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明細書 :内在性DNA配列特異的結合分子を用いる特定ゲノム領域の単離方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5954808号 (P5954808)
登録日 平成28年6月24日(2016.6.24)
発行日 平成28年7月20日(2016.7.20)
発明の名称または考案の名称 内在性DNA配列特異的結合分子を用いる特定ゲノム領域の単離方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/543       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 Z
C12Q 1/02
G01N 33/53 M
G01N 33/543 501A
請求項の数または発明の数 13
全頁数 22
出願番号 特願2015-500088 (P2015-500088)
出願日 平成25年9月6日(2013.9.6)
国際出願番号 PCT/JP2013/074107
国際公開番号 WO2014/125668
国際公開日 平成26年8月21日(2014.8.21)
優先権出願番号 2013026310
2013143282
優先日 平成25年2月14日(2013.2.14)
平成25年7月9日(2013.7.9)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成27年8月7日(2015.8.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
発明者または考案者 【氏名】藤井 穂高
【氏名】藤田 敏次
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100077012、【弁理士】、【氏名又は名称】岩谷 龍
審査官 【審査官】飯室 里美
参考文献・文献 国際公開第2011/021684(WO,A1)
特表2012-514976(JP,A)
LAMBERT, Jean-Philippe et al.,Defining the budding yeast chromatin-associated interactome,Mol. Syst. Biol.,2010年,vol. 6: 448,p. 1-16
HOSHINO, A., et al.,Insertional chromatin immunoprecipitation: A method for isolating specific genomic regions.,J. Biosci. Bioeng.,2009年,vol.108, no.5,p.446-449
JINEK, M., et al.,A programmable dual-RNA-guided DNA endonuclease in adaptive bacterial immunity.,Science,2012年 8月17日,vol.337,p.816-821
DEJARDIN, J., et al.,Purification of proteins associated with specific genomic Loci.,Cell,2009年 1月 9日,vol.136,p.175-186
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま任意の特定ゲノム領域を単離する方法であって、以下の工程1~3を含むことを特徴とする特定ゲノム領域の単離方法:
工程1:ゲノムDNA中の単離しようとするゲノム領域内またはその近傍に存在する特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、細胞内のゲノムDNAとを接触させる工程、
工程2:相互作用している分子との相互作用状態を保持している前記細胞内のゲノムDNAを断片化する工程、および
工程3:前記外来性分子と特異的に結合する分子を、外来性分子が結合しているゲノムDNA断片に結合させて複合体を生成し、当該複合体を回収する工程。
【請求項2】
さらに、ゲノムDNAと、当該ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態を保持する処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項3】
前記外来性分子が、外来性DNA結合蛋白質、外来性核酸または外来性蛋白質-核酸複合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項4】
前記外来性分子が、ジンクフィンガー蛋白質、TALエフェクター蛋白質または不活性型Cas9蛋白質とガイドRNA(gRNA)の複合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項5】
前記外来性分子が、1種以上のタグ配列を含む融合分子であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項6】
前記外来性分子が、核移行シグナルを含む融合分子であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項7】
工程1において、解析対象細胞に、前記外来性分子をコードする遺伝子を導入し、当該細胞内で発現させることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項8】
相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま特定ゲノム領域を単離する方法であって、
工程I:相互作用している分子との相互作用状態を保持しているゲノムDNAを断片化する工程、
工程II:ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、工程Iで断片化した変性操作を行っていない前記ゲノムDNAとを接触させる工程、および
工程III:前記外来性分子に結合したゲノムDNA断片を回収する工程を含み、
前記外来性分子が、外来性DNA結合蛋白質または外来性蛋白質-核酸複合体であることを特徴とする特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項9】
工程IIにおいて、担体に固定化された前記外来性分子と、断片化した前記ゲノムDNAとを接触させることを特徴とする請求項8に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項10】
工程IIにおいて、前記外来性分子と断片化した前記ゲノムDNAとを接触させた後に、前記外来性分子を担体に固定化することを特徴とする請求項8に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項11】
さらに、ゲノムDNAと、当該ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態を保持する処理を行う工程を含むことを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項12】
前記外来性分子が、ジンクフィンガー蛋白質または不活性型Cas9蛋白質とガイドRNA(gRNA)の複合体であることを特徴とする請求項8~11のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の方法で特定ゲノム領域を単離する工程と、単離した特定ゲノム領域のゲノムDNAと相互作用している分子を、質量分析、免疫ブロット、ELISA、塩基配列解析、マイクロアレイ解析およびPCRからなる群より選択される1または2以上を用いて同定する工程を含むことを特徴とするゲノム機能発現の分子機構解析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、内在性DNA配列特異的結合分子を用いる特定ゲノム領域の単離方法に関するものであり、特に、相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま、特定ゲノム領域を、内在性DNA配列特異的結合分子を用いて単離する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロマチン領域の生化学的および分子生物学的解析は、ゲノム機能発現の分子機構を理解するために非常に重要である。しかし、未だクロマチン領域の生化学的な性質は十分に解析されていない。これは、クロマチン領域の生化学的および分子生物学的解析に利用可能な試料の採取方法が制限されていることに原因があると考えられる。
【0003】
クロマチン領域の生化学的および分子生物学的解析を行うためには、ゲノムDNAおよびゲノムDNAと相互作用している分子の相互作用状態を保持した試料を解析に供することが必要である。相互作用分子との相互作用状態を保持した特定ゲノム領域を単離する方法として、以下の方法が知られている。
【0004】
(i) クロマチン免疫沈降法
クロマチン免疫沈降(chromatin immunoprecipitation)法(以下、「ChIP法」という。)は、既知のDNA結合蛋白質に対する抗体を用いて特定ゲノム領域を免疫沈降させ、当該領域を単離する方法である(非特許文献1、2参照)。したがって、ChIP法は、DNA結合蛋白質に関する情報がなければ使用することができないという制限がある。また、一般に、DNA結合蛋白質はゲノムDNAの複数の領域に結合するため、免疫沈降物中にはいろいろなゲノム領域が混在しており、ChIP法によって特定ゲノム領域のみを単離することは難しいという問題を有している。さらに、ChIP法では、既知のDNA結合蛋白質が結合しないゲノム領域を単離できないという問題がある。
【0005】
(ii) Chromosome Conformation Capture法(以下「3C法」という。)
3C法またはその派生法では、特定のゲノム領域と相互作用しているゲノム領域を同定することができる(非特許文献3~5参照)。しかし、3C法では、制限酵素やDNAリガーゼによる酵素反応を、クロスリンク(架橋)下という非最適条件下で行わなくてはならないため、非生理的な相互作用を検出する可能性が高いという問題がある。また、クロスリンク下では制限酵素処理が不完全になるため、標的ゲノム領域に隣接する領域がPCRで増幅されバックグラウンドが極めて高くなり、未知の相互作用の検出が難しいという問題がある。
【0006】
(iii) Fluorescence in situ Hybridization法(以下、「FISH法」という。)
FISH法単独、もしくは蛍光抗体法と組み合わせることにより、特定ゲノム領域と別のゲノム領域やRNA、蛋白質との相互作用が検出可能である。しかし、この方法は解像度が低く、また、未知の分子との相互作用は検出できない。
【0007】
(iv) Proteomics of Isolated Chromatin segments法(以下「PICh法」という。)
PICh法は、特異的な核酸プローブを用いて、特定ゲノム領域を単離する方法であり、プローブに相補的な多数の繰り返し配列からなるテロメア領域を単離できることが示されている(非特許文献6参照)。しかしながら、PICh法ではクロスリンク下での核酸プローブと標的ゲノム領域のアニーリングが必要であり、低コピー数や1コピーの特定ゲノム領域の単離が可能か否かは示されていない。
【0008】
(v) 非特許文献7に記載の方法
非特許文献7には、アフィニティー精製により特定ゲノム領域を単離しようとする試みが記載されている。しかし、用いられている細胞は、酵母であり、高等真核細胞への応用は行われていない。また、Cre-loxP系を利用して、特定ゲノム領域を切り出しているが、この操作により、クロマチン構造が変化してしまう可能性がある。加えて、ホルムアルデヒドによるクロスリンク処理を行えないため、精製の過程で結合している蛋白質やDNA等の分子が解離する可能性もある。
【0009】
(vi)iChIP法
本発明者らにより開発された方法である(特許文献1、非特許文献8、9参照)。生理的なクロマチン構造を保持したまま特定ゲノム領域を単離するために、以下の操作を行う。(1)解析対象細胞の標的ゲノム領域近傍領域へ外来性DNA結合分子の認識配列を挿入する。(2)外来性DNA結合分子のDNA結合ドメインと、既存の抗体もしくは他の蛋白質等で認識されるタグとの融合分子を、解析対象細胞に発現させる。(3)上記細胞を必要に応じてホルムアルデヒド等でクロスリンクする。この操作により、標的ゲノム領域と相互作用する蛋白質、RNA、DNAおよび他の分子がクロスリンクされる。また、この操作により、タグ付き外来性DNA結合分子と挿入された認識配列もクロスリンクされる。(4)次いで、細胞を破砕し、クロスリンクされたDNAを制限酵素等のDNA切断酵素処理または超音波処理により断片化する。(5)タグ付き外来性DNA結合分子を含んだ複合体を、タグを認識する抗体または蛋白質等を固定した担体を用いて沈降させる。(6)沈降された複合体中の標的ゲノム領域と相互作用している分子を解析する。
iChIP法の問題点としては、解析対象細胞の標的ゲノム領域の近傍へ外来性DNA結合分子の認識配列を挿入する操作に手間がかかること、および認識配列の挿入が相互作用に影響を及ぼす可能性を排除できないことが挙げられる。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】国際公開WO2011/021684号
【0011】

【非特許文献1】Solomon, M.J., Larsen, P.L., Varshavsky, A., Mapping protein-DNA interactions in vivo with formaldehyde: evidence that histone H4 is retained on a highly transcribed gene. Cell (1988) 53, 937-947
【非特許文献2】Solomon, M.J., Varshavsky, A., Formaldehyde-mediated DNA-protein crosslinking: a probe for in vivo chromatin structures. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 6470-6474
【非特許文献3】Dekker, J., Rippe, K., Dekker, M., and Kleckner, N. Capturing chromosome conformation. Science (2002) 295, 1306-1311
【非特許文献4】Simonis, M., Klous, P., Splinter, E., Moshkin, Y., Willemsen, R., de Wit, E., van Steensel, B., and de Laat, W. Nuclear organization of active and inactive chromatin domains uncovered by chromosome conformation capture-on-chip (4C). Nat. Genet. (2006) 38, 1348-1354
【非特許文献5】Simonis, M., Kooren, J., and de Laat, W. An evaluation of 3C-based methods to capture DNA interactions. Nat. Methods (2007) 4, 895-901
【非特許文献6】Dejardin, J., and Kingston, R.E. Purification of proteins associated with specific genomic loci. Cell (2009) 136, 175-186
【非特許文献7】Griesenbeck, J., Boeger, H., Strattan, J.S., and Kornberg, R.D. Affinity purification of specific chromatin segments from chromosomal loci in yeast. Mol. Cell Biol. (2003) 23, 9275-9282
【非特許文献8】Hoshino, A., and Fujii, H. Insertional chromatin immunoprecipitation: a method for isolating specific genomic regions. J. Biosci. Bioeng. (2009) 108, 446-449
【非特許文献9】Fujita, H., and Fujii, H. Direct identification of insulator components by insertional chromatin immunoprecipitation. PLoS One (2011) 6, e26109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、解析対象細胞の標的ゲノム領域の近傍へ外来性DNA結合分子の認識配列を挿入する操作を必要とせず、解析対象細胞の標的ゲノム領域内または近傍の内在性DNA配列を利用して、相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま、任意のゲノム領域を特異的に単離することができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の各発明を包含する。
[1]相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま特定ゲノム領域を単離する方法であって、以下の工程(A)および(B)を含むことを特徴とする特定ゲノム領域の単離方法。
(A)相互作用している分子との相互作用状態を保持しているゲノムDNAを断片化する工程
(B)ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、ゲノムDNAとを接触させる工程
[2]さらに、(C)ゲノムDNAと、当該ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態を保持する処理を行う工程を含むことを特徴とする前記[1]に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
[3]前記外来性分子が、外来性DNA結合蛋白質、外来性核酸または外来性蛋白質-核酸複合体であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
[4]前記外来性分子が、ジンクフィンガー蛋白質、TALエフェクター蛋白質または不活性型Cas9蛋白質とガイドRNA(gRNA)の複合体であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
[5]以下の工程1~3を含むことを特徴とする前記[1]~[4]のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
工程1:前記外来性分子と、細胞内のゲノムDNAとを接触させる工程
工程2:相互作用している分子との相互作用状態を保持している前記細胞内のゲノムDNAを断片化する工程
工程3:前記外来性分子と特異的に結合する分子を、外来性分子が結合しているゲノムDNA断片に結合させて複合体を生成し、当該複合体を回収する工程
[6]前記外来性分子が、1種以上のタグ配列を含む融合分子であることを特徴とする前記[5]に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
[7]前記外来性分子が、核移行シグナルを含む融合分子であることを特徴とする前記[5]または[6]に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
[8]工程1において、解析対象細胞に、前記外来性分子をコードする遺伝子を導入し、当該細胞内で発現させることを特徴とする前記[5]~[7]のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
[9]以下の工程I~IIIを含むことを特徴とする前記[1]~[4]のいずれかに記載の特定ゲノム領域の単離方法。
工程I:相互作用している分子との相互作用状態を保持しているゲノムDNAを断片化する工程
工程II:前記外来性分子と、断片化した前記ゲノムDNAとを接触させる工程
工程III:前記外来性分子に結合したゲノムDNA断片を回収する工程
[10]工程IIにおいて、担体に固定化された前記外来性分子と、断片化した前記ゲノムDNAとを接触させることを特徴とする前記[9]に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
[11]工程IIにおいて、前記外来性分子と、断片化した前記ゲノムDNAとを接触させた後に、前記外来性分子を担体に固定化することを特徴とする前記[9]に記載の特定ゲノム領域の単離方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、解析対象細胞の標的ゲノム領域内または近傍の内在性DNA配列を利用して、相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま、任意のゲノム領域を特異的に単離することができる。本発明の特定ゲノム領域の単離方法は、解析対象細胞の標的ゲノム領域内または近傍の内在性DNA配列を利用するものであり、外来性DNA結合分子の認識配列を挿入しないので、挿入配列による相互作用への影響を排除することができる。したがって、単離されたゲノム領域は、ゲノム機能発現の分子機構解析のための試料として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の特定ゲノム領域の単離方法の第1の実施形態を示す図である。
【図2】本発明の特定ゲノム領域の単離方法の第2の実施形態を示す図である。
【図3】テロメア配列に結合するTALエフェクター蛋白質(Telomere-TAL)に3×FLAGタグおよび核移行シグナルを融合させた蛋白質である3×FN-Tel-TALの発現細胞および対照蛋白質(3×FNLDD)発現細胞における、各蛋白質の発現レベルをフローサイトメトリーにより示した図である。
【図4】3×FN-Tel-TALを用いて、テロメア領域のゲノムDNAが単離できたことを、テロメア配列に対するプローブを用いたサザンブロット解析により示した図である。(A)および(B)は再現性を確認した結果である。
【図5】単離したテロメア領域に含まれるテロメラーゼRNAを、RT-PCRにより検出した結果を示す図である。
【図6】ヒトSox2遺伝子プロモーター領域のDNA配列に結合するTALエフェクター蛋白質(3×FN-Sox2-TAL)発現細胞および2種類の対照蛋白質発現細胞における、各蛋白質の発現レベルを免疫ブロット解析により示した図である。
【図7】ヒトSox2遺伝子プロモーター領域の模式図であり、矢印はリアルタイムPCRのプライマーを表す。
【図8】ヒトSox2遺伝子プロモーター領域のDNA配列に結合するTALエフェクター蛋白質(3×FN-Sox2-TAL)を用いて、ヒトSox2遺伝子プロモーター領域のゲノムDNAが単離できたことを、リアルタイムPCRにより示した図である。
【図9】本発明の特定ゲノム領域の単離方法の一実施形態(不活性型Cas9蛋白質とgRNAの複合体(CRISPR系)を用いた特定ゲノム領域の単離方法)のスキームを示す図である。
【図10】3×FLAGタグ付きのdCas9蛋白質(3×F-dCas9)発現細胞および対照蛋白質(3×FNLDD)発現細胞における、各蛋白質の発現レベルを免疫ブロット解析により示した図である。
【図11】ヒトIRF-1遺伝子座に存在する配列に対応するgRNA(gRNA-hIRF-1 #12)と3×FLAGタグ付きのdCas9蛋白質(3×F-dCas9)を用いて、ヒトIRF-1遺伝子座のゲノムDNAが単離できたことを、リアルタイムPCRにより示した図である。
【図12】単離したIRF-1領域に含まれる蛋白質を質量分析により同定するために、単離したIRF-1領域をSDS-PAGEに供し、サンプルが1.0 cm程ゲル内に入るまで電気泳動し、クマシーブリリアントブルー染色した後、5分割することを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔特定ゲノム領域の単離方法〕
本発明の特定ゲノム領域の単離方法(以下、「本発明の方法」という。)は、以下の工程(A)および(B)を含むものであればよい。
(A)相互作用している分子との相互作用状態を保持しているゲノムDNAを断片化する工程
(B)ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、ゲノムDNAとを接触させる工程
工程(A)および(B)の順序は限定されず、先に工程(A)、後に工程(B)を行ってもよく、先に工程(B)、後に工程(A)を行ってもよい。
本発明の方法は、さらに以下の工程(C)を含むことが好ましい。
(C)ゲノムDNAと、当該ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態を保持する処理を行う工程
工程(C)は、工程(A)より先に行うことが好ましい。

【0017】
外来性分子は、ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する性質を持つ外来性の分子であれば特に限定されない。例えば、外来性DNA結合蛋白質、外来性核酸、外来性蛋白質-核酸複合体などを好適に用いることができる。外来性DNA結合蛋白質としては、蛋白質のアミノ酸配列を標的DNAの塩基配列に関連付けて設計することが可能な蛋白質が好ましい。このような外来性DNA結合蛋白質としては、例えば、ジンクフィンガー蛋白質、TALエフェクター蛋白質などが挙げられる。外来性核酸としては、DNAアプタマー、RNAアプタマーなどが挙げられる。外来性蛋白質-核酸複合体としては、不活性型Cas9蛋白質とgRNAの複合体などが挙げられる。

【0018】
ジンクフィンガー蛋白質は、任意のDNAの塩基配列を認識するように改変可能であることが知られている(例えば、Beerli et al., (2002) Nature Biotechnol. 20:135-141; Pabo et al., (2001) Ann. Rev. Biochem. 70:313-340; Isalan et al., (2001) Nature Biotechnol. 19:656-660; Segal et al., (2001) Curr. Opin. Biotechnol.12:632-637;Choo et al.,(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411-416を参照)。改変されたジンクフィンガー蛋白質は、天然のジンクフィンガー蛋白質が持たない新規な結合特異性を持つことができる。改変する方法は特に限定されないが、例えば既知の特異性を持つ個々のジンクフィンガーモジュールをつなぎ合わせる方法が挙げられる。
ファージディスプレイやツーハイブリッドシステム等を用いる特異性の選択方法は、米国特許第5,789,538号;米国特許第5,925,523号;米国特許第6,007,988号;米国特許第6,013,453号;米国特許第6,410,248号;米国特許第6,140,466号;米国特許第6,200,759号;米国特許第6,242,568号;国際公開WO98/37186;国際公開WO98/53057;国際公開WO00/27878;国際公開WO01/88197、英国特許第2,338,237号等に開示されている。

【0019】
TALエフェクター蛋白質は、植物病原細菌ザントモナス属から単離された蛋白質である。TALエフェクター蛋白質のDNA結合ドメインは、1つのユニットが約34アミノ酸からなる、ほぼ完全なタンデムリピート構造を有する。ユニットの12および13番目のアミノ酸は高頻度に変化しておりRVD(repeat variable diresidue)と呼ばれる。RVDの違いがDNA塩基認識特異性を決定する。特定の塩基配列を認識するTALエフェクター蛋白質を作製するためには、対応するRVDを含んだユニットをつなぎ合わせればよい(Moscou and Bogdanove, (2009) Science 326:1501、Boch et al., (2009) Science 326:1509-1512、Miller et al., (2011) Nat. Biotechnol., 29:143-148を参照)。

【0020】
外来性核酸は、例えば、ランダム核酸配列ライブラリーから標的のゲノムDNA配列に結合する分子種をアフィニティー精製し、PCR法等を用いて濃縮・選別することにより取得することができる。また、こうして選別した核酸に適当な変異を導入して、標的ゲノムDNA配列との親和性を更に向上させることも可能である。

【0021】
外来性蛋白質-核酸複合体としては、不活性型Cas9蛋白質とgRNAの複合体が好ましい。Cas9蛋白質は細菌および古細菌由来の酵素で、RNAガイド下にそのRNAに特異的な配列を切断する(CRISPR系)。不活性型Cas9は、DNA切断活性を欠くCas9変異体であり、RNAガイド下にそれと相補的なDNA配列に結合する性質を有している(Jinek et al., (2012) Science, 337:816-821)。したがって、標的DNA配列と相補的な配列を含むRNAと不活性型Cas9の複合体は、本発明の方法に用いる外来分子として好適である。

【0022】
外来性分子が結合するゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列は、単離しようとするゲノム領域内またはその近傍に存在するDNA配列を選択すればよい。選択するDNA配列は、単離しようとするゲノム領域内またはその近傍のみに存在し、それ以外のゲノムDNA上に存在しないことが好ましいが、それ以外のゲノムDNA上に稀に存在するものを選択してもよい。

【0023】
工程(B)における外来性分子とゲノムDNAとを接触させる方法は特に限定されない。細胞の核内で接触させてもよく、相互作用している分子との相互作用状態を保持した状態のゲノムDNAを細胞から抽出した後に接触させてもよい。また、単離しようとするゲノム領域内またはその近傍に存在する内在性DNA配列を複数選択し、それぞれのDNA配列に結合する複数の外来性分子を接触させてもよい。複数の外来性分子を接触させて、順次精製を行うことにより、単離しようとするゲノム領域の特異性を増加させることができる。

【0024】
工程(A)におけるゲノムDNAの断片化は、目的のゲノム領域を含み得る適当なサイズのゲノムDNA断片を生成させるために行われる。ゲノムDNAを断片化する処理の方法としては、例えば、制限酵素でゲノムDNAを消化する方法、DNA分解酵素(エンドヌクレアーゼ)でゲノムDNAを部分分解(部分切断)する方法、超音波処理により物理的に切断する方法などが挙げられる。
制限酵素を用いる場合、単離しようとするゲノム領域の内部を切断せず、目的のゲノム領域以外の部分をできるだけ含まない位置で切断可能な制限酵素を選択することが好ましい。
DNA分解酵素(エンドヌクレアーゼ)を用いる場合は、単離しようとするゲノム領域のサイズより少し大きい断片を生成する反応条件を予め決定しておくことが好ましい。
超音波処理を行う場合は、単離しようとするゲノム領域のサイズより少し大きい断片に切断される処理条件を予め決定しておくことが好ましい。

【0025】
ゲノムDNAの断片化は、当該ゲノムDNAが相互作用している分子との相互作用状態を保持している状態で行うことが好ましい。そのため、ゲノムDNAの断片化を行う前に、必要に応じてゲノムDNAと、当該ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態を保持する処理(工程(C))を行うことが好ましい。相互作用状態を保持する処理は、特に限定されないが、後に相互作用している分子を分離、精製して解析に供することができるように、相互作用状態の保持を必要に応じて解除できることが好ましい。好ましい処理としては、例えば架橋処理が挙げられる。架橋処理に用いる好ましい架橋処理剤としては、例えばホルムアルデヒドが挙げられる。

【0026】
〔第1の実施形態〕
本発明の方法は、以下の工程1~3を含むものであればよい。本発明の方法により、相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま特定ゲノム領域を単離することが可能となる。相互作用状態を保持した特定ゲノム領域が単離できる限り、工程1~3以外の工程を含んでもよく、その内容は限定されない。なお、第1の実施形態の解析対象細胞は、生細胞であることが好ましい。
工程1:ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、細胞内のゲノムDNAとを接触させる工程
工程2:相互作用している分子との相互作用状態を保持している前記細胞内のゲノムDNAを断片化する工程
工程3:前記外来性分子と特異的に結合する分子を、外来性分子が結合しているゲノムDNA断片に結合させて複合体を生成し、当該複合体を回収する工程

【0027】
以下、各工程順に本発明の方法を詳細に説明する。
(1)工程1
工程1は、ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、細胞内のゲノムDNAとを接触させる工程である。
本発明の方法を第1の実施形態で行う場合、外来性分子は1種以上のタグ配列を含む融合分子であることが好ましい。外来性分子がタグ配列を含むことにより、当該外来性分子と特異的に結合する分子を容易に入手することができる。タグ配列は特に限定されず、公知のタグ配列から適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、ヒスチジンタグ、FLAGタグ、Strepタグ、カルモジュリン結合ペプチド、GSTタグ、MBPタグ、Haloタグ、HAタグなどが挙げられる。

【0028】
外来性分子とタグ配列との融合分子は、2種類以上のタグ配列を含んでいてもよい。2種以上のタグ配列は直接連結されていてもよく、プロテアーゼ認識配列やスペーサー配列を介して連結されている構成としてもよい。このような構成とすることにより、当該融合分子が結合したゲノム領域を2段階以上で精製することが可能となるため、非特異的結合に基づくバックグラウンドを大幅に低減することができ、特定ゲノム領域の特異的な単離効率が大幅に向上する。

【0029】
タグ配列を連結するプロテアーゼ認識配列は、タグ配列の切断に通常用いられるプロテアーゼが認識する配列を適宜選択して用いることができる。タグ配列の切断に用いられるプロテアーゼとしては、例えば、タバコエッチウイルス(TEV)プロテアーゼ、ヒトライノウイルス(HRV)プロテアーゼ、エンテロキナーゼ(EK)、トロンビン(Tb)、第Xa因子(Xa)などが知られている。

【0030】
解析対象細胞として真核細胞を用いる場合には、核移行シグナルを含む融合分子とすることが好ましい。当該融合分子が核移行シグナルを有することにより、核内に移行してゲノムDNAと接触することが可能となる。核移行シグナルは公知の核移行シグナルから適宜選択すればよい。具体的には、例えば、SV40T抗原の核移行シグナル、c-Mycの核移行シグナル、p53の核移行シグナル、NF-κBp50の核移行シグナルなどが挙げられる。また、細胞内に取り込まれる性質を持つアミノ酸配列(蛋白質トランスダクションドメイン)を含む融合分子としてもよい。

【0031】
外来性分子が蛋白質である場合、例えば、公知の遺伝子組換え技術により組換え蛋白質として当該外来性分子を製造することができる。すなわち、外来性蛋白質をコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入し、得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入して発現させ、公知の方法で精製すればよい。外来性蛋白質が融合蛋白質の場合は、融合させる各蛋白質をコードするDNAを適宜連結して融合DNAを作製し、これを発現ベクターに挿入すればよい。

【0032】
外来性分子が核酸である場合、例えば、公知の化学合成法、PCR法、in vitro transcription法、reverse transcription法、細胞に組み込んだ遺伝子からの転写等により当該核酸を製造することができる。外来性核酸を融合分子とする場合は、公知の化学合成法を用いることができる。

【0033】
外来性分子を細胞内のゲノムDNAと接触させる方法は特に限定されず、例えば、上述のように公知の遺伝子組換え技術等を用いて得られた外来性蛋白質や外来性核酸を、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション等により、解析対象の細胞に導入する方法が挙げられる。また、外来性分子として、上記の細胞内に取り込まれる性質を持つアミノ酸配列(蛋白質トランスダクションドメイン)を含む融合分子を用いて、解析対象の細胞に直接導入することも可能である。また、外来性分子とは別に、外来性分子と結合する性質を持つアミノ酸配列を融合させた蛋白質トランスダクションドメインを作製し、これを外来性分子と混合して解析対象の細胞に導入することも可能である。

【0034】
また、外来性分子を細胞内で発現させてもよい。この場合は、解析対象細胞を宿主細胞とし、当該細胞で外来性分子を発現可能な発現ベクターを作製して導入すればよい。宿主が原核細胞の場合、発現した外来性分子は細胞質中でゲノムDNAと接触することができる。宿主が真核細胞の場合は、核移行シグナルを含む融合分子を発現させることにより、発現した外来性分子が細胞質から核に移行し、ゲノムDNAと接触することができる。また、外来性分子をコードする遺伝子が発現可能に導入されたトランスジェニック生物を用いることにより、外来性分子を細胞内のゲノムDNAと接触させることもできる。
ゲノムDNAと接触した外来性分子は、標的の内在性DNA配列に結合することができる。

【0035】
(2)工程2
工程2は、相互作用している分子との相互作用状態を保持している前記細胞内のゲノムDNAを断片化する工程である。工程2を行う前にゲノムDNAと、当該ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態を保持する処理を行うことが好ましいが、相互作用状態を保持する処理を行うことなく、工程2を行ってもよい。
ゲノムDNAには、転写因子等のDNA結合蛋白質、DNA、RNAなどの核酸、その他の分子などが細胞周期や外からの刺激等に応じて相互作用しているので、解析目的に合わせたタイミングで、相互作用状態を保持する処理またはゲノムDNAの断片化処理を行うことが好ましい。また、これらの処理を行う前に、必要に応じて細胞に刺激を与えてもよい。なお、断片化処理を効率よく行うために、断片化処理の前に、公知の方法を用いて細胞を溶解または破砕またはクロマチン分画を抽出しておくことが好ましい。
工程2により、外来性分子が結合しているDNA断片と、外来性分子が結合していないDNA断片が生成する。

【0036】
(3)工程3
工程3は、前記外来性分子と特異的に結合する分子を、外来性分子が結合しているDNA断片に結合させて複合体を生成し、当該複合体を回収する工程である。外来性分子は、単離しようとするゲノム領域内またはその近傍に存在する特定の内在性DNA配列部分でゲノムDNAと結合しているので、外来性分子が結合しているDNA断片には目的の特定ゲノム領域が含まれていると考えられる。したがって、外来性分子と特異的に結合する分子が結合して生成した複合体を回収することにより、目的の特定ゲノム領域を単離することができる。

【0037】
工程3で用いる方法は、外来性分子が結合した目的の特定ゲノム領域を含むDNA断片と、外来性分子と特異的に結合する分子との複合体を生成することができ、当該複合体を回収できる方法であれば、どのような方法であってもよい。例えば、外来性分子と特異的に結合する抗体やペプチド、ニッケルイオン等が固定された担体を用いて、複合体を沈降させて回収する方法などが挙げられる。

【0038】
外来性分子として、例えば2種類のタグ配列を含み、両タグ配列がプロテアーゼ認識配列を介して連結されている構成の融合分子を用いた場合には、第1のタグ配列と特異的に結合する分子を結合させて第1の複合体を生成した後、第1の複合体をプロテアーゼで処理してプロテアーゼ認識配列を切断し、続いて第2のタグ配列と特異的に結合する分子を、第1の複合体から遊離したゲノムDNAに結合させて第2の複合体を生成することが好ましい。2段階で複合体を生成することにより、第1のタグ配列と特異的に結合する分子や、これを固定した担体に非特異的に結合する分子がバックグラウンドとして濃縮される不都合を回避でき、特定ゲノム領域の特異的な単離効率が大幅に向上する。

【0039】
なお、2種類のタグ配列がプロテアーゼ認識配列を介して連結されている構成の外来性分子を用いない場合でも、タグ配列と特異的に結合する分子から、複合体を遊離させることによりバックグラウンドを低減させることが可能である。具体的には、例えばタグ配列としてFLAGタグを用いた場合に、FLAGペプチドを加えることにより、抗FLAG抗体と結合した複合体から複合体を遊離させる場合等が挙げられる。

【0040】
図1に従って、本発明の第1の実施形態の一つの具体例を以下に説明する。ただし、本発明の方法は、当該実施形態に限定されるものではない。
(1)図1Aに示すように、解析対象細胞の目的のゲノム領域内またはその近傍に存在し、外来性分子の標的とする内在性DNA配列を決定する。
(2)決定した内在性DNA配列に特異的に結合するTALエフェクター蛋白質を設計する。これと核移行シグナル(NLS: Nuclear localization signal)配列およびFLAGを3回繰り返したタグ配列との融合蛋白質(3×FN-TAL、図1B参照)を発現させるための発現ベクターを作製し、解析対象細胞内で発現可能に導入する。
(3)3×FN-TALの発現ベクターを導入した解析対象細胞に対して、必要に応じで刺激を与える。単離しようとするゲノム領域においてゲノムDNAと相互作用している蛋白質、RNA、DNA、およびその他の分子の相互作用状態を保持させるために、必要に応じてホルムアルデヒド等の架橋剤で細胞を架橋処理する。もちろん、3×FN-TALは、標的の内在性DNA配列と結合している(図1C上段参照)。
(4)細胞を溶解し、相互作用状態を保持しているゲノムDNAを制限酵素等のDNA切断酵素で消化して断片化する。断片化は、超音波処理で行ってもよい。この工程により、3×FN-TALが結合しているDNA断片と、3×FN-TALが結合していないDNA断片が生成する。
(5)3×FN-TALが結合しているDNA断片は、抗FLAG抗体と結合して複合体(免疫沈降複合体)を生成する(図1C下段参照)。
(6)単離した複合体はゲノム領域と相互作用している分子を保持している。したがって、相互作用(架橋)を解除し、蛋白質、RNA、DNA、およびその他の分子を精製してこれらの分子を同定することができる。

【0041】
〔第2の実施形態〕
本発明の方法は、以下の工程I~IIIを含むものであればよい。本発明の方法により、相互作用している分子との相互作用状態を保持したまま特定ゲノム領域を単離することが可能となる。相互作用状態を保持した特定ゲノム領域が単離できる限り、工程I~III以外の工程を含んでもよく、その内容は限定されない。なお、第2の実施形態の解析対象細胞は生細胞に限定されず、組織標本等の細胞も解析対象細胞として好適である。
工程I:相互作用している分子との相互作用状態を保持しているゲノムDNAを断片化する工程
工程II:ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、断片化した前記ゲノムDNAとを接触させる工程
工程III:前記外来性分子に結合したゲノムDNA断片を回収する工程

【0042】
以下、各工程順に本発明の方法を詳細に説明する。
(1)工程I
工程Iは、相互作用している分子との相互作用状態を保持しているゲノムDNAを断片化する工程である。解析対象として生細胞を用いる場合には、工程1を行う前にゲノムDNAと、当該ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態を保持する処理を行うことが好ましいが、相互作用状態を保持する処理を行うことなく、工程1を行ってもよい。生細胞は細胞の細胞周期や外からの刺激等に応じて相互作用している分子が異なると考えられるので、解析目的に合わせたタイミングで、相互作用状態を保持する処理またはゲノムDNAの断片化処理を行うことが好ましい。また、これらの処理を行う前に、必要に応じて細胞に刺激を与えてもよい。
組織標本等の細胞を解析対象とする場合には、ゲノムDNAと相互作用している分子との相互作用状態は保持されていると考えられるので、通常改めて相互作用状態を保持する処理を行うことは要しない。
いずれの細胞を解析対象とする場合も、断片化処理を効率よく行うために、断片化処理の前に、公知の方法を用いて細胞を溶解または破砕またはクロマチン分画を抽出しておくことが好ましい。

【0043】
(2)工程II
工程IIは、ゲノムDNA中の特定の内在性DNA配列に結合する外来性分子と、断片化した前記ゲノムDNAとを接触させる工程である。外来性分子は、工程Iで調製した断片化ゲノムDNAと接触させる前に、予め担体に固定化されていることが好ましい。あるいは、外来性分子と断片化ゲノムDNAと接触させた後に、外来性分子を担体に固定化してもよい。外来性分子を担体に固定化することにより、外来性分子が結合する内在性DNA配列を含むDNA断片のみを担体に結合させることができる。外来性分子は、第1の実施形態において説明した方法で製造することができる。

【0044】
外来性分子を固定化する担体は、蛋白質または核酸を固定化できる担体であれば特に限定されない。例えば、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、メタアクリレート、ラテックス、アガロース、セルロース、デキストラン、デンプン、デキストリン、シリカゲル、多孔性セラミックス等の素材できたビーズ、マグネチックビーズ、ディスク、スティック、チューブ、マイクロタイタープレート、マイクロセンサーチップ、マイクロアレイ等が挙げられる。外来性分子の担体への固定化方法は、物理的吸着、共有結合、架橋等の公知の方法を適宜選択して用いることができる。

【0045】
(3)工程III
工程IIIは、前記外来性分子に結合したゲノムDNA断片を回収する工程である。外来性分子は、単離しようとするゲノム領域内またはその近傍に存在する特定の内在性DNA配列部分でゲノムDNAと結合するので、外来性分子に結合したゲノムDNA断片には目的の特定ゲノム領域が含まれていると考えられる。したがって、外来性分子に結合したゲノムDNA断片を回収することにより、目的の特定ゲノム領域を単離することができる。

【0046】
工程IIおよびIIIで用いる具体的な方法は特に限定されない。例えば、外来性分子を固定化した担体をカラムに詰めて、ここに工程Iで調製したDNA断片を通し、外来性分子に目的のゲノムDNA領域を結合させた後、カラムを洗浄し、その後、目的のゲノムDNA領域を溶出させることで回収する方法が挙げられる。あるいは、外来性分子を固定化した担体を入れたチューブに工程Iで調整したDNA断片を加え、撹拌操作等により外来性分子と目的のゲノムDNA領域を接触させ、その後、担体を洗浄した後、目的のゲノムDNA領域を溶出して回収する方法が挙げられる。

【0047】
図2に、本発明の第2の実施形態の一つの具体例を示す。ただし、本発明の方法は、当該実施形態に限定されるものではない。以下、図2に従って、本発明の第2の実施形態の一例を説明する。
(1)図2Aに示すように、解析対象細胞の目的のゲノム領域内またはその近傍に存在し、外来性分子の標的とする内在性DNA配列を決定する。
(2)決定した内在性DNA配列に特異的に結合するTALエフェクター蛋白質を設計し、これにタグを付けた組み換え蛋白質として取得する。タグは、例えばプロメガ社製のHaloTag(登録商標)である。これをプロメガ社製のHaloLink Magnetic Beads(商品名)に共有結合により固定化する(TAL-conjugated beads、図2B参照)。あるいは、タグは、例えばGSTタグである。これをGEヘルスケア社製のGlutathione Sepharose 4Bにアフィニティー結合により固定化する。
(3)解析対象細胞に対して、必要に応じて刺激を与える。単離しようとするゲノム領域においてゲノムDNAと相互作用している蛋白質、RNA、DNA、およびその他の分子の相互作用状態を保持させるために、必要に応じてホルムアルデヒド等の架橋剤で細胞を架橋処理する(図2C上段参照)。
(4)細胞を溶解し、相互作用状態を保持しているゲノムDNAを制限酵素等のDNA切断酵素で消化して断片化する。断片化は、超音波処理で行ってもよい。この工程により、TAL-conjugated beadsが結合する内在性DNA配列を含むDNA断片と、これを含まないDNA断片が生成する。
(5)TAL-conjugated beadsが結合する内在性DNA配列を含むDNA断片は、TAL-conjugated beadsと結合する(図2C下段参照)。
(6)TAL-conjugated beadsを回収することにより目的のゲノム領域を単離することができる。単離したゲノム領域は相互作用している分子を保持している。したがって、相互作用(架橋)を解除し、蛋白質、RNA、DNA、およびその他の分子を精製してこれらの分子を同定することができる。

【0048】
〔単離した特定ゲノム領域の利用〕
本発明の方法により単離した特定ゲノム領域は、ゲノム機能発現の分子機構解析のための試料として非常に有用である。すなわち、単離した特定ゲノム領域には、ゲノムDNAと相互作用している分子(蛋白質、DNA、RNAなど)の相互作用状態が保持されているので、相互作用している分子を同定し、その機能を推定することが可能となり、ゲノム機能発現の分子機構解析に大きな貢献をもたらすことが期待できる。

【0049】
単離した特定ゲノム領域において相互作用している分子の同定は、公知の方法を適宜組み合わせて行えばよく、特に限定されない。例えば、相互作用状態の保持を解除して、相互作用している分子を分離、精製し、公知の同定方法を適用することで行うことができる。相互作用状態を保持する処理がホルムアルデヒドを用いた架橋処理の場合には、高濃度の塩溶液(5M NaCl溶液など)を添加して適当な温度で適当な時間(例えば約65℃で一夜)インキュベートすることにより架橋を解除することができる。公知の同定方法としては、対象が蛋白質の場合には、例えば、質量分析、免疫ブロット、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)などが挙げられ、対象がDNAまたはRNAの場合には、例えば、塩基配列解析、マイクロアレイ解析、PCR(polymerase chain reaction)などが挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
〔実施例1:テロメア領域の単離〕
(1)解析用細胞の作製
テロメアリピート(TTAGGG)を認識するTALエフェクター蛋白質を発現する細胞を作製した。TAGGGTTAGGGTTAGGGTT(配列番号1)のテロメアリピートを含む19-merの二本鎖DNA(TAGGGTTAGGGTTAGGGTT:配列番号1)に結合するTelomere-TALをコードするDNAを合成した。合成はライフテクノロジーズ社に委託した。Telomere-TALに3×FLAGタグおよび核移行シグナル(NLS)を融合した蛋白質3×FN-Tel-TAL(配列番号2)を発現するレトロウイルスベクター3×FN-Tel-TAL/pMXs-puroを作製し、マウス血球系細胞株Ba/F3に感染させ、ピューロマイシンセレクションにより、感染細胞のみを選別した。3×FN-Tel-TAL蛋白質のアミノ酸配列を配列番号2に示した。
陰性対照細胞は以下のようにして作製した。3×FLAGタグ、NLSおよび細菌のLexA蛋白質からなる融合蛋白質3×FNLDD(Fujita and Fujii. Adv. Biosci. Biotechnol. 3, 626-629 (2012))を発現するレトロウイルスベクター3×FNLDD/pMXs-puroをBa/F3細胞に感染させ、ピューロマイシンセレクションにより、感染細胞のみを選別した。
【実施例】
【0052】
3×FN-Tel-TAL蛋白質と3×FNLDD蛋白質の発現を、FLAGタグに対する抗体(シグマ-アルドリッチ社製、フルオレセインイソチオシアネート結合anti-FLAG M2、F4049)を用いて細胞内染色を行い、フローサイトメトリーによって検出した。結果を図3に示した。図中、Ba/F3(左)は宿主細胞のみ、3×FNLDD(中)は3×FNLDD蛋白質発現細胞、3×FN-Tel-TAL(右)は3×FN-Tel-TAL蛋白質発現細胞の結果である。図3からわかるように、3×FN-Tel-TAL蛋白質と3×FNLDD蛋白質の発現レベルは、同程度であった。
【実施例】
【0053】
(2)特定ゲノム領域の単離
(a) インターロイキン3含有RPMI完全培地30mL中に2×107個の細胞を含む細胞懸濁液に810μLの37%ホルムアルデヒドを添加して37℃で5分間置き細胞を架橋処理した。続いて、1.25Mグリシン溶液を3 mL添加して室温で10分間置き、中和した。
(b) 遠心分離(1.3 krpm、5分間、4℃)により細胞を氷冷PBSで2回洗浄した後、10 mLの細胞溶解バッファー(10 mM Tris (pH8.0)、1 mM EDTA、0.5% IGEPAL CA-630、プロテアーゼインヒビターカクテル)に懸濁した。氷上で10分間置いた後、遠心分離 (2.0 krpm、8分間、4℃)後、上清を捨て、ペレットを10 mLの核溶解バッファー(10 mM Tris (pH8.0)、1 mM EDTA、0.5M NaCl、1% Trion X-100、0.5% sodium deoxycholate、0.5% lauroylsarcosine salt、プロテアーゼインヒビターカクテル)に懸濁し、2~3分おきにボルテックスをかけながら氷上で10分間置いた。遠心分離(2.0 krpm、8分間、4℃)後、上澄みを捨て、氷冷PBSを用いて洗浄したペレットをクロマチン分画とした。
【実施例】
【0054】
(c) クロマチン分画を800μLの溶解バッファー3(10 mM Tris (pH8.0)、1 mM EDTA、0.5 mM EGTA、150mM NaCl、0.1% sodium deoxycholate、0.1% SDS、プロテアーゼインヒビターカクテル)に懸濁し、架橋されたゲノムDNAを超音波処理により断片化した(超音波発生機:TOMY SEIKO社製、Ultrasonic disruptor UD-201、output: 3、Duty: 100%、10 sec x 6 with 20 sec intervals を2分間の間隔を空けて3セット(計18回))。
(d) 遠心分離(1.3 krpm、10分間、4℃)して上清800μLを回収した。このうち、160μL(4×106細胞相当)に240μLの溶解バッファー3、50μLの10% Triton X-100を含んだ溶解バッファー3、50μLの10×プロテアーゼインヒビター溶液を加えて、500μLとした。続いて、対照IgGを結合させたDynabeadsを用いて、プレクリアー操作を行い、非特異的結合物を除いた。次いで、抗FLAG抗体M2(シグマ-アルドリッチ社製、anti-FLAG M2、F1804)を結合させたDynabeadsを用いて、免疫沈降した。
【実施例】
【0055】
(e) 洗浄後、免疫沈降物複合体を300μLのTEに懸濁し、架橋除去後、RNase AおよびProteinase K処理を行い、次いでフェノール/クロロフォルム処理によって、DNAを精製した。
(f) 得られたDNAをサザンブロット解析に用いた。テロメアDNAの検出には、Roche社製Telo TAGGG Telomerase Length Assay kit(12209136001)を用いた。
【実施例】
【0056】
サザンブロット解析の結果を図4(A)および(B)に示した。(A)および(B)は再現性を確認した結果である。図4(A)および(B)から明らかなように、免疫沈降を行った2種類のサンプル中、3×FN-Tel-TALを用いた場合のみ、免疫沈降物複合体からテロメアDNAが検出された。この結果から、3×FN-Tel-TALを用いた免疫沈降により、テロメア領域が回収できることが明らかとなった。
【実施例】
【0057】
(3)単離したテロメア領域に含まれる蛋白質の同定
(g) 上記(a)~(d)と同様の操作により、免疫沈降物を得た。免疫沈降には、300μLのDynabeadsと、30μLの抗体を用いた。免疫沈降物に200μLの3×FLAGペプチド溶液(シグマ-アルドリッチ社製、F4799、0.5 mg/mL)を加えて37℃、20分間インキュベートすることでビーズから溶出した。イソプロパノールを用いて溶出した免疫沈降物を沈殿させ、40μLの2×SDSサンプルバッファーに懸濁して100℃、30分間インキュベートし、蛋白質の変性と架橋の解除を同時に行った。
(h) 次いで、4-20%SDS-PAGEゲルで、サンプルが1.5 cm程ゲル内に入るまで電気泳動し、クマシーブリリアントブルー (CBB) 染色した後、5分割して質量分析解析を行った。
【実施例】
【0058】
3×FNLDDと比較して相対的に3×FN-Tel-TALに多く検出された蛋白質には、既知のテロメア結合蛋白質、他のテロメア結合蛋白質に結合することが知られている蛋白質、遺伝学的解析からテロメア機能に関与することが示されている蛋白質が多数含まれていた(表1参照)。この結果から、本発明の方法により、特定ゲノム領域の配列に特異的に結合する蛋白質をクロマチン複合体として単離し、質量分析により同定できることが示された。
【実施例】
【0059】
【表1】
JP0005954808B2_000002t.gif
【実施例】
【0060】
(4)単離したテロメア領域に含まれるRNAの同定
(i) 上記(a)~(e)と同様の操作により、免疫沈降物を得た。全てのバッファーにRNasin Plus(プロメガ社)を加えた。Proteinase K処理後に、Isogen II(ニッポンジーン社)を用いてRNAを精製した。
(j) 次いで、TITANIUM One-Step RT-PCR(クローンテック社)を用いてRT-PCRを行い、テロメラーゼRNAの検出を試みた。RT-PCRに用いたプライマーは5’-CCGGCGCCCCGCGGCTGACAGAG-3’(配列番号3)(逆転写用)、5'-GCTGTGGGTTCTGGTCTTTTGTTC-3'(配列番号4)、5’-GCGGCAGCGGAGTCCTAAG-3’(配列番号5)である。
【実施例】
【0061】
RT-PCRの結果を図5に示した。図5から明らかなように、3×FN-Tel-TALを用いた場合に特異的に、テロメレラーゼRNAが検出された。この結果から、本発明の方法により、特定ゲノム領域の配列に特異的に結合するRNAをクロマチン複合体として単離し、RT-PCRにより定量することができることが示された。
【実施例】
【0062】
〔実施例2:Sox2遺伝子プロモーター領域の単離〕
(1)解析用細胞の作製
ヒトSox2遺伝子プロモーター領域に存在する塩基配列(TTATTCCCTGACA、配列番号6)を認識するTALエフェクター蛋白質を発現する細胞を作製した。上記配列(配列番号6)を認識するTALエフェクター蛋白質をコードするDNAをAddgeneより購入した(Addgene #35388)。この蛋白質に3×FLAGタグおよび核移行シグナル(NLS)を融合した蛋白質3×FN-Sox2-TALを発現するプラスミドベクターを作製し、ヒト胎児腎細胞293Tにトランスフェクションし、3×FN-Sox2-TAL発現細胞を作製した。
陰性対照として、以下の細胞を作製した。ヒトKLF4遺伝子プロモーター領域に存在する塩基配列(TCTTACTTATAAC、配列番号7)を認識するTALエフェクター蛋白質をコードするDNA(Addgene #35389)およびサイトメガウイルスのプロモーター領域に存在する塩基配列(ACCACTCACTATA、配列番号8)を認識するTALエフェクター蛋白質をコードするDNA(Addgene #27970)をそれぞれAddgeneより購入し、同様の操作を行って、各蛋白質(3×FN-KLF4-TAL、3×FN-CMV-TAL8)発現細胞を作製した。
【実施例】
【0063】
これらの各TALエフェクター蛋白質の発現を、FLAGタグに対する抗体(シグマ-アルドリッチ社製、anti-FLAG M2、F1804)を用いてウエスタンブロットにより検出した。結果を図6に示した。図6からわかるように、TALエフェクター蛋白質の発現は、いずれも同程度であった。
【実施例】
【0064】
(2)特定ゲノム領域の単離
(a) DMEM完全培地30 mL中に1.5×107個の細胞を含む細胞懸濁液に810μLの37%ホルムアルデヒドを添加して37℃で5分間置き、細胞を架橋処理した。続いて、1.25Mグリシン溶液を3 mL添加して室温で10分間置き、中和した。
(b)~(d) 実施例1の(2)(b)~(d)と同様の操作を行い、解析対象領域であるSox2プロモーター領域を免疫沈降した。
(e) 洗浄後、免疫沈降物に40μLの3×FLAGペプチド溶液(シグマ-アルドリッチ社製、F4799、0.5 mg/mL)を加えて37℃、30分間インキュベートすることでビーズから溶出した。溶出した免疫沈降物を60μLのTEに懸濁し、RNase AおよびProteinase K処理、ならびに架橋除去後、ChIP DNA Clean & Concentrator-Capped column(ZYMO RESEARCH社製、D5205)を用いてDNAを精製した。
(f) 得られたDNAを用いてリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRに用いたプライマーは、5’-ATTGGTCGCTAGAAACCCATTTATT-3’(配列番号9)、5’-CTGCCTTGACAACTCCTGATACTTT-3’(配列番号10)であり、ヒトSox2遺伝子プロモーター領域内の3×FN-Sox2-TAL認識配列(TTATTCCCTGACA、配列番号6)を挟むように設計した(図7参照)。
【実施例】
【0065】
リアルタイムPCRの結果を図8に示した。図8から明らかなように、3×FN-Sox2-TALを用いた場合、陰性対照と比較し、2.5~3倍程度Sox2プロモーター領域の濃縮が見られた。この結果から、3×FN-Sox2-TALを用いた免疫沈降により、Sox2プロモーター領域が回収できることが明らかとなった。以上の結果から、細胞あたり1あるいは2コピーの解析対象ゲノム領域についても、本発明の方法を応用できることが示唆された。
【実施例】
【0066】
〔実施例3:不活性型Cas9蛋白質とRNAの複合体(CRISPR系)を用いたIRF-1遺伝子座の単離〕
本実施例のスキームを図9に示した。
(1)解析用CRISPR系の作製
SV40 T抗原由来の核移行シグナルを含むCas9 D10A変異体をコードするプラスミドをAddgeneより購入した(Addgene #41816)。これを基に、H840A変異を導入して、酵素活性を持たないCas9変異体(dCas9)を作製した。dCas9のコーディング配列をp3XFLAG-CMV-7.1(シグマ-アルドリッチ社)に組み込み、3×FLAGタグ付きのdCas9蛋白質を発現するベクター3×F-dCas9/pCMV-7.1を作製した。ヒト胎児腎由来の293T細胞に3×F-dCas9/pCMV-7.1を一過性にトランスフェクトして、3×F-dCas9を発現させた。また、3×FNLDD/pCMV-7.1を293T細胞に一過性にトランスフェクトして、3×F-dCas9を発現させたものと比較した。
各細胞から核抽出物を調製し、3×F-dCas9の発現および3×FNLDDの発現を、FLAGタグに対する抗体(シグマ-アルドリッチ社製、anti-FLAG M2、F1804)を用いてウエスタンブロットにより検出した。結果を図10に示した。図中(-)は宿主細胞のみを表す。下段のCBB染色像から、各レーンのサンプル量が同じであることがわかる。ウエスタンブロットの結果から、3×F-dCas9の発現および3×FNLDDの発現は同程度であった。
【実施例】
【0067】
次に、Mali et al., Science (2013) 339: 823-826に従って、ヒトIRF-1遺伝子座に存在する5'-CCGGGGGCGCTGGGCTGTCCCGG-3'配列(配列番号11)に対応するgRNAの発現ベクターを構築した。二つのオリゴヌクレオチド5'-TTTCTTGGCTTTATATATCTTGTGGAAAGGACGAAACACCGCGGGGGCGCTGGGCTGTCC-3'(配列番号12)と5'-GACTAGCCTTATTTTAACTTGCTATTTCTAGCTCTAAAACGGACAGCCCAGCGCCCCCGC-3'(配列番号13)をアニールさせ、Phusionポリメラーゼ(ニューイングランドバイオラブズ社)を用いて、100ベースペアの二重鎖DNA断片を合成した。アガロース電気泳動により、この断片を精製し、ギブソンアセンブリー法キット(ニューイングランドバイオラブズ社)を用いて、gRNAクローニングベクター(Addgene #41824)と結合させ、gRNAを発現するgRNA-hIRF-1 #12を作製した。
【実施例】
【0068】
(2)ヒトIRF-1遺伝子座の単離
(a) 上記3×F-dCas9/pCMV-7.1とgRNA-hIRF-1 #12を、ヒト胎児腎由来の293T細胞3×106個にリポフェクタミン2000(インビトロジェン社)を用いて導入した。トランスフェクションの翌日に、細胞を播き直し、更に翌日に、DMEM完全培地30 mL中の細胞に810μLの37%ホルムアルデヒドを添加して37℃で5分間置き、細胞を架橋処理した。続いて、1.25Mグリシン溶液を3 mL添加して室温で10分間置き、中和した。
(b)~(d) 実施例1の(2)(b)~(d)と同様の操作を行い、解析対象領域であるIRF-1領域を免疫沈降した。
(e) 洗浄後、免疫沈降物複合体を285μLのTEに懸濁し、12μLの5M NaClを加えて65℃で終夜処理し、架橋除去後、RNase AおよびProteinase K処理を行い、次いでフェノール/クロロフォルム処理によって、DNAを精製した。
(f) 得られたDNAを用いてリアルタイムPCRを行った。リアルタイムPCRに用いたプライマーは、5'-CGCCTGCGTTCGGGAGATATAC-3'(配列番号14)、5'-CTGTCCTCTCACTCCGCCTTGT-3'(配列番号15)であり、ヒトIRF-1遺伝子座の標的DNA配列近傍に設計した。また、無関係な領域であるSox2遺伝子座の定量のため、配列番号9および10のプライマーを用いた。
【実施例】
【0069】
リアルタイムPCRの結果を図11に示した。図11から明らかなように、陰性対照では、ほとんどIRF-1遺伝子座が濃縮されなかったのに対して、3×F-dCas9とgRNA-hIRF-1 #12とを用いた場合、インプットに対して7.7%もの濃縮が認められた。また、関係のないSox2遺伝子座は全く濃縮されなかった。この結果から、3×F-dCas9とgRNAを用いた免疫沈降により、標的遺伝子座が特異的かつ効率的に回収できることが明らかとなった。以上の結果から、細胞あたり1あるいは2コピーの解析対象ゲノム領域についても、本発明の方法を応用できることが示唆された。
【実施例】
【0070】
(3)単離したIRF-1領域に含まれる蛋白質の同定
(g) 上記(a)~(d)と同様の操作により、免疫沈降物を得た。免疫沈降には、300μLのDynabeadsと、30μLの抗体を用いた。免疫沈降物に200μLの3×FLAGペプチド溶液(シグマ-アルドリッチ社製、F4799、0.5 mg/mL)を加えて37℃、20分間インキュベートすることでビーズから溶出した。イソプロパノールを用いて溶出した免疫沈降物を沈殿させ、40μLの2×SDSサンプルバッファーに懸濁して100℃、30分間インキュベートし、蛋白質の変性と架橋の解除を同時に行った。
(h) 次いで、4-20%SDS-PAGEゲルで、サンプルが1.0 cm程ゲル内に入るまで電気泳動し、クマシーブリリアントブルー染色した後、5分割して質量分析解析を行った(図12参照)。
【実施例】
【0071】
検出された蛋白質には、ヒストン等の既知のクロマチン構成蛋白質、ヒストン結合蛋白質、代謝酵素蛋白質、RNAヘリカーゼ等が多数含まれていた(表2参照)。この結果から、本発明の方法により、特定ゲノム領域の配列に結合する蛋白質をクロマチン複合体として単離し、質量分析により同定できることが示された。
【実施例】
【0072】
【表2】
JP0005954808B2_000003t.gif
【実施例】
【0073】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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