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明細書 :電磁波発生装置及びその方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-054699 (P2017-054699A)
公開日 平成29年3月16日(2017.3.16)
発明の名称または考案の名称 電磁波発生装置及びその方法
国際特許分類 H01J  25/00        (2006.01)
FI H01J 25/00 Z
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2015-177795 (P2015-177795)
出願日 平成27年9月9日(2015.9.9)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 若手研究者 成果報告会、学校法人早稲田大学西早稲田キャンパス 63号館2階03・04会議室(東京都新宿区大久保3-4-1)、平成27年3月10日 http://www.wise.sci.waseda.ac.jp/research/sites/default/files/annual_report/2014_ASTE_washio_2.pdf、平成27年5月11日 http://www.pasj.jp/web_publish/pasj2015/abstracts/html/WEP097.htm、平成27年6月26日 第12回日本加速器学会年会、福井県敦賀市東洋町1番1号 プラザ萬象・あいあいプラザ、平成27年8月5日 http://www.pasj.jp/web_publish/pasj2015/abstracts/html/WEP128.htm、平成27年6月26日 第12回日本加速器学会年会、福井県敦賀市東洋町1番1号 プラザ萬象・あいあいプラザ、平成27年8月5日
発明者または考案者 【氏名】坂上 和之
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100137800、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 正義
【識別番号】100148253、【弁理士】、【氏名又は名称】今枝 弘充
【識別番号】100148079、【弁理士】、【氏名又は名称】梅村 裕明
審査請求 未請求
要約 【課題】小型化に有利な電磁波発生装置及びその方法を提供する。
【解決手段】電子銃14から射出された電子バンチ11を高周波偏向空胴16により傾斜させて電磁波発生部材12の入射面12aに入射させる。入射面12aは、電子バンチ11の進行方向に垂直に配されている。電子バンチ11が電磁波発生部材12に入射することによるチェレンコフ放射の放射角と同じ角度の傾斜角で入射面12aに入射させる。電磁波発生部材12内で発生した電磁波を電子バンチ11と同じ向きに傾斜させた電磁波発生部材12の射出面12bから射出させる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
電子バンチを射出する電子射出部と、
前記電子バンチの進行方向に対して前記電子バンチを傾斜させる電子バンチ傾斜部と、
傾斜した前記電子バンチが入射面に入射し、前記電子バンチの入射によってチェレンコフ放射による電磁波を発生して射出面から射出する電磁波発生部材と
を備えることを特徴とする電磁波発生装置。
【請求項2】
前記電子バンチ傾斜部は、前記電子バンチが前記入射面へ入射する際の前記電子バンチの傾斜角を、前記電磁波発生部材におけるチェレンコフ放射の放射角と同じにすることを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生装置。
【請求項3】
前記電磁波発生部材は、前記電子バンチと同じ向きで、前記射出面がチェレンコフ放射の放射角と同じ角度で傾斜されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波発生装置。
【請求項4】
前記入射面は、前記電子バンチの進行方向に対して垂直に配されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電磁波発生装置。
【請求項5】
電子バンチを射出する電子射出ステップと、
前記電子バンチの進行方向に対して前記電子バンチを傾斜させる電子バンチ傾斜ステップと、
電磁波発生部材の入射面に傾斜した前記電子バンチを入射して、前記電磁波発生部材内でチェレンコフ放射により発生する電磁波を射出面から射出する電磁波発生ステップと
を有することを特徴とする電磁波発生方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、チェレンコフ放射による電磁波を発生させる電磁波発生装置及びその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばテラヘルツ波は、周波数が0.1THz~10THz(波長30μm~3mm)程度等とされており、光波と電波との中間的な性質を有した電磁波として知られている。このテラヘルツ波を用いた透視検査や分光技術などの各種技術が研究されている。
【0003】
レーザ光を電磁波発生部材に入射し、チェレンコフ放射によりテラヘルツ波を発生させて取り出す電磁波発生装置が知られている。また、このような電磁波発生装置において、強度の高いテラヘルツ波を発生させるために、レーザ光のパルス面を傾斜させる技術が知られている(非特許文献1を参照)。この非特許文献1の技術では、例えば回折格子を用いてレーザ光の進行方向に対してパルス面をチェレンコフ放射の放射角と一致する傾斜角に傾斜させ、そのレーザ光を電磁波発生部材に入射している。これにより、位相整合条件を満たして、強度の高いテラヘルツ波を発生させている。電磁波発生部材としては、例えばニオブ酸リチウムの結晶のように非線形光学結晶が用いられる。
【0004】
また、テラヘルツ波を発生させる技術として、軌道放射や遷移放射が知られている。軌道放射は、真空中を光速に近い速度で運動する荷電粒子が磁場によって軌道を変えることによってテラヘルツ波を発生させる。一方、遷移放射は、光速に近い速度で運動する荷電粒子が誘電率の異なる媒質を通過する際の双極子の誘起と消滅とによってテラヘルツ波を発生させる。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】H.Hirori et al.,”Single-cycle terahertz pulses with amplitudes exceeding 1 MV/cm generated by optical rectification in LiNbO3”, Appl. Phys. Lett., 98(2011)091106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、非特許文献1のようにレーザ光のパルス面を傾斜させる場合では、パルス面を傾斜させるための複雑な光学系が必要になる他、レーザ光のパルス幅が極めて小さい、極短パルスレーザ(フェムト秒レーザ)等と呼ばれるレーザ装置が必要になり、電磁波発生装置の小型化が難しい。そこで他の手法が望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、小型化に有利な電磁波発生装置及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電磁波発生装置は、電子バンチを射出する電子射出部と、電子バンチの進行方向に対して電子バンチを傾斜させる電子バンチ傾斜部と、傾斜した電子バンチが入射面に入射し、電子バンチの入射によってチェレンコフ放射による電磁波を発生して射出面から射出する電磁波発生部材とを備えるものである。
【0009】
本発明の電磁波発生方法は、電子バンチを射出する電子射出ステップと、電子バンチの進行方向に対して前記電子バンチを傾斜させる電子バンチ傾斜ステップと、電磁波発生部材の入射面に傾斜した電子バンチを入射して、電磁波発生部材内でチェレンコフ放射により発生する電磁波を射出面から射出する電磁波発生ステップとを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、射出された電子バンチをその進行方向に傾斜させて電磁波発生部材の入射面に入射させ、チェレンコフ放射による電磁波を発生させるから、電磁波発生装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を実施した電磁波発生装置の構成を示す概略図である。
【図2】高周波偏向空胴による偏向作用を説明した説明図である。
【図3】チェレンコフ放射により発生する電磁波の重ね合わせを説明した説明図である。
【図4】電子バンチの電荷量と発生するテラへルツ波の強度との関係を示すグラフである。
【図5】電子バンチを射出した際の検出信号とテラヘルツ波を検出した際の出力信号とを示す波形図である。
【図6】電子バンチの傾斜角とテラヘルツ波の強度分布とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1において、本実施形態に係る電磁波発生装置10は、電子バンチ11を電磁波発生部材12に入射させることによってテラヘルツ波を含む広帯域の電磁波を発生させて取り出すものである。電磁波発生装置10は、電磁波発生部材12の他、電子銃14、4極電磁石15a、15b、高周波偏向空胴16、ステアリング磁石17を備えている。

【0013】
電子銃14は、電子バンチ11を光速に近い速さで射出する電子射出部となっている。この電子銃14は、多数の電子を放出する陰極14aと、放出された多数の電子からなる電子バンチ11を加速する加速空胴部14bとを備えており、加速された電子バンチ11を射出口14cから外部に射出する。この例における電子銃14は、レーザ光源(図示省略)を備えており、このレーザ光源からのレーザ光を陰極14aに照射し、加速空胴部14bが高周波電場で電子バンチ11を加速する光陰極高周波電子銃になっている。なお、電子銃14としては、光陰極高周波電子銃に限定されず、各種形式のものを用いることができる。

【0014】
電子バンチ11は、多数の電子(例えば10個程度)からなり、その進行方向(Z方向)に沿った細長い形状であり、バンチ長(進行方向の長さ)は、半値全幅で1mm程度である。また、この例では、電子銃14は、光速の約99.9%にまで電子バンチ11を加速して射出するが、その速さは、電磁波発生部材12内における電子バンチ11の入射により発生する電磁波の速さ(光速:位相速度)よりも速ければよい。なお、電子銃以外の手法で電子バンチ11を生成してもよい。また、電子バンチ11の生成と、電子バンチ11の加速とを別々の装置で行ってもよい。

【0015】
電子銃14から射出される電子バンチ11の進行方向に、4極電磁石15a、15b、高周波偏向空胴16、ステアリング磁石17、電磁波発生部材12がこの順番で配されている。射出された電子バンチ11は、4極電磁石15a、15b、高周波偏向空胴16、ステアリング磁石17を通って、電磁波発生部材12の入射面12aに入射して電磁波発生部材12内を電子バンチ11がZ方向に進む。この電磁波発生部材12内での電子バンチ11の移動に起因したチェレンコフ放射により発生する電磁波を射出面12bから射出させて取り出す。4極電磁石15a、15bは、電子バンチ11を所定の径に収束する。ステアリング磁石17は、電磁波発生部材12の入射面12a上における電子バンチ11の入射位置を調整する。

【0016】
電子バンチ傾斜部としての高周波偏向空胴16は、詳細を後述するように磁場によって、チェレンコフ放射の放射角θcに応じた傾斜角で、電子バンチ11をその進行方向に対して傾斜させる。ここで、進行方向に対して電子バンチ11が傾斜するとは、法線が進行方向に対して傾いた面上(もしくは線上)に電子が分布した状態になることである。なお、この例では、入射面12aが進行方向に垂直であるので、電子バンチ11は、入射面12aに対しても放射角θcに応じた傾斜角で傾斜される。

【0017】
この例においては、電子バンチ11が入射面12aに入射する際の電子バンチ11の傾斜角をθe(0<θe<90°)としたときに、その傾斜角θeが放射角θcとなるように高周波偏向空胴16が調整されている。なお、磁場によって電子バンチ11を傾斜させているが、電場を用いて傾斜させてもよく、他の手法を用いて傾斜させてもよい。また、取り出す電磁波の周波数をより高くする観点からは、傾斜した電子バンチ11のチェレンコフ放射の放射方向についての厚みが小さいことが好ましい。

【0018】
傾斜角θeは、チェレンコフ放射の放射角θcと一致することが理想的であるが、同じでなくてもよい。チェレンコフ放射による電磁波は、その放射角にある程度の広がりを持って放射されるため、必要とされる電磁波の強度が得られる範囲内であれば、傾斜角θeが放射角θcからずれていても影響はなく、許容することができる。また、電磁波の放射角の広がりは、電子バンチ11の速さによって異なる。この実施形態の場合では、理論上の放射角θcに対して±5°ないしそれ以上の範囲で電磁波の放射が見られ、このような角度範囲内に傾斜角θeを設定することも可能であるが、θc-2°≦θe≦θc+2°であることが好ましく、より好ましくはθc-1°≦θe≦θc+1°である。

【0019】
また、高周波偏向空胴16は、電子バンチ11を傾斜させる際には、電磁波発生部材12の射出面12bと同じ向きとなるように電子バンチ11を傾斜させる。すなわち、電子バンチ11は、電磁波発生部材12から電磁波を取り出す方向に電子の分布する面(以下、バンチ面と称する)が向くように傾斜される。

【0020】
電磁波発生部材12は、電子バンチ11の入射によりチェレンコフ放射による電磁波を発生する。この実施形態では、電磁波発生部材12は、断面が直角三角形をした三角柱形状であり、3つの側面のうちの直角を挟む1つの側面が電子バンチ11を入射する入射面12a、斜面がチェレンコフ放射による電磁波を射出する射出面12bとなっている。なお、電磁波発生部材12の形状は、後述する条件を満たす入射面12a、射出面12bを有するものであれば、その形状は特に限定されない。また、この例における入射面12aは、上述のように電子バンチ11の進行方向に対して垂直であるが垂直でなくてもよい。

【0021】
この電磁波発生部材12に対して、チェレンコフ放射の放射角θcと同じ角度の傾斜角θeで傾斜させた電子バンチ11を入射面12aから入射することにより、チェレコフ放射による電磁波を同位相で重ね合わせて強度の高いコヒーレント放射として取り出す。

【0022】
放射角θcは、電子バンチ11の速さVと光速cとの比β(=V/c)、電磁波発生部材12の屈折率nを用いて、次の(1)式に基づいて求めることができる。なお、屈折率nは、チェレンコフ放射で発生する電磁波に対する値であるから、単一波長あるいは屈折率がほぼ一定とみなせるような狭い帯域の電磁波を取り出す場合には、その単一波長に対する屈折率あるいは狭い帯域の電磁波に対するほぼ一定とみなせる屈折率nを用いて放射角θcを求め、これを傾斜角θeとすればよい。また、広帯域の電磁波を取り出す場合には、その帯域の各波長についての放射角θcに対して、許容される範囲に傾斜角θeが収まるように傾斜角θeを決めればよい。

【0023】
【数1】
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【0024】
電磁波発生部材12の内部で発生した電磁波を取り出すための射出面12bは、電子バンチ11の進行方向に対して傾斜されており、チェレンコフ放射による電磁波の放射方向に垂直にしてある。したがって、この例では、電子バンチ11の進行方向に垂直な入射面12aに対して射出面12bは、放射角θcと同じ角度θbで傾斜している。このように射出面12bを電磁波の放射方向に垂直にすることにより、電磁波をその波面が揃った平面波として射出面12bから射出する。

【0025】
なお、射出面12bは、電子バンチ11の進行方向の周囲においてどのような向きにも傾斜させることができるが、上述のように傾斜した電子バンチ11のバンチ面と同じ方向を向くように傾斜させる必要がある。なお、射出面12bの角度θbについても、傾斜角θeと同様であり、チェレコフ放射の放射角θcと一致することが理想的であり好ましいが、同じでなくてもよい。

【0026】
電磁波発生部材12としては、電子の入射によってチェレンコフ放射による電磁波を放射する誘電体であればどのようなものでもよいが、取り出すべき電磁波の吸収が少ない誘電体を用いることが好ましい。本手法により取り出すことができる電磁波の周波数は、特に限定されるものではなく、テラヘルツ波の周波数帯はもとより、それよりも高い周波数、低い周波数の電磁波を取り出すことができる。帯域を持って電磁波を取り出す場合には、その帯域における屈折率nに大きな違いがないことが好ましい。このような誘電体としては、高抵抗率シリコン、ポリエチレン、カプトン(登録商標)、テフロン(登録商標)、環状オレフィン・コポリマー(COC:Cyclic olefin copolymer)等が挙げられる。

【0027】
電子の入射によってチェレンコフ放射が発生するためには、電磁波発生部材12内における電子の速さが、電磁波発生部材12内における光速を超える必要がある。すなわち、電磁波発生部材12の屈折率n、電磁波発生部材12内における電子バンチ11の速さV、光速cが「V>c/n」の条件を満たす必要がある。なお、電磁波発生部材12内における電子の速さは、電磁波発生部材12に入射する前の電子の速さと同じとみなすことができる。

【0028】
上記条件は、この実施形態のように、電子バンチ11の速さVが光速cとほぼ等しい場合には、屈折率nが「1」よりも大きければ満たすことができ、電磁波発生部材12としての誘電体にほぼ制限がないことになる。このため、取り出す電磁波の広帯域化、高周波数化に有利である。また、屈折率nが大きい電磁波発生部材12を用いれば、電子バンチ11の速さVを小さくしてもチェレンコフ放射による電磁波が得られる。したがって、電子バンチ11の加速のためのエネルギーが小さくなり、省電力化、小型化に有利である。また、例えば電子バンチ11の加速能力が高くない小型の電子銃を用いることができ、電磁波発生装置10をより小型にするうえで有利である。

【0029】
なお、電磁波発生部材12のZ方向の長さ、すなわち電子バンチ11が通過する長さは、電磁波の強度をより高める効果を期待できるため、電子バンチ11の電子の直進性が保たれる範囲で大きくすることが好ましい。

【0030】
電磁波発生部材12は、真空チャンバ(図示せず)内に配されている、この真空チャンバは、電子バンチ11が通過する通路(図示せず)と繋げられている。また、これら真空チャンバと通路とは、所定の真空度に保持されている。真空チャンバには、Zカット水晶からなる取出窓(図示せず)が設けられており、射出面12bから射出される電磁波を取出窓を介して真空チャンバの外に取り出している。

【0031】
また、この実施形態では、真空チャンバ内に調整用の蛍光スクリーン19が設けられている。蛍光スクリーン19は、そのスクリーン面19aが電磁波発生部材12の入射面12aと同一面になるように、電磁波発生部材12と交換自在にされている。スクリーン面19aに電子バンチ11が照射されて発生するスクリーン面19a上の輝点の位置や範囲に基づいて、電子バンチ11の入射位置の調整や傾斜角θeの調整を行うことができる。

【0032】
次に高周波偏向空胴16による電子バンチ11の傾斜について説明する。図2(a)に模式的に示すように、高周波偏向空胴16は、電子バンチ11の通過に同期した高周波電力の投入により、その内部の電子バンチ11が通る軸上に、Z方向にsin波状に分布する磁場を誘起する。したがって、電子バンチ11は、進行方向の先端側の各電子が磁場から受ける力の方向と、後端側の各電子が磁場から受ける力の方向とが互いに逆向きになり、また中心ほど磁場から受ける力が小さくなる。ここで、磁場の方向は、Y方向及びZ方向に直交するX方向であり、Z方向に進む電子バンチ11の各電子11は、磁場によってY方向の力を受ける。これにより、電子バンチ11の先端側の電子は、-Y方向(図中下方向)の運動量が与えられ、後端側の電子は、+Y方向(図中上方向)の運動量が与えられ、それぞれY方向(+Y方向または-Y方向)に移動する。なお、また、磁場に代えて電場で電子バンチ11を傾斜する場合には、同様にZ方向にsin波状に分布する電場(偏向電圧)を誘起すればよい。この場合、電場の方向はY方向である。

【0033】
時間の経過、すなわち電子バンチ11の進行方向の移動とともに、図2(b)に示すように、与えられた運動量に応じた移動量で電子バンチ11の各電子がY方向に移動し、電子バンチ11が進行方向に対して傾斜する。電子バンチ11の傾斜角θeは、電子の移動量の増大にともなって漸増する。電子バンチ11が入射面12aに入射する際に、傾斜角θe(=θc)となるように、高周波偏向空胴16と電磁波発生部材12との距離に応じて、高周波偏向空胴16は、それに印加される高周波電力すなわち磁場が調整される。なお、高周波偏向空胴16の中心から入射面12aまでの距離に対する電磁波発生部材12内での電子バンチ11の移動長が十分に小さいため、電磁波発生部材12内での電子バンチ11の傾斜角の変化は無視することができる。

【0034】
電子バンチ11が入射面12aに入射する際の実際の傾斜角θeは、次のようにして求めることができる。まず、入射面12aの位置における電子バンチ11のY方向の長さΔyは、磁場に相当する偏向電圧Vを用いて、次の式(2)のように表すことができる。
【数2】
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【0035】
上記式(2)中のΔzは、電子バンチ11のバンチ長、k,φは、高周波の磁場の波数、位相である。また、Lは、高周波偏向空胴16の中心から入射面12aまでの距離、eは電気素量、pは、電子のZ方向の運動量、cは光速である。なお、バンチ長Δzは、波数kの逆数に比べて十分に小さくなっているとする。

【0036】
高周波偏向空胴16に誘起される磁場と上記式(2)中の偏向電圧Vとは、磁場の最大値をBxとしたときに、次の式(3)のような関係がある。式(3)中のEyは、高周波偏向空胴16内のY方向の電場である。この例においては、高周波偏向空胴16に誘起される磁場Bxが強いため、Eyを「0」としている。なお、式(3)については、文献「W.K.H.Panofsky,W.A.Wenzel,Review of Scientific Instruments 27(1956)967」に詳しく記載されている。

【0037】
【数3】
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【0038】
磁場の位相0度(φ=0)で電子バンチ11が磁場を受けたとすれば、式(2)は、次の式(4)のようになる。この式(4)は、バンチ長ΔzがY方向の長さΔyに変換されることを示しており、電子バンチ11の進行方向の中心の電子は、磁場から力を受けないことを意味する。

【0039】
【数4】
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【0040】
ところで、通常、バンチ長Δzの詳細は不明である。ここで、Δz=0としたときのΔyをΔyとすると、式(2)は、次の式(5)のように表すことができる。式(5)のΔyは、電子バンチ11の進行方向の中心についてのY方向における位置を示しており、位相φの変化によって、Y方向における電子バンチ11の中心位置Δyがsin波状に変化し、そのときの振幅が値Aであることがわかる。
【数5】
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【0041】
上記式(5)より、磁場の位相φを変化させながら、蛍光スクリーン19上に照射された電子バンチ11の範囲の中心位置を計測すると、現在の電磁波発生装置10の設定がどれだけ電子バンチ11を傾ける力があるかが分かり、その結果から入射面12aに入射する際の電子バンチ11の傾斜角θeを求めることができる。

【0042】
この実施形態では、ゼロクロスポイント(φ=0)付近において磁場の位相φを変化させて、複数の電子バンチ11の中心位置Δyを計測した結果を用いて、電子バンチ11の傾斜角θeを求めている。具体的には、蛍光スクリーン19を用い、ゼロクロスポイント付近において位相φを変化させて、スクリーン面19a上における複数の電子バンチ11の中心位置Δyを計測する。中心位置Δyは、スクリーン面19a上に照射された電子バンチ11の範囲のY方向における中心の位置として計測すればよい。

【0043】
位相φに対するΔyの変化は、sin波状であるが、ゼロクロスポイント付近においては、直線近似することができる。そこで、位相φと計測された中心位置Δyとの関係を、例えば最小二乗法を用いて直線(Δy=aφ+b)近似し、近似された直線の傾きから式(5)における振幅Aを求める。そして、この求めた振幅Aと、スクリーン面19a上に照射された電子バンチ11の範囲のY方向の長さΔyとからΔzの値を求める。求めたΔyとΔzとから、スクリーン面19a、すなわち入射面12aに入射する際の傾斜角θeを式(6)の関係から求める。電子バンチ11のバンチ長Δzは、偏向前と偏向後では不変であるから、式(6)の関係が成り立つ。傾斜角θeは、高周波偏向空胴16に投入する高周波電力、すなわち高周波の磁場の最大値ごとに求める。

【0044】
【数6】
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【0045】
次に上記構成の作用について説明する。電子銃14から光速の近くまで加速された電子バンチ11が射出される。電子バンチ11は、4極電磁石15a、15bを通って高周波偏向空胴16に入射する。電子バンチ11は、高周波偏向空胴16を通過する際に、高周波偏向空胴16の内部に誘起される磁場によってY方向に力を受ける。この後、電子バンチ11は、ステアリング磁石17を通って電磁波発生部材12の入射面12aに入射する。

【0046】
電子バンチ11は、上記のように高周波偏向空胴16を通過する際に、Y方向に力を受け、先端側の電子が-Y方向に、後端側の電子がY方向にそれぞれ移動して傾斜角を漸増しながら入射面12aに近づく。そして、入射面12aに入射する際には、電子バンチ11は、放射角θcと同じ傾斜角θeになる。この電子バンチ11が入射面12aから電磁波発生部材12内に入射してZ方向に進む。

【0047】
図3に実線で示すように、傾斜した電子バンチ11の下端の電子から電磁波発生部材12内に入射する。電子バンチ11の下側の電子が入射すると、その電子が電磁波発生部材12内をZ方向に移動することによって、その電子の位置からチェレンコフ放射による電磁波W1が発生する。この電磁波W1は、電磁波発生部材12内を速さc/nで、電子の進行方向に対して放射角θcをなす方向に放射される。なお、電磁波は、電磁波W1の方向以外にも進行方向に対して放射角θcをなす方向に放射される。

【0048】
この後、例えば電子バンチ11の中心が通る軸上の位置に電磁波W1が到達すると同時に、その電磁波W1が到達した軸上の位置に中心位置が達するように電子バンチ11が符号11aに示す位置に移動する。これは、電子バンチ11の傾斜角θeが放射角θcに同じとしているからである。電子バンチ11の中心位置と電磁波W1の到達した位置が一致するので、その電子バンチ11の中心位置の電子がZ方向に移動することによって発生するチェレンコフ放射による電磁波W2と電磁波W1とが同位相で重なり合う。

【0049】
さらに、電子バンチ11が符号11bで示す位置にまで移動したときには、重なり合った電磁波W1と電磁波W2とが電子バンチ11の上端に達する。このため、その電子バンチ11の中心位置の電子がZ方向に移動することによって発生するチェレンコフ放射による電磁波W3と、電磁波W1、W2とが同位相で重なり合う。

【0050】
同様にして、電子バンチ11の各部で発生するチェレンコフ放射による電磁波は、他の位置の電子で発生した電磁波と同位相で重なり合う。結果として強度の強い電磁波が発生し、射出面12bから射出される。このとき、電磁波は、射出面12bに対して垂直方向に射出される。
【実施例】
【0051】
実施例では、上記電磁波発生装置10によるテラヘルツ波の発生の強度の測定を行った。この実施例では、電磁波発生部材12としては、環状オレフィン・コポリマーからなるTOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)を用いた。この電磁波発生部材12のZ方向の長さは1mmであり、X方向の長さは14mmであった。なお、この実施例は、テラヘルツ波の発生を確認しているが、電磁波発生装置10が発生する電磁波をテラヘルツ波帯に限定するものではない。
【実施例】
【0052】
確認に先立って、まず蛍光スクリーン19を用いて調整を行った。調整では、まず高周波偏向空胴16を停止した状態で、蛍光スクリーン19上に照射される電子バンチ11のrms半径が150μmになるように4極電磁石15a、15bを調整し、電磁波発生部材12の入射面12aに調整された電子バンチ11が入射するようにステアリング磁石17を調整した。
【実施例】
【0053】
4極電磁石15a、15b、ステアリング磁石17の調整後、高周波偏向空胴16を作動させて、上述の手法により電子バンチ11の傾斜角θeの調整を行った。この実施例では、電子バンチ11の速さを光速の99.9%とし、また上記電磁波発生部材12のテラヘルツ波帯域での屈折率を1.524として、上記式(1)に基づいて、電子バンチ11の傾斜角θeを48.5°となるように高周波偏向空胴16を調整した。
【実施例】
【0054】
テラヘルツ波の強度は、0.9THzのテラヘルツ波について、電子バンチ11の電荷量を変えながら測定した。この測定では、電磁波発生部材12の射出面12bから射出されるテラヘルツ波を取出窓を介して真空チャンバの外に取り出し、測定装置に入射させて測定した。
【実施例】
【0055】
測定装置は、取出窓からのテラヘルツ波を反射するミラーと、テラヘルツ波の強度に応じた出力信号を出力するショットキーバリアダイオードと、ミラーで反射されたテラヘルツ波をショットキーバリアダイオードに集光する集光レンズと、ショットキーバリアダイオードの前面に配置された中心周波数が0.9THzのバンドパスフィルタ(TYDEX社製)とで構成した。バンドパスフィルタは、±10%の帯域幅を有するものである。ショットキーバリアダイオードとしては、0.1THz~2THzの範囲に感度を有するQOD(Quasi-Opical schottky Diode detector)を用いた。
【実施例】
【0056】
上記測定の結果を図4に示す。この図4から電子バンチ11の電荷量に対し2乗でテラヘルツ波の放射強度が増えていることがわかる。すなわち、傾斜角θeに傾斜した電子バンチ11を電磁波発生部材12に入射することによって、チェレンコフ放射が同位相で重なり合い、コヒーレント放射になっていることが確認された。なお、図4では、横軸が電荷量、縦軸がテラヘルツ波の強度である。
【実施例】
【0057】
さらに、同じ測定装置を用いて、0.05THz、0.06THz、0.1THz、0.3THz、0.6THz、0.9THz、1THz、1.5THz、2THzについて、ショットキーバリアダイオードから出力信号が出力され、テラヘルツ波が検出されたことを確認した。したがって、電磁波発生装置10からは、非常に広帯域のテラヘルツ波を得られることがわかる。図5にテラヘルツ波を検出した際の出力信号Sと、電子バンチ11を射出した際に流れる電流に応じた検出信号Sとを示す。この実施例では、3個の電子バンチ11を所定の間隔をあけて電子銃14から射出しており、それに同期してショットキーバリアダイオードによる3パルスのテラヘルツ波を検出した出力信号Sが得られていることがわかる。
【実施例】
【0058】
なお、0.6THz以下のテラヘルツ波については、狭帯域のショットキーバリアダイオードを用い、0.9THz以上では上述のQODを用いた。バンドパスフィルタは、±10%の帯域幅を有する中心周波数が0.05THz、0.06THz、0.1THz、0.3THz、0.6THz、0.9THz、1THz、1.5THz、2.0THz(いずれもTYDEX社製)のものを切り替えて用いた。
【実施例】
【0059】
次に傾斜角θeの変化による1THzのテラヘルツ波の強度の変化を測定した。この測定では、上記と同じ測定装置に中心周波数が1THz(帯域幅は±10%)のバンドパスフィルタを用いた。また、高周波偏向空胴16に投入する高周波電力を変化させることによって、電子バンチ11の傾斜角θeを変えて、各傾斜角θeついてテラヘルツ波の強度を測定した。また、傾斜角θeごとに、磁場の位相φを変化させることによって、ビームの中心位置をY方向に変化させ、Y方向におけるテラヘルツ波の強度の分布も調べた。この結果を図6に示す。図6では、縦軸が傾斜角θeを示し、横軸がY方向の位置を示しており、濃度が低いほどテラヘルツ波の強度が高いことを示している。この結果から、理論上の放射角θcに対して±5°ないしそれ以上の範囲である程度の強度の高い電磁波の放射が確認され、θc-2°≦θe≦θc+2°の範囲内で高い強度の電磁波の放射が確認され、θc-1°≦θe≦θc+1°の範囲内でより高い強度の電磁波の放射が確認された。なお、上記の放射角θcに対する±5°の範囲は電磁波の強度が半減した半値全幅である。
【実施例】
【0060】
電子バンチ11を逆向きに同じ角度で傾けた場合について同様に調べた結果、多少のテラヘルツ波が確認された。適切な向きに傾斜角θeを48.5度に傾斜させた場合は、逆向きに傾けた場合に比べて10倍の強度であった。また、電子バンチ11に傾きを与えない場合(傾斜角θe=90°)に対しては、5倍程度のテラヘルツ波の強度であった。さらに、40MeVの電子銃を用いた軌道放射法に対して、この実施例におけるテラヘルツ波の強度が高いことを確認した。なお、この実施例の電子銃14の加速エネルギーは、4Mevであった。
【符号の説明】
【0061】
10 電磁波発生装置
11 電子バンチ
12 電磁波発生部材
12a 入射面
12b 射出面
16 高周波偏向空胴
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5