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明細書 :診断システム、移動装置、診断装置、及び診断プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-090315 (P2017-090315A)
公開日 平成29年5月25日(2017.5.25)
発明の名称または考案の名称 診断システム、移動装置、診断装置、及び診断プログラム
国際特許分類 G01N  29/12        (2006.01)
FI G01N 29/12
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2015-222430 (P2015-222430)
出願日 平成27年11月12日(2015.11.12)
発明者または考案者 【氏名】塩屋 晋一
【氏名】吉田 秀樹
【氏名】黒川 善幸
【氏名】林 良太
【氏名】鹿嶋 雅之
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100162259、【弁理士】、【氏名又は名称】末富 孝典
【識別番号】100133592、【弁理士】、【氏名又は名称】山口 浩一
【識別番号】100168114、【弁理士】、【氏名又は名称】山中 生太
審査請求 未請求
テーマコード 2G047
Fターム 2G047AA09
2G047AA10
2G047BA04
2G047BC03
2G047BC04
2G047CA03
2G047DB12
2G047GG29
2G047GG30
2G047GG33
2G047GG47
2G047GJ06
要約 【課題】壁面の診断を効率的に行うことができる診断システムを提供する。
【解決手段】移動体100は、診断対象の壁面Wに打撃を与える打撃部、及び打撃で生じる打音の波形を表す打音データを生成するマイクロホン部を有する。診断装置200は、打音データを用いて壁面Wを診断し、診断結果を出力する。移動装置300は、移動体100を壁面Wに沿って移動させる。撮像装置400は、移動体100の壁面W内の位置を特定可能なように、移動装置300によって移動される移動体100及び壁面Wを撮像し、撮像結果を出力する。関連付け装置500は、撮像装置400から撮像結果を、診断装置200から診断結果を、それぞれ時系列データとして取得すると共に、各時点の撮像結果ごとに、該撮像結果を用いて移動体100の壁面W内の位置を特定し、その特定した位置と、該撮像結果が表す時点に対応する診断結果と、を関連付ける。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
診断対象の壁面に打撃を与える打撃部、及び前記打撃で生じる打音の波形を表す打音データを生成するマイクロホン部を有する移動体と、
前記打音データを用いて前記壁面を診断し、診断結果を出力する診断装置と、
前記移動体を前記壁面に沿って移動させる移動装置と、
前記移動体の前記壁面内における位置を特定可能なように、前記移動装置によって移動される前記移動体及び前記壁面を撮像し、撮像結果を出力する撮像装置と、
前記撮像装置から前記撮像結果を、前記診断装置から前記診断結果を、それぞれ時系列データとして取得すると共に、各時点の前記撮像結果ごとに、該撮像結果を用いて前記移動体の前記壁面内における位置を特定し、その特定した位置と、該撮像結果が表す時点に対応する前記診断結果と、を関連付ける関連付け装置と、
を備える診断システム。
【請求項2】
前記関連付け装置から、前記移動体の前記壁面内における位置と関連付けられた前記診断結果を取得し、該壁面内における位置別に、該診断結果を表示出力する携帯端末、
をさらに備える請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記関連付け装置が、前記移動体の前記壁面内における位置別に、その位置と関連付けられた前記診断結果を表示出力する表示部を有する請求項1又は2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記診断装置が、前記移動体に取り付けられており、
前記診断装置から前記関連付け装置に、前記診断結果が無線でリアルタイムに送信される請求項1から3のいずれか1項に記載の診断システム。
【請求項5】
壁面を診断するために前記壁面に打撃を与える打撃部を有する移動体を、前記壁面に沿って移動させる移動装置であって、
前記移動体を前記壁面に面する位置に吊り下げる線材と、
前記移動体を吊り下げた状態の前記線材の巻き取り及び巻き戻しを行う巻取機構と、
前記移動体を吊り下げた状態の前記線材を揺動させる揺動機構と、
を備える移動装置。
【請求項6】
前記巻取機構によって前記線材が巻き取られた場合、及び巻き戻された場合に、前記移動体の揺動の振れ幅が共通の値に保たれるように、前記揺動機構を制御する制御手段、
をさらに備える請求項5に記載の移動装置。
【請求項7】
診断対象の壁面に打撃を与えることにより発生させた打音の波形を表す打音データを外部から取得する打音データ取得手段と、
前記打音データを用いて、前記打音に含まれる残響の時間長を表す残響指標を算出し、該残響指標を診断結果として出力する診断結果出力手段と、
を備える診断装置。
【請求項8】
前記診断結果出力手段が、
互いに通過帯域の異なる複数のバンドパスフィルタと、
前記打音データを前記各バンドパスフィルタに通すことで得られる各フィルタ通過後打音データについて前記残響指標を算出する算出手段と、
前記各フィルタ通過後打音データのうち、最も共振の発生度合いの高いフィルタ通過後打音データを特定する共振度判定手段と、を含み、
前記算出手段によって算出された前記各残響指標のうち、前記共振度判定手段によって特定された前記フィルタ通過後打音データについての前記残響指標を、前記診断結果として出力する請求項7に記載の診断装置。
【請求項9】
前記共振度判定手段が、前記各フィルタ通過後打音データの前記残響指標、及び/又は前記各フィルタ通過後打音データの理想的な共振波形との位相のずれ度合いに基づいて、前記最も共振の発生度合いの高いフィルタ通過後打音データを特定する請求項8に記載の診断装置。
【請求項10】
前記算出手段が、
前記打音データが表す波形を、時間-振幅平面で、等しい時間間隔で複数の区間に区切り、区間毎に該波形が表す線分の長さを求め、求めた長さを区間間で比較することに基づいて、打撃が与えられた時点を特定する打撃時点特定手段と、
前記打撃時点特定手段によって特定された前記打撃が与えられた時点を用いて、前記残響指標を算出する残響指標算出手段と、
を含む請求項8又は9に記載の診断装置。
【請求項11】
コンピュータに、
診断対象の壁面に打撃を与えることにより発生させた打音の波形を表す打音データを外部から取得する打音データ取得機能と、
前記打音データを用いて、前記打音に含まれる残響の時間長を表す残響指標を算出し、該残響指標を診断結果として出力する診断結果出力機能と、
を実現させる診断プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、診断システム、移動装置、診断装置、及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の壁面をハンマで軽打し、打音に基づいて壁面を診断する打音法が知られている。例えば、壁面の表層部を構成する仕上げ材が下地に対して浮いた劣化箇所での打音は、両者が密着した健全箇所での打音と異なる。このため、作業員は打音を聴くことで、劣化箇所を特定できる。
【0003】
特許文献1に開示されるように、打音法を自動化した診断システムも知られている。特許文献1の診断システムは、壁面に打撃を与える打撃子と、打音を集音するマイクロホンと、マイクロホンで得られる音波の波形に基づいて、打撃が与えられた箇所の診断を行うコンピュータと、を備える。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平10-90234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の診断システムは、以下の課題を有していた。
【0006】
(1)特許文献1の診断システムによれば、壁面の診断は自動で行えるが、打撃子の位置を移動させるたびに、作業員がその位置をコンピュータに入力する必要がある。即ち、診断箇所と診断結果との関連付けに人手を介さねばならない。このため、診断を効率的に行うことができなかった。
【0007】
(2)特許文献1は、打撃子を移動させる具体的な方法を開示していない。従来、打撃子を壁面に沿って移動させるには、足場を組んで、打撃子を移動させるレールを壁面に面する位置に設置する必要があった。このため、診断を手軽に行うことができなかった。
【0008】
(3)特許文献1では、コンピュータが、打音の最大振幅値が閾値を超えるか否かによって診断を行う。振幅値はノイズの影響を受けやすく、単純に最大振幅値を閾値と比較するだけでは、正確な診断を行うことができなかった。
【0009】
本発明は上記各事情に鑑みてなされたものであり、壁面の診断を効率的に行うことができる診断システムを提供することを第1の目的とする。また、本発明は、壁面の診断を手軽に行うことを実現する移動装置を提供することを第2の目的とする。また、本発明は、壁面の診断を従来よりも正確に行うことができる診断装置及び診断プログラムを提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る診断システムは、
診断対象の壁面に打撃を与える打撃部、及び前記打撃で生じる打音の波形を表す打音データを生成するマイクロホン部を有する移動体と、
前記打音データを用いて前記壁面を診断し、診断結果を出力する診断装置と、
前記移動体を前記壁面に沿って移動させる移動装置と、
前記移動体の前記壁面内における位置を特定可能なように、前記移動装置によって移動される前記移動体及び前記壁面を撮像し、撮像結果を出力する撮像装置と、
前記撮像装置から前記撮像結果を、前記診断装置から前記診断結果を、それぞれ時系列データとして取得すると共に、各時点の前記撮像結果ごとに、該撮像結果を用いて前記移動体の前記壁面内における位置を特定し、その特定した位置と、該撮像結果が表す時点に対応する前記診断結果と、を関連付ける関連付け装置と、
を備える。
【0011】
前記関連付け装置から、前記移動体の前記壁面内における位置と関連付けられた前記診断結果を取得し、該壁面内における位置別に、該診断結果を表示出力する携帯端末、
をさらに備えてもよい。
【0012】
前記関連付け装置が、前記移動体の前記壁面内における位置別に、その位置と関連付けられた前記診断結果を表示出力する表示部を有してもよい。
【0013】
前記診断装置が、前記移動体に取り付けられており、
前記診断装置から前記関連付け装置に、前記診断結果が無線でリアルタイムに送信されるようにしてもよい。
【0014】
本発明の第2の観点に係る移動装置は、
壁面を診断するために前記壁面に打撃を与える打撃部を有する移動体を、前記壁面に沿って移動させる移動装置であって、
前記移動体を前記壁面に面する位置に吊り下げる線材と、
前記移動体を吊り下げた状態の前記線材の巻き取り及び巻き戻しを行う巻取機構と、
前記移動体を吊り下げた状態の前記線材を揺動させる揺動機構と、
を備える。
【0015】
前記巻取機構によって前記線材が巻き取られた場合、及び巻き戻された場合に、前記移動体の揺動の振れ幅が共通の値に保たれるように、前記揺動機構を制御する制御手段、
をさらに備えてもよい。
【0016】
本発明の第3の観点に係る診断装置は、
診断対象の壁面に打撃を与えることにより発生させた打音の波形を表す打音データを外部から取得する打音データ取得手段と、
前記打音データを用いて、前記打音に含まれる残響の時間長を表す残響指標を算出し、該残響指標を診断結果として出力する診断結果出力手段と、
を備える。
【0017】
前記診断結果出力手段が、
互いに通過帯域の異なる複数のバンドパスフィルタと、
前記打音データを前記各バンドパスフィルタに通すことで得られる各フィルタ通過後打音データについて前記残響指標を算出する算出手段と、
前記各フィルタ通過後打音データのうち、最も共振の発生度合いの高いフィルタ通過後打音データを特定する共振度判定手段と、を含み、
前記算出手段によって算出された前記各残響指標のうち、前記共振度判定手段によって特定された前記フィルタ通過後打音データについての前記残響指標を、前記診断結果として出力してもよい。
【0018】
前記共振度判定手段が、前記各フィルタ通過後打音データの前記残響指標、及び/又は前記各フィルタ通過後打音データの理想的な共振波形との位相のずれ度合いに基づいて、前記最も共振の発生度合いの高いフィルタ通過後打音データを特定してもよい。
【0019】
前記算出手段が、
前記打音データが表す波形を、時間-振幅平面で、等しい時間間隔で複数の区間に区切り、区間毎に該波形が表す線分の長さを求め、求めた長さを区間間で比較することに基づいて、打撃が与えられた時点を特定する打撃時点特定手段と、
前記打撃時点特定手段によって特定された前記打撃が与えられた時点を用いて、前記残響指標を算出する残響指標算出手段と、
を含んでもよい。
【0020】
本発明の第4の観点に係る診断プログラムは、
コンピュータに、
診断対象の壁面に打撃を与えることにより発生させた打音の波形を表す打音データを外部から取得する打音データ取得機能と、
前記打音データを用いて、前記打音に含まれる残響の時間長を表す残響指標を算出し、該残響指標を診断結果として出力する診断結果出力機能と、
を実現させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の観点に係る診断システムによれば、関連付け装置が、移動体の壁面内における位置と診断結果とを関連付けるので、壁面の診断を効率的に行うことができる。
【0022】
本発明の第2の観点に係る移動装置によれば、巻取機構によって移動体を高さ方向に移動させることができ、揺動機構によって移動体を横方向に移動させることができるので、移動体を移動させるためのレール等を壁面に面する位置に設置する必要がなくなり、壁面の診断を手軽に行うことができる。
【0023】
本発明の第3及び第4の観点に係る診断装置及び診断プログラムによれば、打音に含まれる残響の時間長を表す残響指標を診断結果として算出するので、壁面の診断を従来よりも正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る診断システムの全体構成を示す概念図である。
【図2】移動体の部分断面図である。
【図3】(A)は打撃子及びアームの壁面に垂直な平面図であり、(B)は打撃子の壁面に平行な正面図である。
【図4】移動装置の構成を模式的に示す正面図である。
【図5】移動装置によって移動体が移動されている様子を示す概念図である。
【図6】(A)は診断装置の構成を示すブロック図であり、(B)は診断装置の機能を示すブロック図である。
【図7】診断装置による壁面を診断する処理のフローチャートである。
【図8】(A)打音データが表す波形の一部を示し、(B)は(A)に示す部分を拡大して示した概念図である。
【図9】(A)は打音データが表す波形及びその線積分値の波形を示し、(B)はフィルタ通過後打音データが表す波形及びその線積分値の波形を示す概念図である。
【図10】フィルタ通過後打音データの波形を示す概念図である。
【図11】関連付け装置の構成を示すブロック図である。
【図12】診断システムの動作を説明するためのブロック図である。
【図13】携帯端末に表示出力される診断結果のスクリーンショットである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る診断システムについて説明する。図中、同一又は対応する部分に同一符号を付す。

【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る診断システム1000は、移動体100、診断装置200、移動装置300、撮像装置400、関連付け装置500、及び携帯端末600を備える。

【0027】
診断対象の壁面Wを有する建物に、移動体100、診断装置200、移動装置300、及び携帯端末600が配置される。壁面Wと向かい合う他の建物又は地上に、撮像装置400及び関連付け装置500が配置される。

【0028】
移動体100は、壁面Wに打撃を与え、打音を表す打音データを生成する。診断装置200は、移動体100に取り付けられ、移動体100で生成された打音データを用いて、壁面Wを診断する。移動装置300は、壁面Wを有する建物の屋上に配置され、移動体100及び診断装置200を壁面Wに沿って移動させる。撮像装置400は、移動体100及び壁面Wを撮像する。

【0029】
関連付け装置500は、撮像装置400から取得する撮影結果を用いて壁面W内における移動体100の位置を特定し、その特定した位置と、診断装置200から取得する診断結果と、の関連付けを行う。携帯端末600は、建物の屋上で診断を見守る作業員によって携帯され、関連付け装置500から、移動体100の位置と関連付けられた診断結果を取得し、その位置別に診断結果を表示出力する。

【0030】
以下、診断システム1000を構成する上記各部について詳細に説明する。

【0031】
まず、図2及び図3を参照し、移動体100について説明する。

【0032】
図2に示すように、移動体100は、壁面Wに打撃を与える打撃部110、その打撃によって生じる打音の波形を表す打音データを生成するマイクロホン部120、移動体100を壁面Wに押し付ける推力を発生させるファン130、及びそれらを収容する筐体140を備える。

【0033】
筐体140は、外観視において裁頭四角錐状を成し、壁面Wと略平行に配置される天面141と、天面141から壁面Wに向かって立ち下がった側面142とを有し、底部が開放された箱型を成す。また、筐体140は、天面141と壁面Wとの間に、壁面Wに対面する隔壁143を有する。隔壁143によって筐体140内が、壁面W側の内側空間部S1と、天面141側の外側空間部S2とに画定されている。

【0034】
外側空間部S1に、ファン130と、ファン130を駆動するモータ150と、が配置されている。筐体140の側面142のうち、外側空間部S1を画定する部分には、外部に通じる空気導入口142aが複数形成されている。また、天面141にも、外部に通じる空気排出口141aが複数形成されている。

【0035】
モータ150によって、ファン130が回転されると、空気導入口142aから外側空間部S1内に外気が導入され、空気排出口141aから空気が排出される。これにより、移動体100を壁面Wに押し付ける推力が生成される。

【0036】
内側空間部S2に、打撃部110及びマイクロホン部120の他、壁面Wに略垂直な回転軸160と、回転軸160から、この回転軸160と交差する方向に壁面Wに向かって延び、先端に打撃部110が取り付けられるアーム170と、が配置されている。なお、回転軸160の駆動源は、ファン130の駆動源(モータ150)と共通である。

【0037】
図3(A)に示すように、壁面Wに垂直な方向から視た平面図において、回転軸160には、複数本(3本)のアーム170が、回転軸160の回転方向に関して略等角度(120°)を隔てて接続されている。各アーム170は直線状に延び、各アーム170先端の打撃部110は、アーム170を延長した軸周りに回転自在に、アーム170と接続されている。

【0038】
ファン130(図2参照)の推力によって、移動体100が壁面Wに押し付けられた状態で、回転軸160が回転駆動されると、各アーム170先端の打撃部110が壁面W上を転動する。

【0039】
図3(B)に示すように、打撃部110は、壁面Wに平行な方向から視た正面視において、多角形状を成している。このため、打撃部110が壁面W上を転動すると、ファン130(図2参照)の推力によって、壁面Wに打撃が与えられる。

【0040】
図2に戻って説明を続ける。筐体140内の内側空間部S2において、打撃部110の打撃で生じる打音は、マイクロホン部120に集音される。マイクロホン部120は、打音を表す電気信号を生成するマイクロホンと、その電気信号に基づいて、打音の波形を表す打音データを生成する打音データ生成部と、を有する。

【0041】
なお、マイクロホン部120と、ファン130との間には、隔壁143が介在するので、ファン130のノイズが、マイクロホン部120に集音されにくい。

【0042】
既述のように、移動体100には、診断装置200が取り付けられている。診断装置200は、マイクロホン部120と電気的に接続されている。診断装置200は、マイクロホン部120から打音データを取得し、取得した打音データを用いて壁面Wを診断する。診断結果は、リアルタイムに関連付け装置500(図1参照)に無線送信される。

【0043】
次に、図4及び図5を参照し、移動装置300について説明する。

【0044】
図4に示すように、移動装置300は、線材としての鋼索310と、鋼索310の巻き取り及び巻き戻しを行う巻取機構320と、鋼索310を揺動させる揺動機構330と、制御部340と、を備える。

【0045】
鋼索310によって、移動体100(図2参照)が壁面Wに面する位置に吊り下げられる。なお、移動体100は、壁面Wに面する位置に配置された状態で、既述のように、ファン130によって、打撃部110を壁面Wに押し付ける力を自ら発生させる。

【0046】
巻取機構320は、ウインチを含んで構成されており、移動体100を吊り下げた状態の鋼索310を巻き取ることにより、移動体100を上昇させることができる。また、巻取機構320は、移動体100を吊り下げた状態の鋼索310を巻き戻すことにより、移動体100を下降させることができる。ここで、巻き戻すとは、巻取機構320が鋼索310を巻き取る場合とは逆向きに回転することにより、鋼索310を繰り出すことを指す。

【0047】
揺動機構330は、一方を駆動プーリとし、他方を従動プーリとし、互いに水平方向に向かい合う一対のプーリ331及び332と、それらプーリ331及び332に巻かれた無端ベルト333と、無端ベルト333に固定される第1の固定部材334と、鋼索310に固定される第2の固定部材335と、第2の固定部材335を第1の固定部材334に回転自在に連結するフリージョイント336と、を備える。

【0048】
制御部340は、一対のプーリ331及び332に、回転及び逆回転を周期的に繰り返させる。これにより、第1の固定部材334が、水平方向(図4の左右方向)に揺動する。これに伴い、第1の固定部材334に、第2の固定部材335及びフリージョイント336を介して接続された鋼索310が、水平方向に揺動される。このようにして、移動体100を吊り下げた状態の鋼索310を揺動させることにより、移動体100に振り子運動をさせることができる。

【0049】
移動装置300によれば、巻取機構320によって移動体100を高さ方向に移動させることができ、揺動機構330によって移動体100を横方向に移動させることができるので、移動体100を移動させるためのレール等を壁面Wに面する位置に設置するための足場を組む必要がなくなり、壁面の診断を手軽に行うことができる。

【0050】
図5に示すように、移動体100の高さを変化させながら、鋼索310を揺動させることもできる。制御部340(図4参照)が、巻取機構320(図4参照)及び揺動機構330(図4参照)を制御することにより、このような移動体100の運動を実現させる。

【0051】
このとき、制御部340(図4参照)は、巻取機構320(図4参照)によって鋼索310の繰り出し長さが変化されても、移動体100の横方向の振れ幅が共通の値Bに保たれるように、揺動機構330(図4参照)を制御する。

【0052】
図4に戻って、具体的に説明する。制御部340は、巻取機構320の回転数及び回転角度によって、鋼索310の繰り出し長さを検出する。そして、制御部340は、その繰り出し長さの鋼索310によって、揺れ幅B(図5参照)での揺れが実現されるように、揺動機構330を通じて、第1の固定部材334の揺動の振幅と速度を制御する。

【0053】
図5に戻って、説明を続ける。以上により、壁面W内の幅Bをもつ四角形の領域R1についての診断を行うことができる。このように、壁面W内において、移動装置300によって移動体100を移動させることが可能な領域を、平面充填可能な形状、具体的には、四角形に制限することは、壁面W内をもれなく診断することに寄与する。

【0054】
即ち、領域R1についての診断を終えたら、屋上において、移動装置300の位置を、水平方向にBだけ移動させる。移動装置300の移動は、屋上に待機する作業員によって行われる。これにより、壁面W内の、領域R1に隣接する領域R2ついての診断を行うことができる。このようにして、幅Bの領域内の診断を終える度に、移動装置300を水平方向に移動させることにより、壁面Wの全域についての診断をもれなく行うことができる。

【0055】
なお、ここでは移動装置300の移動を作業員によって行うこととしたが、例えば、建物の屋上に水平方向にレールを敷き、移動装置300を自動的に水平方向に移動させることができるようにしてもよい。

【0056】
次に、図6~図10を参照し、診断装置200について説明する。

【0057】
図6(A)に示すように、診断装置200は、記憶部210、RAM(Random Access Memory)220、I/F(interface)230、送信部240、及びCPU(Central Processing Unit)250が、バス260で接続された構成を有する。

【0058】
記憶部210は、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含んで構成され、診断プログラム211を記憶する。

【0059】
診断プログラム211は、マイクロホン部120(図2参照)から取得した打音データを用いて壁面Wを診断するためのCPU250の動作を規定する。具体的には、診断プログラム211は、CPU250を、後述する図6(B)に示す各部として機能させる。

【0060】
RAM220は、CPU250のメインメモリとして機能し、CPU250による診断プログラム211の実行に際し、診断プログラム211が展開されると共に、マイクロホン部120(図2参照)から取得された打音データ等が一時的に記憶される。

【0061】
I/F230は、マイクロホン部120(図2参照)と接続され、マイクロホン部120から、打撃部110による壁面Wの打撃で生じる打音の波形を表す打音データを取得するためのハードウエアである。

【0062】
送信部240は、CPU250が診断プログラム211を実行することにより生成した診断結果を、無線通信回線を通じて、関連付け装置500(図1参照)に送信するためのハードウエアである。

【0063】
図6(B)は、CPU250が実現する機能を示すブロック図である。CPU250は、打音データを取得する打音データ取得部271、及び打音データを用いて打音に含まれる残響の時間長を表す残響指標を算出し、算出した残響指標を診断結果として出力する診断結果出力部275としての機能を有する。残響指標を診断結果として算出することで、壁面Wの診断を従来よりも正確に行うことができる。以下、詳細に説明する。

【0064】
診断結果出力部275は、フィルタバンク部272、算出部273、及び共振度判定部274を含む。

【0065】
打音データ取得部271は、移動体100のマイクロホン部120(図2参照)から打音データを取得し、取得した打音データDを、フィルタバンク部272と、算出部273とに、パラレルに出力する。

【0066】
フィルタバンク部272は、互いに通過帯域の異なる複数(3つ)のバンドパスフィルタ(BPF)ch1~ch3で構成される。バンドパスフィルタch1~ch3の各々に打音データDがパラレルに入力される。バンドパスフィルタch1、ch2、ch3はそれぞれ、フィルタ通過後打音データD(ch1)、D(ch2)、D(ch3)を出力する。

【0067】
以下では、ch1~ch3の記号を、それぞれバンドパスフィルタを示す図面参照符号のみならず、そのバンドパスフィルタの通過周波数帯域を表す符号の意味でも用いる。

【0068】
バンドパスフィルタch1~ch3の各々の通過帯域は、打音データの周波数分布範囲に内包される。具体的には、打音データの周波数分布範囲は1~8kHzであり、バンドパスフィルタch1の通過帯域は1~2kHzであり、バンドパスフィルタch2の通過帯域は2~4kHzであり、バンドパスフィルタch3の通過帯域は4~8kHzである。このように、バンドパスフィルタch1~ch3の各々の通過帯域の幅は1オクターブである。また、通過帯域同士は、端点以外に重なりをもたない。

【0069】
なお、バンドパスフィルタの通過帯域同士が重なりを有してもよいし、バンドパスフィルタの数も特に限定されない。例えば、それぞれ通過帯域が、1~2kHz、1.5~3kHz、2~4kHz、2.5~5kHz、3~6kHz、3.5~7kHz、4~8kHzの7つのバンドパスフィルタによってフィルタバンク部272を構成してもよい。

【0070】
算出部273は、打撃時点特定部2731と、残響指標算出部2732と、を含む。

【0071】
打撃時点特定部2731は、打音データDを用いて、打撃が与えられた時刻t0を特定する処理を行う。

【0072】
残響指標算出部2732は、打撃時点特定部2731によって特定された、打撃が与えられた時刻t0を用いて、フィルタ通過後打音データD(ch1)、D(ch2)、D(ch3)について、それぞれ残響の継続時間の長さを表す残響指標H(ch1)、H(ch2)、H(ch3)を算出する。

【0073】
共振度判定部274は、フィルタ通過後打音データD(ch1)~D(ch3)のうち、最も共振の発生度合いの高いフィルタ通過後打音データD(chm)を特定する処理を行う(但し、mは1~3の任意の自然数とする)。また、共振度判定部274は、その特定したフィルタ通過後打音データD(chm)についての残響時間指標H(chm)を、診断結果として、関連付け装置500(図1参照)に無線で出力する。

【0074】
以下、図7のフローチャートに沿い、図8~図10も参照しながら、算出部273及び共振度判定部274が行う処理を具体的に説明する。

【0075】
図7のステップS1において、打撃時点特定部2731は、打撃が与えられた時刻t0を特定するために、打音データDが表す波形の長さを求める積分を行い、式(1)及び(2)を満たすような時刻t0が存在するか否かの判定を行う。

【0076】
図8を参照し、ステップS1の処理を具体的に説明する。図8は、打音データDが表す波形Wの一部を拡大して示す。横軸は時間を示し、縦軸は振幅を示す。

【0077】
図8(A)に示すように、打撃時点特定部2731は、時間-振幅平面において、打音データDが表す波形Wを、共通の時間幅で、連続する3つの区間t1、t2、t3に区切り、区間毎に、波形を構成する線分の長さを求める。なお、線分とは、直線又は折れ線を含む概念とする。図8及び図7の式(1)で、線分C1は、波形の区間t1の部分を表し、線分C2は、波形の区間t2の部分を表し、線分C3は、波形の区間t3の部分を表す。

【0078】
図8(A)では、区間t2で打撃が与えられたことを想定している。打撃が与えられた時点で振幅が相対的に大きく変動するため、線分C2の長さは、線分C1の長さよりも長く、線分C3の長さよりも長い。また、打撃が与えられた直後は波形が乱れるので、一般に、線分C3の長さは、線分C1の長さよりも長い。

【0079】
このような現象を利用し、「線分C1の長さのA倍<線分C2の長さ>線分C3の長さのB倍」なる不等式を満たせば、区間t2中に打撃が与えられた時点が存在すると推定できる(ここでA、Bは、それぞれA>Bを満たすような正の実数であり、例えば、A=10、B=2である。以下、同様。)。

【0080】
図7の式(1)は、この不等式を意味している。なお、式(1)で、dsは線分を構成する線素を表し、波形をf(t)と表すと、直線近似によって、ds=(df+dt0.5で与えられる。

【0081】
以下、t1~t3及びdtの時間幅の一具体値について説明する。上述のように、打音データの周波数分布範囲の上限値は、8kHz程度である。マイクロホン部120(図2参照)による打音のサンプリング周波数は、サンプリング定理を満たす下限値、16kHzである。dtは、サンプリング周期であり、いまの場合、62.5μ秒である。t1~t3の各々の時間長は、サンプリング周期の複数倍、例えば12倍であり、0.75m秒である。

【0082】
図8(B)に示すように、次に、打撃時点特定部2731は、式(1)を満たすような区間t2が存在する場合、区間t2内で打撃を与えられた時点t0を特定するために、図8(A)の場合と同様にして、区間t2を共通の微小幅δt2毎に区切り、区切られた微小区間δt2毎に波形(線素)の長さδs2を求める。なお、微小幅δt2の時間長は、例えば、サンプリング周期の2倍である。

【0083】
そして、求めた線素の長さの最大値を、max{δs2}と表すと、max{δs2}を与える微小区間δt2に、打撃が与えられた時刻t0が存在すると言える。ここで、max{}は、最大値を与える演算子である。

【0084】
打撃時点特定部2731は、max{δs2}を与える微小区間δt2の中点を、打撃が与えられた時刻t0の候補として特定する。なお、max{δs2}を与える微小区間δt2の中点に最も近いサンプリング点や、max{δs2}を与える微小区間δt2の端点を、打撃が与えられた時刻t0の候補として特定してもよい。

【0085】
また、打撃時点特定部2731は、打撃が与えられた時点t0の推定の確からしさを高めるために、「線分C1に含まれる最も長い線素の長さのA倍<線分C2に含まれる最も長い線素max{δs2}の長さ」なる不等式を満たすか否かの判定も行う。図7の式(2)は、この不等式を表している。

【0086】
図7のステップS1において、打撃時点特定部2731は、式(1)及び(2)を満たすようなmax{δs2}が存在しない場合は(ステップS1;NO)、積分区間を時間軸上で移動させ(ステップS8)、再びステップS1に戻る(return)。ここで、積分区間を移動させるとは、図8(A)で、波形Wを区切る区間t1~t3を、時間軸方向にずらすことを意味する。

【0087】
一方、算出部273は、式(1)及び(2)を満たすようなmax{δs2}が存在する場合は(ステップS1;YES)、上述の要領で、打撃が与えられた時刻t0を特定すると共に、その特定した時刻t0を用いて、波形立ち上がり時刻ta、フィルタ通過後ピーク時刻t1(chi)、半減時刻t2(chi)を求める(ステップS2)。

【0088】
算出部273において、打撃時点特定部2731が、打撃が与えられた時刻t0、及び波形立ち上がり時刻taの特定を行い、残響指標算出部2732が、フィルタ通過後ピーク時刻t1(chi)、及び半減時刻t2(chi)の特定を行う。

【0089】
図9(A)を参照し、波形立ち上がり時刻taについて説明する。波形W1は、打音データDが表す音波を示す。波形W2は、打音データDが表す音波の線積分値を示す。ここで、線積分値とは、図8を参照して説明したように、微小時間dtごとに音波を構成する線分の長さを求めた値を指す(以下、同様。)。

【0090】
波形W2の、上述した打撃が与えられた時刻t0での値をpeakとする。波形立ち上がり時刻taは、時刻t0から時間を遡り、波形W2の値がpeak/2となる時刻として定義される。打撃時点特定部2731は、この波形立ち上がり時刻taを求める。

【0091】
図9(B)を参照し、次に、フィルタ通過後ピーク時刻t1(chi)、及び半減時刻t2(chi)について説明する(ここでiは、1~3の任意の自然数を表す。以下、同様。)。波形W3は、フィルタ通過後打音データD(chi)の変動を示す。波形W4は、フィルタ通過後打音データD(chi)が表す音波の線積分値を示す。

【0092】
フィルタ通過後ピーク時刻t1(chi)とは、波形W4が極大値を取る時刻のうち、上述した打撃が与えられた時刻t0に最も近い時刻である。半減時刻t2(chi)とは、フィルタ通過後ピーク時刻t1(chi)よりも後の時刻であって、最初に波形W4の振幅が、フィルタ通過後ピーク時刻t1(chi)における値の半分の値となる時刻である。

【0093】
残響指標算出部2732は、このフィルタ通過後ピーク時刻t1(chi)、及び半減時刻t2(chi)を求める。なお、図9(B)には、1つのフィルタ通過後打音データD(chi)の波形W3及びその線積分値の波形W4を代表して示したが、残響指標算出部2732は、i=1~3のすべてについて、即ちフィルタ通過後打音データD(ch1)~D(ch3)の各々について線積分値を求め、フィルタ通過後打音データD(ch1)、D(ch2)、D(ch3)について、それぞれt1(ch1)及びt2(ch1)、t1(ch2)及びt2(ch2)、t1(ch3)及びt2(ch3)を求める。

【0094】
図7のステップS3で、残響指標算出部2732は、上述の要領で算出したt1(ch1)~t1(ch3)のうち、式(3)を満たすt1(chi)が存在するか否かを判定する。式(3)は、打撃を与えた時点t0よりも後に、その打撃に起因して極大値をとる時刻t1(chi)が存在することを保証するための因果律を表す。

【0095】
残響指標算出部2732は、式(3)を満たすt1(chi)が存在しない場合(ステップS3;NO)、ステップS8に移行する。一方、残響指標算出部2732は、式(3)を満たすt1(chj)が存在する場合(ステップS3;YES)、ステップS4に移行する(ここで、jは1~3から選択される1つ以上の自然数である。以下、同様。)。

【0096】
次に、残響指標算出部2732は、式(3)を満たすフィルタ通過後ピーク時刻t1(chj)をもつ波形、その波形を得るために線積分したフィルタ通過後打音データD(chj)、及び打音データDを用いて、式(4)~(6)の各値を算出する(ステップS4)。

【0097】
式(4)は、時刻t1(chj)からt2(chj)までの打音データDが表す波形の2乗平均値であり、時刻t1(chj)からt2(chj)までの打音データDが表す波形の平均エネルギに相当する。

【0098】
式(5)は、時刻t1(chj)からt2(chj)までのフィルタ通過後打音データD(chj)が表す波形の2乗平均値であり、時刻t1(chj)からt2(chj)までのフィルタ通過後打音データD(chj)が表す波形の平均エネルギに相当する。

【0099】
式(6)は、周波数帯域chjにおける、残響の時間長を表す残響指標を示す。分子のt2(chj)-t1(chj)は、周波数帯域chjにおいて、音波の強度が半分の値に減衰するのに要する時間長、即ち残響の継続する時間長を表す。但し、この時間長は、打撃の与えられ方、具体的には、衝撃が加わる時間幅に依存する。そこで、衝撃が加わる時間幅の指標として、分母のt1(chj)-taで規格化したものを、残響指標H(chj)と定義する。

【0100】
次に、共振度判定部274は、式(7)及び(8)を満たす周波数帯域chk(ここで、kは1~3から選択される1つ以上の自然数である。以下、同様。)が存在するか否かを判定する(ステップS5)。

【0101】
ステップS5は、共振の発生度合いの高い周波数帯域を絞り込むための判定である。式(7)では、共振に起因して波形が激しく振動しているか否かを判定する。式(8)では、共振が生じていると認められる程度の残響が生じているか否かを判定する。即ち、式(7)及び(8)を満たす周波数帯域chkは、共振の発生度合いが高い。

【0102】
共振度判定部274は、式(7)及び(8)を満たす周波数帯域chkが存在しない場合(ステップS5;NO)、ステップS8に移行する。一方、共振度判定部274は、式(7)及び(8)を満たす周波数帯域chkが存在する場合(ステップS5;YES)その周波数帯域chkについて、式(9)が表す位相誤差を算出する(ステップS6)。

【0103】
図10を参照し、位相誤差p(chk)について説明する。波形W5は、フィルタ通過後打音データD(chk)の波形を示す。波形W6は、理想的な共振波形、即ち共振が発生した場合に得られる波形を示す。波形W6は、波形W5と同じ周期をもつ。

【0104】
波形W5の極大値を黒丸、極小値を白丸で示す。波形W5の共振の発生度合いが高い程、隣り合う黒丸の間の極小値をとる時刻tnは、その隣り合う黒丸の間隔Dnの中点Mnに近い。中点Mnは、波形W6の極小値である。

【0105】
そこで、共振度判定部274は、時刻tnとMnの差|tn-Mn|をdnとするとき、比dn/Dnの値を、t1(chk)~t2(chk)までの間に存在するすべての極小値に関して足し算した値を求める。その値が小さい程、共振の発生度合いが高いことを示す。式(9)に示す位相誤差は、この値を意味する。

【0106】
次に、共振度判定部274は、最も共振の発生度合いの高い周波数帯域chm(ここで、mは1~3から選択される1つの自然数である。以下、同様。)についての残響指標H(chm)を、診断結果として出力する(ステップS7)。なお、この診断結果は、無線通信回線を通じて、関連付け装置500に送信される。

【0107】
ステップS7の処理について、具体的に説明する。共振度判定部274は、ステップS5で特定された周波数帯域chkの数が1つの場合、m=kとして、残響指標H(chm)を、診断結果として出力する。また、共振度判定部274は、ステップS5で特定された周波数帯域chkの数が複数の場合であって、残響指標H(chk)の中で、最大のものを特定できるとき、その最大の残響指標H(chm)を診断結果として出力する。

【0108】
また、共振度判定部274は、ステップS5で特定された周波数帯域chkの数が複数の場合であって、残響指標H(chk)の中で、最大のものを特定することができないとき、ステップS6で算出した位相誤差p(chk)が最小となる周波数帯域chmについての残響指標H(chm)を診断結果として出力する。

【0109】
次に、打撃時点特定部2731によって、打音データが表す波形の積分区間が時間軸上で移動され(ステップS8)、再びステップS1に戻る(return)。このような繰り返しを、マイクロホン部120から打音データが出力される間行い、診断結果をリアルタイムに次々と関連付け装置500へ出力する。

【0110】
次に、図11を参照し、関連付け装置500について説明する。

【0111】
図11に示すように、関連付け装置500は、記憶部510、RAM520、I/F530、送受信部540、表示部550、及びCPU560が、バス570で接続された構成を有する。

【0112】
記憶部510は、ROM、HDD、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含んで構成される。記憶部510は、関連付けプログラム511を記憶する。

【0113】
関連付けプログラム511は、CPU560を、後述する図12の関連付け装置500を構成する各部として機能させる。

【0114】
RAM520は、CPU560のメインメモリとして機能し、CPU560によって関連付けプログラム511が展開されると共に、外部から取得された診断結果や撮像結果等が一時的に記憶される。

【0115】
I/F530は、撮像装置400(図1参照)と接続され、撮像装置400から撮影データを取得するためのハードウエアである。

【0116】
送受信部540は、無線通信回線を通じて、診断装置200(図1参照)から診断結果を受信する一方、CPU560によって関連付けがなされた、移動体100の位置と、診断結果とを、無線通信回線を通じて、携帯端末600(図1参照)に送信するためのハードウエアである。

【0117】
表示部550は、例えば、液晶モニタで構成され、移動体100の壁面W内における位置別に、CPU560によってその位置と関連付けられた診断結果を表示出力する。

【0118】
図12に示すように、CPU560は、撮像結果取得部561、画像処理部562、診断結果取得部563、及び関連付け部564としての機能を有する。

【0119】
以下、図12を参照し、診断システム1000全体の動作と併せて、上記各部の動作について説明する。

【0120】
まず、本診断システム1000を作動させる。具体的には、移動体100及び診断装置200を作動させると共に、移動装置300による移動体100の移動を開始させ、かつ撮像装置400による撮像を開始させる。なお、移動体100を作動させるとは、打撃部110による壁面Wの打撃を開始させ、ファン130の回転を開始させることを指す。

【0121】
診断装置200は、壁面Wの診断結果を時系列データとして出力する。詳細には、診断装置200は、移動体100と共に壁面W内を移動され、共振度判定部274(図6(B)参照)は、時々刻々壁面Wの異なる位置の診断結果H(chm)を、無線でリアルタイムに出力する。

【0122】
撮像装置400は、移動装置300によって移動されている移動体100(図1参照)の壁面W内における位置を特定可能なように、移動体100及び壁面Wを撮像し、撮像結果を時系列データとして出力する。

【0123】
詳細には、撮像装置400は、ビデオカメラで構成され、その撮像領域が、壁面Wの診断すべき全領域を内包するように視野が調整される。視野は固定され、固定された視野内で移動体100が移動する。撮像装置400は、各時点の撮像結果、即ち1つのフレームにおいて、移動体100の壁面W内における位置を特定できる解像度をもつ。

【0124】
また、撮像装置400のフレームレートは、診断装置200による診断結果の出力の繰り返し周波数と等しい。

【0125】
撮像結果取得部561は、撮像装置400から撮影結果を時系列データとしてリアルタイムに取得する。

【0126】
画像処理部562は、撮像結果取得部561で取得された撮影結果の時系列データを画像処理することで、壁面W内における移動体100の位置を特定する。具体的には、画像処理部562は、各時点の撮像結果、即ち各時点のフレームを2値化処理する。2値化の閾値は、壁面Wの明度と移動体100の明度との間の値である。これにより、壁面W内における移動体100の占める領域、即ち移動体100の位置を各時点で特定できる。

【0127】
診断結果取得部563は、診断装置200から診断結果を時系列データとしてリアルタイムに取得する。

【0128】
関連付け部564は、画像処理部562で特定された移動体100の位置と、その位置の特定に用いた撮像結果(フレーム)が表す時点(撮影時刻)に対応する診断結果と、を関連付ける。関連付け部564のこの機能により、作業員が診断箇所と診断結果との関連付けを行う必要がなくなるので、壁面の診断を効率的に行えるようになる。

【0129】
以下、関連付け部564が、撮像結果(フレーム)が表す時点(撮影時刻)に対応する診断結果を特定できる理由について説明する。

【0130】
撮像結果及び診断結果は、共に時系列データであり、かつ撮像の開始時点と、診断の開始時点とは、同期が取られている。時系列データは、その開始時点からの経過時刻と、データ値とが対応付けられたものである。このため、関連付け部564は、同じ経過時刻における撮像結果と診断結果とを特定できる。

【0131】
また、撮像結果と診断結果との各時系列データに、絶対時刻の情報が含まれていてもよい。その場合は、撮像の開始時点と、診断の開始時点との同期が取られていなくても、関連付け部564は、同じ絶対時刻における撮像結果と診断結果とを特定できる。

【0132】
関連付け部564は、診断結果である残響指標は、画像の明度値として、又移動体100の位置は、画像処理部562で形成された2値化されたフレームとして、両者を関連付ける。具体的には、関連付け部564は、その2値化されたフレームの、移動体100の位置を表す領域に、診断結果である残響指標が表す明度を付してなる画像(以下、診断結果フレームという。)を形成する。なお、診断結果である残響指標は、例えば10段階評価し、これを10段階の明度値として表すことができる。

【0133】
そして、関連付け部564は、各時点で関連付けた移動体100の位置及び診断結果、即ち診断結果フレームを、時点ごとに次々と無線通信回線を通じてリアルタイムに携帯端末600に出力する。

【0134】
また、関連付け部564は、その診断結果フレームを、表示部550(図11参照)に表示出力させる。

【0135】
携帯端末600は、関連付け部564から上記診断結果フレームを、無線通信回線を通じてリアルタイムに取得し、表示出力する。具体的には、携帯端末600は、関連付け部564から診断結果フレームを取得するごとに、取得した診断結果フレームを前回の診断結果フレームに重ねて表示する。

【0136】
図13に、携帯端末600に表示出力される画像のスクリーンショットを示す。図示のように、各時点の移動体100の位置ごとに、診断結果が明度として出力される。ここでは、明度が低い領域程、劣化が進んでいることを示す。なお、関連付け装置500の表示部550(図11参照)にも、図13と同様の画像が表示出力される。

【0137】
作業員は、携帯端末600のこの表示出力を見て、壁面Wの診断結果をリアルタイムに視覚的に把握することができると共に、壁面W内に診断漏れの箇所や、再度診断すべき個所があるか否かも視覚的に把握することができる。

【0138】
なお、壁面W内に診断漏れ箇所や再度診断したい箇所がある場合は、移動装置300を用いて、その箇所に移動体100を配置し、その箇所の診断を行うことができる。

【0139】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、以下の変形が可能である。

【0140】
(1)上記実施形態では、診断装置200を移動体100に取り付けたが、診断装置200の配置位置は、特に限定されない。

【0141】
(2)上記実施形態では、作業員が、携帯端末600に表示出力される診断結果を確認するようにしたが、上述のように、関連付け装置500においても、診断結果を表示出力することができる。そこで、例えば、撮像装置400から関連付け装置500へ無線で撮像結果の画像が送信されるようにし、関連付け装置500を、壁面Wを有する建物の屋上に配置すれば、作業員は関連付け装置500に表示出力される診断結果を確認できるので、携帯端末600は必ずしも必須でなくなる。

【0142】
(3)診断プログラム211を既存のコンピュータにインストールすることで、そのコンピュータを診断装置200として機能させることができる。また、関連付けプログラム511を既存のコンピュータにインストールすることで、そのコンピュータを関連付け装置500として機能させることが可能である。

【0143】
診断プログラム211、及び関連付けプログラム511は、例えば、インターネット等の通信ネットワークを介して配布することもできるし、CD-ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto Optical disk)等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布することもできる。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に診断プログラム211、及び/又は関連付けプログラム511を格納しておき、通信ネットワークを通じてダウンロード等できるようにしてもよい。搬送波に診断プログラム211及び/又は関連付けプログラム511を重畳し、通信ネットワークを介して配信することもできる。通信ネットワーク上の掲示板(BBS: Bulletin Board System)に診断プログラム211及び/又は関連付けプログラム511を掲示し、ネットワークを介して配信してもよい。

【0144】
本発明は、その広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされる。上記実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々の変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0145】
100…移動体、110…打撃部、120…マイクロホン部、130…ファン、140…筐体、141…天面、141a…空気排出口、142…側面、142a…空気導入口、143…隔壁、150…モータ、160…回転軸、170…アーム、200…診断装置、210…記憶部、211…診断プログラム、220…RAM、230…I/F、240…送信部、250…CPU、260…バス、271…打音データ取得部(打音データ取得手段)、272…フィルタバンク部、ch1~ch3…(バンドパスフィルタ)、273…算出部(算出手段)、2731…打撃時点特定部(打撃時点特定手段)、2732…残響指標算出部(残響指標算出手段)、274…共振度判定部(共振度判定手段)、275…診断結果出力部(診断結果出力手段)、300…移動装置、310…鋼索(線材)、320…巻取機構、330…揺動機構、331,332…プーリ、333…無端ベルト、334…第1の固定部材、335…第2の固定部材、336…フリージョイント、340…制御部(制御手段)、400…撮像装置、500…関連付け装置、510…記憶部、511…関連付けプログラム、520…RAM、530…I/F、540…送受信部、550…表示部、560…CPU、561…撮像結果取得部、562…画像処理部、563…診断結果取得部、564…関連付け部、570…バス、600…携帯端末、1000…診断システム、W…壁面。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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