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明細書 :抗インフルエンザウイルス剤、及び抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年6月29日(2017.6.29)
発明の名称または考案の名称 抗インフルエンザウイルス剤、及び抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P  31/16        (2006.01)
A61K  31/444       (2006.01)
C12Q   1/26        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 45/00
A61P 31/16
A61K 31/444
C12Q 1/26 ZNA
C12Q 1/68 A
C12N 15/00 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 40
出願番号 特願2016-550304 (P2016-550304)
国際出願番号 PCT/JP2015/076674
国際公開番号 WO2016/047592
国際出願日 平成27年9月18日(2015.9.18)
国際公開日 平成28年3月31日(2016.3.31)
優先権出願番号 2014192752
優先日 平成26年9月22日(2014.9.22)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】河岡 義裕
【氏名】渡邉 登喜子
【氏名】川上 英良
【氏名】渡邉 真治
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4C084
4C086
Fターム 4B063QA01
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4B063QA18
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4C084AA02
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4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB331
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4C086BC27
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
要約 本発明は、ヒトをはじめとする宿主細胞の生体分子を標的とした抗インフルエンザウイルス剤、及び当該抗インフルエンザウイルス剤の候補分子をスクリーニングする方法を提供する。すなわち、本発明は、宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスのvRNA又はNPタンパク質のインフルエンザウイルス様粒子への取込みに対する抑制作用を有するタンパク質をコードする遺伝子の発現又は機能を抑制させる作用を有し、前記遺伝子が、JAK1遺伝子等からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤である。
特許請求の範囲 【請求項1】
宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスのvRNA又はNPタンパク質のインフルエンザウイルス様粒子への取込みに関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制させる作用、又は前記タンパク質の機能を抑制させる作用を有し、
前記遺伝子が、JAK1遺伝子、CHERP遺伝子、DDX21遺伝子、DNAJC11遺伝子、EEF1A2遺伝子、HNRNPK遺伝子、ITM2B遺伝子、MRCL3遺伝子、MYH10遺伝子、NDUFS8遺伝子、PSMD13遺伝子、RPL26遺伝子、SDF2L1遺伝子、SDF4遺伝子、SFRS2B遺伝子、SNRPC遺伝子、SQSTM1遺伝子、TAF15遺伝子、TOMM40遺伝子、TRM2B遺伝子、USP9X遺伝子、BASP1遺伝子、THOC2遺伝子、PPP6C遺伝子、TESC遺伝子、及びPCDHB12遺伝子からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項2】
前記遺伝子がJAK1遺伝子又はUSP9X遺伝子である、請求項1に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項3】
Ruxolitinib、Tofacitinib、Tofacitinib(CP-690550)Citrate、Tyrphostin B42(AG-490)、Baricitinib(LY3009104、INCB028050)、AT9283、Momelotinib、CEP33779、NVP-BSK805、ZM39923、Filgotinib、JANEX-1、NVP-BSK805、SB1317、及びWP1130からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項4】
宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスの複製又は転写に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制させる作用、又は前記タンパク質の機能を抑制させる作用を有し、
前記遺伝子が、CCDC56遺伝子、CLTC遺伝子、CYC1遺伝子、NIBP遺伝子、ZC3H15遺伝子、C14orf173遺伝子、ANP32B遺伝子、BAG3遺伝子、BRD8遺伝子、CCDC135遺伝子、DDX55遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、及びS100A4遺伝子からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項5】
宿主細胞内におけるインフルエンザウイルス様粒子の形成に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制させる作用、又は前記タンパク質の機能を抑制させる作用を有し、
前記遺伝子が、GBF1遺伝子、ASCC3L1遺伝子、BRD8遺伝子、C19orf43遺伝子、DDX55遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、NCLN遺伝子、C14orf173遺伝子、LRPPRC遺伝子、及びRCN1遺伝子からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項6】
前記遺伝子がGBF1遺伝子である、請求項5に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項7】
Golgicide Aである、請求項5に記載の抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項8】
抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物をスクリーニングする方法であって、
JAK1遺伝子、CHERP遺伝子、DDX21遺伝子、DNAJC11遺伝子、EEF1A2遺伝子、HNRNPK遺伝子、ITM2B遺伝子、MRCL3遺伝子、MYH10遺伝子、NDUFS8遺伝子、PSMD13遺伝子、RPL26遺伝子、SDF2L1遺伝子、SDF4遺伝子、SFRS2B遺伝子、SNRPC遺伝子、SQSTM1遺伝子、TAF15遺伝子、TOMM40遺伝子、TRM2B遺伝子、USP9X遺伝子、BASP1遺伝子、THOC2遺伝子、PPP6C遺伝子、TESC遺伝子、PCDHB12遺伝子、CCDC56遺伝子、CLTC遺伝子、CYC1遺伝子、NIBP遺伝子、ZC3H15遺伝子、C14orf173遺伝子、ANP32B遺伝子、BAG3遺伝子、BRD8遺伝子、CCDC135遺伝子、DDX55遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、S100A4遺伝子、GBF1遺伝子、ASCC3L1遺伝子、C19orf43遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、NCLN遺伝子、LRPPRC遺伝子、及びRCN1遺伝子からなる群より選択される1種以上の遺伝子の発現又は前記遺伝子がコードするタンパク質の機能に対する抑制又は阻害能がある化合物を、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物としてスクリーニングすることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
細胞に、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物か否かを評価する対象の化合物を導入する工程と、
前記化合物を導入した細胞中における前記遺伝子の発現量を測定する工程と、
前記遺伝子の発現量が、前記化合物が導入される前の細胞よりも有意に低減された場合に、当該化合物を抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物として選抜する工程と、
を有する、請求項8に記載の抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
前記遺伝子がコードするタンパク質が酵素であり、
前記遺伝子がコードするタンパク質の酵素活性を、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物か否かを評価する対象の化合物の存在下で測定する工程と、
前記化合物の存在下における前記タンパク質の酵素活性が、前記化合物の非存在下よりも低下した場合に、当該化合物を抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物として選抜する工程と、
を有する、請求項8に記載の抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトをはじめとする宿主細胞の生体分子を標的とした抗インフルエンザウイルス剤、及び当該抗インフルエンザウイルス剤の候補分子をスクリーニングする方法に関する。
本願は、2014年9月22日に、日本に出願された特願2014-192752号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、毎年流行病を引き起こし、ときには何百万人もの犠牲者を出すパンデミックを引き起こす。このため、より有効な抗インフルエンザウイルス剤の開発が求められている。抗インフルエンザウイルス剤の標的分子としては、ウイルスタンパク質よりも、ウイルスの感染や複製に寄与する宿主細胞の生体分子の方が好ましい。宿主細胞の生体分子の方が、ウイルスタンパクに比べて薬剤による選択圧による変異が生じ難いためである。
【0003】
近年、6個のゲノムワイドスクリーニングにより、インフルエンザウイルスのライフサイクルに何等かの役割を果たしていると考えられる合計1449個のヒト遺伝子(110個のハエ(Drosophila)遺伝子のヒトオルソログを含む。)が同定された(非特許文献1~6参照。)。各ゲノムワイドスクリーニングの結果は、それぞれ部分的にしか一致しないが、これは、実験条件が相違するためと推察される。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Brass,et al.,Cell,2009,vol.139,p.1243~1254.
【非特許文献2】Hao,et al.,Nature,2008,vol.454,p.890~893.
【非特許文献3】Karlas,et al.,Nature,2010,vol.463,p.818~822.
【非特許文献4】Konig,et al.,Nature,2010,vol.463,p.813~817.
【非特許文献5】Shapira,et al.,Cell,2009,vol.139,p.1255~1267.
【非特許文献6】Sui,et al.,Virology,2009,vol.387,p.473~481.
【非特許文献7】Neumann,et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1999,vol.96,p.9345~9350.
【非特許文献8】Tobita,et al.,Medical microbiology and immunology,1975,vol.162,p.9~14.
【非特許文献9】Ozawa et al., Journal of General Virology,2011,vol. 92,p.2879~2888.
【非特許文献10】Octaviani et al.,Journal of Virology,2010,vol.84,p.10918~10922.
【非特許文献11】Kawakami et al.,Journal of Virological Methods,2011,vol.173,p.1~6.
【非特許文献12】Wishart et al.,Nucleic Acids Research,2006,vol.34,p.D668~672.
【非特許文献13】Patterson et al.,Journal of General Virology,1979,vol.43,p.223~229.
【非特許文献14】Widjaja et al.,Journal of Virology,2010,vol.84,p.9625~9631.
【非特許文献15】Noda et al.,Nature,2006,vol.439,p.490~492.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
幾つかのゲノムワイドスクリーニングにより、インフルエンザウイルスの複製等にかかわる宿主細胞のタンパク質が特定されている。しかし、これらのタンパク質がインフルエンザ感染症にどのように影響するかについては未だ明らかにされておらず、新たな抗インフルエンザウイルス剤の候補分子となり得るのかどうかは不明である。
【0006】
本発明は、ヒトをはじめとする宿主細胞内の生体分子であって、インフルエンザウイルスのライフサイクルに関与するタンパク質を標的とした抗インフルエンザウイルス剤、及び新たな抗インフルエンザウイルス剤の候補分子のスクリーニング方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ヒト胚腎臓由来のHEK293細胞の細胞溶解液を用いた免疫沈降法により、インフルエンザウイルスタンパク質と相互作用を有する1292個のヒトタンパク質を特定し、次いで、RNA干渉を利用し、これらのヒトタンパク質の中から、発現量を抑制した場合に宿主細胞の増殖性を大きく損なうことなく、インフルエンザウイルスの増殖が顕著に抑制されるタンパク質を特定することにより、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤、及び抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法は、下記[1]~[10]である。
[1] 宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスのvRNA又はNPタンパク質のインフルエンザウイルス様粒子への取込みに関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制させる作用、又は前記タンパク質の機能を抑制させる作用を有し、
前記遺伝子が、JAK1遺伝子、CHERP遺伝子、DDX21遺伝子、DNAJC11遺伝子、EEF1A2遺伝子、HNRNPK遺伝子、ITM2B遺伝子、MRCL3遺伝子、MYH10遺伝子、NDUFS8遺伝子、PSMD13遺伝子、RPL26遺伝子、SDF2L1遺伝子、SDF4遺伝子、SFRS2B遺伝子、SNRPC遺伝子、SQSTM1遺伝子、TAF15遺伝子、TOMM40遺伝子、TRM2B遺伝子、USP9X遺伝子、BASP1遺伝子、THOC2遺伝子、PPP6C遺伝子、TESC遺伝子、及びPCDHB12遺伝子からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤。
[2] 前記遺伝子がJAK1遺伝子又はUSP9X遺伝子である、前記[1]の抗インフルエンザウイルス剤。
[3] Ruxolitinib、Tofacitinib、Tofacitinib(CP-690550)Citrate、Tyrphostin B42(AG-490)、Baricitinib(LY3009104、INCB028050)、AT9283、Momelotinib、CEP33779、NVP-BSK805、ZM39923、Filgotinib、JANEX-1、NVP-BSK805、SB1317、及びWP1130からなる群より選択される1種以上である、前記[1]の抗インフルエンザウイルス剤。
[4] 宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスの複製又は転写に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制させる作用、又は前記タンパク質の機能を抑制させる作用を有し、
前記遺伝子が、CCDC56遺伝子、CLTC遺伝子、CYC1遺伝子、NIBP遺伝子、ZC3H15遺伝子、C14orf173遺伝子、ANP32B遺伝子、BAG3遺伝子、BRD8遺伝子、CCDC135遺伝子、DDX55遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、及びS100A4遺伝子からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤。
[5] 宿主細胞内におけるインフルエンザウイルス様粒子の形成に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を抑制させる作用、又は前記タンパク質の機能を抑制させる作用を有し、
前記遺伝子が、GBF1遺伝子、ASCC3L1遺伝子、BRD8遺伝子、C19orf43遺伝子、DDX55遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、NCLN遺伝子、C14orf173遺伝子、LRPPRC遺伝子、及びRCN1遺伝子からなる群より選択される1種以上であることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤。
[6] 前記遺伝子がGBF1遺伝子である、前記[5]の抗インフルエンザウイルス剤。
[7] Golgicide Aである、前記[5]の抗インフルエンザウイルス剤。
[8] 抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物をスクリーニングする方法であって、
JAK1遺伝子、CHERP遺伝子、DDX21遺伝子、DNAJC11遺伝子、EEF1A2遺伝子、HNRNPK遺伝子、ITM2B遺伝子、MRCL3遺伝子、MYH10遺伝子、NDUFS8遺伝子、PSMD13遺伝子、RPL26遺伝子、SDF2L1遺伝子、SDF4遺伝子、SFRS2B遺伝子、SNRPC遺伝子、SQSTM1遺伝子、TAF15遺伝子、TOMM40遺伝子、TRM2B遺伝子、USP9X遺伝子、BASP1遺伝子、THOC2遺伝子、PPP6C遺伝子、TESC遺伝子、PCDHB12遺伝子、CCDC56遺伝子、CLTC遺伝子、CYC1遺伝子、NIBP遺伝子、ZC3H15遺伝子、C14orf173遺伝子、ANP32B遺伝子、BAG3遺伝子、BRD8遺伝子、CCDC135遺伝子、DDX55遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、S100A4遺伝子、GBF1遺伝子、ASCC3L1遺伝子、C19orf43遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、NCLN遺伝子、LRPPRC遺伝子、及びRCN1遺伝子からなる群より選択される1種以上の遺伝子の発現又は前記遺伝子がコードするタンパク質の機能に対する抑制又は阻害能がある化合物を、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物としてスクリーニングすることを特徴とする、抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法。
[9] 細胞に、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物か否かを評価する対象の化合物を導入する工程と、
前記化合物を導入した細胞中における前記遺伝子の発現量を測定する工程と、
前記遺伝子の発現量が、前記化合物が導入される前の細胞よりも有意に低減された場合に、当該化合物を抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物として選抜する工程と、
を有する、前記[8]の抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法。
[10] 前記遺伝子がコードするタンパク質が酵素であり、
前記遺伝子がコードするタンパク質の酵素活性を、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物か否かを評価する対象の化合物の存在下で測定する工程と、
前記化合物の存在下における前記タンパク質の酵素活性が、前記化合物の非存在下よりも低下した場合に、当該化合物を抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物として選抜する工程と、
を有する、前記[8]の抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤は、インフルエンザウイルスを構成する物質ではなく、宿主細胞のタンパク質を標的としているため、薬剤による選択圧による変異が生じ難いという利点がある。
また、本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法は、インフルエンザウイルスの感染や複製に関与する宿主細胞のタンパク質を標的とした抗インフルエンザウイルス剤の候補分子をスクリーニングできるため、新たな抗インフルエンザウイルス剤の設計及び製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例2において、Golgicide Aで処理した細胞のウイルス力価(log10(PFU/mL))と細胞生存率(%)の測定結果を示した図である。
【図2】実施例2において、Ruxolitinibで処理した細胞のウイルス力価(log10(PFU/mL))と細胞生存率(%)の測定結果を示した図である。
【図3】実施例3において、コントロールsiRNAを導入した細胞(上段)と、JAK1遺伝子のsiRNAを導入した細胞(下段)の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<抗インフルエンザウイルス剤>
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤は、インフルエンザウイルスタンパク質と相互作用する宿主細胞タンパク質であって、宿主細胞内において発現が抑制されると、宿主細胞の増殖性を過度に損なうことなく、インフルエンザウイルスの複製が抑制されるタンパク質をコードする遺伝子(以下、「抗Flu遺伝子」ということがある。)の発現を抑制させる作用、又は前記タンパク質の機能を抑制させる作用を有する。抗Flu遺伝子としては、具体的には、JAK1遺伝子、CHERP遺伝子、DDX21遺伝子、DNAJC11遺伝子、EEF1A2遺伝子、HNRNPK遺伝子、ITM2B遺伝子、MRCL3遺伝子、MYH10遺伝子、NDUFS8遺伝子、PSMD13遺伝子、RPL26遺伝子、SDF2L1遺伝子、SDF4遺伝子、SFRS2B遺伝子、SNRPC遺伝子、SQSTM1遺伝子、TAF15遺伝子、TOMM40遺伝子、TRM2B遺伝子、USP9X遺伝子、BASP1遺伝子、THOC2遺伝子、PPP6C遺伝子、TESC遺伝子、PCDHB12遺伝子、CCDC56遺伝子、CLTC遺伝子、CYC1遺伝子、NIBP遺伝子、ZC3H15遺伝子、C14orf173遺伝子、ANP32B遺伝子、BAG3遺伝子、BRD8遺伝子、CCDC135遺伝子、DDX55遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、S100A4遺伝子、ASCC3L1遺伝子、C19orf43遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、GBF1遺伝子、NCLN遺伝子、LRPPRC遺伝子、又はRCN1遺伝子が挙げられる。後記実施例に示すように、これらの抗Flu遺伝子がコードするタンパク質は、11種のインフルエンザウイルスタンパク質(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M1、M2、NS1、NS2、及びPB1-F2)と直接的又は間接的に結合するタンパク質であり、両者の相互作用がインフルエンザウイルスのライフサイクルに重要な役割を果たす。

【0012】
本発明に係る抗Flu遺伝子のうち、JAK1遺伝子、CHERP遺伝子、DDX21遺伝子、DNAJC11遺伝子、EEF1A2遺伝子、HNRNPK遺伝子、ITM2B遺伝子、MRCL3遺伝子、MYH10遺伝子、NDUFS8遺伝子、PSMD13遺伝子、RPL26遺伝子、SDF2L1遺伝子、SDF4遺伝子、SFRS2B遺伝子、SNRPC遺伝子、SQSTM1遺伝子、TAF15遺伝子、TOMM40遺伝子、TRM2B遺伝子、USP9X遺伝子、BASP1遺伝子、THOC2遺伝子、PPP6C遺伝子、TESC遺伝子、及びPCDHB12遺伝子は、宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスのvRNA又はNPタンパク質のインフルエンザウイルス様粒子への取込みに関与するタンパク質をコードする遺伝子である。このため、これらの遺伝子の発現を抑制させる作用、又はこれらの遺伝子がコードするタンパク質の機能を抑制させる作用を有する物質を宿主細胞に投与することにより、宿主細胞内においてvRNA又はNPタンパク質のインフルエンザウイルス様粒子への取込みが抑制される結果、抗インフルエンザウイルス効果(インフルエンザウィルスの複製阻害効果)が奏される。

【0013】
本発明に係る抗Flu遺伝子のうち、CCDC56遺伝子、CLTC遺伝子、CYC1遺伝子、NIBP遺伝子、ZC3H15遺伝子、C14orf173遺伝子、ANP32B遺伝子、BAG3遺伝子、BRD8遺伝子、CCDC135遺伝子、DDX55遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、及びS100A4遺伝子は、宿主細胞内におけるインフルエンザウイルスの複製又は転写に関与するタンパク質をコードする。このため、これらの遺伝子の発現を抑制させる作用、又はこれらの遺伝子がコードするタンパク質の機能を抑制させる作用を有する物質を宿主細胞に投与することにより、宿主細胞内においてインフルエンザウイルスの複製又は転写が抑制される結果、抗インフルエンザウイルス効果が奏される。

【0014】
本発明に係る抗Flu遺伝子のうち、ASCC3L1遺伝子、BRD8遺伝子、C19orf43遺伝子、DDX55遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、GBF1遺伝子、NCLN遺伝子、C14orf173遺伝子、LRPPRC遺伝子、及びRCN1遺伝子は、宿主細胞内におけるインフルエンザウイルス様粒子の形成に関与するタンパク質をコードする。このため、これらの遺伝子の発現を抑制させる作用、又はこれらの遺伝子がコードするタンパク質の機能を抑制させる作用を有する物質を宿主細胞に投与することにより、宿主細胞内においてインフルエンザウイルス様粒子の形成が抑制される結果、抗インフルエンザウイルス効果が奏される。

【0015】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤としては、本発明に係る抗Flu遺伝子の発現を抑制させる作用を有する物質を有効成分とするものが挙げられる。抗Flu遺伝子の発現を抑制させる作用を有する物質としては、例えば、抗Flu遺伝子のcDNAの部分領域(RNAi(RNA干渉)標的領域)のセンス鎖とアンチセンス鎖からなる二本鎖構造を有するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)又はmiRNA(micro RNA)が挙げられる。また、宿主細胞内において、siRNA等を生産させることができるRNAi誘導ベクターであってもよい。siRNA、shRNA、miRNA、及びRNAi誘導ベクターの作製は、標的とする抗Flu遺伝子のcDNAの塩基配列情報から、常法により設計し製造することができる。また、RNAi誘導ベクターは、市販の各種RNAiベクターの塩基配列に、RNAi標的領域の塩基配列を挿入することによって作製することもできる。

【0016】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤としては、本発明に係る抗Flu遺伝子がコードするタンパク質の機能(以下、単に「本発明に係る抗Flu遺伝子の機能」ということがある。)を抑制させる作用を有する物質を有効成分とするものが挙げられる。抗Flu遺伝子の機能を抑制させる作用を有する物質としては、本発明に係る抗Flu遺伝子がコードするタンパク質(以下、単に「本発明に係る抗Fluタンパク質」ということがある。)に対する抗体のように、本発明に係る抗Fluタンパク質と結合することにより、当該タンパク質の機能を抑制する物質が挙げられる。当該抗体としては、モノクローナル抗体でもよく、ポリクローナル抗体でもよい。また、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の人工的に合成された抗体であってもよい。これらの抗体は、常法により製造することができる。

【0017】
本発明に係る抗Fluタンパク質が酵素であった場合、抗Flu遺伝子の機能を抑制させる作用を有する物質としては、当該酵素に対する阻害剤であってもよい。

【0018】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤としては、1種類の抗Flu遺伝子の発現や機能を抑制する作用を有するものであってもよく、2種類以上の抗Flu遺伝子の発現や機能を抑制する作用を有するものであってもよい。

【0019】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤としては、JAK1遺伝子、GBF1遺伝子、及びUSP9X遺伝子からなる群より選択される1種以上の抗Flu遺伝子の発現や機能を抑制する作用を有するものが好ましく、JAK1遺伝子及びGBF1遺伝子からなる群より選択される1種以上の抗Flu遺伝子の発現や機能を抑制する作用を有するものがより好ましく、JAK1遺伝子の発現や機能を抑制する作用を有するものがさらに好ましい。

【0020】
JAK1遺伝子の機能を抑制する作用を有する物質としては、Ruxolitinib(CAS No.:941678-49-5)やTofacitinib(CAS No.:477600-75-2)等のJAK阻害剤が挙げられる。Ruxolitinibは骨髄線維症の治療薬として、Tofacitinibはリウマチ薬として、それぞれ承認されており、人体に対して比較的安全に使用可能な物質である。また、GBF1遺伝子の機能を抑制する作用を有する物質としては、Golgicide A(CAS No.:1005036-73-6)が挙げられる。Golgicide Aは、投与濃度を適切に設定することによって宿主細胞の増殖に影響を及ぼすことなくインフルエンザウイルスの増殖を抑制することができる。

【0021】
その他、Tofacitinib(CP-690550)Citrate(3-((3R,4R)-4-methyl-3-(methyl(7H-pyrrolo[2,3-d]pyrimidin-4-yl)amino)piperidin-1-yl)-3-oxopropanenitrile)、Tyrphostin B42(AG-490)((E)-N-benzyl-2-cyano-3-(3,4-dihydroxyphenyl)acrylamide)、Baricitinib(LY3009104、INCB028050)(2-[1-ethylsulfonyl-3-[4-(7H-pyrrolo[2,3-d]pyrimidin-4-yl)pyrazol-1-yl]azetidin-3-yl]acetonitrile)、AT9283(1-cyclopropyl-3-(3-(5-(morpholinomethyl)-1H-benzo[d]imidazol-2-yl)-1H-pyrazol-4-yl)urea)、Momelotinib(CYT387)(N-(cyanomethyl)-4-(2-(4-morpholinophenylamino)pyrimidin-4-yl)benzamide)、CEP33779([1,2,4]Triazolo[1,5-a]pyridin-2-amine, N-[3-(4-methyl-1-piperazinyl)phenyl]-8-[4-(methylsulfonyl)phenyl]-)、NVP-BSK805(8-(3,5-difluoro-4-(morpholinomethyl)phenyl)-2-(1-(piperidin-4-yl)-1H-pyrazol-4-yl)quinoxaline)、ZM39923(1-Propanone, 3-[(1-methylethyl)(phenylmethyl)amino]-1-(2-naphthalenyl)-, hydrochloride (1:1))、Filgotinib(GLPG0634)(N-[5-[4-[(1,1-Dioxido-4-thiomorpholinyl)methyl]phenyl][1,2,4]triazolo[1,5-a]pyridin-2-yl]cyclopropanecarboxamide)、JANEX-1(4-[(6,7-dimethoxy-4-quinazolinyl)amino]-phenol)、NVP-BSK805(4-[[2,6-difluoro-4-[3-(1-piperidin-4-ylpyrazol-4-yl)quinoxalin-5-yl]phenyl]methyl]morpholine;dihydrochloride)、SB1317(20-Oxa-5,7,14,27-tetraazatetracyclo[19.3.1.12,6.18,12]heptacosa-1(25),2,4,6(27),8,10,12(26),16,21,23-decaene, 14-methyl-)等のJAK阻害剤も、本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤として用いられる。また、USP9X遺伝子の機能を抑制する作用を有する物質としては、DUB阻害剤であるWP1130(Degrasyn)((2E)-3-(6-bromo-2-pyridinyl)-2-cyano-N-[1S-phenylbutyl]-2-propenamide)が挙げられる。

【0022】
本発明に係る抗Flu遺伝子の発現を抑制させる作用を有する物質を有効成分とする場合、本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤としては、抗Flu遺伝子の発現量を、当該抗インフルエンザウイルス剤の非存在下と比べて、50%以上低下させられるものであることが好ましく、75%以上低下させられるものであることがより好ましく、80%以上低下させられるものであることがさらに好ましい。同様に、抗Flu遺伝子の機能を抑制させる作用を有する物質を有効成分とする場合、本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤としては、抗Flu遺伝子の機能を、当該抗インフルエンザウイルス剤の非存在下と比べて、50%以上低下させられるものであることが好ましく、75%以上低下させられるものであることがより好ましく、80%以上低下させられるものであることがさらに好ましい。

【0023】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤は、動物に対するインフルエンザウイルスの感染予防や、インフルエンザウイルスに感染した動物に対する治療に用いることができる。インフルエンザウイルスへの感染予防又はインフルエンザに対する治療のために本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤が投与される動物としては、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、トラ等の哺乳類;ニワトリ、アヒル、ウズラ、ガチョウ、カモ、シチメンチョウ、セキセイインコ、オウム、オシドリ、ハクチョウ等の鳥類が挙げられる。本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤としては、ヒトに対するインフルエンザウイルスの感染予防や、インフルエンザウイルスに感染した動物に対する治療に用いられるものであることが好ましい。

【0024】
インフルエンザの治療は、インフルエンザウイルスに感染した動物又はインフルエンザウイルスへの感染を予防する必要のある動物に対して、本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤を有効量投与することにより行える。抗インフルエンザウイルス剤の有効量は、投与された動物に対し、投与されていない場合に比べて体内のインフルエンザウイルスの量を低減させられる量、又はインフルエンザウイルスに対する感染を防止できる量であればよく、当該抗インフルエンザウイルス剤により重篤な副作用が生じない量であることが好ましい。各抗インフルエンザウイルス剤の有効量は、抗インフルエンザウイルス剤の種類、投与対象の動物の種類、投与方法等を考慮して実験的に求めることができる。例えば、インフルエンザウイルスを感染させた実験動物に対して投与した場合に、投与していない実験動物と比べて当該実験動物の体内におけるインフルエンザウイルス量を、PFUで70%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは90%以下にできる量を、有効量と規定することもできる。

【0025】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤は、経口投与、静注、鼻腔又は口腔への直接投与、経皮投与等の各種投与形態に適した剤型に、常法により製剤化できる。当該剤型としては、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、チュアブル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、注射剤、含嗽剤、噴霧剤、貼付剤、軟膏剤等が挙げられる。

【0026】
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤は、抗Flu遺伝子の発現や機能を抑制する作用を有する物質に加えて、各種添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、賦形剤、結合剤、滑沢剤、湿潤剤、溶剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、矯味矯臭剤、着色剤等が挙げられる。これらの添加剤としては、薬学上許容される物質であって、医薬の製剤化に使用されているものの中から適宜選択して使用することができる。

【0027】
<抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法>
本発明に係る抗インフルエンザウイルス剤のスクリーニング方法(以下、「本発明に係るスクリーニング方法」ということがある。)は、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物をスクリーニングする方法であって、本発明に係る抗Flu遺伝子の発現又は機能に対する抑制又は阻害能がある候補化合物を、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物としてスクリーニングすることを特徴とする。本発明に係るスクリーニング方法においては、1種類の抗Flu遺伝子の発現又は機能に対する抑制又は阻害能がある物質をスクリーニングする方法であってもよく、2種類以上の抗Flu遺伝子の発現又は機能に対する抑制又は阻害能がある物質をスクリーニングする方法であってもよい。

【0028】
具体的には、抗Flu遺伝子の発現に対する抑制能又は阻害能がある物質のスクリーニングは、まず、細胞に、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物か否かを評価する対象の化合物を導入し、抗Flu遺伝子の発現が抑制されたか否かを調べる。抗Flu遺伝子の発現が有意に抑制された場合には、当該化合物を抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物として選抜する。すなわち、細胞に、抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物か否かを評価する対象の化合物を導入する工程と、当該化合物を導入した細胞中における抗Flu遺伝子の発現量を測定する工程と、当該抗Flu遺伝子の発現量が、当該化合物が導入される前の細胞における当該抗Flu遺伝子の発現量よりも有意に低減された場合に、当該化合物を抗インフルエンザウイルス剤の候補化合物として選抜する工程と、により行う。

【0029】
スクリーニングに使用する細胞は、インフルエンザウイルスの宿主となる生物種の細胞であることが好ましく、取扱いの利便性から、哺乳類や鳥類の培養細胞株であることがより好ましく、ヒトの培養細胞株であることがさらに好ましい。また、評価対象の化合物は、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、リン酸カルシウム法等により、細胞内へ導入することができる。評価対象の化合物が低分子化合物である場合には、当該化合物を培養液に添加することにより、当該化合物を細胞内へ導入することができる。

【0030】
抗Flu遺伝子の発現量の変化は、mRNAレベルで評価してもよく、タンパク質レベルで評価してもよい。例えば、RT-PCR法等の核酸増幅反応を利用したり、免疫組織化学法やウェスタンブロット法により、抗Flu遺伝子の発現量を定量的に比較することができる。具体的には、例えば、評価対象の化合物を導入した状態で1~2日間培養した細胞から抽出されたRNAから逆転写反応により合成されたcDNAを鋳型として抗Flu遺伝子のcDNAの全長又は一部分を増幅するPCRを行う。得られた増幅産物量が、当該化合物を導入する前の細胞から同様にして得られた増幅産物量よりも有意に減少している場合に、当該化合物は抗Flu遺伝子の発現に対する抑制能又は阻害能があると評価される。また、例えば、評価対象の化合物を導入した状態で1~2日間培養した細胞と当該化合物を導入する前の細胞に対して、細胞内の抗Fluタンパク質を蛍光標識した抗体を用いて染色し、細胞当たりの蛍光強度を比較する。当該化合物を導入した細胞の細胞当たりの蛍光強度が、当該化合物を導入していない細胞よりも有意に小さい場合には、当該化合物は抗Flu遺伝子の発現に対する抑制又は阻害能があると評価される。また、例えば、評価対象の化合物を導入した状態で1~2日間培養した細胞と当該化合物を導入する前の細胞の細胞抽出液(ライセート)を電気泳動して分離した後に膜に転写し、当該膜上の抗Fluタンパク質バンドを蛍光標識した抗体を用いて染色し、バンドの蛍光強度を比較する。当該化合物を導入した細胞に由来する抗Fluタンパク質バンドの蛍光強度が、当該化合物を導入していない細胞よりも有意に小さい場合には、当該化合物は抗Flu遺伝子の発現に対する抑制又は阻害能があると評価される。

【0031】
抗Fluタンパク質の機能が、特定の生体分子との相互作用である場合には、例えば、抗Fluタンパク質と当該特定の生体分子との結合アッセイを、評価対象の化合物の存在下と非存在下において行い、評価対象の化合物の存在下において非存在下よりも両者の結合性が低下した場合に、当該化合物は抗Flu遺伝子の機能に対する抑制又は阻害能があると評価される。また、抗Fluタンパク質が酵素である場合には、例えば、抗Fluタンパク質の酵素活性を評価対象の化合物の存在下と非存在下において測定し、評価対象の化合物の存在下において非存在下よりも抗Fluタンパク質の酵素活性が低下した場合に、当該化合物は抗Flu遺伝子の機能に対する抑制又は阻害能があると評価される。
【実施例】
【0032】
次に、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
<細胞の培養>
以下の実施例において、HEK293細胞及びA549細胞(ヒト肺上皮細胞由来)は、10%FCS(ウシ胎児血清)と抗生物質を含有させたDMEM培地(シグマアルドリッチ社製)で、5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で培養した。MDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞は、5%NCS(ウシ新生児血清)含有イーグル最小必須培地(Eagle's MEM)(GIBCO社製)で、5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で培養した。
【実施例】
【0034】
<インフルエンザウイルス>
以下の実施例において使用したインフルエンザウイルスは、特に記載のない限り、A型インフルエンザウイルス(A/WSN/33,H1N1サブタイプ;WSN)を用いた。当該ウイルスは、マウスに適応したヒト由来インフルエンザウイルスであり、リバースジェネティックスを用いた手法(非特許文献7参照。)により作製されたものであり、MDCK細胞中で増殖させた。また、ウイルスの力価は、MDCK細胞を用いたプラークアッセイにより測定した(非特許文献8参照。)。
【実施例】
【0035】
PB2-KO/Rlucウイルス(ホタルルシフェラーゼ遺伝子を有するPB2ノックアウトウイルス)は、複製能が欠落したウイルスであり、ポリメラーゼPB2タンパク質のコード領域に、レニラルシフェラーゼをコードするレポーター遺伝子を有する。PB2-KO/Rlucウイルスは、pPolIPB2(120)Rluc(120)(PB2セグメントに由来するN末端及びC末端の120塩基に挟まれたレニラルシフェラーゼ遺伝子をコードするプラスミド)と、7つのウイルスRNAセグメントをコードするプラスミドとから製造した。PB2-KO/Rlucウイルスの増殖と力価の測定は、PB2タンパク質を恒常的に発現しているMDCK細胞中にて行った(非特許文献9参照。)。
【実施例】
【0036】
<抗体>
以下の実施例において使用したマウス抗HA抗体(WS3-54)、マウス抗NA抗体(WS5-29)、及びマウス抗M1抗体(WS-27/52)は、国立感染症研究所の高下恵美主任研究官から提供されたものを用いた。マウス抗Aichi NP抗体(2S-347/3)及びウサギ抗WSNウイルス抗体(R309)は、発明者らが常法により作製したものを用いた。抗β-アクチン(AC-74)抗体は、シグマアルドリッチ社から購入したものを用いた。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
<インフルエンザウイルスタンパク質と相互作用する宿主タンパク質の同定>
本発明者らは、まず、免疫沈降法により、インフルエンザウイルスタンパク質と相互作用する宿主タンパク質を同定した。
具体的には、まず、11種のインフルエンザウイルスタンパク質(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M1、M2、NS1、NS2、及びPB1-F2)について、それぞれ、N末端又はC末端にFlagタグを融合させたFlag融合タンパク質をコードするプラスミドを、HEK293細胞にトランスフェクトとした。トランスフェクションは、TransIT 293 reagent(Mirus Bio Corp製)を用いて行った。トランスフェクションから24時間培養した細胞を、細胞溶解バッファー(50 mM Tris-HCl (pH 7.5),150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 0.5% Nonidet P-40, protease inhibitor mixture Complete Mini (Roche, Mannheim, Germany))に混合し、4℃、1時間インキュベートすることにより溶解させてライセートを得た。得られたライセートを遠心分離処理して回収した上清に、抗Flag抗体が結合したアフィニティゲル(anti-FLAG M2 Affinity Gel、シグマアルドリッチ社製)を混合して4℃、18時間インキュベートした。その後、アフィニティゲルを、細胞溶解バッファーで3回、次いでIP(免疫沈降)バッファー(50 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl, 1 mM EDTA)で2回洗浄した後、0.5mg/mLのFLAGペプチド(F1804,シグマアルドリッチ社製) を含有させたIPバッファーで4℃、2時間撹拌した。その後、遠心分離処理によりアフィニティゲルを除去し、上清を回収した。
回収された上清を、Ultrafree-MC filter(ミリポア社製)でフィルター濾過した後、含有されているタンパク質を、nanoLC-MS/MS(nanoflow liquid chromatography tandem mass spectrometry)分析により同定した。マススペクトリデータの解析には、Dina(ケーワイエーテクノロジーズ社製)を組み合わせたQ-STAR Elite(エービー・サイエックス社製)を用いた。免疫共沈降したHEK293細胞(宿主細胞)のタンパク質の同定は、得られたMS/MSシグナルを、RefSeq(National Center for Biotechnology Informationヒトタンパク質データベース)と比較して行った。当該比較は、マスコットアルゴリズム(version 2.2.04;Matrix Science社製)を用い、下記の条件で行った:variable modifications, oxidation (Met), N-acetylation; maximum missed cleavages, 2; peptide mass tolerance, 200 ppm; MS/MS tolerance, 0.5 Da.)。タンパク質の同定は、マスコットスコアが有意に閾値を超えるMS/MSシグナルが少なくとも1つあることを条件とした。
【実施例】
【0038】
この結果、388個の宿主タンパク質がPB2タンパク質と免疫共沈降し、322個の宿主タンパク質がPB1タンパク質と免疫共沈降し、304個の宿主タンパク質がPAタンパク質と免疫共沈降し、351個の宿主タンパク質がHAタンパク質と免疫共沈降し、574個の宿主タンパク質がNPタンパク質と免疫共沈降し、675個の宿主タンパク質がNAタンパク質と免疫共沈降し、659個の宿主タンパク質がM1タンパク質と免疫共沈降し、531個の宿主タンパク質がM2タンパク質と免疫共沈降し、113個の宿主タンパク質がNS1タンパク質と免疫共沈降し、42個の宿主タンパク質がNS2タンパク質と免疫共沈降し、81個の宿主タンパク質がPB1-F2タンパク質と免疫共沈降した。つまり、合計1292個の宿主タンパク質が、11種のインフルエンザウイルスタンパク質のいずれかと免疫共沈降した。
【実施例】
【0039】
<siRNA>
次いで、免疫沈降により同定された1292個の宿主タンパク質をコードする遺伝子について、RNA干渉を行い、これらのタンパク質が実際にインフルエンザウイルスの増殖に関与するか否かを調べた。使用するsiRNAは、各宿主遺伝子について、それぞれ、ゲノムワイド Human siRNA Library(FlexiTube siRNA;キアゲン社製)から2種類を選択して用いた。また、ネガティブコントロールとして、AllStars Negative Control siRNA(キアゲン社製)(コントロールsiRNA)を用いた。また、WSNウイルスのNP遺伝子のsiRNA(GGA UCU UAU UUC UUC GGA GUU)は、シグマアルドリッチ社から購入した。
具体的には、まず、RNAiMAX Reagent(Invitrogen社製)を用いて、HEK293細胞に、2種類のsiRNAを25nMずつ(最終濃度:50nM)、2回トランスフェクションした。
【実施例】
【0040】
<細胞の生残性>
siRNAの2回目のトランスフェクションから24時間経過後の細胞の生存性を、CellTiter-Glo assay system(プロメガ社製)を添付の指示書に従って用いて調べた。コントロールsiRNAを導入した細胞の生細胞数に対する、各siRNAを導入した細胞の生細胞数の割合を、細胞生存率(%)として算出した。
【実施例】
【0041】
<qRT-PCR>
siRNAのトランスフェクション前とトランスフェクションから48時間経過後の細胞について、qRT-PCR(quantitative reverse transcription-PCR)を行い、siRNAにより標的の宿主遺伝子の発現が抑制されたかを確認した。
具体的には、まず、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクションから48時間経過後の細胞を、前記細胞溶解バッファーに溶解させてライセートを調製した。調製されたライセートから、Maxwell 16 LEV simplyRNA Tissue Kit(プロメガ社製)を用いて、総RNAを抽出し、これを鋳型として、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡社製)又はSuperScript III Reverse Transcriptase(Invitrogen社製)を用いて逆転写反応を行った。合成されたcDNAを鋳型とし、各宿主遺伝子に特異的なプライマーセットとTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)を用いて、定量的PCRを行った。各宿主遺伝子のmRNA発現量レベルの比較は、β-アクチンを内在性標準物質とし、ΔΔCt法により算出した。コントロールsiRNAを導入した細胞におけるmRNA発現量に対する、各siRNAを導入した細胞におけるmRNA発現量の割合を、ノックダウン効率(%)として算出した。
【実施例】
【0042】
<ウイルスの増殖性>
2つの24ウェルディッシュに、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクション後の細胞に50pfu(plaque-forming unit)のインフルエンザウイルスを感染させた。ウイルス感染から48時間経過後、培養上清を回収し、MDCK細胞を用いたプラークアッセイにより、ウイルスの力価を調べた。各siRNAを導入した細胞におけるウイルス力価の常用対数値を、コントロールsiRNAを導入した細胞におけるウイルス力価の常用対数値で割った値を、ウイルス力価の変化量として算出した。
【実施例】
【0043】
この結果、323個の宿主遺伝子において、siRNAのトランスフェクションにより遺伝子発現レベルが低下した。この323個のうち、299個の宿主遺伝子では、常用対数値で2以上インフルエンザウイルスの力価が低下し(すなわち、ウイルス力価の変化量が-2以上)、24個の宿主遺伝子では、常用対数値で1以上インフルエンザウイルスの力価が向上した(すなわち、ウイルス力価の変化量が1以上)。中でも、以下の91個の宿主遺伝子は、宿主細胞の生存性が80%以上維持されているにもかかわらず、常用対数値で3以上インフルエンザウイルスの力価が低下しており、抗インフルエンザウイルス剤の標的として有用であることが示唆された:ANP32B遺伝子、AP2A2遺伝子、ASCC3L1遺伝子、ATP5O遺伝子、BAG3遺伝子、BASP1遺伝子、BRD8遺伝子、BUB3遺伝子、C14orf173遺伝子、C19orf43遺伝子、CAPRIN1遺伝子、CCDC135遺伝子、CCDC56遺伝子、CHERP遺伝子、CIRBP遺伝子、CLTC遺伝子、CNOT1遺伝子、CTNNB1遺伝子、CYC1遺伝子、DDX21遺伝子、DDX55遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、DNAJC11遺伝子、DPM3遺伝子、EEF1A2遺伝子、EEF2遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、GBF1遺伝子、GEMIN4遺伝子、HNRNPK遺伝子、IARS遺伝子、IGF2BP2遺伝子、ITGA3遺伝子、ITGB4BP遺伝子、ITM2B遺伝子、JAK1遺伝子、KIAA0664遺伝子、KRT14遺伝子、LRPPRC遺伝子、MRCL3遺伝子、MYH10遺伝子、NCAPD3遺伝子、NCLN遺伝子、NDUFA10遺伝子、NDUFS8遺伝子、NFIA遺伝子、NIBP遺伝子、NUP160遺伝子、NUP205遺伝子、PCDHB12遺伝子、PHB遺伝子、PPP6C遺伝子、PSMA4遺伝子、PSMA5遺伝子、PSMB2遺伝子、PSMC1遺伝子、PSMC4遺伝子、PSMC6遺伝子、PSMD11遺伝子、PSMD12遺伝子、PSMD13遺伝子、PSMD14遺伝子、PSMD2遺伝子、PSMD6遺伝子、RCN1遺伝子、RPL26遺伝子、S100A4遺伝子、SAMHD1遺伝子、SDF2L1遺伝子、SDF4遺伝子、SF3A2遺伝子、SF3B2遺伝子、SF3B4遺伝子、SFRS10遺伝子、SFRS2B遺伝子、SNRP70遺伝子、SNRPC遺伝子、SNRPD3遺伝子、SQSTM1遺伝子、STK38遺伝子、TAF15遺伝子、TESC遺伝子、THOC2遺伝子、TOMM40遺伝子、TRIM28遺伝子、UAP1遺伝子、USP9X遺伝子、VCP遺伝子、XPO1遺伝子、ZC3H15遺伝子。
【実施例】
【0044】
前記91個の宿主遺伝子のウイルス力価の変化量、細胞生存率(%)、及びノックダウン効率(%)を、表1~3に示す。
【実施例】
【0045】
【表1】
JP2016047592A1_000002t.gif
【実施例】
【0046】
【表2】
JP2016047592A1_000003t.gif
【実施例】
【0047】
【表3】
JP2016047592A1_000004t.gif
【実施例】
【0048】
<細胞内タンパク質の合成に対する影響>
これらの91個の宿主遺伝子発現の抑制が、細胞内タンパク質合成に影響を及ぼすか否かを調べた。
具体的には、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクションから24時間経過後の細胞に、細胞内で機能するRNAポリメラーゼIIプロモーター(例えば、ニワトリβ-アクチンプロモーター)の制御下でレニラルシフェラーゼを発現させるプラスミドを、コントロールとして用いた。
トランスフェクションから48時間経過後の細胞に対して、Renilla Luciferase Assay System(プロメガ社製)を用いて、ルシフェラーゼアッセイを行った。ルシフェラーゼ活性は、GloMax-96 Microplate Luminometer(プロメガ社製)を用いて計測した。
【実施例】
【0049】
コントロールsiRNAを導入した細胞のレニラルシフェラーゼ活性に対する、各siRNAを導入した細胞のレニラルシフェラーゼ活性の割合を、細胞内タンパク質の合成効率(%)として算出した。算出した細胞内タンパク質の合成効率(%)を表4に示す。この結果、前記91個の宿主遺伝子のうち、28個の宿主遺伝子(ATP5O遺伝子、CNOT1遺伝子、GEMIN4遺伝子、ITGB4BP遺伝子、NCAPD3遺伝子、NUP160遺伝子、NUP205遺伝子、PSMA4遺伝子、PSMA5遺伝子、PSMB2遺伝子、PSMC1遺伝子、PSMC4遺伝子、PSMD11遺伝子、PSMD2遺伝子、PSMD6遺伝子、SF3A2遺伝子、SF3B4遺伝子、SNRPD3遺伝子、VCP遺伝子、PSMC6遺伝子、PSMD12遺伝子、PSMD14遺伝子、SAMHD1遺伝子、SF3B2遺伝子、SNRP70遺伝子、CAPRIN1遺伝子、PHB遺伝子、及びSFRS10遺伝子)のsiRNAを導入した細胞において、ホタルルシフェラーゼ活性がコントロールsiRNAを導入した細胞に比べて80%以上(p<0.05)も低下していた。この結果から、これらの宿主遺伝子は宿主細胞における転写や翻訳に関与しており、これらの宿主遺伝子の発現を低下させることにより、インフルエンザウイルスの転写や翻訳が抑制され、ひいてはインフルエンザウイルスの複製が阻害されることが示唆された。
【実施例】
【0050】
【表4】
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【実施例】
【0051】
<ミニレプリコンアッセイ>
前記91個の宿主遺伝子が、ウイルスゲノム複製及び転写に関与しているか否かを、インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼ活性を調べるミニレプリコンアッセイ(非特許文献10参照。)により調べた。より詳細には、ミニレプリコンアッセイは、ホタルルシフェラーゼレポータータンパク質をコードするウイルス様RNAの複製活性に基づくウイルス複製複合体(PB2タンパク質、PB1タンパク質、PAタンパク質、及びNPタンパク質を含有する複合体)の活性を調べるアッセイである。
具体的には、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクションから24時間経過後の細胞に、PAを発現させるためのプラスミド、PB1を発現させるためのプラスミド、PB2を発現させるためのプラスミド、NPを発現させるためのプラスミド、及びホタルルシフェラーゼをコードするウイルス様RNAを発現させるためのプラスミド(pPolINP(0)luc2(0))をトランスフェクションした。なお、PA、PB1、PB2又はNPを発現させるためのプラスミドは、それぞれ、プラスミドpCAGGSのマルチクローニングサイトに各タンパク質をコードするcDNAを組み込んだものである。また、宿主細胞内で機能するRNAポリメラーゼIIプロモーター(例えば、ニワトリβ-アクチンプロモーター)の制御下でレニラルシフェラーゼを発現させるプラスミドを、コントロールとして用いた。
トランスフェクションから48時間経過後の細胞に対して、Dual-Glo Luciferase assay system(プロメガ社製)を用いて、ルシフェラーゼアッセイを行った。ルシフェラーゼ活性は、GloMax-96 Microplate Luminometer(プロメガ社製)を用いて計測した。ウイルスRNAポリメラーゼ活性は、レニラルシフェラーゼ活性によりノーマライズされたホタルルシフェラーゼ活性として算出した。
【実施例】
【0052】
コントロールsiRNAを導入した細胞のホタルルシフェラーゼ活性に対する、各siRNAを導入した細胞のホタルルシフェラーゼ活性の割合を、ウイルスポリメラーゼ活性(%)として算出した。このウイルスポリメラーゼ活性は、ホタルルシフェラーゼレポータータンパク質の発現レベルを示し、ウイルスゲノム複製及び転写の効率の指標となる。算出したウイルスポリメラーゼ活性(%)を表5に示す。この結果、前記91個の宿主遺伝子のうち、9個の宿主遺伝子(BUB3遺伝子、CCDC56遺伝子、CLTC遺伝子、CYC1遺伝子、NIBP遺伝子、ZC3H15遺伝子、C14orf173遺伝子、CTNNB1遺伝子、及びANP32B遺伝子)のsiRNAを導入した細胞において、ウイルスポリメラーゼ活性、すなわちウイルスゲノム複製及び転写が、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べて50%以上(p<0.05)も低下していた。この結果から、これらの宿主遺伝子がウイルスゲノム複製及び転写に関与しており、これらの宿主遺伝子の発現を低下させることにより、インフルエンザウイルスのゲノム複製及び転写が抑制されることが示唆された。
【実施例】
【0053】
【表5】
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【実施例】
【0054】
<PB2-KO/Rlucウイルスアッセイ>
前記91個の宿主遺伝子について、ウイルスのライフサイクルの初期段階に関与するか否かを調べるため、PB2-KO/Rlucウイルスアッセイを行い、ウイルスの侵入効率を調べた。
具体的には、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクションから24時間経過後の細胞に、PB2-KO/Rlucウイルスを感染させた。感染から8時間経過後の細胞に対して、Renilla Luciferase Assay System(プロメガ社製)を用いて、ルシフェラーゼアッセイを行った。蛍光は、GloMax-96 Microplate Luminometer(プロメガ社製)を用いて計測した。
【実施例】
【0055】
コントロールsiRNAを導入した細胞のレニラルシフェラーゼ活性に対する、各siRNAを導入した細胞のレニラルシフェラーゼ活性の割合を、ウイルスの侵入効率(%)として算出した。算出したウイルス侵入効率(%)を表6に示す。この結果、前記91個の宿主遺伝子のうち、23個の宿主遺伝子(SF3A2遺伝子、GEMIN4遺伝子、SFRS10遺伝子、BAG3遺伝子、CAPRIN1遺伝子、CCDC135遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、ATP5O遺伝子、SAMHD1遺伝子、PSMD6遺伝子、BRD8遺伝子、PSMD11遺伝子、SF3B2遺伝子、SF3B4遺伝子、DPM3遺伝子、NCAPD3遺伝子、EEF2遺伝子、PHB遺伝子、NUP205遺伝子、S100A4遺伝子、PSMD14遺伝子、及びDDX55遺伝子)において、ウイルス侵入効率が、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べて50%以上(p<0.05)も低下していた。この結果から、これらの宿主遺伝子はインフルエンザウイルスの宿主細胞への侵入に関与しており、これらの宿主遺伝子の発現を低下させることにより、インフルエンザウイルスの宿主細胞への侵入が阻害され、ひいてはインフルエンザウイルスの複製が阻害されることが示唆された。
【実施例】
【0056】
【表6】
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【実施例】
【0057】
また、これらの23個の宿主遺伝子のうち、9個の宿主遺伝子(BAG3遺伝子、BRD8遺伝子、CCDC135遺伝子、DDX55遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、IGF2BP2遺伝子、KRT14遺伝子、及びS100A4遺伝子)は、宿主細胞の転写や翻訳には関与せず、インフルエンザウイルスの転写や翻訳に特異的に関与していることがわかった。また、これらの9個の宿主遺伝子は、前記のミニレプリコンアッセイではインフルエンザウイルスの複製の阻害活性は確認できなかったことから、これらの宿主遺伝子は、ウイルスの宿主細胞表面への結合、宿主細胞への取込み、vRNP(ウイルスリボ核酸タンパク質)複合体の核への移行等のウイルスのライフサイクルの初期段階において重要な役割を果たしていることが示唆された。
【実施例】
【0058】
<VLPフォーメーションアッセイ>
前記91個の宿主遺伝子が、ウイルス粒子形成に関与しているか否かを、ウイルス様粒子(virus-like particle、VLP)フォーメーションアッセイにより調べた。
具体的には、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをトランスフェクションしたHEK293細胞に、HAを発現させるためのプラスミド、NAを発現させるためのプラスミド、及びM1を発現させるためのプラスミドを、TransIT293 transfection reagent(Mirus社製)を用いてトランスフェクションした。なお、HA、NA、又はM1を発現させるためのプラスミドは、それぞれ、プラスミドpCAGGSのマルチクローニングサイトに各タンパク質をコードするcDNAを組み込んだものである。
プラスミドトランスフェクションから48時間経過後の細胞を、100mM DTTを含有させたSDS Sample Buffer Solution(和光純薬社製)により溶解させた。得られたライセートを回収し、遠心分離処理(3000×g、4℃、5分間)を行って、VLPを含む上清を細胞残渣から分離して回収した。得られた上清を、超遠心用チューブに注入した30質量/容量%シュクロースを含有するPBS(リン酸緩衝生理食塩水)の上にのせ、超遠心分離処理(50000rpm、4℃、1時間、SW55Ti Rotor)を行った。得られた沈殿物を、100mM DTTを含有させたSDS Sample Buffer Solution(和光純薬社製)に溶解させたものを、ウェスタンブロッティング用サンプルとした。
【実施例】
【0059】
調製されたウェスタンブロッティング用サンプルにTris-Glycine SDS sample buffer(Invitrogen社製)を混合したサンプルを、4%-20% Mini-PROTEAN TGX gradient gels(バイオ・ラッド社製)にアプライしてSDS-PAGEを行い、分離したタンパク質をPVDF膜に転写し、転写膜をBlocking One solution(ナカライテスク社製)を用いてブロッキングした。当該転写膜を、一次抗体溶液(ウサギ抗WSNウイルス抗体(R309)又は抗β-アクチン(AC-74)抗体を、Can Get Signal(東洋紡社製)に付属の溶液solution Iで希釈した溶液)中で、室温で少なくとも1時間インキュベートした。次いで、当該転写膜を0.05容量%のTween-20を含有させたTBS(TBST)で3回洗浄した後、二次抗体溶液(西洋ワサビペルオキシダーゼを連結したECLロバ抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア社製)を、Can Get Signal(東洋紡社製)に付属の溶液solution IIで希釈した溶液)中でインキュベートした後、TBSTで3回洗浄した。当該転写膜を、ECL Prime Western blotting detection reagent(GEヘルスケア社製)中でインキュベートした後、化学発光によるシグナルをVersaDoc Imaging System(バイオ・ラッド社製)によりVLP中のHAタンパク質及びM1タンパク質のバンドとβ-アクチンのバンドを検出した。
【実施例】
【0060】
VLPの産生量は、ライセート中のHAタンパク質又はM1タンパク質の量に対するVLP中のHAタンパク質又はM1タンパク質の量の割合として算出した。コントロールsiRNAを導入した細胞のVLPの産生量に対する、各siRNAを導入した細胞のVLPの産生量の割合を、VLPの産生効率(%)として算出した。HAタンパク質に基づくVLP生産効率(%)の結果を表7に、M1タンパク質に基づくVLP生産効率(%)の結果を表8に、それぞれ示す。この結果、前記91個の宿主遺伝子のうち、15個の宿主遺伝子(ASCC3L1遺伝子、BRD8遺伝子、C19orf43遺伝子、DDX55遺伝子、DKFZp564K142遺伝子、DPM3遺伝子、EEF2遺伝子、FAM73B遺伝子、FLJ20303遺伝子、GBF1遺伝子、NCLN遺伝子、C14orf173遺伝子、XPO1遺伝子、LRPPRC遺伝子、及びRCN1遺伝子)において、VLPの産生効率が、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べて50%以上(p<0.05)も低下していた。この結果から、これらの宿主遺伝子はVLPの形成に関与しており、これらの宿主遺伝子の発現を低下させることにより、VLPの形成が阻害され、ひいてはインフルエンザウイルスの複製が阻害されることが示唆された。
【実施例】
【0061】
【表7】
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【実施例】
【0062】
【表8】
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【実施例】
【0063】
<子孫ウイルス粒子へのvRNPの取込み効率>
前記91個の宿主遺伝子が、子孫ウイルス粒子へのvRNPの取込みに関与しているか否かを調べるため、vRNA及びNPの子孫ウイルス粒子への取込みを調べた。
具体的には、まず、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクション後の細胞に、MOI(multiplicity of infection)が5のインフルエンザウイルスを感染させた。感染から12時間経過後に、放出されたウイルス粒子を含む培養上清を、遠心分離処理(3000×g、4℃、5分間)により細胞残渣から分離して回収した。得られた上清を、超遠心用チューブに注入した30重量/容量%シュクロースを含有するPBSの上にのせ、超遠心分離処理(50000rpm、4℃、1時間、SW55Ti Rotor)を行った。ウイルス粒子を含む沈殿物をPBS中でホモジナイズし、Maxwell 16 LEV simplyRNA Tissue Kitを用いてウイルスRNAを抽出した。上清中のウイルスRNA量と細胞中のウイルスRNA量を、Kawakamiらの方法(非特許文献11参照。)に準じて、鎖特異的リアルタイムPCRにより定量した。なお、総RNAを鋳型とした逆転写反応は、SuperScript III Reverse Transcriptaseと、5’末端に19塩基からなるタグ配列を付加したインフルエンザウイルスゲノム特異的プライマー(vRNAtag_NP_1F;ggccgtcatggtggcgaatAGCAAAAGCAGGGTAGATAATCACTC(小文字部分がタグ配列))を用いて行った。また、定量的PCRは、前記タグ配列に特異的なプライマー(vRNAtag;GGCCGTCATGGTGGCGAAT)と、ウイルスゲノムに特異的なプライマー(WSN-NP_100R;GTTCTCCATCAGTCTCCATC)と、6-FAM/ZEN/IBFQで標識されたプローブ(IDT,WSN-NP_46-70;ATGGCGACCAAAGGCACCAAACGAT)と、THUNDERBIRD Probe qPCR Mixを用いて行った。
【実施例】
【0064】
子孫ウイルス粒子へのvRNA及びNPタンパク質の取込み量は、培養上清から回収されたウイルス中におけるvRNA又はNPタンパク質の量をライセート中におけるvRNA又はNPタンパク質の量で割った値により決定した。コントロールsiRNAを導入した細胞の子孫ウイルス粒子へのvRNAの取込み量に対する、各siRNAを導入した細胞の子孫ウイルス粒子へのvRNAの取込み量の割合を、vRNAの取込み効率(%)として算出した。コントロールsiRNAを導入した細胞の子孫ウイルス粒子へのNPタンパク質の取込み量に対する、各siRNAを導入した細胞の子孫ウイルス粒子へのNPタンパク質の取込み量の割合を、NPタンパク質の取込み効率(%)として算出した。算出結果を表9及び10に示す。この結果、前記91個の宿主遺伝子のうち、16個の宿主遺伝子(HNRNPK遺伝子、DDX21遺伝子、JAK1遺伝子、EEF1A2遺伝子、SFRS2B遺伝子、DNAJC11遺伝子、SQSTM1遺伝子、BASP1遺伝子、PCDHB12遺伝子、KIAA0664遺伝子、SNRPC遺伝子、PPP6C遺伝子、MRCL3遺伝子、ITM2B遺伝子、TAF15遺伝子、及びSDF4遺伝子)のsiRNAを導入した細胞において、子孫ウイルス粒子へのvRNAの取込み効率が、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べて50%以上(p<0.05)も低下しており、27個の宿主遺伝子(SFRS2B遺伝子、BASP1遺伝子、THOC2遺伝子、SNRPC遺伝子、KIAA0664遺伝子、PPP6C遺伝子、HNRNPK遺伝子、ITM2B遺伝子、SQSTM1遺伝子、RPL26遺伝子、NDUFS8遺伝子、SDF2L1遺伝子、JAK1遺伝子、DDX21遺伝子、EEF1A2遺伝子、TRIM28遺伝子、SDF4遺伝子、USP9X遺伝子、PSMD13遺伝子、TAF15遺伝子、CIRBP遺伝子、CHERP遺伝子、TESC遺伝子、MYH10遺伝子、TOMM40遺伝子、MRCL3遺伝子、及びPCDHB12遺伝子)のsiRNAを導入した細胞において、子孫ウイルス粒子へのNPタンパク質の取込み効率が、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べて50%以上(p<0.05)も低下していた。この結果から、これらの宿主遺伝子は子孫ウイルス粒子へのvRNA又はNPタンパク質の取込みに関与しており、これらの宿主遺伝子の発現を低下させることにより、vRNA又はNPタンパク質の子孫ウイルス粒子への取込みが抑制され、ひいてはインフルエンザウイルスの複製が阻害されることが示唆された。
【実施例】
【0065】
【表9】
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【実施例】
【0066】
【表10】
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【実施例】
【0067】
[実施例2]
実施例1において、siRNA導入によりインフルエンザウイルスの力価が常用対数値で2以上低下した299個の宿主遺伝子について、公知の阻害剤が抗インフルエンザウイルス剤として使用可能かどうかを調べた。
まず、DrugBank database(非特許文献12参照。)、IPA(Ingenuity)、及び製薬メーカー(Millipore、シグマアルドリッチ、Selleck Chemicals)のデータベースから、これらの宿主遺伝子の機能の阻害剤となる化合物を調べた。この結果、44個の宿主遺伝子に対する阻害剤として61個の化合物がみつかった。
【実施例】
【0068】
前記61個の化合物から表11に示す11個の阻害剤を選択し、これらの化合物のインフルエンザウイルスの複製に対する影響を調べた。これらのうち、BortezomibとColchicineは、インフルエンザウイルスの複製阻害剤として公知である(非特許文献13及び14参照。)。
【実施例】
【0069】
【表11】
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【実施例】
【0070】
具体的には、HEK293細胞又はA549細胞に、MOIが0.001のインフルエンザウイルスを感染させた。感染から1時間経過した細胞を洗浄した後、各阻害剤を含有する培養液中で培養した。コントロールとして、各阻害剤に代えて、DMSO溶液(最終濃度:1容量%)を用いた。阻害剤存在下で48時間培養した後、培養上清を回収し、実施例1と同様にして、ウイルスの力価を求めた。また、細胞の生存率(%)は、CellTiter-Glo assay system(プロメガ社製)を添付の指示書に従って用い、コントロール(DMSO溶液)を含有する培地で培養した細胞の生細胞数に対する、各阻害剤を含有する培地で培養した細胞を、細胞生存率(%)として算出した。
【実施例】
【0071】
この結果、2,3-Butanedione 2-Monoxime(30mM)、及びWP1130(50μM)は、ウイルス力価を常用対数値で5以上も低下させることができたが、細胞生存率も顕著に低下し、宿主細胞に対する毒性が強いことがわかった。公知の抗インフルエンザウイルス剤であるBortezomib(0.2μM)とColchicine(2.5μM)は、A549細胞において、ひどい細胞毒性を示すことなく、ウイルス力価を常用対数値で4(Bortezomib)又は2(Colchicine)以上も低下させることができた。一方で、これまでインフルエンザウイルスの複製との関係性は指摘されてこなかったGolgicide A(10μM)とRuxolitinib(30μM)は、有意にウイルス力価を低下させることができた。Ruxolitinib(30μM)は、目立った細胞毒性は示さず、Golgicide A(10μM)は、HEK293細胞で細胞生存率の低下が確認されたが、A549細胞では確認されなかった。Golgicide Aの結果を図1に、Ruxolitinibの結果を図2に、それぞれ示す。これらの結果から、Histone acetyltransferase inhibitor II、Genistein、2,3-Butanedione 2-Monoxime、WP1130、Golgicide A及びRuxolitinibは、Bortezomib及びColchicineと同様に、抗インフルエンザウイルス作用を有していること、中でも、Golgicide A及びRuxolitinibは、宿主細胞への毒性が比較的小さく、抗インフルエンザウイルス剤として非常に有用であることがわかった。
【実施例】
【0072】
[実施例3]
Ruxolitinibは、チロシンキナーゼであるJAK1に対する阻害剤である。実施例1に示すように、siRNA導入によりJAK1の発現を低下させた細胞におけるM1タンパク質に基づくVLP産生効率は、57.7%であり、カットオフ値として設けた50%に近かった。そこで、JAK1のsiRNAを導入した細胞を電子顕微鏡により観察し、インフルエンザウイルスのウイルス粒子形成に対するJAK1遺伝子の発現低下の影響を調べた。
【実施例】
【0073】
具体的には、まず、前記<siRNA>と同様にしてJAK1遺伝子のsiRNA又はコントロールsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクション後の細胞に、MOIが5のインフルエンザウイルスを感染させた。感染から12時間経過後の細胞から、Nodaらの方法(非特許文献15)に従い、細胞の超薄切片を調製し、これを電子顕微鏡により観察した。電子顕微鏡は、Tecnai(登録商標) F20 electron microscope(FEI社製)を用いた。
【実施例】
【0074】
コントロールsiRNAを導入した細胞の電子顕微鏡写真(上段)と、JAK1遺伝子のsiRNAを導入した細胞の電子顕微鏡写真(下段)を、図3に示す。JAK1遺伝子のsiRNAを導入した細胞では、コントロールsiRNAを導入した細胞よりも形成されているウイルス様粒子が明らかに少なく、JAK1遺伝子の発現を低下させることにより、ウイルス粒子の形成が低下することがわかった。これらの結果から、JAK1は、インフルエンザウイルス複製サイクルの後期に重要な役割を果たしていることが示唆された。
【実施例】
【0075】
[実施例4]
表12に示すタンパク質阻害剤を被験化合物として、細胞に対する毒性と、インフルエンザウイルスの増殖に対する効果を調べた。
【実施例】
【0076】
【表12】
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【実施例】
【0077】
<細胞毒性試験>
まず、被験化合物溶液として、被験化合物を終濃度として1000、100、10、1、0.1、0.01、又は0.001μMとなるように、1%ジメチルスルフォキシド含有MEMで調製した。
MDCK細胞、A549細胞、及びHEK293細胞を、最小必須培地(minimum essential medium;MEM)でそれぞれ6.25×10細胞/mL、2.5×10細胞/mL、1.25×10細胞/mLの濃度に調製した細胞液を、96穴プレートに0.1mL/穴ずつ添加して細胞を播種した。当該96穴プレート中の細胞を、炭酸ガス培養器中、37℃で培養し、播種日の翌日にMEMで洗浄した。洗浄後の96穴プレート中の細胞に、各被験化合物溶液0.1mLを一の濃度につき3穴に添加した後、当該96穴プレート中の細胞を、炭酸ガス培養器中、37℃で48時間培養した。培養後にCell Counting Kit-8溶液(同仁化学研究所製)を各穴に10μLずつ添加し、さらに数時間37℃で培養した。培養後、マイクロプレートリーダーで、当該96穴プレートの各穴の溶液の450nmの吸光度を測定した。被験化合物の代わりに溶媒(1%ジメチルスルフォキシド含有MEM)を添加した時の吸光度値を全細胞が生存する100%とし、吸光度が50%となる時の被験化合物の終濃度値を50%細胞毒性濃度(CC50値)として算出した。
【実施例】
【0078】
<抗ウイルス効果試験>
まず、被験化合物溶液として、被験化合物を終濃度として1000、100、10、1、0.1、0.01、又は0.001μMとなるように、1%ジメチルスルフォキシド含有MEMで調製した。
MDCK細胞、A549細胞、及びHEK293細胞をMEMでそれぞれ1.25×10細胞/mL、5×10細胞/mL、2.5×10細胞/mLの濃度に調製した細胞液を、96穴プレートに0.1mL/穴ずつ添加して細胞を播種した。当該96穴プレート中の細胞を、炭酸ガス培養器中37℃で培養し、播種日の翌日にMEMで洗浄した。洗浄後の96穴プレート中の細胞に、各被験化合物溶液0.1mLを一の濃度につき3穴に添加した後、当該96穴プレート中の細胞を、炭酸ガス培養器中、37℃で1時間培養した。培養後、各穴から被検化合物溶液を除去し、50μLのインフルエンザウイルスA/WSN RG#1-1株をMOI(細胞1個当たりのウイルスの感染個数)が0.001になるように感染させ、炭酸ガス培養器中、37℃で1時間培養した。培養後、各穴からウイルス液を除去し、1μg/mLトリプシンを含有する被験化合物溶液を0.1mL/穴ずつ添加し、さらに37℃で48時間培養した。培養後の各穴のウイルスの有無を調べ、同じ濃度の被検化合物を添加した培養穴の半分(50%)でウイルスが無しと計算される被験化合物の終濃度値を50%ウイルス増殖阻害濃度(IC50)として算出した。なお、各培養穴のウイルスの有無は、各培養穴から採取した50μLの培養液に、1%モルモット赤血球を含有する赤血球溶液50μLを添加した場合の凝集の有無を判定することにより行った。
【実施例】
【0079】
各タンパク質阻害剤のCC50及びIC50の常用対数値を表13に示す。表中、空欄は、IC50とCC50の差が10倍未満(常用対数値で差が1未満)であったものである。この結果、これらのタンパク質阻害剤は、少なくともMDCK細胞、A549細胞、及びHEK293細胞のいずれかにおいて、IC50がCC50の10倍以上低い濃度となった。つまり、これらのタンパク質阻害剤は、宿主細胞の増殖性を大きく損なうことなく、インフルエンザウイルスの増殖を抑制することが可能であり、抗インフルエンザウイルス剤の有効成分として好適であった。
【実施例】
【0080】
【表13】
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図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2