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明細書 :多能性幹細胞再樹立法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年7月13日(2017.7.13)
発明の名称または考案の名称 多能性幹細胞再樹立法
国際特許分類 C12N   5/074       (2010.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 5/074
C12Q 1/02
C12N 5/0735
C12N 5/10
国際予備審査の請求
全頁数 38
出願番号 特願2016-552363 (P2016-552363)
国際出願番号 PCT/JP2015/078699
国際公開番号 WO2016/052759
国際出願日 平成27年10月2日(2015.10.2)
国際公開日 平成28年4月7日(2016.4.7)
優先権出願番号 2014203679
優先日 平成26年10月2日(2014.10.2)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】遠藤 仁司
【氏名】長尾 恭光
【氏名】花園 豊
【氏名】冨永 薫
【氏名】大森 司
出願人 【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100118902、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 修
【識別番号】100106208、【弁理士】、【氏名又は名称】宮前 徹
【識別番号】100120112、【弁理士】、【氏名又は名称】中西 基晴
【識別番号】100107386、【弁理士】、【氏名又は名称】泉谷 玲子
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA19
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QS32
4B063QX02
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA60
要約 本出願は、キメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法、及び当該方法により得られる細胞に関する。本発明の方法は、ヘテロな細胞集団から、キメラ形成能等を有する幹細胞をモノクローン化して高品質化する技術である。
特許請求の範囲 【請求項1】
異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する;
(ii)工程(i)の共培養物において、細胞集合体を形成し、かつ、当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する;
(iii)工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する;
(iv)工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(v)当該内部細胞塊から当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種であり、そして当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
【請求項2】
さらに、工程(v)で再樹立した幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得て、工程(iii)~(v)を繰り返すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多能性幹細胞が、以下:ES細胞および人工多能性幹細胞(iPS細胞)からなる群より選択され、そして、複能性幹細胞が以下:栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞、からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞が、ES細胞またはiPS細胞である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
高品質な多能性幹細胞が、ナイーブ型の多能性幹細胞である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
宿主胚が、初期胚、4倍体胚、雄性胚、単為発生胚、および胎盤に寄与するES細胞、からなる群より選択される、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(iii)が、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の初期胚または4倍体胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行う、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第一の哺乳類の種および第二の哺乳類の種がそれぞれ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、ヒトからなる群より選択される、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)の細胞群を、第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(iv)当該内部細胞塊から当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種であり、そして当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
【請求項10】
工程(i)~(iv)を繰り返すことを含む、その際、2サイクル目以降の工程(i)は、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得ることにより行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞はヒトES細胞ではなく、そして第二の哺乳類の種はヒトではない、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する;
(ii)工程(i)の共培養物において、細胞集合体を形成し、かつ、前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する;
(iii)工程(ii)の細胞群を同種の哺乳類由来の宿主胚と共培養する;
(iv)工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(v)当該内部細胞塊から前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;を含む、ここで、当該哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
【請求項13】
さらに、工程(v)で再樹立した幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得て、工程(iii)~(v)を繰り返すことを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)の細胞群を、同種の哺乳類由来の宿主胚と共培養する;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(iv)当該内部細胞塊から前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含む、ここで、当該哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
【請求項15】
工程(i)~(v)を繰り返すことを含む、その際、2サイクル目以降の工程(i)は、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得ることにより行う、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
哺乳類の種はヒトではない、請求項12ないし15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
幹細胞であって、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞もしくは複能性幹細胞、または齧歯類由来のiPS細胞もしくは複能性幹細胞から再樹立したものであり、そして、以下:
・キメラ形成可能;
・細胞集合体を形成可能;および
・内部細胞塊のニッチ環境に親和性が高い;からなる群より選択される特徴の1以上を有する、前記細胞。
【請求項18】
請求項1ないし16に記載の方法により再樹立した、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
細胞を用いた薬効評価または病態解析を行う方法であって、以下:
(i)細胞を得る工程:ここで当該細胞は、(A)請求項1ないし16のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞であるか、(B)請求項1ないし16のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞を分化させることにより得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞であり、ここで当該体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞は、以下の(a)~(c)のいずれかの方法により得られるものである:
(a)請求項1ないし16のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、そして当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(b)(a)で得られたキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性細胞を得る;
(c)請求項1ないし16のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(ii)工程(i)で得た細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う工程;
を含む、前記方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本出願は、多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞からキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法に関する。当該方法は、多能性幹細胞または複能性幹細胞から、キメラ形成能を保持する等の特性を有する細胞を選抜・再樹立することにより、幹細胞の高品質化を行う技術である。本出願はまた、当該方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞に関する。本出願はさらに、本発明の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞、または当該幹細胞を分化させて得られた体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
iPS細胞(人工多能性幹細胞)/ES細胞(胚性幹細胞)から臓器原基または臓器幹細胞を作製・供給することが、iPS細胞などを用いた再生医療の発展に必要である。たとえば、ヒトにiPS細胞/ES細胞より再生したヒト臓器/臓器原基を移植するためには、その細胞をブタやヒツジ等の異種の環境で目的臓器形成に誘導するステップが有効と考えられる。しかしながら、臓器原基/臓器幹細胞をインビトロで作製することは困難であるので、異種間のキメラ胚を作製し、キメラ胚より臓器原基または臓器幹細胞を採取する必要がある。そのためには異種間にわたって生着性があり、かつキメラ形成能を維持した高品質の幹細胞を臓器形成の出発細胞とする必要がある。
【0003】
また、iPS細胞/ES細胞からクローン動物またはキメラ動物を作製することは、絶滅危惧種などの希少動物、ペットなどの愛玩哺乳動物、有用な商業動物の保存・再生・維持という観点から有用であると考えられる。この場合は、同種間または異種間で生着性があり、かつキメラ形成能を維持した高品質の幹細胞を出発細胞とする必要がある。
【0004】
マウスやラットのES細胞は、一般にナイーブ型の多能性幹細胞として樹立されており、胚盤胞補完法によるキメラ動物の作製について複数の報告例がある。一方、ウサギ、ブタ、サル、ヒトなど中動物のiPS/ES細胞はコロニーが扁平であるプライム型の特徴を有しており、これを異種または同種の胚盤胞に移植してもキメラを形成することができないか、形成できたとしてもごくわずかな寄与率である。
【0005】
このように、キメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法の重要性は、キメラ胚・キメラ動物の作製の成功率を高めるという観点から、よりいっそう増している。
【0006】
キメラ形成可能なiPS細胞/ES細胞を得ることを目的としたこれまでの報告例の多くは、遺伝子導入等の手段でiPS細胞/ES細胞を確立するものであった(非特許文献1)。また、環境因子の添加など培地の改良により、質の高いiPS細胞/ES細胞を確立する例も報告されている(非特許文献2)。これらの報告例は、キメラ形成可能なiPS細胞/ES細胞を作製する技術ではあるが、作製されたiPS細胞/ES細胞がヘテロな細胞集団であり、キメラ形成能を持たない細胞が混在している可能性を十分否定できるだけの評価がなされていない。これらの技術は、iPS細胞/ES細胞のうちの「キメラ形成可能」な細胞の割合を高める技術であるといえる。
【0007】
現状では、「キメラ形成可能」という特性を維持した細胞はiPS細胞/ES細胞樹立時に取得した全細胞のうちの一部に過ぎない。臓器形成等の出発細胞を得るためには、キメラ形成能の獲得性維持の観点から、樹立したiPS細胞/ES細胞をさらに選択して再樹立を行い高品質化する必要がある。
【0008】
長尾ら(特許文献1)は、特定の遺伝子が変異または欠損し、該遺伝子が関与する機能を喪失した多能性細胞、および該多能性細胞以外の他の多能性細胞を含む2種類以上の細胞を動物の宿主胚に注入することを含む、キメラ動物の作製方法を開示している。特許文献1は、生殖細胞を形成しえないマウス胚からES細胞を樹立し、該ES細胞を動物の生殖器官由来の細胞と共培養することにより、効率的に生殖器官由来の細胞からES細胞を樹立させることを見いだしたことを記載している。同文献はまた、当該生殖細胞を形成できないマウス胚から樹立したES細胞を他のマウスES細胞、例えば遺伝子を改変したES細胞と共培養することにより、他のマウスES細胞の増殖能が改善することができることを見いだしたことを記載している。
【0009】
しかしながら、同種・異種を問わず、キメラ形成可能なiPS/ES細胞の再樹立を可能にする方法については、現時点で報告例がない。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】国際公開WO2006/009272号パンフレット
【0011】

【非特許文献1】Hanna,J.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,107:9222-9227(2010)
【非特許文献2】Gafni,O.,et al.Nature,504(7479):282-286(2013)
【非特許文献3】Nature Cell Biology,16:513(2014)
【非特許文献4】Scientific Rep.3:3492(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、臓器形成等の出発細胞を得るためには、キメラ形成能の獲得性維持の観点から、樹立したiPS細胞/ES細胞をさらに選択して再樹立を行い高品質化する方法が依然として求められている。本発明は、キメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法を提供する。本発明はまた、再樹立されたキメラ形成能を有する幹細胞を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。iPS細胞/ES細胞から臓器原基または臓器幹細胞を作製するためには、異種間にわたって生着性があり、かつキメラ形成能を維持した高品質の幹細胞を臓器形成の出発細胞として供給する必要がある。この課題の解決のためには異種間のキメラ形成が可能な「よいiPS/ES細胞」を作製できるシステムの開発が必要である。この一つの方法として、本発明者らは「異種間における共培養・再樹立システム」を開発した。すなわち、「異種間における共培養・再樹立システム」として、iPS細胞/ES細胞を、(1)当該iPS細胞/ES細胞とは異なる種の高品質な多能性幹細胞(例えば、iPS細胞、ES細胞、あるいはこれらの細胞を含む内部細胞塊)と共培養を行い、ES細胞で形成されるナイーブコロニー形成に寄与する細胞群かどうかを条件として選別する;および/または(2)当該iPS細胞/ES細胞とは異なる種の宿主胚(例えば桑実胚、胚盤胞、4倍体胚などのマウス初期胚)にマイクロインジェクション等で移植し共培養した際に、内部細胞塊(ICM)の形成に寄与することが可能かどうかを条件として選別する;そして、上記(1)および/または(2)を必要に応じて繰り返すことにより、iPS細胞/ES細胞樹立株を、キメラ形成能を維持した幹細胞として再樹立する;方法を見いだした。上記の方法により再樹立したブタiPS細胞をマウス胚に移植したところ、11.5日胚でキメラとして寄与するiPS細胞を複数株確立することに成功した。また、この方法について、既存の方法により作製した多能性幹細胞のヘテロな細胞群を、高品質な多能性幹細胞と共存する環境または宿主胚中の環境におくことにより、当該ヘテロな細胞群をキメラ形成能を有する細胞群として適応・訓化させ、そして当該キメラ形成能を有する細胞群を選別する方法として位置づけた。これらの研究成果により本発明は完成した。
【0014】
また、このような異種間における共培養・再樹立システムは、同種間のキメラ形成が可能なiPS細胞/ES細胞を作製できるシステムとしても利用可能であるという技術思想に本発明者らは至った。
【0015】
すなわち、一態様において、本発明は以下のとおりであってよい。
(1)異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する;
(ii)工程(i)の共培養物において、細胞集合体を形成し、かつ、当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する;
(iii)工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する;
(iv)工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(v)当該内部細胞塊から当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種であり、そして当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
(2)さらに、工程(v)で再樹立した幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得て、工程(iii)~(v)を繰り返すことを含む、(1)に記載の方法。
(3)多能性幹細胞が、以下:ES細胞および人工多能性幹細胞(iPS細胞)からなる群より選択され、そして、複能性幹細胞が以下:栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞、からなる群より選択される、(1)または(2)に記載の方法。
(4)第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞が、ES細胞またはiPS細胞である、(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)高品質な多能性幹細胞が、ナイーブ型の多能性幹細胞である、(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)宿主胚が、初期胚、4倍体胚、雄性胚、単為発生胚、および胎盤に寄与するES細胞、からなる群より選択される、(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)工程(iii)が、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の初期胚または4倍体胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行う、(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)第一の哺乳類の種および第二の哺乳類の種がそれぞれ、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、ヒトからなる群より選択される、(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の方法。
(9)異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)第一の哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)の細胞群を、第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(iv)当該内部細胞塊から当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種であり、そして当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
(10)工程(i)~(iv)を繰り返すことを含む、その際、2サイクル目以降の工程(i)は、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得ることにより行う、(9)に記載の方法。
(11)第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞はヒトES細胞ではなく、そして第二の哺乳類の種はヒトではない、(1)ないし(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する;
(ii)工程(i)の共培養物において、細胞集合体を形成し、かつ、前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する;
(iii)工程(ii)の細胞群を同種の哺乳類由来の宿主胚と共培養する;
(iv)工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(v)当該内部細胞塊から前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;を含む、ここで、当該哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
(13)さらに、工程(v)で再樹立した幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得て、工程(iii)~(v)を繰り返すことを含む、(12)に記載の方法。
(14)同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)哺乳類の種由来の多能性(pluripotent)幹細胞または複能性(multipotent)幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)の細胞群を、同種の哺乳類由来の宿主胚と共培養する;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(iv)当該内部細胞塊から前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含む、ここで、当該哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法。
(15)工程(i)~(v)を繰り返すことを含む、その際、2サイクル目以降の工程(i)は、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得ることにより行う、(14)に記載の方法。
(16)哺乳類の種はヒトではない、(12)ないし(15)のいずれか1項に記載の方法。
(17)幹細胞であって、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞もしくは複能性幹細胞、または齧歯類由来のiPS細胞もしくは複能性幹細胞から再樹立したものであり、そして、以下:
・キメラ形成可能;
・細胞集合体を形成可能;および
・内部細胞塊のニッチ環境に親和性が高い;
からなる群より選択される特徴の1以上を有する、前記細胞。
(18)(1)ないし(16)に記載の方法により再樹立した、(17)に記載の細胞。
(19)細胞を用いた薬効評価または病態解析を行う方法であって、以下:
(i)細胞を得る工程:ここで当該細胞は、(A)(1)ないし(16)のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞であるか、(B)(1)ないし(16)のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞を分化させることにより得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞であり、ここで当該体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞は、以下の(a)~(c)のいずれかの方法により得られるものである:
(a)(1)ないし(16)のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、そして当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(b)(a)で得られたキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性細胞を得る;
(c)(1)ないし(16)のいずれか1項に記載の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(ii)工程(i)で得た細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う工程;
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法により、既存の方法により作製した多能性幹細胞等のヘテロな細胞群を、高品質な多能性幹細胞との共存環境または宿主胚中の環境におくことにより、当該ヘテロな細胞群をキメラ形成能を有する細胞群として適応・訓化させ、そして当該キメラ形成能を有する細胞群を選別することができる。既存の多能性幹細胞等の樹立方法が、「異種間でキメラ形成可能」な細胞の割合を高める技術であるとしたら、本発明は混在しているであろう「異種間でキメラ形成不能」な細胞を除き純化し、移植可能な株を完成させる技術である。本発明の方法は、再生医療においてiPS細胞/ES細胞を用いた臓器移植等を行う際に、出発細胞として必要な高品質の細胞を提供するために有用である。
【0017】
また、本発明の方法により選抜したキメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胎児/胎仔を作製し、当該キメラ胎児/胎仔から体性細胞・臓器前駆細胞を分取・樹立する、当該キメラ胎児/胎仔から体性幹細胞を分取・樹立する、または、当該体性幹細胞から分化させた臓器前駆細胞を含む体性細胞を作製する、等の方法にて、キメラ胎児/胎仔由来の体性細胞、臓器前駆細胞、体性幹細胞を得ることができる。あるいは、本発明の方法により選抜したキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることによっても、当該幹細胞由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得ることができる。これらキメラ胎児/胎仔由来の細胞、またはキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させた細胞は、薬効評価等や再生医療等に用いるために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本願のキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法の一態様を示す概略図である。
【図2】図2は、(a)選抜前のブタiPS細胞、及び(b)再樹立後のブタiPS細胞の形態を示す写真である。スケールは100μmである。
【図3】図3は、再樹立後のブタiPS細胞の核型をQ-バンド染色法により検討した結果である。選抜前および再樹立後でいずれも38、XXの正常核型であった。
【図4】図4は、再樹立したiPS細胞を用いてキメラ動物を作製したことを示す写真である。(a)は胎仔を示す写真であり、赤色蛍光タンパク質の存在から、胎仔においてブタiPS細胞由来の細胞が存在することを確認した。(b)は、胎盤を示す写真であり、ブタiPS細胞由来の細胞が羊膜に存在することを確認した。
【図5】図5は、キメラ胚及び羊膜におけるブタiPS細胞の存在を確認するために、ブタ及びマウスのミトコンドリアDNA(mtDNA)の検出を行った結果を示す写真である。
【図6】図6は、本願の方法で再樹立した同種間でキメラ形成可能なiPS細胞を用いて、キメラ法を用いた胚盤胞補完法によるキメラマウスを作製したことを示す図である。(a)はキメラマウスの作製手順を示す概略図である。(b)はキメラマウス胎仔(胎齢18.5)の精巣にiPS細胞由来の細胞が存在することを示す写真である(iPS細胞は緑色蛍光タンパク質で標識されている)。
【図7】図7は、ブタiPS細胞の再樹立前および再樹立後の各細胞における遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリングの結果を示した図である。
【図8】図8は、山中4因子及びNANOGの内因性遺伝子の遺伝子発現レベルを示した図である。
【図9】図9は、山中4因子及びNANOGのブタに導入したヒト遺伝子(外因性遺伝子)の遺伝子発現レベルを示した図である。
【図10】図10は、再樹立前後における外来性および内因性の山中4因子及びNANOGの遺伝子発現変化を(図8及び図9)の結果をまとめた図である。
【図11】図11は、再樹立前後の各細胞における遺伝子発現プロファイルのピアソン相関解析の結果を示した図である。
【図12】図12は、再樹立細胞において遺伝子の発現が再樹立前の細胞に比べてlog値が2以上増加する遺伝子の種類及び発現が減少する遺伝子の種類をまとめた図である。
【図13】図13は、ナイーブ型多能性(naive pluripotency)、コア型多能性(core pluripotency)、プライム型多能性(primed pluripotency)、原始内胚葉(primitive endoderm)の各特性に関する遺伝子の発現についてブタiPS細胞の再樹立の前後で比較した図である。上段:各遺伝子のFPKM値;下段:再樹立前後の遺伝子発現量の変化のlog値。
【図14】図14は、Tbx3、Pou5F1(Oct4)及びZscan4の各遺伝子の発現について、ブタiPS細胞の再樹立の前後で比較した図である。上段:各遺伝子のFPKM値;下段:再樹立前後の遺伝子発現量の変化のlog値。
【図15】図15は、胚性細胞外マトリックスの構成成分の各遺伝子発現についてブタiPS細胞の再樹立の前後で比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。

【0020】
本発明は異種間または同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法、異種間または同種間でキメラ形成能を有する幹細胞、および、当該幹細胞または当該幹細胞を分化させて得られた細胞を用いた薬効評価または病態解析を行う方法に関する。
<定義>

【0021】
本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。

【0022】
本明細書において、「幹細胞」とは、自己複製能と分化能を有する細胞である。ここで、自己複製能とは自分と同じ能力を持った細胞を複製する能力をいい、分化能とは異なる機能を持つ複数の細胞に分化する能力をいう。

【0023】
本明細書において、「多能性(pluripotent)幹細胞」とは、幹細胞であって、個体を形成するすべての細胞種へ分化可能な能力を有する細胞である。多能性幹細胞には、胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)が含まれる。

【0024】
本明細書において「複能性(multipotent)幹細胞」とは、幹細胞であって、複数の細胞種へ分化し得る能力を有する細胞である。複能性幹細胞には、栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞、などが含まれる。

【0025】
本明細書において「多能性幹細胞等」と記載する場合、当該表現は多能性幹細胞および複能性幹細胞を含むものと理解される。

【0026】
キメラ胚/キメラ動物の作製は、多能性幹細胞等をホスト(別の個体)の受精卵や初期胚等に移植し、発生させることにより行われる。キメラ胚は、移植された多能性幹細胞等が、生じるホストの胚体の全部または一部となることにより作製される。キメラ動物は、移植された多能性幹細胞等が、生まれてくる個体の一部となることにより作製される。

【0027】
本明細書において、幹細胞が「キメラ形成能を有する」または「キメラ形成可能である」とは、幹細胞がホストの受精卵や初期胚等に移植された場合に、生じるホストの胚体の全部もしくは一部、または生まれてくる個体中の様々な臓器の一部となる能力を、当該幹細胞が有することを意味する。あるいは、本明細書において幹細胞が「キメラ形成能を有する」または「キメラ形成可能である」という用語は、幹細胞がホストの受精卵や初期胚等に移植された場合に、移植された多能性幹細胞等が内部細胞塊(ICM)の一部を構成する能力、すなわちICMに寄与する能力を、当該幹細胞が有することを意味する用語としても用いられる。ここで、当該移植される幹細胞が由来する種とホストの種が異種である場合、特に「異種間でキメラ形成可能である」という。当該移植される幹細胞が由来する種とホストの種が同種である場合は、特に「同種間でキメラ形成可能である」という。

【0028】
本明細書において「異種」または「異なる種である」とは、動物種が異なることをいう。特に言及しなければ、「異種」または「異なる種である」とは、属レベル以上で動物種が異なることをいう。

【0029】
本明細書において「同種」とは、同じ動物種に属することを意味する。特に言及しなければ、「同種」の範囲には、種のレベルで同じ動物種に属するもののみならず、属のレベルで同じ動物種に属する「同属異種」も含まれる。

【0030】
本明細書において、多能性幹細胞等が「高品質」であるとは、当該多能性幹細胞等が「ナイーブ型」であることを意味する。多能性幹細胞等が「ナイーブ型」であるとは、多能性幹細胞等が、ドーム型のコロニーを形成する、キメラ形成能を有する、および、精子・卵子などの生殖細胞系列に分化可能である、からなる群より選択される1以上、好ましくは2以上、さらに好ましくは3つすべての性質を有することを意味する。

【0031】
本明細書において「宿主胚」とは、キメラ胚/キメラ動物を作製する際に、多能性幹細胞を移植する、ホストとなる動物の胚を意味する。
<異種間でキメラ形成可能な幹細胞を再樹立する方法>

【0032】
本出願は、異種間でキメラ形成可能な幹細胞を再樹立する方法を提供する。

【0033】
第一の態様において、本出願は、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する;
(ii)工程(i)の共培養物において、細胞集合体を形成し、かつ、当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する;
(iii)工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する;
(iv)工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(v)当該内部細胞塊から当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、キメラ形成能を有する多能性幹細胞または複能性幹細胞を再樹立する;
を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種であり、そして当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法、を提供する。

【0034】
上記の方法は、さらに、工程(v)で再樹立した幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得て、工程(iii)~(v)を繰り返すことを含んでもよい。当該細胞群は、工程(v)で再樹立した幹細胞と第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞を共存させる、または混合することができるあらゆる方法により行うことができる。

【0035】
上記の方法において、「多能性幹細胞」は、ES細胞および人工多能性幹細胞(iPS細胞)からなる群より選択される。そして「複能性幹細胞」は、栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、および、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞、からなる群より選択される。好ましい態様において、「多能性幹細胞または複能性幹細胞」は、ES細胞またはiPS細胞である。「高品質な多能性幹細胞」は、ES細胞、iPS細胞、あるいはこれらの細胞の内部細胞塊を含む。「高品質な多能性幹細胞」は、好ましくはES細胞である。

【0036】
上記の方法において、哺乳類の種は、哺乳類であれば特に限定されない。第一の哺乳類の種と第二の哺乳類の種は異なる種であり、以下に記載される群よりそれぞれ独立に選択してもよい。好ましい態様において、第一または第二の哺乳類の種は、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、ヒトからなる群より選択され、さらに好ましくはマウス、ラット、ブタ、サル、ヒトからなる群より選択される。特に好ましくは、第一の哺乳類の種は、ブタ、サル、ヒトからなる群より選択される。

【0037】
上記の方法の工程(i)では、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する。当該工程において、共培養はインビトロで、第一の哺乳類の種由来のナイーブ型の多能性幹細胞または複能性幹細胞の培養に適した条件、または、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞の培養に適した条件、あるいはそれらの混合の条件で培養する。当業者はこれらの細胞の培養に適した培地の種類、および、培養温度や培養時間等の培養条件を適宜設定することができる。

【0038】
例えばブタiPS細胞とマウスES細胞の共培養の場合は、はじめはマウスES細胞培養条件で培養し、徐々にナイーブ型ブタiPS細胞培養条件に変えていくなど、至適な条件を実施する。その際の培養条件として、ガス濃度はCO5%,Air95%とし、培養温度は37℃~39℃とする条件が挙げられる。例えばクサビラオレンジにて蛍光標識したブタiPS細胞をマウスES細胞と混合して細胞塊を作製し、フィーダー細胞を敷いたディッシュに播種する。フィーダー細胞としてはMEF(マウス胎仔線維芽細胞)を用いる。蛍光タンパク質等の様々な選抜マーカーを用いた選択と、クローニングを行うために良好な形態の目視による選抜により、良好なモザイク状態のコロニーを採取する。これをさらに播種後、新しく形成されたコロニーから、蛍光等の選抜マーカーを有し、かつ状態の良いコロニーを選抜する。その際の培地条件は、例えば、初めはマウスES細胞培地条件で培養し徐々にナイーブ型ブタiPS細胞培養条件に変えていくなど、至適な条件を実施する。例えば、以下の培地組成が利用できる。

【0039】
ナイーブ型ブタiPS細胞の培地組成:82%(v/v)D-MEM、15%(v/v)FCS、0.1mM 2-Mercaptoethanol、1xMEM非必須アミノ酸溶液、1x GlutaMAXTM-I(GIBCO)、1x rhLIF(Wako)、10μM Forskolinを含む培養液

【0040】
マウスES細胞の培養組成:80%(v/v)D-MEM、20%(v/v)FCS、1mMピルビン酸溶液、0.1mM 2-Mercaptoethanol、1xMEM非必須アミノ酸溶液、10U/mLmLIFを含む培養液

【0041】
上記方法の工程(ii)では、工程(i)の共培養物において、細胞集合体を形成し、かつ、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する。この工程はすなわち、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞とともにコロニー形成(特にナイーブコロニー形成)する第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する工程である。このように、幹細胞が、ES細胞とともにコロニー形成する場合、当該幹細胞について「コロニー形成に寄与する幹細胞」と表現することがある。第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞とともにコロニー形成(特にナイーブコロニー形成)する第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等に由来する幹細胞を含む細胞群の選別は、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等を選別前に適切な選抜マーカーで標識しておき、当該選抜マーカーを含むコロニーを選別することにより行うことができる。あるいは、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞を適切な選抜マーカーで標識しておき、当該選抜マーカーを含まないコロニーを第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等を含む細胞群として識別することもできる。適切な選抜マーカーの例として、クサビラオレンジ(huKO)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、Clover、DsRed、mCherry、ルシフェラーゼ、LacZ、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、DT-A遺伝子、HSV-TK遺伝子、等が挙げられる。識別は、蛍光、発光、染色等による識別、または、薬剤耐性遺伝子等による薬剤選択により行うことができる。

【0042】
上記の方法の工程(iii)では、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する。工程(ii)の細胞群と第二の哺乳類の種由来の宿主胚との共培養により、キメラ胚が作製される。そして、工程(iii)の共培養では、内部細胞塊(ICM)が得られる初期胚盤胞の段階までキメラ胚を培養する。好ましい態様において、当該工程の共培養は、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行う。マイクロインジェクションは、宿主胚に細胞(幹細胞など)を移植することによりキメラ胚を作製する方法である。アグリゲーションは、宿主胚として桑実胚期までの初期胚を用い、これに幹細胞等を接触・集合させてキメラ胚を作製する方法である。より好ましくは、工程(iii)の共培養は、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の宿主胚にマイクロインジェクションして共培養することにより行う。

【0043】
宿主胚は、特に限定されるものではないが、初期胚、4倍体胚(テトラプロイド胚)、雄性胚、単為発生胚、胎盤に寄与するES細胞から選択してもよい。好ましい態様において、宿主胚は初期胚または4倍体胚である。

【0044】
初期胚は、2細胞期胚から胚盤胞期胚までの胚を意味する。

【0045】
4倍体胚は、野生型の2細胞期の割球を電気的に融合させて作製した胚である。4倍体胚を用いて多能性幹細胞と共培養することによりキメラ胚を作製すると、4倍体細胞は胚体自体には寄与できないが、胎盤などの胚体該組織には寄与できるという性質があるため、得られる胚体または個体は前記の多能性幹細胞に100%由来するものとなる。

【0046】
雄性胚はそれ自体では胎児/胎仔になりにくい胚であるが、多能性細胞との共培養によりキメラ胚を作製することで、胎児/胎仔を得ることができる。

【0047】
単為発生胚はそれ自体では胎性致死胚であるが、多能性細胞との共培養によりキメラ胚を作製することで個体を得ることができる場合がある。

【0048】
胎盤に寄与するES細胞とは、ES細胞の細胞集団に含まれる極微少な亜集団として存在する分化全能性を有する細胞である。一般的にES細胞は、胚盤胞期胚に由来し、機能的には内部細胞塊に相当し、胎盤等の胚体外組織を形成しないと考えられていた。しかし、ES細胞の極めて少ない分画に分化全能性(totipotency)を有する2細胞期胚に相当する細胞群があることが報告された(Macfarlan,T.S.,et al.,Nature,487(7405):57-63(2012))。この分化全能性を有する細胞群を特に、胎盤に寄与するES細胞と記載する。

【0049】
好ましくは、上記の方法の工程(iii)は、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の初期胚または4倍体胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行われる。さらに好ましくは、上記の方法の工程(iii)は、工程(ii)の細胞群を第二の哺乳類の種由来の初期胚または4倍体胚にマイクロインジェクションして共培養することにより行われる。

【0050】
上記の方法の工程(iv)では、工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する。内部細胞塊の分離は、当業者に公知の手法を用いて行うことができる。好ましくは、内部細胞塊の分離は、顕微鏡手術法または免疫手術法にて行う。胚の状態を観察しながら内部細胞塊を取り出すには顕微鏡手術法が優れている。一方、免疫手術(Solter,D.and Knowless,B.B.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA,72(12):5099-5102(1975))は、顕微鏡手術法よりも機械的損傷が少なく、胚盤胞の内部細胞塊を単離するのに優れている。どちらを用いてもよい。

【0051】
上記の方法の工程(v)では、工程(iv)で得た内部細胞塊から第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する。内部細胞塊からの多能性幹細胞等のクローニングは当業者に公知の手法を用いて行うことができる。クローニングした細胞が、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞であることは、当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等を選抜前(すなわち、工程(iii)を行う前)に適切な選抜マーカーで標識しておくことで識別可能である。あるいは、工程(iii)を行う前に宿主胚を適切な選抜マーカーで標識しておき、当該選抜マーカーを含まない細胞を第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞として識別し、クローニングすることもできる。適切な選抜マーカーの例として、クサビラオレンジ(huKO)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、Clover、DsRed、mCherry、ルシフェラーゼ、LacZ、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性遺伝子、ブラストサイジン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、DT-A遺伝子、HSV-TK遺伝子、等が挙げられる。識別は、蛍光、発光、染色等による識別、または、薬剤耐性遺伝子等による薬剤選択により行うことができる。

【0052】
例えば、クサビラオレンジ(huKO)で標識された多能性幹細胞等をクローニングする場合は、以下のようにして行うことができる。胚盤胞を顕微鏡下で胚盤胞ごと除去するか、顕微鏡手術でその部分を取り除く。あるいは顕微鏡手術または免疫手術で内部細胞塊だけを取り出し、4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養する。播種後増殖してきた内部細胞塊から良好な形態をし、蛍光顕微鏡にて赤色蛍光を有することを確認したモザイク状態のものだけを、増殖能と形態を指標に目視で選別しピックアップする。また、栄養膜様細胞、上皮様細胞、内胚葉様細胞等の形態を示すコロニーおよび細胞は取り除く。トリプシン処理して細胞塊を分散し、いくつかの新たな細胞塊に分解後、新しく準備したフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養する。播種後、さらに新しく形成されたコロニーから、蛍光顕微鏡にて赤色蛍光を有することを確認して状態の良いコロニー選抜をする。次に分散させるときはさらに少数の細胞数の細胞塊にまで分散させ、何度か工程を繰り返し多能性細胞だけのコロニーとする。

【0053】
第二の態様において、本出願は、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)の細胞群を、第二の哺乳類の種由来の宿主胚と共培養する;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(iv)当該内部細胞塊から当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、異種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含み、ここで当該第一の哺乳類の種と当該第二の哺乳類の種は異なる種であり、そして当該第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法を提供する。

【0054】
第二の態様の方法は、工程(i)~(iv)を繰り返して行ってもよい。その場合、2サイクル目以降の工程(i)は、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得ることにより行う。

【0055】
第二の態様における「多能性幹細胞または複能性幹細胞」、「高品質な多能性幹細胞」、及び「哺乳類の種」は、第一の態様と同様に選択することができる。

【0056】
第二の態様の方法の工程(i)では、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る。あるいは、第二の態様の工程(i)~(iv)を繰り返す場合、2サイクル目以降の工程(i)では、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る。この工程は、第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞等または工程(iv)で再樹立した幹細胞と第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞とを共存させる、または混合することができるあらゆる方法により行うことができる。

【0057】
第二の態様の方法の工程(ii)~(iv)は、第一の態様の方法の工程(iii)~(v)にそれぞれ対応する。各工程の詳細については、上記に説明したとおりである。

【0058】
特に好ましい態様において、本願の異種間でキメラ形成可能な幹細胞を再樹立する方法(第一及び第二の態様双方)における第一の哺乳類の種由来の多能性幹細胞はヒトES細胞ではなく、そして第二の哺乳類の種はヒトではない。
<同種間でキメラ形成可能な幹細胞を再樹立する方法>

【0059】
本出願は、同種間でキメラ形成可能な幹細胞を再樹立する方法を提供する。

【0060】
第一の態様において、本出願は、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する;
(ii)工程(i)の共培養物において、細胞集合体を形成し、かつ、前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選別する;
(iii)工程(ii)の細胞群を同種の哺乳類由来の宿主胚と共培養する;
(iv)工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(v)当該内部細胞塊から前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含む、ここで、当該哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法を提供する。

【0061】
上記の方法は、さらに、工程(v)で再樹立した幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得て、工程(iii)~(v)を繰り返すことを含んでもよい。当該細胞群は、工程(v)で再樹立した幹細胞と第二の哺乳類の種由来の高品質な多能性幹細胞を共存させる、または混合することができるあらゆる方法により行うことができる。

【0062】
上記の方法において「多能性幹細胞」は、胚性幹細胞(ES細胞)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)、からなる群より選択され、そして「複能性幹細胞」は、栄養芽幹細胞(TS細胞)、エピブラスト幹細胞(EpiS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、多能性生殖細胞(mGS細胞)、および、クローン胚由来ES細胞(ntES細胞)、造血幹細胞、神経幹細胞、および、間葉系幹細胞、からなる群より選択される。好ましい態様において「多能性幹細胞または複能性幹細胞」は、ES細胞またはiPS細胞である。「高品質な多能性幹細胞」は、ES細胞、iPS細胞、あるいはこれらの細胞の内部細胞塊を含む。「高品質な多能性幹細胞」は、好ましくはES細胞である。

【0063】
上記の方法において、哺乳類の種は、哺乳類であれば特に限定されない。好ましい態様において、哺乳類の種は、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、ヒトからなる群より選択され、より好ましくはマウス、ラット、ブタ、サル、ヒトからなる群より選択される。さらに好ましくは、哺乳類の種はヒトではない。したがって、哺乳類の種は、上述の哺乳類の種の群よりヒトを除いた群より選択することもできる。

【0064】
上記の方法の工程(i)では、哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と共培養する。当該工程において、共培養はインビトロで、高品質な多能性幹細胞の培養に適した条件、ナイーブ型の多能性幹細胞の培養に適した条件、またはそれらを組み合わせた条件で培養する。当業者は、培養に適した培地の種類、および、培養温度や培養時間等の培養条件を適宜設定することができる。

【0065】
好ましい培養条件として、ガス濃度はCO5%、Air95%とし、培養温度は37℃~39℃とする条件が挙げられる。例えば、選抜マーカーで標識したiPS細胞を同種の高品質な多能性幹細胞と混合して細胞塊を作製し、フィーダー細胞を敷いたディッシュに播種する。フィーダー細胞としてはMEF(マウス胎仔線維芽細胞)を用いることができる。蛍光タンパク質等の様々な選抜マーカーを用いた選択と、クローニングを行うために良好な形態の目視による選抜により、良好なモザイク状態のコロニーを採取する。これをさらに播種後、新しく形成されたコロニーから、蛍光等の選抜マーカーを有し、かつ状態の良いコロニーを選抜する。その際の培地条件は、例えば、初めは高品質な多能性幹細胞培地条件で培養し徐々にナイーブ型の多能性幹細胞の培養条件に変えていくなど、至適な条件を実施する。例えば、上記「異種間でキメラ形成可能な多能性幹細胞または複能性幹細胞を再樹立する方法」の第一の態様の方法の工程(i)に関する記載において示した「ナイーブ型ブタiPS細胞の培地組成」、「マウスES細胞の培地組成」等を利用してもよい。

【0066】
上記方法の工程(ii)では、工程(i)の共培養において、細胞集合体を形成し、かつ、前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞を含む細胞群を選抜する。工程(ii)は、上記「異種間でキメラ形成能を有する多能性幹細胞または複能性幹細胞を再樹立する方法」の項目の第一の態様の方法の工程(ii)の説明に従って、同様に行うことができる。

【0067】
上記の方法の工程(iii)では、工程(ii)の細胞群を同種の哺乳類由来の宿主胚と共培養する。工程(ii)の細胞群と同種の哺乳類由来の宿主胚との共培養により、同種キメラ胚が作製される。そして、工程(iii)の共培養では、内部細胞塊(ICM)が得られる初期胚盤胞の段階まで同種キメラ胚を培養する。好ましい態様において、当該行程の共培養は、工程(ii)の細胞分を同種の哺乳類由来の宿主胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行う。

【0068】
上記の方法において、宿主胚は、上記「異種間でキメラ形成能を有する多能性幹細胞または複能性幹細胞を再樹立する方法」の項目における説明に従って、同様に選択することができる。

【0069】
好ましくは、上記の方法の工程(iii)は、工程(ii)の細胞群を同種の哺乳類由来の初期胚または4倍体胚にマイクロインジェクションまたはアグリゲーションして共培養することにより行われる。さらに好ましくは、上記の方法の工程(iii)は、工程(ii)の細胞群を同種の哺乳類由来の初期胚または4倍体胚にマイクロインジェクションして共培養することにより行われる。

【0070】
上記の方法の工程(iv)では、工程(iii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する。また、工程(v)では、当該内部細胞塊から前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する。上記の方法の工程(iv)および工程(v)は、上記「異種間でキメラ形成能を有する多能性幹細胞または複能性幹細胞を再樹立する方法」の項目における第一の態様の方法の工程(iv)および工程(v)の説明に従って、同様に行うことができる。

【0071】
第二の態様において、本出願は、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する方法であって、以下の工程:
(i)哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る;
(ii)工程(i)の細胞群を、同種の哺乳類由来の宿主胚と共培養する;
(iii)工程(ii)で共培養した宿主胚から内部細胞塊を分離する;および
(iv)当該内部細胞塊から前記多能性幹細胞または複能性幹細胞に由来する幹細胞をクローニングすることにより、同種間でキメラ形成能を有する幹細胞を再樹立する;
を含む、ここで、当該哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞であるか、齧歯類由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)または複能性幹細胞である、前記方法を提供する。

【0072】
第二の態様の方法は、工程(i)~(iv)を繰り返して行ってもよい。その場合、2サイクル目以降の工程(i)は、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得ることにより行う。

【0073】
第二の態様における「多能性幹細胞または複能性細胞」、「高品質な多能性幹細胞」、及び「哺乳類の種」は、第一の態様と同様に選択することができる。

【0074】
第二の態様の方法の工程(i)では、哺乳類の種由来の多能性幹細胞または複能性幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る。あるいは、第二の態様の工程(i)~(iv)を繰り返す場合、2サイクル目以降の工程(i)では、その直前のサイクルの工程(iv)で再樹立した幹細胞を、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞と合わせて細胞群を得る。この工程は、哺乳類の種由来の多能性幹細胞等と、同種の哺乳類由来の高品質な多能性幹細胞を共存させる、または混合することができるあらゆる方法により行うことができる。

【0075】
第二の態様の方法の工程(ii)~(iv)は、第一の態様の方法の工程(iii)~(v)にそれぞれ対応する。各工程の詳細については、上記に説明したとおりである。
<キメラ形成可能な多能性幹細胞または複能性幹細胞>

【0076】
本出願は、上記の再樹立方法によって得られるキメラ形成可能な幹細胞を提供する。

【0077】
本発明の幹細胞は、齧歯類以外の哺乳類の種由来の多能性幹細胞もしくは複能性幹細胞、または齧歯類由来のiPS細胞もしくは複能性幹細胞から再樹立されたものであり、そして、以下:
・キメラ形成可能;
・細胞集合体を形成可能;および
・内部細胞塊のニッチ環境に親和性が高い;
からなる群より選択される特徴の1以上を有する。

【0078】
本発明のキメラ形成能を有する幹細胞の再樹立法は、多能性幹細胞等がES細胞とともにコロニーを形成するか否か(すなわち、コロニー形成に寄与するか否か)に基づいて、および/または、多能性幹細胞等が内部細胞塊の一部を構成するか否か(すなわち、ICMに寄与するか否か)に基づいて、多能性幹細胞等を選別するものである。このことから、本発明の方法によって再樹立した幹細胞は、上記の特徴を有するものである。本発明の方法により再樹立したキメラ形成可能な幹細胞は、再樹立前の多能性幹細胞等に混在していたキメラ形成不能な細胞を除いて純化し、移植可能な株として再樹立された細胞である。

【0079】
実施例6-9に示されるように、本発明の方法によって再樹立された幹細胞は、再樹立前の細胞と比較して、よりナイーブ型多能性(naive pluripotency)、コア型多能性(core pluripotency)遺伝子群の発現が高いという特性を有する、即ち、より未分化の状態を維持している。これは、キメラ形成能を有する幹細胞として優れた性質を有することを意味する。

【0080】
本発明の方法により再樹立されたキメラ形成能を有する幹細胞は、特に限定されないが、以下の用途に利用され得る。

【0081】
本発明のキメラ形成能を有する幹細胞を利用して、胚盤胞補完法によりキメラ動物を作製することで、当該幹細胞に由来する臓器/臓器原基を形成することができる。このような臓器/臓器原基は再生医療において有用である。

【0082】
また、本発明のキメラ形成能を有する幹細胞を用いて胚盤胞補完法によりキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞および体性細胞を得ることができる。また、当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞および体性細胞を得ることもできる。あるいは、本発明のキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞および体性細胞を得ることもできる。これらの体性幹細胞、臓器前駆細胞および体性細胞は、薬効評価や病態解析に用いるために有用である。本発明のキメラ形成能を有する幹細胞は、キメラ形成能を維持した高品質な幹細胞であるので、当該細胞を出発細胞として効率よくキメラ胚/キメラ動物の作製を行ったり分化させたりすることができる。

【0083】
あるいは、本発明のキメラ形成能を有する幹細胞を利用して、テトラプロイドレスキュー法により、当該幹細胞が伝播された動物を作製することもできる。テトラプロイドレスキュー法は、4倍体の受精卵にiPS/ES細胞等を注入することにより、4倍体細胞は胎盤へと発生し、iPS/ES細胞等のみが個体へと発生することを利用した方法である(Nagy,A.,et al.,Development,110,815-821(1990))。このような動物の作製法は、絶滅危惧種などの希少動物、ペットなどの愛玩哺乳動物、有用な商業動物の保存、再生、および/または維持に有効である。この場合、利用する本発明のキメラ形成能を有する多能性幹細胞等は、同種間でキメラ形成能を有する多能性幹細胞等であることが望ましい。
<細胞を用いた薬効評価または病態解析を行う方法>

【0084】
本出願は、上記の再樹立方法によって得られるキメラ形成可能な幹細胞、または当該キメラ形成可能な幹細胞を分化させて得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞、を用いて薬効評価または病態解析を行う方法を提供する。すなわち、本出願は、細胞を用いた薬効評価または病態解析を行う方法であって、以下:
(i)細胞を得る工程:ここで当該細胞は、(A)本発明の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞であるか、(B)本発明の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞を分化させることにより得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞であり、ここで当該体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞は、以下の(a)~(c)のいずれかの方法により得られるものである:
(a)本発明の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、そして当該キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(b)(a)で得られたキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性細胞を得る;
(c)本発明の方法により再樹立したキメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る;
(ii)工程(i)で得た細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う工程;
を含む前記方法、を提供する。

【0085】
上記の方法の工程(i)において、(A)の「キメラ形成能を有する幹細胞」は、上記「異種間でキメラ形成可能な幹細胞を再樹立する方法」および「同種間でキメラ形成可能な幹細胞を再樹立する方法」において説明した方法によって、多能性幹細胞または複能性幹細胞から再樹立して得ることができる。

【0086】
上記の方法の工程(i)において、(B)の「キメラ形成能を有する幹細胞を分化させることにより得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞」は、まず、「キメラ形成能を有する幹細胞」を(A)と同様にして得た後、以下の(a)~(c)のいずれかの方法を行うことにより得ることができる。
(a)の方法は、キメラ形成能を有する幹細胞からキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔を作製し、そして当該キメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る、というものである。キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔の作製方法は、上記「定義」の項目においてキメラ胚/キメラ動物の作製について記載した方法により行うことができる。キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔から体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得るためには当該細胞を分取・樹立することにより行う。キメラ胚またはキメラ胎児/胎仔からの体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞の分取・樹立は、当業者が通常用いる方法により適宜行うことができる。
(b)の方法は、(a)で得られたキメラ胚またはキメラ胎児/胎仔由来の体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性細胞を得る、というものである。体性幹細胞をインビトロで分化させて臓器前駆細胞または体性幹細胞を得る方法は、当業者が通常用いる方法により適宜行うことができる。
(c)の方法は、キメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させることにより、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る、というものである。キメラ形成能を有する幹細胞をインビトロで分化させて、体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞を得る方法は、当業者が多能性幹細胞をインビトロで分化させるために通常用いる方法により適宜行うことができる。

【0087】
上記の方法の工程(i)において得られる「体性幹細胞、臓器前駆細胞、または体性細胞」は、例えば、心臓、神経、腎臓、肝臓、膵臓、骨格筋、血球系細胞、等に関連する細胞であるが、特に限定されない。

【0088】
上記の方法の工程(ii)において、工程(i)で得た細胞を用いて薬効評価または病態解析を行う。薬効評価または病態解析は、細胞を用いた検査方法であれば当業者が通常用いる方法により、適宜行うことができる。
【実施例】
【0089】
以下に本発明の具体例を示す。これらの具体例は、本発明を理解するための説明を提供することを目的とするものであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
<実施例1:異種間でキメラ形成可能なiPS細胞の再樹立>
【実施例】
【0090】
赤色蛍光タンパク質(クサビラオレンジ、huKO)が導入されたブタiPS細胞をマウスES細胞とともに共培養を行い、増殖能や形態の良いコロニーを選別した。このブタiPS細胞をマウス4倍体胚盤胞(F1×B6)45個にマイクロインジェクションした後、マウス初期胚培養条件(mwm培養液、5%CO、37℃)で1日共培養した。異常形状をしているもの、ICM以外にあるナイーブ型ブタiPS細胞がある胚盤胞を顕微鏡下で除去し、良好な胚だけを4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養した。播種後増殖してきたICMから良好な形態をし、蛍光顕微鏡(Axio Observer D1 system,Carl Zeiss)にて赤色蛍光を有することを確認したモザイク状態のものだけを、増殖能や形態を指標に目視で選別しピックアップした。0.025%トリプシン/0.1mM EDTA処理し、細胞塊を分散した後、新しく準備した4穴プレートのフィーダー細胞上にそれぞれ別々に移して培養した。播種後、さらに新しく形成されたコロニーから、蛍光顕微鏡にて赤色蛍光を有することを確認して状態の良いコロニーを選抜し(4ライン)、これを再樹立後のコロニーとした(図2)。
<実施例2:再樹立したiPS細胞の核型の検討>
【実施例】
【0091】
再樹立前のブタiPS細胞と、再樹立後のiPS細胞の核型をQ-バンド染色法により検討したところ、いずれも38、XXの正常核型であった。以上から、再樹立の操作により、細胞融合や染色体の脱落などによる核型の変化は認められなかった。このことより再樹立の操作は、ヘテロなiPS細胞集団からのクローン化によるものであることが示された(図3)。
<実施例3:再樹立したiPS細胞を用いたキメラ動物作製>
【実施例】
【0092】
再樹立したブタiPS細胞のキメラ形成能を、マウス胚盤胞に移入して検討した。移植は胚盤胞期胚(F1×B6など)に対して、再樹立後のブタiPS細胞を約10個ずつピエゾマイクロマニピュレーターで注入した。注入を行った胚盤胞期胚を、膣栓を確認後2.5または3.5日目のレシピエントICRマウス8匹の子宮に移植し、妊娠8.5、9.5、10.5日目にレシピエントICRマウスを頸椎脱臼で安楽死後、子宮を取り出し脱落膜ごと胎仔胎盤を採集した。E9.5、E10.5、E11.5の異種間キメラマウスおよび羊膜を複数採取することができた。キメラ形成したブタiPS細胞由来の細胞は蛍光実体顕微鏡(M165 FC、Leica)にて赤色蛍光を確認した(図4)。その結果、胎仔においてブタiPS細胞由来の細胞が存在することが確認され、再樹立したiPS細胞を用いてキメラ動物の作製が可能であることが示された。また、ブタiPS細胞由来の細胞は羊膜(胎仔由来の組織)に存在することも示された。ネガティブコントロール(正常マウス胎盤)では、赤色蛍光は確認されなかった。
<実施例4:再樹立したiPS細胞を用いたキメラ動物作製>
【実施例】
【0093】
キメラ胚におけるブタiPS細胞の存在を確認するために、E9.5、E10.5の胎仔および羊膜から、PCRにてブタのミトコンドリアDNA(mtDNA)の検出を試みた。
【実施例】
【0094】
具体的には、蛍光実体顕微鏡にて観察したE9.5、E10.5のキメラ胎仔および羊膜をプロテアーゼ処理後、各々のDNAを抽出した。これらのDNAを用いて、PCR法にてブタmtDNAおよびマウスmtDNAを検出した。ブタmtDNAの検出には、5’-CAT TGG AGT AGT CCT ACT ATT TAC CGT T-3’(配列番号1)および5’-GGA TTA GTA GGA TTA GTA TTA TAA ATA AGG CTC-3’(配列番号2)のプライマーセットおよびrTaqを用いて、94℃15秒、62℃20秒、72℃40秒を40サイクル実施した。またマウスmtDNAの検出には、5’-ATC ATT CAT AGC CTG GCA GA-3’(配列番号3)および5’-AAG GAT GAA TAT GGA TTT GC-3’(配列番号4)のプライマーセットおよびrTaqを用いて、94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を35サイクル実施した。PCRの特異性は高く、pig fibroblastsとB6マウスtail DNAコントロールで示すように、それぞれブタまたはマウスmtDNAでのみ検出した。なお、ブタiPS細胞は、マウスフィーダー細胞上で培養しているため、両方のプライマーで検出された(図5)。
【実施例】
【0095】
胎仔(embryo)では6/10、羊膜(yolk sac)では5/10の率でブタのmtDNAを検出した(図5)。すなわち、異種間キメラ胚は高頻度で形成されたことから、再樹立した多能性幹細胞のキメラ形成能は非常に高いことが示された。また、本細胞は羊膜への分化能も示され、高度の多能性を獲得していることを示した。
<実施例5:同種間でキメラ形成可能なiPS細胞の再樹立>
【実施例】
【0096】
マウスiPS細胞から再樹立にて、良好なコロニーを単離した。これを雄性不妊マウスの胚盤胞を用いてキメラマウスを作製し、補完法にて精巣・精子を作製した。
【実施例】
【0097】
具体的には、キメラ形成能をほとんど持たないC57BL/6J-Tg(EGPF)オス由来のiPS細胞を実施例1の方法で再樹立し、再樹立iPS細胞を得た。次にC57BL/6J 3週齢雌マウスをホルモン処理して過剰排卵を誘起した後に同胞異種マウスSPR2(Mus Spretus)雄マウスと交配することで多くの受精胚(異種間交雑胚)を得た。再樹立iPS細胞を約10個ずつピエゾマイクロマニピュレーターで異種間交雑胚盤胞に注入した。注入を行った30個の胚盤胞期胚を、膣栓を確認後2.5日目のレシピエントICRマウス1匹の子宮に移植し、出産前夜(妊娠18.5日目の夜)に帝王切開により3匹の雄胎仔を取り出した。いずれも精巣にiPS細胞由来の細胞が存在することを、蛍光顕微鏡を用いて緑色蛍光を検出することによって確認した(図6)。
<実施例6:再樹立前及び後の細胞における遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリング>
【実施例】
【0098】
再樹立前のブタiPS細胞(iPS cell)の培養用デッシュ3枚、再樹立後のブタiPS細胞(Re-iPS cell)の培養用デッシュ3枚から、各々RNA抽出を行った。
【実施例】
【0099】
【表1】
JP2016052759A1_000002t.gif
【実施例】
【0100】
各細胞より抽出したRNAについて、イルミナ社HiSeq 2000を用いてRNA-Seqを行い、ブタのトランスクリプトームのパイプラインでマッピングした結果、17,092の遺伝子数を同定した。サンプル間比較の組合せで検定された遺伝子の発現量をFPKM(Fragments Per Kilobase of exon per Million mapped fragments)値で示し、群平均法にてクラスタリングを行い、キャンベラ(canberra)アルゴリズムにて距離を測定した。
【実施例】
【0101】
ブタiPS細胞の再樹立前および再樹立後の各細胞における遺伝子発現プロファイルの階層的クラスタリングの結果を、図7に示す。再樹立前の細胞と再樹立後の細胞で、各々の遺伝子発現プロファイルは大きく2つの群にグループ化された。即ち、再樹立後の細胞の遺伝子発現プロファイルは、再樹立前のものとは異なり、特定の遺伝子発現パターンを示すことが明らかになった。
<実施例7:再樹立iPS細胞中の山中4因子の発現>
(1)内因性遺伝子の発現レベル
実施例6で得られた再樹立前のiPS細胞(piPS3、piPS8、piPS9)、及び、再樹立後のiPS細胞(piPS1、piPS5、piPS6)について、山中4因子に相当するブタの内在性遺伝子(PAU5F1(Oct4)、KLF4、SOX2、MYC)および多能性維持に重要なNANOG遺伝子の、再樹立前後による遺伝子発現量の変化を、FPKM値の変化に基づいて検討した。結果を図8に示す。多能性維持に必要なNANOG、PAU5F1(Oct4)、KLF4の遺伝子発現量は有意に上昇した(FPKM値のlog値、1.3以上)。一方、SOX2の発現量は変わらず、MYCの発現量については有意差はないが減少傾向にあった。以上から、再樹立後のブタiPS細胞は、多能性維持に重要な内因性遺伝子の発現上昇が認められた。
【実施例】
【0102】
(2)外因性遺伝子の発現レベル
本実施例で使用されたブタiPS細胞は、元来ブタ繊維芽細胞にヒト山中4因子の遺伝子を導入して作製されている。一般にナイーブ型のマウスiPS細胞などでは、iPS細胞作製時に外来性に導入された山中4因子の遺伝子発現は抑制される傾向にある。本実施例7(2)では、iPS細胞作製時に外来性に導入したヒト山中4因子の遺伝子発現が、再樹立の前後で変化があるかを検討した。
【実施例】
【0103】
実施例6のRNA-Seqの結果を、ヒトのトランスクリプトームのパイプラインでヒト遺伝子にマッピングを行い、ヒト遺伝子由来の転写物を同定したところ、ヒト遺伝子へのマッッピング率は3~4%であり、ヒト遺伝子への比率は妥当であった。そして、再樹立前後のヒト山中4因子遺伝子(hPAU5F1(hOct4)、hKLF4、hSOX2、hMYC)の発現を検討すると、いずれも有意に減少していることが明らかになった。陰性コントロールとして、山中4因子ではないヒトNANOG遺伝子(hNANOG)を検討したが、再樹立の前後とも、その発現はほとんど検出できなかった(ネガティブコントロール)。以上から、ブタiPS細胞を樹立した際に導入したヒト山中4因子の発現は、再樹立後に有意に減少していた。
【実施例】
【0104】
図10に、上記(1)(図8)及び(2)(図9)における遺伝子発現変化の傾向をまとめた。再樹立後の細胞では、外来性の山中4因子の遺伝子発現が抑制されたこと、また内因性の多能性維持に重要な、NANOG、Oct4(PAU5F1)、KLF4の遺伝子発現が増加していることが明らかになった。再樹立後の細胞は、以上のようなナイーブ型の傾向を有した。
<実施例8:再樹立細胞のピアソンの相関分析>
【実施例】
【0105】
実施例6で、再樹立前のiPS細胞(piPS3、piPS8、piPS9)、及び、再樹立後のiPS細胞(piPS1、piPS5、piPS6)について、RNA-Seqを行い、ブタのトランスクリプトームのパイプラインでマッピングを行った。各々の遺伝子発現プロファイルについてピアソンの相関係数を産出し、それぞれの発現プロファイルの近似性を検討した。
【実施例】
【0106】
結果を図11に示す。再樹立後の細胞群(Re-iPS cell)では、各細胞(ディッシュ)間においてプロファイルのバラツキはなかった。一方、再樹立前の細胞(iPS cell)では、各細胞(ディッシュ)毎に遺伝子発現プロファイルのバラツキが大きく認められた。以上から、再樹立前のiPS細胞においては、多様な細胞が混在し、培養のディッシュ毎に大きなバラツキが生じることが認められたが、再樹立した細胞では、培養してもバラツキが認められず均一な性質を有することが認められる。再樹立の技術によって均一な性質のクローンのみ選別され、その後培養しても性質が大きく変化しないことが明らかになった。
<実施例9:DAVIDを用いた遺伝子オントロジー(GO)分析>
【実施例】
【0107】
実施例6で得られたRNA-Seqの結果から、再樹立後のiPS細胞(piPS1、piPS5、piPS6)において再樹立前の細胞(piPS3、piPS8、piPS9)に比べて発現量で、log値が2以上変化した遺伝子群を抽出し、Database for Annotation,Visualization and Integrated Discovery(DAVID)(National Institute of Allergy and Infectious Diseases(NIAID),NIH提供)を用いて、遺伝子オントロジー(GO)分析を行った。
【実施例】
【0108】
図12は、GO分析の結果、再樹立細胞において遺伝子の発現が再樹立前の細胞に比べてlog値が2以上増加する遺伝子の種類及び発現が減少する遺伝子の種類をまとめた図である。再樹立細胞において、糖タンパク質、細胞接着分子、胚形態形成、細胞外マトリックスなどに関与する遺伝子の発現が増加している。
【実施例】
【0109】
Nature Cell Biology,16:513(2014)では、マウス胚2細胞期から移植後胚盤胞に分化・成長するまでのステージをE1.5-E5.5までの各ステージに分け、各ステージにおける遺伝子発現量を調べている。その結果、各遺伝子発現の特性をナイーブ型多能性(naive pluripotency)、コア型多能性(core pluripotency)、プライム型多能性(primed pluripotency)、原始内胚葉(primitive endoderm)の4種類にグループ分けしている。
【実施例】
【0110】
図13は、ナイーブ型多能性(naive pluripotency)、コア型多能性(core pluripotency)、プライム型多能性(primed pluripotency)、原始内胚葉(primitive endoderm)の各特性に関する遺伝子の発現についてブタiPS細胞の再樹立の前後で比較した図である。上段は各遺伝子のFPKM値、そして下段は、再樹立前後の遺伝子発現量の変化をlog値で示したものである。再樹立により、Tbx3、ESRRB、DPPA3、KLF4等のナイーブ型多能性(naive pluripotency)の特性に関する遺伝子、POU5F1、NANOG、SALL4、GDF3等のコア型多能性(core pluripotency)の特性に関する遺伝子の発現量が増加した。一方、プライム型多能性(primed pluripotency)の特性に関するLEF1の発現量は減少した。再樹立によりiPS細胞がよりナイーブな状態になったことが理解される。
【実施例】
【0111】
Scientific Rep.3:3492(2013)では、Tbx3、Zscan4がマウス胚2細胞期の制御(未分化状態の制御)に関与していることを記載している。図14は、Tbx3、Pou5F1(Oct4)及びZscan4の各遺伝子の発現がブタiPS細胞において再樹立により増加していることを示している。Zscan4は、テロメラーゼ非依存的なテロメアの維持、ゲノムの安定性に関与している遺伝子として知られており、細胞の未分化状態のマーカーとして使用され得る。再樹立iPS細胞では、Zscan4が増加し2細胞状態(未分化状態)が維持されることが明らかになった。
【実施例】
【0112】
Nature Cell Biology,16:513(2014)では、マウス胚盤胞の胚性細胞外マトリックスの構成成分の詳細を図示している。胚性細胞外マトリックスの構成成分は、インテグリン、ラミニン、ICAM、コラーゲン等を含み、特に、フィブロネクチンのFn1、ラミニンのラミニンa5、ラミニンb1、ラミニンc1の各鎖が40%以上を占める。
【実施例】
【0113】
図15は、胚性細胞外マトリックスの構成成分の各遺伝子発現についてブタiPS細胞の再樹立の前後で比較した図である。上段は各遺伝子のFPKM値、そして下段は、再樹立前後の遺伝子発現量の変化をlog値で示したものである。再樹立により、複数種のインテグリン、ラミニン、ICAM、コラーゲン等の多くの細胞外マトリックスの遺伝子が増加した。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の方法により、既存の方法により作製した多能性幹細胞等のヘテロな細胞群から、キメラ形成能を有する細胞群を訓化・選別することができる。すなわち、本発明の方法は、ヘテロな細胞集団をモノクローン化して高品質化する技術であり、再生医療におけるiPS細胞/ES細胞等を用いた臓器形成の出発細胞を得るために有用な技術である。本発明の方法は多能性幹細胞等を確立する既存の方法と競合するものではない。本発明の方法を、既存の方法の実施後に行うことで多能性幹細胞等をさらに高品質化し、臓器形成等の成功率を高めることに貢献するものである。また、本発明の方法により再樹立した細胞、本発明の方法により再樹立した細胞から作製したキメラ胚/胎仔から得た体性細胞、体性幹細胞、および臓器前駆細胞、ならびに、本発明の方法により再樹立した細胞をインビトロで分化させて得た体性幹細胞、臓器前駆細胞、および体性細胞は、病態解析や薬効評価等に有用である。
【0115】
あるいは、キメラ形成能を有する多能性幹細胞等を提供することは、絶滅危惧種などの希少動物、ペットなどの愛玩哺乳動物、有用な商業動物の保存、再生、および/または維持にも有用である。
[配列表]
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図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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