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明細書 :アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年7月27日(2017.7.27)
発明の名称または考案の名称 アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療剤
国際特許分類 C07K  14/47        (2006.01)
A61K  38/17        (2006.01)
A61K  38/08        (2006.01)
A61P  25/28        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/00        (2006.01)
FI C07K 14/47
A61K 38/17
A61K 38/08
A61P 25/28
A61P 43/00 111
C12N 15/00 A
C12N 15/00 ZNA
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 20
出願番号 特願2016-554114 (P2016-554114)
国際出願番号 PCT/JP2015/079120
国際公開番号 WO2016/060190
国際出願日 平成27年10月15日(2015.10.15)
国際公開日 平成28年4月21日(2016.4.21)
優先権出願番号 2014211671
優先日 平成26年10月16日(2014.10.16)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】鈴木 利治
【氏名】伴 沙緒里
【氏名】井上 剛
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100147131、【弁理士】、【氏名又は名称】今里 崇之
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4H045
Fターム 4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA19
4C084BA23
4C084CA18
4C084CA59
4C084NA14
4C084ZA161
4C084ZA162
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA19
4H045CA45
4H045EA21
4H045FA74
要約 本発明は、アミロイドβ蛋白質を作用機序とするが、従来の作用機序とは異なるアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療剤を提供することを課題とする。
本発明は、治療上有効量の本発明のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩及び医薬的に許容可能な担体を含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療のための医薬組成物を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)~(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のペプチド:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチド;及び
(d)配列番号1のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチド。
【請求項2】
配列番号2に示すアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
配列番号3に示すアミノ酸配列からなる、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
合成ペプチドである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
治療上有効量の請求項1に記載のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩及び医薬的に許容可能な担体を含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療のための医薬組成物。
【請求項6】
腹腔内投与されるものである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
局所投与されるものである、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
別のアルツハイマー病治療剤と併用される、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療に使用するための請求項1に記載のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩。
【請求項10】
治療上有効量の請求項1に記載のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩を治療を必要とする患者に投与することを含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病の症状である、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチドおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、認知機能低下(記憶障害など)を主症状とする神経疾患である。特に高齢者で好発するにも関わらず、有効な治療薬が存在せず、高齢化社会を迎えている先進国では大きな問題となっている。アルツハイマー病患者の死後脳では老人斑が観察され、これは「アミロイドβ蛋白質」の凝集体であることが知られている。そして、このアミロイドβ蛋白質がアルツハイマー病の主原因であることは、数多くの研究により広く受け入れられている。
【0003】
アミロイドβ蛋白質は、その前駆体である「アミロイド前駆体蛋白質」から生成される。アミロイド前駆体蛋白質とは、神経細胞膜上に存在する膜蛋白質である。通常の脳では、その細胞外ドメインをαセクレターゼ、次に細胞膜内ドメインをγセクレターゼで切断されることにより、細胞外にp3と呼ばれるペプチドが産生・遊離される。これは「非アミロイド生成経路」として知られ、アミロイドβ蛋白質は生成されない(非特許文献1)。通常の脳でも、細胞外ドメインは数%ではあるがβセクレターゼによる切断を受け、細胞外にアミロイドβ蛋白質が分泌されている。しかし、アルツハイマー病になる脳では、このアミロイドβ蛋白質の産生量が増加するか、より凝集性の高いアミロイドβ蛋白質分子種が生成されるようになると考えられている。このアミロイドβ蛋白質の凝集する性質が、最終的にアルツハイマー病患者の老人斑(アミロイド凝集体)を形成し、脳内沈着として観察される。
【0004】
切りだされたアミロイドβ蛋白質は、次第に凝集し、最終的に老人斑(アミロイド凝集体)が形成されるが、その凝集過程の「オリゴマー体(アミロイドβ蛋白質が数個会合したもの)」に、強い神経毒性があることが分かっている。このアミロイドβ蛋白質オリゴマー体は、記憶・学習に必須の神経現象であるシナプス可塑性を阻害することが、in vitro, in vivo 両方で報告されている(非特許文献2,3)。また、このオリゴマー体をマウス脳内に投与すると、記憶・学習能力が失われることも報告されている(非特許文献4,5)。最近の研究により、このオリゴマー体に長期間暴露されると、神経細胞死などが起きることも報告されており(非特許文献6)、アルツハイマー病発症の原因物質として注目されている。
【0005】
このように、アルツハイマー病の原因としてアミロイドβ蛋白質が広く認識されているにも関わらず、現在臨床的に使われているアルツハイマー病治療薬は、このアミロイドβ蛋白質に作用するようデザインされていない。詳しく述べると、アルツハイマー病治療薬として使われているドネペジル(特許文献1)やメマンチン(特許文献2)は、それぞれアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とNMDA受容体阻害剤として働き、アミロイドβ蛋白質と相互作用するわけではない。いわゆる対処療法薬であるため、アルツハイマー病に対する劇的な改善作用がないのが現状である。
【0006】
このような背景を受け、作用機序(アミロイド蛋白質)に基づいた新たなアルツハイマー治療薬の開発が進められている。1つは、アミロイド前駆体蛋白質からアミロイドβ蛋白質の産生を抑えようとする試みであり、セクレターゼ制御剤の開発である(非特許文献1)。その中で、γセクレターゼ阻害剤の開発が最も進んでおり、Semagacestat(特許文献3)やBegacestat(特許文献4)など、臨床開発が続々と進められてきた。もう一つの治療法として注目されているのは、脳内のアミロイドβ蛋白質を抗体に認識させ除去させる、抗体療法である。実際、Bapineuzumab(特許文献5)やsolanezumabなど、これまで臨床開発が進められてきた経緯がある。
【0007】
しかしながら、現在開発の中心となっているアミロイド蛋白質を作用機序とするアルツハイマー治療薬には問題点があることが分かっている。γセクレターゼ阻害剤に関しては、そもそもγセクレターゼの基質はアミロイド前駆体蛋白質だけでなく、約100近くあることが知られている(非特許文献7)。その中には、細胞分化に重要なNotch受容体も含まれており(非特許文献8)、副作用が懸念されている。実際、γセクレターゼ阻害剤として有力候補であったSemagacestat は、2010年に第三相臨床試験で開発が中止されている。また抗アミロイドβ抗体による抗体療法に関しては、血管炎や血管性脳浮腫などが起こる可能性があり、実際、抗体治療剤として有望であったBapineuzumab も、2012年に開発を中止している。
【0008】
なお、γセクレターゼの基質の中には、切り取られた細胞外ドメインがアミロイドペプチドのように放出されるのも幾つか知られている(非特許文献9,10)。これらのペプチドはγセクレターゼ活性の指標となるので、切られた断片をアルツハイマー病のバイオマーカーにしようという発明は幾つかある(特許文献6,7)。また、Alcadein-βと呼ばれる生体内の膜蛋白質が、γセクレターゼにより切断され、さらにαセクレターゼによっても切断されることによって、37アミノ酸(VLSSQQFLHRGHQPPPEMAGHSLASSHRNSMIPSAAT)からなるペプチドが産生されることも知られている(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】EP 0296560 A2
【特許文献2】US 3391142 A
【特許文献3】WO 2002/40451 A2
【特許文献4】US 2004/198778 A1
【特許文献5】WO 2009/017467 A1
【特許文献6】US 7666982 B2
【特許文献7】US 7807777 B2
【0010】

【非特許文献1】De Strooper et al, Nat Rev Neurol 6, 99-107, 2010
【非特許文献2】Lambert et al, Proc Natl Acad Sci USA 95, 6448-6453, 1998
【非特許文献3】Walsh et al, Nature 416, 535-539, 2002
【非特許文献4】Cleary et al, Nat Neurosci 8, 79-84, 2005
【非特許文献5】Balducci et al, Proc Natl Acad Sci USA 107, 2295-2300, 2010
【非特許文献6】Brouillette et al, J Neurosci 32, 7852-7861, 2012
【非特許文献7】Haapasalo and Kovacs, J Alzheimers Dis 25, 3-28, 2011
【非特許文献8】De Strooper et al, Nature 398, 518-522, 1999
【非特許文献9】Okochi et al, EMBO J 21, 5408-5416, 2002
【非特許文献10】Araki et al, J Biol Chem 279, 24343-24354, 2004
【非特許文献11】Hata et al, J Biol Chem 284, 36024-36033, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、このようなペプチドをアルツハイマー病の制御剤にするというアイデアは、現在の知見・技術水準では想定し難く、従って報告も皆無である。
上記のような状況の下、アミロイドβ蛋白質を作用機序とするが、従来の作用機序とは異なる抗アルツハイマー剤が切望されており、本発明はそのような抗アルツハイマー剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述のように、γセクレターゼはアミロイド前駆体蛋白質以外の膜蛋白質をも切断することが知られている。本発明者らは、γセクレターゼにより切られたアミロイドβ蛋白質"以外"のペプチド断片そのものが、アルツハイマー病改善作用を示すのではないかという大胆な仮説をたてた。そして、その4ようなペプチド断片のうち、前述したAlcadein-βがγセクレターゼおよびαセクレターゼによっても切断されることで生じる37アミノ酸(VLSSQQFLHRGHQPPPEMAGHSLASSHRNSMIPSAAT:配列番号2)からなるペプチド(p3-Alcβ37ペプチド)が、アミロイドβ蛋白質による認知障害を劇的に改善することを見出し、さらにp3-Alcβ37ペプチドに含まれるわずか9アミノ酸(GHQPPPEMA:配列番号1)からなるペプチド(p3-Alcβ[11-19]ペプチド)でも認知障害改善作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は一つの側面において、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療剤およびアルツハイマー病治療薬を提供する。本発明は別の側面において、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療方法およびアルツハイマー病の治療方法を提供する。本発明はさらなる側面において、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の病態解析方法およびアルツハイマー病の病態解析方法を提供する。かかる本発明には下記の発明が包含される。
[1] 以下の(a)~(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のペプチド:
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチド;及び
(d)配列番号1のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチド。
[2] 配列番号2に示すアミノ酸配列からなる、前記[1]に記載のペプチド。
[3] 配列番号3に示すアミノ酸配列からなる、前記[1]に記載のペプチド。
[4] 合成ペプチドである、前記[1]に記載のペプチド。
[5] 治療上有効量の前記[1]に記載のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩及び医薬的に許容可能な担体を含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療のための医薬組成物。
[6] 腹腔内投与されるものである、前記[5]に記載の組成物。
[7] 局所投与されるものである、前記[5]に記載の組成物。
[8] 別のアルツハイマー病治療剤と併用される、前記[5]に記載の組成物。
[9] アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療に使用するための前記[1]に記載のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩。
[10] 治療上有効量の前記[1]に記載のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩を治療を必要とする患者に投与することを含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療方法。
【発明の効果】
【0014】
なお、上述したような発明が、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療剤またはアルツハイマー病治療薬の有効成分としての(これらの薬剤類の製造における)前記特定のペプチドの使用などとして表現される発明に転換することが可能であることは、当業者にとって自明である。
【0015】
アルツハイマー病は、現在有効な治療薬が存在せず、新しい治療薬が待ち望まれている状況である。背景技術において前述したように、アミロイドβ蛋白質に基づく新しい治療薬は臨床開発されているが、副作用などもあり未だ上市されていない。本発明により提供される抗アルツハイマー剤は、既存の抗アルツハイマー剤とは異なる新たな作用機序を持ち、γセクレターゼで切断されて生じる、生体内に実際に存在するペプチド(p3-Alcβ37)自体またはその部分ペプチド(p3-Alcβ[11-19])あるいはそれらに類するアミノ酸配列を有するペプチドを用いるため、副作用のない、高い安全性が期待される抗アルツハイマー剤となる。
【0016】
本発明により、優れた治療効果を奏するアルツハイマー病治療薬及び治療方法が提供される。すなわち、本発明の医薬組成物を投与することにより、アルツハイマー病の症状を、効果的に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例で用いたアルツハイマー病モデルマウスにおいて記憶獲得が完全に障害されていることを示すグラフである。
【図2】本発明のペプチドの例と、同ペプチドによる記憶能力の向上を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.ペプチド
「アミロイドβ蛋白質」は、一般的にアルツハイマー病の進行と共に脳内に蓄積していくことが知られているポリペプチドであって、1本のポリペプチド鎖からなるモノマー型のものであっても、複数本(通常2~6本)のポリペプチド鎖からなるオリゴマー型ものであっても、当該オリゴマーが複数個集合してなる凝集体であってもよい。また、「アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害」には、一般的にアルツハイマー病の症状として知られている、記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能や問題解決能力の障害などが包含される。

【0019】
本発明は、以下の(a)~(e)よりなる群より選ばれるいずれかに記載のペプチド(以下、「本発明のペプチド」という)を提供する。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチド;
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチド;
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチド;及び
(d)配列番号1のアミノ酸配列に対して、90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチド。

【0020】
配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチドは、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるペプチドであってもよく、あるいは配列番号3に示すアミノ酸配列からなるペプチドであってもよい。

【0021】
上記(c)又は(d)に記載のペプチドは、配列番号1のペプチドの変異体であり、「配列番号1のアミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチド」としては、配列番号1のアミノ酸配列において、1~3個、1~2個、又は1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチドが挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加の数は、一般的には小さい程好ましい。
また、アミノ酸の置換は好ましくは、以下に示す性質の類似するアミノ酸間での置換である。

【0022】
【表1】
JP2016060190A1_000003t.gif

【0023】
また、このようなタンパク質としては、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果を有するペプチドが挙げられる。上記同一性の数値は一般的に大きい程好ましい。

【0024】
本発明のペプチドは、塩、エステル、およびその他の通常の投与形態として使用することができる。また本発明のペプチドは、アミノ酸残基のうちの1つまたはそれ以上が、天然に存在しない(例えば、D-異性体)アミノ酸残基によって置換されていてもよい。

【0025】
本明細書において、本発明のペプチドを構成するアミノ酸残基は、自然発生または合成アミノ酸残基であり得る。アミノ酸残基のLおよびDエナンチオマーが、該化合物で利用され得る。また、本発明のペプチドを構成するアミノ酸残基は非天然のアミノ酸アナログであってもよい。このようなアミノ酸アナログの例としては、ベータ-アラニン(b-Ala)および3-アミノプロピオン酸(Dap)、2,3-ジアミノプロピオン酸(Dpr、Z)、4-アミノ酪酸等の他のω-アミノ酸、アルファ-アミノイソ酪酸(Aib)、エプシロンアミノヘキサン酸(Aha)、デルタ-アミノ吉草酸(Ava)、メチルグリシン(MeGly)、オルニチン(Orn)、シトルリン(Cit)、t-ブチルアラニン(t-BuA)、t-ブチルグリシン(t-BuG)、N-メチルイソロイシン(MeIle)、フェニルグリシン(Phg)、シクロヘキシルアラニン(Cha)、ノルロイシン(Nle、J)、2-ナフチルアラニン(2-Nal)、4-クロロフェニルアラニン(Phe(4-Cl))、2-フルオロフェニルアラニン(Phe(2-F))、3-フルオロフェニルアラニン(Phe(3-F))、4-フルオロフェニルアラニン(Phe(4-F))、ペニシラミン(Pen)、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸(Tic)、β-2-チエニルアラニン(Thi)、メチオニンスルホキシド(MSO)、ホモアルギニン(hArg)、N-アセチルリジン(AcLys)、2,3-ジアミノ酪酸(Dab)、2,3-ジアミノ酪酸(Dbu)、パラ-アミノフェニルアラニン(Phe(pNH))、N-メチルバリン(MeVal)、ホモシステイン(hCys)、3-ベンゾチアゾール-2-イル-アラニン(BztAla、B)、およびホモセリン(hSer)があげられる。さらなるアミノ酸アナログの例としては、リン酸化セリン、リン酸化スレオニン、リン酸化チロシン、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、馬尿酸、オクタヒドロインドール-2カルボン酸、スタチン、アルファ-メチル-アラニン、パラ-ベンゾイル-フェニルアラニン、プロパルギルグリシン、およびサルコシンなどが挙げられる。

【0026】
候補ペプチド(例えば配列番号1のペプチドの変異体)が「アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害に対する治療効果」を有するかどうかは、その候補ペプチドを記憶障害マウスモデルに投与し、新規物体認識試験を行うことにより確認することができる。新規物体認識試験とは正常なマウスが既知の物体よりも新規な物体に対して多くの興味を示すという習性を利用した記憶能力試験である。候補ペプチドが治療効果を有する場合、同候補ペプチドを投与された記憶障害マウスモデルは、同候補ペプチドが投与されていない場合と比べて、より長い時間を実験系の新規物体の探索に費やすことになる。
新規物体認識試験の詳細についてはBalducci et al, Proc Natl Acad Sci USA 107, 2295-2300, 2010を参照することができる。

【0027】
本発明のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたとは、同一配列中の任意かつ1若しくは複数のアミノ酸配列中の位置において、1若しくは複数個のアミノ酸残基の欠失、置換、挿入及び/又は付加があることを意味し、欠失、置換、挿入及び付加のうち2種以上が同時に生じてもよい。

【0028】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸残基の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸残基は相互に置換可能である。A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、o-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン;B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸;C群:アスパラギン、グルタミン;D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸;E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン;F群:セリン、スレオニン、ホモセリン;G群:フェニルアラニン、チロシン。

【0029】
また、本発明のタンパク質は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、Advanced Automation Peptide Protein Technologies社製、Perkin Elmer社製、、Protein Technologies社製、PerSeptive社製、Applied Biosystems社製、SHIMADZU社製等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。

【0030】
2.医薬組成物及び治療方法
本発明は、別の実施態様として、治療上有効量の本発明のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩を含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療のための医薬組成物及び治療剤(以下、前記医薬組成物及び治療剤を「本発明の組成物」と総称する)を提供する。
また、本発明は、治療上有効量の本発明のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩を治療を必要とする患者に投与することを含む、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療方法(以下、「本発明の治療方法」という)を提供する。
さらに、本発明は、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の治療に使用するための本発明のペプチド又はその医薬的に許容可能なエステル、アミド、プロドラッグ若しくは塩を提供する。

【0031】
治療の対象となるアミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害は、典型的にはアルツハイマー病に伴う症状を指すが、アルツハイマー病と確定診断されていない疾患に伴う症状や軽度認知障害(MCI)を含む前臨床段階対象者、またはモデル動物における症状であってもよい。したがって、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の一例としてアルツハイマー病が挙げられる。
アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害のモデル動物は公知の手法を用いて作製することができる。たとえば、アミロイドβ蛋白質を過剰に発現するトランスジェニックマウスや、アミロイドβ蛋白質が溶解した人工脳脊髄液を投与したマウスをそのようなモデル動物として用いることができる(Balducci et al, Proc Natl Acad Sci USA 107, 2295-2300, 2010)。

【0032】
本明細書において用いる「治療」なる用語は、一般的には、ヒト及びヒト以外の哺乳動物において、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害の症状を改善させることを意味する。また「改善」なる用語は、例えば、本発明のペプチドを投与しない場合と比較して、疾患の程度が軽減する場合及び悪化しない場合を指し、予防という意味をも包含する。
この場合、治療対象(患者)は、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害を患う生物又は患うリスクのある生物であり、好ましくは脊椎動物であり、さらに好ましくは哺乳動物である。哺乳動物の例としては、ヒト、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、イヌ及びネコからなる群より選択される哺乳動物が挙げられ、さらに好ましくは、ヒトである。
アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害を患う生物又は患うリスクのある生物には、同認知障害のモデル動物も含まれる。
従って、アミロイドβ蛋白質により誘発される認知障害のモデル動物に本発明のペプチドを投与して同認知障害が改善された場合、これは本発明の治療方法に該当する。

【0033】
本発明の組成物において、有効成分である本発明のペプチドは、既に述べたとおりである。本発明の組成物において、本発明のペプチドはその「アナログ」の形態にあってもよい。このようなアナログの例としては本発明のペプチドのエステル、アミド、プロドラッグ、および塩形態が挙げられる。
ここで「医薬的に許容可能な塩」とは、本発明のペプチドのカルボキシル基の塩およびアミノ基の酸付加塩の両方を指す。カルボキシル基の塩は、当該技術分野で既知の手段によって形成することができ、医薬的に許容可能な塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの金属塩;アンモニウム塩のような無機塩;t-オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N-メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N, N' -ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N-ベンジル-フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機塩などのアミン塩;弗化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、沃化水素酸塩のようなハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルカンスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩;酢酸塩、りんご酸塩、フマール酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、諺酸塩、マレイン酸塩などの有機酸塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩などが挙げられる。これらの塩は、公知の方法で製造することができる。あるいは、本発明のペプチドは、本発明の組成物中においてその水和物の形態にあってもよい。
当然のことながら、これらの塩及び水和物は、本発明のペプチドの活性を保持しなければならない。

【0034】
また、本発明のペプチドのアナログは、例えば、融合タンパク質を産生するために、親油性部分(例えば、脂肪酸)、担体分子、または異種ポリペプチドが本発明のペプチドに共有結合したものや、さらに共有結合的に修飾された本発明のペプチド(共有結合的修飾ペプチド)を含む。

【0035】
共有結合的な修飾の例としては、例えば、カルボキシル基の脂肪族エステルまたはアミドおよび遊離アミノ基のNアシル誘導体、ならびに遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体が挙げられ、例えばアルカノイルもしくはアロイル基等のアシル基、官能基のプロドラッグ、塩、またはそれらの組み合わせで形成される。共有結合的な修飾は、標的アミノ酸残基を、選択された側鎖または末端残基と反応することが可能な有機誘導体化剤と反応させることによって、ペプチドに導入することができる。有機誘導体化剤を使用するポリペプチドの共有結合修飾は、当業者に公知である。例えば、システイニル残基は、カルボキシメチルまたはカルボキシアミドメチル誘導体を得るために、クロロ酢酸またはクロロアセトアミド等のα-ハロ酢酸(および対応するアミン)と反応させることができる。ヒスチジル残基は、pH5.5~7.0でのジエチルピロカーボネートとの反応、または1Mのカコジル酸ナトリウム中のpH6でのパラ-ブロモフェンアシルブロミドとの反応によって誘導体化することができる。リシニルおよびアミノ末端残基は、コハク酸または他のカルボン酸無水物と反応させることができる。アルギニル残基は、1つまたはいくつかの従来の試薬との反応によって修飾することができ、その中には、フェニルグリオキサール、2,3-ブタンジオン、1,2-シクロヘキサンジオン、およびニンヒドリンがある。芳香族ジアゾニウム化合物またはテトラニトロメタンとの反応によって、スペクトル標識をチロシル残基に導入することができ、最も一般的には、0-アセチルチロシル種および3-ニトロ誘導体のそれぞれを形成するために、N-アセチルイミジゾルおよびテトラニトロメタンが使用される。カルボキシル側基(アスパルチルまたはグルタミル)は、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリニル-(4-エチル)カルボジイミドまたは1-エチル-3(4アゾニア4,4-ジメチルペンチル)カルボジイミド等のカルボジイミド(R’-N-C-N-R’)との反応によって、選択的に修飾することができる。さらに、アスパルチルおよびグルタミル残基は、アンモニウムイオンとの反応によって、アスパラギニルおよびグルタミニル残基に変換される。グルタミニルおよびアスパラギニル残基は、対応するグルタミルおよびアスパルチル残基に脱アミド化することができる。他の修飾としては、プロリンおよびリジンのヒドロキル化、セリルおよびスレオニル基のヒドロキシル基のリン酸化、リジン、アルギニンおよびヒスチジン側鎖のα-アミノ基のメチル化(T.E.Creighton,1983,Proteins:Structure and Molecule Properties,W.H.Freeman & Co.,San Francisco,pp.79-86)、N-末端アミンのアセチル化、ならびに場合によっては、C-末端カルボキシル基のアミド化が挙げられる。

【0036】
本発明の組成物の投与形態は、医薬的に許容可能であり、かつアミロイドβ蛋白質が集積する部位である脳室に本発明のペプチドを送達できるものであれば限定されないが、送達容易性の観点から、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経口投与、組織内投与、経皮投与等が好ましい。また、本発明の組成物が取り得る剤型としては、特に制限されないが、例えば、各種の注射剤、経口剤、点滴剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤等を挙げることができる。

【0037】
本発明の組成物には、本発明のペプチド以外に、任意に医薬的に許容可能な添加剤を配合することができる。かかる添加剤として、例えば、乳化補助剤(例えば、炭素数6~22の脂肪酸やその医薬的に許容可能な塩、アルブミン、デキストラン)、安定化剤(例えば、コレステロール、ホスファチジン酸)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グルコース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース)、pH調整剤(例えば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン)を挙げることができる。これらを一種又は二種以上使用することができる。

【0038】
本発明の組成物は、例えば注射用組成物として調製する場合、任意の水性溶媒に本発明のペプチドを加え、適当に撹拌することにより調製することができる。水性溶媒としては、医薬的に許容可能なものであれば特に制限されず、例えば、注射用水、注射用蒸留水、生理食塩水等の電解質液、ブドウ糖液、マルトース液等の糖液を挙げることができる。また、かかる場合のpH及び温度等の条件は、当業者が適宜選択することができる。

【0039】
本発明の組成物は、例えば、液剤やその凍結乾燥製剤とすることができる。当該凍結乾燥製剤は、常法により、液剤の形態を有している本発明の組成物を凍結乾燥処理することにより調製することができる。例えば、液剤の形態を有している本発明の組成物を適当な滅菌を行った後、所定量をバイアル瓶に分注し、約-40~-20℃の条件で予備凍結を2時間程度行い、約0~10℃で減圧下に一次乾燥を行い、次いで、約15~25℃で減圧下に二次乾燥して凍結乾燥することができる。そして、一般的にはバイアル内部を窒素ガスで置換し、打栓して本発明の組成物の凍結乾燥製剤を得ることができる。

【0040】
本発明の組成物の凍結乾燥製剤は、一般には任意の適当な溶液(再溶解液)の添加によって再溶解し使用することができる。このような再溶解液としては、注射用水、生理食塩水、その他一般輸液を挙げることができる。この再溶解液の液量は、用途等によって異なり特に制限されないが、凍結乾燥前の液量の0.5~2倍量、又は500 mL以下が適当である。

【0041】
本発明の組成物は、有効成分であるペプチドを治療上有効量で含み得る。ここで、「治療上有効量」とは、その量の有効成分を対象に投与することにより、アルツハイマー病について「治療」の効果が得られる量を意味する。ここで、「治療」とは先に述べたとおりである。
つまり、治療上有効量の本発明のペプチドを投与すると、本発明のペプチドを投与しない場合と比較して、患者のアルツハイマー病の重症度が軽減するか、悪化せず、あるいはアルツハイマー病が予防される。

【0042】
例えば、腹腔内投与の場合、治療上有効量は、0.001~10 g/kg/日、0.005~10 g/kg/日、0.01~10 g/kg/日、0.01~5 g/kg/日とすることができる。ヒトに投与する場合、一般的には、治療上有効量として、一日あたり10 mg~15,000 mg、10 mg~12,000 mg、10 mg~10,000 mg、20 mg~10,000 mg、20 mg~8,000 mg、30 mg~8,000 mg、30 mg~6,000 mgの量である。
また、局所投与の場合、治療上有効量は、0.001~10 g/kg/日、0.005~10 g/kg/日、0.01~10 g/kg/日、0.01~5 g/kg/日とすることができる。ヒトに投与する場合、一般的には、治療上有効量として、一日あたり10 mg~15,000 mg、10 mg~12,000 mg、10 mg~10,000 mg、20 mg~10,000 mg、20 mg~8,000 mg、30 mg~8,000 mg、30 mg~6,000 mgの量である。このような一日あたりの用量を一度にまたは分割して、治療を必要とする患者に投与することができる。

【0043】
あるいは、ウイルスベクターを用いて脳神経細胞で本発明のペプチドを発現させることが治療方法の選択肢として考えられる。このようなウイルスベクターとして、例えば血液脳関門を通過しうる組み換え体アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)を用いる事ができる。血中に投与したAAV9ベクターを用いて中枢神経およびグリア細胞系で遺伝子を発現させる事は公知である。さらに、神経細胞特異的なp3-Alcβ37の発現が必要であれば、ウイルスベクターに、例えばsynapsin I 遺伝子のプロモーター領域を組み込んだAAV9を用いる事が可能である。本発明のペプチドを細胞で発現させ、分泌させるためには、例えばAlcadein βのシグナルペプチド配列19アミノ酸に連結された、Alcadein βのε切断サイトで切断した前駆体ペプチド配列を発現させる。細胞で発現後、この前駆体ペプチドは、シグナルペプチダーゼによりシグナル配列が切断され、ガンマセクレターゼによる切断がεサイトからγサイトへ進むので(Piaoet al, PLoS One 8, e62431, 2013)、そこで本発明のペプチドが分泌される。もちろん、ペプチドを発現・分泌させる方法として、最初からγサイトで切断される37アミノ酸をコードした遺伝子をもちいる方法など、本方法以外の既知の方法を用いる事ができ、発現および分泌の効率を検討して、治療に有効な手法を用いることができる。血中にウイルスベクターを導入する方法を用いる事で、中枢神経系に非侵襲的に本発明のペプチドを導入し治療効果を公知の方法で検定することが可能となる。

【0044】
なお、本発明の組成物の投与量及び投与頻度は、対象の種、体重、性別、年齢、腫瘍疾患の進行度、投与経路といった種々の要因に依存して変化するが、医師、獣医師、歯科医師又は薬剤師等の当業者であれば、それぞれの要因を考慮して投与量を決定することができる。

【0045】
上記の治療上有効量、投与量及び投与頻度は、典型的な数値を列挙したものであり、これを超える数値又は下回る数値であっても治療効果を奏する場合も十分に考えられる。従って、上記の治療上有効量、投与量及び投与頻度を超える数値又は下回る数値であっても、本発明の組成物の治療上有効量、投与量及び投与頻度として包含される。

【0046】
以下に、実施例及び試験例を掲げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
方法
アミロイドβ蛋白質オリゴマー体投与による記憶障害マウスモデルの作製、および新規物体認識試験(novel object recognition test) による記憶獲得能力の評価は、過去の論文に従っておこなった(Balducci et al, Proc Natl Acad Sci USA 107, 2295-2300, 2010)。
【実施例】
【0048】
ICRマウス(6-7週令) に対し、ケタミン(100 mg/kg) とキシラジン(40 mg/kg) によって麻酔し、脳定位固定装置にセットした。頭皮を除去後、側脳室上の頭蓋骨に小さな穴を開け、ブレグマから側方向に± 1.0 mm、後方向に0.65 mm の位置にガイドカニューレ(23 gage) を両側性に埋め込んだ。ガイドカニューレは歯科用レジンで固定した。手術からの回復期間として4-5日経過後、テストケージ(39 cm x 22 cm) の環境に慣れさせるため、10分間自由行動させた(habituation)。これを3日間続けた。その次の日、頭部に埋め込んでいたガイドカニューレを介して、人工脳脊髄液(コントロール)、1 μMアミロイドβ蛋白質オリゴマー体を溶解した人工脳脊髄液、1 μMアミロイドβ蛋白質オリゴマー体と10 μMの本発明のペプチドを混合した人工脳脊髄液のいずれかを、インジェクションカニューレ(30 gage, 脳表面から1.7 mm) により、側脳室に両側性に投与した(3.5 μl/side)。
【実施例】
【0049】
投与から2時間後、順応させたテストケージの中に、同一の2つの物体(プラスチックキャップのついたガラスバイアル[物体A]:直径3 cm x 高さ6.5 cm)を約20 cm 離してセットし、その中でマウスを10分間自由行動させ、物体Aを学習させた(training session)。次の日、学習から24時間経過後、昨日見せた物体Aを覚えているか試験した(test session)。詳しくは、同じテストケージの中に、昨日提示した物体A(すなわち、既知物体)と新しい物体(メタルキューブ[物体B]: 4 cm 四方)を前日と同じ位置にセットし、その中でマウスを10分間自由行動させた。正常マウスは元々、新しい物体に興味を示すので、既知物体(物体A)よりも新規物体(物体B)の方を探索している時間が長くなる。一方、記憶能力を障害されたマウスは、前日見せた物体(物体A)を覚えていないので、test session では物体Aも物体Bも同程度の探索時間を示す。両物体に対する探索行動はビデオカメラで記録し、それぞれの物体に対する探索時間を積算した。物体に対する頭部の接触や接近(sniffing含む)および前後肢の接触を、探索時間としてカウントした。マウスに新規物体を見せると、時間経過と共に興味を示さなくなる(新規物体に対する探索行動を示さなくなる)ので、テストケージに入れてから5分間の行動から探索時間を評価した。
【実施例】
【0050】
使用した試薬に関して、人工脳脊髄液の組成はNaCl 137 mM, KCl 3 mM, MgCl21 mM, CaCl21.2 mM, glucose 2.5 mM, sodium phosphate buffer 2 mM (pH 7.4) である。アミロイドβ蛋白質オリゴマー体の作製は、過去の文献に従って作製した(Balducci et al, Proc Natl Acad Sci USA 107, 2295-2300, 2010)。アミロイドβ蛋白質のストック溶液(300 μM) は、0.02% のトリフルオロ酢酸水溶液に溶解され、-25℃で保存し、1か月以内に使用した。アミロイドβ蛋白質オリゴマー体の作成は、以下の要領で用事調製した。アミロイドβ蛋白質ストック溶液を融解後、NaOH:NH3=1:3 溶液でアルカリ化し(pH > 10.5)、50 mM phosphate-buffered saline (pH 7.4)で、アミロイドβ蛋白質を100 μM に薄めた後、22℃で18時間インキュベートした。この溶液を人工脳脊髄液で1 μM に薄め、アミロイドβ蛋白質オリゴマー体として脳室投与した。オリゴマー体と本発明のペプチドとの混合液に関しては、上述の手順に沿って行って作製するが、インキュベートされた100 μM アミロイドβ蛋白質オリゴマー体を1 μM に薄める際、本発明のペプチドも添加し最終濃度を10 μMとした。
【実施例】
【0051】
使用したペプチドの配列は、以下の通りである。
p3-Alcβ[11-19]: GHQPPPEMA(配列番号1)
p3-Alcβ[9-19]: HRGHQPPPEMA(配列番号3)
p3-Alcβ[9-17]: HRGHQPPPE(配列番号4)
amyloid-β42:DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVVIA(配列番号5)

加えて、使用したペプチドはそれぞれ以下から入手した: amyloid-β42 (Keck Biotechnology Resource Laboratory, Yale University), p3-Alcβ[11-19] ( Peptide Institute), p3-Alcβ[9-19] (Peptide Institute), p3-Alcβ[9-17] (Peptide Institute)。
【実施例】
【0052】
結果
人工脳脊髄液を投与したマウスでは、既知物体Aの探索時間より、新規物体Bの探索時間が有意に長かった(図1A, n = 11 mice, P < 0.01, paired t-test)。すなわち、正常に記憶が獲得されていた。一方で、アミロイドβ蛋白質オリゴマー体 (1 μM) を投与したマウスでは、既知物体Aと新規物体Bの探索時間がほぼ同じであった(図1B,n = 20 mice, P > 0.05, paired t-test)。すなわち、記憶獲得が完全に障害されているのが分かった。
さらに我々は、アミロイドβ蛋白質オリゴマー体に加えて本発明のペプチド(p3-Alcβ[11-19], 10 μM) を混合投与したマウスでは、記憶能力が顕著に回復していることを見出した(図2D, n = 12 mice, P < 0.01, paired t-test)。また、アミロイドβ蛋白質オリゴマー体に加えて本発明のペプチド(p3-Alcβ[9-19], 10 μM) を混合投与したマウスでも、記憶能力が顕著に回復した(図2B, n = 16 mice, P < 0.01, paired t-test)。
【実施例】
【0053】
一方、p3-Alcβ37のペプチドであっても、9-17番目のアミノ酸残基からなるペプチドp3-Alcβ[9-17]は記憶能力を回復させることはなかった(図2C, n = 12 mice, P > 0.05, paired t-test)。これらの結果は、アミロイドβ蛋白質オリゴマー体により誘発される記憶障害は、本発明のペプチドの脳内投与により劇的に改善されることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0054】
実施例に示す実験結果から、本発明のペプチドが、アルツハイマー病モデル動物において効果的に記憶能力を回復させ、アルツハイマー病症状を改善する治療効果を有することが分かる。
従って、本発明のペプチドは、アルツハイマー病の治療において、非常に有用である。
【配列表フリ-テキスト】
【0055】
配列番号1:p3-Alcβ[11-19]
配列番号2:p3-Alcβ37
配列番号3:p3-Alcβ[9-19]
配列番号4:p3-Alcβ[9-17]
配列番号5:amyloid-β42
図面
【図1】
0
【図2】
1