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明細書 :腎特異的にヒトTGFβ1を発現するトランスジェニックマウス、及び組織線維症マウスモデル用のバイオマーカー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年8月10日(2017.8.10)
発明の名称または考案の名称 腎特異的にヒトTGFβ1を発現するトランスジェニックマウス、及び組織線維症マウスモデル用のバイオマーカー
国際特許分類 A01K  67/027       (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
FI A01K 67/027 ZNA
C12N 15/00 A
G01N 33/48 N
国際予備審査の請求
全頁数 35
出願番号 特願2016-529636 (P2016-529636)
国際出願番号 PCT/JP2015/068238
国際公開番号 WO2015/199144
国際出願日 平成27年6月24日(2015.6.24)
国際公開日 平成27年12月30日(2015.12.30)
優先権出願番号 2014130304
優先日 平成26年6月25日(2014.6.25)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】矢野 裕
【氏名】ガバザ エステバン セサル
【氏名】ガバザ コリナ
出願人 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100108280、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 洋平
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
Fターム 2G045AA13
2G045AA15
2G045AA24
2G045AA25
2G045AA26
2G045AA29
2G045BA13
2G045BA14
2G045BB24
2G045CA12
2G045CA15
2G045CA16
2G045CA18
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB03
2G045CB07
2G045CB11
2G045CB12
2G045CB17
2G045CB26
2G045DA09
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA20
2G045DA31
2G045DA36
2G045DA42
2G045FA16
2G045FA19
2G045FB01
2G045FB03
2G045FB05
2G045FB08
2G045FB09
2G045FB15
2G045GC12
2G045HA06
要約 【課題】 腎特異的にTGFβ1を発現し、自然発症的に腎線維症を発症するTGマウスを提供すること。マウスPodocinのプロモーター領域と、その下流に配置されて発現を制御されるヒト形質転換因子β1(ヒトTGFβ1)の全遺伝子領域とを含むことを特徴とするトランスジェニックマウスによって達成される。このとき、トランスジェニックマウスは、生後15週齢から自然的に腎線維症・腎不全を発症し、生後20週~26週で死亡し始めることが好ましい。
【選択図】 図5
特許請求の範囲 【請求項1】
非ヒト哺乳類のPodocinのプロモーター領域と、その下流に配置されて発現を制御されるヒト形質転換因子β1(ヒトTGFβ1)の全遺伝子領域とを含む非ヒト・トランスジェニック哺乳類。
【請求項2】
前記非ヒト哺乳類は、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1に記載の非ヒト・トランスジェニック哺乳類。
【請求項3】
前記ヒトTGFβ1は、非活性型TGFβ1として腎臓で発現されて、細胞外で活性型TGFβ1となる請求項1または2に記載の非ヒト・トランスジェニック哺乳類。
【請求項4】
前記ヒトTGFβ1の全遺伝子領域は、7個のエキソンと6個のイントロンを含む請求項1~3のいずれか一つに記載の非ヒト・トランスジェニック哺乳類。
【請求項5】
前記非ヒト哺乳類がマウスであり、このトランスジェニックマウスは、生後15週齢から自然的に腎線維症を発症し始めることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載のトランスジェニックマウス。
【請求項6】
上記トランスジェニックマウスの系統は、C57BL/6Jであることを特徴とする請求項5に記載のトランスジェニックマウス。
【請求項7】
(1)ヒトTGFβ1遺伝子を含むBACにおいて、ヒトTGFβ1遺伝子のイントロン部分に選択用カセットを組み込み、選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子を得る選択用遺伝子組換え工程、(2)前記選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子の5'-側及び3'-側に、マウスPodocinプロモーターの下流の配列に相同的な配列を導入して、修飾ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントとする修飾工程、(3) 5'-側及び3'-側にフランキング配列を有するマウスPodocin全コード配列を含むBACにおいて、前記修飾ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントを、前記マウスPodocinプロモーター領域の下流側に転移させて、Podocin選択用ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントとする工程、(4)前記選択用ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントを取り除いて、Podocin-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物を得る工程、(5)前記Podocin-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物からPodocin-TGFβ1遺伝子を精製し、マウス胚にマイクロインジェクションして、トランスジェニックマウスを得る工程を備えることを特徴とする請求項3または4に記載のトランスジェニックマウスの作成方法。
【請求項8】
前記修飾ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントを作成する際に用いられるPCR反応用の一対のプライマーの塩基数は、50塩基~60塩基であることを特徴とする請求項7に記載のトランスジェニックマウスの作成方法。
【請求項9】
(1)ヒトTGFβ1を発現するトランスジェニックマウスにおいて、体液中ヒトTGFβ1濃度とCT線維症スコアとの相関関係を示すグラフから前記トランスジェニックマウスが線維症を発症する所定の体液中ヒトTGFβ1濃度であるカットオフ値を求める工程、(2)前記トランスジェニックマウスから体液を採取した後に、体液中ヒトTGFβ1濃度を測定する工程、(3)前記カットオフ値と測定された体液中ヒトTGFβ1濃度とを比較し、体液中ヒトTGFβ1濃度が前記カットオフ値以上の場合に、前記トランスジェニックマウスが線維症を発症していると判断するヒトTGFβ1発現トランスジェニックマウスの病態評価方法。
【請求項10】
請求項7に記載のヒトTGFβ1発現トランスジェニックマウスの病態評価方法を実施するためのキットであって、前記トランスジェニックマウスから体液を採取するための機具と、採取した体液からヒトTGFβ1を含む成分を分離するためのチューブと、ヒトTGFβ1濃度を測定するためのELISAとを備えたことを特徴とするキット。
【請求項11】
ヒトの線維症を診断するキットであって、被験者から体液を採取するための機具と、採取した体液からヒトTGFβ1を含む成分を分離するためのチューブと、ヒトTGFβ1を測定するためのELISAとを備えたことを特徴とするキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、腎特異的にヒトTGFβ1(human transforming growth factor β1;形質転換(トランスフォーミング)成長(増殖)因子ベータ1;以下、「ヒトTGFβ1」または「hTGFβ1」という)を発現するトランスジェニック(TG)マウス、及び組織線維症マウスモデル用のバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病、膠原病、高血圧等の慢性疾患による腎症の悪化に伴い、血液透析を行う患者数が増加している。年間約1万人以上の患者が新たに透析を開始している。慢性疾患から腎不全に移行した血液透析患者の予後は、他疾患に比較して著しく悪いので、予後改善の対策が急務である。病気の初期段階では、炎症反応は腎障害の病態形成に重要な役割を果たす。病態が進行すると、異常な上皮及び間葉組織の反応によって線維化が起こる。組織の線維化の原因として、TGFβ1、結合組織成長因子(connective tissue growth factor(CTGF))、血小板成長因子(platelet-derived growth factor (PDGF))、炎症性サイトカイン、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド2/単球走化性タンパク質1(CCL2)、酸化剤、凝固因子を含む多くの因子が考えられている。
TGFβ1は、腎臓を含め色々な臓器での線維症及び組織修復を含めたリモデリングの発症機序における主要なサイトカインである。マクロファージ、T細胞、好酸球、好中球、好塩基球を含む多くの細胞はTGFβ1を産生する。TGFβ1は、細胞内において、関連タンパク質(latency-associated protein (LAP))に結合した非活性な形で保存される。この非活性型TGFβ1が、線維化の過程において共通して増加するカテプシン、プラスミン、カルパイン、トロンボスパンジン、インテグリン-αvβ6、メタロプロテイナーゼなどによってLAPから切り離されることで、活性型TGFβ1が放出される。遺伝子組み換え動物を用いた実験によれば、血液中の活性型TGFβ1濃度が上昇すると、単核球浸潤に伴う腎臓の線維化が誘導される。腎臓の線維症にはTGFβ1が重要な役割を担っていると考えられる。一方、重篤な腎線維症患者の血液、尿、腎組織には、活性型及び潜在型TGFβ1が高濃度に観察されている。
【0003】
ヒトの臓器線維症に関する研究や臓器線維症に関する医薬品開発のために、臓器特異的にヒトTGFβ1を発現するモデル動物(例えば、マウスなど)の作成が求められている。本発明者は、長年に渡ってヒトTGFβ1の研究に取り組んでおり、肺特異的ヒトTGFβ1を発現するトランスジェニック(TG)マウスの開発に成功した(特許文献1)。
しかし、腎組織で特異的にヒトTGFβ1を発現するTGマウスの報告は認められない。このため、腎組織を含む他の臓器でもヒトTGFβ1を発現するTGマウスを用いて、腎線維症の研究を行わざるを得ない状況が続いている(非特許文献1)。
一方、組織線維症マウスモデル用のバイオマーカーが知られているが(非特許文献2)、このバイオマーカーは線維化の過程に伴う炎症の程度を示すだけであり、組織線維症の特異的なバイオマーカーではない。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2013-094071号公報
【0005】

【非特許文献1】Kopp JB, Factor VM, Mozes M, Nagy P,Sanderson N, Boettinger EP, Klotman PE,Thorgeirsson SS: Transgenic mice with increased plasma levels of TGF-β1 develop progressive renal disease. Lab Invest 1996;74: 991-1003.
【非特許文献2】Bleomycin induces strain-dependent alterations in the pattern of epithelial cell-specific marker expression in mouse lung. Toxicol Appl Pharmacol. 1997 Feb;142(2):303-10.
【非特許文献3】Zhang Y et al, A new logic for DNA engineering using recombination in E.Coli., Nature 20(1998) 123-128
【非特許文献4】Exp Anim. 2004 53(4):311-20.Establishment of an efficient BAC transgenesis protocol and its application to functional characterization of the mouse Brachyury locus. Abe K, Hazama M, Katoh H, Yamamura K, Suzuki M.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
腎線維症のモデルマウスとして、腎特異的にTGFβ1を発現するマウスが望まれている。現在までのところ、そのようなTGマウスは得られていなかった。
モデルマウスの病態を評価するための組織線維症の特異的なバイオマーカーは、知られていなかった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、腎特異的にTGFβ1を発現し、自然発症的に腎線維症を発症するTGマウスを提供することである。また、別の目的は、組織線維症マウスの病態を評価するためのバイオマーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための発明に係る非ヒト・トランスジェニック哺乳類は、当該哺乳類のPodocinのプロモーター領域と、その下流に配置されて発現を制御されるヒト形質転換因子β1(ヒトTGFβ1)の全遺伝子領域とを含むことを特徴とする。このとき、このトランスジェニック非ヒト哺乳類は、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、ウマ、ウシからなる群から選択されることが好ましく、マウスであることがより好ましい。
前記ヒトTGFβ1は、非活性型TGFβ1として腎臓で発現されて、細胞外で活性型TGFβ1となることが好ましい。
前記ヒトTGFβ1の全遺伝子領域は、7個のエキソンと6個のイントロンを含むことが好ましい。
【0008】
マウスPodocin遺伝子のコード領域は、17 kbにわたるゲノム配列に8個のエキソンと7個のイントロンを含んでコードしている。ヒトTGFβ1遺伝子のコード領域は、23 kbにわたるゲノム配列に7個のエキソンと6個のイントロンを含んでコードしている。本発明では、マウスPodocinのプロモータを用い、Podocin遺伝子のコード領域に代えて、ヒトTGFβ1遺伝子の全コード領域を組み込んだものを用いる。TGFβ1は、細胞内において、関連タンパク質(LAP)と結合した非活性型として保存されている。非活性型TGFβ1は、細胞外で各種因子(カテプシン、プラスミン、カルパイン、トロンボスパンジン、インテグリン-αvβ6、メタロプロテイナーゼなど)によってLAPから切断されて、活性型TGFβ1となる。TGFβ1として、イントロンを含む全遺伝子領域ではなく、mRNAから調製されたcDNAを用いてトランスジェニックマウスを作製しようとすると、非活性型TGFβ1を経由することなく、活性型TGFβ1が大量に発現してしまうため、腎特異的TGFβ1発現トランスジェニックマウスを作製できなかった。これに対し、本願発明では、イントロンを含む全遺伝子領域を用いるため、天然のTGFβ1の発現形態に近いものとなる。このため、病態の解析にも、より有用なトランスジェニックマウスとなる。
非ヒト哺乳類がマウスのときには、トランスジェニックマウスは、生後15週齢から自然的に腎線維症・腎不全を発症し始めることが好ましい。
上記トランスジェニックマウスの系統は、C57BL/6Jであることが好ましい。
【0009】
上記トランスジェニックマウスの作成方法は、(1)ヒトTGFβ1遺伝子を含むBacterial Artificial Chromosome (BAC)において、ヒトTGFβ1遺伝子のイントロン部分に選択用カセットを組み込み、選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子を得る選択用遺伝子組換え工程、(2)前記選択用遺伝子導入ヒトTGFβ1遺伝子の5'-側及び3'-側に、マウスPodocinプロモーターの下流の配列に相同的な配列を導入して、修飾ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントとする修飾工程、(3)5'-側及び3'-側にフランキング配列を有するマウスPodocin全コード配列を含むBACにおいて、前記修飾ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントを、前記マウスPodocinプロモーター領域の下流側に転移させて、Podocin選択用ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントとする工程、(4)前記選択用ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントを取り除いて、Podocin-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物を得る工程、(5)前記Podocin-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物からPodocin-TGFβ1遺伝子を精製し、マウス胚にマイクロインジェクションして、トランスジェニックマウスを得る工程を備えることを特徴とする。
上記発明において、選択用遺伝子は、ストレプトマイシン感受性の野生型リボソーマルS12タンパクコード遺伝子(rpsl)であることが好ましい。
上記発明において、マウスPodocin全コード配列の5'側及び3'側に配置されるフランキング配列とは、マウスPodocin全コード配列(遺伝子)の5'側及び3'側に存在する配列であり、Podocinの発現に影響を与え得る配列を意味する。
【0010】
本発明に係るヒトTGFβ1発現トランスジェニックマウスの病態評価方法は、(1)体液中ヒトTGFβ1濃度とCT線維症スコアとの相関関係を示すグラフからトランスジェニックマウスが線維症を発症する所定の体液中ヒトTGFβ1濃度であるカットオフ値を求める工程、(2)前記トランスジェニックマウスから体液を採取した後に、体液中ヒトTGFβ1濃度を測定する工程、(3)前記カットオフ値と測定された体液中ヒトTGFβ1濃度とを比較し、体液中ヒトTGFβ1濃度がカットオフ値以上の場合に、前記トランスジェニックマウスが線維症を発症していると判断することを特徴とする。
また、上記病態評価方法を実施するためのキットは、トランスジェニックマウスから体液を採取するための機具と、採取した体液からヒトTGFβ1を含む成分を分離するためのチューブと、ヒトTGFβ1濃度を測定するためのELISAとを備えたことを特徴とする。所定の体液中ヒトTGFβ1濃度であるカットオフ値は、発症を認める最低の濃度であっても良く、最低値に10%程度上乗せし一定のマージンを見込んだ濃度値であっても良い。一定の区分を設け、症状を推定する様に複数のカットレベルを設定することも出来る。
さらに、ヒトの線維症を診断するためのキットは、被験者から体液を採取するための機具と、採取した体液からヒトTGFβ1を含む成分を分離するためのチューブと、ヒトTGFβ1を測定するためのELISAとを備えたことを特徴とする。
本発明において、体液とは、血液、尿、唾液、涙の他、鼻水、汗、胃液等の分泌液、胸腹水等の貯留液等をいう(以下同様。)
【0011】
本発明において、機具とは、体液が血液の場合には注射器を、尿の場合には導尿管・尿回収盆などを、唾液の場合には適当な大きさのカップ・唾液採取管などを、涙・鼻水・汗の場合にはスパチュラのような小さなスプーン型機具・スポイトなどを、胃液の場合には胃管を、胸腹水の場合には固定管・注射器などをそれぞれ意味する。
本発明において、ヒトTGFβ1を含む成分とは、主として細胞外の液体成分を意味する。例えば、血液の場合には血清・血漿を意味する。その他の体液の場合には、そのまま、或いは適当に遠心分離等で固液分離を行った後に、液体部分を測定用の液体成分として取り扱う。
腎臓の糸球体には、内皮細胞、基底膜、足細胞(podocyte)を備えた濾過膜が形成されている。このうち、足細胞は糸球体基底膜の反対側に沿って並んでおり、ボーマン嚢の裏の部分に存在する。足細胞は、糸球体からのタンパク質の濾過を抑制するため、多くの偽足がかたく絡み合って網状組織を構成している。Podocin(ポドシン)は、隣接した足細胞の突起の間のスペースに特異的に発現するタンパク質である。本発明において、腎特異的にヒトTGFβ1を発現させるためのプロモーターとして、Podocinのプロモーターを用いる。腎特異的に発現するタンパク質としては、Podocinの他に、ネフリン(nephrin)、Glucocorticoid Induced Transcript-1(GLCCT1)などが知られている。本発明の技術的思想によれば、Podocin以外にも腎特異的に発現するタンパク質のプロモーターを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、腎特異的にヒトTGFβ1を発現し、自然発症的に腎線維症を発症するTGマウスを提供できる。このTGマウスを用いることにより、腎関連疾患(糸球体硬化症、腎不全、糖尿性腎障害、高血圧関連腎障害、腎がん、腹膜線維症などを含む)に関する研究を飛躍的に発展させられる。
また、本発明によれば、ヒトTGFβ1を発現するトランスジェニックマウスの病態をCT検査することなく簡易に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ヒトTGFβ1遺伝子及びマウスPodocin遺伝子の情報とゲノムクローンの探索方法を説明する図である。
【図2】マウスPodocin遺伝子及びヒトTGFβ1遺伝子の組換えBACクローンの構築方法を説明する図である。
【図3】Red/ET反応で接合したH1~H6のゲノムDNA配列を確認した結果を示す図である。
【図4】マウスPodocin_ヒトTGFβ RecBAC発現コンストラクトの精製結果を示す図である。(A)PI-SceIで直鎖化した発現コンストラクトをパルスフィールド電気泳動装置で分離した。ガイドマーカーとしてゲルの両端にアプライしたサンプルのみを可視化し、アガロースゲル中に分離した発現コンストラクトを含むゲルをUV照射することなく切り出したときのゲル写真図、(B)電気溶出、透析により精製したDNA断片をパルスフィールド電気泳動にアプライし、長鎖DNA断片が分断せずに精製されていることを確認したときのゲル写真図、(C)NanoDrop分光光度計によりDNA濃度を決定した結果を示すグラフである。図中のマーカーは、M1: NEB Low Range PFG markerである。
【図5】サザンハイブリダイゼーションによるPodocinヒトTGFβ RecBACトランスジェニックマウス・ファウンダー個体の同定を行った結果を示すゲル写真図である。 ランダムプライム法により [32P]ラベル化されたPodocin_ヒトTGFβ RecBACをトランスジェニックマウス・ファウンダー候補個体のゲノムDNAの断片がトランスファーされたサザンブロットとともにインキュベートしてハイブリダイズさせた。ナイロンメンブレンを洗浄して非特異的に結合した放射性プローブを除去し、特異的に結合する断片をオートラジオグラフィーで検出した。図中のマーカーはM1:NEB, 1KB ladderである。
【図6】マウスPodocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TGマウスにおけるマウスとヒトTGFβ1のreverse transcriptase polymerase chain reaction(RT-PCR)を行った結果を示す写真図である。マウスTGFβ1の発現は殆どすべての臓器に認められた。一方、ヒトTGFβ1の発現は腎臓のみに認められた。
【図7】野生型マウスとマウスpodocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TGマウスの腎臓組織所見(Hematoxilin-Eosin染色)を示す顕微鏡写真図である。野生型マウスの糸球体(A,B)は正常所見を示す。Podocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TGマウスは糸球体の委縮(C,D)、糸球体線維症(E)、腎間質の線維症(F)が認められた。
【図8】野生型マウスとマウスpodocin-ヒトTGFb1 RecBAC-TGマウスの腎臓でのコラーゲン沈着(マッソントリクローム染色)を示す顕微鏡写真図である。野生型マウス(A,B,C)の腎組織のコラーゲン沈着は正常範囲であるが、マウスPodocin-ヒトTGFb1 RecBAC-TGマウス(D,E,F)の腎組織のコラーゲン沈着は高度である。
【図9】16週齢めのマウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウスと、野生型マウスの血漿中BUN(A)及びクレアチニン(creatinine)(B)を測定した結果を示すグラフである。マウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウスでは、いずれの血漿中濃度も上昇していた。
【図10】野生型マウス(WT)及びマウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウス(TGFβ1 TG)にストレプトゾトシン(STZ)を投与したときの血糖値の変化を確認した結果を示すグラフである。
【図11】ブドウ糖負荷試験の結果を示すグラフである。
【図12】ストレプトゾトシン(STZ)投与前後のマウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウスの腎臓を調べたときのCT写真図(A)及び試験前後の腎臓サイズを比較したグラフ(B)である。
【図13】腎組織の顕微鏡写真図である。A:野生型マウスに食塩水を投与した群、B:野生型マウスにSTZを投与した群、C:マウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウス(TGFβ1 TGマウス)にSTZを投与した群のものをそれぞれ示す。
【図14】各群のマウスについて、ホメオスタシス・モデル・アセスメント(homeostasis model assessment:HOMA-IR)を求めた結果を示す棒グラフである。グラフ中、「WT/SAL」は野生型マウス/生理食塩水投与群、「Podocin-TGFβ1-TG/SAL」はトランスジェニックマウス/生理食塩水投与群、「WT/STZ」は野生型マウス/STZ投与群、「Podocin-TGFβ1-TG/STZ」はトランスジェニックマウス/STZ投与群をそれぞれ示す。
【図15】マウスPodocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TG マウスにおけるTGFβ1濃度を測定した結果を示すグラフである。Podocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TG マウスでは、野生型マウスに比べ、血漿中(A)及び尿中(B)のヒトTGFβ1濃度は高値であった。
【図16】マウスSurfactant protein C ヒトTGFβ1 RecBAC-TG マウスにおいて、血漿中TGFβ1濃度を測定した結果を示すグラフである。マウスSurfactant protein C-ヒトTGFβ1 RecBAC-TG マウスでは、野生型マウスに比べ、血漿中ヒトTGFβ1濃度は有意に高値であった。
【図17】Surfactant protein C (SPC)ヒトTGFβ1 RecBAC TG マウスの週齢と血漿中のTGFβ1の濃度との関連性を調べた結果を示すグラフである。10週令以上のマウスでは、血漿中TGFβ1濃度が高く保たれていた。
【図18】Computed tomography(CT)線維症スコアと血漿中TGFβ1濃度との相関関係を示すグラフである。CT肺線維症スコアと血漿中TGFb1の濃度は有意に正の相関を示した。血漿中TGFβ1濃度が3000pg/ml以上のマウスは、CTスコアが3.5以上であった。カットオフ値を3000pg/mlとして、これ以上の血漿中TGFβ1濃度を示すマウスは、CT所見がなくても肺線維症を発症していることが判断できることが分かった。
【図19】肺線維症患者と健常者における血漿中TGFβ1濃度を測定した結果を示すグラフである。(A)には平均値を、(B)には全個体値をそれぞれ示した。(A)肺線維症患者の血漿中TGFβ1濃度は、健常者に比べ、有意に高値であった。(B)血漿中TGFβ1濃度は、肺線維症患者において、高値を示す例及び健常者と変わらず低値を示す例が認められた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施できる。
<ヒトTGFβ1-BAC トランスジェニックマウスの作成>
1.ヒトTGFβ1遺伝子及びマウスPodocin遺伝子の情報とゲノムクローンの探索
マウスPodocin遺伝子のcDNA配列、NM_130456をもとにしてマウスゲノムDNA配列を検索したところ、マウスPodocin遺伝子は1番染色体の1領域に存在することがわかった。マウスPodocin遺伝子のcDNA配列とマウスゲノム配列を並べたところ、マウスPodocin遺伝子のコード領域も17 kbにわたるゲノム配列に8個のエキソンでコードしていることが明らかになった。
次に、マウスPodocin遺伝子座をコードするBACクローンを探索したところ、RP23-57O1に、マウスPodocin遺伝子座のゲノムDNA配列が含まれていることがわかった。このBACクローンにはマウスPodocin遺伝子座とともに、5'上流の69 kbのゲノム配列、及び3'下流の139 kbのゲノム配列を含む、1番染色体の225 kbがカバーされている(図2)。以上の遺伝子情報から、この225 kbのBACクローン、RP23-57O1にはPodocin遺伝子をドライブする全ての発現制御配列が含んでいると考えられた。このクローンを利用してヒトTGFβ1遺伝子の発現ベクターを構築することが合理的であると判断した(図1(A))。

【0015】
ヒトTGFβ1遺伝子のcDNA配列、NM_000660をもとにしてヒトゲノムDNA配列を検索したところ、ヒトTGFβ遺伝子は19番染色体の19q13.1領域に存在することがわかった。ヒトTGFβ遺伝子のcDNA配列とヒトゲノム配列を比べたところ、ヒトTGFβ1遺伝子のコード領域は23 kbにわたるゲノム配列に7個のエキソンでコードしていることが明らかになった。
次に、ヒトTGFβ遺伝子座をコードするBACクローンを探索したところ194.7 kbのサイズのRP11-638N16に、ヒトTGFβ1遺伝子座の全てのゲノムDNA配列を含んでいることがわかった(図1(B))。

【0016】
2.マウスPodocin遺伝子及びヒトTGFβ1遺伝子の組換えBACクローンの構築
大腸菌内での能動型相同組み換え反応であるRed/ET Recombination Technology (非特許文献3) を利用して、Podocin遺伝子及びTGFβ遺伝子を含むBACクローンからPodocin_ヒトTGFβ1 RecBACの組換えBACクローンを構築した。
表1に示したように、ヒトTGFβ1遺伝子のイントロン1の配列、ヒトTGFβ遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列の両端の配列、及びマウスBACクローンのPodocin遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列の3'側末端、5'側末端を大腸菌内での能動型相同組み換え反応のためのキー配列とした。

【0017】
【表1】
JP2015199144A1_000003t.gif

【0018】
ヒトBACクローンのTGFβ1遺伝子のイントロン1にポジティブ/ネガティブセレクションマーカーカセット(Rpsl-kan:本発明の選択用カセットに該当する)を挿入するために、TGFβ1-H3配列、Rpsl-kan、及びTGFβ1-H4配列をタンデムにつないだDNAフラグメントを、LA-Taq(タカラバイオ)を用いたPCRにより構築した(TGFβ1 Rpsl-Kanブレークインフラグメント)(図2A)。Red/ET反応の能力を有した大腸菌株に、TGFβ1遺伝子座を含むヒトBAC クローンとTGFβ1 Rpsl-Kanブレークインフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導し、クロラムフェニコール耐性及びカナマイシン耐性のコロニーをピックアップすることにより、TGFβ1 Rpsl-kanブレークインフラグメントをTGFβ1遺伝子座のイントロン1に挿入した組み換えBACクローンをスクリーニングした(ヒトTGFβ1 Intermediate:選択用遺伝子組換え工程)(図2A)。
このヒトTGFβ1 Intermediate から、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトTGFβ1遺伝子のゲノムDNA配列をプラスミドベクターにサブクローニングするため、H2-H6-SacBp Bluescript-H5-H1をタンデムにつないだDNAカセットを構築した(TGFβ1プレトランスファープラスミド)(図2B)。上記と同様の方法で、Red/ET反応の能力を有する大腸菌株に、ヒトTGFβ1 Intermediateとともに、直鎖化したTGFβ1プレトランスファープラスミドを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導してアンピシリン耐性及びカナマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトTGFβ1遺伝子のゲノムDNA配列を持つプラスミドをスクリーニングした(ヒトTGFβ1トランスファープラスミド)(図2B)。

【0019】
次に、制限酵素反応により、このヒトTGFβ1 トランスファープラスミドから、マウスゲノム配列に由来するH5配列とH6配列を両端に持ち、Rpsl-kanカセットを挿入したヒトTGFβ1遺伝子のゲノムDNA配列をプラスミドベクターから切り出した(ヒトTGFβ1トランスファーフラグメント:修飾ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントの作成及び修飾工程) (図2C)。上記と同様の方法で、Red/ET反応の能力を有する大腸菌株に、マウスPodocin BACクローンとともに、ヒトTGFβ1トランスファーフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導してクロラムフェニコール耐性及びカナマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、マウスPodocin遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列に代えて、ヒトTGFβ1トランスファーフラグメントの翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列を正確に置換したマウスPodocin/ヒトTGFβ1遺伝子の組換えBACクローンをスクリーニングした(マウスPodocin/ヒトTGFβ1 RecBAC Intermediate:Podocin選択用ヒトTGFβ1遺伝子フラグメントとする工程)(図2C)。ヒトTGFβ1トランスファーフラグメントをマウスPodocin BACクローン導入する際のホモロジーアームとしてPodocin-H5とPodocin-H6に示されるように56塩基のゲノム配列をデザインし、作製を行った。

【0020】
H5及びH6は、それぞれ56塩基の長さを持ったプライマーであり、一般的なPCR反応を行うよりも長い塩基数を持っている。本実施形態のトランスジェニックマウスを作成するには、H5及びH6の塩基数は、重要な構成要件の一つである。H5及びH6の塩基数が短い場合には、hTBFβ1発現トランスジェニックマウスを作成できない。このため、H5及びH6の塩基数としては、50塩基~60塩基、好ましくは52塩基~60塩基、更に好ましくは54塩基~58塩基である。
最後に、ヒトTGFβ1遺伝子座のイントロン1配列をPCRで増幅し、ネガティブセレクションによりヒトTGFβ1遺伝子のイントロン1に挿入したRpsl-Kanを除去するためのDNA配列とした(ヒトTGFβ1リペアーフラグメント) (図2D)。上記と同様の方法で、Red/ET反応の能力を有する大腸菌株にマウスPodocin/ヒトTGFβ1 RecBAC Intermediateとともに、ヒトTGFβ1リペアーフラグメントを導入し、このホスト大腸菌内でRed/ET反応を誘導してクロラムフェニコール耐性及びストレプトマイシン耐性コロニーをピックアップすることにより、マウスPodocin遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列に代えて、ヒトTGFβ1遺伝子の翻訳開始コドンから停止コドンまでのゲノムDNA配列を正確に置換したマウスPodocin/ヒトTGFβ1遺伝子の組換えBACクローンの構築を行なった(Podocin_ヒト TGFβ1 RecBAC:Podocin-TGFβ1 BACトランスジェニック構築物を得る工程)(図2D)。シークエンス解析により、Red/ET反応で接合したH1~H6のゲノムDNA配列を確認した(図3)。

【0021】
3.マウスPodocin/ヒトTGFβ1 RecBAC組換えBAC発現コンストラクトの精製
マウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC遺伝子発現コンストラクトである組換えBACクローンにより形質転換したDH10B細胞を、クロラムフェニコールを含むLBアガー培地上でクローニングし、そのシングルコロニーをピックアップして液体培地で一昼夜震盪培養した。マウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC遺伝子発現コンストラクトを、一部改変した阿部らの方法(非特許文献4)に従い、マウスPodocin_ヒトTGFβ RecBAC組換えBACクローンをプラスミド抽出キット(マッキリーナーゲル社、Nucleobond BAC100キット)を用いて精製し、PI-SceIを加えて37℃、16時間反応した。
トランスジェニックマウス作出に用いる発現コンストラクトを得るために、ゲノムBACクローンをPI-SceIで消化し、パルスフィールド電気泳動で分離したところ、150~200 kbほどの発現コンストラクトを含む長鎖DNA断片が生成していることが確認できた。これらのDNA断片をUV照射によるダメージを避けてゲルから切り出し、電気溶出、透析により精製した。分析用の1%アガロースゲル電気泳動により、精製した発現コンストラクトの純度と濃度を調べたところ、純粋な長鎖の発現コンストラクトが回収されていた。そのDNA濃度は181.2 ng/μlであり、トランスジェニックマウス作製に供するのに充分な濃度であった(図4A, B, C)。

【0022】
4.マウスPodocin/ヒトTGFβ1 RecBAC発現コンストラクトのマウス胚への注入
雌性C57BL/6J マウスに妊馬血清性ゴナドトロピン(PMSG)及びヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を投与して過排卵を誘起し、同系統の雄性マウスと交配した後、受精卵を採取した。マイクロマニュピレーターを用いて、C57BL/6J マウスの前核期胚の雄性核に、精製したマウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC発現コンストラクトを直接注入した。このDNA注入胚を偽妊娠誘起した受胚雌マウスの卵管に移植した(トランスジェニックマウスを得る工程)。
前記のようにPMSG及びhCG投与により過排卵誘起した雌性マウスから、受精卵を採取し、マイクロインジェクション法によりマウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC発現コンストラクトを導入した。偽妊娠処置したマウスの卵管に、発現コンストラクトを導入した受精卵を移植した。過排卵誘起して交配したC57BL/6J 雌性マウスから、合計407個の受精卵を採取できた。マイクロインジェクション法により合計392個の受精卵にマウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC発現コンストラクトを注入した。マイクロインジェクションを受けたマウス受精卵を顕微鏡下で観察したところ、注入操作によるダメージで死滅した受精卵は少なく、合計360個の受精卵はマイクロインジェクションを受けた後も安定な状態を保っていた。これらの受精卵のうち、ダメージなく発現コンストラクトを注入できた344個の受精卵を偽妊娠マウスに移植できた。

【0023】
5.マウスPodocin_ヒトTGFβ RecBACトランスジェニックマウス・ファウンダーのサザンスクリーニング
マイクロインジェクション法によりマウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC発現コンストラクトを導入したC57BL/6J マウスの受精卵から、トランスジェニックマウスのファウンダー候補となる産子を得て、サザン解析を行い、ファウンダー個体を同定した。合計392個の受精卵に発現コンストラクトを注入し、合計344個の注入胚を偽妊娠マウスに移植して自然分娩させたところ、これらの遺伝子を注入した受精卵から合計52頭のマウス産子を得た。52頭全ての個体を離乳まで育成した。マウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC発現コンストラクトを導入した初期胚からの産子数、離乳数は良好であった。このことから、発現コンストラクトを注入したこと自体によるマウス受精卵の発生、分化への悪影響はなかったと考えられた。トランスジェニックマウスのファウンダー候補となる産子から抽出したゲノムDNA断片と[32P]ラベル化プローブのハイブリダイゼーションにより、マウスPodocin_ヒトTGFβ1 RecBAC発現コンストラクトを導入したトランスジェニックマウス・ファウンダー個体として8頭を同定した。これらのトランスジェニックマウス・ファウンダー個体に導入した発現コンストラクトのコピー数は1コピーから3コピーであった(図5)。ランダムプライム法により [32P]ラベル化されたPodocin_ヒトTGFβ RecBACをトランスジェニックマウス・ファウンダー候補個体のゲノムDNAの断片がトランスファーされたサザンブロットとともにインキュベートしてハイブリダイズさせた。ナイロンメンブレンを洗浄して非特異的に結合した放射性プローブを除去し、特異的に結合する断片をオートラジオグラフィーで検出した。図中のマーカーはM1:NEB, 1KB ladderである。

【0024】
6.Reverse transcriptase polymerase chain reaction (RT-PCR)
ヒトTGFβ1 TGマウスの各組織におけるヒトTGFβ1遺伝子の発現量を調べるため、逆転写酵素PCR(RT-PCR)を行った。各組織からトリゾール(TRIZOL (Invitrogen, Carlsbad, CA))を用いて全RNAを抽出した。RT-PCRに使用したプライマーの配列は、次の通りであった。
ヒトTGFβ1, forward 5’- AAG ACT ATC GAC ATG GAG CTG G-3'(配列番号7)及び、reverse 5’-GTA TCG CCA GGA ATT GTT GCT G-3'(配列番号8); ヒトGAPDH, forward 5’-CCA CCC ATG GCA AAT TCC ATG GCA-3'(配列番号9) 及び reverse 5’-TCT AGA CGG CAG GTC AGG TCC ACC-3'(配列番号10); マウスGAPDH, forward 5’-CCC TTA TTG ACC TCA ACT ACA TGG T-3'(配列番号11) 及び reverse 5’-GAG GGG CCA TCC ACA GTC TTC TG-3'(配列番号12)であった。全PCRは、各増幅反応においてプラトーとなる前の状態で実施した。PCR反応物は、2%アガロースゲルを用いて電気泳動し、バンドを臭化エチジウムで染色した後、紫外光にて観察した。マウスTGFβ1の発現は殆ど全ての臓器に認められた。一方、ヒトTGFβ1の発現は腎臓のみに認められた(図6)。

【0025】
7.腎臓の組織学的検査
マウスを絶命後、腎循環を生理食塩水で洗浄した後、腎臓を取り出した。腎臓はホルマリン(10%中性緩衝液)でかん流し、ガスで膨らませて、ホルマリン中にて24時間固定した後、パラフィンに包埋した。5μm厚さの組織検査用切片を作成後、パラフィンを除き、生理食塩-リン酸緩衝液にて数回洗浄した。組織切片は、ヘマトキシリン/エオジンの染色法にて処理した。腎臓の組織学的検査は、オリンパスDP70デジタルカメラを装着したオリンパスBX50顕微鏡を用いて行った。野生型マウスの糸球体は正常所見を示した。マウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウスは糸球体の委縮、糸球体線維症、腎間質の線維症が認められた(図7)。野生型マウスの糸球体(A,B)は正常所見を示す。Podocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TGマウスは糸球体の委縮(C,D)、糸球体線維症(E)、腎間質の線維症(F)が認められた。
腎組織でのコラーゲン沈着の程度を検討するため、組織切片はマッソントリクロームの染色法にて処理した。その結果、野生型マウス(A,B,C)では腎組織のコラーゲン沈着は正常範囲であったが、マウスPodocin-ヒトTGFb1 RecBAC-TGマウス(D,E,F)では腎組織のコラーゲン沈着は高度であった(図8)。

【0026】
<糖尿病に罹りやすいことを確認する試験>
血漿中のBUN及びクレアチニンを測定した結果、マウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウス(トランスジェニックマウス)は、いずれの血漿中濃度も上昇しており16週齢から腎機能障害を起こしていることが分かった(図9)。そこで、このトランスジェニックマウスの腎障害が糖尿病により進展しやすいか否かに関し試験を行った。また、その際、糖尿病を発症しやすいか否かに関しても試験を行った。
1.試験方法
(i) 野生型マウス(n=4)及びマウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウス(n=5)に対し、ストレプトゾトシン(STZ:40mg/kg)を1日1回、4日間投与し、糖尿病を誘導した。対象として、野生型マウス(n=3)及びマウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウス(n=5)に生理食塩水(saline)を投与した。
試験開始前(day0)、試験開始後7日目(day7)、14日目(day14)、21日目(day21)、28日目(day28)及び35日目(day35)に各マウスから採血を行い、血糖値を調べた。
(ii) 試験開始後28日目のマウスを用い、ブドウ糖負荷試験を行った。マウス腹腔内に1g/kgのブドウ糖を投与し、15、30、60及び120分後に血糖値を測定した。
(iii) 試験終了後、各マウスについて、CT検査を行い、腎障害の程度を調べた。併せて、顕微鏡を用いて、腎組織の状態を確認した。
(iv) 上記(i)、(ii)の空腹時血糖値を用い、各群のマウスについて、HOMA-IR(homeostasis model assessment)の検討を行った。
2.試験結果
図10には、各群のマウス血糖値を示した。生理食塩水を与えた群では、野生型(WT/SAL)及びトランスジェニックマウス(TGFβ1 TG/SAL)のいずれも血糖値には統計的な有意差は認められなかった。一方、STZを投与した群では、野生型(WT/STZ)においては、有意差は見られなかったものの、血糖値が上昇した。トランスジェニックマウス(TGFβ1 TG/SAL)では、有意に(p<0.05)血糖値の上昇が認められた。
図11には、ブドウ糖負荷試験の結果を示した。STZ投与群では、コントロール(SAL)群に比べて、血糖値が上昇していた。特に、トランスジェニックマウス(TGFβ1 TG/SAL)では、ブドウ糖投与から30及び60分後に有意な(p<0.05)血糖値上昇が認められた。この結果、トランスジェニックマウスは、4週齢において糖尿病を発症していることが分かった。
図12Aには、STZ投与前及び投与後のトランスジェニックマウスのCT画像を、図12Bには、試験前後における腎臓のサイズをそれぞれ示した。トランスジェニックマウスの腎臓(TG)は、STZの投与によって顕著に(約1.6倍)大きくなった。
図13には、腎組織を顕微鏡で観察した結果を示した。野生型マウスでは、STZ投与によって大きな変化は認められなかった(図13A、図13B)。トランスジェニックマウスでは、STZ投与によって、硬化症の病態が観察された(図13C)。
このように、マウスPodocin-ヒト/TGFβ1 RecBAC-TGマウスは、野生型マウスに比べ、ストレプトゾトシン(STZ)の投与によって、糖尿病になりやすいことが分かった。
図14には、4群(野生型マウス/生理食塩水投与群、トランスジェニックマウス/生理食塩水投与群、野生型マウス/STZ投与群、トランスジェニックマウス/STZ投与群)のそれぞれについて、下記式に基づきHOMA-IRを求めた結果を示した。
HOMA-IR=空腹時血中インスリン濃度(μU/mL)×空腹時血糖値(mg/dL)×1/405
トランスジェニックマウス/STZ投与群では、有意にHOMA-IRが増加していた。このことから、トランスジェニックマウスでは、TGFβ1が高度に発現されることにより、インスリン抵抗性を獲得し、II型糖尿病に罹患しやすくなったものと考えられた。

【0027】
<バイオマーカーとしてのTGFβ1測定の重要性>
ところで、肺線維症、糸球体硬化症、肝硬変などの臓器線維症の病態形成にTGFβ1が重要な役割を果たしていることが知られている。このような線維症の患者の中、様々臨床所見・予後のパターンを示す例が報告されている。これは線維症の臨床表現型(phenotype)と呼ばれている。
但し、血漿中TGFβ1濃度とTGFβ1型の線維症との関連については十分に解明されていない。そこで、本実施形態では、血漿中TGFβ1を測定することにより、TGFβ1型の線維症のパターンを同定できることを示す。

【0028】
1.マウスPodocin/ヒトTGFβ1 Rec BAC TGマウスにおけるTGFβ1濃度の検討
TGFβ1は(BD Biosciences Pharmingen, San Diego, CA)市販のELISAキットを用いて、使用マニュアルに従って測定した。マウスPodocin/ヒトTGFβ1 Rec BAC TGマウスでは、血液中及び尿中のヒトTGFβ1濃度は、野生型マウスに比べ、有意に高値を示した(図15)。
2.マウスSurfactant protein C/ヒトTGFβ1 Rec BAC TG マウスにおけるTGFβ1濃度の検討
本発明者は、各種の工夫を織り込みながら、TGFβ1を特定の臓器で発現させるトランスジェニックマウスの確立を行っている。これまでに確立したトランスジェニックマウスとして、肺で特異的にヒトTGFβ1を発現するトランスジェニックマウス(マウスSurfactant protein C/ヒトTGFβ1 Rec BAC TGマウス)がある。
そこで、このトランスジェニックマウスを用いて、血漿中TGFβ1濃度と肺線維症との関係を調べた。マウスSurfactant protein C/ヒトTGFβ1 Rec BAC TGマウスでは、血漿中のヒトTGFβ1濃度は、野生型マウスに比べ、有意に高値を示した(図16)。血漿中のヒトTGFβ1濃度は早期(4週齢)に高くなり、10週令以上のマウスでは、血漿中TGFβ1濃度がそのまま維持されることが分かった(図17)。

【0029】
3.マウスSurfactant protein C/ヒトTGFβ1 Rec BAC TG マウスにおけるTGFβ1濃度とマイクロCT(computed tomography)の関連性
マウスモデルにおける肺線維症の評価は、マイクロCTを用いて行った。CTデータは、イソフルランの吸入によって呼吸抑制された麻酔下にあるマウスを用いて得られた。肺線維症のCT所見は1から8までスコア化して評価した。CT肺線維症スコアと血漿中TGFβ1濃度は、有意に正の相関を示した。3000pg/ml(カットオフ値)以上の血漿中TGFβ1濃度があるマウスでは、CTスコアの3.5以上が認められた(図18)。従って、 3000pg/ml以上の血漿中TGFβ1濃度があるマウスでは、CT所見がなくても肺線維症があることが判断できることが明らかになった。
4.線維症患者における血漿中TGFβ1濃度の検討
次に、ヒト肺線維症患者と血漿中TGFβ1濃度との関係を調べた。肺線維症患者(38名)及び健常者(3名)を対象として、血漿中TGFβ1濃度を測定した。TGFβ1濃度は、健常者に比べ、肺線維症患者では有意に高値を示した。(図19(A))各症例の血漿中TGFβ1濃度を検討すると、TGFβ1濃度が高い症例と低い症例が認められた。(図19(B))このように、TGFβ1が高い症例は、TGFβ1型の線維症であることが考えられた(図19)。

【0030】
マウスpodocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TGマウスにおいて、図7、図8に示されるように、腎臓の線維化が進展すると、図15Aに示すように、血液中ヒトTGFβ1濃度は、野生型マウスに比べ、約2倍の上昇を示した。図15Bに示すように、尿中ヒトTGFβ1濃度も、野生型マウスに比べ、約2倍の上昇を示した。図6に示されるように腎臓にのみヒトTGFβ1が特異的に発現しているので、血液及び尿中ヒトTGFβ1濃度の上昇は、腎臓の線維化を反映していると考えられた。このように、血液及び尿中ヒトTGFβ1濃度が、腎の線維化を反映するマーカーとなり得ることが分かった。
腎では、糸球体の線維化により、発現が上昇したTGFβ1が早期から尿中に排泄されるので、早期の線維化を反映し、線維化の早期診断のマーカーとして有用である可能性がある。一方、糸球体が線維化により障害され、ネフロンの数が減少した場合に、尿中へのTGFβ1の排泄が低下し、その結果として、血液中TGFβ1が上昇すると考えられる。このため、血液中のTGFβ1の上昇は、線維化の重症度を反映する可能性がある。特に、マウスpodocin-ヒトTGFβ1 RecBAC-TGマウスの繁殖においては、野生型マウスの診断とは異なり、腎線維症を自然発症するモデルマウスのため、腎線維症の発症時期確認には極めて有効な指標とできる。このことで、繁殖したマウスを効率良く発症確認でき、腎線維症疾患に関する研究機関への提供が容易になるものである。同様にマウスSurfactant protein C/ヒトTGFβ1 Rec BAC TG マウスの繁殖においても、血液中TGFβ1濃度が肺線維症の発症確認に有効である。

【0031】
線維症をおこす臓器に依っては、血液中TGFβ1への影響が異なることも考えられる。このため、各臓器に特異的にヒトTGFβ1発現させることで、詳細な解析が可能となり、マーカーとしての有用性が検討できる。
図15では、血漿中ヒトTGFβ1濃度3000pg/mlをカットオフ値とした。測定マウス数や週齢のデータを積み上げることによって、週齢ごとのカットオフ値を定めることも可能である。週齢が若い段階で発症時期や可能性を見極めることにより、研究用TGマウスの提供を安定させることができる。
図15Bによれば、尿中ヒトTGFβ1濃度300pg/mlをカットオフ値として、これ以上の尿中TGFβ1濃度があるマウスでは、CT所見がなくても肺線維症があることが判断できる。血漿中及び尿中TGFβ1濃度の両方を測定することで、腎線維症の判定精度を上げること、及び腎線維症の重症度判定に利用できることは本発明の範囲に含まれる。

【0032】
図15Bにおいて、個別にはTGFβ1の濃度が高い例と低い例がある。TGFβ1濃度が高い群では、TGFβ1が線維症の主な原因であることが考えられる。TGFβ1濃度が低い群においても、健常者のデータより高い値を示しており、症状を推定するための有意なマーカーの一つとして使える。人間の肺線維症における血漿中TGFβ1濃度によれば、マウスの例にみられるように、今後データをさらに積み上げることで、人の血漿中TGFβ1濃度測定とカットオフ値により、高精度で人の肺線維症判定に使用することもできる。
図16、図17に示すように、TGマウスの血漿中TGFβ1濃度と、予め定めたカットオフ値でTGマウスの肺線維症判定が容易であることが現れている。肺線維症TGマウスは腎線維症TGマウスとは異なる遺伝子組み込みを行い、さらに煙草の煙吸引などの負荷をかけて育成する。その作成方法及び育成方法と組み合わせて判定することで、容易に肺線維症、腎線維症の判定ができる。前記したように尿と血漿中のTGFβ1濃度の両方を組み合わせて判定すれば、線維症の発症箇所が肺であるか腎臓であるかの判定も可能になる。人の場合はすべて自然発症であるため、マウスのように遺伝子組み込み方法との組み合わせによる判断指標はあり得ない。このため、先に述べた血液、尿以外の数種類の体液中のTGFβ1濃度を測定し、それぞれの体液ごとのTGFβ1濃度のデータを今後積み重ねてカットオフ値を決めていくことにより、線維症等の症状がどの内蔵器官で発症しているのかを容易な方法で推定できるようになる。この応用は、本発明の技術的範囲に含まれる。
マウスにおいて、TGFβ1濃度のカットオフ値を定める際、同じ育成群の中から、データを積み上げてカットオフ値を定めることもできるし、別の育成群や、過去の蓄積データから統計的に定めたカットオフ値を用いることもできる。

【0033】
<トランスジェニックマウスの病態を評価するためのキット>
次に、ヒトTGFβ1を発現するトランスジェニックマウスの病態を評価するためのキットの内容について説明する。
キットには、少なくとも(1)トランスジェニックマウスから体液を採取するための器具、(2)採取した体液からヒトTGFβ1を含む成分を分離するためのチューブ及び(3)ヒトTGFβ1を測定するためのが含まれている。
(1)体液として血液を採取する場合には、器具として、眼底から血液を採取するための微小ガラス管、尾静脈から血液を採取するためのカミソリと微小ガラス管、足根部・頸動脈・頸静脈・心臓・腹大動脈・腹大動脈などから血液を採取するための注射器などが用いられる。血液を用いる場合には、血漿を分離するために、抗凝固剤(ヘパリン、EDTA、クエン酸など)を添付することが好ましい。なお、微小ガラス管を用いる場合には、内壁面にヘパリンをコートしたものを用いることが好ましい。また、必要に応じて、麻酔用の薬品(ペントバルビタール、チオペンタール、ケタミン、エーテル、イソフラン、セボフルランなど)を組み合わせることもできる。
また、体液として尿を採取する場合には、時計皿、代謝ケージなどが用いられる。
(2)体液として血液を用いる場合には、チューブ(遠心管)として、30μL~1mL程度の容量を持つものが使用できる。
(3)ELISAには、適当なウエル数(例えば、96ウエル、192ウエル又は384ウエル)を備えたプレート、(マウスTGFβ1を認識せず)ヒトTGFβ1を特異的に認識する第1抗体溶液、サンドイッチ法を構成するためのヒトTGFβ1を特異的に認識する第2抗体溶液、第2抗体を認識する発色用抗体及び発色用試薬を備えることができる。
上記キットを用いて、トランスジェニックマウス血液中のヒトTGFβ1濃度を測定するための一手順について、簡単に説明する。
まず、トランスジェニックマウスを保定器に入れた後、尾部を軽く温めて血管を拡張させる(このとき、動物自体を数分間保温しても血管を拡張させられる)。メスで尾部を傷つけ、切開部分が開くようにして血液を滴らせるようにして、微小ガラス管(ヘマトクリット管)を用いて採血する。この方法は、マウスを殺すことなく、実施できるので、経時的な変化を見るために好ましい。なお、外側足根静脈から採血することもできる。また、マウスを殺してもよい場合には、麻酔下にて、針付き注射器を用いて、心臓・腹大動脈・腹大静脈から大量の血液(数百μL~1mL程度)を採取することもできる。
採取した血液をチューブに移し、1000~1500×gにて、15~30分間、4℃で遠心分離することで、ヒトTGFβ1を含む血漿成分を分離・採取する。測定精度を向上するために血漿成分を希釈する場合は、その希釈率を測定結果に反映する。
この血漿中のTGFβ1濃度をELISA系によって測定する。サンドイッチ法を用いる場合には、まず第1抗体をELISAプレートの固相にコートした後に、BSA等でブロックし、ここのサンプル血漿をそのまま(或いは、適当に希釈して)添加する。第1抗体とヒトTGFβ1を結合させた後に、ウエル中の溶液を除き、PBSで数回洗浄する。その後、第2抗体をウエル中に添加して、第1抗体と結合したヒトTGFβ1と反応させた後にウエル中の溶液を除き、PBSで数回洗浄する。次に、第2抗体を認識する標識抗体をウエル中に添加して反応させた後、ウエル中の溶液を除き、PBSで数回洗浄後、発色用試薬をウエル中に添加し、適当な時間後にプレートリーダーを用いて、発色の程度を測定する。同時に測定した検量線に基づき、検体中のヒトTGFβ1濃度を求める。
こうして求めたトランスジェニックマウスの血液中ヒトTGFβ1濃度と、カットオフ値とを比較することで、トランスジェニックマウスの病態を評価できる。

【0034】
<ヒトの線維症を診断するためのキット>
次に、ヒトの線維症を診断するためのキットの内容について説明する。
キットには、少なくとも(1)被験者から体液を採取するための器具、(2)採取した体液からヒトTGFβ1を含む成分を分離するためのチューブ及び、(3)ヒトTGFβ1を測定するためのELISAが含まれている。
(1)体液として血液を採取する場合には、器具として、針付き注射器を用いることが好ましい。血液を用いる場合には、血漿を分離するために、抗凝固剤(ヘパリン、EDTA、クエン酸など)を添付することが好ましい。体液として尿を採取する場合には、カテーテルが用いられる。
(2)体液として血液を用いる場合には、チューブ(遠心管)として、1mL~30mL程度の容量を持つものが使用できる。
(3)ELISAには、適当なウエル数(例えば、96ウエル、192ウエル又は384ウエル)を備えたプレート、ヒトTGFβ1を特異的に認識する第1抗体溶液、サンドイッチ法を構成するためのヒトTGFβ1を特異的に認識する第2抗体溶液、第2抗体を認識する発色用抗体及び発色用試薬を備えることができる。
上記キットを用いて、血液中のヒトTGFβ1濃度を測定するための一手順について、簡単に説明する。
まず、注射器を用いて、血液を採取する。採取した血液をチューブに移し、1000~1500×gにて、15~30分間、4℃で遠心分離することで、ヒトTGFβ1を含む血漿成分を分離・採取する。
この血漿中のTGFβ1濃度をELISA系によって測定する方法は、上記<トランスジェニックマウスの病態を評価するためのキット>にて述べた方法に従う。
こうして求めた血液中ヒトTGFβ1濃度と、カットオフ値とを比較することで、ヒトの線維症の進行程度を評価するための判断データの一つが得られる。最終的には、医師等の専門家の判断に従う。
このように本願実施形態によれば、腎特異的にヒトTGFβ1を発現し、自然発症的に腎線維症を発症するTGマウスを提供できた。このトランスジェニックマウスは、生後15週齢から自然的に腎線維症・腎不全を発症し、生後20週~26週で死亡し始める。この発病が早く比較的長く生きるTGマウスを用いることにより、腎関連疾患(糸球体硬化症、腎不全、糖尿病性腎障害、高血圧関連腎障害、腎がん、腹膜線維症などを含む)に関する研究を飛躍的に発展させられる。
図面
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