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明細書 :機能性カプセル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-119681 (P2017-119681A)
公開日 平成29年7月6日(2017.7.6)
発明の名称または考案の名称 機能性カプセル
国際特許分類 A61K   9/66        (2006.01)
A61K  47/42        (2017.01)
A61K  47/36        (2006.01)
A61K  47/26        (2006.01)
FI A61K 9/66
A61K 47/42
A61K 47/36
A61K 47/26
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-246316 (P2016-246316)
出願日 平成28年12月20日(2016.12.20)
優先権出願番号 2015252632
優先日 平成27年12月24日(2015.12.24)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】成田 貴行
【氏名】大石 祐司
【氏名】本田 貴浩
【氏名】高崎 夕希
出願人 【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100099634、【弁理士】、【氏名又は名称】平井 安雄
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
Fターム 4C076AA64
4C076AA66
4C076AA95
4C076EE37
4C076EE42
4C076FF70
要約 【課題】 自律振動のトリガーとして外部に特定の物質や環境を必要とすることなく、より簡易に且つ緩和な条件下で自律振動可能な機能性カプセルを提供する。
【解決手段】 機能性カプセルは、機能性媒質を密閉膜内に収納して形成される機能性カプセルにおいて、前記機能性媒質が、外部の温度変化に基づいて、コロイド状の分散質の分散状態を変化させる。
【選択図】 図2
特許請求の範囲 【請求項1】
機能性媒質を密閉膜内に収納して形成される機能性カプセルにおいて、
前記機能性媒質が、外部の温度変化に基づいて、コロイド状の分散質の分散状態を変化
させることを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項2】
請求項1に記載の機能性カプセルにおいて、
前記機能性媒質が、親水性ゲル化剤、又は、親水性グルコサミン化合物から成ることを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の機能性カプセルにおいて、
前記機能性媒質が、親水性ゲル化剤から成り、ゲル状の当該親水性ゲル化剤をアルカリ溶液でpH変化によって改質されて成ることを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の機能性カプセルにおいて、
前記機能性媒質が、ゼラチンから成る親水性ゲル化剤から構成されることを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の機能性カプセルにおいて、
前記機能性媒質が、キトサンから成る親水性グルコサミン化合物から構成されることを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれかに記載の機能性カプセルにおいて、
前記機能性媒質の分子量が、200~100000であることを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれかに記載の機能性カプセルにおいて、
受光する光量及び/又は波長の変化により自律振動することを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の機能性カプセルにおいて、
前記機能性媒質の分子量が、200~100000であり、
前記密閉膜の孔径が、0.05μm~100μmであることを特徴とする
機能性カプセル。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれかに記載の機能性カプセルにおいて、
温度に応じて、振動の開始、停止、及び、振動速度を制御する制御材料を含むことを特徴とする
機能性カプセル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、自律振動を行う機能性カプセルに関し、特に、広範な適用範囲で簡易に自律振動を可能とする機能性カプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
薬剤は、一般の投薬の場合、拡散によって、標的である患部に到達することにより、薬効を呈する。このように薬剤は拡散によって標的に到達するため、薬剤濃度は、投薬時に最も高濃度を示し、時間の経過と共に低下し、標的(患部)に到達した時点では、薬剤の濃度が希釈化されてしまい、実質的には、投薬した薬剤の一部のみしか標的(患部)へ到達できないという点が指摘されてきた。
【0003】
そのため、薬効を向上させるために、投薬量を増加させることや投薬回数を増やすことが考えられるが、そうすると、投薬量が増えることから、副作用が起きる可能性が高まってしまう。そのため、適切な場所、量、及びタイミングで発現することによって、効果的に患部に作用させる薬剤の担体が求められている。
【0004】
現在の薬剤分野では、このような薬効を高めるために、生体内の所望の部位において、薬剤を選択的に放出することによって、患部に対して、集中的且つ効果的な薬剤投与を行うことへの関心が高まっている。
【0005】
このような薬剤の担体の一例として、特定の基質やpH等の周囲環境(外部環境)に対して、自律的な振動によって応答する自律振動型の機能性カプセルがある。このような機能性カプセルは、酵素を含む各種の内包物を予め内包させておくことによって、当該カプセル内に基質が侵入した場合に、当該カプセル内の環境が変化し、内包物が溶解することによって、当該カプセルが振動するものである。
【0006】
この機能性カプセルの自律的な応答動作を利用することによって、生体内での有効成分の放出制御が可能となる。例えば、自律振動によって、薬剤を直接作用させたい箇所のみに対して、選択的に薬剤が放出されることにより、効果的に所望の箇所での薬効を奏することが可能となる。即ち、生体内の所望の部位において、薬剤を選択的に放出できるため、患部への集中的且つ効果的な薬剤投与が可能となる。
【0007】
従来の機能性カプセルとしては、特定の基質に対して自律振動するというマイクロカプセルが知られている(例えば、特許文献1)。当該機能性カプセルは、外部の基質に応答して、カプセル内部に内包した酵素が反応するというメカニズムによって、自律振動が引き起こされるものである。
【0008】
また、従来の機能性カプセルとしては、pH応答性を示すポリ(L-リジン‐alt-テレフタル酸)(Poly L-lysine-alt-terephthalic acid)機能性カプセルに、グルコースオキシダーゼを内包することにより調製したグルコース応答性機能性カプセルが開示されている(例えば、非特許文献1)。
【0009】
当該文献では、さらに機能性カプセル内にアンモニウム塩を内包した場合のグルコース存在下での機能性カプセルの放出挙動について、グルコース存在下においてアンモニウム塩の放出が制限されたことが示されている。また、当該薬剤放出の挙動については、二段階の非線形的放出であったことも示されている。
【0010】
また、従来の機能性カプセルとしては、キトサンとテレフタル酸を界面重合することにより調製したキトサン-フタル酸マイクロカプセルが開示されている(例えば、非特許文献2)。当該マイクロカプセルをpHの異なる溶媒に浸漬した場合に、キトサン-フタル酸膜ゲルの体積相転移に起因して各pHにおける体積が異なっていたことも示されている。
【先行技術文献】
【0011】

【特許文献1】特開2014-94918号公報
【0012】

【非特許文献1】緒方ら,日本化学会講演予稿集,Vol. 89,No. 2,Page 834 (2009)
【非特許文献2】緒方ら,日本化学会講演予稿集,Vol. 90,No. 3,Page 982
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来の機能性カプセルでは、基質や酵素等の特定の物質が、自律振動のトリガーとして存在することが前提条件として必要であったことから、このような特定の物質が存在する環境のみでしか利用できないものとなっていた。また、自律振動の発生条件が限定されることから、適用範囲が狭く限られたものに止まり、汎用的なものとまでは至っていないという課題があった。
【0014】
また、従来の機能性カプセルでは、カプセル内に酵素を含むものもあるが(例えば、特許文献1)、酵素と基質との反応が自律振動の前提となっているケースでは、酵素と基質との反応が起こり得る条件下に、自律振動の発生条件が限定されるものに止まっている。さらに、酵素に関しては、高温では失活してしまうと共に、コスト的にも高価であることから、現在のところ実用化されるまでには至っていない。そのため、より簡易に、緩和な条件下で自律振動できるような機能性カプセルが望まれているが、そのようなものは未だ知られていない。
【0015】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、自律振動のトリガーとして外部に特定の物質や環境を必要とすることなく、より簡易に且つ緩和な条件下で自律振動可能な機能性カプセルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意研究の結果、薬剤の標的となる炎症部位では一般に体温に対して温度が高いことに着目し、さらに研究を進めて、基質や酵素等の特定の物質を必要とすることなく、このような外部環境の変化によって、自律振動を起こせる極めて優れた材料を見出し、上述目的を達成し得る新しいタイプの機能性カプセルを見出すことに成功した。
【0017】
かくして、本願によれば、機能性媒質を密閉膜内に収納して形成される機能性カプセルにおいて、前記機能性媒質が、外部の温度変化に基づいて、コロイド状の分散質の分散状態を変化させる機能性カプセルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1の実施形態に係る機能性カプセルのコロイド状態の遷移を表す説明図(b)及び振動動作を表す説明図(b)を示す。
【図2】実施例1に係る機能性カプセルの温度上昇に伴う変化をCCDカメラにより撮影した画像を示す。
【図3】実施例2に係る機能性カプセルの温度上昇に伴うカプセル直径の経時的変化の測定結果を示す。
【図4】実施例2に係る異なるpH条件における機能性カプセルの温度上昇に伴うカプセル直径の経時的変化の測定結果を示す。
【図5】実施例2に係る機能性カプセルの拍動挙動を示す連続写真を示す。
【図6】実施例2に係る機能性カプセルの振動が生じるカプセル膜孔と、振動が生じないカプセル膜孔の孔の大きさの範囲を集計した結果(a)、振動が生じたカプセル膜孔の電子顕微鏡像(b)、および振動が生じなかったカプセル膜孔の電子顕微鏡像(c)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る機能性カプセルを、図1に基づいて、以下説明する。

【0020】
本実施形態に係る機能性カプセルは、上述のように、機能性媒質を密閉膜内に収納して形成される機能性カプセルにおいて、前記機能性媒質が、外部の温度変化に基づいて、コロイド状の分散質の分散状態を変化させるものである。

【0021】
機能性カプセルの外郭を構成する密閉膜の構成材料については、振動動作を実現可能な柔軟性を有する膜状のものであれば特に限定されないが、高分子膜であることが好ましく、薬剤として生体内に投与する用途の場合には、生体に対する負荷が低いことが望ましいという観点から、生体適合性を有する生分解性材料から成ることが好ましい。

【0022】
このような高分子膜は、天然由来又は合成由来のいずれの膜でもよいが、その分子量は、特に限定されず、好ましくは40~10000であり、より好ましくは40~1000である。また、弾力性や柔軟性に優れるという点から、高分子膜は、アミド系またはアミン系の高分子鎖間で水素結合を形成しているものが好ましく、より強い強度を奏するという点から、ゲル状のゲル膜であることが特に好ましい。

【0023】
このような高分子膜の構成材料としては、例えば、ポリグルコサミン(例えば、キトサン)、ポリアミン(例えば、スペルミン)、ポリペプチド、オリゴペプチド、核酸、およびタンパク質等が挙げられる。また、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、それらの共重合体等をベースとするポリエステル等の種々の合成高分子において、アミド結合またはアミンが誘導されたものも好適に使用できる。

【0024】
また、密閉膜の硬度は、特に限定されないが、例えば、1Pa~10000MPaとすることができる。このような硬度については、例えば、上述した密閉膜の材料のうち、ポリアミン(例えばスペルミン)を用いることで比較的柔らかい密閉膜を形成することができる。その一方で、核酸やポリグルコサミンを用いることで比較的固い密閉膜を形成することもできる。また、密閉膜に界面活性剤または脂質を付着させることによって、密閉膜の硬度を制御することもできる。

【0025】
密閉膜の膜状態は、物質(特に溶液)の出入りを可能とする透過性を有する膜、即ち、多孔質性を有する膜であれば、特に限定されない。

【0026】
密閉膜における多孔質性を形成している個々の孔のサイズについては、調製温度、膜材料と水の親和性等により調節することが可能である。そのサイズは、特に限定されないが、例えば、周囲水溶液中にカプセルが分散された初期状態において、カプセルの膨張時(例えば、カプセルの直径が1.1~2.0倍程度に膨張したとき)に、カプセル内の成分(例えば、薬剤成分)を有意に透過させるものであることが好ましい。また、この孔のサイズは、上記膨張時の該成分の放出速度が、上記初期状態の放出速度に対して1.5~10倍程度になり得るものであることが好ましく、好適な孔のサイズは0.05μm~100μmであり、例えば、密閉膜がキトサンポリマー(平均分子量:約1万)から構成されている場合、さらに好適な孔のサイズは0.05μm~0.3μmであり、例えば、0.1μm程度とすることができる。このように、本実施形態に係る機能性カプセルは、マイクロサイズを有する場合には、特に、マイクロカプセルとも称せられるものである。

【0027】
このように、密閉膜は、透過性を有することによって、物質が取り込まれる際には膨張して孔径が増大し、また、物質が排出される際には収縮して孔径が減少する。例えば、密閉膜内部に薬剤成分を含む場合には、孔径の増大に伴って、密閉膜内部に薬剤成分の外部への流出速度を上昇させることができる。

【0028】
密閉膜の膜厚は、特に限定されないが、自律振動が起き易いという点から、0.05μm~20μmであることが好ましい。0.05μmよりも膜が薄い場合には、振動周期を短くすることができ、20μmより厚いと振動周期を長く伸ばすことができる。さらに、0.1~1μmであることがより好ましい。膜の厚さの調節は、重合時間、仕込みの膜材料濃度等により調節することができる。

【0029】
このような密閉膜に収納(内包)される機能性媒質は、コロイド状の分散質から構成されるものであれば、特に限定されないが、例えば、親水性ゲル化剤、又は、親水性グルコサミン化合物から成るものを用いることができる。

【0030】
このような親水性ゲル化剤としては、親水性のゲル化剤であれば特に限定されないが、例えば、ゼラチン、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、グルコース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カルシウム、寒天、カラギーナン、ローカストビーンガム、およびペクチンの少なくとも1つから選択することができ、例えば、ゼラチンを用いることができる。

【0031】
このような親水性グルコサミン化合物としては、グルコサミン骨格を有する親水性の化合物であれば特に限定されないが、例えば、キトサン、酢酸キトサン、乳酸キトサン、N,O-カルボキシメチルキトサン、キチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、グルコサミン、オリゴグルコサミン、コラーゲン、グリコーゲン、およびケラチンの少なくとも1つから選択することができ、このうち例えば、キトサンを用いることができる。

【0032】
この親水性ゲル化剤は、一般のゲル化剤であれば特に限定されないが、取り扱いの容易さから、ゼラチンゲルから成るものを用いることが好ましい。ゼラチンゲルは、その由来は特に限定されず、例えば、豚由来のもの、牛由来のもの、又は魚由来のもののいずれでも用いることができる。

【0033】
また、この親水性グルコサミン化合物は、取り扱いの容易さから、キトサンから成るものを用いることが好ましい。キトサンも、その由来は限定されず、天然由来のものや、合成由来のもののいずれでも用いることができる。キトサンは、粉末原料であることから、 配向性(指向性)を形成させて機能性カプセルを製造することによって、機能性カプセルを縦方向又は横方向に振動させる等のように、所望とする振動の動きを制御することが可能となり、用途に応じた振動の設計を幅広く行うことができる。

【0034】
このような機能性媒質の分子量は、特に限定されないが、分子量が10より小さいとその微小スケールのため自律振動の挙動が顕在化し難く、分子量が200000より大きいとその自重によって自律振動の挙動が顕在化し難いという点から、好ましくは、10~200000であり、自律振動をより安定的に引き起こし易いという点から、より好ましくは、200~100000である。

【0035】
さらに、機能性媒質は、親水性ゲル化剤(例えばゼラチンゲル)を用いる場合には、ゲル状の親水性ゲル化剤をアルカリ溶液でpH変化によって改質されて成るものを用いることが好ましい。例えば、アルカリ溶液(NaOH水溶液)で加水分解された親水性ゲル化剤(即ち、アルカリ処理ゼラチンゲル)を用いることができる。

【0036】
このように、親水性ゲル化剤(例えばゼラチンゲル)を用いる場合には、アルカリ処理された親水性ゲル化剤を用いることによって、外部の温度変化に応じて、さらに優れた自律振動を奏することが確認されている(後述の実施例参照)。

【0037】
このように優れた効果を奏するメカニズムは、未だ詳細には解明されていないが、ゼラチンゲルのような親水性ゲル化剤がpH変化によって改質されることによって、その構成分子が分子レベルで断片化されてその分子鎖長が短くなり、密閉膜の内部から外部へ及び外部から内部への双方向共に透過しやすい(即ち、自律振動を引き起こし易い)最適な分子鎖長が得られているものと推察される。

【0038】
薬剤用途の場合では、機能性カプセルは、特に、内包物の吐出により収縮する場合に、カプセルに内包されるゼラチンゲルのような親水性ゲル化剤がアルカリ処理されて、その分子鎖が分断化されることによって、カプセルの親水性ゲル化剤が密閉膜の孔からより効率的に排出され易くなり、収縮の確実性がさらに高められているものと推察される。

【0039】
機能性カプセルの内部には、機能性媒質をコロイド状に分散させやすい水性溶媒を含むことが好ましく、この水性溶媒によって、例えば、薬剤等の有効成分等もカプセル内に簡易に溶解させることができる。このような水性溶媒としては、代表的には水であり、具体的には、精製水、蒸留水、滅菌水等の各種の水を用いることができ、取り扱いの容易さから、精製水を用いることが好ましい。

【0040】
この機能性媒質におけるコロイド状の分散質の分散状態とは、より高い粘度を有するゲル状態から、より低い粘度を有するゾル状態まで、異なる粘度を有するコロイド状態を含んで構成される。即ち、コロイド状の分散質の分散状態は、図1(a)に示すように、温度変化に伴って、ゲル状態又はゾル状態へと可逆的に遷移する。

【0041】
機能性カプセルに対する外部の温度変化については、特にその温度の値や変化値は限定されず、経時的な温度上昇又は温度減少を指し、例えば、20℃から40℃近傍(例えば、35℃~38℃)への温度上昇が挙げられる。

【0042】
本実施形態に係る機能性カプセルは、前記機能性媒質が、外部の温度変化に伴って、コロイド状の分散質の分散状態(溶解状態)を変化させることによって、マイクロカプセル自体が、外部からの補助無しで、時間の経過と共にそのカプセル容積の膨張と収縮を繰り返すことができる。

【0043】
即ち、図1(b)に示すように、先ず機能性カプセルの内包物である機能性媒質が溶解し、コロイド状の分散質の分散状態が変化し、これによって生じる浸透圧差により外部溶液が流入することでカプセルの体積が増加する。体積が増加することにより、高分子で形成されているカプセルの密閉膜が膨張し、それに伴って密閉膜の孔のサイズも増加する。この孔のサイズが溶解した内包物より大きくなると、その内包物が放出(吐出)されると共に、カプセルが収縮に転ずる。カプセル内に内包物が残っている場合には、同じ原理で振動を繰り返す。

【0044】
この機能性カプセルの用途は、特に限定されないが、例えば、薬剤担体として用いる場合では、外部の温度変化のみによって、周期的に薬剤を放出できることや、薬剤濃度の時間変化を穏やかにできるという優れた効果を奏する。さらに、この機能性カプセルのpH値を変動させることによっても、薬剤放出のタイミングを自在に制御することが可能となる。

【0045】
このように、本実施形態に係る機能性カプセルは、機能性媒質を密閉膜内に収納して形成される機能性カプセルにおいて、機能性媒質が、外部の温度変化に基づいて、コロイド状の分散質の分散状態を変化させることから、カプセルの内包物の溶解に伴う浸透圧差によって、カプセル容積の増加及び減少が経時的に繰り返して引き起こされることとなり、外部に特定の物質や環境を必要とすることなく、より簡易に且つ緩和な条件下で自律振動を行うことができる。即ち、機能性カプセルに温度応答性による拍動挙動が引き起こされることによって、その経時的な体積振動に同期して、機能性カプセルから有効成分(例えば、各種の薬剤)を周期放出することができる。

【0046】
また、本実施形態に係る機能性カプセルは、温度変化のみならず、さらに、受光する光量及び/又は波長の変化によっても、自律振動することが可能である。すなわち、受光する光量については、受光によって発熱が引き起こされ、この発熱によって、自律振動を行うことも可能である。また、波長の変化については、照射される光の特定波長と、カプセル側で吸収する波長の色との相関関係を制御することによって、発熱の有無をコントロールすることができることから、例えば、任意の波長で発熱させることや、特定の波長でのみ発熱させることが可能となる。この受光する光量及び/又は波長は、特にその範囲は限定されない。

【0047】
このように、本実施形態に係る機能性カプセルは、受光する光量及び/又は波長の変化によっても、自律振動できることから、特に薬剤として用いる場合には、周囲よりも暗い箇所や明るい箇所(炎症部位)に対して、選択的に薬効を奏することができることとなり、温度変化と光変化の相乗的なトリガーによって、複雑な状況の炎症部位に対しても、より局所選択的な薬効を奏することが可能となる。

【0048】
機能性カプセルの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ゼラチンゲルを含む含む水溶液(例えば、L-リジン水溶液)を、不活性液体(例えば、フッ素系不活性液体(フロリナート))と有機溶媒(例えば、シクロヘキサン及びクロロホルム)の混合液の液-液界面に分散させてW/Oエマルションを調製し、有機溶媒(例えば、二塩化テレフタロイルを含むクロロホルム‐シクロヘキサン溶媒)を加え、界面重合法によって、機能性カプセルを得ることができる。

【0049】
このようにして得られた機能性カプセルは、カプセル外の環境変化が振動現象のトリガーとなることから、高価な酵素等の外部物質が不要であり、そのため酵素反応も不要である。

【0050】
一般に、患部の炎症は、体温に対して温度が高いことから、本実施形態に係る機能性カプセルを用いて、温度への感受性を示す薬剤担体が設計されることによって、炎症部分に特異的に作用させる薬剤が実現可能となる。さらに、薬剤担体の設計に、機能性カプセルにおけるpH条件の感受性も含めることによって、炎症部分により特異的に作用させる薬剤が実現可能となる。これは、従来の薬剤担体付近の薬剤濃度が投与時に最も高く、時間が経過するにつれて低下し効力を失うこととは対照的である。

【0051】
本発明者らは、本実施形態に係る機能性カプセルが、体積を自律的に振動させる特性によって、薬剤担体として用いれば、周期的に薬剤を放出できること、及び薬剤濃度の時間変化を穏やかにできることを確認している。本実施形態に係る機能性カプセルは、この二つの機能を組み合わせた薬剤担体として、適切な場所を認識し薬剤濃度を適切にコントロール出来るという優れた効果を奏する。

【0052】
さらに、機能性カプセルに内包される機能性媒質(例えば、ゼラチンゲルやキトサン等)の分子量は、200~100000であり、且つ、機能性カプセルを構成する密閉膜の孔径が、0.05μm~100μmであることがより好ましく、より好ましくは0.05μm~0.3μmである。この構成によって、一旦引き起こされた振動を維持するための分子量と孔径との相互関係が最適な条件となり、自律振動がより長期にわたって安定して生じることとなり、より最適な自律振動を奏することができる。

【0053】
また、機能性カプセルの膜厚を薄くして振動周期を短くすることや、膜厚を厚くして振動周期を長くすることによって、振動を制御することも可能である。

【0054】
また、機能性カプセルのpH条件を制御して、所望とする振動を制御することも可能である。例えば、機能性媒質として、キトサンを用いた場合には、pH条件を酸性条件にすることによって、より明確なON-OFF制御を行うことが可能となる。

【0055】
さらに、機能性カプセルは、温度に応じて、振動の開始、停止、及び、振動速度を制御する制御材料を含むことも可能である。例えば、機能性カプセルの膜材料に、所定の温度(例えば50℃)で固化するような制御材料を加えることで、所定の温度(例えば50℃)以上になると振動を示さないことや、機能性カプセルの内包物を所定の温度(例えば30℃又は40℃以上)で溶解するものにすると、所定の温度(例えば30℃又は40℃以上)で振動し始めることが可能となる。

【0056】
このような機能性カプセルの密閉膜に収納(内包)される物質には、上記の機能性媒質(例えば、ゼラチンゲルやキトサン)の他にも、用途に応じて各種の成分を適用することができ、特に限定されないが、例えば、薬剤用途の場合には、各種の薬剤成分を適用可能であり、例えば、インスリン、自律神経調整薬、及び鎮痛薬の薬剤成分を機能性カプセルの密閉膜に収納(内包)することができる。温度応答性による拍動挙動によって、これらの薬剤成分を周期放出することが可能となる。

【0057】
なお、上記では、本実施形態に係る機能性カプセルを主に薬剤用途に利用するケースを述べたが、この用途に限定されるものではなく、温度変化に伴って引き起こされる自律振動を使用できる種々の用途に対して幅広く利用することができる。また、本実施形態に係る機能性カプセルは、複数の機能性カプセルを連結させた材料として各種用途に用いることも可能である。

【0058】
以下に実施例を示すが、これらの実施例は本発明に係る機能性カプセルを単に例示するためのものであり、本発明を限定するものではない。

【0059】
(実施例1)
市販のゼラチンをNaOH水溶液で加水分解したアルカリ処理ゼラチンゲル(20wt%)を含むL-リジン水溶液をフッ素系不活性液体(フロリナート)‐シクロヘキサン、クロロホルム混合の液‐液界面に分散させW/Oエマルションを調製し、二塩化テレフタロイルを含むクロロホルム‐シクロヘキサン混合有機溶媒を加え界面重合により機能性カプセルを得た。調製した機能性カプセルは、蒸留水に浸漬させ、pH8の緩衝溶液で十分にリンスした後、恒温槽にて温度を調節しCCDカメラによりその体積変化及び内包物の様子を経時的にモニタリングした。同時に、サーモグラフィーにより温度変化を経時的に観察した。得られた結果を図2に示す。図2は、共に20℃から35℃に温度を上昇させた場合に関するCCDカメラによる撮影結果であり、図2(a)では、0分~15分の間の撮影結果であり、図2(b)では、0分~600分の間の撮影結果である。

【0060】
図2の結果から明らかなように、20℃から35℃に温度を上昇させることに伴って、カプセル径が膨張及び収縮の振動動作を繰り返したことが確かに確認された。即ち、機能性カプセルの経時的な拍動を観察することができた。

【0061】
また、アルカリ処理されていないゼラチンゲルとして、上記のアルカリ処理ゼラチンゲルの替わりに、ゼラチンゲル(20wt%)及びPoly(N-isopropylacrylamide)(PNIPAM)を用いた場合の機能性カプセルでは、蒸留水に浸漬させた場合に、膨張が観察された。即ち、ゼラチンゲルは35℃付近から機能性カプセル内で溶解し、機能性カプセルが約1.5倍に膨張した。

【0062】
その一方で、収縮の動作はほとんど観察されなかった。これは、振動モードの際には、機能性カプセルの内包物吐出に伴う内部浸透圧の低下によって機能性カプセルの収縮が促されるというメカニズムにおいて、未処理のゼラチンゲルではその分子量が大きいため、機能性カプセル膜の孔から有意にゼラチンゲルが吐出され難くなり、結果として、十分な振動動作まで至らなかったものと推察される。

【0063】
(実施例2)
上記実施例1の市販のゼラチンの代わりに、市販のキトサンを用いて、上記実施例1と同様の手順でアルカリ処理無しで機能性カプセルを得た。得られた機能性カプセルに対して、溶液温度を上昇(20℃から38℃まで)させて、4時間にわたって、機能性カプセル直径の経時的変化を測定した。得られた結果を図3に示す。得られた結果から、機能性カプセルが溶液温度の上昇に伴って、確かに自律振動していることが確認された。

【0064】
このように、溶液温度を変化させることで振動周期をコントロールできることが確認された。このことから、患部または処方したい部分を温める温度で薬剤の徐放をコントロールできるという有望な技術として、本機能性カプセルが利用できることが確認された。

【0065】
次に、得られた機能性カプセルに対して、機能性カプセルの溶媒のpH条件を変えて、上記と同様に、溶液温度を上昇させて、機能性カプセル直径の経時的変化を測定し、機能性カプセルの自律振動を確認した。pH条件としては、pHが3.5、4.7、および7.0の3つのサンプルを用いた。また、温度変化としては、20℃ → 35℃ → 50℃の順に3段階に上昇させた。

【0066】
得られた機能性カプセル直径の経時的変化を図4(a)~(c)に示す。図4(a)は、pH3.5溶液での実験結果であり、左から20℃、35℃、50℃の順に結果を示している。図4(b)は、pH4.7溶液での実験結果であり、左から20℃、35℃、50℃の順に結果を示している。図4(c)は、pH7.0溶液での実験結果であり、左から20℃、35℃、50℃の順に結果を示している。

【0067】
また、上記の異なるpHの3つのサンプルについて、温度変化に伴う機能性カプセルサイズの変化挙動をまとめたものを、以下の表に示す。
【表1】
JP2017119681A_000003t.gif

【0068】
得られた結果から、pHが3.5および4.7の酸性領域では、確実に、継続的な振動動作(拍動)が起きていることが確認された。また、pHが7.0の中性領域では、拍動が起きなかったことも確認された。

【0069】
次に、拍動が確認されたpHが3.5および4.7の酸性領域のサンプルについて、その拍動挙動を示す連続写真を図5に示す。図5(a)は、pH3.5における結果であり、図5(b)は、pH4.7における結果である。いずれのサンプルも、しっかりとした拍動が起きていることが、目視レベルでも確認された。

【0070】
以上のことから、本機能性カプセルは、pHが変動することによって、振動挙動の性質も変動するという特性が明らかとなった。このことから、例えば、本機能性カプセルを薬剤に用いるような場合には、薬剤を処方する部分の温度およびpHを事前に把握しておくことによって、この処方部分における本機能性カプセルの振動周期が予測され、容易且つ確実に薬剤の設計をすることが可能となる。

【0071】
以上の結果から、本実施例で得られた機能性カプセルは、機能性媒質としてキトサンを用いることによって、より精度のよい(温度分解能のよい)ON-OFFの拍動が確認された。また、内包するキトサンを分別することで振動発現温度をより制御良くコントロールできるという利用方法も可能である。すなわち、本実施例で得られた機能性カプセルは、拍動及びそれに伴う薬剤放出(機能性カプセル内に薬剤を包含して利用した場合)のON-OFFがはっきりとした温度で生じることが確認され、さらに、キトサンについても、分別したキトサンを用いることで、より拍動のスイッチングが先鋭化されるものである。

【0072】
次に、本実施例で得られた機能性カプセルにおける膜(密閉膜)中の好適な孔の大きさの範囲について、確認を行った。上記の各サンプルについて、振動が生じる機能性カプセル膜孔と、振動が生じない機能性カプセル膜孔を集計した結果を、図6(a)に示す。また、振動が生じた機能性カプセル膜孔の電子顕微鏡像を図6(b)に示すと共に、振動が生じなかった機能性カプセル膜孔の電子顕微鏡像を図6(c)に示す。得られた結果から、特に機能性媒質としてキトサンを用いた機能性カプセルについては、膜の孔径が0.05μm~0.3μmであることによって、より確実に振動が生じることが示された。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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