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明細書 :レーザーを用いて細胞を配列する方法及び装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年8月10日(2017.8.10)
発明の名称または考案の名称 レーザーを用いて細胞を配列する方法及び装置
国際特許分類 C12M   1/42        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12M 1/42
C12N 1/00 Z
C12M 1/00 A
国際予備審査の請求
全頁数 27
出願番号 特願2016-547488 (P2016-547488)
国際出願番号 PCT/JP2015/075659
国際公開番号 WO2016/039397
国際出願日 平成27年9月9日(2015.9.9)
国際公開日 平成28年3月17日(2016.3.17)
優先権出願番号 2014184193
優先日 平成26年9月10日(2014.9.10)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】吉川 研一
【氏名】谷口 浩章
【氏名】太田 太恵子
【氏名】橋本 周
【氏名】米田 晋一朗
【氏名】▲吉▼田 葵
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B065
Fターム 4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG10
4B065AA90X
4B065BC50
4B065CA60
要約 細胞同士が離れないように細胞を配列することができる、レーザーを用いて細胞を配列する方法及び装置を提供する。本発明に係る方法は、レーザーにより細胞を捕捉する工程と、溶媒が水性溶媒であり水溶性高分子を含む高分子溶液中で、捕捉された細胞を他の細胞に相対的に搬送して接触させる工程と、高分子溶液による枯渇効果によってこれらの細胞の接触を維持する工程と、を含む。本発明に係る装置は、レーザー光源と、溶媒が水性溶媒であり、水溶性高分子を含み、細胞の接触を維持するために枯渇効果を発生可能な高分子溶液と、細胞及び試料セルを収容するための試料セルと、レーザーを試料セル内で集光させるための集光レンズと、試料セルとレーザーの集光点とを相対的に3次元に移動させるための移動ユニットと、を備える。
特許請求の範囲 【請求項1】
レーザーを用いて細胞を配列する方法であって、
レーザーにより細胞を捕捉する工程と、
溶媒が水性溶媒であり水溶性高分子を含む高分子溶液中で、捕捉された細胞を他の細胞に相対的に搬送して接触させる工程と、
前記高分子溶液による枯渇効果によってこれらの細胞の接触を維持する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
枯渇効果による細胞の接触を300秒以上維持する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
形成した細胞の配列を前記高分子溶液が存在しない環境下におく工程を含む、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
形成した細胞の配列を前記高分子溶液から液体培地へ搬送する工程を含む、ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
細胞を立体的に配列することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記高分子溶液における前記水溶性高分子の濃度Cが、前記水溶性高分子の重なり濃度をCとしたときに、0.1C≦C≦10Cになるように、前記高分子溶液を調整する工程を含む、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶性高分子の濃度Cは、0.3C≦C≦3Cであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞を配列するための装置であって、
レーザーを発生させるためのレーザー光源と、
溶媒が水性溶媒であり、水溶性高分子を含み、前記細胞の接触を維持するために枯渇効果を発生可能な高分子溶液と、
前記細胞及び前記試料セルを収容するための試料セルと、
前記レーザー光源からのレーザーを前記試料セル内で集光させるための集光レンズと、
前記試料セルと前記レーザーの集光点とを相対的に3次元に移動させるための移動ユニットと、を備えることを特徴とする装置。
【請求項9】
前記集光レンズは、複数設けられており、
前記移動ユニットは、レーザーの集光点を前記試料セルに対して3次元に移動させる集光点移動機構を前記集光レンズ毎に備えることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記試料セルの水平方向の一方には、前記高分子溶液を前記試料セルの液体収容空間に導入するための第一導入口が形成され、
前記試料セルの前記水平方向の他方には、枯渇効果を生じさせることができない追加の液体を前記液体収容空間に導入するための第二導入口が形成され、
前記試料セルの中央部には、前記液体収容空間内の空気を排出するための排気口が形成されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記高分子溶液における前記水性高分子の濃度Cは、前記水溶性高分子の重なり濃度をCとしたときに、0.1C≦C≦10Cであることを特徴する請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記水溶性高分子の濃度Cは、0.3C≦C≦3Cであることを特徴とする請求項11に記載の装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーを用いて細胞を配列する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、生体内において様々な配置を取ることによりその機能を発揮している。従って、生体内における細胞の配置を生体外で再現できることが、生命科学の分野の研究において強く望まれている。
【0003】
細胞の配置を再現するためには、細胞を自由に操作できる技術が必要である。細胞を操作する技術の一例として、レーザートラッピングがある。レーザートラッピングは、レーザーを集光させ、誘電体である微小物体をレーザーの集光部分で捕捉する技術であり、光ピンセットとも呼ばれている。レーザートラッピングによれば、細胞を非接触で捕捉して、三次元に移動させることができる。
【0004】
例えば、特許文献1-2には、レーザートラッピングによって細胞を操作して細胞同士を接着させることが開示されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2007-189998号公報
【特許文献2】米国特許文献2010267105A1
【特許文献3】特開2006-296361号公報
【特許文献4】特開平03-297385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞同士をレーザートラッピングによって単に接触させただけでは、これらはすぐに離れてしまう。この要因として、細胞膜電位による静電反発力や細胞膜の揺らぎ運動に伴う反発などが挙げられる。
【0007】
特許文献1に開示された方法では、予め一方の細胞をアビジン化し、他方の細胞をビオチン化する。それから、これらの細胞同士をレーザートラッピングによって接触させ、アビジン-ビオチン結合によって瞬間的にかつ強力に接着させている。
また、特許文献2に開示された方法では、予め一方の細胞を化学的に修飾された基板上に固定させる。それから、他方の細胞をレーザートラッピングによって一方の細胞に搬送し、接触させて、細胞のペアを基板上で形成している。
【0008】
このように従来の方法では、細胞同士がすぐに離れるという問題を克服するため、レーザートラッピングで細胞同士を接触させる前に、細胞に対して処理を施す工程が必要であった。
【0009】
本発明は、予め細胞に対して処理を施さずに細胞同士の安定な接触を得ることができる、レーザーを用いて細胞を配列する方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、高分子溶液によって生じる枯渇効果(depletion effect)に注目した。発明者らは、枯渇効果を利用することで、細胞同士の安定な接触が得られることを見出した。
【0011】
本発明は、レーザーを用いて細胞を配列する方法であって、
レーザーにより細胞を捕捉する工程と、
溶媒が水性溶媒であり水溶性高分子を含む高分子溶液中で、捕捉された細胞を他の細胞に相対的に搬送して接触させる工程と、
前記高分子溶液による枯渇効果によってこれらの細胞の接触を維持する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、枯渇効果による細胞の接触を300秒以上維持する。
【0013】
好ましくは、形成した細胞の配列を前記高分子溶液が存在しない環境下におく工程を含む。
【0014】
好ましくは、形成した細胞の配列を前記高分子溶液から液体培地へ搬送する工程を含む。
【0015】
好ましくは、細胞を立体的に配列する。
【0016】
好ましくは、前記高分子溶液における前記水溶性高分子の濃度Cが、前記水溶性高分子の重なり濃度をCとしたときに、0.1C≦C≦10Cになるように、前記高分子溶液を調整する工程を含む。さらに、好ましくは、水溶性高分子の濃度Cは、0.3C≦C≦3Cである。
【0017】
さらに、本発明は、レーザーを用いて細胞を配列するための装置であって、
レーザーを発生させるためのレーザー光源と、
溶媒が水性溶媒であり、水溶性高分子を含み、前記細胞の接触を維持するための枯渇効果を発生可能な高分子溶液と、
前記細胞及び前記試料セルを収容するための試料セルと、
前記レーザー光源からのレーザーを前記試料セル内で集光させるための集光レンズと、
前記試料セルと前記レーザーの集光点とを相対的に3次元に移動させるための移動ユニットと、を備えることを特徴とする。
【0018】
前記集光レンズは、複数設けられており、
前記移動ユニットは、前記レーザーの集光点を前記試料セルに対して3次元に移動させる集光点移動機構を前記集光レンズ毎に備える。
【0019】
好ましくは、前記試料セルの水平方向の一方には、前記高分子溶液を前記試料セルの液体収容空間に導入するための第一導入口が形成され、
前記試料セルの前記水平方向の他方には、枯渇効果を生じさせることができない追加の液体を前記液体収容空間に導入するための第二導入口が形成され、
前記試料セルの中央部には、前記液体収容空間内の空気を排出するための排気口が形成されている。
【0020】
好ましくは、前記高分子溶液における前記水性高分子の濃度Cは、前記水溶性高分子の重なり濃度をCとしたときに、0.1C≦C≦10Cである。さらに、好ましくは、前記水溶性高分子の濃度Cは、0.3C≦C≦3Cである。
【発明の効果】
【0021】
高分子溶液による枯渇効果を利用することにより、細胞に予め処理を施さなくても細胞の安定な接触が得られる。細胞をゲル、基板等の足場に固定することなく、任意の安定した3次元の細胞の配列が得られる。そして、生体内における細胞の配置を生体外で自由に再現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】重なり濃度を説明するための図である。
【図2】枯渇効果による安定な細胞の接触を説明するための図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る細胞配列装置の概略的構成を示す図である。
【図4】図4Aは、図3の装置における試料セルの一例を示す斜視図である。図4Bは、図4Aの試料セルの使用例を示す断面図である。
【図5】他の実施形態に係る細胞配列装置の要部を示す図である。
【図6】水性溶媒を用いた場合の実験例1の実験結果を示す。図6Aは、2つのNMuMGの時間経過に伴う位置変化を示す画像、図6Bは、特定時刻におけるNMuMGの画像、図6Cは、図6Bに対応する模式図、図6Dは、実験操作を説明する図である。
【図7】PEG溶液を用いた場合の実験例1の実験結果を示す。図7Aは、2つのNMuMGの時間経過に伴う位置変化を示す画像、図7Bは、特定時刻におけるNMuMGの画像、図7Cは、図7Bに対応する模式図、図7Dは、実験操作を説明する図である。
【図8】実験例1のPEGの濃度と細胞間接触維持確率との関係を示すグラフである。
【図9】細胞を数秒間接触させた場合の実験例2の実験結果を示す。図9Aは、2つのNMuMGの時間経過に伴う位置変化を示す画像、図9Bは、特定時刻におけるNMuMGの画像、図9Cは、図9Bに対応する模式図、図9Dは、実験操作を説明する図である。
【図10】細胞を数分間接触させた場合の実験例2の実験結果を示す。図10Aは、2つのNMuMGの時間経過に伴う位置変化を示す画像、図10Bは、特定時刻におけるNMuMGの画像、図10Cは、図10Bに対応する模式図、図10Dは、実験操作を説明する図である。
【図11】NMuMGをPEG溶液中で立体的に配列する様子を示す実験例3の実験結果の画像である。
【図12】NMuMGをPEG溶液中で立体的に配列する様子を示す実験例4の実験結果の画像である。
【図13】図12Bの画像に対応する模式図である。
【図14】NMuMGをPEG溶液中で略直線的に配列する様子を示す実験例4の実験結果の画像である。
【図15】赤血球を水性溶媒中で配列した場合の実験例5の実験結果の画像である。
【図16】赤血球をPEG溶液中で配列した場合の実験例5の実験結果の画像である。
【図17】実験例6の実験結果の画像を示す。図17Aは、水性溶媒中でのNMuMGの様子を示す画像である。図17Bは、デキストラン溶液中でのNMuMGの様子を示す画像である。
【図18】実験例6の実験結果の画像を示す。図18Aは、水性溶媒中での赤血球の様子を示す画像である。図18Bは、デキストラン溶液中での赤血球の様子を示す画像である。
【図19】本発明の利用例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係るレーザーを用いて細胞を配列する方法及び装置の一実施例を説明する。

【0024】
[高分子溶液による枯渇効果]
本発明では、細胞の配列のために高分子溶液による枯渇効果が利用される。

【0025】
「枯渇効果」とは、以下のような現象である。高分子溶液中で2つの物体が接近すると、2つの物体間に存在する高分子が排除される。すると、2つの物体間に、高分子が存在しない領域(即ち、高分子が枯渇した領域)が形成され、一方、2つの物体の周りに、高分子が存在する領域が形成される。それによって、浸透圧が働いて、2つの物体は周りから押されて凝集を引き起こす。この現象を枯渇効果という。

【0026】
[高分子溶液の調整]
図1Aの通り、高分子溶液が高分子の濃度が低い希薄溶液の場合、高分子は互いに接触することはなく1分子として振る舞う。一方、図1Bの通り、高分子の濃度がある基準を超えると高分子は互いに接触し始める。このように高分子が互いに接触し始める濃度を重なり濃度Cという。なお、重なり濃度Cは、以下の式1によって規定される。

【0027】
JP2016039397A1_000003t.gif
式1において、Mは高分子の分子量、ρは溶媒の比重、Nはアボガドロ定数、Rgは高分子の慣性半径である。なお、慣性半径Rgは、以下の式2に示される関係がある。

【0028】
JP2016039397A1_000004t.gif
式2において、nは高分子の重合度、bはKuhn長、υはスケーリング指数であり、1/2≦υ≦3/5である。

【0029】
この重なり濃度Cを目安にすることで、例えば、重なり濃度Cのオーダーを目安にすることで、枯渇効果を生じさせることができる高分子溶液を調整することができる。高分子の濃度Cが重なり濃度Cに対して低すぎると枯渇効果は生じない。一方、高分子の濃度Cが重なり濃度Cを超えて高くなると、枯渇効果は生じるものの高分子溶液の粘度が急に高くなる。後述する通り、本発明は、レーザーを用いて細胞を高分子溶液中で搬送するが、高分子の濃度Cが重なり濃度Cよりも高すぎると溶液の粘度が極めて大きくなるため、細胞の搬送に支障が生じ得る。

【0030】
本発明においては、枯渇効果及び細胞搬送の観点から、高分子の濃度Cが0.1C≦C≦10Cの範囲になるように高分子溶液を調整することが好ましい。より好ましい高分子の濃度Cの範囲は、0.3C≦C≦3Cである。

【0031】
上述の通り、高分子の濃度Cが重なり濃度Cを超えると高分子溶液の粘度は急に高くなる。従って、高分子の濃度Cを徐々に高くして、高分子溶液の粘度が急に高くなり始めるところを探し当てれば、重なり濃度Cを計算せずとも、高分子の濃度Cが重なり濃度C程度である高分子溶液を容易に調整できる。

【0032】
本発明は細胞を対象とするので、高分子溶液の溶媒は水性溶媒とする。水性溶媒は、水、又は、水及び親水性溶媒の混合溶媒である。親水性溶媒は、例えば、エチレングリコールなどの多価アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などであり、細胞が高分子溶液中で生きた状態を保てるようにすることが好ましい。水性溶媒における水の割合は、例えば、重量パーセントで10%~100%であるが、親水性溶媒の種類に応じて適宜決められる。

【0033】
使用する高分子は、水溶性高分子であればどのようなものを用いても枯渇効果を生じさせることができる。水溶性高分子は、例えば、ポリエチレングリコール、ビニルアルコールなどの合成高分子、タンパク質(アルブミン、コラーゲンなど)、多糖類(デキストラン、デンプンなど)などの天然高分子である。

【0034】
なお、高分子溶液には細胞を培養するために必要な物質(例えば、グルコース等)を添加してもよい。即ち、液体培地に水溶性高分子を加えたものを高分子溶液としてもよい。

【0035】
[枯渇効果による細胞の接触]
図2の通り、上記のように調整された高分子溶液中において細胞同士が接近すると、枯渇効果によって細胞同士の凝集が引き起される。細胞同士は、通常の溶液中では細胞膜電位による静電反発相互作用や細胞膜の揺らぎ運動に伴う反発効果などによってすぐに離れてしまうが、この高分子溶液中では枯渇相互作用によって接触し続ける。即ち、高分子溶液による枯渇効果によって、細胞同士の接触が、細胞膜間の反発相互作用の影響を無視して維持される。

【0036】
枯渇効果によって細胞の接触が維持されると、細胞同士は接着する。ここでいう、「接着」とは、細胞同士が、枯渇効果が生じ得ない環境下(例えば、通常の液体培地)におかれても離れることがない程度に安定して接触していることをいう(以下、同様)。細胞同士が接着状態に至るまでの接触時間は、数秒では足りず、数分必要であり、300秒(5分)以上あればほぼ十分であることが経験的に分かっている。

【0037】
このように細胞同士が接着状態に至るのは以下のように推測される。

【0038】
以下の各実験例などにおける実験的観測から、枯渇効果による細胞同士の接触は、図2のように平面接触であることが分かっている。即ち、両細胞の細胞膜の表面がフラットに変形して、細胞同士が接触している。この平面接触の面積は、数μm~数十μmと見積もられる。

【0039】
互いに接触する細胞間には上記の反発相互作用と枯渇相互作用とが作用し、これらが競合している。前述の通り、細胞間距離が高分子の直径程度にならなければ、細胞間に高分子が枯渇した領域が生じないので、細胞間に枯渇相互作用は生じない。従って、枯渇効果による細胞同士の接触は、ミクロ的にみれば、高分子の直径程度の、およそ慣性半径Rgのオーダーの、即ち、数nm~数十nmのギャップが両細胞の細胞膜間に設けられていると考えられる。

【0040】
即ち、枯渇効果による細胞の接触は、細胞膜の数μm~数十μmのフラットな表面が数nm~数十nmのギャップあけて互いに対向する状態で生じると考えられる。そして、このようなギャップが設けられていることで、接触状態でも、細胞膜の流動性が確保される、つまり細胞膜の表面のタンパク質や脂質などの構成要素が流動している。この流動性ゆえに、枯渇効果によって細胞の接触が維持されている数分の間に、フラットな細胞膜の表面間で、一方の細胞膜のプラス因子(例えば、正電荷をもつタンパク質)と他方の細胞膜のマイナス因子(例えば、負電荷をもつタンパク質)とが互いに対向するような構成要素の再配置が行われると考えられる。このような引力的な相互作用には静電相互作用に限らず、疎水性相互作用、水素結合など多様な化学的な相互作用も寄与していると考えられる。このような再配置によって、細胞同士がより安定した接触状態に、即ち、接触状態に至る。

【0041】
以上のようなことから、細胞の接触が枯渇効果によって数分間維持されると、細胞同士が接着すると推測される。

【0042】
なお、細胞同士が数時間以上接触し続けると、細胞自身が自発的に、カドヘリン、インテグリン等の細胞接着因子を形成するので、細胞同士のより一層の安定な接触が得られる。

【0043】
[細胞配列装置]
次に、本発明に係る細胞を配列するための装置(以下、細胞配列装置とする)の一実施例について説明する。図3を参照して、細胞配列装置は、レーザーを発生させるためのレーザー光源1と、レーザーを集光するための集光レンズ2(本実施例では対物レンズ)を少なくとも含む光学系を備えている。本実施形態の光学系では、さらに、レーザー光源1から対物レンズ2までの光路上に、ビームエキスパンダー3、ガルバノミラー4A、集光レンズ5A、5B、ガルバノミラー4B、集光レンズ5C、5D、及びダイクロイックミラー6Aがこの順番で配置されている。

【0044】
さらに、細胞配列装置は、ステージ7と、高分子溶液8と、試料セル9とをさらに備えている。ステージ7は、集光レンズ2の上方に配置されている。高分子溶液8は、溶媒が水性溶媒であり水溶性高分子を含んでいる。高分子溶液8は、枯渇効果を発生させることができるように、その水溶性高分子の濃度Cが、該水溶性高分子の重なり濃度Cを目安にして調整されている。試料セル9の内部空間には、高分子溶液8及び配列すべき複数の細胞が収容されている。試料セル9は、ステージ7上の所定の位置に載置されると、集光レンズ2の出射側と対向する。なお、ステージ7は、レーザー光源1により発生されるレーザーに対して吸収のない材料からなる、または、レーザーの通過を許容する開口を備えている。試料セル9も、その少なくともレーザーが入射する部分が、レーザーに対して吸収のない材料からなる。

【0045】
レーザー光源1からのレーザーは、ビームエキスパンダー3等を経由し集光レンズ2を通過し、集光レンズ2によって集光され、試料セル9内に集光された状態で入射される。この構成によって、試料セル9内の細胞をレーザーの集光点(焦点)近傍で捕捉することができる。

【0046】
細胞操作装置は、レーザーの集光点と試料セル9とを相対的に3次元に移動させるための移動ユニットを備えている。移動ユニットは、高分子溶液8中で細胞を操作するために用いられる。本実施形態の移動ユニットは、試料セル9を支持するステージ7を、レーザーの集光点に対して、Z方向(レーザーの光軸方向)に、Z方向に対して直角なX方向に、及び、Z方向及びX方向に対して直角なY方向に移動させるステージ移動機構10からなる。

【0047】
なお、移動ユニットは、図示されていないが、レーザーの集光点を試料セル9に対して移動させる集光点移動機構でもよい。集光点移動機構は、例えば、集光レンズ2のZ方向の移動によって集光点を試料セル9に対してZ方向に移動させ、ガルバノミラー4A、4Bの回転によって集光点を試料セル9に対してX方向及びY方向に移動させる構成である。

【0048】
また、移動ユニットは、ステージ移動機構10及び集光点移動機構の組み合わせでもよい。一例として、レーザーの集光点と試料セル9とのZ方向の相対移動を集光点移動機構によって行い、レーザーの集光点と試料セル9とのX方向及びY方向の相対移動をステージ移動機構10によって行う構成が挙げられる。

【0049】
集光されたレーザーによって細胞を捕捉しつつ、移動ユニットによって集光点と試料セル9とを相対的に移動させることにより、捕捉された細胞を高分子溶液8中で3次元に移動さることができる。それによって、集光されたレーザーで捕捉された細胞を、高分子溶液8中の他の細胞に相対的に搬送し、接触させることができる。

【0050】
細胞配列装置は、さらに、試料セル9中の細胞を観測するための観測ユニットを備えている。観測ユニットは、カメラ11、画像処理装置12、モニター13、レコーダー14、さらに水銀ランプ15(観測用光源の一例)、NDフィルター16、励起フィルター17、ダイクロイックミラー6A、6B、バリアフィルター18などからなる。この観測手段の構成は周知であるため、その説明は省略する。

【0051】
レーザーの波長に関しては、特に限定されるものではないが、細胞に損傷を与えないために、細胞にとって吸収が少ない波長が選択されることが好ましい。また、レーザーの波長は、高分子溶液の溶媒(水など)を加熱しない波長が選択されることが好ましい。従って、一般的には、赤外光で1000nmを含む前後の範囲、具体的には、800nmから1200nmの範囲が好ましく、900nmから1100nmの範囲がより好ましい。例えば、レーザー光源1をNd:YAGレーザーとし、その基本波(波長が1064nm)を用いることが好ましい。なお、可視光の吸収が少ない細胞を捕捉する場合には、400nmから700nmの可視光領域の波長が選択されても、細胞を損傷させずに容易に捕捉することができる。

【0052】
レーザーの出力は、そのレーザーの波長、細胞への損傷の有無、細胞の種類、大きさ、溶媒の種類、高分子溶液8の粘度などを考慮して適宜選択されるものである。例えば、400nmから1500nmの範囲のレーザーの波長を用いたときには、レーザーの出力は、1mWから1000mWの範囲とすることが好ましい。また、例えば、Nd:YAGレーザーの基本波を使用する場合、その出力は5mWから100mWの範囲とすることが好ましい。

【0053】
細胞配列装置を以下のように構成してもよい。
試料セル9は、次のような構成でもよい。試料セル9は、図4Aの通り、互いに上下方向に間隔をあけて配置された上プレート19と下プレート20を備えている。さらに、試料セル9は、上プレート19と下プレート20の間に介在されて両プレート19、20の間隔を規定する複数のスペーサを備えている。スペーサは、互いに第一水平方向に間隔をあけて配置された第一スペーサ21と第二スペーサ22とからなる。第二スペーサ22は、2つ設けられ、互いに第一水平方向に直角な第二水平方向に間隔をあけて配置されている。

【0054】
上記配置により、プレート19、20及びスペーサ21、22によって囲まれる空間が、液体を収容するための液体収容空間23となる。そして、試料セル9の第二水平方向の一側に、高分子溶液8を液体収容空間23に導入するための第一導入口24が形成され、他側に、枯渇効果を発生させることができない追加の液体27(例えば、液体培地など)(図4B参照)を導入するための第二導入口25が形成される。そして、第二スペーサ22、22が互いに間隔あけて配置されることにより、試料セル9の中央部の第一水平方向の一側に、液体収容空間23内の空気を排出するための排気口26が形成される。

【0055】
高分子溶液8が第1導入口24から液体収容空間23へ導入されるとともに、追加の液体27が第2導入口25から液体収容空間23内へ導入されると、図4Bの通り、液体収容空間23の一方側の領域に高分子溶液8が収容され、他方側の領域に追加の液体27が収容される。液体8、27が導入される間、液体収容空間23の空気は排気口26から排出される。なお、高分子溶液8と追加の液体27間の水溶性高分子の濃度差は、攪拌等をしない限り数時間は維持されるものである。

【0056】
このような試料セル9において、追加の液体27を液体培地とすれば、液体培地内で培養している細胞を集光されたレーザーによって高分子溶液8中に容易に搬送することができる。そして、高分子溶液8中で接着させた細胞を再び液体培地へ戻すことができる。

【0057】
また、細胞配列装置は、複数の集光されたレーザーによって複数の細胞を独立して操作できるように構成されてもよい。例えば、図5の通り、光学系は、集光レンズ2を(実施例では2つ)試料セル9と対向するように複数備えている。さらに、光学系は、レーザーが各集光レンズ2を通過し試料セル9内で集光されるように構成されている。これは、1つのレーザー光源1により発生されるレーザーが光学素子によって分岐され、分岐されたレーザーのそれぞれが集光レンズ2を通過するようにして達成されてもよい。または、これは、複数のレーザー光源1が各集光レンズ2に対して設けられることで達成されてもよい。この場合、レーザー光源1のレーザーは互いに異なる波長を有してよい。

【0058】
そして、移動ユニットは、レーザーの集光点を試料セル9に対して3次元に移動させるための上記の例示した集光点移動機構を集光レンズ2毎に備えている。それによって、複数のレーザーの集光点を独立して試料セル9に対して3次元に移動させることができる。

【0059】
この構成によれば、複数の細胞を同時に独立して操作することができるので、効率的に細胞を配列することができる。

【0060】
[細胞の配列]
以下の手順で細胞を配列する。
枯渇効果が生じ得るように水溶性高分子の濃度Cが調整された高分子溶液8を準備し、さらに、上記の細胞配列装置を準備する。配列すべき細胞と高分子溶液8とを試料セル9に収容する。そして、試料セル9をステージ7に載せる。

【0061】
そして、レーザー光源1から照射されたレーザーを集光レンズ2により集光させて試料セル中9に入射させる。移動ユニットによってレーザーの集光点と試料セル9とを相対的に移動させて、集光されたレーザーで細胞を捕捉する。

【0062】
細胞を捕捉した状態で移動ユニットによってレーザーの集光点と試料セル9とを相対的に移動させることにより、高分子溶液8中で当該細胞を他の細胞へ相対的に搬送して接触させる。

【0063】
それから、レーザーの照射を止める。これらの細胞の接触は、先の通り、高分子溶液8による枯渇効果によって維持される。そして、枯渇効果によって数分間接触が維持されると、これらの細胞は互いに接着する。

【0064】
レーザーによってさらに他の細胞を捕捉し、既に接触している細胞に相対的に搬送して高分子溶液8中で接触させる。レーザーの照射をやめる。以下、同様の工程を繰り返すことによって、細胞の配列を形成する。先の通り、枯渇効果によって細胞の接触を維持でき、かつ、レーザートラッピングによって細胞を3次元に操作できるので、任意の3次元の細胞の配列を形成することができる。

【0065】
そして、細胞同士が接着状態に至ってからは、細胞の配列を高分子溶液8から移動させて、枯渇効果を生じ得ない環境下、例えば通常の液体培地においてもよい。

【0066】
なお、細胞を配列するにあたり、レーザーで単一の細胞を捕捉するのではなく、捕捉力に問題がなければ複数の細胞を捕捉してもよい。即ち、細胞群をレーザーで捕捉して他の細胞または他の細胞群へ相対的に搬送して接触させてもよい。また、例えば、図5の細胞配列装置を用いる場合、一方の集光されたレーザーによって一方の細胞を捕捉し、他の集光されたレーザーによって他の細胞も捕捉し、そして、少なくともどちらかのレーザーの集光点を移動させることによって、これらの細胞を互いに接触させてもよい。また、接触させる細胞は同種でなくもよく互いに異なる種類であってもよい。

【0067】
以上の通り、本発明によれば、レーザートラッピング及び枯渇効果により、任意の安定した3次元の細胞の配列を形成することができる。生体内における細胞の配置を生体外で再現することができる。それにより、生体内における細胞動態の変化を生体外で観測でき、また、その際の遺伝子発現、タンパク質動態などを解析することが可能となる。また、細胞を、ゲル、基板等の足場を用いることなく配列できるので、細胞の配列内に異物が混入する可能性も極めて低い。

【0068】
以上、本発明に係る好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではない。

【0069】
以下に実験例を示す。以下各実験では、図3と同様の構成の細胞配列装置を用いた。また、レーザー光源には、Nd:YAGレーザー(波長は1064nm)を用いた。以下のいくつかの実験における液体培地には、D-MEM(和光社製)を用いた。なお、以下の実験例に関する図面中の×印はレーザーの焦点を表す。

【0070】
[実験例1]
ポリエチレングリコール(以降、PEGとする)と液体培地とを含むPEG溶液を準備した。PEGに関して、平均分子量はM=50,000であり、平均重合度はn≒1,000で、Kuhn長がb≒0.76nmである。スケーリング指数をυ=1/2とすれば、式2から、慣性半径はRg≒10nmである。液体培地の比重をρ≒1g/mlとして、式1から、重なり濃度は、C≒20mg/ml~30mg/mlである。PEG溶液を、PEGの濃度がC=40mg/mlになるように調整した。また、PEGを含まない液体培地(水性溶媒)を準備した。細胞には、マウス乳腺上皮細胞 (NMuMG)を用いた。レーザーの出力は、40mW~80mWである。

【0071】
図6、図7の通り、水性溶媒と、PEG溶液のそれぞれにおいて、一方の細胞をレーザーで捕捉し、ステージを一方向に移動させて他方の細胞に接触させた。細胞を数秒間接触させてから、ステージを10μm/secで他方向に移動させた。

【0072】
水性溶媒では、図6の通り、細胞の接触後にステージを移動させると、細胞のペアは互いに離れた。また、図示されていないが、水性溶媒では、細胞の接触後に細胞へのレーザーの照射を止めると、細胞のペアは時間の経過とともに互いに離れることも確認された。
一方、PEG溶液中では、図7の通り、細胞の接触後にステージを移動させても、細胞のペアが互いに離れることはなく、細胞の接触が維持された。

【0073】
即ち、水性溶媒では、枯渇効果が生じなかったために細胞同士が離れてしまい、一方、PEG溶液では、枯渇効果が生じたために細胞同士の接触が維持された。

【0074】
また、上記と同様のことを、PEG溶液の濃度を変え、それぞれ複数回に渡って行った。そのときに細胞間の接触が維持された確率を図8に示す。図8の通り、PEGの濃度が高くなると、枯渇効果による細胞の接触の安定性が高くなることが確認された。なお、PEGの濃度が40mg/mlを超えると、PEG溶液の高い粘性により、設定したレーザーの出力では細胞操作がし難くなった。

【0075】
[実験例2]
図4の試料セルを用い、試料セルの一方の領域に液体培地(水性溶媒)を、他方の領域に液体培地とPEGからなるPEG溶液を収容した。PEG、細胞、レーザーの出力は、実験例1と同じである。PEGの濃度は、C=40mg/mlである。

【0076】
図9、図10の通り、PEG溶液中において、レーザーで細胞を捕捉して、ステージを動かして、当該細胞を他方の細胞に接触させて細胞のペアを形成した。一定時間の接触後にステージを10μm/secで動かし、細胞のペアを水性溶媒に向けて搬送した。

【0077】
図9は、細胞をPEG溶液中で約2秒間接触させてから水性溶媒へ搬送した様子を示し、図10は、細胞同士をレーザーの照射を止めてPEG溶液中で約290秒間接触させてから、再びレーザーを照射して水性溶媒へ搬送した様子を示す。
図9の通り、約2秒間の接触後の搬送の場合、細胞のペアは、PEG溶液から水性溶媒への搬送の間に互いに離れ、レーザーで捕捉された一方の細胞のみが水性溶媒へ搬送された。
一方、図10の通り、約290秒間の接触後の搬送の場合、細胞のペアが互いに離れることなく水性溶媒中へ搬送された。また、水性溶媒中でレーザーの照射を止めた後でも細胞のペアが互いに離れないことも確認された。即ち、細胞のペアが接着状態にあることが確認された。

【0078】
以上のことから、枯渇効果によって細胞の接触を維持することで、当該接触の間に細胞同士を接着できることが分かった。また、細胞の接着のためには、数秒間の接触では足りず、数分間の接触でよいことも分かった。

【0079】
「実験例3]
図11の通り、5つの細胞をPEG溶液中で立体的に配列した。
実験例2と同じPEG溶液を用いた。PEGの濃度は40mg/mlである。なお、実験例3における細胞の相対移動に関しては、捕捉している細胞のXY平面の相対移動をステージ移動機構によって行い、捕捉している細胞のZ方向の相対移動を集光レンズの移動によって行った。細胞及びレーザーの出力は、実験例1、2と同じである。

【0080】
まず、レーザーによって細胞を搬送することにより、4つの細胞をXY平面で四角形状にPEG溶液中で配列した(図11のa~fの画像、a’~f‘の模式図参照)。次いで、別の細胞をレーザーで捕捉してX方向、Y方向及びZ方向に移動させて、四角形状の細胞の配列の中心の真上に位置させた(図11のg、hの画像、g’、h’の模式図参照)。なお、g、hの画像において、黒くぼやけているのが細胞の配列であり、捕捉している細胞の下方にある。

【0081】
次いで、捕捉している細胞をZ方向に移動させて、四角形状の細胞の配列に接触させた(図11のiの画像、i’の模式図参照)。なお、iの画像において、白くぼやけているのが捕捉されている細胞であり細胞の配列の上方に位置している。このPEG溶液中の3次元の細胞の配列は時間が経過しても維持されていた。

【0082】
[実験例4]
図12、図13の通り、6つの細胞をPEG溶液中で立体的に配列した。
液体培地及びPEGを含む高分子溶液を用いた。PEGは、平均分子量がM=7,500であり、平均重合度がn≒174であり、Kuhn長がb≒0.76nmである。スケーリング指数をυ=1/2とすれば、式2から、慣性半径はRg≒4.1nmである。液体培地の密度ρ≒1g/mlとして、式1から、重なり濃度はC≒40mg/ml~50mg/mlである。PEGの濃度がC=75mg/mlになるようにPEG溶液を調整した。細胞は、NMuMGである。レーザーの出力は、0.2Wである。

【0083】
レーザーにより細胞を搬送することにより、図12Aの通り、5つの細胞をXY平面で円環形状に配列した。この配列の様子を図12Aに示す。次いで、図12B、図13の通り、別の細胞をレーザーで捕捉してX方向、Y方向及びZ方向に移動させて、円環形状の配列にZ方向から接触させた。このPEG溶液中の3次元の細胞の配列は時間が経過しても維持されていた。

【0084】
以上から、高分子溶液による枯渇効果を利用することで細胞の接触を維持することができ、それによって、高分子溶液中で細胞を選択的かつ立体的に配列できることがわかった。

【0085】
なお、図14の通り、枯渇効果により互いに接触している2つの細胞をレーザーによって捕捉して、枯渇効果により互いに接触している他の2つの細胞へ搬送して接触させた。また、細胞へのレーザーの照射を止めて後でも、この略直線的な細胞の配列が維持されることが確認された。

【0086】
[実験例5]
図15の通り、細胞として、NMuMGに代えて馬の赤血球を用いて細胞を配列した。

【0087】
PEGと水からなるPEG溶液を準備した。PEGは、実験例4と同じである。水の比重はρ=1g/mlであるから、重なり濃度はC≒40mg/ml~50mg/mlである。PEG溶液を、PEGの濃度がC=200mg/mlになるように調整した。また、PEGを含まないNaCl水溶液(水性溶媒)を準備した。NaClの濃度は、0.9mg/mlである。レーザーの出力は0.2Wである。

【0088】
図15のt=0s及びt=13sの画像の通り、水性溶媒中でレーザーにより細胞の搬送を繰り返して、4つの細胞を配列した。それから、レーザーの照射を止め、配列した細胞の様子を観察した。t=13s、t=26s、及び、t=39sの画像から明らかな通り、水性溶媒中では細胞の配列が、時間の経過とともに崩れてしまうことが確認された。
図16の通り、PEG溶液中でレーザーにより細胞の搬送を繰り返し、細胞を円環形状に配列することができた。また、時間が経過しても、円環形状の配列が維持されることが確認された。

【0089】
[実験例6]
水溶性高分子として、合成高分子であるPEGに代えて、天然高分子であるデキストランを用いた。レーザーの出力を80mWとした。細胞にはNMuMGを用いた。

【0090】
液体培地及びデキストランを含むデキストラン溶液を準備した。デキストランは、平均分子量がM=200,000である。デキストランの濃度は50mg/mlである。また、デキストランを含まない液体培地(水性溶媒)を準備した。

【0091】
図17Aの通り、水性溶媒中でレーザーにより細胞を捕捉し(t=0の画像)、他の細胞に接触させ、それから、細胞へのレーザー照射を止め(t=5の画像)、細胞の時間経過を観察した。t=180の画像の通り、時間の経過とともに細胞の接触面積が小さくなっていることが、即ち、細胞同士が次第に離れ始めることが確認された。

【0092】
図17Bの通り、デキストラン溶液中でレーザーにより細胞を捕捉し(t=0の画像)、他の細胞に接触させ、それから、細胞へのレーザー照射を止め(t=5の画像)、細胞の時間経過を観察した。t=180の画像に示される通り、時間が経過しても細胞同士が接触していた。

【0093】
さらに、同様のことを、NMuMGに代えて赤血球を用いて行った。NaCl、デキストラン、水を含むデキストラン溶液を準備した。デキストランは、平均分子量はM=200,000である。デキストランの濃度はC=50mg/mlである。そして、デキストランを含まないNaCl水溶液(水性溶媒)を準備した。どちらの溶液も、NaClの濃度は0.9mg/mlである。

【0094】
図18Aの通り、水性溶媒中ではレーザーの照射を止めると細胞同士が時間の経過とともに離れた。一方、図18Bの通り、デキストラン溶液中ではレーザーの照射を止めてからも、細胞同士が接触し続けていた。

【0095】
このように、PEGのような合成高分子に限らず、デキストランのような天然高分子を用いた場合でも同様に枯渇効果によって細胞の接触を維持できることが分かった。

【0096】
以上の各実験例から、枯渇効果を利用することで、細胞の接触を細胞間の反発相互作用の影響を無視して維持することができ、そして当該接触の間に細胞を接着できることが分かった。また、枯渇効果及びレーザートラッピングを利用することにより、足場を用いなくても、任意の3次元の細胞の配列を形成できることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
[褐色脂肪組織の製造]
本発明は、細胞組織の製造に利用できる可能性がある。
一例として、バイオ3Dプリンタ(例えばサイフューズ社製)及び本発明を利用して、血管系を有する3次元の褐色脂肪組織を製造することが挙げられる。
バイオ3Dプリンタにより細胞の3次元構造を製造し、それを培養することにより、図19Aのような、血管及びその周りに配置された褐色脂肪細胞からなる細胞組織を製造することが実現可能と考えられている。そしてこれが実現できれば、本発明により、図19Aの通り、高分子溶液8中で集光されたレーザーで細胞をこの細胞組織へ搬送し、細胞組織の血管から分岐するような3次元の構造を製造し、これを培養することにより、該血管から分岐する毛細血管を製造することができると考えられる。それによって、図19Bのように血管系を有する3次元の褐色脂肪組織を製造することができるであろうと考えられる。
【0098】
褐色脂肪細胞は、血中の増加したグルコースを減らす作用がインスリンよりも強いことが明らかにされつつある。従って、本発明の利用によって、血管系を有する3次元の褐色脂肪組織の製造が実現可能となれば、2型糖尿病の新規治療法の開発にもつながる。
【0099】
[iPS細胞及びES細胞の分化誘導]
iPS細胞及びES細胞からの細胞分化においては、細胞の配置が重要である。例えば、本発明を利用して、iPS細胞またはES細胞を任意に配列し、分化を誘導した際に特定細胞への分化の効率がどのように変化するかを明らかにする研究が可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 レーザー光源
2 集光レンズ
7 ステージ
8 高分子溶液
9 試料セル
10 ステージ移動機構
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
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【図18】
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【図19】
18