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明細書 :家畜視床下部繁殖中枢由来不死化神経細胞株

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-108650 (P2017-108650A)
公開日 平成29年6月22日(2017.6.22)
発明の名称または考案の名称 家畜視床下部繁殖中枢由来不死化神経細胞株
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12N 5/10 ZNA
C12Q 1/02
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2015-243719 (P2015-243719)
出願日 平成27年12月15日(2015.12.15)
発明者または考案者 【氏名】松田 二子
【氏名】大蔵 聡
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100167689、【弁理士】、【氏名又は名称】松本 征二
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR36
4B063QR42
4B063QR50
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS34
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA25
4B065CA44
要約 【課題】家畜の生殖・繁殖活動を制御するヤギや牛等の反芻家畜の視床下部由来のKNDyニューロン、GnRHニューロンから不死化細胞株を樹立する方法。
【解決手段】SV40T-antigenを発現させることにより、神経細胞の不死化を図り、さらに、各ニューロンのマーカーの発現を指標として細胞クローンを選抜した床下部由来不死化神経細胞株、好ましくは、KNDyニューロン由来もしくはGnRHニューロン由来不死化神経細胞株。不死化神経細胞株に、候補化合物を接触させる反芻家畜の繁殖に効果を有する薬剤のスクリーニング方法。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
反芻家畜の視床下部神経細胞に由来し、
NSE発現陽性、GFAP発現陰性であることを特徴とする視床下部由来不死化神経細胞株。
【請求項2】
前記反芻家畜が、ヤギ、又はウシであることを特徴とする請求項1記載の視床下部由来不死化神経細胞株。
【請求項3】
請求項1又は2記載の視床下部由来不死化神経細胞株が、
TAC3、ESR1、KISS1、PDYN、TACR3、PGRを少なくとも1つ発現していることを特徴とするKNDyニューロン由来不死化神経細胞株。
【請求項4】
請求項1又は2記載の視床下部由来不死化神経細胞株が、
GNRH1、及び/又はKISS1R陽性であることを特徴とするGnRHニューロン由来不死化神経細胞株。
【請求項5】
請求項4記載の視床下部由来不死化神経細胞株が、
さらに、ESR1陰性であることを特徴とするGnRHニューロン由来不死化神経細胞株。
【請求項6】
受託番号NITE P-02081で寄託されているヤギKNDyニューロン由来不死化神経細胞株GA28。
【請求項7】
受託番号NITE P-02082で寄託されているウシKNDyニューロン由来不死化神経細胞株CA2。
【請求項8】
受託番号NITE P-02083で寄託されているウシKNDyニューロン由来不死化神経細胞株CA38。
【請求項9】
受託番号NITE P-02084で寄託されているウシGnRHニューロン由来不死化神経細胞株CP3。
【請求項10】
受託番号NITE P-02085で寄託されているウシGnRHニューロン由来不死化神経細胞株CP22。
【請求項11】
受託番号NITE P-02086で寄託されているウシGnRHニューロン由来不死化神経細胞株CP28。
【請求項12】
請求項1~11に記載の不死化神経細胞株に、
候補化合物を接触させることを特徴とする反芻家畜の繁殖に効果を有する薬剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
哺乳類の生殖・繁殖活動を制御する中枢である視床下部において中心的な役割を果たすKNDyニューロンとGnRHニューロンの2種類の神経細胞から樹立した不死化神経細胞株に関する。特に、これまで樹立されていなかったウシ、ヤギのような反芻動物の家畜から樹立した視床下部由来の神経細胞株に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の繁殖制御技術は畜産の発展とともに発達を遂げている。わが国では家畜増進法の制定や凍結精液の普及により、人工授精技術が日本全土に広く普及している。中でもウシの人工授精技術の発展は目覚しく、現在では凍結精液を用いた人工授精が肉用牛、及び乳用牛の繁殖のほぼ100%で実施されている。
【0003】
しかし、近年では人工授精による受胎率の低下が報告されているほか、微弱発情や卵巣静止などの繁殖障害による空胎期の延長が問題視されている。空胎期の延長は、畜産物の生産効率を低下させる原因となるからである。さらに、世界的に畜産物の需要が増加しており、家畜を効率的に繁殖し生産する技術の開発が待たれている。
【0004】
雌性動物の生殖周期は性成熟から始まり、発情、排卵、受精、着床、分娩、哺乳のサイクルを繰り返す。その生殖周期のいずれかの段階に異常が起こり、繁殖が停止する状態を繁殖障害と呼ぶ。繁殖障害は家畜の空胎期間の延長につながり、家畜は次世代の個体を産むことなく無為に飼料を消費することになる。繁殖障害は、ホルモン分泌の異常、微生物感染、先天性の遺伝子変異、飼養管理状況の不良など様々な要因によって起こることが知られている。
【0005】
このうちホルモン分泌の異常によって起こる繁殖障害については詳しいメカニズムは解明されていない。そのため、ウシ等の家畜のホルモン分泌の異常によって繁殖障害が起こるメカニズムや、繁殖を最も上位で制御する機構(繁殖中枢)の解明が待たれている。繁殖中枢を制御するメカニズムが解明されることにより、より効率的に家畜を繁殖させることが可能となるからである。
【0006】
現在までにホルモンによる繁殖制御については以下のような機構が明らかにされている。哺乳類の繁殖機能は、視床下部-下垂体-性腺が一連の単位となって制御されている。視床下部から下垂体門脈系に分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(gonadotropin-releasing hormone、GnRH)は、下垂体前葉からの黄体形成ホルモン(luteinizing hormone、LH)及び卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone、FSH)からなる性腺刺激ホルモン(gonadotropin,GTH)の分泌を促進する。GnRHは血中に律動的に放出され、GnRHの分泌動態に対応してGTHも血中に律動的に分泌される。これらはそれぞれGnRHパルス、GTHパルスとよばれ、雌性動物における卵胞発育に必要であることが知られている(非特許文献1)。卵胞の発育が十分に進むと、GnRHの一過性大量分泌(GnRHサージ)が起こり、それに引き続いて起こるLHサージによって排卵が誘起される。
【0007】
GnRHニューロンは、パルス状、サージ状のGnRH分泌により卵胞発育、排卵をそれぞれ誘起し、性周期を制御している。すなわち、卵巣内での卵胞発育や排卵のタイミングはGnRHの分泌動態によって制御されている。このように、GnRHニューロンは繁殖中枢として重要な役割を果たしているが、どのような機構によってGnRHニューロンが制御されているかは不明である。
【0008】
近年、GnRHニューロンを上位で制御するキスペプチン(kisspeptin)と呼ばれる神経ペプチドが発見された(非特許文献2)。特に、弓状核に局在するキスペプチンニューロンは、キスペプチンだけでなくニューロキニンB(neurokinin B、NKB)及びダイノルフィンA(dynorphin A)と呼ばれる神経ペプチドも分泌することから、KNDyニューロンと呼ばれている。このKNDyニューロンがGnRHパルスジェネレーターであることが示唆されている。GnRHパルスジェネレーターとは、GnRHのパルス状の分泌パターン、特にパルス頻度を制御する神経内分泌機構をいう。
【0009】
GnRHニューロンは視床下部において他の細胞と混じって散在し、さらにその細胞数が限られていることから、その詳細な機能についての研究が困難であった。繁殖機能を制御するメカニズムを研究するためには、細胞レベルでの解析が不可欠である。そのため、げっ歯類(マウス)ではGnRHニューロン細胞株が樹立されている(非特許文献3)。また、げっ歯類(マウス、ラット)においては、視床下部の様々なニューロンに由来すると考えられる視床下部由来不死化神経細胞株も樹立されている(非特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【0010】

【非特許文献1】Belchetz, P.E., et al., 1978, Science, Vol.202, pp.631-633.
【非特許文献2】Ohtaki, T., et al., 2001, Nature, Vol.411, pp.613-617.
【非特許文献3】Mellon, P.L., et al., 1990, Neuron, Vol.5, pp.1-10.
【非特許文献4】Belsham, D.D., et al., 2004, Endocrinology, Vol.145, pp.393-400.
【非特許文献5】Gingerich, S., et al., 2009, Neuroscience, Vol.162, pp.1134-1140.
【非特許文献6】Wakabayashi, Y., et al., 2010, J. Neurosci., Vol.30, pp.3124-3132.
【非特許文献7】Goodman R.L., et al., 2007, Endocrinology, Vol.148, pp.5752-5760.
【非特許文献8】Foradori, C.D.et al., 2002, Endocrinology, Vol.143, pp.4366-4374.
【非特許文献9】Goubillon M., et al., 2000, Endocrinology, Vol.141, pp.4218-4225.
【非特許文献10】Franceschini I., et al., 2006, Neurosci. Lett., Vol.401, pp.225-230.
【非特許文献11】Amstalden, M., et al., 2010, J. Neuroendocrinol., Vol.22, pp.1-12.
【非特許文献12】Navarro V.M.et al., 2009, J. Neurosci., Vol.29, pp.11859-11866.
【非特許文献13】Burke M.C. et al., 2006, J. Comp. Neurol., Vol.498, pp.712-726.
【非特許文献14】Adachi S. et al., 2007, J. Reprod. Dev., Vol. 53, pp. 367-378.
【非特許文献15】Smith J.T. et al., 2007, Endocrinology, Vol.148, pp.1150-1157.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これまでに報告されている哺乳類の視床下部由来神経細胞株は、上述のようにげっ歯類由来のもののみである。げっ歯類とウシ、ヤギ等の家畜には形態学的、生理学的に様々な違いがある。
【0012】
げっ歯類は「不完全性周期動物」に分類され、卵巣で卵胞発育、排卵、黄体形成が繰り返されるが、交尾刺激がなければ黄体が機能しない。一方、ヤギ、ウシ、ヒトなどは「完全性周期動物」に分類され、交尾の有無に関係なく、卵巣で卵胞発育、排卵、機能黄体の形成が繰り返される。このような性周期の違いから、KNDyニューロンとGnRHニューロンの制御機構がヤギ、ウシのような反芻動物とマウス、ラットのようなげっ歯類とでは異なる可能性が考えられる。そのため、家畜の繁殖制御メカニズムを解明するためには、家畜の視床下部由来神経細胞株が不可欠である。したがって、家畜の視床下部由来の神経細胞株の樹立が待たれている。
【0013】
また、GnRHパルスジェネレーターとしての機能が示唆されているKNDyニューロン由来の細胞株はあらゆる動物種において報告がない。そのため、生殖、繁殖活動の制御の研究に有用なKNDyニューロンの細胞株の樹立が必要であると考えられている。
【0014】
本発明は、反芻動物、とくに家畜として有用なウシ、ヤギのKNDyニューロンやGnRHニューロンに由来する細胞株を樹立し、提供することを課題とする。樹立した神経細胞株は、家畜の繁殖制御メカニズムを研究するために役立つだけでなく、繁殖を効率的に行うための薬剤のスクリーニングに利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下に示す不死化神経細胞株、及びこれを用いた薬剤のスクリーニング方法に関する。
(1)反芻家畜の視床下部神経細胞に由来し、
NSE発現陽性、GFAP発現陰性であることを特徴とする視床下部由来不死化神経細胞株。
(2)前記反芻家畜が、ヤギ、又はウシであることを特徴とする(1)記載の視床下部由来不死化神経細胞株。
(3)(1)又は(2)記載の視床下部由来不死化神経細胞株が、
TAC3、ESR1、KISS1、PDYN、TACR3、PGRを少なくとも1つ発現していることを特徴とするKNDyニューロン由来不死化神経細胞株。
(4)(1)又は(2)記載の視床下部由来不死化神経細胞株が、
GNRH1、及び/又はKISS1R陽性であることを特徴とするGnRHニューロン由来不死化神経細胞株。
(5)(4)記載の視床下部由来不死化神経細胞株が、
さらに、ESR1陰性であることを特徴とするGnRHニューロン由来不死化神経細胞株。
(6)受託番号NITE P-02081で寄託されているヤギKNDyニューロン由来不死化神経細胞株GA28。
(7)受託番号NITE P-02082で寄託されているウシKNDyニューロン由来不死化神経細胞株CA2。
(8)受託番号NITE P-02083で寄託されているウシKNDyニューロン由来不死化神経細胞株CA38。
(9)受託番号NITE P-02084で寄託されているウシGnRHニューロン由来不死化神経細胞株CP3。
(10)受託番号NITE P-02085で寄託されているウシGnRHニューロン由来不死化神経細胞株CP22。
(11)受託番号NITE P-02086で寄託されているウシGnRHニューロン由来不死化神経細胞株CP28。
(12)(1)~(11)に記載の不死化神経細胞株に、
候補化合物を接触させることを特徴とする反芻家畜の繁殖に効果を有する薬剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0016】
本発者らは、今まで樹立されたことのなかった反芻家畜の視床下部神経細胞由来の細胞株を樹立した。特に、KNDyニューロン由来の不死化細胞株は、今まで動物種を問わず樹立されておらず、本発明者らが初めて樹立に成功した。これら細胞株は、今まで不明な点が多かったGnRHの制御機構を明らかにする有用なツールとして使用することができる。
【0017】
また、今までげっ歯類でしか樹立されていないGnRHニューロン由来の不死化細胞株を、反芻家畜であるヤギ、ウシから樹立することができた。げっ歯類とこれら反芻動物では生理学的・解剖学的に違いがあることから、繁殖制御機構も異なっているものと推測される。今後これらの細胞株を用いて、反芻家畜の繁殖制御機構が明らかになるものと考えられる。その結果、家畜の繁殖をより効率的に制御可能な技術を提供することができるとともに、薬剤の開発効率を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】不死化細胞株作製の過程を模式的に示した図。
【図2】RT-PCRによる不死化細胞クローンの神経細胞マーカーの発現結果を示す図。
【図3】図3AはRT-PCRによる不死化細胞クローンのKNDyニューロンマーカーの発現を示す。図3Bは、KNDyニューロンの遺伝子発現パターンを示す細胞GA28の形態を示す顕微鏡写真。
【図4】RT-PCRによる不死化細胞クローンの神経細胞マーカーの発現結果を示す図。
【図5】RT-PCRによる不死化神経細胞クローンのKNDyニューロンマーカーの発現を示す図。
【図6】RT-PCRによる不死化細胞クローンの神経細胞マーカーの発現結果を示す図。
【図7】RT-PCRによる不死化神経細胞クローンのGnRHマーカーの発現を示す図。
【図8】ヤギTAC3の5´上流領域の配列を示す図。
【図9】種の異なる細胞株でのヤギTAC3の5´上流領域の転写活性を示す図。
【図10】KNDyニューロン不死化細胞株CA38におけるsenktideのTAC3発現に対する効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で反芻動物とは複数の胃を有する反芻行動を行う動物のことであり、具体的には反芻亜目に分類される動物をいう。特に、家畜として有用なウシ、ヤギ、ヒツジを反芻家畜という。

【0020】
視床下部由来の神経細胞とは、視床下部から樹立された細胞株であって、神経細胞マーカーであるneuron-specific enolase(NSE)発現陽性であり、グリア細胞マーカーであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)発現陰性である細胞株をいうものとする。反芻家畜に関して、KNDyニューロン、GnRHニューロンがどのような遺伝子を発現しているかは限られた遺伝子で検討されているだけである(非特許文献6~11)。したがって、本発明では、少なくとも下記の遺伝子発現特性を備えているものであると定義する。

【0021】
視床下部神経細胞由来細胞株のうち、KNDyニューロン由来の細胞株とは、上記神経細胞マーカーの遺伝子発現特性に加え、少なくともキスペプチンをコードする遺伝子であるKISS1発現陽性、ニューロキニンBをコードする遺伝子であるTAC3発現陽性、ダイノルフィンをコードする遺伝子であるPDYN発現陽性、estrogen receptor α(ERα)をコードする遺伝子であるESR1発現陽性である細胞株をいう。さらに、ニューロキニンB受容体であるNK3Rをコードする遺伝子であるTACR3発現陽性、progesterone receptor(PR)をコードする遺伝子であるPGR発現陽性であることが好ましい。

【0022】
また、GnRHニューロン由来の細胞株とは、上記神経細胞マーカーの遺伝子発現特性、すなわちNSE発現陽性、GFAP発現陰性であることに加え、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)をコードする遺伝子であるGNRH1発現陽性である細胞株をいう。さらに、キスペプチン受容体をコードする遺伝子であるKISS1R発現陽性、ESR1発現陰性であることが好ましい。

【0023】
本発明において遺伝子の発現は、RT-PCRで解析を行っているが、発現を確認できるのであればどのような方法を用いてもよい。遺伝子の発現はRNAを検出することにより行うことができる。RNAを検出することにより遺伝子発現を解析する方法としては、ノーザンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法等、公知の方法を用いることができる。さらに、遺伝子発現をRNAを検出することにより行うのではなく、タンパク質発現を抗体によって検出してもよい。タンパク質を検出する方法としては、ウェスタンブロット法、ELISA等公知の方法を用いることができる。

【0024】
本発明の細胞株を用いた新しい薬剤を得るためのスクリーニング方法は、例えば、下記のような方法で行うことができる。例えば、NK3R作動薬、ERα作動薬のようなKNDyニューロンに直接作用すると考えられる薬剤をスクリーニングする場合には、KNDyニューロン由来不死化細胞株を単独で用いてスクリーニングを行えばよい。具体的には候補物質をKNDyニューロン細胞株に添加後、シグナル伝達に関わる分子や、性腺刺激に関与するペプチドの放出を測定し、これらを指標とすることによりスクリーニングを行うことができる。シグナル伝達に関わる分子としては、例えば、細胞内カルシウムイオンが挙げられこれを測定すればよい。また、性腺刺激に関与するペプチドとしては、キスペプチンが挙げられ、キスペプチンの分泌量の測定を行うことによって薬剤の効果を評価することができる。

【0025】
また、KNDyニューロン由来不死化細胞株とGnRHニューロン由来不死化細胞株の共培養系も、上記の薬剤のスクリーニングに使用することができる。KNDyニューロン由来不死化細胞株とGnRHニューロン由来不死化細胞株を共培養し、候補物質を共培養系に添加する。この場合、薬効評価はGnRH分泌量の測定により行えばよい。

【0026】
また、キスペプチン受容体作動薬のようにGnRHニューロンに直接作用すると考えられる薬剤のスクリーニングを行う場合には、GnRHニューロン由来不死化細胞株を単独で用いればよい。薬剤を細胞株に添加後、細胞内カルシウムイオン濃度の測定、GnRH分泌量の測定等によって、薬剤の効果を評価することができる。上記に記載したスクリーニング方法は一例であり、これらの方法に限らず、公知のスクリーニング方法を適用できることはいうまでもない。
【実施例1】
【0027】
[シバヤギKNDyニューロン細胞株の樹立]
1.動物及び組織採取
非特許文献4の方法を改変し、シバヤギ視床下部から神経細胞株を樹立した。妊娠雌シバヤギを麻酔下で帝王切開してメス胎子(胎齢118日)を摘出し、頭皮と頭骨を切断して、脳を取り出した。氷上のシャーレ上で脳から視床下部弓状核領域を目視で切り出し、約5mm角にカミソリでトリミングした。採取した弓状核組織は、氷冷した無血清培地(1× B-27 supplement(Gibco社製)、0.5mM L-グルタミン(Gibco社製)、100U/mL ペニシリン‐100μg/mL ストレプトマイシン(Gibco社製)を含むNeurobasal培地(Gibco社製))に浸漬した。
【実施例1】
【0028】
2.不死化細胞の選抜
(1)初代培養
図1に不死化細胞株樹立の過程を模式的に示す。採取した弓状核(Arcuate nucleus、ARC)組織を無血清培地で洗浄後、培地を除去した。弓状核組織は、1mm角程度になるようにカミソリで切断した。切断後の組織に37℃に加温したパパイン溶液(15U/mL パパイン(フナコシ株式会社製)、1.14mM L-システイン塩酸塩一水和物(関東化学株式会社製)、20%(w/v)ウシ血清アルブミン(和光純薬株式会社製)、27.8mM D(+)-グルコース(和光純薬株式会社製))を添加して、37℃で15分間静置した。
【実施例1】
【0029】
その後、無血清培地で洗浄し、再度パパイン溶液で同様に処理を行った後、ピペッティングにより視床下部組織の細胞間接着を十分に解離した。70μmセルストレイナー(ベクトン・ディッキンソン社製)に通して細胞塊を除き、800rpmで5分間遠心し、細胞を集めた。集めた細胞は、基本培地(15%非動化ウシ胎児血清(株式会社ニチレイバイオサイエンス製)、1× B-27 supplement、0.5mM L-グルタミン、100U/mL ペニシリン‐100μg/mL ストレプトマイシン、5ng/mL basic fibroblast growth factor(Invitrogen社製)を含むNeurobasal培地)に懸濁し、再度遠心分離を行った。
【実施例1】
【0030】
上清除去後、ポリ-L-リジンコーティングした24ウェルプレート(IWAKI社製)に基本培地で細胞懸濁液の段階希釈液を作って播種した。播種した細胞は37℃、5%COインキュベーターで24時間培養し、適切な細胞数のウェルを選択し、下記の不死化処理を実施した。
【実施例1】
【0031】
(2)不死化処理及び不死化細胞の選択
細胞の不死化はSV40 large T-antigen遺伝子をレンチウイルスによって導入することにより行った。24時間培養した初代培養細胞をPBSで洗浄後、基本培地を500μL/ウェル加えた。細胞不死化用レンチウイルスとして、T-antigen(Neo)lentiviral particles(GenTarget社製)を50μL/ウェル添加し、72時間培養した。その後、800μg/mL G418(ロシュ・ダイアグノスティクス株式会社製)を含む基本培地によって、不死化細胞を選抜した。不死化細胞の選抜は、800μg/mL G418を含む基本培地を3~4日毎に交換し、2週間かけて行った。選抜後は200μg/mL G418を含む基本培地で継代した。
【実施例1】
【0032】
3.細胞のクローニング及び神経由来不死化細胞株の同定
G418で選抜を行った不死化細胞集団は、200μg/mL G418を含む基本培地で希釈してポリ-L-リジンコーティングした96ウェルプレート(IWAKI社製)に播種し、単一細胞から増殖したGA1~GA70までの70クローンを得た。これら70クローンのうち、安定して増殖したクローンは61クローンであった。これら細胞のSV40 T-antigen、神経細胞マーカーであるNSE、グリア細胞マーカーであるGFAPのmRNA発現をRT-PCRによって調べた。SV40 T-antigenの発現は、不死化がSV40 T-antigenに起因するものであることを示す。また、NSE陽性かつGFAP陰性であれば、樹立した細胞株が、視床下部神経由来の細胞であることを示す。以下にRT-PCRを行うためのRNAの抽出、cDNAの作製方法、RT-PCRの方法等について述べる。
【実施例1】
【0033】
細胞は、TriPure Isolation Reagent(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)で溶解後、クロロホルム(和光純薬工業株式会社製)を加えて混合し、室温で15分間放置した後、4℃、12,000gで15分間遠心分離し、上清の水層を回収した。回収した水層にイソプロパノール(和光純薬工業株式会社製)を加え混合した後、4℃、12,000gで10分間遠心分離し、上清を除去した。次に、75%エタノール200μLを添加して混合し、4℃、7,500gで5分間遠心分離し、上清を完全に除去した。得られたRNAペレットはRNase-free water 15μLに溶解し、60℃で15分間静置して完全に溶解させた。
【実施例1】
【0034】
次に、ゲノムDNAの分解処理を行った。抽出したtotal RNA 1μgにDNaseI(Invitrogen社製)を加え、室温で15分間静置し、ゲノムDNAを分解した。その後、25mM EDTAを加え、65℃で10分間静置しDNaseIを失活させた。cDNA合成はHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems社製)を用いて行った。
【実施例1】
【0035】
各細胞クローンにおけるマーカー遺伝子の発現をRT-PCR法で解析し、性質の決定を行った。上述したSV40 large T-antigen(T-Ag)、NSE、GFAPの3遺伝子と、コントロールとしてglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)の計4遺伝子の解析を行った。安定して増殖したこれら61クローンは、すべて、GAPDH及びSV40 T-antigenを発現していた。そのうち、神経細胞マーカーであるNSE陽性、かつグリア細胞マーカーであるGFAP陰性のクローンは39クローンであった。用いたプライマー配列、及びPCR条件を表1に、結果を表2に示す。RT-PCRはTaKaRa Ex-Taq(タカラバイオ株式会社製)を用い、PCR装置(Biometra社製)を用いて行った。
【実施例1】
【0036】
【表1】
JP2017108650A_000003t.gif
【実施例1】
【0037】
【表2】
JP2017108650A_000004t.gif
【実施例1】
【0038】
また、図2は、神経細胞として選抜された上記39クローンのうち、代表的な8クローンについてのRT-PCRの結果である。ARCはポジティブコントロールとして用いたヤギ弓状核組織の結果を示す。NCはネガティブコントロールであり、cDNAを入れずにPCRを行った試料である。図2に示すように、選択したクローンはすべてT-Ag陽性であり、神経細胞マーカーであるNSE陽性、かつグリア細胞マーカーGFAPが陰性である。ここでは8クローンのみ示しているが、選択した39クローンはすべて同様の発現型を示した。
【実施例1】
【0039】
次に、不死化した神経細胞クローン39のうち、KNDyニューロンに由来するものを同定した。まず、ヤギのKNDyニューロンで発現が報告されているニューロキニンB(TAC3より発現)の発現を確認した(非特許文献6)。
【実施例1】
【0040】
ヤギKNDyニューロンは、キスペプチン(KISS1)、ニューロキニンB(TAC3)、及びダイノルフィンA(PDYN)を発現していることが報告されている(非特許文献6)。また、ERα(ESR1)、NK3R(TACR3)、PR(PGR)は、ヤギKNDyニューロンでの発現の報告はないが、ヒツジ、マウス、ラットでは発現が報告されている(非特許文献9~15)。そこで、これらの発現をRT-PCRで解析した。用いたプライマー配列とPCR条件は表3に、結果を表4に示す。
【実施例1】
【0041】
【表3】
JP2017108650A_000005t.gif
【実施例1】
【0042】
【表4】
JP2017108650A_000006t.gif
【実施例1】
【0043】
得られた39の神経細胞クローンのうち、GA19、GA28、GA35、GA42、GA57、GA60、GA64の7クローンがTAC3陽性であった。これら7クローンについて、次に、ERαをコードする遺伝子ESR1の発現を確認した。GA28、GA42、GA64の3クローンでESR1の発現が確認された。なお、表において空欄は遺伝子発現解析を行わなかったことを示す。
【実施例1】
【0044】
TAC3及びESR1発現陽性の上記3クローンのKISS1、PDYN、TACR3、PGRの発現を解析した。結果を図3Aに示す。クローンGA28は、KISS1、TAC3、PDYN、ESR1、TACR3、PGRの発現が認められた。他方、クローンGA42、GA64は、KISS1の発現が認められなかった。したがって、クローンGA28が、KNDyニューロンの遺伝子発現パターンに最も近い細胞株であると考えられる。クローンGA28の顕微鏡写真を図3Bに示す。
【実施例1】
【0045】
なお、ここで得られた不死化神経細胞株は、GA28として独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に2015年8月5日付で寄託され、受託番号NITE P-02081が付与されている。
【実施例2】
【0046】
[ウシKNDyニューロン細胞株の樹立]
1.動物、組織採取、不死化細胞の選抜
妊娠中の黒毛和種雌ウシを深麻酔下で心停止させ、開腹して子宮を摘出した。子宮内から雌胎子(胎齢218日)を摘出し、頭皮と頭骨を切断して、脳を摘出し組織を採取した。その他は、実施例1と同様にして不死化細胞を樹立し、クローン選抜を行った。
【実施例2】
【0047】
2.細胞のクローニング及び神経由来不死化細胞株の同定
細胞のクローニングは、実施例1と同様に行い、不死化細胞から52クローンを得た。さらに、実施例1と同様にして、GAPDH、T-Ag,NSE、GFAPの発現をRT-PCRにより解析し、神経細胞由来クローンを得た。なお、動物種は異なるが、GAPDHのFORWARD PCRプライマーとして、下記配列番号21のプライマーを用いた他は、PCR条件も実施例1と同様に解析を行った。
GAPDH F:AGTTCAACGGCACAGTCAAG(配列番号21)
【実施例2】
【0048】
52個の不死化細胞クローンのうち、神経細胞マーカーであるNSE陽性、かつグリア細胞マーカーであるGFAP陰性の細胞31クローンを同定した。結果を表5に、神経細胞として選抜された代表的な3クローンについてのRT-PCRの結果を図4に示す。図4では3クローンしか示していないが、上記31クローンの遺伝子発現パターンは、T-Ag発現陽性であり、NSE発現陽性、GFAP発現陰性であることを確認した。
【実施例2】
【0049】
【表5】
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【実施例2】
【0050】
次に、不死化神経細胞クローン31のうち、KNDyニューロンに由来するものを同定した。KISS1、TAC3、PDYN、TACR3、ESR1、PGRの発現解析を行った。RT-PCRは、TACR3はKOD-Plus-Neo(東洋紡株式会社製)を、その他はTaKaRa Ex-Taq(タカラバイオ株式会社製)を用いて増幅を行った。PCRのプライマー、PCR条件を表6に示す。結果を表7、及び図5に示す。
【実施例2】
【0051】
【表6】
JP2017108650A_000008t.gif
【実施例2】
【0052】
【表7】
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【実施例2】
【0053】
表7に示すように、神経細胞マーカーであるNSE陽性31クローンのうち、KISS1及びTAC3を発現する細胞は、CA2、CA25、CA27、CA38の4クローンであった。これら4クローンはすべてPDYNを発現していたが、CA25及びCA27はTACR3発現が認められなかった。そこで、CA2及びCA38について、さらにESR1、PGRの発現を解析した。その結果、CA2及びCA38ではこれらすべての遺伝子の発現が確認された。
【実施例2】
【0054】
クローンCA2、CA38は、遺伝子発現がKNDyニューロンの遺伝子発現パターンに最も近い細胞であると考えられる。なお、ここで得られた不死化神経細胞株は、CA2、CA38として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに2015年8月5日付で寄託され、受託番号NITE P-02082、NITE P-02083が付与されている。
【実施例3】
【0055】
[ウシGnRHニューロン細胞株の樹立]
1.動物、組織採取、不死化細胞の選抜
6ヶ月齢黒毛和種去勢雄ウシを深麻酔下で心停止させ、頭骨をノコギリで切断して、脳を摘出し視床下部視索前野(preoptic area、POA)組織を採取した。細胞培養には、Neurobasal(Gibco社製)の代わりにNeurobasal-A(Gibco社製)を使用した。その他は、実施例1と同様にして不死化細胞を樹立し、クローンとして選抜を行った。
【実施例3】
【0056】
2.細胞のクローニング及び神経由来不死化細胞株の同定
細胞のクローニングは、実施例1と同様に行い、不死化細胞から73個の細胞クローンを得た。さらに、実施例2と同様にして、GAPDH、T-Ag、NSE、GFAPの発現をRT-PCRにより解析した。内部標準であるGAPDHを発現しているものが58クローン、うち、T-Agを発現するものが57クローンであった。さらに、神経細胞マーカーであるNSE陽性、かつグリア細胞マーカーであるGFAP陰性の細胞株、38クローンを同定した。結果を表8に、神経細胞として選抜された代表的なクローンについてのRT-PCRの結果を図6に示す。図6中、POAはポジティブコントロールを表し、ウシ視索前野組織から抽出したRNAから合成したcDNAを用いてRT-PCRを行った試料である。NCはネガティブコントロールを表し、cDNAを用いずにRT-PCRを行った試料である。
【実施例3】
【0057】
【表8】
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【実施例3】
【0058】
次に、不死化したNSE陽性、かつGFAP陰性神経細胞の38クローンのGNRH1、KISS1R、ESR1の発現解析を行った。GNRH1、KISS1R、ESR1のプライマー配列、PCR条件は表9に示す。結果を表10に示す。強いバンドが見られたものを+、比較的弱いがバンドが認められたものを±、バンドが見られなかったものを-と表記した。
【実施例3】
【0059】
【表9】
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【実施例3】
【0060】
【表10】
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【実施例3】
【0061】
GNRH1、KISS1Rの発現が陽性であり、ESR1発現陰性のものをGnRHニューロンと定義した。CP3、CP22、CP28の3クローンでGNRH1陽性、KISS1R陽性、ESR1陰性であった。図7に、RT-PCRで増幅したGNRH1、KISS1R、ESR1のフラグメントの電気泳動による解析結果を示す。クローンCP3、CP22、CP28は、遺伝子発現がGnRHニューロンの遺伝子発現パターンに近い細胞であると考えられる。
【実施例3】
【0062】
なお、ここで得られた不死化神経細胞株は、CP3、CP22、CP28として独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに2015年8月5日付で寄託され、受託番号NITE P-02084、NITE P-02085、NITE P-02086が付与されている。
【実施例4】
【0063】
[種特異的な転写活性]
KNDyニューロンの活動に対して促進的に働くニューロキニンBは、現時点でGnRHパルス発生機構の最上位因子であると考えられている。したがって、ニューロキニンBの遺伝子であるTAC3の転写機構を解明することは繁殖機能を理解するうえで極めて重要である。実施例1で得られたシバヤギKNDyニューロン細胞株GA28を用いて、TAC3の転写制御機構を解析した。
【実施例4】
【0064】
最初にヤギTAC3 5´上流領域の配列を同定した。ヤギのゲノムはDNeasy Blood & Tissue kit(QIAGEN社製)を用いて、7ヶ月齢雌シバヤギ血液から抽出した。Genome walker universal kits(Clontech社製)を用い、ゲノムウォーキング法によってヤギTAC3の翻訳領域より5´上流の配列を得た。得られたヤギTAC3 5´側上流3400塩基の配列は、日本DNAデータバンク(DDBJ)に登録した(Accession number AB797216、配列番号37、図8)。5´RACE法により推定されたヤギTAC3の転写開始点は、翻訳開始点の694塩基上流に位置し、「+1」と表示している。
【実施例4】
【0065】
転写活性評価はルシフェラーゼレポーターを用いて行った。転写開始点から上流2706bp、1837bp、834bp、335bp、197bpの各々から下流166bpまでをPCRにより増幅した。PCR産物は5´末端、3´末端に夫々XhoI、HindIIIの制限酵素認識配列を持つように設計し、pGL4-basicベクター(Promega社製)に挿入した。作製したベクターは、pGL-2706、pGL-1837、pGL-834、pGL-335、pGL-197と命名した。
【実施例4】
【0066】
実施例1で樹立したヤギKNDyニューロン細胞株GA28、マウス視床下部神経細胞株N7(コスモ・バイオ社)、ヒト神経芽細胞腫細胞株SK-N-AS(住商ファーマインターナショナル社)を用いて、TAC3上流域の転写活性を解析した。
【実施例4】
【0067】
ルシフェラーゼ活性は、Dual-Luciferase Reporter Assay System(Promega社製)を用いて測定した。ルシフェラーゼレポーターベクターをトランスフェクションしてから48時間後に細胞を溶解しアッセイに用いた。結果を図9に示す。なお、*はp<0.05でコントロールであるpGL-basicに対して有意差があることを示している。
【実施例4】
【0068】
ヤギTAC3の5´上流領域を含むすべてのルシフェラーゼレポーターベクターは、コントロールベクターpGL-basicと比較して、高いルシフェラーゼ活性を示した。いずれの細胞株においてもTAC3の上流領域を欠失させるにつれてルシフェラーゼ活性が上昇する傾向が認められる。しかしながら、用いる細胞によって、転写活性が異なる点も明らかとなった。例えば、転写開始点から上流197bpを含むフラグメントはいずれの細胞株でも高い転写活性を示すが、さらにその上流の配列を含むフラグメントpGL-335を用いるとKNDyニューロン細胞株GA28とヒト神経芽細胞腫細胞株SK-N-ASでは転写活性が減少するが、マウス視床下部神経細胞株N7では転写活性は変化しない。pGL-335とさらに上流の配列を含むフラグメントpGL-834を比べると、マウス視床下部神経細胞株N7とヒト神経芽細胞腫細胞株SK-N-ASでは転写活性が半分以下に減少するが、KNDyニューロン細胞株GA28では転写活性は変化しない。
【実施例4】
【0069】
転写活性においても細胞間で違いが認められることから、その他の機能についても細胞間で違いが生じる可能性が示唆される。したがって、KNDyニューロンの機能を理解するうえで、本発明で開示しているこれら細胞は重要なツールになるものと考えられる。
【実施例5】
【0070】
[アゴニストの効果]
ウシKNDyニューロン不死化細胞株CA38を用いて、ニューロキニンB-NK3RシグナリングがTAC3の発現に及ぼす影響を解析した。KNDyニューロンは、ニューロキニンBの受容体であるNK3Rを発現しており、ニューロキニンBの刺激を受けてGnRHのパルス状分泌を制御していることが示唆されている。本発明者らは、ウシ個体を用いて、NK3R選択的作動薬であるsenktideの末梢投与が血中LH濃度を上昇させることを確認している。しかし、このsenktideによるLH濃度上昇を、KNDyニューロンの活性化が介しているのかは明らかでない。そこで、本発明で樹立した細胞株CA38を用いて、神経ペプチドの遺伝子レベルでの発現解析を行った。
【実施例5】
【0071】
CA38細胞株をポリ-L-リジンコーティングした100mmディッシュ(IWAKI社製)で培養した後、定法により細胞を剥離し、アッセイ用培地(15%FBS、1× B-27 supplement、0.5mM L-グルタミン、5ng/ml bFGFを含むNeurobasal培地)で細胞数を調整し、3.0x10cells/ウェルとなるようにポリ-L-リジンコーティングした24ウェルプレートに播種し、37℃、5%COインキュベーター内で培養した。
【実施例5】
【0072】
24時間後、培地を除去し、溶媒またはsenktide(10nM、100nM、1μM、10μM)を含むアッセイ用培地を500μL/ウェルずつ加え、37℃、5%COインキュベーター内で培養を継続した。24時間後、培地を除き、200μl/ウェルのTriPure Isolation Reagentを加え細胞を溶解させた。その後、上述と同様の方法でtotal RNA抽出、cDNA合成を行い、次の操作まで-20℃で保存した。
【実施例5】
【0073】
Senktide添加から24時間後のCA38におけるTAC3発現量はreal-time RT-PCRを用いて以下のようにして解析した。内部標準としてβ-actin遺伝子(ACTB)を用いた。DNA polymeraseは、Power SYBR(登録商標) Green PCR Master Mix(Applied Biosystems社製)を用いた。使用したプライマー配列とPCR条件は表11に示す。
【実施例5】
【0074】
【表11】
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【実施例5】
【0075】
mRNA量は以下のように算出した。PCR産物がある一定量に達した時のサイクル数をCt値とした。各サンプルについて、TAC3のCt値からACTBのCt値を引き、この値と対照群である溶媒添加群との差(ΔCt値)を求めた。2のΔCt乗を求めることで、ACTB mRNA発現量に対するTAC3 mRNA発現量を算出し、3回繰り返した実験の平均値±標準誤差で示した。また解離曲線より、目的の遺伝子が増幅されたことを確認した。
【実施例5】
【0076】
統計解析は以下のようにして、senktideがTAC3発現量へ及ぼす影響を検定した。対照群及びsenktide添加群でのTAC3発現量を1元配置分散分析(one-way ANOVA)にて解析した後、post-hoc検定としてDunnett’s検定を行い、対照群と比較した。有意水準は5%とした。結果を図10に示す。
【実施例5】
【0077】
CA38では、senktideが濃度依存的にTAC3発現量を増加させ、10nM以上のsenktide添加群で、対照群と比較してTAC3発現量が有意に増加していた。
【実施例5】
【0078】
SenktideがKNDyニューロンで、TAC3あるいはその他の遺伝子の発現に影響を及ぼすことはどのような動物種においても報告されていない。Senktideの効果は本細胞株を用いて初めて解析できたことである。TACR3を発現するCA38において、senktideが濃度依存的にTAC3発現を促進したことから、ウシKNDyニューロンにおいてニューロキニンBがTAC3発現を促進するポジティブフィードバックの作用を持つ可能性が示された。以上示してきたように、本発明の細胞株を用いることによって、反芻家畜の繁殖制御機構を分子レベルで解析することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の細胞株は家畜視床下部由来の神経細胞株であり、家畜の繁殖機能制御を司るKNDyニューロン、GnRHニューロン由来の細胞株である。家畜の繁殖機能制御機構の解明に有用であり、畜産現場における生産性向上に寄与する研究開発のツールとして使用できる。
【受託番号】
【0080】
NITE P-02081
NITE P-02082
NITE P-02083
NITE P-02084
NITE P-02085
NITE P-02086
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
5
【図7】
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【図8】
7
【図9】
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【図10】
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