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明細書 :超音波下穿刺補助具

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6168535号 (P6168535)
登録日 平成29年7月7日(2017.7.7)
発行日 平成29年7月26日(2017.7.26)
発明の名称または考案の名称 超音波下穿刺補助具
国際特許分類 A61B   8/14        (2006.01)
A61M   5/42        (2006.01)
A61B  17/34        (2006.01)
FI A61B 8/14
A61M 5/42 520
A61M 5/42 510
A61B 17/34
請求項の数または発明の数 1
全頁数 9
出願番号 特願2015-508654 (P2015-508654)
出願日 平成26年3月27日(2014.3.27)
国際出願番号 PCT/JP2014/058740
国際公開番号 WO2014/157450
国際公開日 平成26年10月2日(2014.10.2)
優先権出願番号 2013071417
優先日 平成25年3月29日(2013.3.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年7月22日(2015.7.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
発明者または考案者 【氏名】原賀 勇壮
【氏名】比嘉 和夫
【氏名】仁田原 慶一
個別代理人の代理人 【識別番号】100174791、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 敬義
審査官 【審査官】永田 浩司
参考文献・文献 特開平05-337127(JP,A)
特開2002-301074(JP,A)
特開2008-061894(JP,A)
実開平06-036609(JP,U)
特開2003-000593(JP,A)
特表昭60-500561(JP,A)
特開昭57-017646(JP,A)
特開昭54-154179(JP,A)
米国特許出願公開第2011/0087105(US,A1)
浅井国康,種々の疾患に於けるSucker療法の研究,日本良導絡自律神経雑誌,日本,日本良導絡自律神学会,1972年,第17巻10号,p.202-214,URL,http://www.jsrm.gr.jp
調査した分野 A61B 8/00 - 8/15
特許請求の範囲 【請求項1】
超音波検査の下,穿刺目的部位表面である皮膚を牽引する牽引機構と,
超音波プローブへの取り付けを可能とする取り付け機構とを備えることにより,
神経ブロックや血管穿刺における穿刺目的部位である血管や筋膜,筋体の狭小部位の狭小化を防止し,かつ,狭小部位の拡張を行うことにより穿刺を補助することを目的とする把持部を備えた超音波下穿刺補助具であって,
前記牽引機構が,中が空洞であって透明ないし半透明素材の,人体接触面に向けて漸次広がっていく中空部材と,
前記中空部材を通じて減圧吸引装置に接続が可能な吸引路と,
中空部材に設けられた針を穿刺するための穿刺用口とからなることを特徴とする超音波下穿刺補助具
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は,超音波下穿刺補助具およびそれを用いた超音波下穿刺方法等に関する。さらに詳しくは,神経ブロックや血管穿刺を行う際に用いられる超音波下穿刺補助具およびそれを用いた超音波下穿刺方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
神経ブロックとは,痛みを起こしている神経について,神経に直接,もしくはその近辺組織に,針等を用いて局所麻酔薬の注射を行い,痛みの伝達をブロックする治療法をいう(非特許文献1,2)。神経ブロックでは,腹直筋鞘,腹横筋膜など,種々の部位に注射を行い,その手法としては従来,ランドマーク法や通電刺激法などが用いられてきた。近年では,超音波による検査を行いながら,神経ブロックを行う手法が主流となりつつある。
【0003】
神経ブロックは,目的部位への注射に非常に高い技術を必要とするため,専門の麻酔科医が行う必要がある。しかしながら,麻酔科医が行う場合であっても,目的部位を貫通するなどの施術ミスが生じる場合がある。例えば,抗凝固療法を受けている患者の増加に伴い,体幹のブロックの重要性が増しているが,合併症である腹膜穿刺とそれに伴う腹腔内臓器穿刺の症例が散見されている例などである。
【0004】
また,血管穿刺においても,超音波による検査を行いながら血管穿刺を行うことがしばしばあり,例えば,救急外来などの緊急時が挙げられる。この場合の患者は出血などにより重篤な状態の場合もあるので,麻酔科医など血管穿刺の技術に優れた施術者であっても,安全のため,超音波による検査を行いながら血管穿刺を行うことが通常行われる。ただし,緊急時には,そのような優れた施術者がいるとは限らず,超音波による検査を行い目的の血管を確認しながらであっても,施術ミスが生じることがある。

【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】A Shido,The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia Vol.30 No.7, 2010
【非特許文献2】Y Fujiwara, T Komatsu, Anesthesia 21 Century Vol.9 No.2-28 2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情を背景として,本発明では,超音波検査下,神経ブロックや血管穿刺を行う際,施術ミス等を防止することが可能な超音波下穿刺補助具,およびこれを用いた超音波下穿刺方法等の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは,手技的な未熟さを除く,腹膜穿刺や誤穿刺の原因の一つとして,注射の目的部位である血管や筋膜,筋体(以下,これらを略して「血管等」という)の狭小化にあると考えた。
すなわち,超音波による検査を行いながら血管穿刺を行う場合,超音波ブローブを目的部位表面に圧着させながら,目的部位である血管等の探索を行う。血管等は軟性の組織であるので,プローブの圧着により,狭小化してしまうことが考えられ,この狭小化により,針等の穿刺のミスが生じやすくなっているのではないかと発明者らは考えた。
【0008】
そこで発明者らは,この狭小化について検証を行ったところ,目的部位表目の圧迫により血管等が狭小化することを確認した。さらに発明者らは,目的部位表面を牽引することにより,血管等の幅が広がり,針等の穿刺を行いやすい状態に導けることを発見した。
発明者らは,この発見をもとに,神経ブロックや血管穿刺を行う際,検査によるプローブの圧着を損なわずに,目的部位表面の牽引を維持することができれば,血管等の幅を広げることが可能となり,ひいては針等の穿刺ミスを防止することができることに着想した。発明者らは,この着想から,これを具現化する超音波下穿刺補助具ならびにこれを用いた超音波下穿刺方法という,従来になかった技術的思想に想到したものである。
【0009】
本発明は,以下の構成からなる。
本発明の第一の構成は,超音波検査の下,皮膚などの穿刺目的部位表面を牽引する牽引機構を備えることにより,神経ブロックや血管穿刺における穿刺目的部位の狭小化等を防止し,穿刺を補助することを目的とする超音波下穿刺補助具である。
【0010】
本発明の第二の構成は,前記牽引機構が,中が空洞の中空部材と,前記中空部材を通じて減圧吸引装置に接続が可能な吸引路とからなることを特徴とする第一の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。
本発明の第三の構成は,前記牽引機構が,さらに中空部材に設けられた針等を穿刺するための穿刺用口を有することを特徴とする第二の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。
本発明の第四の構成は,前記中空部材が,透明ないし半透明素材からなることを特徴とする第二又は第三の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。
【0011】
本発明の第五の構成は,前記中空部材が,人体接触面に向けて漸次広がっていくことを特徴とする第二から第四の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。
本発明の第六の構成は,把持部を有することを特徴とする第一から第五の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。
【0012】
本発明の第七の構成は,前記牽引機構が,牽引針を備えることを特徴とする第一の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。
本発明の第八の構成は,前記牽引機構が,粘着による粘着機構を備えることを特徴とする第一の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。
本発明の第九の構成は,超音波プローブへの取り付けを可能とする,取り付け機構をさらに備えることを特徴とする第二ないし第八の構成に記載の超音波下穿刺補助具である。

【発明の効果】
【0013】
本発明により,超音波検査下,神経ブロックや血管穿刺を行う際,施術ミス等を防止することが可能な超音波下穿刺補助具,およびこれを用いた超音波下穿刺方法等の提供が可能となった。すなわち,本発明の超音波下穿刺補助具を用いることにより,神経ブロックや血管穿刺を行う際に目的部位組織の幅を広げることが可能となり,穿刺ミスを防止することが期待できる。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】減圧吸引式の超音波下穿刺補助具の例を示した斜視図
【図2】減圧吸引式の超音波下穿刺補助具の例を示した三面図
【図3】減圧吸引式の超音波下穿刺補助具の使用例を示した図
【図4】針牽引式の超音波下穿刺補助具の例を示した図
【図5】針牽引式の超音波下穿刺補助具の例を示した図
【図6】針牽引式の超音波下穿刺補助具の例を示した図
【図7】粘着式の超音波下穿刺補助具の例を示した図
【図8】牽引時と圧迫時などの静脈の比較
【図9】実験例に用いた牛肉を示した図
【図10】牽引針を想定した用具
【図11】牽引を行いながら超音波検査を行っている図
【図12】牽引時と圧迫時の筋膜の比較
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,図面を例にとりながら本発明の超音波下穿刺補助具(以下,単に「穿刺補助具」という)の説明を行う。

【0016】
本発明の穿刺補助具は,皮膚などの穿刺目的部位表面を牽引する牽引機構を必須の構成とする。これにより,超音波検査の下,神経ブロックや血管穿刺における穿刺目的部位の狭小化等を防止し,穿刺作業を補助することが可能となる。また,本発明の穿刺補助具は,牽引機構のみに限定されず,他の構成を備えてもよい。例えば,図1に示すような把持部や,図5の32に示すような固定機構などが挙げられる。

【0017】
牽引機構について,皮膚などの穿刺目的部位表面を牽引することが可能な限り特に限定する必要は無く,種々の構成を採用することができる。例えば,針を用いて皮膚表面をひっかけて牽引する構成,もしくは減圧吸引や粘着により皮膚表面を引っ張って牽引する構成などである。

【0018】
牽引機構は,減圧吸引式であることが好ましい。これにより,非侵襲的に牽引を行うことが可能となるとともに,牽引の度合いを調整しやすくなることから,穿刺補助具の取扱性を向上させる効果を有する。

【0019】
図1から図3は,減圧吸引による牽引機構を備えた減圧吸引式穿刺補助具1の例である。
減圧吸引式補助具1は,中空部材11ならびに吸引路12を必須の構成としている。中空部材11は,針等を穿刺するための穿刺用口13,空洞部14を有し,把持するための把持部15が設けられている。

【0020】
減圧吸引式補助具1の使用方法について図3を例にとり説明を行う。
吸引路12はチューブ等で吸引装置につながれており,吸引装置により減圧吸引される。そして,中空部材11を人体表面等にあてることにより,人体表面を牽引することが可能となる。人体表面が牽引されると,その下に存在する静脈等の血管が拡張するため,穿刺が行いやすい状態となる。この状態下,超音波の画像を確認しながら,穿刺口から針を穿刺し,血管等を確保することが可能となる。

【0021】
減圧吸引式補助具について,中空部材は,人体との接触面積を広くすることが好ましく,そのため,図1等に示すような漸次広がっていくような構成を採用することができる。
人体との接触面積が狭い場合,かなり強い圧力で牽引しなければ十分に牽引することができない。そのため,牽引した部分に痛みを感じたり,内出血したりするなどの可能性が高まってしまう。これらの問題について,人体との接触面積を広くすることにより,回避することができる。

【0022】
中空部材は,透明ないし半透明素材からなることが好ましい。これにより,人体表面の様子を確認しながら検査を行うことが可能となり,内出血等の問題を回避しやすくなるという効果を有する。また,血管穿刺等を行う場合,針先の様子などを確認しながら作業を行うことが可能となり,血管穿刺等の成功確率を向上させる効果を有する。
このような透明ないし半透明素材として,特に限定する必要はないが,例えば,シリコンやポリスチレン等の素材を用いることができる。

【0023】
中空部材は,穿刺用口を設けることが好ましい。これにより,穿刺用口から,針等の穿刺を行うことが可能となるため,穿刺を行う選択肢が増え,穿刺補助具の取扱性を向上させる効果を有する。
穿刺用口は,図1等に示すように,縦方向であって,針が通る程度の間隔で設ければよい。また,穿刺用口は1つである必要は必ずしもなく,複数設けても構わない。

【0024】
図4から図6に示す穿刺補助具は,針による牽引機構を備えた穿刺補助具の例であり,牽引機構先の折れ曲がった針で皮膚表面をひっかけるとともに,取っ手を引き上げたり,調整機構33や43を回転させるなどして,牽引を行うことができる。

【0025】
図7に示す穿刺補助具は,粘着による牽引機構を備えた穿刺補助具の例であり,牽引機構先の吸盤状の粘着面で皮膚表面を粘着し,調整機構53を回転させるなどして,牽引を行うことができる。

【0026】
本発明の穿刺補助具は,超音波プローブに取り付けるための固定機構を備えることができる。これにより,超音波プローブへの取り付けが可能となるとともに,超音波プローブを操作しながら補助具を取り扱うことができるなどするため,術者の利便性を向上させる効果を有する。
取り付けられる超音波プローブについては,血管穿刺や神経ブロック施術に用いうる限り特に限定する必要は無く,種々の超音波プローブを用いることができる。このような超音波プローブとして,典型的にはリニアプローブが挙げられ,そのほか,コンベックスプローブ,ホッケースティックプローブなどが挙げられる。

【0027】
固定機構について,超音波プローブへの固定が可能な限り特に限定する必要は無いが,用いる超音波プローブの形状や材質など,種々の観点を考慮して固定機構を選択する必要がある。例えば,はめ込み式やマジックテープ(登録商標)式,粘着式など,様々な固定手段を単独もしくは複数組み合わせた固定機構を選択することができる。
例えば,図1において把持部15をマジックテープ(登録商標)で巻きつけるような固定機構(不図示)などが挙げられる。その他,図5に示す固定機構32,および図7に示す固定機構52は,粘着式固定機構の例であり,棒状の固定機構が,粘着により,リニアプローブに固定されている例である。また,図6に示す固定機構42は,はめ込み式による固定機構の例であり,長方形状の固定機構が,リニアプローブに嵌めこまれることにより,固定されている例である。

【0028】
本発明の超音波下穿刺補助具を用いながら,神経ブロックや血管穿刺のための針等の穿刺を行う超音波下穿刺方法により,目的とする穿刺部位の狭小化を防止することが可能となり,さらには目的とする穿刺部位の幅を広げることもできるため,穿刺ミスを防止することが可能となる。
また,本発明の超音波下穿刺補助具を,予め備えた超音波プローブを用いることによっても,同様の効果を得ることができる。

【実施例】
【0029】
<<測定例>>
1.図8に超音波検査を行った画像例を示す。
2.図8の左画像は,牽引を行わず,通常の超音波プローブの圧着作業により撮像を行った画像である。超音波プローブにより圧迫すると,簡単に静脈は潰れ,狭小化することが確認できる。
3.図8の中央画像は,牽引を行わず,静脈が潰れにくいようにした際の画像である。この場合,プローブをそっと当てたり,ベッドを傾け頭を下げたり,人工呼吸器を「息堪え」状態に設定して静脈を怒張させるなどして,静脈が狭小化しないようすることが可能となる。結果,超音波プローブ圧着時よりも,静脈の幅が広いことが確認できる。
4.図8の右画像は,牽引した際の画像である。皮膚面を垂直方向に牽引して超音波プローブを当てることで,管腔構造が維持され,穿刺方向の距離が,中央画像と比較しても,増していることが分かる。
【実施例】
【0030】
<<実験例1>>
<実験方法>
1.測定対象として,市販されている冷凍牛肉の塊(図9)を購入し,25℃の室温に戻して使用した。
2.牛肉表面に筋膜を有する任意の7カ所を選び,超音波プローブを接触させ,その周囲に先端を曲げた長い注射針を筋膜に刺し,垂直方向に牽引した(図10,11)。
3.牽引した状態で,任意の深さの筋線維の構造体を選択し,筋肉表面から構造体までの深さを計測し,牽引深度とした(図12,左)。
4.次に,筋線維の構造体を超音波画像上で目視確認しながら,牽引を緩め,そのまま,プローベで圧迫した。
5.圧迫した状態で再度,筋肉表面から構造体までの深さを計測し,圧迫深度とした(図9,右)。
6.任意の7カ所で計測し,牽引深度-圧迫深度の差が最大のものと最小のものを除外し,残りの5カ所の計測値を用いて,統計処理した。統計処理としては,対応のあるWilcoxonの符号付き順位検定を使用した。
【実施例】
【0031】
<実験結果>
1.結果を表1に示す。
2.5カ所の牽引深度-圧迫深度の差は,平均: 7. 46 mm,中央値: 7.2 mm,標準偏差: 0.93,最大値: 8.8 mm,最小値: 6.6 mmであり,高度に有意であった(P < 0.01)。
3.この結果から,体幹のブロックの際に牽引を併用することは,安全性を高めることが出来る可能性が示された。
【実施例】
【0032】
【表1】
JP0006168535B2_000002t.gif
【実施例】
【0033】
<<実験例2>>
<実験方法>
伝達麻酔を受け,かつ,中心静脈穿刺を行う患者を対象として,実験例1と同様,血管の拡張度合いについて測定を行った。なお,患者の同意が得られなかった場合,もしくは担当医師が不適当と判断した患者は,実験を行わず除外した。
【実施例】
【0034】
<実験結果>
1.結果を表2に示す。
2.いずれの症例においても,減圧吸引を行ったときの方が,血管幅は拡張していた。
3.この結果から,減圧吸引を行いながら超音波検査を行うことにより,血管幅が拡張し,血管穿刺等が行いやすくなることが強く示唆された。
【実施例】
【0035】
【表2】
JP0006168535B2_000003t.gif

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11