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明細書 :バインダおよびその利用、並びに電極の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年7月27日(2017.7.27)
発明の名称または考案の名称 バインダおよびその利用、並びに電極の製造方法
国際特許分類 H01M   4/62        (2006.01)
H01M   4/13        (2010.01)
H01M  10/0566      (2010.01)
H01M  10/052       (2010.01)
H01M   4/139       (2010.01)
FI H01M 4/62 Z
H01M 4/13
H01M 10/0566
H01M 10/052
H01M 4/139
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 32
出願番号 特願2016-552167 (P2016-552167)
国際出願番号 PCT/JP2015/077987
国際公開番号 WO2016/052715
国際出願日 平成27年10月1日(2015.10.1)
国際公開日 平成28年4月7日(2016.4.7)
優先権出願番号 2014205270
優先日 平成26年10月3日(2014.10.3)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】山縣 雅紀
【氏名】石川 正司
【氏名】副田 和位
出願人 【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査請求 未請求
テーマコード 5H029
5H050
Fターム 5H029AJ01
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AJ11
5H029AJ14
5H029AK01
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5H029AK03
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5H029AL02
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5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM09
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5H029CJ08
5H029DJ08
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA01
5H050AA02
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5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA20
5H050CA22
5H050CA25
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB05
5H050CB20
5H050CB22
5H050CB25
5H050CB29
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA21
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
要約 本発明は、水との反応性が高い活物質の劣化を抑制して当該活物質の利用を可能にすると共に、少ない使用量で高い電極強度を確保でき、かつ、電極の高い出力特性等を実現できる水系バインダを提供することを目的とし、電気化学デバイス用電極の材料である活物質と導電助剤とを連結させるバインダであって、系内にプロトンを含有することを特徴とする。
特許請求の範囲 【請求項1】
電気化学デバイス用電極の材料である活物質と導電助剤とを連結させるバインダであって、系内にプロトンを含有することを特徴とするバインダ。
【請求項2】
プロトンを有する極性官能基を備えた化合物を主成分として含有することを特徴とする請求項1に記載のバインダ。
【請求項3】
上記化合物がアルギン酸であることを特徴とする請求項2に記載のバインダ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のバインダ、導電助剤、活物質および水を含有することを特徴とする電極用スラリー。
【請求項5】
固形分濃度が20~75重量%であることを特徴とする請求項4に記載の電極用スラリー。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載のバインダを含有することを特徴とする電気化学デバイス用電極。
【請求項7】
上記バインダの含有率が、活物質、導電助剤、およびバインダの乾燥重量の合計を100重量%としたときに、乾燥重量として1重量%以上10重量%以下であることを特徴とする、請求項6に記載の電気化学デバイス用電極。
【請求項8】
正極および負極を備え、当該正極と当該負極との間に電解液を含む電気化学デバイスであって、
上記正極および/または負極は、請求項6または7に記載の電気化学デバイス用電極であることを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項9】
上記電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項8に記載の電気化学デバイス。
【請求項10】
請求項6または7に記載の電気化学デバイス用電極を製造する方法であって、
請求項1から3のいずれか1項に記載のバインダと、電気化学デバイス用電極の材料である活物質と、導電助剤と、を混合し、混合物を得る工程Aと、
上記混合物と水とを混合し、固形分濃度が20~75重量%である電極用スラリーを得る工程Bと、を備えることを特徴とする方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダおよびその利用、並びに電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機器、電気自動車等に搭載される電気化学デバイス(例えば、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池等の蓄電デバイスが包含される)が開発されている。これらの中でも、リチウムイオン二次電池は、機器の小型化や軽量化を可能にし、充放電効率がよく、高いエネルギー密度を有しているため、例えば、携帯機器やノート型PC、家電機器、さらにはハイブリッド自動車や電気自動車の電源として使用されている。また、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーシステムと組み合わせ、発電した電力の貯蔵用蓄電デバイスとして新たに注目されている。
【0003】
電気化学デバイスを構成する電極は、電気エネルギーの蓄電に直接係わる活物質、活物質間の導通パスを担う導電助剤、バインダ、および集電体から構成される。電気化学デバイスの特性は電極に大きく依存し、それぞれの材料自体の特性と材料の組み合わせ方に大きく影響を受ける。
【0004】
上で挙げた電極の構成要素のうち、特にバインダの性質としては、活物質、導電助剤およびバインダを含む合材から得られた電極(以下、「合材電極」という)内にて存在比率が少ないこと、電気化学デバイスに供給される電解液との親和性に優れること、および、電極の電気抵抗を最小限にできることが要求される。また、バインダの性質としては、高電圧作動に耐える安定性も重要である。
【0005】
バインダは、水系バインダまたは非水系バインダの2種に大きく分類される。水系バインダとしては、スチレン-ブタジエンラバー(SBR)水分散液(特許文献1等)、カルボキシメチルセルロース(CMC)(特許文献2~4等)が挙げられる。また、これらのバインダの併用についても従来技術として提案されている(特許文献3、5、6等)。これらの水系バインダは、活物質および導電助剤との密着性が比較的高いため、合材における含有量が少なくて済むという利点がある。
【0006】
非水系バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(特許文献7、8等)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)(特許文献9~11等)が挙げられ、これらの非水系バインダは、特に高電圧作動型のデバイスには有利に働く。
【0007】
一方、リチウムイオン二次電池用ケイ素系負電極合材に利用するバインダとして、アルギン酸ナトリウムが適用されており、アルギン酸ナトリウムが、上記バインダとして利用可能であること、上記バインダを用いたリチウムイオン二次電池のサイクル安定性が高いことが知られている(非特許文献1)。
【0008】
また、本発明者らは、キャパシタ用電極(特許文献12、非特許文献2)、およびリチウムイオン電池用負極(特許文献12)において、アルギン酸系バインダが適用可能であることを見出している。
【0009】
さらに、アルギン酸系バインダと同様に天然高分子由来のバインダとして、キトサン誘導体を適用することが提案されている(特許文献13)。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】日本国特許公報「特許第310775号明細書(2000年10月23日発行)」
【特許文献2】日本国特許公報「特許第3968771号明細書(2007年8月29日発行)」
【特許文献3】日本国特許公報「特許第4329169号明細書(2009年9月9日発行)」
【特許文献4】日本国特許公報「特許第4244041号明細書(2009年3月25日発行)」
【特許文献5】日本国特許公報「特許第3449679号明細書(2003年9月22日発行)」
【特許文献6】日本国特許公報「特許第3958781号明細書(2007年8月15日発行)」
【特許文献7】日本国特許公報「特許第3356021号明細書(2002年12月9日発行)」
【特許文献8】日本国公開特許公報「特開平07-326357号公報(1995年12月12日公開)
【特許文献9】日本国特許公報「特許第3619711号明細書(2005年2月16日発行)」
【特許文献10】日本国特許公報「特許第3619870号明細書(2005年2月16日発行)」
【特許文献11】日本国特許公報「特許第3668579号明細書(2005年7月6日発行)」
【特許文献12】日本国公開特許公報「特開2013-161832号公報(2013年8月19日公開)」
【特許文献13】日本国特許公報「特許第5284896号明細書(2013年9月11日発行)」
【0011】

【非特許文献1】I. Kovalenko et al., Science, Vol. 75, pp. 75-79 (2011)
【非特許文献2】M. Yamagata et al.,RSC Advances,Vol. 3, pp. 1037-1040 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述した従来のバインダは、以下の問題点を有している。
【0013】
まず、水系バインダであるSBRを用いた合材では、活物質および導電助剤が不均一化し、均一性に欠けるため、蓄電デバイスの性能再現性が低い傾向にある。また、CMCは、活物質および導電助剤に対する接着力が乏しいため、電極におけるCMCの含有量を10重量%以上に増加させる必要があるが、その結果、活物質の含有率が低下してしまう。
【0014】
これらの欠点を解消するため、実用上、SBRとCMCとを併用することが必要になるが、SBRは主鎖に二重結合を有するため、SBRを含む正極に使用した場合、デバイスの充放電に伴い酸化による劣化が生じる。さらに、SBRおよびCMCは、電解液と接触すると膨張する。これにより集電体から活物質が剥離し、脱落するため、SBRおよびCMCを併用した蓄電デバイスでは、サイクル耐久性および出力特性が低下するという問題等が起こりやすい。さらに、合材電極作製工程においてスラリー管理が難しいことなどの課題もある。
【0015】
次に、非水系バインダであるPTFE、PVdF等のフッ素系ポリマーは、活物質に対する親和性が低いため、活物質によっては、それらの分散性に乏しく、均一性の高い合材電極の製造が難しい場合がある。バインダの含有比を増加させることによって接着力不足を補填し、電極の強度を確保することが可能であるが、この場合、電極の電気抵抗が増加する結果となり、特に比表面積の大きい活性炭では、その活性点が失われる。また、活物質の含有率が低下し、蓄電デバイスの容量が低下する。さらには、PTFE、PVdFは、(1)活性炭等の炭素材料に対する親和性が低いため、得られる電極の再現性が低く、(2)炭素材料との均一な混合のために、分散剤が必要になるという問題がある。
【0016】
上述のように、本発明者は、合材電極を構成するバインダとしてアルギン酸のアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩(以下、アルギン酸のアルカリ金属塩と、アルギン酸のアルカリ土類金属塩とを「アルカリ金属塩類」と称する場合がある)を使用した場合に、当該合材電極が、電気化学デバイス用の正極および負極に適用できることを確認している。
【0017】
しかしながら、バインダとしてのアルギン酸塩類は、全ての活物質を用いる合材電極において有効に適用できるわけではない。すなわち、アルギン酸塩類をバインダとして用いる場合は、アルギン酸塩類を水溶液の形態にて使用するため、活物質の水との反応性が高い場合(例えば、層状酸化物系の活物質を用いる場合)、活物質表面における化学変化、活物質中の遷移金属の溶出、電極作製プロセスにおけるpH変化、といった問題が生じる。
【0018】
このように、水との反応によって活物質が劣化した場合、電気化学デバイスの容量および充放電サイクル特性が低下し、また耐熱性も失うという問題が発生する。上記の問題は、従来のアルギン酸系のバインダを含めて、全ての水系バインダを使用する際に避けられない問題である。
【0019】
昨今、容量、充放電サイクル特性に優れた電気化学デバイスを作製するために、水との反応性が高い活物質(例えば、層状金属酸化物系の活物質)を使用することが研究されており、電気化学デバイスの分野において、上記の問題を解決できるバインダを開発することが強く求められている。
【0020】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、水との反応性が高い活物質の劣化を抑制して当該活物質の利用を可能にすると共に、少ない使用量で高い電極強度を確保でき、かつ、電極の高い出力特性等を実現できる水系バインダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、系内にプロトンを含有するバインダ、例えば、アルギン酸(以下、「Alg-H」と称する場合がある)のように、プロトンを有する極性官能基を分子内に有する化合物を主成分として含有するバインダを用いることによって上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0022】
〔1〕電気化学デバイス用電極の材料である活物質と導電助剤とを連結させるバインダであって、系内にプロトンを含有することを特徴とするバインダ。
【0023】
〔2〕プロトンを有する極性官能基を備えた化合物を主成分として含有することを特徴とする〔1〕に記載のバインダ。
【0024】
〔3〕上記化合物がアルギン酸であることを特徴とする〔2〕に記載のバインダ。
【0025】
〔4〕〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載のバインダ、導電助剤、活物質および水を含有することを特徴とする電極用スラリー。
【0026】
〔5〕固形分濃度が20~75重量%であることを特徴とする〔4〕に記載の電極用スラリー。
【0027】
〔6〕〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載のバインダを含有することを特徴とする電気化学デバイス用電極。
【0028】
〔7〕上記バインダの含有率が、活物質、導電助剤、およびバインダの乾燥重量の合計を100重量%としたときに、乾燥重量として1重量%以上10重量%以下であることを特徴とする、〔6〕に記載の電気化学デバイス用電極。
【0029】
〔8〕正極および負極を備え、当該正極と当該負極との間に電解液を含む電気化学デバイスであって、
上記正極および/または負極は、〔6〕または〔7〕に記載の電気化学デバイス用電極であることを特徴とする電気化学デバイス。
【0030】
〔9〕上記電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする〔8〕に記載の電気化学デバイス。
【0031】
〔10〕〔6〕または〔7〕に記載の電気化学デバイス用電極を製造する方法であって、
〔1〕から〔3〕のいずれか一つに記載のバインダと、電気化学デバイス用電極の材料である活物質と、導電助剤と、を混合し、混合物を得る工程Aと、
上記混合物と水とを混合し、固形分濃度が20~75重量%である電極用スラリーを得る工程Bと、を備えることを特徴とする方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るバインダは、水との反応性が高い活物質を用いた場合でも、水との反応による上記活物質の劣化を抑制し、少ない使用量で高い電極強度を確保でき、かつ、電解液等との高い親和性を有する。それゆえ、高性能で、かつ安全性の高い電気化学デバイスを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例における電極の構造変化の評価において、電極の厚みを測定する位置を示す模式図である。
【図2】本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いた評価用二極式ハーフセルについて、定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いた評価用二極式ハーフセルおよび従来の電極を用いた評価用二極式ハーフセルについて定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【図4】本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いた評価用二極式ハーフセルおよび従来の電極を用いた評価用二極式ハーフセルについて出力特性を測定した結果を示すグラフである。
【図5】本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルについて定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【図6】本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルについて長期間にわたって定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【図7】本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルについて高電圧下にて定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【図8】本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルおよび従来の電極を用いたプロトタイプセルについて出力特性を測定した結果を示すグラフである。
【図9】実施例3における、酢酸と混合した状態のキトサンをバインダとして使用した電極を用いた評価用二極式ハーフセルについての充放電試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。

【0035】
なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱う。

【0036】
〔1.バインダ〕
本発明に係るバインダは、電気化学デバイス用電極の材料である活物質(以下、「電極活物質」あるいは単に「活物質」と称する場合もある)と導電助剤とを連結させるバインダ(活物質および導電助剤を連結させるバインダ)であって、系内にプロトンを含有する。

【0037】
水系バインダであるアルギン酸塩等は、既に知られているように、リチウムイオン二次電池用負極等へ適用することができる。アルギン酸塩等をバインダとして用いる場合、電極作製時に水溶液を利用する必要がある。そのため、活物質が水との反応性が高い物質である場合、該物質が水と反応してアルカリ性となり劣化するという問題がある。

【0038】
本明細書において、上記「水との反応性が高い活物質」とは、すなわち、水と接触すると反応し、部分的もしくは全体的に構造、化学状態および/または組成の変化する電極活物質のことである。つまり、水と反応し、その水のアルカリ化を伴いながら、構造の変化、活物質成分の溶出によって劣化するものである。以下、当該活物質を「水反応性活物質」と称する場合がある。

【0039】
一方、本発明に係るバインダは、系内にプロトンを含有するため、あるいはプロトンを有する極性官能基を備えた化合物を主成分として含有するため、水の存在下でプロトンを放出し、上記プロトンによりアルカリを中和することができる。そのため、電極作製中に、活物質、導電助剤およびバインダを含有する合材のpHの上昇を抑制することができ、その結果、活物質の劣化を抑制しながら電極を作製することができる。

【0040】
したがって、バインダの使用量を最小限に抑えつつ、水に対して化学的に不安定な正極活物質の使用を可能にすることができる。

【0041】
また、本発明に係るバインダは、活物質および導電助剤との親和性が高いため、従来のバインダよりも均一性が高い合材電極を得ることができる。さらに、本発明に係るバインダは、十分な接着力を有しているため、電極の作製が容易である。

【0042】
また、本発明に係るバインダは、後述する実施例に示すように、工業的な電極作製プロセスに必要な電極の強度を確保することができる。

【0043】
そして、本発明に係るバインダは、活物質、電解液、および集電体に対する高い親和性を有するため、後述する実施例に示すように、上記電極活物質を使用した電極のサイクル特性、および電気化学デバイスの容量発現特性を飛躍的に向上させることができる。また、本発明に係るバインダは活物質および導電助剤との親和性に優れるため、電気化学デバイスの電極における各材料間の界面抵抗を軽減することもできる。さらに、良好な充放電特性を高電圧および高電位で実現することが可能である。

【0044】
したがって、水反応性活物質を使用した場合も、リチウムイオン電池などの電気化学デバイスの高エネルギー密度化および高出力化を実現することができる。

【0045】
このように、本発明に係るバインダは、プロトンが上記水反応性活物質の水による劣化を抑制することができるため、水系バインダでありながら、水反応性活物質を用いて、優れた特性を有する電気化学デバイスを提供することができる。

【0046】
これまでに、蓄電デバイス用合材電極の作製に用いられているバインダは数多く存在するが、接着性、分散性、電気化学安定性、低コスト、強度、取扱いの容易さ、という各種の要件について満足のいく特性を示し、かつ、デバイスの高出力化を可能とするバインダは見出されていない。しかも、高い電位雰囲気にさらされる正極に用いた場合に上記特性を示すということは、当業者が予測し得ない格別顕著な効果といえる。

【0047】
<バインダ>
本発明に係るバインダは、電気化学デバイス用電極の材料である活物質および導電助剤、集電体などを連結させるものであり、電極活物質と導電助剤とを覆うあるいは連結するように存在し、電極活物質に対して導電助剤を固定するものである。電極は正極でも負極でもよい。

【0048】
上述のように、本発明に係るバインダは、水反応性活物質が水と反応してアルカリ性となることを、プロトンによるアルカリの中和によって抑制することができる。このことから、本発明に係るバインダは、系内にプロトンを含有していれば、あるいは、上記中和を行うことができる化合物を主成分としていれば、水反応性活物質の劣化を抑制することができると考えられる。

【0049】
そこで、本発明に係るバインダは、系内にプロトンを含有する。あるいは本発明に係るバインダは、プロトンを有する極性官能基を備えた化合物を主成分として含有する。

【0050】
本発明における「系内にプロトンを含有する」とは、バインダ自身がプロトンを有するもの(以下、バインダAと称する)であってもよいし、プロトンを有さないバインダおよび酸を含有することによってプロトンを有することとなったバインダ(以下、バインダBと称する)であってもよいとの意味である。つまり、バインダBは、プロトンを有さず、酸性ではないバインダが、酸と混合されることによって、当該バインダと当該酸とを包含する系がプロトンを有することになったバインダを言う。また、本発明に係るバインダには、バインダAとバインダBとを併用するバインダが含まれ得る。

【0051】
バインダAおよびバインダBは、いずれも、水中に存在させた場合に、当該水のpHが7未満を示す。バインダBは、プロトンを有さないバインダと酸とを適宜混合することによって調製することができる。酸の種類は特に限定されるものではない。本発明に係るバインダは、系内にプロトンを含有するため、後述する電極用スラリーも酸性を示す(pHが7未満を示す)。

【0052】
上記バインダBとしては、例えば、プロトンを有さないバインダとして、アルギン酸金属塩、カルボキシメチルセルロース金属塩、キトサン、その他多糖類の極性官能基付加体およびそれらの金属塩などを用い、酸として、ビス(フルオロスルホニル)イミド酸、ギ酸、酢酸などを用いて、これらを混合したものを挙げることができる。なお、プロトンを有さないバインダは、1種の化合物であってもよいし、2種以上の化合物の混合物であってもよい。同様に、上記酸も、1種の酸でもよいし、2種以上の酸の混合物であってもよい。系内にプロトンを含有していれば水反応性活物質の劣化を防ぐことができるため、プロトンを有さないバインダと、酸との混合比は特に限定されるものではない。

【0053】
上記バインダAとしては、例えば、プロトンを有する極性官能基を備えた化合物を主成分として含有するバインダを挙げることができる。

【0054】
上記プロトンを有する極性官能基は、特に限定されないが、カルボキシル基、カルボニル基、リン酸基、スルホニル基、ニトロ基、硝酸基、亜硝酸基およびヒドロキシル基からなる群から選ばれる1種または2種以上の官能基を一例として挙げることができる。

【0055】
上記官能基を備えた化合物としては、上記化合物と水、活物質、その他電極材料とを混合して得られた液体(スラリー)のpHが7未満となるものであればよい。上記液体は水溶液であってもよいし、懸濁液であってもよい。

【0056】
上記官能基を備えた化合物としては、特に限定されないが、例えば、アルギン酸、ヒアルロン酸、カルボン酸ビニル、ビニルスルホン酸、ペクチン、ポリ乳酸、ナフィオン(登録商標)など、あるいは、スチレン-スルホン酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体など、プロトンを有する極性官能基を含むモノマーとの共重合体、その他、プロトンを有する極性官能基付加体などを挙げることができる。上記官能基を備えた化合物は、1種にて使用してもよいし、または2種以上の混合物として使用してもよい。

【0057】
「化合物を主成分として含有する」とは、バインダの総重量を100重量%とした場合に、バインダにおける上記化合物の含有率が50重量%超、100重量%以下であることをいう。上記含有率は、70重量%以上、100重量%以下、75重量%以上、100重量%以下、80重量%以上、100重量%以下、85重量%以上、100重量%以下、90重量%以上、100重量%以下であることが最も好ましい。

【0058】
上記含有率が50重量%以下である場合は、デバイスの出力低下につながるため、好ましくない。なお、プロトンを有する官能基を備える化合物が、2種以上の混合物として使用される場合、上記含有率は、上記官能基を備える化合物のそれぞれの含有率の合計を意味する。

【0059】
バインダにおける上記化合物の含有率が100重量%未満の場合、上記化合物以外のバインダ成分としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF);PVdFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル(PFMV)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体などのPVdF共重合体樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴムなどのフッ素系樹脂;スチレン-ブタジエンラバー(SBR)、エチレン-プロピレンゴム(EPDM)、スチレン-アクリロニトリル共重合体などのポリマー;カルボキシメチルセルロース(CMC)などの多糖類、ゼラチンなどのタンパク質類などが挙げられる。また、これらの誘導体、あるいはこれらの1種以上を含む混合物でも構わない。

【0060】
上記プロトンを有する極性官能基を備えた化合物は、プロトンを放出可能な構造を取り得る限り、架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。

【0061】
<アルギン酸(Alg-H)>
上記プロトンを有する極性官能基を備えた化合物は、アルギン酸(以下、「Alg-H」と称する場合がある)であることがより好ましい。Alg-Hとは、アルギン酸中のカルボキシル基のO-Hがそのまま残っている、すなわちアルギン酸中のカルボニル基がプロトン以外の陽イオンと結合していないアルギン酸を示す。つまり、Alg-Hは、酸フォームのアルギン酸ということもできる。

【0062】
アルギン酸は、β-D-マンヌロン酸と、α-L-グルロン酸とが1,4結合した高分子多糖類の基本分子構造を有するものである。なお、上記アルギン酸は、通常、コンブ、ワカメ、カジメ等の褐藻類植物由来のものである。

【0063】
「アルギン酸」という用語が、アルギン酸と、プロトン以外の元素との塩であるアルギン酸塩との総称として用いられる場合があることは、当業者に周知の事項であるが、本明細書において「アルギン酸」とは、上にて示した「Alg-H」を意味する。すなわち、本発明に係るバインダは、アルギン酸(Alg-H)を主成分として含有することが好ましいが、水の存在下でプロトンを放出し、活物質と水との反応で生じたアルカリを中和できることが必要であるため、上述のように、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム等のアルギン酸塩を主成分とすることはない。

【0064】
Alg-Hは、このように水反応性活物質の劣化を十分に抑制することができることに加え、天然高分子であるため、バインダの製造コストの削減が見込めると共に、環境負荷の少ないバインダを提供することができる。

【0065】
Alg-Hを製造する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法に従えばよい。例えば、褐藻類植物から従来公知の方法によって得られたアルギン酸ナトリウムの水溶液に酸を加えて水溶液のpHを下げることで、水に不溶性のAlg-Hを析出させる方法等が挙げられる。また、Alg-Hとしては市販品を用いることもできる。市販品としては例えば、和光純薬工業(株)製の品番A17582、シグマ-アルドリッチ製の品番A7003などを用いることができる。

【0066】
Alg-Hは、プロトンを放出可能な構造を取り得る限り、架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。架橋されているAlg-Hとしては、例えば、Alg-Hをアルカリ土類金属イオンや遷移金属イオン、一級アミンやジオールなどにより架橋した架橋物等が挙げられる。

【0067】
<活物質>
本発明において用いる活物質としては、特に限定されるものではなく、水反応性活物質であってもよいし、水と反応しない活物質や、水との反応性が弱い活物質であってもよい。

【0068】
活物質としては、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、マグネシウムなどの陽イオンの挿入または脱離が可能であるものが挙げられる。具体的には、例えば、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO、MoO、Fe、Ni、CoO等の遷移金属酸化物;LiCoO、LiNiO、LiMn、LiNi1/3Mn1/3Co1/3(NMC)、LiFePO等のリチウムと遷移金属とを含むリチウム複合酸化物;TiS、MoS、NbSe等の金属カルコゲン化物;ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子化合物等が挙げられる。

【0069】
上記遷移金属酸化物または複合酸化物は、少量のフッ素、ホウ素、アルミニウム、クロム、ジルコニウム、モリブデン、鉄等の元素をドープしたものや、上記複合酸化物の粒子表面を、炭素、MgO、Al、SiO等で表面処理したものも使用できる。

【0070】
上記の遷移金属酸化物または複合酸化物の中には、上述のように水との反応性が高いものが多く、水との反応による活物質表面の化学変化、遷移金属の溶出、電極作製プロセスでのpH変化による劣化等の問題を有しているが、本発明に係るバインダはこれらの問題を解決することができる。

【0071】
以上説明した活物質は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用することも可能である。また、上記活物質は正極活物質として用いてもよいし、負極活物質として用いてもよい。

【0072】
<集電体>
集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体を使用可能である。例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等を挙げることができる。接着性、導電性、耐酸化性等の向上の目的で、アルミニウム等の表面を、カーボン、ニッケル、チタンまたは銀等で処理した集電体を用いてもよい。

【0073】
これらの集電体の表面を酸化処理することも可能である。また、集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体であってもよい。厚みは特に限定されないが、1μm以上、100μm以下のものが通常用いられる。

【0074】
本発明に係るバインダは接着性に優れるため、バインダ、活物質および導電助剤を含有する合材を、集電体に良好に接着することができる。

【0075】
<導電助剤>
上記導電助剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば使用することができる。通常、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが使用されるが、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維粉末、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を使用してもよい。これらは単独で用いてもよく、2種類以上の混合物として用いることができる。

【0076】
〔2.電気化学デバイス用電極およびその製造方法、並びに、電極用スラリーおよび電極用の合材〕
<電気化学デバイス用電極>
本発明に係る電気化学デバイス用電極は、本発明に係るバインダを含有することを特徴とする。上記バインダ以外には、既に説明した活物質、集電体および導電助剤を含んでいればよい。

【0077】
本発明に係る電気化学デバイス用電極における上記バインダの含有率は、上記活物質、導電助剤およびバインダの乾燥重量の合計を100重量%としたときに、乾燥重量として1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、2重量%以上3重量%以下であることがより好ましい。

【0078】
上記「乾燥重量」とは、例えば、上記活物質、導電助剤およびバインダを含む電極用スラリーを、集電体に塗布して乾燥させた後の重量をいう。乾燥方法については、後述する<電極用スラリー、電極用の合材、電気化学デバイス用電極の製造方法>に記載した。

【0079】
上記バインダの含有率が1重量%以上であれば、活物質、導電助剤およびバインダが均一に混合された合材を作製することが容易となり、10重量%以下であれば、バインダの含有率の増加に伴う活物質の含有率の低下を防ぐことができるため好ましい。

【0080】
本発明に係る電気化学デバイス用電極は、本発明に係るバインダを含有しているため、後述する実施例に示すように、上記合材における含有率がPVdFなどの従来のバインダより低くても、従来のバインダを用いた電極と同等あるいはそれ以上の電極の強度を確保することができる。また、本発明に係る電気化学デバイス用電極は、本発明に係るバインダを用いていることにより、均一性に優れており、電気抵抗が低減されており、後述する実施例に示すように、3.0V~4.5Vの高電圧にて作動可能である。

【0081】
本発明に係る電気化学デバイス用電極は、電気化学デバイスの正極として用いてもよいし、負極として用いてもよい。上記活物質が水反応性活物質である場合も、本発明に係るバインダと共に用いることによって、幅広い電位印加にさらされる正極および負極として十分に用いることができる。

【0082】
<電極用スラリー、電極用の合材、電気化学デバイス用電極の製造方法>
本発明に係る電極用スラリーは、本発明に係るバインダ、導電助剤、活物質および水を含有する。本発明に係る電極用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させることによって、電極用の合材を得ることができる。すなわち、本発明に係る電極用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させることによって、当該集電体上に電極用の合材が存在する、本発明に係る電気化学デバイス用電極を製造することができる。

【0083】
具体的には、本発明に係る電気化学デバイス用電極を製造する方法は、本発明に係るバインダと、電気化学デバイス用電極の材料である活物質と、導電助剤と、を混合し、混合物を得る工程Aと、上記混合物と水とを混合し、固形分濃度が20~75重量%である電極用スラリーを得る工程Bとを備える方法によって製造することができる。

【0084】
また、本発明に係る電極用スラリーの固形分濃度は、当該電極用スラリーの内容物によって変化するため、特に限定されるものではないが、上記固形分濃度は例えば20~75重量%であることが好ましく、60重量%であることがより好ましい。

【0085】
上記電極用スラリーの固形分における活物質、導電助剤およびバインダの含有率(重量%)は、上記電極用スラリーの固形分の重量を100重量%としたときに、活物質:導電助剤:バインダ=80~99:0~20:1~10であることが好ましく、90~99:0~10:1~3であることがより好ましい。

【0086】
本発明に係る電極用スラリーは、本発明に係るバインダと、電気化学デバイス用電極の材料である活物質と、導電助剤と、水とを混合することによって調製することができ、その具体的な製造方法は特に限定されるものではない。

【0087】
例えば、本発明に係るバインダと、活物質と、導電助剤と、を混合し、混合物を得る工程Aと、上記混合物と水とを固形分濃度が20~75重量%となるように混合し、本発明に係る電極用スラリーを得る工程Bとを備える方法によって、本発明に係る電極用スラリーを製造することができる。ただし、スラリー中の固形分濃度は上述のように上記20~75重量%に限られるものではない。

【0088】
本発明に係るバインダは、上述したように、例えば、Alg-Hのような、プロトンを有する極性官能基を備えた化合物を主成分として含有する。上記化合物は水に不溶な固体である。ここで、例えばアルギン酸塩を主成分とするバインダであれば、アルギン酸塩の水溶液を調製し、当該水溶液と、活物質と、導電助剤とを混合することによって電極用スラリーを調製することができる。当該水溶液を用いることにより、上記混合を容易に行うことができる。しかし、例えばAlg-Hのような上記化合物は水に不溶であるためこのような調製法を取ることができない。

【0089】
このような場合でも、例えば上記工程AおよびBを備える方法のように、まずバインダと、活物質と、導電助剤との混合物を調製し、次に当該混合物と水とを混合する方法を用いることによって、電極用スラリーを容易に調製することができる。もちろん、水に可溶なバインダであれば、上記アルギン酸塩のように、当該バインダの水溶液を調製し、当該水溶液と、活物質と、導電助剤とを混合することによって電極用スラリーを調製してもよい。

【0090】
電極用スラリーを構成する成分の混合(例えば、本発明のバインダ、活物質および導電助剤を粉砕・混合して混合物を得る工程、上記混合物と水とを混合して、電極用スラリーを得る工程、等)は、例えば従来公知の乳鉢;、ロールミル、ハンマーミル、スクリューミル、ピンミル等の高速回転式粉砕機;振動ミル、ロールグラニュレーター、ナックルタイプ粉砕機、円筒型ミキサー等を用いて行うことができる。

【0091】
上記電極用スラリーを、集電体上に塗布し、乾燥させることによって、当該集電体上にて、電極用の合材を形成し得、電気化学デバイス用電極を製造することができる。塗布法として、集電体に上記電極用スラリーを塗布し、ドクターブレードにより余分な電極用スラリーを除去する方式、集電体に上記電極用スラリーを塗布し、ローラにより上記電極用スラリーを圧延する方式等の公知の塗布法が挙げられる。

【0092】
塗布した上記電極用スラリーを乾燥する温度は特に限定されず、上記電極用スラリー中の各材料の配合率により適宜変更すればよい。一例としては、上記電極用スラリーを塗布した集電体を室温にて放置した後、加熱用の機器を用いて50℃~100℃にて加熱し、水分を除去、乾燥させ、さらに、減圧下、120℃にて数時間乾燥させる方法が挙げられる。なお、この場合の減圧条件は、圧力が10Pa以下であることが好ましい。また、得られる電極の厚さは、電気化学デバイスの用途により適宜変更すればよい。

【0093】
〔3.電気化学デバイス〕
本発明に係る電気化学デバイスは、正極および負極を備え、正極と負極との間には、電解液を含んでいる。そして、上記正極および/または負極は上述した本発明に係る電気化学デバイス用電極である。また、電気化学デバイスには、正極と負極との短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレータが配置されている。正極および負極にはそれぞれ集電体が備えられており、両集電体は電源に接続されている。この電源の操作によって充放電の切り替えがなされる。なお、〔2.電気化学デバイス用電極およびその製造方法、並びに、電極用スラリーおよび電極用の合材〕にて既に説明した事項については、以下では説明を省略する。

【0094】
本発明に係るバインダは、電極を構成する材料に高い親和性を有するため、リチウムイオン電池に限らず、各種の電気化学デバイスに適用が可能である。

【0095】
本発明に係る電気化学デバイスの例としては、電気化学キャパシタ、リチウムイオン二次電池等が挙げられ、さらには非リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、色素増感型太陽電池等も包含される。当該電気化学デバイスは、高性能であり、且つ安全性の高い蓄電デバイスとして利用できる。よって、本発明に係る電気化学デバイスは、携帯電話機器、ノートパソコン、携帯情報端末(PDA)、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型電子機器;電動自転車、電動自動車、電車等の移動用機器(車両);火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電等の発電用機器;自然エネルギー蓄電システム等に搭載されてもよい。

【0096】
中でも、上記電気化学デバイスは、リチウムイオン二次電池であることがより好ましい。例えば、NMCのような層状構造を有する金属酸化物は、高容量および優れた熱安定性を持ち、リチウムイオン二次電池の電極材料として有力であるが、上述したように水との反応性が高いという問題がある。本発明に係る電気化学デバイス用電極は、本発明に係るバインダを含有するため、上記金属酸化物の水による劣化を抑制することができる。

【0097】
よって、本発明は、リチウムイオン二次電池の電極材料として有用な、層状構造を有する金属酸化物の優れた特性を十分に活用することができるという利点を有する。

【0098】
<電解液>
電解液は公知のものを用いればよく特に限定されるものではないが、非水系電解液を用いることができる。非水系電解液は、従来公知の電気化学デバイスに用いられる非水系電解液であればよく、イオン液体を用いることもできる。

【0099】
非水系電解液は、電気化学デバイスの非水系電解液に用いられる、有機系電解液であってもよい。このような有機系電解液はイオンキャリアとなる電解質塩を含み、それを溶解させる有機溶媒から構成される。つまり、有機系電解液は、電解質塩および有機溶媒を含有する。

【0100】
上記電解質塩として、上記イオン液体、四級オニウム塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等から選択された1種または2種以上の物質を用いることができる。

【0101】
代表的な四級オニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩やテトラアルキルホスホニウム塩等を挙げることができる。

【0102】
代表的なアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等を挙げることができる。

【0103】
上記電解質塩のアニオンとして、例えば、BF、NO、PF、SbF、CHCHOSO、CHCO、または;CFCO、CFSO、(CFSO[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド]、(CFSO等のフルオロアルキル基含有アニオンが挙げられる。

【0104】
特にリチウムイオン二次電池における電解質塩としては、例えば、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiPF4、LiBF4、LiB(C654、LiCl、LiBr、CH3SO3Li、CF3SO3Li等のリチウム塩を挙げることができる。

【0105】
また、上記有機溶媒として、例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、硫黄化合物、塩素化炭化水素類、エステル類、カーボネート類、ニトロ化合物、リン酸エステル系化合物、スルホラン系化合物等を用いることができる。

【0106】
代表的な有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アニソール、モノグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、4-メチル-2-ペンタノン、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、1,2-ジクロロエタン、γ-ブチロラクトン、ジメトキシエタン、メチルフォルメイト、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルチオホルムアミド、スルホラン、3-メチル-スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルおよびこれらの混合溶媒等を挙げることができる。

【0107】
これらの中でも、低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れる点で、プロピレンカーボネートが好ましい。上記非水系電解液は、単独又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。

【0108】
非水系電解液は、電気化学デバイスの非水系電解液に用いられる、イオン液体系電解液であってもよい。ここでいう「イオン液体」とは、室温でも液体で存在する塩を意味する。このイオン液体のカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウム、又はテトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。

【0109】
上記イミダゾリウムとしては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3-エチルイミダゾリウム、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウム、1,3-ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。

【0110】
また、上記ピリジニウムとしては、例えば、1-プロピルピリジニウム、1-ブチルピリジニウム、1-エチル-3-(ヒドロキシメチル)ピリジニウム、1-エチル-3-メチルピリジニウム等が挙げられる。

【0111】
上記ピロリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム、N-メチル-N-ブチルピロリジニウム、N-メチル-N-メトキシメチルピロリジニウム等が挙げられる。

【0112】
また、上記ピペリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム等が挙げられる。

【0113】
上記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム、メチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。

【0114】
上記ピラゾリウムとしては、例えば、1-エチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-プロピル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-ブチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。

【0115】
また、上記カチオンと組み合わされてイオン液体を構成するアニオンとしては、例えば、BF、NO、PF、SbF、CHCHOSO、CHCO、または;CFCO、CFSO、(CFSO[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド]、(FSO[ビス(フルオロスルフォニル)イミド]、(CFSO等のフルオロアルキル基含有アニオンが挙げられる。

【0116】
上記イオン液体としては、これら各種アニオンの少なくとも1種とこれら各種カチオンの少なくとも1種とを組み合わせたものを採用することができる。電気化学デバイスがリチウムイオン二次電池である場合は、(FSO等のアニオンを含むイオン液体が好ましい。これらのイオン液体は、(1)蓄電デバイスにおける電気的特性がより優れたものとなりつつ該電気的特性の低下が抑制されるという点および(2)入手し易く電解液の有する電気的特性の低下が蓄電デバイスにおいてより抑制されるという点から好ましい。

【0117】
また、大気中での取り扱いが容易という点でも、リチウムイオン二次電池においては、(FSO等の含フッ素系アニオンを含むイオン液体が好ましい。

【0118】
また、上記イオン液体としては、比較的低粘度であり、イオン伝導性に優れ、電気化学的な安定性に優れるという点で、イミダゾリウムカチオン又はピロリジニウムカチオンを含むイオン液体が好ましい。

【0119】
具体的には、上記イオン液体としては、アニオンとしてのビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオンと、カチオンとしてのピロリジニウムなどの四級アンモニウムとの塩が好ましく、より具体的には、N,N-ジアルキルピロリジニウム ビス(フルオロスルフォニル)イミドが好ましい。また、テトラアルキルアンモニウム ビス(フルオロスルフォニル)イミドや1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルフォニル)イミドも好ましい非水系電解液として挙げられる。

【0120】
また、リチウムイオン二次電池においては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート等の公知のポリマー電解質を用いてもよい。

【0121】
<セパレータ>
本発明の電気化学デバイスでは、正極と負極との短絡を防止するため、これらの間にセパレータが備えられる。セパレータは公知のものを使用でき、特にされないが、具体的にはポリエチレンまたはポリプロピレン製フィルムの微多孔膜;多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム;ポリエステル繊維、アラミド繊維またはガラス繊維等からなる不織布が挙げられ、より好ましくは、それらの表面に、シリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたセパレータが挙げられる。

【0122】
上記セパレータは空隙率が70%以上のものが好ましく、80%以上のものがより好ましく、95%以下であるものがさらに好ましい。また、ガーレー試験法によって得られる透気度が200秒/100cc以下であることが好ましい。

【0123】
ここで、空隙率はセパレータの見掛け密度と構成材料の固形分の真密度から、次式により算出した値である。
空隙率(%)=100-(セパレータの見掛け密度/材料固形分の真密度)×100
また、ガーレー透気度とは、JIS P 8117に規定されたガーレー試験機法による透気抵抗度である。

【0124】
上記セパレータとしては、平均繊維径が1μm以下のガラス繊維を80重量%以上と、フィブリル化有機繊維を含む有機成分を20重量%未満とを含有し、ガラス繊維同士がフィブリル化有機繊維の絡み付きによって結合され、空隙率85%以上とされた湿式抄造シートが特に好適に用いられる。

【0125】
フィブリル化有機繊維は、繊維を離解する装置、例えばダブルディスクリファイナーを用いることによって、叩解等による剪断力の作用を受け、単繊維が繊維軸方向に非常に細かく解裂して形成された多数のフィブリルを有する繊維であって、少なくとも50重量%以上が繊維径1μm以下にフィブリル化されているものであることが好ましく、100重量%が繊維径1μm以下にフィブリル化されているものであればより好ましい。

【0126】
フィブリル化有機繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維等を使用できる。

【0127】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0128】
本発明について、製造例、実施例および比較例、並びに図1~図9に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0129】
[製造例1~4]
以下に示す材料を用い、以下に示す方法にて、電気化学デバイス用正極を作製した。
【実施例】
【0130】
<材料>
活物質:LiNi1/3Mn1/3Co1/3(NMC)
導電助剤:炭素系導電助剤(当該炭素系導電助剤としては、カーボンブラックを用いた。)
バインダ:Alg-H
集電体:アルミ箔
<製造方法>
Alg-H、NMCおよび炭素系導電助剤を乳鉢に入れ、混合した。これに固形分濃度が約60重量%となるように水を添加して混練し、塗工液(スラリー)を調製した。得られた塗工液を集電体(アルミ箔)にドクターブレード法を用いて塗布した。その後、室温で放置後、50℃のホットプレート上にて加熱し、水分を除去し、乾燥させた。さらにその後、10Pa以下の減圧条件下、120℃にて数時間、塗工液を塗布した集電体を乾燥させることによって、合材電極シート(電気化学デバイス用電極)が得られた。
【実施例】
【0131】
上記の方法において、NMC、炭素系導電助剤、Alg-Hの重量比(乾燥重量の比)をNMC:炭素系導電助剤:Alg-H=91:8:1(製造例1)、90:8:2(製造例2)、89:8:3(製造例3)、88:8:4(製造例4)として電極1~電極4を作成した。
【実施例】
【0132】
[製造例5]
まず、5重量%のアルギン酸ナトリウム水溶液を調製した。また、活物質および炭素系導電助剤(カーボンブラック)を乳鉢に入れ、約10分間混合した。次に、NMCと炭素系導電助剤との混合物に、アルギン酸マグネシウム水溶液を加えた。ここで、活物質(NMC)、炭素系導電助剤およびアルギン酸ナトリウム水溶液を乾燥後の重量比(電極における含有比)がNMC:炭素系導電助剤:Alg-Na=90:8:2となるように混合し、スラリーの塗工液を作製した。ドクターブレードにより塗工液を集電体に塗布し、ホットプレート上で塗工液を80℃で10分程度加熱した。その後、集電体に塗布された塗工液を、100℃の温度雰囲気下、10-1Paの減圧下で12時間乾燥させ、電極5を得た。
【実施例】
【0133】
[製造例6]
バインダとして、アルギン酸ナトリウムの代わりにアルギン酸マグネシウム(Alg-Mg)を用いた以外は、製造例5と同様の方法にて、電極6を得た。その際の活物質(NMC)、炭素系導電助剤およびアルギン酸マグネシウム水溶液を乾燥後の重量比(電極における含有比)がNMC:炭素系導電助剤:Alg-Mg=90:8:2となるように混合した。
【実施例】
【0134】
[製造例7]
バインダとして、アルギン酸ナトリウムの代わりにCMCとSBRの混合物を用いた以外は、製造例5と同様の方法にて、正極6を得た。その際の活物質(NMC)、炭素系導電助剤および(CMC+SBR)の水溶液を乾燥後の重量比(電極における含有比)がNMC:炭素系導電助剤:(CMC+SBR)=90:8:2となるように混合した。また、CMCとSBRの重量比は、CMC:SBR=1:1とした。
【実施例】
【0135】
[製造例8,9]
バインダとしてAlg-Hの代わりにPVdFを用いた以外は、製造例1~4と同様の方法にて、電極を得た。
【実施例】
【0136】
上記の方法において、NMC、炭素系導電助剤、PVdFの重量比率をNMC:炭素系導電助剤:PVdF=88:10:2(製造例8)、85:8:7(製造例9)として電極8、電極9を作成した。
【実施例】
【0137】
[物性試験]
以下に示すスラリー(分散液)および上記製造例で作製した電極を用いて、その物性を測定した。
【実施例】
【0138】
<電極スラリーのpHの評価>
電極活物質としてNMC、バインダとしてAlg-H、アルギン酸ナトリウム(Alg-Na)、アルギン酸マグネシウム(Alg-Mg)、およびCMCを用いて以下に示す5種のスラリーを調製し、それぞれのpHを測定した。
【実施例】
【0139】
スラリー1:0.1gのNMCに5.0gの水を添加して調製したスラリー;
スラリー2:0.1gのNMCに0.01gのAlg-Hを加えた後に、5.0gの水を添加して調製したスラリー;
スラリー3:0.1gのNMCに0.01gのAlg-Naを加えた後に、5.0gの水を添加して調製したスラリー;
スラリー4:0.1gのNMCに0.01gのAlg-Mgを加えた後に、5.0gの水を添加して調製したスラリー;
スラリー5:0.1gのNMCに0.01gのCMCを加えた後に、5.0gの水を添加して調製したスラリー。
【実施例】
【0140】
スラリー1~5のpHを測定した結果を以下の表1に示す。
【実施例】
【0141】
【表1】
JP2016052715A1_000003t.gif
【実施例】
【0142】
表1に示すように、NMCのみを含有するスラリー1は強いアルカリ性を示した。これは、層状金属酸化物であるNMCが水と反応したためである。このとき、NMCは、水にその金属成分が溶解することによって劣化する。
【実施例】
【0143】
また、中性バインダであるAlg-Na、Alg-MgおよびCMCを含んでいるスラリー3~5も、スラリー1と同程度の強いアルカリ性を示した。このことから、スラリー1、3~5では、バインダの存在の有無に関わらず、NMCが水と反応して劣化していることが分かる。
【実施例】
【0144】
一方、酸性バインダであるAlg-Hを用いたスラリー2では、スラリーのアルカリ性への変化が抑えられ、pHは酸性を示した。すなわち、Alg-Hを用いることによって、NMCと水との反応によるNMCの劣化を防ぐことができていることが分かる。
【実施例】
【0145】
<剥離試験>
製造例1~9にて製造した電極1~9を対象として、JIS-Z0237に準拠して電極の剥離試験を実施した。
【実施例】
【0146】
剥離試験の結果を以下の表2に示す。
【実施例】
【0147】
【表2】
JP2016052715A1_000004t.gif
【実施例】
【0148】
バインダ使用量が2重量%である電極2、5、6および8の測定結果を比較することにより、バインダとしてAlg-Hを使用した電極が、他のバインダを用いた電極よりも極めて高い強度を示すことが分かる。また、Alg-H以外のバインダを使用し、かつ、バインダの含有量が、2重量%を超える値である電極7および9と比較しても、バインダとしてAlg-Hを使用した電極が、他のバインダを用いた電極よりも剥離強度において優れていることが分かる。つまり、Alg-Hはごく少量の使用で、従来のバインダと比較して、合材電極の強度を向上させることができることが分かる。
【実施例】
【0149】
Alg-Hをバインダとして使用した電極1~4の測定結果を比較すると、Alg-Hの含有量は、合材において2~3重量%であることが最適であることが分かる。一方、電極1も、電極8よりやや劣るものの、電極8のバインダ使用量の1/2で電極8に匹敵する強度を示している。また、電極4も電極7および電極9よりも大幅に少ないバインダ使用量で、電極7および9と同等またはそれ以上の強度を確保できていることが分かる。
【実施例】
【0150】
表2に示す結果から、本発明に係るバインダと、導電助剤と、活物質との乾燥重量の合計を100重量%としたときに、バインダの含有率が、乾燥重量として1重量%以上10重量%以下の範囲であれば、従来のバインダと比較して少量で、従来のバインダと同等またはそれ以上の強度を確保できることが期待できる。
【実施例】
【0151】
<電極の構造変化の評価>
製造例2にて作製した電極2と、製造例9にて作製した電極9を用いて、電極の構造変化の評価を行った。それぞれの電極を2cm×2cmに切り出し、電極の中央と4隅の各点における電極の厚みを、マイクロメーターを用いて測定した。続いて、それぞれの電極を電解液(LiPF/EC+DMC、EC:エチレンカーボネート、DMC:ジメチルカルボネート)中に浸漬し、60℃にて1週間放置した。その後、再び、それぞれの電極について中央と4隅の各点における電極の厚みを、マイクロメーターを用いて測定した。図1は、電極の厚みを測定する位置を示す模式図である。上述の測定対象とした電極の中央と4隅の5点は、図1に示される点1~点5に対応する。
【実施例】
【0152】
その結果、Alg-Hをバインダとした電極2においては、電極の厚みは、変化しなかった(厚み増加率が0%であった)が、PVdFをバインダとした電極9においては、厚み増加率が25%であった。
【実施例】
【0153】
この結果から、Alg-Hを使用することで、従来の電極において見られる電解液と接することによる電極の膨潤が抑えられ、電極が構造的に安定となることが分かる。
【実施例】
【0154】
[実施例1]
製造例2にて作製した電極2を用いて、評価用二極式ハーフセルを作製した。その構成を以下に示す。なお、電極2は直径12mmの大きさに打ち抜いて使用した。
【実施例】
【0155】
(構成)
正極:電極2(NMC:炭素系導電助剤:Alg-H=90:8:2)
電解液:1.0mol dm-3LiPF/EC+DMC
負極:Li箔
セパレータ:ポリエチレン系
上で示した正極および負極を両側に配置し、両電極間にセパレータを配置し、電解液を注入して二電極式ハーフセルを作製した。
【実施例】
【0156】
[実施例2]
負極を黒鉛電極とした以外は、実施例1にて示した構成および方法と同一の構成および方法を用いてプロトタイプセルを作製した。
【実施例】
【0157】
[比較例1]
正極として電極2の代わりに、電極7(NMC:炭素系導電助剤:(CMC+SBR)=90:8:2)を用いた以外は、実施例1にて示した構成および方法と同一の構成および方法を用いて評価用二極式ハーフセルを作製した。
【実施例】
【0158】
[比較例2]
正極として電極2の代わりに、電極8(NMC:炭素系導電助剤:PVdF=88:10:2)を用いた以外は、実施例1にて示した構成および方法と同一の構成および方法を用いて評価用二極式ハーフセルを作製した。
【実施例】
【0159】
[比較例3]
正極として電極2の代わりに、電極8(NMC:炭素系導電助剤:PVdF=88:10:2)を用いた以外は、実施例2にて示した構成および方法と同一の構成および方法を用いてプロトタイプセルを作製した。
【実施例】
【0160】
<充放電特性評価1>
以下の測定条件にて、実施例1にて得られた評価用二極式ハーフセルの定電流充放電測定を行い、放電容量(Discharge capacity / mAh g-1)および充放電効率(Coulobmic efficiency / %)を測定することにより、充放電特性を測定した。
【実施例】
【0161】
(測定条件)
充電:定電流-定電圧(CC-CVモード。なお、CVモードでは電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で終了。)
放電:定電流(CCモード)
1時間率(1Cレート)=150mA/g
電圧範囲:3.0~4.2VvsLi/Li
上記条件下にて、充電および放電をともに0.1Cレートにて1サイクル行い、その後、充電および放電をともに1.0Cレートにて50サイクル行った。
【実施例】
【0162】
測定結果を図2に示す。図2は、本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いた評価用二極式ハーフセルについて、定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【実施例】
【0163】
図2に示した通り、50サイクルの安定な充放電が確認でき、また、充放電効率も98%と高い値を示した。つまり、Alg-Hがバインダとして電気化学的に安定で、NMCの構造劣化を抑制することが分かった。
【実施例】
【0164】
<充放電特性評価2>
上で示した充放電特性評価1と同じ測定条件にて、実施例1にて作製した評価用二極式ハーフセル、比較例1にて作製した評価用二極式ハーフセル、および比較例2にて作製した評価用二極式ハーフセルを用いて、定電流充放電測定を行い、それらの放電容量(Discharge capacity / mAh g-1)を測定することにより、それぞれの充放電特性を比較した。
【実施例】
【0165】
測定結果を図3に示す。図3は、本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いた評価用二極式ハーフセルおよび従来の電極を用いた評価用二極式ハーフセルについて定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【実施例】
【0166】
図3に示す通り、従来のバインダ((CMC+SBR)、PVdF)を用いた電極では、電極作製時の活物質の水との反応による劣化の影響を受け、放電容量が極端に減少する場合(比較例1)や、活物質からの元素の溶出などによる放電容量の減少 (比較例2) などが見られたが、Alg-Hバインダを用いた場合(実施例1)は活物質が劣化しておらず、また、安定な充放電が可能であることが分かる。
【実施例】
【0167】
<出力特性評価1>
以下の条件下にて、実施例1にて得られた評価用二極式ハーフセル、および比較例2にて得られた評価用二極式ハーフセルを用いて、1.0~5.0Cにおけるそれらの放電容量(Discharge capacity / mAh g-1)を測定し、出力特性評価を行った。
【実施例】
【0168】
(測定条件)
充電:定電流-定電圧(CC-CVモード。なお、CVモードでは電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で終了。)
放電:定電流(CCモード)
1時間率(1Cレート)=150mA/g
電圧範囲:3.0~4.5VvsLi/Li
上記条件下にて、充電および放電をともに0.1Cレートにて1サイクル行い、その後、充電レートおよび放電レートを1.0C、2.0C、3.0C、4.0C、5.0Cに設定し、放電容量を測定した。なお、各レートにおいて、5サイクルの充放電を行った。
【実施例】
【0169】
測定結果を図4に示す。図4は、本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いた評価用二極式ハーフセルおよび従来の電極を用いた評価用二極式ハーフセルについて出力特性を測定した結果を示すグラフである。
【実施例】
【0170】
図4に示す通り、低い電流密度(1.0C)では両者(実施例1、比較例2)に差が見られないが、高い電流密度になるほど、両者が示す放電容量に明確な差が生じた。この結果から、バインダとしてAlg-Hを用いることで、NMCを用いる正極の出力向上が可能となることが示された。
【実施例】
【0171】
<充放電特性評価3>
以下の測定条件にて、実施例2にて作製したプロトタイプセルを用いて、定電流充放電測定を行い、放電容量(Discharge capacity / mAh g-1)および充放電効率(Coulobmic efficiency / %)を測定することにより、充放電特性を測定した。
【実施例】
【0172】
(測定条件)
充電:定電流-定電圧(CC-CVモード。なお、CVモードでは電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で終了。)
放電:定電流(CCモード)
1時間率(1Cレート)=150mA/g
電圧範囲:3.0~4.2VvsLi/Li
上記条件下にて、充電および放電をともに0.1Cレートにて1サイクル行い、その後、充電および放電をともに1.0Cレートにて50サイクル行った。
【実施例】
【0173】
測定結果を図5に示す。図5は、本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルについて定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【実施例】
【0174】
図5に示した通り、50サイクルの安定な充放電が確認でき、Alg-Hのバインダを用いた電極が、プロトタイプセルにおいても、安定な充放電を可能とすることが分かる。
【実施例】
【0175】
<充放電特性評価4>
1400サイクルの充放電を行った以外は、上述の<充放電特性評価3>の場合と、同一の構成を有するプロトタイプセルを用いて、同一の条件にて、定電流充放電測定を行い、放電容量(Discharge capacity / mAh g-1)および充放電効率(Coulobmic efficiency / %)を測定することにより、充放電特性を測定した。
【実施例】
【0176】
測定結果を図6に示す。図6は、本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルについて長期間にわたって定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【実施例】
【0177】
図6に示した通り、Alg-Hのバインダを用いた電極が、1400サイクルの長期にわたる充放電を行っても安定した充放電を可能とすることが分かる。
【実施例】
【0178】
<充放電特性評価5>
上限作動電圧を4.5VvsLi/Liにする(すなわち、電圧範囲を3.0~4.5VvsLi/Liとする)こと以外は、上述の<充放電特性評価3>の場合と、同一の構成を有するプロトタイプセルを用いて、同一の条件にて、定電流充放電測定を行い、放電容量(Discharge capacity / mAh g-1)および充放電効率(Coulobmic efficiency / %)を測定することにより、充放電特性を測定した。
【実施例】
【0179】
測定結果を図7に示す。図7は、本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルについて高電圧下にて定電流充放電測定を行った結果を示すグラフである。
【実施例】
【0180】
図7に示した通り、Alg-Hのバインダを用いた電極が、4.5Vの比較的高い電圧下においても、安定した充放電を可能とすることが分かる。
【実施例】
【0181】
<出力特性評価2>
以下の条件下にて、実施例2にて得られたプロトタイプセル、および比較例3にて得られたプロトタイプセルを用いて、1.0~6.0Cにおけるそれらの放電容量(Discharge capacity / mAh g-1)を測定し、出力特性評価を行った。
【実施例】
【0182】
(測定条件)
充電:定電流-定電圧(CC-CVモード。なお、CVモードでは電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で終了。)
放電:定電流(CCモード)
1時間率(1Cレート)=150mA/g
電圧範囲:3.0~4.5VvsLi/Li
上記条件下にて、充電および放電をともに0.1Cレートにて1サイクル行い、その後、充電レートおよび放電レートを1.0C、2.0C、3.0C、4.0C、5.0C、6.0Cに設定し、放電容量を測定した。
【実施例】
【0183】
測定結果を図8に示す。図8は、本発明に係る電気化学デバイス用電極を用いたプロトタイプセルおよび従来の電極を用いたプロトタイプセルについて出力特性を測定した結果を示すグラフである。
【実施例】
【0184】
図8に示す通り、高い電流密度(5.0C、6.0C)の場合には、両者が示す放電容量に明確な差が生じ、実施例2にて作製されたプロトタイプセルの放電容量は、比較例2にて作製されたプロトタイプセルの放電容量を大幅に上回っており、ハーフセルでの評価(<出力特性評価1>の記載を参照)と同様、Alg-Hをバインダとして用いることで、出力特性が向上することがわかる。また、上記ハーフセルでの評価は上限作動電圧が4.5Vであるため、高出力時における安定作動も併せて確認できた。
【実施例】
【0185】
[実施例3]
[評価用二極式ハーフセルの作製]
以下に示す材料を用い、以下に示す方法にて、電気化学デバイス用正極を作製した。
【実施例】
【0186】
<材料>
活物質:LiNi0.5Mn1.5(LNM)
導電助剤:カーボンブラック
バインダ:3重量%の酢酸水溶液中に、4重量%の濃度となるようにキトサンを添加したものをバインダとして使用した
集電体:アルミ箔
<製造方法>
LMN、カーボンブラック、およびバインダを、重量比がLNM:上記カーボンブラック:上記バインダ=89:8:3となるように乳鉢に入れ、混合した。これに固形分濃度が約60重量%となるように水を添加して混練し、塗工液(スラリー)を調製した。得られた塗工液を集電体(アルミ箔)にドクターブレード法を用いて塗布した。その後、室温で放置後、50℃のホットプレート上にて加熱し、水分を除去し、乾燥させた。さらにその後、10Pa以下の減圧条件下、120℃にて数時間、塗工液を塗布した集電体を乾燥させることによって、合材電極シート(電気化学デバイス用電極)が得られた。
【実施例】
【0187】
得られた合材電極シート(電気化学デバイス用電極)を直径12mmの大きさに打ち抜いたものを正極とし、電解液として1.0mol dm-3LiPF/EC+DMC、負極としてLi箔、セパレータとしてポリエチレン系セパレータを用いて、評価用二極式ハーフセルを作製した。具体的には、上で示した正極および負極を両側に配置し、両電極間にセパレータを配置し、電解液を注入して二電極式ハーフセルを作製した。
【実施例】
【0188】
[充放電試験]
以下の測定条件にて、実施例3にて作製された二電極式ハーフセルの充放電試験を行い、電圧と容量(Capacity / mAh g-1)を測定した。
【実施例】
【0189】
(測定条件)
充電:定電流-定電圧(CC-CVモード。なお、CVモードでは電流値がCCモードでの設定電流値の10分の1になった時点で終了。)
放電:定電流(CCモード)
1時間率(1Cレート)=150mA/g
電圧範囲:3.0~4.85VvsLi/Li
上記条件下にて、充電および放電をともに0.1Cレートにて1サイクル行い、その後、充電および放電をともに1.0Cレートにて50サイクル行った。
【実施例】
【0190】
上記充放電試験の結果を図9に示す。図9に示す通り、実施例3にて作製された二電極式ハーフセルは、50サイクル後においても、安定な充放電が可能であり、充放電によって電極における活物質が劣化しないことがわかった。
【実施例】
【0191】
上記測定結果から、バインダの材料として、自身にプロトン(H)を含まないキトサンを用いた場合でも、酸(酢酸)と共存させ、系内(バインダ内部)にプロトンを存在させることによって、電極活物質の充放電による劣化を抑えることができることがわかった。言い換えると、系内(内部)にプロトンを含むバインダを用いることによって、電極活物質の充放電による劣化を抑えることができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明は、電気化学デバイスの材料となるバインダに関するものであり、コンデンサ業界、自動車業界、電池業界、家電業界等にて利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8