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明細書 :高機能性IgG2型二重特異性抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月13日(2017.4.13)
発明の名称または考案の名称 高機能性IgG2型二重特異性抗体
国際特許分類 C12N  15/02        (2006.01)
C07K  16/46        (2006.01)
C07K  16/28        (2006.01)
C07K  16/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAC
C07K 16/46
C07K 16/28
C07K 16/00
C12N 5/10
A61K 39/395 N
A61K 39/395 D
A61P 35/00
A61P 43/00 105
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 27
出願番号 特願2016-510148 (P2016-510148)
国際出願番号 PCT/JP2015/055341
国際公開番号 WO2015/146437
国際出願日 平成27年2月25日(2015.2.25)
国際公開日 平成27年10月1日(2015.10.1)
優先権出願番号 2014062066
優先日 平成26年3月25日(2014.3.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】熊谷 泉
【氏名】浅野 竜太郎
【氏名】梅津 光央
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4C085
4H045
Fターム 4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
4C085BB41
4C085BB43
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085DD63
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA40
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
要約 【課題】
優れた抗腫瘍効果等の細胞傷害活性の機能を保持しつつ、更に、機能が向上した高機能性二重特異性抗体、特に、LH型二重特異性抗体を提供することである。
【解決手段】
抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のL鎖のヒト型化可変領域(5L:配列番号2)及びH鎖のヒト型化可変領域(5H:配列番号4)、抗CD3抗体OKT3のL鎖のヒト型化可変領域(OL:配列番号6)及びH鎖のヒト型化可変領域(OH:配列番号8)を含む可変領域、ヒンジ領域、並びに、Fc領域を含む、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1及びCD3に対する二重特異性抗体であって、該Fc領域がヒトIgG2サブクラスに由来することを特徴とする、前記抗体等。
【選択図】図9
特許請求の範囲 【請求項1】
抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のL鎖のヒト型化可変領域(5L:配列番号2)及びH鎖のヒト型化可変領域(5H:配列番号4)、抗CD3抗体OKT3のL鎖のヒト型化可変領域(OL:配列番号6)及びH鎖のヒト型化可変領域(OH:配列番号8)を含む可変領域、ヒンジ領域、並びに、Fc領域を含む、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1及びCD3に対する二重特異性抗体であって、該Fc領域がヒトIgG2サブクラスに由来することを特徴とする、前記抗体。
【請求項2】
各ポリペプチドにおいて、L鎖可変領域がH鎖可変領域のN末側にあること(LH型)を特徴とする、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
IgG型タイプの免疫グロブリン分子と同じドメイン数を有する、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
(OL5H)-(ペプチドリンカー)-(5LOH)で示される構造を有するシングルポリペプチド鎖がヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域に結合した構造を有している、請求項3に記載の抗体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載された抗体を構成する一本鎖ポリペプチド。
【請求項6】
請求項5記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項7】
請求項6記載の核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
【請求項8】
プラスミドベクターである、請求項7記載のベクター。
【請求項9】
請求項7又は8記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項10】
哺乳動物細胞である請求項9記載の宿主細胞。
【請求項11】
請求項9記載の宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、請求項4に記載の一本鎖ポリペプチドを回収し、精製し、得られた該一本鎖ポリペプチドを会合させ、形成された抗体を分離・回収することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項13】
腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする請求項12記載の医薬組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性に優れ、がん特異的免疫療法に使用することのできるヒト型化高機能性IgG2型二重特異性抗体、それを構成する一本鎖ポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸、該抗体の製造方法、及び、それらの医薬として用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
がん(悪性腫瘍)及びリウマチ等に対する安全な治療法として、近年、免疫療法が用いられている。がんに対する免疫療法では、がんに対して特異的に細胞傷害活性を示す抗体が使用される。このような抗体から成る抗体医薬は、副作用の少ない、安心安全で治療効果の高いことが認められる一方、確立された動物細胞を用いて製造する必要があるためにコスト高が問題となっている。
【0003】
このため、投与量を大幅に軽減して低コスト化を計る手段として、極めて強力な活性を有する組換え抗体の作製が試みられてきた。
【0004】
例えば、このような組換え抗体のうちの一つである二重特異性抗体(Bispecific Antibody:BsAb)は2つの異なる抗原に対して特異的に結合することが可能であるため、この特性を生かして特異的な抗腫瘍効果を持った治療薬としての利用法が可能であるとして、その研究が盛んに行われている。ダイアボディ(diabody:Db)とはこのような二重特異性抗体の最小単位であり、それぞれ同じ親抗体由来の重鎖(H鎖)の可変領域(V領域)(「VH」と表わされる)VHと軽鎖(L鎖)の可変領域(V領域)(「VL」と表わされる)VLとが互いに非共有結合によりヘテロ二量体を形成するという性質を利用し考案されたものである(非特許文献1)。又、ダイアボディ型二重特異性抗体以外の二重特異性抗体の調製等は、例えば、非特許文献2及び非特許文献3記載されている。
【0005】
本発明者等は、これまでに、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1(Her1)抗体528及び抗CD3抗体OKT3を用いて作製したダイアボディ型二重特異性抗体(Ex3)及び該抗体をヒト型化したダイアボディ型二重特異性抗体(hExh3)が極めて強力な抗腫瘍効果を有していることを見出している(特許文献1)。更に、このヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体等に基づき多様な構造を有する高機能性二重特異性抗体を開発している(特許文献2)。
【0006】
更に、本発明者は、ヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体を構成する各ポリペプチドにおいてL鎖可変領域がN末側にある「LH型」であることを特徴とするLH型二重特異性抗体及び該LH型二重特異性抗体を含む高機能性二重特異性抗体を開発した(特許文献3)。又、Her1抗体528のH鎖又はL鎖に各種のアミノ酸変異・置換を有するこれらの抗体(特許文献4及び特許文献5)も開発した。
【0007】
上記特許文献2~5に記載された高機能性二重特異性抗体は、夫々、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528及び抗CD3抗体OKT3のL鎖及びH鎖を含む可変領域に加えてFc領域を含む、二重特異性抗体である。このような構造を有するヒト型化高機能性二重特異性抗体は、Ex3に比べて細胞傷害活性が格段に向上し、各抗原に対して二価で結合可能であり、プロテアーゼ消化によりTag等の付加配列を最小限にした二重特異性抗体が容易に調製され、プロテインAによる簡易精製が可能となる。更に、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性及び補体依存性細胞傷害(CDC)作用の誘導等のエフェクター効果を誘導する機能が新たに付与される。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特許第3803790号明細書
【特許文献2】国際公開第WO2007/108152号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO2010/109924号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO2011/062112号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO2012/020622号パンフレット
【0009】

【非特許文献1】Hollinger, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 6444-6448, 1993
【非特許文献2】Alt M, et. al. Novel tetravalent and bispecific IgG-like antibody molecules combining single-chain diabodies with the immunoglobulin gamma1 Fc or CH3 region. FEBS Lett., 454, 90-4. (1999)
【非特許文献3】Lu D, et. al. A fully human recombinant IgG-like bispecific antibody to both the epidermal growth factor receptor and the insulin-like growth factor receptor for enhanced antitumor activity. J Biol Chem., 280, 19665-72. (2005)
【非特許文献4】J Biol Chem. 2005:280 (20)19665-72
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、Fc領域を含む二重特異性抗体は非常に優れた特性を有するが、精製後の保存中等に可変領域とFc領域等との融合部位にあるヒンジ領域近傍で断片化が生じることが問題となっていた(図1)。更に、このような高機能性二重特異性抗体はFc領域を介してエフェクター効果を過剰に誘導し、それによる副作用が懸念されている。
【0011】
特に、特許文献3に記載された、LH型高機能性二重特異性抗体(Ex3-scDb-Fc LH型)はi n vitroにおいてそのHL型に比べて優れた活性を示すが、tumor establishモデル等のin vivoにおいては有意な差は見られていない。従って、このようなLH型二重特異性抗体に関して、更なる機能の向上が求められている。
【0012】
本発明の課題は、このような構造を有する二重特異性抗体において、優れた抗腫瘍効果等の細胞傷害活性の機能を保持しつつ、上記の問題点が改善された、臨床上、より優れた二重特異性抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
当該技術分野において、Fc領域を含む二重特異性抗体を作製する場合には、エフェクター効果を効率的に誘導する目的で、通常、IgG1サブクラスに由来するFc領域が用いられる(非特許文献4)。しかしながら、本発明者は、Fc領域のサブクラスの中で、IgG2はエフェクター効果の誘導能が低いことに着目して、従来からFc領域として通常使用されてきたIgG1に代えて、IgG2に由来するFc領域を使用して上記の高機能性二重特異性抗体の作製することを試み、その結果、本願発明を完成させて上記課題を解決することに成功した。
【0014】
即ち、本発明は以下に示す各態様に係るものである。
【0015】
[請求項1]
抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のL鎖のヒト型化可変領域(5L:配列番号2)及びH鎖のヒト型化可変領域(5H:配列番号4)、抗CD3抗体OKT3のL鎖のヒト型化可変領域(OL:配列番号6)及びH鎖のヒト型化可変領域(OH:配列番号8)を含む可変領域、ヒンジ領域、並びに、Fc領域を含む、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1及びCD3に対する二重特異性抗体であって、該Fc領域がヒトIgG2サブクラスに由来することを特徴とする、前記抗体。
[態様2]
各ポリペプチドにおいて、L鎖可変領域がH鎖可変領域のN末側にあること(LH型)を特徴とする、態様1記載の抗体。
[態様3]
IgG型タイプの免疫グロブリン分子と同じドメイン数を有する、態様1又は2に記載の抗体。
[態様4]
(OL5H)-(ペプチドリンカー)-(5LOH)で示される構造を有するシングルポリペプチド鎖がヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域に結合した構造を有している、態様3に記載の抗体。
[態様5]
態様1~4のいずれか一項に記載された抗体を構成する一本鎖ポリペプチド。
[態様6]
態様5記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
[態様7]
態様6記載の核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクター。
[態様8]
プラスミドベクターである、態様7記載のベクター。
[態様9]
態様7又は8記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
[態様10]
哺乳動物細胞である態様9記載の宿主細胞。
[態様11]
態様9記載の宿主細胞を培養して宿主細胞中で該核酸を発現せしめ、態様4に記載の一本鎖ポリペプチドを回収し、精製し、得られた該一本鎖ポリペプチドを会合させ、形成された抗体を分離・回収することを特徴とする、態様1~4のいずれか一項に記載の抗体の製造方法。
[態様12]
態様1~4のいずれか一項に記載の抗体を有効成分として含有することを特徴とする医薬組成物。
[態様13]
腫瘍細胞を排除する、殺傷する、傷害する及び/又は減少せしめるためのものであることを特徴とする態様12記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の抗体は、IgG1に由来するFc領域を有する従来の同型の抗体と比較して、抗原への結合性には違いが見られず、PBMCに対する増殖能には低下が見られた。
しかしながら、細胞傷害活性に関して、エフェクター細胞としてT-LAKを使用した場合には同程度の活性が見られたものの、PBMCを使用した場合には、PBMCに対する増殖能の低下から予想される結果とは異なり、驚くべきことに、本発明抗体の方がより高い細胞傷害活性を示した。
又、T細胞に対する活性化能についても、従来の同型の抗体と比較して、T-LAKに対しては本発明抗体の方が低いがPBMCに対しては高い、という予想外の結果が得られた。
さらにin vivo試験においても、従来の同型の抗体と比較して、本発明抗体の方がより高い腫瘍の成長抑制効果を示した。
【0017】
この理由の一つとして、PBMCにはエフェクター効果の担い手となるFcレセプター(FcR)陽性のNK細胞も含まれており、PBMC中におけるリンパ球とNK細胞との共存下では、FcRへの結合能を有する従来の同型の抗体では、NK細胞との結合による立体障害によりリンパ球の作用が阻害されていることが挙げられる。in vivo試験においても、用いたマウスはヒトのFc領域との交差反応があるNK細胞を有しているため、同様の理由が考えられる。
更に、本発明の抗体は、IgG1に由来するFc領域を有する従来の同型の抗体と比較して、優れた安定性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】LH型 Ex3-scDb-Fcの断片化の一例を示す。
【図2】Ex3-scDb-Fc LH型IgG2発現ベクターの構築を示す。
【図3】FCMによる発現確認の結果を示す。
【図4】ELISAによるクローニング (480クローン)の結果を示す。
【図5】ELISAによるクローニング (12クローン) の結果を示す。
【図6】プロテインA精製の結果を示す。
【図7】ゲルろ過クロマトグラフィー精製の結果を示す。
【図8】PBMCを用いたProliferation assayの結果を示す。
【図9】MTS assayによる細胞傷害性評価の結果を示す。
【図10】サイトカイン分泌誘導能評価 (がん細胞+T-LAKのみ) の結果を示す。
【図11】サイトカイン分泌誘導能評価 (T-LAKのみ) の結果を示す。
【図12】IgG1とIgG2のヒンジ領域におけるアミノ酸配列を示す。
【図13】T-LAKを用いたProliferation assayの結果を示す。
【図14】FCMによるT細胞活性化誘導能評価の結果を示す。
【図15】Ex3-scDb-Fc LH型IgG2の安定性評価の結果を示す。
【図16】Ex3-scDb-Fc LH型IgG2のin vivo試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の抗体は、基本的な構成要素として、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1抗体528のL鎖のヒト型化可変領域(5L:配列番号2)及びH鎖のヒト型化可変領域(5H:配列番号4)、抗CD3抗体OKT3のL鎖のヒト型化可変領域(OL:配列番号6)及びH鎖のヒト型化可変領域(OH:配列番号8)を含む可変領域、ヒンジ領域、並びに、ヒトIgG2サブクラスに由来するFc領域を含む。その結果、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体1及びCD3に対する二重特異性を有する。尚、「Fc領域」とは、定常領域(C領域)を構成するH鎖のC末端側の2個のドメイン(CH2及びCH3)及びヒンジ部を含む領域を意味する。

【0020】
本発明の抗体は、ヒトFc領域を有しているために、プロテインAによる精製が容易であり、又、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性及び補体依存性細胞傷害(CDC)作用を誘導することが出来る。

【0021】
更に、Fc領域としてヒトIgG2サブクラスに由来するポリペプチドを使用することによって、Fc領域としてヒトIgG1サブクラスに由来するポリペプチドを使用した同じ型の二重特異性抗体に比べて、より優れた安定性と、より高い細胞傷害性を有する。

【0022】
このような構成要素を含む本発明の二重特異性抗体の具体的な例として、様々な型の抗体を作製することが出来る。この例として、例えば、特許文献2において、第二の型(Ex3-Fc)及び第三の型(Ex3 scDb-Fc)として記載されている通常のIgG型抗体分子である高機能性二重特異性抗体、並びに、上記の構成要素に加えて更にL鎖定常領域(CL)及びH鎖定常領域(CH1)を含む第四の型(Ex3 scFv-Fc)として記載されている高機能性二重特異性抗体を挙げることが出来る。

【0023】
本発明の第四の型二重特異性抗体に含まれるL鎖定常領域(CL)及びH鎖定常領域(CH1)はヒト抗体に由来するものである限り特に制限はない。例えば、CLはκまたはλ鎖の何れに由来するものでも良い。CH1としては、通常、IgGのγ鎖に由来するものが使用される。CH1及びCLの一例として、夫々、特許文献2に開示された配列番号29及び配列番号33に示したアミノ酸配列を有するものを挙げることができる。

【0024】
より具体的には、上記の第ニの型(Ex3-Fc)は、OH5L及び5HOLの二種類のポリペプチドから構成されるヒト型化ダイアボディ型二重特異性抗体(Ex3)がいずれか一方のポリペプチドによりヒンジ領域を介してヒト抗体の2つのFc領域に結合しているものである。即ち、具体的には、ヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域と結合したEx3を構成する2種類のポリペプチドの何れか一方のポリペプチド(例えば、(5HOL)-ヒンジ領域-Fc領域)、及び、Ex3を構成するもう一方のポリペプチド(例えば、(OH5L))の2種類のポリペプチドから構成されるものである。該抗体はこれら2種類の一本鎖ポリペプチドを共発現させた後に会合せしめることによって製造することが出来る。

【0025】
この型の抗体において、5HOL又はOH5Lの何れかのポリペプチドをヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域に結合させることができ、更に、各一本鎖ポリペプチドに含まれるH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れがヒンジ領域と結合していても良い。

【0026】
上記の第三の型(Ex3 scDb-Fc)は、上記の第二の型におけるEx3の代わりに、Ex3 scDb、即ち、Ex3を構成する2種類のポリペプチド鎖であるOH5L及び5HOLが更にペプチドリンカーにより結合された(OH5L)-(ペプチドリンカー)-(5HOL)で示される構造を有するシングルポリペプチド鎖、(OH5H)-(ペプチドリンカー)-(5LOL)で示されるシングルポリペプチド鎖、又は、(5L5H)-(ペプチドリンカー)-(OHOL)で示されるタンデム型のシングルポリペプチド鎖がヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域に結合した構造を有している。尚、以上の一本鎖ポリペプチドに含まれる2種類のH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れがヒンジ領域と結合していても良い。

【0027】
上記の第二の型及び第三の型を構成するドメインの数はIgGタイプの免疫グロブリン分子と同じであり、これらの抗体は該免疫グロブリン分子に近い立体的構造を有しているものと考えられる。更に、これら本発明BsAbの第ニの型(ii)及び第三の型(iii)において、Ex3又はEx3 scDbとヒンジ領域の間にプロテアーゼ切断部位を介在させることにより、これらのBsAbをプロテアーゼ消化し、その後、後述する各種精製操作を適宜行うことによって、Ex3又はEx3 scDbを容易に製造することが可能となる。又、こうしたプロテアーゼ消化によって得られたEx3又はEx3 scDbは、従来の方法で作製したものと比較してより高い細胞傷害活性を示す。

【0028】
上記の第四の型(Ex3 scFv-Fc)は、抗体(免疫グロブリン分子)のVH及びVLを、夫々、抗ヒト上皮細胞成長因子受容体抗体528のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(scFv)(5HL)又は抗CD3抗体OKT3のH鎖及びL鎖のヒト型化可変領域を含む一本鎖Fv(OHL)で置換して成る抗体である。即ち、該抗体は、IgGタイプの免疫グロブリン分子においてH鎖の定常領域を構成するCH1ドメインのN末端側にscFvであるOHL又は5HLのいずれか一方が結合してなるポリペプチド、及びL鎖の定常領域CLのN末端側にもう一方のscFvが結合してなるポリペプチドの2種類の一本鎖ポリペプチドから構成されるものである。尚、scFvに含まれるH鎖可変領域又はL鎖可変領域の何れがこれら領域と結合していても良い。従って、該抗体はこれら2種類の(一本鎖)ポリペプチドを共発現させた後に会合せしめることによって製造することが出来る。

【0029】
又、本発明の二重特異性抗体等を構成する各ポリペプチドにおいて、非特許文献3に記載されているようなL鎖可変領域がH鎖可変領域のN末側にあること(LH型)を特徴とする各種の抗体も本発明に含まれる。即ち、例えば、第三の型(Ex3 scDb-Fc)におけるこのようなLH型の例として、本明細書の実施例に記載されている、(OL5H)-(ペプチドリンカー)-(5LOH)で示される構造を有するシングルポリペプチド鎖がヒンジ領域を介してヒト抗体のFc領域に結合した構造を挙げることができる。

【0030】
更に、本発明の二重特異性抗体等を構成する各ポリペプチドにおいて、特許文献4及び特許文献5に記載されているように、Her1抗体528のH鎖又はL鎖に各種のアミノ酸変異・置換を導入することもできる。

【0031】
本発明抗体を構成する一本鎖ポリペプチドは、例えば、特許文献2の図3-3及び図3-4に開示された、PreScission配列、ペプチドリンカー、シグナルペプチド等のアミノ酸配列を含むことができる。尚、PreSission配列はプロテアーゼ切断部位を含む配列である。使用するプロテアーゼの種類に特に制限はなく、例えば、Thrombin及びFactor Xa等の当業者に公知の酵素を使用することが出来、それに応じて、プロテアーゼ切断部位を含むアミノ酸配列を適宜選択することが出来る。

【0032】
発明抗体の断片化をより効果的に抑制するためには、PreSission配列等のプロテアーゼ切断部位は含まれていないことが好ましい。

【0033】
抗EGFR抗体(528抗体)産生マウスB細胞ハイブリドーマ528は、東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターに寄託されている(ID:TKG0555)。更に、528抗体を産生するハイブリドーマはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてATCC No.HB-8509 として保管されており、かかる寄託機関からも容易に入手可能である。

【0034】
一方、抗CD3抗体OKT3を産生するハイブリドーマは東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターに寄託されている(ID:TKG0235)。又、OKT3抗体を産生するハイブリドーマはアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)においてATCC No.CRL-8001 として保管されており、かかる寄託機関からも容易に入手可能である。

【0035】
これらを用いて、当業者に公知の方法によってcDNAを調製することが出来る。例えば、ISOGEN(ニッポンジーン社)を用いmRNAを抽出、First-Strand cDNA Synthesis Kit(Amersham Biosciences社)によりcDNAを調製し、参考論文(Krebber, A. et al. Reliable cloning of functional antibody variable domains from hybridomas and spleen cell repertoires employing a reengineered phage display system. J Immunol Methods 201, 35-55. (1997))に基づき合成したクローニングプライマーを用いPCRを行いこれら各抗体のH鎖及びL鎖の可変領域の配列を決定することができる。

【0036】
本発明の二重特異性抗体を構成する一本鎖ポリペプチドに含まれる可変領域の「ヒト型化」とは、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)のヒト型化可変領域における相補性決定領域 (complementarity-determining region; CDR)の残基の少なくとも一部において、マウス、ラット、またはウサギといったような非ヒト動物(ドナー抗体)であり且つ所望の特異性、親和性、および能力を有するCDR に由来する残基によって置換されている抗体を意味する。いくつかの場合において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク(FR)残基が対応する非ヒト残基によって置換される場合もある。さらに、ヒト型化抗体は、レシピエント抗体および導入されたCDR またはフレームワーク配列のいずれにおいても見出されない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに優れたものあるいは最適なものとするために行われる。更に詳しくは、Jones et al., Nature 321, 522-525 (1986); Reichmann et al., Nature 332, 323-329 (1988);EP-B-239400; Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2, 593-596(1992); およびEP-B-451216 を参照することができる。

【0037】
このような抗体のヒト型化可変領域のヒト型化は当業者に公知の方法に従って実施することが出来る。例えば、レシピエント抗体及びドナー抗体の3次元イムノグロブリンモデルを使用し、種々の概念的ヒト型化生成物を分析する工程により、ヒト型化抗体が調製される。3次元イムノグロブリンモデルは、当業者にはよく知られている。更に詳細については、WO92/22653等を参照することができる。

【0038】
従って、ヒト型化されたヒト型化可変領域の例として、ヒト型化可変領域における相補性決定領域(CDR)がマウス抗体由来であり、その他の部分がヒト抗体由来である抗体を挙げることができる。

【0039】
本発明では更に、ヒト型化によって抗体自身の機能低下等が生起する場合があるので、一本鎖ポリペプチド中の適当な部位、例えば、CDR構造に影響を与える可能性があるフレームワーク(FR)中の部位、例えば、canonical 配列又はvernier 配列において部位特異的変異を起こさせることによってヒト型化抗体の機能の改善をすることが出来る。

【0040】
具体的には、528ヒト型化可変領域のヒト型化はCDR grafting法により行った。まずVH、VLそれぞれ相同性検索を行い、各CDR(complementarity determining region)の長さ等を考慮した上でもっとも相同性の高いFR(frame work)をもつヒト抗体配列を選択する。選択したヒト抗体のCDRを528のCDRと入れ換えたアミノ酸配列を設計し、対応するコドンについては先と同様に発現に使用する宿主細胞の至適コドンを用いることが好ましく、オーバーラップPCR法により遺伝子の全合成を行うことが出来る。

【0041】
又、ヒト型化OKT3ヒト型化可変領域はすでに報告されており、マウスOKT3に比べて十分に活性を保持していることも確かめられている(Adair, J. R. et al. Humanization of the murine anti-human CD3 monoclonal antibody OKT3. Hum Antibodies Hybridomas 5, 41-7. (1994))。この文献に記載されているヒト型化OKT3ヒト型化可変領域のアミノ酸配列を基に、オーバーラップPCR法により遺伝子の全合成を行った。この際にコドンは宿主細胞における至適コドンを用いることが好ましく、至適コドンに置換した全合成遺伝子を用いることでの宿主細胞における発現量の増加はすでに報告されている。

【0042】
各一本鎖ポリペプチドの構造において示されるペプチドリンカーに加えて、各L鎖可変領域断片及びH鎖可変領域断片は適当なペプチドリンカーで連結されていることが好ましい。該ペプチドリンカーは、一本鎖抗体の分子内での相互作用を困難にし、複数の一本鎖抗体による多量体の形成を可能ならしめ、その結果、互いに別の一本鎖抗体に由来するVHとVLが適切に会合することによって、オリジナルのタンパク質(当該ポリペプチドは該オリジナルのタンパク質に由来するものあるいは該オリジナルのタンパク質から誘導されたものである)の機能、例えば生物活性などの一部あるいはその全てを模擬又は促進する構造をとることができるようなものであれば特に限定されず、例えば当該分野で広く知られたものあるいは該公知のリンカーを改変したものの中から選択して使用することが可能である。例えば、ペプチドリンカーは1~20個、好ましくは1~15個、より好ましくは2~10個のアミノ酸の長さであることが好ましい。

【0043】
更に、各一本鎖ポリペプチドは上記のペプチドリンカーを含まずに、二つの可変領域断片が直接結合していても良い。このような場合には、各一本鎖抗体の三次元的自由度を高めて多量体化を促進させるために、各一本鎖ポリペプチドにおいてN末端側にある可変領域断片のC末端の1ないし数個のアミノ酸、又は、C末端側にある可変領域断片のN末端の1ないし数個のアミノ酸が除去されていることが好ましい。

【0044】
更に、上記の各配列番号で示される各アミノ酸配列において、一個又は数個(例えば、2~5個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列であって、元のアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能・活性、例えば、可変領域断片の抗原特異性と実質的に保持しているアミノ酸配列も本発明の抗体を構成する一本鎖抗体のポリペプチドとして使用することが出来る。欠失、置換、挿入若しくは付加されるアミノ酸は、好ましくは、同族アミノ酸(極性・非極性アミノ酸、疎水性・親水性アミノ酸、陽性・陰性荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸など)同士が置換されるか、又は、アミノ酸の欠失若しくは付加によって、蛋白質の三次元構造及び/又は局所的電荷状態に大きな変化が生じない、又は、実質的にそれらが影響を受けないようなものが好ましい。このような欠失、置換又は付加されるアミノ酸を有するポリペプチドは、例えば、部位特異的変異導入法(点突然変異導入及びカセット式変異導入等)、遺伝子相同組換え法、プライマー伸長法、及びPCR法等の当業者に周知の方法を適宜組み合わせて、容易に作製することが可能である。尚、これらの一個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列は、元のアミノ酸配列全長に対して、90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性(同一性)を示すものということもできる。

【0045】
本発明の各抗体に含まれる一本鎖ポリペプチドに含まれる各領域をコードする核酸分子(ポリヌクレオチド)の代表例は、上記の各配列番号に示された塩基配列を有するものである。その他に、各配列番号に記載の塩基配列の全長と90%以上、好ましくは95%以上、更に好ましくは99%以上の配列相同性を示すような塩基配列から成る核酸分子は、上記の各領域又は配列と実質的に同等の活性又は機能を有するポリペプチドをコードしていると考えられるので、これらの核酸分子も上記の本発明の核酸に含まれる。このような核酸分子には本発明の二重特異性抗体を構成する2種類の一本鎖ポリペプチドの少なくともいずれか一つのポリペプチドをコードする塩基配列が含まれているが、2種類の一本鎖ポリペプチドを夫々コードする2種類に塩基配列が共に含まれていることが好ましい。

【0046】
2つのアミノ酸配列又は塩基配列における配列相同性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行なう。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。

【0047】
ここで、「相同性(同一性)」とは、ポリペプチド配列(あるいはアミノ酸配列)又はポリヌクレオチド配列(あるいは塩基配列)における2本の鎖の間で該鎖を構成している各アミノ酸残基同志又は各塩基同士の互いの適合関係において同一であると決定できるようなものの量(数)を意味し、二つのポリペプチド配列又は二つのポリヌクレオチド配列の間の配列相関性の程度を意味するものである。相同性は容易に算出できる。二つのポリヌクレオチド配列又はポリペプチド配列間の相同性を測定する方法は数多く知られており、「相同性」なる用語は、当業者には周知である (例えば、Lesk, A. M. (Ed.), Computational Molecular Biology, Oxford University Press, New York, (1988);Smith, D. W. (Ed.), Biocomputing: Informatics and Genome Projects, Academic Press, New York, (1993); Grifin, A. M. & Grifin, H. G. (Ed.), Computer Analysis of Sequence Data: Part I, Human Press, New Jersey, (1994);von Heinje, G., Sequence Analysis in Molecular Biology, Academic Press,New York, (1987); Gribskov, M. & Devereux, J. (Ed.), Sequence Analysis Primer, M-Stockton Press, New York, (1991) 等) 。二つの配列の相同性を測定するのに用いる一般的な方法には、Martin, J. Bishop (Ed.), Guide to Huge Computers, Academic Press, San Diego, (1994); Carillo, H. & Lipman, D., SIAM J. Applied Math., 48: 1073 (1988) 等に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。相同性を測定するための好ましい方法としては、試験する二つの配列間の最も大きな適合関係部分を得るように設計したものが挙げられる。このような方法は、コンピュータープログラムとして組み立てられているものが挙げられる。二つの配列間の相同性を測定するための好ましいコンピュータープログラム法としては、GCG プログラムパッケージ (Devereux, J. et al., Nucleic Acids Research, 12(1): 387 (1984)) 、BLASTP、BLASTN、FASTA (Atschul, S. F. et al., J. Molec. Biol., 215: 403 (1990)) 等が挙げられるが、これらに限定されるものでなく、当該分野で公知の方法を使用することができる。

【0048】
更に、上記の各核酸分子は、各配列番号で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ上記配列番号で示された各ポリペプチドの機能・活性と実質的に同じものを有するポリペプチドをコードするDNAを含むものである。

【0049】
ここで、ハイブリダイゼーションは、Molecular cloning third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。

【0050】
ハイブリダイゼーションは、例えば、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987))に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。

【0051】
本明細書において、DNAのハイブリダイズにおける「ストリンジェント(stringent)な条件」は、塩濃度、有機溶媒(例えば、ホルムアミド)、温度、及びその他公知の条件の適当な組み合わせによって定義される。すなわち、塩濃度を減じるか、有機溶媒濃度を増加させるか、またはハイブリダイゼーション温度を上昇させるかによってストリンジェンシー(stringency)は増加する。更に、ハイブリダイゼーション後の洗浄の条件もストリンジェンシーに影響する。この洗浄条件もまた、塩濃度と温度によって定義され、塩濃度の減少と温度の上昇によって洗浄のストリンジェンシーは増加する。

【0052】
従って、「ストリンジェントな条件」とは、各塩基配列間の相同性の程度が、例えば、全体の平均で約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上であるような、高い相同性を有する塩基配列間のみで、特異的にハイブリッドが形成されるような条件を意味する。具体的には、例えば、温度60℃~68℃において、ナトリウム濃度150~900mM、好ましくは600~900mM、pH 6~8であるような条件を挙げることが出来る。ストリンジェントな条件の一具体例としては、5 x SSC (750 mM NaCl、75 mM クエン酸三ナトリウム)、1% SDS、5 x デンハルト溶液50% ホルムアルデヒド、及び42℃の条件でハイブリダイゼーションを行い、0.1 x SSC (15 mM NaCl、1.5 mM クエン酸三ナトリウム)、0.1% SDS、及び55℃の条件で洗浄を行うものである。

【0053】
更に、各一本鎖ポリペプチドにおける可変領域断片をコードする核酸を作製する場合には、予め設計されたアミノ酸配列に基づきオーバーラップPCR法により全合成することができる。尚、「核酸」とは、一本鎖ポリペプチドをコードする分子であれば、その化学構造及び取得経路に特に制限はなく、例えば、gDNA、cDNA、化学合成DNA及びmRNA等を含むものものである。

【0054】
具体的には、cDNAライブラリーから、文献記載の配列に基づいてハイブリダイゼーションにより、あるいはポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 技術により単離されうる。一旦単離されれば、DNA は発現ベクター中に配置され、次いでこれを、大腸菌(E. coli )細胞、COS 細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、またはイムノグロブリンを産生しないミエローマ細胞等の宿主細胞にトランスフェクションさせ、該組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体を合成させることができる。PCR 反応は、当該分野で公知の方法あるいはそれと実質的に同様な方法や改変法により行うことができるが、例えば R. Saiki, et al., Science, 230: 1350, 1985; R. Saiki, et al., Science, 239: 487, 1988 ; H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; M. A. Innis et al. ed., “PCR Protocols: a guide to methods and applications", Academic Press, New York (1990)); M. J. McPherson, P. Quirke and G. R. Taylor (Ed.), PCR: a practical approach, IRL Press, Oxford (1991); M. A. Frohman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 8998-9002 (1988)などに記載された方法あるいはそれを修飾したり、改変した方法に従って行うことができる。また、PCR 法は、それに適した市販のキットを用いて行うことができ、キット製造業者あるいはキット販売業者により明らかにされているプロトコルに従って実施することもできる。

【0055】
DNA など核酸の配列決定は、例えばSanger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463-5467 (1977)などを参考にすることができる。また一般的な組換えDNA 技術は、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (ed.), “Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition)", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York (1989)及び D. M. Glover et al. (ed.), “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) などを参考にできる。

【0056】
こうして取得された本発明の抗体を構成する一本鎖ポリペプチド又はそれに含まれる各領域をコードする核酸は、目的に応じて、当業者に公知の手段により適宜所望のペプチド又はアミノ酸をコードするように改変することができる。この様にDNA を遺伝子的に改変又は修飾する技術は、Mutagenesis: a Practical Approach, M.J.Mcpherson (Ed.), (IRL Press, Oxford, UK(1991) における総説において示されており、例えば、位置指定変異導入法(部位特異的変異導入法)、カセット変異誘発法及びポリメラーゼチェインリアクション(PCR) 変異生成法を挙げることができる。

【0057】
ここで、核酸の「改変」とは、得られたオリジナルの核酸において、アミノ酸残基をコードする少なくとも一つのコドンにおける、塩基の挿入、欠失または置換を意味する。例えば、オリジナルのアミノ酸残基をコードするコドンを、別のアミノ酸残基をコードするコドンにより置換することにより一本鎖ポリペプチドを構成するアミノ酸配列自体を改変する方法がある。

【0058】
又は、アミノ酸自体は変更せずに、CHO細胞等の宿主細胞にあったコドン(至適コドン)を使用するように、一本鎖ポリペプチドをコードする核酸を改変することも出来る。このように至適コドンに改変することによって、宿主細胞内における一本鎖ポリペプチドの発現効率等の向上を図ることが出来る。

【0059】
本発明の抗体は、当業者に公知の方法、例えば、遺伝子工学的手法又は化学合成等の各種手段を用いて製造することが出来る。遺伝子工学的手法としては、例えば、該二重特異性抗体を構成する夫々の一本鎖抗体のポリペプチドをコードする核酸を含有する複製可能なクローニングベクター又は発現ベクターを作製し、このベクターで宿主細胞を形質転換せしめ、該形質転換された宿主細胞を培養して一本鎖ポリペプチドを発現させ、該ポリペプチドを回収・精製し、それらの一本鎖ポリペプチドを会合させ、形成された抗体分子を分離・回収することによって製造することが出来る。

【0060】
ここで、「複製可能な発現ベクター(replicable expression vector)」および「発現ベクター(expression vector) 」は、DNA(通常は二本鎖である)の断片(piece) をいい、該DNAは、その中に外来のDNAの断片を挿入せしめることができる。外来のDNAは、異種DNA (heterologous DNA)として定義され、このものは、対象宿主細胞においては天然では見出されないDNA である。ベクターは、外来DNAまたは異種DNA を適切な宿主細胞に運ぶために使用される。一旦、宿主細胞中に入ると、ベクターは、宿主染色体DNA とは独立に複製することが可能であり、そしてベクターおよびその挿入された(外来)DNA のいくつかのコピーが生成され得る。さらに、ベクターは外来DNAのポリペプチドへの翻訳を可能にするのに不可欠なエレメントを含む。従って、外来DNAによってコードされるポリペプチドの多くの分子が迅速に合成されることができる。

【0061】
このようなベクターは、適切な宿主中で DNA配列を発現するように、適切な制御配列(control sequence)とそれが機能するように(operably)(即ち、外来DNAが発現できるように)連結せしめられたDNA配列を含有する DNA構築物(DNA construct) を意味している。そうした制御配列としては、転写(transcription) させるためのプロモーター、そうした転写を制御するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードしている配列、エンハンサー、リアデニル化配列、及び転写や翻訳(translation) の終了を制御する配列等が挙げられる。更にベクターは、当業者に公知の各種の配列、例えば、制限酵素切断部位、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子(選択遺伝子)、シグナル配列、リーダー配列等を必要に応じて適宜含むことが出来る。これらの各種配列又は要素は、外来DNAの種類、使用する宿主細胞、培養培地等の条件に応じて、当業者が適宜選択して使用することが出来る。更に、製造した一本鎖ポリペプチドの検出及び精製等を容易にする目的のために、当業者に公知の各種のペプチドタグ(例えば、c-mycタグ及びHis-tag)をコードする配列を一本鎖ポリペプチドに対応する配列の末端等に含ませることが出来る。

【0062】
該ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、あるいは単純にゲノムの挿入体(genomic insert)等の任意の形態が可能である。一旦、適切な宿主の中に形質転換で導入せしめられると、該ベクターは宿住のゲノムとは独立して複製したり機能するものであり得る。又は、該ベクターはゲノムの中に組み込まれるものであってもよい。

【0063】
本発明の抗体を構成する一本鎖ポリペプチドを製造する為に使用する各種の発現ベクターは、当業者であれば、当該技術分野における公知技術を用いて容易に作製することが出来る。その一例として、特許文献1、特に、実施例1、2、11及び12の記載及び特許文献2における各実施例を挙げることが出来る。

【0064】
宿主細胞としては当業者に公知の任意の細胞を使用することができるが、例えば、代表的な宿主細胞としては、大腸菌(E. coli) 等の原核細胞、及び、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞) 、ヒト由来細胞などの哺乳動物細胞、酵母、昆虫細胞等の真核細胞が挙げることができる。形質転換菌は当業者に公知の任意の抵当な条件・方法で培養することができる。宿主として、例えば、BL21 star(DE3)株、培地として2xYT培地、培養温度28℃前後、0.5 mM 程度のIPTGで発現を誘導することによって、培養上清又は可溶性画分における本発明の抗体の収量を大幅に向上させることができ、製造効率を高めることが可能となる。

【0065】
このような宿主細胞における発現等により得られた一本鎖ポリペプチドは一般に分泌されたポリペプチドとして培養培地から回収されるが、それが分泌シグナルを持たずに直接に産生された場合には宿主細胞溶解物から回収することが出来る。一本鎖ポリペプチドが膜結合性である場合には、適当な洗浄剤(例えば、トライトン-X100) を使用して膜から遊離せしめることができる。

【0066】
精製操作は当業者に公知の任の方法を適宜組み合わせて行うことが出来る。例えば、必用に応じてPEG化等の化学修飾を行った後、遠心分離、硫酸アンモニウム沈殿、クロスフロー濃縮、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、イオン交換カラム上での分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンセファロースでのクロマトグラフィー、陰イオンまたは陽イオン樹脂クロマトグラフィー(ポリアスパラギン酸カラム等)、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及びアフィニティクロマトグラフィーによって好適に精製される。アフィニティクロマトグラフィーは、一本鎖ポリペプチドが有するぺプチドタグとの親和力を利用した効率が高い好ましい精製技術の一つである。

【0067】
回収された一本鎖ポリペプチドは不溶性画分に含まれている場合には、精製操作は、一本鎖ポリペプチドを可溶化し変性状態にした上で行うことが好ましい。この可溶化処理は、エタノールなどのアルコール類、各種試薬類、グアニジン塩酸塩、尿素などの解離剤として当業者に公知の任意の薬剤を使用して行うことが出来る。更に、こうして精製された同一種類又は2種類の一本鎖ポリペプチドを会合(巻き戻し)せしめ、形成された抗体を分離して回収することによって、本発明の抗体を製造することが出来る。

【0068】
会合処理は、単独の一本鎖ポリペプチドを適切な空間的配置に戻すことによって、所望の生物活性を有する状態に戻すことを意味する。従って、会合処理は、ポリペプチド同志あるいはドメイン同志を会合した状態に戻すという意味も有しているので「再会合」ともいうことができるし、所望の生物活性を有するものにするという意味で、再構成ということもでき、或いは、リフォールディング (refolding)とも呼ぶことが出来る。会合処理は当業者に公知の任意の方法で行うことが出来るが、例えば、透析操作により、一本鎖ポリペプチドを含むバッファ溶液中の変性剤(例えば、塩酸グアニジン)の濃度を段階的に下げる方法が好ましい。この過程で、凝集抑制剤、及び酸化剤を反応系に適宜添加することによって、酸化反応の促進を図ることも可能である。形成された多量体化低分子抗体の分離及び回収も当業者に公知の任意の方法で行うことが出来る。

【0069】
以上に示したように、本発明の抗体は、例えば、培養宿主細胞の培養培地上清、ペリプラズマ画分、菌体内可溶性画分、又は、菌体内不溶性画分から調製することが可能である。

【0070】
本発明のベクターとして、本発明の抗体を構成する一本鎖ポリペプチドに対応する核酸分子を共に含む共発現ベクターを用いることによって、又は、一本鎖ポリペプチドの夫々をコードする核酸分子を含む発現ベクターを同一の宿主細胞を形質転換せしめ、該形質転換菌内で夫々の一本鎖ポリペプチドが発現した後に抗体分子が形成され、それを培養宿主細胞の培養培地上清又は可溶性画分から調製することが可能である。従って、このような場合には、上記の会合(巻き戻し)処理は不要となり、低コストで高生産性が得られる。

【0071】
本発明の医薬組成物は、本発明の抗体、一本鎖ポリペプチド、核酸、ベクター、及び形質転換された宿主細胞から成る群から選ばれたものを有効成分として含有することを特徴とする。かかる有効成分は、以下の実施例に示されているように、インビトロ及びインビボで上皮細胞成長因子受容体を発現する(陽性)腫瘍細胞を有意に排除・殺傷・傷害する作用を有しているので、本発明の医薬組成物はこのような腫瘍細胞に対する抗腫瘍剤として使用することが出来る。

【0072】
本発明の有効成分の有効量は、例えば治療目的、腫瘍の種類、部位及び大きさ等の投与対象における病状、患者の諸条件、及び投与経路等によって当業者が適宜決めることが出来る。典型的な1回の投与量又は日用量は、上記の条件に応じ、可能ならば、例えば当分野で既知の腫瘍細胞の生存又は生長についての検定法を使用して、まずインビトロで、そして次に、人間の患者のための用量範囲を外挿し得る適切な動物モデルで、適当な用量範囲を決定することもできる。

【0073】
本発明の医薬組成物には、有効成分の種類、薬剤形態、投与方法・目的、投与対象の病態等の各種条件に応じて、有効成分に加えて当業者に周知の薬学上許容し得る各種成分(例えば、担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤、等)を適宜添加することが出来る。

【0074】
本発明の医薬組成物は、上記各種条件に応じて、錠剤、液剤、粉末、ゲル、及び、噴霧剤、或いは、マイクロカプセル、コロイド状分配系(リポソーム、マイクロエマルジョン等)、及びマクロエマルジョン等の種々薬剤形態をとり得る。

【0075】
投与方法としては、静脈内、腹腔内、脳内、脊髄内、筋肉内、眼内、動脈内、特には胆管内、又は病変内経路による注入又は注射、及び持続放出型システム製剤による方法が挙げられる。本発明の活性物質は、輸液により連続的に、または大量注射により投与されることができる。尚、本発明の医薬組成物を投与する場合には、食作用又は細胞傷害活性を有する細胞と共に投与することが好ましい。或いは、投与前に本発明のLH型ダイアボディ型二重特異性抗体のような有効成分と上記細胞とを混合することによって、投与前に該抗体を予め該細胞に結合させておくことが好ましい。

【0076】
持続放出製剤は、一般的には、そこから本発明の活性物質をある程度の時間放出することのできる形態のものであり、持続放出調製物の好適な例は、蛋白質を含む固体疎水性ポリマーの半透過性担体を含み、該担体は、例えばフィルムまたはマイクロカプセル等の成型物の形態のものである。

【0077】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法、例えば日本薬局方解説書編集委員会編、第十三改正 日本薬局方解説書、平成8年7月10日発行、株式会社廣川書店などの記載を参考にしてそれらのうちから必要に応じて適宜選択して製造することができる。

【0078】
尚、本明細書及び図面において、用語はIUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。

【0079】
以下に実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。

【0080】
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。尚、以下の実施例において、特に指摘が無い場合には、具体的な操作並びに処理条件などは、DNA クローニングでは J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis, “Molecular Cloning", 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor, N. Y. (1989) 及び D. M. Glover et al. ed., “DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) ; 特にPCR 法では、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed.,“DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) 及び M. A. Innis et al. ed.,“PCR Protocols", Academic Press, New York (1990)に記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。

【0081】
実施例において、Ex3-scDb-Fc LH型のヒンジとFc領域を従来のIgG1からFcRや補体への結合能が低いとされるIgG2へと構造改変したEx3-scDb-Fc LH型IgG2を作製することで、FcRや補体への結合能が細胞傷害性に与える影響を検証した。
【実施例1】
【0082】
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2発現ベクターの作製
まず、当業者に公知の方法を用いてPBMCからmRNAを抽出し、cDNAの合成を行った。そのcDNAを用いてヒトIgG2配列のヒンジ領域からFc領域をカバーするプライマーでPCRによる遺伝子増幅を行い、pRAベクターに挿入しpRA IgG2 hinge-Fcを得た。その配列を確認したところ、遺伝子データバンクであるGenBankのhuman IgG2 遺伝子配列(BX640623. 1)と完全に一致する遺伝子が得られた。
こうして得られたヒトIgG2配列のヒンジ領域及びFc領域(CH2及びCH3)を含む塩基配列を配列番号9で示す。
【実施例1】
【0083】
続いて、得られたpRA IgG2 hinge-FcおよびpcDNA Ex3-scDb-Fc LH型(特許文献3の実施例2に準じて作製)を鋳型として2度のPCRを行い、BamHIとXhoIで消化した後のライゲーションによりpcDNA Ex3-scDb-Fc LH型IgG2を作製した(図2)。以下に使用したプライマー、条件を示す。
【実施例1】
【0084】
pRA IgG2 hinge-Fc
(鋳型:mRNA抽出産物、annealing温度:55℃、伸長時間:60 sec )
back primer:NcoI-IgG2 hinge
配列番号10:5’-NNNCCATGGTGTTGTGTCGAGTGCCCACC -3’
forward primer:IgG2 Fc-SacII
配列番号11:5’-NNN CCGCGG TCATTTACCCGGAGACAGGGAG -3’
【実施例1】
【0085】
pcDNA Ex3-scDb-Fc LH型IgG2
1st PCR(PreScission site-IgG2 Fc-XhoI作製)
(鋳型:pRA IgG2 hinge-Fc、annealing温度:55℃、伸長時間:60 sec )
back primer:PreScission-IgG2 hinge
配列番号12
:5’- CTGGAAGTTCTGTTCCAGGGGCCC TGTTGTGTCGAGTGCCCACC -3’
forward primer:CH3-XhoI
配列番号13:5’-NNNCTCGAGTCATTTACCCGGAGACAGGGAGAG-3’
【実施例1】
【0086】
1st PCR(BamHI-5LOH- PreScission site作製)
(鋳型:pcDNA Ex3-scDb-Fc LH型、annealing温度:60℃、伸長時間:60 sec )
back primer:BamHI-h5L
配列番号14:5’-NNNGGATCC GATATTGTGATGACCCAGAGCCC-3’
forward primer:hOH-PreScission
配列番号15:5’-GGGCCCCTGGAACAGAACTTCCAG GGAGCTAACGGTCACCGG-3’
2nd PCR
( 鋳型:1st PCR産物、annealing温度:60℃、伸長時間:60 sec )
back primer:BamHI-h5L
配列番号14
forward primer:CH3-XhoI
配列番号13
【実施例1】
【0087】
【表1】
JP2015146437A1_000003t.gif
【実施例2】
【0088】
CHO細胞への遺伝子導入とクローニング
発現ベクターpcDNA Ex3-scDb-Fc LH型IgG2を予めNruIで制限酵素消化し、直鎖状にした。続いて、CHO細胞を宿主細胞として用い、Lipofectamine2000を使用したリポソーム法による遺伝子導入を行った。そして、G418を含む選択抗生培地によりスクリーニングを行い、その培地上清を用いて、当業者に公知の方法(例えば、特許文献5の実施例2に記載の方法)に準じた方法を用いたフローサイトメトリー(FCM)によりヒト扁平上皮がん細胞株であるA431細胞(ATCC No.CRL-1555)(EGFR+)及び細胞傷害性T細胞であるT-LAK(CD3+)に対する結合活性評価を行うことで、本発明抗体の一種であるEx3-scDb-Fc LH型IgG2の発現を確認した(図3)。A431、T-LAKそれぞれに対する結合活性が見られたため、遺伝子導入に成功したことが確認できた。
【実施例2】
【0089】
その後、限界希釈法によるクローニングを行い、その上清を用いてELISAを行った(図4)。続いて、その中から特に値が高く、かつ1つの細胞から派生したコロニーだけを形成していたclone 52、59、104、111、171、198、341、343、366、468、470、476を選択し、12穴プレートを用いて拡大培養した。その培養上清を10、100倍に希釈した溶液を調製し、再びELISAを行い、原液および10倍希釈において値の高かったclone 366、470を選択した(図5)。
尚、ELISAはHuman IgG ELISA Quantitation Kit(BETHYL社)を用いて行った。
【実施例2】
【0090】
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2の調製
取得したclone 366、470を、それぞれトリプルフラスコを用いて培養し、その培地上清からプロテインAによる精製を行った。その確認をSDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングにより行った結果、溶出画分にバンドが得られたことから、その精製を確認した(図6)。精製後における収量はclone 366で0.6 mg/L、clone 470で0.9 mg/Lであったことから、精製確認および以後のアッセイにおいてはclone 470を用いた。
【実施例2】
【0091】
次に、プロテインA精製での溶出画分を用いてゲルろ過クロマトグラフィーによる最終精製を行った。結果、Ex3-scDb-Fc LH型IgG2の分子量(158 kDa)と思われる溶出位置にピークが見られたため(図7)、この画分を取得し、以下のアッセイに用いた。
【実施例3】
【0092】
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2の機能評価
(1)Proliferation assayによるPBMC増殖誘導能評価
当業者に公知の方法(例えば、特許文献2の実施例4に記載の方法)により末梢血リンパ球(PBMC)を用いたProliferation assayによりEx3-scDb-Fc LH型IgG2のFcR結合能を評価した。結果、IgG1のFc領域を持つEx3-scDb-Fc HL型、LH型と比較して著しく低い増殖能を示し、FcR結合能が低下していることが示された(図8)。尚、本明細書中の実施例で比較対照として使用されるHL型 Ex3-scDb-Fc及びLH型 Ex3-scDb-Fcは、夫々、特許文献2及び特許文献3に記載の抗体であって、Fc領域としてIgG1由来のポリペプチドを含む抗体である。
【実施例3】
【0093】
(2)SPRを用いたEGFRに対する結合速度論的解析
ヒンジやFc領域への構造改変が抗原に対する結合能に与える影響を検討するため、EGFR(固定化量3690 RU)を用いたSPR(J Biol Chem. 2010 Jul 2:285(27):20844-9)による結合速度論的解析を行ったところ、Ex3-scDb-Fc LH型とEx3-scDb-Fc LH型IgG2のKDは同等であることが示された。
【実施例3】
【0094】
【表2】
JP2015146437A1_000004t.gif
【実施例3】
【0095】
(3)MTS assayによる細胞傷害性評価
構造改変が細胞傷害性に与える影響を検討するため、業者に公知の方法(例えば、特許文献2の実施例5に記載の方法)に準じて、エフェクター細胞としてT-LAKまたはPBMCを用い、ヒト胆管がん細胞株であるTFK-1(東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センター ID:TKG036)に対する細胞傷害性試験MTS assayを行った。その結果、T-LAKを用いた場合においてはEx3-scDb-Fc LH型とEx3-scDb-Fc LH型IgG2は同等の傷害性を示した。一方で、予想外なことに、PBMCを用いた場合においてはEx3-scDb-Fc LH型IgG2の方がより高い活性を示した(図9)。
【実施例3】
【0096】
(4)サイトカインの分泌誘導能評価
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2のがん細胞とT-LAKの存在下、およびT-LAKのみの存在下におけるIL-2とIFN-γの分泌誘導能の経時変化を当業者に公知の方法(J Biol Chem. 2011 Jan 21;286(3):1812-8)で評価した(図10、図11)。
【実施例3】
【0097】
その結果、がん細胞とT-LAKが存在する場合においてはEx3-scDb-Fc LH型と同等の値を示すが、T-LAKのみにおいてはLH型と比べて低く、HL型と同等の値であった。LH型IgG2のヒンジには4つのシステインが存在し、図12に示すように、PreScission Protease認識配列の直後にジスルフィド結合の形成部位が存在する。そのためPreScission Protease認識配列とシステインの間に5つの残基を含むEx3-scDb-Fc LH型と比較してヒンジのフレキシビリティーが低下し、OKT3とCD3の結合に影響が生じてT-LAKの活性化能を低下させたと考えられる。しかしながら、上記の実験で示されるように傷害性には影響を及ぼしていないため、T-LAK単独に対する活性化能は傷害性に大きな影響は与えないものと考えられる。
【実施例3】
【0098】
(5)T細胞に対する活性化能評価
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2のT-LAKに対する活性化能の低下が見られたことから、T-LAKに対する増殖誘導能にも影響が生じていると考え、T-LAKを用いて上記の方法でProliferation assayを行った(図13)。その結果、Ex3-scDb-Fc LH型と比較して増殖能の低下が確認された。
【実施例3】
【0099】
続いて、PBMCにEx3-scDb-Fc LH型IgG2を添加した場合におけるCD69の発現を上記のFCMによって評価した(図14)。結果、Ex3-scDb-Fc LH型と比較して、LH型IgG2が高いCD69の発現を示した。これらの結果から、Ex3-scDb-Fc LH型IgG2はT-LAKのようにT細胞が単独で存在する場合においては、前述したようなヒンジの問題により活性化能はEx3-scDb-Fc LH型を下回るが、FcR陽性のNK細胞等のエフェクター細胞が含まれるPBMCにおいては、本発明の抗体のFc領域はFcRとの結合性が低いIgG2由来であるので、NK細胞等との結合による阻害を受けることなくT細胞のみと結合し、より高い活性化を促したとが考えられる。
【実施例4】
【0100】
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2の安定性評価
Ex3-scDb-Fcはヒンジ近傍で切断される断片化が問題となっている。そこで、LH型 Ex3-scDb-Fc IgG1(特許文献3に記載の抗体)及び本発明抗体であるEx3-scDb-Fc LH型IgG2に関して、夫々のゲルろ過クロマトグラフィーによる精製後のサンプルを一定時間経過後、再度ゲルろ過クロマトグラフィーを行うことで断片化の有無を確認し、各抗体の安定性の評価を行った。尚、微生物から産出される因子(プロテアーゼ等)による影響を排除するために、精製後のサンプルをフィルター滅菌処理して実験に供した。その結果を図15に示す。
【実施例4】
【0101】
その結果、LH型 Ex3-scDb-Fc IgG1は6ヶ月後にはかなりの断片化がみられるのに対し、本発明抗体であるEx3-scDb-Fc LH型IgG2はこのような長期間が経過した後でも殆ど断片化しておらず、断片化が有意に抑制されたことが確認された。
【実施例5】
【0102】
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2のin vivo試験
Ex3-scDb-Fc LH型IgG2の担がんマウスを用いたin vivo試験を当業者に公知の方法(Protein Eng Des Sel. 2013 May;26(5):359-67)で評価した(図13)。TFK-1(5 x 106)とT-LAK(1 x 107)を混合後、皮下移植し、その1時間後に各サンプルを投与した。
【実施例5】
【0103】
その結果、Ex3-scDb-Fcは市販されている抗EGFR抗体医薬Cetuximabよりも強い腫瘍の成長阻害活性を示し、さらにEx3-scDb-Fc LH型IgG2はIgG1に比べ、優位に強い効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、Fc領域を含む各種の二重特異性抗体において、FC領域をIgG2由来ポリペプチドを使用することによって、エフェクター機能の低減による副作用を抑制しつつ、立体障害を回避することにより薬効を向上させ、更に、その機能を長期間に亘って安定的に保持する技術を提供することによって、次世代の抗体医薬の開発を加速させ、大いに貢献するものである。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図9】
2
【図10】
3
【図11】
4
【図15】
5
【図16】
6
【図1】
7
【図2】
8
【図5】
9
【図6】
10
【図7】
11
【図8】
12
【図12】
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【図13】
14
【図14】
15