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明細書 :癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法、スクリーニングキット、該キットに用いるベクター及び形質転換体、並びに分子標的薬の適応患者の選択方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年8月3日(2017.8.3)
発明の名称または考案の名称 癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法、スクリーニングキット、該キットに用いるベクター及び形質転換体、並びに分子標的薬の適応患者の選択方法
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/00        (2006.01)
FI C12Q 1/02 ZNA
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 33
出願番号 特願2016-555128 (P2016-555128)
国際出願番号 PCT/JP2015/075127
国際公開番号 WO2016/063637
国際出願日 平成27年9月3日(2015.9.3)
国際公開日 平成28年4月28日(2016.4.28)
優先権出願番号 2014217313
優先日 平成26年10月24日(2014.10.24)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】高橋 隆
【氏名】山口 知也
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100167689、【弁理士】、【氏名又は名称】松本 征二
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
Fターム 4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ13
4B063QQ79
4B063QS05
4B063QS16
4B063QS33
4B063QS36
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA60
要約 癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制でき、様々なRTKの活性を単一の化合物で一網打尽に阻害できる化合物のスクリーニング方法を提供する。
癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法であって、前記スクリーニング方法が、Cavin-1及びCAV1の結合の抑制を検出できる系に試験化合物を接触させる工程、Cavin-1及びCAV1の結合を抑制する活性を有する化合物を選択する工程、を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
特許請求の範囲 【請求項1】
癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
前記スクリーニング方法が、
Cavin-1及びCAV1の結合の抑制を検出できる系に試験化合物を接触させる工程、
Cavin-1及びCAV1の結合を抑制する活性を有する化合物を選択する工程、
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
【請求項2】
前記Cavin-1及びCAV1の結合の抑制を検出できる系が、
Cavin-1の機能の抑制を検出できる系であることを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記Cavin-1の機能の抑制を検出できる系が、ROR1とCavin-1との結合の抑制を検出できる系、又はIGF-IRとCavin-1との結合の抑制を検出できる系であることを特徴とする請求項2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記Cavin-1及びCAV1の結合の抑制を検出できる系が、
CAV1の機能の抑制を検出できる系であることを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記CAV1の機能の抑制を検出できる系が、ROR1とCAV1との結合の抑制を検出できる系、又はIGF-IRとCAV1との結合の抑制を検出できる系であることを特徴とする請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、少なくとも564~746番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、及び、
ヒトCavin-1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、
を導入した形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を含む、ROR1とCavin-1の結合を抑制する化合物のスクリーニングキット。
【請求項8】
ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、少なくとも853~876番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、及び、
ヒトCAV1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、
を導入した形質転換体。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換体を含む、ROR1とCAV1の結合を抑制する化合物のスクリーニングキット。
【請求項10】
ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、564~746番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸及び853~876番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸、を少なくとも挿入した組み換えベクター、
ヒトCavin-1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、及び、
ヒトCAV1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、
を導入した形質転換体。
【請求項11】
請求項10に記載の形質転換体を含む、ROR1とCavin-1の結合を抑制する化合物及び/又はROR1とCAV1の結合を抑制する化合物のスクリーニングキット。
【請求項12】
ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、564~746番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸及び/又は853~876番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸、を少なくとも挿入した組み換えベクター。
【請求項13】
被検体から癌細胞を取得する工程、
前記癌細胞中の、ROR1とCavin-1、ROR1とCAV1、IGF-IRとCavin-1、IGF-IRとCAV1、Cavin-1とCAV1、Cavin-1、又はCAV1から選択される少なくとも1種以上の発現を測定する工程、
を含むことを特徴とする分子標的薬の適応患者の選択方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法、スクリーニングキット、該キットに用いるベクター及び形質転換体、並びに分子標的薬の適応患者の選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺癌は、経済的に良く発展した国々における癌による死亡の主たる原因であり、その中でも肺腺癌は最も頻度の高い組織学的サブタイプである。
【0003】
本発明者らは、肺における分岐形態形成及び生理学的機能に必要な系譜特異的転写因子(lineage-specific transcription factor)であるTTF-1(thyroid transcription factor-1)の持続的な発現と、肺腺癌とは密接に結びついていることを先に報告している(非特許文献1参照)。また、他の3グループも同様の結論、例えば、肺腺癌における局所的なゲノム異常のゲノム規模での探索を通して、TTF-1は系譜生存的癌遺伝子(lineage-survival oncogene)であるということに至っている(非特許文献2~4参照)。TTF-1がサーファクタントタンパク質の産生、並びに正常な成人の肺における生理学的機能に欠かせないことから、TTF-1の系譜特異的生存シグナルに関与する下流分子の同定が、新たな治療方法の開発に必要である。
【0004】
本発明者らは、このような下流分子の同定を試みた結果、TTF-1により発現が誘導される遺伝子として、ROR1(receptor tyrosine kinase-like orphan receptor 1)遺伝子を同定することに成功している。そして、このROR1遺伝子の発現を抑制することにより、特定の癌細胞の増殖が阻害できることを明らかにしている(特許文献1)。
【0005】
更に、本発明者らは、ROR1が癌細胞の増殖を抑制する機序のさらなる解明をしたところ、ROR1を標的として、癌細胞のアポトーシスの誘導のみならず、EGFRやMETなどの受容体型チロシンキナーゼ(Receptor Tyrosine Kinase、以下、受容体型チロシンキナーゼのことを「RTK」と記載することがある。)が伝達する癌細胞の生存促進性シグナルの抑制が可能であり、ROR1が、癌細胞の増殖抑制剤の開発の重要な標的となりうることを明らかにしている(特許文献2参照、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開第2010/008069号
【特許文献2】国際公開第2012/090939号
【0007】

【非特許文献1】Tanaka.H et al.,Cancer Res,2007,Vol.67, p6007~6011
【非特許文献2】Kendall.J et al., Proc Natl Acad Sci USA,2007, Vol.104, p16663~16668
【非特許文献3】Weir,BA et al., Nature, 2007, Vol.450, p893~898
【非特許文献4】Kwei,KA et al., Oncogene,2008, Vol.27, p3635~3640
【非特許文献5】Yamaguchi.T et al., Cancer Cell,2012, Vol.21, p348~361
【非特許文献6】Parton.RG et al., Nat Rev Mol Cell Biol,2013, Vol.14, p98~112
【非特許文献7】Sunaga.N et al.,Cancer Res, 2004,Vol.64, p4277~4285
【非特許文献8】Liu.L et al., J Biol Chem, 2008, Vol.283,p4314~4322
【非特許文献9】Liu.L et al., Cell Metab, 2008, Vol.8, p310~317
【非特許文献10】Hill.MM et al., Cell, 2008, Vol.132, p113~124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記特許文献2等に記載されているように、これまでの開発されてきた多くの分子標的薬は、キナーゼ活性の阻害剤である。前記キナーゼ活性の阻害剤とは、肺癌を始めとするヒトがんの増殖・生存に関わるRTKの活性化を抑制する化合物の事である。しかしながら、キナーゼ活性の阻害剤を患者に投与すると、治療中にキナーゼ遺伝子に耐性を付与する変異が生じたり、癌細胞の生存シグナルを他のレセプターに依存するバイパス経路が生じることで、癌細胞が当該キナーゼ活性の阻害剤に対して耐性を獲得するという問題がある。
【0009】
また、上記特許文献2に記載されているEGFR、MET等、癌細胞の一つのレセプターを分子標的とした場合、他のレセプターからのシグナルが遮断できず十分な効果が得られないことがあり、各々のレセプターを標的とする阻害剤の併用が試みられている。しかしながら、複数の阻害剤を併用したとしても、更にバイパス経路が生じたり、複数の阻害剤投与による副作用が拡大する恐れがあるという問題がある。
【0010】
以上のことから、正常細胞や癌細胞は様々な生存シグナルを駆使し自身が生き延びることを可能としているが、これらの生存シグナルは細胞膜に存在する多くのRTKを介して伝わる。これまでの研究から、癌細胞では個々のRTKをターゲットとした分子標的薬(EGFRを対象としたイレッサなど)が開発され、上記のように複数のRTKに対する阻害剤の併用が試みられているが、更に異なるRTKを介したバイパス経路の出現やこれらのRTKは正常細胞でも生存シグナルを伝える重要な役割を担っているため、副作用が非常に大きな問題となっており、総じて癌患者の著しい生存率の向上に貢献していない。これらの背景に基づいて、癌細胞の個々のRTKをターゲットとするのではなく、様々なRTKの活性を抑制することができ、且つ、正常な細胞には影響を与えないような癌細胞特異的な単一の化合物が求められている。しかしながら、これまでに癌細胞特異的に多くのRTKの活性を抑制するような分子や阻害剤は存在しておらず、またこれらを克服するために、癌細胞のどのような制御機構に着目すればよいのか現状では明らかではない。
【0011】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、(1)癌細胞に特有のタンパク質であるROR1に着目し、ROR1とCavin-1、又はROR1とCaveolin1(以下、「CAV1」と記載することがある。)の結合を抑制することで、Cavin-1とCAV1の結合が抑制され、その結果、CAV1の安定性が抑制されることで癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制できること、(2)上記(1)により癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制できることが明らかとなったことから、例えば、カベオラの形成に影響を与えるCavin-1等を標的にする化合物をスクリーニングすることで、癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制でき、その結果、様々なRTKの活性を単一の化合物で一網打尽に阻害できる可能性が有ること、を新たに見出した。
【0012】
また、本発明者らは、Cavin-1及びCAV1に結合するROR1の結合部位を特定した。そして、当該結合部位のDNAを含むベクター及びCavin-1及び/又はCAV1のDNAを含むベクターを用いて結合部位とCavin-1及び/又はCAV1が発現している形質転換体を作製し、当該形質転換体を用いたスクリーニングキットを作製することで、上記(2)の化合物のスクリーニングを簡単にできることを新たに見出した。更に、本発明者らは、癌細胞のカベオラの安定化にはROR1、IGF-IRの発現が重要な役割を果たしていることから、ROR1、IGF-IR、Cavin-1、CAV1の発現の組み合わせを調べることで、上記スクリーニングにより得られた分子標的薬の適応患者を選択できることを新たに見出した。
【0013】
すなわち、本発明の目的は、癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法、スクリーニングキット、該キットに用いるベクター及び形質転換体、並びに分子標的薬の適応患者の選択方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下に示す、細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法、スクリーニングキット、該キットに用いるベクター及び形質転換体、並びに分子標的薬の適応患者の選択方法に関する。
【0015】
(1)癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法であって、
前記スクリーニング方法が、
Cavin-1及びCAV1の結合の抑制を検出できる系に試験化合物を接触させる工程、
Cavin-1及びCAV1の結合を抑制する活性を有する化合物を選択する工程、
を含むことを特徴とするスクリーニング方法。
(2)前記Cavin-1及びCAV1の結合の抑制を検出できる系が、
Cavin-1の機能の抑制を検出できる系であることを特徴とする上記(1)に記載のスクリーニング方法。
(3)前記Cavin-1の機能の抑制を検出できる系が、ROR1とCavin-1との結合の抑制を検出できる系、又はIGF-IRとCavin-1との結合の抑制を検出できる系であることを特徴とする上記(2)に記載のスクリーニング方法。
(4)前記Cavin-1及びCAV1の結合の抑制を検出できる系が、
CAV1の機能の抑制を検出できる系であることを特徴とする上記(1)に記載のスクリーニング方法。
(5)前記CAV1の機能の抑制を検出できる系が、ROR1とCAV1との結合の抑制を検出できる系、又はIGF-IRとCAV1との結合の抑制を検出できる系であることを特徴とする上記(4)に記載のスクリーニング方法。
(6)ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、少なくとも564~746番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、及び、
ヒトCavin-1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、
を導入した形質転換体。
(7)上記(6)に記載の形質転換体を含む、ROR1とCavin-1の結合を抑制する化合物のスクリーニングキット。
(8)ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、少なくとも853~876番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、及び、
ヒトCAV1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、
を導入した形質転換体。
(9)上記(8)に記載の形質転換体を含む、ROR1とCAV1の結合を抑制する化合物のスクリーニングキット。
(10)ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、564~746番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸及び853~876番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸、を少なくとも挿入した組み換えベクター、
ヒトCavin-1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、及び、
ヒトCAV1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクター、
を導入した形質転換体。
(11)上記(10)に記載の形質転換体を含む、ROR1とCavin-1の結合を抑制する化合物及び/又はROR1とCAV1の結合を抑制する化合物のスクリーニングキット。
(12)ヒトROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、564~746番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸及び/又は853~876番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸、を少なくとも挿入した組み換えベクター。
(13)被検体から癌細胞を取得する工程、
前記癌細胞中の、ROR1とCavin-1、ROR1とCAV1、IGF-IRとCavin-1、IGF-IRとCAV1、Cavin-1とCAV1、Cavin-1、又はCAV1から選択される少なくとも1種以上の発現を測定する工程、
を含むことを特徴とする分子標的薬の適応患者の選択方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法により、通常の細胞には影響を与えず、癌細胞を特異的に抑制する化合物を発見できる可能性が有る。
また、Cavin-1及び/又はCAV1に結合するROR1の結合部位のDNAを含むベクター、並びにCavin-1及び/又はCAV1のDNAを含むベクターを用い、結合部位並びにCavin-1及び/又はCAV1が発現している形質転換体を作製し、当該形質転換体を用いたスクリーニングキットを作製することで、癌細胞のカベオラ形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニングを簡単に行うことができる。
更に、カベオラの安定化にはROR1の発現が重要な役割を果たしていることから、ROR1、IGF-IR、Cavin-1、CAV1の発現の組み合わせを調べることで上記スクリーニングにより得られた分子標的薬の適応患者を事前に選択することができるので、コンパニオン診断薬を処方することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、図面代用写真で、図1(1)は肺腺癌細胞株としてNCI-H1975、図1(2)は肺腺癌細胞株としてPC-9を用いた際に、ROR1の発現抑制が様々なRTKのリン酸化反応(活性化)を低下させることを示している。
【図2】図2(1)は、図面代用写真で、肺腺癌細胞株としてNCI-H1975を用いた際のROR1の発現抑制によるCAV1の発現低下を示すウェスタンブロッティング写真である。図2(2)は、図面代用写真で、肺腺癌細胞株としてNCI-H441、NCI-H358、PC-9を用いた際のROR1の発現抑制によるCAV1の発現低下を示すウェスタンブロッティング写真である。図2(3)は、図面代用写真で、急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を用いたNCI-H1975細胞膜上の電子顕微鏡解析写真である。図2(4)は、siControl及びsiROR1で処理をしたNCI-H1975で認められた正常なカベオラの数を、ランダムな細胞膜上の領域で測定を行った結果を示すグラフである。
【図3】図3は、図面代用写真で、ROR1のキナーゼ活性はROR1の発現抑制によるCAV1の発現低下に必要でないことを示すウェスタンブロッティング写真である。
【図4】図4(1)及び(2)は、図面代用写真で、2つの異なる肺腺癌細胞株であるNCI-H1975及びSK-LU-1において、内因性のROR1とCavin-1とは結合するが、ROR1はCavin-2とは結合しないことを示すウェスタンブロッティング写真である。図4(3)及び(4)は、図面代用写真で、2つの異なる肺腺癌細胞株であるNCI-H1975及びSK-LU-1において、内因性のROR1とCAV1についても結合することを示すウェスタンブロッティング写真である。図4(5)は、図面代用写真で、ROR1の発現抑制は、siROR1のトランスフェクションの後、24時間後にはすでにROR1の発現が低下するのに対して、CAV1の発現低下は48時間後に見られることを示すウェスタンブロッティング写真である。図4(6)は、図面代用写真で、ROR1の発現抑制は内因性のCAV1とCavin-1との結合を減少させることを示すIP-WB写真である。
【図5】図5(1)~(4)は、図面代用写真で、肺腺癌細胞株であるNCI-H1975においてROR1の発現抑制が、様々なリガンド刺激による各々のRTKのリン酸化反応(活性化)を低下させることを示すウェスタンブロッティング写真である。
【図6】図6(1)及び(2)は、2つの異なる肺腺癌細胞株であるPC-9及びNCI-H1975において、Cavin-1の発現抑制は細胞増殖を阻害することを比色法によって示したグラフである。なお、これまでの報告通り、ROR1の発現抑制は細胞増殖を阻害すること(特許文献1及び非特許文献5)やCAV1の発現抑制もまた細胞増殖を阻害すること(非特許文献7)についても確認している。
【図7】図7(1)及び(2)は、図面代用写真で、2つの異なる肺腺癌細胞株であるNCI-H1975及びNCI-H358において、IGF-IRの発現抑制により、CAV1の発現低下が認められたことを示すウェスタンブロッティング写真である。
【図8】図8は、図面代用写真で、肺腺癌細胞株であるNCI-H1975において、内因性のCavin-1とIGF-IRは結合することを示すウェスタンブロッティング写真である。
【図9】図9(1)は、ROR1のキナーゼドメインのそれぞれの欠損変異体の模式図を示している。図9(2)は、図面代用写真で、Cavin-1がROR1のキナーゼドメイン内で結合していることを示すIP-WB分析の写真である。図9(3)は、図面代用写真で、ROR1の細胞内領域とCavin-1との結合が細胞内において検出できることを示した細胞染色法を用いて分析した結果を示す写真である。図9(4)は、図面代用写真で、ROR1のキナーゼドメイン内の一部の領域(564アミノ酸から746アミノ酸の領域)とCavin-1との結合が細胞内において検出できることを示した細胞染色法を用いて分析した結果を示す写真である。
【図10】図10(1)は、ROR1のキナーゼドメイン、STドメイン、Proドメインのそれぞれの欠損変異体の模式図を示している。図10(2)は、図面代用写真で、CAV1がROR1の細胞内領域のC末側に位置するセリン・スレオニンドメインで結合していることを示すIP-WB分析の写真である。
【図11】図11は、図面代用写真で、肺腺癌細胞株であるPC-9において、cavin-1が結合するROR1の結合領域(TK2+TK3;564~746アミノ酸)を欠損させた変異体に、siROR1の効果をキャンセルさせる変異を加えた変異体を作製し、細胞に発現させ、siROR1処理を行ったところ、CAV1の発現が低下することを示すウェスタンブロッティング写真である。
【図12】図12は、図面代用写真で、肺腺癌細胞株であるPC-9において、CAV1が結合するROR1の結合領域(S/T2;853~876アミノ酸)を欠損させた変異体に、siROR1の効果をキャンセルさせる変異を加えた変異体を作製し、細胞に発現させ、siROR1処理を行ったところ、CAV1の発現が低下することを示すウェスタンブロッティング写真である。
【図13】図13(1)下図は、外陰部扁平上皮癌細胞株としてA431を用いた際のIGF-IおよびGefitinib存在下でのROR1の発現抑制による細胞増殖の低下を示すMTT assayの結果を表すグラフである。図13(1)上図は、図面代用写真で、生存シグナルに関与するAKTとIGF-IRのリン酸化の低下を示すウェスタンブロッティング写真である。図13(2)下図は、肺腺癌細胞株としてPC-9を用いた際のHGFおよびGefitinib存在下でのROR1の発現抑制による細胞増殖の低下を示すMTT assayの結果を表すグラフである。図13(2)上図は、図面代用写真で、生存シグナルに関与するAKTとMETのリン酸化の低下を示すウェスタンブロッティング写真である。図13(3)下図は、肺腺癌細胞株としてNCI-H1975を用いた際のHGFおよびCL-387,785存在下でのROR1の発現抑制による細胞増殖の低下を示すMTT assayの結果を表すグラフである。図13(3)上図は、図面代用写真で、生存シグナルに関与するAKTとMETのリン酸化の低下を示すウェスタンブロッティング写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法、スクリーニングキット、該キットに用いるベクター及び形質転換体、並びに分子標的薬の適応患者の選択方法について詳しく説明する。

【0019】
先ず、本発明における「癌細胞のカベオラ」とは、癌細胞の上皮細胞と内皮細胞膜表面にある窪みを持った構造を意味している。カベオラには、EGF、PDGF、FGF、HGF、インスリン様増殖因子(IGF-IR)など各種の増殖因子が結合することで細胞内にシグナルを伝達するRTKが集積しており、癌細胞へのシグナル伝達、脂質の取り込みや体内に侵入した細菌などの排除として機能している。本発明においては、カベオラに集積している個々のRTKの活性を抑制するのではなく、カベオラの形成自体を抑制することで、結果として各種RTKの活性を一網打尽に抑制できる化合物をスクリーニングすることを特徴としている。

【0020】
本発明における「癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物」とは、通常細胞のカベオラの形成には影響を与えず、癌細胞のカベオラの形成のみを特異的に抑制できる化合物を意味する。

【0021】
カベオラの形成には、CAV1が寄与することが知られている(非特許文献6参照)。また、CAV1の発現抑制(siCAV1)によって、CAV1の機能、およびカベオラの形成を抑制できることは既に知られている(非特許文献7)。しかしながら、単にCAV1の機能を抑制するのみでは、通常細胞のカベオラの形成も抑制してしまう恐れがあるが、癌細胞のCAV1の機能のみを特異的に抑制する因子は知られていなかった。

【0022】
本発明においては、癌細胞に特異的なタンパク質であるROR1に着目することで、通常細胞のカベオラの形成には影響を与えず、癌細胞のカベオラの形成のみを特異的に抑制できることを新たに見出している。具体的には、ROR1とCavin-1の結合、又は、ROR1とCAV1の結合を抑制することで、CAV1を安定化するために必要なCavin-1とCAV1の結合が抑制され、その結果、カベオラの形成に重要な役割を果たすCAV1の機能が抑制される。そして、CAV1の機能が抑制されると、カベオラの形成も抑制されることから、癌細胞のカベオラの形成のみを特異的に抑制することができる。

【0023】
なお、本発明では、癌細胞特有のタンパク質であるROR1に着目することで、癌細胞のカベオラの形成のみを特異的に抑制できることを初めて見出している。したがって、本発明の「癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制」とは、最終的に癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制できればよく、化合物のターゲット因子はROR1に限定されない。例えば、IGF-IR等、ROR1以外の因子によるCavin-1又はCAV1の機能の抑制、或いは、Cavin-1又はCAV1の機能の直接的な抑制等、最終的に癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制できれば特に制限はない。

【0024】
本発明のスクリーニング方法のターゲットとなる化合物は、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、抗体、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等を挙げることができる。また、「抑制」とは、完全に抑制すること(すなわち、阻害すること)のみならず、部分的に抑制することをも含むことを意味する。例えば、「Cavin-1の機能を抑制」には、Cavin-1の活性の抑制および発現の抑制の双方が含まれる。

【0025】
ヒトROR1の遺伝子情報、cDNA配列およびアミノ酸配列は公知であり、例えば、GenBank Gene ID:4919の遺伝子情報、GenBankアクセッション番号NM_005012に記載のcDNAおよびGenBankアクセッション番号NP_005003に記載のアミノ酸配列情報を入手することができる。

【0026】
Caveolin(CAV)は、カベオラを形成する主要タンパク質として知られており、CAV1~3が知られている。CAVファミリーの中で、CAV1は、CAV2やCAV3よりもカベオラの形成に関わる最も重要な分子として知られている。(非特許文献6参照)。また、ヒトCAV1の遺伝子情報、cDNA配列およびアミノ酸配列は公知である。例えば、GenBank Gene ID:857の遺伝子情報、GenBankアクセッション番号NM_001753に記載のcDNA、及びGenBankアクセッション番号NP_001744に記載のアミノ酸配列情報を入手することができる。

【0027】
Cavin-1は、CAV1タンパク質と結合することで、CAV1を安定化(ライソームによる分解を抑える)することが知られている(非特許文献6参照)。また、ヒトCavin-1の遺伝子情報、cDNA配列およびアミノ酸配列は公知である。例えば、GenBank Gene ID:284119の遺伝子情報、GenBankアクセッション番号NM_012232に記載のcDNAおよびGenBankアクセッション番号NP_036364に記載のアミノ酸配列情報を入手することができる。

【0028】
癌細胞としては、カベオラを形成しており、当該カベオラにRTKが集積しているものであれば、広く対応が可能と考えられる。そのような癌細胞としては、例えば、肺癌、肺腺癌、膵癌、悪性中皮腫、乳癌、大腸癌、口腔癌、食道癌などの癌の細胞が挙げられるが、これらに制限されない。癌細胞の由来する生物種としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギなどが挙げられるが、これらに制限されない。

【0029】
本発明のスクリーニング方法は、癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制することができるか否かを直接又は間接的に検出しうる系に試験化合物を接触させ、接触前後の機能の変化を検出できれば特に制限は無い。

【0030】
例えば、Cavin-1が発現している系、CAV1が発現している系、CAV1及びCavin-1が発現している系、ROR1及びCavin-1が発現している系、ROR1及びCAV1が発現している系、IGF-IR及びCavin-1が発現している系、IGF-IR及びCAV1が発現している系等に、試験化合物を接触させ、次いで、Cavin-1の発現の低下の有無、CAV1の発現の低下の有無、CAV1及びCavin-1の結合の抑制の有無、ROR1及びCavin-1の結合の抑制の有無、ROR1及びCAV1の結合の抑制の有無、IGF-IR及びCavin-1の結合の抑制の有無、IGF-IR及びCAV1の結合の抑制の有無を、公知の検出方法を用いて検出すればよい。なお、ROR1が発現している系に試験化合物を接触させる場合は、ROR1が癌細胞に特異的なタンパク質であることから、スクリーニングした化合物は通常細胞には影響を与えない。一方、ROR1が発現していない系、例えば、Cavin-1のみ発現している系、CAV1のみが発現している系、Cavin-1及びCAV1が発現している系、IGF-IR及びCavin-1が発現している系、IGF-IR及びCAV1が発現している系に試験化合物を接触した場合、通常細胞のCavin-1の発現の低下、CAV1の発現の低下、CAV1及びCavin-1の結合の抑制、IGF-IR及びCavin-1の結合の抑制、IGF-IR及びCAV1の結合の抑制をする場合も考えられる。そのため、ROR1が発現していない系でスクリーニングを行った場合は、スクリーニングした化合物を癌細胞と通常細胞に投与し、癌細胞に特異性があるか否か確認を行えばよい。

【0031】
検出方法としては、例えば、ELISA法(酵素免疫測定法)、免疫沈降-ウェスタンブロット(IP-WB)法によって実施することができる。試験化合物の非存在下で検出した場合と比較して、Cavin-1の発現量が低下、CAV1の発現量が低下、又はCAV1及びCavin-1の結合量の低下、ROR1及びCavin-1の結合量の低下、ROR1及びCAV1の結合量の低下、IGF-IR及びCavin-1の結合量の低下、IGF-IR及びCAV1の結合量の低下が検出されれば、試験化合物は、癌細胞のカベオラ形成を特異的に抑制すると評価される。

【0032】
上記の検出方法の他、癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物は、本発明のスクリーニングキットを用いてタンパク質の蛍光輝度としてスクリーニングすることもできる。本発明では、Cavin-1と結合するROR1の結合部位が、ROR1の細胞内領域(ROR1-ICD:アミノ酸配列428~937番)の内、キナーゼドメイン内の564~746番のアミノ酸領域であることを新たに特定した。Cavin-1はROR1の細胞内領域に結合することから、本発明のスクリーニングキットは、ROR1の細胞内領域のアミノ酸配列の内、少なくともアミノ酸配列564~746番のアミノ酸領域及びCavin-1が発現している細胞を作成し、発現しているタンパク質同士の結合を細胞内で蛍光輝度として検出できる系を構築している。また、本発明では、CAV1と結合するROR1の結合部位が、ROR1の細胞内領域の内、キナーゼドメイン内の853~876番のアミノ酸領域であることを新たに特定した。上記と同様に、少なくともアミノ酸配列853~876番のアミノ酸領域及びCAV1が発現している細胞を作成し、発現しているタンパク質同士の結合を細胞内で蛍光輝度として検出できる系を構築できる。

【0033】
ROR1の564~746番のアミノ酸領域及びCavin-1の両方が発現している細胞は、次の手順で作製することができる。
(1)ROR1の細胞内領域のアミノ酸配列428~937番の内、少なくとも564~746番のアミノ酸領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクターを作製する。
(2)ヒトCavin-1のアミノ酸配列をコードする核酸を挿入した組み換えベクターを作製する。
(3)細胞に、(1)及び(2)のベクターを導入して形質転換体を作製する。
組み換えベクターの作製及び細胞への組み換えベクターの導入は、公知の方法で行えばよい。また、細胞としては、HeLa細胞、HEK293細胞、COS-7細胞、CHO細胞等を用いることができる。
(4)これらの細胞を用いて(1)および(2)の組み換えベクターを導入した形質転換体として恒常的に発現することができる細胞株を作製する。

【0034】
次いで、例えば、Image-based Protein-Protein Interaction analysis(Fluoppi)、Fluo-chase等、発現しているタンパク質同士の結合を細胞内で蛍光輝度として検出できる公知のキットに上記の形質転換体を用いることで、本発明のスクリーニングキットを作製することができる。発現しているROR1のCavin-1への結合部位とCavin-1が結合する時には蛍光輝度(foci:ドット状の構造物)として検出することができ、試験化合物がROR1の結合部位とCavin-1が結合することを抑制できるときには蛍光輝度として検出しないことで、試験化合物の選択を簡単に行うことができる。

【0035】
ROR1の853~876番のアミノ酸領域及びCAV1の両方が発現している細胞は、上記(1)の工程の564~746番のアミノ酸領域に代え、853~876番のアミノ酸領域を少なくとも含むようにし、上記(2)の工程のヒトCavin-1のアミノ酸配列をコードする核酸に代え、ヒトCAV1のアミノ酸配列をコードする核酸を用いればよい。

【0036】
なお、一般的に、Image-based Protein-Protein Interaction analysisに膜タンパク質(例えばROR1タンパク質など)や細胞内で通常ドット状に局在、或いは、散在するするタンパク質(例えばCavin-1タンパク質など)等を組み込む場合、当該タンパク質をコードする核酸の全長をベクターに組み込むと検出系が安定しないと言われている。本発明においては、ROR1がCavin-1及びCAV1と結合する領域が細胞内領域の部分であることが判明したため、ROR1の細胞外領域部分であるアミノ酸配列1~427番部分を組み込んでいないが、検出系が安定する範囲内であれば、細胞外領域部分のアミノ酸配列をコードする核酸部分についてもベクターに組み込んでもよい。また、ROR1のCavin-1への結合部位又はROR1のCAV1への結合部位が細胞内で発現するように構築してもよいし、例えば、ROR1のCavin-1への結合部位及びROR1のCAV1への結合部位の両方が細胞内で発現するようにベクターに組み込む等、スクリーニング目的に応じて発現させる領域及びタンパク質の組み合わせは適宜決めればよい。なお、ROR1のCavin-1への結合部位及びROR1のCAV1への結合部位の両方を細胞内で発現させる場合は、形質転換体内で、ヒトCavin-1のアミノ酸配列及びヒトCAV1のアミノ酸配列の両方が発現するように形質転換体を作製すればよい。その他の検出方法としては、免疫沈降法、酵母ツーハイブリッドシステム、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)、表面プラズモン共鳴法を利用した方法などを用いることもできる。

【0037】
また、本発明の分子標的薬の適応患者の選択方法は、被検体から癌細胞を取得し、サンプル中の、ROR1とCavin-1、ROR1とCAV1、IGF-IRとCavin-1、IGF-IRとCAV1、Cavin-1とCAV1、CAV1又はCavin-1から選択される少なくとも1種以上の発現を測定することで、上記癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法でスクリーニングされた化合物の適応患者の選択をすることができる。

【0038】
サンプル中の、ROR1とCavin-1、ROR1とCAV1、IGF-IRとCavin-1、IGF-IRとCAV1、Cavin-1とCAV1、CAV1又はCavin-1から選択される少なくとも1種以上の発現は、ELISA法、IP-WB法等、公知の方法を用いればよい。

【0039】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0040】
<材料と方法>
(1)細胞株と試薬
ヒト肺腺癌細胞株であるNCI-H1975(ATCC寄託番号:CRL-5908)、NCI-H358(ATCC寄託番号:CRL-5087)、NCI-H441(ATCC寄託番号:HTB-174)、COS-7(ATCC寄託番号:CRL-1651);ヒト外陰部扁平上皮癌細胞であるA431(ATCC寄託番号:CRL-1555);HeLa(ATCC寄託番号:CCL-2)は、アメリカ培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection)から購入した。ヒト肺腺癌細胞株であるPC-9細胞株(RCB4455)は、RIKENのCell Bankより入手した。また、ヒト肺腺癌細胞株であるSK-LU-1細胞株は、Lloyd J.Old(メモリアル・スローン・ケタリング癌センター)から提供を受けた。そして、これらの細胞株は、10%ウシ胎児血清(FBS)添加RPMI 1640(Invitrogen社製)により維持した。
【実施例】
【0041】
組換えInsulin、組換えIGF-I、組換えIGF-II、組み換えHGF、組み換えPDGFは、PeproTech社から入手した。EGFR-TKIであるGefitinibは、BiaffinGmbH&CoKG社から入手し、CL-387,785は、Calbiochem社から入手した。
【実施例】
【0042】
phospho-RTK array kitはR&D system社から入手した。Fluoppi:Ash-hAG(Ash-MNL/MCL+hAG-MNL/MCL)kitはMBLから入手した。
【実施例】
【0043】
下記抗体は、各々以下の会社から購入した。
・anti-ROR1、anti-IGF-IR、anti-phospho-InsulinR(Y1150/Y1151)、anti-phospho-IGF-IR(Y1135/Y1136)、anti-phospho-PDGF(Y754)、anti-phospho-c-Met(Y1234/Y1235)、anti-pAKT(S473)、anti-AKT、anti-phosphoERK(T202/Y204)、anti-ERK、anti-METは、CellSignaling Technology社から購入した。
・anti-Cavin-1、anti-Cavin-2はabcam社から購入した。
・anti-α-tubulinはSigma社から購入した。
・anti-ROR1(免疫沈降用)はR&D system社から購入した。
・anti-CAV1、anti-CAV2はBD Bioscience社から購入した。
・anti-mouse IgG、及びanti-rabbit IgGはCell Signaling Technology社から購入した。
【実施例】
【0044】
(2)コンストラクト
ヒトROR1全長cDNA(OriGene Technologies社製)はpCMV-puroベクターに挿入した。そして得られたコンストラクト(pCMVpuro-ROR1)のオープン・リーディング・フレーム(ORF)の配列を正確に確認した。ヒトCavin-1全長cDNA(OriGene Technologies社製)はpCMV-puroベクターに挿入した。そして得られたコンストラクト(pCMVpuro-Cavin-1)のオープン・リーディング・フレーム(ORF)の配列を正確に確認した。ヒトCAV1全長cDNA(OriGene Technologies社製)はpCMV-puroベクターに挿入した。そして得られたコンストラクト(pCMVpuro-CAV1)のオープン・リーディング・フレーム(ORF)の配列を正確に確認した。また、pCMVpuro-ROR1-ICD(428アミノ酸から937アミノ酸)、pCMVpuro-ROR1-TK2+TK3(564アミノ酸から746アミノ酸の領域)は制限酵素を用いた分子生物学的手法により作製した。
【実施例】
【0045】
pCMVpuro-ROR1-TKΔ473-564、pCMVpuro-ROR1-TKΔ564-655、pCMVpuro-ROR1-TKΔ655-746、pCMVpuro-ROR1-TKΔ473-655、pCMVpuro-ROR1-TKΔ564-746、pCMVpuro-ROR1-TKΔ473-746、pCMVpuro-ROR1-ST1Δ748-782、pCMVpuro-ROR1-PΔ784-851、pCMVpuro-ROR1-ST2Δ853-876については、KOD-plus-DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用いて、in vitro mutagenesisを行い、作製した。以下に、各々の作製に用いたプライマーを示す。
Δ746フォワードプライマー:5’-CGCTCCTGGGAGGGACTCTCAAGTC-3’(配列番号:1)、
Δ564フォワードプライマー:5’-ATCATGAGATCCCCACACTCTGATG-3’(配列番号:2)、
Δ655フォワードプライマー:5’-ATTCGCTGGATGCCCCCTGAAGCCA-3’(配列番号:3)、
Δ748フォワードプライマー:5‘-AACCCCAGATATCCTAATTACATGT-3’(配列番号:4)
Δ851フォワードプライマー:5‘-AAGAGTCGGTCCCCAAGCAGTGCCA-3’(配列番号:5)
Δ853フォワードプライマー:5‘-AATCAGGAAGCAAATATTCCTTTAC-3’(配列番号:6)
Δ473リバースプライマー:5’-AGCAGAAAGAGGTAGCTCTTTAGCC-3’(配列番号:7)、
Δ564リバースプライマー:5’-GAGGAACTCATGGAGATCCCCCTGA-3’(配列番号:8)、
Δ655リバースプライマー:5’-GGGCAGCAAGGACTTACTCTGGACC-3’(配列番号:9)。
Δ782リバースプライマー:5‘-CCGAAGCCGGACGTGAATATCTTTA-3’(配列番号:10)
Δ782リバースプライマー:5‘-GTTACTGAGATTACTCACTGGGCTG-3’(配列番号:11)
Δ876リバースプライマー:5‘-CTTGGGAGGTGGGCAGTGCTGAATC-3’(配列番号:12)
【実施例】
【0046】
pCMVpuro-ROR1-KD(キナーゼ活性欠失型;K506A)についても、KOD-plus-DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用いて、in vitro mutagenesisを行い、作製した。
【実施例】
【0047】
(3)ウェスタンブロッティング分析、及びIP-WB分析
ウェスタンブロッティング分析、及びIP-WB分析は、Immobilon-P フィルター(Millipore社製)及び化学発光増強システム(enhanced chemiluminescence system、GE Healthcare社製)を用いて、標準的な方法により施行した。ROR1とCavin-1の結合部位を特定するために、pCMVpuro-Cavin-1-WTを、wild type(WT)、TKΔ473-564(TKΔ1)、TKΔ564-655(TKΔ2)、TKΔ655-746(TKΔ3)、TKΔ473-655(TKΔ1+Δ2)、TKΔ564-746(TKΔ2+Δ3)、TKΔ473-746(TKΔ1+Δ2+Δ3)、といった様々なROR1発現コンストラクトとともに共発現を行った。また、ROR1とCAV1の結合部位を特定するために、pCMVpuro-CAV1-WTを、wild type(WT)、TKΔ473-564(TKΔ1)、TKΔ564-655(TKΔ2)、TKΔ655-746(TKΔ3)、ST1Δ748-782(ΔST1)、PΔ784-851(ΔP)、ST2Δ853-876(ΔST2)といった様々なROR1発現コンストラクトとともに共発現を行った。これらはCOS-7細胞を用いて、FuGene6(Promega社)によるトランスフェクション後24時間で細胞を回収し、IP-WB分析を行った。
【実施例】
【0048】
ROR1の発現抑制による各々のリガンド刺激によるRTKのリン酸化反応(活性化)を検討するために、NCI-H1975細胞株を用いて、siControl♯1(以下、明細書及び図面において、「siControl」と記載することがある。)、siROR1♯1(以下、明細書及び図面において、「siROR1」と記載することがある。)のトランスフェクション後42時間で培養液を取り除き、PBSで洗浄後、Serum(FBS:ウシ胎児血清)を含まない培養液に置換し、さらに24時間培養し、その後、20ng/mlのInsulin、IGF-I、IGF-II、PDGFで30分処理したのち、細胞を回収し、ウェスタンブロッティング分析を行った。
【実施例】
【0049】
またROR1とCavin-1、あるいはROR1とCAV1、またはCavin-1とIGF-IRとの結合を確認するため、肺腺癌細胞株であるNCI-H1975やNCI-H358及びSK-LU-1細胞株を用いて、オクチルグルコシド含有のlysis buffer(10mM Tris-HCl(pH8.0)、0.15M NaCl、5mM EDTA、1% TritonX-100、60mM Octylglucoside)で細胞を懸濁した後、IP-WB分析を行った。
【実施例】
【0050】
(4)免疫蛍光染色
FluoppiによりHeLa細胞にトランスフェクションした細胞は、24時間後に培養液を取り除き、PBSで洗浄後、3.7%のホルマリン溶液で固定し、プレパラートを作製した後、蛍光顕微鏡(Leica社製)を用いて観察した。
【実施例】
【0051】
(5)phospho-RTK array
NCI-H1975およびPC-9肺腺癌細胞株は、siControl、siROR1のトランスフェクション後72時間で培養液を取り除き、PBSで洗浄後、細胞を回収し、NP-40 lysis buffer(1% NP-40、20mM Tris-HCl(pH8.0)、137mM NaCl、10% glycerol、2mM EDTA、1mM sodium orthovanadate、protein inhibitor tablet(Roche社))に懸濁後、R&D社のプロトコールに従い解析を行った。
【実施例】
【0052】
(6)ヒトROR1、ヒトIGF-IR、ヒトCavin-1、ヒトCAV1に対するRNA干渉(RNAi)
RNAiを行うため、下記RNAオリゴマーをQIAGEN社及びSigma-Aldrich社から入手した。
・5’-CAGCAAUGGAUGGAAUUUCAA-3’:siROR1#1(配列番号:13)、
・5’-CCCAGUGAGUAAUCUCAGU-3’:siROR1#2(配列番号:14)、
・5’-CCCAGAAGCUGCGAACUGU-3’:siROR1#3(配列番号:15)、
・5’-GGAAUUGCAUGGUAGCCGAUU-3’:siIGF-IR#1(配列番号:16)、
・5’-CUGACUACAGGGAUCUCAUUU-3’:siIGF-IR#2(配列番号:17)、
・5’-CUCCAAGACCGCGGUCUACAA-3’:siCavin-1#1(配列番号:18)、
・5’-CCCGCCGAGCGGCGCGAGAAA-3’:siCavin-1#2(配列番号:19)、
・5’-AGACGAGCUGAGCGAGAAGCA-3’:siCAV1#1(配列番号:20)。
【実施例】
【0053】
また、コントロールとして、AllStars Negative Control siRNA(siControl#1)はQIAGEN社から入手した。またsiControl#2は、Sigma aldrich社から入手した。
【実施例】
【0054】
siRNA(各々20nM)のトランスフェクションは、リポフェクトアミンRNAiMAX(Invitrogen社製)を用いて、そのメーカーの使用説明書に従って行った。そして、細胞は、ウェスタンブロッティング分析のため、トランスフェクションをしてから72時間後に回収した。また、細胞増殖を測定するための比色法による解析については、トランスフェクションをしてから120時間後に回収した。
【実施例】
【0055】
(7)CAV1発現制御におけるROR1のキナーゼ活性の重要性の検討
siROR1に対するsilent mutationを含んだpCMVpuro-ROR1-WTm(siROR1)やpCMVpuro-ROR1-KDm(siROR1)については、KOD-plus-DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用いて、in vitro mutagenesisを行い、作製した。作製にはアミノ酸の置換を伴わない、
・5’-CAACAGTGGACAGAGTTCCAG-3’:(配列番号:21)
のプライマーを用いた。野生型のROR1(ROR1-WT)、あるいはsiROR1に対するsilent mutationを加えた野生型のROR1(ROR1-WTm)、またはsiROR1に対するsilent mutationを加えたキナーゼ活性を欠失したROR1(ROR1-KDm)をNCI-H1975細胞にトランスフェクションを行い、24時間後、puromycinでセレクション(1.5μg/ml)を行った上で、シングルクローンを採取し、それぞれのROR1を発現したstable clone(恒常的ROR1発現細胞株)を作製した。これらのstable cloneは、その後、siControlあるいはsiROR1で処理した後、3日後に細胞を回収し、ウェスタンブロッティング分析を行った。
【実施例】
【0056】
(8)CAV1発現制御におけるROR1のcavin-1結合領域の重要性の検討
siROR1に対するsilent mutationを含んだpCMVpuro-ROR1-WTm(siROR1)やpCMVpuro-ROR1-TKΔ2+TKΔ3m(siROR1)については、KOD-plus-DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用いて、in vitro mutagenesisを行い、作製した。作製にはアミノ酸の置換を伴わない、
・5’-CAACAGTGGACAGAGTTCCAG-3’:(配列番号:21)
のプライマーを用いた。野生型のROR1(ROR1-WT)、あるいはsiROR1に対するsilent mutationを加えた野生型のROR1(ROR1-WTm)、またはsiROR1に対するsilent mutationを加えたcavin-1の結合領域を欠損したROR1(ROR1-TKΔ2+TKΔ3m)をPC-9細胞にトランスフェクションを行い、24時間後、puromycinでセレクション(1.0μg/ml)を行った上で(3日後)、バルククローンとして細胞を回収し、再度6ウェルプレートに撒き直した。その後、siControlあるいはsiROR1で処理した後、3日後に細胞を回収し、ウェスタンブロッティング分析を行った。
【実施例】
【0057】
(9)CAV1発現制御におけるROR1のCAV1結合領域の重要性の検討
siROR1に対するsilent mutationを含んだpCMVpuro-ROR1-WTm(siROR1)やpCMVpuro-ROR1-ΔS/T2m(siROR1)については、KOD-plus-DNAポリメラーゼ(TOYOBO社)を用いて、in vitro mutagenesisを行い、作製した。作製にはアミノ酸の置換を伴わない、
・5’-CAACAGTGGACAGAGTTCCAG-3’:(配列番号:21)
のプライマーを用いた。野生型のROR1(ROR1-WT)、あるいはsiROR1に対するsilent mutationを加えた野生型のROR1(ROR1-WTm)、またはsiROR1に対するsilent mutationを加えたCAV1の結合領域を欠損したROR1(ROR1-ΔS/T2m)をPC-9細胞にトランスフェクションを行い、24時間後、puromycinでセレクション(1.0μg/ml)を行った上で(3日後)、バルククローンとして細胞を回収し、再度6ウェルプレートに撒き直した。その後、siControlあるいはsiROR1で処理した後、3日後に細胞を回収し、ウェスタンブロッティング分析を行った。
【実施例】
【0058】
(10)急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を用いた電子顕微鏡解析によるROR1発現抑制細胞でのカベオラ形成への影響と効果についての検討
培養ディッシュ内に20μmの厚さの金箔を敷き、その上で肺腺癌細胞株であるNCI-H1975細胞を培養し、siControlあるいはsiROR1のトランスフェクションを行った。トランスフェクション後72時間でhigh-pressure freezing machine(Leica社)を用いて急速凍結を行った。BAF400 apparatus(Baltec社)を用いて凍結割断レプリカを作製し、SDSで処理後、mouse anti-CAV2 antibody(BD Transduction社)でラベルを行った。その後、10nmの金コロイド-conjugated goat anti-mouse IgG antibody(British Biocell International社)を用いて二次抗体反応を行い、JEM-1011電子顕微鏡により観察を行った。また、カベオラ分布密度計測については、電子顕微鏡下でランダムに選択した領域(17-50μmの18個のランダムな細胞膜領域)を測定し、それぞれの電子顕微鏡写真の細胞膜の領域は、ImageJを用いて測定した。
【実施例】
【0059】
(11)Image-based Protein-Protein Interaction analysisを用いたROR1とCavin-1の結合の検出
Image-based Protein-Protein Interaction analysisによる実験系の構築および解析方法は、入手先であるMBLのプロトコールに従って行った。pCMVpuro-ROR1-ICD(428アミノ酸から937アミノ酸)、pCMVpuro-ROR1-TK2+TK3(564アミノ酸から746アミノ酸の領域)およびpCMVpuro-Cavin-1—WT(全長)はMBLのプロトコールに従い、制限酵素を用いた分子生物学的手法により以下のコンストラクトの作製を行った。phAG-MNL-ROR1-ICD、phAG-MNL-ROR1-TK2+TK3、phAG-MNL-Cavin-1-WT、phAG-MCL-ROR1-ICD、phAG-MCL-ROR1-TK2+TK3、phAG-MCL-Cavin-1-WT、pAsh-MNL-ROR1-ICD、pAsh-MNL-ROR1-TK2+TK3、pAsh-MNL-Cavin-1-WT、pAsh-MCL-ROR1-ICD、pAsh-MCL-ROR1-TK2+TK3、pAsh-MCL-Cavin-1-WT。そしてそれぞれの得られたコンストラクトが適切に組み込まれていることをシークエンスにより配列を正確に確認した。その後、適切な8通りの組み合わせによるトランスフェクション(Fugene6(Promega社))を、HeLa細胞を用いて行った。同時にROR1-ICDあるいはROR1-TK2+TK3を組み込んだプラスミドとCavin-1-WTを組み込んでいないプラスミドのトランスフェクションも行った(4通りの組み合わせ、ネガティブコントロール)。トランスフェクション後24時間で細胞を3.7%のホルマリン溶液で固定し、観察を行った。
【実施例】
【0060】
(12)RNAi干渉法を用いたROR1、Cavin-1、CAV1の発現抑制による肺腺癌細胞株に対する細胞増殖への効果についての検討
ROR1、Cavin-1、CAV1の発現抑制による細胞増殖への影響を調べるために、PC-9及びNCI-H1975細胞株に対してsiControlあるいはsiROR1、siCavin-1、siCAV1のトランスフェクションを行った。トランスフェクション後120時間で、Cell Counting Kit-8(DOJINDO社)を用いて反応させ、プレートリーダーにより吸光度を測定し、比色法を行った。なお、この実験は独立に3回行い、その平均値をグラフ化した。
【実施例】
【0061】
(13)リガンド刺激下でのEGFR-TKI耐性細胞株でのROR1、Cavin-1、CAV1の発現抑制による細胞増殖への効果と生存シグナルへの影響についての検討
臨床上問題となっている様々なリガンド存在下でのEGFR-TKI耐性を獲得した細胞株におけるROR1、Cavin-1、CAV1の発現抑制による細胞増殖への効果と生存シグナルへの影響を調べた。外陰部扁平上皮癌細胞であるA431、肺腺癌細胞であるPC-9、およびNCI-1975細胞株に対して、様々なリガンド(50ng/ml)とEGFR-TKI(Gefitinibは1uM、CL-387,785は0.5uM)存在下の状態(A431:Gefitinib+IGF-I、PC-9:Gefitinib+HGF、H1975:CL-387,785+HGF)を作り出した上で、siControlあるいはsiROR1、siCavin-1、siCAV1のトランスフェクション(20uM)を行った。ウェスタンブロッティングの場合は、細胞をプレートに撒いた次の日に各々のsiRNAの処理を行い、3日後にそれぞれのリガンドとEGFR-TKIを6時間作用させ、細胞を回収した。MTT assayの場合は、細胞をプレートに撒いた次の日に各々のsiRNAの処理を行い、さらに次の日にそれぞれのリガンドとEGFR-TKIを作用させ、4日後にCell Counting Kit-8(DOJINDO社)を用いて反応させ、プレートリーダーにより吸光度を測定し、比色法を行った。なお、この実験は独立に3回行い、その平均値をグラフ化した。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
<肺腺癌細胞株でのROR1発現抑制に伴うRTK活性化への影響に関する検証>
上記(5)に示す手順で、肺腺癌細胞株であるNCI-H1975、PC-9細胞株を用いたphospho-RTK array解析による検討を行った。図1(1)はNCI-H1975、図1(2)はPC-9の解析結果を示す写真である。図1(1)が示すように、NCI-H1975では、主にERBB2、ERBB3、PDGFR、c-KIT、ALK、InsulinR、IGF-IRのRTKのリン酸化反応の低下が認められた。また、図1(2)が示すように、PC-9細胞株では、主にERBB2、ERBB3、IGF-IR、c-MET、MSPR、EphR2のRTKのリン酸化反応の低下が認められた。以上の結果より、ROR1の発現抑制によって多くの様々なRTKのリン酸化反応(活性化)を低下できることが分かった。特に、2つの細胞株で共通して見られるRTKのリン酸化の低下として顕著なものとしては、ERBB2、ERBB3およびIGF-IRが挙げられる。以上の結果は、肺腺癌細胞株においてROR1の発現が、広範囲に多くのRTKのリン酸化反応、つまりはRTKの活性化の維持に関与していることを示しており、共通するROR1を介したRTKの活性化機序が存在する可能性を示している。更に、今回影響が見られたRTKは肺腺癌細胞において重要な生存シグナルなど生理的な機能を担っている。したがって、ROR1の発現抑制がこれらのRTKを網羅的に抑制させることから、ROR1が肺腺癌にとって重要な役割を担う各々のRTKの活性化を一網打尽にできる全く新しいこれまでにない革新的な分子標的となる可能性を秘めていることが明らかとなった。
【実施例】
【0063】
[実施例2]
<ROR1の発現抑制によるCAV1の発現低下とカベオラ形成への影響に関する検討>
上記(6)に示す手順で、各種肺腺癌細胞株によるROR1の発現抑制によるCAV1の発現低下とカベオラ形成への影響を、ウェスタンブロッティングにより分析した。図2(1)は肺腺癌細胞株としてNCI-H1975を用いた際の結果を示しており、配列の異なるsiROR1#1~3を用いたROR1の発現抑制は、何れのケースでもカベオラの形成に不可欠なCAV1の発現低下が認められた。この結果は、siROR1の特定の配列に基づく特異的な現象ではなく、CAV1の発現低下はROR1の発現抑制によるものであることが明らかとなった。図2(2)は、肺腺癌細胞株として、NCI-H441、NCI-H358、PC-9を用いた際の結果を示しており、図2(1)と同様に、siControl及びsiROR1を用いてROR1の発現を抑制させたところ、各々の細胞株においてもCAV1の発現低下が認められた。これらの結果は、ROR1によるCAV1の発現制御は多くの肺腺癌細胞株において共通の制御機序が存在する可能性を示している。
【実施例】
【0064】
さらに、肺腺癌細胞株において、ROR1の発現抑制に伴ってCAV1の発現低下が認められたことから、カベオラの形成に影響があるかどうかを検討するため、肺腺癌細胞株としてNCI-H1975を用い、又、siControl及びsiROR1を用いて上記(10)の手順により、急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を用いた電子顕微鏡解析を行った。図2(3)は、電子顕微鏡解析により分析した結果を示す写真である。図2(3)に示すように、ROR1の発現抑制が細胞膜上でのカベオラの形成を阻害し、正常なカベオラの数が低下していることが明らかとなった。なお、カベオラの標識はCAV2で行い、ROR1の発現を抑制させた細胞株では、金コロイド標識したCAV2がカベオラの痕跡らしき構造物(窪みが浅い構造物)に集積していた。また、図2(4)は、siControl及びsiROR1で処理をしたNCI-H1975で認められた窪みの深い構造物、つまり正常なカベオラの数を、ランダムな細胞膜上の領域で測定を行った結果を示すグラフである(平均値±標準偏差(n=18、ただし、nとは17-50平方マイクロメートルのランダムな細胞膜上の領域である。))。図2(4)のグラフに示すように、siROR1で処理をした細胞株において有意に、正常なカベオラの数が低下していることが明らかとなった。以上の結果より、肺腺癌細胞株においてROR1の発現が正常なカベオラの形成に必要不可欠であることが判明した。
【実施例】
【0065】
[実施例3]
<ROR1によるCAV1の発現制御におけるROR1のキナーゼ活性の必要性の検討>
肺腺癌細胞株においてRTKであるROR1は、癌細胞の生存シグナルに関わるPI3K-AKT軸をキナーゼ活性依存的に、あるいは非依存的に制御していることを本発明者は報告しているが(上記特許文献2参照)、ROR1によるCAV1の発現制御にROR1のキナーゼ活性が必要であるか否かを検討した。ROR1-WT(野生型のROR1)、ROR1-WTm(siROR1に対するsilent mutationを加えた野生型のROR1)、ROR1-KDm(siROR1に対するsilent mutationを加えたキナーゼ活性を欠失したROR1)を恒常的に発現させた肺腺癌細胞株NCI-H1975を用い、上記(7)の手順により、実験を行った。図3は、ウェスタンブロッティングによって分析した結果を示す写真である。図3に示すように、ROR1-WTを発現させた細胞株ではsiROR1処理によってこれまで確認してきたCAV1の発現低下が認められた。
これに対して、ROR1-WTmを発現させた細胞株では、siROR1処理によってCAV1の発現低下が見られなかった。このことは、siROR1が細胞内で正しく働き、細胞内でのROR1の機能としてCAV1の発現低下を引き起こしていることを示している。さらに、ROR1-KDmを発現させた細胞株においても、siROR1処理によって、CAV1の発現低下が見られなかった。この結果から、siROR1によるCAV1の発現低下にはROR1のキナーゼ活性が必要でないことが分かり、つまりはROR1を介したCAV1の発現制御にROR1のキナーゼ活性は重要でないことが判明した。このことは、ROR1のキナーゼ活性非依存的な機能に着目したROR1機能阻害剤の同定と、その阻害剤を同定するためのスクリーニング法が必要であることを示している。
【実施例】
【0066】
[実施例4]
<肺腺癌細胞株でのROR1とカベオラの構成因子であるCavin-1及びCAV1との結合と、CAV1とCavin-1の結合におけるROR1の重要性の検討>
カベオラの形成に必要であるCAV1の発現はCavin-1との結合によってその発現が安定化されていることが分かっている(非特許文献8~10参照)。つまりCavin-1はカベオラの形成において非常に重要なタンパク質であることが理解されている。しかしながら、カベオラの形成においてCavin-1がどのような制御下においてCAV1の発現を安定化させているかについては不明のままであり、さらにCavin-1についての詳細な機能はよく分かっていない。そこでCavin-1に着目し、オクチルグルコシドによる細胞抽出液を用いてROR1とCavin-1との結合を検討した。
【実施例】
【0067】
上記(3)の手順によりIP-WB分析を行ったところ、図4(1)及び(2)に示すように、2つの異なる肺腺癌細胞株であるNCI-H1975及びSK-LU-1において、内因性のROR1とCavin-1とが共沈降していたことから両者は結合するが、ROR1はCavin-2とは結合しないことが明らかとなった。また同様に、オクチルグルコシドによる細胞抽出液を用いてROR1とCAV1との結合を検討したところ、図4(3)及び(4)に示すように、2つの異なる肺腺癌細胞株であるNCI-H1975及びSK-LU-1において、内因性のROR1とCAV1についても共沈降していたことから両者は結合することが明らかとなった。
【実施例】
【0068】
また、図4(5)は、肺腺癌細胞株NCI-H1975細胞株にsiROR1のトランスフェクションを行い、ROR1の発現を抑制させた際のCAV1の発現の経時的変化をROR1の発現変化とともに、ウェスタンブロッティングによって分析した結果を示す写真である。図4(5)に示すように、ROR1の発現抑制は、siROR1のトランスフェクションの後、24時間後にはすでにROR1の発現が低下するのに対して、CAV1の発現低下は48時間後に見られることが判明した。
【実施例】
【0069】
そこで、ROR1の発現低下が見られ、CAV1の発現低下がまだ起きていない、siROR1のトランスフェクション後24時間後の細胞抽出液を用いて、ROR1発現抑制下でのCAV1とCavin-1の結合への影響についてIP-WB分析を行った。図4(6)は、IP-WB分析の写真である。図4(6)が示すように、ROR1の発現抑制は内因性のCAV1とCavin-1との結合を減少させることが明らかとなった。これらの結果から、肺腺癌細胞株において、ROR1はCavin-1やCAV1と結合し、Cavin-1とCAV1との結合を安定化させている可能性が示された。Cavin-1とCAV1がROR1と結合できなくなると、Cavin-1はCAV1と結合できなくなるため、CAV1自身が分解されてしまい、正常なカベオラを構築・形成することができなくなると考えられる。また、ROR1とカベオラの構成因子であるCavin-1あるいはCAV1との結合を標的とする阻害剤を見つけ出すことが、CAV1の発現低下、カベオラの形成不全、さらにはRTKの活性化の抑制を引き起こす革新的な阻害剤の同定につながることが明らかとなった。
【実施例】
【0070】
[実施例5]
<肺腺癌細胞株におけるROR1発現抑制に伴う、様々なリガンド刺激を介した各々のRTK活性化への影響に関する検証>
[実施例1]のphospho-RTK arrayの解析結果により、肺腺癌細胞株におけるROR1の発現抑制は、定常状態での様々なRTKのリン酸化反応(活性化)の低下を引き起こすことが明らかとなった。実施例5では、さらにこれらのRTKについて、各々のリガンド刺激によるリン酸化反応にもROR1の発現抑制が影響を及ぼすかどうか、同様に肺腺癌細胞株NCI-H1975を用い、上記(3)の手順により分析を行った。図5(1)~(4)は各リガンドを用いた時のウェスタンブロッティング写真である。図5(1)~(4)が示すように、ROR1の発現抑制は各々のリガンド(IGF-I、IGF-II、Insulin、PDGF)によるRTK(IGF-IR、InsulinR、PDGFR)のリン酸化反応(活性化)を有意に低下させることが明らかとなった。IGF-IRは、IGF-I又はIGF-IIのどちらでも活性化されるが、ROR1の発現抑制はどちらのリガンド刺激においてもIGF-IRのリン酸化反応を低下させた。
【実施例】
【0071】
[実施例6]
<肺腺癌細胞株でのCavin-1の細胞増殖における重要性の検討>
上記(12)の手順により、Cavin-1の細胞増殖への影響を検討した。図6(1)及び(2)に示すように、異なる2つの肺腺癌細胞株であるPC-9、NCI-H1975において、ROR1、Cavin-1、CAV1の発現抑制を行ったところ、2つの細胞株でROR1、Cavin-1、CAV1の発現抑制は有意に細胞増殖を阻害することが分かった。また、Cavin-1の発現抑制は、配列の異なるsiCavin-1#1、#2を用いた場合においても同様に細胞増殖の阻害が認められたことから、siCavin-1の特定の配列に基づく特異的な現象ではないことが分かった。これらの結果から、ROR1の発現抑制は細胞増殖を阻害すること(特許文献1及び非特許文献5)やCAV1の発現抑制もまた細胞増殖を阻害すること(非特許文献7)に関しては報告があり、再現性を得ることができたが、新たに、Cavin-1の発現抑制によっても肺腺癌細胞株の細胞増殖を阻害することが分かった。
【実施例】
【0072】
上記のとおり、ROR1とCavin-1又はCAV1が結合できなくなると、Cavin-1はCAV1と結合できなくなるため、癌細胞においてカベオラの構築・形成ができなくなることが示された。そのため、ROR1以外に、癌細胞のカベオラの構築・形成を抑制できる因子の検討を行った。
【実施例】
【0073】
[実施例7]
<肺腺癌細胞株でのIGF-IR発現抑制に伴うCAV1の発現低下に関する検証>
上記(3)に示す手順で、各種肺腺癌細胞株によるIGF-IRの発現抑制によるCAV1の発現への影響を、ウェスタンブロッティングにより分析した。図7(1)は肺腺癌細胞株としてNCI-H1975を用いた際の結果を示しており、配列の異なるsiIGF-IR#1、#2を用いたIGF-IRの発現抑制は、siROR1で処理した場合と同様に、何れのケースでもCAV1の発現低下が認められた。この結果は、siIGF-IRの特定の配列に基づく特異的な現象ではなく、CAV1の発現低下はIGF-IRの発現抑制によるものであることが明らかとなった。図7(2)は、肺腺癌細胞株として、NCI-H358を用いた際の結果を示しており、図7(1)と同様に、siIGF-IR#1、#2を用いてIGF-IRの発現を抑制させたところ、siROR1で処理した場合と同様に、NCI-H358細胞株においてもCAV1の発現低下が認められた。この結果は、IGF-IRによるCAV1の発現制御は異なる肺腺癌細胞株においても観察されることが分かり、ROR1以外の因子であるIGF-IRによってもCAV1の発現低下を誘導することが明らかとなった。
【実施例】
【0074】
[実施例8]
<肺腺癌細胞株でのCavin-1とIGF-IRの結合>
上記(3)の手順によりIP-WB分析を行ったところ、図8に示すように、肺腺癌細胞株であるNCI-H1975において、内因性のCavin-1とIGF-IRが共沈降したことから両者は結合することが明らかとなった。この結果から、Cavin-1はROR1以外にもIGF-IRとも結合することが分かり、またROR1の発現抑制と同様にIGF-IRの発現抑制によってもCAV1の発現低下が認められたことから、ROR1とCavin-1の結合の重要性と同様に、IGF-IRとCavin-1の重要性についても考察できる。
【実施例】
【0075】
[実施例9]
<Cavin-1によるROR1の結合領域の特定と、細胞内での両者の結合を阻害するための阻害剤スクリーニングのためのCavin-1およびROR1の結合の検出>
[実施例4]の結果から、肺腺癌細胞株においてROR1とCavin-1の結合を確認した。次に、Cavin-1が結合するROR1の結合部位の同定を行うために、上記(3)の手順により、図9(1)に示す模式図のように、様々なROR1のキナーゼドメインの欠損変異体を作製し、各々のROR1のキナーゼドメインの欠損変異体およびCavin-1を発現させて、IP-WB分析により、Cavin-1との結合およびCavin-1によるROR1の結合部位の同定を行った。図9(2)は、IP-WB分析の写真である。図9(2)の写真より、ROR1のキナーゼドメイン内の564アミノ酸から746アミノ酸の領域でCavin-1と結合していることが判明した。これらの結果は、ROR1がCavin-1に特異的に結合していることを示しており、ROR1のキナーゼドメイン内の一部の領域(564アミノ酸から746アミノ酸の領域)とCavin-1との結合が、CAV1の発現の安定化、さらには正常なカベオラの形成、カベオラによる種々のRTKの活性化に重要な働きを担っている可能性が考えられる。
【実施例】
【0076】
上記[実施例3]の結果から、肺腺癌細胞株においてROR1を介したCAV1の発現制御にはROR1のキナーゼ活性が必要でないことが判明した。また、上記[実施例4]の結果から、肺腺癌細胞株においてROR1はCavin-1及びCAV1と結合していることが明らかとなり、さらにROR1はCavin-1とCAV1の結合を安定化させていることが明らかとなった。これらの結果から、ROR1によるCAV1を介したカベオラの形成とその後の種々のRTKの活性化には、ROR1とCavin-1及びCAV1との結合が重要であることが判明した。そこで、上記(11)の手順により、細胞内においてタンパク質とタンパク質の結合を簡便かつ容易に検出できる、阻害剤のスクリーニングのための結合検出系の構築を行った。タンパク質同士の結合を細胞内で蛍光輝度として検出できるImage-based Protein-Protein Interaction analysisを用いて、Cavin-1が結合するROR1の細胞内領域(ROR1-ICD)とCavin-1の全長(Cavin-1-WT)を使って、HeLa細胞において、両者の結合を検討したところ、図9(3)の右側の細胞染色法を用いて分析した写真に示すように複数のFociの形成が確認され、有意にその結合を検出することができた。一方、図9(3)の左側写真に示すように、ROR1-ICDとCavin-1-WTを組み込んだ同じベクターを用いて、ROR1-ICDを組み込んだプラスミドとCavin-1を組み込んでいないプラスミドを発現させた場合、Fociがほとんど検出されなかったことから、ROR1-ICDとCavin-1-WTとの結合が特異性を持った結合であることが判明した。
【実施例】
【0077】
さらに、Cavin-1が結合するROR1のキナーゼ内領域(ROR1-TK2+TK3)とCavin-1の全長(Cavin-1-WT)を使って、HeLa細胞において、両者の結合を検討したところ、図9(4)の右側の写真に示すように複数のFociの形成が確認され、有意にその結合を検出することができた。一方、図9(4)の左側写真に示すように、ROR1-TK2+TK3とCavin-1-WTを組み込んだ同じベクターを用いて、ROR1-TK2+TK3を組み込んだプラスミドとCavin-1を組み込んでいないプラスミドを発現させた場合、Fociがほとんど検出されなかったことから、ROR1-TK2+TK3とCavin-1-WTとの結合が特異性を持った結合であることが判明した。これらの結果は、ROR1-ICD、及び、ROR1-TK2+TK3とCavin-1-WTとの結合を細胞内レベルで、簡便かつ容易に検出することができたことから、両者の結合を阻害する低分子化合物のスクリーニングを行うことができる。
【実施例】
【0078】
[実施例10]
<CAV1によるROR1の結合領域の特定>
実施例9において、Cavin-1によるROR1の結合領域が特定できたことから、次に、CAV1によるROR1の結合部位の同定を行うために、上記(3)の手順により、図10(1)に示す模式図のように、様々なROR1の欠損変異体を作製し、各々のROR1の欠損変異体およびCAV1を発現させて、IP-WB分析により、CAV1との結合およびCAV1によるROR1の結合部位の同定を行った。図10(2)は、IP-WB分析の写真である。図10(2)の写真より、ROR1の細胞内領域の853アミノ酸から876アミノ酸の領域(セリン・スレオニンリッチドメイン)でCAV1と結合していることが判明した。これらの結果は、ROR1がCAV1に特異的に結合していることを示しており、ROR1の細胞内領域の一部(853アミノ酸から876アミノ酸の領域)とCAV1との結合が、ROR1とCavin-1との結合と同様に、CAV1の発現の安定化、さらには正常なカベオラの形成、カベオラによる種々のRTKの活性化に重要な働きを担っている可能性が考えられる。細胞内においてタンパク質とタンパク質の結合を簡便かつ容易に検出できる、阻害剤のスクリーニングのための結合検出系の構築は、実施例9と同様の手順で作製すればよい。
【実施例】
【0079】
[実施例11]
<CAV1発現制御におけるROR1のcavin-1結合領域の重要性の検討>
実施例9に示すとおり、cavin-1はROR1の細胞内領域のキナーゼドメイン内の564~746アミノ酸領域(TK2+TK3)と結合する。このROR1とcavin-1の結合領域がCAV1の発現制御に関与しているかを確認するために、上記(8)の手順により、ROR1のcavin-1が結合する領域を欠損させた変異体に、siROR1の効果をキャンセルさせる変異を加えた変異体を作製し、細胞に発現させ、siROR1処理を行った。図11はウェスタンブロッティングによって分析した結果を示す写真である。図11に示すように、ROR1-TKΔ2+TKΔ3mをトランスフェクションした細胞では、ROR1は発現しているものの、CAV1の発現が低下したことを確認した。 以上の結果から、cavin-1が結合するROR1の領域(564~746アミノ酸領域)がCAV1の発現安定化に必須であることが分かった。またこの結果は、ROR1とcavin-1のこの領域の結合を阻害するスクリーニング系の重要性を示唆するものであり、この結合を阻害する阻害剤の候補は、CAV1の発現の低下、すなわち癌特異的なカベオラ形成の阻害を引き起こすことが推測できる。
【実施例】
【0080】
[実施例12]<CAV1発現制御におけるROR1のCAV1結合領域の重要性の検討>
実施例10に示すとおり、CAV1はROR1の細胞内領域のセリン・スレオニンリッチドメインである853~876アミノ酸領域(S/T2)と結合する。このROR1とCAV1の結合領域がCAV1の発現制御に関与しているかを確認するために、上記(9)の手順により、ROR1のCAV1が結合する領域を欠損させた変異体に、siROR1の効果をキャンセルさせる変異を加えた変異体を作製し、細胞に発現させ、siROR1処理を行った。図12はウェスタンブロッティングによって分析した結果を示す写真である。図12に示すように、ROR1-ΔS/T2mをトランスフェクションした細胞では、ROR1は発現しているものの、CAV1の発現が低下したことを確認した。
以上の結果から、CAV1が結合するROR1の領域(853~876アミノ酸領域)がcavin-1の結合領域と同様に、CAV1の発現安定化に必須であることが分かった。またこの結果は、ROR1とCAV1のこの領域の結合を阻害するスクリーニング系の重要性を示唆するものであり、この結合を阻害する阻害剤の候補は、CAV1の発現の低下、すなわち癌特異的なカベオラ形成の阻害を引き起こすことが推測できる。
【実施例】
【0081】
[実施例13]
<リガンド刺激下でのEGFR-TKI耐性細胞株でのROR1の発現抑制による細胞増殖への効果と生存シグナルへの影響についての検討>
上記(13)に示す手順で、様々なリガンド存在下でのEGFR-TKI耐性を獲得した細胞株におけるROR1の発現抑制による細胞増殖への効果と生存シグナルへの影響を、ウェスタンブロッティングおよびMTT assayにより評価した。
なお、今回用いた細胞株は、臨床上問題視されている細胞株であり、外陰部扁平上皮癌細胞と肺腺癌細胞である。これらの細胞株はEGFR-TKIと呼ばれるEGFR阻害剤に効果が認められる細胞株であるが、IGF-IやHGFなどのリガンド存在下ではEGFR-TKIの効果がキャンセルされてしまう。例えば、外陰部扁平上皮癌細胞であるA431細胞はGefitinibに感受性を示すが、IGF-I存在下では耐性を示す。また、肺腺癌細胞であるPC-9細胞はGefitinibに感受性を示すが、HGF存在下では耐性を示す。さらに、肺腺癌細胞であるNCI-H1975細胞はGefitinibに耐性を示す細胞株であるが(EGFRの二重変異T790Mを有しているため、効果が見られない)、しかしながら、近年、次世代型のEGFR-TKIが開発され、irreversibleなEGFR-TKIとしてCL-387,785が誕生し、感受性を示すようになり、臨床で使用されるようになった。しかし、さらに現在問題になっているのは、このCL-387,785とHGF存在下では耐性を示すことである。これらの細胞株での耐性の理由は、IGF-IやHGFによってIGF-IRやMETなどのEGFRとは異なる他のRTK(受容体型チロシンキナーゼ)が活性化してしまうためである(バイパス経路)。
図13(1)下図は、外陰部扁平上皮癌細胞株としてA431を用いた際のIGF-IおよびGefitinib存在下でのMTT assayの結果を表すグラフで、ROR1の発現抑制により細胞増殖の低下を確認した。また、図13(1)上図は、A431を用いた際のウェスタンブロッティング写真で、ROR1の発現抑制により、生存シグナルに関与するAKTとIGF-IRのリン酸化の低下を確認した。
図13(2)下図は、肺腺癌細胞株としてPC-9を用いた際のHGFおよびGefitinib存在下でのMTT assayの結果を表すグラフで、ROR1の発現抑制により細胞増殖の低下を確認した。また、図13(2)上図は、PC-9を用いた際のウェスタンブロッティング写真で、ROR1の発現抑制により、生存シグナルに関与するAKTとMETのリン酸化の低下を確認した。
図13(3)下図は、肺腺癌細胞株としてNCI-H1975を用いた際のHGFおよびCL-387,785存在下でのMTT assayの結果を表すグラフで、ROR1の発現抑制により細胞増殖の低下を確認した。また、図13(3)上図は、NCI-H1975を用いた際のウェスタンブロッティング写真で、生存シグナルに関与するAKTとMETのリン酸化の低下を確認した。
図13(1)~(3)に示すように、様々なリガンド存在下でのEGFR-TKI耐性を獲得した細胞株においても、ROR1の発現抑制は生存シグナルの低下(AKTのリン酸化の低下)を引き起こし、増殖低下を引き起こすことが判明した(同様にcavin-1やCAV1の発現抑制においても増殖低下を確認した)。つまり、ROR1の発現抑制によって、IGF-IRやMETのリン酸化反応の低下がウェスタンブロッティングによって認められたことから、ROR1の発現抑制は癌特異的にカベオラの形成を阻害するので、カベオラに存在しているRTKの活性化が抑制されることを示している。この結果は、実際にこのような薬剤耐性を持つ患者に対しても臨床的に効果を示す可能性を示唆するものである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の癌細胞のカベオラの形成を特異的に抑制する化合物のスクリーニング方法により、カベオラの形成に寄与するCavin-1及びCAV1の結合を単一の化合物で抑制し、RTKの活性を一網打尽に阻害できる可能性が有る。したがって、副作用等の少ない画期的な医薬品開発が可能である。また、癌細胞中のROR1とCavin-1、ROR1とCAV1、IGF-IRとCavin-1、IGF-IRとCAV1、Cavin-1とCAV1、又はCavin-1の発現の組み合わせを調べることで上記スクリーニングにより得られた分子標的薬の適応患者を事前に選択することができる。したがって、分子標的薬に効果がある患者のみに医薬品を処方できるので、医療機関における副作用の少ない癌治療に有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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