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明細書 :生体由来細胞を用いたがん細胞の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年8月17日(2017.8.17)
発明の名称または考案の名称 生体由来細胞を用いたがん細胞の検出方法
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/483       (2006.01)
C12N   5/09        (2010.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI C12Q 1/04
C12M 1/34
G01N 21/64 F
G01N 33/48 M
G01N 33/48 P
G01N 33/483 C
C12N 5/09
C12N 5/071
国際予備審査の請求
全頁数 47
出願番号 特願2016-550353 (P2016-550353)
国際出願番号 PCT/JP2015/076900
国際公開番号 WO2016/047676
国際出願日 平成27年9月24日(2015.9.24)
国際公開日 平成28年3月31日(2016.3.31)
優先権出願番号 2014193424
優先日 平成26年9月24日(2014.9.24)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】山田 勝也
【氏名】佐々木 綾子
【氏名】小野 幸輝
【氏名】刀稱 亀代志
出願人 【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
【識別番号】100131705、【弁理士】、【氏名又は名称】新山 雄一
審査請求 未請求
テーマコード 2G043
2G045
4B029
4B063
4B065
Fターム 2G043AA01
2G043BA16
2G043EA01
2G045AA24
2G045BB25
2G045CB02
2G045FA16
2G045FB12
4B029AA01
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4B065AC20
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4B065BD32
4B065CA44
要約 本発明は、細胞診においても用いることができる、生体由来細胞を用いたがん細胞の新たな検出方法を提供することを目的とする。特には、細胞を生きた状態でイメージングできる新たながん細胞の検出方法、並びに該方法と既存の細胞診の染色方法を組み合わせたがん細胞の二重検出方法を提供することを目的とする。 ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、蛍光標識L-グルコース誘導体とともにインキュベートして細胞内に取り込まれた該蛍光標識L-グルコース誘導体を検出すること、及び前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上に付着させた状態で、細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出すること、からなる生体由来細胞を用いたがん細胞の検出方法が提供される。さらに、アルコール等で固定された細胞を用いた染色法を組み合わせたがんの二重検出方法が提供される。
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトから採取した試料を用いたがん細胞の二重検出方法であって、
(a)以下の工程を含む試料中に含まれる生きた細胞を用いた蛍光イメージングからなるがんの検出方法:
細胞を蛍光標識L-グルコース誘導体とともにインキュベートして細胞内に取り込まれた該蛍光標識L-グルコース誘導体を検出すること、ここで、該L-グルコース誘導体は、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体である、及び、
前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上に付着させた状態で、細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出すること、ここで、該プレートは、その表面上に、該細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有し、そして、前記L-グルコース誘導体が発する蛍光が細胞内に検出された場合はその細胞ががん細胞であると判定する、
を含むがん細胞を検出する方法、
及び
(b)以下の工程からなるアルコール固定された細胞を用いた染色法からなるがんの検出方法、
前記プレートをエタノール固定液に浸して細胞を固定した後、パパニコロウ染色、ギムザ染色、PAS染色、グロコット染色、及び免疫細胞化学染色からなる群から選ばれるいずれか一つの染色方法によって染色して、がん細胞を検出する方法、
を含むがん細胞の二重検出方法。
【請求項2】
前記蛍光イメージングからなるがんの検出方法aが以下の工程:
(a-1)ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、記蛍光標識L-グルコース誘導体を含む緩衝液中にてインキュベートし、該L-グルコース誘導体を取り込ませる工程、
(a-2)緩衝液を前記蛍光標識L-グルコース誘導体を含まない緩衝液に交換して該L-グルコース誘導体の取り込みを停止する工程、
(a-3)前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上の細胞付着領域に付着させて固定し、次いで、前記細胞付着領域を含みかつ囲むように構成されプレート上に設けられた緩衝液を保持するための緩衝液保持領域に緩衝液を入れ、細胞を生存状態に維持する工程、ここで、前記緩衝液保持領域は、細胞が固定されたプレート面と、緩衝液保持領域を取り囲むように設計された緩衝液保持構造体から構成される、
(a-4)前記固定した細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出する工程、及び
(a-5)前記蛍光の検出に基づいてがん細胞を検出する工程、
からなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程aが以下の工程:
(a-1)ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、薄いガラス又はプラスチックプレート上の細胞付着領域に付着させて固定する工程、
(a-2)前記細胞付着領域を含みかつ囲むように構成されプレート上に設けられた緩衝液を保持するための緩衝液保持領域に緩衝液を入れ、細胞を生存状態に維持する工程、ここで、前記緩衝液保持領域は、細胞が固定されたプレート面と、緩衝液保持領域を取り囲むように設計された緩衝液保持構造体から構成される、
(a-3)緩衝液を前記蛍光標識L-グルコース誘導体を含む緩衝液に交換し、次いで、プレートに固定された細胞をインキュベートし、該L-グルコース誘導体を取り込ませる工程、
(a-4)緩衝液を前記蛍光標識L-グルコース誘導体を含まない緩衝液に交換して該L-グルコース誘導体の取り込みを停止し、前記固定した細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出する工程、及び
(a-5)前記蛍光の検出に基づいてがん細胞を検出する工程、
からなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース(2-NBDLG)と、2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合した2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコース(2-TRLG)との混合物である、請求項1~3のいずれか一つに記載のがん細胞の二重検出方法。
【請求項5】
前記工程(a-5)におけるがん細胞の検出において、蛍光イメージングされた細胞の蛍光色調を指標に該細胞の細胞膜損傷状態を判断することをさらに含む、請求項3又は4に記載の検出方法。
【請求項6】
前記方法(b)がパパニコロウ染色である請求項1~5のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項7】
前記プレートの厚さが0.3mm以下である上記請求項1~6のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項8】
前記衝液保持構造体は、前記緩衝液保持領域に相当する開口部を有するプレート形状又はリング形状の構造体であって、前記緩衝液を保持するのに十分な厚さを有する、請求項2~7のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項9】
前記緩衝液保持構造体がシリコーンから作られた厚さ0.5~10mmの構造体である、請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
前記ヒトから採取した試料が、患者の浮遊細胞液由来の細胞、擦過剥離細胞由来の細胞、又は穿刺吸引細胞由来の細胞である、請求項1~9のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項11】
前記細胞が、患者の喀痰、尿、腹水、胸水、心嚢液、脳脊髄液、胆汁、膵液、関節液又は血液から選ばれる浮遊細胞液から由来する細胞である、請求項10に記載の検出方法。
【請求項12】
前記細胞が、卵巣がん患者又は子宮体がん患者の腹水由来の細胞である、請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
前記プレートが、細胞を付着させる面と反対の面に細胞の位置情報を示すためのマーキングを有する、請求項1~12のいずれか一つに記載の検出方法。
【請求項14】
レーザー共焦点顕微鏡を用いて生きた細胞を観察するための、細胞観察用ガラス又はプラスチックプレートと緩衝液を保持するための緩衝液保持構造体を含む細胞観察用ガラス又はプラスチックプレート構造体であって、
細胞を生存状態で固定するためのガラス又はプラスチックプレート、ここで、該プレートは、表面上に細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための緩衝液保持領域を有し、厚みが0.3mm以下であり、かつ細胞を固定する面とは反対の面に細胞の位置情報を示すためのマーキングを有する、と、
該緩衝液保持領域にて緩衝液を保持するための緩衝液保持構造体、ここで、該緩衝液保持構造体は、緩衝液保持領域を取り囲むように設計されたプレート形状又はリング形状のシリコーンから作られた厚さ0.5~10mmの緩衝液保持構造体である、
を含む細胞観察用ガラス又はプラスチックプレート構造体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来細胞を用いた、がん細胞の検出方法、特には蛍光標識L-グルコース誘導体を用いたがん細胞の検出方法に関する。本発明はまた、該がん細胞の検出方法に用いることができる細胞固定・観察用のスライドガラスのセットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、がんは日本人の1/2が罹患する。しかし、多くの場合、早期に的確な診断を行い、過不足のない治療を行えば、予後やQOLの改善が期待される。がん細胞であるか否かの判定は、がんが疑われる部位から細胞(細胞診)もしくは組織(組織診)を取り出し、細胞検査士や病理専門医が形態学的に異常の有無を観察し、経験と主観に基づいて判断を行っている。しかし、前がん病変と呼ばれる初期の状態、あるいはクラスIIIと呼ばれる境界病変では、形態学からだけでは判定が難しいケースもあり、実際に検査士や病理医により判断が分かれたり、再検査に回して判断を保留する場合もある。これにより再検査時には進行している場合もあり、患者、病理医、検査士、臨床医、検査専門会社の全ての立場から、現在より客観的で明快な細胞評価方法の開発が切望されている状況にある。
【0003】
境界病変の的確な診断は臨床現場の悲願であるとともに、患者の一生を左右するシリアスな問題である。また、細胞形態を一つ一つ観察する従来の細胞診は、多年の経験が必要とされるため、人材の養成が追い付かず、現場の負担が大きく、見過ごしも起きるなど、長年改善が求められてきた。
【0004】
がんの有無を判定する検査においては、まず比較的侵襲の少ない「細胞診」(N/C比、極性、核の様態を含めた細胞異型、および細胞の積層等の構造異型の有無等の検査)を実施して、がん細胞が検出されるか否かを専ら形態学的に判定し、もしがん細胞もしくはその疑いのある細胞が見出された場合には、より詳細な判定が可能な組織診を行って治療方針の決定に役立てている。
【0005】
また、「細胞診」は、検診等でがんの有無を簡便に調べる目的、がんの手術時や診断目的で腹水や胸水等の体腔液を採取して腹膜や胸膜等への播種の有無を調べる目的、あるいは尿路系腫瘍等で尿を調べてがんの有無を発見する目的等からも頻繁に用いられる。腹水や胸水等の検査や、腎盂がんの有無を調べる場合等、組織診が実施できないケースもあり、このような場合、細胞診断により治療方針を決定する必要がある。
【0006】
我が国の細胞診は、一部の先端機関を除いて、患者から得られた検体をスライドガラスに塗抹し、アルコール固定後、染色、封入し、顕微鏡を用いて細胞形態を観察することで行われている。迅速簡便に実施できる一方、検査を専門に担当する細胞検査士は、スライドガラス一枚一枚に含まれる膨大な数に上る細胞を、まさに一つ一つ形態や核に異常がないか調べていく作業を連日繰り返している。いかに速く見逃しすることなく確実にがん細胞を発見できるか、多年にわたる経験と技術が必要な世界といえる。
【0007】
また、折り重なる細胞群から、たとえわずかでもがん細胞が見つかればがんと判定され、見逃しは的確な診断の遅れにつながる為、一つの細胞も見落とすことなく探しだす集中力と根気、熟練が要求されるが、検査士により違いがあることは否定できない。
【0008】
加えて、腹水や尿の中に浮遊する細胞は、観察対象とする細胞が本来存在する組織から剥離して存在している為、血流や栄養が絶たれ、細胞変性を起こしやすい。その為、形態が変化して核が濃染したり、N/C比(核/細胞質比)が増大するなど、がん細胞と鑑別の難しい細胞が認められる場合も稀でない。従って、良悪の鑑別困難ないわゆるクラスIIIとして判定され、治療方針の決定に支障を来たし、経過観察、再検査となることがある。また、クラスIII分類の幅が検査士および細胞診専門医の経験、主観により異なり、早期の治療ができずに患者に不利益を生じる可能性がある。しかし、現状の形態情報のみによる細胞診断では限界があると言わざるを得ない。
【0009】
また、光学顕微鏡による観察では、多量の血液細胞の存在により、観察対象とする細胞が見えにくくなり、的確な診断に苦慮することがある。これを改善するための標本作製法として液状化細胞診(LBC)も考案されている。標本作製における人為的な要素の低減には役立つが、良悪の鑑別について従来法と有意な差がないとする報告もある。
【0010】
がん細胞であるか否かの判定は、従来、細胞検査士ならびに細胞診専門医が、以下のような細胞の形態学的特徴等に注目して行ってきた。
1)細胞質(cytoplasm)に対する細胞核(nucleus)の比(N/C比)の増大。
2)細胞内の核の位置や核クロマチンの様態を含めた細胞形態の異常。
3)細胞の集合状態等の異常(構造異型)。
【0011】
しかし、このような形態学的な異常に基づく診断は、細胞検査士ならびに細胞診専門医が主観に基づいて下すものであることから、良悪境界状態にある細胞や、細胞形態だけでは判断できないような場合がある。このように、主観に基づく診断では、観察者により意見が異なる場合や、判断を保留せざるを得ない場合もある。一例として、膀胱がんの再発検査においては、クラスIIIに分類される判定は10%以上に上り、看過できないものとなっている。
【0012】
本来クラスIIIと判定された検体は、がんか、がんではないかのどちらかのはずであるのに、「がんである恐れのある細胞」と、「がんである恐れのない細胞」の線引きは難しい。そこで、クラスIIIを減らす為には、こうした主観的側面をもつ現在の細胞診断に代わり得る客観的な尺度、あるいは経験の多寡によらず判定できるような明確な指標が求められている。
【0013】
更に、日々蓄積する待ったなしの膨大な細胞診業務の中にあって、熟練した細胞検査士が異常所見をひとつひとつ人間の目によって見つけ出している現状において見逃しによる偽陰性を回避するため、的確に異常所見を拾い上げるガイドとなるような指標が必要である。
【0014】
がんの細胞診断において常法となっているパパニコロウ染色やギムザ染色等の一般染色による判定を補う必要がある場合、免疫細胞化学染色を実施する場合がある。しかしながら、一種類で良性と悪性を鑑別できるような抗体は存在せず、数種類を組み合わせる必要がある上、いずれも良悪鑑別の決定打となるまでには至っていない。
【0015】
加えて、現在の細胞診標本作製においては、アルコール固定により、死んだ細胞の、専ら「形態学的に検出可能な異常」の判定に基づいた方法であり、形態学的な変化として必ずしも表れていない「細胞の機能的な異常」を見る方法になっていないという点が指摘できる。一見正常な細胞形態を示していても、機能的にも正常であるか否かは、通常の細胞診だけでは判定しえない。例えば、形態学的に正常細胞と見分けがつかない場合であっても、細胞が将来がん化リスクの高いウイルスに既に感染していたり、あるいは細胞機能には既に異常が現れているにも関わらず、形態学的細胞判定技術では鑑別ができない場合がある。このような場合、形態学的に異常が完全に明らかになるまで確定診断できず、検査を繰り返した結果として治療開始が後れ、患者が不利益を被る。
【0016】
本発明者らは、自然界に存在せず、グルコーストランスポーターGLUTに結合しない、L-グルコースを緑色の蛍光基NBDで標識した新規蛍光L-グルコース誘導体である2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース(2-NBDLG)を開発し、すい臓がん細胞等のインビトロ培養細胞や担がんマウスに投与すると、がん細胞内への2-NBDLGの特異的な取り込みによりがん細胞が可視化され、多様な細胞状態を示すがん細胞から成るがん細胞塊のイメージングが可能であることを示した(特許文献1)。
【0017】
また、本発明者らは、赤色の蛍光基を有し、細胞膜不透過性の蛍光L-グルコース誘導体である、2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合した2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコース(2-TRLG)を開発し、これを2-NBDLGと共に培養細胞に適用するインビトロ実験では、細胞膜に損傷を受けた細胞や食作用等による非特異的な細胞内への取り込みを示す細胞は、2-NBDLGと2-TRLGの両者を共に細胞内に取り込むことによって2-NBDLGのみを取り込む細胞と識別できることを示してきた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0018】

【特許文献1】WO2012/133688号公報
【0019】

【非特許文献1】Yamamoto et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 21: 4088-4096, 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、細胞診において用いることができる、生体由来細胞を用いたがん細胞の新たな検出方法を提供することを目的とする。本発明はまた、既存のがん細胞の細胞診断法、例えばパパニコロウ染色法やギムザ染色法と組み合わせて用いることができる、生体由来細胞を用いたがん細胞のライブイメージング検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、上記の点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、生体由来の細胞を用いて、緩衝液を保持することができる領域を薄いガラス又はプラスチックプレート上に設けることにより、薄いガラス又はプラスチックプレート上に細胞を付着させて保持することが可能となった。この緩衝液保持領域にはシリコーン等の撥水性物質による疎水性領域を構築することで細胞の乾燥を防ぐ効果を大いに高め、この撥水性物質の乾燥防止効果により、細胞を生存状態に維持しながら蛍光標識分子を細胞内に取り込ませて細胞内の蛍光標識分子が発する蛍光を検出できることを見出し、本発明を完成させた。
この方法を用いることにより、生体由来細胞を用いた細胞のライブイメージングが可能となるとともに、特定の蛍光標識分子を用いることにより生体由来細胞を用いたがんの検出が可能であることを見出した。そして、ライブイメージングを用いたがんの検出方法を、既存のがん細胞の細胞診断法、例えばパパニコロウ染色法やギムザ染色法と組み合わせて用いることにより、がん細胞の二重検出法という更なる発明を完成させた。
【0022】
本発明の例示的な態様は、以下の通りである。
(1)生体由来細胞を用いたがん細胞の検出方法であって、以下の工程:
(a)ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、蛍光標識L-グルコース誘導体とともにインキュベートする工程、ここで、該蛍光標識L-グルコース誘導体は、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体である、
(b)細胞の前記L-グルコース誘導体の取り込みを停止する工程、
(c)前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上に付着させる工程、ここで、該プレートは、その表面上に、該細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有する、及び
(d)前記プレートに付着した細胞を生存状態に維持しながら、細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出する工程、
を含む検出方法。
(2)前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体と、2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合した2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコース(2-TRLG)との混合物である、上記(1)に記載の検出方法。
(3)工程(d)における蛍光の検出において、蛍光イメージングされた細胞の蛍光色調を指標に該細胞の細胞膜損傷状態を判断することをさらに含む、上記(2)に記載の検出方法。
(4)前記の蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体が、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース(2-NBDLG)である上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の検出方法。
(5)工程(a)におけるインキュベーションを、22~37.5℃の温度にて3~15分間行う、上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の検出方法。
(6)工程(b)における細胞内への蛍光標識L-グルコース誘導体の取り込みを停止する工程を、蛍光標識L-グルコース誘導体を含まない0℃~5℃の緩衝液で細胞を処理することにより行う、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の検出方法。
(7)前記工程(c)の細胞のプレートへの付着を遠心により行い、遠心後直ちに前記領域に緩衝液を加えることを含む、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の検出方法。
(8)前記プレートの厚さが0.3mm以下である上記(1)~(7)のいずれか一つに記載の検出方法。
(9)前記プレートの前記領域を取り囲むように設計された緩衝液保持構造体を用いて前記領域での緩衝液の保持を十分なものとすることをさらに含む、上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の検出方法、ここで、該緩衝液保持構造体は、前記領域に相当する開口部を有するプレート形状又はリング形状の構造体であって、前記緩衝液を保持するのに十分な厚さを有する。
(10)前記緩衝液保持構造体がシリコーンから作られた厚さ0.5~10mmの構造体である、上記(9)に記載の検出方法。
(11)前記生体由来細胞が、患者の浮遊細胞液由来の細胞、擦過剥離細胞由来の細胞、又は穿刺吸引細胞由来の細胞である、上記(1)~(10)のいずれか一つに記載の検出方法。
(12)前記生体由来細胞が、患者の喀痰、尿、腹水、胸水、心嚢液、脳脊髄液、胆汁、膵液、関節液又は血液から選ばれる浮遊細胞液から由来する細胞である、上記(11)に記載の検出方法。
(13)前記生体由来細胞が、卵巣がん患者又は子宮体がん患者の腹水由来の細胞である、上記(12)に記載の検出方法。
(14)蛍光標識L-グルコース誘導体を用いたがん細胞の検出と、パパニコロウ染色、ギムザ染色、PAS染色、グロコット染色、又は免疫細胞化学染色に基づいたがん細胞の検出、とからなるがん細胞の二重検出方法であって、
上記(1)~(13)のいずれか一つに記載の検出方法を行った後、細胞が付着した状態のガラス又はプラスチックプレートを用いて、パパニコロウ染色、ギムザ染色、PAS染色、グロコット染色、又は免疫細胞化学染色を行い、次いで、
蛍光に基づいて検出されたがん細胞と、パパニコロウ染色、ギムザ染色、PAS染色、グロコット染色、又は免疫細胞化学染色に基づいて検出されたがん細胞を比較すること、
を含む検出方法。
(15)前記プレートが、細胞を付着させる面と反対の面に細胞の位置情報を示すためのマーキングを有する、上記(14)に記載の検出方法。
(16)蛍光標識L-グルコース誘導体を用いたがん細胞の検出とパパニコロウ染色に基づいたがん細胞の検出とからなるがん細胞の二重検出方法である、前記(14)又は(15)に記載の検出方法。
【0023】
(17)生体由来細胞の蛍光によるライブイメージング方法であって、以下の工程:
(A)ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、蛍光標識化合物とともにインキュベートする工程、
(B)細胞内への前記蛍光標識化合物の取り込みを停止する工程、
(C)前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上に付着させる工程、ここで、該プレートは、その表面上に、該細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有する、及び
(D)前記プレートに付着した細胞を生存状態に維持しながら、細胞内に存在する前記蛍光標識化合物が発する蛍光を検出する工程、
を含むライブセルイメージング方法。
(18)工程(B)における細胞内への蛍光標識化合物の取り込みを停止する工程を、蛍光標識化合物を含まない0℃~5℃の緩衝液で細胞を処理することにより行う、上記(17)に記載のライブセルイメージング方法。
(19)前記工程(C)の細胞のプレートへの付着を遠心により行い、遠心後直ちに前記領域に緩衝液を加えることを含む、上記(17)又は(18)に記載のライブセルイメージング方法。
(20)前記プレートの厚さが0.3mm以下である上記(17)~(19)のいずれか一つに記載のライブセルイメージング方法。
(21)前記プレートの前記領域を取り囲むように設計された緩衝液保持構造体を用いて前記領域での緩衝液の保持を十分なものとすることをさらに含む、上記(17)~(20)のいずれか一つに記載のライブセルイメージング方法、ここで、該緩衝液保持構造体は、前記領域に相当する開口部を有するプレート形状又はリング形状の構造体であって、前記緩衝液を保持するのに十分な厚さを有する。
(22)前記緩衝液保持構造体がシリコーンから作られた厚さ0.5~10mmの構造体である、上記(21)に記載のライブセルイメージング方法。
(23)前記生体由来細胞が、哺乳動物の浮遊細胞液由来の細胞、剥離細胞由来の細胞、又は穿刺吸引細胞由来の細胞である、上記(17)~(22)のいずれか一つに記載のライブセルイメージング方法。
(24)前記生体由来細胞が、ヒト由来の浮遊細胞液から由来する細胞である、上記(23)に記載のライブセルイメージング方法。
【0024】
(25)レーザー共焦点顕微鏡を用いて生きた細胞を観察するための、細胞を生存状態で固定するためのガラス又はプラスチックプレートであって、その表面上に細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有し、厚みが0.3mm以下である細胞観察用ガラス又はプラスチックプレート。
(26)前記プレートが、さらに細胞を固定する面とは反対の面に細胞の位置情報を示すためのマーキングを有する上記(25)に記載の細胞観察用ガラス又はプラスチックプレート。
(27)上記(25)又は(26)に記載のプレートの前記領域を取り囲むように設計された、前記領域での緩衝液の保持を十分なものとするための緩衝液保持構造体であって、前記領域に相当する開口部を有するプレート形状又はリング形状の、シリコーンから作られた厚さ0.5~10mmの緩衝液保持構造体。
(28)レーザー共焦点顕微鏡を用いて生きた細胞を観察するための、上記(25)又は(26)に記載のガラス又はプラスチックプレートと上記(27)の緩衝液保持構造体からなる細胞観察用プレートセット。
【0025】
本発明の更なる例示的な態様は、以下の通りである。
[1]ヒトから採取した試料を用いたがん細胞の二重検出方法であって、
(a)以下の工程を含む試料中に含まれる生きた細胞を用いた蛍光イメージングからなるがんの検出方法:
前記細胞を蛍光標識L-グルコース誘導体とともにインキュベートして細胞内に取り込まれた該蛍光標識L-グルコース誘導体を検出すること、ここで、該L-グルコース誘導体は、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体である、及び、
前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上に付着させた状態で、細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出すること、ここで、該プレートは、その表面上に、該細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有し、そして、前記L-グルコース誘導体が発する蛍光が細胞内に検出された場合はその細胞ががん細胞であると判定する、
を含むがん細胞を検出する方法、
及び
(b)以下の工程からなるアルコールまたはホルマリン等の固定液により固定された細胞を用いた染色法からなるがんの検出方法、
前記プレートをエタノールまたはホルマリン等の固定液に浸して細胞を固定した後、パパニコロウ染色、ギムザ染色、PAS染色、グロコット染色、及び免疫細胞化学染色からなる群から選ばれるいずれか一つの染色方法によって染色して、がん細胞を検出する方法、
を含むがん細胞の二重検出方法。
[2]前記蛍光イメージングからなるがんの検出方法aが以下の工程:
(a-1)ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、前記蛍光標識L-グルコース誘導体を含む緩衝液中にてインキュベートし、該L-グルコース誘導体を取り込ませる工程、
(a-2)緩衝液を前記蛍光標識L-グルコース誘導体を含まない緩衝液に交換して該L-グルコース誘導体の取り込みを停止する工程、
(a-3)前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上の細胞付着領域に付着させて固定し、次いで、前記細胞付着領域を含みかつ囲むように構成されプレート上に設けられた、緩衝液を保持するための緩衝液保持領域に緩衝液を入れ、細胞を生存状態に維持する工程、ここで、前記緩衝液保持領域は、細胞が固定されたプレート面と、緩衝液保持領域を取り囲むように設計された緩衝液保持構造体から構成される、
(a-4)前記固定した細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出する工程、及び
(a-5)前記蛍光の検出に基づいてがん細胞を検出する工程、
からなる上記[1]に記載の方法。
[3]前記蛍光イメージングからなるがんの検出方法aが以下の工程:
(a-1)ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、薄いガラス又はプラスチックプレート上の細胞付着領域に付着させて固定する工程、
(a-2)前記細胞付着領域を含みかつ囲むように構成されプレート上に設けられた、緩衝液を保持するための緩衝液保持領域に緩衝液を入れ、細胞を生存状態に維持する工程、ここで、前記緩衝液保持領域は、細胞が固定されたプレート面と、緩衝液保持領域を取り囲むように設計された緩衝液保持構造体から構成される、
(a-3)緩衝液を前記蛍光標識L-グルコース誘導体を含む緩衝液に交換し、次いで、プレートに固定された細胞をインキュベートし、該L-グルコース誘導体を取り込ませる工程、
(a-4)緩衝液を前記蛍光標識L-グルコース誘導体を含まない緩衝液に交換して該L-グルコース誘導体の取り込みを停止し、前記固定した細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出する工程、及び
(a-5)前記蛍光の検出に基づいてがん細胞を検出する工程、
からなる上記[1]に記載の方法。
[4]前記蛍光標識L-グルコース誘導体が、、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース(2-NBDLG)と2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合した2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコース(2-TRLG)との混合物である、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のがん細胞の二重検出方法。
[5]前記工程(a-5)におけるがん細胞の検出において、蛍光イメージングされた細胞の蛍光色調を指標に該細胞の細胞膜損傷状態を判断することをさらに含む、上記[3]又は[4]に記載の検出方法。
[6]前記方法(b)がパパニコロウ染色である、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の検出方法。
[7]前記プレートの厚さが0.3mm以下である上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の検出方法。
[8]前記緩衝液保持構造体は、前記緩衝液保持領域に相当する開口部を有するプレート形状又はリング形状の構造体であって、前記緩衝液を保持するのに十分な厚さを有する、上記[2]~[7]のいずれか一つに記載の検出方法。
[9]前記緩衝液保持構造体がシリコーンから作られた厚さ0.5~10mmの構造体である、上記[8]に記載の検出方法。
[10]前記ヒトから採取した試料が、患者の浮遊細胞液由来の細胞、擦過剥離細胞由来の細胞、又は穿刺吸引細胞由来の細胞である、上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の検出方法。
[11]前記細胞が、患者の喀痰、尿、腹水、胸水、心嚢液、脳脊髄液、胆汁、膵液、関節液又は血液から選ばれる浮遊細胞液から由来する細胞である、上記[10]に記載の検出方法。
[12]前記細胞が、卵巣がん患者又は子宮体がん患者の腹水由来の細胞である、上記[11]に記載の検出方法。
[13]前記プレートが、細胞を付着させる面と反対の面に細胞の位置情報を示すためのマーキングを有する、上記[1]~[12]のいずれか一つに記載の検出方法。
[14]レーザー共焦点顕微鏡を用いて生きた細胞を観察するための、細胞観察用ガラス又はプラスチックプレートと緩衝液を保持するための緩衝液保持構造体を含む細胞観察用ガラス又はプラスチックプレート構造体であって、
細胞を生存状態で固定するためのガラス又はプラスチックプレート、ここで、該プレートは、表面上に細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための緩衝液保持領域を有し、厚みが0.3mm以下であり、かつ細胞を固定する面とは反対の面に細胞の位置情報を示すためのマーキングを有する、と、
該緩衝液保持領域にて緩衝液を保持するための緩衝液保持構造体、ここで、該緩衝液保持構造体は、緩衝液保持領域を取り囲むように設計されたプレート形状又はリング形状のシリコーンから作られた厚さ0.5~10mmの緩衝液保持構造体である、
を含む細胞観察用ガラス又はプラスチックプレート構造体。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、新たな生体由来細胞を用いたがん細胞の検出方法が提供されるとともに、蛍光標識分子によるライブイメージングを用いたがんの検出方法と、既存のがん細胞の細胞診断法、例えばパパニコロウ染色法やギムザ染色法と組み合わせた、がんの二重検出法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の方法で用いたスライドガラスのサイズにカットされたライブセルイメージング用特殊ガラスプレート及び緩衝液保持構造体の例を示した図である。図1Aは、浮遊細胞を遠心操作でガラス表面に付着させたまま倒立顕微鏡上でライブセルイメージングを行う目的で使用するガラスプレート、ならびにこのガラスプレート上に開口部をもつシリコーンマスク(緩衝液保持構造体)を密着させた例を示している。ガラスプレートの細胞付着領域の裏面には、細胞位置同定用の印字を施して細胞位置の同定を容易にしている。またガラスプレート左上部にはガラスプレートの配向をわかりやすくする切欠きを設けてある。実際に使用する場合は、細胞付着領域の周囲を取り囲むように、ガラスプレート上に市販の免疫組織化学用パップペンで描いた四角い撥水性領域に緩衝液(Krebs-Ringer溶液、以後KRB溶液と略す)を少量(0.2mL程度)加え、次に行うマスク装着完了まで細胞を乾燥させないようにする。マスクはシリコーン製で、ガラスプレート上に気泡を生じずに容易に密着させ、また取り外すことが可能である。シリコーンマスクの開口部は、パップペンで描いた四角い撥水性領域より大きく、この開口部に1mL程度のKRB溶液を滴下して顕微鏡観察を行う。マスク右端に段差を設け、キーエンス社製スライドガラスホルダーの突出部と干渉しない構造としている。図1Bは、ガラスプレート裏面に施された細胞位置同定用に用いる印字部分(マーキング)の拡大図である。文字の大きさは0.5mm四方で、縦横2mmピッチでガラスプレートの裏面に印字されている様子が示されている。背景のテクスチャーは、透明なガラスプレートにコントラストをつけて見やすくする目的でガラスプレート下に敷いた紙の模様である。図1Cは、上記したガラスプレート形状の詳細図である。図1Dは、上記した緩衝液保持構造体であるシリコーン製マスク形状の詳細図である。
【図2】卵巣がん患者の洗浄腹水細胞のライブセルイメージングの結果である。図2Aは、卵巣がん(漿液性腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞を生かした状態で顕微鏡観察した明視野像(対物レンズの倍率は100倍)である。図2Bは、100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像である。図2Cは、上記したBと同様であるが、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。図2Dは、明視野像と蛍光像の重ね書き画像である。
【図3】図3は、子宮体がん(類内膜腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞のライブセルイメージング結果である。図3Aは、形態観察によるがん細胞の疑いのある二つの生きた細胞塊の明視野像(対物レンズの倍率は40倍)である。図3Bは、100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像である。図3Cは、上記したBと同様であるが、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。図3Dは、Cにおける画面右側の細胞塊(Cluster1)の明視野拡大像(対物レンズの倍率は100倍)である。
【図4】図4は、子宮体がん(類内膜腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞のライブセルイメージング結果をその後のパパニコロウ染色結果と対応させた結果である。図4Aは、図3Bにおける画面右側の細胞塊(Cluster1)の緑色波長域における拡大蛍光顕微鏡画像である。図4Bは、図3Cにおける画面右側の細胞塊(Cluster1)の赤色波長域における拡大蛍光顕微鏡画像である。図4Cは、図3D,図4A,図4Bの細胞塊(Cluster1)の明視野像と蛍光像の重ね書き画像である。図4Dは、図3D,図4A,図4Bで示した細胞塊(Cluster1)、すなわち2-NBDLG陽性で2-TRLG陰性の細胞塊を、パパニコロウ染色した後の明視野像である。
【図5】図5は、他の、子宮体がん(類内膜腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞のライブセルイメージング結果をその後のパパニコロウ染色結果と対応させた結果である。図5Aは、100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像(対物レンズの倍率は40倍)である。図5Bは、上記したAと同様であるが、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。図5Cは、AとBの蛍光像を明視野像に重ね合わせた画像である。図5Dは、蛍光染色後に実施したパパニコロウ染色の結果である。
【図6】図6は卵巣がん(漿液性腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞の細胞付着領域の全視野ライブセルイメージング結果である。図6Aは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用前の細胞付着領域全体の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像(対物レンズの倍率は40倍)、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像、明視野像の重ね書き画像である。図6Bは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像(対物レンズの倍率は40倍)、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像、明視野像の重ね書き画像である。
【図7】図7は卵巣がん(漿液性腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞のライブセルイメージング結果である。図7Aは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用前の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像(対物レンズの倍率は40倍)で、図7Cは図7Aと明視野像の重ね書き画像である。図7Bは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域の蛍光顕微鏡画像図で、図7Dは図7Bと明視野像の重ね書き画像である。
【図8】図8は卵巣がん(漿液性腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞のライブセルイメージング結果をその後のパパニコロウ染色結果と対応させた結果である。図8Aは、緑色波長域における蛍光顕微鏡画像で、図8Bは赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。図8Cは図8A、図8Bと明視野像の重ね書き画像である。図8Dは図8A、図8Bで示した細胞塊、すなわち2-NBDLG陽性で2-TRLG陰性の細胞塊を、パパニコロウ染色した後の明視野像である。
【図9】図9は図8Dのパパニコロウ染色の拡大図である。
【図10】図10は子宮体がん(子宮内膜類内膜腺がん)患者の手術時に得られた洗浄腹水細胞の細胞付着領域の全視野ライブセルイメージング結果である。図10Aは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用前の細胞付着領域全体の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像、明視野像の重ね書き画像である。図10Bは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像(対物レンズの倍率は40倍)、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像、明視野像の重ね書き画像である。
【図11】図11は子宮体がん(子宮内膜類内膜腺がん)患者の手術時に得られた洗浄腹水細胞のライブセルイメージング結果である。図11Aは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用前の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像(対物レンズの倍率は40倍)で、図11Cは図10Aと明視野像の重ね書き画像である。図11Bは100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域の蛍光顕微鏡画像図で、図11Dは図10Bと明視野像の重ね書き画像である。
【図12】図12は子宮体がん(子宮内膜類内膜腺がん)患者の手術時に得られた洗浄腹水細胞のライブセルイメージング結果をその後のパパニコロウ染色結果と対応させた結果である。図12Aは、緑色波長域における蛍光顕微鏡画像で、図12Bは赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。図12Cは図12A、図12Bと明視野像の重ね書き画像である。図12Dは図12A、図12Bで示した細胞塊(a、b)、すなわち2-NBDLG陰性で2-TRLG陰性の細胞塊を、パパニコロウ染色した後の明視野像である。
【図13】図13は図12Dのパパニコロウ染色の拡大図である。
【図14】図14は細胞観察用カバーガラスである。中央部にある7mm×7mmの細胞付着領域の裏面には細胞位置同定用の印字を施して細胞位置の同定を容易にしている。またガラスプレート左上部にはガラスプレートの配向をわかりやすくする切欠きを設けてある。実際に使用する場合は、細胞付着領域の周囲を取り囲むように、ガラスプレート上に市販の免疫組織化学用パップペンで描いた四角い撥水性領域により緩衝液(Krebs-Ringer溶液、以後KRB溶液と略す)の流出を防ぎ、液量保持効果を発揮する。
【図15】図15は潅流用のシリコーンマスク(緩衝液保持構造体)である。内側部分にあるインナーマスクは細胞付着領域に合わせて開口部を設けており、インナーマスクに密着する形でその外側部分にあるアウターマスクで構成され、潅流時にはインナーマスクを取り外しアウターマスクだけの状態となる。アウターマスクの開口部分は溶液の潅流がよどみなく流れるように魚型になっている。
【図16】図16は潅流ステージ(システムインスツルメンツ社特製)である。中央部分にガラスプレートを設置した際に、KRB溶液のInlet側とOutlet側の金属管の位置の固定と微調整が可能なようにスライド板が左右に配置されている。潅流ステージは図15の顕微鏡用培養装置(東海ヒットINUG2-KIW)に装着された形で、BZ-X700顕微鏡にセットされる。
【図17】図17は顕微鏡用培養装置(東海ヒットINUG2-KIW)をBZ-X700顕微鏡にセットし図14の潅流ステージを装着後、ガラスプレートを設置しKRB溶液を潅流中の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一つの態様において、本発明は、生体由来細胞を用いて、薄いガラス又はプラスチックプレートに細胞を付着させて保持するとともに、プレート上に緩衝液を保持する緩衝液保持領域を設けることにより細胞を生存状態に維持しながら、特定の蛍光標識分子を細胞内に取り込ませて細胞内の蛍光標識分子が発する蛍光を検出することにより、がん細胞を検出する方法に関する。
本発明のがん細胞の検出方法の一つの態様として、以下に記載の生きた細胞を用いた蛍光イメージングからなるがんの検出方法(工程(a))をあげることができる。
(i)前記細胞を蛍光標識L-グルコース誘導体とともにインキュベートして細胞内に取り込まれた該蛍光標識L-グルコース誘導体を検出すると、ここで、該L-グルコース誘導体は、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体である、及び、
(ii)前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上に付着させた状態で、細胞内に存在する前記L-グルコース誘導体が発する蛍光を検出すること、ここで、該プレートは、その表面上に、該細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有し、そして、前記L-グルコース誘導体が発する蛍光が細胞内に検出された場合はその細胞ががん細胞であると判定する、
を含むがん細胞を検出する方法。

【0029】
本発明のがん細胞の検出方法の一つの態様として、上記工程(a)にさらに以下のアルコールまたはホルマリン等の固定液で固定された細胞を用いた染色法(工程(b))を含むがん細胞の二重検出方法をあげることができる。
(b)前記プレートをエタノール固定液に浸して細胞を固定した後、パパニコロウ染色、ギムザ染色、PAS染色、グロコット染色、及び免疫細胞化学染色からなる群から選ばれるいずれか一つの染色方法によって染色して、がん細胞を検出する方法。

【0030】
前記工程aにおいて用いることができる、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体は、本発明者らによる特許出願である特許出願WO2010/016587号公報、およびWO2012/133688号公報に具体的に開示されている。例えば、これに限定されないが、2-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-2-デオキシ-L-グルコース(2-NBDLG)、4-デオキシ-4-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-L-グルコース(4-NBDLG)、6-デオキシ-[N-(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-L-グルコース(6-NBDLG)、2-デオキシ-2-[N-7-(N’,N’-ジメチルアミノスルホニル)ベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール-4-イル)アミノ]-L-グルコース(2-DBDLG)などが挙げられる。特に好ましいL-グルコース誘導体は、2-NBDLGである。

【0031】
前記工程(a)におけるインキュベーション温度は、22~37.5℃、好ましくは36~37.5℃、より好ましくは約37℃にて行う。ここで、約37℃とは、36.6℃~37.5℃を意味する。前記工程(a)におけるインキュベーション時間は、細胞の状態、用いる蛍光標識L-グルコース誘導体の種類、又は検出条件等により適宜選択されるが、通常は、15分以内、好ましくは3~15分、より好ましくは3~5分で行う。

【0032】
前記工程(a)における、L-グルコース誘導体の取り込みの停止は、細胞の生存状態を維持でき、かつ、細胞によるL-グルコース誘導体の能動的取り込みを停止できる方法が選択され、例えば、(i)細胞を低温状態に置く、(ii)L-グルコース誘導体を含まない緩衝液に交換する、(iii)L-グルコース誘導体の取り込みを阻害する薬剤を加える、を挙げることができる。(i)としては、例えば、細胞を0℃に冷却した緩衝液中に置くことを挙げることができる。(ii)としては、L-グルコース誘導体を含まない緩衝液に交換する際に不含緩衝液で洗浄する工程を加えるのが好ましく、また、不含緩衝液を灌流させることにより交換することも可能である。(iii)としては、例えば、2-NBDLGの取り込み阻害剤である水チャンネル阻害剤、例えばフロレチンを細胞溶液に添加することを挙げることができる。

【0033】
本発明においては、細胞を生存状態で維持しながら固定した状態で蛍光観察を行うことが特徴であり、細胞を固定して蛍光観察するための支持体として、表面上に該細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域(緩衝液保持領域)を有する薄いガラス又はプラスチックプレート構造体(以下、単に「ガラス又はプラスチックプレート」、「ガラスプレート」、「プラスチックプレート」、又は「プレート」という場合がある)を用いることを特徴とする。
本発明で用いることができるガラスプレートは、レーザー共焦点顕微鏡等を用いて細胞から発する蛍光を検出できるものであれば特に制限がなく、公知のガラスプレート、例えば、薄いガラスプレート(例えば、カバーガラス)を本発明での使用に適したように加工したものを用いることができる。
本発明で用いることができるプラスチックプレートは、レーザー共焦点顕微鏡等を用いて細胞から発する蛍光を検出するために、無蛍光又は低蛍光の物質から作られたプラスチックプレートである。これに限定されないが、例えば、CrystalClene(Molecular Dimensions社)や、Correlative Microscopy Coverslips(Electron Microscopy Sciences社)、セルデスクLF等(住友ベークライト(株)製)の自己蛍光の低いプラスチック製カバースリップをあげることができる。
本発明で用いることができるガラス又はプラスチックプレートは、レーザー共焦点顕微鏡等を用いて個々の細胞から発する蛍光を検出するために、薄いことが必要であり、例えば、0.3mm以下、好ましくは0.2mm以下、特に好ましくは0.12~0.20mmの厚さを挙げることができる。これは一般には、細胞観察の際に、スライドガラスに載せるカバーガラスとして用いるガラスの厚さである。本明細書では、本発明の方法で用いる薄いガラスプレートを、ライブセルイメージング用特殊カバーガラス、或いは単にガラスプレートという場合がある。
なお、細胞の詳細(形態等)を蛍光イメージングするのではなく、細胞から発する蛍光を検出する目的であれば、ガラス又はプラスチックプレートの厚さは1mmでもよい。

【0034】
ガラス又はプラスチックプレート表面上の細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域(以下、「緩衝液保持領域」という場合がある)とは、プレート上に緩衝液を保持でき、プレート傾けても容易に流れ出さないように構成されている領域である。このような領域の形は特に制限なく、例えば、四角、円形、楕円形、魚型、等の形をあげることができる。このようなプレートとしては、これに限定されないが、緩衝液保持領域を囲むように撥水性領域がプレート上に作成又は印刷されたガラス又はプラスチックプレート、又は、緩衝液保持領域を囲むように液の流出を防止する構造体(好ましくは、撥水性物質、例えばシリコーンからなる構造体)をプレート上に設置したガラス又はプラスチックプレートを挙げることができる。前者としては、これに限定されないが、緩衝液保持領域を取り囲むように撥水性インキが印刷されたガラス又はプラスチックプレートを挙げることができる。後者におけるこのような構造体は、前もってガラス又はプラスチックプレート上に設置されていても、又は、ガラス又はプラスチックプレートに細胞を付着又は固定した後に設置してもよいし、さらには、ガラス又はプラスチックプレートと一体となっていてもよい。
なお、緩衝液保持領域は、細胞を固定する細胞付着領域を含みかつそれを囲むように構成されるが、緩衝液保持領域は、細胞付着領域と、ほぼ同じ大きさであっても或いはそれ比べて数倍以上の大きさであっても良い。但し、十分な量の緩衝液の中で細胞を維持するために、緩衝液保持領域は細胞付着領域に対し、好ましくは2倍以上、さらに好ましくは5倍以上であるが、一方、好ましくは10倍以内である。

【0035】
本発明で用いるガラス又はプラスチックプレートは、細胞を付着する面とは反対の面に、細胞の位置情報を示すためのマーキングを有していてもよい。このプレート裏面の印、記号・文字・線等は、細胞の可視光ならびに蛍光観察に支障をきたさない大きさ、形、光学的特性を備え、可能であれば水溶液、有機溶媒、摩擦等により容易に消失しないものであることが望ましい。シルクスクリーン等の技術を用いて熱によりインクの文字パターンを固着させて用いると小さい文字の判読も可能で上記の水や有機溶媒に対する強度もあり良好である。ガラスプレートの場合は、ダイアモンドナイフを用いて印をつけ、もしくは適切な強度とパルスレーザー等を用いてガラスプレートの裏面、もしくはガラスプレートの内部に溝や窪みを加工することで実現してもよい。これにより、細胞の観察が容易となるほか、後に記す本発明の一態様である二重検出法において細胞の特定が可能となる。

【0036】
本発明の検出方法においてはさらに、ガラス又はプラスチックプレートの緩衝液保持領域を取り囲むように設計された緩衝液保持構造体(本明細書中では「マスク」とも言う)を用いて前記領域での緩衝液の保持を十分なものとすることもできる。このようなマスクとしては、前記領域に相当する開口部を有するプレート形状又はリング形状の構造体をあげることができるが、好ましくはプレート形状である。マスクの厚みは、上記の目的に叶うものであればよく、マスクの素材は、ガラス又はプラスチック表面に気泡を生じずに容易に密着させることが可能であれば特に制限がないが、加えて、無蛍光であることが望ましい。
マスクの厚さは、これに制限されないが、0.5~10mm、好ましくは1~5mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2~3mmを挙げることができ、マスクの素材は、これに限定されないが、例えば、シリコーンなどの樹脂、プレートへの密着性をあげるためのコーティングを施した金属をあげることができる。また、マスクの開口部は、ガラスにマスクを密着させる途中で細胞付着領域にマスクが接触せず、かつ、取り付け・取り外しが容易であることが望ましい。例えば、図1又は図14のように成形した厚さ2mmのシリコーン樹脂を用いることもでき、取り付け・取り外しが容易であるように手でもてるような突起を設けてもよい。
マスクの形は、図1又は図14のように、上下左右が非対称で、マスクの一端がガラスプレートの辺縁と一致するようにしてガラスプレート上に装着できるように設計すれば、いつも同じ位置に開口部がくることとなり、誤って細胞の上にマスクをかぶせてしまうような恐れがなくなる。
図1においては、細胞付着領域と緩衝液保持領域がほぼ同じ大きさであり、マスクの開口部もまた細胞付着領域とほぼ同じ大きさとなっている。図14は、細胞付着領域に比べて緩衝液保持領域が大きくなっており(約5倍)、緩衝液保持領域に対応するマスクの開口部(アウターマスクの開口部)も細胞付着領域に比べて大きい。図14の例においては、インナーマスクの開口部が細胞付着領域とほぼ同じ大きさである。

【0037】
かん流に用いるマスク(緩衝液保持構造体)は、配向が容易にわかるよう上下左右非対称でかつガラスプレート上に表記したサンプル名等を隠さない大きさとし、ガラスプレート上に気泡を生じずに容易に密着させることが可能で、また細胞に影響を与えずに容易に取り外すことが可能な構造とした。本マスクは入れ子構造となっており、(i)細胞付着領域と同サイズの開口を持つインナーマスクと、(ii)インナーマスクを填め込むことが可能で且つインナーマスクを取り外しやすい間隙を設けた形状の開口を持つアウターマスクで構成される。
(i)インナーマスクの開口部は細胞付着領域を含みそれをかつ囲むように構成され、前もってアウターマスクと組み合わせてガラス又はプラスチックプレートに密着させ、遠心操作時は細胞付着領域以外への細胞の流出を防ぐものである。遠心操作の後にインナーマスクは取り除くが、インナーマスクの開口に保持されていた緩衝液が細胞付着領域の外に流出し、細胞が乾燥してしまう可能性がある。そのため、撥水性の囲みを細胞付着領域の外周上又はその外側に設けることが好ましい。
(ii)アウターマスクの開口は、細胞付着領域と撥水性の囲みを含みかつそれを囲むように構成されるが、細胞付着後にインナーマスクを外し、開口を塞がないサイズのカバーガラスを貼りつけた状態でKRB溶液によるかん流を開始した場合、Inletから流入したKRB溶液がOutlet側へ流出し、かつ過剰に流入させた場合にもInlet側に溢れるのではなくOutlet側に溢れていくような形状(以下、「魚型開口」という)とした。

【0038】
また、本マスクのガラスプレート上への正確な取り付けを可能にするため、マスクとガラスプレートを相互に一定の位置関係で密着することを助けるような適切な治具を作製して用いることも効果的である。マスクの形状は、スライドガラスを使用して永久標本を作製する際に、フロスト部分に接触せず、かつ日付、サンプル名等が隠れないように、もしくは容易に判読できることが望ましい。これはマスクのサイズを図1の例のように、サンプル名称記載部分を覆わないようなやや小さなサイズとすることで実現してもよいが、上記したシリコーン製マスクを用いた場合には、シリコーンマスクの下の文字の判読も容易であるため、必ずしも小さくする必要はない。
このような構造体を、前記の緩衝液保持領域を囲むように液の流出を防止する構造体として用いることも可能であり、係る場合は、このような構造体を設置したガラスプレートは、本発明の、その表面上に細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有するガラスプレートに該当する。

【0039】
工程aにおいて、細胞はガラスプレートのほぼ中央に位置する細胞付着領域(例えば、図1における、疎水性領域の内側の領域)に固定される。工程(a)におけるガラスプレートへの細胞の付着は、これに限定されないが、遠心等により行うことができる。遠心の条件は適宜選択できるが、例えば、室温にて、細胞へのダメージが少ない遠心力にて行うことができる。また、本発明の方法は、自動細胞収集装置(オートスメア装置等)と組み合わせて用いることも可能であり、それにより、容易に細胞を収集しガラスプレートへと付着できる。

【0040】
本発明の他の一つの態様において、本発明の方法は、蛍光標識L-グルコース誘導体が、蛍光分子団として7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基又はその誘導体を分子内に有するL-グルコース誘導体と、2位にスルホローダミン101をスルホンアミド結合した2-アミノ-2-デオキシ-L-グルコース(2-TRLG)との混合物である、前記がん細胞の検出方法である。
細胞膜に損傷を受けた細胞は、仮にがん細胞であったとしても、あるいは非がん細胞(正常細胞を含む)であったとしても、蛍光標識グルコース誘導体が非特異的に細胞内に侵入する。上記の蛍光標識L-グルコース誘導体の混合物を用いることにより、このような細胞膜に損傷を受けた非がん細胞に蛍光標識グルコース誘導体が非特異的に取り込まれる場合を、がん細胞における取り込みと識別することができる。

【0041】
腹水細胞や尿中にある細胞は、本来細胞生存に適さないと考えられる環境にあるため、完全な生細胞と完全な死細胞の中間状態にある細胞の数が多い。これらの細胞の一部は細胞膜の透過性が亢進しているが、細胞は死んでいない。こうした細胞の状態を的確に捉えることはがん細胞を検出する上で重要な情報を与える。
2-TRLGという立体的に中程度のかさ高さと適度な脂溶性を有する蛍光基と、L-グルコースという水溶性でかつGLUTに結合しない分子を分子内に併せ持つ誘導体を用いることにより、様々な状態の細胞の判定識別が可能となるという特徴を発揮する。これに対して従来から知られているpropidium iodideやDAPIなど細胞膜損傷部から細胞内に侵入して核に不可逆的に結合する分子を用いた場合や単にかさの大きなデキストラン等に蛍光基を結合した分子を用いる等した場合には、細胞状態の違いを正確に表現することができない。すなわち、大型で赤色の蛍光基テキサスレッドを結合した蛍光L-グルコース誘導体2-TRLGと緑色の蛍光基NBDを結合した2-NBDLGとを同時にがん細胞に適用することで、細胞が蛍光標識L-グルコース誘導体を取り込む様子の違いを、緑色から赤色に至る連続的な蛍光カラーをもって識別することを可能にしている。これは従来の蛍光分子プローブによる細胞診技術に見られない大きな特徴である。
また、本発明のがん細胞の検出方法における蛍光の検出は、公知の方法に従って行うことができる。また本発明による細胞の検出は、直接的に蛍光観察によっても、あるいは蛍光をフォトコンバージョン法によりDAB黒などに変換した上、光学顕微鏡や電子顕微鏡観察によっても計測でき、細胞機能の異常の程度を、定性的のみならず、適切な基準値を設定することにより、定量表現や機械化が可能である。

【0042】
本発明のがん細胞の検出方法において、対象とする生体由来細胞は、がんが疑われる患者から由来する細胞であれば特に限定されないが、例えば、患者の浮遊細胞液由来の細胞、擦過剥離細胞由来の細胞、又は穿刺吸引細胞由来の細胞を挙げることができる、好ましくは、浮遊細胞液由来の細胞である。浮遊細胞液は、これに限定されないが、例えば、患者の喀痰、尿、腹水、胸水、心嚢液、脳脊髄液、胆汁、膵液、関節液又は血液から得ることができる。擦過剥離細胞としては、これに限定されないが、例えば、子宮頸部、子宮体部、膣壁、外陰部や気管支鏡下で気管支表面などから綿棒やブラシで擦って採取した擦過細胞をあげることができる。穿刺吸引細胞としては、これに限定されないが、甲状腺、乳腺、唾液腺、肝臓、皮下、リンパ節などにできた腫瘍に針を刺して吸引した細胞をあげることができる。
また、本発明のがん細胞の検出方法において対象とするがんの種類は、細胞が採取できる限り特に限定されず、例えば、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん、等の婦人科のがんや、胃がん、大腸がん、胆道がん、膵臓がん、食道がん等の消化器系のがん、肺がん等の呼吸器系のがん、甲状腺がんや乳がん、膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、前立腺がん等の尿路系のがん、白血病、悪性リンパ腫等の造血器悪性腫瘍、中枢神経系に浸潤した悪性腫瘍等、脳脊髄液を対象とするがん等を挙げることができる。
腹水由来の浮遊細胞を用いる例としては、例えば、卵巣がん、子宮体がん、胃がん、大腸がん、胆道がん、膵臓がん、又は食道がんの患者の腹水由来の細胞をあげることができる。その他、胸水由来の浮遊細胞を用いる例としては、肺がん等の呼吸器系のがん、甲状腺がん、乳がんを、尿由来の細胞を用いる例としては、膀胱がん、腎盂がん、尿管がん、前立腺がん等の尿路系のがんをあげることができる。血液の細胞を用いる例としては、白血病、悪性リンパ腫等の造血器悪性腫瘍をあげることができる。擦過剥離細胞由来の細胞を用いる例としては、子宮頸がん、子宮内膜がん、口腔内のがん等あげることができる。穿刺吸引細胞由来の細胞を用いる例としては、乳腺と甲状腺のがんをあげることができる。

【0043】
本発明のがん細胞の検出方法において用いることができる緩衝液は、生体由来細胞を生存状態に適切に維持できる緩衝液であれば特に制限なく用いることができる。これに限定されないが、例えば、KRB溶液、培養液(例えばDulbecco’s modified Eagle medium supplemented with fetal bovine serum)、臓器保存液(Saviosol、UW保存液)等をあげることができる。

【0044】
以下、本発明による蛍光標識L-グルコース誘導体を用いたライブセルイメージングとパパニコロウ染色による二重検出法を例に、本発明の検出方法の一連の工程について以下に記載するが、本発明はこれに限定されるものでなく、また、本発明の目的を脱しない範囲において公知の技術等を用いて種々の変更が可能である。
生体から採取した細胞検体を、血餅を生じにくいCa,Mg-free Hanks溶液等の適切な緩衝液に懸濁させて検査室に移送する。直ちに作業を開始できない場合、冷暗所で室温保存することにより、細胞検体入手の翌日に蛍光標識L-グルコース誘導体の適用および観察を実施することも可能である。また、血球が多量に含まれる場合は、ペレットの上部(通称バフィーコート)を採取し、あるいは細胞診検体前処理で通常行われる溶血操作や、血餅除去操作を加えることも可能である。

【0045】
以下、細胞に2-NBDLGと2-TRLGを処理した後に、細胞をガラスプレート上に付着させ、その後、蛍光を観察することによりがんを検出する態様について説明する。
遠心操作により細胞の存在する沈殿と上清とに分ける。遠心条件は検査施設で通常用いている方法によればよいが、細胞を生かした状態で維持するため、短時間で必要最小限の遠心操作を行うのが好ましい。例えば650G-1500G,1min-2minの間で1回もしくは2回行えばよい。ペレットに少量のKRB溶液を加えて細胞を分散し、直ちに次の染色操作を開始しても良く、また多量の緩衝液を加えて染色操作まで最大24時間程度保存することも可能である。後者では染色操作の前に、再度遠心操作を行う。

【0046】
KRB溶液に、2-NBDLGと2-TRLGを終濃度の二倍の濃度となるように溶解して混合し、37度で温め、準備しておく(x2fLG溶液)。ここで、目的に応じてKRB溶液に阻害剤を加えておくことが可能である。例えば、これに限定されないが、2-NBDLGのギャップ結合/ヘミチャネル通過による取り込みを除外する目的で、ギャップ結合阻害剤Carbenoxolonを加えておくことが好ましい。細胞入りのKRB溶液を、上記であらかじめ用意した等量のfLG溶液と混和することにより、一定時間fLGと接触させ、細胞にfLGを取り込ませる。接触時間や温度条件等は公知の文献によればよい(WO2012/133688号公報参照)。大過剰の冷KRB溶液(0℃)を加えることで、fLG取り込みを停止させ、0℃で遠心により溶液中のfLGを取り除く。溶液中のfLGの濃度が十分下がるまで、必要に応じてこのプロセスを繰り返しても良い。冷KRB溶液を用いることで、再現性の高いfLG取り込みプロセスを実現できる。

【0047】
適量の冷KRB溶液に細胞を浮遊させ、上記したガラス又はプラスチックプレート表面に遠心操作で細胞を付着させる。この遠心プロセスには、市販の細胞遠心機能を利用した自動細胞収集装置を利用すれば比較的容易に達成可能である。遠心は細胞を乾燥させないため短時間であることが望ましく(1-2min程度)、遠心終了後は直ちにKRB溶液を細胞付着領域に少量加える。

【0048】
以下、細胞をガラスプレート上に付着させた後に、細胞に2-NBDLGと2-TRLGを処理し、細胞内にとりこまれた蛍光を観察することによりがんを検出する態様について説明する。
緩衝液に懸濁させて移送された細胞検体には血球が多量に含まれる場合があるが、細胞を生かした状態で維持しながら溶血作業を行わずとも効率よく関心細胞を収集するために、二重遠心法を用いることが可能である。はじめに、大半の赤血球は沈殿するが関心細胞は沈殿しない様な回転数、例えば200G-400G,1-3minの間で1回遠心を行い、関心細胞が存在している上清をすべて回収する。次いで回収した上清を、全ての細胞を沈殿させる様な回転数、例えば500G-650G,1-3minの間で1回遠心を行い、上清のうち、赤血球を多量に含むペレットの上部の溶液を1mL-2mL採取する。直ちに次の操作を開始しても良く、また多量の緩衝液を加えて最大24時間程度保存することも可能である。後者では操作の前に、再度650G-1500G,1min-2minの間で1回遠心操作を行う。

【0049】
KRB溶液に、2-NBDLGと2-TRLGを終濃度となるように溶解して混合し、37度で温め、準備しておく(fLG溶液)。ここで、目的に応じてKRB溶液に阻害剤を加えておくことが可能である。例えば、これに限定されないが、2-NBDLGのギャップ結合/ヘミチャネル通過による取り込みを除外する目的で、ギャップ結合阻害剤Carbenoxolonを加えておくことが好ましい。
0.3mL/min-1.4mL/minの速度でかん流を行い、上記であらかじめ用意したfLG溶液を流すことにより、一定時間fLGと接触させ、細胞にfLGを取り込ませる。接触時間や温度条件等は公知の文献によればよい(WO2012/133688号公報参照)。fLG溶液からKRB溶液へかん流を切り替えることによって、fLG取り込みを停止させ、溶液中のfLGを取り除く。溶液中のfLGの濃度が十分下がるまでかん流を5min-15minの間で行った後に、適用後の細胞の蛍光を観察することが可能である。細胞の撮影は関心細胞を個別に撮影するのではなく、細胞付着領域全域をひと視野ずつ順に撮影し、観察終了後に貼り合わせを行うことが可能なタイリング撮影を用いることで、あとから全範囲を見直すことが可能となり、関心細胞の見落とし防止が実現できる。また、かん流によるfLG溶液適用の前に、細胞の自家蛍光を観察することが可能であり、fLG適用前後の画像を用いて、細胞が蛍光標識L-グルコース誘導体を取り込んだか否かをより正確に判じることが可能である。


【0050】
採取した細胞浮遊液を、上記したガラス又はプラスチックプレート表面に遠心操作で細胞を付着させる。この遠心プロセスには、市販の細胞遠心機能を利用した自動細胞収集装置を利用すれば比較的容易に達成可能である。遠心は細胞を乾燥させないように注意を払う必要があるが、遠心中に液体を漏らさない緩衝液保持構造体(例えば、シリコーンマスク)であれば10minまでは可能である。遠心終了後はKRB溶液を細胞付着領域に少量加え細胞の乾燥を防ぐ。

【0051】
以下、ガラス又はプラスチックプレート、及び蛍光観察後の染色法について説明するが、これらの内容は、蛍光物質の観察を、ガラスプレート上に細胞を付着させる前に行う場合又は付着させた後に行う場合のいずれの態様において用いる場合にも当てはまる。
本発明で使用するガラス又はプラスチックプレートは、細胞付着領域の裏面に、関心細胞の近傍に印をつけることで細胞位置の同定に役立てることができる。この目的で、使用するプレートの細胞付着領域の裏面に、あらかじめ判別可能な記号・文字、線等がガラス裏面に印字もしくは刻印したものを用いることで細胞位置の同定が容易でまた正確になる。
使用するガラス又はプラスチックプレート表面の細胞付着領域は、遠心操作後にも細胞が生存できるように、緩衝液を一定量維持できる構造とすることが重要となる。この目的で、操作中の細胞の乾燥を防ぎ、細胞が常に緩衝液に浸っているようにする為、細胞付着領域周囲をあらかじめシリコーン等の撥水性物質で囲んでおくことが効果的であり、このことで検査士の経験や技量によらずに細胞を乾燥させることなく操作できることが可能となる。
また、操作中にプレートの表裏や上下左右の向きが容易にわかるように、プレートの四隅の一か所を斜めにカットしておくと配向が明瞭となる。
プレート上の細胞付着領域に存在する目的細胞の蛍光および明視野観察には、通常の倒立蛍光顕微鏡を用いることができ、室温下で少なくとも1時間程度、がん細胞であるか否かを判断するために蛍光観察後に実施するパパニコロウ染色に支障をきたすような細胞形態の変化なく観察する事が可能である。顕微鏡観察中には、上下左右に頻繁にガラスプレートを動かしながら視野を変えていくため、目的細胞上に添加した緩衝液が動きやすく、これは電動ステージを用いる場合には特に著しい。また、緩衝液が蒸発することによる細胞への影響を最小限とする必要がある。これらの目的で、細胞付着領域周囲にある撥水性の囲みと同程度かそれより大きい開口部を設けたマスク(緩衝液保持構造体)をガラス面上に密着させ、観察時間を考慮した適切な量の緩衝液をこの開口部に添加することで、長時間の顕微鏡観察中にも乾燥や浸透圧の変化を防ぐことができる。

【0052】
蛍光観察後は、細胞付着領域にエタノール等の固定液を加えることにより細胞固定を行う。固定液により細胞がはがれないように、固定液を添加してしばらく後にマスクを外し、次いでガラスプレートを固定液漕内に静置して更に固定を継続しても良い。固定の後、常法によりパパニコロウ染色、ギムザ染色などの一般の細胞染色を本ガラスプレートを用いて行い、これにスライドガラスを張り合わせて永久標本とした後、通常と同様の病理細胞診断を実施することが可能である。

【0053】
前項に述べたパパニコロウ染色、ギムザ染色などの一般的な細胞染色を行った結果と、蛍光標識L-グルコース誘導体による蛍光観察結果との同一細胞での比較は、前記したガラスプレート裏面の記号・文字・線等を利用して目的細胞のガラスプレート上の位置を知ることで実現できるが、顕微鏡写真を撮っておけばより精確である。また、電動XYステージを用いて、目的細胞の上での位置を記憶させてもよいが、その場合にはステージ上でのガラスプレートの向きや位置を、観察時にいつも同じように保持するための適切なホルダーが必要となる。このホルダーは、薄いガラスプレートを損傷せずに、簡便かつ正確に固定できる構造を有することが求められ、また顕微鏡倍率によっては、ガラスプレートの形状の公差の範囲内で誤差を補正する必要もある。いずれにせよ、手動ステージを用いる場合にも、電動ステージを用いる場合にも、前記したガラスプレート裏面の記号・文字・線等は、目的細胞付近の視野を繰り返し迅速確実に見出し、かつこれらの記号・文字・線との相対的な位置関係から目的細胞を正確かつ容易に検出することを可能にする信頼性の高い方法として役立つ。

【0054】
本発明のがん細胞の検出方法においては、蛍光を用いた顕微鏡観察によりがん細胞の検出を行うので、従来法による顕微鏡観察では他の細胞に隠れて見過ごされたがん細胞を見つけ出すことが可能となる。これにより、見逃しによる誤陰性を低減させて診断精度を向上させることが可能となる。また、蛍光によりがん細胞の検出が可能となるため、蛍光を発する細胞から優先的に観察することで注意すべき細胞の見逃しの軽減に役立てることができ、検査業務の効率化を図り、検査士の負担を軽減することが可能となる。さらに、蛍光検出を用いた本発明の方法は、検出の機械化も可能となる。

【0055】
また、本発明のがん細胞の検出方法においては、生きた細胞の機能的な異常の有無という情報をもとにがん細胞の検出を行うので、専ら細胞の形態的な異常情報のみに基づいて判定していた従来の細胞判定とは質的に異なる情報に基づく判断が可能となる。

【0056】
本発明の別の一つの態様において、本発明のがん細胞の検出方法は、上記した蛍光標識L-グルコース誘導体を用いたがん細胞の検出と、常法である細胞診染色である、パパニコロウ染色、ギムザ染色、又は免疫細胞化学的染色等(以下、単に「がん細胞診染色」という場合がある)に基づいたがん細胞の検出、を組み合わせたがん細胞の二重検出方法に関する。
上記した特定の蛍光標識L-グルコース誘導体を用いたがん細胞の検出方法は、細胞を生存状態に維持したままガラス又はプラスチックプレート上においてがん細胞の検出が行えるので、それに次いで、プレート上に付着した細胞を、さらに、上記がん細胞診染色を用いてがん細胞の検出を行うことができ、二重の検出法に基づくがん診断が行える。

【0057】
係る場合、プレートに細胞の位置情報を示すためのマーキングをつけておけば、本発明に基づく蛍光標識L-グルコース誘導体を用いて検出したがん細胞と、次いで行うがん細胞診染色によって検出したがん細胞とが、同じ細胞であるかを判断することが可能となり、同じ細胞について、細胞の機能異常に基づくがん細胞の検出と、細胞の形態異常又はマーカー検出に基づくがん細胞の検出とを組み合わせて行うことが可能となる。
このように、本発明のがん細胞の二重検出方法においては、蛍光観察後の細胞を固定した後、パパニコロウ染色等の一般的染色方法あるいは免疫細胞化学的手法等を使用して染色し、蛍光観察した細胞と同一細胞でこれらの従来技術による染色結果との比較を可能にする方法であることから、従来技術による細胞形態情報に蛍光観察による細胞機能情報を加えることで、細胞状態に対する情報が質・量共に増え、診断精度の向上が図れ、さらには、観察細胞を絞ることができるために見逃しも軽減される。これにより、より精度の高いがん診断が可能となる。

【0058】
本発明において用いることができるがん細胞診染色としては、細胞をガラスプレートに固定化した後に細胞を染色してがんを検出する公知の方法をあげることができる。これに限定されないが、例えば、パパニコロウ染色、ギムザ染色、PAS染色、グロコット染色、がん特異的マーカーに対する抗体を用いた免疫細胞化学染色をあげることができ、好ましくはパパニコロウ染色である。これらの染色法は、公知の常法に基づいて行うことができる。
良悪鑑別の為の抗体を用いた免疫細胞化学染色としては、例えば、p53、WT-1(Wilm’s tumor-1)、IMP3、Ki-67、EMA(epithelial membrane antigen)、CEA、cytokeratin、desmin、calretinin、D2-40(podoplanin)、TTF-1(thyroid transcription factor)、CD45、CD146等をあげることができる。

【0059】
本発明の一つの態様において、本発明は、生体由来細胞を用いて、緩衝液を保持することができる領域を有する薄いガラス又はプラスチックプレートに細胞を付着させて保持することにより、細胞を生存状態に維持しながら蛍光標識分子を細胞内に取り込ませて細胞内の蛍光標識分子が発する蛍光を検出することによるライブセルイメージング方法である。
本発明のライブセルイメージング方法の一つの態様として、以下の工程からなる方法をあげることができる。
(工程A)ヒトから採取した試料中に含まれる生きた細胞を、蛍光標識化合物とともにインキュベートする工程、
(工程B)細胞内への前記蛍光標識化合物の取り込みを停止する工程、
(工程C)前記細胞を薄いガラス又はプラスチックプレート上に付着させる工程、ここで、該プレートは、その表面上に、該細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有する、及び
(工程D)前記プレートに付着した細胞を生存状態に維持しながら、細胞内に存在する前記蛍光標識化合物が発する蛍光を検出する工程。
なお工程Cにおけるガラス又はプラスチックプレートが、その表面上に細胞を生存状態で維持するための緩衝液を保持するための領域を有するのは、細胞の付着に先立ってであっても、或いは、細胞の付着後であってもよいが、好ましくは、細胞の付着に先立ってそのような領域を有するプレートが用いられる。

【0060】
前記工程Aにおいて用いることができる、蛍光標識分子は、生きた細胞内に能動的に取り込まれる蛍光標識分子であれば特に制限がなく、ライブセルイメージングの目的に応じて、適宜選択可能である。
これに限定されないが、例えば、哺乳動物細胞のグルコーストランスポーターを通過して、放射性標識D-グルコース誘導体に匹敵するキネティクスをもって細胞内に取り込まれる、蛍光基である7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール基(NBD)で標識した2-アミノ-2-デオキシ-D-グルコース(2-NBDG)をあげることができる(非特許文献1:Yamada et al., J. Biol. Chem. 275: 22278-83, 2000)。

【0061】
前記工程Aにおけるインキュベーションは、温度は、22~37.5℃、好ましくは36~37.5℃、より好ましくは約37℃にて行う。インキュベーション時間は、目的及び用いる蛍光標識分子に応じて適宜選択されるが、一般には、15分以内、好ましくは3~15分、より好ましくは3~5分で行う。

【0062】
前記工程Bにおける蛍光標識分子の取り込みの停止は、本発明のがん細胞の検出方法において用いられる方法が用いられる。
また、本発明のライブセルイメージング方法におけるガラス又はプラスチックプレート、プレートへの細胞の付着、緩衝液保持構造体、緩衝液、蛍光検出方法その他については、本発明のがん細胞の検出方法との関連で記載された上記内容がそのまま本発明のライブセルイメージング方法においても適用できる。

【0063】
本発明の別の態様は、本発明のがん細胞の検出方法及び/又は細胞のライブセルイメージング方法に用いることができる薄いガラス又はプラスチックプレートである。
本発明のまた別の態様は、そのようなガラス又はプラスチックプレートに適用できる、プレート上で緩衝液の保持を十分なものとするための緩衝液保持構造体である。
本発明の他の別の態様は、上記ガラス又はプラスチックプレートと上記緩衝液保持構造体を組み合わせた細胞観察用プレートセットである。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
なお、実験は、弘前大学大学院医学研究科倫理委員会承認を経て、インフォームドコンセントを得た被験者に対して行った。
【実施例】
【0065】
実施例1:卵巣がん患者の洗浄腹水細胞の蛍光標識L-グルコース誘導体を用いたイメージング
(実験方法)
(1)腹水の調整
卵巣がん(漿液性腺がん)の開腹手術開始直後、腹水採取の目的で腹腔内を生理食塩水で洗浄して得られた洗浄腹水の余剰分を50mLの遠沈管に採取した。次いで1500G,2min室温にて遠心後、上清をデカンテーションで除去した後、Krebs Ringer Buffer(KRB溶液、下記参照)を2mL加えてペレットを分散させ、腹水細胞浮遊液とした。
(1-1)KRB溶液
NaCl 129.0mM,KCl 4.75mM,KH2PO4 1.19mM,MgSO4・7H2O 1.19mM,CaCl2・2H2O 1.0mM,NaHCO3 5.02mM,D-Glucose 5.6mM,HEPES 10.0mM(1M NaOHを適量加えpH7.35に調整)。gap junction/hemichannelを経由する蛍光標識グルコースの出入りを阻害する目的で0.1mM Carbenoxolone(Sigma,#C4790)を加えた。なおKRB溶液は、蛍光標識L-グルコース誘導体(以下、「fLG」と略す場合がある。)溶液を作成するための溶液として使用した。
【実施例】
【0066】
(2)卵巣がん手術時に得られた腹水細胞への蛍光標識L-グルコース誘導体の適用
上記した腹水細胞浮遊液を50mL遠沈管に1mLとり、下記のx2 fLG溶液を1mL加えて混和し、37℃ウォーターバス中で5min間fLGを細胞に接触させた。その後、0℃の冷KRB溶液38mLを加えることで、細胞へのfLGの取り込みを停止させ、0℃にて1500G 2min間の遠心を行い、上清をデカンテーションで除去することで溶液中のfLG濃度を低下させた。ペレットに再度上記冷KRB溶液 40mLを加えて細胞を分散させ、0℃にて1500G 1min間、遠心を行った後、上清を取り除いて、冷KRB溶液 5mLに細胞を分散させた。
(2-1)x2 fLG溶液の調製
2-NBDLGと2-TRLGの混合溶液(fLG溶液)は、それぞれ2-NBDLGが200μM、2-TRLGが40μMとなるように、KRB溶液に特許文献WO2012/133688に記載した方法で溶解して作製した。
【実施例】
【0067】
(3)遠心操作によるガラスプレートへの腹水細胞の付着ならびに細胞の生存維持
市販の自動細胞収集装置CF-12D(サクラファインテックジャパン株式会社製)を用い、本装置専用の6mLチャンバーセット(サクラファインテックジャパン株式会社製、プラスチック製チャンバー、金属製チャンバーホルダー、専用ペーパーフィルターから成る)に、スライドガラスのサイズにカットされたガラスプレート(図1C)をあらかじめセットしておいた。次いで、(2)で作製したfLG適用後の腹水細胞浮遊液 5mLを上記CF-12D専用プラスチック製チャンバーに移し、室温にて1400rpm 1min間の遠心を行った。
遠心終了後、すばやくガラスプレートを取り出し、直ちに細胞付着領域に0.2mLのKRB溶液を加えることで乾燥を防いだ。次いで、細胞付着領域に相当する部分に開口部を設けたシリコーン樹脂製マスク(図1D参照)をガラスプレート上に密着させ、KRB溶液を更に1mL程度細胞付着領域に加えることで、ライブセルイメージング中の細胞維持に十分な量の緩衝液を確保できるようにした。
【実施例】
【0068】
(3-1)ライブセルイメージング用特殊カバーガラス(以後「ガラスプレート」と呼ぶ)
ガラスプレートには、松浪硝子工業株式会社製のNo.1S(厚み0.16-0.19mm)を図1Aおよび1Cに示すように26mmX76mmのサイズに切断したものを用いた。また、表裏上下左右の判別を容易にする目的で、ガラスプレートの左上の角を斜めにカットした。このガラスプレートの斜めの切欠きは、顕微鏡ステージ上にセットして用いるキーエンス社製スライドガラスホルダーに、スライドガラスの代わりに薄く割れやすい本ガラスプレートを装着する際、ホルダー側の爪でガラスプレートを破損せず、かつホルダー上にガラスプレートをセットする際の位置の誤差によって細胞の同定が困難にならない程度のサイズとした。また、本ガラスプレート上の細胞付着領域の周囲を取り囲むように、あらかじめ市販の免疫組織化学用パップペン(大道産業製スーパーパップペンリキッドブロッカー等)を用いて四角い撥水性領域を設け、自動細胞収集装置を用いた腹水浮遊細胞の遠心操作終了後、細胞を乾燥させないように少量(0.2mL)のKRB溶液を加えて貯留できる構造とした(図1C)。このパップペンで描いた領域は、蛍光観察後に封入する際に封入剤に含まれるキシレンで洗い流され、パパニコロウ観察の邪魔にならない。
【実施例】
【0069】
(3-2)緩衝液保持用シリコーンマスク(緩衝液保持構造体)
緩衝液保持の目的でガラスプレート上に密着させて用いるマスク(緩衝液保持構造体)は、厚さ2mmのシリコーン製で、配向が容易にわかるよう上下左右非対称でかつガラスプレート上に表記したサンプル名等を隠さない大きさとし、ガラスプレート上に気泡を生じずに容易に密着させることが可能で、また細胞に影響を与えずに容易に取り外すことが可能な構造とした(図1Aおよび1D)。マスクの装着および取り外し操作は、上部に設けた4mmほどの突出部を手で持って行う。シリコーンマスクの開口部は、細胞付着領域周囲にパップペンで施した囲みよりわずかに大きいサイズとしている。1mL程度のKRB溶液を滴下するためのものである。マスクは厚く、疎水性であるため、顕微鏡観察中の電動ステージ等による俊敏なXYZの動きによってもKRB溶液がこぼれない。また顕微鏡観察が長時間にわたる場合は、必要に応じてKRB溶液を随時補充することが可能な構造としており、細胞状態を良好に保ちながら観察することが可能である。マスク右端には段差が設けられている。この段差は、顕微鏡ステージ上にセットして用いるキーエンス社製スライドガラスホルダーに、スライドガラスの代わりにシリコーンマスクを密着させたガラスプレートを装着する際に、ホルダー側の突出部と厚いシリコーンマスクとが干渉しない構造としている。
【実施例】
【0070】
(4)画像取得
蛍光観察にはオールインワン蛍光顕微鏡BZ-X700(キーエンス株式会社)を用いて専用スライドガラスホルダーにガラスプレートをセットして次のような手順で観察撮影を行った。まずガラスプレート上の細胞付着領域の全域をX20レンズ(下記)を用いて明視野下に検鏡した。本標本中にごく少数みられたがん細胞の可能性のある細胞を撮影した。対象細胞は、X40ないしはX100の高倍で明視野画像ならびに蛍光画像を取得した。蛍光検出には、BZ-X700用の市販フィルタを用い、2-NBDLG蛍光観察用にBZ-X用GFPフィルタ(緑チャネル、OP-87763、Ex 470/40 nm、Em 525/50 nm、DM 495 nm)を、また2-TRLG蛍光観察用にBZ-X TRITCフィルタ(赤チャネル、OP-87764、Ex 545/25 nm、Em 605/70 nm、DM 545 nm)を用いた。
このため、本実施例の2-NBDLG蛍光観察に用いたGFPフィルタは2-TRLGによる蛍光をほとんど透過せず2-NBDLGの取り込みを反映した評価が可能であるが、2-TRLG蛍光観察用に用いたTRITCフィルタは、励起光が2-TRLGのみならず2-NBDLGをもわずかに励起する。このため、2-NBDLG蛍光が強い場合には、赤チャネルに2-TRLGに起因する蛍光に加えて、2-NBDLGに起因する蛍光もわずかにみられ、結果の解釈においては注意が必要である。この問題は、2-TRLG専用に設計された565nm付近の励起光を用いる蛍光フィルタを利用することで大きく軽減することが可能である。なお実施例で用いた撮影条件は下記の通りである。
x20レンズ (CFI Plan Apo λ20X、#972032、NA 0.75、WD 1.00 mm)
明視野画像:モノクロ、高感度、透過照明光量25、開口絞り20%、露光時間1/2500 sec
x40レンズ(CFI Plan Apo λ40x、#972033、NA 0.95、WD 0.25-0.16mm)
明視野画像:高感度、透過照明光量25、開口絞り20%、露光時間1/300s
緑色蛍光画像:高感度、励起光量100%、露光時間1/1.5s
赤色蛍光画像:高感度、励起光量10%、露光時間1/4s
x100レンズ(CFI Plan Apo λ100x, #972037、NA 1.45、WD 0.13mm、油浸) 使用時
明視野画像:高感度、透過照明光量25、開口絞り20%、露光時間1/50s
緑色蛍光画像:高感度、励起光量100%、露光時間1/10s
赤色蛍光画像:高感度、励起光量10%、露光時間1/10s
【実施例】
【0071】
(実験結果)
得られたイメージング画像を図2に示す。図2Aは、卵巣がん(漿液性腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞を生かした状態で顕微鏡観察した明視野像(対物レンズの倍率は100倍)である。形態観察から、がん細胞の疑いのある細胞(画面中央の実線で囲まれた細胞)ならびに正常な腹膜中皮細胞とみられる細胞(画面右上にある破線で囲まれた細胞)を認める。図2Bは、100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像である。形態的にがん細胞の疑いのある画面中央の細胞(実線)は、2-NBDLGに由来する強い蛍光を発しているのに対し、画面右上の腹膜中皮細胞とみられる細胞(破線)は2-NBDLGの蛍光を発していない。図2Cは、上記したBと同様の画像である。ただし、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。画面左側にある細胞の破片(Debris)が2-TRLGに由来する強い赤色蛍光を発しているのに対して、形態的にがん細胞の疑いのある画面中央の細胞(実線)も、画面右上の腹膜中皮細胞とみられる細胞(破線)もこのような赤色蛍光を発していないことから、Bでがん細胞の疑いのある細胞に認められた2-NBDLG蛍光が細胞膜損傷に起因する取り込みによってもたらされたものであるとは考えにくい。なお、がん細胞の疑いのある画面中央の細胞の示すわずかな赤色蛍光は、強い2-NBDLG蛍光の長波長側の裾野(非特許文献1参照)が、使用した市販オールインワン型蛍光顕微鏡の蛍光フィルタを通過した成分を反映したと考えられる。図2Dは、明視野像と蛍光像の重ね書き画像である。緑色蛍光を発する2-NBDLGががん細胞の疑いのある細胞に選択的に取り込まれ、正常細胞である腹膜中皮細胞には取り込まれていない様子、ならびに左側の細胞破片が赤色蛍光を発する2-TRLGで染色されている様子が明瞭である。
【実施例】
【0072】
実施例2:子宮体がん患者の腹水細胞に蛍光標識L-グルコース誘導体を適用したライブセル蛍光イメージングと、固定後に行ったパパニコロウ染色結果の対応
子宮体がん患者の手術時に得られた腹水細胞に蛍光標識L-グルコース誘導体を適用し、ライブセル蛍光イメージングを行い、次いで、同じ試料を用いて、細胞を固定後にパパニコロウ染色を行った。そして、両者の結果の対応を行った。
【実施例】
【0073】
(実験方法)
(1)腹水の調整
子宮体がん(類内膜腺がん)の開腹手術開始直後、実施例1と同様の方法で腹腔内を生理食塩水で洗浄して得られた洗浄腹水を、あらかじめHanks溶液5mLを入れておいた50mL遠沈管に加えた。得られた腹水浮遊液を1500G,2min室温で遠心後、上清をデカンテーションで除去した。次いで、溶血用市販塩化アンモニウム溶液30mLを加え、2分間静置した後、1500G,2min室温で遠心後、上清をデカンテーションで除去した。このペレットのうち、病院病理部で細胞診検査に使用する部分をとった余剰分を更に2分割して、それぞれKRB溶液40mLの入った50mL遠沈管に分散させ、翌日のfLGの適用まで暗所で室温保管した。
翌日(腹水細胞入手の約20時間後)、細胞浮遊液40mLの入った50mL遠沈管を600G,1min,室温で遠心後、上清をデカンテーションで廃棄し、ペレットにKRB溶液を1mL加えて再分散させた。
【実施例】
【0074】
(2)蛍光標識L-グルコース誘導体の子宮体がん腹水細胞への適用
実施例1(2-1)と同様にして調整した x2 fLG溶液を1mL加えて混和し、37℃ウォーターバス中で5min間fLGを細胞に接触させた。その後、0℃の冷KRB溶液38mLを加えることで、細胞へのfLGの取り込みを停止させ、0℃にて600G,1min間の遠心を行い、上清をデカンテーションで除去することで溶液中のfLG濃度を低下させた。さらに冷KRB溶液40mLに細胞を再分散させ、再度600G,1min間遠心を行った後上清を除き、冷KRB溶液10mLに腹水細胞を分散させた。
【実施例】
【0075】
(3)遠心操作によるガラスプレートへの腹水細胞の付着ならびに生存維持方法
実施例1と同様にして行った。ただしガラスプレート上での細胞位置同定をより容易にするため、細胞付着領域の裏面にあらかじめ耐水性のペンで印を3点つけたガラスプレートを用いた。なお、細胞位置をより簡単に知る目的で、ガラスプレートの細胞付着領域の裏面に、あらかじめ細胞位置同定用の印字を2mm間隔で施しておくことも可能である。これにより、細胞位置の同定ははるかに容易になる。
【実施例】
【0076】
(4)画像取得条件
腹水細胞入手の約22時間後、実施例1と同一機器を用いて観察および撮影を行った。ガラスプレート上の細胞付着領域の全域を明視野下にX10レンズ(下記)を用いて検鏡し、目的細胞は、ガラスプレートの裏面につけたマーカーと同一視野で撮影しておき、パパニコロウ染色後の細胞位置の同定に利用できるようにした。次いで目的細胞の高倍レンズを用いた明視野画像ならびに蛍光画像を取得し、BZ-X700用専用ソフトウェアでステージ上での位置情報登録を行った。用いた撮影条件は下記の通りである。
x10レンズ(CFI Plan Apo λ10x、#972031、NA 0.45、WD 4.00 mm)
明視野画像:モノクロ、高感度、透過照明光25、開口絞り20%、露光時間1/4500s
x40レンズ使用時
明視野画像:高感度、透過照明光量25、開口絞り20%、露光時間1/300s
緑色蛍光画像:高感度、励起光量100%、露光時間1/4s
赤色蛍光画像:高感度、励起光量10%、露光時間1/10s
x100レンズ使用時
明視野画像:高感度、透過照明光量25、開口絞り20%、露光時間1/50s
緑色蛍光画像:高感度、励起光量100%、露光時間1/4s
赤色蛍光画像:高感度、励起光量10%、露光時間1/10s
【実施例】
【0077】
(5)パパニコロウ染色ならびに観察
蛍光観察後、99.5%エタノールを満たした容器中にガラスプレートを浸漬し、5min静置した後にシリコーンマスクを外した。エタノール固定後、常法によりパパニコロウ染色を行い、通常とは上下逆に、ガラスプレート上にスライドガラスを貼り合わせて封入し、永久標本とした。蛍光観察時に撮影した目的細胞を、ステージ上での登録位置情報を基に同一視野で明視野観察するため、ガラスプレートとスライドガラスを貼り合わせる際、両者の端を正確に揃えて封入した。染色後の観察は、通常の正立顕微鏡を用いてマーカーを目印に大まかに視野を調べた後、BZ-X700オールインワン蛍光顕微鏡に登録させた位置情報をもとに再度視野の同定を行い、x40レンズで観察し、撮影した。用いた撮影条件は、明視野カラー、高解像度、透過照明光量25、開口絞り20%、露光時間1/1.5sである。
【実施例】
【0078】
(実験結果)
子宮体がん(類内膜腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞のライブセルイメージング結果をその後のパパニコロウ染色結果と対応させた結果を図3及び図4に示す。図3Aは、形態観察からがん細胞の疑いのある二つの生きた細胞塊の明視野像(対物レンズの倍率は40倍)を示している。腹水入手翌日(約20時間後)にfLGを適用し、約22時間後に撮影したものである。画面右上の黒い部分は、ガラスプレート裏面に記された位置判別用の印の一部である。図3Bは、100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像である。画面左と右の二つのがん細胞塊のいずれも、2-NBDLGに由来する蛍光を発していることが判る。図3Cは、Bと同様であるが、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。画面左側の細胞塊が2-TRLGに由来する赤色蛍光を発しており、Bでがん細胞の疑いのある細胞に認められた2-NBDG蛍光には細胞膜損傷に起因する取り込みによってもたらされたものが含まれることを示唆しているのに対して、画面右側の細胞塊(Cluster1)は2-TRLGに由来する赤色蛍光を発しておらず、2-NBDLG蛍光が細胞膜損傷に起因する取り込みによってもたらされたものであるとは考えられない。図3Dは、Cにおける画面右側の細胞塊(Cluster1)の明視野拡大像(対物レンズの倍率は100倍)である。図4Aは、図3Bにおける画面右側の細胞塊(Cluster1)の緑色波長域における拡大蛍光顕微鏡画像である。核を除いた細胞質部分に2-NBDLGが取り込まれている様子がわかる。図4Bは、図3Cにおける画面右側の細胞塊(Cluster1)の赤色波長域における拡大蛍光顕微鏡画像である。2-TRLGに由来する赤色蛍光は認められない。図4Cは、図3D,図4A,図4Bの細胞塊(Cluster1)の明視野像と蛍光像の重ね書き画像である。図4Dは、図3D,図4A,図4Bで示した細胞塊(Cluster1)、すなわち2-NBDLG陽性で2-TRLG陰性の細胞塊を、パパニコロウ染色した後の明視野像である。これは、細胞診断学上の分類では典型的な腺がん細胞の核様態ならびに細胞集合様態の特徴を示している細胞塊であると認められる。
【実施例】
【0079】
実施例3:子宮体がん患者の腹水細胞に蛍光標識L-グルコース誘導体を適用したライブセル蛍光イメージングと、固定後に行ったパパニコロウ染色結果の対応
子宮体がん患者の手術時に得られた腹水細胞に蛍光標識L-グルコース誘導体を適用したライブセル蛍光イメージングを行い、次いで、同じ試料を用いて、細胞を固定後にパパニコロウ染色を行った。そして、両者の結果の対応を行った。そこで、反応性中皮細胞と判定された細胞を認めた例である。
【実施例】
【0080】
(実験方法)
(1)腹水の調整
子宮体がんの開腹手術開始直後、実施例1と同様の方法で腹腔内を生理食塩水で洗浄して得られた洗浄腹水を、あらかじめHanks溶液5mLをいれておいた50mL遠沈管に加えた。得られた腹水浮遊液を1500G,2min室温で遠心後、上清をスポイトを用いて除去した。このペレットのうち、病院病理部で細胞診検査に使用する部分をとった余剰分をKRB溶液15mLの入った15mL遠沈管に分散させ、再度1500G,2min室温で遠心した後、上清をスポイトを用いて除去した。ペレットの大部分は赤血球であったが、多量の赤血球が目的細胞を覆い隠すため検鏡の妨げとなる。遠沈管の底には比重の大きい赤血球が沈殿し、その上に目的細胞や白血球、血小板などの成分を含む層(バフィーコート)を形成するため、赤血球量を抑える目的でバフィーコートを含むペレットの上部1/3程度をスポイトで採取し、KRB溶液15mLの入った50mL遠沈管に分散させ、fLGの適用まで暗所で室温保管した。
細胞浮遊液15mLの入った50mL遠沈管を600G,1min室温で遠心後、上清をデカンテーションで廃棄し、ペレットにKRB溶液を1mL加えて再分散させた。
【実施例】
【0081】
(2)蛍光標識L-グルコース誘導体の子宮体がん腹水細胞への適用
実施例1(2-1)と同様にして調整した x2 fLG溶液を1mL加えて混和し、37℃ウォーターバス中で5min間fLGを細胞に接触させた。その後、0℃の冷KRB溶液38mLを加えることで、細胞へのfLGの取り込みを停止させ、0℃にて650G,1min間の遠心を行い、上清をデカンテーションで除去することで溶液中のfLG濃度を低下させた。さらに冷KRB溶液40mLに細胞を再分散させ、再度650G,1min間遠心を行った後上清を除き、冷KRB溶液10mLに腹水細胞を分散させた。
なお、遠心操作によるガラスプレートへの腹水細胞の付着ならびに生存維持方法、パパニコロウ染色ならびに観察は、実施例2と同様の方法で行った。
画像取得条件は、x40レンズを使用し、下記の通りとした。
明視野画像:高感度、透過照明光量25、開口絞り20%、露光時間1/500s
緑色蛍光画像:高感度、励起光量100%、露光時間1/4s
赤色蛍光画像:高感度、励起光量10%、露光時間1/10s
【実施例】
【0082】
(実験結果)
図5は、ライブセル蛍光イメージングとパパニコロウ染色の結果確認された反応性中皮細胞を含む領域を拡大して示したものである。図5Aは、100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像(対物レンズの倍率は40倍)である。白線で囲まれた関心領域に存在する細胞群が2-NBDLGに由来する蛍光を発している。関心領域の右にある強い蛍光は、緑色蛍光を持つ不溶性物体である。図5Bは、Aと同様であるが、赤色波長域における蛍光顕微鏡画像である。関心領域の細胞群は2-TRLGに由来する赤色蛍光を発しておらず、2-NBDLG蛍光が細胞膜損傷に起因する取り込みによってもたらされたものであるとは考えられない。図5Cは、AとBの蛍光像を明視野像に重ね合わせた画像である。図5Dは、蛍光染色後に実施したパパニコロウ染色の結果である。A-Cにおいて白線で囲まれた関心領域に存在する細胞群は、反応性中皮細胞と思われる核様態ならびに細胞集合様態の特徴を示している細胞群であると認められる。本例のような腹水由来の細胞診検体に、N/C比が大きい細胞群が認められた場合には、核の大小不同の有無や極性、核小体やクロマチンの様態、細胞自体の大きさ、あるいは細胞の集合形態等を総合して、反応性中皮細胞と判断するか、あるいはがんに移行する可能性が疑われる異常を呈している細胞と判断するか、あるいは判断が難しいケースとするか、診断に主観的要素が強く含まれる。言い換えると、どこまでが反応性中皮で、どこからががんに移行する可能性が疑われる異常を呈している細胞かの線引きが、検査士や細胞診専門医により幅があると言ってよい。本発明により、専ら細胞の形態的な異常情報のみに基づいて判定していた従来の細胞判定とは質的に異なる情報が得られ、がんの経過や予後を調べることで、このような細胞の良悪鑑別に役立つ情報を与えることができる。
【実施例】
【0083】
(実施例4)
実施例4:卵巣がん患者の原液腹水細胞に潅流法により蛍光標識L-グルコース誘導体を適用したライブセル蛍光イメージングと、固定後に行ったパパニコロウ染色結果の対応
卵巣がん患者の手術時に得られた腹水細胞に蛍光標識L-グルコース誘導体を適用し、ライブセル蛍光イメージングを行い、次いで、同じ試料を用いて、細胞を固定後にパパニコロウ染色を行った。そして、両者の結果の対応を行った。
(実験方法)
(1)腹水の調整
卵巣がん(漿液性腺がん)の開腹手術開始直後、腹腔内より採取された腹水原液の余剰分を、あらかじめHanks溶液5mLをいれておいた50mL遠沈管に加えた。得られた腹水浮遊液について竹串でフィブリンの有無を確認した後、メッシュに通して脂肪、不純物を取り除いた。次いで50mL遠沈管2本に半量ずつ分注し、1500G,2min室温で遠心後、2本の遠沈管それぞれの上清を、電動ピペットを用いて液面側から静かに7.5mLまで取り除き、さらにスポイトを用いて1mLを残して除去した。遠沈管底部には赤血球等を含む沈殿層が存在するが、その上表面から1mL分を沈殿層の赤血球を吸わないようにスポイトとマイクロピペットを用いて採取し、腹水細胞浮遊液とした。
(2)遠心操作によるガラスプレートへの腹水細胞の付着ならびに生存維持方法
市販の自動細胞収集装置CF-12D(サクラファインテックジャパン株式会社製)を用い、ガラスプレートへの腹水細胞の付着を行った。具体的には、本装置専用の1mLチャンバーセット(サクラファインテックジャパン株式会社製、プラスチック製チャンバー)に、25.7x75.0mmのサイズにカットされたガラスプレート(図14)に、潅流用シリコーンマスク(図15、アウターマスクとインナーマスクから構成される)を密着させたものを予めセットしておいた。次いで、(1)で調整した腹水細胞浮遊液1mLを上記CF-12D専用プラスチック製チャンバーに移し、室温にて1400rpm 1min間の遠心を行った。
遠心終了後、すばやくガラスプレートを取り出し、直ちに細胞付着領域にKRB溶液を加えることで乾燥を防いだ。次いで、細胞付着領域に相当する部分に開口部を設けたインナーマスクを取り除き、更にKRB溶液をアウターマスクの魚型開口部に加えることでライブセルイメージング中の細胞維持に十分な量の緩衝液を確保できるようにした。かん流をスムーズに行うため、魚型開口部を完全にふさがない程度の大きさのカバーガラス(MATSUNAMI MICRO COVER GLASS:22x22mm)を密着させた後、かん還流ステージへの装着までの間、湿潤箱に入れて保管した。
(2-1)かん流用ライブセルイメージング用特殊カバーガラス(ガラスプレート)
ガラスプレートには、松浪硝子工業株式会社製のNo.1S(厚み0.16-0.19mm)を図1A(要変更)および1C(要変更)に示すように25.7mmx75.0mmのサイズに切断したものを用いた。また、表裏上下左右の判別を容易にする目的で、ガラスプレートの左上の角を斜めにカットした。このガラスプレートの斜めの切欠きは、顕微鏡ステージ上にセットして用いるシステムインスツルメンツ社製の特注かん流ステージへ、薄く割れやすい本ガラスプレートを装着する際、位置の誤差によって細胞の同定が困難にならない程度のサイズとした。
【実施例】
【0084】
(2-2)かん流用シリコーンマスク(緩衝液保持構造体)
緩衝液保持の目的でガラスプレート上に密着させて用いるマスクは、厚さ0.5mmのシリコーン製で、配向が容易にわかるよう上下左右非対称でかつガラスプレート上に表記したサンプル名等を隠さない大きさとし、ガラスプレート上に気泡を生じずに容易に密着させることが可能で、また細胞に影響を与えずに容易に取り外すことが可能な構造とした(図14および図15)。本シリコーンマスクは、細胞付着領域と同サイズの開口を持つインナーマスクと、インナーマスクを填め込むことが可能な魚型の開口を持つアウターマスクの、入れ子構造となっている。インナーマスクの開口部は細胞付着領域を囲む枠線と同じサイズとしており、遠心操作による細胞付着の際に、細胞付着領域以外への細胞の流出を防ぐものである。アウターマスクの魚型開口は、細胞付着後に開口を塞がないサイズのカバーガラスを貼りつけることで、魚の頭側をInlet、尾側をOutletとした時に、Inletから流入する溶液が自然とOutlet側に溢れ出し、Inlet側には溢れ出ない様な過不足のないかん流を可能とするものである。
【実施例】
【0085】
(3)ガラスプレートの潅流ステージへの装着と潅流
腹水細胞浮遊液の調整が済むまでに、顕微鏡用培養装置(東海ヒットINUG2-KIW)をBZ-X700にセットした後、潅流ステージ(図16、図17)を装着したうえで、潅流ポンプ(ISMATEC)と潅流ラインを接続した。かん流にはKRB溶液を用い、供給元の溶液瓶を40℃のウォーターバス内で予め加温することで、溶液に溶け込んだ気泡がかん流ライン内に入らない様にした。また、ラインの始まりにタコ管トラップを設けることで、さらに気泡の流入を防いだ。潅流ステージの上にはダミーのガラスプレートを載せてKRB溶液の潅流を行い、流速が0.7mL/minにおいて細胞付着部分の温度が37.0±0.5℃になるように設定した。具体的には、顕微鏡用培養装置のトップヒータ、バスヒータの温度を設定することで装置内の温度を一定とし、さらに培養装置内の水路に40mL程度の水を注いで同時に加温し、この中に細いステンレスの管を這わせてKRB溶液を通すことで、予め細胞に到達する前のKRB溶液を温めた。
細胞の付着したガラスプレートを、かん流用シリコーンマスクの魚型開口部の頭にあたる部分が潅流装置のInlet側に、開口部の尾にあたる部分をOutlet側になるよう潅流ステージにセットし、潅流スタート時にはかん流の様子を明視野下に検鏡しながら、細胞の付着具合を確認しながら流速0.3mL/minで潅流を開始した。その後1分おきに流速を0.1mL/minずつ上げながら、0.7mL/minまで速度を上げ、潅流が安定していることを確認した。
【実施例】
【0086】
(4)腹水細胞への蛍光標識L-グルコース誘導体の適用と画像取得
画像取得は、数か所を手動で撮影する方法ではなく、視野を横にずらしながら指定した範囲内を順に撮影するタイリングの手法を用いた。具体的には、まず細胞観察用カバーガラスの細胞付着領域の全視野をx10レンズで取得した後、x40レンズに切り替え、3点を指定することで撮影範囲と焦点を設定した。具体的には、細胞付着領域を囲む枠線の左上をAとし、枠が画面上の左端に位置するよう配置した。さらに細胞付着ガラス面から6.3ミクロン上部を撮影面として定めた。視野を右にずらし、隣の枠角をBとして、さらにAの対角をCとして同様に設定し、A、Cの2点で撮影領域を、A、B、Cの3点において細胞付着ガラス面から6.3ミクロン上部を撮影面とした。細胞付着ガラス面から6.3ミクロン上部を撮影面とした理由は、がん細胞が概ね高さを持った一個あるいは複数個の立体構造をとっているため、ガラス面に焦点を合わせても、その核や細胞質を観察するために最適な高さではないためである(要検討)。以上の操作によって、撮影時にはx40レンズの視野で1036枚(28x37)の画像を取得することになり、撮影時間にして約3分30秒で細胞付着領域の全視野を撮影可能となる。画像解析の際、専用アプリケーションを用いて画像を貼り合わせ(イメージジョイント)、一枚の大きな画像として表現が可能である。蛍光標識L-グルコース誘導体の投与前の画像は緑色蛍光画像、次いで明視野画像を次の条件で撮影した。
緑色蛍光画像:高感度(Gain 6db,Binning 3x3)、励起光量100%、露光時間1/80s
明視野画像:高感度(Gain 6db,Binning 3x3)、透過照明光量25%、開口絞り20%、露光時間1/500s
【実施例】
【0087】
蛍光標識L-グルコース誘導体の投与
(4-1)蛍光標識L-グルコース誘導体溶液の調製
2-NBDLGと2-TRLGの混合溶液(fLG溶液)は、それぞれ2-NBDLGが100μM、2-TRLGが20μMとなるように、KRB溶液に特許文献WO2012/133688に記載した方法で溶解して作製した。
fLG溶液は、KRB溶液とは枝分かれした異なるラインから供給し、KRB溶液と同様に予めウォーターバスで40℃に加温して液中の空気を軽く除去した後に、タコ管トラップを経、かん流ポンプ手前でKRB溶液のラインと合流させた。5分間投与した後、画像取得直前には(4)と同様の方法で撮影面の再設定を行い、KRB溶液に切り替えて10分後に投与後の画像を緑、赤、明視野の順で、次の条件で撮影した。
緑色蛍光画像:高感度、励起光量100%、露光時間1/80s
赤色蛍光画像:高感度、励起光量5%、露光時間1/120s
明視野画像:高感度、透過照明光量25%、開口絞り20%、露光時間1/500s
【実施例】
【0088】
(5)パパニコロウ染色ならびに観察
蛍光観察後、99.5%エタノールを満たした容器中に細胞観察用カバーガラスを浸漬し、5min静置した後に潅流用シリコーンマスクを外した。エタノール固定後、常法によりパパニコロウ染色を行い、スライドガラス上に細胞観察用カバーガラスを貼り合わせて封入し、永久標本とした。蛍光観察時に撮影取得した画像と、パパニコロウ染色後の撮影取得した画像を合わせるために、細胞観察用カバーガラスとスライドガラスを貼り合わせる際、両者の端を正確に揃えて封入した。染色後の観察は、潅流ステージに封入した細胞観察用カバーガラスをセットして、かん流中の画像取得時と同様の撮影範囲、撮影面の設定を行った。撮影条件は、明視野カラー、高解像度(Gain 6db, Binning 1x1)、透過照明光量100%、開口絞り20%、露光時間1/7.5sである。
【実施例】
【0089】
(実験結果)
卵巣がん(漿液性腺がん)患者の手術時に得られた腹水細胞のライブセルイメージング結果をその後のパパニコロウ染色結果と対応させた結果を図6、図7、図8及び図9に示す。図6AはfLG適用前の細胞付着領域全体の緑色波長域の蛍光画像、赤色波長域の蛍光画像図、明視野画像の重ね合わせ画像であり、図6BはfLG適用後の緑色波長域の蛍光画像、赤色波長域の蛍光画像図、明視野画像の重ね合わせ画像である。図8Dとその拡大図である図9のパパニコロウ染色画像の形態観察から、がん細胞の細胞塊の特徴を示していることがわかる。すなわち、1個の細胞体が大きい、核が大きく細胞質に対する割合N/Cが大きい、クロマチンも濃縮している等の特徴を有している。図7Aは図8Dで示された細胞塊のfLG適用前の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像で、対して図7BはfLG適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像である。
この2つの画像を比較するとがん細胞塊が2-NBDLGに由来する蛍光を発していることが判る。図8Bは同様の細胞塊のfLG適用後の赤色波長域における蛍光顕微鏡画像であるが、2-TRLGに由来する赤色蛍光を発しておらず、この細胞塊の2-NBDLG蛍光が細胞膜損傷に起因する取り込みによってもたらされたものであるとは考えられない。すなわちパパニコロウ染色した後の細胞診断学でがん細胞の核様態ならびに細胞集合様態の特徴を示していると認められる細胞塊が、2-NBDLG陽性で2-TRLG陰性を示しており、本発明による生理的に見たがん細胞の検出法が形態学的な診断法と一致していることを示している。
【実施例】
【0090】
実施例5:子宮体がん患者の洗浄腹水細胞に潅流法により蛍光標識L-グルコース誘導体を適用したライブセル蛍光イメージングと、固定後に行ったパパニコロウ染色結果の対応
子宮体がん患者の手術時に得られた洗浄腹水細胞に蛍光標識L-グルコース誘導体を適用し、ライブセル蛍光イメージングを行い、次いで、同じ試料を用いて、細胞を固定後にパパニコロウ染色を行った。そして、両者の結果の対応を行った。
(実験方法)
(1)洗浄腹水の調整
子宮体がん(子宮内膜類内膜腺がん)の開腹手術開始直後、実施例1と同様の方法で得られた洗浄腹水を、あらかじめHanks溶液5mLをいれておいた50mL遠沈管に加えた。腹水浮遊液を実施例4と同様の方法でフィブリン、脂肪、不純物を取り除いた。次いで50mL遠沈管に半量を分注し、1500G,2min室温で遠心後した。
上清を実施例4と同様の方法で処理し、腹水細胞浮遊液1mLを採取した。
【実施例】
【0091】
(2)遠心操作によるガラスプレートへの洗浄腹水細胞の付着ならびに生存維持方法
(1)で採取した腹水細胞浮遊液1mLを実施例4と同様に、CF-12D専用プラスチック製チャンバーに移し、室温にて1400rpm 1min間の遠心を行うことで腹水細胞をガラスプレートに付着させ、実施例4と同様の処置をし、かん還流ステージへの装着までの間、湿潤箱に入れて保管した。
【実施例】
【0092】
(3)ガラスプレートの潅流ステージへの装着と潅流
実施例4と同様にして行った。
【実施例】
【0093】
(4)洗浄腹水細胞への蛍光標識L-グルコース誘導体の適用と画像取得
実施例4と同様にして行った。蛍光標識L-グルコース誘導体の投与前の画像は緑色蛍光画像のみを撮影した。また、fLG溶液を5分間投与した後、KRB溶液に切り替えて10分後に投与後の画像を緑、赤、明視野の順で撮影した。エタノール固定後のパパニコロウ染色についても同様である。
【実施例】
【0094】
(実験結果)
子宮体がん(子宮内膜類内膜腺がん)患者の手術時に得られた洗浄腹水細胞のライブセルイメージング結果とその後のパパニコロウ染色結果と対応させた結果を図10、図11、図12及び図13に示す。図10AはfLG適用前の細胞付着領域全体の緑色波長域の蛍光画像、赤色波長域の蛍光画像図、明視野画像の重ね合わせ画像であり、図10BはfLG適用後の緑色波長域の蛍光画像、赤色波長域の蛍光画像図、明視野画像の重ね合わせ画像である。図11C、図11D及び図12D、図13a,bの形態観察から、中皮細胞とマクロファージ細胞とみられる細胞(画面のa及びbの細胞塊)を認める。図11Bは、100μMの2-NBDLGと20μMの2-TRLGを含有するKRB溶液適用後の緑色波長域における蛍光顕微鏡画像である。a、bどちらの細胞塊とも適用前の図11Aの画像と比較して、2-NBDLGに由来する蛍光を発していない。さらに図12Bの赤色波長域における蛍光画像においてもa、bどちらも赤色蛍光を発していない。このことから細胞膜損傷を来たしていない正常な中皮細胞およびマクロファージ細胞には2-NBDLGが取りこまれない様子がわかる。図12Dとその拡大図13a,bは蛍光染色後に実施したパパニコロウ染色の結果である。1個の細胞体の大きさが小さく、核は大きさが一様でN/Cも小さい特徴がわかる。また核の変性や凝集による細胞へのダメージが少なく、検査士や細胞診専門医による形態判定に何ら支障を来たさない染色結果であり、潅流法による有効性が示されている。
【実施例】
【0095】
上記の詳細な記載は、本発明の目的および対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更および置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の方法は、生体由来細胞を用いた細胞を生きた状態でイメージングできる新たな細胞診断方法を提供する。本発明はまた、ライブイメージングを用いたがんの検出方法と、既存のがん細胞の細胞診断法、例えばパパニコロウ染色法やギムザ染色法と組み合わせた、がん細胞の二重検出法を提供する。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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