TOP > 国内特許検索 > 新規の脱分化誘導方法を用いた多能性幹細胞化 > 明細書

明細書 :新規の脱分化誘導方法を用いた多能性幹細胞化

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年1月12日(2017.1.12)
発明の名称または考案の名称 新規の脱分化誘導方法を用いた多能性幹細胞化
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12N  15/00        (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  35/12        (2015.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  35/545       (2015.01)
FI C12N 5/00 102
C12N 15/00 G
C12N 15/00 ZNA
A61K 31/7105
A61P 35/00
A61K 35/12
A61K 48/00
A61K 35/545
国際予備審査の請求
全頁数 34
出願番号 特願2014-553063 (P2014-553063)
国際出願番号 PCT/JP2013/082399
国際公開番号 WO2014/097875
国際出願日 平成25年12月2日(2013.12.2)
国際公開日 平成26年6月26日(2014.6.26)
優先権出願番号 2012278330
優先日 平成24年12月20日(2012.12.20)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】三浦 典正
出願人 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001139、【氏名又は名称】SK特許業務法人
【識別番号】100130328、【弁理士】、【氏名又は名称】奥野 彰彦
【識別番号】100130672、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 寛之
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B065
4C084
4C086
4C087
Fターム 4B024AA01
4B024CA11
4B024DA02
4B024EA02
4B024EA04
4B024FA10
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB261
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC41
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZC41
要約 新規の多能性幹細胞の作製方法、又は悪性腫瘍の治療薬を取得すること。
miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞を脱分化誘導する方法を用いる。又は、上miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、悪性腫瘍の治療薬を用いる。
特許請求の範囲 【請求項1】
miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞を脱分化誘導する方法。
【請求項2】
前記miR-520d-5p被制御遺伝子は、ELAVL2、TEAD1、GATAD2B、SBF2、PUM2、NBEA、UBE2E3、CPEB3、GNAO1、WNK1、MEF2A、SEH1L、HOOK3、KLHL23、PAPOLG、JAZF1、JAG1、CPEB2、ZCRB1、ZFC3H1、ZEB2、EPHA7、UBN2、PELI2、PRKD3、及びFCHO2からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記阻害は、miR-520d-5p被制御遺伝子のmRNAに対するRNAi分子による阻害である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記阻害は、ELAVL2 mRNA、TEAD1 mRNA、GATAD2B mRNA、SBF2 mRNA、PUM2 mRNA、NBEA mRNA、UBE2E3 mRNA、CPEB3 mRNA、GNAO1 mRNA、WNK1 mRNA、MEF2A mRNA、SEH1L mRNA、HOOK3 mRNA、KLHL23 mRNA、PAPOLG mRNA、JAZF1 mRNA、JAG1 mRNA、CPEB2 mRNA、ZCRB1 mRNA、ZFC3H1 mRNA、ZEB2 mRNA、EPHA7 mRNA、UBN2 mRNA、PELI2 mRNA、PRKD3 mRNA、及びFCHO2 mRNAからなる群から選ばれる1種以上のmRNAに対するRNAi分子による阻害である、請求項1~3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の方法で細胞を脱分化誘導する工程を含む、多能性幹細胞の生産方法。
【請求項6】
請求項5に記載の生産方法を経て得られる、多能性幹細胞又は多能性幹細胞集団。
【請求項7】
請求項6に記載の多能性幹細胞を培養する工程を経て得られる、再生医療用材料。
【請求項8】
miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、悪性腫瘍の治療薬。
【請求項9】
前記miR-520d-5p被制御遺伝子は、ELAVL2、TEAD1、GATAD2B、SBF2、PUM2、NBEA、UBE2E3、CPEB3、GNAO1、WNK1、MEF2A、SEH1L、HOOK3、KLHL23、PAPOLG、JAZF1、JAG1、CPEB2、ZCRB1、ZFC3H1、ZEB2、EPHA7、UBN2、PELI2、PRKD3、及びFCHO2からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子である、請求項8に記載の治療薬。
【請求項10】
前記阻害剤は、miR-520d-5p被制御遺伝子のmRNAに対するRNAi分子、又はそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドである、請求項8又は9に記載の治療薬。
【請求項11】
前記阻害剤は、ELAVL2 mRNA、TEAD1 mRNA、GATAD2B mRNA、SBF2 mRNA、PUM2 mRNA、NBEA mRNA、UBE2E3 mRNA、CPEB3 mRNA、GNAO1 mRNA、WNK1 mRNA、MEF2A mRNA、SEH1L mRNA、HOOK3 mRNA、KLHL23 mRNA、PAPOLG mRNA、JAZF1 mRNA、JAG1 mRNA、CPEB2 mRNA、ZCRB1 mRNA、ZFC3H1 mRNA、ZEB2 mRNA、EPHA7 mRNA、UBN2 mRNA、PELI2 mRNA、PRKD3 mRNA、及びFCHO2 mRNAからなる群から選ばれる1種以上のmRNAに対するRNAi分子、又はそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドである、請求項8~10いずれかに記載の治療薬。
【請求項12】
生体内で悪性腫瘍細胞を脱分化方向へ誘導する、請求項8~11いずれかに記載の治療薬。
【請求項13】
miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、脱分化誘導剤。
【請求項14】
miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、多能性幹細胞誘導剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を脱分化誘導する方法、多能性幹細胞の生産方法、又は悪性腫瘍の治療薬等に関する。
【背景技術】
【0002】
多能性幹細胞の作製技術は、近年の医療業界で特に注目されている分野である。代表的な多能性幹細胞の作製技術としては、特許文献1に記載の方法が挙げられる。この文献には、4つの遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2、c-Myc)を細胞に導入することで多能性幹細胞を作製したことが記載されている。この細胞はiPS細胞と称され、この技術が開発された頃から、多能性幹細胞に関連する研究成果の報告数は急速に増えている。例えば、特許文献2には、3つの遺伝子(Oct3/4、Klf4、Sox2)と、1つのmiRNA(hsa-miR-372等)を細胞に導入することで多能性幹細胞を作製したことが記載されている。非特許文献1には、上記の4つまたは3つの遺伝子を導入する場合に多能性幹細胞化させる細胞のp53遺伝子を欠損させておくと、多能性幹細胞の作製効率が上昇したことが記載されている。特許文献3及び4には、特定のRNA鎖(miR-520d-5p等)を細胞に導入することで多能性幹細胞を作製したことが記載されている。
【0003】
一方で、近年、製薬会社が特に資金を投入している分野は、悪性腫瘍分野である。悪性腫瘍は罹患メカニズムが複雑で不明な点が多く、他の疾患に比べて有効な治療薬が少ない。そのような中、本願発明者は非特許文献2において、癌のバイオマーカーとしてhTERT mRNAを適用できることを報告している。また、上記特許文献3及び4において、特定のRNA鎖が悪性腫瘍の治療に使用できることを報告している。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】国際公開第2007/069666号
【特許文献2】国際公開第2009/075119号
【特許文献3】国際公開第2012/008301号
【特許文献4】国際公開第2012/008302号
【0005】

【非特許文献1】'Suppression of induced pluripotent stem cell generation by the p53-p21 pathway.' Hong et al., Nature. 2009 Aug 27;460(7259):1132-5. Epub 2009 Aug 9.
【非特許文献2】'A novel biomarker TERT mRNA is applicable for early detection of hepatoma.' Miura et al., BMC Gastroenterol. 2010 May 18;10:46.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように多能性幹細胞の作製に成功した事例は存在するが、治療用途として当局から製造販売承認を得た製品は存在しない。これは、多能性幹細胞の作製手法が限られているために、研究がなかなか前進しないことに起因している。なお、数少ない手法の中から明らかな副作用(例えば、c-Mycによる培養初期の癌化等)が確認されたものを除くと、有効な手法はさらに限られてくる。
【0007】
また、上記文献において悪性腫瘍のメカニズムが徐々に明らかになってきているが、それだけでは十分とはいえず、悪性腫瘍は今後も人の死亡原因の上位に位置すると考えられる。そのため、悪性腫瘍に対する新規の医薬品または治療戦略立案のために、新しい抗悪性腫瘍物質を明らかにし、悪性腫瘍に関する情報を蓄積していく必要がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、新規の脱分化誘導方法、多能性幹細胞の生産方法、又は悪性腫瘍の治療薬等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者は、後述する実施例に記載のように、正常細胞又は悪性腫瘍細胞におけるELAVL2の発現を阻害すると、細胞が脱分化し多能性幹細胞化することを見いだした。さらには、得られた多能性幹細胞をマウスに皮下移植したところ、4ヵ月以上の長期にわたって悪性腫瘍の形成が見られなかった。このことから、本発明者の見いだした手法は、安全性に非常に優れていることが明らかになった。
【0010】
また、本発明者は、正常細胞又は悪性腫瘍細胞におけるTEAD1、GATAD2Bの発現阻害も試みた。その結果、この場合も、細胞が脱分化し多能性幹細胞化していた。そして、これらの遺伝子は、いずれもmiR-520d-5pによって発現が制御され得る遺伝子であった。これらの遺伝子と同様にmiR-520d-5pによって発現が制御され得る遺伝子としては、他にSBF2等が存在する。
【0011】
即ち本発明の一態様によれば、miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞を脱分化誘導する方法が提供される。
【0012】
また本発明の一態様によれば、上記の方法で細胞を脱分化誘導する工程を含む、多能性幹細胞の生産方法が提供される。また本発明によれば、上記の生産方法を経て得られる、多能性幹細胞又は多能性幹細胞集団が提供される。また本発明によれば、上記多能性幹細胞を培養する工程を経て得られる、再生医療用材料が提供される。
【0013】
また本発明の一態様によれば、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、悪性腫瘍の治療薬が提供される。
【0014】
また本発明の一態様によれば、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、脱分化誘導剤が提供される。
【0015】
また本発明の一態様によれば、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、多能性幹細胞誘導剤が提供される。
【0016】
また本発明の一態様によれば、上記miR-520d-5p被制御遺伝子は、ELAVL2、TEAD1、GATAD2B、SBF2、PUM2、NBEA、UBE2E3、CPEB3、GNAO1、WNK1、MEF2A、SEH1L、HOOK3、KLHL23、PAPOLG、JAZF1、JAG1、CPEB2、ZCRB1、ZFC3H1、ZEB2、EPHA7、UBN2、PELI2、PRKD3、及びFCHO2からなる群から選ばれる1種以上の遺伝子であってもよい。また本発明の一態様によれば、上記阻害は、miR-520d-5p被制御遺伝子のmRNAに対するRNAi分子による阻害であってもよい。また本発明の一態様によれば、上記阻害剤は、miR-520d-5p被制御遺伝子のmRNAに対するRNAi分子、又はそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、新規手法により脱分化誘導、多能性幹細胞の生産、又は悪性腫瘍の治療等を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例に係る多能性幹細胞を顕微鏡によって観察した結果を示している。
【図2】図2は、実施例に係る多能性幹細胞の遺伝子発現プロフィールを転写レベルで評価した結果を示している。
【図3】図3は、実施例に係るELAVL2 siRNA導入HLF細胞について、ELAVL2の発現抑制率を調べた結果を示している。
【図4】図4は、実施例に係る多能性幹細胞の遺伝子発現プロフィールを翻訳レベルで評価した結果を示している。
【図5】図5は、実施例に係る多能性幹細胞の蛋白質レベルを細胞免疫染色で観察した結果を示している。
【図6】図6は、実施例に係る多能性幹細胞の増殖形態を観察した結果を示している。
【図7】図7は、実施例に係る多能性幹細胞にAP染色を行った結果を示している。
【図8】図8は、実施例に係る多能性幹細胞をマウスに移植した結果を示している。
【図9】図9は、実施例に係るELAVL2に対してレポーターアッセイを行った結果を示している。
【図10】図10は、実施例に係るELAVL2 siRNAが導入されたHLF細胞について、ELAVL2の発現抑制率を調べた結果を示している。
【図11】図11は、実施例に係るTEAD1 siRNAが導入されたHLF細胞について、TEAD1の発現抑制率を調べた結果を示している。
【図12】図12は、実施例に係るGATAD2B siRNAが導入されたHLF細胞について、GATAD2Bの発現抑制率を調べた結果を示している。
【図13】図13は、実施例に係るELAVL2 siRNA、TEAD1 siRNA、又はGATAD2B siRNAが導入されたHLF細胞について、DNA methylationレベルを調べた結果を示している。
【図14】図14は、実施例に係るELAVL2 siRNA、TEAD1 siRNA、又はGATAD2B siRNAが導入されたHuh7細胞について、DNA methylationレベルを調べた結果を示している。

【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、同様な内容については繰り返しの煩雑を避けるために、適宜説明を省略する。
【0020】
本発明の一実施形態は、新規の脱分化誘導方法である。この方法は、例えば、miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞を脱分化誘導する方法である。この方法によれば、後述する実施例で実証されているように、細胞の脱分化を誘導し、多能性幹細胞を作製することができる。上記阻害は、例えば、miR-520d-5p被制御遺伝子のmRNAに対するRNAiによって行なうことができる。
【0021】
本発明の一実施形態において「miR-520d-5p被制御遺伝子」は、miR-520d-5pによって発現が制御される遺伝子である。miR-520d-5p被制御遺伝子は、例えば、3'UTRにmiR-520d-5pの結合部位を有していてもよい。miR-520d-5p被制御遺伝子は、細胞の脱分化をより安定的に生じさせる観点からは、ELAVL2、TEAD1、GATAD2B、SBF2、PUM2、NBEA、UBE2E3、CPEB3、GNAO1、WNK1、MEF2A、SEH1L、HOOK3、KLHL23、PAPOLG、JAZF1、JAG1、CPEB2、ZCRB1、ZFC3H1、ZEB2、EPHA7、UBN2、PELI2、PRKD3、及びFCHO2からなる群から選ばれる1種以上(以下「ELAVL2等の1種以上」と称することもある)であることが好ましい。またmiR-520d-5p被制御遺伝子は、生体への安全性の観点からは、ELAVL2、TEAD1、又はGATAD2Bであることが好ましい。なお、上記制御は、抑制又は阻害を含む。
【0022】
なお、ELAVL2等に関する塩基配列等の詳細はHGNC(HUGO Gene Nomenclature Committee)又はNCBI(National Center for Biotechnology Information)のWEBサイトから見ることができる。HGNCに記載されているHGNC IDは、ELAVL2がHGNC:3313、TEAD1がHGNC:11714、GATAD2BがHGNC:30778、SBF2がHGNC:2135、PUM2がHGNC:14958、NBEAがHGNC:7648、UBE2E3がHGNC:12479、CPEB3がHGNC:21746、GNAO1がHGNC:4389、WNK1がHGNC:14540、MEF2AがHGNC:6993、SEH1LがHGNC:30379、HOOK3がHGNC:23576、KLHL23がHGNC:27506、PAPOLGがHGNC:14982、JAZF1がHGNC:28917、JAG1がHGNC:6188、CPEB2がHGNC:21745、ZCRB1がHGNC:29620、ZFC3H1がHGNC:28328、ZEB2がHGNC:14881、EPHA7がHGNC:3390、UBN2がHGNC:21931、PELI2がHGNC:8828、PRKD3がHGNC:9408、FCHO2がHGNC:25180である。ELAVL2 mRNAは、配列番号29の塩基配列を含んでいてもよい。TEAD1 mRNAは、配列番号30の塩基配列を含んでいてもよい。GATAD2B mRNAは、配列番号31の塩基配列を含んでいてもよい。なお、各遺伝子は別の呼び方をされることがあり、別の呼称はHGNCのWEBサイトに記載されている。そのため、各遺伝子は別の呼称で呼ばれることがあってもよい。例えば、ELAVL2は、HEL-N1又はHuBと呼ばれる遺伝子を含む。また、miR-520d-5pは、例えば、miRBaseのアクセションナンバーがMI0003164のhsa-miR-520d-5pを含む。
【0023】
本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害する工程を含む、多能性幹細胞の生産方法である。この生産方法を用いれば、多能性幹細胞もしくは多能性幹細胞集団を得ることができる。また、その多能性幹細胞を培養する工程を経て、再生医療用材料(例えば、再生医療用臓器)を得ることができる。この生産方法を用いて得られた多能性幹細胞は、内在性のp53を高発現していることが、後述の実施例で実証されている。p53は悪性腫瘍抑制遺伝子に分類される遺伝子であるため、このp53を高発現している上記多能性幹細胞は悪性腫瘍化のリスクが低いといえる。
【0024】
本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、脱分化誘導剤である。この脱分化誘導剤を用いれば、細胞の脱分化を誘導することができる。また、細胞を脱分化させた結果、例えば、多能性幹細胞を得ることができる。又は、この脱分化誘導剤を悪性腫瘍細胞に適用すれば、悪性腫瘍を治療することができる。また、悪性腫瘍の抑制等の効果を通して、畜産における動物の成育を補助するための添加剤等にも使用できる。
【0025】
本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害する工程を含む、悪性腫瘍の治療方法である。また別の実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、悪性腫瘍の治療薬である。また別の実施形態は、悪性腫瘍の治療薬を生産するための、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤の使用である。従来の低分子化合物からなる治療薬は、アポトーシスを誘導して悪性腫瘍を治療するものであったが、本実施形態の治療方法、治療薬、又は誘導薬は、悪性腫瘍を脱分化方向へ誘導することによって治療効果を発揮することができる。
【0026】
本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害する工程を含む、細胞を多能性幹細胞化する方法である。また別の実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を含む、多能性幹細胞誘導剤である。この方法又は多能性幹細胞誘導剤を用いれば、多能性幹細胞を作製することができる。又は、この方法又は多能性幹細胞誘導剤を悪性腫瘍細胞に適用すれば、悪性腫瘍を治療することができる。また、悪性腫瘍の抑制等の効果を通して、畜産における動物の成育を補助するための添加剤等にも使用できる。
【0027】
本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を、細胞集団に接触させる工程を含む、細胞集団中の多能性幹細胞の割合を増加させる方法である。また別の実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を、細胞集団に接触させる工程を含む、多能性幹細胞の割合が増加した細胞集団の生産方法である。
【0028】
本発明の一実施形態は、上記の阻害剤を含む、研究用又は医療用キットである。このキットは、例えば、脱分化誘導用、多能性幹細胞作成用、人工臓器作成用、悪性腫瘍治療用、未分化マーカー発現調節用、又はp53発現細胞作成用等を挙げることができる。このキットは、例えば、緩衝液、有効成分情報を記載した添付文書、有効成分を収容するための容器、又はパッケージ等をさらに含んでいてもよい。
【0029】
本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能量を低下させる被検物質を選抜する工程を含む、脱分化誘導剤、多能性幹細胞誘導剤、又は悪性腫瘍の治療薬のスクリーニング方法である。この方法によれば、脱分化誘導剤、多能性幹細胞誘導剤、又は悪性腫瘍の治療薬を得ることができる。この方法は、細胞に被検物質を導入する工程と、miR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能量を測定する工程と、を含んでいてもよい。
【0030】
上記の実施形態に係る各方法は、さらに(a)細胞にmiR-520d-5p被制御遺伝子に対する発現又は機能阻害剤を導入する工程、又は(b)発現又は機能阻害剤が導入された細胞を培養もしくは増殖させる工程、を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において「脱分化」は、細胞がより分化状態の低い細胞に変化することを含む。例えば、分化を経験した細胞が、多能性幹細胞に変化した場合、脱分化したといえる。本発明の一実施形態において「脱分化誘導剤」とは、細胞をより分化状態の低い細胞に近づける作用を持った物質のことである。本発明の一実施形態において「多能性幹細胞誘導剤」とは、細胞を多能性幹細胞のような多能性を有している細胞に近づける作用を持った物質のことである。本発明の一実施形態において「リプログラミング」とは細胞を多能性幹細胞のような多能性を有している細胞に近づける作用のことである。
【0032】
本発明の一実施形態において「多能性幹細胞」とは、多能性を有している幹細胞である。多能性幹細胞は、例えば、ヒト人工多能性幹細胞であるhiPSC(HPS0002 253G1)に比べて、いずれかの未分化マーカーを同程度かそれ以上発現している細胞を含む。人工的に作製した多能性幹細胞は、iPS細胞と称されることもある。また、上述の実施形態の生産方法によって得られた多能性幹細胞は、p53を高発現していてもよい。このp53の発現量は、例えば、コントロール試料(例えば、hiPSC(HPS0002 253G1)、p53ノックアウト細胞、正常細胞、またはそれらに由来する試料等)のp53発現量に対して、有意に高発現していることが好ましい。またこのp53の発現量は、例えば、コントロール試料のp53発現量に対して、1.05、1.1、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、3.0、4.0、5.0、10、100、又は1000倍以上であってもよい。p53の発現量の測定方法は、測定精度及び簡便性の面からリアルタイムPCRが好ましい。また、上述の実施形態の生産方法によって得られた多能性幹細胞は、突起状の構造物が細胞周辺に発生していてもよい。
【0033】
本発明の一実施形態において脱分化や多能性幹細胞化等に用いられる「細胞」は、体細胞であってもよい。この体細胞は、生殖細胞を除いた他の細胞のことで、皮膚由来の細胞、又は線維芽細胞等が含まれる。体細胞は通常、多能性が限定されているかまたは消失している。又は、上記細胞は、悪性腫瘍細胞であってもよい。悪性腫瘍は、例えば、正常な細胞が突然変異を起こして発生する腫瘍を含む。悪性腫瘍は全身のあらゆる臓器や組織から生じ得、悪性腫瘍細胞が増殖すると、かたまりとなって周囲の正常な組織に侵入し破壊することが知られている。この悪性腫瘍は、例えば、癌腫、肉腫、血液悪性腫瘍、肺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、副腎癌、胆道癌、乳癌、大腸癌、小腸癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、膀胱癌、前立腺癌、尿管癌、腎盂癌、尿管癌、陰茎癌、精巣癌、脳腫瘍、中枢神経系の癌、末梢神経系の癌、頭頸部癌(口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、鼻腔・副鼻腔癌、唾液腺癌、甲状腺癌等)、グリオーマ、多形性膠芽腫、皮膚癌、メラノーマ、甲状腺癌、唾液腺癌、又は悪性リンパ腫等を含む。
【0034】
本発明の一実施形態において「未分化マーカー」とは、未分化の細胞で特異的に発現しているDNA鎖、RNA鎖、又は蛋白質等の化合物の総称である。例えば、Klf4、c-Myc、Oct4、Sox2、PROM1、Nanog、SSEA-1、ALP、eRas、Esg1、Ecat1、Fgf4、Gdf3、又はREX-1などが挙げられる。多能性幹細胞マーカーということもある。
【0035】
本発明の一実施形態において「内在性」とは、被検物質が細胞の内部のメカニズムに由来して存在していることを表している。例えば、細胞内で恒常的に発現している蛋白質は、その発現した蛋白質に限っては内在性に含まれる。
【0036】
本発明の一実施形態において「遺伝子の発現を阻害すること」は、例えば、遺伝子からmRNAへの転写機構を阻害、又はmRNAから蛋白質もしくはポリペプチドへの翻訳機構を阻害することを含む。また、例えば、遺伝子、mRNA、蛋白質の分解を誘導することで阻害することを含む。また生化学分野において、遺伝子の役目は、例えば、その遺伝子由来のmRNAを生成すること、その遺伝子由来の蛋白質を生成すること、その遺伝子由来の蛋白質に活性を発揮させることが挙げられる。そのため、本発明の一実施形態において「遺伝子の機能を阻害すること」は、遺伝子の発現を阻害した結果、mRNA又は蛋白質の生成量が低下することを含む。又は、「遺伝子の機能を阻害すること」は、その遺伝子由来のmRNA、又はその遺伝子由来の蛋白質の有する活性を低下させることを含む。
【0037】
本発明の一実施形態において「発現が阻害されている状態」は、発現量が、正常時に比べて有意に減少している状態を含む。上記「有意に減少」とは、例えば、発現量が0.35、0.3、0.2、0.1、0.05、0.01、又は0倍以下に減少している状態であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内まで減少している状態であってもよい。細胞の脱分化をより強力に又は安定的に生じさせる観点からは、0.2倍以下が好ましく、0.1倍以下がさらに好ましい。なお発現量はmRNA量、又は蛋白質量を指標としてもよい。また本発明の一実施形態において「有意に」は、例えば統計学的有意差をスチューデントのt検定(片側又は両側)を使用して評価し、p<0.05であるときを含んでいてもよい。又は、実質的に差異が生じている状態を含む。なお、「機能が阻害されている状態」の阻害強度についても、発現阻害の阻害強度の実施形態と同様のことがいえる。
【0038】
本発明の一実施形態において「阻害剤の形態」は特に限定されず、例えば、RNA鎖、DNA鎖、ポリヌクレオチド、低分子有機化合物、抗体、又はポリペプチドであってもよい。上記RNA鎖は、例えば、miR-520d-5p被制御遺伝子のmRNAに対するRNAi分子を使用できる。上記DNA鎖又はポリヌクレオチドとしては、上記RNA鎖をコードするDNA鎖又はポリヌクレオチドを使用できる。このDNA鎖又はポリヌクレオチドの形態は、例えば、ベクターであってもよい。上記低分子有機化合物は、コンビナトリアルケミストリーやHTS(ハイスループットスクリーニング)を活用することで、得てもよい。コンビナトリアルケミストリーには、例えば、自動合成装置L-COSシリーズ(昭光サイエンティフィック社)を使用してもよい。HTSには、例えば、Octetシステム(ForteBio社)を使用してもよい。上記抗体は、例えば、miR-520d-5p被制御蛋白質に対する抗体である。上記抗体は、公知の抗体作製法(例えば、Clackson et al., Nature. 1991 Aug 15;352(6336):624-628.に記載の方法)により作製してもよいし、受託会社(例えば、EVEC, Inc.)から購入してもよい。このとき、抗体ライブラリを作製し、阻害活性の高いものを選択することが好ましい。上記ポリペプチドは、受託会社(例えば、Wako Pure Chemical Industries, Ltd.)から購入することができる。また、阻害剤は、対象の発現を阻害する物質、又は機能を阻害する物質を含む。阻害剤は、細胞毒性が低い、又は実質的に細胞毒性を有さない物質であることが好ましい。この場合、阻害剤を生体内に投与したときに、副作用を抑えることができる。細胞毒性又は副作用を抑え、且つ脱分化を安定的に生じさせる観点からは、阻害剤はRNAi分子、又はそのRNAi分子をコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。ELAVL2 mRNAに対するRNAi分子は、脱分化を安定的に生じさせる観点からは、配列番号29の631位~651位、721位~741位、1158位~1178位、又は1281位~1299位に相当するRNA配列をターゲットとするRNAi分子であることが好ましい。TEAD1 mRNAに対するRNAi分子は、脱分化を安定的に生じさせる観点からは、配列番号30の681位~699位、1021位~1038位、1349位~1367位、又は1429位~1447位に相当するRNA配列をターゲットとするRNAi分子であることが好ましい。GATAD2B mRNAに対するRNAi分子は、脱分化を安定的に生じさせる観点からは、配列番号31の368位~286、854位~872、1009位~1027、又は1166位~1184位に相当するRNA配列をターゲットとするRNAi分子であることが好ましい。ここで、ターゲットとすることは、結合可能なことを含む。
【0039】
本発明の一実施形態において「RNAi分子」は、RNAi作用を有するRNA鎖であり、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、又はRNAi作用を有するsmall RNA等を挙げることができる。
【0040】
本発明の一実施形態において「RNAi」は、siRNA、shRNA、miRNA、短鎖もしくは長鎖の1もしくは複数本鎖RNA、又はそれらの修飾物等の1つ以上によって、標的遺伝子もしくはmRNA等の機能が抑制、又はサイレンシングされる現象を含む。一般的に、RNAiによる抑制機構は配列特異的であり、様々な生物種に存在する。siRNA又はshRNAを用いた場合の、典型的な哺乳類におけるRNAiのメカニズムは以下の通りである。まず、siRNA又はshRNAを発現可能なベクターを細胞に導入する。その後、細胞内でsiRNA又はshRNAが発現した後、siRNA又はshRNAの一本鎖化が起こり、その後RISC(RNA-induced Silencing Complex)を形成する。RISCは取り込まれた1本鎖RNAをガイド分子として、この1本鎖RNAと相補性の高い配列を持つ標的RNA鎖を認識する。標的RNA鎖は、RISC内のAGO2等の酵素によって切断される。その後、切断された標的RNA鎖は分解される。以上がメカニズムの一例である。なお、RNAi分子は、細胞に同時に複数個導入してもよく、例えば、1、2、3、4、5、6、又は10個導入してもよく、それらいずれか2つの値の範囲内の数を導入してもよい。また、RNAi分子は、標的遺伝子もしくはmRNA等の機能をより安定的に抑制する観点からは、1本鎖又は2本鎖が好ましい。
【0041】
RNAi分子のデザインには、Stealth RNAi designer(Invitrogen)やsiDirect 2.0(Naito et al., BMC Bioinformatics. 2009 Nov 30;10:392.)等を使用できる。また、受託会社(例えば、Thermo Scientific社等)に委託してもよい。RNAi作用の確認は、リアルタイムRT-PCRによるRNA鎖発現量の定量によって行なうことができる。または、ノザンブロットによるRNA鎖発現量の解析や、ウェスタンブロットによる蛋白量の解析・表現型の観察等の方法でも行うことができる。特にリアルタイムRT-PCRによる方法が効率的である。
【0042】
本発明の一実施形態において「siRNA」は、RNAiを誘導可能なRNA鎖を含む。一般的にsiRNAの2本鎖はガイド鎖とパッセンジャー鎖に分けることができ、ガイド鎖がRISCに取り込まれる。RISCに取り込まれたガイド鎖は、標的RNAを認識するために使われる。RNAi研究では主に人工的に作成したものが使用されるが、生体内において内在的に存在するものも知られている。上記ガイド鎖は15塩基以上のRNAから構成されていてもよい。15塩基以上であれば、標的のポリヌクレオチドに対して精度よく結合できる可能性が高まる。また、そのガイド鎖は40塩基以下のRNAから構成されていてもよい。40塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクがより低くなる。
【0043】
本発明の一実施形態において「shRNA」は、RNAiを誘導可能で、且つヘアピン状に折りたたまれた構造(ヘアピン様構造)を形成可能な1本鎖のRNA鎖を含む。典型的には、shRNAは細胞内でDicerによって切断され、siRNAが切り出される。このsiRNAによって標的RNAの切断が生じることが知られている。上記shRNAは35以上のヌクレオチドから構成されていてもよい。35以上であれば、shRNAに特有のへアピン様構造を精度よく形成できる可能性が高まる。また、上記shRNAは100塩基以下のRNAから構成されていてもよい。100塩基以下であれば、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクが低くなる。但し、一般的にshRNAと構造および機能が類似しているpre-miRNAの多くが、100ヌクレオチド程度またはそれ以上の長さを有していることから、shRNAの長さは必ずしも100塩基以下でなくても、shRNAとして機能できると考えられる。
【0044】
本発明の一実施形態において「miRNA」は、siRNAと類似の機能を有しているRNA鎖を含み、標的RNA鎖の翻訳抑制や分解をすることが知られている。miRNAとsiRNAとの違いは、一般的に生成経路と、詳細なメカニズムにある。
【0045】
本発明の一実施形態において「small RNA」とは、比較的小さいRNA鎖をいい、例えば、siRNA、shRNA、miRNA、アンチセンスRNA、1または複数本鎖の低分子RNAなどを挙げることができるが、それらに限定されない。small RNAを用いた場合、インターフェロン応答等の不利益な現象を抑えることができる。
【0046】
上記RNA鎖は、5'末端又は3'末端に1~5塩基からなるオーバーハングを含んでいてもよい。この場合、RNAiの効率が上昇すると考えられる。この数は、例えば、5、4、3、2、または1塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。オーバーハングは、例えば、ac、c、uc、ag、aa、又はuuであってもよ。オーバーハングは、安定的にRNAi作用を発揮する観点からは、3'末端のac、c、又はucが好ましい。また上記RNA鎖が2本鎖のとき、各RNA鎖間にミスマッチRNAが存在していてもよい。その数は、例えば、1、2、3、4、5、又は10個以下であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また上記RNA鎖は、ヘアピンループを含んでいてもよい、ヘアピンループの塩基数は、例えば、10、8、6、5、4、又は3塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。ヘアピンループの塩基配列は、例えば、gugcuc、又はcucuugaであってもよい。この塩基配列は、所望の効果を有する限り、1又は複数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加していてもよい。なお、各塩基配列の表記は、左側が5'末端、右側が3'末端である。
【0047】
また上記RNA鎖の長さは、例えば、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、40、50、60、80、100、200、又は500塩基であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。この数が15以上であれば、標的のポリヌクレオチドに対して精度よく結合できる可能性が高まる。また、この数が100以下であれば、RNA鎖を生体内に投与した場合に、インターフェロン応答等の不利益な現象が生じるリスクが低くなる。インターフェロン応答とは、一般的に細胞がdsRNAを感知することによって抗ウイルス状態になる現象として知られている。
【0048】
本発明の一実施形態において「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド、核酸塩基、又はそれらの等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。またポリヌクレオチドは、DNA鎖又はRNA鎖を含む。本発明の一実施形態において「RNA鎖」は、RNA又はその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。また本発明の一実施形態において「DNA鎖」は、DNA又はその等価物が、複数結合した形態で構成されているものを含む。このRNA鎖又はDNA鎖は、1本鎖又は複数本鎖(例えば、2本鎖)の形態のRNA鎖又はDNA鎖を含む。RNA鎖又はDNA鎖は、細胞取込促進物質(例えば、PEG又はその誘導体)、標識タグ(例えば、蛍光標識タグ等)、リンカー(例えば、ヌクレオチドドリンカー等)、又は化学療法剤(例えば、抗悪性腫瘍物質等)等と結合していてもよい。RNA鎖又はDNA鎖は、核酸合成装置を用いて合成可能である。その他、受託会社(例えば、インビトロジェン社等)から購入することもできる。生体内のRNA鎖又はDNA鎖は、塩又は溶媒和物を形成することがある。また、生体内のRNA鎖又はDNA鎖は、化学修飾を受けることがある。RNA鎖又はDNA鎖の用語は、例えば、塩もしくは溶媒和物を形成しているRNA鎖もしくはDNA鎖、又は化学修飾を受けているRNA鎖もしくはDNA鎖等を含む。またRNA鎖又はDNA鎖は、RNA鎖のアナログ、又はDNA鎖のアナログであってもよい。上記「塩」は、特に限定されないが、例えば任意の酸性(例えばカルボキシル)基で形成されるアニオン塩、又は任意の塩基性(例えばアミノ)基で形成されるカチオン塩を含む。塩類には無機塩又は有機塩を含み、例えば、 Berge et al., J.Pharm.Sci., 1977, 66, 1-19に記載されている塩が含まれる。また例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。上記「溶媒和物」は、溶質及び溶媒によって形成される化合物である。溶媒和物については例えば、J.Honig et al., The Van Nostrand Chemist's Dictionary P650 (1953)を参照できる。溶媒が水であれば形成される溶媒和物は水和物である。この溶媒は、溶質の生物活性を妨げないものが好ましい。そのような好ましい溶媒の例として、特に限定するものではないが、水、又は各種バッファーが挙げられる。上記「化学修飾」としては、例えば、PEGもしくはその誘導体による修飾、フルオレセイン修飾、又はビオチン修飾等が挙げられる。
【0049】
また、上記RNA鎖は、安定的にRNAi作用を発揮する観点からは、標的遺伝子由来のmRNAの塩基配列の一部に対して、相補的な塩基配列を含むことが好ましい。上記「一部」は、例えば、5、10、15、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、又は50塩基以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。
【0050】
特定の遺伝子に対するsiRNA又はshRNAを生成するプラスミドは、例えば、受託会社(例えば、Thermo Scientific社、GeneCopoeia社等)から購入することができる。後述する実施例で使用したELAVL2 siRNAを生成可能な4つのプラスミドの塩基配列は、配列番号25、26、27、又は28である。後述する実施例で使用したTEAD1 siRNA又はGATAD2B siRNAを生成可能な8つのプラスミドは、psiLv-U6TMベクターにTEAD1 shRNA又はGATAD2B shRNAをコードするDNA配列がそれぞれ搭載されたものである。
【0051】
また後述する実施例で使用したELAVL2 siRNAを生成可能な4つのプラスミドからは、配列番号5、6、7、又は8の塩基配列を含むshRNAがそれぞれ生成される。これらのshRNAは、細胞内で酵素により切断され、siRNAが生じると考えられる。これらのsiRNAは、配列番号1 (uuauugguguuaaagucacgg)、2 (aauacgagaaguaauaaugcg)、3 (uuuguuugucuuaaaggag)、又は4 (auuugcaucucugauagaagc)の塩基配列をそれぞれ含む。この配列番号1、2、3、又は4の塩基配列は、ELAVL2 mRNAの一部に相補的な塩基配列であり、ガイド鎖としての機能を担う部分であると考えられる。
【0052】
また後述する実施例で使用したTEAD1 siRNAを生成可能な4つのプラスミドからは、配列番号13、14、15、又は16の塩基配列を含むshRNAがそれぞれ生成される。これらのshRNAは、細胞内で酵素により切断され、siRNAが生じると考えられる。これらのsiRNAは、配列番号9 (uuggcuuaucugcagaguc)、10 (gcuuguuaugaauggcag)、11 (guaagaaugguuggcaugc)、又は12 (aguuccuuuaagccaccuu)の塩基配列をそれぞれ含む。この配列番号9、10、11、又は12の塩基配列は、TEAD1 mRNAの一部に相補的な塩基配列であり、ガイド鎖としての機能を担う部分であると考えられる。
【0053】
また後述する実施例で使用したGATAD2B siRNAを生成可能な4つのプラスミドからは、配列番号21、22、23、又は24の塩基配列を含むshRNAがそれぞれ生成される。これらのshRNAは、細胞内で酵素により切断され、siRNAが生じると考えられる。これらのsiRNAは、配列番号17 (caacagauucaagcgaaga)、18 (caauagaugcugcauucug)、19 (caucaacauguguggaagg)、又は20 (aggauguuguacgcugaca)の塩基配列をそれぞれ含む。この配列番号17、18、19、又は20の塩基配列は、GATAD2B mRNAの一部に相補的な塩基配列であり、ガイド鎖としての機能を担う部分であると考えられる。
【0054】
本発明の一実施形態において、ELAVL2 siRNAは、配列番号1、2、3、又は4の塩基配列に相補的な塩基配列(例えば、配列番号5の塩基配列の1-21位の塩基配列、配列番号6の塩基配列の1-21位の塩基配列、配列番号7の塩基配列の1-19位の塩基配列、又は配列番号8の塩基配列の1-21位の塩基配列)を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、TEAD1 siRNAは、配列番号9、10、11、又は12の塩基配列に相補的な塩基配列(例えば、配列番号13の塩基配列の1-19位の塩基配列、配列番号14の塩基配列の1-18位の塩基配列、配列番号15の塩基配列の1-19位の塩基配列、又は配列番号16の塩基配列の1-19位の塩基配列)を含んでいてもよい。本発明の一実施形態において、GATAD2B siRNAは、配列番号17、18、19、又は20の塩基配列に相補的な塩基配列(例えば、配列番号21、22、23、又は24の塩基配列の1-19位の塩基配列)を含んでいてもよい。
【0055】
本発明の一実施形態において、配列番号1~31で示される塩基配列は、所望の効果を有する限り、(c)いずれかの塩基配列において、1又は複数個の塩基配列が欠失、置換、挿入、もしくは付加している塩基配列、(d)いずれかの塩基配列に対して、90%以上の相同性を有する塩基配列、(e)いずれかの塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドに、ストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドがコードする塩基配列、からなる群から選ばれる1つ以上の塩基配列であってもよい。本発明の一実施形態において「相補的な塩基配列」とは、一つのポリヌクレオチドに対して、ハイブリダイズすることが可能な相補性の高い他のポリヌクレオチドが有している塩基配列である。ハイブリダイズとは、複数のポリヌクレオチド間において、塩基間の水素結合等によって塩基対ができる性質のことを表す。塩基対はワトソン・クリック型塩基対、フーグスティーン型塩基対、又は任意の他の配列特異的な形で生じうる。2つの1本鎖がハイブリダイズした状態は2本鎖と呼ばれる。
【0056】
上記「複数個」は、例えば、10、8、6、4、又は2個であってもよく、それらいずれかの値以下であってもよい。細胞の脱分化をより強力に又は安定的に生じさせる観点からは、この数は少ないほど好ましい。なお、1又は複数個の塩基の欠失、付加、挿入、又は置換を受けたRNA鎖が、その生物学的活性を維持することは当業者に知られている。
【0057】
上記「90%以上」は、例えば、90、95、97、98、99、又は100%以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。細胞の脱分化をより強力に又は安定的に生じさせる観点からは、この数は大きいほど好ましい。上記「相同性」は、2つもしくは複数間の塩基配列において相同な塩基の割合を、当該技術分野で公知の方法に従って算定してもよい。割合を算定する前には、比較する塩基配列群の塩基を整列させ、同一塩基の割合を最大にするために必要である場合は塩基配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、及びそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該技術分野で従来からよく知られている(例えば、BLAST、GENETYX等)。本明細書において「相同性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTで塩基配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastnをデフォルト設定で使用できる。
【0058】
上記「ストリンジェントな条件」は、例えば、以下の条件を採用することができる。(1)洗浄のために低イオン強度及び高温度を用いる(例えば、50℃で、0.015Mの塩化ナトリウム/0.0015Mのクエン酸ナトリウム/0.1%のドデシル硫酸ナトリウム)、(2)ハイブリダイゼーション中にホルムアミド等の変性剤を用いる(例えば、42℃で、50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%のポリビニルピロリドン/50mMのpH6.5のリン酸ナトリウムバッファー、及び750mMの塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム)、又は(3)20%ホルムアミド、5×SSC、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハード液、10%硫酸デキストラン、及び20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベーションし、次に約37-50℃で1×SSCでフィルターを洗浄する。なお、ホルムアミド濃度は50%又はそれ以上であってもよい。洗浄時間は、5、15、30、60、もしくは120分、又はそれら以上であってもよい。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに影響する要素としては温度、塩濃度など複数の要素が考えられ、詳細はAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, (1995)を参照することができる。
【0059】
上記阻害剤の細胞への導入、及びその細胞の培養方法は、当該技術分野で公知の方法に従って行うことができる。細胞への導入は、例えば、ウイルスベクターを用いた感染導入、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、又はマイクロインジェクションなどを使用できる。また薬剤耐性やセルソーター等を利用して、導入された細胞のみを選択することができる。培地は、例えば、ReproStem、霊長類ES細胞用培地(コスモ・バイオ社)、未分化維持用培地、又は通常のヒト細胞用の培地(例えば、DMEMやRPMIベースの培地)等を使用できる。例えば、ReproStemで37℃、5% CO2、10% FBSの条件で培養可能してもよい。この数値は、例えば、プラスマイナス10、20、又は30%の範囲で前後させてもよい。フィーダー細胞の非存在下で樹立、又は培養してもよい。多能性幹細胞を樹立するときの培養の日数は特に限定されないが、例えば、1、2、3、4、5、6、8、10、15、30、又は40日以上であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。なお、多能性幹細胞をより安定的に樹立できる観点からは、脱分化させる癌細胞は未分化型癌細胞であることが好ましい。また、上記RNA鎖を細胞に導入する場合、複数のRNA鎖を細胞に併用導入してもよい。また、上記DNA鎖を細胞に導入する場合、複数のDNA鎖を細胞に導入してもよい。ここで、「複数のRNA鎖」又は「複数のDNA鎖」の数は、例えば、2、3、4、5、6、10、12、16、又は20個以上であってもよく、、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。また、本発明の一実施形態において「細胞集団」は、実質的に均一な細胞集団であってもよい。
【0060】
本発明の一実施形態において「阻害剤」はELAVL2等の1種以上の3'UTRに結合し転写機構を阻害するRNA鎖であってもよいが、miR-520d-5pは除くこととする。また、ELAVL2等の1種以上の発現又は機能を阻害する場合、miR-520d-5pを用いて阻害する行為は除くこととする。
【0061】
本発明の一実施形態において「ベクター」は、ウイルス(例えば、レンチウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、又はHIV等)ベクター、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110)、酵母由来プラスミド(例、pSH19)、λファージなどのバクテリオファージ、psiCHECK-2、pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo、pSUPER(OligoEngine社)、BLOCK-it Inducible H1 RNAi Entry Vector(インビトロジェン社)、pRNATin-H1.4/Lenti (GenScript, corp., NJ, USA)などを用いることができる。上記ベクターは、プロモーター、複製開始点、又は抗生物質耐性遺伝子など、DNA鎖の発現に必要な構成要素を含んでいてもよい。上記ベクターはいわゆる発現ベクターであってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態において「細胞集団」は、複数の細胞を含む集団である。この細胞集団は、例えば、実質的に均一な細胞を含む集団であってもよい。また細胞集団は、細胞調製物であってもよい。細胞調製物は、例えば、細胞と、緩衝液又は培地成分とを含んでいてもよい。多能性幹細胞集団は、多能性幹細胞を、例えば、80、90、95、96、97、98、99、又は100%以上含んでいてもよく、それらいずれか2つの値の範囲内含んでいてもよい。
【0063】
本発明の一実施形態において「悪性腫瘍の治療薬」は、さらに、DDS(Drug Delivery System)を含んでいてもよい。この場合、ポリヌクレオチドを細胞内により効率的に導入できる。DDSとしては、例えば、ゼラチンハイドロゲル、アテロコラーゲンを挙げることができる。
【0064】
本発明の一実施形態において「治療」は、患者の疾患、又は疾患に伴う1つ以上の症状の、症状改善効果あるいは予防効果を発揮しうることをいう。本発明の一実施形態において「治療薬」は、薬理学的に許容される1つもしくはそれ以上の担体を含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物は、例えば有効成分(例えば、ELAVL2等の1種以上に対する阻害剤)と上記担体とを混合し、製剤学の技術分野において知られる任意の方法により製造できる。また治療薬は、治療のために用いられる物であれば使用形態は限定されず、有効成分単独であってもよいし、有効成分と任意の成分との混合物であってもよい。また上記担体の形状は特に限定されず、例えば、固体又は液体(例えば、緩衝液)であってもよい。なお悪性腫瘍の治療薬は、悪性腫瘍の予防のために用いられる薬物(予防薬)、又は悪性腫瘍の良性化誘導剤もしくは正常幹細胞化誘導剤を含む。
【0065】
治療薬の投与経路は、治療に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、又は経口投与等であってもよい。投与形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。ポリヌクレオチドを投与する場合には、注射剤として用いることが効果的である。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、又はステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、又はNaOH等を配合してもよい。また治療薬は、例えば、緩衝剤(例えばリン酸塩緩衝液)、安定剤等を配合してもよい。
【0066】
投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.0001mg~1000mg/kg体重であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1~10日に1回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。また、他の適切な化学療法薬と併用で投与してもよい。また治療薬は、治療有効量、又は所望の作用を発揮する有効量の有効成分を含むことが好ましい。悪性腫瘍のマーカーが、投与後に減少した場合に、治療効果があったと判断してもよい。
【0067】
この治療薬は、生体内で悪性腫瘍細胞をリプログラミングし、さらに分化させてもよい。また、生体内で悪性腫瘍細胞の形質を変化させ、周辺組織に同化させてもよい。また、生体内で悪性腫瘍細胞を非悪性腫瘍細胞に変化させてもよい。
【0068】
本発明の一実施形態において「患者」は、ヒト、又はヒトを除く哺乳動物(例えば、マウス、モルモット、ハムスター、ラット、ネズミ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、マーモセット、サル、又はチンパンジー等の1種以上)を含む。
【0069】
なお、以上のmiR-520d-5p被制御遺伝子の発現又は機能を阻害したときの種々の実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子由来のRNA鎖又は蛋白質の活性を阻害する場合にも適用可能である(但し、遺伝子の機能に特異的な実施形態を除く)。そのような場合の実施形態も、本発明の一実施形態に含まれる。例えば、本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子由来のRNA鎖又は蛋白質の活性を阻害する工程を含む、脱分化誘導方法、多能性幹細胞誘導方法、又は悪性腫瘍の治療方法等を含む。また本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子由来のRNA鎖又は蛋白質の活性を阻害する工程を含む、多能性幹細胞の生産方法を含む。また本発明の一実施形態は、miR-520d-5p被制御遺伝子由来のRNA鎖又は蛋白質の活性阻害剤を含む、脱分化誘導剤、多能性幹細胞誘導剤、又は悪性腫瘍の治療薬等を含む。
【0070】
本明細書において「又は」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値の範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0071】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。また、上記実施形態に記載の構成を組み合わせて採用することもできる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
<実施例1>ELAVL2の阻害による多能性幹細胞の作製及び評価
ELAVL2は、NCBIが公開しているサマリーによれば、RNA結合蛋白質をコードする遺伝子である。本発明者は、この遺伝子の発現を阻害したところ、細胞が多能性幹細胞化することを発見した。以下に具体的な実験手順、及び結果を記載する。
【0074】
(1) ELAVL2 siRNAのHLF細胞への導入
ELAVL2 mRNAに対するsiRNAを発現するプラスミド(レンチウィルス発現ベクター)を、Thermo Scientific社から4種類購入した(B-9(配列番号25)、B-10(配列番号26)、B-11(配列番号27)、B-12(配列番号28))。これらのプラスミドは、pLKO.1ベクターにELAVL2 siRNAをコードするDNA鎖が組込まれたものである。これらのプラスミドを、1種類ずつ293FT細胞(Clontech社、ヒト胎児腎臓由来細胞株)に導入した。その後、培養上清に遊離するウイルス粒子をそれぞれ超遠心法(27000rpm)で精製し、-80度に貯蔵した。その後、貯蔵物を解凍した。得られた4種類の溶液について、ウイルスタイターを測定した後、1細胞に1コピーのウイルスが入る濃度でHLF細胞(ヒト肝癌由来細胞)に同時に振りかけて感染導入させた。以上の手順で4種類のELAVL2 siRNA(以下、「ELAVL2 siRNAs」と称することもある)をHLF細胞に共導入法で導入した。このELAVL2 siRNA sは、ELAVL2 mRNAに相補的な塩基配列(それぞれ配列番号1、2、3、4)を有している。
【0075】
以上の結果、HLF細胞のELAVL2発現について、平均92%の抑制を確認できた。さらに、ELAVL2 siRNAs導入後5日で、iPS細胞様の球状の細胞の集団を誘導することができた(図1、左上×40、右上×100)。図1は、オリンパス社製倒立顕微鏡によって観察した結果である。以上の手順で得られたELAVL2 siRNAs導入HLF細胞を、以下ではsiELAVL2-HLFと称する。さらにその5日後には、siELAVL2-HLFは癌細胞と異なり、その足場依存している場所で少しずつ成長・増殖した。また、球状の細胞集団から、放射状に突起様構造物が全周に渡って認められた(図1、下×40)。
【0076】
また上記とは別に、本発明者はHLF細胞にELAVL2 siRNAs導入後、1ヶ月、週1回計4回投与条件で培養したところ、未分化維持環境において4/4=100%でHLF細胞が幹性細胞化したという結果を得ている。また、高分化癌細胞にELAVL2 siRNAsを導入したところ、ELAVL2 siRNAs導入後、中分化癌、低分化癌、未分化癌を経由して正常未分化細胞がin vivoで誘導されたという結果を得ている。また、上記のHLF細胞に変えて、293FT細胞にELAVL2 siRNAsを導入しても、iPS細胞様の球状の細胞が観察されたという結果を得ている。
【0077】
(2)転写レベルの評価
siELAVL2-HLFを1×106個程度得た後、遺伝子プロフィールを転写レベルで評価した。この評価は、RT-PCRによって行った。このとき、QIAGEN社のOneStep RT-PCR kitを使用した。その結果、ELAVL2の抑制と、未分化マーカーであるOct4、Nanog、及び癌抑制遺伝子であるp53の高発現を確認した(図2)。図中、β-actinは対照、*はP0.05である。
【0078】
なお、上記プラスミドB-9、B-10、B-11、B-12をそれぞれ導入したHLFを作成し、ELAVL2の発現抑制率を、RT-PCRで調べた。その結果は図3に示す通りであり、いずれの場合もELAVL2の発現が抑制されていた。
【0079】
(3)翻訳レベルの評価
siELAVL2-HLFを1×106個程度得た後、遺伝子プロフィールを翻訳レベルで評価した。この評価は、Western blot によって行った。このとき、Invitrogen社のiBlot、及びAbnova社の抗体を使用した。その結果、Oct4、Nanog、P53が高発現をしていることを再確認した(図4)。また、ELAVL2の発現はダウンしていた。即ち、転写レベル、翻訳レベルで、発現のパターンが維持されていた。
【0080】
(4)細胞免疫染色
siELAVL2-HLFに対して、3Dマトリゲル培養法(Clontech社)で細胞免疫染色を行った。このとき、R&D Systems, Inc.のHuman Embryonic Stem Cell Marker Antibody Panelを使用した。その結果、Oct4、Nanogのいずれもローダミンで赤色に染色され、蛋白質レベルでの同程度の発現レベルを再確認した(図5)。図中、barは200μmを示す。
【0081】
(5)細胞周期解析
HLF、mock (pLKO.1: Addgene社より購入)導入HLF、siELAVL2-HLFについて、細胞周期解析を行った(鳥取大学生命機能探索センターへ委託解析)。このとき、siELAVL2-HLFの培養では、培養液としてRPMI 1640(WAKO社)を用いた場合と、未分化維持培養液ReproStem(ReproCELL社)を用いた場合に分けて行った。DNA含量比較の結果、siELAVL2-HLFは、がん細胞に特有の不均質な細胞集団ではなく、均質な増殖方向に向かう正常細胞に類似した特殊な増殖方向性を有していた。具体的には、siELAVL2-HLFではS期が増え、GoG1期が減っていた。siELAVL2-HLFは、がん細胞と異なりアポトーシス細胞をほとんど有していないことから、ELAVL2 siRNAは従来の抗癌成分とは異なっていることが察せられる。
【0082】
(6)増殖形態
siELAVL2-HLFとmock導入HLFとを14日間ReproStemで培養した後、顕微鏡で観察した。その結果を図6に示す。siELAVL2-HLFは、球状の細胞から放射状にでた突起物と繋がるように、広がりながら増殖していった。図中、上段はmock-HLFで下段はsiELAVL2-HLFの増殖形態である。また、siELAVL2-HLFはAP染色(アルカリフォスファターゼ染色)によって染まることが確認された(図7)。APは、未分化細胞マーカーである。従って、図6の細胞集団は未分化の細胞集団であることが示唆された。
【0083】
(7)移植
siELAVL2-HLFを1週間ReproStemで培養した後、免疫不全マウス(KSN/Slc、チャールズリバー社)の皮下に移植した。移植後2か月の移植部組織を観察した(図8)。その結果、全例が腫瘍非形成であった。図中、上の写真はマウスの外観であり、真ん中の写真は腹部を切開後、肝臓組織を観察したときの写真であり、下の写真は肝臓組織の拡大写真である。なお、移植部組織には、瘢痕が見られた。これは、移植後にその移植された生体で痕跡になってしまうものである。
【0084】
<実施例2>ELAVL2のレポーターアッセイ
本発明者は、ELAVL2のmRNA(配列番号9)の3' UTR(配列番号10)にmiR-520d-5pが結合し、ELAVL2の発現が阻害され得ることを、ルシフェラーゼレポーターアッセイで発見した。以下に具体的な実験手順、及び結果を記載する。
【0085】
HLF細胞に対して、合成miR-520d-5p(IDT社へ委託)とpMIR-520d-5p発現レンチウイルスとを共導入し、プロメガ社のpsiCHECK2レポーターベクターでアッセイを行なった。評価は、ルシフェリンの発現量(RLU)をマイクロプレートリーダー(TECAN社)で測定し、lenilla(RLU)をfirefly(RLU)で除して補正した数値を対照(合成miR-520d-3p(IDT社)又はpLKO.1レンチウイルスベクター(Addgene社))での測定値に対して標準化した。その結果を図9に示す。図中、*はP0.05、**はP0.01である。また、miR-520d-5p又はpMIR-520d-5pの「+」は、それらの遺伝子を発現させたことを意味している。「-」は発現させなかったことを意味している。また、binding site 1又は2の「+」は、ELAVL2 3'UTRがミスマッチのない塩基配列であることを意味している。「-」は、ELAVL2 3'UTRがミスマッチを有する塩基配列であることを意味している。この結果は、ELAVL2 3' UTRの領域1 (3'UTR: 508-525)と2 (3'UTR: 880-894)にmiR-520d-5pが特異的に結合し、ELAVL2の発現量が抑制されたことを意味している。このことは、ELAVL2の3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなることを示している。
【0086】
<実施例3>TEAD1の阻害による多能性幹細胞の作製
本発明者は、DIANA-MICROT、miRDB、MicroRNA.org、及びTargetScan-VERTのデータベースを用いて、TEAD1の3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなり得ることを同定した。以下、TEAD1の阻害効果を利用した多能性幹細胞の作製方法を説明する。まず、TEAD1 mRNAに対するsiRNAを発現するプラスミドをGeneCopoeia社から購入する。このプラスミドを、悪性腫瘍細胞に導入する。その後、5日間培養することで、多能性幹細胞を得ることができる。なお、培養後の細胞を顕微鏡で観察すると、球状の細胞集団を観察できる。この細胞集団をマウスに移植すると、移植した臓器において腫瘍非形成又は分化を起こすことができる。なお、miR-520d-5pの標的遺伝子の候補は実際には標的とならないものを含めると、少なくとも8000以上が考えられる。実施例3-9ではDIANA-MICROT、miRDB、MicroRNA.org、又はTargetScan-VERTを用いてTEAD1等の標的遺伝子を同定したが、具体的には、各データベースにおいてスコア上位20位以上で、miR-520d-5pにマッチする塩基が多く、且つ全体的な相補性に優れていることを基準として遺伝子を同定した。
【0087】
<実施例4>GATAD2Bの阻害による多能性幹細胞の作製
本発明者は、miRDB、及びTargetScan-VERTを用いて、GATAD2Bの3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなり得ることを同定した。以下、GATAD2Bの阻害効果を利用した多能性幹細胞の作製方法を説明する。まず、GATAD2B mRNAに対するsiRNA又はshRNAを発現するプラスミドをGeneCopoeia社から購入する。このプラスミドを、悪性腫瘍細胞に導入する。その後、7日間培養することで、多能性幹細胞を得ることができる。なお、培養後の細胞を顕微鏡で観察すると、球状の細胞集団を観察できる。この細胞集団をマウスに移植すると、移植した臓器において腫瘍非形成又は分化を起こすことができる。
【0088】
<実施例5>SBF2、PUM2、又はNBEAの阻害による多能性幹細胞の作製
本発明者は、MicroRNA.org、及びTargetScan-VERTを用いて、SBF2、PUM2、及びNBEAの3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなり得ることを同定した。以下、SBF2、PUM2、又はNBEAの阻害効果を利用した多能性幹細胞の作製方法を説明する。まず、SBF2 mRNA、PUM2 mRNA、又はNBEA mRNAに対するsiRNA又はshRNAを発現するプラスミドをThermo Scientific社から購入する。このプラスミドを、悪性腫瘍細胞に導入する。その後、7日間培養することで、多能性幹細胞を得ることができる。なお、培養後の細胞を顕微鏡で観察すると、球状の細胞集団を観察できる。この細胞集団をマウスに移植すると、移植した臓器において腫瘍非形成又は分化を起こすことができる。
【0089】
<実施例6>表1に示す各遺伝子の阻害による多能性幹細胞の作製
本発明者は、DIANA-MICROTを用いて、表1に示す各遺伝子の3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなり得ることを同定した。以下、表1に示す各遺伝子の阻害効果を利用した多能性幹細胞の作製方法を説明する。まず、表1に示す各遺伝子由来のmRNAに対するsiRNA又はshRNAを発現するプラスミドをThermo Scientific社から購入する。このプラスミドを、悪性腫瘍細胞に導入する。その後、7日間培養することで、多能性幹細胞を得ることができる。なお、培養後の細胞を顕微鏡で観察すると、球状の細胞集団を観察できる。この細胞集団をマウスに移植すると、移植した臓器において腫瘍非形成又は分化を起こすことができる。
【0090】
【表1】
JP2014097875A1_000003t.gif

【0091】
<実施例7>表2に示す各遺伝子の阻害による多能性幹細胞の作製
本発明者は、miRDBを用いて、表2に示す各遺伝子の3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなり得ることを同定した。以下、表2に示す各遺伝子の阻害効果を利用した多能性幹細胞の作製方法を説明する。まず、表2に示す各遺伝子由来のmRNAに対するsiRNA又はshRNAを発現するプラスミドをThermo Scientific社から購入する。このプラスミドを、悪性腫瘍細胞に導入する。その後、7日間培養することで、多能性幹細胞を得ることができる。なお、培養後の細胞を顕微鏡で観察すると、球状の細胞集団を観察できる。この細胞集団をマウスに移植すると、移植した臓器において腫瘍非形成又は分化を起こすことができる。
【0092】
【表2】
JP2014097875A1_000004t.gif

【0093】
<実施例8>表3に示す各遺伝子の阻害による多能性幹細胞の作製
本発明者は、MicroRNA.orgを用いて、表3に示す各遺伝子の3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなり得ることを同定した。以下、表3に示す各遺伝子の阻害効果を利用した多能性幹細胞の作製方法を説明する。まず、表3に示す各遺伝子由来のmRNAに対するsiRNA又はshRNAを発現するプラスミドをThermo Scientific社から購入する。このプラスミドを、悪性腫瘍細胞に導入する。その後、7日間培養することで、多能性幹細胞を得ることができる。なお、培養後の細胞を顕微鏡で観察すると、球状の細胞集団を観察できる。この細胞集団をマウスに移植すると、移植した臓器において腫瘍非形成又は分化を起こすことができる。
【0094】
【表3】
JP2014097875A1_000005t.gif

【0095】
<実施例9>表4に示す各遺伝子の阻害による多能性幹細胞の作製
本発明者は、TargetScan-VERTを用いて、表4に示す各遺伝子の3' UTRがmiR-520d-5pのターゲットとなり得ることを同定した。以下、表4に示す各遺伝子の阻害効果を利用した多能性幹細胞の作製方法を説明する。まず、表4に示す各遺伝子由来のmRNAに対するsiRNA又はshRNAを発現するプラスミドをThermo Scientific社から購入する。このプラスミドを、悪性腫瘍細胞に導入する。その後、5日間培養することで、多能性幹細胞を得ることができる。なお、培養後の細胞を顕微鏡で観察すると、球状の細胞集団を観察できる。この細胞集団をマウスに移植すると、移植した臓器において腫瘍非形成又は分化を起こすことができる。
【0096】
【表4】
JP2014097875A1_000006t.gif

【0097】
<実施例10>ELAVL2、TEAD1、GATAD2Bの抑制効果の評価
TEAD1 mRNAに対するsiRNAを発現する4種類のプラスミド、及びGATAD2B mRNAに対するsiRNAを発現する4種類のプラスミドをGeneCopoeia社から購入した。これらのプラスミドは、psiLv-U6TMベクターにTEAD1 siRNA又はGATAD2B siRNAをコードするDNA鎖が組込まれたものである。そして、実施例1と同様の手順で、4種類のELAVL2 siRNAが共導入されたHLF細胞、4種類のTEAD1 siRNAが共導入されたHLF細胞、4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞を作製した。なお、上記TEAD1 siRNAは、TEAD1 mRNAに相補的な塩基配列(それぞれ配列番号9、10、11、12)を有している。上記GATAD2B siRNA は、GATAD2B mRNAに相補的な塩基配列(それぞれ配列番号17、18、19、20)を有している。
【0098】
次に、各HLF細胞について、ELAVL2、TEAD1、GATAD2Bの発現抑制率を、RT-PCRで調べた。その結果は図10~12に示す通りであり、いずれの遺伝子も発現が抑制されていた。図中のDは培養日数を、R1はin vivoで1ヵ月程度経過後に肝組織や奇形腫を形成した細胞群を、R2はin vivoで1ヵ月程度経過後に腫瘍形成を示さなかった細胞群を意味している。
【0099】
<実施例11>DNAメチル化レベルの評価
以下の手順で、多能性幹細胞化の指標としての、DNAメチル化レベルを調べた。実施例10と同様の手順で、4種類のELAVL2 siRNAが共導入されたHLF細胞(siE)、4種類のTEAD1 siRNAが共導入されたHLF細胞(siT)、4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞(siG)を作製した。また、4種類のELAVL2 siRNA及び4種類のTEAD1 siRNAが共導入されたHLF細胞(siET)、4種類のELAVL2 siRNA及び4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞(siEG)、4種類のTEAD1 siRNA及び4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞(siTG)を作製した。また、4種類のELAVL2 siRNA、4種類のTEAD1 siRNA、及び4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞(siETG)を作製した。
【0100】
共導入から7日後の各HLF細胞について、DNAメチル化レベルをMethylFlash Methylated DNA Quantification Kit (EPIGENTEK社)で測定した。その結果を図13に示す。図中のscrambleはどの遺伝子にも影響しないと想定されるmiRNAサイズのRNA塩基配列を意味している。データは絶対定量値を測定したのち、HLF細胞におけるメチレーションレベルを1として、比較したものである。
【0101】
さらに、HLF細胞をHuh7細胞(高分化型肝癌細胞)に変えて、同様の手順によりDNAメチル化レベルを調べた。その結果を図14に示す。
【0102】
HLF細胞では、各siRNAの導入によってメチル化レベルの低下が見られた。特に、siETGでは、hiPSCと同等の脱メチル化レベルに誘導できた。Huh7細胞では、各siRNAの導入によって、hiPSCと同等の脱メチル化レベルに誘導できた。なお、siETGを導入したHLF細胞は、免疫不全マウス(KSN/Slc)に皮下移植、又は腹腔内へ移植しても腫瘍は形成されなかった。
【0103】
<実施例12>腫瘍形成能の評価
実施例11と同様の手順で、4種類のELAVL2 siRNA、4種類のTEAD1 siRNA、及び4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞を作製した。共導入から2日後のHLF細胞(1x107細胞以上)を、免疫不全マウスに皮下移植(12匹)、及び腹腔内移植(12匹)した。その結果、4か月以上の観察において、腫瘍形成能は全例で見られなかった。
【0104】
実施例11と同様の手順で、4種類のELAVL2 siRNA及び4種類のTEAD1 siRNAが共導入されたHLF細胞、4種類のELAVL2 siRNA及び4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞、4種類のTEAD1 siRNA及び4種類のGATAD2B siRNAが共導入されたHLF細胞を作製した。共導入から2日後のHLF細胞(1x107細胞以上)を、免疫不全マウスに皮下移植(8匹)、及び腹腔内移植(8匹)した。この場合も、4か月以上の観察において、腫瘍形成能は全例で見られなかった。
【0105】
実施例11と同様の手順で、4種類のELAVL2 siRNAが共導入されたHLF細胞を作製した。共導入から2日後のHLF細胞(1x107細胞以上)を、免疫不全マウスに皮下移植したところ、12例中2例のみ皮下腫瘍を形成したが、悪性腫瘍ではなく、「脂肪細胞や膠原線維などの正常細胞を含む分化傾向を有する未分化ではない腫瘍組織」という診断であり、病理組織上明確な診断をつけがたい前例のない良性腫瘍であった。他の10例は、4か月以上の観察において、腫瘍形成は認められなかった。
【0106】
以上の実施例1~12の結果は、上記に挙げた各遺伝子の1つ以上の発現を阻害することによって、細胞が多能性幹細胞にリプログラミングされることを示している。特に悪性腫瘍細胞のリプログラミングについては、世界的にほとんど研究成果がでていない領域であり、今後の悪性腫瘍治療の新たな可能性を秘めている。その他、本実施例に記載の技術は、研究用の多能性幹細胞の作製や、再生医療に用いることができる。さらには、本実施例で得られた多能性幹細胞は、生体内投与後4か月以上の長期間が経過した後でも悪性腫瘍化しなかった。そのため、本実施例で得られた多能性幹細胞は、安全性に非常に優れているといえる。
【0107】
以上、本発明を実施例に基づいて説明した。この実施例はあくまで例示であり、種々の変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13