TOP > 国内特許検索 > シュワン細胞及びその調製方法 > 明細書

明細書 :シュワン細胞及びその調製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年6月29日(2017.6.29)
発明の名称または考案の名称 シュワン細胞及びその調製方法
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
A61K  35/30        (2015.01)
A61K  35/33        (2015.01)
A61K  35/44        (2015.01)
A61K  35/28        (2015.01)
A61P  25/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12N 5/10
A61K 35/30
A61K 35/33
A61K 35/44
A61K 35/28
A61P 25/00
C12N 15/00 A
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 32
出願番号 特願2016-547808 (P2016-547808)
国際出願番号 PCT/JP2015/075921
国際公開番号 WO2016/039462
国際出願日 平成27年9月11日(2015.9.11)
国際公開日 平成28年3月17日(2016.3.17)
優先権出願番号 2014186210
優先日 平成26年9月12日(2014.9.12)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】素輪 善弘
【氏名】岸田 綱郎
【氏名】松田 修
出願人 【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4C087
Fターム 4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB45
4C087BB48
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZA02
要約 本発明は、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を経由することなく、直接(ダイレクト・リプログラミングにより)シュワン細胞を得るための方法を提供することを課題とする。
斯かる課題を解決する手段として、哺乳動物の体細胞に、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を導入する工程を含む、シュワン細胞を調製する方法を提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
哺乳動物の体細胞に、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を導入する工程を含む、シュワン細胞を調製する方法。
【請求項2】
前記遺伝子が、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子の組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記体細胞が線維芽細胞、血管内皮細胞又は間葉系幹細胞である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
哺乳動物の体細胞に由来し、外来性のSOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を有するシュワン細胞。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の方法で得られる細胞、又は、請求項4に記載のシュワン細胞を含む、神経の欠損、又は、シュワン細胞の欠損、不足若しくは機能低下に基づく疾患を治療するための、移植材料。
【請求項6】
SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を含む、シュワン細胞を調製するための組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、シュワン細胞及びその調製方法に関し、詳しくはダイレクト・リプログラミングによるシュワン細胞の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シュワン細胞は、神経の再生に決定的に重要な役割を果たしているとされる。神経欠損やシュワン細胞の機能不全に関連する疾患も多く、これらの疾病に対して、自家シュワン細胞を移植することができれば理想的な再生医療になると期待される。実際、外傷や悪性腫瘍切除に起因する神経損傷に対しては、自家神経移植か、もしくは自家神経よりシュワン細胞を分離・培養して移植する治療が効果を上げている。しかし神経の採取は患者への侵襲が大きく、どうしても二次的な神経損傷を回避できない。また供給できるシュワン細胞の数が不十分なことが多い。
【0003】
非特許文献1及び2には、未分化脂肪幹細胞(ADSC)(脂肪由来間質細胞ともいう)を代表とする間葉系幹細胞を材料として、シュワン細胞様の細胞(dADSC)を分化する手法が開示されている。しかしながら、手法の性質上、外部からの感染の危険性があるため品質管理が容易ではなく、コストと手間がかかるとの問題がある。さらに、得られる細胞は、真のシュワン細胞とは形質や機能が異なることも指摘されている。また、これらの方法で作成したシュワン細胞は、ミエリン化能があるとは報告されておらず、跳躍伝導に貢献できない可能性がある。
【0004】
最近になって、心筋細胞や肝細胞などが、線維芽細胞から直接誘導できることが示された(ダイレクト・リプログラミングまたはダイレクト・コンヴァージョン)。もし、患者から低侵襲に採取できる線維芽細胞などの体細胞から、シュワン細胞を直接作り出すことができれば、侵襲が低く癌化の危険性も低い、新しい移植用自家シュワン細胞を作り出す技術につながると期待できる。
【0005】
体細胞に、組織特異的な転写因子の遺伝子群を導入して、iPS細胞を経ずに直接その組織細胞に分化誘導できること(ダイレクト・リプログラミング(ダイレクト・コンヴァージョン))について、たとえば、以下の報告がある:
マウス線維芽細胞→軟骨細胞(SOX9 +Klf4 +c‐Myc遺伝子を導入)
マウス線維芽細胞→心筋細胞(GATA4 +Mef2c +Tbx5遺伝子を導入)
マウス線維芽細胞→肝細胞(Hnf4α+(Foxa1またはFoxa2またはFoxa3)遺伝子を導入)
マウス線維芽細胞→神経幹細胞(Sox2 +FoxG1遺伝子を導入など)、
マウス、ヒト細胞→造血幹細胞など。
【0006】
しかし、体細胞をシュワン細胞にダイレクト・コンヴァージョンしたという報告はない。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】Kingham PJ, DF Kalbermatten, D Mahay,et al: Adipose-derived stem cells differentiate into a Schwann cell phenotype andpromote neurite outgrowth in vitro. ExpNeurol, 2007; 207:267-274.
【非特許文献2】Liu Y, Zhang Z, Qin Y, Wu H, Lv Q, Chen X, Deng W: A new method for Schwann-like cell differentiation of adipose derived stem cells. Neurosci Lett. 2013 Sep 13;551:79-83.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、神経欠損やシュワン細胞の機能不全に関連する疾患などに対する治療に応用可能で、癌化の危険性が少ないシュワン細胞を調製する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、哺乳動物の体細胞に特定の遺伝子を組み合わせて導入することで、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を経由することなく、直接(ダイレクト・リプログラミングにより)シュワン細胞が得られることを見出した。
【0010】
本発明は、以下の発明を包含する。
【0011】
項1、哺乳動物の体細胞に、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を導入する工程を含む、シュワン細胞を調製する方法。
【0012】
項2、前記遺伝子が、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子の組み合わせである、項1に記載の方法。
【0013】
項3、前記体細胞が線維芽細胞、血管内皮細胞又は間葉系幹細胞である、項1又は2に記載の方法。
【0014】
項4、哺乳動物の体細胞に由来し、外来性のSOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を有するシュワン細胞。
【0015】
項5、項1~3のいずれかに記載の方法で得られる細胞、又は、項4に記載のシュワン細胞を含む、神経の欠損、又は、シュワン細胞の欠損、不足若しくは機能低下に基づく疾患を治療するための、移植材料。
【0016】
項6、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を含む、シュワン細胞を調製するための組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、ダイレクト・リプログラミングにより体細胞から短期間でシュワン細胞を提供できる。このシュワン細胞は、移植する本人の体細胞から容易に誘導できるので、得られたシュワン細胞を移植した場合にも免疫学的な拒絶応答などの問題は生じない。また、iPS細胞やES細胞を経由することなく直接体細胞からシュワン細胞を誘導できるため、癌化などの多能性幹細胞に起因する問題を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の方法の一例の概要を示す。
【図2】代表的なS100βの染色性像を示す。
【図3】S100βの染色性による4段階の典型例を示す。
【図4A】細胞形態による評価結果を示す。HDF、cSC及びdSCの細胞形態の典型例を示す。
【図4B】細胞形態による評価結果を示す。
【図5A】シュワン細胞関連マーカー(p75NTR)の免疫染色の一例を示す。
【図5B】シュワン細胞関連マーカー(GFAP)の免疫染色の一例を示す。
【図5C】シュワン細胞関連マーカー(Nestin)の免疫染色の一例を示す。
【図5D】シュワン細胞関連マーカー(NG2)の免疫染色の一例を示す。
【図6】S100βとp75NTR遺伝子のmRNA発現量の測定結果を示す。
【図7A】神経細胞に対する神経突起伸長効果の評価結果を示す。線維芽細胞HDF、正常シュワン細胞(cSC、陽性コントロール)及びdSCのそれぞれと共培養した、蛍光ラべルをしたNG108-15神経細胞の一例を示す。矢印は、伸長した神経突起を示す。
【図7B】神経細胞に対する神経突起伸長効果の評価結果を示す。
【図8】Plasmid導入(エレクトロポーション)によるコンバージョンにおける、シュワン細胞関連マーカー(S100β、p75NTR、GAP43)の免疫染色の一例を示す。
【図9A】誘導前のヒト正常脂肪由来幹細胞(ADSC)の位相差像、並びに、シュワン細胞へのInduction(誘導)後の位相差像及びS100βの染色性像を示す。200倍拡大。
【図9B】シュワン細胞関連マーカー(S100β、GAP43、p75NTR、Protein Zero(PO))の免疫染色の一例を示す。100倍拡大。
【図10A】誘導前の臍帯血管内皮細胞(Huvec)の位相差像、並びに、シュワン細胞へのInduction(誘導)後の位相差像及びS100βの染色性像を示す。200倍。
【図10B】シュワン細胞関連マーカー(S100β、GAP43、p75NTR)の免疫染色像の一例を示す。100倍拡大。
【図11A】ミエリンマーカー(Protein Zero(P0))の免疫染色像の一例を示す。
【図11B】ミエリンマーカー(Myelin basic protein(MBP))の免疫染色像の一例を示す。
【図12A】坐骨神経crushモデルを用いた評価試験の概要を示す。
【図12B】シュワン細胞関連マーカーを用いた免疫染色像の一例を示す。
【図12C】シュワン細胞関連マーカーを用いた免疫染色像の一例を示す。
【図13A】免疫不全マウス坐骨欠損モデルへのdSCの移植試験の概要を示す。
【図13B】架橋された神経のマクロ像を示す。
【図13C】再生神経組織横軸切片のミエリン染色像を示す。
【図13D】坐骨神経機能インデックス(SFI)の評価結果を示す。
【図13E】Innervated muscleの萎縮及び線維化の評価結果を示す。
【図14】神経栄養因子(neurotrophic factors: BDNF, GDNF, NGF)の産生を示す。ELISA法により測定した。*p<0.05 vs. Control; **p<0.01 vs. Control; #p<0.05 vs. cSC.【0019】
なお、図2、図3、図4A、図5A~D、図7A、図8、図9A及びB、図10A及びB、図11A及びB、並びに、図12B~Cは、色反転画像を併せて示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、シュワン細胞の調製方法に関する。本発明の調製方法は、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞を経由することなく、シュワン細胞を調製するための方法である。

【0021】
シュワン細胞
シュワン細胞は、末梢神経系におけるグリア細胞である。生理条件下では、神経組織の支持、ミエリン(髄鞘)を形成して跳躍伝導の実現などに寄与する。末梢神経での損傷に際しては、神経栄養因子の産出及び放出、再生軸索に対する足場、ミエリン形成などの末梢神経再生における多くの重要な役割を果たす。

【0022】
天然のシュワン細胞は、外胚葉に直接由来する神経細胞とは異なり、神経堤に由来する。成熟したシュワン細胞は、シュワン前駆細胞、未成熟シュワン細胞を経て形成される。本明細書では、簡単のために、これらの分化過程の途中の全ての細胞は「シュワン細胞」に包含される。

【0023】
また、シュワン細胞には、ミエリンを形成するシュワン細胞、ミエリンを形成しない遊走性のシュワン細胞(未分化シュワン細胞)などがあり、本明細書ではこれら全てが「シュワン細胞」に包含される。

【0024】
本明細書では、天然のシュワン細胞と同一の細胞だけではなく、細胞の機能の一部又は全てが天然のシュワン細胞と同一視しうる細胞(「シュワン細胞様の細胞」と呼ぶこともできる。)を含めて、「シュワン細胞」と呼ぶ。

【0025】
体細胞
体細胞は、哺乳動物由来であればよい。特に、哺乳動物由来であって、シュワン細胞そのもの及び生体内でシュワン細胞へと分化する能力を有する細胞でない細胞が好ましい。シュワン細胞を生体に移植する場合には、移植される被験体由来の体細胞(自家細胞)を用いることが、感染や拒絶応答等の危険を低減させるために好ましい。しかしながら、突然の神経の損傷などに対して移植するなどの目的の場合、自家細胞でなく、他人や他の動物の体細胞からあらかじめ準備しておいたシュワン細胞を移植に用いることができる。またはあらかじめ準備しておいた他人や他の動物の体細胞からシュワン細胞を作り、移植に用いることができる。すなわち、シュワン細胞バンクのバンク(シュワン細胞前駆細胞のバンクを含む。)を作っておき移植目的に供することができる。このような場合、拒絶応答等の危険を低減させるために、あらかじめMHCをタイピングしておくことができる。また、あらかじめシュワン細胞の細胞特性や造腫瘍性などを確認しておくことができる。

【0026】
本明細書において、哺乳動物としては、マウス、ラット、ハムスター、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタなどが挙げられ、特にヒトが挙げられる。

【0027】
本発明の方法(ダイレクト・リプログラミング)の対象となる体細胞としては、特に限定されるものではない。

【0028】
体細胞は、容易に生体より採取できる体細胞を使用することができる。例えば線維芽細胞、ケラチノサイト、口腔粘膜上皮細胞、鼻腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、胃粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、歯肉細胞(歯肉線維芽細胞、歯肉上皮細胞)、歯髄細胞、歯根膜細胞、骨髄細胞、骨髄由来間質細胞、白血球、リンパ球、筋細胞、結膜上皮細胞、破骨細胞などが挙げられ、好ましくは線維芽細胞、ケラチノサイト、口腔粘膜上皮細胞、歯肉細胞、白血球、リンパ球などが挙げられる。本発明において、生体から採取した上記の細胞を用いることが好ましい。

【0029】
「生体」とは、胚(胎児)、幼生、幼体、成体のみならず、母体と胎児を連結する胎盤、臍帯をも包含する。臍帯血管内皮細胞などの臍帯由来の細胞や胎盤由来の細胞は、厳密には体細胞ではないが、これらも本発明の「体細胞」に包含される(その際には、「体細胞」を「臍帯血管内皮細胞」、「臍帯由来細胞」、「胎盤由来細胞」等と読み替えるものとする。これらの細胞は、採取の容易さの観点から、好ましい体細胞の一例である。

【0030】
また、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC)、神経幹細胞(Neural stem cell)、肝幹細胞(hepatic stem cell)、腸幹細胞、皮膚幹細胞、毛包幹細胞、色素細胞幹細胞などの体性幹細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて作製した体細胞も挙げられる。また、さまざまな体細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて別の体細胞に誘導した細胞も挙げられる。また、生殖系列の細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて誘導した体細胞も挙げられる。

【0031】
また、胎性幹細胞(Embryonic stem cell:ES細胞)や人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)から分化誘導し、あるいはリプログラミングさせて誘導した体細胞も挙げられる。

【0032】
また、上記の分化をした体細胞以外に、体性幹細胞を用いることもできる。ここで、幹細胞とは、自己複製能及び別の種類の細胞に分化する能力を有する細胞である。具体的には、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell: MSC)(例えば、脂肪由来間質細胞(ADSC: adipose derived stromal cell))、神経幹細胞(Neural stem cell)、肝幹細胞(hepatic stem cell)、腸幹細胞、皮膚幹細胞、毛包幹細胞、色素細胞幹細胞などの体性幹細胞が例示される。

【0033】
また、厳密には体細胞ではないが、ES細胞、iPS細胞、あるいは生殖系列の細胞も本発明の「体細胞」に包含される(その際には、「体細胞」を「ES細胞」、「iPS細胞」あるいは「生殖系列の細胞」と読み替えるものとする)。

【0034】
また、培養細胞も挙げられ、培養細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて誘導した体細胞も挙げられる。また、ES細胞、iPS細胞、あるいは生殖系列の細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて誘導した体細胞も挙げられる。

【0035】
本発明の好ましい一つの態様において、体細胞は線維芽細胞、血管内皮細胞(特に、臍帯血管内皮細胞)又は間葉系幹細胞(特に、脂肪由来間質細胞)である。

【0036】
遺伝子若しくはその発現産物
本発明の方法では、体細胞にSOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を導入する。ここで、「発現産物」としては、SOX10遺伝子及び/又はKROX20遺伝子のmRNA又はタンパク質が挙げられる。

【0037】
使用することができる遺伝子の組み合わせとしては、SOX10遺伝子のみ、KROX20遺伝子のみ、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子の組み合わせが包含される。シュワン細胞を得ることができる効率の観点から、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子の組み合わせが好ましい。

【0038】
本発明の方法において、SOX10遺伝子及び/又はKROX20遺伝子の1種若しくは2種以外の遺伝子を、併せて使用することもできる。また、マイクロRNA、siRNA、shRNAやそれらを発現するDNAを併せて使用することもできる。また、種々のタンパク質を併せて使用することもできる。また、種々の他の遺伝子と共に導入することもできる。シュワン細胞を得ることができる効率の観点、及び簡便性のから、1種又は2種、特にSOX10遺伝子及びはKROX20遺伝子の2遺伝子のみを使用することが好ましい。

【0039】
SOX10遺伝子は、SOX(SRY-related HMG-box)ファミリーに属する、胚性期の発生における細胞運命の決定の制御に関与する転写因子をコードする。

【0040】
KROX20遺伝子(別名、EGR2、AT591、CMT1D、CMT4E)は、3つのC2H2型ジンクフィンガー(zinc fingers)を有するタンパク質をコードする。

【0041】
上記遺伝子は、いずれも、脊椎動物で高度に保存されている遺伝子であり、本明細書では、特に動物名を示さない限り、ホモログを含めた遺伝子を表すものとする。また、polymorphism(多型)を含め、変異を有する遺伝子であっても、野生型の遺伝子産物と同等の機能を有する遺伝子もまた、含まれるものとする。

【0042】
例えば、ヒト(Homo sapiens)及びマウス(Mus musculus)のSOX10遺伝子及びKROX20遺伝子のcDNA塩基配列及びこれがコードするタンパク質のアミノ酸配列は、米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供するGenBankに、下記のアクセッション番号で登録されている(複数のリビジョン(revision)が登録されている場合、最新のリビジョンを指すと理解される。):
ヒトSOX10遺伝子cDNA配列:NM_006941(例えば、NM_006941.3)、
ヒトSOX10タンパク質アミノ酸配位列:NP_008872(例えば、NP_008872.1);
マウスSox10遺伝子cDNA配列:NM_011437(例えば、NM_011437.1)、
マウスSOX10タンパク質アミノ酸配位列:NP_035567(例えば、NP_035567.1);
ヒトKROX20遺伝子cDNA配列:NM_000399、NM_001136177、NM_001136178、NM_001136179(例えば、NM_000399.3、NM_001136177.1、NM_001136178.1、NM_001136179.1)、
ヒトKROX20タンパク質アミノ酸配位列:NP_000390、NP_001129649、NP_001129650、NP_001129651(例えば、NP_000390.2、NP_001129649.1、NP_001129650.1、NP_001129651.1);
マウスKrox20遺伝子cDNA配列:NM_010118(例えば、NM_010118.3)
マウスKROX20タンパク質アミノ酸配位列:NP_034248(例えば、NP_034248.2)。

【0043】
導入
本発明の方法は、特定の遺伝子を選択することと、シュワン細胞に適した培地を用いること以外は、公知のダイレクト・リプログラミングの手法に準じて行うことができ、例えば以下のいずれかの文献の方法に準じて行うことができる:
1: Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytesby Defined Factors; Masaki Ieda, Ji-Dong Fu, Paul Delgado-Olguin, Vasanth Vedantham, Yohei Hayashi, Benoit G. Bruneau, and Deepak Srivastava Cell 142: 375-386, 2010.
2: Direct conversion of fibroblasts to functional neurons by defined factors. Thomas Vierbuchen, Austin Ostermeier, Zhiping P. Pang, Yuko Kokubu, Thomas C. Sudhof& Marius Wernig. Nature 463: 1035-1041, 2010
3: Induction of human neuronal cells by defined transcription factors. Pang ZP, Yang N, Vierbuchen T, Ostermeier A, Fuentes DR, Yang TQ, Citri A, Sebastiano V, Marro S, Sudhof TC, Wernig M. Nature 476: 220-223, 2011.
4: Generation of hyaline cartilaginous tissue from mouse adult dermal fibroblast culture by defined factors Kunihiko Hiramatsu, Satoru Sasagawa, Hidetatsu Outan
i, Kanako Nakagawa, Hideki Yoshikawa, and Noriyuki Tsumaki, Journal of Clinical Investigation, 121: 640-657, 2011.
5: Induction of functional hepatocyte-like cells from mouse fibroblasts by defined factors. Pengyu Huang, Zhiying He, Shuyi Ji, Huawang Sun, Dao Xiang, Changcheng Liu, Yiping Hu, XinWang & Lijian Hui, . Nature 475:386-389, 2011.
6: Direct conversion of mouse fibroblasts to hepatocyte-like cells by defined factors. Sayaka Sekiya & Atsushi Suzuki. Nature 475:390-393, 2011.
7: 国際公開公報WO2014/010746号
上記の文献1~7の内容は本明細書に参考として援用される。

【0044】
具体的には、目的遺伝子を、1又は複数の発現ベクターに組み込み、対象とする体細胞に発現ベクターを導入し、細胞内で発現させることが好ましい。

【0045】
遺伝子を導入する方法としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクターなどのウイルス性ベクターを感染させる方法が挙げられる。その他に、遺伝子とその発現産物の導入の場合には、カチオニック・リポソーム、カチオニック・ポリマー、電気穿孔法等の非ウイルスベクターで、プラスミドベクターやエピゾーマルベクター、遺伝子の発現産物(mRNA、タンパク質)をトランスフェクションする方法も用いることができる。また、mRNAを導入することもできる。これら遺伝子導入に用いる手段をすべて包括して、本明細書ではベクターと呼ぶ。

【0046】
導入効率と導入遺伝子の安定保持の観点からはウイルスベクターが好ましく、癌化のリスクを抑えるためにはプラスミドが好ましい。

【0047】
また、目的の遺伝子とともに薬剤選択マーカーとなる遺伝子(ピューロマイシン耐性、ブラストサイジンS耐性、ネオマイシン耐性、ハイグロマイシン耐性など)を導入し、その後薬剤選択を行うことによって、目的遺伝子を発現する細胞を選択してから用いることができる。

【0048】
本発明の遺伝子の導入は、プラスミドで行ってもよく、ウイルスベクター、たとえばレトロウイルスベクターを用いてもよい。導入効率と導入遺伝子の安定保持の観点からはウイルスベクターが好ましく、癌化のリスクを抑えるためにはプラスミドが好ましい。

【0049】
体細胞に導入される遺伝子はLTRプロモーターにより転写させることもできるし、ベクター内部の別のプロモーターから発現させてもよい。例えばCMVプロモーター、EF-1αプロモーター、CAGプロモーターなどの構成的発現プロモーター、または所望の誘導性プロモーターを利用することができる。また、LTRの一部を他のプロモーターに置換したキメラプロモーターを利用してもよい。

【0050】
また、導入因子が遺伝子の発現産物(例えばタンパク質)の場合には、Protein Transduction Domain(PTD)と呼ばれるペプチドなどを発現産物である蛋白質に結合させ、培地に添加することにより、体細胞内に導入してもよい。

【0051】
本発明の方法の態様の一つにおいて、体細胞へ遺伝子等を導入後、導入がされた細胞をシュワン細胞の培養に適した培地中で培養することができる。シュワン細胞の培養に適した培地としては公知のものを使用することができる。例えば、10%FBS(fetal bovine serum)を添加したDMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's Modied Eagle's Medium))などの通常培地に、1~20 μM程度(特に、5 μM程度)のforskolin;2~50 ng/ml程度(特に、10 ng/ml程度)のbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子、basic fibroblast growth factor);2~50 ng/ml程度(特に、10 ng/ml程度)のPDGF(Platelet-Derived Growth Factor);50~1000 ng/ml程度(特に、200 ng/ml程度)のhuman neuregulin-β1(別名、heregulin、GGF(Glial growth factor))などの成分の1種または2種以上(好ましくは、全て)を含む培地(シュワン細胞誘導培地)を使用することができる(以上の濃度は、いずれも終濃度である)。一例として、非特許文献1又は2に記載の培地(未分化脂肪幹細胞からシュワン細胞を誘導できる培地)を使用することができる。

【0052】
培養期間は特に限定されるものではないが、例えば、12時間~1ヶ月程度、1日~3週間程度、3日間~2週間程度とすることができる。必要に応じて、培地交換を行うことができる。培養条件は、常法に準じることが好ましい。

【0053】
調製
かくして、体細胞からシュワン細胞が誘導され、シュワン細胞が調製される。

【0054】
調製されたシュワン細胞は、ある態様においては、外来性のSOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を有する。ここで、「外来性」とは、主に上記の導入手段の結果導入された遺伝子又はその発現産物の態様であって、天然の態様とは異なる態様を指す。例えば、天然のプロモーター以外のプロモーターに発現を制御される遺伝子、天然以外の染色体上の位置、若しくは、染色体外に存在する遺伝子の態様などが挙げられる。

【0055】
シュワン細胞が得られたことは、形態(例えば、細胞幅と細胞長との比。)の観察と評価;S100β、p75NTR、GFAP、Nestin、NG2などのシュワン細胞特異的マーカーの発現の検出(例えば、RT-PCR法などによるマーカーの遺伝子発現の検出、免疫染色などによるマーカータンパク質の発現の検出などが挙げられる。);神経栄養因子の産生;共培養した神経細胞に対する神経突起伸長の効果やミエリン形成能などのシュワン細胞としての機能の評価等が例示される。

【0056】
シュワン細胞は、典型的には、比較的小型の核を有する双極、もしくは多極性の細胞形態を有する。

【0057】
シュワン細胞特異的マーカーのうち、p75NTRは未分化シュワン細胞のマーカーである。

【0058】
ミエリンが形成されたことは、Myelin Protein Zero(MPZ、P0)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP: Myelin Basic protein)などのミエリン細胞のマーカーの検出、ミエリンの形態の観察などにより確認をすることができる。

【0059】
シュワン細胞は、シュワン細胞以外の細胞(例えば、元の体細胞。)との混合物として得られる場合がある。このような場合、シュワン細胞とシュワン細胞以外の細胞とを、必要に応じて、分離することができる。分離をするための手段は特に限定されない。例えば、得られたシュワン細胞と元の細胞である線維芽細胞とを分離する場合、足場(例えば、コラーゲンなど。)に対する細胞の接着性の差に基づいて分離をすることができる。一般に、シュワン細胞は線維芽細胞に比して、足場に対する接着性が弱い。また、ソーティングによってシュワン細胞とシュワン細胞以外の細胞とを分離することもできる。

【0060】
本発明により調製されたシュワン細胞は、例えば、後述の移植材料として好適に用いる
ことができる。

【0061】
本発明により調製されたシュワン細胞はまた、シュワン細胞を用いたさまざまな研究や技術開発等に用いることができる。たとえばシュワン細胞の発生、分化、形態形成の機構、これらに対する力学的ストレス、栄養、ホルモンなどの影響の解析などの基礎研究に有用である。

【0062】
本発明により調製されたシュワン細胞を用いれば、さまざまな疾患や遺伝的背景を有するヒトや動物から簡便、迅速、安価にシュワン細胞を樹立できるので、疾患や遺伝的背景に関連したシュワン細胞の異常を生化学的、分子生物学的、免疫学的等手法により解析することが可能であり、これにより疾患の発症機序の解明などの研究や診断法の開発に役立てることができる。またこのようなシュワン細胞を用いて、薬剤の開発、薬剤の毒性試験等を行えば、種々の疾患に対する新規治療法の開発に役立てることができる。

【0063】
移植材料
本発明により得られるシュワン細胞は、種々の疾患を治療するために用いることができる。この場合、シュワン細胞は移植材料の形態で提供されうる。

【0064】
移植材料とは、神経線維の修復、再建のために生体内に導入する、シュワン細胞を含有する材料をいう。本発明で得られたシュワン細胞は、移植材料の作製に使用することができる。シュワン細胞自体も移植材料になる。したがって、シュワン細胞を細胞製剤として患者に移植することもできるし、人工材料からなる基材(スキャホルド)とともに移植したり、スキャホルドとともに培養してから移植することができる。基材(スキャホルド)は、例えば、神経架橋として働く。これらの場合、スキャホルドは移植目的に応じて様々な3次元的な形状を作らせることができる。

【0065】
本発明の移植材料は、前述のシュワン細胞の調製方法を工程として含む方法により、製造することができる。

【0066】
基材(スキャホルド)の具体例として、ポリグリコール酸(PGA)チューブ、コラーゲンチューブ、フィブリン朔(Fibrin glue) 、ポリマーフォームチューブ、ゼラチンチューブ、ポリグリコール酸(PGA)とコラーゲンを組み合わせたチューブなどが挙げられる。ポリグリコール酸(PGA)とコラーゲンを組み合わせたチューブとして、「ナーブブリッジ」(東洋紡株式会社製)などの市販品を使用することもできる。

【0067】
移植材料は、自家神経移植、又は、自家神経よりシュワン細胞を分離培養して移植する治療に準じて使用することができる。このような方法は、下記の文献に記載されている:
1: Hadlock T, Sundback C, Hunter D, Cheney M, Vacanti JP. A polymer foam conduit seeded with Schwann cells promotes guided peripheral nerve regeneration. Tissue Eng 2000;6:119-127.
2: Jesuraj NJ, Santosa KB, Macewan MR, Moore AM, Kasukurthi R, Ray WZ, Flagg ER, Hunter DA, Borschel GH, Johnson PJ, Mackinnon SE, Sakiyama-Elbert SE. Schwann cells seeded in acellular nerve grafts improve functional recovery. Muscle Nerve.2014 Feb;49(2):267-76.
3: Tabesh H, Amoabediny G, Nik NS, Heydari M, Yosefifard M, Siadat SO, Mottaghy K. The role of biodegradable engineered scaffolds seeded with Schwann cells for spinal cord regeneration. Neurochem Int. 2009 Feb;54(2):73-83.
4: Novikova LN, Pettersson J, Brohlin M, Wiberg M, Novikov LN. Biodegradable poly-beta-hydroxybutyrate scaffold seeded with Schwann cells to promote spinal cord repair. Biomaterials. 2008 Mar;29(9):1198-206.
5: Guest J, Santamaria AJ, Benavides FD. Clinical translation of autologous Schwann cell transplantation for the treatment of spinal cord injury. Curr Opin Organ Transplant. 2013 Dec;18(6):682-9.
6: Brook GA, Lawrence JM, Shah B, Raisman G. Extrusion transplantation of Schwann cells into the adult rat thalamus induces directional host axon growth. Exp Neurol. 1994 Mar;126(1):31-43.
7: Vaudano E, Campbell G, Hunt SP. Change in the molecular phenotype of Schwann cells upon transplantation into the central nervous system: down-regulation of c-jun. Neuroscience. 1996 Sep;74(2):553-65.
8: Keirstead HS, Ben-Hur T, Rogister B, O'Leary MT, Dubois-Dalcq M, Blakemore WF. Polysialylated neural cell adhesion molecule-positive CNS precursors generate both oligodendrocytes and Schwann cells to remyelinate the CNS after transplantation. J Neurosci. 1999 Sep 1;19(17):7529-36.
9: Wan H, An YH, Sun MZ, Zhang YZ, Wang ZC. Schwann cells transplantation promoted and the repair of brain stem injury in rats. Biomed Environ Sci. 2003 Sep;16(3):212-8.
10: Chen L, Fan X, Jin G, Wan X, Qiu R, Yi G, You Y, Xu Q. Treatment of rat with traumatic brain injury and MR tracing in vivo via combined transplantation of bone marrow stromal cells labeled with superparamagnetic iron oxide and Schwann cells. J Biomed Nanotechnol. 2014 Feb;10(2):205-15.
11: Shields SA, Blakemore WF, Franklin RJ. Schwann cell remyelination is restricted to astrocyte-deficient areas after transplantation into demyelinated adult rat brain. J Neurosci Res. 2000 Jun 1;60(5):571-8.。

【0068】
上記の文献1~11の内容は本明細書に参考として援用される。

【0069】
上記の治療する対象となる疾患としては、脳梗塞、脊椎損傷などによる中枢神経の欠損若しくは損傷、外傷や神経炎や腫瘍の切除等に伴う末梢神経の欠損若しくは損傷;多発性硬化症 視神経脊髄炎(Devic症候群)、同心円硬化症(Balo病)、急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis、ADEM)、炎症性広汎性硬化症(Schilder病)、感染性 亜急性硬化症全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis、SSPE)、進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy、PML)などの中枢神経系の疾患;ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発根神経炎などの末梢神経系の疾患;Charcot-Marie-Tooth disease(CMT)などのシュワン細胞欠損、不足もしくは機能低下に基づく疾患などが挙げられる。

【0070】
本明細書において、特に明示のない限り、「治療」という用語は、患者が特定の疾患又は障害を患っている間に行う処置を意図し、これによって疾患若しくは障害の重症度、又は1つ若しくは複数のその症状が軽減されるか、又は疾患若しくは障害の進行が遅延又は減速することを意味する。本明細書において、「治療」には「予防」を含むものとする。

【0071】
本発明で得られるシュワン細胞はまた、疾患の治療に限らず、美容や機能増強の目的でで用いることもできる。その際、ヒトに対する処置も、本明細書では便宜上治療と呼び、「患者」は「健常者」あるいは「ヒト」、「疾患」は「美容」若しくは「機能」と読み替えることができる。

【0072】
本発明はまた、ヒトだけでなく、イヌ、ネコ等の愛玩動物やウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ニワトリ等の家畜を含む哺乳動物の疾患の治療にも用いることが可能である。その場合、「患者」を「患畜」あるいは「哺乳動物」と読み替えることとする。

【0073】
組成物
前述するように、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を体細胞に導入することにより、シュワン細胞を調製できる。従って、本発明は、さらに、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を含む、シュワン細胞を調製するための組成物を提供する。当該シュワン細胞を調製するための組成物は、体細胞からシュワン細胞を誘導するために使用される因子を含むものであり、上記遺伝子又はその発現産物が体細胞に導入可能な形態で含まれていることが望ましい。上記遺伝子が体細胞に導入可能な形態として、具体的には、上記遺伝子が組み込まれたベクターが例示される。ここで、上記遺伝子は、各々別のベクターに組み込まれていてもよく、1つのベクターに2種以上の遺伝子が同時に組み込まれていてもよい。

【0074】
使用することができるベクターの種類等については、前述の通りである。

【0075】
インビボ(in vivo)でのダイレクト・リプログラミング
前述するように、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を体細胞に導入することにより、シュワン細胞を調製できる。

【0076】
ここで、神経の損傷時には、損傷部には線維芽細胞が集積する。集積した線維芽細胞は、その後線維性の瘢痕を形成する。

【0077】
従って、本発明の調製方法を応用して、神経の損傷部の線維芽細胞に、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を導入することで、当該損傷部においてシュワン細胞をダイレクト・リプログラミングによって誘導し、もって神経損傷の治療や神経の再生に寄与することができる。SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物の導入においては、上記の本発明の組成物を好適に使用することができる。

【0078】
本発明の調製方法は、インビトロ(in vitro)でのダイレクト・リプログラミングに加えて、上記のようなインビボ(in vivo)でのダイレクト・リプログラミングをも包含すると理解される。

【0079】
インビボ(in vivo)でのダイレクト・リプログラミングは、神経の損傷部の線維芽細胞に、SOX10遺伝子及びKROX20遺伝子からなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子又はその発現産物を導入する以外は、例えば下記の文献に記載のインビボ(in vivo)での心筋細胞へのダイレクト・リプログラミングに準じて行うことができる。
1: Ieda M. Heart regeneration using reprogramming technology. Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2013;89(3):118-28. Review.
2: Ieda M, Fu JD, Delgado-Olguin P, Vedantham V, Hayashi Y, Bruneau BG,Srivastava D. Direct reprogramming of fibroblasts into functional cardiomyocytes by defined factors. Cell. 2010 Aug 6;142(3):375-86.
3: Qian L, Huang Y, Spencer CI, Foley A, Vedantham V, Liu L, Conway SJ, Fu JD, Srivastava D. In vivo reprogramming of murine cardiac fibroblasts into induced cardiomyocytes. Nature. 2012 May 31;485(7400):593-8.
上記の文献1~3の内容は本明細書に参考として援用される。
【実施例】
【0080】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例だけに限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
実施例中、HDFはヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblast)を示す。cSCは、対照の生体から採取した培養シュワン細胞(cultured Schwann cells)を示す。dSCは、本発明の方法により得たシュワン細胞(directly reprogrammed Schwann cells)を示す。
【実施例】
【0082】
Contは、対照(Control)を示す。
【実施例】
【0083】
実施例1 方法の概略(図1)
図1に、本発明のシュワン細胞(図中、「directly reprogrammed Schwann cell: dSC」)を調製するための方法の概略を示す。
【実施例】
【0084】
レトロウイルスベクタープラスミドpMXs.puroに、SOX10等の種々の遺伝子のcDNAコーディング配列をGene artシステムを用いて組み込んだ。パッケージング細胞 Plat GP細胞を、100U/mL Penicillinと100μg/ml Streptomycinを含んだ1% NEAA 10% FBS DMEM(通常培地)に縣濁し、ゼラチンコートした10cm培養ディシュにディシュあたり5×106 個の濃度で播種した(第-3日)。24時間培養後、種々の遺伝子を含むpMXsベクターを、種々の組み合わせで、pCMV VSVベクターと伴に、X-tremeGENE 9を用いて以下の比で導入した。すなわち導入遺伝子5μg、pCMV.VSV 2.5μg、Opti-MEM 500μl、X-tremeGENE 9 22.5μlの混和液を10mlの培地入りの10cmディシュに添加した(第-2日)。24時間後、抗生剤を含まない通常培地に交換(第-1日)。同日(第-1日)に、ヒト正常皮膚線維芽細胞株(aHDF)(図中、「fibroblast」)を、1.5×104~2×104cells/mLで培養ディッシュまたは12 wellプレートに播種した。24時間後(第0日)、Plat GP培養上清を、ポアの直径が0.45μmのシリンジフィルターを通した後、ポリブレン(最終濃度4μg/mL)と混和した(ウイルス液)。aHDFの培養上清を吸引除去した後、すばやく上記のウイルス液を1mL加え24時間培養した(感染;図中、「transfection」)。コントロール群として、ウイルス感染を行わない細胞も準備した。1日後(第1日)、培養上清を吸引除去し、シュワン細胞誘導培地(通常培地に5 mM forskolin,10 ng/ml recombinant human basic fibroblast growthfactor (bFGF), 5 ng/ml recombinant human platelet-derived growth factor (PDGF) and 200ng/ml recombinant human heregulin1-b1(GGF)(いずれも最終濃度)を加えたもの)を加えその後2日おきに同じ組成の新しい培養液に交換した。第 12-22日に、得られた細胞について、シュワン細胞の代表的なマーカーであるS100β染色を行った。レトロウイルスクターを感染させずに、同じ培養を行った細胞をControlとした。
【実施例】
【0085】
実施例2 ヒト正常皮膚線維芽細胞からシュワン細胞へのコンバージョン、S100β蛍光免疫染色像(表1)(図2)
ヒト正常皮膚線維芽細胞(aHDF)を、12 wellプレートに培養し、実施例1に記載の操作を行った。第14日に各ウェルから培養液を吸引除去し、PBSで1回洗浄を行った後、4%PFAで固定。ブロッキング溶液を加え、37℃で15分間静置した。抗S100β抗体(1次抗体)とAlexaFluor566標識抗ウサギIgG抗体(2次抗体)で染色した細胞である。プレートの各ウェルには異なる遺伝子の組み合わせが導入されており、どのナンバーのウェルにどの遺伝子の組み合わせが導入されたかは、表1に記載する(表中で、各遺伝子の欄に「1」と記載があるものは、その遺伝子を含むレトロウイルスベクターを感染させたことを、空欄は、その遺伝子を含むレトロウイルスベクターを感染させていないことを表す)。導入した遺伝子候補は、シュワン細胞関連遺伝子としてSOX10、Krox20、Oct6を、リプログラミング関連遺伝子としてSOX2、C-myc、KLF4、Oct3/4の7因子である。たとえば、表1のNo. 43は、SOX10、Krox20、Oct6、KLF4の遺伝子を含むレトロウイルスベクターを感染させた細胞である。
【実施例】
【0086】
代表的なS100βの染色性像として、Sox10とKrox20の2因子の遺伝子を導入した細胞を図2に示す。図2は、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)による核染色との共染色である。
【実施例】
【0087】
【表1】
JP2016039462A1_000002t.gif
【実施例】
【0088】
実施例3 ヒト正常皮膚線維芽細胞からシュワン細胞へのコンバージョン、S100β染色の半定量(図3)
図2と同じ実験において、その他の組み合わせの染色性を確認するために、プレートを蛍光顕微鏡(オリンパス製)で観察し、S100βの染色性を4段階で評価した(S100β陽性細胞が多いものから順に、+++、++、+、-)。
【実施例】
【0089】
それぞれの評価の典型像を図3で示す。またその評価結果を表1中に併せて示す。たとえば、No.4のSOX10とKROX20の2遺伝子を含むレトロウイルスベクターを感染させた細胞は+++の評価となり、もっとも多くのS100β陽性細胞を含むことが分かる。SOX10単独、またはKROX20単独の導入でも、低い効率でシュワン細胞が誘導できるが、SOX10とKROX20の共導入がより効率高く誘導できる。またOct6は、シュワン細胞の誘導にほとんど効果がないことがわかる。
【実施例】
【0090】
実施例4 ヒト正常皮膚線維芽細胞からシュワン細胞へのコンバージョン、細胞形態評価(図4)
実施例1において、Sox10とKrox20の2因子の遺伝子を導入した細胞について、ヒト正常皮膚線維芽細胞からシュワン細胞へのコンバージョンにおける細胞形態変化をシュワン細胞に特徴的なバイポーラ型の細胞長の増加を細胞長/細胞幅比で評価した。
【実施例】
【0091】
評価の結果を、図4に示す。コンバージョンすることで細胞長/細胞幅比の増大つまりシュワン細胞に特徴的な細胞形態に変化することが示された。
【実施例】
【0092】
実施例5 ヒト正常皮膚線維芽細胞からシュワン細胞へのコンバージョン、その他のシュワン細胞関連マーカーを用いた免疫細胞蛍光染色像(図5)
ヒト正常皮膚線維芽細胞aHDFを、12wellプレートに培養し、実施例1の操作を行った。SOX10及びKrox20の2つの遺伝子を導入した群の結果を示す。遺伝子導入から12日後、免疫染色を行った。
【実施例】
【0093】
結果を図5に示す。抗p75NTR抗体(1次抗体)、抗GFAP抗体(1次抗体)、抗NG2抗体(1次抗体)は宿主がウサギであり、抗Nestin抗体(1次抗体)は宿主がマウスである。2次抗体は、AlexaFluor488,566標識抗ウサギIgG抗体又はAlexaFluor488標識抗マウスIgG抗体を使用した。S100βに比べて陽性率は下がるもののそれぞれの発現が確認される。
【実施例】
【0094】
実施例6
A. ヒト正常皮膚線維芽細胞からシュワン細胞へのコンバージョン、S100βとp75NTR遺伝子のmRNA発現量の測定(図6)
ヒト正常皮膚線維芽細胞(aHDF)を、12wellプレートに培養し、実施例1の操作をした。ウェルNo. 1~6の細胞にはSox10とKrox20の2因子の遺伝子を導入し、ウェルNo. 7~12の細胞にはコントロールとして遺伝子は導入しなかった。遺伝子導入12日後、各ウェルからISOGEN IIにてtotal RNAを回収し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mixを用いてcDNAを合成した。UCP1とβアクチン遺伝子のmRNAレベルを定量する目的で、Real-time PCR Master Mix、Taqman probe、Specific PrimerおよびcDNAを混和し、AB7300 Real-time PCR systemを用いてReal-time RT-PCRを行った。各細胞のβアクチンmRNAレベルに対する目的遺伝子のmRNAレベルの値を計算した。
【実施例】
【0095】
結果を図6に示す。グラフの縦軸は、ウェルNo. 1の値を「1」として、各ウェルの値を算出した相対値を、relative mRNA levelとして示す。SOX10とKROX20の2つの遺伝子を導入した細胞(No.1~6)は、control(No. 7~12)と比較し、シュワン細胞特異的マーカーであるS100βとp75NTR遺伝子の強力な発現を認めた。
【実施例】
【0096】
B. RT-PCR産物のアガロースゲルを用いた電気泳動
Aで得られたReal-time RT-PCR産物をアガロースゲルを用いた電気泳動を行った。結果、SOX10とKrox20の2因子の遺伝子を導入した細胞群において、S100βとp75NTR遺伝子のmRNAの強い発現が確認された。
【実施例】
【0097】
C. 因子導入なし、SOX10のみ、Krox20のみ、SOX10+Krox20のそれぞれの組み合わせによるヒト線維芽細胞からシュワン細胞へのダイレクト・リプログラミング効率のRTPCRを用いた検討。
【実施例】
【0098】
ヒト正常皮膚線維芽細胞であるaHDFを、12wellプレートに培養し、実施例1の操作を行った。遺伝子導入しなかった細胞(コントロール)、SOX10遺伝子のみ導入、Krox20遺伝子導入のみ、SOX10遺伝子+Krox20遺伝子を導入した細胞それぞれの、S100βとp75NTRのmRNAの発現を、Aと同様の方法で比較した。mRNAの相対値を、relative mRNA levelとして示す。各群のβアクチンmRNAレベルに対する目的遺伝子のmRNAレベルの値を計算した。非導入細胞のうちの1群の値を「1」として、各群の値を算出した相対値の平均を、relative mRNA levelとして示す。結果、SOX10+Krox20の2因子を導入した群では、S100βとp75NTRのmRNAの発現量が大きく上昇していた。また、Sox10のみを導入した細胞でも、Sox10とKrox20の両方を導入した細胞に比べると低いが、S100βとp75NTRのmRNA発現量が上昇していた。また、Krox20のみを導入した細胞でも、Sox10とKrox20の両方を導入した細胞に比べると低いが、S100βのmRNA発現量が上昇していた。S100βのrelative mRNA levelは、非導入細胞では4.4、Sox10単独導入細胞では1712.3 、Krox20単独導入細胞では25.1、Sox10+Krox20を導入した細胞では127615.0であった。p75NTRのrelative mRNA levelは、非導入細胞では3.1、Sox10単独導入細胞では74.3 、Krox20単独導入細胞では0.4、Sox10+Krox20を導入した細胞では35397.6であった。したがって、SOX10単独やKrox20単独でも、効率が低いながら、ヒト線維芽細胞からシュワン細胞へのダイレクト・リプログラミングが生じている可能性がある。
【実施例】
【0099】
以上より、ヒト線維芽細胞からシュワン細胞へのダイレクト・リプログラミングは、SOX10とKrox20の2因子を用いる場合に効率が高いことが確認された。また、SOX10またはKrox20のいずれか1因子でも効率は低いがヒト線維芽細胞からシュワン細胞へのダイレクト・リプログラミングが可能であることが示された。
【実施例】
【0100】
実施例7 dSCの神経細胞に対する神経突起伸長効果についての検討(図7)
NG108-15を12時間培養し、その後36時間、HDF、cSC、または、dSC (Sox10とKrox20の2因子の遺伝子を導入して誘導したdSC)と、共培養を行った。コントロールとして、NG108-15を1% FBS 添加DMEMのみで培養した。I.神経突起を有する細胞(neurite-bearing cell)の割合(percent of neurite-bearing-cells)、II.細胞体から直接伸長する一次神経突起数(number of primary neurites)、III.最長神経突起の長さ(Longest neurite length)を文献:Tomita K, Madura T, Sakai Y, et al: Glialdifferentiation of human adipose-derived stem cells: implications for cell-based transplantation therapy. Neuroscience.2013; 236:55-65.の方法により比較検討した。NG108-15のみを抗Tuj-1抗体(1次抗体)と2次抗体はAlexaFluor566標識抗ウサギIgG抗体を用いて蛍光染色した。
【実施例】
【0101】
図7に結果を示す。コントロール群との比較ではcSC、dSCの両者とも検討したパラメーター(I-III)すべてにおいて高い神経突起伸長促進効果を示し、dSCの成績はcSCに匹敵するものであった。以上よりdSC培養上清は神経細胞に対して突起伸長を促進させることが確認された。
【実施例】
【0102】
実施例8 ヒト正常皮膚線維芽細胞からシュワン細胞へのウィルスフリーPlasmid導入(エレクトロポーション)によるコンバージョン(図8)
ヒト正常皮膚線維芽細胞aHDFを、12wellプレートに培養し、実施例1の操作を行った。SOX10及びKrox20の2つの遺伝子を導入した群の結果を示す。遺伝子導入から14日後、免疫染色を行った。
【実施例】
【0103】
結果を図8に示す。抗S100β抗体(1次抗体)、抗p75NTR抗体(1次抗体)、抗GAP43抗体(1次抗体)は宿主がウサギであり、2次抗体は、AlexaFluor566標識抗ウサギIgG抗体を使用した。レトロウィルスベクターを用いた場合に比較して陽性率は下がるものの、S100β、p75NTR及びGAP43それぞれの発現が確認でき、線維芽細胞aHDFからシュワン細胞へのコンバージョンが確認できた。
【実施例】
【0104】
実施例9 ヒト正常脂肪由来幹細胞からシュワン細胞へのコンバージョン、その他のシュワン細胞関連マーカーを用いた免疫細胞蛍光染色像(図9)
脂肪由来間質細胞からdSCへのコンバージョンを検証した。
【実施例】
【0105】
〈方法〉
ヒト正常脂肪由来間質細胞(ADSC: adipose rerived stromal cell)を、12wellプレートに培養し、実施例1の操作を行った。SOX10及びKrox20の2つの遺伝子を導入した群の結果を示す。遺伝子導入から14日後、免疫染色を行った。
【実施例】
【0106】
〈結果〉
結果を図9に示す。抗S100β抗体(1次抗体)、抗p75NTR抗体(1次抗体)、抗GAP43抗体(1次抗体)、抗Protein Zero抗体(1次抗体)は宿主がウサギであり、2次抗体は、AlexaFluor566標識抗ウサギIgG抗体を使用した。S100βによる染色では、約40%の細胞が陽性を示した。他のシュワン細胞マーカーについてもS100βに比べて陽性率は下がるもののそれぞれの発現が確認される。ミエリンマーカーであるProtein Zeroも陽性を示した。
【実施例】
【0107】
具体的には、線維芽細胞(Fibroblast)と同様の方法でシュワン細胞誘導を行った結果、細胞の形態が、ヒト正常脂肪由来間質細胞の形態から、シュワン細胞に典型的な比較的小型の核を有する双極、もしくは多極性の細胞形態へと変化した。さらに、シュワン細胞に典型的な細胞形態に変化した細胞は、シュワン細胞マーカー(S100β)陽性であった(約40-50%)(図9A)。
【実施例】
【0108】
また、誘導後の細胞はシュワン細胞マーカー(S100β、GAP43)、未分化シュワン細胞マーカー(p75NTR)、ミエリンマーカー(P0)が陽性であった(図9B)。
【実施例】
【0109】
実施例10 臍帯血管内皮細胞からシュワン細胞へのコンバージョン、その他のシュワン細胞関連マーカーを用いた免疫細胞蛍光染色像(図10)
血管内皮細胞からdSCへのコンバージョンを検証した。
【実施例】
【0110】
〈方法〉
臍帯血管内皮細胞(Huvec: Human Umbilical Vein Endothelial Cells)を、12wellプレートに培養し、実施例1の操作を行った。SOX10及びKrox20の2つの遺伝子を導入した群の結果を示す。遺伝子導入から14日後、免疫染色を行った。
【実施例】
【0111】
〈結果〉
結果を図10に示す。抗S100β抗体(1次抗体)、抗p75NTR抗体(1次抗体)、抗GAP43抗体(1次抗体)、抗Protein Zero抗体(1次抗体)は宿主がウサギであり、2次抗体は、566標識抗ウサギIgG抗体を使用した。S100βによる染色では、約30%の細胞が陽性を示した。他のシュワン細胞マーカーについてもS100βに比べて陽性率は下がるもののそれぞれの発現が確認される。ミエリンマーカーであるProtein Zeroも陽性を示した。
【実施例】
【0112】
具体的には、線維芽細胞(Fibroblast)と同様の方法でシュワン細胞誘導を行った結果、細胞の形態が、臍帯血管内皮細胞の形態から、シュワン細胞に典型的な比較的小型の核を有する双極、もしくは多極性の細胞形態へと変化した。さらに、シュワン細胞に典型的な細胞形態に変化した細胞は、シュワン細胞マーカー(S100β)陽性であった(約50-60%)(図10A)。
【実施例】
【0113】
また、誘導後の細胞はシュワン細胞マーカー(S100β、GAP43)、未分化シュワン細胞マーカー(p75NTR)が陽性であった(図10B)。
【実施例】
【0114】
実施例11 GFPでマーキングしたdSC(Sox10とKrox20の2因子の遺伝子を導入して誘導したdSC)とDRGnとの共培養によるdSCのin vitroでのミエリン化形成。シュワン細胞関連マーカーを用いた免疫細胞蛍光染色像(図11)
GFPでマーキングしたdSCとDRGnとの共培養によるdSCのin vitroでのミエリン化能を評価した。
【実施例】
【0115】
〈方法〉
dSCをレトロウィルスベクターを用いてGFPで細胞マーキングした。
【実施例】
【0116】
具体的手法は、文献:Yoshioka T, Ageyama N, Shibata H, Yasu T, Misawa Y, Takeuchi K, Matsui K, Yamamoto K, Terao K, Shimada K, Ikeda U, Ozawa K, Hanazono Y. Repair of infarctedmyocardium mediated by transplanted bone marrow-derived CD34+ stem cells in anonhuman primate model. Stem Cells. 2005 Mar;23(3):355-64.及び文献:Hirschmann F, Verhoeyen E, Wirth D, Bauwens S, Hauser H, Rudert M. Vital marking of articular chondrocytes by retroviral infection using green fluorescence protein. Osteoarthritis Cartilage. 2002 Feb;10(2):109-18.に記載の方法に準じた。
【実施例】
【0117】
生後5日目のマウスより採取した後根神経節細胞(DRGn: dorsal root ganglion neuron)を2日間12 wellにて培養し、GFPでマーキングしたdSCとNerve Growth Factorsとアスコルビン酸とcAMPを含むミエリン分化誘導培地で共培養した。共培養遺伝子開始から14日後、免疫染色を行った。
【実施例】
【0118】
用いた培地の組成は以下の通りである:
DMEM containing N2 supplement (Invitrogen), 50 ng/ml ascorbic acid (Wako, Osaka, Japan), and 50 ng/ml recombinant rat b-nerve growth factor (NGF) (R&D Systems, Inc., Minneapolis, MN, USA),0.5μM cAMP(R&D Systems, Inc., Minneapolis, MN, USA)。
【実施例】
【0119】
培地は、文献:Sango K, Kawakami E, Yanagisawa H, Takaku S, Tsukamoto M, Utsunomiya K, Watabe K. Myelination in coculture of established neuronal and Schwann cell lines. Histochem Cell Biol. 2012 Jun;137(6):829-39.の記載に準じて作製した。
【実施例】
【0120】
抗Neurofilament抗体(1次抗体)、抗MBP(Myelin Basic Protein)抗体(1次抗体)は宿主がマウスであり、抗Tuj-1抗体(1次抗体)、抗Protein Zero抗体(1次抗体)は宿主がウサギであり、2次抗体は、AlexaFluor566標識抗マウスとウサギのIgG抗体を、Cy5標識標識抗マウスとウサギのIgG抗体を使用した。ミエリンマーカー抗体である抗MBP抗体と抗Protein Zero抗体は赤色で標識し、神経軸索マーカーである抗Neurofilament抗体と抗Tuj-1抗体はGrayで標識している。
【実施例】
【0121】
〈結果〉
結果を図11に示す。DRGの神経突起に沿ってミエリン化したシュワン細胞がみられるが、一部のミエリン化シュワン細胞とGFPでマーキングされたdSC細胞がOverlapしている。
【実施例】
【0122】
実施例12 坐骨神経crushモデルに対するGFPでマーキングしたdSC(Sox10とKrox20の2因子の遺伝子を導入して誘導したdSC)移植によるin vitroでのミエリン化形成。ミエリン関連マーカーを用いた免疫細胞蛍光染色像(図12)
dSCのin vivoでのミエリン化能の検討をした。
【実施例】
【0123】
〈方法〉
dSCをウィルスベクターを用いてGFPで細胞マーキングした。
【実施例】
【0124】
免疫不全マウスの坐骨神経を露出させ、中央部分を手術用ペアンで約1分間把持し、約5mmの範囲で神経を挫滅させた。その末梢側にGFPでマーキングしたdSCを約5万個注入した。移植開始から1か月後、挫滅させた部位の修復神経を採取し免疫染色を行った。方法の概要を図12に示す。
【実施例】
【0125】
抗Neurofilament抗体(1次抗体)、抗MBP抗体(1次抗体)は宿主がマウスであり、抗Tuj-1抗体(1次抗体)、抗Protein Zero抗体(1次抗体)は宿主がウサギであり、2次抗体は、AlexaFluor566標識抗マウスとウサギのIgG抗体を、Cy5標識標識抗マウスとウサギのIgG抗体を使用した。ミエリンマーカー抗体である抗MBP抗体と抗Protein Zero抗体は赤色で標識し、神経軸索マーカーである抗Neurofilament抗体と抗Tuj-1抗体はGrayで標識している。
【実施例】
【0126】
〈結果〉
結果を図12に示す。再生神経に沿うようにGFP+細胞が並んでおり、これらはミエリンマーカー+細胞とOverlapしている(図12B及びC)。
【実施例】
【0127】
再生神経に迷入したGFP+細胞はミエリンマーカーも発現している(図12B及びC、矢印)。
【実施例】
【0128】
実施例13 免疫不全マウス坐骨欠損(5mm)モデルへのdSCの移植(図13)
〈方法〉
培養シュワン細胞(SC:比較対照群)を坐骨神経より分離培養した。これらの細胞をあらかじめゼラチンチューブに播種させ、マウスの坐骨神経幹に約5mmのgapを作成した。得られたハイブリッド型チューブを神経欠損部に移植した。ShamマウスおよびPBSのみを含有させたチューブ移植群(Cont)をコントロールに、神経再生促進効果を評価した(図13A)。
【実施例】
【0129】
架橋神経はマクロ像と再生神経組織横軸切片のルクソール・ファーストブルーによるミエリン染色像を示す。坐骨神経機能は移植後6週(6W)と12週(12W)後の結果を示し、支配筋の委縮は湿筋重量で評価を行った。
【実施例】
【0130】
坐骨神経機能インデックス(SFI: Sciatic functional Index)は、文献:Inserra MM, Bloch DA, Terris DJ. Functional indices for sciatic, peroneal, and posteriortibial nerve lesions in the mouse. Microsurgery. 1998;18:119-124.の記載に準じて求めた。
【実施例】
【0131】
Innervated muscleの萎縮及び線維化は、文献:Clavijo-Alvarez JA, Nguyen VT, Santiago LY, Doctor JS, Lee WP, Marra KG. Comparison of biodegradable conduits within aged rat sciatic nerve defects. Plast Reconstr Surg. 2007;119:1839-1851.の記載に準じて評価した。
【実施例】
【0132】
〈結果〉
架橋された神経のマクロ像では、cSC群とdSCの両者ともcontrolに比較して優れており、両者間で明らかな差異はみられなかった(図13B)。
【実施例】
【0133】
再生神経組織横軸切片のミエリン染色像ではdSC群はcSC群に匹敵している(図13C)。
【実施例】
【0134】
坐骨神経機能インデックス(SFI: Sciatic functional Index)では、12Wの時点でdSC群はcSCに匹敵する坐骨神経機能の回復がみられた(図13D)。
【実施例】
【0135】
Innervated muscleの萎縮及び線維化でも、両群についてもコントロールとの有意差はみられたが、cSCとdSC間での有意差はみられなかった(図13E)。
【実施例】
【0136】
実施例14 シュワン細胞へのコンバージョン(表2)
表2に示す遺伝子の組み合わせについて、実施例2と同様の実験を行った。
【実施例】
【0137】
どのナンバーのウェルにどの遺伝子の組み合わせが導入されたかは、表2に記載する(表中で、各遺伝子の欄に「1」と記載があるものは、その遺伝子を含むレトロウイルスベクターを感染させたことを、空欄は、その遺伝子を含むレトロウイルスベクターを感染させていないことを表す)。
【実施例】
【0138】
実施例3と同様に、プレートを蛍光顕微鏡(オリンパス製)で観察し、S100βの染色性を4段階で評価した(S100β陽性細胞が多いものから順に、+++、++、+、-)。
【実施例】
【0139】
評価結果を表2中に併せて示す。
【実施例】
【0140】
この結果から、Oct6はシュワン細胞の分化において重要な機能を果たすことが知られている因子であるが、体細胞からシュワン細胞へのダイレクト・リプログラミングはほとんど誘導できないことが分かる。また、Oct6は、Sox10単独、Krox20単独、またはSox10+Krox20による体細胞からシュワン細胞へのダイレクト・リプログラミングの効率を上げないことが分かる。
【実施例】
【0141】
【表2-1】
JP2016039462A1_000003t.gif
【実施例】
【0142】
【表2-2】
JP2016039462A1_000004t.gif
【実施例】
【0143】
実施例15 神経栄養因子の産生(図14)
HDF、cSC、及びdSCを4 x 104 cells/cm2の条件で細胞培養用ディッシュに播種し、80%コンフルエントを確認後、48時間細胞上清採取用培地で培養した。その後、各群の培養上清を40-μmフィルターに通した後、採取した。 Brain-derived Neurotrophic Factor (BDNF)、glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF)、Nerve Growth Factor (NGF)について、それぞれの培養細胞の培養上清中に含まれる蛋白量をELISA kits human BDNF ,GDNF, NGF(Promega, Madison, WI)を用いて測定した。
【実施例】
【0144】
その結果、cSCとdSCは、いずれもBDNF ,GDNF, NGFのすべてを、コントロール(HDF)に比して強く産生していた。またBDNFの産生が最も高い点でもcSCとdSCは類似していた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4A】
3
【図4B】
4
【図5A】
5
【図5B】
6
【図5C】
7
【図5D】
8
【図6】
9
【図7A】
10
【図7B】
11
【図8】
12
【図9A】
13
【図9B】
14
【図10A】
15
【図10B】
16
【図11A】
17
【図11B】
18
【図12A】
19
【図12B】
20
【図12C】
21
【図13A】
22
【図13B】
23
【図13C】
24
【図13D】
25
【図13E】
26
【図14】
27