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明細書 :クランピングプローブ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年8月17日(2017.8.17)
発明の名称または考案の名称 クランピングプローブ
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
G01N 33/53 M
G01N 33/566
G01N 33/574 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 37
出願番号 特願2016-557835 (P2016-557835)
国際出願番号 PCT/JP2015/081403
国際公開番号 WO2016/072516
国際出願日 平成27年11月6日(2015.11.6)
国際公開日 平成28年5月12日(2016.5.12)
優先権出願番号 2014226332
優先日 平成26年11月6日(2014.11.6)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】立花 亮
【氏名】田辺 利住
出願人 【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100180954、【弁理士】、【氏名又は名称】漆山 誠一
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR55
4B063QS16
4B063QS25
4B063QS34
要約 遺伝子プールにおいて多数の野生型遺伝子と混在する変異型遺伝子を簡便かつ安価に、そして高感度に検出できる方法を開発し、提供する。
標的核酸分子に対して、第1及び第2標的核酸相補領域の2領域で結合し、野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子に対する相補性の差異によって両標的核酸分子を識別可能なクランピングプローブを提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
標的核酸分子の1又は数塩基の置換、欠失又は付加による既知の変異を検出するためのクランピングプローブであって、
前記クランピングプローブは、第1標的核酸相補領域、第2標的核酸相補領域、ヘアピン領域、及び二本鎖領域を含む一本鎖核酸分子からなり、かつ
前記第1標的核酸相補領域の3’末端及び第2標的核酸相補領域の5’末端、又は
前記第2標的核酸相補領域の3’末端及び第1標的核酸相補領域の5’末端
のいずれか一方にヘアピン領域が連結され、かつ他方に二本鎖領域が連結されてなり、
ここで、
前記第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなり、
前記第1標的核酸領域は、野生型標的核酸分子において前記既知の変異部位を含む連続する15~30塩基からなり、
前記第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなり、
前記第2標的核酸領域は、標的核酸分子上で前記第1標的核酸領域の5’末端側又は3’末端側に隣り合って位置する15~30塩基からなり、
前記ヘアピン領域は、
3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる二本鎖部分と、
該二本鎖部分のいずれか1組の5’末端と3’末端を連結する3~10塩基の塩基配列からなる一本鎖部分
からなり、そして
前記二本鎖領域は、3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる
前記クランピングプローブ。
【請求項2】
前記第1標的核酸相補領域が第1標的核酸領域の塩基配列と相補しない1~3塩基のミスマッチ部位を含む、請求項1に記載のクランピングプローブ。
【請求項3】
前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域とヘアピン領域間、及び/又は
前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域と二本鎖領域間
を介在する1~5塩基の塩基配列からなるスペーサー領域を含む、請求項1又は2に記載のクランピングプローブ。
【請求項4】
前記二本鎖領域の遊離5’末端又は遊離3’末端の少なくとも一方にGカルテット領域を連結した、請求項1~3のいずれか一項に記載のクランピングプローブ。
【請求項5】
前記標的核酸分子が配列番号1で示すKRas遺伝子である、請求項1~4のいずれか一項に記載のクランピングプローブ。
【請求項6】
前記変異が、34位、35位、及び38位からなる群から選択される少なくとも一つの塩基における置換変異である、請求項5に記載のクランピングプローブ。
【請求項7】
前記標的核酸分子が配列番号2で示すEGFR遺伝子である、請求項1~4のいずれか一項に記載のクランピングプローブ。
【請求項8】
前記変異が、2115位、2573位及び2582位からなる群から選択されるいずれか一つの塩基における置換変異である、請求項7に記載のクランピングプローブ。
【請求項9】
標的核酸分子を含む核酸試料に請求項1~4のいずれか一項に記載のクランピングプローブを混合して、標的核酸分子とクランピングプローブを結合させる工程、
標的核酸分子の変異の有無による標的核酸分子とクランピングプローブの結合力の差異に基づいて標的核酸分子の変異を検出する工程
を含む標的核酸分子上の既知の変異の有無を検出する方法。
【請求項10】
前記結合力の差異に基づく検出が核酸増幅法による増幅産物の量差による検出であって、
前記核酸増幅法により標的核酸分子の第1標的核酸領域及び第2標的核酸領域を含む領域を増幅する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記結合力の差異に基づく検出が分子篩による検出である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記標的核酸分子が配列番号1で示すKRas遺伝子である、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記変異が、34位、35位、及び38位からなる群から選択される少なくとも一つの塩基における置換変異である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記標的核酸分子が配列番号2で示すEGFR遺伝子である、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記変異が、2115位、2573位及び2582位からなる群から選択されるいずれか一つの塩基における置換変異である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
大腸癌の罹患判別方法であって、
被験体から得た生体試料から核酸試料を調製する工程、
得られた核酸試料を用いて請求項12又は13に記載のKRas遺伝子上の既知の変異の有無を検出する工程、
核酸試料中に変異を有するKRas遺伝子が検出された場合には、被験体は大腸癌に罹患していると判別する工程
を含む前記方法。
【請求項17】
非小細胞肺癌の罹患判別方法であって、
被験体から得た生体試料から核酸試料を調製する工程、
得られた核酸試料を用いて請求項14又は15に記載のEGFR遺伝子上の既知の変異の有無を検出する工程、
核酸試料中に変異を有するEGFR遺伝子が検出された場合には、被験体は非小細胞肺癌に罹患していると判別する工程
を含む前記方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸分子上の既知の変異を簡便かつ安価に、また高感度に検出することのできるクランピングプローブ、並びにそれを用いた標的核酸分子における既知変異の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜貫通チロシンキナーゼ型受容体である上皮成長因子受容体(EGFR:Epidermal Growth Factor Receptor)は、上皮成長因子(EGF)等の結合により二量体を形成し、自己リン酸化活性を介して下流にシグナルを伝達する。このEGFRを介したシグナル伝達経路は、正常細胞では、細胞分化や細胞増殖等の制御において機能している。しかし、何らかの異常によって、このシグナル伝達経路が機能亢進した場合、細胞増殖等の制御機構が破綻し、癌の発生、増殖、転移及び浸潤等の原因となると考えられている(非特許文献1)。例えば、大腸癌では、約80%にEGFRの過剰発現が認められている(非特許文献2)。
【0003】
そこで、上記機序に基づいた大腸癌に対する抗体医薬として、近年、抗EGFR抗体医薬が開発されている。例えば、セツキシマブやパニツムマブは、リガンド‐EGFR結合阻害剤として細胞増殖を抑制する抗EGFRモノクローナル抗体医薬である。
【0004】
ところが、セツキシマブ等の抗EGFR抗体医薬の効果は、KRas遺伝子に変異を持つ患者には弱いことが明らかとなっている(非特許文献3及び4)。KRas遺伝子は、癌遺伝子として知られるras遺伝子のアイソフォームの一つであり、当該遺伝子にコードされるKRASは、低分子グアノシン三リン酸(GTP)結合タンパクとして、シグナルカスケードを活性化し、上皮成長因子受容体(EGFR)からの細胞増殖シグナルを下流に伝達する機能を有する。KRas遺伝子の特定の位置に変異が生じるとKRASのGTPaseとしての機能が低下して、下流にシグナルを送り続ける恒常的な活性化状態となる。この過剰シグナルが抗EGFR抗体医薬に負の効果をもたらすと考えられている。実際、抗EGFR抗体医薬に対する治療効果が弱く、重篤化する大腸癌患者の多くで、KRas遺伝子のコドン12又はコドン13に変異が見られることが明らかにされている(非特許文献5)。したがって、抗EGFR抗体医薬を投与する前に被験体から得られた生体試料におけるKRas遺伝子の変異を解析し、該抗体医薬の効果を事前に予測しておくことは、患者の治療選択上、極めて重要である。
【0005】
しかし、変異解析に用いる病理標本は、通常、腫瘍細胞だけでなく正常細胞も多く含まれている。特に初期癌の被験体から得られる病理標本は、正常細胞が大多数であり、変異型KRas遺伝子を有する腫瘍細胞は僅かに混在するに過ぎない。したがって、通常の核酸増幅法では、野生型KRas遺伝子が優先的に増幅される結果、目的の変異型KRas遺伝子を検出できないという大きな問題がある。そこで、過剰な野生型KRas遺伝子の存在下で、変異型KRas遺伝子を簡便かつ高感度に検出する技術や抗癌剤の有効性を事前判定するコンパニオン診断薬としての遺伝子型診断薬が求められている。
【0006】
それ故に核酸類似体等を用いて、野生型遺伝子の増幅を抑制し、変異型遺伝子を選択的かつ効率的に増幅させる核酸増幅法が研究されている。例えば、既知の変異部位をPCR等で増幅する際に、野生型遺伝子の増幅を抑制するBNA/LNA(架橋化核酸:Bridged Nucleic Acid/Locked Nucleic Acid)プローブを混合し、増幅されたPCR産物中の変異をインベーダー法等で確定する方法が開発されている(非特許文献6)。また、特許文献1には、DNAに高い親和性を示す浅溝バインダ(MGB)‐オリゴヌクレオチド共役物をPCRクランピングに応用する方法が開示されている。さらに、特許文献2及び非特許文献7には、PNA(ペプチド核酸:Peptide Nucleic Acid)を用いたPCRクランピングが示されている。
【0007】
しかし、BNA/LNAやPNA等の核酸類似体は高価な上に、核酸増幅法とインベーダー法の組み合わせには煩雑という問題が残る。さらに、上記方法はいずれも常温では変異型遺伝子の有無を判定できないという問題もある。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特表2002-527040
【特許文献2】特表2004-514427
【0009】

【非特許文献1】Hynes N.E. & Lane H.A., 2005, Nat Rev Cancer, 5: 341-354
【非特許文献2】Spano J.P. et al., 2005, Ann Oncol, 16: 102-108
【非特許文献3】Lievre A., et al., 2008, J Clin Oncol., 26(3):374-9
【非特許文献4】Lievre A., et al., 2006, Cancer Res. 66(8):3992-5.
【非特許文献5】日本臨床腫瘍学会 KRAS遺伝子変異検討委員会(編), 2014,大腸がん患者におけるKRAS遺伝子変異の測定に関するガイダンス(第2版)
【非特許文献6】Huang Q., et al., 2010, Mol. Cell. Probes, 24: 376-380
【非特許文献7】Oh J.E., et al., 2010, Journal of Mol. Diag., 12: 418-424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、遺伝子プールにおいて多数の野生型遺伝子と混在する変異型遺伝子を簡便かつ安価に、そして高感度に検出できる方法を開発し、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、核酸類似体等の非天然型核酸を必要としない天然型核酸で構成されるクランピングプローブを開発した。本発明は、当該開発結果に基づくものであり、以下を提供する。
(1)標的核酸分子の1又は数塩基の置換、欠失又は付加による既知の変異を検出するためのクランピングプローブであって、前記クランピングプローブは、第1標的核酸相補領域、第2標的核酸相補領域、ヘアピン領域、及び二本鎖領域を含む一本鎖核酸分子からなり、かつ前記第1標的核酸相補領域の3’末端及び第2標的核酸相補領域の5’末端、又は前記第2標的核酸相補領域の3’末端及び第1標的核酸相補領域の5’末端のいずれか一方にヘアピン領域が連結され、かつ他方に二本鎖領域が連結されてなり、ここで、前記第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなり、前記第1標的核酸領域は、野生型標的核酸分子において前記既知の変異部位を含む連続する15~30塩基からなり、前記第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなり、前記第2標的核酸領域は、標的核酸分子上で前記第1標的核酸領域の5’末端側又は3’末端側に隣り合って位置する15~30塩基からなり、前記ヘアピン領域は、3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる二本鎖部分と、該二本鎖部分のいずれか1組の5’末端と3’末端を連結する3~10塩基の塩基配列からなる一本鎖部分からなり、そして前記二本鎖領域は、3~10塩基の互いに相補的な塩基配列からなる前記クランピングプローブ。
(2)前記第1標的核酸相補領域が第1標的核酸領域の塩基配列と相補しない1~3塩基のミスマッチ部位を含む、(1)に記載のクランピングプローブ。
(3)前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域とヘアピン領域間、及び/又は前記第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域と二本鎖領域間を介在する1~5塩基の塩基配列からなるスペーサー領域を含む、(1)又は(2)に記載のクランピングプローブ。
(4)前記二本鎖領域の遊離5’末端又は遊離3’末端の少なくとも一方にGカルテット領域を連結した、(1)~(3)のいずれかに記載のクランピングプローブ。
(5)前記標的核酸分子が配列番号1で示すKRas遺伝子である、(1)~(4)のいずれかに記載のクランピングプローブ。
(6)前記変異が、34位、35位、及び38位からなる群から選択される少なくとも一つの塩基における置換変異である、(5)に記載のクランピングプローブ。
(7)前記標的核酸分子が配列番号2で示すEGFR遺伝子である、(1)~(4)のいずれかに記載のクランピングプローブ。
(8)前記変異が、2115位、2573位及び2582位からなる群から選択されるいずれか一つの塩基における置換変異である、(7)に記載のクランピングプローブ。
(9)標的核酸分子を含む核酸試料に(1)~(4)のいずれかに記載のクランピングプローブを混合して、標的核酸分子とクランピングプローブを結合させる工程、標的核酸分子の変異の有無による標的核酸分子とクランピングプローブの結合力の差異に基づいて標的核酸分子の変異を検出する工程を含む標的核酸分子上の既知の変異の有無を検出する方法。
(10)前記結合力の差異に基づく検出が核酸増幅法による増幅産物の量差による検出であって、前記核酸増幅法により標的核酸分子の第1標的核酸領域及び第2標的核酸領域を含む領域を増幅する、(9)に記載の方法。
(11)前記結合力の差異に基づく検出が分子篩による検出である、(9)に記載の方法。
(12)前記標的核酸分子が配列番号1で示すKRas遺伝子である、(9)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記変異が、34位、35位、及び38位からなる群から選択される少なくとも一つの塩基における置換変異である、(12)に記載の方法。
(14)前記標的核酸分子が配列番号2で示すEGFR遺伝子である、(9)~(11)のいずれかに記載の方法。
(15)前記変異が、2115位、2573位及び2582位からなる群から選択されるいずれか一つの塩基における置換変異である、(14)に記載の方法。
(16)大腸癌の罹患判別を補助する方法であって、被験体から得た生体試料から核酸試料を調製する工程、得られた核酸試料を用いて(12)又は(13)に記載のKRas遺伝子上の既知の変異の有無を検出する工程、核酸試料中に変異を有するKRas遺伝子が検出された場合には、被験体は大腸癌に罹患している蓋然性が高いと判別する工程を含む前記方法。
(17)非小細胞肺癌の罹患判別を補助する方法であって、被験体から得た生体試料から核酸試料を調製する工程、得られた核酸試料を用いて(14)又は(15)に記載のEGFR遺伝子上の既知の変異の有無を検出する工程、核酸試料中に変異を有するEGFR遺伝子が検出された場合には、被験体は非小細胞肺癌に罹患している蓋然性が高いと判別する工程を含む前記方法。
【0012】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2014-226332号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクランピングプローブは、遺伝子プールにおいて多数の野生型遺伝子と混在する変異型遺伝子を高感度に検出できる。
【0014】
本発明のクランピングプローブは、天然型核酸、主としてDNAで構成されることから安価で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のクランピングプローブの基本構成を示す概念図である。図中、数値で示す各部位については、後述する「1-3.構成」において説明する。
【図2】本発明のクランピングプローブの遊離末端に連結され得るGカルテット領域を構成するGカルテット構造を示す図である。4つのG(例えば、本図では、G2、G5、G11及びG14、並びにG1、G6、G10及びG13)が水素結合によって互いに同一平面内に配置され、そのような平面が二段以上形成されることを特徴とする。
【図3】本発明のクランピングプローブと標的核酸分子との結合関係を示す概念図である。図中、数値で示す各部位については、後述する「1-3.構成」において説明する。
【図4】本発明のクランピングプローブと標的核酸分子の2種類の結合関係を示す概念図である。A及びBはダイヤモンド型を、またC及びDはパラレル型を示す。
【図5】A:核酸増幅方法で使用したKRas遺伝子用a27cクランピングプローブ(大文字)と野生型KRas遺伝子(小文字)との結合を示す図である。黒丸はKRas遺伝子において変異が多くみられる部位(既知の変異部位)を示す。B:クランピングプローブの第1標的核酸相補領域の塩基配列を示す。full matchは、完全相補的な塩基配列(フルマッチ)型クランピングプローブの第1標的核酸相補領域の塩基配列であり、a27c、a33c、a36t、c37g、及びg39cは、ミスマッチ型クランピングプローブの第1標的核酸相補領域の塩基配列である。ミスマッチ型で下線を引いた塩基は、ミスマッチ部位を導入した塩基を示す。
【図6-1】KRas遺伝子用クランピングプローブを用いて変異型KRas遺伝子を核酸増幅した増幅産物の非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動結果である。図中、Wは野生型KRas遺伝子を含むゲノムDNAを、Mは変異型KRas遺伝子を含むゲノムDNAを示す。添加したフルマッチ型クランピングプローブ及び変異型KRas遺伝子用クランピングプローブは最上部に示した。図中、fullはフルマッチ型クランピングプローブを、a27c、a33c、a36t、c37g、及びg39cは、ミスマッチ型を、また、矢印は、検出領域の増幅産物を、矢頭は添加したクランピングプローブを示す。
【図6-2】図6-1の矢印のバンドをImage-Jによりグラフ化した図である。
【図7】KRas遺伝子用クランピングプローブを用いて変異型KRas遺伝子を分子篩としてのポリアクリルアミドゲル電気泳動で検出した結果である。図中、fullはフルマッチ型クランピングプローブを、またg39cはg39cクランピングプローブを示す。また、WはWT-70(g34t)オリゴヌクレオチドを、MはMT-70オリゴヌクレオチドを示す。
【図8】野生型(W)及び変異型(M)KRas遺伝子を鋳型にパラレル型又はダイヤモンド型クランピングプローブを用いたときの増幅産物量の比較図である。Aは、それぞれのクランピングプローブを用いたときの増幅産物のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果である。Noneはクランピングプローブなしを示す。図中矢印は、検出領域の増幅産物をしめす。Bは、Aの矢印のバンドをImage-Jによりグラフ化した図である。
【図9】クランピングプローブとKRas遺伝子の融解曲線解析を示す図である。Aはフルマッチ型クランピングプローブ、Bはミスマッチ型a36tクランピングプローブの結果を示す。図中、WTは野生型KRas遺伝子を、G12Cは変異型KRas遺伝子を示し、矢印及び矢頭は、それぞれの遺伝子の解離開始点を示す。
【図10】野生型(W)及び変異型(M)KRas遺伝子を鋳型に、フルマッチ型クランピングプローブを用いたときのシャトルPCRによる増幅産物量の比較図である。Aは、各アニーリング温度での増幅産物を非変性ゲルで可視化した図である。図中矢印は、増幅産物の位置を示す。Bは、Aのアニーリング温度の一部(57.1℃、58.2℃、及び60.0℃)における矢印のバンドをImage-Jによりグラフ化した図である。
【図11】図10で使用したプライマーペアよりもTm値がより高いプライマーペアを用いて、野生型(WT)及び変異型(Mutant)KRas遺伝子を鋳型に、フルマッチ型クランピングプローブを用いたときのシャトルPCRによる増幅産物量の比較図である。Aは、各アニーリング温度での増幅産物を非変性ゲルで可視化した図である。図中矢印は、増幅産物の位置を示す。Bは、Aの各アニーリング温度における矢印のバンドをImage-Jによりグラフ化した図である。
【図12】野生型(W)及び変異型(M)KRas遺伝子混在下で本発明のクランピングプローブを用いてKRas遺伝子変異の検出を行ったときの増幅産物における、変異部位を含んだ塩基配列の一部を示す。野生型KRas遺伝子及び変異型KRas遺伝子の混合比率は、Aが1:1、Bが10:1、及びCが20:1である。図示した3塩基は、野生型KRas遺伝子がTGG、変異型KRas遺伝子がTTGとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の態様について具体的に説明をする。

【0017】
1.クランピングプローブ
1-1.概要
本発明の第1の態様は、クランピングプローブである。本発明のクランピングプローブは、標的核酸分子に含まれ得る既知の変異を検出するための一本鎖核酸プローブである。

【0018】
本発明のクランピングプローブを用いることで、例えば、多数の野生型遺伝子に混在する特定の変異型遺伝子を簡便に、かつ高感度に検出することができる。

【0019】
また、本発明のクランピングプローブは、インベーダー法(Huang Q., et al., 2010, Mol. Cell. Probes, 24: 376-380)のような公知の既知変異部位確定方法にも適用可能であり、後述する第2態様のクランピングプローブを用いた標的核酸分子上の既知変異の有無を検出する方法と公知の既知変異部位確定方法を組み合わせて、より正確に野生型遺伝子に混在する特定の変異型遺伝子を検出することもできる。

【0020】
1-2.定義
本明細書における以下の用語の定義について説明をする。

【0021】
「核酸」とは、天然型核酸、非天然型核酸及び/又は核酸類似体をいう。

【0022】
「天然型核酸」とは、ヌクレオチドを構成単位とし、それらがホスホジエステル結合によって連結した自然界に存在する生体高分子である。通常は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)及びウラシル(U)のいずれかの塩基を有するリボヌクレオチドが連結してなるRNA及びアデニン、グアニン、シトシン及びチミン(T)のいずれかの塩基を有するデオキシリボヌクレオチドが連結してなるDNAが該当する。

【0023】
「非天然型核酸」とは、非天然型ヌクレオチドを全部又は一部に含む核酸分子をいう。「非天然型ヌクレオチド」とは、人工的に構築された又は人工的に化学修飾された自然界に存在しないヌクレオチドであって、前記天然に存在するヌクレオチドに類似の性質及び/又は構造を有するヌクレオチド、又は天然に存在するヌクレオシド若しくは塩基に類似の性質及び/又は構造を有するヌクレオシド若しくは塩基を含むヌクレオチドをいう。例えば、脱塩基ヌクレオシド、アラビノヌクレオシド、2'-デオキシウリジン、α-デオキシリボヌクレオシド、β-L-デオキシリボヌクレオシド、その他の糖修飾を有するヌクレオシドが挙げられる。さらに、置換五単糖(2'-O-メチルリボース、2'-デオキシ-2'-フルオロリボース、3'-O-メチルリボース、1',2'-デオキシリボース)、アラビノース、置換アラビノース糖、置換六単糖及びアルファ-アノマーの糖修飾を有するヌクレオシドが含まれる。また、非天然型ヌクレオチドは、人工的に構築された塩基類似体又は人工的に化学修飾された塩基(修飾塩基)を包含するヌクレオチドも含む。「塩基類似体」には、例えば、2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、5位置換-2-オキソ(1H)-ピリジン-3-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-チアゾリル)プリン-9-イル基、2-アミノ-6-(2-オキサゾリル)プリン-9-イル基等が挙げられる。「修飾塩基」には、例えば、修飾化ピリミジン(例えば、5-ヒドロキシシトシン、5-フルオロウラシル、4-チオウラシル)、修飾化プリン(例えば、6-メチルアデニン、6-チオグアノシン)及び他の複素環塩基等が挙げられる。メチルホスホネート型DNA/RNA、ホスホロチオエート型DNA/RNA、ホスホルアミデート型DNA/RNA、2'-O-メチル型DNA/RNA等の化学修飾核酸や核酸類似体も含むこともできる。

【0024】
「核酸類似体」とは、天然型核酸に類似の構造及び/又は性質を有する人工的に構築された化合物をいう。例えば、PNA、PHONA(ホスフェート基を有するペプチド核酸)、BNA/LNA、モルホリノ核酸等が挙げられる。

【0025】
核酸は、必要に応じて、リン酸基、糖及び/又は塩基が核酸用標識物質で標識されていてもよい。核酸用標識物質は、当該分野で公知のあらゆる物質を利用することができる。例えば、放射性同位元素(例えば、32P、3H、14C)、DIG、ビオチン、蛍光色素(例えば、FITC、Texas、Cy3、Cy5、Cy7、FAM、HEX、VIC、JOE、Rox、TET、Bodipy493、NBD、TAMRA)、又は発光物質(例えば、アクリジニウムエスター)が挙げられる。

【0026】
「標的核酸分子」とは、本発明のクランピングプローブを用いて既知の変異を検出するための対象となる一本鎖核酸分子である。標的核酸分子は、原則として天然型核酸で構成され、その具体例としては、遺伝子、その転写産物であるRNA分子(mRNA前駆体、成熟mRNA、及びノンコーディングRNAを含む)、染色体及びそれらの断片が挙げられる。ここで、「ノンコーディングRNA」とは、タンパク質をコードせずにそれ自身で様々な機能を有するRNAである。例えば、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、核小体低分子RNA(snoRNA)、及びマイクロRNA(miRNA;pre-miRNAを含む)等が該当する。なお、本明細書では、標的核酸分子が、後述する変異を持たない野生型遺伝子やその転写産物である場合には、特に「野生型標的核酸分子」と称し、また変異を有する野生型遺伝子やその転写産物の場合には、「変異型標的核酸分子」と称する。

【0027】
「変異」とは、野生型遺伝子に生じた塩基配列の物理的又は構造的変化、及びその変化に由来する転写産物(RNA)や翻訳産物(タンパク質)の変化をいう。

【0028】
「野生型遺伝子」とは、同種遺伝子のアレル集団内において自然界に最も多く存在し、かつそれがコードするタンパク質又はノンコーディングRNAが本来の機能を有するアレルをいう。一方、変異に関して野生型遺伝子に対応する用語で、同種遺伝子のアレル集団内において前記変異を有するアレルを「変異型遺伝子」という。

【0029】
変異の種類には、1又は複数個の塩基の置換、欠失、又は付加が挙げられる。

【0030】
「置換」とは、野生型遺伝子等において1又は複数個、好ましくは1~3個、より好ましくは1又は2個の塩基が他の塩基と置き換わった変異をいう。例えば、野生型遺伝子等の塩基配列と比較したときに、塩基配列上の対応する位置の1塩基が置き換わった点突然変異が挙げられる。点突然変異には、プリン間又はピリミジン間の置換であるトランジション変異、又はプリンとピリミジン間の置換であるトランスバージョン変異が知られているが、いずれの変異であってもよい。また、点突然変異は、先天的変異及び後天的変異のいずれも包含する。さらに、点突然変異は、その変異によってアミノ酸の置換をもたらすミスセンス変異、終止コドンをもたらすナンセンス変異、縮重コドンへの置換でアミノ酸置換を生じないサイレント変異、及びスプライス部位の変異が知られるが、特に限定はしない。好ましくは、ミスセンス変異、ナンセンス変異又はスプライス部位の変異である。

【0031】
「欠失」とは、野生型遺伝子等の1又は複数個の塩基が失われた変異をいう。欠失塩基数や位置は特に限定はしない。読み枠のずれを原因とするフレームシフト変異をもたらす連続する3n+1個又は3n+2個(nは整数)の塩基の欠失、又は数個のアミノ酸欠失をもたらす連続する3n個の塩基の欠失のいずれであってもよい。

【0032】
「付加」とは、野生型遺伝子等の塩基配列中に1又は複数個の塩基が挿入された変異をいう。塩基の挿入位置は、特に限定はしない。例えば、エクソン内又はイントロン内のいずれか、又は両方であってもよい。好ましくはエクソン内への挿入である。エクソン内への挿入の場合、フレームシフト変異をもたらす3n+1個又は3n+2個の塩基の挿入であってもよいし、数個のアミノ酸の付加をもたらす3n個の塩基の挿入であってもよい。

【0033】
「複数個」とは、例えば、2~20個、2~15個、2~10個、2~7個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。

【0034】
「既知(の)変異」とは、標的核酸分子の特定の位置に存在し得る公知の変異をいう。特定の位置とは、標的核酸分子上の決まった位置をいう。変異は、1又は複数個の塩基の置換、欠失、付加のいずれであってもよい。例えば、配列番号1で示す塩基配列からなるヒトKRas遺伝子において、大腸癌を重篤化させることが知られている12位及び13位のアミノ酸置換の原因となるg34a(開始コドンatgのaを1位としたときに、野生型Kras遺伝子の34位におけるgからaへの置換による点突然変異を意味する。以下同様)(G12S:野生型KRASのアミノ酸配列における12位のグリシンからセリンへの置換を意味する。以下同様)、g34c(G12R)、g34t(G12C)、g35a(G12D)、g35c(G12A)、g35t(G12V)、及びg38a(G13D)が挙げられる(Martinetti D., et al., 2014, Diagn Pathol., 9(1):187)。また、配列番号2で示す塩基配列からなるヒトEGFR遺伝子において、非小細胞肺癌(NSCLC:Non-Small Cell Lung Cancer)の原因となることが知られているg2115t、g2155a、t2573g、及びt2582a、さらにg2235Δc2249(15)(2235位のgから2249位のcまでの15塩基の欠失変異を意味する。以下同様)、g2236Δa2250(15)、t2240Δa2251(12)、t2240Δc2257(16)、t2239Δa2247(9)、及びa2238Δc2255(18)が挙げられる(Paez G.J., et al., 2004, Science, 304: 1497-1500)。

【0035】
1-3.構成
本明細書において「クランピングプローブ」とは、図1に示す基本構成を有し、標的核酸分子に対する配列特異性と高い解離温度(Tm)を有する一本鎖核酸分子である。本発明のクランピングプローブと標的核酸分子との結合関係を図3に示す。

【0036】
本発明のクランピングプローブ(0100,0300)は、第1標的核酸相補領域(0101,0301)、第2標的核酸相補領域(0102,0302)、ヘアピン領域(0104,0304)、及び二本鎖領域(0105,0305)を必須構成要素として含む。また、本発明のクランピングプローブは、上記必須構成要素に加えて、さらに、ミスマッチ部位(0103,0303)、スペーサー領域(0106)、Gカルテット領域(0107)、及びフランキング領域(0108)を選択構成要素として含むことができる。

【0037】
以下、各構成要素について具体的に説明をする。
(1)第1標的核酸相補領域
「第1標的核酸相補領域」(0101,0301)は、標的核酸分子(0306)における第1標的核酸領域(0307)の塩基配列に相補的な塩基配列からなる領域である。

【0038】
「第1標的核酸領域」(0307)とは、野生型標的核酸分子上に存在し、クランピングプローブによって検出されるべき既知の変異部位(0308)を含む、連続する15~30塩基、好ましくは15~25塩基、又は15~20塩基の塩基配列からなる領域である。

【0039】
「既知の変異部位」(0308)とは、標的核酸分子上で既知の変異が存在し得る部位である。ただし、野生型標的核酸分子上の既知の変異部位には変異は存在せず、野生型の塩基となる。連続する20塩基以内に複数の既知変異部位が同時に存在する場合、第1標的核酸領域は、一以上の既知変異を包含していてもよい。なお、本明細書では、第1標的核酸相補領域において、第1標的核酸領域の既知変異部位に相補的な部位を「変異相補部位」と称する。

【0040】
第1標的核酸領域に由来する標的核酸分子は、原則として野生型標的核酸分子であるが、変異型標的核酸分子であってもよい。クランピングプローブの使用用途に応じて適宜選択すればよい。異なる複数の標的核酸分子、例えば野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子が混在する遺伝子プールにおいて、クランピングプローブをいずれか一方を検出するために使用するのであれば、遺伝子プールの集団内において、より大きな部分集団の標的核酸分子を選択すればよい。例えば、多数の野生型標的核酸分子の中に少数の変異型標的核酸分子が混在する遺伝子プールにおいて、変異型標的核酸分子を検出したい場合には、第1標的核酸領域は、野生型標的核酸分子に由来する塩基配列を選択する。

【0041】
第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列で構成されていることから、その塩基配列や塩基長は、後述するミスマッチ部位以外は必然的に決定される。

【0042】
第1標的核酸相補領域は、第1標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列を介して標的核酸分子を認識し、第1標的核酸領域に結合することを特徴とする。

【0043】
(2)第2標的核酸相補領域
「第2標的核酸相補領域」(0102,0302)は、標的核酸分子における第2標的核酸領域(0309)の塩基配列に相補的な塩基配列からなる領域である。

【0044】
本明細書において「第2標的核酸領域」(0309)とは、標的核酸分子上に存在し、前記第1標的核酸領域の5’末端側又は3’末端側に隣り合って位置する15~30塩基、好ましくは15~25塩基、又は15~20塩基の塩基配列からなる。

【0045】
「隣り合って位置する」とは、隣接すること、又は1~5塩基、好ましくは1~3塩基を挟んだ非常に近い位置に配置されていることをいう。

【0046】
第2標的核酸領域は第1標的核酸領域と塩基長が必ずしも同じである必要はない。例えば、第1標的核酸領域の塩基長が15塩基で、第1標的核酸領域の塩基長が20塩基であってもよい。

【0047】
第2標的核酸領域は、原則として既知の変異部位を含まない領域であるが、既知の変異部位を含むこともできる。この場合、第2標的核酸領域は、第1標的核酸領域に隣り合って位置することを除けば、構成上は第1標的核酸領域と変わらない。

【0048】
第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列で構成されていることから、その塩基配列や塩基長は必然的に決定される。

【0049】
第2標的核酸相補領域は、第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列を介して標的核酸分子を認識し、第2標的核酸領域に結合することを特徴とする。

【0050】
(3)ミスマッチ部位
「ミスマッチ部位」(0103,0303)は、第1標的核酸相補領域において、野生型標的核酸分子の第1標的核酸領域の塩基配列と相補しない塩基を意図的に挿入した部位である。

【0051】
前述のように、第1標的核酸相補領域の塩基配列は、原則として野生型標的核酸分子の第1標的核酸領域の塩基配列に完全相補的(フルマッチ)な塩基配列で構成されている。しかし、ミスマッチ部位の塩基は、一部塩基が第1標的核酸領域の対応する塩基と対合できないように構成されている。これは、非相補部位を導入することで野生型標的核酸分子と第1標的核酸領域との結合性を適度に弱め、さらに後述する野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子に対するクランピングプローブの結合安定性に差異を生じさせるためである。

【0052】
ミスマッチ部位は、変異相補部位の塩基以外であれば第1標的核酸相補領域における任意の塩基でよい。なお、変異相補部位は、野生型標的核酸分子の既知変異部位と相補関係にあるため変異型標的核酸分子の既知変異部位とは対合できない。それ故に変異相補部位は、変異型標的核酸分子に対してミスマッチ部位を導入しなくてもミスマッチとなる。つまり、野生型標的分子は、クランピングプローブの第1標的核酸領域におけるミスマッチ部位のみと相補できないのに対して、変異型標的核酸分子は、ミスマッチ部位に加えて変異相補部位とも相補できない。そのため、野生型標的分子に比べて、クランピングプローブとの結合がより弱い。ミスマッチ部位はこの野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子に対するクランピングプローブの結合安定性に差異を生じさせる上で有用である。

【0053】
ミスマッチ部位の数は、1~3つ、好ましくは1~2つである。複数のミスマッチ部位を含む場合、それらは第1標的核酸相補領域上で連続していてもよいし、離れた位置にあってもよい。

【0054】
(4)ヘアピン領域
「ヘアピン領域」(0104,0304)は、第1標的核酸相補領域と第2標的核酸相補領域を連結する領域である。その構造は、図1に示すようにステムを構成する二本鎖部分(0109)とループを構成する一本鎖部分(0110)からなる。

【0055】
「二本鎖部分」(0109)は、3~10塩基、好ましくは4~9塩基、4~8塩基、5~7塩基、又は5若しくは6塩基の互いに相補的な塩基配列を有する二本鎖からなる。二本鎖部分を構成する塩基配列は、特に限定はしないが、GC量の多い塩基配列が好ましい。

【0056】
「一本鎖部分」(0110)は、3~10塩基、好ましくは3~9塩基、3~6塩基、又は3~5塩基の塩基配列を有する一本鎖からなる。一本鎖部分を構成する塩基配列は、特に限定はしないが、自己アニーリング等の分子内フォールディングによる高次構造を形成しない配列、二本鎖部分の塩基対形成を阻害しない配列、及び第1又は第2標的核酸相補領域と塩基対合しない配列が望ましい。

【0057】
ヘアピン領域は、二本鎖部分の両端に存在するいずれか1組の5’末端と3’末端を一本鎖部分の3’末端と5’末端とで、それぞれホスホジエステル結合によって連結してなる。

【0058】
本発明のクランピングプローブにおいて、ヘアピン領域は、前述のように第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域を連結する。この連結には、2つのパターンが存在する。一つは、ヘアピン領域が第1標的核酸相補領域の3’末端と第2標的核酸相補領域の5’末端をホスホジエステル結合によって連結するパターンであり、もう一つは、ヘアピン領域が第2標的核酸相補領域の3’末端と第1標的核酸相補領域の5’末端をホスホジエステル結合によって連結するパターンである。いずれの連結パターンであってもよい。

【0059】
(5)二本鎖領域
「二本鎖領域」(0105,0305)は、第1及び第2標的核酸相補領域において、前記ヘアピン領域が連結されていない末端に連結される領域である。二本鎖領域の基本構成は、前記ヘアピン領域の二本鎖部分に準ずる。すなわち、3~10塩基、好ましくは4~9塩基、4~8塩基、5~7塩基、又は5若しくは6塩基の互いに相補的な塩基配列を有する二本鎖からなる。また、二本鎖領域を構成する塩基配列は、特に限定はしないが、GC量の多い塩基配列が好ましい。ただし、ヘアピン領域の二本鎖部分と同一の塩基長、及び/又は同一の塩基配列である必要はない。

【0060】
前述のように、本発明のクランピングプローブにおいて、ヘアピン領域は、第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域を2つのパターンで連結した。ヘアピン領域がいずれのパターンで連結された場合であっても、第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域には、もう一組の5’末端と3’末端が遊離末端として残されている。二本鎖領域は、これらの末端にホスホジエステル結合によって連結される。

【0061】
(6)スペーサー領域
「スペーサー領域」(0106)は、本発明のクランピングプローブにおける選択構成要素であって、第1及び/又は第2標的核酸相補領域とヘアピン領域間、及び/又は第1及び/又は第2標的核酸相補領域と二本鎖領域間を介在する領域である。前記4つの領域間の全てを介在してよいし、いずれか1つ、2つ又は3つの領域間を介在してもよい。本スペーサー領域を介在させることにより、クランピングプローブ内の第1標的核酸相補領域及び/又は第2標的核酸相補領域の自由度が高まり、それぞれの標的核酸領域との結合が容易になる。

【0062】
スペーサー領域は、1~5塩基、好ましくは1~4塩基、又は1~3塩基の塩基配列からなる。スペーサー配列の塩基配列は、自己アニーリング等の分子内フォールディングによる高次構造を形成しない配列であれば、特に限定はしない。

【0063】
(7)Gカルテット領域
「Gカルテット(G-quartet)領域」(0107)は、本発明のクランピングプローブにおける選択構成要素であって、クランピングプローブの5’末端(二本鎖領域の遊離5’末端に相当する)又は3’末端(二本鎖領域の遊離3’末端に相当する)の少なくとも一方に連結される領域である。

【0064】
Gカルテットは、図2に示すような四重鎖構造(四重らせん構造)を形成する一本鎖核酸分子からなり、核酸分子内の塩基配列における4つのGが水素結合によって互いに同一平面内に配置され、そのような平面が二段以上形成されることを特徴とする。Gカルテットは、例えば、配列番号3で示す5’-GGTTGGTGTGGTTGG-3’のようなGリッチな塩基配列を含む1本鎖において分子内フォールディングによって形成され得る。

【0065】
Gカルテット領域をクランピングプローブに連結することで、後述する変異型遺伝子検出方法での核酸増幅反応において、標的遺伝子における目的以外のアレルの増幅を強く抑制することが可能となる。

【0066】
(8)フランキング領域
「フランキング領域」(0108)とは、クランピングプローブにおける選択構成要素であって、クランピングプローブの5’末端及び/又は3’末端に連結される一本鎖核酸領域をいう。したがって、フランキング領域は、二本鎖領域の遊離5’末端及び/又は二本鎖領域の遊離3’末端に連結される一本鎖核酸領域である。

【0067】
フランキング領域の塩基長は、特に限定はしない。しかし、不必要に長くすることは本発明のクランピングプローブの調製上、生産コストが高くなるだけでなく、技術的な困難性を伴うことから、通常は、1~30塩基長、又は1~25塩基長の範囲であることが好ましい。

【0068】
フランキング領域を構成する核酸は、上述した核酸のいずれであってもよい。好ましくは天然型核酸、より好ましくはDNAである。またフランキング領域の塩基配列は、クランピングプローブにおける他の領域(他のフランキング領域を含む)と塩基対合をしない配列であればよい。自己アニーリング等の分子内フォールディングによる高次構造を形成する配列であっても構わない。この点において、前記Gカルテット領域は、フランキング領域の一形態と解することも可能である。なお、フランキング領域は、Gカルテット領域の遊離末端にさらに連結することもできる。

【0069】
(9)クランピングプローブ
本発明のクランピングプローブ(0100)の全体構成について説明をする。

【0070】
本発明のクランピングプローブの基本的な構造は、第1標的核酸相補領域(0101)と第2標的核酸相補領域(0102)の一方の末端をヘアピン領域(0104)で連結し、他方の末端に二本鎖領域(0105)を連結して成る構造である(図1)。さらに、必要に応じて前記各領域間にスペーサー領域(0106)を挿入することや、クランピングプローブの5’末端及び/又は3’末端にGカルテット領域(0107)やフランキング領域(0108)を連結した構造とすることもできる。

【0071】
クランピングプローブは、天然型核酸で構成される。ただし、必要に応じて一部に非天然型核酸及び/又は核酸類似体を含むこともできる。例えば、スペーサー領域を核酸類似体に置換してもよい。また、天然型核酸は、DNA、RNA又はその組み合わせのいずれであってもよいが、合成に要するコストや核酸分解酵素に対する安定性の点からDNAが望ましい。

【0072】
クランピングプローブは、5’末端又は3’末端が担体に固定されていてもよい。ここでいう「担体」とは、例えば、低分子化合物(例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン又はニュートラアビジン)、アミノ酸若しくはペプチド、高分子多糖支持体(例えば、セファロース、セファデックス、アガロース)、樹脂(天然又はプラスチックを含む合成樹脂)、シリカ、ガラス、磁気ビーズ、金属(例えば、金、白金、銀)、セラミックス、又はそれらの組み合わせが挙げられる。クランピングプローブの5’末端及び/又は3’末端にフランキング領域が連結されている場合には、フランキング領域の遊離末端部が本発明のクランピングプローブの末端部を構成することから、フランキング領域の遊離末端部を前記担体に固定すればよい。

【0073】
本発明のクランピングプローブは、分子内の相補鎖を介して標的核酸分子を特異的に認識し、かつ強固に結合する。ただし、本発明のクランピングプローブの第1標的核酸相補領域におけるミスマッチ部位は、野生型標的核酸分子の対応する塩基とは相補しない。また、同時に変異相補部位は、野生型標的核酸分子の既知変異部位の塩基とは相補するが、変異型標的核酸分子の既知変異部位の塩基とは相補しない。この野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子に対するクランピングプローブの相補性の差異によって結合安定性に差異が生じる。

【0074】
また、標的核酸分子に対する相補領域が第1標的核酸相補領域と第2標的核酸相補領域の2か所存在し、分子内でヘアピン領域を挟んで互いに分離している。それ故に、一方の相補領域のみが結合した場合と両方の相補領域が結合した場合の区別が可能な、二重特異性を有する。

【0075】
本発明のクランピングプローブは、上記性質を利用して、PCRクランピングプローブ又は分子篩クランピングプローブとして利用することができる。クランピングプローブの具体的な利用方法については、第2態様で詳述する。

【0076】
1-4.クランピングプローブの製造
本発明のクランピングプローブの製造方法について説明をする。本発明のクランピングプローブは、上述の構成を有する一本鎖核酸分子を調製することのできる方法であれば、特に限定はしない。当該分野で公知のあらゆる方法によって製造することができる。例えば、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012, Molecular Cloning: A Laboratory Manual Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New Yorkに記載の方法を参照にして製造することができる。ここでは、以下に具体例を挙げて説明するが、この方法に限られない。

【0077】
本発明のクランピングプローブの製造方法は、(1)設計工程、(2)合成工程、及び(3)分子内フォールディング工程を含む。以下、各工程について具体的に説明をする。

【0078】
(1)設計工程
「設計工程」とは、本発明のクランピングプローブの構造とそれを構成する塩基配列を決定する工程である。

【0079】
本工程では、まず、標的核酸分子を決定する。候補となる核酸分子は、限定はしないが、既知の変異を有する遺伝子やその転写産物が適当である。特に、特定の細胞内のゲノムDNA中に後天的に既知の変異を生じることにより、悪性新生物(悪性腫瘍、いわゆる癌)の発症原因となる遺伝子は、本発明のクランピングプローブの好適な標的核酸分子である。例えば、既知の変異が、大腸癌や膵臓癌発症原因となるKRas遺伝子、非小細胞肺癌(NSCLC)の発症原因となるEGFR遺伝子、さらに甲状腺髄様癌の発症原因となるRET遺伝子が挙げられる。

【0080】
次に第1標的核酸領域を決定する。第1標的核酸領域は、野生型標的核酸分子(野生型遺伝子)上の連続する15~30塩基、好ましくは15~20塩基をTm値が40℃~70℃、好ましくは50℃~65℃となるように選択する。この時、既知の変異部位がその領域内に包含されるように設計しておく。既知の変異部位は、第1標的核酸領域の両末端から少なくとも3塩基、4塩基、5塩基、6塩基、7塩基、又は8塩基領域内に配置されるように設計することが好ましい。第1標的核酸領域内に2塩基以上の既知の変異部位が含まれるように設計してもよい。

【0081】
続いて、第2標的核酸領域を決定する。第2標的核酸領域は、標的核酸分子において第1標的核酸領域に隣り合って位置する連続する15~30塩基、好ましくは15~20塩基を選択する。第1標的核酸領域の5’末端側又は3’末端側のいずれであってもよいが、第2標的核酸領域のTm値が40℃~70℃、好ましくは50℃~65℃となるようにする方が好ましい。標的核酸分子上で第1標的核酸領域と第2標的核酸領域は、互いに隣接するように設計してもよいが、1~5塩基、好ましくは1~3塩基離すように設計することもできる。

【0082】
クランピングプローブの第1標的核酸相補領域及び第2標的核酸相補領域の塩基配列は、それぞれ原則として野生型標的核酸分子の第1標的核酸領域及び標的核酸分子の第2標的核酸領域の塩基配列に相補的な塩基配列からなる。したがって、それらの決定により同時に決定する。ただし、第1標的核酸相補領域には、必要に応じて、野生型標的核酸分子の第1標的核酸領域とは相補しないミスマッチ部位を設計しておくこともできる。ミスマッチ部位は、変異相補部位以外の第1標的核酸相補領域上の塩基であれば、いずれの塩基であってもよい。またミスマッチ部位の塩基数は、1~3塩基、1~2塩基、又は1塩基でよい。複数のミスマッチ部位を含む場合、各ミスマッチ部位は、第1標的核酸相補領域内で連続していても離れていてもよい。

【0083】
次に、クランピングプローブのヘアピン領域の設計を行う。ヘアピン領域は、4~9塩基の互いに完全に相補的な塩基配列からなる二本鎖部分の一方の核酸鎖の3’末端と他方の核酸鎖の5’末端とを3~10塩基の一本鎖部分によって連結してなる一本鎖分子が、分子内フォールディングによりステム&ループ構造を形成できるように設計する。二本鎖部分を構成する塩基配列は限定しないが、GC量が一本鎖部分に多くなるように設計すればよい。また、二本鎖核酸部分を構成する核酸は、DNAが好ましいが、必要に応じて人工核酸を加えることもできる。一本鎖部分を構成する塩基配列も限定しないが、一本鎖部分の中で自己アニーリング等による高次構造を形成しない塩基配列、二本鎖部分の塩基対形成を阻害しない塩基配列、及び第1又は第2標的核酸相補領域と塩基対合しない塩基配列を設計するのが望ましい。

【0084】
ヘアピン領域の塩基配列が決定したら、前記第1標的核酸領域、第2標的核酸領域及びヘアピン領域の3つの領域を連結するように設計する。この時、ヘアピン領域の連結位置によって、クランピングプローブと標的核酸分子との間で、図4に示す以下の2種類の結合様式を生じる。

【0085】
(i)ダイヤモンド型(図4A及びB)
標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の5’末端側にある場合に、クランピングプローブの第1標的核酸相補領域の3’末端と第2標的核酸相補領域の5’末端が連結されるパターン(図4A)、及び標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の3’末端側にある場合にクランピングプローブの第2標的核酸相補領域の3’末端と第1標的核酸相補領域の5’末端が連結されるパターン(図4B)がある。

【0086】
この結合様式の場合、クランピングプローブと標的核酸分子は、それぞれの両末端が互いに逆方向になるように結合する。

【0087】
(ii)パラレル型(図4C及びD)
標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の5’末端側にある場合に、クランピングプローブの第1標的核酸相補領域の3’末端と第2標的核酸相補領域の5’末端が連結されるパターン(図4C)、及び標的核酸分子の第2標的核酸領域(II)が第1標的核酸領域(I)の3’末端側にある場合に、クランピングプローブの第2標的核酸相補領域の3’末端と第1標的核酸相補領域の5’末端が連結されるパターン(図4D)がある。

【0088】
この結合様式の場合、クランピングプローブと標的核酸分子は、それぞれの両末端が互いに同方向になるように結合する。

【0089】
上記ダイヤモンド型及びパラレル型のいずれの様式になるように設計しても構わないが、パラレル型がより好ましい。

【0090】
最後に、二本鎖領域の設計を行う。二本鎖領域の設計は、前記二本鎖部分と同様に行えばよい。必要に応じて、各領域間に1~5塩基のスペーサー領域を設計したり、二本鎖領域の遊離末端に、Gカルテット領域及び/又はフランキング領域を設計することができる。

【0091】
(2)合成工程
「合成工程」とは、前記設計工程で設計したクランピングプローブの塩基配列情報に基づいて合成する工程である。クランピングプローブは、全長50~200塩基からなる核酸分子であり、原則として天然型核酸から構成されている。したがって、本発明のクランピングプローブは、当該分野で公知の合成方法によって、化学合成することができる。例えば、固相合成法に従った化学合成法が挙げられる。具体的には、例えば、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry, Volume 1, Section 3、Verma S. and Eckstein F., 1998, Annul Rev. Biochem., 67, 99-134に記載された化学合成方法を利用すればよい。また、人工核酸や修飾核酸を含めた核酸の化学合成については、多くのライフサイエンス系メーカー(例えば、タカラバイオ社、ファスマック社、ライフテクノロジー社、ジーンデザイン社、シグマ アルドリッチ社等)が受託製造サービスを行っており、それらを利用することもできる。化学合成後のクランピングプローブは、使用前に当該分野で公知の方法によって精製することが好ましい。例えば、精製方法としては、例えば、ゲル精製法、アフィニティーカラム精製法、HPLC法等が挙げられる。

【0092】
(3)分子内フォールディング工程
「分子内フォールディング工程」とは、前記合成工程後のクランピングプローブを分子内フォールディングさせて、本発明のクランピングプローブを形成させる工程をいう。

【0093】
本工程は、合成された一本鎖核酸分子のクランピングプローブを、分子内フォールディングが可能な条件下に置くことで製造することができる。例えば、PBS(-)(0.2g/L KCl、8g/L NaCl、0.2g/L KH2PO4、1.15g/L Na2HPO4)等の適当なバッファーに溶解し、混合後、90℃に加熱後、徐々に温度を下げ、分子内フォールディングさせればよい。

【0094】
2.標的核酸分子上の既知変異の有無を検出する方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、標的核酸分子上の既知変異の有無を検出する方法(本明細書では、しばしば「変異検出方法」とする)である。本発明の方法によれば、標的核酸分子を含む核酸試料中に、目的とする変異型核酸分子が存在するか否かを高感度に検出することができる。

【0095】
2-2.方法
本発明の変異検出方法は、クランピングプローブ結合工程、及び変異検出工程を含む。以下、これらの工程について具体的に説明をする。
(1)クランピングプローブ結合工程
「クランピングプローブ結合工程」は、標的核酸分子を含む核酸試料に第1態様に記載のクランピングプローブを混合して、標的核酸分子とクランピングプローブを結合させる工程である。

【0096】
「核酸試料」とは、本発明の変異検出方法に供される試料であって、主に核酸で構成される。例えば、DNA(ゲノムDNA、cDNAを含む)、RNA(mRNA、ノンコーディングRNAを含む)が挙げられる。単一種の核酸のみならず、細胞や組織に由来するゲノムDNAやmRNAのように、複数の種類を包含する核酸プールで構成されていてもよい。

【0097】
本工程で使用するクランピングプローブは、既知の変異の有無を検出する標的核酸分子用のクランピングプローブである。クランピングプローブの第1標的核酸相補領域は、原則としてミスマッチ部位以外は野生型標的核酸分子と相補するが、変異型標的核酸分子とは変異相補部位においても相補できない。

【0098】
核酸試料とクランピングプローブの混合は、標的核酸分子とクランピングプローブがアニーリングできる条件下であれば、特に限定はしない。例えば、PBS(-)(0.2g/L KCl、8g/L NaCl、0.2g/L KH2PO4、1.15g/L Na2HPO4)等の適当なバッファー中で核酸試料とクランピングプローブを混合すればよい。

【0099】
(2)変異検出工程
「変異検出工程」は、標的核酸分子の変異の有無による標的核酸分子とクランピングプローブの結合力の差異に基づいて標的核酸分子の変異を検出する工程である。

【0100】
本発明のクランピングプローブは、第1態様で述べたように、野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子に対して変異相補部位において相補性に差異を有する。また、標的核酸分子に対する相補領域が2か所存在するため、一方の相補領域のみが結合した場合と両方の相補領域が結合した場合の区別が可能な、二重特異性を有する。

【0101】
「結合力の差異に基づいて」とは、クランピングプローブが野生型標的核酸分子又は変異型標的核酸分子と結合したときの結合安定性の差異を利用することをいう。この結合力の差異に基づいて、本発明のクランピングプローブを、例えば、核酸増幅用クランピングプローブとして、核酸増幅法により、又は分子篩クランピングプローブとして分子篩により、変異標的核酸分子の有無を検出することができる。

【0102】
(i)核酸増幅法による検出
核酸増幅法による検出は、クランピングプローブによる野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子との結合力の差異を増幅産物の量差として検出する方法である。クランピングプローブを核酸増幅用クランピングプローブとして用いる場合、変異相補部位の塩基に相補的な塩基を有する標的核酸分子は、本発明のクランピングプローブによる強固な結合によってその増幅が抑制される。一方、変異相補部位の塩基と相補しない標的核酸分子は、核酸増幅反応における変性時の温度下でクランピングプローブの結合が弱まるため増幅が抑制されない。したがって、野生型標的核酸分子中に混在する変異型標的核酸分子の有無を検出するには、野生型標的核酸分子の第1標的核酸領域に相補的な第1標的核酸相補領域を含むクランピングプローブを用いればよい。それによって、野生型標的核酸分子の増幅は抑制され、変異型標的核酸分子を選択的に増幅されることで、変異型標的核酸分子を検出することができる。

【0103】
本明細書において「核酸増幅法」とは、増幅用プライマーを用いて核酸分子上の検出領域を特異的に増幅する方法である。本実施形態で使用する核酸増幅反応は、検出領域を増幅できる方法であれば、いずれの核酸増幅法を用いてもよい。例えば、PCR法、ICAN法、LAMP法等が挙げられる。

【0104】
「検出領域」は、増幅プライマーにより増幅される標的核酸分子上の領域である。本工程では、標的核酸分子の第1標的核酸領域及び第2標的核酸領域を含む領域を検出領域として増幅する。

【0105】
「増幅プライマー」は、核酸増幅法で検出領域を増幅するために用いられるプライマーである。増幅プライマーは、DNA、RNA等の天然核酸、又はLNA、またはそれらの組み合わせによって構成される。核酸増幅法において、増幅プライマーは、フォワードクライマー及びリバースプライマーのペアで使用される。各増幅プライマーの塩基数は、10~40塩基の範囲であれば特に問わない。好ましくは15~30塩基である。また増幅プライマーの配列は、Tm値が50~65℃の範囲内にあればよい。増幅プライマー間の距離、すなわち検出領域は、100~400ヌクレオチド、又は100~300ヌクレオチドの範囲にあればよい。

【0106】
核酸増幅法の具体的な方法は、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)等に記載の方法を参考に行えばよい。

【0107】
本工程では、少なくとも増幅領域内の既知の変異部位に変異がないことが明らかな標的核酸分子、好ましくは野生型標的核酸分子のみを含む核酸試料を陰性対照として、同条件で核酸増幅法による検出結果を得ることが望ましい。

【0108】
核酸増幅法によって、増幅された検出領域である増幅産物は、当該分野で公知の核酸定量方法を用いて検出することができる。例えば、増幅産物をゲル電気泳動後、エチジウムブロマイド等のインターカレーターで染色して陰性対照の増幅産物量との量差を比較することができる。増幅産物量を定量化するには、増幅産物の増加量を蛍光強度等の増加量として経時的に検出するリアルタイムPCR法等の定量的核酸増幅法を用いて核酸増幅法を行えばよい。リアルタイムPCR法には、TaqMan(登録商標)プローブ法、サイクリングプローブ法、又はSYBER Green I等の核酸染色剤を遺伝子増幅用反応液中に加えて、遺伝子増幅反応とともに染色し、励起光を照射しながら増幅産物の増加をインターカレートした当該核酸染色剤から発せられる蛍光の強度を測定する方法等が挙げられるが、いずれの方法を用いてもよい。これらの核酸増幅方法は、いずれも公知の技術であり、Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)等に記載の方法に基づいて行うことができる。また、定量的核酸増幅法を利用するキットが各メーカーから市販されており、それらを利用してもよい。例えば、SYBR Premix Extaq(TaKaRa Bio社)等が挙げられる。増幅産物の検出及び定量化には、各メーカーから市販されているリアルタイムPCR用サーマルサイクラーシステム装置を用いればよい。

【0109】
(ii)分子篩による検出
分子篩による検出は、クランピングプローブによる野生型標的核酸分子と変異型標的核酸分子との結合力の差異を核酸分子の大きさで篩分けて検出する方法である。クランピングプローブを分子篩クランピングプローブとして用いる場合、変異相補部位の塩基に相補的な塩基を有する標的核酸分子は、本発明のクランピングプローブによる強固な結合によって分子サイズが大きくなるため、分子篩により捕捉されやすくなる。これによって、分子篩での野生型標的核酸分子の移動度は、変異型標的核酸分子の移動度よりも抑制される結果、サイズ差として変異型標的核酸分子を検出することができる。分子篩は、限定はしないが、アガロースゲル又はポリアクリルアミドゲルを用いたゲル電気泳動による分子篩が一般的であり、本工程でも利用できる。増幅産物の分子量サイズによりゲルの種類や濃度を適宜選択すればよい。本工程では、10~15%のポリアクリルアミドゲルが適当であるが、これに限定はしない。電気泳動により核酸分子を展開した後は、目的の増幅産物をエチジウムブロマイド等のインターカレーターで染色して検出してもよいし、適当なプローブを用いてサザンハイブリ法によって検出してもよいし、金ナノ粒子を用いたクロマトハイブリ法によって検出してもよいし、増幅した遺伝子による溶液の濁度を測定してもよい。

【0110】
3.遺伝子疾患の罹患判別方法
3-1.概要
本発明の第3の態様は、遺伝子疾患の罹患判別方法である。本発明は、第2態様の変異検出方法を応用した方法であって、被験体から採取された離体試料を用いて、試料中の標的遺伝子における既知の変異の有無を検出することによって、遺伝子疾患の罹患判別を補助することができる。

【0111】
なお、本態様の遺伝子疾患の罹患判別方法は、被験体が遺伝子疾患に罹患している蓋然性が高いと判別することによって、医師による診断、すなわち被験体が遺伝子疾患に罹患しているか否かの最終判断を補助する方法である。したがって、本明細書における「遺伝子疾患の罹患判別方法」は、医療行為を包含しない。

【0112】
本明細書で「遺伝子疾患」とは、遺伝子の変異によって発症する疾患をいう。先天的遺伝子疾患や突然変異によって生じる後天的遺伝子疾患のいずれであってもよいが、好ましくは後天的遺伝疾患である。例えば、腫瘍(癌を含む)が挙げられる。

【0113】
本発明の対象となる遺伝子疾患は、発症原因となる標的遺伝子及びその変異部位が既知であれば、特に限定はしない。例えば、KRas遺伝子を標的遺伝子とする大腸癌やEGFR遺伝子を標的遺伝子とする非小細胞肺癌が挙げられる。また、変異部位は、KRas遺伝子の場合、g34a、g34c、g34t、g35a、g35c、g35t、及びg38aが、EGFR遺伝子の場合、g2115t、g2155a、t2573g、及びt2582a、さらにg2235Δc2249(15)、g2236Δa2250(15)、t2240Δa2251(12)、t2240Δc2257(16)、t2239Δa2247(9)、及びa2238Δc2255(18)が挙げられる。

【0114】
3-2.方法
本発明の遺伝子疾患の罹患判別方法は、核酸試料調製工程、検出工程、判別工程を含む。以下、各工程について説明をする。
(1)核酸試料調製工程
「核酸試料調製工程」は、被験体から得た生体試料から核酸試料を調製する工程である。

【0115】
本明細書において「被験体」とは、生体試料を提供し、本発明の方法に供される個体をいう。好ましい被験体は、遺伝子疾患に罹患しているおそれがある個体であるが、健康診断受診者のように遺伝子疾患に罹患している可能性が不明な個体も含み得る。なお、本明細書において「健常体」とは、少なくとも罹患判定対象となる遺伝子疾患に関して健常である健常体をいう。したがって、罹患判定対象外の疾患に罹患していている個体も健常体に包含されるが、好ましくはいずれの疾患にも罹患していない狭義の健常体、すなわち健康体である。

【0116】
本明細書において「生体試料」とは、前記被験体から採取され、本発明の方法に供されるものであって、例えば、組織、細胞、体液又は腹腔洗浄液が該当する。ここでいう「組織」及び「細胞」は、被験体のいずれの部位由来でもよいが、好ましくは生検により採取された、又は手術により切除された組織や細胞である。組織又は細胞の採取は、生検又は手術により切除されたものを入手すればよい。また「体液」とは、被験体から採取された流動性試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、髄液(脳脊髄液)、尿、リンパ液、消化液、腹水、胸水、神経根周囲液、各組織若しくは細胞の抽出液等が挙げられる。好ましくは、血液又は髄液である。体液の採取は、当該分野の公知の方法に基づいて行なえばよい。例えば、髄液であれば、公知の腰椎穿刺によって、又は手術時に術野から採取すればよく、血液やリンパ液であれば、公知の採血方法に従えばよい。

【0117】
生体試料は、採取後直ちに本発明の方法に供してもよいし、冷凍又は冷蔵により一定期間保存した後、必要に応じて解凍又は加温等の処理を行ない、利用してもよい。

【0118】
生体試料から核酸試料を調製する方法は、細胞等から核酸を調製する公知の技術を用いればよい。Green, M.R. and Sambrook, J., 2012(前述)等に記載の核酸調製方法を参考にできる他、各ライフサイエンスメーカーから各種核酸調製キットが市販されており、それらを利用することもできる。

【0119】
(2)検出工程
「検出工程」は、前記核酸試料調製工程で得られた核酸試料を用いて標的遺伝子上の既知の変異の有無を検出する工程である。本工程は、第2態様の変異検出工程に準じて行えばよい。検出結果は、定量化しておくことが望ましい。

【0120】
(3)判別工程
「判別方法」は、前記検出工程の結果、核酸試料中に変異を有する標的遺伝子が検出された場合には、被験体は、その標的遺伝子が関与する遺伝子疾患に罹患している蓋然性が高いと判別する工程である。

【0121】
判別方法は、具体的には、例えば、被験体から得られた検出工程結果を定量化した測定値(被験体測定値)と、健常体から得られた検出工程結果を定量化した測定値(健常体測定値)とを比較し、両測定値に統計学的に有意な差があるときには、標的遺伝子が関与する遺伝子疾患に罹患している蓋然性が高いと判別する。

【0122】
本明細書において「統計学的に有意」とは、被験体と健常体の測定値の差異を統計学的に処理したときに、両者間の危険率(有意水準)が5%、1%、0.3%、0.2%又は0.1%より小さい場合が挙げられる。統計学的処理の検定方法は、有意性の有無を判断可能な公知の検定方法を適宜使用すればよく、特に限定しない。例えば、スチューデントt検定法、多重比較検定法を用いることができる。
【実施例】
【0123】
<実施例1:クランピングプローブの作製>
(目的)
KRas遺伝子を標的核酸分子とした本発明のクランピングプローブを作製した。
(方法)
配列番号1で示される塩基配列に基づいて、第1標的核酸領域として23位~42位を、また第2標的核酸領域として1位~20位を選択した。また、変異型KRas遺伝子の第1標的核酸領域における既知変異としてKRASにおいてG12C変異をもたらすg34tホモを選択した。クランピングプローブの第1標的核酸相補領域と第2標的核酸相補領域は、それぞれに相補的な塩基配列とした。ヘアピン領域は、配列番号4で示す5’-ggagggaacctcc-3’とした。このうち1位~5位、及び9位~13位が二本鎖部分を、また6位~8位が一本鎖部分を構成する。このヘアピン領域の5’末端を第1標的核酸相補領域の3’末端に連結し、また3’末端を第2標的核酸相補領域の5’末端に連結するように設計した。二本鎖領域はヘアピン領域の二本鎖部分と同じ、配列番号4で示す塩基配列の1位~5位、及び9位~13位とし、それぞれを第1標的核酸相補領域の5’末端に、及び第2標的核酸相補領域の3’末端に連結するように設計した。野生型KRas遺伝子に完全に相補するフルマッチ型クランピングプローブの塩基配列を配列番号5に、変異型KRas遺伝子用a27cクランピングプローブの塩基配列を配列番号6に、変異型KRas遺伝子用a33cクランピングプローブの塩基配列を配列番号7に、変異型KRas遺伝子用a36tクランピングプローブの塩基配列を配列番号8に、変異型KRas遺伝子用c37gクランピングプローブの塩基配列を配列番号9に、及び変異型KRas遺伝子用g39cクランピングプローブの塩基配列を配列番号10に示す。
【実施例】
【0124】
設計した配列情報に基づいて、各クランピングプローブを化学合成によって調製した。クランピングプローブとしてのDNAオリゴヌクレオチドの合成は、ファスマック社に委託した。いずれの核酸も修飾はしていない。合成後のクランピングプローブは、D-PBS(-)(0.2g/L KCl、8g/L NaCl、0.2g/L KH2PO4、1.15g/L Na2HPO4)に溶解した後、90℃に加熱して、徐々に温度を下げて分子内フォールディングを行い、本発明のクランピングプローブを調製した。
【実施例】
【0125】
<実施例2:核酸増幅法による変異型KRas遺伝子の検出>
(目的)
実施例1で調製したKRas遺伝子用クランピングプローブを用いて、変異型KRas遺伝子を核酸増幅方法によって検出した。
(方法)
標的核酸分子であるKRas遺伝子を含むゲノムDNAは、HEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)と膵臓癌細胞であるMIAPaCa-2細胞から抽出した。HEK293細胞由来のKRas遺伝子は野生型KRas遺伝子であり、MIAPaCa-2細胞は、G12C(12位のアミノ酸がグリシン(G)からシステイン(C)に変異した)変異型KRASを発現するg34t変異型KRas遺伝子のホモを有することが知られている。ゲノムDNAの抽出は、Mammalian Genomic DNA Miniprep Kit(Sigma-Aldrich)を用いて、添付のプロトコルに従って行った。
【実施例】
【0126】
抽出した各ゲノムDNAを鋳型として、PCRによるDNA増幅を行った。PCRによるDNA増幅は、10×Paq Reaction buffer(Agilent Technologies)を2μL、2.5mM dNTPを1.6μL、10μMのKRas用F&Rプライマー(それぞれ配列番号11及び12)を各0.2μL、ゲノムDNAを1ng、10μMのクランピングプローブを1μL、5U/μLのPaq5000 DNA polymerase(Agilent Technologies)を0.2μLを滅菌水に混合し、総量20μLとしたPCR反応液を調製し、以下の温度条件で行った。PCR反応液を98℃で2分間処理し、DNAを変性させた後に、98℃20秒、55℃20秒、72℃10秒を1サイクルとして30サイクルのPCRによるDNA増幅を行った。その後、72℃に5分間静置し、以降10℃で保存した。KRas用F&Rプライマーは、Huang QらによるMol Cell Probes. 2010, 24: 376-380に記載のプライマー配列を参考にした。また、クランピングプローブには、前記a27cクランピングプローブ(図5A)の他、図5Bに示すa33cクランピングプローブ、a36tクランピングプローブ、c37gクランピングプローブ、及びg39cクランピングプローブを用いた。陰性対照としてクランピングプローブを加えないPCR反応液(None)も調製した。
【実施例】
【0127】
PCR後の増幅産物を12.5%の非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で展開した後、エチジウムブロマイドで染色した。
【実施例】
【0128】
(結果)
図6-1及び図6-2に結果を示す。図6-1の各レーンにおいて、Wは野生型KRas遺伝子を含むHEK293細胞由来のゲノムDNAを、Mは変異型KRas遺伝子を含むMIAPaCa-2細胞由来のゲノムDNAを示す。
【実施例】
【0129】
いずれの変異型KRas遺伝子用クランピングプローブを添加した場合にも、野生型KRas遺伝子を含むゲノムDNA(W)では、変異型KRas遺伝子を含むゲノムDNA(M)よりも検出領域の増幅が抑制されていることが明らかとなった。一方、第1標的核酸領域が野生型KRas遺伝子と完全相補し、変異部位のみが変異型KRas遺伝子とは相補しないフルマッチ型クランピングプローブを用いた場合、図6-2で示すように、検出領域の増幅量はミスマッチ型クランピングプローブよりも抑制されたが、検出領域における野生型KRas遺伝子の増幅抑制は最も強いことが明らかとなった。
【実施例】
【0130】
<実施例3:分子篩による変異型KRas遺伝子の検出>
(目的)
核酸増幅反応を介することなく、変異型KRas遺伝子をポリアクリルアミドゲルを用いた分子篩によって常温下で検出できるかを検証した。
(方法)
野生型KRas遺伝子及び前記g34t変異型KRas遺伝子のcDNAを模した70塩基からなるオリゴヌクレオチドを化学合成によって調製した。それぞれのオリゴヌクレオチドをWT-70(配列番号13)及びMT-70(g34t)(配列番号14)とし、合成はファスマック社に委託した。10 pmolのWT-70及びMT-70(g34t)をそれぞれ10 pmolのフルマッチ型クランピングプローブ及びg39cクランピングプローブと8μL中で混合し、37℃で1時間インキュベートした。各サンプルを12.5%の非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動で展開した後、エチジウムブロマイドで染色した。
【実施例】
【0131】
(結果)
図7に結果を示す。フルマッチ型クランピングプローブを添加したときにはWT-70とMT-70(g34t)の移動度に差は見られなかったがg39cクランピングプローブを添加したときには、明確な差を生じた。この結果は、本発明のクランピングプローブを用いれば、例えば、ミスマッチ型クランピングのようにフルマッチ型クランピングよりも標的核酸分子との結合力が弱いクランピングプローブによっては、野生型KRas遺伝子と変異型KRas遺伝子を常温下でポリアクリルアミドゲル電気泳動のみでも識別し得ることを示唆している。
【実施例】
【0132】
<実施例4:パラレル型及びダイヤモンド型クランピングプローブによる変異型KRas遺伝子の検出>
(目的)
クランピングプローブにはパラレル型とダイヤモンド型があるが、いずれのクランピングプローブでも、核酸増幅方法によって変異型KRas遺伝子を検出できることを検証した。
(方法)
基本操作は、実施例1及び2に準じて行った。パラレル型には、実施例1で作製した配列番号5で示す塩基配列からなるクランピングプローブを用いた。またダイヤモンド型には、配列番号15で示す塩基配列からなるクランピングプローブを用いた。いずれのクランピングプローブも野生型KRas遺伝子に完全に相補するフルマッチ型クランピングプローブである。
【実施例】
【0133】
(結果)
図8に結果を示す。パラレル型クランピングプローブ及びダイヤモンド型クランピングプローブのいずれも野生型KRas遺伝子の増幅を抑制することが立証された。また、パラレル型クランピングプローブがダイヤモンド型クランピングプローブよりも野生型遺伝子の抑制効果が高いことが明らかとなった。
【実施例】
【0134】
<実施例5:融解曲線解析によるクランピングプローブの結合力>
(目的)
クランピングプローブと標的核酸分子であるKRas遺伝子の結合力を融解曲線解析により検証した。
(方法)
実施例2と同様に、野生型KRas遺伝子にはHEK293細胞由来のKRas遺伝子を、G12C変異型KRAS遺伝子にはMIAPaCa-2細胞由来のKRas遺伝子を使用した。
【実施例】
【0135】
また、クランピングプローブには、実施例1で作製した配列番号5で示す塩基配列からなるフルマッチ型クランピングプローブと配列番号8で示す塩基配列からなるミスマッチ型a36tクランピングプローブを用いた。
【実施例】
【0136】
10 pmolの各クランピングプローブを10 pmolの野生型KRas遺伝子又はG12C変異型KRas遺伝子とSYBR Gold存在下でアニーリングして結合させた後、25℃から95℃へ温度を上昇させて融解曲線解析を行った。
【実施例】
【0137】
(結果)
結果を図9に示す。Aはフルマッチ型クランピングプローブを、Bはa36tクランピングプローブを用いたときの融解曲線を示す。フルマッチ型クランピングプローブでは、G12C変異型KRas遺伝子との結合解離は、60℃付近で生じ始めた(矢頭)。しかし、野生型KRas遺伝子との結合解離は、それよりも5℃高い65℃付近で生じ始めた。一方、ミスマッチ型a36tクランピングプローブでは、野生型KRas遺伝子及びG12C変異型KRas遺伝子は、共に62℃前後で解離し始め、両者に差は認められなかった。
【実施例】
【0138】
また、両クランピングプローブ共に、通常のPCRでDNA伸長温度として用いられる72℃では、クランピングプローブとKRas遺伝子の結合が解離してしまうことが明らかとなった。
【実施例】
【0139】
<実施例6:シャトルPCRを用いたKRas遺伝子変異検出>
(目的)
実施例5の結果から、PCRにおいて72℃の伸長温度ではクランピングプローブとKRas遺伝子の結合が成立しないか、極めて弱いことが示唆された。そこで、72℃の伸長反応を省略したシャトルPCRを行うことで、本発明のクランピングプローブが本来の野生型遺伝子の増幅抑制能を発揮し得るかを検証した。
(方法)
野生型及び変異型KRas遺伝子、並びにフルマッチ型クランピングプローブは、実施例5と同じものを用いた。
【実施例】
【0140】
実施例1で作製した配列番号5で示す塩基配列からなるフルマッチ型クランピングプローブ10 pmol共存下で、野生型又は変異型KRas遺伝子10 ngを鋳型にシャトルPCRを行った。1サンプルあたりのシャトルPCRの反応液は、以下のように調製した。10×Paq5000 Reaction Bufferを2μL、2.5 mM dNTPを1.6μL、10μM Right primerを0.2μL(2 pmol)、10μM Left primerを0.2μL(2 pmol)、Paq5000 DNA Polymeraseを0.2μL、10μL プローブを1μL(10 pmol)、鋳型KRas遺伝子を1μL、及び滅菌水を総量20μLとなる量で混合した。続いて、サーマルサイクラーを用いて、98℃2分で変性後、98℃20秒と各アニーリング温度60秒を30サイクルでPCR反応を行った。アニーリング温度は、サーマルサイクラーのグラジエント機能を利用し、50.0℃、51.5℃、52.6℃、54.0℃、55.7℃、57.1℃、58.2℃、及び60.0℃とした。
【実施例】
【0141】
(結果)
結果を図10に示す。結合力の強いフルマッチ型クランピングプローブを用いたときには、少なくとも60℃までは野生型KRas遺伝子の増幅を完全に抑制できることが明らかとなった。つまり、予測通り、シャトルPCR法を用いてアニーリング温度を通常の72℃よりも低くすることで、野生型遺伝子の増幅抑制能を増強できることが立証された。
【実施例】
【0142】
<実施例7:異なるプライマーを用いたときのKRas遺伝子変異の検出>
(目的)
実施例6までは、KRas遺伝子の変異検出を行う際に、配列番号11及び12で示すKRas用F&Rプライマーペアを用いた。しかし、これらのプライマーペアは、65℃以上では解離によりによる増幅反応が十分に進まなかった。
【実施例】
【0143】
そこで、プライマーの塩基長を伸ばしてTm値をあげた新たなプライマーペアを用いたときのKRas遺伝子変異の検出精度について検証した。
(方法)
新たなプライマーペアKRas-sense68(配列番号16)及びKRas-anti68(配列番号17)は、高温でもPCRが行えるように設計した。クランピングプローブには、実施例1で作製した配列番号5で示す塩基配列からなるフルマッチ型クランピングプローブを用いた。
【実施例】
【0144】
PCRの条件は、実施例6のシャトルPCRの方法に準じた。アニーリング温度は56.0℃(レーン1)、58.9℃(レーン2)、61.0℃(レーン3)、63.5℃(レーン4)、65.7℃(レーン5)、67.4℃(レーン6)、68.0℃(レーン7)、及び70.0℃(レーン8)で行った。反応後、増幅産物を非変性ゲルで電気泳動により分離し、可視化した。
【実施例】
【0145】
(結果)
結果を図11に示す。プライマーペアのTm値を上げることで、アニーリング温度が61℃以上でも増幅が可能となった。したがって、本発明のクランピングプローブを用いたKRas変異の検出は、プライマーのTm値を変更することにより高温でも可能になることが明らかとなった。ただし、アニーリング温度を61℃以上にすると、野生型KRas遺伝子も徐々に増幅しており、68℃では野生型と変異型KRas遺伝子の増幅産物量が逆転した。したがって、プライマーのTm値を高めた場合であっても、68℃未満のアニーリング温度が望ましいことが明らかとなった。
【実施例】
【0146】
<実施例8:野生型KRas遺伝子存在下でのKRas遺伝子変異の検出>
(目的)
実施例7までは、野生型及び変異型KRas遺伝子がそれぞれ単独で存在するときの本発明のクランピングプローブの評価であった。そこで、本実施例では、本発明のクランピングプローブを実際の臨床検査薬として応用できるか否かを検証するために、野生型と変異型KRas遺伝子の混在下においてKRas遺伝子の変異検出を行った。
(方法)
野生型及び変異型KRas遺伝子を、それぞれ1:1(7.5ng:7.5ng)、10:1(75ng:7.5ng)、及び20:1(150ng:7.5ng)の比率で混合し、実施例1で作製した配列番号5で示す塩基配列からなるフルマッチ型クランピングプローブ10 pmol共存下で、実施例6と同様にシャトルPCRを行った。アニーリング温度は60℃とした。
【実施例】
【0147】
得られた各増幅産物を用いて、さらにTaq polymeraseにより3ステップPCRを行った。1サンプルあたりの3ステップPCRの反応液は、以下のように調製した。10×ThermoPol Reaction Bufferを2μL、2.5mM dNTPを1.6μL、10μM KRAS Right primerを0.2μL(2 pmol)、10μM KRAS Left primerを0.2μL(2 pmol)、Taq DNA Polymeraseを0.1μL、10μMプローブを1μL(10 pmol)、各増幅産物を1μL、及び滅菌水を総量20μLとなる量で混合した。続いて、サーマルサイクラーを用いて、98℃2分で変性後、98℃で20秒、55℃で20秒及び72℃で10秒を30サイクル行い、最後に72℃で5分静置した。得られた増幅産物をPCR clean up kits(Clonetech)を用いて精製した。精製した6.5μLのPCR産物をBigDye Terminator v3.1 cycle sequencing kit (Thermo Fisher Scientific)を用いて、常法により塩基配列決定を行った。
【実施例】
【0148】
(結果)
結果を図12に示す。野生型及び変異型KRas遺伝子の混合比率が1:1や10:1のときは、変異型KRas遺伝子の塩基配列であるTTGのみが検出され、野生型KRas遺伝子の塩基配列TGGは、ほぼ完全に抑制された(A及びB)。一方、混合比率が20:1の時には、野生型KRas遺伝子がかなり増幅されたものの、変異型KRas遺伝子の方が依然多いことが判明した(C)。これらの結果は、フルマッチ型クランピングプローブのように結合力に差のある非修飾DNAプローブを用いれば、野生型と変異型標的核酸分子を識別し、変異型標的核酸分子のみを選択的に増幅できることが明らかとなった。また、変異型標的核酸分子が1/20量以上存在すれば、野生型標的核酸分子が混在していても十分に検出可能であることが立証された。
【実施例】
【0149】
また、この結果は、本発明のクランピングプローブがインベーダー法のような公知の既知変異部位確定方法においても使用可能であることを示している。
【実施例】
【0150】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6-1】
5
【図6-2】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10
【図11】
11
【図12】
12