TOP > 国内特許検索 > 太陽光で励起された電子のエネルギーの測定方法と測定装置 > 明細書

明細書 :太陽光で励起された電子のエネルギーの測定方法と測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5991556号 (P5991556)
登録日 平成28年8月26日(2016.8.26)
発行日 平成28年9月14日(2016.9.14)
発明の名称または考案の名称 太陽光で励起された電子のエネルギーの測定方法と測定装置
国際特許分類 H01L  21/66        (2006.01)
FI H01L 21/66 L
請求項の数または発明の数 16
全頁数 15
出願番号 特願2014-554458 (P2014-554458)
出願日 平成25年12月24日(2013.12.24)
国際出願番号 PCT/JP2013/084497
国際公開番号 WO2014/104022
国際公開日 平成26年7月3日(2014.7.3)
優先権出願番号 2012285579
優先日 平成24年12月27日(2012.12.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成27年6月25日(2015.6.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】宇治原 徹
【氏名】市橋 史朗
【氏名】志村 大樹
【氏名】桑原 真人
【氏名】原田 俊太
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査官 【審査官】堀江 義隆
参考文献・文献 特開平10-188781(JP,A)
特開平2-144844(JP,A)
調査した分野 H01L 21/66
H01L 31/04
H01J 49/00 - 49/48
特許請求の範囲 【請求項1】
半導体材料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成し、
その半導体材料を真空環境に置いて太陽光に露出し、
前記表面層から放出される光電子を光電子分光装置に向けて加速し、
光電子分光装置に入射した光電子をエネルギーと放出角度によって分光することを特徴とする
太陽光で励起された電子のエネルギーと波数を測定する方法。
【請求項2】
光電子の加速に用いる電圧を調整して角度分解能を調整する工程を備えている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
半導体材料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成し、
その半導体材料を真空環境に置いて太陽光に露出し、
前記表面層から放出される光電子を光電子分光装置に向けて加速し、
光電子分光装置に入射した光電子をエネルギーによって繰り返して分光し、
太陽光の照射開始時からの経過時間と関連づけて光電子分光装置の分光結果を記録することを特徴とする
太陽光で励起された電子のエネルギーの時間変化を測定する方法。
【請求項4】
半導体材料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成し、
その半導体材料を真空環境に置いて太陽光に露出し、
前記表面層から放出される光電子を光電子分光装置に向けて加速し、
光電子分光装置に入射した光電子をエネルギーによって繰り返して分光し、
太陽光の照射終了時からの経過時間と関連づけて光電子分光装置の分光結果を記録することを特徴とする
太陽光で励起された電子のエネルギーの時間変化を測定する方法。
【請求項5】
太陽光のうちの特定波長に半導体材料を露出することを特徴とする請求項1から4のいずれかの1項に記載の方法。
【請求項6】
負の電子親和力を持つ表面層を形成するチャンバと、
半導体材料を太陽光に露出するチャンバと、
半導体材料の表面層から放出される光電子を加速する加速装置と、
加速装置で加速された光電子を分光する光電子分光装置と、
経過時間と関連づけて分光結果を記録する装置を備えており、
前記光電子分光装置は、半導体材料から放出された光電子のエネルギーと放出角度によって分光するものであることを特徴とする
太陽光で励起された電子が持っているエネルギーを測定する装置。
【請求項7】
前記加速装置に加える電圧を調整する電圧調整装置が付加されている請求項6の装置。
【請求項8】
試料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成し、
その試料を真空環境に置いて光線に露出し、
前記表面層から放出される光電子を光電子分光装置に向けて加速し
光電子分光装置に入射した光電子をエネルギーと放出角度によって分光することを特徴とする
前記光線で励起された電子のエネルギーと波数を測定する方法。
【請求項9】
光電子の加速に用いる電圧を調整して角度分解能を調整する工程を備えている請求項8に記載の方法。
【請求項10】
試料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成し、
その試料を真空環境に置いて光線に露出し、
前記表面層から放出される光電子を光電子分光装置に向けて加速し、
光電子分光装置に入射した光電子をエネルギーによって繰り返して分光し、
前記光線への露出開始時からの経過時間と関連づけて光電子分光装置の分光結果を記録することを特徴とする
前記光線で励起された電子のエネルギーの時間変化を測定する方法。
【請求項11】
試料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成し、
その試料を真空環境に置いて光線に露出し、
前記表面層から放出される光電子を光電子分光装置に向けて加速し、
光電子分光装置に入射した光電子をエネルギーによって繰り返して分光し、
前記光線への露出終了時からの経過時間と関連づけて光電子分光装置の分光結果を記録することを特徴とする
前記光線で励起された電子のエネルギーの時間変化を測定する方法。
【請求項12】
前記光線のうちの特定波長に試料を露出することを特徴とする8から11のいずれかの1項に記載の方法。
【請求項13】
負の電子親和力を持つ表面層を形成することができるチャンバと、
試料を光線に露出するチャンバと、
試料の表面層から放出される光電子を加速する加速装置と、
加速装置で加速された光電子を分光する光電子分光装置を備えており、
前記光電子分光装置は、試料から放出された光電子のエネルギーと放出角度によって分光するものであることを特徴とする
前記光線で励起された電子のエネルギーと波数を測定する装置。
【請求項14】
試料を熱処理する機能と、試料に蒸着処理する機能と、試料を光線に露出する機能と、を備えたチャンバと、
試料の表面層から放出される光電子を加速する加速装置と、
加速装置で加速された光電子を分光する光電子分光装置を備えており、
前記光電子分光装置は、試料から放出された光電子のエネルギーと放出角度によって分光するものであることを特徴とする
前記光線で励起された電子のエネルギーと波数を測定する装置。
【請求項15】
経過時間と関連づけて分光結果を記録する装置を備えていることを特徴とする請求項13または14の装置。
【請求項16】
前記加速装置に加える電圧を調整する電圧調整装置が付加されている請求項13から15のいずれかの1項に記載の装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本明細書では、半導体材料を太陽光に露出することによって半導体材料中で励起された電子のエネルギーを測定する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、半導体材料を太陽光に露出することによって半導体材料中で励起された電子を利用して電力を提供する。現状の太陽電池は、励起された電子のエネルギーが緩和されて伝導帯の底で安定している状態の電子を利用する。太陽電池の効率を向上させるためには、太陽光で励起された電子のエネルギーが緩和される以前の電子(ホットキャリア)の利用が有望視されている。また半導体材料のバンドギャップ内に中間バンドを作り出すことによって、太陽光に含まれる波長域の広い範囲を利用する技術も有望視されている。
【0003】
これらの研究開発を進めるためには、半導体材料を太陽光に露出することによって半導体材料中で励起された電子が持っているエネルギーを測定することが重要である。例えばいかなるエネルギーを持つホットキャリアが生成されるのか、ホットキャリアのエネルギーがどう緩和されていくのかを知ることができれば、ホットキャリアを利用する太陽電池の開発が促進される。あるいは、実際に電子が中間バンドに励起されているのか、中間バンドから伝導帯に励起されているのかを知ることができれば、中間バンドを利用する太陽電池の開発が促進される。
しかしながら残念なことに、太陽光で励起された半導体材料中の電子のエネルギーを測定する実際的な技術はいまだ開発されていない。
【0004】
半導体材料中に存在する励起電子が持っているエネルギーを測定するためには、半導体材料外に飛び出る光電子を分光してエネルギーを測定する必要がある。
【0005】
光電子を分光する技術に、下記が知られている。
(X線励起法)
図1に示すように、X線励起法では、半導体材料にX線を照射して電子を励起する。X線は高いエネルギーを持っており、電子は真空準位以上に励起され、半導体外に光電子が放出される。放出された光電子は運動エネルギーを持っており、その運動エネルギーを測定することによって、半導体中に存在する電子の内殻準位と真空準位の差を求めることができる。半導体材料にX線を照射すると、内殻に存在していた電子が励起される。
X線はエネルギーの半値幅が大きいので、励起電子のエネルギーと励起光のエネルギーの関係を精度よく知ることができない。また当然に、太陽電池の開発に重要な太陽光によって励起された電子のエネルギー測定には利用できない。
(紫外線励起法)
図2に示すように、紫外線励起法では、半導体材料に紫外線を照射して電子を励起する。波長の短い紫外線は高いエネルギーを持っており、電子は真空準位以上に励起され、半導体外に光電子が放出される。放出された光電子は運動エネルギーを持っており、その運動エネルギーを測定すれば、半導体中に存在する励起電子のエネルギーを測定できる。
紫外線励起法もまた、太陽電池の開発に重要な太陽光によって励起された電子のエネルギー測定には利用できない。
(2光子励起法)
図3に示すように、2光子励起法では、ポンプ光で励起し、プローブ光でさらに励起する。ポンプ光で電子を伝導帯に励起し、プローブ光で真空準位以上に励起する。プローブ光にはポンプ光の高調波を利用する。2光子励起法は、パルス光で励起する必要があり、複雑な光学系を必要とする。2光子励起法もまた、太陽電池の開発に重要な太陽光によって励起された電子のエネルギー測定には利用できない。
以上のいずれの測定方法によっても、真空準位以上に励起された電子のエネルギーしか測定できない。電子が励起されても、そのエネルギーが真空準位以下であれば、エネルギーを測定することができない。太陽光で励起される電子の大半は、真空準位以下であるために、上記のいずれの測定方法を用いても、太陽光で励起された電子のエネルギーは測定できない。
【0006】
真空準位が低い物質から放出される光電子のエネルギーを測定する技術が、特許文献1に記載されている。
特許文献1の技術では、水素終端したダイヤモンドに励起光を照射しながら、光電子数を測定する。実際には、励起光の波長を変えながら光電子数を測定する。水素終端したダイヤモンドは負の電子親和力を持っているから、5から5.6eVの励起光で照射すると光電子を放出する。特許文献1の技術によると、水素終端したダイヤモンドは5.5eVのバンドギャップを持っていることや、それよりも0.2eVだけ低いレベルに不純物に起因するエネルギー準位が形成されているといったことが判明する。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2008-78369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、下記の制約を持っている
(1)水素終端したダイヤモンドのように、負の電子親和力を持っている材料しか扱えない。太陽電池への利用が検討されている多くの半導体材料は、負の電子親和力を持っておらず、特許文献1の技術を適用できない。
(2)放出する光電子数と励起光の波長の関係はわかるが、半導体材料中で励起状態にある電子(ホットキャリア)のエネルギーはわからない。光電子の数を計測する技術であり、光電子のエネルギーを測定する技術ではない。
本明細書では、半導体材料中で励起状態にある電子が持っているエネルギーを測定する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書で開示する方法では、半導体材料の表面に負の電子親和力(Negative Electron Affinity, NEA)を持つ表面層を形成し、その半導体材料を真空環境に置いて太陽光に露出し、前記表面層から放出される光電子を光電子分光装置に導いて光電子が持っているエネルギーを測定する。その方法によると、太陽光で励起された電子が持っているエネルギーを測定することができる。
半導体材料を太陽光に露出する場合、半導体材料を実際の太陽光に露出してもよいし、擬似太陽光に露出してもよいし、太陽光に含まれている波長域の中の特定波長域を持つ光に露出してもよい。後者の場合、太陽光から分光した光に露出してもよいし、特定波長域のレーザ光に露出してもよい。
【0010】
上記の方法では、半導体材料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成することから半導体材料自体の電子親和力には拘束されない。正の電子親和力を持つ半導体材料中での励起電子のエネルギーを測定することもできる。
また、伝導帯の底を超えて励起されていれば、そのホットキャリアが持っているエネルギーを測定することができる。
さらに、バンドギャップ内に形成されている中間バンドに励起されている電子が存在すれば、その電子が持っているエネルギーを測定することができる。これによって中間バンドのエネルギー準位自体を知ることもできる。
上記の結果、半導体材料に太陽光を照射したときに生じる電子の挙動が判明する。太陽電池の研究開発に資するところが大きい。
【0011】
半導体材料の表面に負の電子親和力を持つ表面層を形成することによって真空中に放出される光電子を得ることができるが、その光電子を光電子分光装置に導入するためには、真空中に放出された光電子を光電子分光装置に向けて加速する必要がある場合がある。半導体材料から放出された光電子が通過する空間の真空準位は、光電子分光装置に向けて上昇することから、光電子を加速しないと、光電子が光電子分光装置に到達できない場合があるからである。加速装置と光電子分光装置を組み合わせることで、光電子のエネルギーが低い場合でも、光電子のエネルギーを測定することができる。
【0012】
半導体内の電子のエネルギーは波数に依存する。波数は光電子の放出角度に対応する。光電子の放出角度とエネルギーを測定すると、半導体内の電子のバンド構造を知ることができる。光電子の放出角度とエネルギーによって分光する光電子分光装置を利用すると、半導体内の電子のバンド構造を知ることができる。
光電子を加速して光電子分光装置に導く場合、加速することで電子の進行方法を変えることができ、それによって角度分解能を調整することができる。強く加速すれば、NEA表面から広い角度範囲内に放出される光電子を光電子分光装置に導くことができ、広い角度範囲にわたるエネルギーの波数依存性を測定することができる。弱く加速すれば、NEA表面から狭い角度範囲内に放出される光電子しか光電子分光装置に導くことができないが、細密な角度分解能でエネルギーの波数依存性を測定することができる。
エネルギーと放出角度の関係を測定する際の角度分解能を調整するために、電子の加速に用いる電圧を調整する工程を備えていることが好ましい。
【0013】
太陽光(あるいは擬似太陽光)を照射することで得られる励起電子のエネルギーを測定することが意味ある場合もあれば、太陽光に含まれる特定波長で照射することで得られる励起電子のエネルギーを測定することが意味ある場合もある。本明細書で開示するエネルギー測定装置は両方が可能である。太陽光に含まれる波長域を複数の帯域に分類し、帯域毎に得られる励起電子のエネルギーを測定することもできる。励起光の帯域毎に、電子に及ぼす影響を測定することができる。
【0014】
半導体材料に太陽光を照射する場合、照射面のみならず、それから深さ方向に分布しているゾーンでも電子が励起される。太陽光の照射開始時からの経過時間と関連づけて光電子分光装置の分光結果を記録すると、励起電子エネルギーの深さ方向の分布に起因する時間変化を測定することができる。時間変化から、深さ方向の分布に関する知見を得ることができる。
逆に、太陽光の照射終了時からの経過時間と関連づけて光電子分光装置の分光結果を記録することによっても、励起電子エネルギーの深さ方向の分布に関する知見を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本明細書で開示する測定技術によると、半導体材料を太陽光に露出することによって得られる励起電子のエネルギーが測定できる。ホットキャリアが得られた後にエネルギーが緩和されたのか、あるいは、もともとホットキャリアが得られなかったのかといったことを直接に測定することができる。あるいは、バンドギャップ内に形成した中間バンドに電子が励起されたのか、その中間バンドに励起された電子が伝導帯にまで励起されたのかといったことを直接に測定することができる。太陽電池の効率を高める研究に資するところが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】励起電子のエネルギーを測定する従来方法(X線励起法)を説明する。
【図2】励起電子のエネルギーを測定する従来方法(紫外線励起法)を説明する。
【図3】励起電子のエネルギーを測定する従来方法(2光子励起法)を説明する。
【図4】励起電子のエネルギーを測定する新規な方法を説明する。
【図5】中間バンドに励起された電子のエネルギーを測定する新規な方法を説明する。
【図6】(a)~(c)は、励起電子のエネルギーを時系列的に測定することで得られる知見を説明する。
【図7】半導体材料と光電子分光装置間の真空準位の変化を説明する。
【図8】半導体材料と加速装置と光電子分光装置の配置を説明する。
【図9】半導体内のポテンシャルと光電子分光装置のポテンシャルの関係を説明する。
【図10】(a)~(b)は、電子の加速と、測定可能な角度範囲の関係を説明する。
【図11】測定装置の全体構成を説明する。
【図12】光電子分光装置の実施例を説明する。
【図13】実施例で測定した半導体材料と測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本明細書で開示する実施例の技術的特徴の幾つかを記す。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
(特徴1)半導体材料の表面にCsとOを蒸着することで、NEA表面を形成する。
(特徴2)半導体材料の表面にCsとOを交互に蒸着することでNEA表面を形成する。(特徴3)半導体材料の表面にYO-YO法によってNEA表面を形成する。
(特徴4)半導体材料を測定光に露出することで放出される光電子量を測定しながら、YO-YO法のプロセスを進める。
【実施例】
【0018】
図11は、測定装置90の全体構成を示している。参照番号91は、試料とする半導体材料を装置90に出し入れするチャンバである。装置90に入れる半導体材料92aの表面には、まだNEA層が形成されていない。装置90に入れた半導体材料92aは、経路93を経て、NEA層形成チャンバ94に送られる。NEA層形成チャンバ94は、加熱装置と蒸着装置を兼用しており、真空ポンプに接続されている。半導体材料92aがNEA層形成チャンバ94に送られてくると、真空中で450℃に加熱して1時間保持する。その熱処理によって、半導体材料92aの表面に形成されていた自然酸化膜が除去される。自然酸化膜を除去するのに必要な温度は半導体材料の種類による。GaAsであれば450℃に加熱し、Siであれば1000℃に加熱する。次に、蒸着装置が作動する。蒸着装置は、セシウムCsを放出するセシウム放出装置と、酸素を導入する装置とで構成されている。セシウム放出装置は、たとえば、CsCrOおよび還元剤がゲッター剤とともにニクロム製スリーブ内に収容されているものであり、そのヒータに通電して加熱することによりCsCrOを還元させることによってセシウムCsを放出する。放出されたセシウムCsが、半導体材料の表面に蒸着される。次に、酸素を導入する。半導体材料の表面にセシウムCsと酸素Oが交互に付加されることにより、およそ数原子層の厚さを持つ電気2重層ポテンシャルが形成されて真空準位が下げられる。すなわち、伝導帯に励起された電子が真空に放出される表面層が得られる。あるいは、バンドギャップ内に形成された中間バンドに励起された電子が真空に放出される表面層が得られる。
【実施例】
【0019】
NEA層によって得られる真空準位は、NEA層の形成条件によって敏感に変化する。NEA層によって得られる真空準位を安定化させるために、本実施例では、半導体材料の表面から放出される光電子量を測定しながらNEA層の形成プロセスを進める。測定された光電子量を指標にして、CsCrOの還元用ヒータの通電量をフィードバック制御する。フィードバック制御を採用することで、NEA層によって得られる真空準位が安定化する。参照番号92bは、NEA層が形成された半導体材料を示す。NEA層の形成のためには、YO-YO法が適している。
【実施例】
【0020】
なお、酸素Oを導入する代りに、三フッ化窒素NFなどのフッ化窒素を導入する装置を設け、前記電子放出側表面にセシウムCsおよびフッ化窒素を付加しても、同様の効果が得られる。
【実施例】
【0021】
NEA層が形成された半導体材料92bは、経路95を経て、励起電子エネルギー測定チャンバ96に送られる。チャンバ91,94,96とそれらの通路は、真空環境に置かれている。参照番号97は、可視光レーザ発生装置であり、NEA層が形成された半導体材料92bの表面に可視光を照射する。半導体材料92bが可視光に露出されると、半導体材料の価電子帯にあった電子は伝導帯に励起される。半導体材料92bの表面にはNEA層が形成されて真空準位が下げられているために、可視光程度のエネルギーで励起された電子でも真空中に放出される。
【実施例】
【0022】
図4は、可視光で励起された電子のエネルギーレベルを示している。レベル41は、NEA表面が形成されない場合の真空準位を示し、NEA表面が形成されていなければ、可視光程度で励起しても励起電子は真空中に放出されない。NEA表面が形成されない場合には、X線あるいは紫外線を用いてレベル41以上に電子を励起する必要があった。本実施例によると、NEA表面によって真空準位がレベル42にまで降下していることから、可視光で励起された電子が真空中に放出される。
【実施例】
【0023】
図11の参照番号98は、光電子の加速装置である。半導体材料92bのNEA表面が備えている電気2重層によって、半導体材料92bのNEA表面に接する位置の真空準位は引き下げられている。しかしながら、図7に示すように、NEA表面から遠ざかるにつれて真空準位42が上昇する。そのために、半導体材料92bのNEA表面から放出された光電子は、そのままでは光電子分光装置99に到達しないことがある。あるいは、半導体材料92bのNEA表面から放出された光電子がNEA表面の近傍に留まり、その後の光電子の放出の障害となることがある。そこで、本実施例では、図8、図11に示すように、試料92bと光電子分光装置99の間に加速装置98が用意されている。加速装置98は光電子を光電子分光装置99に向けて加速する。
【実施例】
【0024】
加速装置98が加速のための電場を加えるために、光電子はエネルギーを得る。そのエネルギーの増大分は既知であるために、加速装置98を利用しても、試料92b内における励起電子のエネルギーを測定することができる。
図9は、半導体内のポテンシャルと光電子分光装置のポテンシャルの関係を説明する。半導体内のフェルミ準位と光電子分光装置のフェルミ準位は、加速に用いるバイアス電圧の分だけずれている。それを加味することで、光電子分光装置で測定された電子のエネルギーを、半導体内の電子のエネルギーに換算することができる。その換算式は、下記となる。
Esemi=Ek+φana-V-Eg+Ef-v
上記において、Esemiは、半導体内で励起された電子のエネルギーであり、伝導帯の底を基準としたエネルギーである。
Ekは、光電子分光装置で計測された電子の運動エネルギーであり、光電子分光装置への入射角毎に測定される。
φanaは、光電子分光装置の仕事関数であり、AuのUPS測定によって予め測定することができる値である。
Vは、光電子の加速に用いたバイアス電圧である。
Egは、伝導帯の底の電位と価電子体の頂上の電位の差であり、バンドギャップ電圧である。
Ef-vは、フェルミ準位と価電子体の頂上の電位と差である。
【実施例】
【0025】
図11の参照番号99は光電子分光装置であり、参照番号100はCCDカメラである。光電子分光装置99とCCDカメラ100の詳細は、模式的に図12に示されている。図12において、99bはマルチチャンネルプレートであり、光電子が到達した点で発光する。発光点のE軸方向の位置をCCDカメラ100で測定することで、光電子のエネルギーが測定される。また発光点のθ軸方向の位置をCCDカメラ100で測定することで、光電子の放出方向が測定される。すなわち、図12のθ1、θ2等の角度を測定することができる。
【実施例】
【0026】
光電子分光装置99は、スリットに入射した電子のエネルギーと入射角度を測定する。図10の(a)は、光電子を弱く加速した場合に、スリットSに入射される放出角の範囲θ1を示している。図10の(b)は、光電子を強く加速した場合に、スリットSに入射される放出角の範囲θ2を示している。図10の(a1)におけるV1は弱く加速するバイアス電圧を示し、(b1)におけるV2は強く加速するバイアス電圧を示している。V1<V2である。e1は、加速前の光電子が光電子光電子分光装置に直進する方向の運動エネルギーであり、図10の(a1)と(b1)では両者が等しい場合を図示している。k1、k2は波数であり、大きいほど表面に沿った方向の運動エネルギーが大きい。図10の(a1)(b1)の比較から明らかに、k1<k2であれば、V1<V2にしたときに、光電子の進行方向が一致する。明らかにθ1<θ2である。強く加速して計測すると、広い放出角θ2にわたる計測ができる(反面、角度分解能は粗くなる)。弱く加速して計測すると、狭い放出角θ1の範囲しか計測ができないが、角度分解能は細密となる。図11の装置では、角度分解能の調整、または一度に計測する放射角度範囲を調整できるように、加速装置98に加える電圧が調整可能となっている。
なお、バイアス電圧Vを変化させると、光電子分光装置99に入射する電子線ビームの焦点位置がずれ、分光結果に影響する。図11の装置では、加速装置に加える電圧に連動して集光レンズの焦点位置を調整する補償回路が付加されており、加速装置98に加えるバイアス電圧を変化させても光電子分光装置99に入射する電子線ビームの焦点位置が変化しないようにしている。
【実施例】
【0027】
図6(b)は、試料92bに可視光を照射してからt1時間後に測定された分光結果を示している。横軸はエネルギーであり、縦軸が光電子数である。図6(c)は、試料92bに可視光を照射してからt2時間後に測定された分光結果を示している。t1<t2である。t1では、光電子の運動エネルギーがE2において最大頻度を取っている。t2では、光電子の運動エネルギーがE1からE2まで、広く分布している。
【実施例】
【0028】
図6(a)において、参照番号61は、NEA表面に極近い位置で励起された電子を示している。励起電子は、半導体材料中を移動し、NEA表面に達すると真空中に放出される。励起電子が半導体材料中を移動する間に、励起電子のエネルギーが緩和される。NEA表面に極近い位置で励起された励起電子は、そのエネルギーがほとんど緩和されないうちに光電子として放出される。可視光の照射開始直後に測定される光電子は、NEA表面に極近い位置で励起された電子に依頼するものであり、エネルギー緩和前のエネルギーを持っていると理解できる。
【実施例】
【0029】
図6(a)において、参照番号62は、NEA表面から離れた位置で励起された電子を示している。NEA表面にから離れた位置で励起された励起電子は、そのエネルギーが緩和されてから光電子として放出される。可視光の照射開始から時間を経て測定される光電子は、NEA表面から離れた位置で励起された励起電子に由来する光電子と、NEA表面に極近い位置で励起された励起電子に由来する光電子を含むものとなり、エネルギー緩和後のエネルギー(E1)からエネルギー緩和前のエネルギー(E2)まで、種々のエネルギーを備えている。
可視光の照射開始からの経過時間との関係で光電子の分光結果を解析すると、NEA表面からの距離と、エネルギーの緩和過程を関連付けて理解することができ、エネルギー緩和距離等を測定することができる。
【実施例】
【0030】
同様に、可視光の照射終了時からの経過時間との関係で光電子の分光結果を解析することによっても、NEA表面からの距離とエネルギーの緩和過程を関連付けて理解することができ、エネルギー緩和距離等を測定することができる。
【実施例】
【0031】
図13の(a)は、測定に用いた半導体材料を示す。超格子構造を備えている半導体材料を測定した。超格子試料は有機金属気相成長法により作製した。図13(a)に示すように、p-GaAs(001)基板上に、200nm のp-GaAsバッファ層を成長し、その上に2.9nmのAl0.35Ga0.65As障壁層と2.9nmのIn0.16Ga0.84As井戸層を、交互に20ペア成長した。超格子層のZnドーピング濃度は、5×1018cm-3である。
試料をNEA表面作製チャンバー94内で450oCに昇温して1時間の加熱洗浄を行った後、Yo-Yo法を用いてNEA表面を作製した。
次に、試料を測定チャンバー96に移送し、角度分解VPS測定を行った。試料に、-5Vまたは-30Vのバイアスをかけて(電子を加速して)測定した。励起光にはエネルギーが1.71eVまたは1.44eVの可視光を用いた。
【実施例】
【0032】
図13(b)~(e)に、光電子分光装置99で測定された光電子分布マッピング像を示す。
(b)(d)は、励起光エネルギーが1.71eVの測定結果を示し、(c)(e)は、励起光エネルギーが1.44eVの測定結果を示し、(b)(c)は、加速用のバイアス電圧が5ボルトの測定結果を示し、(d)(e)は、加速用のバイアス電圧が30ボルトの測定結果を示し、縦軸はエネルギーを示し、横軸が光電子の入射角を示している。励起光エネルギーが1.71eVの場合は、1.44eVの場合よりも、より高いエネルギーを持つ光電子が観察されており、ホットキャリアが観測できている。また、バイアス電圧が大きいほどより、広範囲の角度に放出した光電子が観測される。電子が測定される角度は半導体のバンド分散の波数に対応するため、マッピング像において、より大きい曲率を持った像が得られる
【実施例】
【0033】
図11の可視光レーザ発生装置97に代えて、擬似太陽光光源を利用してもよい。擬似太陽光光源を用いれば、試料92bを太陽光に露出したときの励起電子のエネルギーを測定することができる。可視光レーザ発生装置97は、可視光中の特定波長帯の可視光を発生するものであってもよい。波長を変えられる可視光レーザ発生装置を利用すると、試料92bを例えば赤色光に露出したときの励起電子のエネルギーを測定したり、試料92bを例えば青色光に露出したときの励起電子のエネルギーを測定したりすることができる。
【実施例】
【0034】
図5は、太陽電池で利用する波長範囲を広げるために、量子構造を利用してバンドギャップ内に中間バンドを形成した太陽電池を示している。この場合、太陽光に含まれる赤色光または赤外線によって電子が中間バンドに励起され、さらに伝導帯に励起されることが期待されている。
本実施例によると、真空準位を中間バンド以下に降下させることができる。そのために中間バンドに励起された電子が存在すれば、その電子のエネルギーを測定することができる。中間バンドによって得られる効果の有無等を検証することができる。
【実施例】
【0035】
本実施例の装置の場合、光電子分光装置の分解能は5meV以下であり、光源とするレーザ光のエネルギー幅は0.1meV以下である。その結果、測定装置の分解能は5meV程度となる。中間バンドのエネルギー幅は、100meVであることが多い。本実施例の測定装置と測定方法によると、中間バンドに励起された電子の分布を測定することができる。
【実施例】
【0036】
上記実施例では、光電子群をエネルギーによって分光し、図12のE軸方向の位置と光電子数から光電子群が持っているエネルギー分布を測定する。これに代えて、閾値以上のエネルギーを持つ光電子数を計測する技術を用いることができる。たとえば、エネルギーがE1以上の光電子数がp1であり、エネルギーがE1+ΔE以上の光電子数がp1-Δpであれば、E1~E1+ΔEまでのエネルギーを持つ光電子数がΔp個であることがわかる。
同様に、上記実施例では、波数(光電子の放出角)によって分光し、図12のθ軸方向の位置と光電子数から光電子群を持っている波数分布を測定する。これに代えて、閾値以下の放出角を持つ光電子数を計測する技術を用いることができる。たとえば、放出角がθ1以下の光電子数がq1であり、放出角がθ1+Δθ以下の光電子数がq1+Δqであれば、θ1~θ1+Δθまでの放出角を持つ光電子数がΔq個であることがわかる。
【実施例】
【0037】
放出角θと波数kの関係は理論的に計算できる。ただし、図12のθ軸方向の位置が、光電子の放射角からずれていることがある。
実際の計測装置では、図8に示す試料92bをサンプルホルダで支持する。そのサンプルホルダは試料92bの左側に置く。通常、サンプルホルダは試料92bよりも大きく、図8の右側から試料92bを観測すると、試料92bの周囲にサンプルホルダが観測される。試料92bとサンプルホルダの真空準位は相違する。そのために、試料から放出された光電子の進行方向が変えられる。例えば、試料92bから放出された光電子が試料92bの周囲に存在するサンプルホルダ側に吸引されることがある。サンプルホルダが、図12のθ軸方向の位置と波数の関係を理論値と異なるものとする。これを避けるためには、試料92bの背後に隠れる小型のサンプルホルダを用いるのが有利である。また、試料92bの表面に直交する方向に放出された光電子の進行方向に影響を与えないようにするのが有利である。そのためには、試料92bの平面形状を円とし、サンプルホルダの平面形状も円とし、両者が同軸になるようにするのが有利である。
あるいは、サンプルホルダの影響を相殺する技術も有用である。試料92bの光電子放出面側にメッシュを置き、そのメッシュに電圧を印加することで、サンプルホルダの影響を相殺することができる。
【実施例】
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
90:測定装置
91:半導体材料を装置に出し入れするチャンバ
92a:NEA層が形成される前の半導体材料
92b:NEA層が形成された後の半導体材料
94:NEA層形成チャンバ
96:励起電子エネルギー測定チャンバ97:可視光レーザ発生装置
98:加速装置
99:光電子分光装置
100:CCDカメラ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12