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明細書 :インフルエンザウイルス産生用細胞、及びインフルエンザウイルスの産生方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年6月29日(2017.6.29)
発明の名称または考案の名称 インフルエンザウイルス産生用細胞、及びインフルエンザウイルスの産生方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12N   7/04        (2006.01)
A61K  39/145       (2006.01)
FI C12N 5/10 ZNA
C12N 15/00 G
C12N 7/04
A61K 39/145
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 19
出願番号 特願2016-550305 (P2016-550305)
国際出願番号 PCT/JP2015/076681
国際公開番号 WO2016/047595
国際出願日 平成27年9月18日(2015.9.18)
国際公開日 平成28年3月31日(2016.3.31)
優先権出願番号 2014192753
優先日 平成26年9月22日(2014.9.22)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】河岡 義裕
【氏名】渡邉 登喜子
【氏名】川上 英良
【氏名】渡邉 真治
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100064908、【弁理士】、【氏名又は名称】志賀 正武
【識別番号】100094400、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 三義
【識別番号】100147267、【弁理士】、【氏名又は名称】大槻 真紀子
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4C085
Fターム 4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA25
4B065BB25
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC07
4B065BD14
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA24
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA55
4C085CC08
4C085DD23
要約 本発明は、インフルエンザウイルスの増殖能が高く、ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスを産生するために好適に用いられる、生体外で培養可能な細胞、及び当該細胞を用いてインフルエンザウイルスを産生する方法を提供する。すなわち、本発明は、細胞内におけるインフルエンザウイルスの産生を抑制する作用に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現が抑制されており、前記遺伝子が、ACTG1遺伝子等からなる群より選択される1以上であることを特徴とする、インフルエンザウイルス産生用細胞、及び、前記インフルエンザウイルス産生用細胞に、インフルエンザウイルスを感染させた後、培養することを特徴とする、インフルエンザウイルスの産生方法である。
特許請求の範囲 【請求項1】
染色体中の一部の遺伝子の発現が抑制されている、生体外で培養可能な細胞であり、
前記遺伝子が、ACTG1遺伝子、ACTN1遺伝子、ATCAY遺伝子、CCT6A遺伝子、COPS7B遺伝子、DAP3遺伝子、ERLIN2遺伝子、GNAI2遺伝子、GTF3C5遺伝子、HNRPAB遺伝子、KHSRP遺伝子、KRT18遺伝子、MTCH1遺伝子、PPP2R1A遺伝子、PRPS1遺伝子、RAB18遺伝子、RAB3A遺伝子、RAP1B遺伝子、RPS19遺伝子、RPS7遺伝子、S100A10遺伝子、SFRS7遺伝子、SLC2A12遺伝子、TMED2遺伝子、及びUSP10遺伝子からなる群より選択される1以上の遺伝子であることを特徴とする、インフルエンザウイルス産生用細胞。
【請求項2】
前記遺伝子が欠損又は破壊されている、請求項1に記載のインフルエンザウイルス産生用細胞。
【請求項3】
前記遺伝子が、ACTG1遺伝子、ACTN1遺伝子、DAP3遺伝子、GNAI2遺伝子、GTF3C5遺伝子、KRT18遺伝子、MTCH1遺伝子、PRPS1遺伝子、RPS19遺伝子、S100A10遺伝子、SFRS7遺伝子、SLC2A12遺伝子、USP10遺伝子、PPP2R1A遺伝子、及びTMED2遺伝子からなる群より選択される1以上である、請求項1又は2に記載のインフルエンザウイルス産生用細胞。
【請求項4】
哺乳類由来の細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載のインフルエンザウイルス産生用細胞。
【請求項5】
ヒト由来の細胞である、請求項4に記載のインフルエンザウイルス産生用細胞。
【請求項6】
腎臓由来の細胞である、請求項4に記載のインフルエンザウイルス産生用細胞。
【請求項7】
インフルエンザウイルスワクチンの製造に用いられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のインフルエンザウイルス産生用細胞。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のインフルエンザウイルス産生用細胞に、インフルエンザウイルスを感染させた後、培養することを特徴とする、インフルエンザウイルスの産生方法。
【請求項9】
前記インフルエンザウイルスが、インフルエンザウイルスワクチンを製造するためのインフルエンザウイルスである、請求項8に記載のインフルエンザウイルスの産生方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザウイルスの増殖能が高く、ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスを産生するために好適に用いられる生体外で培養可能な細胞、及び当該細胞を用いてインフルエンザウイルスを産生する方法に関する。
本願は、2014年9月22日に、日本に出願された特願2014-192753号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスは、毎年流行を引き起こし、ときには何百万人もの犠牲者を出すパンデミックを引き起こす。インフルエンザ感染症の予防は、主に、ワクチンの予防接種により行われる。ワクチンは、インフルエンザウイルス粒子又はその部分分解物を不活化したものである。インフルエンザワクチンの予防接種により、インフルエンザに罹患した場合に、肺炎等の重篤な合併症の出現や、入院、死亡などの危険性を軽減し得る。
【0003】
現行のワクチンは、発育鶏卵にインフルエンザウイルスを接種することによって製造されている。このため、ワクチンの製造には大量の発育鶏卵の確保が必要である。また、製造には6か月ほどかかるので、突発的なワクチンの大量製造は難しい。加えて、卵成分によるアレルギー反応について考慮する必要がある。
【0004】
さらに、鶏卵でインフルエンザウイルスを増やした場合には、ウイルス遺伝子に変異が入ることによって、ウイルスの抗原性が変わってしまうことが多い。現に、近年のH3N2型とB型のワクチンについては、選定されたワクチン株の抗原性は、流行株と一致していたにも関わらず、製造段階でワクチンウイルスの遺伝子に変異が入り、製造されたワクチンの抗原性が元々のワクチン株とは変わってしまった。そのため、「流行する株の予測があっていたにも関わらず、ワクチン効果が弱い」という事態に陥った(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Kishida et al.,Clinical and Vaccine Immunology,2013,vol. 19,p.897~908.
【非特許文献2】Neumann,et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1999,vol.96,p.9345~9350.
【非特許文献3】Tobita,et al.,Medical microbiology and immunology,1975,vol.162,p.9~14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鶏卵に替わる手段として、培養細胞を用いたワクチン製造がある。このワクチン製造は、欧米では既に認可されており、また、日本でも認可への動きはある。しかしながら、培養細胞ではウイルスの増殖性が鶏卵よりも悪いため、インフルエンザウイルスを培養細胞で効率良く増幅するシステムの開発が最重要課題となっている。
【0007】
本発明は、インフルエンザウイルスの増殖能が高く、ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスを産生するために好適に用いられる、培養可能な細胞、及び当該細胞を用いてインフルエンザウイルスを産生する方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ヒト胚腎臓由来のHEK293細胞の細胞溶解液を用いた免疫沈降法により、インフルエンザウイルスタンパク質と相互作用を有する1292個のヒトタンパク質を特定し、次いで、RNA干渉を利用し、これらのヒトタンパク質の中から、発現量を抑制した場合に細胞の増殖性を大きく損なうことなく、インフルエンザウイルスの産生が顕著に向上されるタンパク質を特定することにより、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞、及びインフルエンザウイルスの産生方法は、下記[1]~[9]である。
[1] 染色体中の一部の遺伝子の発現が抑制されている、生体外で培養可能な細胞であり、
前記遺伝子が、ACTG1遺伝子、ACTN1遺伝子、ATCAY遺伝子、CCT6A遺伝子、COPS7B遺伝子、DAP3遺伝子、ERLIN2遺伝子、GNAI2遺伝子、GTF3C5遺伝子、HNRPAB遺伝子、KHSRP遺伝子、KRT18遺伝子、MTCH1遺伝子、PPP2R1A遺伝子、PRPS1遺伝子、RAB18遺伝子、RAB3A遺伝子、RAP1B遺伝子、RPS19遺伝子、RPS7遺伝子、S100A10遺伝子、SFRS7遺伝子、SLC2A12遺伝子、TMED2遺伝子、及びUSP10遺伝子からなる群より選択される1以上の遺伝子であることを特徴とする、インフルエンザウイルス産生用細胞。
[2] 前記遺伝子が欠損又は破壊されている、前記[1]のインフルエンザウイルス産生用細胞。
[3] 前記遺伝子が、ACTG1遺伝子、ACTN1遺伝子、DAP3遺伝子、GNAI2遺伝子、GTF3C5遺伝子、KRT18遺伝子、MTCH1遺伝子、PRPS1遺伝子、RPS19遺伝子、S100A10遺伝子、SFRS7遺伝子、SLC2A12遺伝子、USP10遺伝子、PPP2R1A遺伝子、及びTMED2遺伝子からなる群より選択される1以上である、前記[1]又は[2]のインフルエンザウイルス産生用細胞。
[4] 哺乳類由来の細胞である、前記[1]~[3]のいずれかのインフルエンザウイルス産生用細胞。
[5] ヒト由来の細胞である、前記[4]のインフルエンザウイルス産生用細胞。
[6] 腎臓由来の細胞である、前記[4]のインフルエンザウイルス産生用細胞。
[7] インフルエンザウイルスワクチンの製造に用いられる、前記[1]~[6]のいずれかのインフルエンザウイルス産生用細胞。
[8] 前記[1]~[7]のいずれかのインフルエンザウイルス産生用細胞に、インフルエンザウイルスを感染させた後、培養することを特徴とする、インフルエンザウイルスの産生方法。
[9] 前記インフルエンザウイルスが、インフルエンザウイルスワクチンを製造するためのインフルエンザウイルスである、前記[8]のインフルエンザウイルスの産生方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞は、特定の遺伝子の発現が抑制されており、当該遺伝子の発現等が抑制されていない細胞よりも細胞内におけるインフルエンザウイルスの増殖性が高い。このため、当該インフルエンザウイルス産生用細胞を用いることにより、インフルエンザウイルスを効率よく増殖させることができ、特に、ワクチン製造のためのインフルエンザウイルスの産生を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例2において、各siRNAを導入したVero細胞のウイルス力価(コントロールに対する相対値(%))を算出した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞は、生体外で培養可能な細胞(培養細胞)であって、発現が抑制されることによりインフルエンザウイルスの増殖促進効果を発揮する遺伝子(以下、「FluV増殖抑制遺伝子」ということがある。)の発現が抑制されている細胞である。当該細胞は、染色体中の少なくとも1種のFluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制されているため、当該細胞を用いることにより、効率よくインフルエンザウイルスを増殖させることができる。

【0013】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞において発現が抑制されているFluV増殖抑制遺伝子としては、具体的には、ACTG1遺伝子、ACTN1遺伝子、ATCAY遺伝子、CCT6A遺伝子、COPS7B遺伝子、DAP3遺伝子、ERLIN2遺伝子、GNAI2遺伝子、GTF3C5遺伝子、HNRPAB遺伝子、KHSRP遺伝子、KRT18遺伝子、MTCH1遺伝子、PPP2R1A遺伝子、PRPS1遺伝子、RAB18遺伝子、RAB3A遺伝子、RAP1B遺伝子、RPS19遺伝子、RPS7遺伝子、S100A10遺伝子、SFRS7遺伝子、SLC2A12遺伝子、TMED2遺伝子、及びUSP10遺伝子が挙げられる。後記実施例に示すように、これらの遺伝子の発現が抑制された培養細胞、特にヒト由来の培養細胞では、発現抑制されていない細胞に比べて、インフルエンザウイルスの増殖性が良好であることに加えて、細胞自体の増殖性もさほど抑制されていない。つまり、細胞においてこれらの遺伝子の発現を抑制することにより、細胞自体の増殖性を過度に損なうことなく、インフルエンザウイルス増殖促進効果が得られる。また、これらの遺伝子は、11種のインフルエンザウイルスタンパク質(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M1、M2、NS1、NS2、及びPB1-F2)のいずれかと直接的又は間接的に結合するタンパク質をコードしているため、これらの遺伝子がコードするタンパク質とインフルエンザウイルスタンパク質との相互作用が、インフルエンザウイルスの増殖抑制に重要な役割を果たすことも示唆される。

【0014】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞は、1種のFluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制されていてもよく、2種以上のFluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制されていてもよい。本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞としては、ACTG1遺伝子、ACTN1遺伝子、DAP3遺伝子、GNAI2遺伝子、GTF3C5遺伝子、KRT18遺伝子、MTCH1遺伝子、PRPS1遺伝子、RPS19遺伝子、S100A10遺伝子、SFRS7遺伝子、SLC2A12遺伝子、USP10遺伝子、PPP2R1A遺伝子、及びTMED2遺伝子からなる群より選択される1以上の発現が抑制されているものが好ましい。これらのFluV増殖抑制遺伝子を発現抑制することによるインフルエンザウイルス増殖促進効果は、ヒト由来の細胞のみならず、サル由来の細胞又はイヌ由来の細胞においても確認されたためである。

【0015】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞としては、FluV増殖抑制遺伝子の発現量が、発現抑制前の同種の細胞における当該遺伝子の発現量の50%以下にまで低下している細胞が好ましく、75%以下にまで低下している細胞がより好ましく、80%以下にまで低下している細胞がさらに好ましい。例えば、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞が、培養細胞株HEK293細胞の1種のFluV増殖抑制遺伝子の発現を抑制した細胞である場合、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞としては、当該FluV増殖抑制遺伝子の発現量が、HEK293細胞における当該FluV増殖抑制遺伝子の発現量の50%以下にまで低下する程度に当該FluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制されている細胞が好ましい。

【0016】
培養細胞におけるFluV増殖抑制遺伝子の発現抑制は、FluV増殖抑制遺伝子の転写量(発現量)を減少させてもよく、FluV増殖抑制遺伝子自体を染色体から削除させてもよく、FluV増殖抑制遺伝子に変異を導入して破壊してもよい。FluV増殖抑制遺伝子を染色体から削除する場合、遺伝子の全長を削除してもよく、プロモーター部分等のように発現制御に関与する領域を部分的に削除してもよく、当該遺伝子の機能が欠損した部分タンパク質を発現するように当該遺伝子のコード領域を部分的に削除してもよい。遺伝子の転写量減少や遺伝子欠損、遺伝子破壊等は、常法により行うことができる。

【0017】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞としては、FluV増殖抑制遺伝子の発現抑制が一過性のものであってもよく、恒常的にFluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制されているものであってもよい。インフルエンザウイルス増殖促進効果の安定性の点から、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞としては、FluV増殖抑制遺伝子の発現が恒常的に抑制されている細胞が好ましい。

【0018】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞のうち、FluV増殖抑制遺伝子の発現抑制が一過性である細胞は、例えば、RNA干渉を利用して製造することができる。具体的には、FluV増殖抑制遺伝子のcDNAの部分領域(RNAi(RNA干渉)標的領域)のセンス鎖とアンチセンス鎖からなる二本鎖構造を有するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)又はmiRNA(micro RNA)を培養細胞に導入することにより製造できる。また、培養細胞内において、siRNA等を生産させることができるRNAi誘導ベクターを培養細胞に導入してもよい。siRNA、shRNA、miRNA、及びRNAi誘導ベクターの作製は、標的とするFluV増殖抑制遺伝子のcDNAの塩基配列情報から、常法により設計し製造することができる。また、RNAi誘導ベクターは、市販の各種RNAiベクターの塩基配列に、RNAi標的領域の塩基配列を挿入することによって作製することもできる。さらに、siRNA、shRNA、miRNA、及びRNAi誘導ベクターの培養細胞への導入は、例えば、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、リン酸カルシウム法等により行うことができる。

【0019】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞のうち、恒常的にFluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制されている細胞は、例えば、レトロウイルスベクターを介して培養細胞の染色体にsiRNA、shRNA等を組み込む方法により製造できる。siRNA又はshRNAを染色体に組み込むためのレトロウイルスベクター(siRNA発現用レトロウイルスベクター)は、例えば、レトロウイルスの複製に必要な構造遺伝子gag、pol及びenvを欠失させ、siRNA又はshRNAを組み込んだレトロウイルスプラスミドベクターを、gag、pol及びenvを発現しているパッケージング細胞に導入することにより製造できる。siRNA発現用レトロウイルスベクターは、Retrovirus Packaging Kit Eco/Ampho(code 6160/6161)(タカラバイオ社製)等の市販のキットを用いて製造することもできる。FluV増殖抑制遺伝子のsiRNA等を発現させるためのsiRNA発現用レトロウイルスベクターを培養細胞に導入することにより、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞が得られる。

【0020】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞としては、FluV増殖抑制遺伝子自体を染色体から欠損(削除)させた細胞(FluV増殖抑制遺伝子欠損細胞)や、塩基の置換、欠失、又は挿入に係る変異を導入することによってFluV増殖抑制遺伝子を破壊した細胞(FluV増殖抑制遺伝子破壊細胞)が特に好ましい。染色体に組み込まれたsiRNA等は継代により消失してしまう可能性が否定できないが、FluV増殖抑制遺伝子自体を欠損又は変異させた細胞では、継代によりFluV増殖抑制遺伝子の発現量が回復するリスクがないためである。FluV増殖抑制遺伝子欠損細胞やFluV増殖抑制遺伝子破壊細胞は、特定の遺伝子の染色体からの削除や遺伝子変異導入に通常使用される各種手法によって製造することができる。

【0021】
例えば、人工ヌクレアーゼ(DNAに特異的に結合するドメインと、制限酵素FokIのDNA切断ドメインを連結させたキメラタンパク質)を用いることにより、FluV増殖抑制遺伝子破壊細胞を製造することができる。人工ヌクレアーゼは、DNAに特異的に結合するドメインにより染色体中の特定の領域(標的配列)に結合した後、制限酵素FokIのDNA切断ドメインが2量体を形成することによって染色体DNAを切断する。具体的には、例えば、標的のFluV増殖抑制遺伝子について、染色体中の当該遺伝子領域中に切断部位を設定し、当該切断部位を挟む近接する2つの部分塩基配列をそれぞれ標的配列とする2種類の人工ヌクレアーゼを作製し、これらを培養細胞に導入させる。培養細胞内に導入された人工ヌクレアーゼは、染色体中のそれぞれの近接する標的配列に結合して2量体となり、染色体DNAを切断する。切断された染色体DNAが非相同末端連結修復又は相同組換え修復する際に変異(塩基の欠失、挿入、又は置換)が導入される結果、当該FluV増殖抑制遺伝子が破壊される。

【0022】
人工ヌクレアーゼとしては、例えば、DNA結合ドメインとしてTAL(Transcriptional Activator-Like)エフェクターを用いたTALEN(TAL effecter nuclease)や、DNA結合ドメインとしてZinc-Fingerを用いたZFN(Zinc Finger Nuclease)がある。これらの人工ヌクレアーゼは、標的とするFluV増殖抑制遺伝子の塩基配列情報に基づき、常法により作製できる。また、例えば、GeneArt(登録商標) Precision TALs(ライフテクノロジーズ社製)等の市販のキットを用いて製造することもできる。

【0023】
また、RGEN(RNA guided endonuclease)を用いることによっても、FluV増殖抑制遺伝子破壊細胞を製造することができる。RGENは、バクテリアの獲得免疫システムであるCRISPR/Casシステム由来のRNA誘導型人工ヌクレアーゼであり、染色体中の切断する標的配列を認識するガイドRNAとCas9エンドヌクレアーゼとからなる。具体的には、まず、標的とするFluV増殖抑制遺伝子の塩基配列情報に基づいてガイドRNAを設計し、次いで、ガイドRNAを細胞内で発現させるための発現ベクターと、Cas9エンドヌクレアーゼを細胞内で発現させるための発現ベクターとを、共に培養細胞に導入する。当該細胞内で発現したガイドRNAは、染色体中の標的配列に結合し、この結合したガイドRNAを同じく細胞内で発現したCas9エンドヌクレアーゼが認識して染色体DNAごと切断する。切断された染色体DNAが非相同末端連結修復又は相同組換え修復する際に変異(塩基の欠失、挿入、又は置換)が導入される結果、当該FluV増殖抑制遺伝子が破壊される。

【0024】
人工ヌクレアーゼ、ガイドRNAを細胞内で発現させるための発現ベクター、Cas9エンドヌクレアーゼを細胞内で発現させるための発現ベクター等の培養細胞への導入は、例えば、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、リン酸カルシウム法等により行うことができる。

【0025】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞を作製するに当たり、FluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制される培養細胞は、インフルエンザウイルスが感染して細胞内において増殖することが可能な培養細胞であれば特に限定されるものではなく、産生するインフルエンザウイルスの種類や宿主等を考慮して、各種培養細胞の中から適宜決定することができる。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、トラ等の哺乳類;ニワトリ、アヒル、ウズラ、ガチョウ、カモ、シチメンチョウ、セキセイインコ、オウム、オシドリ、ハクチョウ等の鳥類に由来する培養細胞を用いることができる。また、培養細胞が由来する組織も、特に限定されるものではなく、例えば、腎臓、肺、肝臓、皮膚、結合組織、卵巣、子宮、血球、リンパ組織、口腔、食道、胃、小腸、大腸、胎仔等に由来する培養細胞を用いることができる。具体的には、汎用されている培養細胞のうち、HEK293細胞、MDCK(Madin-Darby canine kidney)細胞、Vero細胞、A549細胞、Calu-3細胞、HepG2細胞、NIH3T3細胞、3T3-L1細胞、CHO細胞、DF-1細胞、HeLa細胞、HL-60細胞、Jurkat細胞、Caco-2細胞等が挙げられる。中でも、細胞の増殖性が良好であり、かつ取扱いが比較的容易であることから、HEK293細胞、MDCK細胞、Vero細胞がより好ましい。

【0026】
なお、ヒトに由来する培養細胞とは、ヒトから採取された細胞を人為的に生体外で培養した細胞、又は当該細胞から継代培養された細胞を意味する。同様に、腎臓由来の細胞とは、動物の腎臓から採取された細胞を人為的に生体外で培養した細胞、又は当該細胞から継代培養された細胞を意味する。他の動物種又は組織由来の培養細胞も同様である。

【0027】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞は、FluV増殖抑制遺伝子の発現が抑制される前の培養細胞と同様の条件で培養することができる。例えば、哺乳動物に由来する培養細胞の場合には、5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で培養することができる。培養に用いる培地としては、例えば、DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)、EMEM培地(イーグル最小必須培地)、MEM(minimum essential medium)α培地、RPMI-1640培地等が挙げられる。これらの培地には、必要に応じて、血清、抗生物質、L-グルタミン等のアミノ酸、ピルビン酸ナトリウム、ビタミン類、インスリン、トランスフェリン、セレン、重炭酸ナトリウム塩等の各種添加剤を含有させることができる。

【0028】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞にインフルエンザウイルスを感染させた後、培養することにより、当該細胞内でインフルエンザウイルスが増殖する。増殖したインフルエンザウイルスは、培地中に分泌される。そこで、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞にインフルエンザウイルスを感染させる感染工程と、インフルエンザウイルスを感染させた細胞を培養培地中で培養する培養工程と、培養工程後、インフルエンザウイルスを含む培養上清を回収するウイルス回収工程と、により、インフルエンザウイルスを産生することができる。培養上清中のインフルエンザウイルスは、常法により精製することができる。

【0029】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞に感染させるインフルエンザウイルスは、いずれの型であってもよいが、A型インフルエンザウイルス又はB型インフルエンザウイルスが好ましく、哺乳類又は鳥類に感染し得るインフルエンザウイルスがより好ましく、ヒトに感染し得るインフルエンザウイルスがさらに好ましい。

【0030】
本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞は、充分な増殖性を備えつつ、インフルエンザウイルスの増殖性も良好であるため、当該細胞により、インフルエンザウイルスを効率よく増殖させることができる。また、鶏卵内で増殖させた場合よりも、増殖の工程でインフルエンザウイルスに変異が生じるおそれが低い。このため、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞は、ワクチンを製造するためのインフルエンザウイルスの産生に好適に用いられる。具体的には、本発明に係るインフルエンザウイルス産生用細胞に感染させるウイルスを、インフルエンザウイルスワクチンを製造するためのインフルエンザウイルスとする。
【実施例】
【0031】
次に、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
<細胞の培養>
以下の実施例において、HEK293細胞及びVero細胞は、10%FCS(ウシ胎児血清)と抗生物質を含有させたDMEM培地(シグマアルドリッチ社製)で、5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で培養した。MDCK細胞は、5%NCS(ウシ新生児血清)含有EMEM培地(GIBCO社製)で、5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で培養した。
【実施例】
【0033】
<インフルエンザウイルス>
以下の実施例において使用したインフルエンザウイルスは、特に記載のない限り、A型インフルエンザウイルス(A/WSN/33,H1N1サブタイプ;WSN)を用いた。当該ウイルスは、マウスに適応したヒト由来インフルエンザウイルスであり、リバースジェネティックスを用いた手法(非特許文献2参照。)により作製されたものであり、MDCK細胞中で増殖させた。また、ウイルスの力価は、MDCK細胞を用いたプラークアッセイにより測定した(非特許文献3参照。)。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
<インフルエンザウイルスタンパク質と相互作用する宿主タンパク質の同定>
本発明者らは、まず、免疫沈降法により、インフルエンザウイルスタンパク質と相互作用する宿主タンパク質を同定した。
具体的には、まず、11種のインフルエンザウイルスタンパク質(PB2、PB1、PA、HA、NP、NA、M1、M2、NS1、NS2、及びPB1-F2)について、それぞれ、N末端又はC末端にFlagタグを融合させたFlag融合タンパク質をコードするプラスミドを、HEK293細胞にトランスフェクトとした。トランスフェクションは、TransIT 293 reagent(Mirus Bio Corp製)を用いて行った。トランスフェクションから24時間培養した細胞を、細胞溶解バッファー(50 mM Tris-HCl (pH 7.5),150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 0.5% Nonidet P-40, protease inhibitor mixture Complete Mini (Roche, Mannheim, Germany))に混合し、4℃、1時間インキュベートすることにより溶解させてライセートを得た。得られたライセートを遠心分離処理して回収した上清に、抗Flag抗体が結合したアフィニティゲル(anti-FLAG M2 Affinity Gel、シグマアルドリッチ社製)を混合して4℃、18時間インキュベートした。その後、アフィニティゲルを、細胞溶解バッファーで3回、次いでIP(免疫沈降)バッファー(50 mM Tris-HCl (pH 7.5), 150 mM NaCl, 1 mM EDTA)で2回洗浄した後、0.5mg/mLのFLAGペプチド(F1804,シグマアルドリッチ社製) を含有させたIPバッファーで4℃、2時間撹拌した。その後、遠心分離処理によりアフィニティゲルを除去し、上清を回収した。
回収された上清を、Ultrafree-MC filter(ミリポア社製)でフィルター濾過した後、含有されているタンパク質を、nanoLC-MS/MS(nanoflow liquid chromatography tandem mass spectrometry)分析により同定した。マススペクトリデータの解析には、Dina(ケーワイエーテクノロジーズ社製)を組み合わせたQ-STAR Elite(エービー・サイエックス社製)を用いた。免疫共沈降したHEK293細胞(宿主細胞)のタンパク質の同定は、得られたMS/MSシグナルを、RefSeq(National Center for Biotechnology Informationヒトタンパク質データベース)と比較して行った。当該比較は、マスコットアルゴリズム(version 2.2.04;Matrix Science社製)を用い、下記の条件で行った:variable modifications, oxidation (Met), N-acetylation; maximum missed cleavages, 2; peptide mass tolerance, 200 ppm; MS/MS tolerance, 0.5 Da.)。タンパク質の同定は、マスコットスコアが有意に閾値を超えるMS/MSシグナルが少なくとも1つあることを条件とした。
【実施例】
【0035】
この結果、388個の宿主タンパク質がPB2タンパク質と免疫共沈降し、322個の宿主タンパク質がPB1タンパク質と免疫共沈降し、304個の宿主タンパク質がPAタンパク質と免疫共沈降し、351個の宿主タンパク質がHAタンパク質と免疫共沈降し、574個の宿主タンパク質がNPタンパク質と免疫共沈降し、675個の宿主タンパク質がNAタンパク質と免疫共沈降し、659個の宿主タンパク質がM1タンパク質と免疫共沈降し、531個の宿主タンパク質がM2タンパク質と免疫共沈降し、113個の宿主タンパク質がNS1タンパク質と免疫共沈降し、42個の宿主タンパク質がNS2タンパク質と免疫共沈降し、81個の宿主タンパク質がPB1-F2タンパク質と免疫共沈降した。つまり、合計1292個の宿主タンパク質が、11種のインフルエンザウイルスタンパク質のいずれかと免疫共沈降した。
【実施例】
【0036】
<siRNA>
次いで、免疫沈降により同定された1292個の宿主タンパク質をコードする遺伝子について、RNA干渉を行い、これらのタンパク質が実際にインフルエンザウイルスの増殖に関与するか否かを調べた。使用するsiRNAは、各宿主遺伝子について、それぞれ、ゲノムワイド Human siRNA Library(FlexiTube siRNA;キアゲン社製)から2種類を選択して用いた。また、ネガティブコントロールとして、AllStars Negative Control siRNA(キアゲン社製)(コントロールsiRNA)を用いた。また、WSNウイルスのNP遺伝子のsiRNA(GGA UCU UAU UUC UUC GGA GUU)は、シグマアルドリッチ社から購入した。
具体的には、まず、RNAiMAX Reagent(Invitrogen社製)を用いて、HEK293細胞に、2種類のsiRNAを25nMずつ(最終濃度:50nM)、2回トランスフェクションした。
【実施例】
【0037】
<細胞の生存性>
siRNAの2回目のトランスフェクションから24時間経過後の細胞の生存性を、CellTiter-Glo assay system(プロメガ社製)を添付の指示書に従って用いて調べた。コントロールsiRNAを導入した細胞の生細胞数に対する、各siRNAを導入した細胞の生細胞数の割合を、細胞生存率(%)として算出した。
【実施例】
【0038】
<qRT-PCR>
siRNAのトランスフェクション前とトランスフェクションから48時間経過後の細胞について、qRT-PCR(quantitative reverse transcription-PCR)を行い、siRNAにより標的の宿主遺伝子の発現が抑制されたかを確認した。
具体的には、まず、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクションから48時間経過後の細胞を、前記細胞溶解バッファーに溶解させてライセートを調製した。調製されたライセートから、Maxwell 16 LEV simplyRNA Tissue Kit(プロメガ社製)を用いて、総RNAを抽出し、これを鋳型として、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix(東洋紡社製)又はSuperScript III Reverse Transcriptase(Invitrogen社製)を用いて逆転写反応を行った。合成されたcDNAを鋳型とし、各宿主遺伝子に特異的なプライマーセットとTHUNDERBIRD SYBR qPCR Mix(東洋紡社製)を用いて、定量的PCRを行った。各宿主遺伝子のmRNA発現量レベルの比較は、β-アクチンを内在性標準物質とし、ΔΔCt法により算出した。コントロールsiRNAを導入した細胞におけるmRNA発現量に対する、各siRNAを導入した細胞におけるmRNA発現量の割合を、ノックダウン効率(%)として算出した。
【実施例】
【0039】
<ウイルスの増殖性>
2つの24ウェルディッシュに、前記<siRNA>と同様にしてsiRNAをHEK293細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクション後の細胞に50pfu(plaque-forming unit)のインフルエンザウイルスを感染させた。ウイルス感染から48時間経過後、培養上清を回収し、MDCK細胞を用いたプラークアッセイにより、ウイルスの力価を調べた。各siRNAを導入した細胞におけるウイルス力価の常用対数値を、コントロールsiRNAを導入した細胞におけるウイルス力価の常用対数値で割った値を、ウイルス力価の変化量として算出した。
【実施例】
【0040】
この結果、323個の宿主遺伝子において、siRNAのトランスフェクションにより遺伝子発現レベルが低下した。この323個のうち、25個の宿主遺伝子では、細胞の生存率はいずれも60%以上であり、細胞の増殖はあまり損なわれていないが、常用対数値で1以上インフルエンザウイルスの力価が向上した(すなわち、ウイルス力価の変化量が1以上)。前記25個の宿主遺伝子のウイルス力価の変化量、及び細胞生存率(%)を、表1に示す。これらの結果から、これらの25の遺伝子のうち少なくとも1の遺伝子の発現が抑制された培養細胞では、充分な増殖能を有し、かつインフルエンザウイルスの増殖能が高く、インフルエンザウイルス産生に好適であることが明らかである。
【実施例】
【0041】
【表1】
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【実施例】
【0042】
[実施例2]
アフリカミドリザル(Cercopithecus aethiops)の腎臓上皮細胞由来の培養細胞株Vero細胞に対して、表1に記載の25の遺伝子の発現量を低下させ、インフルエンザウイルスの増殖性に対する影響を調べた。
各遺伝子の発現量の低下は、HEK293細胞に代えてVero細胞を用いた以外は、実施例1で用いたsiRNAを用いて実施例1と同様にして行った。具体的には、実施例1の<siRNA>と同様にしてsiRNAをVero細胞にトランスフェクションし、2回目のトランスフェクション後の細胞に50pfuのインフルエンザウイルスを感染させた。ウイルス感染から48時間経過後、培養上清を回収し、MDCK細胞を用いたプラークアッセイにより、ウイルスの力価を調べた。各siRNAを導入した細胞におけるウイルス力価(pfu)を、コントロールsiRNAを導入した細胞におけるウイルス力価(pfu)で割った値を、ウイルス力価(コントロールに対する相対値(%))として算出した。算出結果を図1に示す。
【実施例】
【0043】
この結果、前記25種の遺伝子のうち、ACTG1遺伝子、ACTN1遺伝子、DAP3遺伝子、GNAI2遺伝子、GTF3C5遺伝子、KRT18遺伝子、MTCH1遺伝子、PRPS1遺伝子、RPS19遺伝子、S100A10遺伝子、SFRS7遺伝子、SLC2A12遺伝子、及びUSP10遺伝子の13種の遺伝子については、2種類のsiRNAのうちの少なくとも一方を導入した細胞において、コントロールsiRNAを導入した細胞よりもウイルス力価が高くなっていた。この結果から、これらの13種の遺伝子の発現を抑制することにより、サル由来の培養細胞においても、ヒト由来の培養細胞と同様にインフルエンザウイルス増殖促進効果が得られることが明らかである。
【実施例】
【0044】
なお、前記25種の遺伝子のうち、残りの12種の遺伝子については、siRNA導入によるインフルエンザウイルス増殖促進効果は確認できなかったが、これは、ヒトゲノムに基づいて作成されたsiRNAを使用したため、RNA干渉が不充分であり、各遺伝子の発現抑制がうまくいかなかったためと推察される。
【実施例】
【0045】
[実施例3]
イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の培養細胞株MDCK細胞に対して、表1に記載の25の遺伝子の発現量を低下させ、インフルエンザウイルスの増殖性に対する影響を調べた。
具体的には、Vero細胞に代えてMDCK細胞を用いたこと、及び各宿主遺伝子について、それぞれ、ゲノムワイド Human siRNA Libraryから2種類ではなく3種類のsiRNAを選択して用いたこと以外は、実施例1と同様にして、siRNAをトランスフェクションした細胞にインフルエンザウイルスを感染させて培養し、培養上清のウイルス力価の変化量(各siRNAを導入した細胞におけるウイルス力価の常用対数値を、コントロールsiRNAを導入した細胞におけるウイルス力価の常用対数値で割った値)を調べた。測定結果を表2に示す。
【実施例】
【0046】
【表2】
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【実施例】
【0047】
この結果、USP10遺伝子、KRT18遺伝子、PPP2R1A遺伝子、及びTMED2遺伝子の4種の遺伝子については、3種類のsiRNAのうちの少なくとも一種類のsiRNAを導入した細胞において、ウイルス力価の変化量が0.5以上であり、コントロールsiRNAを導入した細胞よりもウイルス力価が高くなっていた。この結果から、これらの4種の遺伝子の発現を抑制することにより、イヌ由来の培養細胞においても、ヒト由来の培養細胞と同様にインフルエンザウイルス増殖促進効果が得られることが明らかである。
【実施例】
【0048】
なお、25種の遺伝子のうち、前記4種以外の遺伝子については、siRNA導入によるインフルエンザウイルス増殖促進効果は確認できなかった。これは、ヒトゲノムに基づいて作成されたsiRNAを使用したため、RNA干渉が不充分であり、各遺伝子の発現抑制がうまくいかなかったためと推察される。
【実施例】
【0049】
[実施例4]
RGENにより、MDCK細胞中の表1に記載の25種の遺伝子のうち、KRT18遺伝子及びUSP10遺伝子の遺伝子破壊細胞を製造し、インフルエンザウイルスの産生能を調べた。
【実施例】
【0050】
具体的には、まず、各遺伝子について、塩基配列情報に基づいて染色体中の切断する標的配列を認識するガイドRNAを設計した。1つの標的遺伝子につき、2つのガイドRNAを設計した。次いで、ガイドRNAを細胞内で発現させるための発現ベクターと、Cas9エンドヌクレアーゼを細胞内で発現させるための発現ベクターとを、共にMDCK細胞に導入した後、薬剤による選択を行った。薬剤選択により生き残ったクローンから、1つのガイドRNAを導入した細胞につき0~20個のクローンを標的の遺伝子の遺伝子破壊細胞としてピックアップし、個別に培養した。作出した各遺伝子の遺伝子破壊MDCK細胞は、MEM(minimum essential medium)で、炭酸ガス培養器中で5%二酸化炭素雰囲気下、37℃で培養した。
【実施例】
【0051】
作出した遺伝子破壊MDCK細胞のインフルエンザウイルスの増殖効率を調べるために、各クローンを3穴ずつ、12穴プレートに播種し、炭酸ガス培養器中、37℃で数日間培養した。クローン当たり3穴ずつ播種したのは、triplicateで実験を行うためである。各穴の細胞について、コンフルエントになったのを確認した後、MEMで洗浄した後、0.1mLのインフルエンザウイルスをMOI(multiplicity of infection、細胞一個あたりのウイルスの感染個数)がおよそ0.001になるように感染させ、炭酸ガス培養器中、37℃で1時間培養した。培養後、各穴からウイルス液を除去し、1μg/mLトリプシンを含有するMEMを1mL/穴ずつ添加し、さらに炭酸ガス培養器中、37℃で2日間培養した。培養後の各穴の培養上清を回収し、MDCK細胞においてプラークアッセイを行い、ウイルス力価(pfu)を測定した。各遺伝子破壊MDCK細胞のウイルス力価(pfu)を、コントロール細胞(RGENにおいてガイドRNAを含まない発現ベクターを導入したMDCK細胞)におけるウイルス力価(pfu)で割った値を、ウイルス力価(コントロールに対する相対値(%))として算出した。算出結果を表3に示す。表3中の各クローンのウイルス力価(コントロールに対する相対値(%))は、3穴の結果の平均値とsdで示す。
【実施例】
【0052】
【表3】
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【実施例】
【0053】
表3に示すように、KRT18遺伝子及びUSP10遺伝子の遺伝子破壊細胞では、コントロール細胞に比べて高いウイルス力価を示し、コントロール細胞の3倍以上のウイルス力価を示すクローンもいくつかあった。これらの結果から、KRT18遺伝子又はUSP10遺伝子の機能を破壊した培養細胞では、インフルエンザウイルスの産生能が高まることが示された。
図面
【図1】
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