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明細書 :靭帯再建型人工膝関節

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年8月10日(2017.8.10)
発明の名称または考案の名称 靭帯再建型人工膝関節
国際特許分類 A61F   2/38        (2006.01)
FI A61F 2/38
国際予備審査の請求
全頁数 65
出願番号 特願2016-556226 (P2016-556226)
国際出願番号 PCT/JP2015/080867
国際公開番号 WO2016/068340
国際出願日 平成27年10月31日(2015.10.31)
国際公開日 平成28年5月6日(2016.5.6)
優先権出願番号 2014223468
優先日 平成26年10月31日(2014.10.31)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】三浦 裕正
【氏名】日野 和典
出願人 【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100134979、【弁理士】、【氏名又は名称】中井 博
【識別番号】100167427、【弁理士】、【氏名又は名称】岡本 茂樹
審査請求 未請求
テーマコード 4C097
Fターム 4C097AA07
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC12
4C097SC08
要約 人工膝関節全置換術において使用される人工膝関節(1)であって、大腿骨遠位端(DT)に取り付けられる大腿骨部材(10)と、脛骨近位端(PE)に取り付けられる脛骨部材(20)と、脛骨部材(20)と大腿骨部材(10)を連結する人工靭帯(30)と、を備えており、人工靭帯(30)は、一端は、大腿骨部材(10)の外側顆内側において、人工膝関節(1)に置換する前の膝における前十字靭帯(ACL)が存在していた位置に連結されており、他端は、脛骨部材(20)の上側において、人工膝関節(1)に置換する前の膝における前十字靭帯(ACL)が存在していた位置に連結されている。
特許請求の範囲 【請求項1】
人工膝関節全置換術において使用される人工膝関節であって、
大腿骨遠位端に取り付けられる大腿骨部材と、脛骨近位端に取り付けられる脛骨部材と、該脛骨部材と前記大腿骨部材を連結する人工靭帯と、を備えており、
該人工靭帯は、
一端は、前記大腿骨部材の外側顆内側において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置に連結されており、
他端は、前記脛骨部材の上側において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置に連結されている
ことを特徴とする靭帯再建型人工膝関節。
【請求項2】
前記人工靭帯は輪状になっており、
膝を屈曲した際に、前記大腿骨部材の外側顆内側と前記脛骨部材との間において捩じれが発生するように取り付けられている
ことを特徴とする請求項1記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項3】
前記大腿骨部材の外側顆内側には、前記人工靭帯の一端が係合される係合部が形成されており、
前記人工靭帯の他端に連結される連結部材を備えており、
前記脛骨部材の上側には、
前記連結部材が挿入され固定される固定孔が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項4】
前記大腿骨部材の外側顆内側には、前記係合部から前記人工靭帯の一端が外れることを防止する脱転防止機構を備えており、
該脱転防止機構が、
前記大腿骨部材の外側顆内側に形成された雌ネジ孔と、
該雌ネジ孔に螺合される雄ネジ部材と、からなる
ことを特徴とする請求項3記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項5】
前記大腿骨部材の外側顆内側には、前記人工靭帯の一端が連結される連結部が形成されており、
前記人工靭帯の他端に取り付けられる固定部材を備えており、
前記脛骨部材の上側には、
前記固定部材が挿入され固定される固定孔が設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項6】
前記人工靭帯の一端に取り付けられる大腿骨連結部材と、
前記人工靭帯の他端に取り付けられる脛骨連結部材と、を有しており、
前記大腿骨部材の外側顆内側には、
前記大腿骨連結部材が挿入され固定される大腿骨固定孔が設けられており、
前記脛骨部材の上側には、
前記脛骨連結部材が挿入され固定される脛骨固定孔が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項7】
前記人工靭帯は、
複数本の靭帯部材を備えており、
該複数本の靭帯部材は、
前記大腿骨連結部材を前記大腿骨固定孔に挿入固定した際に、前記大腿骨部材の外側顆内側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に該複数本の靭帯部材の一端が配置されるように、前記大腿骨連結部材に連結されており、
前記脛骨連結部材を前記脛骨固定孔に挿入固定した際に、前記脛骨部材の上側において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に該複数本の靭帯部材の他端が配置されるように、前記脛骨連結部材に連結されている
ことを特徴とする請求項6記載の靭帯再建型人工膝関節。

【請求項8】
前記脛骨部材と前記大腿骨部材を連結する人工後十字靭帯を備えており、
該人工後十字靭帯は、
一端が、前記大腿骨部材の内側顆内側において、人工膝関節に置換する前の膝における後十字靭帯が存在していた位置に連結されており、
他端が、前記脛骨部材において、人工膝関節に置換する前の膝における後十字靭帯が存在していた位置に連結されている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項9】
前記人工後十字靭帯は輪状になっており、
膝を屈曲した際に、前記大腿骨部材の内側顆内側と前記脛骨部材との間において捩じれが発生するように取り付けられている
ことを特徴とする請求項7記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項10】
前記大腿骨部材の内側顆内側には、前記人工後十字靭帯の一端が係合される後十字靭帯係合部が形成されており、
前記人工後十字靭帯の他端に連結される後十字靭帯連結部材を備えており、
前記脛骨部材の後部には、
前記後十字靭帯連結部材が配置される切欠きが設けられている
ことを特徴とする請求項9記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項11】
前記大腿骨部材の内側顆内側には、前記係合部から前記人工後十字靭帯の一端が外れることを防止する脱転防止機構を備えており、
該脱転防止機構が、
前記大腿骨部材の内側顆内側に形成された雌ネジ孔と、
該雌ネジ孔に螺合される雄ネジ部材と、からなる
ことを特徴とする請求項10記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項12】
前記大腿骨部材の内側顆内側には、前記人工後十字靭帯の一端が連結される後十字靭帯連結部が形成されており、
前記人工後十字靭帯の他端に取り付けられる後十字靭帯固定部材を備えており、
前記脛骨部材の後部上側には、
前記後十字靭帯固定部材が配置される切欠きが設けられている
ことを特徴とする請求項8または9記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項13】
前記脛骨部材において、
内側顆は上面が凹んだ曲面に形成されており、
外側顆は上面が平坦面に形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項14】
前記脛骨部材には、
内側顆と外側顆の間に顆間隆起を備えており、
該顆間隆起の高さが、人工膝関節に置換する前の膝における顆間隆起と同等程度の高さに形成されている
ことを特徴とする請求項13記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項15】
前記脛骨部材の内側顆が、
外側顆に比べて後傾するように形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項16】
前記脛骨部材は、
内側顆および外側顆の表面が内傾している
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれかに記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項17】
前記脛骨部材は、
内側顆および/または外側顆の周辺部が曲面状に形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至16のいずれかに記載の靭帯再建型人工膝関節。
【請求項18】
前記脛骨部材は、
その側面および/または後面と外側顆との境界部分が、外方に向かって凸である曲面状に形成されている
ことを特徴とする請求項17記載の靭帯再建型人工膝関節。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、靭帯再建型人工膝関節に関する。
【背景技術】
【0002】
膝関節は、大腿骨、脛骨、膝蓋骨によって形成されている関節である。膝関節では、大腿骨の遠位端と脛骨の近位端の間に、膝軟骨や半月板があり、これらがクッションの役目を果たすことによって、膝関節はスムースに稼働することができる。
【0003】
しかし、肥満や加齢などによって膝軟骨や半月板がすり減る等すれば、大腿骨の遠位端と脛骨の近位端との間のクッション性が失われるだけでなく、膝関節の変形が生じる可能性がある。また、関節リウマチになったり膝にけがをしたりした場合にも、膝関節が変形するということが生じる。かかる膝関節の変形(変形性膝関節症)となった場合には、膝関節はスムースに稼働することができなくなり、患者は歩行などの際にひどい苦痛を感じ、また、歩行が困難になる場合もある。
【0004】
このような変形性膝関節症の治療法として、人工膝関節全置換術が採用されている。この人工膝関節全置換術は、大腿骨の遠位端および脛骨の近位端を切除して、切除した部分を人工膝関節に置換する技術である。現状でも多数の患者が人工膝関節全置換術を受けており、痛みを除去でき、また、通常の歩行が可能になるなどの効果があり、患者の満足度は高いものとなっている。そして、人工膝関節全置換術に使用する人工膝関節も多数開発されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
ところで、膝関節では、膝関節の稼働や姿勢を安定させるために、大腿骨と脛骨とが靭帯によって連結されている。しかし、上述した人工膝関節全置換術を行う場合には、大腿骨の遠位端や脛骨の近位端を切除するため、その部位に連結されている靭帯、つまり、前十字靭帯や後十字靭帯が切除される場合がある。現状では、両十字靭帯を切除して、人工膝関節に靭帯機能を代用させる方法(特許文献1参照)と、前十字靭帯は切除するが後十字靭帯は温存する方法(特許文献2参照)があり、関節の損傷状況や靭帯の損傷状況に合わせて採用する方法が選択されている。
【0006】
しかるに、いずれの方法でも前十字靭帯は除去されることになる。人工膝関節に前十字靭帯の機能を代用させることはできるものの、本来の前十字靭帯の機能には程遠い。このため、人工膝関節とした患者は、通常の歩行にはそれほど不自由は感じないものの、階段昇降などの運動には不自由を感じている。
【0007】
また、スポーツによるけがなどで人工膝関節となった患者の場合、人工膝関節となってからでもスポーツをしたいという要求は強い。しかし、上述したような方法では、かかる要求には到底答えることができない。
【0008】
かかる要求に応えるために、前十字靭帯を温存する形態を有する人工膝関節も開発されている(特許文献3)。しかし、変形性膝関節症では前十字靭帯が損傷している場合が多く、また関節変形に伴い靭帯長が変化している場合もあり、特許文献3の技術では、前十字靭帯を温存しても、前十字靭帯として十分な機能を発揮させることが難しい。また、前十字靭帯の損傷に起因して生じる変形性関節症において、前十字靭帯を温存してもその機能を発揮させることは期待できない。
【0009】
特許文献4には、脛骨部材とインサートにモバイル機構(脛骨部材上を自由度をもってインサートが動く機構)を有する人工膝関節において、インサートの脱転を防ぐ機構として大腿骨部材と脛骨部材を人工素材によって連結する技術が開発されている。この特許文献4の技術では、人工素材の脛骨側部材の端部を、バネ等の弾性部材を介して脛骨側部材に対して連結しており、かかる構造とすることによって、連結構造にクッション性を備える旨が開示されている。
【先行技術文献】
【0010】

【特許文献1】特開2013-172992号公報
【特許文献2】特開2001-120583号公報
【特許文献3】特表2013-517911号公報
【特許文献4】特表2011-502608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献4の技術では、大腿骨部材と脛骨部材の間に人工素材を設けているので、大腿骨部材と脛骨部材とをつなぐという機能はある。しかし、特許文献4の技術では、前十字靭帯としての本来の機能を発揮させる上で重要となる靭帯のレイアウトやその連結位置は十分に考慮されていない。
【0012】
上記のごとく、種々の人工膝関節が開発されているものの、元の膝関節における前十字靭帯の機能を十分に発揮させることができるものは開発されておらず、かかる人工膝関節の開発が望まれている。
また、前十字靭帯の状態(張力等)は個人差があるため、患者固有の前十字靭帯の緊張等を再現する機能を有する人工膝関節の開発も同時に望まれる。
【0013】
本発明は上記事情に鑑み、元の膝関節における前十字靭帯の機能を発揮させることができる靭帯再建型人工膝関節を提供することを目的とする。
また、本発明は、元の膝関節における前十字靭帯および後十字靭帯の機能を発揮させることができる靭帯再建型人工膝関節を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(前十字靭帯)
第1発明の靭帯再建型人工膝関節は、人工膝関節全置換術において使用される人工膝関節であって、大腿骨遠位端に取り付けられる大腿骨部材と、脛骨近位端に取り付けられる脛骨部材と、該脛骨部材と前記大腿骨部材を連結する人工靭帯と、を備えており、該人工靭帯は、一端は、前記大腿骨部材の外側顆内側において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置に連結されており、他端は、前記脛骨部材の上側において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置に連結されていることを特徴とする。
第2発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1発明において、前記人工靭帯は輪状になっており、膝を屈曲した際に、前記大腿骨部材の外側顆内側と前記脛骨部材との間において捩じれが発生するように取り付けられていることを特徴とする。
第3発明の靭帯再建型人工膝関節は、第2発明において、前記大腿骨部材の外側顆内側には、前記人工靭帯の一端が係合される係合部が形成されており、前記人工靭帯の他端に連結される連結部材を備えており、前記脛骨部材の上側には、前記連結部材が挿入され固定される固定孔が設けられていることを特徴とする。
第4発明の靭帯再建型人工膝関節は、第3発明において、前記大腿骨部材の外側顆内側には、前記係合部から前記人工靭帯の一端が外れることを防止する脱転防止機構を備えており、該脱転防止機構が、前記大腿骨部材の外側顆内側に形成された雌ネジ孔と、該雌ネジ孔に螺合される雄ネジと、からなることを特徴とする。
第5発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1または第2発明において、前記大腿骨部材の外側顆内側には、前記人工靭帯の一端が連結される連結部が形成されており、前記人工靭帯の他端に取り付けられる固定部材を備えており、前記脛骨部材の上側には、前記固定部材が挿入され固定される固定孔が設けられていることを特徴とする。
(複数本の前十字靭帯)
第6発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1発明において、前記人工靭帯の一端に取り付けられる大腿骨連結部材と、前記人工靭帯の他端に取り付けられる脛骨連結部材と、を有しており、前記大腿骨部材の外側顆内側には、前記大腿骨連結部材が挿入され固定される大腿骨固定孔が設けられており、前記脛骨部材の上側には、前記脛骨連結部材が挿入され固定される脛骨固定孔が設けられていることを特徴とする。
第7発明の靭帯再建型人工膝関節は、第6発明において、前記人工靭帯は、複数本の靭帯部材を備えており、該複数本の靭帯部材は、前記大腿骨連結部材を前記大腿骨固定孔に挿入固定した際に、前記大腿骨部材の外側顆内側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に該複数本の靭帯部材の一端が配置されるように、前記大腿骨連結部材に連結されており、前記脛骨連結部材を前記脛骨固定孔に挿入固定した際に、前記脛骨部材の上側において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に該複数本の靭帯部材の他端が配置されるように、前記脛骨連結部材に連結されていることを特徴とする。
(後十字靭帯)
第8発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1乃至第7発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材と前記大腿骨部材を連結する人工後十字靭帯を備えており、該人工後十字靭帯は、一端が、前記大腿骨部材の内側顆内側において、人工膝関節に置換する前の膝における後十字靭帯が存在していた位置に連結されており、他端が、前記脛骨部材において、人工膝関節に置換する前の膝における後十字靭帯が存在していた位置に連結されていることを特徴とする。
第9発明の靭帯再建型人工膝関節は、第8発明において、前記人工後十字靭帯は輪状になっており、膝を屈曲した際に、前記大腿骨部材の内側顆内側と前記脛骨部材との間において捩じれが発生するように取り付けられていることを特徴とする。
第10発明の靭帯再建型人工膝関節は、第9発明において、前記大腿骨部材の内側顆内側には、前記人工後十字靭帯の一端が係合される後十字靭帯係合部が形成されており、前記人工後十字靭帯の他端に連結される後十字靭帯連結部材を備えており、前記脛骨部材の後部には、前記後十字靭帯連結部材が配置される切欠きが設けられていることを特徴とする。
第11発明の靭帯再建型人工膝関節は、第発明において、前記大腿骨部材の内側顆内側には、前記係合部から前記人工後十字靭帯の一端が外れることを防止する脱転防止機構を備えており、該脱転防止機構が、前記大腿骨部材の内側顆内側に形成された雌ネジ孔と、該雌ネジ孔に螺合される雄ネジ部材と、からなることを特徴とする。
第12発明の靭帯再建型人工膝関節は、第9発明において、前記大腿骨部材の内側顆内側には、前記人工後十字靭帯の一端が連結される後十字靭帯連結部が形成されており、前記人工後十字靭帯の他端に連結される後十字靭帯連結部材を備えており、前記脛骨部材の後部には、前記後十字靭帯連結部材が配置される切欠きが設けられていることを特徴とする。
(関節形状)
第13発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1乃至第12発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材において、内側顆は上面が凹んだ曲面に形成されており、外側顆は上面が平坦面に形成されていることを特徴とする。
第14発明の靭帯再建型人工膝関節は、第13発明において、前記脛骨部材には、内側顆と外側顆の間に顆間隆起を備えており、該顆間隆起の高さが、人工膝関節に置換する前の膝における顆間隆起と同等程度の高さに形成されていることを特徴とする。
第15発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1乃至第14発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材の内側顆が、外側顆に比べて後傾するように形成されていることを特徴とする。
第16発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1乃至第15発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材は、内側顆および外側顆の表面が内傾していることを特徴とする。
第17発明の靭帯再建型人工膝関節は、第1乃至第16発明のいずれかにおいて、前記脛骨部材は、内側顆および/または外側顆の周辺部が曲面状に形成されていることを特徴とする。
第18発明の靭帯再建型人工膝関節は、第17発明において、前記脛骨部材は、その側面および/または後面と外側顆との境界部分が、外方に向かって凸である曲面状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明によれば、大腿骨部材および脛骨部材には、人工膝関節に置換する前の膝において、前十字靭帯が存在していた位置に人工靭帯が配置されるので、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯(健全な靭帯)とほぼ同じように人工靭帯を機能させることができる。
第2発明によれば、人工靭帯は輪状で、かつ、膝関節の屈曲伸展動作に伴いねじれが発生するように設けられているので、膝が屈伸したときに、健全な靭帯に近い動きをさせることができる。また、膝が屈伸したときに、人工靭帯に発生する張力をより健全な靭帯に近づけることができる。
第3発明によれば、人工靭帯の一端を係合部に係合させるだけで、人工靭帯を大腿骨部材の外側顆内側に連結することができる。また、人工靭帯の他端に連結された連結部材を脛骨部材の固定孔に挿入固定するだけで、人工靭帯の他端を脛骨部材に固定することができる。したがって、人工靭帯の設置が容易になり、施術時間を短縮することができる。しかも、脛骨部材の固定孔に連結部材を固定する状態を変更すれば、人工靭帯に発生させる張力を調整することができる。したがって、人工靭帯の初期状態を患者の膝の状態に合わせて適切に調整することができる。
第4発明によれば、脱転防止機構が設けられているので、人工靭帯の一端を係合部に安定して係合させておくことができる。しかも、雌ネジ孔に雄ネジ部材を螺合させるだけであるから、人工靭帯の一端を係合部に固定する作業が簡単になる。
第5発明によれば、人工靭帯の一端を連結部に連結すれば、人工靭帯を大腿骨部材の外側顆内側に連結することができる。また、人工靭帯の他端に取り付けられた連結部材を脛骨部材の固定孔に挿入固定するだけで、人工靭帯の他端を脛骨部材に固定することができる。したがって、人工靭帯の設置が容易になり、施術時間を短縮することができる。しかも、脛骨部材の固定孔に連結部材を固定する状態を変更すれば、人工靭帯に発生させる張力を調整することができる。したがって、人工靭帯の初期状態を患者の膝の状態に合わせて適切に調整することができる。
(複数本の前十字靭帯)
第6発明によれば、大腿骨連結部材を大腿骨固定孔に固定し、脛骨連結部材を脛骨固定孔に固定するだけで、人工靭帯を、元の前十字靭帯が存在していた位置とほぼ同じ位置に配置することができる。したがって、人工靭帯の設置が容易になり、施術時間を短縮することができる。しかも、大腿骨連結部材を大腿骨固定孔に固定する状態および/または脛骨連結部材を脛骨部材の固定孔に連結部材を固定する状態を変更すれば、人工靭帯に発生させる張力を調整することができる。したがって、人工靭帯の初期状態を患者の膝の状態に合わせて適切に調整することができる。
第7発明によれば、複数本の靭帯部材を設けておけば、膝関節を屈曲伸展させたときに、各靭帯部材がそれぞれ適切な張力を発生するので、人工関節に置換した膝の動きを、より健全な膝の状態に近づけることができる。
(後十字靭帯)
第8発明によれば、大腿骨部材および脛骨部材には、人工膝関節に置換する前の膝において、後十字靭帯が存在していた位置に人工後十字靭帯が配置されるので、人工膝関節に置換する前の膝における後十字靭帯(健全な靭帯)とほぼ同じように人工後十字靭帯を機能させることができる。しかも、人工後十字靭帯と前十字靭帯(人工靭帯)の相対的な位置関係や動きを、健全な状態の膝における両十字靭帯の相対的な位置関係や動きに近づけることができる。したがって、人工関節に置換した膝に、健全な膝の状態に近づけることができる。
第9発明によれば、人工後十字靭帯は輪状で、かつ、膝関節の屈曲伸展動作に伴いねじれが発生するように設けられているので、膝が屈伸したときに、健全な後十字靭帯に近い動きをさせることができる。また、膝が屈伸したときに、人工後十字靭帯に発生する張力をより健全な靭帯に近づけることができる。
第10発明によれば、人工後十字靭帯の一端を係合部に係合させるだけで、人工後十字靭帯を大腿骨部材の内側顆内側に連結することができる。また、人工後十字靭帯の他端に取り付けられた固定部材を脛骨部材の切欠きの位置に配置して固定するだけで、人工後十字靭帯の他端を脛骨部材の適切な位置に配置することができる。したがって、人工後十字靭帯の設置が容易になり、施術時間を短縮することができる。しかも、脛骨部材の切欠きの位置に固定部材を配置する状態を変更すれば、人工後十字靭帯に発生させる張力を調整することができる。したがって、人工後十字靭帯の初期状態を患者の膝の状態に合わせて適切に調整することができる。
第11発明によれば、脱転防止機構が設けられているので、人工後十字靭帯の一端を係合部に安定して係合させておくことができる。しかも、雌ネジ孔に雄ネジ部材を螺合させるだけであるから、人工後十字靭帯の一端を係合部に固定する作業が簡単になる。
第12発明によれば、人工後十字靭帯の一端を後十字靭帯連結部に連結すれば、人工後十字靭帯を大腿骨部材の内側顆内側に連結することができる。また、人工後十字靭帯の他端に取り付けられた固定部材を脛骨部材の切欠きの位置に配置して固定するだけで、人工後十字靭帯の他端を脛骨部材の適切な位置に配置することができる。したがって、人工後十字靭帯の設置が容易になり、施術時間を短縮することができる。しかも、脛骨部材の切欠きの位置に固定部材を配置する状態を変更すれば、人工後十字靭帯に発生させる張力を調整することができる。したがって、人工後十字靭帯の初期状態を患者の膝の状態に合わせて適切に調整することができる。
(関節形状)
第13発明によれば、人工靭帯および/または人工後十字靭帯が健全な状態の前十字靭帯および/または後十字靭帯とほぼ同じ位置に設けられているので、内側顆および外側顆が生体の脛骨の形状に近い状態となっているから、人工膝関節の動きをより自然な動きに近づけることができる。
第14発明によれば、顆間隆起を設けることによって、膝を屈伸した際に、人工前十字靭帯と顆間隆起が干渉する状態にすることができる。この干渉により、人工前十字靭帯に、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯と同様の緊張弛緩状態を発生させることができる。しかも、顆間隆起によって大腿骨と脛骨の横滑りを防ぐことができる。したがって、人工膝関節に置換した膝の動きを、人工膝関節に置換する前の膝により近い状態とすることができる。
第15、第16発明によれば、脛骨部材の形状が、脛骨近位端の形状に近い状態となっているので、人工膝関節の動きをより自然な動きに近づけることができる。
第17発明によれば、大腿骨部材および脛骨部材の内側顆同士および/または大腿骨および脛骨部材の外側顆同士が相対的に移動した場合でも、脛骨部材の内側顆および/または外側顆の周辺部に、大きな負荷が加わることを防止できる。つまり、エッジローディングを軽減することができるので、大腿骨部材や脛骨部材の損傷を防ぐことができる。
第18発明によれば、外側顆後方のエッジが緩やかに曲面をなすことによりエッジローディングを軽減するとともに正座などの深屈曲動作を許容することができるので、大腿骨部材や脛骨部材の損傷を防ぐことができる。しかも、人工膝関節に置換した後における膝の可動域を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(A)は本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の概略説明斜視図であり、(B)は概略断面図である。
【図2】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図3】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図4】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の概略説明図であって、(A)は右側面図であり、(B)は左側面図である。
【図5】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の大腿骨部材10の概略説明斜視図である。
【図6】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の大腿骨部材10の概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図7】(A)は図8のVIIA-VIIA線断面矢視図であり、(B)は本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明斜視図である。
【図8】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図9】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図10】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明図であって、(A)は右側面図であり、(B)は左側面図である。
【図11】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略斜視図である。
【図12】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図13】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図14】連結部材31の概略説明図であって、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図15】連結部材31の概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図16】(A)は他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の概略説明斜視図であり、(B)は概略断面図である。
【図17】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図18】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20の接触部20bの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図19】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略斜視図である。
【図20】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図21】他の実施形態の連結部材31の概略説明図であって、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面図である。
【図22】他の実施形態の連結部材31の概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図23】他の実施形態の連結部材31の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は背面図である。
【図24】本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1において、大腿骨部材10の係合部14に人工靭帯の一端30を係合する状況の概略説明図である。
【図25】大腿骨部材10の係合部14を設ける位置の概略説明図である。
【図26】(A)は他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bの概略説明斜視図であり、(B)は概略断面図である。
【図27】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図28】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bの概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は右側面図である。
【図29】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bの大腿骨部材10の概略説明斜視図である。
【図30】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bの脛骨部材20のベース部20aの概略斜視図である。
【図31】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bの脛骨部材20のベース部20aの概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図32】後十字靭帯連結部材51の概略説明図であって、(A)は斜視図であり、(B)は縦断面である。
【図33】後十字靭帯連結部材51の概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図34】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bの概略断面図であって、(A)は左断面図であり、(B)は右断面図である。
【図35】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bを90度曲げた状態の概略説明斜視図である。
【図36】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bを90度曲げた状態の概略説明図であって、(A)は平面図であり、(B)は底面図である。
【図37】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bを90度曲げた状態の概略説明図であって、(A)は背面図であり、(B)は正面図である。
【図38】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Bを90度曲げた状態の概略説明図であって、(A)は右側面図であり、(B)は左側面図である。
【図39】(A)は図37(B)のA-A線断面矢視図であり、(B)は図37(B)のB-B線断面矢視図である。
【図40】大腿骨部材10の後十字靭帯係合部16を設ける位置の概略説明図である。
【図41】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Cを斜め後方から見た概略説明図であり、(A)は膝を伸ばしている状態であり、(B)は膝を曲げている状態である。
【図42】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Cを正面から見た概略説明図であり、(A)は膝を伸ばしている状態であり、(B)は膝を曲げている状態である。
【図43】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Cを右側方斜め上方から見た概略説明図であり、(A)は膝を伸ばしている状態であり、(B)は膝を曲げている状態である。
【図44】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Cの大腿骨部材11Cを省略した概略説明図であり、(A)は膝を伸ばしている状態であり、(B)は膝を曲げている状態である。
【図45】他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1Cの人工靭帯60と大腿骨連結部材71、脛骨連結部材72のみの概略説明図であり、(A)は膝を伸ばしている状態であり、(B)は膝を曲げている状態である。
【図46】実施例のシミュレーションにおける前十字靭帯と脛骨の連結位置(脛骨側の連結部材の取り付け位置)の関係を示した図である。
【図47】実施例のシミュレーションにおける前十字靭帯と大腿骨の連結位置(係合部の位置)の関係を示した図である。
【図48】実施例のシミュレーションにおける前十字靭帯と脛骨の連結位置の関係を示した図である。
【図49】実施例のシミュレーションにおける前十字靭帯と大腿骨の連結位置の関係を示した図である。
【図50】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図51】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図52】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図53】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図54】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図55】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図56】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図57】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図58】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図59】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図60】実施例において、膝の屈曲角度と靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図61】比較例のシミュレーションにおいて、前十字靭帯と脛骨の連結位置(靭帯挿通孔)の関係を示した図である。
【図62】比較例のシミュレーションにおいて、前十字靭帯と脛骨の連結位置(靭帯挿通孔)の関係を示した図である。
【図63】比較例において、膝の屈曲角度と前十字靭帯の長さとの関係を示した図である。
【図64】前十字靭帯と顆間隆起の干渉状態をシミュレーションした図であり、(A)は膝を112度曲げた状態の結果を示した図であり、(B)は膝を121度曲げた状態の結果を示した図である。
【図65】前十字靭帯と顆間隆起の干渉状態をシミュレーションした図であり、膝を131度曲げた状態の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の靭帯再建型人工膝関節は、変形性膝関節症や関節リウマチなどの治療において、人工膝関節全置換術に使用される人工膝関節であり、前十字靭帯の機能を付与したことに特徴を有している。

【0018】
(本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1)
図1~図4に示すように、本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1(以下単に本実施形態の人工膝関節1という)は、大腿骨部材10と、脛骨部材20と、前十字靭帯として機能する人工靭帯30と、を備えている。

【0019】
なお、図1~図4では、右膝用の人工膝関節1の場合を代表として説明している。また、図1~図4では、構造を分かりやすくするために後十字靭帯PCLおよび大腿骨Fおよび脛骨Tは省略している。

【0020】
(大腿骨部材10)
大腿骨部材10は、大腿骨Fの遠位端DTに取り付けられるものである。この大腿骨部材10は、大腿骨Fの内側顆MCに取り付けられる部分(以下単に内側顆11という)と、大腿骨Fの外側顆LCに取り付けられる部分(以下単に外側顆12という)とを有している。具体的には、内側顆11および外側顆12は、それぞれ側面視で略J字状、つまり、弧状に形成されている。そして、大腿骨部材10では、内側顆11と外側顆12の間に隙間10hができるように形成されている。つまり、大腿骨部材10は、脛骨部材20と接触する内側顆11および外側顆12の表面が、人体の正常な大腿骨Fの遠位端DTとほぼ同等の形状となるように形成されている(図5、図6参照)。

【0021】
そして、大腿骨部材10の外側顆12の内側(つまり外側顆12の内側顆11側)には、壁状の部分(以下、単に外側顆内壁13という)が設けられている。この大腿骨部材10の外側顆内壁13には係合部14が設けられている。この係合部14は、大腿骨部材10を大腿骨Fの遠位端DTに取り付けたときに、元の前十字靭帯ACLと元の大腿骨Fの遠位端DTとが連結されていた位置近傍に配置されるように形成されている。

【0022】
具体的には、外側顆内壁13には、外側顆内壁13を貫通するように溝13gが設けられている。この溝13gは、その溝幅が人工靭帯30の通常時の直径(つまり張力がほとんど加わっていない状態)よりも細くなるように形成されている。また、溝13gは、略V字状に形成されており、この溝13gによって略三角形状の係合部14が外側顆内壁13に形成されている。なお、溝13gは、係合部14の先端が前方を向くように形成されている。
この係合部14の基端部の位置(つまり溝13gの両端部)には、上下方向に沿って離間した一対の係合孔sg,sgが設けられている。一対の係合孔sg,sgは、その直径が人工靭帯30の通常時の直径(つまり張力がほとんど加わっていない状態)とほぼ同等となるように形成されている。この一対の係合孔sg,sgを設けることによって、位置決めした状態で人工靭帯30を係合部14に連結することができる。
なお、一対の係合孔sg,sgと係合部14の背面との境界部分は曲面状になっていることが望ましい。この場合、境界部分がエッジになっている場合に比べて、人工靭帯30の損傷を抑制することができる。
また、人工靭帯30を係合しておくことができるのであれば、一対の係合孔sg,sgの形状や大きさ、また、一対の係合孔sg,sgを設ける位置や両者の相対的な位置関係はとくに限定されない。また、後述するように、溝bgを設けた場合などには、必ずしも係合孔sgは設けなくても、人工靭帯30を係合部14にしっかりと係合させておくことができる。なお、一対の係合孔sg,sgを設けない場合には、溝13gを、その溝幅が人工靭帯30の通常時の直径とほぼ同等となるように形成することが望ましい。

【0023】
また、図24に示すように、外側顆内壁13の背面(つまり外側顆12の内面と接する面)には、溝bgを形成しておくことが望ましい。具体的には、一対の係合孔sg,sg間を繋ぐように溝bgを形成しておくことが望ましい。この場合、溝bgは、その溝幅および溝の深さが人工靭帯30の軸径よりもわずかに長くなるように形成される。すると、人工靭帯30の一端を一対の係合孔sg,sgに引っ掛けたときに、人工靭帯30が溝bg内に完全に収容され、外側顆内壁13の背面から人工靭帯30が突出した状態とならない。したがって、溝bgを設ければ、人工靭帯30と外側顆12の内面とが接触して、人工靭帯30が損傷することを防ぐことができる。また、上述した一対の係合孔sg,sgを設けずに溝bgを設けてもよい。この場合でも、溝bgによって人工靭帯30を位置決めして係合部14に連結することができる。なお、この場合には、上述したように、溝13gを、その溝幅が人工靭帯30の通常時の直径とほぼ同等となるように形成することが望ましい。もちろん、一対の係合孔sg,sgとともに溝bgを設けた場合には、人工靭帯30をより安定した状態で位置決めしておくことができる。
なお、一対の係合孔sg,sgと溝bgとの境界部分は曲面状になっていることが望ましい。この場合、境界部分がエッジになっている場合に比べて、人工靭帯30の損傷を抑制することができる。
また、人工靭帯30の一端を一対の係合孔sg,sgに引っ掛けたときに、人工靭帯30を外側顆12の内面と接触しないように配置できるのであれば、必ずしも溝bgは設けなくてもよい。
さらに、溝bgの溝幅や溝の深さは、溝bgの両端間(つまり一対の係合孔sg,sg間)で一定である必要はなく、位置によって変化してもよい。例えば、溝の深さが両端部で深く両端間の中間で浅くなっていてもよい。つまり、溝の底部が、中間部に頂点を有する山形曲面となっていてもよい。この場合には、溝bg内部との干渉による人工靭帯30の損傷を抑制することができる。

【0024】
上述したような、一対の係合孔sg,sgや溝bgを設ければ、これらに人工靭帯30が収容された状態となるので、人工靭帯30が係合部14から外れることを防止することができる。つまり、一対の係合孔sg,sgと溝bgのいずれか一方だけまたは両方を設けた場合、一対の係合孔sg,sgや溝bgを脱転防止機構として機能させることができる。

【0025】
しかし、一対の係合孔sg,sgと溝bgとは別に、係合部14から人工靭帯30が外れることを防止する機構(脱転防止機構)を溝13gに設けておくことが望ましい。例えば、溝13gの両端間(係合部14の先端等、図24では一対の係合孔sg,sgの間に位置する部分)に雌ネジ孔13nを形成しておく。そして、雌ネジ孔13nに螺合し得る雄ネジ部材14n(例えば、外面に雄ネジが形成されたイモネジなど)を設けておく。この場合、雄ネジ部材14nを雌ネジ孔13nに螺合すれば、溝13gは雄ネジ部材14nによって2つの孔に分離できる。すると、溝13gにおける一方の孔が形成される位置を外側顆内壁13の正面から背面に向かって通り、溝13gにおける他方の孔が形成される位置を外側顆内壁13の背面から正面に戻るように人工靭帯30の一端を配置して、雌ネジ孔13nに雄ネジ部材14nを螺合すれば、人工靭帯30の一端が係合部14から抜けることを防止することができる。つまり、雌ネジ孔13nと雄ネジ部材14nによって脱転防止機構を構成することもできる。

【0026】
なお、上記構成を採用する場合において、雄ネジ部材14nの形状や大きさなどはとくに限定されない。しかし、雄ネジ部材14nは、上述したイモネジであって、その軸方向の長さが係合部14の厚さとほぼ同じ長さになっているものが望ましい。かかるイモネジを使用すれば、雄ネジ部材14nを係合部14に取り付けても、雄ネジ部材14nが周辺の部材や骨などと干渉することを防ぐことができる。

【0027】
また、溝13gを2つの孔に分離できるのであれば、脱転防止機構は、雌ネジ孔13nと雄ネジ部材14nからなる構成に限定されない。例えば、ゴム製の部材等を溝13gに押し込んで溝13gを2つの孔に分離するようにしてもよい。

【0028】
(脛骨部材20)
脛骨部材20は、脛骨Eの近位端PEに取り付けられるものである。この脛骨部材20は、ベース部20aと接触部20bとを組み合わせて形成されて形成されている。

【0029】
ベース部20a(図11~図13)は、脛骨部材20の脛骨Eに固定される部材であり、板状のベースプレート26と、上端がベースプレート26の下面に連結された軸状のステム25を備えている。ステム25は、脛骨Eの近位端PEに形成された孔に挿入される部分である。

【0030】
ベース部20のベースプレート26の上面には、接触部20bが取り付けられている。この接触部20bは、その上面に、脛骨Eの内側顆MCに相当する部分(以下単に内側顆21という)と、脛骨Eの外側顆LCに相当する部分(以下単に外側顆22という)とを備えている(図7~図10参照)。

【0031】
脛骨部材20の後方部には、接触部20bの内側顆21と外側顆22の間に、ベースプレート26の下面から接触部20bの上面まで連続する切欠き20sが形成されている。具体的には、脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに固定した際に、元の後十字靭帯PCLが通っていた位置に後十字靭帯PCLが配置できるように、切欠き20sは形成されている(図7、図12参照)。

【0032】
また、脛骨部材20の接触部20bには、その前方部の内側顆21と外側顆22の間に固定孔20hが形成されている。具体的には、脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに取り付けたときに、元の前十字靭帯ACLと元の脛骨Eとが連結されていた位置近傍に開口が位置するように、固定孔20hは形成されている。この固定孔20hは、その断面が長円状(略レーストラック型)に形成されている。そして、固定孔20hは、その長軸方向が、膝を伸ばした状態において、外側顆内壁13と略平行となるように設けられている(図1(B)参照)。

【0033】
そして、接触部20bの上面には、内側顆21と外側顆22の間であって、固定孔20hと切欠き20sとの間には、顆間隆起23が形成されている(図7~図10参照)。

【0034】
つまり、脛骨部材20は、その上部の形状が、人体の正常な脛骨Tの近位端PEとほぼ近似した形状に形成されている。

【0035】
(人工靭帯30)
図1および図2に示すように、大腿骨部材10の外側顆内壁13と脛骨部材20の接触部20bとの間には、人工靭帯30が設けられている。この人工靭帯30は、ポリエステルなどを素材として人工的に形成された紐状の部材であり、輪状に形成されている。

【0036】
この人工靭帯30は、その一端が大腿骨部材10の外側顆内壁13に形成された係合部14に係合されている。具体的には、人工靭帯30は、溝13gの一対の係合孔sg,sgの位置に配置されるように、係合部14に引っ掛けるように配置されている。

【0037】
また、人工靭帯30の他端は連結部材31に連結されている。図14および図15に示すように、この連結部材31は、断面が固定孔20hの断面と略相似形に形成されている。この連結部材31は、その高さが接触部20bの厚さとほぼ同じ厚さになるように形成されている。このため、連結部材31をその下面がベースプレート26の上面と接触するように固定孔20hに挿入すると、連結部材31の上面がほぼ接触部20bの上面と同じ高さになる(図1(B)参照)。
なお、連結部材31は、その両端部に貫通孔を有しており、この貫通孔にネジなどを挿通することによってベースプレート26の上面に固定できるように構成されている。

【0038】
図1(B)、図14および図15に示すように、連結部材31は、ネジなどを挿通する貫通孔とは別に、その上下を貫通する一対の貫通孔31h,31hが設けられている。この一対の貫通孔31h,31hは、連結部材31長軸方向に沿って並ぶように設けられている。つまり、一対の貫通孔31h,31hに人工靭帯30を通せば、両者間の梁状部分31sに人工靭帯30を引っ掛けることができるような構造を連結部材31は有している。なお、梁状部分31sの下部には、人工靭帯30が連結部材31の下面から飛び出さないように、人工靭帯30を収容する空間が設けられている。

【0039】
以上のごとき構造であるので、人工靭帯30によって大腿骨部材10と脛骨部材20との間が連結されるように、人工靭帯30を設けることができる。つまり、人工靭帯30の一端を係合部14に引っ掛ける。また、人工靭帯30の他端を連結部材31に連結(係合)し、この連結部材31を接触部20bの固定孔20hに挿入する。そして、連結部材31をベースプレート26の上面に固定すれば、人工靭帯30によって大腿骨部材10と脛骨部材20との間が連結されるように、人工靭帯30を設けることができる。なお、以下では、連結部材31を接触部20bの固定孔20hに挿入し、連結部材31をベースプレート26の上面に固定して、人工靭帯30の他端を脛骨部材20に固定することを、「人工靭帯30の他端を固定孔20hに連結する」と表現する場合がある。

【0040】
しかも、係合部14は、大腿骨部材10を大腿骨Fの遠位端DTに取り付けたときに元の前十字靭帯ACLと元の大腿骨Fの遠位端DTとが連結されていた位置に形成されている。また、固定孔20hの開口は、脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに取り付けたときに、元の前十字靭帯ACLと元の脛骨Eとが連結されていた位置に形成されている。このため、人工靭帯30の両端を係合部14および固定孔20hにそれぞれ連結すると、人工靭帯30は、元の前十字靭帯ACLの位置に配置される。つまり、人工膝関節に置換する前の膝関節における前十字靭帯ACLが配置されていた位置に、人工靭帯30を配置することができる。

【0041】
そして、人工靭帯30の一端が配置される一対の係合孔sg,sgは上下方向に並んでいるが、固定孔20hに配置された連結部材31の一対の貫通孔31h,31hは前後方向に並ぶように配置される。すると、人工靭帯30は、係合部14と連結部材31(つまり固定孔20h)との間で捩じれた状態となるである。

【0042】
以上のごとき構成を有するので、本実施形態の人工膝関節1を膝関節と置換して設ければ、後十字靭帯PCLを再建しつつ、元の膝における前十字靭帯ACLと同じ位置に人工靭帯30を設けることができる。したがって、人工膝関節1に置換する前の膝における前十字靭帯(健全な靭帯)とほぼ同じように人工靭帯30を機能させることができる。

【0043】
しかも、人工靭帯30が輪状になっており、人工靭帯30はその両端間でねじれているので、膝が屈伸したときに、健全な靭帯に近い動きさせることができる。つまり、膝が屈伸したときに、人工靭帯30のねじれ状態や両端間の距離が変化し人工靭帯が発生する張力も変化するので、人工靭帯30が発生する張力をより健全な靭帯に発生する張力に近づけることができる。

【0044】
なお、上記例では、人工靭帯30が輪状になっており、しかも、人工靭帯30はその両端間でねじれている場合を説明した。このような構造とすれば、膝関節の屈曲伸展動作に伴って人工靭帯30に確実にねじれを発生させることができる。すると、膝を屈伸したときに、健全な靭帯に近い動きをさせるやすくなる。しかし、人工靭帯30は、必ずしもその両端間で捩じれていなくもてよい。つまり、膝を伸ばした状態において、ねじれていないまたはわずかにねじれが発生している状態となるように、人工靭帯30を設けてもよい。この場合でも、膝関節の屈曲伸展動作に伴ってねじれが発生するように人工靭帯30の両端が大腿骨部材10および脛骨部材20に連結されていれば、膝が屈伸したときに、健全な後十字靭帯に近い動きをさせることができる。

【0045】
また、上記例では、人工靭帯30が輪状になっているが、人工靭帯30は必ずしも輪状になっていなくてもよい。つまり、両端部は輪状になっていても、両端間の部分は単なる紐状になっていてもよい。その場合でも、膝関節の屈曲伸展動作に伴って紐状の部分に適切なねじれや張力を発生させることができるように人工靭帯30が設けられていれば、膝が屈伸したときに、人工靭帯30に健全な後十字靭帯に近い動きをさせることができる。

【0046】
(本実施形態の人工膝関節1の取付例)
つぎに、本実施形態の人工膝関節1を取り付ける作業を説明する。

【0047】
まず、人工膝関節1を取り付ける膝について、大腿骨Fの遠位端DTを部分的に切除し、大腿骨部材10を取り付けることができる形状に加工する。具体的には、大腿骨Fの内側顆MCと外側顆LCを、大腿骨部材10の内側顆11および外側顆12の内面に密着する形状に加工する。

【0048】
また、脛骨Tの近位端PEも部分的に切除し、脛骨部材20のベース部20aを取り付けることができる形状に加工する。具体的には、脛骨Tの近位端PEの端面が平坦面となるように、脛骨Tの近位端PEが切除される。また、脛骨部材20はステム25を有しているので、脛骨Tの近位端PEの端面にはステム25が挿入される孔も形成される。

【0049】
このとき、大腿骨Fの遠位端DTと脛骨Tの近位端PEとをつなぐ靭帯のうち、前十字靭帯ACLと後十字靭帯PCLは切除される。
なお、後十字靭帯PCLを温存する場合には、前十字靭帯ACLだけが切除される。

【0050】
ついで、大腿骨Fの遠位端DTに被せるように大腿骨部材10を取り付ける。すると、大腿骨Fの遠位端DTでは、大腿骨Fの内側顆MCおよび外側顆LCが、大腿骨部材10の内側顆11および外側顆12によって覆われた状態となる。

【0051】
なお、大腿骨Fの遠位端DTに大腿骨部材10を取り付ける前に、人工靭帯30の一端はあらかじめ係合部14に引っ掛けておく。また、人工靭帯30の他端にもあらかじめ連結部材31を取り付けておく。

【0052】
また、脛骨部材20を脛骨Tの近位端PEに取り付ける。このとき、脛骨Tの近位端PEの端面に形成した孔にステム25を挿入し、かつ、脛骨部材20におけるベース部20aのベースプレート26の下面が脛骨Tの近位端PEの端面と面接触するように、脛骨部材20を脛骨Tの近位端PEに取り付ける。すると、脛骨Tの近位端PEでは、脛骨Tの内側顆MCおよび外側顆LCが、脛骨部材20の接触部20bの内側顆21および外側顆22に置換された状態となる。また、脛骨Tの顆間隆起Eが、脛骨部材20の接触部20bの顆間隆起23に置換された状態となる。

【0053】
(後十字靭帯PCLの再建)
ここで、大腿骨部材10では、内側顆11と外側顆12の間に隙間10hを有しており、脛骨部材20には、その後方部の内側顆21と外側顆22の間に、切欠き20sが形成されている。すると、切欠き20sと隙間10hを通して、脛骨Tの近位端PEと大腿骨Fの遠位端DTとの間を連通する空間が形成される。つまり、大腿骨Fの遠位端DTおよび脛骨Tの近位端PEに大腿骨部材10と脛骨部材20を取り付けても、後十字靭帯PCLが通っていた部分に空間が形成された状態となる。

【0054】
このため、切欠き20sと隙間10hを通るように、再建靭帯を配置すれば、後十字靭帯PCLを再建することができる。具体的には、大腿骨Fの遠位端DTにおいて元の後十字靭帯PCLの一端が接続されていた位置に再建靭帯の一端を連結し、脛骨Tの近位端PEにおいて元の後十字靭帯PCLの他端が接続されていた位置に再建靭帯の他端を連結する。すると、元の後十字靭帯PCLがあった位置に再建靭帯が配置できるので、再建靭帯によって後十字靭帯PCLを再建することができる。
なお、後十字靭帯PCLを温存した場合には、切欠き20sと隙間10hに後十字靭帯PCLを配置することができる。つまり、元の位置に後十字靭帯PCLを配置することができるのである。

【0055】
(人工靭帯30の設置)
ついで、人工靭帯30の他端に係合されている連結部材31を脛骨部材20の接触部20bの固定孔20hに挿入し、ネジによって連結部材31をベース部20aのベースプレート26に固定する。すると、大腿骨部材10と脛骨部材20が人工靭帯30によって連結される。しかも、係合部14は、大腿骨部材10を大腿骨Fの遠位端DTに取り付けたときに元の前十字靭帯ACLと元の大腿骨Fの遠位端DTとが連結されていた位置に配置されるように形成されている。また、固定孔20hの開口は、脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに取り付けたときに、元の前十字靭帯ACLと元の脛骨Eとが連結されていた位置に配置されるように形成されている。したがって、人工膝関節に置換する前の膝関節における前十字靭帯ACLが配置されていた位置に人工靭帯30を配置することができる。

【0056】
以上のように、人工靭帯30の一端を係合部14に係合させておき、人工靭帯30の他端に係合された連結部材31を脛骨部材20の接触部20bの固定孔20hに挿入固定するだけで、大腿骨部材10と脛骨部材20とを連結するように、人工靭帯30を設置できる。したがって、人工靭帯30の設置が容易になり、施術時間を短縮することができる。

【0057】
そして、脛骨部材20の固定孔20hに連結部材31を固定する状態を変更すれば、人工靭帯30に発生させる張力を調整することができる。したがって、人工靭帯30の初期状態を患者の膝の状態に合わせて適切に調整することができる。例えば、連結部材31をネジによってベースプレート26の上面に固定する場合には、ネジの締め付け状態を変化させれば、人工靭帯30に発生させる張力を調整することができる。また、連結部材31の高さを調整できるようにしておけば、ネジの締め付け状態が同じでも、人工靭帯30に発生させる張力を調整することができる。例えば、ベースプレート26の上面と連結部材31の間にスペーサが設けられるようにしておく。すると、スペーサによって連結部材31の上面の位置(つまり接触部20bとの相対的な位置)を調整できるので、ネジの締め付け状態が同じでも、人工靭帯30に発生させる張力を調整することができる。

【0058】
なお、係合部14や固定孔20hの開口は、人工膝関節1に置換する前の膝において前十字靭帯ACLが大腿骨Fの遠位端DTや脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに連結されていた位置に形成するが、係合部14や固定孔20hの開口を設ける位置を決める方法はとくに限定されない。例えば、人工膝関節1を取り付ける人の前十字靭帯ACLの位置を事前に検査しておき、その検査に基づいて、係合部14や固定孔20hを形成する位置を決定するようにしてもよい。

【0059】
また、複数の人の前十字靭帯ACLの位置を測定し、統計的に係合部14や固定孔20hを形成する位置を決定するようにしてもよい。例えば、図25に示すように、大腿骨部材10において、正側面方向よりShallow/Deep方向とHigh/Low方向を定める。そして、係合部14の係合孔sg,sgのうち、上方の係合孔sgを孔Aとし、下方の係合孔sgを孔Bとする。すると、大腿骨Fの遠位端DTに大腿骨部材10を取り付けたときに、Shallow/Deep方向において孔Aは約12~30%、孔Bは約25~40%に、High/Low方向において孔Aは約10~40%の位置に、孔Bは約35~60%の位置近傍に人工靭帯30の一端が配置されるように係合部14は設けられる。また、脛骨部材20の接触部20bの上面において前方から約33~46%、左右方向の中央から約0~5%の位置に人工靭帯30の他端が配置されるように、固定孔20hを形成する。すると、上記方法によって人工靭帯30を設置するだけで、人工膝関節1を取り付ける人の元の前十字靭帯ACLの位置とほぼ同じ位置に人工靭帯30を配置することができる。

【0060】
ところで、発明者らの研究の結果では、膝を屈伸をした際に、人の前十字靭帯ACLは屈曲角度によって、張力が加わって伸びた状態と、張力が弱くなって若干弛緩した状態との間で変化することが確認された。しかも、その変化は前十字靭帯ACLの中心軸からの距離や位置によって若干異なることも把握された。したがって、上述したような形状の係合部14や連結部材21を使用した場合、つまり、大腿骨部材10と脛骨部材20との間では、人工靭帯30が2本配置されているようになっている場合には、再建した前十字靭帯ACL、つまり2本人工靭帯30を異なる緊張状態とすることが可能となる。したがって、再建した前十字靭帯ACL、つまり、人工靭帯30の機能を、健常な人の前十字靭帯に近づけることができる。

【0061】
そして、このような再建した前十字靭帯ACLの配置に加えて、脛骨部材20が、後述するような内側顆21および外側顆22の形状、顆間隆起23を有していれば、人工靭帯30の動きを、より人工膝関節1を取り付ける人の元の前十字靭帯ACLの動きに近づけることができる。

【0062】
上述した脛骨部材20の固定孔20hに連結部材31を取り付けたときに、一対の貫通孔31h,31hの位置は、上述した範囲内でも、性別や人種等によって若干差があるので、各患者が該当するカテゴリーに合わせて変化させればよい。例えば、脛骨部材20の上面において前方から33~46%、左右方向の中央から左右に0~5%の位置に固定孔20hの中心(つまり、連結部材31の中心、図15であれば一対の貫通孔31h,31hの中間)が配置されるように、固定孔20hが形成された脛骨部材20を使用する。すると、この脛骨部材20の固定孔20hに連結部材31を挿入固定すれば、人工膝関節1を取り付ける人の前十字靭帯ACLの位置に再建靭帯ACLを配置することができる。

【0063】
なお、上述したように、発明者らの研究の結果によって、前十字靭帯ACLは、その中心軸からの距離によって、膝を屈伸した際の張力の発生状況が異なることが把握された。そして、正常な前十字靭帯ACLでは、複数本の靭帯の束によって前十字靭帯ACLが形成されており、各束によって、膝を屈伸した際の張力の発生状況が異なることも確認された。したがって、再建する前十字靭帯ACLを、複数本の靭帯部材で形成した場合(図41~46参照)、本実施形態の人工膝関節1を使用して再建された前十字靭帯を、元の前十字靭帯ACLの機能により近づけることができる。この場合、各束に発生する張力を、再建する前十字靭帯ACLにおいて同じ位置または近接する位置に配置されている靭帯の束に発生する張力により近づけることができるので、元の前十字靭帯ACLにより近い機能を発揮させることができる。

【0064】
(脛骨部材20の内側顆21および外側顆22)
脛骨部材20の内側顆21および外側顆22の形状は限定されないが、生体の脛骨Eの形状に近い形状とすることが望ましい。具体的には、平面視で、内側顆21が外側顆22よりも大きくなっており、内側顆21は上面が凹んだ曲面(下方に凸の曲面)であるが、外側顆22は上面が平坦面に形成されていることが望ましい(図7~図10参照)。

【0065】
かかる形状となっている場合、後十字靭帯PCLがあっても前十字靭帯ACLがなければ、外側顆22は平坦面に形成されているので、膝が不安定になる。つまり、大腿骨部材10の外側顆12が、脛骨部材20の外側顆22に対して前後や左右に滑ってしまい、膝を安定して動かすことができなくなる。しかし、本実施形態の人工膝関節1の場合、元の前十字靭帯ACLとほぼ同じ位置に人工靭帯30を備えているので、人工靭帯30によって大腿骨部材10の外側顆12を脛骨部材20の外側顆22に向けて引き付けておくことができる。したがって、外側顆22が平坦面に形成されていても、大腿骨部材10の外側顆12を脛骨部材20の外側顆22に接触した状態で移動させることができる。しかも、大腿骨部材10の外側顆12には、内方、つまり、大腿骨部材10の内側顆11側に引き付ける力も加わることとなる。すると、膝を曲げた際などにおいて、大腿骨部材10の外側顆12の動きを、自然の膝と同等の動き(円弧状の運動)を実現させることができる

【0066】
しかも、脛骨部材20の内側顆21が外側顆22に比べて後傾し、かつ、内側顆21および外側顆22の表面が内傾するように形成されていることがより望ましい。かかる形状も、後十字靭帯PCLがあっても前十字靭帯ACLがない場合には、膝の動きを不安定にする要因となる。しかし、本実施形態の人工膝関節1であれば、後十字靭帯PCLが再建され、元の前十字靭帯ACLとほぼ同じ位置に人工靭帯30が設けられているので、脛骨部材20の内側顆21が外側顆22かかる形状となっていることによって、人工膝関節1により自然の膝に近い安定した動きを実現させることができる。

【0067】
例えば、外側顆22の上面に対して、内側顆21の上面が3~7°程度後傾していることが望ましい。また、脛骨部材20を脛骨Tに取り付けたときに、脛骨Tの軸方向と直交する方向に対して3~7°程度(いいかえれば、ステム25の軸方向と直交する方向に対して3~7°程度)内傾していることが望ましい。なお、上記後傾角度を判断する上での内側顆21の上面とは、内側顆21を側面から見た時に、その前端部分と後端部分をつなぐ面を意味している。上記内傾角度を判断する上での内側顆21の上面とは、内側顆21を背面から見た時に、その右端と左端をつなぐ面を意味している。

【0068】
また、脛骨部材20は、内側顆21および/または外側顆22の周辺部が曲面状に形成されていることが望ましい。つまり、内側顆21の表面は、その周囲の部分と曲面によって連続していることが望ましい。また、外側顆22の表面も、その周囲の部分と曲面によって連続していることが望ましい。

【0069】
例えば、図9および図10に示すように、顆間隆起23と内側顆21および/または外側顆22とが連続する部分やその他の領域と連続する部分(図7および図8では21a,22aの部分)は、下方に凹むような曲面で形成することが望ましい。つまり、脛骨部材20において、その側面や後面、前面と内側顆21および/または外側顆22とが連続する部分以外は、下方に凹むような曲面で形成することが望ましい。

【0070】
また、図7~図10に示すように、脛骨部材20の側面および/または後面と外側顆22との境界部分が、外方に向かって凸である曲面状に形成されていることが望ましい。つまり、脛骨部材20の外側顆22の側方および/または後方では、側面および/または後面と外側顆22が滑らかに連続する曲面(言い換えれば断面が弧状)となるように形成されていることが望ましい。

【0071】
内側顆21および/または外側顆22の周辺部を上記のごとき形状とすれば、以下の理由により、エッジローディングを軽減することができるという利点が得られる。

【0072】
脛骨部材20の内側顆21は、大腿骨部材10の内側顆11の表面と接触しており、膝を曲げた際に、その相対的な位置が変化する。このとき、大腿骨部材10の内側顆11が脛骨部材20の内側顆21のエッジ(周辺部)や顆間隆起23等に向かって移動する。脛骨部材20の内側顆21の周辺部が、上記のような形状となっていれば、大腿骨部材10の内側顆11と脛骨部材20の内側顆21とが強く接触する部分が発生しない。具体的には、両者の接触面積が小さくなり面圧が極端に強くなる状態が発生しない。つまり、エッジローディングを軽減できるので、大腿骨部材10の内側顆11や脛骨部材20の内側顆21の損傷を防ぐことができ、人工膝関節1の耐久性を向上させることができる。

【0073】
同様に、脛骨部材20の外側顆22の周辺部も、上記のような形状とすれば、脛骨部材20の外側顆22と大腿骨部材10の外側顆12との間でも、エッジローディングを軽減することができる。すると、大腿骨部材10の外側顆12や脛骨部材20の外側顆22の損傷を防ぐこともできるので、人工膝関節1の耐久性を向上させることができる。

【0074】
とくに、脛骨部材20の外側顆22の周辺部を上記のような形状とすれば、エッジローディングを軽減できるとともに、術後可動域を改善できるという利点も得られる。つまり、本実施形態の人工膝関節1に置換した場合でも、膝関節を動かしたとき(つまり屈伸やひねり等を加えたとき)の可動域を、従来の人工膝関節に比べて、健康な膝関節に近づけることができる。例えば、正座などの深屈曲動作を許容することが可能となる。

【0075】
なお、内側顆21および/または外側顆22とその周囲の部分との境界部分における曲面の形状は、内側顆21および/または外側顆22が周囲の部分と滑らかに連続する曲面となっていればよく、その曲率半径などはとくに限定されない。
また、境界部分の曲面の曲率半径は、位置によって異なるようにしてもよい。
さらに、側面および/または後面と内側顆21および/または外側顆22との境界部分を弧状ではなく、平面で形成してもよい。つまり、側面および/または後面と内側顆21および/または外側顆22とが形成する角を面取りしてもよい。しかし、上記境界部分を曲面とすれば、面取りする場合に比べて、エッジローディングを軽減でき、術後の可動域を改善できるという点で好ましい。
さらに、上記例では、脛骨部材20の側面および/または後面と外側顆22が滑らかに連続する曲面となるように形成されている場合を説明したが、もちろん、脛骨部材20の前面と外側顆22との境界部分も滑らかに連続する曲面となるように形成されていてもよい。

【0076】
(顆間隆起23)
また、脛骨部材20では、内側顆21と外側顆22の間であって、固定孔20hと切欠き20sとの間には、顆間隆起23が形成されている。この顆間隆起23は、その高さを、人工膝関節1に置換する前の膝における顆間隆起23と同等程度の高さに形成することが好ましい。元の前十字靭帯ACLとほぼ同じ位置に人工靭帯30を設けると、上述したように、大腿骨部材10の外側顆12を脛骨部材20の内側顆21側に引き付ける力が発生している。すると、外側顆22が平坦面に形成されていれば、大腿骨部材10の外側顆12は内方に移動しやすくなる。しかし、顆間隆起23の高さが上記のような高さに形成されていれば、大腿骨部材10の外側顆12の上述したような移動を制限することができるので、人工膝関節1に置換した膝を安定した状態とすることができる。

【0077】
なお、上述した顆間隆起23の高さとは、脛骨部材20の外側顆22の上面からの高さを意味しているが、その高さは、必ずしも人工膝関節1に置換する前の膝における顆間隆起23と同等程度の高さにしなくてもよい。例えば、人工膝関節1に置換する前の膝における顆間隆起23と同等程度の高さに対して、70~120%程度でもよい。

【0078】
また、顆間隆起23の先端には、生体の脛骨Tと同様に若干の凹みが設けられている。かかる凹みを設けることで、顆間隆起23と干渉した人工靭帯30に適切な張力を発生させることができる。とくに、後述するように、複数の靭帯部材によって人工靭帯30が形成されている場合には(図41~45参照)、若干の凹みを設けていれば、複数の靭帯部材が顆間隆起23の先端と干渉した際に、各靭帯部材ごとに干渉状態が変化する。つまり、各靭帯部材に発生する張力がそれぞれ適切な状態となるように調整されるので、人工靭帯30(つまり前十字靭帯ACL)の動きや発生する張力を、さらに人の前十字靭帯と同等のものとすることができる。

【0079】
(脛骨部材20について)
また、脛骨部材20は、ベース部20aと接触部20bとが一体に形成されていてもよい。しかし、上述したように、ベース部20a(図11~図13)と、接触部20b(図7~図10)とを別体で形成し、両者を組み合わせて脛骨部材20を形成するようになっていることが望ましい。例えば、内側顆21や外側顆22、顆間隆起23を備えた接触部20bを、ベース部20aに対して着脱可能となるように形成してもよい。この場合、各部位を、求められる機能に適した素材で形成することができるという利点が得られる。例えば、強度が必要であるベース部20aは、生体適合性が高くかつ剛性の高い素材(例えば、チタン、コバルトクロムなど)を使用し、接触部20bには、滑り性および耐摩耗性の高い素材(例えば、超高分子ポリエチレンなど)を使用することができる。つまり、各部位を、求められる機能に適した素材で形成することができるので、人工膝関節1の円滑な作動を確保しつつ、人工膝関節1の耐久性を高めることができる。

【0080】
なお、ベース部20aと接触部20bとを連結する方法はとくに限定されない。従来の人工膝関節において、ベース部20aに相当する部分と接触部20bに相当する部分とを連結する公知の方法を採用することができる。例えば、図11に示すように、ベース部20aの上面に凹みを設け、その凹みの内壁に係合部を形成する。一方、図10に示すように、接触部20bの下面に、ベース部20a上面の凹みと嵌合する嵌合部を設け、その嵌合部の側面に係合部と係合するフランジ状の部分を設けておく。すると、接触部20bの嵌合部をベース部20a上面の凹みに入れてフランジ状の部分を係合部と係合させれば、ベース部20aと接触部20bとをしっかりと固定できる。つまり、大腿骨部材10と脛骨部材20とが相対的に動いた場合でも、ベース部20aと接触部20bがずれたり動いたりすることを防ぐことができる。

【0081】
(他の実施形態の靭帯再建型人工膝関節1B)
上記例では、人工膝関節1が、前十字靭帯として機能する人工靭帯30のみを備えている場合を説明した。つまり、人工膝関節1自体は後十字靭帯となる人工靭帯を有しない場合を説明した。このような場合でも、後十字靭帯を温存したり、周知の方法によって後十字靭帯を再建したりすれば、人工膝関節1に置換しても、健全な膝と同様に、両十字靭帯が機能する状態とすることができる。

【0082】
しかし、人工膝関節1自体が人工的に形成される後十字靭帯(人工後十字靭帯)を備えていれば、人工膝関節1に置換した場合の膝の作動性を調整しやすくなる。つまり、人工膝関節1とは別に後十字靭帯を再建したりする場合に比べて、前十字靭帯として機能する人工靭帯30と人工後十字靭帯との相対的な位置関係や両者の相互作用を調整しやすくなるという利点が得られる。

【0083】
以下、図26~図40に基づいて、人工後十字靭帯35を有する靭帯再建型人工膝関節1B(以下単に人工膝関節1Bという)を説明する。
なお、人工膝関節1Bにおいて、上述した人工膝関節1(つまり、前十字靭帯として機能する人工靭帯30のみを備えている人工膝関節1)と同等の構成を有する部分の説明は適宜割愛する。

【0084】
なお、図26~図40では、上述した人工膝関節1の説明と同様に、右膝用の人工膝関節1Bを代表として説明している。また、図26~図40では、構造を分かりやすくするために大腿骨Fおよび脛骨Tは省略している。

【0085】
(大腿骨部材10)
人工膝関節1Bでは、人工膝関節1の大腿骨部材10と同様に、大腿骨部材10の外側顆12の内側には外側顆内壁13が設けられている。そして、外側顆内壁13には、人工靭帯30の一端が係合される係合部14が設けられている。

【0086】
一方、図28(B)に示すように、人工膝関節1Bでは、大腿骨部材10の内側顆11の内側に内側顆内壁15が設けられている。そして、内側顆内壁15には、後十字靭帯係合部16が設けられている。後十字靭帯係合部16は、大腿骨部材10を大腿骨Fの遠位端DTに取り付けたときに、元の後十字靭帯PCLと元の大腿骨Fの遠位端DTとが連結されていた位置近傍に形成されている。

【0087】
上述した後十字靭帯係合部16は、後述するように、一対の係合孔sg,sgの配置は異なるが、その構造は、実質的に外側顆内壁13に形成されている係合部14と同等の構成を有している。つまり、後十字靭帯係合部16が人工後十字靭帯35を係合する構造は、係合部14が人工靭帯30を係合する構造と実質的に同等の構造を有している。

【0088】
具体的には、内側顆内壁15には、内側顆内壁15を貫通するように溝15gが設けられている。この溝15gは、その溝幅が人工後十字靭帯35の通常時の直径(つまり張力がほとんど加わっていない状態)よりも細くなるように形成されている。また、溝15gは、略V字状に形成されており、この溝15gによって略三角形状の後十字靭帯係合部16が内側顆内壁15に形成されている。なお、溝15gは、後十字靭帯係合部16の先端が前方を向くように形成されている。

【0089】
この後十字靭帯係合部16の基端部の位置(つまり溝15gの両端部)には、前後方向に沿って離間し、かつ、高さが異なるように一対の係合孔sg,sgが設けられている(図40参照)。より具体的には、後側の係合孔sgが前側の係合孔sgよりも若干高くなるように、一対の係合孔sg,sgが設けられている。一対の係合孔sg,sgは、その直径が人工後十字靭帯35の通常時の直径(つまり張力がほとんど加わっていない状態)とほぼ同等となるように形成されている。この一対の係合孔sg,sgを設けることによって、位置決めした状態で人工後十字靭帯35を後十字靭帯係合部16に連結することができる。

【0090】
なお、一対の係合孔sg,sgと後十字靭帯係合部16の背面との境界部分は曲面状になっていることが望ましい。この場合、境界部分がエッジになっている場合に比べて、人工後十字靭帯35の損傷を抑制することができる。
また、人工後十字靭帯35を係合しておくことができるのであれば、一対の係合孔sg,sgの形状や大きさ、また、一対の係合孔sg,sgを設ける位置や両者の相対的な位置関係はとくに限定されない。また、上述した係合部14と同様に、内側顆内壁15の背面に溝bgを設けた場合などには、必ずしも係合孔sgは設けなくても、人工後十字靭帯35を後十字靭帯係合部16にしっかりと係合させておくことができる。なお、一対の係合孔sg,sgを設けない場合には、溝15gを、その溝幅が人工後十字靭帯35の通常時の直径とほぼ同等となるように形成することが望ましい。

【0091】
また、上述した係合部14と同様に、内側顆内壁15の背面(つまり内側顆11の内面と接する面)には、溝bgを形成しておくことが望ましい(図24参照)。具体的には、一対の係合孔sg,sg間を繋ぐように溝bgを形成しておくことが望ましい。この場合、溝bgは、その溝幅および溝の深さが人工後十字靭帯35の軸径よりもわずかに長くなるように形成される。すると、人工後十字靭帯35の一端を一対の係合孔sg,sgに引っ掛けたときに、人工後十字靭帯35が溝bg内に完全に収容され、内側顆内壁15の背面から人工後十字靭帯35が突出した状態とならない。したがって、溝bgを設ければ、人工後十字靭帯35と内側顆11の内面とが接触して、人工後十字靭帯35が損傷することを防ぐことができる。また、上述した一対の係合孔sg,sgを設けずに溝bgを設けてもよい。この場合でも、溝bgによって人工後十字靭帯35を位置決めして後十字靭帯係合部16に連結することができる。なお、この場合には、上述したように、溝15gを、その溝幅が人工後十字靭帯35の通常時の直径とほぼ同等となるように形成することが望ましい。もちろん、一対の係合孔sg,sgとともに溝bgを設けた場合には、人工後十字靭帯35をより安定した状態で位置決めしておくことができる。

【0092】
なお、一対の係合孔sg,sgと溝bgとの境界部分は曲面状になっていることが望ましい。この場合、境界部分がエッジになっている場合に比べて、人工後十字靭帯35の損傷を抑制することができる。
また、人工後十字靭帯35の一端を一対の係合孔sg,sgに引っ掛けたときに、人工後十字靭帯35を内側顆11の内面と接触しないように配置できるのであれば、必ずしも溝bgは設けなくてもよい。
さらに、溝bgの溝幅や溝の深さは、溝bgの両端間(つまり一対の係合孔sg,sg間)で一定である必要はなく、位置によって変化してもよい。例えば、溝の深さが両端部で深く両端間の中間で浅くなっていてもよい。つまり、溝の底部が、中間部に頂点を有する山形曲面となっていてもよい。この場合には、溝bg内部との干渉による人工後十字靭帯35の損傷を抑制することができる。

【0093】
上述したような、一対の係合孔sg,sgや溝bgを設ければ、これらに人工後十字靭帯35が収容された状態となるので、人工後十字靭帯35が後十字靭帯係合部16から外れることを防止することができる。つまり、一対の係合孔sg,sgと溝bgのいずれか一方だけまたは両方を設けた場合、一対の係合孔sg,sgや溝bgを脱転防止機構として機能させることができる。

【0094】
しかし、係合部14と同様に、一対の係合孔sg,sgと溝bgとは別に、後十字靭帯係合部16から人工後十字靭帯35が外れることを防止する機構(脱転防止機構)を溝15gに設けておくことが望ましい。例えば、溝15gの両端間(後十字靭帯係合部16の先端等、一対の係合孔sg,sgの間に位置する部分(図24参照))に雌ネジ孔15nを形成しておく。そして、雌ネジ孔15nに螺合し得る雄ネジ部材16n(例えば、外面に雄ネジが形成されたイモネジなど)を設けておく。この場合、雄ネジ部材16nを雌ネジ孔15nに螺合すれば、溝15gは雄ネジ部材15nによって2つの孔に分離できる。すると、溝15gにおける一方の孔が形成される位置を内側顆内壁15の正面から背面に向かって通り、溝15gにおける他方の孔が形成される位置を内側顆内壁15の背面から正面に戻るように人工後十字靭帯35の一端を配置して、雌ネジ孔15nに雄ネジ部材16nを螺合すれば、人工後十字靭帯35の一端が後十字靭帯係合部16から抜けることを防止することができる。つまり、雌ネジ孔15nと雄ネジ部材16nによって脱転防止機構を構成することもできる。

【0095】
なお、上記構成を採用する場合において、雄ネジ部材15nの形状や大きさなどはとくに限定されない。しかし、雄ネジ部材15nは、上述したイモネジであって、その軸方向の長さが後十字靭帯係合部16の厚さとほぼ同じ長さになっているものが望ましい。かかるイモネジを使用すれば、雄ネジ部材16nを後十字靭帯係合部16に取り付けても、雄ネジ部材16nが周辺の部材や骨などと干渉することを防ぐことができる。

【0096】
また、溝15gを2つの孔に分離できるのであれば、脱転防止機構は、雌ネジ孔15nと雄ネジ部材16nからなる構成に限定されない。例えば、ゴム製の部材等を溝15gに押し込んで溝15gを2つの孔に分離するようにしてもよい。

【0097】
(脛骨部材20)
人工膝関節1Bでも、人工膝関節1の脛骨部材20と同様に、脛骨部材20はベース部20aと接触部20bとを組み合わせて形成されて形成されている。人工膝関節1Bの脛骨部材20のベース部20aおよび接触部20bは、実質的に人工膝関節1の脛骨部材20のベース部20aおよび接触部20bと同じ構造に形成されているが、両者の後部に形成される切欠き20sが異なっている。つまり、人工膝関節1Bでは、ベース部20aでは、その上下を貫通する切欠きが設けられておらず、連結部材固定部20tが設けられている。つまり、人工膝関節1Bの脛骨部材20では、上方から(大腿骨F側から)接触部20bの切欠き20sを見ると、接触部20bの切欠き20sの底であるかのように連結部材固定部20tが設けられている。

【0098】
(人工後十字靭帯35)
図27~図28に示すように、大腿骨部材10の内側顆内壁15と脛骨部材20の接触部20bとの間には、人工後十字靭帯35が設けられている。この人工後十字靭帯35は、上述した人工靭帯30と同様に、ポリエステルなどを素材として人工的に形成された紐状の部材であり、輪状に形成されている。

【0099】
この人工後十字靭帯35は、その一端が大腿骨部材10の内側顆内壁15に形成された後十字靭帯係合部16に係合されている。具体的には、人工後十字靭帯35は、溝15gの一対の係合孔sg,sgの位置に配置されるように、後十字靭帯係合部16に引っ掛けるように配置されている。

【0100】
また、人工後十字靭帯35の他端は、後十字靭帯連結部材51に連結されている。この後十字靭帯連結部材51は、断面が連結部材固定部20tとほぼ同じ形状に形成されている。しかも、後十字靭帯連結部材51は、その前側面が接触部20bの切欠き20sの後面に密着した状態で配置できるように形成されている。

【0101】
この後十字靭帯連結部材51は、その長手方向の両端部に貫通孔を有している。言い換えれば、後十字靭帯連結部材51を連結部材固定部20tに取り付けたときにおいて、後十字靭帯連結部材51の人工膝関節1Bの幅方向の両端に位置する部分に貫通孔を有している。この貫通孔にネジなどを挿通することによって連結部材固定部20tの上面に固定できるように構成されている。以下、後十字靭帯連結部材51において、後十字靭帯連結部材51を連結部材固定部20tに取り付けたときに後十字靭帯連結部材51の人工膝関節1Bの幅方向と略平行となる方向を、後十字靭帯連結部材51の長手方向という。また、後十字靭帯連結部材51の長手方向と直交する方向を、後十字靭帯連結部材51の幅方向という。

【0102】
図32および図33に示すように、後十字靭帯連結部材51は、ネジなどを挿通する貫通孔とは別に、その上下を貫通する一対の貫通孔51h,51hが設けられている。この一対の貫通孔51h,51hは、後十字靭帯連結部材51の長手方向と交差する方向、つまり、後十字靭帯連結部材51の幅方向に沿って並ぶように設けられている。言い換えれば、後十字靭帯連結部材51を連結部材固定部20tに取り付けたときにおいて、人工膝関節1Bの前後方向に並ぶように、一対の貫通孔51h,51hが設けられている。つまり、一対の貫通孔51h,51hに人工後十字靭帯35を通せば、両者間の梁状部分51sに人工後十字靭帯35を引っ掛けることができるような構造を後十字靭帯連結部材51は有している。なお、梁状部分51sの下部には、人工後十字靭帯35が後十字靭帯連結部材51の下面から飛び出さないように、人工後十字靭帯35を収容する空間が設けられている。

【0103】
以上のごとき構造であるので、人工後十字靭帯35によって大腿骨部材10と脛骨部材20との間が連結されるように、人工後十字靭帯35を設けることができる。つまり、人工後十字靭帯35の一端を後十字靭帯係合部16に引っ掛ける。また、人工後十字靭帯35の他端を後十字靭帯連結部材51に連結(係合)し、この後十字靭帯連結部材51を接触部20bの切欠き20sに配置する。そして、後十字靭帯連結部材51を連結部材固定部20tの上面に固定すれば、人工後十字靭帯35によって大腿骨部材10と脛骨部材20との間が連結されるように、人工後十字靭帯35を設けることができる。なお、以下では、後十字靭帯連結部材51を接触部20bの切欠き20sに配置し、後十字靭帯連結部材51を連結部材固定部20tの上面に固定して、人工後十字靭帯35の他端を脛骨部材20に固定することを、「人工後十字靭帯35の他端を切欠き20sに連結する」と表現する場合がある。

【0104】
しかも、後十字靭帯係合部16は、大腿骨部材10を大腿骨Fの遠位端DTに取り付けたときに元の後十字靭帯PCLと元の大腿骨Fの遠位端DTとが連結されていた位置に形成されている。また、切欠き20sは、脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに取り付けたときに、元の後十字靭帯PCLが通過していた位置に形成されている。このため、人工後十字靭帯35の両端を後十字靭帯係合部16および切欠き20sにそれぞれ連結すると、人工靭帯30は、元の後十字靭帯PCLの位置に配置される。つまり、人工膝関節に置換する前の膝関節における後十字靭帯PCLが配置されていた位置に、人工後十字靭帯35を配置することができる。

【0105】
以上のごとき構成を有するので、他の実施形態の人工膝関節1Bを膝関節と置換して設ければ、後十字靭帯PCLを再建でき、元の膝における後十字靭帯PCLと同じ位置に人工後十字靭帯35を設けることができる。

【0106】
したがって、他の実施形態の人工膝関節1Bによれば、人工靭帯30を人工膝関節1Bに置換する前の膝における前十字靭帯(健全な靭帯)して機能させるだけでなく、人工後十字靭帯35を人工膝関節1Bに置換する前の膝における後十字靭帯(健全な靭帯)とほぼ同じように機能させることができる。

【0107】
しかも、人工後十字靭帯35が輪状になっており、その一端は膝の前後方向に並んだ一対の係合孔sg,sgに係合されており、その他端は膝の前後方向に並んだ後十字靭帯連結部材51の一対の貫通孔51h,51hに係合されている。このため、膝が屈伸したときに、人工後十字靭帯35に膝関節の屈曲伸展動作に伴うねじれを発生させることができる(図37、39参照)。すると、膝が屈伸したときに、人工後十字靭帯35に健全な靭帯に近い動きをさせることができる。また、膝の屈曲状況によって、人工後十字靭帯35に発生するねじれや両端間の距離が変化して、人工後十字靭帯35に発生する張力が変化するので、人工靭帯35に発生する張力も健全な靭帯により近づけることができる。

【0108】
また、上記例では、人工後十字靭帯35が輪状になっているが、人工後十字靭帯35は必ずしも輪状になっていなくてもよい。つまり、両端部は輪状になっていても、両端間の部分は単なる紐状になっていてもよい。その場合でも、膝関節の屈曲伸展動作に伴って紐状の部分に適切なねじれや張力を発生させることができるように人工後十字靭帯35が設けられていれば、膝が屈伸したときに、人工後十字靭帯35に健全な後十字靭帯に近い動きをさせることができる。

【0109】
(他の実施形態の人工膝関節1Bの取付例)
つぎに、他の実施形態の人工膝関節1Bを取り付ける作業を説明する。
なお、人工靭帯30のみを有する人工膝関節1Bの取付において説明した内容は適宜割愛する。

【0110】
まず、人工膝関節1Bを取り付ける膝について、大腿骨Fの遠位端DTおよび脛骨Tの近位端PEを部分的に切除して、大腿骨部材10および脛骨部材20のベース部20aを取り付けることができる形状に加工する。このとき、大腿骨Fの遠位端DTと脛骨Tの近位端PEとをつなぐ前十字靭帯ACLおよび後十字靭帯PCLが切除される。

【0111】
ついで、大腿骨Fの遠位端DTに被せるように大腿骨部材10を取り付ける。すると、大腿骨Fの遠位端DTでは、大腿骨Fの内側顆MCおよび外側顆LCが、大腿骨部材10の内側顆11および外側顆12によって覆われた状態となる。

【0112】
なお、大腿骨Fの遠位端DTに大腿骨部材10を取り付ける前に、人工靭帯30の一端はあらかじめ係合部14に引っ掛けておく。また、人工靭帯30の他端にはあらかじめ連結部材31を取り付けておく。

【0113】
同様に、大腿骨Fの遠位端DTに大腿骨部材10を取り付ける前に、人工後十字靭帯35の一端もあらかじめ後十字靭帯係合部16に引っ掛けておく。また、人工後十字靭帯35の他端にもあらかじめ後十字靭帯連結部材51を取り付けておく。

【0114】
(人工靭帯30の設置)
まず、人工靭帯30と人工後十字靭帯35は、人工後十字靭帯35の他端の方が外方(後方)に位置するので、まず、人工靭帯30の設置を先に行う。具体的には、人工靭帯30の他端に係合されている連結部材31を脛骨部材20の接触部20bの固定孔20hに挿入する。そして、ネジによって連結部材31をベース部20aのベースプレート26に固定すれば、大腿骨部材10と脛骨部材20が人工靭帯30によって連結される。つまり、人工膝関節1Bに置換する前の膝関節における前十字靭帯ACLが配置されていた位置に人工靭帯30を配置することができる。

【0115】
(人工後十字靭帯35の設置)
人工靭帯30が設置されると、人工後十字靭帯35を設置する。具体的には、人工後十字靭帯35の他端に係合されている後十字靭帯連結部材51を脛骨部材20の切欠き20sに配置する。このとき、後十字靭帯連結部材51の前側面が接触部20bの切欠き20sの後面に密着した状態となるように配置する。そして、ネジによって後十字靭帯連結部材51を連結部材固定部20tに固定する。すると、人工靭帯30だけでなく、人工後十字靭帯35によっても大腿骨部材10と脛骨部材20が連結される。しかも、後十字靭帯係合部16は、大腿骨部材10を大腿骨Fの遠位端DTに取り付けたときに元の後十字靭帯PCLと元の大腿骨Fの遠位端DTとが連結されていた位置に配置されるように形成されている。また、切欠き20sは、脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに取り付けたときに、元の後十字靭帯PCLと元の脛骨Eとが連結されていた位置に配置されるように形成されている。したがって、人工膝関節1Bに置換する前の膝関節における後十字靭帯PCLが配置されていた位置に人工後十字靭帯35を配置することができる。

【0116】
以上のように、人工靭帯30の一端を、係合部14に係合させておき、人工靭帯30の他端に係合された連結部材31を脛骨部材20の接触部20bの固定孔20hに挿入固定するだけで、大腿骨部材10と脛骨部材20とを連結するように、人工靭帯30を設置できる。
同様に、人工後十字靭帯35の一端を、後十字靭帯係合部16に係合させておき、人工後十字靭帯35の他端に係合された後十字靭帯連結部材51を脛骨部材20の切欠き20sの位置に配置し固定するだけで、大腿骨部材10と脛骨部材20とを連結するように、人工後十字靭帯35を設置できる。
したがって、人工靭帯30および人工後十字靭帯35の両方を設置しても、その施術時間を短縮することができる。

【0117】
しかも、人工靭帯30および人工後十字靭帯35が、いずれも人工膝関節1Bに置換する前の膝における前十字靭帯ACLや後十字靭帯PCLの位置に配置されるので、両者の相対的な位置をほぼ元の膝に近い関係することができる。
そして、人工靭帯30および人工後十字靭帯35は、その取付状態を調整すれば、各靭帯に発生させる張力をそれぞれ適切な状態に調整することができる。つまり、両者の相対的な位置だけでなく、両者の相対的な力関係もほぼ元の膝に近い関係することができる。

【0118】
人工靭帯30や人工後十字靭帯35に発生させる張力の調整は、以下のような方法で実施することができる。例えば、連結部材31や後十字靭帯連結部材51をネジによってベースプレート26の上面や連結部材固定部20tの上面に固定する場合を考える。この場合には、ネジの締め付け状態を変化させれば、人工靭帯30や人工後十字靭帯35に発生させる張力を調整することができる。また、連結部材31や後十字靭帯連結部材51の高さを調整できるようにしておく、すると、ネジの締め付け状態が同じでも、人工靭帯30や人工後十字靭帯35に発生させる張力を調整することができる。例えば、ベースプレート26の上面と連結部材31の間や連結部材固定部20tの上面と後十字靭帯連結部材51の間にスペーサが設けられるようにしておく。すると、スペーサによって連結部材31や後十字靭帯連結部材51の上面の位置(つまり接触部20bとの相対的な位置)を調整できるので、ネジの締め付け状態が同じでも、人工靭帯30や人工後十字靭帯35に発生させる張力を調整することができる。

【0119】
なお、係合部14や固定孔20hの開口は、人工膝関節1Bに置換する前の膝において前十字靭帯ACLが大腿骨Fの遠位端DTや脛骨部材20を脛骨Eの近位端PEに連結されていた位置に形成するが、係合部14や固定孔20hの開口を設ける位置を決める方法はとくに限定されない。前十字靭帯ACLとして機能する人工靭帯30のみを有する人工膝関節1Bの取付において説明したような方法を採用することができる。

【0120】
また、後十字靭帯係合部16は、人工膝関節1Bに置換する前の膝において後十字靭帯PCLが大腿骨Fの遠位端DTに連結されていた位置に形成し、切欠き20sは、人工膝関節1Bに置換する前の膝において後十字靭帯PCLが配置されていた位置に形成する。しかし、後十字靭帯係合部16を連結する位置や、切欠き20sを設ける位置を決める方法はとくに限定されない。例えば、人工膝関節1Bを取り付ける人の後十字靭帯PCLの位置を事前に検査しておき、その検査に基づいて、後十字靭帯係合部16や切欠き20sを形成する位置を決定するようにしてもよい。また、複数の人の後十字靭帯PCLの位置を測定し、統計的に後十字靭帯係合部16や切欠き20sを形成する位置を決定するようにしてもよい。例えば、図40に示すように、大腿骨部材10において、正側面方向よりShallow/Deep方向とHigh/Low方向を定める。そして、後十字靭帯係合部16の係合孔sg,sgのうち、前方の係合孔sgを孔Aとし、後方の係合孔sgを孔Bとする。すると、大腿骨Fの遠位端DTに大腿骨部材10を取り付けたときに、Shallow/Deep方向において孔Aは約15~50%、孔Bは約30~75%に、High/Low方向において孔Aは約0~35%の位置に、孔Bは約25~70%の位置近傍に人工後十字靭帯35の一端が配置されるように後十字靭帯係合部16は設けられる。また、脛骨部材20の接触部20bの上面において左右方向の中央から約0~10%の位置に人工後十字靭帯35の他端が配置されるように、切欠き20sを形成する。すると、上記方法によって人工後十字靭帯35を設置するだけで、人工膝関節1Bを取り付ける人の元の後十字靭帯PCLの位置とほぼ同じ位置に人工後十字靭帯35を配置することができる。

【0121】
(人工靭帯30を捩じる他の例)
なお、輪状の人工靭帯30を、係合部14と固定孔20hとの間で捩じれた状態とする方法は上記のごとき構成に限定されない。上記例では、上下方向に沿って離間するように一対の係合孔sg,sgを係合部14に設け、連結部材31の一対の貫通孔31h,31hが前後方向に並ぶように配置される場合を説明したが、連結部材31の一対の貫通孔31h,31hが左右方向に並ぶように配置しても、輪状の人工靭帯30を、係合部14と固定孔20hとの間で捩じれた状態とすることができる。また、前後方向に沿って離間するように一対の係合孔sg,sgを設け、連結部材31の一対の貫通孔31h,31hが左右方向に並ぶように配置しても、輪状の人工靭帯30を、係合部14と固定孔20hとの間で捩じれた状態とすることができる。つまり、一対の係合孔sg,sgの並ぶ方向と連結部材31の一対の貫通孔31h,31hが並ぶ方向が非平行であればよく、非平行であれば、輪状の人工靭帯30を、係合部14と固定孔20hとの間で捩じれた状態とすることができる。

【0122】
(人工後十字靭帯35を捩じる他の例)
同様に、輪状の人工後十字靭帯35を、後十字靭帯係合部15と切欠き20sとの間で捩じれた状態で取り付ける場合には、人工後十字靭帯35を捩じる方法はとくに限定されない。例えば、上記例のように、前後方向に沿って離間し若干高さに差が出るように一対の係合孔sg,sgを後十字靭帯係合部15に設け、後十字靭帯連結部材51の一対の貫通孔51h,51hが前後方向に並ぶように配置しても、若干のねじれを人工後十字靭帯35に発生させることはできる。また、後十字靭帯連結部材51の一対の貫通孔51h,51hが左右方向に並ぶように配置しても、輪状の人工後十字靭帯35を、後十字靭帯係合部15と切欠き20sとの間で捩じれた状態とすることができる。つまり、一対の係合孔sg,sgの並ぶ方向と後十字靭帯連結部材51の一対の貫通孔51h,51hが並ぶ方向が非平行であれば、輪状の人工後十字靭帯35を、後十字靭帯係合部15と切欠き20sとの間で捩じれた状態とすることができる。

【0123】
(連結部材31の他の例)
また、上記例では、連結部材31として一対の貫通孔31h,31hを有するものを使用した場合を説明した。しかし、連結部材31は、輪状の人工靭帯30の他端を連結したり係合したりしておくことができる構造を有していればよく、その構造はとくに限定されない。例えば、図21~図23に示すような構造としてもよい。

【0124】
図21~図23では、連結部材31は、断面略円形の鼓型をしている。鼓型とは、軸方向の両端に比べて軸方向の中央部の直径が短くなった形状である。つまり、連結部材31は、両端に膨径部31a,31bを有し、膨径部31a,31bの間にくびれ部31cを有するように形成されている。このくびれ部31cは、人工靭帯30の他端が引っ掛けられる部分である。

【0125】
また、連結部材31の両端の膨径部31a,31bのうち、連結部材31を固定孔20hに取り付けたときに上方に位置する側(図21、図23では膨径部31a)の側面には、切欠き31gが設けられている。この切欠き31gは、連結部材31を固定孔20hに取り付けたときに、固定孔20hの内面との間に人工靭帯30を通す通路を形成するために設けられている。

【0126】
一方、連結部材31の両端の膨径部31a,31bのうち、連結部材31を固定孔20hに取り付けたときに下方(ベースプレート26側)に位置する側(図21、図23では膨径部31b)にも、切欠き31kが設けられている。この切欠き31kは、連結部材31を固定孔20hに取り付けたときに、ベースプレート26の突起26p(図20参照)と係合して、連結部材31を位置決めするために設けられている。具体的には、膨径部31aの切欠き31gが大腿骨部材10の外側顆内壁13に対して反対側に位置した状態で連結部材31が固定孔20hに取り付けられるように、切欠き31kとベースプレート26の突起26pは設けられている。

【0127】
以上のごとき構造の連結部材31を使用すれば、くびれ部31cに人工靭帯30の他端を引っ掛けて、連結部材31を固定孔20hに固定すれば、人工靭帯30の他端を脛骨部材20に固定できる。そして、輪状の人工靭帯30を、係合部14と固定孔20hとの間で捩じれた状態とすることができる。

【0128】
なお、連結部材31の中央を貫通する貫通孔は、ネジなどを挿通して、連結部材31をベースプレート26に固定するための孔である。

【0129】
(連結部材51の他の例)
上記例では、後十字靭帯連結部材51の形状として、断面が連結部材固定部20tとほぼ同じ形状であって、その前側面が接触部20bの切欠き20sの後面に密着した状態で配置できるように形成されている場合を説明した。しかし、後十字靭帯連結部材51は、人工後十字靭帯35の他端を連結部材固定部20tに固定できるのであれば、他の形状を採用することも可能である。

【0130】
例えば、後十字靭帯連結部材51として、その前側面は接触部20bの切欠き20sの後面に密着させることができるが、断面形状は連結部材固定部20tと異なるものを使用することも可能である。しかし、後十字靭帯連結部材51の断面形状を連結部材固定部20tとほぼ同じ形状としておけば、連結部材固定部20tと後十字靭帯連結部材51との境界(脛骨部材20の背面における境界)において段差などができない。すると、人工膝関節1Bと関節周囲の筋肉等との摩擦などを小さくできるので、望ましい。

【0131】
また、後十字靭帯連結部材51として、その断面形状は後十字靭帯連結部材51とほぼ同じ形状であるが、前側面が接触部20bの切欠き20sの後面と密着しないようにしたものを使用することも可能である。しかし、後十字靭帯連結部材51を、その前側面を接触部20bの切欠き20sの後面に密着させて取り付けることができるようにしておけば、後十字靭帯連結部材51を安定して固定しておくことができる。つまり、人工後十字靭帯35の他端を脛骨部材20に安定して固定しておくことができるという利点が得られる。

【0132】
(人工靭帯30および人工後十字靭帯35の他の固定方法)
人工靭帯30の両端を大腿骨部材10の外側顆内側壁13および脛骨部材20に固定する方法はとくに限定されない。例えば、人工靭帯30の両端にネジなどの部材を連結しておき、このネジなどを大腿骨部材10の外側顆内壁13や脛骨部材20の接触部20bに螺合させて、人工靭帯30の両端を固定してもよい。
同様に、人工後十字靭帯35の両端を大腿骨部材10の内側顆内側壁15および脛骨部材20に固定する方法もとくに限定されない。例えば、人工後十字靭帯35の両端にネジなどの部材を連結しておき、このネジなどを大腿骨部材10の内側顆内壁15や脛骨部材20のベース部20aや接触部20bに螺合させて、人工後十字靭帯35の両端を固定してもよい。

【0133】
(他の人工靭帯30および人工後十字靭帯35)
また、人工靭帯30および人工後十字靭帯35は、輪状でなくてもよい。例えば、人工靭帯30および人工後十字靭帯35を一本の紐状に形成して、その両端部に輪状の部分を設けて、この輪状の部分を係合部14や後十字靭帯係合部16、連結部材31、後十字靭帯連結部材51に連結したり係合したりするようにしてもよい。

【0134】
(その他)
上記例では、前十字靭帯として機能する人工靭帯30のみを有する人工膝関節1および、人工靭帯30と人工後十字靭帯35の両方を有する人工膝関節1Bを説明した。しかし、本発明の人工膝関節は、人工靭帯30を設けずに、人工後十字靭帯35だけを有していてもよい。この場合でも、別な方法で前十字靭帯を再建することによって、前十字靭帯と後十字靭帯を有する人工膝関節とすることができる。

【0135】
(本実施形態の靭帯再建型人工膝関節1C)
上述した実施形態の靭帯再建型人工膝関節1、1Bでは、人工靭帯が1または2本の場合、また、人工靭帯が輪状になっている場合を説明した。しかし、人工靭帯は、複数本の靭帯部材から形成されていてもよい。

【0136】
健常な人の膝における前十字靭帯は、ある程度の断面を有しており、ある程度広さを有する面で大腿骨や脛骨に固定されている。しかも、前十字靭帯は、複数本の靭帯の束の集合体として形成されているような張力変動を示す。つまり、複数の靭帯の束が集まって前十字靭帯が形成されており、各靭帯の束が、顆間隆起23との干渉状態や相対的な位置の差に起因して、膝の屈伸に伴って異なる張力変動を示す。したがって、人工靭帯を、複数本の靭帯部材から形成するようにすれば、人工膝関節に置換しても、健常な人の膝に近い機能を発揮させやすくなる。

【0137】
人工靭帯を複数本の靭帯部材から形成する場合、以下のような方法で人工靭帯を大腿骨部材10の外側顆内側壁13および脛骨部材20に連結することができる。

【0138】
図41~図45に示すように、人工靭帯60は、複数本の靭帯部材61から構成されている。複数本の靭帯部材61は、その一端が大腿骨連結部材71に連結されており、その他端が脛骨連結部材72に連結されている。

【0139】
大腿骨連結部材71は、略円筒状に形成された部材であり、その中央部に固定用の貫通孔71hが設けられている。この貫通孔71hにネジ等を挿通して、大腿骨部材10に設けられた大腿骨固定孔に大腿骨連結部材71を挿入すれば、大腿骨部材10や大腿骨DTにねじ止めできるようになっている。つまり、大腿骨連結部材71を、大腿骨部材10や大腿骨DTに固定できるようになっている。しかも、貫通孔71hは、大腿骨固定孔に大腿骨連結部材71を挿入して固定すれば、大腿骨連結部材71の中心が、大腿骨部材10の外側顆内側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致するように形成されている。

【0140】
なお、大腿骨連結部材71を大腿骨部材10や大腿骨DTに固定する方法は、ねじ止めに限られず、種々の方法を採用することができる。例えば、接着剤などによって固定することも可能である。この場合も、大腿骨固定孔に大腿骨連結部材71を挿入すると、大腿骨連結部材71の中心が、大腿骨部材10の外側顆内側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致するように、大腿骨連結部材71が形成される。

【0141】
また、大腿骨連結部材71には、貫通孔71hの周囲に靭帯部材61を挿通して固定する複数の靭帯挿通孔71sが設けられている。この複数の靭帯挿通孔71sは、大腿骨連結部材71の表面側、つまり、大腿骨部材10に大腿骨連結部材71を取り付けた際に表面に位置する側では靭帯部材61と同じ数だけ設けられている。この複数の靭帯挿通孔71sは、大腿骨連結部材71の表面側では、大腿骨連結部材71の中心を囲むように設けられている。大腿骨連結部材71の表面側において、複数の靭帯挿通孔71sが配置される領域は、健常な膝の前十字靭帯が大腿骨の外側顆内側と連結する範囲(連結面)とほぼ同程度の面積となるように設けられている。つまり、複数の靭帯挿通孔71sは、複数の靭帯挿通孔71sに靭帯部材61が配置されると、複数本の靭帯部材61によって大腿骨連結部材71の中心が囲まれ、かつ、複数本の靭帯部材61によって囲まれる部分の面積が、健常な膝の前十字靭帯が大腿骨の外側顆内側と連結していた面積と同程度となるように設けられている。

【0142】
上述したように、大腿骨連結部材71は、大腿骨固定孔に大腿骨連結部材71を挿入して固定すれば、大腿骨連結部材71の中心が、大腿骨部材10の外側顆内側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致するように、貫通孔71hが形成されている。したがって、複数の靭帯挿通孔71sを上記のように形成すれば、大腿骨固定孔に大腿骨連結部材71を挿入して固定すれば、大腿骨部材10の外側顆内側において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に複数本の靭帯部材61の一端が配置されることになる。

【0143】
一方、大腿骨連結部材71の裏面側では、隣接する靭帯挿通孔71sを繋ぐ溝が設けられている。つまり、上述した連結部材31と同様に、隣接する靭帯挿通孔71sに靭帯部材61を通せば、隣接する靭帯挿通孔71s間の部分に靭帯部材61を引っ掛けることができるような構造を大腿骨連結部材71は有している。

【0144】
なお、隣接する靭帯挿通孔71s間の部分には、靭帯部材61が大腿骨連結部材71の裏面から飛び出さないように、靭帯部材61を収容する空間が設けられている。

【0145】
また、大腿骨連結部材71は、靭帯部材61が抜けないように保持できるのであれば、必ずしも隣接する靭帯挿通孔71s間に靭帯部材61を引っ掛ける構造としなくてもよい。例えば、靭帯部材61の一端に靭帯挿通孔71sを通過できないような大きさの部材を設けるようにしたり、靭帯部材61の一端を保持する機構(例えば靭帯部材61と係合する突起など)を設けたりしてもよい。

【0146】
一方、脛骨連結部材72も、実質的に、大腿骨連結部材71と同じ形状を有している。
つまり、脛骨連結部材72も略円筒状に形成されており、その中央部に固定用の貫通孔72hが設けられている。したがって、この貫通孔72hにネジ等を挿通して、脛骨部材20に設けられた脛骨固定孔に脛骨連結部材72を挿入すれば、脛骨部材20や脛骨PEにねじ止めでき、脛骨部材20や脛骨PEに固定できるようになっている。しかも、貫通孔72hは、脛骨固定孔に脛骨連結部材72を挿入して固定すれば、脛骨連結部材72の中心が、脛骨部材20の上側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致するように形成されている。

【0147】
なお、脛骨連結部材72を脛骨部材20や脛骨PEに固定する方法もねじ止めに限られず、種々の方法を採用することができる。例えば、接着剤などによって固定することも可能である。この場合も、脛骨固定孔に脛骨連結部材72を挿入すると、脛骨連結部材72の中心が、脛骨部材20の上側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致するように、脛骨連結部材72が形成される。

【0148】
この脛骨連結部材72も、貫通孔72hの周囲に靭帯部材61を挿通して固定する複数の靭帯挿通孔72sを有している。この複数の靭帯挿通孔72sは、大腿骨連結部材71の貫通孔71hを同じ数だけ設けられている。この複数の靭帯挿通孔72sは、脛骨連結部材72の表面側、つまり、脛骨部材20に脛骨連結部材72を取り付けた際に上面に位置する側では靭帯部材61と同じ数だけ設けられている。この複数の靭帯挿通孔72sは、脛骨連結部材72の表面側では、脛骨連結部材72の中心を囲むように設けられている。脛骨連結部材72の表面側において、複数の靭帯挿通孔72sが配置される領域は、健常な膝の前十字靭帯が脛骨の上面と連結する範囲(連結面)とほぼ同程度の面積となるように設けられている。つまり、複数の靭帯挿通孔72sは、複数の靭帯挿通孔72sに靭帯部材61が配置されると、複数本の靭帯部材61によって脛骨連結部材72の中心が囲まれ、かつ、複数本の靭帯部材61によって囲まれる部分の面積が、健常な膝の前十字靭帯が脛骨の上面と連結していた面積と同程度となるように設けられている。

【0149】
上述したように、脛骨連結部材72は、大腿骨固定孔に脛骨連結部材72を挿入して固定すれば、脛骨連結部材72の中心が、脛骨部材20の上面において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致するように、貫通孔72hが形成されている。したがって、複数の靭帯挿通孔72sを上記のように形成すれば、脛骨固定孔に脛骨連結部材72を挿入して固定すれば、脛骨部材20の上面において、人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に複数本の靭帯部材61の一端が配置されることになる。

【0150】
一方、脛骨連結部材72の裏面側では、大腿骨連結部材71と同様に、隣接する靭帯挿通孔72sを繋ぐ溝が設けられている。つまり、上述した連結部材31や大腿骨連結部材71と同様に、隣接する靭帯挿通孔72sに靭帯部材61を通せば、隣接する靭帯挿通孔72s間の部分に靭帯部材61を引っ掛けることができるような構造を脛骨連結部材72は有している。

【0151】
なお、隣接する靭帯挿通孔72s間の部分には、靭帯部材61が脛骨連結部材72の裏面から飛び出さないように、靭帯部材61を収容する空間が設けられている。

【0152】
また、脛骨連結部材72も、靭帯部材61が抜けないように保持できるのであれば、必ずしも隣接する靭帯挿通孔72s間に靭帯部材61を引っ掛ける構造としなくてもよい。例えば、靭帯部材61の一端に靭帯挿通孔72sを通過できないような大きさの部材を設けるようにしたり、靭帯部材61の一端を保持する機構(例えば靭帯部材61と係合する突起など)を設けたりしてもよい。

【0153】
以上のごとき形状とすれば、上述したように、大腿骨連結部材71は、大腿骨固定孔に挿入して固定すると、大腿骨連結部材71の中心が、大腿骨部材10の外側顆内側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致する。また、脛骨連結部材72は、脛骨固定孔に脛骨連結部材72を挿入して固定すると、脛骨連結部材72の中心が、脛骨部材20の上側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置とほぼ一致する。

【0154】
そして、人工靭帯60の複数本の靭帯部材61は、その一端が大腿骨部材10の外側顆内側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に配置される。また、人工靭帯60の複数本の靭帯部材61の他端は、脛骨部材20の上側において人工膝関節に置換する前の膝における前十字靭帯が存在していた位置の中心を含む一定の範囲に配置される。すると、各靭帯部材61が設けられている位置によって、膝を屈伸したときに、顆間隆起23との干渉状態や捩じれの状態が異なり、各靭帯部材61に発生する張力が異なった変動を示すようにすることができる。つまり、人工靭帯60の複数本の靭帯部材61を、あたかも、健常な人の前十字靭帯を構成する複数本の靭帯の束のように機能させることができるので、健常な人の膝における前十字靭帯と類似する張力の変動を生じさせることが可能となる。つまり、膝を屈伸したときに、各靭帯部材61にそれぞれ適切な張力を発生させることができるようになるので、人工関節に置換した膝の動きを、より健全な膝の状態に近づけることができる。

【0155】
また、大腿骨連結部材71や脛骨連結部材72をそれぞれ大腿骨部材10や脛骨部材20に取り付けた状態で、人工靭帯60における複数本の靭帯部材61の全てまたは一部が捩じれた状態となるように、大腿骨部材10や脛骨部材20に大腿骨連結部材71や脛骨連結部材72が固定されていてもよい。具体的には、膝を屈伸するとその動きに伴って、人工靭帯60における複数本の靭帯部材61は、その一部または全てが捩じれたり捩じれが解消したりする。一方、膝を伸ばした状態において、複数本の靭帯部材61の一部または全てに初期の捩じれが発生するようにしておいてもよい。

【0156】
なお、上記例では、大腿骨連結部材71や脛骨連結部材72として、略円筒状の場合を説明したが、大腿骨連結部材71や脛骨連結部材72の形状は、種々の形状を採用することができ、とくに限定されない。例えば、断面楕円形や断面四角形、断面三角形などに形成してもよい。
さらに、人工靭帯60における複数本の靭帯部材61は、大腿骨連結部材71の中心や脛骨連結部材72の中心い対して、等間隔(等角度間隔)で配置されていてもよいし、位置によって間隔を変化させてもよい。
【実施例】
【0157】
正常な前十字靭帯の機能を評価し、本発明の人工膝関節を使用した場合において、人工靭帯が正常膝における前十字靭帯としての機能を発揮するために、人工靭帯を大腿骨部材および脛骨部材に連結する位置を検証するために、発明者らが独自に開発したイメージマッチング法(Ishimaru M, Hino K, Miura H etc, J Orthop Res. 2014 May; 32(5) :619-26. doi: 10.1002/jor.22596.参照)を用いてシミュレーションを実施し、生体膝の荷重、動的条件下における膝屈曲角度と靭帯長(前十字靭帯が大腿骨に連結されている一端と前十字靭帯が脛骨に連結されている一端との距離:以下単に靭帯の長さという)の関係を求めた。
【実施例】
【0158】
実施例では、複数の前十字靭帯の束(1~20)の一端が、脛骨部材において連結部材が配置される位置に配置され(図46、図48参照)、複数の前十字靭帯の束(1~20)の他端が、大腿骨部材において係合部が配置される位置に配置された場合(図47、図49参照)について、膝の屈曲角度と各前十字靭帯の束(1~20)の長さとの関係をシミュレーションした。
【実施例】
【0159】
つまり、シミュレーションでは、図46に示すような座標において、脛骨部材20の前後方向(Posterior/Anterior)において前方から25~50%、左右方向の中央から左右に0~10%の位置内に、複数の前十字靭帯の束(1~20)の一端を配置した。また、図47に示すような座標において、大腿骨の正側面方向におけるShallow/Deep方向において前方から12~40%、High/Low方向において10~60%の位置内に、複数の前十字靭帯の束(1~20)の他端を配置した。
【実施例】
【0160】
なお、図47、図49において、各数字の位置が各束を連結した位置であり、同じ番号の位置が互いに連結されている。また、数字1~10が前十字靭帯における前側の群(AM群)であり、数字11~20が前十字靭帯における後側に位置する束(PL群)になる。
【実施例】
【0161】
結果を図50~60に示す。
まず、図50に示すように、実施例では、膝の屈曲角度と前十字靭帯の長さの変化の傾向が、正常膝の前十字靭帯(DEFORT)とほぼ同じような傾向を示すことが確認された、つまり、実施例のように脛骨部材に靭帯挿通孔を形成した場合には、再建した前十字靭帯を、人の前十字靭帯と同等の機能を発揮させることができることが確認された。
【実施例】
【0162】
また、図51~60に示すように、どの束でも、膝の屈曲角度に応じて、束の長さが変化することが確認できる。そして、束によって、緊張状態と弛緩状態が生じる角度が異なっていることが確認できる。例えば、束1、2、4、5、11では、屈曲が深くなるまで束の長さが変化しない状態(緊張状態)が維持される一方、束17、18、19、20のように、屈曲が浅い位置から弛緩状態が発生し、屈曲が深くなるほど弛緩が進む状態が確認される。つまり、前十字靭帯を一本の束と見た場合に、その半径方向の位置や中心軸まわりの角度によって、束の緊張状態や弛緩状態が様々な変化を示すことが確認できる。このことから、前十字靭帯を、脛骨部材や大腿骨にある程度の面で接続した状態とすることによって、前十字靭帯の種々の機能を分散させることができるようになることが確認された。
【実施例】
【0163】
一方、比較例としては、脛骨部材において、図61、62示すような位置に靭帯を連結した場合をシミュレーションした。図63に示すように、比較例では、膝の屈曲角度と前十字靭帯の長さの変化の傾向が、膝の曲げ角度を大きくすることによって、人の前十字靭帯(DEFORT)とは異なった傾向を示すことが確認された。図61、62示すような位置は、脛骨部材と靭帯が連結する位置が本来の解剖学的な位置と異なるため、前十字靭帯が極端な緊張パターンをとっていることが確認された。このことから、適切な位置に靭帯を連結しなけば、本来の正常膝がもつ緊張パターンを生み出すことは困難であることが明らかとなった。つまり、適切な位置に再建した前十字靭帯に、十分な機能を発揮させることができないことが確認された。
【実施例】
【0164】
(前十字靭帯と顆間隆起との干渉状態について)
上述した実施例において、前十字靭帯を構成する各再建靭帯の束が、膝を屈曲した際にどのように顆間隆起と干渉するかをシミュレーションによって確認した。シミュレーションでは、112度、121度、131度の各角度に膝を曲げた場合について、それぞれ再建靭帯の束を顆間隆起との干渉状態を確認した。
なお、各再建靭帯の束は、脛骨部材および大腿骨に図46~49に示した位置に接続した。
【実施例】
【0165】
図64、65に示すように、膝を屈曲することによって、前十字靭帯を構成する複数の再建靭帯の束のうち、後側に位置する束(PL群)は顆間隆起と強く干渉するが、前側に位置する束(AM群)は顆間隆起との干渉が弱いことが確認された。そして、膝の曲げが深くなるほど、その干渉がつまり、前十字靭帯を再建する場合、一本の再建靭帯で形成するよりも複数の再建靭帯の束で形成すれば、より生体の前十字靭帯に近い張力を発生させることができる可能性が高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の靭帯再建型人工膝関節は、変形性膝関節症や関節リウマチなどの治療における人工膝関節全置換術に使用される人工膝関節として適している。
【符号の説明】
【0167】
1 人工膝関節
10 大腿骨部材
11 内側顆
12 外側顆
13 外側顆内側壁
14 係合部
15 内側顆内側壁
16 後十字靭帯係合部
20 脛骨部材
20a ベース部
20b 接触部
20h 固定孔
20s 切欠き
21 内側顆
22 外側顆
23 顆間隆起
30 人工靭帯
31 連結部材
51 後十字靭帯連結部材
F 大腿骨
DT 遠位端
T 脛骨
PE 近位端
ACL 前十字靭帯
PCL 後十字靭帯
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22
【図24】
23
【図25】
24
【図26】
25
【図27】
26
【図28】
27
【図29】
28
【図30】
29
【図31】
30
【図32】
31
【図33】
32
【図34】
33
【図35】
34
【図36】
35
【図37】
36
【図38】
37
【図39】
38
【図40】
39
【図41】
40
【図42】
41
【図43】
42
【図44】
43
【図45】
44
【図46】
45
【図47】
46
【図48】
47
【図49】
48
【図50】
49
【図51】
50
【図52】
51
【図53】
52
【図54】
53
【図55】
54
【図56】
55
【図57】
56
【図58】
57
【図59】
58
【図60】
59
【図61】
60
【図62】
61
【図63】
62
【図64】
63
【図65】
64