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明細書 :物質内包ベシクル及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5843763号 (P5843763)
登録日 平成27年11月27日(2015.11.27)
発行日 平成28年1月13日(2016.1.13)
発明の名称または考案の名称 物質内包ベシクル及びその製造方法
国際特許分類 B01J  13/04        (2006.01)
C08G  81/00        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K  47/34        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI B01J 13/04
C08G 81/00
A61K 9/127
A61K 47/34
A61K 48/00
請求項の数または発明の数 20
全頁数 61
出願番号 特願2012-515955 (P2012-515955)
出願日 平成23年5月23日(2011.5.23)
国際出願番号 PCT/JP2011/061790
国際公開番号 WO2011/145745
国際公開日 平成23年11月24日(2011.11.24)
優先権出願番号 2010117823
2010117821
優先日 平成22年5月21日(2010.5.21)
平成22年5月21日(2010.5.21)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成26年2月24日(2014.2.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】片岡 一則
【氏名】岸村 顕広
【氏名】安楽 泰孝
【氏名】宮田 完二郎
【氏名】チュアノイ サヤン
【氏名】須磨 知也
【氏名】大庭 誠
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100141977、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 勝
審査官 【審査官】今村 明子
参考文献・文献 国際公開第2006/118260(WO,A1)
国際公開第2009/057812(WO,A1)
片岡 一則,高分子ミセル型ベクターによる細胞内遺伝子導入法,日本臨牀,株式会社日本臨牀社,1988年 3月 1日,Vol.56, No.3,pp.166-171
片岡 一則,新・ドラッグデリバリーシステム,株式会社シーエムシー,2000年 1月31日,pp.155-164
調査した分野 B01J 13/02-13/22
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/48
C08G 81/00
C08G 69/00
C08L 77/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
空隙部に物質が内包された物質内包ベシクルを製造する方法であって、
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなる膜を有するとともに、前記膜によって包囲された空隙部を有する、予め調製された空ベシクルを、前記物質とともに水性媒体中で混合する工程、
を含んでなり、
ここで、非荷電親水性セグメントがポリアルキレングリコールであり、第1及び第2の荷電性セグメントのうちカチオン性セグメントがポリアミンであり、アニオン性セグメントがポリカルボン酸、ポリスルホン酸、及びポリリン酸から選択される、方法。
【請求項2】
前記混合が、撹拌、振盪、衝撃からなる群より選択される手法で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空ベシクルの前記膜が、外層、中間層及び内層からなる三層構造を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記物質が、生体分子、有機化合物及び無機物質からなる群より選択される、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
第1の重合体が、非荷電性親水性セグメントとアニオン性セグメントとを含むブロックコポリマーであり、第2の重合体が、非荷電性親水性セグメントとカチオン性セグメントとを含むブロックコポリマー、及び/又は、カチオン性セグメントを含むが、非荷電性親水性セグメントを含まないポリマーである、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
第1の重合体が、非荷電性親水性セグメントとカチオン性セグメントとを含むブロックコポリマーであり、第2の重合体が、非荷電性親水性セグメントとアニオン性セグメントとを含むブロックコポリマー、及び/又は、アニオン性セグメントを含むが、非荷電性親水性セグメントを含まないポリマーである、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アニオン性セグメントが核酸である、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなる膜と、前記膜によって包囲された空隙部と、前記空隙部内に内包された荷電性物質とを含んでなり、
ここで、非荷電親水性セグメントがポリアルキレングリコールであり、第1及び第2の荷電性セグメントのうちカチオン性セグメントがポリアミンであり、アニオン性セグメントがポリカルボン酸、ポリスルホン酸、及びポリリン酸から選択される、ベシクル。
【請求項9】
前記膜が外層、中間層及び内層からなる三層構造を有する、請求項に記載のベシクル。
【請求項10】
前記物質が、生体分子、有機化合物及び無機物質からなる群より選択される、請求項又はに記載のベシクル。
【請求項11】
第1の重合体が、非荷電性親水性セグメントとアニオン性セグメントとを含むブロックコポリマーであり、第2の重合体が、非荷電性親水性セグメントとカチオン性セグメントとを含むブロックコポリマー、及び/又は、カチオン性セグメントを含むが、非荷電性親水性セグメントを含まないポリマーである、請求項10の何れか一項に記載のベシクル。
【請求項12】
第1の重合体が、非荷電性親水性セグメントとカチオン性セグメントとを含むブロックコポリマーであり、第2の重合体が、非荷電性親水性セグメントとアニオン性セグメントとを含むブロックコポリマー、及び/又は、アニオン性セグメントを含むが、非荷電性親水性セグメントを含まないポリマーである、請求項10の何れか一項に記載のベシクル。
【請求項13】
前記アニオン性セグメントが核酸である、請求項11又は12に記載のベシクル。
【請求項14】
非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを有するブロック共重合体と、核酸とを含んでなる膜を有すると共に、前記膜によって包囲された空隙部を有し、ここで、非荷電親水性セグメントがポリアルキレングリコールであり、カチオン性セグメントがポリアミンである、ベシクル。
【請求項15】
前記膜が、外層、中間層及び内層からなる三層構造を有する、請求項14に記載のベシクル。
【請求項16】
前記カチオン性セグメントのカチオン基の、前記核酸のリン酸基に対するモル比であるN+/P比が、1.0超、3.0未満である、請求項14又は15に記載のベシクル。
【請求項17】
前記膜が架橋剤を更に含んでなる、請求項1416の何れか一項に記載のベシクル。
【請求項18】
前記カチオン性セグメントのカチオン基に対する前記架橋剤のモル比であるCL/N比が、0.1以上である、請求項17に記載のベシクル。
【請求項19】
前記架橋剤がグルタルアルデヒドである、請求項17又は18に記載のベシクル。
【請求項20】
薬物送達システムとして用いられる、請求項19の何れか一項に記載のベシクル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、空隙部に物質を内包するベシクル及びその製造方法に関する。
具体的には、高分子の自己組織化により得られる空ベシクルの空隙部に物質を包含・担持させたベシクル(物質内包ベシクル)を簡便且つ効率的に製造する方法と、斯かる方法により得られる新規な物質内包ベシクルとに関する。
【背景技術】
【0002】
一次構造が精密に制御された高分子を自己組織化させることにより、ベシクルを形成し得ることが知られている。斯かるベシクルは多様な分子設計が可能であるとともに、高分子が本来有する性質に加えて新たな機能を呈する可能性があることから、薬物送達システム(Drug Delivery System:DDS)の担体や、バイオマテリアル・機能性材料等としての利用が検討されている。
【0003】
特許文献1(特開平8-188541号公報)には、非荷電性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体を自己組織化させてなる静電結合型高分子ミセル薬物担体が、本発明者らの一部によって開示されている。
【0004】
非特許文献1(Schlaad H. et al., Macromolecules, 2003, 36 (5), 1417-1420)には、ポリ(1,2-ブタジエン)ブロック及びポリ(セシウムメタクリレート)ブロックからなるブロック共重合体と、ポリスチレンブロック及びポリ(1-メチル-4-ビニルピリジウムアイオダイド)ブロックからなるブロック共重合体とを自己組織化させてなる、ポリマーソームと称されるベシクルが開示されている。
【0005】
特許文献2(国際公開第2006/118260号パンフレット)には、非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを有する第1のブロック共重合体(例えばPEG-ポリカチオン等)と、非荷電親水性セグメントとアニオン性セグメントとを有する第2のブロック共重合体(例えばPEG-ポリアニオン等)とを自己組織化させてなるベシクルが、本発明者等の一部によって開示されている。
【0006】
非特許文献2(Anraku Y. et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, 132 (5), 1631-1636)には、非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとを有するブロック共重合体(例えばPEG-ポリカチオン等)と、前記荷電性セグメントとは逆の電荷に荷電した共重合体(例えばポリアニオン等)とを自己組織化させてなるベシクルが、本発明者等の一部によって開示されている。
【0007】
高分子の自己組織化により得られる前記の各種ベシクルは、その空隙部に各種の物質を包含・担持させて利用することが考えられる(概説につき非特許文献3(H. Nyin et al. Soft Matter, 2006, 2, 940-949)及び非特許文献4(「リポソーム応用の新展開」、秋吉一成等監修、エヌ・ティー・エス、2005年)参照)。
【0008】
空隙部に物質が内包されたベシクル(以降「物質内包ベシクル」と表示する場合がある)を製造する方法としては、内包させるべき物質(以降「被内包物質」と表示する場合がある)を、膜の構成要素となる高分子、或いは予め形成された高分子膜とともに混合し、自己組織化によるベシクルの形成と空隙部への物質の封入とを同時に行う方法が代表的である(以降「同時混合法」と表示する場合がある)。具体例としては、エマルション法(非特許文献5(F. Szoka, Jr et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1978 75 (9) 4194-4198)参照)や、脂質有機溶液滴下法(非特許文献6(Batzri, S. et al., Biochim. Biophys Acta 1973, 298, 1015-1019)参照)等が挙げられる。
【0009】
しかし、同時混合法では、被内包物質の存在が自己組織化によるベシクルの形成に影響を与え、ベシクルの形成が阻害される場合や、ベシクルが形成されても物質が空隙部へ内包されない場合がある。また、成膜に有害な有機溶剤を用いる場合が多く、プロセスが煩雑になるとともに、有機溶剤により被内包物質が損傷を受け易いという課題もある。更に、均一な粒径・構造を持つベシクルの形成が困難であり、斯かる均一な粒径・構造を確保するためには別の工程を追加せざるを得ず、プロセスが煩雑になり易いという課題もある。よって本方法は汎用性に乏しく、種々の物質内包ベシクルを製造する手法としては実用的ではない。
【0010】
一方、主に中空粒子への物質封入に用いられる手法として、既存中空粒子の空隙部に後から被内包物質を導入し、包含・担持させる方法(以降「後担持法」と表示する場合がある)があり(例えば非特許文献7(W. Tong et al. J. Phys. Chem. B, 2005, 109, 13159-13165)等参照)、斯かる手法をベシクルに応用することも考えられる。
【0011】
しかし、後担持法をベシクルに応用する場合、空ベシクルの膜を越えて被内包物質を空隙部に導入するための工夫が必要となる。例えば、空ベシクルを膨潤させて膜を弛緩させ、生じた膜の間隙から被内包物質を浸透させて空隙部に導入した後、膜を収縮させて被内包物質の脱落を防止する手法や、空ベシクルの膜に孔を形成し、当該孔を通じて被内包物質を空隙部に導入した後、当該孔を封鎖して被内包物質の脱落を防止する手法等が考えられるが、何れも極めて煩雑であり、実用化には大きな不利益となる。また、被内包物質の封入・担持時に、既存の空ベシクルの粒径・構造が乱されてしまう可能性が高く、とても実用的ではないと考えられてきた。
【0012】
また、リポソーム等の脂質二重膜ベシクルについては、脂質二重膜にチャネルタンパク質を埋め込む等の手法(非特許文献8(Ranquin A, Versees W, Miere W, Steyaert J, Gelder PV. Therapeutic Nanoreactors: Combining Chemistry and Biology in a Novel Triblock Copolymer Drug Delivery System. Nano Lett. 2005;5:2220-4)参照)も報告されているが、やはりプロセスが極めて煩雑である上に、汎用性が極めて低く、やはり実用的ではない。
従って、高分子の自己組織化により得られるベシクルの空隙部に物質が内包された物質内包ベシクルを、簡便且つ効率的に製造する方法が求められていた。
【0013】
また、空隙部分に有効成分を包含・担持させるための空ベシクルについても、有効成分の担持の安定性には改善の余地があり、また、複数の有効成分を担持させることも困難であった。
従って、有効成分の担持安定性や複数成分の担持制御性が改善された、新たなベシクルの開発が求められていた。
【先行技術文献】
【0014】

【特許文献1】特開平8-188541号公報
【特許文献2】国際公開第2006/118260号パンフレット
【0015】

【非特許文献1】Schlaad H. et al., Macromolecules, 2003, 36 (5), 1417-1420
【非特許文献2】Anraku Y. et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, 132 (5), 1631-1636
【非特許文献3】H. Nyin et al. Soft Matter, 2006, 2, 940-949
【非特許文献4】「リポソーム応用の新展開」、秋吉一成・辻井薫監修、エヌ・ティー・エス、2005年
【非特許文献5】F. Szoka, Jr. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1978 75 (9) 4194-4198
【非特許文献6】Batzri, S. et al., Biochim. Biophys Acta 1973, 298, 1015-1019
【非特許文献7】W. Tong et al., J. Phys. Chem. B, 2005, 109, 13159-13165
【非特許文献8】Ranquin A et al., Nano Lett. 2005;5:2220-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、高分子の自己組織化により得られるベシクルの空隙部に物質が内包された物質内包ベシクルを、簡便且つ効率的に製造する方法を提供することに存する。
また、本発明の別の課題は、有効成分の担持安定性や複数成分の担持制御性が改善された、新たなベシクルを提供することに存する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題に鑑み、本発明者等は鋭意検討した結果、所定の構造の空ベシクルを用意し、これを被内包物質とともに、水性媒体中で混合することにより、ベシクルの空隙部に物質が内包された物質内包ベシクルが得られることを見出した。本方法は簡便であるにもかかわらず、後担持法によっても被内包物質を効率的に空ベシクル内に導入することができるとともに、ベシクルの構造も殆ど損なわれることがない。これは極めて驚くべき知見である。
また、本発明者等は、上記方法の開発過程において、核酸を膜内に含有する新規なベシクルを見出した。
【0018】
すなわち、本発明の主旨は、空隙部に物質が内包された物質内包ベシクルを製造する方法であって、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなる膜を有するとともに、前記膜によって包囲された空隙部を有する空ベシクルを用意する工程、及び、前記空ベシクル及び前記物質を水性媒体中で混合する工程を含んでなる方法に存する。
また、本発明の別の主旨は、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とを含んでなる膜と、前記膜によって包囲された空隙部と、前記空隙部内に内包された物質とを含んでなるベシクルに存する。
また、本発明の別の主旨は、非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを有するブロック共重合体と、核酸とを含んでなる膜を有するとともに、前記膜によって包囲された空隙部を有するベシクルに存する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高分子の自己組織化により得られるベシクルの空隙部に物質が内包された物質内包ベシクルを、簡便且つ効率的に製造することが可能となる。また、この方法により、有用性を有する新規な物質内包ベシクルが提供される。
また、本発明によれば、所定のブロック共重合体と核酸とを含む膜によって空隙部が包囲された、新規な構造を有するベシクルも提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)及び(b)は、本発明の方法を説明するための図である。
【図2】図2は、空ベシクルの構造を説明するための図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、空ベシクルの膜構造の一態様を説明するための図である。
【図4】図4(a)及び(b)は、空ベシクルの膜構造の別の態様を説明するための図である。
【図5】図5(a)~(c)は、膜内核酸含有ベシクルの膜構造の一態様を説明するための図である。
【図6】図6(a)及び(b)はそれぞれ、膜内核酸含有ベシクル形成時におけるN+/P比と平均粒径及び多分散指数との関係を表すグラフである。
【図7】図7(a)は膜内核酸含有ベシクルが形成された試料(N+/P比=1.2)の透過型電子顕微鏡写真であり、図7(b)は膜内核酸含有ベシクルが形成されなかった試料(N+/P比=2.0)の透過型電子顕微鏡写真である。
【図8】図8(a)~(d)は何れも、架橋された膜内核酸含有ベシクルの位相差クライオ透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】図9(a)及び(b)は何れも、膜内核酸含有ベシクルの粒径及び形状の経時変化を示すグラフである。
【図10】図10は、膜内核酸含有ベシクルのRNAi活性を示すグラフである。
【図11】図11(a)及び(b)は何れも、膜内核酸含有ベシクルによるsiRNAの細胞内取り込みを示す図である。
【図12】図12は、膜内核酸含有ベシクルへの物質内包を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例V-1の物質内包ベシクルの粒度分布のグラフである。
【図14】図14は、実施例V-1の物質内包ベシクルのFCS測定による減衰曲線のグラフである。
【図15】図15は、比較例V-1の物質内包ベシクルの粒度分布のグラフである。
【図16】図16(a)~(c)はいずれも、実施例VI-1の物質内包ベシクルによるin vivo活性の評価結果を示す蛍光写真である。
【図17】図17は、実施例VI-1の物質内包ベシクルの粒度分布のグラフである。
【図18】図18は、実施例VI-1の物質内包ベシクルのFCS測定による減衰曲線のグラフである。
【図19】図19は、比較例VI-1の物質内包ベシクルの粒度分布のグラフである。
【図20】図20は、実施例VIIの物質内包ベシクルのFCS測定による減衰曲線のグラフである。
【図21】図21(a)(b)は何れも、実施例VIIの物質内包ベシクルの位相差クライオ透過型電子顕微鏡写真である。
【図22】図22は、実施例VIIIの物質内包ベシクルによるin vitro活性の評価結果を示すグラフである。
【図23】図23は、混合による空ベシクルの構造変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[I:定義]
本明細書において「ベシクル」とは、単ラメラ構造の膜と、前記膜により包囲された空隙部(内水相)とを有する基本構造体を意味する。

【0022】
本明細書において、基の名称又はその一部としての「アルキル」とは、一価の脂肪族飽和炭化水素基を表す。特に断らない限り、アルキルは鎖状でも環状でもよく、鎖状と環状とが結合したものでもよい。鎖状アルキルは直鎖状でも分枝鎖状でもよい。環状アルキルは単環式でも複環式でもよく、複環式の場合は連結環でも縮合環でもスピロ環でもよい。

【0023】
本明細書において、基の名称又はその一部としての「アルコキシ」とは、二価の酸素原子の一方の結合手に前記のアルキルが結合してなる基を表す。

【0024】
本明細書において、基の名称又はその一部としての「アリール」とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。特に断らない限り、アリールは単環式でも複環式でもよく、複環式の場合は連結環でも縮合環でもスピロ環でもよい。

【0025】
本明細書において、基の炭素数は、例えば「C1-12アルキル」のように表す。ここで「C1-12」とは、当該アルキルの炭素数が1~12個であることを意味する。

【0026】
本明細書において「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を意味する。

【0027】
本明細書において、ある基が「置換されていてもよい」とは、当該基が有する1又は2以上の水素原子が1又は2以上の置換基(2以上の場合は同一でも異なっていてもよい)により置換され得ることを意味する。置換基の最大数は、当該基が有する構造及び置換可能な水素原子数に応じて、当業者であれば容易に決定し得る。

【0028】
本明細書において「置換基」とは、特に断らない限り、ハロゲン原子、アリール基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ホルミル基、ジメチルアセタール化ホルミル基、ジエチルアセタール化ホルミル基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、シロキシ基、トリ(C1-6アルキル)シロキシ基(ここでC1-6アルキルは同一でも異なっていてもよい)及びシリルアミノ基からなる群から選択される。

【0029】
本明細書において「剪断応力」とは、力の作用面の法線の向きと力の作用方向とが一致しない応力成分を意味する。また、「剪断応力下で混合する」とは、混合対象となる物体に剪断応力が作用するように混合することをいう。物体(例えばベシクル)を含む流体(例えば水性媒体)に外力を加えた場合、その流体内に存在する物体には、通常「剪断応力」が作用することになる。よって、例えば後述の混合対象液(ベシクル及び被内包物質を水性媒体中に含有する液)に外力を加えて混合した場合、その中に含まれるベシクルには「剪断応力」が作用するため、斯かる混合は「剪断応力下で混合する」ことに該当する。

【0030】
本明細書において「RNAi」とは、RNA干渉(RNA interference)を意味する。
本明細書において「siRNA」(small interfering RNA)とは、RNAiに関与する低分子(通常19~27塩基対、好ましくは21~23塩基対)二本鎖RNAを意味する。

【0031】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態はあくまでも例であり、本発明は任意の形態で実施することができる。

【0032】
[II:物質内包ベシクルの製造方法]
(II-1:概要)
前述のように、物質内包ベシクルの代表的な製造方法である同時混合法は、内包の成否が不確実である上に、被内包物質の安定性やベシクルの粒径・構造の均一性の確保が困難であり、更にはプロセスの煩雑性もあって、種々の物質内包ベシクルを製造する手法として汎用するには課題が多かった。一方、主に中空粒子に用いられる後担持法を応用することも考えられるが、既存の空ベシクルの膜を超えて空隙部に物質を導入するために、空ベシクルの膨潤による膜の弛緩、空ベシクルの膜への孔形成、脂質二重膜へのチャネルタンパク質の埋め込み等の煩雑な手法が必要となり、プロセスが極めて煩雑となる上に、ベシクルの粒径・構造の制御が困難であり、とても実用的ではないと考えられてきた。

【0033】
それに対して、本発明の物質内包ベシクルの製造方法(以降「本発明の製造方法」と略称する場合がある。)は、所定の構造の空ベシクルを用意し、これを被内包物質とともに、水性媒体中で混合することにより、ベシクルの空隙部に物質が内包された物質内包ベシクルを作製するものである。斯かる簡便な手法であるにもかかわらず、後担持法によっても被内包物質を効率的に空ベシクル内に導入することができるとともに、ベシクルの構造も殆ど損なわれることがない。これは極めて驚くべき知見である。

【0034】
本発明の製造方法の概要について、以下、図1を用いて説明する。なお、図1は模式図であり、本発明は図1に限定されるものではない。
図1(a)に示すように、膜1aで包囲された空隙部1bを有する所定の構造の空ベシクル1を用意し、これを被内包物質9とともに、水性媒体中で混合する。これにより、図1(b)に示すように、被内包物質9が空ベシクル1の膜1aを越えて空隙部1bに導入され、被内包物質9が空隙部1bに内包された物質内包ベシクル1’が得られる。
構造の高度な制御が必要な高分子自己組織化ベシクル1に対して、斯かる簡便な手法で物質9を膜1a内の空隙部1bに導入し、内包させることが可能であるとは、極めて驚くべき知見である。本発明の製造方法は、斯かる知見に基づくものである。
以下、本発明の製造方法について詳述するが、空ベシクル及び被内包物質の詳細については章を改めて後述し、ここではその他の条件及び手順について説明する。

【0035】
(II-2:空ベシクル及び被内包物質の混合)
本発明の製造方法は、空ベシクル及び被内包物質を水性媒体中で混合する工程を含む(なお、ここで混合の対象となる、空ベシクル及び被内包物質を水性媒体中に含有する液を、以降「混合対象液」という場合がある。)。
混合を行う手法は特に制限されないが、水性媒体に外力を加える手法で行う。すなわち、空ベシクル及び被内包物質を水性媒体に加えて静置し、自然に拡散させて混合する手法(以降「静置・拡散混合」という場合がある。)は除外される。水性媒体に外力を加える混合法の例としては、撹拌、振盪、衝撃等が挙げられる。
撹拌による手法の例としては、混合対象液を含む容器をボルテックスミキサー等により旋回させて撹拌する手法や、溶液を撹拌翼等により直接攪拌する手法等が挙げられる。
振盪による手法の例としては、混合対象液を含む容器を振盪機等により振盪する手法が挙げられる。
衝撃による手法の例としては、混合対象液に対して超音波照射等により振動や他の各種の衝撃を与える手法等が挙げられる。

【0036】
斯かる混合によって、ベシクル空隙部に物質が内包され、物質内包ベシクルが製造される。
混合により物質内包ベシクルが形成される理由は定かではないが、水性媒体に外力を加えることによって、空ベシクルに剪断応力が作用する(よって、水性媒体に外力を加える混合を、剪断応力下での混合と言い換えることができる。)。斯かる剪断応力によって、空ベシクルの構造が撹乱されて概ね均一な小会合体に分解し、それが再度自己組織化してベシクルが均一に再生するとともに、水性媒体中に存在する被内包物質がベシクル再生時にベシクル内に封入されるものと考えられる(斯かるメカニズムは、後述する参考実験において、混合によるベシクルの小会合体への分解が確認されたことからも推測される。)。これは通常の状態のベシクルでは起こり難い現象であり、斯かる現象を利用した本発明の製造方法は、極めて斬新なものであるといえる。

【0037】
混合の条件は制限されないが、上述のメカニズムを考慮すると、水性媒体中の空ベシクルの構造が十分に撹乱されるとともに、撹乱後にベシクルの構造が再生し得る程度の条件を選択することが好ましい。通常は混合対象液全体に力が作用する程度に混合すればよいが、好ましくは混合対象液全体が概ね均一になる程度に混合することが好ましい。
具体的な混合の条件は混合法によって異なるが、例えば攪拌の場合、通常500rpm以上、好ましくは1000rpm以上、また、通常10000rpm以下、好ましくは5000rpm以下の回転数で行うことが望ましい。回転数が低過ぎると、均質な物質内包ベシクルが形成され難くなる場合がある。回転数が高過ぎると、ベシクルが損傷・破壊されてしまう場合がある。
また、ボルテックスミキサーによる撹拌時間は、回転数によっても異なるが、通常60秒以上、好ましくは120秒以上、また、通常10分以内、好ましくは5分以内である。攪拌時間が短過ぎると、均質な物質内包ベシクルが形成され難くなる場合がある。攪拌時間が長過ぎると、ベシクルが損傷・破壊されてしまう場合がある。
その他の混合法(撹拌翼による撹拌、振盪機による振盪、超音波照射による衝撃等)を用いる場合の具体的な条件としては、ボルテックスミキサーによる撹拌を上述した回転数及び攪拌時間のもとで行って得られるのと同程度の力が混合対象液に作用するように、適宜条件を調整すればよい。

【0038】
また、やはり上述のメカニズムを考慮すると、混合対象液の混合後、ある程度の時間に亘って混合対象液を静置し、ベシクルが均一に再生する時間を確保することが好ましい。斯かる静置時間は限定されるものではないが、例えば1分以上、好ましくは3分以上とする。

【0039】
なお、ベシクルの空隙部に物質が内包されたことは、蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)による拡散係数(diffusion coefficient)変化の検出、サイズ排除クロマトグラフィーによる分離、透過型電子顕微鏡による直接観察等の手法により確認することができる。蛍光相関分光法による拡散係数の測定の場合、被内包物質として蛍光材料を用い、蛍光材料の拡散係数の変化を測定することにより、被内包物質がベシクル内に偏在すること(即ち物質内包ベシクルが得られたこと)を確認できる。

【0040】
(II-3:混合に関する他の条件)
通常は、水性媒体中に空ベシクル及び被内包物質を含有する液(混合対象液)を調製し、前述の混合に供する。
水性溶媒の種類は限定されない。好ましくは水であるが、空ベシクルの構造に好ましからぬ影響を及ぼしたり、被内包物質の内部への導入を妨げたりしない範囲で、水に他の成分を混合した溶媒(例えば生理食塩水、水性緩衝液、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等)も用いることができる。水性緩衝液としては10mM HEPES緩衝液等が挙げられる。

【0041】
被混合液の調製手順も任意であるが、後述のように通常、空ベシクルは水性媒体中に調製されるので、調製された空ベシクル含有液に対して被内包物質を加え、混合に供するのが好適である。被内包物質はそのまま空ベシクル含有液に加えてもよいが、水性媒体中の溶液や懸濁液等の形態で加えてもよい。

【0042】
被混合液中の空ベシクル及び被内包物質の各濃度も特に制限されず、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、空ベシクルに対する被内包物質の所望の内包比率等の条件を勘案して決定すればよい。
但し、空ベシクルへの被内包物質の内包効率を高める観点からは、水性媒体に対する空ベシクルの濃度を、通常0.1mg/mL以上、中でも1mg/mL以上、また、通常100mg/mL以下、中でも10mg/mL以下とすることが好ましい。特に空ベシクルの濃度が低過ぎると、物質内包ベシクルが形成されない場合がある。なお、得られる物質内包ベシクルの粒経は空ベシクルの濃度に依存すると考えられるため、空ベシクルの濃度は所望の物質内包ベシクルの粒経に応じて決定すべきである。
また、水性媒体に対する被内包物質の濃度は、被内包物質の性質によっても異なるが、通常0.1mg/mL以上、中でも1mg/mL以上、また、通常100mg/mL以下、中でも50mg/mL以下とすることが好ましい。特に被内包物質の濃度が低過ぎると、物質内包ベシクルが形成されない場合がある。

【0043】
被混合液のpHも特に制限されず、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、被混合液中の空ベシクル及び被内包物質の各濃度等の条件を勘案して適宜調整することが可能であるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を用いることにより、容易に行うことができる。被混合液のpHを調整して用いることは、空ベシクルの構造を保持し、効率的に被内包物質を空ベシクルに内包させる上で有利である。

【0044】
被混合液のイオン強度は、空ベシクルの構造を破壊したり、被内包物質の空ベシクルへの内包を阻害したりしない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくは0mM以上、より好ましくは10mM以上であり、また、好ましくは200mM以下、より好ましくは50mM以下である。
被混合液の混合時の温度は、空ベシクルの構造を破壊したり、被内包物質の空ベシクルへの内包を阻害したりしない範囲であれば限定されないが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。

【0045】
混合後、形成された物質内包ベシクルをすぐに所望の用途に供してもよいが、系を平衡化させるために、混合液を静置する時間を設けてもよい。混合液を静置する時間は、物質内包ベシクルの形成効率等の条件によって異なるが、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下である。但し、後述のように架橋剤を用いない場合、形成された物質内包ベシクルの径が経時的に増大する傾向があるので、ベシクルの均一再生に要する時間以上の静置時間を設けないことが好ましい場合もある。

【0046】
架橋剤を用いる場合、形成された物質内包ベシクルを含有する被混合液に、架橋剤を加えて混合すればよい。架橋剤はそのまま加えてもよいが、架橋剤を含有する水性溶液を調製し、これを加えてもよい。架橋剤の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、被混合液について前述した条件と同様である。
また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。

【0047】
[III:空ベシクル]
(III-1:空ベシクルの構造)
本発明の製造方法では、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とから形成される膜を有するとともに、前記膜によって包囲された空隙部を有するベシクルを、空ベシクルとして用いる。

【0048】
空ベシクルの構造の例について、図2~4を参照しながら説明する。なお、図2~4は何れも模式図であり、本発明はこれらの図に限定されるものではない。
図2は、ベシクル1の部分破断図である。図2に示すように、ベシクル1は膜1aと、膜1aにより包囲される空隙部1bとを有する。

【0049】
図3(a)は、本発明の一態様に係るベシクル1の膜1aの部分断面拡大図である。図3(a)に示す膜1aは、外層1ao、中間層1am及び内層1aiからなる三層構造を有し、主に第1の重合体2と、第2の重合体3とから形成される。
図3(b)は、図3(a)に示す第1の重合体2及び第2の重合体3の拡大図である。図3(b)に示すように、第1の重合体2は、非荷電親水性セグメント2aと第1の荷電性セグメント2bとを有するブロック共重合体であり、第2の重合体3は、第1の荷電性セグメント2bとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメント3からなる重合体である。そして好ましくは、図3(a)に示すように、非荷電親水性セグメント2aが膜1aの外層1aoを形成し、第1の荷電性セグメント2bと第2の荷電性セグメント3とが静電結合して中間層1amを形成する。そして好ましくは、主に非荷電親水性セグメント2aが膜1aの内層1aiを形成する。

【0050】
図4(a)は、本発明の別の態様に係るベシクル1の膜1aの部分断面拡大図である。図4(a)に示す膜1aも、外層1ao、中間層1am及び内層1aiからなる三層構造を有し、主第1の重合体2と、第2の重合体3’とから形成される。
図4(b)は、図4(a)に示す第1の重合体2及び第2の重合体3’の拡大図である。図4(b)に示すように、第1の重合体2は、非荷電親水性セグメント2aと第1の荷電性セグメント2bとを有するブロック共重合体であり、第2の重合体3’は、非荷電親水性セグメント3aと、第1の荷電性セグメント2bとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメント3bからなる重合体である。そして好ましくは、図4(a)に示すように、非荷電親水性セグメント2a、3aの一方又は両方が膜1aの外層1aoを形成し、第1の荷電性セグメント2bと第2の荷電性セグメント3bとが静電結合して中間層1amを形成する。そして好ましくは、主に非荷電親水性セグメント2a、3aの一方又は両方が、膜1aの内層1aiを形成する。

【0051】
理論に束縛されるものではないが、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’からベシクル1が形成される機構は、以下のように考えられる。すなわち、図3(b)、図4(b)に示す第1の重合体2及び第2の重合体3、3’が、電荷の相互作用が生じ得る系(例えば水性媒体中)に置かれると、自己集合し、図3(a)、図4(a)に示すように、互いに反対に帯電する第1の荷電性セグメント2b及び第2の荷電性セグメント3、3bとが静電結合して中間層1amを形成するとともに、その外側に非荷電親水性セグメント2a、3aが配置されて外層1aoを形成する。また、好ましくは、中間層1amの内側にも、主に非荷電親水性セグメント2a、3aが配置されて内層1aiを形成する。こうして図3(a)、図4(a)に示す三層構造の膜1aが形成され、結果として、図2に示すベシクル1が形成されるものと考えられる。

【0052】
なお、ベシクル1の膜1aは、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’のみからなっていてもよいが、以上の構造が概略保持される限りにおいて、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は限定されないが、例としては架橋剤、荷電性ポリマー、荷電性分子等が挙げられる。架橋剤については後に詳述する。

【0053】
また、後述するようにベシクル1は通常は水性媒質中で調製され、また、膜1aの内層1aiは主に非荷電親水性セグメント2a、3aから構成されるため、ベシクル1の空隙部1bには通常は水性媒体が存在する(よって本明細書では空隙部1bを「内水相」と表示する場合がある)。但し、空隙部1bに別の物質が存在していてもよい。

【0054】
ベシクル1の形状は、限定されないが、通常は球状又は略球状である。
ベシクル1の粒径は、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’の種類及び量比、架橋剤の有無、ベシクル1の周辺環境(水性媒体の種類)等に応じて異なるが、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは200nm以下である。
ベシクル1の膜1aの膜厚は、第1の重合体2及び第2の重合体3、3’の種類及び量比、架橋剤の有無、ベシクル1の周辺環境(水性媒体の種類)等に応じて異なるが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また、好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下である。

【0055】
(III-2:第1及び第2の重合体)
本発明の製造方法に用いられる空ベシクルは、第1の重合体及び第2の重合体から構成される膜を有する。
第1の重合体は、非荷電親水性セグメントと第1の荷電性セグメントとを有するブロック共重合体である。第1の重合体は1種類のみでもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。
第2の重合体は、第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する重合体である。第2の荷電性セグメントのみからなる重合体でもよいが、第2の荷電性セグメントに加えて非荷電親水性セグメントを有するブロック共重合体であってもよい。第2の重合体は1種類のみでもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率を併用してもよい。2種類以上の場合には、第2の荷電性セグメントのみからなる第2の重合体と、第2の荷電性セグメントに加えて非荷電親水性セグメントを有する第2の重合体とを併用してもよい。
第1の重合体及び第2の重合体は、それぞれ前述したセグメントに加えて、更に別のセグメントを有していてもよい。

【0056】
(III-2a:非荷電親水性セグメント)
第1の重合体は、非荷電親水性セグメントを有する。また、第2の重合体も、非荷電親水性セグメントを有していてもよい。
非荷電親水性セグメントは、非荷電且つ親水性の性質を有するポリマーセグメントである。ここで「非荷電」とは、セグメントが全体として中性であることをいう。例としてはセグメントが正・負の電荷を有さない場合が挙げられる。また、セグメントが正・負の荷電を分子内に有する場合であっても、局所的な実効電荷密度が高くなく、自己組織化によるベシクルの形成を妨げない程度にセグメント全体の荷電が中和されていれば、やはり「非荷電」に該当する。また、「親水性」とは水性媒体に対して溶解性を示すことをいう。

【0057】
非荷電親水性セグメントの種類は限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。非荷電親水性セグメントの具体例としては、ポリアルキレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)、ポリサッカライド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ(2-メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン)、等電点が7付近のペプチド、タンパク質及びそれらの誘導体等が挙げられる。中でもポリアルキレングリコール、ポリ(2-オキサゾリン)等が好ましく、ポリアルキレングリコールが特に好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、ポリエチレングリコールが好ましい。

【0058】
非荷電親水性セグメントの分子量は、限定されるものではないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。具体的な分子量の範囲は、非荷電親水性セグメントの種類や荷電性セグメントとの組み合わせ等によっても異なるが、非荷電親水性セグメントとしてポリエチレングリコールを用いる場合、その分子量(Mw)は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、また、好ましくは15000以下、より好ましくは5000以下の範囲である。非荷電親水性セグメントの繰り返し単位数も制限されないが、通常は非荷電親水性セグメントの分子量が前記の分子量範囲を満たすように、その繰り返し単位の種類に応じて決定される。
前記条件を満たす非荷電親水性セグメントを用いることにより、第1の重合体及び第2の重合体の水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、ベシクルを効率的に構築することが可能となる。

【0059】
(III-2b:荷電性セグメント)
第1の重合体が有する第1の荷電性セグメントと、第2の重合体が有する第2の荷電性セグメントとは、互いに反対の電荷に帯電した荷電性セグメントである。即ち、第1の荷電性セグメントがカチオン性セグメントであれば、第2の荷電性セグメントはアニオン性セグメントとなり、第1の荷電性セグメントがアニオン性セグメントであれば、第2の荷電性セグメントはカチオン性セグメントとなる。

【0060】
(III-2b-1:カチオン性セグメント)
カチオン性セグメントは、カチオン基を有し、カチオン性(陽イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、カチオン性セグメントは、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化によるベシクルの形成を妨げない範囲で、多少のアニオン基を有していてもよい。
カチオン性セグメントの種類も限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。カチオン性セグメントとしては、ポリアミン等が好ましく、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体が特に好ましい。側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパルタミド、ポリグルタミド、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、特にポリアスパルタミド誘導体及びポリグルタミド誘導体が好ましい。

【0061】
カチオン性セグメントの分子量は、限定されるものではないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。カチオン性セグメントの繰り返し単位数も制限されないが、通常はカチオン性セグメントの分子量が所定の範囲を満たすように、その繰り返し単位の種類に応じて決定される。具体的には、カチオン性セグメントとしてポリアスパラギン酸誘導体を用いる場合、その繰り返し単位数は好ましくは10以上、より好ましくは50以上、また、好ましくは200以下、より好ましくは100以下の範囲である。
前記条件を満たすカチオン性セグメントを用いることにより、第1の重合体と第2の重合体との水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、ベシクルを効率的に構築することが可能となる。

【0062】
(III-2b-2:アニオン性セグメント)
アニオン性セグメントは、アニオン基を有し、アニオン性(陰イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、アニオン性セグメントは、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化によるベシクルの形成を妨げない範囲で、多少のカチオン基を有していてもよい。
アニオン性セグメントの種類も限定されない。単一の繰り返し単位からなるセグメントでもよく、二種以上の繰り返し単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。アニオン性セグメントとしては、ポリカルボン酸、ポリスルホン酸、ポリリン酸(核酸等)等が好ましく、側鎖にカルボキシル基を有するポリアミノ酸又はその誘導体、核酸が特に好ましい。

【0063】
側鎖にカルボキシル基を有するポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、前述のポリカチオンで側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体のアミノ基にアコニチン酸無水物やシトラコン酸無水物を適当量作用させて得られるポリカルボン酸、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、特にポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸が好ましい。

【0064】
核酸としては、一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAが挙げられる。核酸は、ベシクルの用途に応じた機能性核酸であってもよい。機能性核酸としては、siRNA、miRNA(マイクロRNA)、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、リボザイム、DNA酵素等が挙げられる。これらはベシクルの用途に応じて選択される。例えば、ベシクルをRNAi用のDDSに用いる場合、核酸としてはsiRNAが用いられる。また、核酸は修飾されたものでもよい。修飾された核酸の例としては、ベシクル安定化等の用途に向けて、コレステロールやビタミンE等の疎水性官能基が結合された核酸が挙げられる。

【0065】
アニオン性セグメントの分子量は、限定されるものではないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。アニオン性セグメントの繰り返し単位数も制限されないが、通常はアニオン性セグメントの分子量が所定の範囲を満たすように、その繰り返し単位の種類に応じて決定される。具体的には、アニオン性セグメントとしてポリカルボン酸、ポリスルホン酸、又は核酸を用いる場合、その繰り返し単位数は好ましくは10以上、より好ましくは50以上、また、好ましくは200以下、より好ましくは100以下の範囲である。
前記条件を満たすアニオン性セグメントを用いることにより、第1の重合体と第2の重合体との水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、ベシクルを効率的に構築することが可能となる。

【0066】
(III-2c:非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの組み合わせ)
第1の重合体が有する非荷電親水性セグメントと第1の荷電性セグメントとの組み合わせ、また、第2の重合体が第2の荷電性セグメントに加えて非荷電親水性セグメントを有する場合における、非荷電親水性セグメントと第2の荷電性セグメントとの組み合わせはいずれも制限されず、任意の非荷電親水性セグメントと任意の荷電性セグメントとを組み合わせることが可能である(なお、以降の記載では、第1の荷電性セグメント及び第2の荷電性セグメントを纏めて「荷電性セグメント」と表示する場合がある)。

【0067】
非荷電親水性セグメント及び荷電性セグメントの個数も任意であり、各々1つでも2つ以上でもよく、2つ以上の場合には互いに同一でも異なっていてもよい。
非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの結合形態も制限されず、直接結合していてもよいが、連結基を介して結合していてもよい。

【0068】
連結基の例としては、非荷電親水性セグメント及び荷電性セグメントの総個数に対応する価数を有する炭化水素基が挙げられる。連結基としての炭化水素基は脂肪族でも芳香族でもそれらが連結したものでもよく、脂肪族の場合には飽和でも不飽和でもよく、また、直鎖でも分岐でも環状でもよい。連結基としての炭化水素基の分子量は、制限されるものではないが、通常5000以下、好ましくは1000以下である。連結基としての炭化水素基の例としては、没食子酸誘導体、3,5-ジヒドロキシ安息香酸誘導体、グリセリン誘導体、シクロヘキサン誘導体、L-リシン等が挙げられるが、3,5-ジヒドロキシ安息香酸誘導体等が好ましい。

【0069】
連結基の別の例としては、ジスルフィド基が挙げられる。ジスルフィド基は、非荷電親水性セグメント1つと荷電性セグメント1つを連結するのに用いられる。ジスルフィド基を介して非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとを連結することにより、ベシクルの置かれた環境や外部からの作用によってジスルフィド基を開裂させ、ベシクルの形態や性質を変化させることが可能になる。これを利用すれば、例えばベシクルに薬物を内包させ、得られた物質内包ベシクルを薬物送達用のDDSに用いる場合、生体内でジスルフィド基を開裂させることによって、ベシクル内に内包された物質の放出を促すことも可能になると考えられる。

【0070】
また、第1の荷電性セグメントと第2の荷電性セグメントとの比率(カチオン性セグメントとアニオン性セグメントとの比率)、及び、非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの比率も任意であるが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、以下の基準で選択することが好ましい。

【0071】
まず、カチオン性セグメントとアニオン性セグメントとの比率については、下記式(i)に規定するC/A比が、通常0.3、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上、また、通常3.0未満、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.7以下となるように調整することが望ましい。

【0072】
【数1】
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ここで、第1及び第2の重合体中におけるカチオン基及びアニオン基のモル数は、カチオン性セグメント及びアニオン性セグメントの構造に依存する値であるが、一般的な電位差(酸・塩基)滴定により求めることが可能である。

【0073】
また、第1及び第2の重合体中における非荷電親水性セグメントと荷電性セグメントとの比率は、前記C/A比の範囲を満たすカチオン性セグメント及びアニオン性セグメントの比率を勘案して決定することが好ましい。具体的には、以下の式(ii)で規定される非荷電親水性セグメントの分子量比率Xを、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、また、通常0.35以下、好ましくは0.1以下の範囲に収めることが望ましい。

【0074】
カチオン性セグメント(モノマー1つ当たり1つの正電荷を有するとする)及びアニオン性セグメント(モノマー1つ当たり1つの負電荷を有するとする)を各々一種類ずつ用い、少なくとも一方に非荷電親水性セグメントを導入して用いた場合(即ち、第1の重合体がカチオン性若しくはアニオン性セグメントと非荷電親水性セグメントとからなるブロック共重合体であり、第2の重合体がアニオン性若しくはカチオン性セグメントの単独重合体、又はそれと非荷電親水性セグメントとからなるブロック共重合体である場合)、そのXは次式で規定される。
【数2】
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【0075】
(III-2d:第1及び第2の重合体の具体例)
第1及び第2の重合体の具体例としては、以下の[例1]、[例2]が挙げられる。

【0076】
[例1]
第1の重合体として下記(A1)を用い、第2の重合体として下記(B1)を用いる。
(A1)非荷電性親水性のセグメントとアニオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(B1)下記(i)のブロックコポリマー及び/又は下記(ii)のポリマー。
(i) 非荷電性親水性のセグメントとカチオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(ii) カチオン性のセグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のセグメントを含まない)。

【0077】
[例2]
第1の重合体として下記(A2)を用い、第2の重合体として下記(B2)を用いる。
(A2)非荷電性親水性のセグメントとカチオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(B2)下記(iii)のブロックコポリマー及び/又は下記(iv)のポリマー。
(iii) 非荷電性親水性のセグメントとアニオン性のセグメントとを含むブロックコポリマー。
(iv) アニオン性のセグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のセグメントを含まない)。

【0078】
なお、本発明においては、前記(B1)(ii)及び(B2)(iv)のポリマーのように、非荷電性親水性のセグメントを含まないポリマーを、便宜上、ホモポリマーということがある。
前記(B1)(i)、(ii)及び(A2)の各ポリマーにおけるカチオン性のセグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドに由来するものが好ましく挙げられる。
同様に、前記(A1)及び(B2)(iii)、(iv)の各ポリマーにおいて、アニオン性のセグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドや核酸に由来するものが好ましく挙げられる。

【0079】
より具体的には、前記(A1)及び(B2)(iii)の各ブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(I)及び/又は(II)で示されるものが好ましく挙げられる。
【化1】
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ここで、一般式(I)及び(II)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性セグメント(以降「PEGセグメント」と表示する場合がある)であり、繰り返し単位数が「n-y」の部分と「y」の部分とを合わせたセグメントがポリアニオン由来のアニオン性セグメント(以降「ポリアニオンセグメント」と表示する場合がある)である。

【0080】
一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC1-12としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ-C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1~6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2~6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して、他の置換基であるホルミル基(-CHO)(又はアルデヒド基)に転化できる。

【0081】
一般式(I)及び(II)中、L1及びL2は、連結基を表す。具体的には、L1は-(CH2b-NH-(ここで、bは1~5の整数である)であることが好ましく、L2は-(CH2c-CO-(ここで、cは1~5の整数である)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R2a、R2b、R2c及びR2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R2a及びR2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R2c及びR2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R2a及びR2b(R2b及びR2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR2c及びR2d(R2d及びR2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。

【0082】
一般式(I)及び(II)中、R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R4は水酸基、オキシベンジル基、-NH-(CH2a-X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1~5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R4が-NH-R9(ここで、R9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、mは5~2,000の整数であり、5~270の整数であることが好ましく、より好ましくは10~100の整数である。また、nは2~5,000の整数であり、yは0~5,000の整数であり、n及びyは、5~300の整数であることが好ましく、より好ましくは10~100の整数である。但し、yはnより大きくないものとする。

【0083】
一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリアニオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、3,000~30,000であることが好ましく、より好ましくは5,000~20,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500~15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~5,000であり、ポリアニオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500~50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~20,000である。

【0084】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R1aO-又はR1bO-とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1aO-又はR1bO-と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をアニオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、アニオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO96/32434号公報、WO96/33233号公報及びWO97/06202号公報等に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。

【0085】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β-ベンジル-L-アスパルテート(BLA)及びNε-Z-L-リシン等の保護アミノ酸のN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したアニオン性基を有する側鎖となるように置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。

【0086】
本発明において、一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(以降「PEG」と表示する場合がある)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(以降「P(Asp)」と表示する場合がある)とからなる下記式のアニオン性ブロックコポリマー(以降「PEG-P(Asp)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる(なお、以降の式では対カチオンの例としてNa+を示す場合があるが、対カチオンはこれに限定されるものではない)。

【0087】
【化2】
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上記式中、
mはPEGの重合度を表す整数である。
nはP(Asp)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
PEG-P(Asp)としては、PEGセグメントの分子量(Mw):2,000、ポリアニオンセグメントを示すP(Asp)のユニット数(上記式中n):70又は75であるものが特に好ましい。

【0088】
前記(A2)及び(B1)(i)の各ブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(III)及び/又は(IV)で示されるものが好ましく挙げられる。
【化3】
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【0089】
ここで、一般式(III)及び(IV)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性セグメント(PEGセグメント)であり、繰り返し単位数が「n-y-z」の部分と「y」の部分と「z」の部分とを合わせたセグメントがポリカチオン由来のカチオン性セグメント(以下、ポリカチオンセグメント)である。

【0090】
一般式(III)及び(IV)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC1-12としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ-C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1~6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2~6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(-CHO)(又はアルデヒド基)に転化できる。

【0091】
一般式(III)及び(IV)中、L1及びL2は、連結基を表す。具体的には、L1は-(CH2b-NH-(ここで、bは1~5の整数である)であることが好ましく、L2は-(CH2c-CO-(ここで、cは1~5の整数である)であることが好ましい。

【0092】
一般式(III)及び(IV)中、R2a、R2b、R2c及びR2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R2a及びR2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R2c及びR2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R2a及びR2b(R2b及びR2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR2c及びR2d(R2d及びR2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。

【0093】
一般式(III)及び(IV)中、R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。

【0094】
一般式(III)及び(IV)中、R4は水酸基、オキシベンジル基、-NH-(CH2a-X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1~5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R4が-NH-R9(ここで、R9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。

【0095】
一般式(III)及び(IV)中、R5a、R5b、R5c及びR5dは、それぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、-NH-(CH2a-X基を表す。ここで、aは1~5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。

【0096】
5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、-NH-(CH2a-X基(ここで、Xは(NH(CH22e-NH2(但しeは0~5の整数)である)であるものが、少なくとも2つ以上存在することが好ましく、上記総数の50%以上存在することがより好ましく、上記総数の85%以上存在することがさらに好ましい。
また、R5a、R5b、R5c及びR5dのすべて又は一部が、-NH-(CH2a-X基(ここで、aは2であり、Xは(NH(CH22e-NH2(但しeは1)である)ことが好ましい。

【0097】
さらに、R4並びにR5a、R5b、R5c及びR5dの例示として上記した-NH-(CH2a-X基において、Xが下記の各式で表される基から選ばれるものである場合が特に好ましい。
【化4】
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【0098】
ここで、上記の各式中、X2は、水素原子又はC1-6アルキル基もしくはアミノC1-6アルキル基を表し、R7a、R7b及びR7cは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、d1、d2及びd3は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、e1、e2及びe3は、それぞれ独立して1~5の整数を表し、fは、0~15の整数を表し、gは0~15の整数を表し、R8a及びR8bは、それぞれ独立して水素原子又は保護基を表す。ここで、当該保護基は、通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。

【0099】
一般式(III)及び(IV)中、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子、-C(=NH)NH2、又は保護基であり、ここで保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基、及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。また、一般式(III)及び(IV)中、tは2~6の整数であることが好ましく、より好ましくは3又は4である。

【0100】
一般式(III)及び(IV)中、mは5~2,000の整数であり、5~270の整数であることが好ましく、より好ましくは10~100の整数である。また、nは2~5,000の整数であり、yは0~5,000の整数であり、zは0~5,000の整数である。nは、5~300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10~100の整数である。y及びzは、0又は5~300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10~100の整数である。但し、yとzとの合計(y+z)は、nより大きくないものとする。

【0101】
一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリカチオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。

【0102】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、23,000~45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000~34,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500~15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~5,000であり、ポリカチオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500~50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~30,000である。

【0103】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R1aO-又はR1bO-とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1aO-又はR1bO-と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO96/32434号公報、WO96/33233号公報及びWO97/06202号公報等に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。

【0104】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β-ベンジル-L-アスパルテート(BLA)及びNε-Z-L-リシン等の保護アミノ酸のN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したカチオン性基を有する側鎖となるように、ジエチレントリアミン(DET)等で置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。

【0105】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(以降「PEG」と表示する場合がある)と、カチオン性セグメントであるポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(以降「P(Asp-AP)」と表示する場合がある)からなる下記式のカチオン性ブロックコポリマー(以降「PEG-P(Asp-AP)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる(なお、以降の式では対アニオンの例として、Cl-を示す場合があるが、対アニオンはこれに限定されるものではない)。
【化5】
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上記式中、
mはPEGの重合度を表す整数である。
nはP(Asp-AP)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
PEG-P(Asp-AP)としては、PEGセグメントの分子量(Mw):2,000,ポリカチオンセグメントを示すP(Asp-AP)のユニット数(上記式中n):70又は75であるものが特に好ましい。

【0106】
前記(B2)(iv)のポリマーとしては、例えば、下記一般式(V)及び/又は(VI)で示されるものが好ましく挙げられる。なお、一般式(V)及び(VI)に関する説明については、前述した一般式(I)及び(II)に関する説明(但しPEGセグメントに関する説明は除く)が、適宜同様に適用できる。
【化6】
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【0107】
本発明において、一般式(V)及び(VI)で示されるポリマーの具体例としては、例えば、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(P(Asp))からなる下記式のアニオン性ホモポリマー(以降「Homo-P(Asp)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる。
【化7】
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上記式中、
nはP(Asp)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
Homo-P(Asp)としては、ポリアニオンセグメントを示すP(Asp)のユニット数(上記式中n):70又は82であるものが特に好ましい。

【0108】
前記(B1)(ii)のポリマーとしては、例えば、下記一般式(VII)及び/又は(VIII)で示されるものが好ましく挙げられる。なお、一般式(VII)及び(VIII)に関する説明については、前述した一般式(III)及び(IV)に関する説明が、適宜同様に適用できる。
【化8】
JP0005843763B2_000011t.gif

【0109】
本発明において、一般式(VII)及び(VIII)で示されるポリマーの具体例としては、例えば、カチオン性セグメントであるポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(P(Asp-AP))からなる下記式のカチオン性ホモポリマー(以降「Homo-P(Asp-AP)」と表示する場合がある)等が好ましく挙げられる。
【化9】
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上記式中、
nはP(Asp-AP)の重合度を表す整数である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
Homo-P(Asp-AP)としては、ポリカチオンセグメントを示すP(Asp-AP)のユニット数(上記式中n):70又は82であるものが特に好ましい。

【0110】
(III-3:その他の膜成分)
空ベシクルの形成時には、第1の重合体及び第2の重合体に加えて、ベシクルの形成を妨げない、或いは安定性を下げない範囲で、その他の膜成分を添加することができる。その他の膜成分に特に制限はないが、具体例としては荷電性重合体、荷電性ナノ粒子等が挙げられる。
荷電性重合体としては、前述した荷電性セグメント(カチオン性セグメント又はアニオン性セグメント)を1又は2以上有する重合体であって、前記の第1の重合体及び第2の重合体に該当しない任意の荷電性重合体が挙げられる。
荷電性ナノ粒子としては、表面に荷電を有する金属系ナノ粒子等が挙げられる。

【0111】
前記その他の膜成分は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記その他の膜成分の使用量も制限されないが、第1の重合体と第2の重合体との自己組織化によるベシクル形成を妨げない程度に抑えることが好ましい。具体的には、ベシクルの総重量に対して通常30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下とすることが望ましい。

【0112】
(III-4:空ベシクルの製造方法)
本発明の製造方法で使用される空ベシクルは、第1の重合体と第2の重合体との静電相互作用を利用して形成されることから、第1の重合体と第2の重合体とを水性溶液中で混合することにより簡便に製造される。斯かる製造方法によれば、有機溶媒を用いなくともベシクルを製造し得るから、DDSやバイオマテリアル等の分野において有利である。

【0113】
具体的には、第1の重合体を含んでなる第1の水性溶液と、第2の重合体を含んでなる第2の水性溶液とを用意する。第1及び第2の水性溶液は、所望により濾過して精製してもよい。
第1の水性溶液における第1の重合体の濃度、及び、第2の水性溶液における第2の重合体の濃度は限定されず、第1の重合体と第2の重合体との総電荷数の比率、第1の重合体及び第2の重合体の水性溶液への溶解度、ベシクルの形成効率等の条件を勘案して、適宜決定される。

【0114】
第1及び第2の水性溶液の溶媒は、水性溶媒であれば、その種類は限定されない。好ましくは水であるが、ベシクルの形成を妨げない範囲で、水に他の成分を混合した溶媒、例えば生理食塩水、水性緩衝液、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等も用いることができる。水性緩衝液としては10mM HEPES緩衝液等が挙げられる。
第1及び第2の水性溶液のpHは、ベシクルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を用いることにより、容易に行うことができる。第1及び第2の水性溶液のpHを調整して用いることは、第1の重合体及び第2の重合体の荷電状態を保持し、効率的にベシクルを形成する上で有利である。

【0115】
第1及び第2の水性溶液の温度は、第1の重合体及び第2の重合体の溶媒に対する溶解度に応じて適宜決定されるが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下である。
第1及び第2の水性溶液のイオン強度は、ベシクルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくは0mM以上、より好ましくは10mM以上であり、また、好ましくは200mM以下、より好ましくは50mM以下である。

【0116】
以上の第1及び第2の水性溶液を混合することにより、ベシクルを作成する。混合方法は限定されず、第1の水性溶液に第2の水性溶液を加えてもよく、第2の水性溶液に第1の水性溶液を加えてもよい。また、容器に第1及び第2の水性溶液を同時に入れて混合してもよい。得られた第1及び第2の水性溶液の混合液を、適宜攪拌してもよい。
第1及び第2の水性溶液の混合時の温度は、ベシクルの形成を妨げない範囲であれば限定されないが、第1の重合体及び第2の重合体の温度に応じた溶解度を勘案して設定することが好ましい。具体的には、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。

【0117】
混合後、形成された空ベシクルをすぐに本発明の製造方法に供してもよいが、系を平衡化させるために、混合液を静置する時間を設けてもよい。但し、形成されたベシクルの径は経時的に増大する傾向があるので、通常は静置時間を設けないで、形成された空ベシクルをすぐに本発明の製造方法に供することが好ましい。

【0118】
その他の膜成分を用いる場合、上記の第1及び第2の水性溶液と、当該膜成分とを混合すればよい。このとき、混合前の第1又は第2の水性溶液に当該膜成分を加えて混合してもよいが、当該膜成分と第1又は第2の水性溶液との間にベシクル形成を妨げる会合や相互作用がないことが望ましい。また、第1及び第2の水性溶液の混合時に当該膜成分を一緒に加えて混合してもよく、第1及び第2の水性溶液の混合後に当該膜成分を加えて更に混合してもよい。また、他の膜成分をそのまま混合に用いてもよいが、当該膜成分を含有する水性溶液を調製し、これを混合に用いてもよい。膜成分の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。
また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。

【0119】
[IV:被内包物質]
本発明の製造方法で用いる被内包物質は制限されず、物質内包ベシクルの用途や性質等に応じて適宜、任意に選択することができる。
特に、従来の製造方法の一つである同時混合法によれば、被内包物質として荷電性の物質を用いた場合、膜構成成分である重合体の自己組織化によるベシクルの形成が被内包物質の荷電によって阻害され、適切な物質内包ベシクルが得られないという問題があった。しかし、本発明の製造方法によれば、被内包物質の電気的性質に斯かる制限はなく、被内包物質として荷電性の物質を用いた場合でも非荷電性の物質を用いた場合でも、物質内包ベシクルを効率的に形成することが可能である。

【0120】
具体的に、被内包物質の種類としては、生体分子、有機化合物、無機物質等が挙げられる。
生体分子としては、タンパク質、ポリペプチド、アミノ酸、核酸(DNA、RNA)、脂質(脂肪酸、グリセリド、ステロイド等)、炭水化物(単糖類、多糖類)、及びこれらの誘導体、並びにこれらの二種以上が結合したもの(糖タンパク質、糖脂質等)等が挙げられる。中でもタンパク質、炭水化物等が好ましい。
有機化合物としては、発光(蛍光、燐光等)分子、水溶性薬剤、水溶性高分子、平均粒径100nm以下の水溶性分子集合体(ミセル、ベシクル、ナノゲルなど)、平均粒径100nm以下のエマルション等が挙げられる。中でも平均粒径50nm以下の高分子ミセル、分子量10万以下の水溶性高分子が好ましい。
無機物質としては、水に分散可能な金属ナノ粒子、酸化物ナノ粒子(シリカナノ粒子、チタニアナノ粒子、酸化鉄ナノ粒子等)、半導体ナノ粒子(量子ドット等)、水溶性炭素クラスター、ホウ素クラスター、金属錯体等が挙げられる。中でも平均粒径20nm以下の量子ドットが好ましい。

【0121】
また、用途別に分類すると、被内包物質としては、抗がん剤(例えば、ドキソルビシンやパクリタキセル等の疎水性抗がん剤、シスプラチン等の金属錯体抗がん剤等及びそれらの高分子ミセル化体)、MRI等の診断に用いられるガドリニウムや鉄化合物、有機発光(蛍光、燐光等)色素や量子ドット等が挙げられる。

【0122】
被内包物質の分子量及び粒径も制限されないが、空ベシクル内に被内包物質を効率的に導入する観点からは、被内包物質の分子量は通常20万以下、中でも10万以下とすることが好ましく、被内包物質の粒径は通常100nm以下、中でも50nm以下とすることが好ましい。
空ベシクルに対する被内包物質の使用比率も、空ベシクルの構造を破壊したり、被内包物質の空ベシクルへの内包を阻害したりしない範囲で、所望の被内包物質の内包量に応じて調整すればよい。
被内包物質は1種を単独で使用しても、2種以上を任意の比率及び組み合わせで使用してもよい。

【0123】
[V:その他の工程]
本発明の製造方法は、少なくとも、所定の構造を有する空ベシクルを用意する工程と、前記空ベシクル及び被内包物質を水性媒体中で混合する工程とを有していればよいが、更にその他の工程を有していてもよい。例としては、架橋剤処理、ろ過操作、透析操作、凍結乾燥操作等が挙げられる。
中でも、物質内包ベシクルを生理環境下や生理食塩水中等の塩存在条件下で使用する場合(例えばDDSとして使用する場合等)には、粒径の経時的な増大を防止する観点から、形成された物質内包ベシクルに対して、後処理として架橋剤処理を施すことが好ましい。すなわち、生理環境下や生理食塩水中等の塩存在条件下では、架橋剤を含有しないベシクルの粒径は経時的に増大する傾向があるが、架橋剤処理を施すことにより粒径の増大を防止することができる。

【0124】
架橋剤の種類は制限されず、ベシクルの用途や第1の重合体及び第2の重合体の種類、他の膜成分の種類等に応じて適宜選択することができるが、効率的に架橋を行うとともに、物質内包ベシクルの安定性を高める観点からは、第1の重合体及び第2の重合体の荷電性セグメントが有する荷電性基(例えばアミノ基等のカチオン基やカルボキシル基等のアニオン基)と反応し、被内包物質とは反応しない架橋剤が好ましい。架橋剤の具体例としては、アミノ基を架橋する架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド、スベリンイミド酸ジメチルニ塩酸塩(dimethyl suberimidate dihydrochloride:DMS)、3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル(dimethyl 3,3'-dithiobispropionimidate:DTBP))、アミノ基とカルボキシル基を縮合することで架橋する架橋剤(例えば、1-エチル3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropy)carbodiimide:EDC)等)、リン酸基を架橋する架橋剤(例えばカルシウムイオン等の金属イオン)等が挙げられるが、グルタルアルデヒド、EDC等が好ましく、EDCが特に好ましい。また、1種の架橋剤を単独で使用してもよいが、2種以上の架橋剤を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。

【0125】
架橋剤の使用量も制限されず、架橋剤の種類及び架橋点の数、架橋対象成分の量等を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、アミノ基とカルボキシル基とを架橋する架橋剤の場合、下記式(iii)に規定するCL比が次に説明する条件を満たすように使用量を選択することが望ましい。
【数3】
JP0005843763B2_000013t.gif

【0126】
効率的に架橋を行うとともに、物質内包ベシクルの安定性を高める観点からは、CL比が通常0.1以上、好ましくは0.5以上となるように、架橋剤と第1及び第2の重合体との量比を調整することが望ましい。一方、物質内包ベシクルをDDSとして薬物の送達に用いる場合(例えば用いる場合)、薬物を標的部位において効率よく放出させる観点からは、架橋剤の使用量はあまり多過ぎないことが好ましく、具体的には、CL比が通常10以下、好ましくは5以下となるように、架橋剤と第1及び第2の重合体との量比を調整することが望ましい。但し、上記記載のCL比の範囲はあくまでも目安であり、実際にはベシクルの用途や第1の重合体及び第2の重合体の種類、他の膜成分の種類等に応じて、CL比を適宜調整することが好ましい。

【0127】
[VI:物質内包ベシクル]
本発明の製造方法により、前述の空ベシクルの空隙部内に前述の被内包物質が内包された、物質内包ベシクルが得られる。
本発明の製造方法により製造される物質内包ベシクル(以下、本発明の物質内包ベシクルと表示する場合がある。)は、非荷電親水性セグメント及び第1の荷電性セグメントを有するブロック共重合体である第1の重合体と、前記第1の荷電性セグメントとは反対の電荷に帯電した第2の荷電性セグメントを有する第2の重合体とから形成される膜と、前記膜によって包囲された空隙部と、前記空隙部内に内包された物質とを含んでなる。
本発明の物質内包ベシクルの膜の構造は、上述した空ベシクルの膜の構造と基本的に同等である。即ち、本発明の物質内包ベシクルは、図2~4を用いて説明した空ベシクルの構造膜と同様の三層構造膜を有することが好ましく、その形状は通常は球状又は略球状である。

【0128】
本発明の物質内包ベシクルの粒径は、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、ベシクルの周辺環境(水性媒体の種類)、混合の条件等に応じて異なるが、通常は空ベシクルの粒径とほぼ同等である。具体的に、本発明の物質内包ベシクルの粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、また、好ましくは1000nm以下、より好ましくは400nm以下、より好ましくは200nm以下である。
本発明の物質内包ベシクルの膜厚も、空ベシクルの構造、被内包物質の種類、ベシクルの周辺環境(水性媒体の種類)、混合の条件等に応じて異なるが、通常は空ベシクルの粒径及び膜厚とほぼ同等である。具体的に、本発明の物質内包ベシクルの膜厚は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また、好ましくは30nm以下、より好ましくは15nm以下である。

【0129】
従来の手法では、静電相互作用型ベシクル(PICsome)に物質を内包させることは一部可能であるものの、適用範囲に制限があった。また、空のベシクルに後から物質を内包させることは困難、又は不可能であった。本発明の製造方法によれば、静電相互作用型ベシクル(PICsome)に広汎な物質を内包させた物質内包静電相互作用型ベシクル(物質内包PICsome)の製造が可能となる。

【0130】
本発明の物質内包ベシクルは、高分子の自己組織化により形成されたベシクルの空隙部内に、各種の物質が安定に保持されているため、薬物を送達するDDSや、有効成分を担持する機能性材料等の各種用途に有効に用いることができる。例えば、被内包物質やベシクル膜の構成成分としてsiRNA(small interfering RNA)を用いることにより、得られる物質内包ベシクルをRNAi(RNA干渉)用のDDS等に用いることができる。また、複数の薬剤を被内包物質として内包させたり、被内包物質及び膜材料として併用したりすることにより、薬剤の併用療法にも使用可能である。
本発明の物質内包ベシクルは新規であり、且つ、優れた血中滞留性・腫瘍集積性を示す平均粒径が100~200nmのPICsomeの応用範囲を拡大する点で、極めて有用性が高い。

【0131】
[VII:膜内核酸含有ベシクル]
なお、上述の本発明の製造方法に用いた空ベシクルにおいて、第1の重合体が非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを有するブロック共重合体である(すなわち、第1の荷電性セグメントがカチオン性セグメントである)とともに、第2の重合体がアニオン性セグメントとして核酸を有する重合体である(即ち、第2の荷電性セグメントがアニオン性セグメントとして核酸を有する)ベシクルは、所定のブロック共重合体と核酸とを含む膜によって空隙部が包囲された、新規な構造を有するベシクルである。斯かるベシクル(以降「膜内核酸含有ベシクル」と略称する)は、それ自体が核酸を送達するDDSや、核酸を有効成分とするバイオマテリアル・機能性材料として有用である。また、斯かる膜内核酸含有ベシクルを、上述の本発明の製造方法の空ベシクルとして用いることにより、膜内に核酸を含有すると共に、空隙部に別の薬物を内包させた物質内包ベシクルとすることができ、核酸と別の薬物とを組み合わせて送達するDDSとしても有用である。
以下、斯かる膜内核酸含有ベシクルについて説明する。

【0132】
〔VII-1:膜内核酸含有ベシクルの構造〕
膜内核酸含有ベシクル10の構造の例について、図5(a)~(c)を参照しながら説明する。なお、図5(a)~(c)は何れも模式図であり、本発明はこれらの図に限定されるものではない。

【0133】
図5(a)は、膜内核酸含有ベシクル10の部分破断図である。図5(a)に示すように、膜内核酸含有ベシクル10は、膜10aと、膜10aにより包囲される空隙部10bとを有する。
図5(b)は、膜内核酸含有ベシクル10の膜10aの部分断面拡大図である。図5(b)に示すように、膜10aは、外層10ao、中間層10am及び内層10aiからなる三層構造を有し、主にブロック共重合体20と、核酸30とから形成される。
図5(c)は、ブロック共重合体20及び核酸30の拡大図である。図5(c)に示すように、ブロック共重合体20は、非荷電親水性セグメント20aとカチオン性セグメント20bとを有する。

【0134】
理論に束縛されるものではないが、ブロック共重合体20及び核酸30から膜内核酸含有ベシクル10が形成される機構は、以下のように考えられる。すなわち、図5(c)に示すブロック共重合体20及び核酸30が、電荷の相互作用が生じ得る系(例えば水性媒体中)に置かれると、自己集合し、図5(b)に示すように、正に帯電するカチオン性セグメント20bと負に帯電する核酸30とが静電結合して中間層10amを形成するとともに、その外側に非荷電親水性セグメント20aが配置されて外層10aoを形成する。更に好ましくは、中間層10amの内側にも非荷電親水性セグメント20aが配置されて、内層10aiを形成する。こうして図5(b)に示す三層構造の膜10aが形成され、結果として、図5(a)に示す膜内核酸含有ベシクル10が形成されるものと考えられる。

【0135】
従って、好ましい態様によれば、図5(b)に示すように、非荷電親水性セグメント20aが膜10aの外層10aoを形成し、カチオン性セグメント20bと核酸30とが静電結合して中間層10amを形成する。更に好ましくは、主に非荷電親水性セグメント20aが膜10aの内層10aiを形成する。
なお、膜内核酸含有ベシクル10の膜10aは、ブロック共重合体20及び核酸30のみからなっていてもよいが、以上の構造が概略保持される限りにおいて、ブロック共重合体20及び核酸30に加え、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分は限定されないが、例としては架橋剤、荷電性ポリマー、荷電性分子等が挙げられる。架橋剤については後に詳述する。

【0136】
また、後述するように、膜内核酸含有ベシクル10は通常は水性媒質中で調製され、また、膜10aの内層10aiは好ましくは主に非荷電親水性セグメント20aから構成されるため、膜内核酸含有ベシクル10の空隙部10bには通常は水性媒体が存在する(よって本明細書では空隙部10bを「内水相」と表示する場合がある)。但し、空隙部10bに別の物質が存在していてもよい。特に、膜内核酸含有ベシクル10をDDS等に用いる場合には、空隙部10bに薬物を含有させてもよい。薬物を内包させる態様については後に詳述する。

【0137】
膜内核酸含有ベシクル10の形状は、限定されないが、通常は球状又は略球状である。
膜内核酸含有ベシクル10の粒径は、ブロック共重合体20及び核酸30の種類及び量比、架橋剤の有無、膜内核酸含有ベシクル10の周辺環境(水性媒体の種類)等に応じて異なるが、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。なお、実施例において例証するように、生理環境下や生理食塩水中等の塩存在条件下では、架橋剤を含有しない膜内核酸含有ベシクル10の粒径は経時的に増大する傾向があるが、架橋剤を導入することにより粒径の増大を防止することが出来る。

【0138】
膜内核酸含有ベシクル10の膜10aの膜厚は、ブロック共重合体20及び核酸30の種類及び量比、架橋剤の有無、膜内核酸含有ベシクル10の周辺環境(水性媒体の種類)等に応じて異なるが、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下である。

【0139】
〔VII-2:ブロック共重合体〕
膜内核酸含有ベシクルに使用されるブロック共重合体は、非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを有する。

【0140】
(VII-2a:非荷電親水性セグメント)
膜内核酸含有ベシクルに使用される非荷電親水性セグメントの詳細は、上記(III-2a:非荷電親水性セグメント)の欄において説明した、空ベシクルに使用される非荷電親水性セグメントの詳細と同一である。

【0141】
(VII-2b:カチオン性セグメント)
膜内核酸含有ベシクルに使用されるカチオン性セグメントの詳細は、上記(III-2b-1:カチオン性セグメント)の欄において説明した、空ベシクルに使用されるカチオン性セグメントの詳細と同一である。

【0142】
(VII-2c:非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとの組み合わせ)
膜内核酸含有ベシクルに使用される非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとの組み合わせは制限されず、任意の非荷電親水性セグメントと任意のカチオン性セグメントとを組み合わせることが可能である。
非荷電親水性セグメント及びカチオン性セグメントの個数も任意であり、各々1つでも2つ以上でもよく、2つ以上の場合には互いに同一でも異なっていてもよい。通常は、非荷電親水性セグメント1つに対して、カチオン性セグメントが1つ結合することが好ましい。しかし、ベシクル内に多量の核酸を保持する観点からは、非荷電親水性セグメントが1つに対して、カチオン性セグメントが2つ以上結合する形態も好適である。

【0143】
非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとの結合形態も制限されず、直接結合していてもよいが、連結基を介して結合していてもよい。
連結基の例としては、非荷電親水性セグメント及びカチオン性セグメントの総個数に対応する価数を有する炭化水素基が挙げられる。連結基としての炭化水素基は脂肪族でも芳香族でもそれらが連結したものでもよく、脂肪族の場合には飽和でも不飽和でもよく、また、直鎖でも分岐でも環状でもよい。連結基としての炭化水素基の分子量は、制限されるものではないが、通常5000以下、好ましくは1000以下である。連結基としての炭化水素基の例としては、没食子酸誘導体、3,5-ジヒドロキシ安息香酸誘導体、グリセリン誘導体、シクロヘキサン誘導体、L-リシン等が挙げられるが、3,5-ジヒドロキシ安息香酸誘導体等が好ましい。

【0144】
連結基の別の例としては、ジスルフィド基が挙げられる。ジスルフィド基は、非荷電親水性セグメント1つとカチオン性セグメント1つを連結するのに用いられる。ジスルフィド基を介して非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを連結することにより、ベシクルの置かれた環境や外部からの作用によってジスルフィド基を開裂させ、ベシクルの形態や性質を変化させることが可能になる。これを利用すれば、例えばベシクルを核酸送達用のDDSに用いる場合、生体内でジスルフィド基を開裂させることによって、ベシクルの膜を構成する核酸や、ベシクル内に内包された薬物(この態様については後述する)の放出を促すことも可能になると考えられる。
また、非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとの比率も任意であるが、ブロック共重合体と核酸との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、ベシクル中に含まれる非荷電親水性セグメントの分子量比率を所定の範囲内とすることが好ましい。具体的な比率については、核酸の量も考慮して決定することが好ましいため、(VII-3:核酸)の欄で後述する。

【0145】
(VII-2d:ブロック共重合体の具体例)
膜内核酸含有ベシクルに使用されるブロック共重合体の好ましい具体例としては、下記式(IX)に示すものが挙げられる。
【化10】
JP0005843763B2_000014t.gif
式(IX)中、
10は、-(CH23NH2、-(CH22NHC(=NH)NH2、又は-CONH(CH2s-Xであり
(ここで、
sは、0~20の整数であり、
Xは、-NH2、ピリジル基、モルホリル基、ピペラジニル基、1-イミダゾリル基、4-(C1-6アルキル)-ピペラジニル基、4-(アミノC1-6アルキル)-ピペラジニル基、ピロリジン-1-イル基、N-メチル-N-フェニルアミノ基、ピペリジニル基、ジイソプロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、-(CH2tNHR60、又は-(NR50(CH2opNHR60からなる群から選択される
(ここで、
50は、水素原子又はメチル基を表し、
60は、水素原子、アセチル基、トリフルオロアセチル基、ベンジルオキシカルボニル基又はtert-ブトキシカルボニル基、グアニジノ基を表し、
oは、1~5の整数であり、
pは、1~5の整数であり、
tは、0~15の整数である))、
20は、水素原子、アセチル基、トリフルオロアセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基、コレステロール誘導体基、含有炭素数が3~13のアシル基、又はグアニジノ基(-C(=NH)NH2)であり、
30は、水素原子、又は、置換されていてもよいC1-12アルキル基を表し、
40は、-(CH2g70NH-を表し(ここでgは、0~12の整数である)、ここでR70は、直鎖又は分岐のC1-12アルキルを表し、
aは、0~5,000の整数であり、
bは、0~5,000の整数であり、但しa+bが2~5,000であり、
cは、0~20の整数であり、
dは、0或いはc-1を満たす整数であり、
eは、5~2,500の整数である。

【0146】
式(IX)において、R10が-CONH(CH2s-Xを表す場合、Xは、ブロック共重合体の繰り返し単位ごとに同一の官能基であってもよく、異なる官能基であってもよい。
中でも、本発明のブロック共重合体としては、式(IX)において、R10が-CONH(CH2S-NH2基であり、sが2~5の整数であり、R20が水素原子であり、R30がメチル基であり、aが0~200の整数であり、bが0~200の整数であり、但しa+bが10~200であり、eが10~300の整数であるものが特に好ましい。

【0147】
(VII-3:核酸)
膜内核酸含有ベシクルに使用される核酸は制限されず、膜内核酸含有ベシクルの用途や性質等に応じて適宜選択することができる。
即ち、核酸は一本鎖でも二本鎖でもよく、また、DNAでもRNAでもよい。また、タンパク質のコード化の有無やその他の機能の有無も制限されない。但し、ベシクルの用途を考慮すると、機能性核酸であることが好ましい。機能性核酸としては、siRNA、miRNA(マイクロRNA)、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、リボザイム、DNA酵素等が挙げられる。これらはベシクルの用途に応じて選択される。例えば、ベシクルをRNAi用のDDSに用いる場合、核酸としてはsiRNAが用いられる。
また、核酸は修飾されたものであってもよい。修飾された核酸の例としては、ベシクル安定化等の用途に向けて、コレステロールやビタミンE等の疎水性官能基が結合された核酸が挙げられる。

【0148】
核酸の塩基数も特に制限されないが、通常9以上、好ましくは12以上、より好ましくは19以上、また、通常100以下、好ましくは40以下、より好ましくは27以下の範囲が好適である。特に、核酸としてsiRNAを用いる場合、その塩基数は前述のとおり、通常は19~27であるが、好ましくは21~23である。
核酸は、1種を単独で使用してもよいが、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。

【0149】
核酸の使用量も制限されないが、ブロック共重合体と核酸との自己組織化を促し、均質なベシクルを効率的に製造する観点からは、下記式(iv)に規定するN+/P比が、次に説明する条件を満たすように使用量を選択することが望ましい。
【数4】
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ここで、ブロック共重合体におけるプロトン化した状態のアミノ基のモル数は、ブロック共重合体のカチオン性セグメントの構造に依存する値であるが、一般的な電位差(酸・塩基)滴定により求めることが可能である。

【0150】
+/P比の値は、通常1.0超、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.1以上、また、通常3.0未満、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.5以下の範囲が望ましい。よって、N+/P比の値が前記範囲を満たすように、核酸とブロック共重合体との量比を調整することが望ましい。
但し、N+/P比の好適値は、種々の条件に応じて異なる。例えば、核酸として無修飾の核酸を用いる場合、N+/P比の値としては、通常1.0超、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.1以上、また、通常1.5未満、好ましくは1.4以下の範囲が好ましい。一方、核酸として修飾核酸(例えばコレステロール修飾核酸等)を用いる場合、N+/P比の好適値は比較的高い範囲となる。従って、それらの条件を考慮して、核酸とブロック共重合体との量比を調整することが望ましい。

【0151】
なお、非荷電親水性セグメントの分子量は、前記N+/P比の範囲を満たすカチオン性セグメント及び核酸の分子量を勘案して決定することが好ましい。具体的には、以下の式(v)で規定される非荷電親水性セグメントの分子量比率Xを、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、また、通常0.35以下、好ましくは0.1以下の範囲に収めることが望ましい。
【数5】
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【0152】
(VII-4:架橋剤)
膜内核酸含有ベシクルに架橋剤は必須ではないが、膜内核酸含有ベシクルを生理環境下や生理食塩水中等の塩存在条件下で使用する場合(例えばDDSとして使用する場合等)には、粒径の経時的な増大を防止する観点から、膜成分として架橋剤を使用することが好ましい。

【0153】
架橋剤の種類は制限されず、膜内核酸含有ベシクルの用途やブロック共重合体及び核酸の種類等に応じて適宜選択することができるが、効率的に架橋を行うとともに、得られる膜内核酸含有ベシクルの安定性を高める観点からは、ブロック共重合体のカチオン性セグメントが有するカチオン基(例えばアミノ基等)と反応し、核酸と反応しない架橋剤が好ましい。架橋剤の具体例としては、アミノ基を架橋する架橋剤(例えば、グルタルアルデヒド、スベリンイミド酸ジメチルニ塩酸塩(dimethyl suberimidate dihydrochloride:DMS)、3,3’-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル(dimethyl 3,3'-dithiobispropionimidate:DTBP)、1-エチル3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropy)carbodiimide:EDC)等)、リン酸基を架橋する架橋剤(例えばカルシウムイオン等の金属イオン)等が挙げられるが、グルタルアルデヒド、DMS、DTBP等が好ましく、グルタルアルデヒドが特に好ましい。また、1種の架橋剤を単独で使用してもよいが、2種以上の架橋剤を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。

【0154】
架橋剤の使用量も制限されず、架橋剤の種類及び架橋点の数、架橋対象成分の量等を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、アミノ基を架橋する架橋剤の場合、下記式(vi)に規定するCL/N比が次に説明する条件を満たすように使用量を選択することが望ましい。
【数6】
JP0005843763B2_000017t.gif
効率的に架橋を行うとともに、得られる膜内核酸含有ベシクルの安定性を高める観点からは、CL/N比が通常0.01以上、好ましくは0.1以上となるように、架橋剤とブロック共重合体との量比を調整することが望ましい。一方、膜内核酸含有ベシクルを核酸の送達に用いる場合(例えばRNAi用DDSとして用いる場合)、核酸を標的部位において効率よく放出させる観点からは、架橋剤の使用量はあまり多過ぎないことが好ましく、具体的には、CL/N比が通常10以下、好ましくは7以下、より好ましくは5以下となるように、架橋剤とブロック共重合体との量比を調整することが望ましい。

【0155】
(VII-5:その他の膜成分)
膜内核酸含有ベシクルを製造する際に、ブロック共重合体及び核酸とは異なる他の成分の膜への添加は必須ではないが、膜内核酸含有ベシクルの形成を妨げない、或いは安定性を下げない範囲で、その他の膜成分を添加することができる。その他の膜成分に特に制限はないが、具体例としては、荷電性重合体、荷電性ナノ粒子等が挙げられる。

【0156】
荷電性重合体としては、荷電性ポリアミノ酸又はその誘導体等が好ましく、カチオン性ポリアミノ酸又はその誘導体が特に好ましい。カチオン性ポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパルタミド、ポリグルタミド、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、特にポリアスパルタミド誘導体及びポリグルタミド誘導体が好ましい。カチオン性ポリアミノ酸又はその誘導体のアミノ酸残基数も制限されないが、好ましくは5以上、より好ましくは30以上、また、好ましくは200以下、より好ましくは100以下の範囲とする。
荷電性ナノ粒子としては、表面に架電を有する金属系ナノ粒子等が挙げられる。

【0157】
前記その他の膜成分は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
前記その他の膜成分の使用量も制限されないが、ブロック共重合体と核酸との自己組織化によるベシクル形成を妨げない程度に抑えることが好ましい。具体的には、ベシクルの総重量に対して通常30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下とすることが望ましい。

【0158】
(VII-6:膜内核酸含有ベシクルの製法)
膜内核酸含有ベシクルは、ブロック共重合体と核酸との静電相互作用を利用して形成されることから、ブロック共重合体と核酸とを水性溶液中で混合することにより、簡便に製造することができる。斯かる製造方法によれば、有機溶媒を用いなくとも膜内核酸含有ベシクルを製造し得ることから、DDSやバイオマテリアル等の分野において有利である。

【0159】
具体的には、ブロック共重合体を含んでなる第1の水性溶液と、核酸を含んでなる第2の水性溶液とを用意する。第1及び第2の水性溶液は、所望により濾過等の手法で精製してもよい。
第1の水性溶液におけるブロック共重合体の濃度、及び、第2の水性溶液における核酸の濃度は限定されず、ブロック共重合体と核酸との総電荷数の比率、ブロック共重合体及び核酸の水性溶液への溶解度、膜内核酸含有ベシクルの形成効率等の条件を勘案して、適宜決定される。
第1及び第2の水性溶液の溶媒は、水性溶媒であれば、その種類は限定されない。好ましくは水であるが、膜内核酸含有ベシクルの形成を妨げない範囲で、水に他の成分を混合した溶媒、例えば生理食塩水、水性緩衝液、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等も用いることができる。水性緩衝液としては10mM HEPES緩衝液等が挙げられる。

【0160】
第1及び第2の水性溶液のpHは、膜内核酸含有ベシクルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を用いることにより、容易に行うことができる。第1及び第2の水性溶液のpHを調整して用いることは、ブロック共重合体及び核酸の荷電状態を保持し、効率的にベシクルを形成する上で有利である。
第1及び第2の水性溶液の温度は、ブロック共重合体及び核酸の溶媒に対する溶解度に応じて適宜決定されるが、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下である。
第1及び第2の水性溶液のイオン強度は、膜内核酸含有ベシクルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくは5mM以上、より好ましくは10mM以上であり、また、好ましくは300mM以下、より好ましくは150mM以下である。

【0161】
以上の第1及び第2の水性溶液を混合することにより、膜内核酸含有ベシクルを作成する。混合方法は限定されず、第1の水性溶液に第2の水性溶液を加えてもよく、第2の水性溶液に第1の水性溶液を加えてもよい。また、容器に第1及び第2の水性溶液を同時に入れて混合してもよい。得られた第1及び第2の水性溶液の混合液を、適宜攪拌してもよい。
第1及び第2の水性溶液の混合時の温度は、膜内核酸含有ベシクルの形成を妨げない範囲であれば限定されないが、ブロック共重合体及び核酸の温度に応じた溶解度を勘案して設定することが好ましい。具体的には、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。

【0162】
混合後、形成された膜内核酸含有ベシクルをすぐに所望の用途に供してもよいが、系を平衡化させるために、混合液を静置する時間を設けてもよい。混合液を静置する時間は、膜内核酸含有ベシクルの形成効率等の条件によって異なるが、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下である。但し、前述のように架橋剤を用いない場合、形成された膜内核酸含有ベシクルの径が経時的に増大する傾向があるので、静置時間を設けないことが好ましい場合もある。
架橋剤を用いる場合、上記の第1及び第2の水性溶液の混合溶液に、当該架橋剤を加えて混合すればよい。架橋剤はそのまま混合に用いてもよいが、架橋剤を含有する水性溶液を調製し、これを混合してもよい。架橋剤の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。

【0163】
架橋剤以外のその他の膜成分を用いる場合、上記の第1及び第2の水性溶液と、当該膜成分とを混合すればよい。このとき、混合前の第1又は第2の水性溶液に当該膜成分を加えて混合してもよいが、当該膜成分と第1又は第2の水性溶液との間に膜内核酸含有ベシクル形成を妨げる会合や相互作用がないことが望ましい。また、第1及び第2の水性溶液の混合時に当該膜成分を一緒に加えて混合してもよく、第1及び第2の水性溶液の混合後に当該膜成分を加えて更に混合してもよい。また、他の膜成分をそのまま混合に用いてもよいが、当該膜成分を含有する水性溶液を調製し、これを混合に用いてもよい。膜成分の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。
また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。

【0164】
(VII-7:膜内核酸含有ベシクルの用途)
膜内核酸含有ベシクルは、核酸が膜内に安定に保持されているため、核酸を送達するDDSや、核酸を有効成分とする機能性材料として、そのままの状態で有効に用いることができる。例えば、核酸としてsiRNAを用いることにより、得られる膜内核酸含有ベシクルをRNAi用のDDSに用いることができる。
また、核酸以外の別の物質、例えば薬物を、膜内核酸含有ベシクルの空隙部(内水相)に内包させてもよい。これにより、例えば核酸と当該薬物とを組み合わせて送達するDDSとして、ベシクルを有効に用いることができる。別の薬物は限定されず、ベシクルの用途及びその性質に応じて適宜選択することができるが、例えばタンパク質、ペプチド、アミノ酸及びその誘導体、脂肪、単糖、オリゴ糖、多糖、糖タンパク質、その他の薬剤等が挙げられる。また、用途別では、抗がん剤(例えば、ドキソルビシンやパクリタキセル等の疎水性抗がん剤、シスプラチン等の金属錯体抗がん剤等)、MRI等の診断に用いられるガドリニウムや鉄化合物、有機発光(蛍光、燐光等)色素や量子ドット等が挙げられる。

【0165】
膜内核酸含有ベシクルの空隙部(内水相)に別の薬物を内包させる場合、その手法としては、以下が挙げられる。
(i)膜内核酸含有ベシクル形成前に第1又は第2の水性溶液に当該薬物を加えて混合する手法。
(ii)膜内核酸含有ベシクル形成時に第1及び第2の水性溶液と共に当該薬物を加えて混合する手法。
(iii)第1及び第2の水性溶液の混合後、形成された膜内核酸含有ベシクルを含有する水性溶液に対して当該薬物を加えて混合する手法。

【0166】
(i)及び(ii)の手法は、薬物が非荷電(中性)の物質の場合には有効である。しかし、荷電性(カチオン性又はアニオン性)の薬物に(i)及び(ii)の手法を用いると、荷電性薬物によって膜内核酸含有ベシクルの形成が阻害されてしまい、所望の薬物内包ベシクルが得られない場合がある。
一方、(iii)の手法は、上述の本発明の物質内包ベシクルの製造方法において、空ベシクルとして膜内核酸含有ベシクルを用いる場合に該当する。本方法によれば、上述のように、薬物が非荷電(中性)の物質か、荷電性(カチオン性又はアニオン性)の物質かによらず、用いることができる。その理由は定かではないが、得られた膜内核酸含有ベシクルがいったん解離した後に再集合していると考えられる。
(iii)の手法の場合、その条件は、上記[II:物質内包ベシクルの製造方法]、[IV:被内包物質]及び[V:その他の工程]等の欄において詳述したとおりである。

【0167】
上記(i)~(iii)の何れの手法でも、内包させる薬物は、そのまま混合に用いてもよいが、当該薬物を含有する水性溶液を調製し、これを混合に用いてもよい。薬物の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。
架橋剤等の他の膜成分を併用する場合、当該薬物と当該膜成分との混合順も任意である。但し、架橋剤を用いる場合には、薬物をベシクルの空隙部に効率的に内包させる観点から、薬物をベシクルに内包させてから、架橋剤を加えて混合することが好ましい。
また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。

【0168】
(VII-8:その他)
以上、膜内核酸含有ベシクルについて、具体的な実施の形態に即して説明したが、当業者であれば本明細書の記載を元に、上述の実施の形態に適宜変更を加えて実施することが可能である。
例えば、実施の形態で説明した膜内核酸含有ベシクルは、非荷電親水性セグメントとカチオン性セグメントとを有するブロック共重合体と、核酸とから形成されるが、これに代えて、非荷電親水性セグメントと核酸とを結合させた共重合体とカチオン性セグメントからなる重合体とを用いても、同様の膜内核酸含有ベシクルを形成することが可能である。
この場合も、通常は、カチオン性セグメントと核酸とが静電結合して中間層を形成し、非荷電親水性セグメントが外層及び内層を形成することにより、三層構造の膜とそれに包囲された空隙部を有する構造の膜内核酸含有ベシクルが形成される。
斯かる態様において、膜内核酸含有ベシクルの各成分の詳細、膜内核酸含有ベシクルの製造方法の詳細は、何れも前記記載の内容と基本的に同様である。当業者であれば本明細書の記載に基づいて、適宜必要な変更を加えることにより、斯かる態様を実施することが可能である。よって、かかる構造を有する膜内核酸含有ベシクル及びその製造方法も、本発明の範囲に含まれる。
【実施例】
【0169】
次に、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、あくまでも例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
なお、以下の記載において「溶液」とは、特に別途記載しない限り、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)を溶媒とする溶液を指すものとする。
また、以下の記載において「ボルテックスミキサー」としては、別途記載しない限り、Scientific Industries Inc.製Vortex-Genie 2を用いた。
また、以下の記載における平均粒径、多分散指数(polydispersity index:PDI)及びゼータ電位は、別途記載しない限り、Malvern社製Zetasizer Nano-ZSにより測定した。
【実施例】
【0170】
[実施例群I:膜内核酸含有ベシクルの製造及び評価]
(I-a)ブロック共重合体の調製:
非荷電親水性セグメントとしてポリエチレングリコール(分子量約2000)(以降「PEG」と表示する場合がある)を有し、カチオン性セグメントとしてポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(重合度約70)(以降「PAsp(DAP)」と表示する場合がある)を有する、下記式で表されるブロック共重合体(以降「PEG-PAsp(DAP)」と表示する場合がある)を合成した。
【実施例】
【0171】
【化11】
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式中、
mはPEGの重合度を表し、約44である。
nはPAsp(DAP)の重合度を表し、約70である。
a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。
【実施例】
【0172】
(I-b)膜内核酸含有ベシクルの調製:
siRNAとしてGL3(センス鎖:5’-CUU ACG CUG AGU ACU UCG AdTdT-3’(配列番号1)、アンチセンス鎖:5’-UCG AAG UAC UCA GCG UAA GdTdT-3’(配列番号2):塩基数21)を用いた。siRNAの1mg/mL溶液50μLに対して、前記(I-a)で得られたPEG-PAsp(DAP)の1mg/mL水溶液を、N+/P比が以下の表1に規定する値となるような体積で加え、ボルテックスミキサーで2分間攪拌・混合することにより、実施例I-1~I-4及び比較例I-1~I-4の混合液を調製した。
【表1】
JP0005843763B2_000019t.gif
【実施例】
【0173】
(I-c)膜内核酸含有ベシクルの評価:
(I-c1)動的光散乱法による測定:
前記(I-b)で得られた実施例I-1~I-4及び比較例I-1~I-4の混合液中に存在する粒子の物性を調べるため、動的光散乱(dynamic light scattering)法による測定を行い、平均粒径及び多分散指数(polydispersity index:PDI)を求めた。
平均粒径及び多分散指数の測定結果を、それぞれ図6(a)及び(b)のグラフに示す。図6(a)によれば、N+/P比が1.0超、1.5未満の範囲内(実施例I-1~I-4)では平均粒径が約100nmで安定しているのに対し、N+/P比が1.0以下(比較例I-1、I-2)では平均粒径が大幅に小さくなり、N+/P比が1.5以上(比較例I-3、I-4)では逆に平均粒径が大幅に大きくなることが判る。また、図6(b)によれば、N+/P比が1.0超、1.5未満の範囲内(実施例I-1~I-4)では多分散指数が小さくなり、均一な球状の粒子が存在していることが判る。これらの結果を総合すると、N+/P比が1.0超、1.5未満の範囲内(実施例I-1~I-4)では、PEG-PAsp(DAP)及びsiRNAが自己組織化することにより、平均粒径約100nmの均一な球状粒子が、混合液中に形成されていることが判る。
【実施例】
【0174】
(I-c2)透過型電子顕微鏡による観察:
前記(I-b)で得られた実施例I-1~I-4及び比較例I-1~I-4の混合液中の粒子を、以下の手順により透過型電子顕微鏡で観察した。
コロジオン支持膜を付着した後にカーボンコーティングしたCuグリッド(日新EM社)上に、前記(I-b)の混合液を滴下し、更に酢酸ウランを微量滴下した後、余分な水分を濾紙で除去し、乾燥させることにより、前記(I-b)の混合液中の粒子が固定された標本グリッドを作製した。得られた標本グリッドを透過型電子顕微鏡で観察した。
【実施例】
【0175】
実施例I-3(N+/P比=1.2)及び比較例I-4(N+/P比=2.0)について得られた電子顕微鏡写真の例を、それぞれ図7(a)及び(b)として示す。実施例I-2の電子顕微鏡写真(図7(a)参照)では、粒径約100nmの同心円状の粒子が多数観察されたことから、空隙部を有する平均粒径約100nmの均一な球状のベシクルが形成されていることが判る。一方、比較例I-4の電子顕微鏡写真(図7(b)参照)では、かかる同心円状の均一粒子は観察されず、不均一形状の大型の粒子しか存在しなかった。
その他のN+/P比の電子顕微鏡写真についても、N+/P比が1.0超、1.5未満の範囲内では、図7(a)と同様に粒径約100nmの同心円状の粒子が多数観察されたのに対して、N+/P比が1.0以下又は1.5以上では、かかる粒子は観察されなかった。
これらの結果を前記の動的光散乱法の測定結果と考え合わせると、N+/P比が1.0超、1.5未満の範囲内(実施例I-1~I-4)では、PEG-PAsp(DAP)及びsiRNAによって形成された膜を有する、新規なベシクル(膜内核酸含有ベシクル)が形成されることが判る。
【実施例】
【0176】
[実施例群II:架橋された膜内核酸含有ベシクルの製造及び評価]
(II-a)架橋された膜内核酸含有ベシクルの調製:
実施例群Iの「(I-b)膜内核酸含有ベシクルの調製」記載の手順において、N+/P比を1.4に固定した他は、同様の手順で操作を行い、ベシクルを調製した。調製から2時間後、得られたベシクル溶液30μLに対して、架橋剤として以下の表2に規定する濃度の10μLのグルタルアルデヒド溶液を加え、ボルテックスミキサーで2分間攪拌・混合することにより、参考例II及び実施例II-1~II-6のベシクル含有混合液を調製した。なお、各グルタルアルデヒド溶液は、70重量%グルタルアルデヒド(和光純薬社製)を緩衝液(HEPESバッファー)で希釈して作製した。最終的に得られるベシクル含有混合液のCL/N比を、以下の表2に併せて示す。
【表2】
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【実施例】
【0177】
(II-b)架橋された膜内核酸含有ベシクルの評価:
前記(II-a)で得られた実施例II-1のベシクル含有混合液について、位相差クライオ透過型電子顕微鏡による観察を行った。具体的には、マイクログリッド上に試料溶液を展開し、不要水分を濾紙で除去した後、EM CPC cryo-station (Leica Microsystems, Vienna, Austria)を用いて液化エタンにより急速凍結させ、観察標本を作製した。撮像は、-170℃下、Zernike位相板を装備した透過型電子顕微鏡JEM 2011(日本電子株式会社製)を用いて行った。位相差クライオ透過型電子顕微鏡写真を図8(a)~(d)に示す。得られた空ベシクル(架橋された膜内核酸含有ベシクル)は、どれも類似の構造を示しており、それぞれ厚さ約10nmの一枚の隔壁からなる球状ベシクルで、粒径も約100nmであった。
また、前記(II-a)で得られた参考例II及び実施例II-1~II-6の膜内核酸含有ベシクルを含有する混合液に、生理食塩水(150mM塩化ナトリウム水溶液)と同等の濃度となるよう塩化ナトリウム、或いは塩化ナトリウム含有緩衝液を加えて混合した後、所定時間経過後に動的光散乱法による測定を行うことにより、平均粒径及び多分散指数(PDI)の経時変化を調べた。
【実施例】
【0178】
平均粒径とCL/N比及び経過時間との関係を図9(a)のグラフに、多分散指数(PDI)とCL/N比及び経過時間との関係を図9(b)のグラフにそれぞれ示す。図9(a)及び(b)によれば、参考例II(CL/N比=0、すなわち架橋剤なし)の空ベシクル(架橋されていない膜内核酸含有ベシクル)は、生理条件下で粒径が経時的に増大したのに対して、実施例II-1~II-6(CL/N比≧1、すなわち架橋剤あり)の空ベシクル(架橋された膜内核酸含有ベシクル)は何れも、生理条件下でも粒径の経時変化が殆ど無く、均一且つ球状の粒子のままであったことが判る。
【実施例】
【0179】
[実施例群III:膜内核酸含有ベシクルによる細胞へのsiRNA導入効率の評価]
(III-a)RNAi活性の評価:
(III-a1)膜内核酸含有ベシクルの調製:
実施例群IIの「(II-a)膜内核酸含有ベシクルの調製」記載の手順において、架橋剤として以下の表3に規定する濃度のグルタルアルデヒド溶液を用い、最終的に得られるベシクル含有混合液のCL/N比を以下の表3に規定する値となるように調整した他は、同様の手順で操作を行うことにより、実施例III-1~III-3及び参考例III-1、III-2のベシクル含有混合液を調製した。
【表3】
JP0005843763B2_000021t.gif
また、上記手順において、対照用siRNAとしてスクランブル(センス鎖:5’-UUC UCC GAA CGU GUC ACG UdTdT-3’(配列番号3)、アンチセンス鎖:5’-ACG UGA CAC GUU CGG AGA AdTdT-3’(配列番号4):塩基数21)を用いた他は、同様の手順で操作を行うことにより、実施例III-1~III-3及び参考例III-1、III-2に対応する対照用混合液も調製した。
【実施例】
【0180】
(III-a2)RNAi活性の測定:
前記(III-a1)で得られた実施例III-1~III-3及び参考例III-1、III-2の膜内核酸含有ベシクルを含有する混合液を用いて、以下の手順でマウスメラノーマ細胞B16F10-Lucを処理し、siRNAの導入効率を調べた。
即ち、400μLの10%牛胎児血清を含むDMEM培地中のマウスメラノーマ細胞B16F10-Lucに、実施例III-1~III-3及び参考例III-1、III-2の各混合液(siRNAとしてGL3を含有)を、siRNA換算濃度500nMとなるように加え、48時間インキュベーターで培養した後に培地を取り除き、細胞溶解液を添加し、その上澄み20μLに100μLのルシフェラゼーアッセイ溶液(プロメガ社製)を添加し、ルミノメーターで発光量を測定することにより、ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を求めた。
また、実施例III-1~III-3及び参考例III-1、III-2に対応する対照用混合液(siRNAとしてスクランブルを含有)を用いて同様の操作を行うことにより、ルシフェラーゼ遺伝子の発現量を求めた。
さらに、siRNA等を添加していない細胞群に対して同様の操作を行うことにより、ルシフェラーゼ遺伝子の基準発現量を求めた。
【実施例】
【0181】
実施例III-1~III-3及び参考例III-1、III-2の各々について、上記手順で求めた発現量a及び基準発現量bから、相対発現量cを以下の式(vii)で求めた。
【数7】
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実施例III-1~III-3及び参考例III-1、III-2の各々における、ルシフェラーゼ遺伝子の相対発現量の測定結果を図10に示す。図10に示すように、実施例III-1~III-3(CL/N比が0~2)の膜内核酸含有ベシクルによって、ルシフェラーゼ遺伝子の発現は有意に抑制され、RNAi活性が認められた。よって、実施例III-1~III-3(CL/N比が0~2)の膜内核酸含有ベシクルにより、細胞内にsiRNAが効率的に導入されたことが判る。
【実施例】
【0182】
(III-b)共焦点顕微鏡による細胞取込の評価:
(III-b1)膜内核酸含有ベシクルの調製:
前記(III-a1)の手順において、siRNAとして上述のGL3のアンチセンス鎖及びセンス鎖の5’末端にCy5を付したCy5標識GL3を用いるとともに、架橋剤として以下の表4に規定する濃度のグルタルアルデヒド溶液を用い、最終的に得られるベシクル含有混合液のCL/N比が以下の表4に規定する値となるように調整した他は、同様の手順で操作を行うことにより、実施例III’-1~III’-3及び参考例III’-1~III’-4のベシクル含有混合液を調製した。
【実施例】
【0183】
【表4】
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【実施例】
【0184】
(III-b2)共焦点顕微鏡による観察:
得られた膜内核酸含有ベシクルを用いた細胞処理後におけるsiRNAの細胞取込を、以下の手順により共焦点顕微鏡で観察した。
即ち、1mLの10%牛胎児血清を含むDMEM培地中のマウスメラノーマ細胞B16F10-Lucに、実施例III’-1~III’-3及び参考例III’-1~III’-4の各混合液(siRNA換算濃度500nM)を加え、24時間後に共焦点顕微鏡(Carl Zeiss社製LSM 510 META NLO)による観察を行った。
実施例III’-2(CL/N比=1.0)の共焦点顕微鏡写真を図11(a)に示す。図11(a)中、白色の領域はsiRNAを表す。図11(a)から、細胞内にsiRNAが顕著に取り込まれていることが判る。
同様に、実施例III’-1(CL/N比=0)及び実施例III’-3(CL/N比=2.0)においても、細胞核内へのsiRNAの顕著な取り込みが観察された。
また、実施例III’-1~III’-3及び参考例III’-1~III’-4について得られた共焦点顕微鏡写真について、画像解析を行った。具体的には、Cy5標識siRNAに由来する白色のピクセル数をカウントすることにより、細胞内に取り込まれたsiRNA量を見積もった。
【実施例】
【0185】
得られた結果を図11(b)のグラフに示す。図11(b)から、CL/N比が0~2の膜内核酸含有ベシクル、特に1.0の膜内核酸含有ベシクルにおいて、siRNAの細胞内取り込み量が有意に高いことが分かる。
以上の結果から、実施例III’-1~III’-3(CL/N比が0~2)の膜内核酸含有ベシクルにより、細胞内にsiRNAが効率的に導入されたことが判る。
【実施例】
【0186】
[実施例群IV:非荷電物質内包膜内核酸含有ベシクルの製造及び評価]
(IV-a)非荷電物質内包膜内核酸含有ベシクルの製造:
実施例群IIIの「(III-b1)ベシクルの調製」記載の手順において、PEG-PAsp(DAP)の1mg/ml水溶液47.8μl及びsiRNA(またはCy3標識siRNA)の1mg/ml水溶液50μl(N+/P比1.4)に加えて、被内包物質として非荷電物質である蛍光デキストラン(アルドリッチ社製、分子量10000)の10mg/mL水溶液10μlを用い、下記表の「攪拌・混合A」→「攪拌・混合B」の順にボルテックスミキサーを用いて攪拌・混合し、ベシクルの調製を行った。調製から2時間後、架橋剤として0.875重量%のグルタルアルデヒド水溶液を加えて更に混合し(CL/N比100)、分画分子量(MWCO)約30万の限外濾過膜を用いて精製することにより、実施例IV-1~IV-3のベシクル含有混合液を調製した。また、蛍光デキストランを使用せずに同様の操作を行い、参照例VIのベシクル含有混合液を調製した。なお、攪拌・混合A及びBの各々は、ボルテックスミキサーで約3300rpm、2分間攪拌することにより行った。また、攪拌・混合Aと攪拌・混合Bとの間、及び攪拌・混合Bの後には、それぞれ3分以上の放置時間を設けた。
【表5】
JP0005843763B2_000024t.gif
【実施例】
【0187】
(IV-b)非荷電物質内包膜内核酸含有ベシクルの評価:
前記(IV-a)で得られた実施例IV-1~IV-3及び参照例IVのベシクル含有混合液について、蛍光相関分光(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)法により測定を行い、微小体積中での蛍光粒子の運動速度、すなわち並進拡散係数(diffusion coefficient)を算出した。得られた蛍光デキストランの並進拡散係数の変化から、蛍光デキストランがベシクル内に封入されたかどうかの判定が可能となる。
具体的には、各ベシクル溶液を分画分子量30万の限外濾過膜を用いて、2000G、8分の条件で限外濾過を5回行い、遊離蛍光デキストランを除去した。限外濾過操作の後、各ベシクル溶液を100μg/mL siRNAとなるように濃度を調整し、室温下にてカールツァイス社製の共焦点蛍光顕微鏡(LSM510)によりFCS測定を行った。蛍光デキストランの励起はアルゴンレーザー(488nm)、対物レンズは40倍の水浸レンズを用い、解析はConfocor 3ソフトウェアにより行った。
また、対照例として、蛍光デキストランの0.5μg/mLの溶液についても、同様の測定を行い、拡散係数を算出した。
【実施例】
【0188】
得られた拡散係数の結果を図12のグラフに示す。図12に示すように、PEG-PAsp(DAP)とsiRNAと蛍光デキストランとを混合して得られた実施例IV-1~IV-3のベシクルの拡散係数は、対照例である蛍光デキストランのみの場合の拡散係数と比べて遥かに小さく、PEG-PAsp(DAP)及び蛍光siRNAから形成された参照例IVのベシクルの拡散係数と同程度であった。
【実施例】
【0189】
以上の結果から、実施例IV-1~IV-3では、PEG-PAsp(DAP)とsiRNAと蛍光デキストランとの混合順によらず、参照例VIと同様にPEG-PAsp(DAP)及びsiRNAからなる膜内核酸含有ベシクル(空ベシクル)が形成され、その空隙部(内水相)に蛍光デキストラン(被内包物質)が封入された物質内包膜内核酸含有ベシクルが得られたことが判る。
【実施例】
【0190】
特に、実施例IV-3では、先にPEG-PAsp(DAP)及びsiRNAからなる膜内核酸含有ベシクル(空ベシクル)を形成し、その後に蛍光デキストラン(被内包物質)を加えてボルテックスミキサーで攪拌・混合するという手順により、膜内核酸含有ベシクル(空ベシクル)を崩壊させることなく、その空隙部(内水相)に蛍光デキストラン(被内包物質)が封入された物質内包膜内核酸含有ベシクルが得られたことが判る。これは極めて驚くべき知見である。
なお、実施例IV-1(PEG-PAsp(DAP)と蛍光デキストランとを攪拌・混合後、siRNAを加えて更に混合)及び実施例IV-2(siRNAと蛍光デキストランとを攪拌・混合後、PEG-PAsp(DAP)を加えて更に混合)でも、同様の物質内包膜内核酸含有ベシクルが得られているが、これは被内包物質として非荷電物質である蛍光デキストランを用いたためであることが、以下の実施例群Vとの対比から明らかである。
【実施例】
【0191】
[実施例群V:負荷電物質内包ベシクルの製造及び評価]
(実施例V-1:QD(負荷電物質)内包ベシクルの製造)
第1の重合体として、非荷電親水性セグメントであるポリエチレングリコール(PEG)(分子量約2000)と、アニオン性セグメントであるポリアスパラギン酸(P(Asp))(重合度約75)とからなるアニオン性ブロックコポリマーPEG-P(Asp)(ゼータ電位-30.6mV)を用いた。
第2の重合体として、カチオン性セグメントであるポリ(ジアミノペンタン構造含有アスパラギン誘導体)(P(Asp-AP))(重合度約82)からなるカチオン性ホモポリマーHomo-P(Asp-AP)(ゼータ電位+16.3mV)を用いた。
被内包物質として、CdTe量子ドット(以下「QD」と表記する場合がある)(平均粒径4.2nm;ゼータ電位-64.1mV;参考文献 A. Zintchenko, et al. Molecular Therapy (2009) 17, 11, 1849-1856)を用いた。
【実施例】
【0192】
第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が2.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液及び第2の重合体の溶液を、電荷比が等しくなる(即ちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れて混合し、ボルテックスミキサーで約3300rpm、2分間攪拌することにより、第1及び第2の重合体の自己組織化により形成されたベシクル(空ベシクル)を含有する溶液を得た。
上記で得られた空ベシクル含有溶液について、動的光散乱法(dynamic light scattering)による測定を行い、粒度分布、平均粒径、多分散指数(PDI)、ゼータ電位を求めた。平均粒径104nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.045、ゼータ電位は-9.8mVであった。
【実施例】
【0193】
上記で得られた空ベシクル含有溶液に、被内包物質の溶液を加え、総ポリマー濃度1.0mg/mL、被内包物質濃度2.3×1015個/mLの溶液(混合対象液)を調製した。この混合対象液を、ボルテックスミキサーで約3300rpm、2分間攪拌・混合し、その後3分以上放置した。得られた混合後の溶液は透明であった。
【実施例】
【0194】
混合後の溶液を、PEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDC(株式会社ペプチド研究所より購入)を含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mMNaCl)中)に加え、12時間室温で静置し、重合体の架橋を行った。ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存するQDを遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万を使用;300rpm、4℃)により除去・精製を行った後、動的光散乱(dynamic light scattering)法による測定を行い、粒度分布、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めた。粒度分布のグラフを図13に示す。平均粒径114nmで単分散な粒子の形成が認められた。PDIは0.065であった。
【実施例】
【0195】
続いて、室温下にてカールツァイス社製の共焦点蛍光顕微鏡(LSM510)により蛍光相関分光(FCS)測定を行った。蛍光デキストランの励起はアルゴンレーザー(488nm)、対物レンズは40倍の水浸レンズを用い、解析はConfocor 3ソフトウェアにより自己相関関数G(τ)を求めた。また、被内包物質であるQDの溶液(2.3×1015個/ml)についてもFCSによる測定を行い、自己相関関数G(τ)を求めた。得られた自己相関関数G(τ)の経時的な減衰曲線を図14に示す。
なお、自己相関関数G(τ)は時間τ後の蛍光強度のゆらぎを評価する関数であり、経時的に減衰して十分な時間の経過後に集束する。集束までの経過時間が長い(減衰が遅い)ほど、ゆらぎが緩やかであること、即ち測定対照の蛍光物体の動きが鈍いことを示す。よって、自己相関関数G(τ)の減衰曲線が右側にシフトしているほど、測定対照の蛍光物体のサイズが大きくなったことを示す。
【実施例】
【0196】
図14に示すとおり、実施例V-1の混合後溶液の減衰曲線(グラフ中「実施例1の物質内包ベシクル」)は、被内包物質QD溶液の減衰曲線(グラフ中「被内包物質(QD)」)と比べて右側にシフトしており、減衰が遅くなっている。また、非特許文献2に記載のFCSデータと比較すると、実施例V-1の混合後溶液の減衰曲線は、粒径100nm程度のベシクルと類似した減衰を示していることが判る。
以上の結果から、実施例V-1の混合後溶液では、空ベシクルにQDが内包された物質内包ベシクルが形成されていることが判る。
【実施例】
【0197】
(比較例V-1:重合体及びQDの同時混合)
実施例V-1と同様の第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が2.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液に、被内包物質として実施例V-1と同様のQDを、濃度が2.3×1015個/mLとなるように加えた後、第2の重合体の溶液を、電荷比が等しくなる(即ちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れ、更に、ボルテックスミキサーで3300rpm、2分間攪拌・混合し、その後3分以上放置した。得られた溶液(混合後溶液)は、実施例V-1の混合後溶液のように無色透明ではなく、白濁していた。
【実施例】
【0198】
混合後の溶液について、動的光散乱法による測定を行い、粒度分布を求めた。粒度分布のグラフを図15に示す。図15から明らかなように、単一の粒径ピークではなく、2つの粒径ピークが認められた。
以上の結果から、比較例V-1で得られた混合後溶液(第1及び第2の重合体をQDとともに同時に混合して得られた溶液)では、重合体が実施例V-1のような均一なベシクルを形成しておらず、QD内包ベシクルも均一な生成物として得られていないことが判る。
【実施例】
【0199】
(実施例V-2:QD内包ベシクルのin vivo評価)
Balb/cヌードマウスの後肢にColon26(1.0×106/50μL)を皮下移植した腫瘍モデルマウスを、移植後13日目に使用した。実施例V-1と同様の手順で得られたQD内包ベシクル溶液31.4μLを、PBSで全量200μL(QD濃度36μg/μL)となるように希釈し、腫瘍モデルマウスに静脈注射した。投与から1、12、24及び96時間後に、IVIS(登録商標)蛍光イメージングシステム(Caliper社製)を用いて蛍光画像を撮像した。
また、比較のために、ベシクルに担持させていないQD単独のPBS中溶液(QD濃度36μg/μL、全量200μL)を、上記と同様の腫瘍モデルマウスに静脈注射し、上記と同様に蛍光画像を撮像した。また、QDを投与しない腫瘍モデルマウスについても、同様に蛍光画像を撮像した。
【実施例】
【0200】
図16(a)は、QDを投与しない腫瘍モデルマウスの蛍光画像、図16(b)は、QDを単独で投与した腫瘍モデルマウスの蛍光画像(上から順に投与から1、12、24及び96時間後)、図16(c)は、QD内包ベシクルを投与した腫瘍モデルマウスの蛍光画像(上から順に投与から1、12、24及び96時間後)である。QDを単独で投与した腫瘍モデルマウス(図16(b)参照)では、投与後12時間で既にQDの血中量が減少し、投与後24時間では殆ど排出されてしまっているのに対し、QD内包ベシクルを投与した腫瘍モデルマウス(図16(c)参照)では、投与後96時間経ってもQDが全身に滞留し、特に腫瘍付近に高濃度に集積している。ここから、実施例V-1で得られたQD内包ベシクルが、血中滞留性及び腫瘍集積性に極めて優れていることが分かる。本実験から、本発明の物質内包ベシクルが、医薬のDDS等として極めて有効に利用できることが明らかである。
【実施例】
【0201】
[実施例群VI:正荷電物質内包ベシクルの製造及び評価]
(実施例VI-1:リゾチーム(正荷電物質)内包ベシクルの製造)
実施例V-1において、被内包物質としてQDの代わりにリゾチーム(Sigma社製Lysozyme from Chicken Egg White、平均粒径3nm、分子量14,000、等電点(pI)=~11)を用い、混合対象液中の被内包物質濃度が1mg/mLとなるように加えた他は、実施例V-1と同様の手順で操作を行った。得られた混合後の溶液は透明であった。
【実施例】
【0202】
混合後溶液を、ベシクル中のPEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mMNaCl)中)に加え、12時間室温で静置し、重合体の架橋を行った。ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存するリゾチームを遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万を使用;300rpm、4℃)により除去・精製した後、動的光散乱法による測定を行い、粒度分布、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めた。粒度分布のグラフを図17に示す。平均粒径110nmで単分散な粒子の形成が認められた。また、PDIは0.087であった。
【実施例】
【0203】
また、精製後の溶液について、蛍光相関分光法(FCS)による測定を行い、自己相関関数G(τ)を求めた。また、被内包物質であるリゾチームの溶液(1mg/ml)についてもFCSによる測定を行い、自己相関関数G(τ)を求めた。得られた自己相関関数G(τ)の経時的な減衰曲線を図18に示す。図18に示すとおり、実施例2の混合後溶液の減衰曲線(グラフ中「実施例VI-1の物質内包ベシクル」)は、被内包物質であるリゾチーム溶液の減衰曲線(グラフ中「被内包物質(リゾチーム)」)と比べて右側にシフトしており、減衰が遅くなっている。また、非特許文献2に記載のFCSデータと比較すると、実施例VI-1の混合後溶液の減衰曲線は、粒径100nm程度のベシクルと類似した減衰を示していることが判る。
以上の結果から、実施例VI-1の混合後溶液では、空ベシクルにリゾチームが内包された物質内包ベシクルが形成されていることが判る。
【実施例】
【0204】
(比較例VI-1:重合体及びリゾチームの同時混合)
実施例VI-1と同様の第1及び第2の重合体を各々、ポリマー濃度が2.0mg/mLとなるように10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(水性媒体)に溶解させた。得られた第1の重合体の溶液に、被内包物質として実施例VI-1と同様のリゾチームを、濃度が1.0mg/mLとなるように加えた後、第2の重合体の溶液を、電荷比が等しくなる(即ちC/A比=1.0となる)ようにエッペンドルフチューブに入れ、更に、ボルテックスミキサーで3300rpm、2分間攪拌・混合し、その後3分以上放置した。得られた溶液(混合後溶液)は、実施例VI-1の混合後溶液のように無色透明ではなく、白濁していた。
【実施例】
【0205】
混合後の溶液について、動的光散乱法による測定を行い、粒度分布を求めた。粒度分布のグラフを図19に示す。図19に示すとおり、単一の粒径ピークではなく、2つの粒径ピークが認められた。
以上の結果から、比較例VI-1で得られた混合後溶液(第1及び第2の重合体をリゾチームとともに同時に混合して得られた溶液)では、重合体が実施例VI-1のような均一なベシクルを形成しておらず、リゾチーム内包ベシクルも均一な生成物として得られていないことが判る。
【実施例】
【0206】
[実施例VII:巨大粒子(Cy3標識PICミセル)内包ベシクルの製造]
実施例V-1において、被内包物質としてQDの代わりに架橋蛍光標識ミセル(Cy3標識PICミセル、Cy3標識PEG-P(Asp)とPEG-P(Asp-AP)(いずれもPEGの分子量2,000、イオン連鎖の重合度75)を荷電が釣り合うように混合して調製した後に、10等量のEDCにて架橋し分画分子量10万にて同様の精製を行ったもの、平均粒径38.0nm、PDI0.032)を用い、混合対象液中の被内包物質濃度が1mg/mLとなるように加えた他は、実施例V-1と同様の手順で操作を行った。得られた混合後の溶液は透明であった。
【実施例】
【0207】
混合後溶液を、ベシクル中のPEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mMNaCl)中)に加え、12時間室温で静置した。ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存する架橋ミセルを遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万を使用;300rpm、4℃)により除去・精製した後、動的光散乱法による測定を行い、粒度分布、平均粒径及び多分散指数(PDI)を求めた。平均粒径113nmで単分散な粒子の形成が認められた。また、PDIは0.063であった。
【実施例】
【0208】
また、精製後の溶液について、蛍光相関分光法(FCS)による測定を行い、自己相関関数G(τ)を求めた。また、被内包物質である蛍光標識ミセルの溶液(1mg/ml)についてもFCSによる測定を行い、自己相関関数G(τ)を求めた。得られた自己相関関数G(τ)の経時的な減衰曲線を図20に示す。図20に示すとおり、実施例VIIの混合後溶液の減衰曲線(グラフ中「実施例2の物質内包ベシクル」)は、被内包物質である蛍光標識ミセル溶液の減衰曲線(グラフ中「被内包物質(Cy3標識PICミセル)」)と比べて右側にシフトしており、減衰が遅くなっている。また、非特許文献2に記載のFCSデータと比較すると、実施例VIIの混合後溶液の減衰曲線は、粒径100nm程度のベシクルと類似した減衰を示していることが判る。
【実施例】
【0209】
また、混合後の溶液について、位相差クライオ透過型電子顕微鏡観察を行った。マイクログリッド上に試料溶液を展開し、不要水分を濾紙で除去した後、EM CPC cryo-station(ライカ・マイクロシステムズ社製)を用いて液化エタンにより急速凍結させ、観察標本を作製した。撮像は、-170℃下、Zernike位相板を装備した透過型電子顕微鏡JEM 2011(日本電子株式会社製)を用いて行った。得られた電子顕微鏡写真を図21(a)(b)に示す。図21(a)(b)から明らかなように、膜厚約10nmで球状のベシクル粒子が観察され、空ベシクルと同様の構造を有していることを確認した。
以上の結果から、実施例VIIの混合後溶液では、空ベシクルに蛍光標識ミセルが内包された物質内包ベシクルが形成されていることが判る。
【実施例】
【0210】
[実施例VIII:酵素(β-グルコシダーゼ)内包ベシクルの製造及び評価]
実施例V-1において、被内包物質としてQDの代わりにβ-グルコシダーゼ(アーモンド由来、Sigma社製、分子量約1万、等電点(pI)=~4.3)を用い、混合対象液中の被内包物質濃度が1mg/mLとなるように加えた他は、実施例V-1と同様の手順で操作を行った。得られた混合後の溶液は透明であった。
混合後溶液を、ベシクル中のPEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mMNaCl)中)に加え、12時間室温で静置し、重合体の架橋を行った。ベシクルに内包されず溶液中に遊離状態で残存するβ-グルコシダーゼを遠心限外濾過(VIVASPIN 20、sartorius stedium biotech社製、分画分子量30万を使用;300rpm、4℃)により除去・精製するとともにPBSに置換し、β-グルコシダーゼ内包ベシクル溶液を得た。
【実施例】
【0211】
得られたβ-グルコシダーゼ内包ベシクル溶液100μLを37℃で15分間インキュベートし、続いてこの溶液に、O-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシドPBS溶液(略称ONPGlc、分子量301)30.1mg/mLを100μL加え、更に37℃で15分間インキュベートした。その後、濃度22.1mg/mLのNa2CO3溶液50μLを加え、420nm付近の吸光度を測定した。
分子量301のONPGlcは、EDCで架橋されたベシクルを透過して内部に浸入し得る。また、ONPGlcはβ-グルコシダーゼの基質であり、β-グルコシダーゼによって加水分解されるとO-ニトロフェノールを生じる。O-ニトロフェノールは420nm付近にONPGlcにはないUV吸光ピークを有するため、このピークを観察することにより、β-グルコシダーゼの酵素活性を測定することができる。
【実施例】
【0212】
得られた吸光度の経時変化を図22のグラフに示す。図22のとおり、ベシクルがEDCで架橋されていたにもかかわらず、ベシクル内のβ-グルコシダーゼは、失活することなく酵素活性を発揮したことが分かる。本実験から、本発明の物質内包ベシクルが酵素担体としても極めて有効に利用できることが明らかである。
【実施例】
【0213】
[参考実験:混合による空ベシクルの構造の撹乱]
実施例V-1と同様の手順で得られた空ベシクル含有溶液について、ベシクル中のPEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mMNaCl)中)に加え、12時間室温で静置し、重合体の架橋を行った。架橋後、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布の測定を行った。GPCは、溶離液として10mM PB(pH7.4、150mM NaCl)を用い、カラムとしてSuperose 6TM 10/300 GL(GEヘルスケア社製)を用い、流速0.5ml/分でカラムに流通させ、UV検出器(220nm)及び蛍光検出器(Ex/Em=520/550nm)で検出して行った。
また、実施例V-1と同様の手順で得られた空ベシクル含有溶液について、ボルテックスミキサーで約2000rpm、攪拌・混合しながら、ベシクル中のPEG-P(Asp)に含まれるカルボキシル基に対して10等量のEDCを含む溶液(pH7.4の10mMリン酸緩衝液(0mMNaCl)中)を加え架橋を行った。架橋後、やはりGPCによる分子量分布の測定を行った。
混合前架橋溶液及び混合後架橋溶液について得られたGPCプロファイルをそれぞれ図23(a)及び(b)に示す。混合前架橋溶液のGPCプロファイル(図23(a)参照)において、12~3分前後に出現するピークは、大分子量のベシクルを表し、30分前後に出現するピークは、分子量がより小さな非会合体(ベシクルを形成しない重合体の集合)を表す。一方、混合後架橋溶液のGPCプロファイル(図23(a)参照)では、ベシクルのピークが消失し、非会合体のピークが増大している。この結果は、混合によって空ベシクルの構造が撹乱され、小会合体に分解したことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明によれば、水中で高分子の自己組織化により得られる空ベシクルの空隙部に物質を包含・担持させたベシクル(物質内包ベシクル)を、ベシクルの再生能力を用いて簡便且つ効率的に製造することができるので、薬物を送達するためのDDSや、バイオマテリアル・機能性材料等の分野において、その有用性は極めて高い。特に、静電相互作用型ベシクル(PICsome)へ直接の封入が難しい物質の封入法を開発し、封入物質の適用範囲を拡大した意義は大きい。実際、優れた血中滞留性・腫瘍集積性を示す平均粒径が100~200nmのPICsomeの応用範囲を拡大できた点で、著しく有用性が高い。
【0215】
また、本発明によれば、核酸が膜内に保持されたベシクルも提供されるが、膜内核酸含有ベシクルは、斯かる核酸を送達するDDSや、核酸を有効成分とするバイオマテリアル・機能性材料として有用である。また、空隙部に別の薬物を内包させることができるので、核酸と別の薬物とを組み合わせて送達するDDSとしても有用である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図9】
6
【図10】
7
【図12】
8
【図13】
9
【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
13
【図19】
14
【図20】
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【図22】
16
【図23】
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【図7】
18
【図8】
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【図11】
20
【図16】
21
【図21】
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