幅したFRβ遺伝子のPCR産物をプラスミドPCR2.1-TOPO(Invitrogen)にライゲーションを行った。すなわち、PCR産物2.5μlにNaCl溶液を1μL、滅菌蒸留水1.5μl、ベクタープラスミド(PCR2.1-TOPO)1μLを加えて室温で5分間インキュベートし、その内の2μLを大腸菌(TOP10F’)に加えて氷中で30分反応後、42℃30秒の熱処理し、氷中で2分間静置し、250μLのSOC培地を加えた後、37℃で1時間シェーカー内で培養した。培養終了後、LB培地に捲き、37℃で一晩培養した。
大腸菌培養の為、プレート上より採取した白いコロニーを、アンピシリン(50mg/mL)含有LB液体培地に加えて37℃一晩培養した。大腸菌内のプラスミドの精製はQiagenプラスミド精製キット(Qiagen)にて行った。組み込まれたFRβ遺伝子は、制限酵素EcoRIによる処理後、アガロース電気泳動に展開し、約0.8kb(782bp)のFRβ遺伝子産物を確認後、その部位を切り出し、遺伝子産物の抽出をQuiagen PCR purification kit(Quiagen)にて精製した。次に、予めEcoRI処理を行った哺乳細胞発現用ベクターpER-BOS(Mizushima et al.pEF-BOS,apowerful mammalian expression vector.Nucleic Acid Res.1990;18(17):5322)と混和し、T4 ligase(Roche)を用いてライゲーションを行った。ライゲーション産物の大腸菌(TOP10F’)への遺伝子導入並びにFRβ遺伝子の確認は上記と同様の手法で行った。
pEF-BOSに組み込まれたFRβ遺伝子を確認後、ヒトFRβ遺伝子を含むベクターはマウスB300-19細胞に遺伝子導入を行った。すなわち、予め1x10個に調整した各細胞に、20μLのリポフェクタミン(GibcoBRL)と混和したFRβ遺伝子含有ベクター1μgを加え、細胞に添加した。遺伝子導入されたB300-19マウス細胞は抗生物質G418耐性を獲得するため、1mg/mLの濃度のG418を含む培地にて遺伝子導入された細胞を選択培養した。遺伝子導入された細胞のFRβ遺伝子導入の確認はPCR法にて行った。すなわち、1x10個に調整した各細胞をcDNA synthesis kit(Invitrogen)にてcDNAを合成し、10ピコモル量に調整したセンスプライマー:agaaagacatgggtctggaaatggatg(配列番号21);及びアンチセンスプライマー:catatggactgaactcagccaaggagccagagtt(配列番号22)をBioneer PCRpremix(Bioneer)に加え、94℃20秒、58℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させることにより、ヒトFRβ遺伝子を増幅した。増幅後アガロース電気泳動を行い、FRβ遺伝子が示すバンド0.8kbを確認した。
[ヒトFRαとヒトFRβの双方に反応するモノクローナル抗体の作製]
ヒトFRβ発現マウスB300-19細胞を1x10個に調整し、フロインド完全アジュバンドと混合し、Wister Kyotoラットの尾根部あるいは腹腔内に免疫した。この操作を1週間ごとに2~4回繰り返した。
モノクローナル抗体の作製はKohlerの方法(Kohler & Milstein,Nature(1975)256:495-96)に従って行った。すなわち、脾臓あるいは腸骨リンパ節を取り出して単一細胞に解離させ、骨髄腫由来の細胞(NS-1)と細胞融合させてハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマはHAT選択培地にて培養し、培養上清中に分泌された抗体の中で、先のFRβ発現細胞とFRα発現KB細胞株(Human epidermoid carcinoma)の双方に反応するものを選別した。
抗体産生が認められたハイブリドーマのクローン化は、96穴プレートの各穴当たり1細胞となるように調整した限界希釈培養にて行った。
クローン化したハイブリドーマを用いた抗体の採取は、10%FCS、10%NCTC-109メディウム(Gibco)、1%HT Supplement(Gibco)及び1%Antibiotic/Antimycotic Mixed(Nakarai)を含むIMDEMメディウム(Gibco)で培養し、ヤギ抗ラット免疫グロブリンアガロース(Rockland)で精製した。
このようにして、抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体(クローン名:No.5)を得ることができた(以下、「抗体No.5」と称する)。
[抗体No.5のフローサイトメーター(FACS)によるFRα及びFRβに対する反応の実験]
1x10に調整したFR-β発現B300-19細胞(図2(A))とFRα発現KB細胞(図2(B))に、抗体No.5を反応させた。また、FRβを認識する抗体(94b)(特許文献4)及びFRαを認識する抗体(Mov18)(Miotti S,Canevari S,Menard S,Mezzanzanica D,Porro G,Pupa SM,Regazzoni M,Tagliabue E,Colnaghi MI.,Characterization of human ovarian carcinoma-associated antigens defined by novel monoclonal antibodies with tumor-restricted specificity. Int J Cancer.1987;39(3):297-303.)を陽性コントロールとして、isotype control RatIgG2a(Southern Biotech)を陰性対照抗体として反応させた。更にAPCでラベルした抗ラット抗体で更に反応させた。反応終了後の染色性をフローサイトメーターで測定した。
図2に示すように、抗体No.5はFR-β発現B300-19細胞とFRα発現KB細胞のいずれにも反応した。
次いで、卵巣癌細胞株IGROV1、OVACAR3及びSKOV3に、抗体No.5を反応させた。FRαを認識する抗体(Mov18)を陽性コントロールとして、isotype control RatIgG2a(Southern Biotech)を陰性対照抗体として反応させた。更にAPCでラベルした抗ラット抗体で更に反応させた。反応終了後の染色性をフローサイトメーターで測定した。
図3に示すように、抗体No.5は、Mov18抗体に比べてIGROV1には強陽性であったが、Mov18抗体が反応するOVACAR3では反応せず、これらの抗体のエピトープが異なることが示唆された。
[抗体No.5を用いた卵巣癌組織の免疫染色]
卵巣癌患者から得られた癌組織を、抗体No.5、抗FRα抗体(Mov18)、抗FRβ抗体(94b)及び抗CD68抗体と反応させ、ペルオキシダーゼ標識抗ラットIgG抗体あるいはペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体で反応させ、DAB発色試薬(DAKO社)を用いて発色させた。
図4は同一標本におけるそれぞれの抗体による2箇所の染色パターンを示す。抗体No.5は、FRα陽性癌細胞と癌組織に浸潤するFRβ(+)マクロファージに反応することが示された。
[当該抗体No.5の葉酸リセプター発現細胞に対する補体依存的細胞傷害能]
96穴プレートの各ウェルに、RPMI培地にて5x10個/50μLに調整したIGROV、ES-2及びヒトFRβ発現B300-19細胞を撒いた後、RPMI培地で1μg/25μLの濃度に調整した抗体No.5、陰性対照の抗GFP抗体、或いは25μLのRPMI培地を各ウェルに添加した。次に、RPMI培地で50%に希釈したウサギ補体血清(シグマアルドリッチ)25μL、或いはRPMI培地25μLを添加した(各ウェル当たり5x10個/100μLとなり、抗体の終濃度は10μg/mL、補体の終濃度は12.5%となる)。無添加対照群(ベースライン群)は、50μLのRPMI培地を添加した細胞を用いた。さらにベースライン群は細胞数の希釈系列を作製した。陽性対照群(最大細胞障害群)は、50μLの2%Triton X-100を含むRPMI培地を添加した細胞を用いた。設定した各群につき4ウェルを使用し、COインキュベーター(37℃)にて2時間培養を行った。培養終了後、cell counting kit-8(同仁化学)を各ウェルに加え、生存細胞が示す培養液中の吸光度(450nm)をマイクロプレートリーダー(Biorad社)にて計測した。ベースライン群の細胞数の希釈系列が示す吸光度の減少と、Triton X-100添加群(最大細胞傷害群)が示す吸光度をプロットした後、各ウェルが示す吸光度から細胞傷害率を算出した。
図5に示すように抗ヒトFRα/β抗体は、補体存在においてFRα発現細胞株(上段)、FRβ発現細胞株(下段)に細胞傷害能を示したが、FRαとFRβのいずれも発現していない細胞株(中段)では、補体存在下においても細胞傷害能を示さなかった。当該結果は、補体の存在する生体内において、抗ヒトFRα/β抗体のFRα発現癌増殖抑制能を示唆する結果である。
【実施例2】
【0009】
抗体No.5の抗体遺伝子からの抗ヒトFRα/βイムノトキシン(分子標的薬)の作製
[抗体No.5の抗体遺伝子の決定]
抗体No.5を産生するラットハイブリドーマクローンNo.5を1x10個にそれぞれ調整し、cDNA synthesis kit(Invitrogen)にてcDNAを合成した。次に、Ig-Prime Kit及びラット抗体重鎖領域のクローニング用にデザインしたプライマー:caccatggagttacttttgag(配列番号23)を用い、重鎖(以後「VH」)及び軽鎖(以後「VL」)の遺伝子をPCRにて増幅させた。
増幅したVH遺伝子及びVL遺伝子のPCR産物をプラスミドPCR2.1-TOPO(Invitrogen)にライゲーションし、大腸菌(TOP10F’)に遺伝子導入した。次に、大腸菌よりプラスミドを精製し、VH遺伝子及びVL遺伝子の塩基配列を決定した。塩基配列の決定はBigDye Terminator V3.1 cycle sequencing kit(ABI)を用いてPCRを行い、ABI 310 DNA sequencerにて解析した。
このようにして、抗体No.5の抗体遺伝子として、VH遺伝子(塩基配列:配列番号7及びその対応アミノ酸配列:配列番号8)、CDRH1遺伝子(塩基配列:配列番号1及びその対応アミノ酸配列:配列番号2)、CDRH2遺伝子(塩基配列:配列番号3及びその対応アミノ酸配列:配列番号4)及びCDRH3遺伝子(塩基配列:配列番号5及びその対応アミノ酸配列:配列番号6)、並びにVL遺伝子(塩基配列:配列番号15及びその対応アミノ酸配列:配列番号16)、CDRL1遺伝子(塩基配列:配列番号9及びその対応アミノ酸配列:配列番号10)、CDRL2遺伝子(塩基配列:配列番号11及びその対応アミノ酸配列:配列番号12)及びCDRL3遺伝子(塩基配列:配列番号13及びその対応アミノ酸配列:配列番号14)を決定した(図1)。
[免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)遺伝子にシステインの変異を導入]
抗体No.5の免疫グロブリン重鎖可変領域(VH)遺伝子(配列番号7)において、対応するアミノ酸配列(配列番号8)の44番目のアミノ酸グリシンに対するコドン(塩基配列ggt)をシステインに対するコドン(塩基配列tgt)に変異させるようにデザインしたプライマーを作製し(センス:agcctccgggaaagtgtctggagtggatg(配列番号24)及びアンチセンス:catccactccagacactttcccggaggct(配列番号25))、Quick change site-directed mutagenesis kit(Stratagene)を用いて、抗体No.5のVH遺伝子を含むプラスミドpCR2.1-TOPO VHに変異誘発処理を行った。このPCR反応は、反応液を95℃30秒、55℃60秒、68℃4分のサイクルを12回連続して行った。
次に、反応後のDNAを大腸菌XL1-Blueに遺伝子導入し、0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地で選択培養した。選択した形質転換体のプラスミドをQIAprepspin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。さらに塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて決定し、抗体No.5のVH(配列番号8)において44番目のグリシンがシステイン(塩基配列tgt)に変異したことを確認した。得られた変異VH遺伝子の塩基配列は配列番号17の塩基配列であり、その対応アミノ酸配列は配列番号18のアミノ酸配列である。
[タンパク質発現ベクターpRK79PE38に変異を導入したVHを挿入]
次に、PE38遺伝子を含むpRK79ベクターpRK79PE38(Kreitman RJ,Bailon P,Chaudhary VK,FitzGerald DJ,Pastan.,Recombinant immunotoxins containinganti-Tac(Fv) and derivatives of Pseudomonas exotoxin produce complete regression in mice of an interleukin-2 receptor-expressing human carcinoma.Blood.1994 Jan 15;83(2):426-34.)への、抗体No.5のVH遺伝子に変異を導入した変異VH遺伝子(配列番号17)の挿入を以下の方法にて行った。
変異VH遺伝子の5’末端部と3’末端部のアニーリングプライマーとしてcatatgcaggtgcagctgaaggag(配列番号26)とggaagcttttgaggagactgtgaccatga(配列番号27)をそれぞれデザインした。アニーリングプライマーにはそれぞれ制限酵素であるNdeIがあり、この部位でのクローニングにより、atgを開始コドンとしたタンパク質の発現が可能である。また、もう片方のアニーリングプライマーにはHindIII部位が挿入されており、この部位でのクローニングにより、変異VH遺伝子とPE遺伝子が結合した融合タンパク質の発現が可能である。
これらのプライマーの組み合わせとpfu DNA polymerase(Stratagene)を使って変異を導入したプラスミドのPCRを行った。この反応は94℃20秒、55℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させた。次に、PCR産物を精製し、精製産物に制限酵素NdeI(New England Biolabs)とHindIII(New England Biolabs)を加えて反応後、電気泳動に展開し、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を用いてゲルから目的の大きさのDNAを回収した。回収したDNAに、制限酵素処理した変異導入VH遺伝子と同様の制限酵素で処理したpRK79PE38を添加し、さらにLigation High(Toyobo)を用いて変異VH遺伝子とpRK79PE38のライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了、大腸菌TOP10F’(Invitrogen)に遺伝子導入し、0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地にて形質転換体を選択した。選択した形質転換体のプラスミドpRK79-VHPEをQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。さらに塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて塩基配列を決定した(変異VH(配列番号18)を含むラット抗ヒトFRα/βイムノトキシンVHPE)。
[免疫グロブリン軽鎖可変領域遺伝子にシステイン変異を導入]
抗体No.5の免疫グロブリン軽鎖可変領域(VL)遺伝子(配列番号15)において、対応するアミノ酸配列(配列番号16)の100番目のアミノ酸グリシンに対するコドン(塩基配列gga)をシステインに対するコドン(塩基配列tgt)に変異させるようにデザインしたプライマーを作製した(catatggacatccagatgacacagtct(配列番号28)及びgaattcctatttcaattccagcttggtgccacaaccgaacgt(配列番号29))。
これらのプライマーの組み合わせとpfu DNA polymerase(Stratagene)を使って抗体No.5のVL遺伝子を含むプラスミドのPCRを行った。この反応は94℃20秒、55℃30秒、72℃60秒で30サイクルPCRを行い、その後72℃5分で反応させた。
次に、PCR産物を精製し、精製産物に制限酵素NdeI(New England Biolabs)とEcoRI(New England Biolabs)を加えて反応後、電気泳動に展開し、QIAquick gel extraction kit(Qiagen)を用いてゲルから目的の大きさのDNAを回収した。回収したDNAに、制限酵素処理した変異導入VL遺伝子と同様の制限酵素で処理したpRK79PE38を添加し、さらにLigation High(Toyobo)を用いて変異VL遺伝子とpRK79PE38のライゲーション反応を行った。ライゲーション反応終了、大腸菌TOP10F’(Invitrogen)に遺伝子導入し、0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地にて形質転換体を選択した。選択した形質転換体のプラスミドpRK79-VLをQIAprep spin Miniprep KIT(Qiagen)により精製した。さらに塩基配列をBig Dye Terminator v3.1 cycle sequencing kit(ABI)とABI310シーケンサーにて決定し、抗体No.5のVL(配列番号16)において100番目のアミノ酸がシステインに変異していることや、終始コドンtagが配置されていることを確認した(変異VL(塩基配列:配列番号19;その対応アミノ酸配列:配列番号20)を含むラット抗ヒトFRα/βイムノトキシンVL)。
[リコンビナントタンパク質封入体の調製]
上記の変異導入VH遺伝子を組み込んだプラスミドpRK79-VHPE、変異導入VL遺伝子を組み込んだプラスミドpRK79-VLを50ng調整し、タンパク質発現用大腸菌BL21(DE3)に遺伝子導入した。遺伝子が導入された大腸菌の選抜は0.1mg/mLのアンピシリンを含むLB培地にて37℃15~18時間の培養で行った。
選択終了後の大腸菌は1000mLのスーパーブロース培地で37℃の条件で培養し、可視吸光度600nmで1.0-1.5に到達するまで培養した。培養後、IPTG(isopropyl-beta-D-thio-galactopyranoside)を終濃度1mMになるように培地に添加し、さらに90分間37℃で培養した。培養終了後、遠心分離にて大腸菌を回収後、50mMトリス緩衝液(pH7.4、20mM EDTAを含む)を用いて200mLとなるまで懸濁した。懸濁後、卵白リゾチームを最終濃度0.2mg/mLとなるように加え、室温で1時間反応させて大腸菌の破壊を行った。破壊後、20,000xgで遠心分離を行い、沈殿を回収した。沈殿物はさらに50mMトリス緩衝液(pH7.4、2.5%のTritonX-100、0.5M NaCl、20mM EDTAを含む)で200mLとなるまで懸濁し、卵白リゾチームを最終濃度0.2mg/mLとなるように加え、室温で1時間反応させた。反応終了後、20,000xgで遠心分離を行い、沈殿を回収した。沈殿はさらに50mMトリス緩衝液(pH7.4、2.5%のTritonX-100、0.5M NaCl、20mM EDTAを含む)で200mLとなるまで懸濁し、十分混和させた後、20,000xgで遠心分離を行い、沈殿を回収した。この操作を5回繰り返した後の沈殿物をリコンビナントイムノトキシン封入体とし、さらに0.1Mトリス緩衝液(pH8.0、6Mグアニジン塩酸塩、1mM EDTAを含む)で溶解させ、最終濃度10mg/mLとなるように調節した。
[可溶化したVHPEとVLのカップリングとリフォールディング、精製]
上記で調製したVHPEとVLを混和させ、リコンビナント二重鎖Fv抗FRα/βイムノトキシンを作製した。
先ず、0.5mLのVHPE、0.25mLのVLを混和し、ジチオトレイトール(DTT)を最終濃度10mg/mLとなるように加え、室温で4時間の還元処理を行った。処理後、75mLの0.1Mトリス緩衝液(pH8.0、0.5Mアルギニン、0.9mM酸化型グルタチオン、2mM EDTAを含む)に溶解させた。この溶液を10℃で40時間放置することによって、VHとVLを結合させた。結合終了後、分子量10,000カットの遠心濃縮器(Centricon 10、Amicon)で5mLまで濃縮し、さらに50mLのトリス緩衝液(pH7.4、0.1M尿素、1mM EDTAを含む)で希釈した。この希釈液をリコンビナントイムノトキシン精製の出発物質とした。
次に、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で平衡化したイオン交換カラムHi-Trap Q(GE)に、30mL/時間の流速で、上記出発物質を吸着させた後、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で洗浄した。洗浄後、吸着したリコンビナントタイプイムノトキシンの溶出をトリス緩衝液(pH7.4、0.3M NaCl、1mM EDTAを含む)で行った。溶出サンプルはトリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で透析した後、イオン交換カラムPOROS HQ(POROS)でさらに精製した。すなわち、透析した精製物質を10mL/分の流速で吸着させ、トリス緩衝液(pH7.4、1mM EDTAを含む)で洗浄後、上記緩衝液に0Mから1.0MのNaCl勾配を設定することにより、リコンビナントタイプイムノトキシンの溶出を行った。精製リコンビナントタイプイムノトキシンの最終調製はTSK300SW(Tosoh)ゲル濾過クロマトグラフィーにて行った。先ず、75%の消毒用エタノールで48時間洗浄することによってTSK300SWカラム中のエンドトキシン除去を行った。次に日本薬局方注射用蒸留水で洗浄し、その後日本薬局方生理食塩水でTSK300SWカラムの平衡化を行った。平衡化終了後、リコンビナントタイプイムノトキシンを投与し、流速0.25mL/分でカラムからの溶出液を採取した。採取後、0.22μmの濾過滅菌機で処理し、純度をSDS-PAGEにて確認後、-80℃で保存した。
[SDS-PAGEによる純度検定]
SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムを含むポリアクリルアミド電気泳動)は0.1%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む12%ポリアクリルアミドの平板ゲルを用い、移動相には終濃度0.1%のSDS、130mMグリシン、25mMトリスを含む水溶液を用いた。各サンプルは終濃度0.1%のSDSを含む100mMトリス緩衝液pH6.5で調整し、5分間の煮沸処理を行った。煮沸終了後、平板ゲルにサンプルを投与し、30mAの定電流で電気泳動を展開させた。展開後、0.05%のクマシーブリリアントブルーR溶液(ナカライテスク)でリコンビナントタイプイムノトキシンの染色を行った。
【実施例3】
【0010】
組換えイムノトキシンの卵巣癌(IGROV1細胞株)及びFRβ発現細胞の増殖抑制
24穴プレートの各ウェルに、2.5x10個/mLに調整したヒト卵巣癌IGROV1細胞株及びヒトFRβ発現B300-19細胞を撒き、さらに各ウェルに終濃度2000-0ng/mLの濃度となるように調整した実施例2で作製した組換え抗ヒトFRα/βイムノトキシン或いは陰性対照タンパク質VH-PEを添加後、48時間から96時間の培養を行った。培養終了後、cell counting kit-8(同仁化学)を各ウェルに加え、培養液中の吸光度をマイクロプレートリーダー(Biorad社)にて計測した。
結果を図6に示す。図6に示すように、組換え抗ヒトFRα/βイムノトキシンはFRα発現細胞株、FRβ発現細胞株のいずれに対しても細胞傷害能を示した。当該結果は、抗ヒトFRα/β抗体と細胞傷害能を持つ薬剤の結合物がFRα発現癌の分子標的薬として有用であることを示唆する結果である。
【実施例4】
【0011】
抗体No.5を用いた肺癌、乳癌及び膵臓癌の免疫染色
肺癌、乳癌及び膵臓癌患者から得られた癌組織を、FRαに対する抗体(癌細胞に反応)、抗体No.5、FRβに対する抗体(マクロファージと反応)と反応させ、次いでペルオキシダーゼ標識抗ラットIgGあるいはペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体で反応させ、DAB発色試薬(DAKO)を用いて発色させた。
図7は、各固形癌の免疫染色におけるそれぞれの抗体による染色パターンを示す。抗体No.5は、肺癌では19例中6例、乳癌では14例中4例、膵臓癌3例中2例において癌細胞と浸潤マクロファージいずれにも反応することが示された。
【実施例5】
【0012】
マクロファージによる葉酸リセプターα発現癌細胞の貪食能を促進する抗体No.5の評価(ADCP(antibody-dependent cell mediated phagocytosis)法による解析)
ヘパリン入り注射器で健常人から血液50mlを採血した。採血した血液をリン酸バッファー、pH7.4(PBS)で3倍に希釈した後、希釈血液を50mlファルコンチューブ内の15mlのLymphoprep液(Fresenius Kabi Norge AS)上に重層させ、ブレーキ無しで2500rpmで15分間遠心した。次いで、単球及びリンパ球を含む層を集め、3倍量のPBSを加え、1500rpmで8分間遠心した。遠心後、上清を捨て、残ったペレットを崩し、PBSを50ml加え、さらに800rpmで5分間遠心した。遠心後、上清のPBSを捨て、ペレットを崩し、10%牛胎児血清(MP Biomeicals)、1%Antibiotic/Antimycotic mixed solution(Nakarai)を含むIMDM培養液(Gibco)を10ml加え、この細胞浮遊液を10mlシャーレに移し、5%炭酸ガス下で37℃培養装置内で30分間静置し、単球を付着させた。次いで、PBSにてシャーレを5回洗浄し、再び付着単球に培養液を加えた。さらに、25ng/mlになるようにM-CSF(PeproTech)を加えた。M-CSF入り培養液を、3日目及び6日目に交換した。7日目に付着細胞(単球からマクロファージに分化した細胞)を外し、1X10/mlになるように培養液にて調整し、この細胞浮遊液100μlを96穴の丸底プレートのウェルに加えた。
一方、KB細胞(ヒトロ腔類表皮癌由来;FRα発現)のPE標識はセルラベリングキット(シグマ)を用いた。簡単には、KB細胞1X10を含む1mlのPBSにPE標識試薬3.75μlを1分間加えた。その後、2X10/mlになるよう培養液にて調整し、上述のマクロファージを含むウェルに100μl加え、さらに各ウェルに各種抗体を10μg/mlになるように加えた。実験はTriplicateで行った。
培養6時間後に、同じ操作を行ったウェルを混ぜ、ファルコンチューブに移し、FITC標識抗CD14抗体(マウスIgG、South Biotech)とFITC標識抗CD11b抗体(マウスIgG、South Biotech)あるいはネガティブコントロールとしてFITC標識抗体(マウスIgG、South Biotech)で30分間染色した。2重染色の解析はフローサイトメーター(CyAn、ベックマンコールター)にて行った。
図8は、その解析結果を示す。AのパネルはPE標識したKB細胞である。BのパネルはFITC標識抗CD14抗体とFITC標識抗CD11b抗体に反応したマクロファージである。マクロファージがKB細胞を貪食した場合は、PEとFITCで標識された細胞が存在することになる。コントロール抗体(ラットIgG2a、South Biotech)添加群(Cのパネル)に比べて抗体No.5添加群(Dのパネル)はADCP能(図のR9領域の増加)を示したが、抗体No.5のF(ab’)添加群(Eのパネル)ではADCP能は見られず、抗体No.5(抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体)のADCP能はマクロファージのFcリセプター依存であることが示された。この結果は抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体の投与がマクロファージによる葉酸リセプターα発現癌細胞の貪食を促進させ、癌細胞の増殖を抑制することを示唆している。
【実施例6】
【0013】
FRα陽性ヒト癌細胞とFRβ陽性マウス浸潤マクロファージを標的とした抗体製剤による癌の治療効果
9-12週齢のNOD/SCIDマウス(メス)に、1x10個に調整したIGROV-1ヒト癌細胞(卵巣癌由来;FRα発現)を腹腔内に移植した(Day0)。癌細胞移植4日後に、0.5mLの3%チオグリコレート培地を腹腔内に投与してマウスマクロファージ(FRβ発現)を誘発させ、さらに8日、15日、22日後に、100μgに調整した各抗体を腹腔内に投与した。人道的エンドポイントを45日とした死亡日を追跡した。
図9は、実験スケジュールと癌細胞移植後の追跡結果を示す。陰性対照群の生存率は0であったのに対して、抗体No.5(抗ヒトFRα/βラットモノクローナル抗体であり、この実験系ではヒト癌細胞にのみ反応し、マウスマクロファージには反応しない)及び抗マウスFRβ抗体の単独投与群では生存率の改善が認められた。さらに両者の併用によりエンドポイントまでの生存率は100%を示した。この結果はFRα発現癌細胞とFRβ発現マクロファージの除去が、卵巣癌の治療に有効であることを示唆している。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明に係る抗癌性分子標的薬によれば、FRαを発現する癌細胞、及びFRβを発現し、且つ癌増殖を促進する癌関連マクロファージを同時に傷害することにより、癌を効果的に治療することができる。また、本発明に係る抗FRα/β抗体又は癌診断薬によれば、様々な癌の局在、悪性度及び癌治療の治療効果を診断することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]
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図面
【図1】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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