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明細書 :GLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤。

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-201945 (P2017-201945A)
公開日 平成29年11月16日(2017.11.16)
発明の名称または考案の名称 GLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤。
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  31/7105      (2006.01)
A61K  31/7088      (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61P  25/18        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  25/22        (2006.01)
A61P  25/08        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P   3/10        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
G01N 33/50 P
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
A61K 37/02
A61K 45/00
A61K 31/7105
A61K 31/7088
A61K 39/395 D
A61K 39/395 N
A61K 31/713
A61P 43/00 111
A61P 25/18
A61P 25/00
A61P 25/22
A61P 25/08
A61P 35/00
A61P 3/10
A61K 48/00
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2016-096027 (P2016-096027)
出願日 平成28年5月12日(2016.5.12)
発明者または考案者 【氏名】山本 靖彦
【氏名】棟居 聖一
【氏名】原島 愛
【氏名】山本 博
【氏名】伏田 奈津美
【氏名】山村 優果
【氏名】高山 秀雄
【氏名】横山 理菜
【氏名】内潟 安子
【氏名】三浦 順之助
出願人 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
4C084
4C085
4C086
Fターム 2G045AA25
2G045DA12
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
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4B063QQ52
4B063QS25
4B063QX01
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA50
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA06
4C084ZB26
4C084ZC19
4C084ZC20
4C084ZC35
4C085AA13
4C085AA14
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
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4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZB26
4C086ZC19
4C086ZC20
4C086ZC35
要約 【課題】GLO1の発現の詳細を解析して、GLO1の発現が関与する疾患の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤を提供すること。
【解決手段】GLO1プロモーター領域内のチミン反復配列内に存在する8種類の遺伝子多型が存在すること、チミン数15個の遺伝子多型がGLO1の転写活性の亢進に関与すること、さらには該遺伝子多型割合がGLO1の発現が関与する疾患と相関することを新規に見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者由来生体試料中のGLO1プロモーター配列のチミン反復配列のチミン数15個の割合を検出することを特徴とするGLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法。

【請求項2】
前記割合を検出することは、コントロールと比較して高いことを指標とする請求項1に記載の検出方法。

【請求項3】
前記GLO1の発現が関与する疾患は、糖尿病性合併症、糖尿病、統合失調症、がん、神経変性疾患、不安障害又はてんかんである請求項1又は2に記載の検出方法。

【請求項4】
以下のいずれか1以上を有効成分とするGLO1酵素活性向上剤。
(1)H1cタンパク質
(2)H1eタンパク質
(3)H1c遺伝子
(4)H1e遺伝子
(5)アセチル化促進化合物
(6)チミン15形成誘導化合物
(7)GLO1プロモーター配列中に存在する配列を標的化するためのガイドRNA若しくは該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して前記GLO1プロモーター配列中に存在する配列を部位特異的に切断する酵素及び前記切断の修復中に標的部位において染色体配列と置換され、若しくは染色体配列中に挿入され得る15個のチミン反復配列を含むポリヌクレオチド

【請求項5】
以下のいずれか1以上を有効成分とするGLO1酵素活性低減剤。
(1)抗H1c抗体
(2)抗H1e抗体
(3)H1c発現を抑制するsiRNA又はshRNA
(4)H1e発現を抑制するsiRNA又はshRNA
(5)脱アセチル化合物
(6)チミン15形成阻害化合物
(7)15個のチミン反復配列を標的化するためのガイドRNA又は該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して15個のチミン反復配列を部位特異的に切断する酵素、並びに、前記切断の修復中に標的部位において染色体配列と置換され、又は染色体配列中に挿入され得る、13個、14個、16個、17個、18個、19個若しくは20個のチミン反復配列を含むポリヌクレオチド

【請求項6】
H1c又はH1eが15個のチミン反復配列に結合することを促進させる試験化合物を選択することを特徴とするGLO1酵素活性向上剤のスクリーニング方法。

【請求項7】
H1c又はH1eが15個のチミン反復配列に結合することを阻害する試験化合物を選択することを特徴とするGLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、GLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤、GLO1酵素活性低減剤、並びにGLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(生体内反応)
生体内に存在するすべてのタンパク質は、非酵素的に糖化反応を受ける可能性がある。糖化反応は、グルコース等の還元糖のカルボニル基とタンパク質のアミノ基が非酵素的に反応しシッフ塩基を形成し、その後アマドリ転位化合物に至る前期反応と、酸化・脱水・縮合・転位・架橋形成を特徴とする後期反応からなる。最終的には後期糖化反応生成物(advanced glycation end-products, AGE)の生成に至る。AGE形成に至る前駆体で反応性の高いα-ジカルボニル化合物メチルグリオキサール(MG)は、解糖系の中間産物であるグリセルアルデヒド-3-リン酸から非酵素的に産生される。MGは、それ自身が強力な細胞毒性を有していることでも知られ、ミトコンドリアの呼吸を選択的に抑制し、細胞にアポトーシスを誘導する作用もある。また、MGは、タンパク質のアルギニンやリジンと反応してargpyrimidineやNε-carboxyethyl-lysine(CML)などのAGEを形成する。これら形成したAGEは、AGE受容体(receptor for AGE, RAGE)に認識され細胞内シグナル伝達を引き起こし、炎症性サイトカイン、酸化ストレス、反応性酸素種ROS(reactive oxygen species)を産生し組織障害を誘導する。
【0003】
(GLO1)
MGの代謝系としては2つの酵素glyoxalase1(GLO1)、glyoxalase2(GLO2)からなるglyoxalase systemが知られている。GLO1はMGをS-D-lactoylglutathioneに代謝し、GLO2はS-D-lactoylglutathioneをD-lactateに代謝する。GLO1は、バクテリア、原虫そしてヒトに至るまで、進化の過程でも保存されており生命体にとってGLO1の存在意義は重要である。
【0004】
(各疾患におけるGLO1の発現)
GLO1の発現は、糖尿病状態においては低下しており、これにより体内でのAGEの蓄積は増加し、糖尿病合併症が増悪すると考えられている(参照:非特許文献1、J Clin Invest 101, 1998)。また、統合失調症患者の一部ではGLO1タンパク質が欠失していることが報告されている(参照:非特許文献2、Arch Gen Psychiatry 67, 2010)。
一方、GLO1は大腸癌、肺癌、前立腺癌や抗癌剤に耐性を示す培養がん細胞株などの多くのがんで共通して高発現していることが報告されている(参照:非特許文献3、Clin Cancer Res 7, 2001)。
【0005】
(先行特許文献)
本発明の先行特許文献として、以下を例示することができる。
特許文献1は、「38種類の遺伝子から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子の塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸及び/又は該遺伝子のいずれかにコードされるタンパク質と結合する特異抗体若しくはその断片からなる、2型糖尿病診断剤」を開示している。
特許文献2は、「生体試料中の糖化最終産物受容体[例えば膜結合型(mRAGE)あるいは可溶型(sRAGE)などの量を測定し、得られる測定結果と統合失調症とを関連づけることを特徴とする統合失調症の検出方法」を開示している。
しかしながら、特許文献1及び2は、「本発明のGLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤」を開示又は示唆していない。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】J Clin Invest 101: 1142-7 (1998)
【非特許文献2】Arch Gen Psychiatry 67: 589-97 (2010)
【非特許文献3】Clin Cancer Res 7: 2513-8 (2001)
【0007】

【特許文献1】WO2011/142460
【特許文献2】特表2009-535381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
GLO1のプロモーター領域にはAREs(antioxidant-response element)配列が3カ所(翻訳開始点より上流-10 bp~-19 bp、 -261 bp~-252 bp、-1060 bp~-1051 bp)存在しており、このAREsに結合する転写因子としてストレスにより活性化されるNrf2(nuclear factor-erythroid 2 p45 subunit-related factor 2)が報告されているが、転写発現調節機構の詳細については未だ明らかにされていない部分も多い。本発明では、GLO1の発現の詳細を解析して、GLO1の発現が関与する疾患の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究した結果、GLO1プロモーター領域内のチミン反復配列内に存在する8種類の遺伝子多型が存在すること、チミン数15個の遺伝子多型がGLO1の転写活性の亢進に関与すること、さらには該遺伝子多型割合がGLO1の発現が関与する疾患と相関することを新規に見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕被験者由来生体試料中のGLO1プロモーター配列のチミン反復配列のチミン数15個の割合を検出することを特徴とするGLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法。
〔2〕前記割合を検出することは、コントロールと比較して高いことを指標とする前記の〔1〕に記載の検出方法。
〔3〕前記GLO1の発現が関与する疾患は、糖尿病性合併症、糖尿病、統合失調症、がん、神経変性疾患、不安障害又はてんかんである前記の〔1〕又は〔2〕に記載の検出方法。
〔4〕以下のいずれか1以上を有効成分とするGLO1酵素活性向上剤。
(1)H1cタンパク質
(2)H1eタンパク質
(3)H1c遺伝子
(4)H1e遺伝子
(5)アセチル化促進化合物
(6)チミン15形成誘導化合物
(7)GLO1プロモーター配列中に存在する配列を標的化するためのガイドRNA若しくは該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して前記GLO1プロモーター配列中に存在する配列を部位特異的に切断する酵素及び前記切断の修復中に標的部位において染色体配列と置換され、若しくは染色体配列中に挿入され得る15個のチミン反復配列を含むポリヌクレオチド
〔5〕以下のいずれか1以上を有効成分とするGLO1酵素活性低減剤。
(1)抗H1c抗体
(2)抗H1e抗体
(3)H1c発現を抑制するsiRNA又はshRNA
(4)H1e発現を抑制するsiRNA又はshRNA
(5)脱アセチル化合物
(6)チミン15形成阻害化合物
(7)15個のチミン反復配列を標的化するためのガイドRNA又は該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して15個のチミン反復配列を部位特異的に切断する酵素、並びに、前記切断の修復中に標的部位において染色体配列と置換され、又は染色体配列中に挿入され得る、13個、14個、16個、17個、18個、19個若しくは20個のチミン反復配列を含むポリヌクレオチド
〔6〕H1c又はH1eが15個のチミン反復配列に結合することを促進させる試験化合物を選択することを特徴とするGLO1酵素活性向上剤のスクリーニング方法。
〔7〕H1c又はH1eが15個のチミン反復配列に結合することを阻害する試験化合物を選択することを特徴とするGLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、新規なGLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤、GLO1酵素活性低減剤、並びにGLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】GLO1プロモーターのチミンの反復配列の解析結果。
【図2】一つの個体中のGLO1プロモーターのチミンの反復配列の解析結果。
【図3】各個体でのGLO1プロモーターのチミンの反復配列の遺伝子多型の解析結果。
【図4】GLO1プロモーターのチミンの反復配列の検証結果。「T15:T16:T17=1:1:1」及び「T15:T16:T17=3:2:1」はプラスミドDNAを混合した割合値を示し、「T15:T16:T17=8:6:7」及び「T15:T16:T17=22:12:7」は結果値を示す。
【図5】6番染色体に存在するGLO1プロモーターに存在しているチミンの反復配列の遺伝子多型の解析結果。
【図6】チミン反復配列多型による転写活性の解析結果。
【図7】GLO1の転写活性におけるチミン反復配列の役割の解析結果。Aは「各遺伝子長の模式図」を示し、Bは「ルシフェラーゼ活性の測定結果」を示す。
【図8】チミン反復配列T15とGLO1酵素活性の相関の解析結果。
【図9】遺伝子多型T15が示す転写活性機構の解析結果。
【図10】H1c及びH1eが「遺伝子多型T15の示す転写活性亢進」への関与の解析結果。
【図11】GLO1遺伝子多型とヒストンのアセチル化及び脱アセチル化との関連の解析結果。
【図12】GLO1遺伝子多型と各ヒストンとの関連の解析結果。
【図13】GLO1遺伝子多型におけるH1c及びH1eの役割の解析結果。
【図14】遺伝子多型T15と疾患の関連性についての解析結果。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本発明の対象)
本発明の対象は、GLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法(以後、「本発明の検出方法」と称する場合がある)、GLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法に使用するマーカー(以後、「本発明のマーカー」と称する場合がある)、GLO1酵素活性向上剤、GLO1酵素活性低減剤、並びにGLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法に関する。

【0014】
(GLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法)
本発明の「GLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法」は、特に限定されないが、被験者由来生体試料中のGLO1プロモーター配列のチミン反復配列のチミン数15個の検出、より詳しくはチミン数15個の割合を検出できれば良い。

【0015】
(被験者由来生体試料)
本発明において、被験者とは、哺乳類全般(ヒト、ネコ、イヌ、ウマを含む)を含み、さらに、健常者、GLO1の発現が関与する疾患の患者、該疾患の疑いがある人、該疾患が将来発生する人も含む。
さらに、生体試料は、GLO1の遺伝子及び/又はタンパク質が含まれていれば特に限定されないが、血液、血液成分(血清、血漿、血球など)、唾液、尿、髄液、涙液、汗、毛髪、組織由来の成分、生検試料、iPS細胞、初代培養細胞を含む。

【0016】
(GLO1プロモーター配列のチミン反復配列)
本発明のGLO1プロモーター配列のチミン反復配列は、チミン(T)の連続配列を意味する。本発明者らは、下記実施例より、報告されているチミン反復配列を含め以下の8種類の遺伝子多型を見出している。
T13:13個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-276 bp~-264 bp}
T14:14個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-277 bp~-264 bp}
T15:15個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-278 bp~-264 bp}
T16:16個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-279 bp~-264 bp}
T17:17個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-280 bp~-264 bp}
T18:18個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-281 bp~-264 bp}
T19:19個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-282 bp~-264 bp}
T20:20個のチミンの連続配列{翻訳開始点より上流-283 bp~-264 bp}

【0017】
(GLO1の発現が関与する疾患)
本発明において、GLO1の発現が関与する疾患とは、GLO1の発現(酵素活性)が低下している又は過剰により引き起こされる疾患を意味する。
例えば、腎症(糖尿病性腎症)、腎不全、糖尿病性合併症{糖尿病慢性期合併症(糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症等)、糖尿病急性合併症(ケトン性昏睡、非ケトン性高浸透圧性昏睡、乳酸アシドーシス、低血糖性昏睡)}、糖尿病、統合失調症、がん(大腸癌、肺癌、前立腺癌等)、神経変性疾患(筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、多系統萎縮症等)、不安障害、てんかんを挙げられる。

【0018】
(チミン反復配列の検出方法)
チミン反復配列の検出方法は、自体公知の方法を使用することができる。
例えば、被験者由来生体試料に存在するチミン反復配列の遺伝子を直接検出する方法、それら遺伝子の相補配列からなる遺伝子を生成させて間接的に検出する方法等が挙げられる。
具体的には、チミン反復配列が存在する領域(GLO1プロモーター領域)をPCR等で増幅し、該増幅物を制限酵素処理しベクターに導入してDNAシークエンシング法により、各チミン反復配列の割合を算出する方法(参照:実施例3)。チミン反復配列が存在する領域をPCR等で増幅し、該増幅物をSSCP法で検出して各チミン反復配列の割合を算出する方法。

【0019】
(指標)
本発明の「指標」とは、GLO1の発現が関与する疾患を有する患者とGLO1の発現が関与する疾患を有さない人(健常者)を区別するための被験者由来生体試料のチミン反復配列におけるT15の割合を意味する。
例えば、予め設定した「被験者由来生体試料のチミン反復配列におけるT15の割合」以上の場合には、GLO1の発現が関与する疾患が今後発症する、現在発症している又は進行している(可能性があること)を判定できる。
Cut off(カットオフ)値の設定方法としては、GLO1の発現が関与する疾患を有さない人(健常者)由来の生体試料中のT15と非T15(T15以外のチミン反復配列、例えば、T13、T14、T16、T17、T18、T19、T20のいずれか1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、又は7以上)の割合の平均値から算出する。通常、予め決定したcut off値の標準偏差の90%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは60%以上、最も好ましくは50%以上の場合には、GLO1の発現が関与する疾患を有すると判定できる。
また、別のcut off値の設定方法としては、GLO1の発現が関与する疾患歴のない被験者において、被験者由来生体試料の各チミン反復配列を測定して得られた値に基づき、市販の統計解析ソフトを使用してROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成し、最適な感度及び特異度を求める。例えば、一次スクリーニング等の目的では感度が高い方を優先し、精査目的では特異度が高くなるようなカットオフ値を設定することが可能である。
加えて、下記実施例14の結果により、以下のようにcut off値を設定することができる。
(1)T15/(T15+非T15)×100が20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上又は50%以上の場合には、GLO1の発現が関与する疾患が存在する(さらには、GLO1の発現が関与する疾患が今後発症する、現在発症している又は進行している)と判定する。
(2)T15/(T15+非T15)×100が20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下の場合には、GLO1の発現が関与する疾患が存在しないと判定する。
さらに、T15/(T15+非T15)×100の割合が高いことは、より疾患の進行度が高いことも意味する。例えば、腎症の患者において、T15/(T15+非T15)×100の数値が60%の患者は、T15/(T15+非T15)×100の数値が30%の患者と比較して、腎症が進行している可能性高い。

【0020】
(チミン反復配列中のチミン数15個を検出することができるプライマー)
本発明の検出方法に利用することができる本発明のGLO1プロモーター配列のチミン反復配列のチミン数を検出することができるプライマーは、例えば、forward配列はプロモーター配列の-1174~-1154を認識するように設計されており、reverse配列はプロモーター配列の+55~+79を認識するように設計されている。具体的には、以下のプライマーを対象とするが特に限定されない。
forward primer:TGCCCAACCTCATTTTGGTTA(配列番号7)
reverse primer:TACTGGGGTCCGCGTCGGAGCAGCA(配列番号8)

【0021】
(GLO1酵素活性向上剤)
本発明の「GLO1酵素活性向上剤」は、下記の実施例11の新たな知見「遺伝子多型T15にH1c又はH1eが結合することでH3の結合が促進され、さらに結合したH3がアセチル化されることにより転写が亢進(促進)されること」を基にした新規な機構(メカニズム)を基にした薬剤である。本発明のGLO1酵素活性向上剤は、有効成分として、少なくとも以下のいずれか1を含む。
(1)H1cタンパク質(配列番号1:http://www.uniprot.org/uniprot/P16403)
(2)H1eタンパク質(配列番号2:http://www.uniprot.org/uniprot/A3R0T8)
(3)H1c遺伝子(配列番号3:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sviewer/viewer.fcgi?noredirect=1&db=nuccore&val=NM_005319.3)
(4)H1e遺伝子(配列番号4:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/EF065555.1)
(5)アセチル化促進化合物
(6)チミン15形成誘導化合物
(7)GLO1プロモーター配列中に存在する配列を標的化するためのガイドRNA若しくは該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して前記GLO1プロモーター配列中に存在する配列を部位特異的に切断する酵素及び前記切断の修復中に標的部位において染色体配列と置換され、若しくは染色体配列中に挿入され得る15個のチミン反復配列を含むポリヌクレオチド
ここで、GLO1プロモーター配列中に存在する配列を標的化するためのガイドRNA若しくは該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して前記GLO1プロモーター配列中に存在する配列を部位特異的に切断する酵素は、CRISPR-Cas9システムにより、染色体中のGLO1プロモーター配列中の任意の配列{13個(T13)、14個(T14)、16個(T16)、17個(T17)、18個(T18)、19個(T19)若しくは20個(T20)のチミン反復配列}を切断し、該切断部位が修復される際に15個のチミン反復配列(T15配列)を含むポリヌクレオチドと染色体との間の相同組換えによりT15配列を置換又は挿入することで、GLO1プロモーター配列中のT13、T14、T16、T17、T18、T19及び/又はT20配列をT15配列に改変する。CRISPR-Cas9システムは、市販のキットを用いることができ、例えば、ORIGENE社のゲノム編集(Genome-editing)ノックアウトキットを用いることができる(参照:http://www.cosmobio.co.jp/product/detail/crispr-cas.asp?entry_id=14354、http://www.cosmobio.co.jp/product/detail/genome-editing-knockout-kit.asp?entry_id=13159)。
なお、本発明のGLO1酵素活性向上剤は、患者に投与することにより、GLO1酵素活性を向上させることができるので、GLO1酵素活性(発現)が低減している疾患(例、腎症(糖尿病性腎症)、腎不全、糖尿病、統合失調症、神経変性疾患に効果を有すると考えられる。すなわち、本発明のGLO1酵素活性向上剤は、GLO1の発現が関与する疾患治療剤とすることもできる。

【0022】
加えて、本発明のH1cタンパク質は、以下の態様も含む。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列の保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、又はアセチル化誘導体。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%(又は、92%、94%、96%、98%、99%)以上の相同性を有し、かつH1cタンパク質と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を持つアミノ酸配列。
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、100~10個、50~30個、40~20個、10~5個、5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつH1cタンパク質と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を持つアミノ酸配列。
同様に、本発明のH1eタンパク質は、以下の態様も含む。
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列の保護化誘導体、糖鎖修飾体、アシル化誘導体、又はアセチル化誘導体。
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%(又は、92%、94%、96%、98%、99%)以上の相同性を有し、かつH1eタンパク質と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を持つアミノ酸配列。
(3)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、100~10個、50~30個、40~20個、10~5個、5~1個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつH1eタンパク質と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を持つアミノ酸配列。

【0023】
さらに、本発明のH1c遺伝子は、以下の態様も含む。
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1~20(又は、1~15、1~10、1~7、1~5、1~3)個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号1に記載のアミノ酸配列と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と90%(又は、92%、94%、96%、98%、99%)以上の相同性を有し、かつ配列番号1に記載のアミノ酸配列と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号3に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号1に記載のアミノ酸配列と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(5)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50(又は、1~40、1~30、1~20、1~15、1~10、1~5、1~3)個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加している遺伝子。
同様に、本発明のH1e遺伝子は、以下の態様も含む。
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子。
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1~20(又は、1~15、1~10、1~7、1~5、1~3)個のアミノ酸が置換、欠損、挿入及び/又は付加しており、かつ配列番号2に記載のアミノ酸配列と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(3)配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%(又は、92%、94%、96%、98%、99%)以上の相同性を有し、かつ配列番号2に記載のアミノ酸配列と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(4)配列番号4に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号2に記載のアミノ酸配列と実質的同質の遺伝子多型T15に結合する作用を有するポリペプチドをコードする遺伝子。
(5)配列番号4に記載の塩基配列からなるDNAにおいて、1~50(又は、1~40、1~30、1~20、1~15、1~10、1~5、1~3)個の塩基配列が置換、欠損、挿入及び/又は付加している遺伝子。

【0024】
アセチル化促進化合物は、アセチル化促進剤に含まれている公知の化合物(例、トリコスタチンA)を例示することができる。
チミン15形成誘導化合物は、チミン15形成能を有し、GLO1の発現を向上させることができる化合物であれば特に限定されない。

【0025】
(GLO1酵素活性低減剤)
本発明の「GLO1酵素活性低減剤」は、下記の実施例11の新たな知見「遺伝子多型T15にH1c又はH1eが結合することができなければH3の結合が阻害され、さらにH3がアセチル化されないので転写が低減される」を基にした新規な機構(メカニズム)を基にした薬剤である。本発明のGLO1酵素活性低減剤は、有効成分として、少なくとも以下のいずれか1を含む。なお、本発明のGLO1酵素活性低減剤は、患者に投与することにより、GLO1酵素活性を低減させることができるので、GLO1酵素活性(発現)が過剰による疾患(例、がん)に効果を有すると考えられる。本発明のGLO1酵素活性低減剤は、GLO1の発現が関与する疾患治療剤とすることもできる。
(1)抗H1c抗体
(2)抗H1e抗体
(3)H1c発現を抑制するsiRNA又はshRNA
(4)H1e発現を抑制するsiRNA又はshRNA
(5)脱アセチル化合物
(6)チミン15形成阻害化合物
(7)15個のチミン反復配列を標的化するためのガイドRNA又は該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して15個のチミン反復配列を部位特異的に切断する酵素、並びに、前記切断の修復中に標的部位において染色体配列と置換され、又は染色体配列中に挿入され得る、13個、14個、16個、17個、18個、19個若しくは20個のチミン反復配列を含むポリヌクレオチド
ここで、15個のチミン反復配列を標的化するためのガイドRNA又は該ガイドRNAをコードするDNA、前記ガイドRNAと相互作用して15個のチミン反復配列を部位特異的に切断する酵素は、CRISPR-Cas9システムにより、染色体中のGLO1プロモーター配列中の15個のチミン反復配列(T15配列)を切断し、該切断部位が修復される際に13個(T13)、14個(T14)、16個(T16)、17個(T17)、18個(T18)、19個(T19)若しくは20個(T20)のチミン反復配列を含むポリヌクレオチドと染色体との間の相同組換えによりT13、T14、T16、T17、T18、T19若しくはT20配列を置換又は挿入することで、GLO1プロモーター配列中のT15配列を、T13、T14、T16、T17、T18、T19又はT20配列に改変する。CRISPR-Cas9システムは、市販のキットを用いることができ、例えば、ORIGENE社のゲノム編集(Genome-editing)ノックアウトキットを用いることができる。

【0026】
本発明の抗H1c抗体及び抗H1e抗体は、市販の抗体(例:abcam社製品、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製品)を利用することができるが、天然由来の抗体、自体公知の方法等により作製しても良い。

【0027】
脱アセチル化合物は、脱アセチル化剤に含まれている公知の化合物{例、ヒストン脱アセチル化酵素(ボリノスタット、JNJ-26481585、CUDC-101、PCI-24781、Droxinostat、Entinostat)}を例示することができる。
チミン15形成阻害化合物は、チミン15形成阻害能を有し、GLO1の発現を低減させることができる化合物であれば特に限定されない。

【0028】
H1c発現及びH1eを抑制するsiRNA(small interfering RNA)は、H1c又はH1eの発現をRNA干渉の手法により低下又は消失させる作用を有する。siRNAは標的遺伝子のmRNAを分解してその発現を抑制する短鎖二重鎖RNAである。
siRNAは、H1c又はH1e遺伝子の部分配列からなるRNA(センス鎖)と該RNAの塩基配列に相補的な塩基配列からなるRNA(アンチセンス鎖)とを、該遺伝子のmRNAの配列に基づいて設計し、化学合成法により合成し、得られた両RNAをアニーリングさせることで製造することができる。siRNAを構成するセンスRNA及びアンチセンスRNAは、各々15個から35個のヌクレオチドからなることが好ましい。また、各々3'末端に、オーバーハング配列と呼ばれるヌクレオチドを結合させることが好ましい。オーバーハング配列はRNAをヌクレアーゼから保護する作用を有する。

【0029】
H1c発現及びH1eを抑制するshRNAは、ヘアピン構造を有する短鎖二重鎖RNAであり、siRNAと同様、RNA干渉により遺伝子の発現を抑制する。
shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAとが例えばオリゴヌクレオチド等により連結され、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分が二重鎖を形成するため、ヘアピン様構造を有する。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAに加え、これら2つのRNAを連結し且つループ構造を形成するようなオリゴヌクレオチドを含むRNAを、H1c又はH1eのmRNAの塩基配列に基づいて設計して製造できる。好ましくは、センスRNAの3'末端とループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの5'末端とが結合し、更にループ構造を形成するオリゴヌクレオチドの3'末端とアンチセンスRNAの5'末端とが結合したオリゴヌクレオチドである。ループ構造を形成するオリゴヌクレオチドとは、センスRNAとアンチセンスRNAの間に存在して両RNAを連結でき、それ自体がループ構造を形成するものを意味する。ヘアピン構造を有する二重鎖は、センスRNA由来部分とアンチセンスRNA由来部分とをアニーリングすることにより形成できる。

【0030】
H1c発現を抑制するsiRNAは、以下の配列を有する。
GAAGAACGCUAAGAAAACATT(配列番号5)
H1e発現を抑制するsiRNAは、以下の配列を有する。
CGAGCUCAUUACUAAAGCUTT(配列番号6)
なお、siRNA又はshRNAを高効率かつ長期に細胞中で発現させるには、siRNA又はshRNAを含む発現ベクターを用いて細胞内(患者)に導入する方法が好ましい。

【0031】
(本発明のGLO1酵素活性向上剤、GLO1酵素活性低減剤)
本発明のGLO1酵素活性向上剤又はGLO1酵素活性低減剤は、予防または治療等の目的に応じて、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、液剤、注射剤(液剤、懸濁剤)または遺伝子療法に用いる形態などの各種の形態に、常法にしたがって調製することができる。本発明のGLO1酵素活性向上剤又はGLO1酵素活性低減剤は、通常は1種または複数の医薬用担体を用いて医薬組成物として製造することが好ましい。

【0032】
本発明のGLO1酵素活性向上剤又はGLO1酵素活性低減剤の投与量または摂取量については、本発明の効果が得られるものであれば特に限定されるものではなく、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾患の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等に応じて適宜選択される。本発明のGLO1酵素活性向上剤又はGLO1酵素活性低減剤は、1日1~数回に分けて投与または摂取することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与または摂取してもよい。

【0033】
(本発明のスクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、以下の2つを対象とする。
○H1c又はH1eが15個のチミン反復配列に結合することを促進させる試験化合物を選択することを特徴とするGLO1酵素活性向上剤のスクリーニング方法。
○H1c又はH1eが15個のチミン反復配列に結合することを阻害する試験化合物を選択することを特徴とするGLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法。
上記スクリーニング方法における工程は、本スクリーニングの目的を達することができれば特に限定されない。

【0034】
(GLO1酵素活性向上剤のスクリーニング方法)
GLO1酵素活性向上剤のスクリーニング方法は、少なくも以下の工程を有する。
(1)試験化合物を、15個のチミン反復配列提示物、H1c及び/又はH1eを含む系に添加する工程
(2)H1c及び/又はH1eの15個のチミン反復配列提示物に結合する量を測定する工程
15個のチミン反復配列提示物は、15個の連続したチミンが発現・提示していれば特に限定されないが、例えば、15個のチミンの両サイドをリンカー配列で結合した核酸、15個のチミンを含む核酸をビオチン標識した核酸等を例示することができる。また、「系」とは、in vivo、in vitroのいずれの場合でも良い。さらに、結合する量は、コントロール(試験化合物を添加しない系)と比較して高ければ、試験化合物はGLO1酵素活性向上剤の有効成分と判定できる。
なお、GLO1酵素活性向上剤のスクリーニング方法では、コントロールと比較して結合量が高い試験化合物は、GLO1酵素活性向上剤の有効成分だけでなく、チミン15形成誘導化合物と判定できる。

【0035】
(GLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法)
GLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法は、少なくも以下の工程を有する。
(1)試験化合物を、15個のチミン反復配列提示物、H1c及び/又はH1eを含む系に添加する工程
(2)H1c及び/又はH1eの15個のチミン反復配列提示物に結合する量を測定する工程
結合する量は、コントロール(試験化合物を添加しない系)と比較して低ければ、試験化合物はGLO1酵素活性低減剤の有効成分と判定できる。
なお、GLO1酵素活性低減剤のスクリーニング方法では、コントロールと比較して結合量が低い試験化合物は、GLO1酵素活性低減剤の有効成分だけでなく、チミン15形成阻害化合物と判定できる。

【0036】
結合する量を測定する方法としては、以下の方法が例示されるが、特に限定されない。
1)RT-PCR法
2)免疫ブロット法
3)SAGE
4)抗体を使用した免疫沈降法
5)プルダウン法
6)ELISA
7)ウエスタンブロット
8)ハイブリダイゼーション
9)フローサイトメトリー
10)比重遠心法
11)細胞の染色標本
12)組織の染色標本

【0037】
(試験化合物)
本発明で用いる「試験化合物」としては任意の物質を使用することができる。試験化合物の種類は特に限定されず、公知の治療剤、個々の低分子合成化合物(特にsiRNA)、天然物抽出物中に存在する化合物、合成ペプチドでもよい。
あるいは、試験化合物は、化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよい。試験化合物は、好ましくは低分子化合物であり、低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。化合物ライブラリーの構築は当業者に公知であり、また市販の化合物ライブラリーを使用することもできる。

【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。すべての実施例は、東京女子医科大学・金沢大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会で承認済である。
【実施例1】
【0039】
(GLO1プロモーターのチミンの反復配列の解析)
本実施例では、複数の試料でのGLO1プロモーターのチミンの反復配列の解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例1】
【0040】
(実験方法)
健常者3名の末梢血より公知のDNA抽出キット{QIAamp DNA Blood Mini Kit (QIAGEN:51104)}を使用してゲノムDNAを抽出した(それぞれのゲノムDNAは、DNA1、DNA2、DNA3と称する)。これらのゲノムDNAを用いてGLO1プロモーター領域(チミンの反復配列を含む)を、制限酵素サイト付プライマー(forward:CGCTTGGTACCTGCCCAACCTCATTTTGGTTA(配列番号9)、reverse: CGCTTCTCGAGTACTGGGGTCCGCGTCGGAGCAGCA(配列番号10))を用いてPCR法で増幅し、制限酵素(KpnIとXhoI)で処理した。その後、市販のベクター(pGL4.14)に組み込み、シークエンス用プライマー(AGCGGAACCAAGACTTGAACATAGG:配列番号11)を使用してシークエンシング法を用いて塩基配列の決定を行った。
【実施例1】
【0041】
(結果)
前記塩基配列の決定の結果では、ゲノムDNA1はチミンの反復配列中のチミン数は15個(以後、「T15」と称する)であった(参照:図1)。一方、ゲノムDNA2は16個(以後、「T16」と称する)、ゲノムDNA3は17個(以後、「T17」と称する)であった(参照:図1)。
以上により、GLO1プロモーターのチミンの反復配列の数は複数存在することを確認した。
【実施例2】
【0042】
(一つの個体中のGLO1プロモーターのチミンの反復配列の解析)
本実施例では、一つの個体でのGLO1プロモーターのチミンの反復配列の解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例2】
【0043】
(実験方法)
健常者の末梢血より公知のDNA抽出キットから抽出した末梢血由来ゲノムDNAを用いて、GLO1プロモーター領域を認識するforward primer(配列番号9)及びreverse primer (配列番号10)を用いてPCR法で増幅した。このPCR産物をテンプレートとして用いてシークエンシング法で塩基配列の決定を行った。
【実施例2】
【0044】
(結果)
前記塩基配列の決定の結果では、図2に示すように、チミンの反復配列以降の塩基(参照:図2の矢印)の波形が重なりあっていることが明らかになった。
以上により、各個体では、チミンの反復配列数の異なるゲノムDNAを有することを確認した。
【実施例3】
【0045】
(各個体でのGLO1プロモーターのチミンの反復配列の遺伝子多型の解析)
本実施例では、各個体でのチミンの反復配列の遺伝子多型の解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例3】
【0046】
(実験方法)
DNA1、DNA2及びDNA3をテンプレートとしてGLO1プロモーター領域を認識するforward primer(配列番号9)及びreverse primer (配列番号10)を用いてGLO1プロモーター領域をPCR法によって増幅し、制限酵素(KpnIとXhoI)処理でベクター(pGL4.14)に組み込み、得られたクローンの塩基配列をDNAシークエンシング法で決定した。1つのゲノムDNAにつき少なくとも20個のクローンの塩基配列決定を行うことで遺伝子多型の発現頻度の解析を行った。
【実施例3】
【0047】
(結果)
遺伝子多型の発現頻度の解析の結果では、実施例14の結果と併せて、チミン反復配列内には8種類にも及ぶ遺伝子多型(T13、T14、T15、T16、T17、T18、T19、T20)が存在することが分かった(参照:図3)。
以上より、各個体では、各チミン反復配列(T13~T20)の発現頻度が異なることを確認した。
【実施例4】
【0048】
(GLO1プロモーターのチミンの反復配列の検証)
実施例1~3で解析した結果がPCRエラーではないことを検証した。詳細は、以下の通りである。
【実施例4】
【0049】
(実験方法)
実施例3と同様な方法で、T15、T16及びT17のそれぞれのプラスミドDNAを用いてPCR法でGLO1プロモーター領域を増幅した。
次に、PCR産物を制限酵素(KpnIとXhoI)処理でベクター(pGL4.14)に組み込み、得られたクローン20個の塩基配列の決定を行った。さらに、T15、T16及びT17のプラスミドDNAを1:1:1又は3:2:1:の割合で混合したDNAを用いて解析を行った。
【実施例4】
【0050】
(結果)
得られたすべてのクローンは、それぞれ、T15、T16及びT17であった。加えて、混合したDNAの割合と同様な割合で遺伝子多型を検出した(参照:図4)。
以上により、実施例1~3の遺伝子多型の結果はPCRエラーにより生じたものではないことを確認した。
【実施例5】
【0051】
(6番染色体に存在するGLO1プロモーターに存在しているチミンの反復配列の遺伝子多型の解析)
本実施例では、6番染色体に存在するGLO1プロモーター領域中(6p21.3)に存在するチミンの反復配列(図3の反復配列より上流に位置している反復配列、より詳しくは翻訳開始点より上流+2843bp(14個の反復配列の場合)に存在する配列)の遺伝子多型の解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例5】
【0052】
(実験方法)
健常者から抽出したゲノムDNAをテンプレートとしてGLO1プロモーター領域の14個のチミンが連続する反復配列部位を認識するプライマー{forward primer(CGCTTGGTACCCTTACCCTCCAAGTGAGAGATCAA:配列番号12)及びreverse primer (CGCTTCTCGAGTACTGGGGTCCGCGTCGGAGCAGCA:配列番号10)}を用いてPCR法でチミンの反復配列を含む領域を増幅した。増幅した領域を制限酵素(KpnIとXhoI)で処理し、さらにベクター(pGL4.14)に組み込み、得られたクローンの塩基配列をDNAシークエンシング法で決定した。1つのゲノムDNAにつき少なくとも20個のクローンの塩基配列決定を行うことで遺伝子多型の発現頻度の解析を行った。
【実施例5】
【0053】
(結果)
遺伝子多型の発現頻度の解析の結果では、6番染色体に存在するGLO1プロモーターに存在しているチミン反復配列内に複数の遺伝子多型(T12、T13、T14、T15)が存在することが分かった(参照:図5)。
以上より、実施例3の結果と併せて、各個体では、GLO1プロモーターの各チミン反復配列(T12~T19)の発現頻度が異なることを確認した。
【実施例6】
【0054】
(チミン反復配列多型による転写活性の解析)
本実施例では、GLO1プロモーターに存在しているチミン反復配列多型による転写活性の相違を解析した。詳細は、以下の通りである。
【実施例6】
【0055】
(実験方法)
GLO1遺伝子多型(T15、T16、T17)とルシフェラーゼ遺伝子を繋ぎあわせた融合遺伝子発現ベクターを作製した。より詳しくは、これらGLO1遺伝子多型(T15、T16、T17)をそれぞれ含むプロモーター領域(-1174~+79bp)の下流にルシフェラーゼ遺伝子を連結させた。
また、培養細胞として、293TまたはHepG2を使用した。
次に、これらの細胞にLipofectamine2000を用いてそれぞれの融合遺伝子発現ベクターを強制発現(一過性過剰発現)させ、プロモーターアッセイを行った。さらに、定常状態過剰発現株の作製には、ハイグロマイシンBを用いたセレクションを行った。ルシフェラーゼ活性を指標として転写活性の解析を行った。
【実施例6】
【0056】
(結果)
293T細胞の一過性過剰発現において、T15は、Vector(チミン反復配列がプロモーター配列に導入していない)と比較して、約100倍ルシフェラーゼ活性が高いことを確認した(参照:図6)。さらに、T15は、T16及びT17と比較して、非常に高いルシフェラーゼ活性を確認した(参照:図6)。加えて、293T細胞の定常状態過剰発現において、T15は、Vectorと比較して、約20倍以上のルシフェラーゼ活性が高いことを確認した(参照:図
6)。さらに、T15は、T16及びT17と比較して、非常に高いルシフェラーゼ活性を確認した(参照:図6)。
HepG2細胞の一過性過剰発現において、T15は、Vector(チミン反復配列がプロモーター配列に導入していない)と比較して、約15倍ルシフェラーゼ活性が高いことを確認した(参照:図6)。さらに、T15は、T16及びT17と比較して、非常に高いルシフェラーゼ活性を確認した(参照:図6)。加えて、HepG2細胞の定常状態過剰発現において、T15は、Vectorと比較して、約4倍以上のルシフェラーゼ活性が高いことを確認した(参照:図6)。さらに、T15は、T16及びT17と比較して、非常に高いルシフェラーゼ活性を確認した(参照:図6)。
以上より、T15はGLO1の転写発現に重要な役割を有することを確認した。
【実施例7】
【0057】
(GLO1の転写活性におけるチミン反復配列の役割の解析)
本実施例では、GLO1の転写活性におけるチミン反復配列の役割を解析した。詳細は、以下の通りである。
【実施例7】
【0058】
(実験方法)
各チミン反復配列多型でのGLO1のプロモーター配列の全長(-1174~+79bp)、deletion mutantであるDM1(上流の306bpが欠失した変異)、DM2(上流の640bpが欠失した変異)及びDM3(上流の932bpが欠失した変異)を作成した(参照:図7A)。
そして、各チミン反復配列多型において、これらの遺伝子(全長、DM1、DM2及びDM3)にルシフェラーゼ遺伝子を繋ぎあわせた融合遺伝子発現ベクターを作製した。
次に、すべてのベクターをそれぞれ293T細胞にLipofectamine2000を用いて過剰発現させてルシフェラーゼ活性の測定を行った。
【実施例7】
【0059】
(結果)
チミン反復配列であるT15のみがルシフェラーゼ活性を示すことを確認した(参照:図7B)。
以上により、実施例6の結果を併せて、GLO1遺伝子多型T15のみが著しく高いルシフェラーゼ活性を示した。これにより、T15の連続配列がGLO1の転写発現調節機構に重要であることを確認した。
【実施例8】
【0060】
(チミン反復配列T15とGLO1酵素活性の相関の解析)
本実施例では、GLO1のチミン反復配列T15とGLO1酵素活性の相関を解析した。詳細は、以下の通りである。
【実施例8】
【0061】
(実験方法)
健常者より採取した白血球を用いてS-D-lactoylglutathioneの生成を指標とした GLO1酵素活性を行った。
自体公知の方法により培養した白血球より、公知のキット{QIAamp DNA Blood Mini Kit (QIAGEN:51104)}を用いてゲノムDNAを抽出した。これらのゲノムDNAを用いてPCR法でチミンの連続配列を含む領域を{forward primer(CGCTTGGTACCTGCCCAACCTCATTTTGGTTA:配列番号9)及びreverse primer (CGCTTCTCGAGTACTGGGGTCCGCGTCGGAGCAGCA:配列番号10)}を用いて増幅した。増幅した領域を制限酵素(KpnIとXhoI)で処理し、ベクター(pGL4.14)に組み込み、得られたクローンの塩基配列をDNAシークエンシング法で決定した。1つのゲノムDNAにつき少なくとも20個のクローンの塩基配列決定を行うことで多型発現頻度の解析を行った。
【実施例8】
【0062】
(結果)
多型発現頻度の解析の結果により、遺伝子多型T15の発現頻度とGLO1酵素活性には正の相関(R2=0.666)があることを確認した(参照:図8)。
【実施例9】
【0063】
(遺伝子多型T15が示す転写活性機構の解析)
遺伝子多型T15が示す転写活性を亢進する機構の解明のために遺伝子多型T15に特異的に結合するタンパク質の同定を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例9】
【0064】
(実験方法)
GLO1遺伝子多型T15、T16、T17をそれぞれ含むDNAをビオチン標識し、ストレプトアビジンビーズに結合させた。これらのビーズと293T細胞より抽出した核タンパク質を混合し、プルダウンを行い1次元電気泳動で展開させCoomassie Brilliant Blue(CBB)染色を行った。
次に、遺伝子多型T15に強く結合するバンドが検出されたので(参照:図9)、該バンドを切り出し質量分析法(TOF-MS/MS)で質量分析を行った。
【実施例9】
【0065】
(結果)
質量分析の結果、遺伝子多型T15に特異的に結合するヒストン1c(H1c)及びヒストン1e(H1e)を同定した。
【実施例10】
【0066】
(H1c及びH1eが「遺伝子多型T15の示す転写活性亢進」への関与の解析)
H1c及びH1eが「遺伝子多型T15の示す転写活性亢進」への関与の解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例10】
【0067】
(実験方法)
コントロールsiRNA、H1c siRNA(GAAGAACGCUAAGAAAACATT:配列番号5)またはH1e siRNA(CGAGCUCAUUACUAAAGCUTT:配列番号6)を293T細胞に導入した。H1c及びH1eのノックダウン効率は、mRNAを抽出しその後RT-PCR法によって確認した。
次に、遺伝子多型とルシフェラーゼ遺伝子を繋ぎあわせた融合遺伝子発現ベクターを、Lipofectamine2000を用いてH1c及びH1eのノックダウンの確認できた293T細胞に導入して、さらに過剰発現させた。その後、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【実施例10】
【0068】
(結果)
H1c及びH1eをノックダウンすることで有意に遺伝子多型T15の示す転写活性が低下した(参照:図10)。
以上より、遺伝子多型T15の転写亢進は、H1c及び/又はH1eの存在とヒストンの修飾が関与するというエピジェネティックな発現誘導によることを確認した。
【実施例11】
【0069】
(GLO1遺伝子多型とヒストンのアセチル化及び脱アセチル化との関連の解析)
ヒストンは、アセチル化やメチル化などの修飾を受けることによって転写の制御を行っていることが知られている。そこで、GLO1遺伝子多型とヒストンのアセチル化及び脱アセチル化との関連についての解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例11】
【0070】
(実験方法)
アセチル化の阻害剤であるヒストンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤(Anacardic acidまたはC646)又はヒストン脱アセチル化阻害剤(M344)を、各遺伝子多型(T15、T16又はT17)とルシフェラーゼ遺伝子とを繋ぎあわせた融合遺伝子発現ベクターを導入した293T細胞に6時間反応させた。該反応後、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【実施例11】
【0071】
(結果)
遺伝子多型T15の示す転写亢進は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ阻害剤によって転写活性は有意に抑制され、一方、ヒストン脱アセチル化阻害剤により有意に転写活性が亢進した(参照:図11)。すなわち、脱アセチル化されないことで遺伝子多型T15の活性が低下しないことを確認した。よって、遺伝子多型T15の示す転写亢進にはアセチル化が重要であることを確認した。
以上より、遺伝子多型T15の転写亢進にはヒストンのアセチル化が関与しており、遺伝子多型T15の転写低減には脱アセチル化が関与していると考えられる。
【実施例12】
【0072】
(GLO1遺伝子多型と各ヒストンとの関連の解析)
本実施例では、GLO1遺伝子多型と各ヒストン(H1c、H3、H4)の関連について解析した。詳細は、以下の通りである。
【実施例12】
【0073】
(実験方法)
ビオチン標識プライマーを用いて遺伝子多型T15又はT16を含むゲノムDNAをテンプレートとしてPCRを行い、ビオチン標識されたPCR産物の作製を行った。
次に、PCR産物をLipofectamine 2000を用いて293T細胞に導入し、24時間後に1%ホルムアルデヒドを用いてクロスリンクを行った。その後、細胞を溶解しストレプトアビジンビーズを用いてビオチン標識されたPCR産物のプルダウンを行った。プルダウンされたそれぞれのPCR産物の量は、PCR法によって確認した。また、プルダウンされたヒストン又はアセチル化レベルは特異抗体を用いて検出した。
【実施例12】
【0074】
(結果)
遺伝子多型T15は、T16と比較して、ヒストン3(H3)が多く結合していることを確認した(参照:図12)。さらに、H3はアセチル化の修飾を受けていることも明らかとなった。加えて、H1cは、図9の結果と同様に、T15に結合していることを確認した。
【実施例13】
【0075】
(GLO1遺伝子多型におけるH1c及びH1eの役割の解析)
GLO1遺伝子多型におけるH1c及びH1eの役割の解析、より詳しくはH3のアセチル化とH1cまたはH1eとの関連性について解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例13】
【0076】
(実験方法)
H1c、H1e、又は、H1c及びH1eをノックダウンした293T細胞を用いて実施例12と同様にPCR産物のプルダウンを行った。プルダウンされたそれぞれのPCR産物の量は、PCR法によって確認した。また、プルダウンされたヒストン又はアセチル化レベルは特異抗体を用いて検出した。
【実施例13】
【0077】
(結果)
H1c及びH1eをノックダウンすることで遺伝子多型T15に結合していたH3が減少し、それにともないアセチル化レベルも減少したことを確認した(参照:図13)。
以上より、実施例12の結果を併せて、遺伝子多型T15にH1c又はH1eが結合することでH3の結合が促進され、さらに結合したH3がアセチル化されることにより転写が亢進(促進)されることを確認した。
また、遺伝子多型T15にH1c又はH1eが結合することができなければH3の結合が阻害され、さらにH3がアセチル化されないので転写が低減される。
すなわち、H1cまたはH1e遺伝子の強制発現、H1cタンパク質又はH1eタンパク質の添加は、H3の結合を促進し、さらに結合したH3のアセチル化されることにより、転写が亢進(促進)される。加えて、H1cまたはH1eの抗体添加又はsiRNAにより、H3の結合が阻害され、さらにH3がアセチル化できなくなり、転写が抑制される。
【実施例14】
【0078】
(遺伝子多型T15と疾患の関連性についての解析)
本実施例では、遺伝子多型T15と疾患の関連性について解析を行った。詳細は、以下の通りである。
【実施例14】
【0079】
(実験方法)
GLO1が関与している糖尿病、糖尿病性腎症の重症度とGLO1反復配列の遺伝子多型T15との関連性についての解析を1型糖尿病患者の末梢血由来ゲノムDNAを用いて行った。
末梢血より抽出したゲノムDNAをテンプレートとして制限酵素サイト付プライマーを用いてGLO1プロモーター領域をPCR法によって増幅し制限酵素(KpnIとXhoI)処理でベクター(pGL4.14)に組み込み、得られたクローンの塩基配列をDNAシークエンシング法で決定した。1つのゲノムDNAにつき少なくとも20個のクローンの塩基配列決定を行うことで遺伝子多型の発現頻度(T13~T20)の解析を行った。
【実施例14】
【0080】
(結果)
腎症進行群(8例)に関し、遺伝子多型T15の発現頻度は50%(T15/(T15+T13+T14+T16+T17+T18+T19+T20))を越え、腎症非進行群(24例)と比較して、著しく高いことを確認した(参照:図14)。
以上より、遺伝子多型T15は糖尿病、腎症(糖尿病性腎症)の検出、さらには進行度を示す指標となる。
【実施例14】
【0081】
加えて、実施例8の結果と加えて、GLO1の発現が関与する疾患である糖尿病性合併症(非特許文献1)、統合失調症(非特許文献2)、がん(非特許文献3)、神経変性疾患(アルツハイマー病:Proc Natl Acad Sci USA 101: 7687-92 (2004)、パーキンソン病:Neurobiol aging 35: 1469-72 (2014))、不安障害(J Clin Invest 122: 2306-15 (2012))及びてんかん(参照:J Neurol Sci 15: 200-6 (2016))は、被験者由来生体試料中のGLO1プロモーター配列のチミン反復配列のチミン数15個の割合を検出することによりそれらの疾患の存在を検出することができる。さらに、疾患の存在の検出だけでなく、悪性度の判定、進行度の判定、予後予想が可能であると考えられる。
【実施例14】
【0082】
(総評)
以上、本実施例により、以下を新規に見出した。
(1)GLO1プロモーター領域内のチミン反復配列内に存在する報告されているチミン反復配列を含め8種類の遺伝子多型。
(2)遺伝子多型T15の転写活性は著しく亢進している。
(3)遺伝子多型T15の転写活性は、遺伝子多型T15にH1c又はH1eが結合することでH3の結合が促進され、さらに結合したH3がアセチル化されることにより起る。
(4)遺伝子多型T15にH1c又はH1eが結合することでH3の結合が促進され、さらに結合したH3がアセチル化されることにより転写が亢進(促進)される。
(5)遺伝子多型T15にH1c又はH1eが結合することができなければH3の結合が阻害され、さらにH3がアセチル化されないので転写が低減される。
(6)糖尿病性腎症進行群の患者の遺伝子多型T15の発現頻度は、非腎症患者の発現頻度と比較して高い。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、新規なGLO1の発現が関与する疾患の存在の検出方法、該検出方法に使用するマーカー、GLO1酵素活性向上剤及びGLO1酵素活性低減剤を提供することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
13