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明細書 :近接場分光装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-058281 (P2017-058281A)
公開日 平成29年3月23日(2017.3.23)
発明の名称または考案の名称 近接場分光装置
国際特許分類 G01Q  60/18        (2010.01)
FI G01Q 60/18
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2015-184145 (P2015-184145)
出願日 平成27年9月17日(2015.9.17)
発明者または考案者 【氏名】井村 考平
【氏名】溝端 秀聡
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100137800、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 正義
【識別番号】100148253、【弁理士】、【氏名又は名称】今枝 弘充
【識別番号】100148079、【弁理士】、【氏名又は名称】梅村 裕明
審査請求 未請求
要約 【課題】分光測定に有用な分光情報を精度良く得ることができる近接場分光装置を提供する。
【解決手段】プローブ11に白色光の測定光を導入して、プローブ11の先端に近接場光を発生させる。プローブ11の先端と試料12の測定点との間の相対距離を所定の条件を満たす第1~第4測定距離に設定して、第1~第4測定距離のそれぞれで反射光の測定を行う。反射光を含む検出光がプローブ11から分光検出部24に送られ、波長ごとの分光データに変換される。波長ごとの各分光データに所定の演算を適用することにより、バックグランド成分を除去した分光測定データを算出する。同一の測定点に対して得られる複数の分光測定データを積算したものを最終的な分光測定データとする。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の波長成分を含む測定光を出力する光源部と、
前記測定光の導入により先端に近接場光を発生させ、先端を試料の表面の測定点に近接することにより近接場光が測定点で反射された反射光を採取するプローブと、
前記プローブの先端と前記試料との相対的な移動によって前記反射光を採取する測定点を移動する走査部と、
前記プローブの先端と前記反射光を採取する測定点との間の相対距離を増減し、前記相対距離の増減を単振動とみなして、前記相対距離を所定角度ずつ位相がずれた3以上の測定距離に順次に設定する測定距離設定部と、
前記測定距離ごとに前記プローブからの前記反射光を含む検出光を分光し、前記検出光の各波長の光強度を出力する分光検出部と、
各々の測定点の各波長について、前記測定距離ごとに得られる前記検出光の同じ波長の光強度に基づいて、前記反射光の当該波長の光強度をそれぞれ算出する分光演算部と
を備えることを特徴とする近接場分光装置。
【請求項2】
前記相対距離の増減による3以上の前記測定距離に設定して前記検出光の各波長の光強度を前記測定距離ごとに出力する測定プロセスを複数回実行し、
前記分光演算部は、前記測定プロセスごとに得られる前記検出光の各波長の光強度に基づいて前記反射光の各波長の光強度を算出し、前記測定プロセスごとに得られる各波長の光強度を同一の波長同士で積算する
ことを特徴とする請求項1に記載の近接場分光装置。
【請求項3】
前記測定距離設定部は、前記測定距離として第1~第4測定距離を設定し、任意の振幅と初期位相とをA、φとしたときに、iを1,2,3,4として第i測定距離Dが式(a)を満たし、
前記分光演算部は、前記第1~第4の測定距離に対応した前記検出光の一の波長の光強度をI~Iとして、式(b)により前記反射光の当該一の波長の光強度Isigを算出することを特徴とする請求項1または2に記載の近接場分光装置。
【数5】
JP2017058281A_000007t.gif

【請求項4】
前記測定距離設定部は、前記測定距離として第1~第5測定距離を設定し、任意の振幅と初期位相とをA、φとしたときに、iを1,2,3,4,5として第i測定距離Dが式(c)を満たし、
前記分光演算部は、前記第1~第5の測定距離に対応した前記検出光の一の波長の光強度をI~Iとして、式(d)により前記反射光の当該一の波長の光強度Isigを算出することを特徴とする請求項1または2に記載の近接場分光装置。
【数6】
JP2017058281A_000008t.gif

【請求項5】
前記光源部は、測定光として白色光を出力することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の近接場分光装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場分光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光の回折限界を超える空間分解能で試料をイメージングできる近接場光学顕微鏡が知られている。近接場光学顕微鏡は、プローブの先端に局在する近接場光を試料に照射し、その近接場光試料の表面での散乱ないし反射を利用して試料の表面状態を検出している。
【0003】
また、近接場光学顕微鏡に分光機器等を接続することにより、試料表面の分光特性を検出するようにした近接場分光装置が知られている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1の近接場分光装置では、光源としてレーザを用い単一波長のレーザ光をプローブに導入して近接場光を発生させ、試料の表面で散乱や反射された近接場光を採取して、分光する構成になっている。
【0004】
また、特許文献1では、プローブの先端と試料の表面に近接させて近接場光の散乱光ないし反射光を採取する位置と、プローブの先端の近接場光の領域から試料の表面が十分に離れた位置とのそれぞれでプローブから得られる光の強度を測定し、それら光の強度の差分を取得している。これにより、試料の表面で散乱ないし反射した近接場光以外にプローブに入り込んだ光(バックグランド成分)を除去している。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2012-42486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、分光測定では、その反射光の成分から試料の表面の特性、例えば電磁気的な特性や状態を知ることができ有用である。しかしながら、これまでの近接場分光装置では、分光測定手法を十分に取り込んでいるとはいえなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、分光測定に有用な分光情報を精度良く得ることができる近接場分光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の近接場分光装置は、複数の波長成分を含む測定光を出力する光源部と、測定光の導入により先端に近接場光を発生させ、先端を試料の表面の測定点に近接することにより近接場光が測定点で反射された反射光を採取するプローブと、プローブの先端と試料との相対的な移動によって反射光を採取する測定点を移動する走査部と、プローブの先端と反射光を採取する測定点との間の相対距離を増減し、相対距離の増減を単振動とみなして、相対距離を所定角度ずつ位相がずれた3以上の測定距離に順次に設定する測定距離設定部と、測定距離ごとにプローブからの反射光を含む検出光を分光し、検出光の各波長の光強度を出力する分光検出部と、各々の測定点の各波長について、測定距離ごとに得られる検出光の同じ波長の光強度に基づいて、反射光の当該波長の光強度をそれぞれ算出する分光演算部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数波長成分を含む測定光によってプローブの先端に近接場光を発生させ、この近接場光が測定点で反射された反射光を分光しているので、微細な構造における測定点の特性を各波長で知ることができ、しかも同時に各波長について測定するので効率的な分光測定ができる。さらに、位相をずらした各測定距離で測定して得られる分光された検出光の光強度を用いて、波長ごとの反射光の光強度を算出するから、高い精度の光強度を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を実施した近接場分光装置の構成を示す概略図である。
【図2】位相をずらした各測定距離の関係を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1において、本実施形態に係る近接場分光装置10は、プローブ11により試料12の表面の測定点に近接場光を照射し、その測定点で近接場光が反射された反射光をプローブ11で採取し、反射光を分光検出する構成である。プローブ11で反射光を採取するため、試料12は、透明なものでも、不透明なものであってもよく、近接場分光装置10は、例えば不透明な半導体素子などを試料12とする場合にも有用である。

【0012】
近接場分光装置10には、プローブヘッド14と、XYZステージ(以下、単にステージという)15とが設けられている。ステージ15は、プローブヘッド14の下方に配置されている。なお、この実施形態では、ステージ15の平坦なステージ面に平行な平面内で互い直交する方向をX方向、Y方向とし、これらX方向とY方向とに直交する方向をZ方向として説明する。

【0013】
プローブヘッド14は、基部14aと基部14aの下面に設けられたプローブ11を有している。プローブ11は、光ファイバーを先鋭化させて、その先端に数十nm~数百nmの微小開口が設けられた開口型近接場プローブである。このプローブ11は、その内部に測定光が導入されることによって、先端に近接場光を発生する。また、プローブ11は、その先端を試料12の測定点に近接した際に近接場光が試料12の表面で反射した反射光を先端で採取する。

【0014】
ステージ15は、X、Y、Zの各方向に移動自在であり、その上面に測定対象となる試料12が載せられる。このステージ15は、ステージコントローラ16に制御されて、試料12をX、Y、Zの各方向に移動する。ステージ15とステージコントローラ16とによって走査部が構成されており、ステージ15の移動によって、プローブ11の先端に対して試料12が移動することで、反射光を採取する測定点が移動する。ステージ15は、移動した位置のXYZの各座標をXYZ位置情報として出力する。なお、ステージ15に代えてプローブ11を移動させて、あるいはステージ15とプローブ11との両方を移動させて走査を行ってもよい。

【0015】
走査を行う場合には、プローブ11は、加振器(図示省略)によりその共振周波数で微小振動される。振幅検出部17は、プローブ11の先端部に光を照射し、プローブ11の振幅に応じて変調された反射光を受光し、プローブ11の先端の振幅を検出する。振幅検出部17で検出された振幅がコンピュータ18を介してステージコントローラ16に送られ、ステージ15の移動が位置制御部39によってフィードバック制御される。走査の際には、プローブ11の先端の振幅が小さな一定値(以下、特定振幅という)を保つようにステージ15を移動する。これにより、試料12の測定点の表面とプローブ11との距離を一定に保って試料12を走査する。なお、この走査は、一般的な走査型の近接場光学顕微鏡と同じである。また、反射光の測定を行うときには、フィードバック制御は停止される。

【0016】
この実施形態では、1箇所の測定点に対する反射光の測定は、例えば複数回の測定プロセスからなり、各測定プロセスは、互いに異なる測定距離で反射光を測定する複数回の位相ステップ測定からなる。測定距離は、反射光を測定する際のプローブ11の先端と反射光を採取する測定点との間の相対距離である。1箇所の測定点について測定プロセスを1回だけを行ってよいが、複数回実行することで測定結果のノイズ軽減を図ることができる。また、複数回の位相ステップ測定を行うことで、バックグランド成分の除去を精度良く行う。この実施形態では、1箇所の測定点につき4回の測定プロセスを行い、1回の測定プロセスでは第1~第4位相ステップ測定を行う。なお、後述するように、位相ステップ測定は、3回以上であればよい。

【0017】
上記ステージ15とステージコントローラ16とは、反射光を測定する際の測定距離設定部としても機能する。ステージ15は、ステージコントローラ16の制御の下で、Z方向に移動することによって相対距離を増減し、相対距離を第1~第4位相ステップ測定に対応した第1~第4測定距離D1~D4に設定する。なお、ステージ15に代えてプローブ11をZ方向に移動することによって、あるいはプローブ11とステージ15との両方をZ方向に相反する方向に移動することによって、相対距離を所定の第1~第4測定距離D1~D4に設定してもよい。

【0018】
光源部21は、白色光を測定光として出力する。光源部21からの測定光は、ビームスプリッタ22を介して、プローブ11に入射する。前述のように、この測定光によってプローブ11の先端に近接場光を発生させる。白色光を出力する光源部21としては、ファイバー出力型キセノンランプなどが適している。なお、この例では、波長が広く分布する白色光を測定光に用いているが、複数の波長成分を含む測定光としては、波長が離散的に分布する光であってもよい。また、測定光の波長成分は可視域でなくてもよい。

【0019】
プローブ11で採取された反射光を含む検出光は、ビームスプリッタ22を透過し、ミラー23で反射されて分光検出部24に入射する。検出光には、反射光の他に、測定光がプローブ11の内部で反射したバックグランド成分が含まれている。

【0020】
分光検出部24は、分光器24a、検出器24b等で構成されている。分光器24aは、検出光を波長毎に分光する。検出器24bは、例えばCCD型のラインセンサで構成されており、複数(この例では1024個)の受光素子が分光器24aによる分光方向にライン状に配列されている。これにより、分光された検出光は、波長毎に対応する検出器24bの受光素子で受光され、光電信号に光電変換される。光電信号は、A/Dコンバータ(図示せず)によってデジタル変換され、波長毎の分光データとして分光検出部24からコンピュータ18に送られる。検出器24bによる光電変換は、1回の位相ステップ測定ごとに行われる。したがって、分光データは、それぞれ1回の位相ステップ測定における検出光の対応する波長の光強度に応じた値となる。なお、厳密には波長は、受光素子の幅に応じた波長幅を有する。

【0021】
コンピュータ18は、CPU、メモリ、ハードディスク、入出力用のインタフェース回路、プログラマブルロジックデバイス(FPGA)等で構成されており、分光測定用のプログラムを実行することによって、測定制御部31、位置制御部39、位置情報記憶部32、分光演算部33、スペクトル情報記憶部34、表示制御部36として機能する。また、コンピュータ18には、モニタ37、操作部38が接続されている。

【0022】
測定制御部31は、近接場分光装置10の各部を統括的に制御する。位置情報記憶部32は、試料12の各測定点についてのXYZ位置情報をステージ15から取得して記憶する。XYZ位置情報は、試料12の測定点とプローブ11の先端との相対距離が一定に保たれているときのXYZ位置情報をステージ15から取得する。位置情報記憶部32に記憶される各測定点についてのXYZ位置情報から試料12の表面の形状を知ることができる。

【0023】
分光演算部33には、分光検出部24から各波長の分光データが1回の位相ステップ測定ごとに入力される。この分光演算部33は、分光データから各測定点についての波長ごとの分光測定データを算出する。分光測定データは、反射光の対応する波長の光強度を示すデータである。分光測定データを算出するために、分光演算部33は、感度補正処理と、反射光成分抽出処理を行う。感度補正処理は、検出器24bの分光感度を補正するための処理である。分光演算部33は、感度補正処理として、例えば予め測定した検出器24bの分光感度に基づいた波長ごとの係数を分光データに乗じる。

【0024】
反射光成分抽出処理は、バックグランド成分を除去して、反射光の光強度を示す分光測定データを各波長について算出する処理である。反射光成分抽出処理には、感度補正処理を施した分光データを用いる。反射光成分抽出処理では、分光演算部33は、詳細を後述するように、各波長について、同じ測定プロセス内の第1~第4位相ステップ測定で得られる同じ波長の各分光データに基づいて、当該波長の分光測定データを算出する。

【0025】
この実施形態では、上述のように、測定点ごとに複数回の測定プロセスを実行しており、分光演算部33は、1カ所の測定点についての複数の測定プロセスのそれぞれについて反射光成分抽出処理を行って得られる分光測定データを同じ波長同士で積算したデータを最終的な分光測定データとしている。なお、複数の分光測定データの平均を最終的な分光測定データとしてもよい。

【0026】
上記分光演算部33によって、各測定点のそれぞれについて波長ごとの分光測定データが算出され、測定点ごとの各波長の分光測定データは、測定点のスペクトル情報としてスペクトル情報記憶部34に書き込まれる。スペクトル情報記憶部34に記憶される各スペクトル情報は、位置情報記憶部32に記憶された対応する測定点のXYZ位置情報に関連づけられる。これにより、各測定点がスペクトル情報に対応づけられる。

【0027】
表示制御部36は、位置情報記憶部32に記憶されているXYZ位置情報に基づいて、試料12の表面の形状をモニタ37に例えば2次元形状像として表示する、また、表示制御部36は、モニタ37に表示される2次元形状像の各測定点に対応する画素に、対応するスペクトル情報に基づいた表示色を付けて表示する。これにより、試料12の表面の形状とともに、近接場光に対する表面の特性の相違を視覚的に表示する。

【0028】
図2に示すように、第1~第4位相ステップ測定では、Z方向において、プローブ11の先端と試料12の測定点との間の相対距離を第1~第4測定距離D1~D4にして測定を行う。測定プロセスにおいて相対距離を変化させる場合、その変化を単振動とみなし、位相をπ/2(=90°)ずつずらした相対距離を第1~第4測定距離D1~D4に設定している。すなわち、Nを1回の測定プロセスにおける位相ステップ測定の回数(この例では、N=4)としたとき、次式(1)を満たすように、第i測定距離Di(i=1,2・・・N)が決められる。なお、実際に単振動するように相対距離を変化させてもよい。

【0029】
【数1】
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【0030】
上記式(1)中で、測定距離の変化を単振動とみなしたときの振幅を示す値Aは、適宜決めることができるが、各測定距離は、プローブ11の先端の近接場光の領域から測定点が外れないように決める必要がある。具体的には、測定距離は、最大で100nm程度である。また、ωは、単振動の角振動数である。また、φは、初期位相であり、この初期位相φは任意の角度を取り得る。

【0031】
この実施形態では、第1位相ステップ測定の第1測定距離D1は、プローブ11の先端が特定振幅となる相対距離に設定される。また、この第1位相ステップ測定の際のステージ15のZ方向の位置を基準位置として、この基準位置からの第2~第4位相ステップ測定を行うステージ15のZ方向の位置までの移動量ΔD2~ΔD4を予め決めておくことによって、第1測定距離D1から位相をπ/2ずつずらした第2~第4測定距離D2~D4に設定されるようにしている。また、第1~第4測定距離D1~D4のうち第1測定距離D1を最小として、プローブ11と試料12とが接触しないようにしている。

【0032】
なお、この実施形態では、第1~第4位相ステップ測定をその順番で行うため、測定距離は大きくなった後に小さくなるが、測定距離が大きくなる順番で測定を行ってもよい。また、式(1)を満たしているのであれば、必ずしもプローブ11の先端が特定振幅となる相対距離が測定距離として設定されていなくてもよい。

【0033】
測定距離を変えて測定した場合、バックグランド成分は測定距離によらず一定になるが、プローブ11で採取される反射光は測定距離の変化に応じて増減する。このため、注目した任意の波長(以下、注目波長と称す)について、本来測定しようとしている測定点から採取される反射光の注目波長の光強度をIsig、バックグランド成分の注目波長の光強度をIbgとしたときに、第i位相ステップ測定で得られる検出光の注目波長の光強度I(i=1,2・・・N)は、次の式(2)のように表すことができる。
【数2】
JP2017058281A_000004t.gif

【0034】
上記式(2)における未知数は、光強度Isigと、光強度Ibgと、初期位相φであるから、測定距離の異なる少なくとも3回(N≧3)の位相ステップ測定を行うことにより、初期位相φに関わらず、注目波長について、バックグランド成分の光強度Ibgを精度良く除いた反射光の光強度Isigを算出することが可能である。すなわち、バックグランド成分の光強度Ibgはもちろんとして、初期位相φを未知数のままとしても光強度Isigを算出することが可能である。

【0035】
この実施形態においては、第1~第4位相ステップ測定の測定で得られ、分光データに示される検出光の注目波長の光強度I~Iは、次の式(3)~式(6)のようになり、分光測定データとしての反射光の注目波長の光強度Isigは、式(7)によって算出することができる。分光演算33は、反射光成分抽出処理では、この式(7)により分光測定データを算出する。

【0036】
【数3】
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【0037】
次に上記構成の作用について説明する。まず、加振器によってプローブ11が微小振動した状態にされる。この後、ステージ15をZ方向(下方)に移動して、プローブ11の先端を試料12の表面から離した状態にしてから、ステージ15をX方向、Y方向に移動させ、プローブ11の先端の直下に試料12の走査開始点(測定点)を位置させる。続いて、ステージ15をZ方向(上方)に移動しながら、プローブ11の先端の振幅を監視し、その振幅が特定振幅となった時点でステージ15の上方への移動を停止する。このようにして、一定な相対距離にしてプローブ11の先端に試料12の測定点を近接させる。

【0038】
上記のようにプローブ11の先端が測定点に近接した状態でのステージ15のXYZ座標が1番目の測定点のXYZ位置情報としてステージ15からコンピュータ18に送られ、そのXYZ位置情報が位置情報記憶部32に書き込まれる。

【0039】
次に、位置制御部39によるプローブ11のフィードバック制御が停止される。この後、1番目の測定点における反射光の測定が開始される。1回目の測定プロセスが開始され、上記のようにXYZ位置情報を取得したときの相対距離を第1測定距離D1として、第1位相ステップ測定が行われる。なお、このときのステージ15のZ方向の位置が基準位置に設定される。

【0040】
光源部21からの白色の測定光がビームスプリッタ22を介して、プローブ11に入射されており、プローブ11の先端に近接場光が発生している。プローブ11の先端が測定点に上記のように近接した状態になっているため、測定点で近接場光の反射が生じる。近接場光は、測定光が白色光であるから、連続的に波長が分布している。そして、測定点となっている試料12の表面の特性に応じて、近接場光の一部波長が吸収されたり、散乱されたり、あるいは特定の波長の反射が強められたり、弱められたりして、近接場光の反射が生じる。このような近接場光の反射による反射光がプローブ11の先端からその内部に採取される。採取された反射光を含む検出光がプローブ11の内部、ビームスプリッタ22、ミラー23を介して分光検出部24の分光器24aに入射する。

【0041】
分光器24aに入射した検出光は、その分光器24aで分光されて検出器24bに入射する。これにより、検出光は、検出器24bで波長ごとの光電信号に光電変換され、さらにA/Dコンバータで分光データにデジタル変換される。このようにして得られる第1位相ステップ測定の各分光データが分光検出部24から分光演算部33に送られる。分光演算部33は、分光データが入力されると、それら分光データに分光感度補正処理を施し、その分光データをデータ保持部(図示省略)に書き込んで保持する。

【0042】
上記のようにして、第1位相ステップ測定が完了すると、第2位相ステップ測定のために、ステージ15がプローブ11の先端から離れる方向に基準位置から移動量ΔD2だけ移動する。これにより相対距離は、第1測定距離D1に対して位相がπ/2ずれた第2測定距離D2となる。

【0043】
ステージ15の移動完了後、第2位相ステップ測定が行われる。第1位相ステップ測定の場合と同様に、測定点で近接場光が反射した反射光がプローブ11の先端から採取されて、その反射光を含む検出光が分光検出部24で波長ごとの分光データにデジタル変換される。第2位相ステップ測定で得られる各分光データは、分光演算部33によって分光感度補正処理が施されてからデータ保持部に保持される。

【0044】
第2位相ステップ測定が完了すると、第3位相ステップ測定のためにステージ15がZ方向に移動する。図2に示す例では、第3測定距離D3は第2測定距離D2よりも大きいから、ステージ15は、第2位相ステップ測定の位置からさらにプローブ11の先端から離れる方向に移動する。ステージ15の基準位置からの移動量が移動量ΔD3となった位置でステージ15が停止される。これにより、相対距離は、第2測定距離D2に対して位相がπ/2ずれた第3測定距離D3となる。この後、第1、第2位相ステップ測定の場合と同様に、第3位相ステップ測定を行って波長ごとの分光データを得る。そして、この第3位相ステップ測定で得られた各分光データは、分光演算部33によって分光感度補正処理が施されてからデータ保持部に保持される。

【0045】
第3位相ステップ測定が完了すると、第4位相ステップ測定のためにステージ15がZ方向に移動する。図2に示す例では、第4測定距離D4は第3測定距離D3よりも小さいから、ステージ15は、第3位相ステップ測定の位置からプローブ11の先端に近づく方向に移動し、基準位置からの移動量が移動量ΔD3となった位置で停止される。これにより、相対距離は、第3測定距離D3に対して位相がπ/2ずれた第4測定距離D4となる。この後、第1~3位相ステップ測定の場合と同様に、第4位相ステップ測定を行って波長ごとの分光データを得る。そして、この第4測定で得られた各分光データは、分光演算部33によって分光感度補正処理が施されてからデータ保持部に保持される。

【0046】
上記のようにして、1回目の測定プロセスが完了すると、分光演算部33は、第1~第4位相ステップ測定で得られた分光データを波長ごとに取り出して、これら分光データを用いて分光測定データを波長ごとに算出する。なお、1つの測定点についての複数回の測定プロセスが完了してから、その測定点に対する分光測定データを算出してもよく、全測定点についての測定が完了してから、各測定点の分光測定データを算出してもよい。

【0047】
まず、分光演算部33によって、第1~第4位相ステップ測定で得られた1つ目の波長の各分光データがデータ保持部から読み出される。分光演算部33は、第1位相ステップ測定で得られた分光データをI、第2位相ステップ測定で得られた分光データをI、第3位相ステップ測定で得られた分光データをI、第4位相ステップ測定で得られた分光データをIとして、これらを式(7)に適用して、1つ目の波長についての分光測定データ(Isig)を算出する。

【0048】
2つ目の波長についても、第1~第4位相ステップ測定で得られた分光データを取り出し、これらを式(7)に同様に適用して、分光測定データを算出する。3つ目以降の波長についても同様にして第1~第4位相ステップ測定で得られた分光データから分光測定データを算出する。算出された各波長の分光測定データは、データ保持部に保持される。

【0049】
各分光測定データの算出後、2回目の測定プロセスを行う。2回目の測定プロセスでは、まずステージ15がZ方向に移動されて、先の第1位相ステップ測定を行った位置で停止される。すなわち、相対距離が第1測定距離D1となる。この後、1回目の測定プロセスと同じ手順で第1~第4位相ステップ測定を行う。上記と同様な手順で、2回目の測定プロセスで得られた分光データを用いて、波長ごとの分光測定データが分光演算部33で算出される。それら分光測定データをデータ保持部に保持した後、同様にして、3回目、4回目の測定プロセスを順次行う。

【0050】
4回目の測定プロセスが終了すると、データ保持部には1番目の測定点から得られる4個の分光測定データが各波長について保持されている。分光演算部33は、4個の分光測定データを波長ごとにデータ保持部から読み出し、波長ごとに4個の分光測定データを積算し、その積算値を最終的な分光測定データとする。このようにして、分光演算部33は、各波長の最終的な分光測定データをそれぞれ算出し、各波長の分光測定データのセットを1番目の測定点のスペクトル情報として、1番目の測定点のXYZ位置情報に対応づけてスペクトル情報記憶部34に書き込む。

【0051】
上記のようにして、1番目の測定点のスペクトル情報をスペクトル情報記憶部34に書き込んだ後、2番目の測定点の測定を行う。まず、ステージ15の移動によって、プローブ11の先端の下方に試料12の2番目の測定点を位置させる。この後に、プローブ11の先端が特定振幅となる位置にまでステージ15をZ方向に移動し、プローブ11の先端と2番目の測定点とを近接させる。そして、このときのステージ15のXYZ座標を2番目の測定点のXYZ位置情報として位置情報記憶部32に書き込む。

【0052】
次に、位置制御部39によるプローブ11のフィードバック制御を停止させてから、2番目の測定点に対する1回目~4回目の測定プロセスを1番目の測定点の場合と同様に行い、波長ごとの分光測定データ(積算値)を算出する。そして、算出された各波長の分光測定データのセットを2番目の測定点のスペクトル情報として、2番目の測定点のXYZ位置情報に対応づけてスペクトル情報記憶部34に書き込む。以降同様に、走査によって測定点を変えながら、各測定点のXYZ位置情報とスペクトル情報とを得て、位置情報記憶部32、スペクトル情報記憶部34に書き込む。

【0053】
全ての測定点についての測定の終了後、例えば、操作部38を操作して、測定結果の表示を指示すると、表示制御部36によって、位置情報記憶部32から各測定点のXYZ位置情報が読み出され、各XYZ位置情報に基づいてXY平面に試料12の形状を投影した2次元形状像が作成され、これがモニタ37に表示される。この2次元形状像を作成する際に、表示制御部36は、2次元形状像の各画素について、対応する測定点のスペクトル情報をスペクトル情報記憶部34から順次に読み出して、スペクトル情報に基づいて画素の表示色を決める。これにより、試料12は、各測定点が表面の分光特性に応じた表示色で示される2次元形状像が表示され、試料12の各測定点の分光特性を知ることができる。なお、分光測定データの表示の手法は、これに限定されるものではない。例えば、特定の波長や波長域を指定して表示してもよい。また、特定の測定点の分光スペクトルを表示してもよい。

【0054】
上記のように測定光として白色光を用いているから、微細な構造における分光吸収特性などの分光特性を広い波長域で知ることができ、しかも広い波長域での各波長の測定を同時に行うので効率的に測定される。また、バックグランド成分に対してプローブ11で採取される反射光はかなり微弱であるが、上記のように、第1~第4位相ステップ測定によって位相をずらした各測定距離で測定し、それぞれ得られる分光データを用いて反射光の各波長の光強度である分光測定データを算出するから、バックグランド成分が精度良く除去されており、各測定点について精度の高いスペクトル情報を得られる。

【0055】
上記のように構成される近接場分光装置10を用いて検証を行った。この検証では、金属薄膜に穴を形成した試料12としてのサンプルを作製して測定した。穴のXY方向のサイズ、深さは、700nmX90nm、20nmであった。検証例として、上記実施形態のように、1カ所について4回の測定プロセスと各測定プロセスについて第1~第5位相ステップ測定を行い、式(8)~(13)を用いて分光測定データを生成した。得られた分光測定データのうち、597nm~602nmの波長域の分光測定データを用いて、その波長域における反射光の光強度を示す二次元形状像を生成した。生成された二次元形状像では、サンプルの穴とそれ以外の金属薄膜の表面とが十分に識別できるものであった。

【0056】
【数4】
JP2017058281A_000006t.gif

【0057】
また、比較例として、同じサンプルに対して、近接場分光装置10で測定距離を変えずに4回測定し、分光測定データを生成した。得られた分光測定データのうち上記と同じ波長域の分光測定データを用いて、その波長域における反射光の光強度を示す二次元形状像を生成した。生成された二次元形状像では、サンプルの穴が相対的に不明瞭となるとともに、金属薄膜の表面部分に不要なコントラストが表れた。

【0058】
さらに、上記のように生成した分光測定データに示される反射光の光強度とバックグランドとの比の波長に対する変化を調べたところ、検証例では、波長の変化に対する光強度の比の変化が確認できたが、比較例では、光強度に比が小さく、波長の変化に対する光強度の比の変化の判別が困難であった。
【符号の説明】
【0059】
10 近接場分光装置
11 プローブ
12 試料
15 ステージ
16 ステージコントローラ
21 光源部
24 分光検出部
33 分光演算部
図面
【図1】
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【図2】
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