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明細書 :高脂血症治療剤のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5077901号 (P5077901)
登録日 平成24年9月7日(2012.9.7)
発行日 平成24年11月21日(2012.11.21)
発明の名称または考案の名称 高脂血症治療剤のスクリーニング方法
国際特許分類 C12Q   1/48        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/60        (2006.01)
C12Q   1/61        (2006.01)
FI C12Q 1/48 Z
C12Q 1/02
C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/60
C12Q 1/61
請求項の数または発明の数 7
全頁数 28
出願番号 特願2011-543277 (P2011-543277)
出願日 平成22年11月25日(2010.11.25)
国際出願番号 PCT/JP2010/070959
国際公開番号 WO2011/065389
国際公開日 平成23年6月3日(2011.6.3)
優先権出願番号 2009269593
優先日 平成21年11月27日(2009.11.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年6月4日(2012.6.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】井ノ口 仁一
【氏名】永福 正和
【氏名】速水 博考
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】高山 敏充
参考文献・文献 特開2003-238410(JP,A)
蛋白質核酸酵素,2003年,Vol. 48, No. 8,pp.1179-1183
J. Lipid Res.,2002年,Vol. 43,pp.205-214
Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,2003年,Vol. 100, No. 6,pp.3445-3449
戦略的創造研究推進事業 CREST研究領域「糖鎖の生物機能の解明と利用技術」,2009年,pp.64(1),65-105
Glycobiology,2005年,Vol. 15, No. 1,pp.21-29.
調査した分野 C12N 15/00-15/90
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
血中脂質レベル低下作用を示すGM3合成酵素特異的阻害剤のスクリーニング方法であって、以下:
(i) 被験物質の存在下または非存在下で、GM3合成酵素とその基質とを接触させる工程、
(ii) GM3合成量を低下させる被験物質を選択する工程、
(iii)選択された被験物質を非ヒト動物に投与する工程、および
(iv) 非ヒト動物の血中脂質レベルを測定する工程
を含む、スクリーニング方法。
【請求項2】
血中脂質レベル低下作用を示すGM3合成酵素特異的阻害剤のスクリーニング方法であって、以下:
(i) 被験物質とGM3合成酵素を発現する細胞とを接触させる工程、
(ii) GM3合成酵素の発現量を低下させる被験物質を選択する工程、
(iii)選択された被験物質を非ヒト動物に投与する工程、および
(iv) 非ヒト動物の血中脂質レベルを測定する工程
を含む、スクリーニング方法。
【請求項3】
前記GM3合成酵素を発現する細胞が、脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、神経細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージからなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記GM3合成酵素を発現する細胞が、遺伝子組み換えにより作製された形質転換細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
さらに、血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルを低下させる被験物質を選択する工程を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記非ヒト動物が通常よりも高い血中脂質レベルを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記非ヒト動物がマウスである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の高脂血症治療剤のスクリーニング方法を提供する。より詳細には、ガングリオシド、特にGM3の産生もしくは機能を阻害すること、またはGM3合成酵素の活性もしくは発現を阻害することにより血中脂質レベル低下作用を奏する物質のスクリーニング方法を提供する。本発明はまた、ガングリオシド、特にGM3の産生などを特異的に阻害する、高脂血症の治療に有効な医薬組成物などを提供する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞、脳梗塞などの動脈硬化に関する循環器疾患が年々増加しており、成人の主な死亡原因の1つとなっている。動脈硬化を引き起こす原因としては様々なものがあるが、高脂血症(高コレステロール血症、高トリグリセリド血症など)が最も重要な原因の1つとされている。この高コレステロール血症の治療には、HMG-CoA還元酵素阻害剤(特にスタチン系薬剤)、陰イオン交換樹脂製剤などの薬剤が用いられている。しかし、これらの薬剤はコレステロールの生合成以外にユビキノンやドリコール、ヘムAのような生体の機能維持に必要な成分の生合成も阻害するため、これに起因する副作用が懸念されている。
【0003】
近年、肥満により誘導される種々の代謝性疾患(インスリン抵抗性、2型糖尿病、高脂血症、動脈硬化、脂肪肝など)におけるスフィンゴ糖脂質(glycosphingolipid: GSL)の重要性が明らかになってきている。GSLはセラミドを基本骨格として種々の糖鎖が付加された分子群であり、血液中あるいはすべての細胞の細胞膜に存在している。体内においてGSLはセミラドを起点として一連の酵素反応によって生合成される(図1)。シアル酸を有するGSL はガングリオシドファミリーと呼ばれ、GM3合成酵素(sialic acid transferase I: SAT-I)によってラクトシルセラミド(LacCer)から合成されるGM3を起点としている(図1)。GSL生合成経路の初発段階であるグルコシルセラミド(GlcCer)生合成酵素に対する阻害剤としては、D-threo-1-phenyl-2-decanoylamino-3-morpholino-1-propanol (D-threo-PDMP)(非特許文献1)、D-threo-PDMPのアナログである(1R,2R)-nonanoic acid[2-(2,3-dihydro-benzo [1,4] dioxin-6-yl)-2-hydroxy-1-pyrrolidin-1-ylmethyl-ethyl]-amide-l-tartaric acid salt (Genz-123346)、N-(5-adamantane-1-yl-methoxy)-pentyl-1-deoxynojirimycin (AMP-DNM)などが挙げられる。これら阻害剤は、in vitroおよび肥満モデル動物でインスリン抵抗性を改善すること、脂肪肝改善効果を有すること、さらには血清中のトリグリセリド、遊離脂肪酸(およびコレステロールを低下させて肝臓から胆汁中へのコレステロールなどの排泄を促進すること(すなわちコレステロール逆転送系の活性化)などが報告され(非特許文献2~7)、臨床応用を目指した開発が進行中である。
【0004】
しかしながら、グルコシルセラミド合成酵素のノックアウトマウスが胎生致死であったことが報告されているので(非特許文献8)、この酵素の阻害剤の潜在的な副作用も懸念される。一方、GM3合成酵素のノックアウトマウスの寿命は野生型と同等であることから(非特許文献9)、GM3合成酵素の阻害によって起こる副作用は少ないと期待される。
【0005】
インスリン責任臓器(筋肉、肝臓および脂肪組織)に発現するGSLは、グルコシルセラミド(GlcCer)、ラクトシルセラミド(LacCer)、ガングリオシドGM3およびGM2のように多種多様である。YamashitaらはGM3合成酵素(SAT-I)の遺伝子欠損マウスを作製し、このマウスにおいて、図1に示す通常発現しているa-およびb-シリーズのガングリオシドが発現していないこと、ならびに高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性の発症を野生型マウスと比較したところ、SAT-I欠損マウスではインスリン抵抗性が軽減していることを報告した(非特許文献9)。

【非特許文献1】Inokuchi J & Radin N (1987) J. Lipid Res. 28, 565-571
【非特許文献2】Tagami S, Inokuchi Ji J, Kabayama K, Yoshimura H, Kitamura F, Uemura S, Ogawa C, Ishii A, Saito M, Ohtsuka Y, et al. (2002) J Biol Chem 277, 3085-3092
【非特許文献3】Zhao H, Przybylska M, Wu IH, Zhang J, Siegel C, Komarnitsky S, Yew NS, & Cheng SH (2007) Diabetes 56, 1210-1218
【非特許文献4】Zhao H, Przybylska M, Wu IH, Zhang J, Maniatis P, Pacheco J, Piepenhagen P, Copeland D, Arbeeny C, Shayman JA, et al. (2009) Hepatology 50, 85-93
【非特許文献5】Aerts JM, Ottenhoff R, Powlson AS, Grefhorst A, van Eijk M, Dubbelhuis PF, Aten J, Kuipers F, Serlie MJ, Wennekes T, et al. (2007) Diabetes 56, 1341-1349
【非特許文献6】van Eijk M, Aten J, Bijl N, Ottenhoff R, van Roomen CP, Dubbelhuis PF, Seeman I, Ghauharali-van der Vlugt K, Overkleeft HS, Arbeeny C, et al. (2009) PLoS One 4, e4723. Epub 2009 Mar 4723
【非特許文献7】Bijl N, van Roomen CP, Triantis V, Sokolovic M, Ottenhoff R, Scheij S, van Eijk M, Boot RG, Aerts JM, & Groen AK (2009) Hepatology 49, 637-645
【非特許文献8】YAMASHITA, T., et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 96, pp. 9142-9147, 1999
【非特許文献9】Yamashita T, Hashiramoto A, Haluzik M, Mizukami H, Beck S, Norton A, Kono M, Tsuji S, Daniotti JL, Werth N, et al. (2003) Proc Natl Acad Sci U S A 100, 3445-3449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明者らは、GM3合成酵素の制御に基づく治療の標的疾患として脂質代謝異常症を検証し、より安全性の高い新規の高脂血症治療薬、および高脂血症の予防・治療方法を提供するための手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意努力し、ガングリオシド生合成に関与する遺伝子(GM3合成酵素遺伝子)およびアポリポタンパク質E(apoE)の二重欠損マウス(SAT-I/apoE KOマウス)を作製し、このマウスを用いて種々の肥満誘導性代謝疾患におけるガングリオシドの機能的役割を個体レベルで解析した。その結果、GM3合成酵素を阻害することによって、血中脂質レベル(血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベル)を低下できることを確認し、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明は、血中脂質レベル(血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベル)を低下させる、高脂血症の治療に有効な物質のスクリーニング方法、ガングリオシド(特にGM3)の産生を選択的に阻害する高脂血症の治療に有効な医薬組成物、などを提供する。
【0009】
本発明は具体的には、以下に記載のスクリーニング方法、医薬組成物、治療方法などに関する:
[1] 血中脂質レベル低下作用を示す物質のスクリーニング方法であって、以下:
(i) 被験物質を非ヒト動物に投与する工程、および
(ii) 非ヒト動物の血中脂質レベルを測定する工程
を含む、スクリーニング方法。
[2] 血中脂質レベル低下作用を示す物質のスクリーニング方法であって、以下:
(i) 被験物質の存在下または非存在下で、GM3合成酵素とその基質とを接触させる工程、
(ii) GM3合成量を低下させる被験物質を選択する工程、
(iii)選択された被験物質を非ヒト動物に投与する工程、および
(iv) 非ヒト動物の血中脂質レベルを測定する工程
を含む、スクリーニング方法。
[3] 血中脂質レベル低下作用を示す物質のスクリーニング方法であって、以下:
(i) 被験物質とGM3合成酵素を発現する細胞とを接触させる工程、
(ii) GM3合成酵素の発現量を低下させる被験物質を選択する工程、
(iii)選択された被験物質を非ヒト動物に投与する工程、および
(iv) 非ヒト動物の血中脂質レベルを測定する工程
を含む、スクリーニング方法。
[4] 前記GM3合成酵素を発現する細胞が、脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、神経細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージからなる群より選択される、[3]に記載の方法。
[5] 前記GM3合成酵素を発現する細胞が、遺伝子組み換えにより作製された形質転換細胞である、[3]に記載の方法。
[6] さらに、血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルを低下させる被験物質を選択する工程を含む、[1]~[5]のいずれか1項に記載のスクリーニング方法。
[7] 前記非ヒト動物が通常よりも高い血中脂質レベルを有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 前記非ヒト動物がマウスである、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
[9] ガングリオシドの産生を特異的に抑制する物質を含有する、高脂血症の治療に有効な医薬組成物。
[9a] ガングリオシドの機能を選択的に抑制する物質を含有する、高脂血症の治療に有効な医薬組成物。
[10] 前記ガングリオシドがGM3である、[9]に記載の組成物。
[11] GM3に対する抗体、GM3合成酵素阻害剤またはGM3合成酵素の発現を阻害する物質を含有する、高脂血症の治療に有効な医薬組成物。
[12] 高脂血症の治療に有効な医薬組成物の有効量を非ヒト動物に投与することにより血中脂質レベルを低下させる、高脂血症の治療方法。
[13] 前記医薬組成物が、血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルを低下させる、[12]に記載の方法。
[14] 前記医薬組成物が、ガングリオシドの産生を選択的に阻害する物質を含む、[12]または[13]に記載の方法。
[15] 前記ガングリオシドがGM3である、[14]に記載の方法。
[16] 前記ガングリオシドの産生を選択的に阻害する物質が、GM3に対する抗体、GM3合成酵素阻害剤またはGM3合成酵素の発現を阻害する物質である、[15]に記載の方法。
[17] GM3に対する抗体、GM3合成酵素活性またはGM3合成酵素発現を制御することにより血中脂質レベルを制御する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医薬組成物は、ガングリオシドGM3の生合成を阻害することによって血中脂質レベル(血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベル)を低下させるので、臨床的にも新たな高脂血症の治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ガングリオシド生合成経路を示す。
【図2】図2は、GM3合成酵素遺伝子欠損マウス(SAT-I KO)の作製方法を示す。
【図3】図3は、SAT-I/apoE二重欠損(DKO)マウスの作成およびその遺伝子の確認を示す。
【図4】図4は、図3のSAT-I/apoE二重欠損マウスの体重および血中脂質量の測定結果を示す。
【図5】図5は、ゲルろ過高速液体クロマトグラフィーにより分画した、ApoE欠損マウスおよびSAT-I/ApoE二重欠損マウスの血漿リポタンパクのプロファイルを示す。
【図6】図6は、ApoE欠損マウスおよびSAT-I/ApoE二重欠損マウスの肝臓における脂質組成の変化を示す。
【図7】図7は、SAT-I欠損マウス、ApoE欠損マウス、およびSAT-I/ApoE二重欠損マウスの血漿中のスフィンゴ糖脂質の分析結果を示す。
【図8】図8は、SAT-I欠損マウス、ApoE欠損マウスおよびSAT-I/ApoE二重欠損マウスの肝臓中のスフィンゴ糖脂質の分析結果を示す。
【図9】図9は、SAT-I欠損マウスおよび野生型マウスの心臓、肝臓および筋肉におけるガングリオシド組成を測定した結果を示す。
【図10】図10は、高コレステロール食負荷したSAT-I欠損マウスにおける血漿脂質の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.本発明のスクリーニング方法
本発明は、(i) 被験物質を非ヒト動物に投与する工程、および(ii) 非ヒト動物の血中脂質レベルを測定する工程を含む、血中脂質レベル低下作用、すなわち血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルの低下作用を示す物質のスクリーニング方法を提供する。被験物質としては、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などが挙げられる。投与される被験物質は、1種でも複数種の組合せであってもよい。血中脂質レベルの測定は、上記の測定方法などの公知の方法を利用することができる。

【0013】
本発明において使用される「血中脂質レベル低下作用を示す物質」とは、血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルを低下させる物質をいう。より具体的には、本発明において使用される「血中脂質レベル低下作用を示す物質」は、これを投与した被験体より得られたサンプル中(血漿)のコレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルを基礎生化学実験法第5巻 脂質・糖質・複合糖質(日本生化学会編)に記載された方法によって測定される場合、対照と比較して10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは、80%以上の物質である。ただし、通常の血中脂質レベル程度までの低下を限度とする。

【0014】
血中脂質レベルの測定は、被験体より採取したサンプルについて、酵素法、免疫拡散法などを利用する公知の方法に従って測定できる。このような測定方法としては、例えば、上記の基礎生化学実験法第5巻 脂質・糖質・複合糖質(日本生化学会編)に記載の方法が挙げられる。また、各社よりトリグリセリドおよびコレステロールの測定キットも市販されている。例えば、コレステロール測定キットとしては、コレステロールE-テストワコー(和光純薬工業株式会社)、トリグリセリド測定キットとしてはTG-ENカイノス(株式会社カイノス)、遊離脂肪酸測定キットとしては、NEFA C-テストワコー(和光純薬工業株式会社)が挙げられる。

【0015】
また、本発明のスクリーニング方法は、コレステロールおよびトリグリセリドの測定法として現在までに開発されたいずれの方法であってもよい。より詳細には、本発明のスクリーニング方法は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やガスクロマトグラフィーの工程を含むことができる。詳細な原理などについては、例えば、基礎生化学実験法第5巻 脂質・糖質・複合糖質(日本生化学会編)を参照のこと。

【0016】
本発明において、「血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルを低下させる」とは、血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベルを、上記の定法により測定する場合、対照と比較して、これら濃度の少なくとも1つを、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上低下させることをいう。ただし、通常の血中脂質レベル程度までの低下を限度とする。

【0017】
このような血中脂質レベル(血中コレステロールレベルおよび/またはトリグリセリドレベル)を低下させる物質は、高脂血症の治療又は予防に有効である。本明細書中で使用される「高脂血症」とは、高リポタンパク質血症ともいい、遊離脂肪酸以外の血漿脂質が増加する状態を指す。健常成人の血漿中には、150~220mg/dlのコレステロール、50~140mg/dlのトリアシルグリセロールおよび150~220mg/dlのリン脂質が含まれており、これらはアポリポタンパク質と結合してリポタンパク質として分散されている。高脂血症は、主にトリアシルグリセロールが増加する高脂血症(例えば、I型高脂血症、IV型高脂血症、およびV型高脂血症)、および主にコレステロールが増加する高脂血症(例えば、家族性高コレステロール血症、家族性複合型高脂血症、およびIII型高脂血症)に分類できる(斯波真理子ら、新生化学実験講座4「脂質I 中性脂質とリポタンパク質」、東京化学同人、1993年、第11章)。

【0018】
このような血中脂質レベルを低下させる物質は、高脂血症の治療又は予防に有効であるだけでなく、例えば動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、末梢血管疾患、高LDL血症、低HDL血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、家族性高コレステロール血症、心臓血管障害、狭心症、虚血、心虚血、血栓症、心筋梗塞、再灌流障害、血管形成性再狭窄及び高血圧から選ばれる1種以上の疾患の治療又は予防にも有効である。

【0019】
上記のスクリーニング方法において用いられる被験体としての非ヒト動物は、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウマなど、医薬品の試験において一般に利用される動物が挙げられる。好ましくはサル、チンパンジー、ウサギ、ラット、マウスであり、より好ましくはマウスまたはラットである。

【0020】
本発明において、血中脂質レベル低下作用を示す物質は、特異的にGM3の機能を阻害する物質であってもよいし、GM3の種々の機能のうち特定の機能を選択的に阻害できる物質であってもよい。本明細書において使用されるスフィンゴ糖脂質とは、分子内に糖、脂肪酸及び長鎖塩基であるスフィンゴシンを含む脂質をいう。本明細書において使用されるガングリオシドは、シアル酸を含むスフィンゴ糖脂質ファミリーの総称であって、シアル酸を含む糖鎖がセラミドと呼ばれる脂質に共有結合で結合している分子である。今日では、様々な糖鎖構造のガングリオシドが知られており、GM3はその生合成経路における最初のガングリオシド分子である(図1を参照)。すなわち、すべての内在性のガングリオ系ガングリオシドは、セラミドを出発物質として、GM3合成酵素を最初とする一連の酵素反応によって生合成される。この中でGM3はすべてのガングリオシドの起点となる分子であり、ラクトシルセラミドからGM3生合成酵素(SAT-I)によって合成される。糖鎖部分は、細胞内のゴルジ体内腔で糖ヌクレオチドを供与体としてグリコシルトランスフェラーゼよりに逐次合成される。

【0021】
具体的なガングリオ系ガングリオシドの生合成経路について、図1に示されるように、GM3生合成酵素(SAT-I)によってGal-Glc-CerからGM3が生成され、このGM3よりa-シリーズ(GM3、GM2、GM1、GD1aおよびGT1a)、b-シリーズ(GD3、GD2、GD1b、GT1bおよびGQ1b)などの種々のガングリオシドが生成される。この図から、これらのガングリオシド分子群の生成がGM3合成酵素に依存していることが理解される。このことから、GM3は他のガングリオシドの原料としての機能を有している

【0022】
また、GM3が種々の増殖因子受容体の機能(Inokuchi J. and Kabayama K. (2007) Receptor Modifications in Glycobiology. Comprehensive Glycoscience 3, 733-744. (Elsevier Science & Technology)や分子輸送体を制御する機能(Glaros EN., et al. Glycosphingolipid Accumulation Inhibits Cholesterol Efflux via the ABCA1/Apolipoprotein A-I Pathway J. Biol. Chem. 280, 24515-24523, 2005)を担うことが報告されている。さらに,GM3の機能に関して、GM3がインスリン受容体をカベオラから乖離させるというインスリンシグナルの不応答に関する新たな分子機序が最近提唱されている(Kabayama K, et al., Glycobiology (2005) 15, 21-29、Kabayama K, et al., Proc Natl Acad Sci U S A (2007) 104, 13678-13683)。

【0023】
本発明において血中脂質レベル低下作用を示す物質は、特異的または選択的にGM3の機能を阻害する、GM3に対する抗体であってもよい。このような抗体としては、GM3に対して特異性を有する公知のモノクローナル抗体を挙げることができる(Kotani, M., et al.,:Biochem. Biophys. Acta,1117,97-103(1992))。このような抗体は、特定の実施態様において、脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、上皮細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージなどから得られた初代培養細胞、および種々の株化細胞(例えば、脂肪細胞ではマウス3T3-L1;肝細胞ではヒトHepG2;血管内皮細胞ではアセチル化LDLの取り込み活性を有する不死化血管内皮細胞株;マクロファージではRAW264.7などであるがこれに限定されるものではない)などの細胞の細胞膜においてGM3の作用を阻害し得る。本発明の文脈において、抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗イディオタイプ抗体、抗体フラグメント(例えば、Fab、およびF(ab')2、Fv可変領域、または相補性決定領域)を包含することが理解される。抗体は、10-7M以上、好ましくは10-8M以上のKaで結合するならば、抗原、すなわちGM3またはGM3合成酵素に対して特異的であることが理解される。モノクローナル抗体のアフィニティーは、当業者により容易に決定され得る(Scatchard,Ann.N.Y.Acad.Sci.51:660-672,1949を参照のこと)。

【0024】
本発明において、血中脂質レベル低下作用を示す物質は、「GM3合成酵素阻害剤」、すなわちGM3の生合成を特異的に抑制する物質であってもよい。本明細書中のGM3合成酵素(SAT-I)は、配列番号:2若しくは4のアミノ酸配列、またはそれらの配列に1~数個(1~9、1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2または1個)のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加の変異を有するアミノ酸配列を含有するタンパク質のことをいう。GM3の生合成について、図1に示したように、セラミド(Cer)にグルコシルセラミド合成酵素が作用してグルコシルセラミド(GlcCer)が合成され,次にラクトシルセラミド合成酵素によってラクトシルセラミド(LacCer)生成する。GM3合成酵素はこのLacCerを基質として認識し,GM3を合成する。すなわち、グルコシルセラミド合成酵素、ラクトシルセラミド合成酵素およびGM3合成酵素の基質アナログによる酵素反応の競合的阻害により、またはこれらの酵素に結合して非競合的にGM3合成量を低下できるものが挙げられる。

【0025】
本発明において、血中脂質レベル低下作用を示す物質は、特異的に「GM3合成酵素の発現を阻害する物質」であり得る。本明細書中のGM3合成酵素(SAT-I)のcDNAは、例えば配列番号:1又は3に示される。このようなGM3合成酵素の発現を特異的に阻害する物質としては、アンチセンス核酸、リボザイム、RNAi効果を有するdsRNA等が挙げられる。

【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」は、「ポリヌクレオチド」、「遺伝子」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1の塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。

【0027】
本発明に係る核酸は、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。

【0028】
本明細書における「GM3合成酵素の発現を阻害する物質」には、GM3合成酵素遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、DNAの発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。

【0029】
「GM3合成酵素の発現を阻害する物質」の一つの態様は、GM3合成酵素遺伝子と相補的なアンチセンス鎖をコードする核酸である。アンチセンス技術は、特定の内在性遺伝子の発現を特異的に抑制する方法として公知であり、種々の文献に記載されている(例えば、平島および井上: 新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現 (日本生化学会編, 東京化学同人) pp.319-347, 1993などを参照)。アンチセンス核酸は、例えば、配列番号:1または3に記載のcDNAの配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein, Nucleic Acids Res., 16: 3209-3221, 1988)などにより調製することが可能である。調製された核酸は、公知の方法で、直接的に細胞に適用される形態を利用でき、また公知の発現系を備えたベクターに組み込まれて適切に発現される形態で所望の細胞を形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換する細胞が持つ内因性遺伝子の転写産物と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンス核酸の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンス核酸の長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。

【0030】
本発明において、内在性のGM3合成酵素遺伝子の発現の抑制は、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいい、ターゲットとするDNAの転写産物を切断することにより、その遺伝子の機能を阻害する。リボザイムの設計についても種々の公知文献を参照することができる(例えば、FEBS Lett. 228: 228, 1988; FEBS Lett. 239: 285, 1988; Nucl. Acids. Res. 17: 7059, 1989; Nature 323: 349, 1986; Nucl. Acids. Res. 19: 6751, 1991; Protein Eng 3: 733, 1990; Nucl. Acids Res. 19: 3875, 1991; Nucl. Acids Res. 19: 5125, 1991; Biochem Biophys Res Commun 186: 1271, 1992など参照)。また、「DNAの発現を共抑制効果により抑制するRNAをコードするポリヌクレオチド」とは、「共抑制」によって、ターゲットとなるDNAの機能を阻害するヌクレオチドをいう。

【0031】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子で所望の細胞を形質転換することによっても達成することができる。ドミナントネガティブの形質を有する遺伝子とは、該遺伝子を発現させることによって、所望の細胞が本来持つ内在性の野生型遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有する遺伝子のことをいう。

【0032】
GM3合成酵素遺伝子の発現を抑制するために用いる核酸の他の一つの態様は、DNAの発現をRNAi効果により抑制するRNAである。「RNAi」とは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことを指す。ここで用いられるRNAとしては、例えば、21~25塩基長のRNA干渉を生ずる二重鎖RNA、例えば、dsRNA (double strand RNA)、siRNA(small interfering RNA)又はshRNA(short hairpin RNA)が挙げられる。このようなRNAは、リポソームなどの送達システムにより所望の部位に局所送達させることも可能であり、また上記二重鎖RNAが生成されるようなベクターを用いてこれを局所発現させることができる。このような二重鎖RNA(dsRNA、siRNA又はshRNA)の調製方法、使用方法などは、多くの文献から公知である(特表2002-516062号公報; 米国公開許第2002/086356A号; Nature Genetics, 24(2), 180-183, 2000 Feb.; Genesis, 26(4), 240-244, 2000 April; Nature, 407:6802, 319-20, 2002 Sep. 21; Genes & Dev., Vol.16, (8), 948-958, 2002 Apr.15; Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99(8), 5515-5520, 2002 Apr. 16; Science, 296(5567), 550-553, 2002 Apr. 19; Proc Natl. Acad. Sci. USA, 99:9, 6047-6052, 2002 Apr. 30; Nature Biotechnology, Vol.20 (5), 497-500, 2002 May; Nature Biotechnology, Vol. 20(5), 500-505, 2002 May; Nucleic Acids Res., 30:10, e46,2002 May 15等参照)。

【0033】
本発明のスクリーニング方法としては、非ヒト動物に被験物質を投与する前に、インビトロにおいて被験物質を一次スクリーニングする工程を含み得る。より詳細には、被験物質の存在下または非存在下で、スフィンゴ糖脂質合成酵素とその基質とを接触させる工程、およびその生成物の合成量を低下させる被験物質を選択する工程を含んでもよい。スフィンゴ糖脂質合成酵素およびスフィンゴ糖脂質の組合せとしては、好ましくはガングリオシド合成酵素およびガングリオシドの組合せであり、さらに好ましくはGM3合成酵素およびGM3の組合せである。その他のガングリオシド合成酵素とガングリオシドとの組合せは、図1に記載の組合せが挙げられる。

【0034】
例えば、上記のスクリーニング方法において使用されるGM3合成酵素としては、脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、神経細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージなどから得られた初代培養細胞および種々の株化細胞(例えば,脂肪細胞ではマウス3T3-L1;肝細胞ではヒトHepG2;血管内皮細胞ではアセチル化LDLの取り込み活性を有する不死化血管内皮細胞株;マクロファージではRAW264.7などであるがこれに限定されるものではない)などが発現する酵素を利用する方法、または遺伝子工学的手法、化学合成などより作製した酵素を利用する方法が挙げられる。好ましくは、配列番号1又は3に記載のヌクレオチド配列に由来する酵素である。作製されたこの場合のGM3合成酵素は、単離した状態であっても単離されていない状態であってもよい。例えば、GM3合成酵素は、これを有する上記の細胞を用いてもよいし、上記の細胞から精製されてもよい。また例えば、GM3合成酵素は、遺伝子組み換え手法により、種々の培養細胞、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞などをの宿主に、その宿主に対して適切な発現ベクターを導入することにより作製されてもよい。このような公知の方法としては、例えば、Molecular Cloning 3rd Ed.(J.Sambrook, et al, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 2001)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載の方法を参照できる。

【0035】
本発明のスクリーニング方法としては、非ヒト動物に被験物質を投与する前に、インビトロにおいて被験物質を、好適なレベルのスフィンゴ糖脂質合成酵素を発現する細胞、例えば脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、神経細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージなどから得られた初代培養細胞および種々の株化細胞(例えば,脂肪細胞ではマウス3T3-L1;肝細胞ではヒトHepG2;血管内皮細胞ではアセチル化LDLの取り込み活性を有する不死化血管内皮細胞株;マクロファージではRAW264.7などであるがこれに限定されるものではない)など、または遺伝子組み換え手法により作製された形質転換細胞に接触させ、これら細胞における選択的なスフィンゴ糖脂質の産生量を測定する工程を含むことができる。この場合に測定されるスフィンゴ糖脂質合成酵素およびスフィンゴ糖脂質の組合せとしては、好ましくはガングリオシド合成酵素およびガングリオシドの組合せであり、さらに好ましくはGM3合成酵素およびGM3の組合せである。好適なレベルの発現量とは、各細胞が由来する臓器において正常レベルまたはそれ以上の発現量をいう。その他のガングリオシド合成酵素とガングリオシドとの組合せは、図1を参照のこと。上記の形質転換細胞を作製するための遺伝子組み換え手法については、公知の方法、例えば、Molecular Cloning 3rd Ed.(J.Sambrook, et al, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 2001)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons 1987-1997などに記載の方法を利用できる。

【0036】
ガングリオシドの精製や定量的検出については公知の方法が挙げられ、例えば、Macher BA and Klock JC (J. Biol. Chem. 255, 2092-2096, 1980)やLedeen et al. (J. Neurochem. 21, 829-839, 1973)の方法を参照できる。また例えば、GM3などの種々のガングリオシドに特異的に作用する抗体を使用する定量的検出も可能である。このようなスクリーニング方法において被験物質によるGM3産生量の低下は、対照と比較して少なくとも10%以上、20%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、90%以上、100%である。

【0037】
上記のスクリーニング方法において、図1に記載されるガングリオシド、具体的には、GM3、GM2、GM1、GD1aおよびGT1a(a-シリーズ)、ならびにGD3、GD2、GD1b、GT1bおよびGQ1b(b-シリーズ)からなる群より選択される少なくとも1つのガングリオシドと、それぞれのガングリオシド合成酵素との選択的な組合せであってもよい。このようなスクリーニング方法において被験物質によるガングリオシド生成量の低下は、対照と比較して少なくとも10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、90%以上、100%である。

【0038】
本発明のスクリーニング方法としては、被験物質を好適なレベルのスフィンゴ糖脂質合成酵素を発現する細胞、例えば、脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、神経細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージなどから得られた初代培養細胞および種々の株化細胞(例えば,脂肪細胞ではマウス3T3-L1;肝細胞ではヒトHepG2;血管内皮細胞ではアセチル化LDLの取り込み活性を有する不死化血管内皮細胞株;マクロファージではRAW264.7などであるがこれに限定されるものではない)などと接触させて、この細胞における選択的なGM3合成酵素の発現量を測定する方法が挙げられる。GM3合成酵素の発現量を測定する方法として、GM3合成酵素の配列を利用したハイブリダイゼーションを介する方法が挙げられ、例えば、ノーザンブロット、担体上に固定化されたプローブを利用する方法、遺伝子チップを用いた方法、定量的PCRなどが挙げられる。このようなスクリーニング方法において、被験物質によるGM3合成酵素の発現抑制は、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは、80%以上、90%以上、100%である。

【0039】
本明細のスクリーニング方法における被験物質として、GM3合成酵素の発現を特異的に阻害するポリヌクレオチドが挙げられる。このようなGM3合成酵素発現阻害ポリヌクレオチドの形態としては、前述のアンチセンス核酸、リボザイム、二本鎖RNAなどの形態が挙げられる。これらのGM3合成酵素発現阻害ポリヌクレオチドは、公知の方法によって作製できる。さらにこれら核酸は、種々の化学修飾を受けてもよい。

【0040】
本発明のスクリーニング方法としてはまた、GM3合成酵素のプロモーターの下流にレポーター遺伝子を繋いだ、遺伝子組み換え動物由来の細胞または遺伝子組み換え細胞を用いて、被験物質をその細胞に接触させ、その細胞におけるレポーター遺伝子の発現量を測定する方法が挙げられる。この方法において使用される遺伝子組み換え細胞としては種々の細胞を用いることができるが、好ましくは、脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、神経細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージなどから得られた初代培養細胞および種々の株化細胞(例えば,脂肪細胞ではマウス3T3-L1;肝細胞ではヒトHepG2;血管内皮細胞ではアセチル化LDLの取り込み活性を有する不死化血管内皮細胞株;マクロファージではRAW264.7などであるがこれに限定されるものではない)などである。GM3合成酵素遺伝子の5’上流の遺伝子配列は、Kim J-W., et al., Gene 273, 163-171, 2001に記載され、そのプロモーターについては、Kim S-W., et al., Biochim. Biophys. Acta 1578, 84-89, 2002.; Choi H-J., et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 313, 142-147, 2004に記載されている。具体的には、例えば転写因子AP4、MZF1、SP1、ATF/CREB、NFY、IK2およびLYF1の推定結合部位が見出されており、またPMA誘導性プロモーターとして機能するCREBが挙げられている。使用されるレポーター遺伝子がコードするタンパク質としては、好ましくはホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼなど、種々の公知のものが挙げられる。これらレポータータンパク質は、公知の検出方法またはキットを用いて検出できる。このようなスクリーニング方法において、例えば、被験物質による刺激時のレポータータンパク質発現の抑制は、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、60%以上、さらに好ましくは80%以上、90%以上、100%である。

【0041】
2.本発明の医薬組成物
本発明は、血中脂質レベル低下作用を示す物質を含有する、高脂血症の治療および/または予防に有用な医薬組成物を提供する。

【0042】
本発明の医薬組成物は血中脂質レベル低下作用を有し、好ましくは高脂血症などの治療又は予防に用いることができる。あるいは本発明の医薬組成物は、血中脂質レベル低下作用によって治療できる疾患、例えば、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、末梢血管疾患、高LDL血症、低HDL血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、家族性高コレステロール血症、心臓血管障害、狭心症、虚血、心虚血、血栓症、心筋梗塞、再灌流障害、血管形成性再狭窄及び高血圧から選ばれる1種以上の疾患、好ましくは、アテローム性動脈硬化症、高LDL血症、低HDL血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症及び家族性高コレステロール血症などの治療又は予防に用いることができる。ただし、本発明の医薬組成物は、患者の異常な血中脂質レベルを通常レベル程度に低下させるものである。

【0043】
本発明の医薬組成物は、ガングリオシドの機能を特異的に阻害する物質を含有し得る。好ましくは、ガングリオシドとしてはGM3であり、ガングリオシドの機能を特異的に阻害する物質は抗GM3抗体であり得る。また、本発明の医薬組成物は、ガングリオシドの機能を選択的に阻害する物質を含み得る。例えば、GM3による細胞膜における種々の増殖因子受容体、輸送タンパク質、接着分子受容体や機能タンパク質の機能制御機能、他の種々のガングリオシドに対する原料供給機能の種々の機能のうちの特定の機能を選択的に阻害できる、抗体などの物質が挙げられる。

【0044】
本発明の医薬組成物は、ガングリオシドの産生を選択的に阻害する物質を含有し得る。このような物質としては、ガングリオシド合成酵素の阻害剤、この酵素の発現抑制物質など、上記の本発明のスクリーニング方法により得られる物質を含み得る。

【0045】
本発明の医薬組成物を使用する場合、例えば、経口、静脈、口腔粘膜、直腸、膣、経皮、鼻腔経由または吸入経由などですることができるが、経口的に投与するのが好ましい。本発明の医薬組成物の有効成分は単独で、あるいは組み合わせて配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明の有効成分は、例えば、製剤中、0.1~99.9重量%含有することができる。

【0046】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることが出来る。

【0047】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトースまたは乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液および/またはエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料または香味料、着色料または染料と併用する他、必要であれば乳化剤および/または懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。

【0048】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような水溶液は静脈内注射に適し、油性溶液は関節内注射、筋肉注射および皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。

【0049】
本発明の医薬組成物の投与量は特に限定されず、疾患の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。本発明の医薬組成物の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり1~5000mg、好ましくは10~1000mgである。これらの1日投与量は2回から4回に分けて投与されても良い。

【0050】
3.本発明の治療方法
本発明の治療方法において、血中脂質レベル低下作用を示す物質は、上述のとおり、血中脂質レベルを正常レベル程度に低下させる物質である。このような物質としては、脂肪細胞、肝細胞、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、骨格筋細胞、上皮細胞、神経細胞、繊維芽細胞、単球細胞、マクロファージなどから得られた初代培養細胞および種々の株化細胞(例えば,脂肪細胞ではマウス3T3-L1;肝細胞ではヒトHepG2;血管内皮細胞ではアセチル化LDLの取り込み活性を有する不死化血管内皮細胞株;マクロファージではRAW264.7などであるがこれに限定されるものではない)などに発現するスフィンゴ糖脂質の産生量を抑制する物質、これら細胞に発現するガングリオシドの産生量を抑制する物質、これら細胞に発現するGM3の産生量を抑制する物質、GM3合成酵素阻害剤、GM3合成酵素の発現を阻害する物質などが挙げられる。このような血中脂質レベル低下作用を示す物質を含む医薬組成物を上述のように製造して、これを必要とする被験体に投与できる。この場合、投与量および投与回数などについては、被験体の年齢、病歴、現在使用している薬剤などを医師が考慮した上で、適宜調整され得る。これによって、高脂血症などの予防・治療、または被験体の血中脂質レベルの制御が達成できる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であり、本発明はこれらの例に制限されるものではない。
【実施例】
【0052】
1.SAT-I KOマウスの作製
SAT-I KOマウスの作製に用いたターゲティングベクターの模式図およびノックアウトマウスにおける遺伝子欠損の確認をそれぞれ図2Aおよび図2Bに示す。図2Aの一番上にtargetting vector、2番目に野生型の遺伝子、3番目に変異体の遺伝子を示す。また、図2Bでは、PCRによるSAT-I ジェノタイプの決定を示す。野生型のSAT-I遺伝子アレル(エキソン2)の同定には、5’-GGAATCCATCCCTTTTCTCACAGAG-3(配列番号:5)および5’-TGAACTCACTTGGCATTGCTGG-3’(配列番号:6)をプライマーとして用いた。SAT-I ノックアウトの確認には、挿入されたネオマイシン耐性遺伝子を、5’-GGAATCCATCCCTTTTCTCACAGAG-3’(配列番号:7) と 5’-TGAACTCACTTGGCATTGCTGG-3’(配列番号:8)のプライマーをもちいた。図2Cにおいて、脳ガングリオシドのTLC分析の結果を示す。野生型マウス(+/+)およびヘテロマウス(+/-)では、GM1, GD1a, GD1b, GT1bなどが発現していたが、ノックアウトマウス(-/-)では、これらが全て消失し、代償的にGM1bおよびGD1aが発現していた(図1を参照)。
【実施例】
【0053】
2.SAT-I/apoE 二重欠損マウスの作製 apoEはカイロミクロン(CM)、超低比重リポタンパク(VLDL)、中間比重リポタンパク(IDL)、低比重リポタンパク(LDL)などのリポタンパク質を構成する主要なアポリポタンパク質の1つでコレステロールやトリグリセリドの運搬に関与している。apoEは主に肝細胞で産生され、リポタンパク質がLDL受容体、VLDL受容体、LDL-recepter related protein(LRP)受容体などに結合し細胞外の脂質を細胞内へ運び込む際のリガンドとして機能している。
独自に作成したSAT-I欠損マウス(Yoshikawa M, Go S, Takasaki K, Kakazu Y, Ohashi M, Nagafuku M, Kabayama K, Sekimoto J, Suzuki S, Takaiwa K, et al. (2009) Proc Natl Acad Sci U S A 106, 9483-9488. Epub 2009 May 9422)(図2)と、Matsushimaらによって樹立された自然発症型apoE欠損高脂血症モデルマウス(以下、apoE欠損マウス)(Matsushima Y, Hayashi S, & Tachibana M (1999) Mamm Genome 10, 352-357; Matsushima Y, Sakurai T, Ohoka A, Ohnuki T, Tada N, Asoh Y, & Tachibana M (2001) J Atheroscler Thromb 8, 71-79)とを交配させることによって、SAT-I/apoE二重欠損マウスを作成した(図3)。より詳細には、以下のとおりである。
SAT-IおよびapoEの各単独欠損マウス同士(F0世代)を交配することによって、両遺伝子ヘテロのF1世代を得た。続いてF1世代同士を交配して、F2世代においてSAT-I/apoE二重欠損マウスを得た(図3A)。
得られたSAT-I/apoE二重欠損マウスにおいて、ウエスタンブロット法によりapoEタンパク質の発現確認を行った。図3Bにおいて、矢印の位置のバンドがapoEタンパク質であり、レーンC1は正常マウス、レーンC2はapoE単独欠損マウスのコントロールサンプルを表す。
また、PCR法によるSAT-I遺伝子の発現確認も行った。具体的な方法は、図2Bと同様である。図3Cにおいて、レーンC3はSAT-I単独欠損マウスのコントロールサンプルを表し、矢印に付されたEx2は正常SAT-I遺伝子エキソン2、Neoはネオマイシン耐性遺伝子を表す。
【実施例】
【0054】
3.SAT-I/apoE二重欠損マウスの体重および血中脂質量の測定
野生型、SAT-IおよびapoE各単独欠損、SAT-I/apoE二重欠損マウス(すべて通常食を負荷した16-18週齢の雄)における体重および血中脂質レベルを検討した。具体的には、野生型、SAT-IおよびapoEの各単独欠損、SAT-I/apoE二重欠損マウス(すべて16-18週齢の雄)を16時間絶食した後、体重を計測してからへパリン採血を行った。脂質の分析は血漿を用いて行った。分析の結果、体重はすべての系統間で有意な差は認められなかった(図4A)。血漿中のコレステロール値およびTG値は、apoE単独欠損マウスでは既報のように489 mg/dlおよび89 mg/dlであり、野生型マウスのそれら(コレステロール値:63 mg/dl、TG値:72 mg/dl)に比べて著しい高値を示した(図4AとC)。一方、SAT-I/apoE二重欠損マウスでは、血漿中コレステロールおよびTG値は、それぞれ284 mg/dlおよび51 mg/dlのようにapoE単独欠損マウスのそれらの値と比して著しく低下していた(図4BとC)。特に、TG値は野生型と同じレベルまで正常化していた。このように、高脂血症モデルマウスにおける異常なコレステロール値およびTG値は、SAT-Iを欠損させることによって正常レベルに改善されることが判明した。また、血中遊離脂肪酸レベルはすべての系統間で有意な変動は認められなかった(図4D)。
【実施例】
【0055】
そこで,これらのマウスから回収した血清のリポタンパク質プロファイルを比較した。回収した血中リポタンパク質を、ゲルろ過高速液体クロマトグラフィーによりを粒子サイズによって分画(Usui S et al., J. Lipid Res. 43,805-814, 2002 に記載の方法で行った)し、各分画のコレステロールおよびトリグリセリドを定量し、波形グラフ(図5)および以下の表1に示した。SAT-I/apoE二重欠損(DKO)マウスではapoE欠損(apoE KO)マウスと比較して、血漿総コレステロールおよびトリグリセリドの減少が認められ、それらの減少は、主として、CM、VLDLおよびLDLのリポタンパク質の減少に起因することが明らかになった。
【表1】
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apoE KO の各値に対するDKO値の有意差を*: p<0.05,**: p<0.01, ***: p<0.001で示した。【0056】
次に,肝臓中の脂質レベルを検討した。各マウスより採取した肝臓にPBSを加えハサミで細かく切り刻んだ後、ポリトロトン ホモジナイザー 3100を用いてホモジネイトを行った。ホモジネイトした懸濁液を遠沈管に移した後、クロロホルム/メタノール(1:2,v/v)を加えて40℃でインキュベートすることによって脂質抽出を行った。続いて、遠心分離して上清を回収して、遠心沈殿物にクロロホルム/メタノール(2:1,v/v)を加えて 同様のインキュベートを行った後、遠心して上清を回収した。さらに、遠心沈殿物にヘキサンを加え40℃でインキュベートした。その後、遠心して上清を回収し、すべての上清を混合して総脂質抽出物とし、窒素乾固させた。総脂質抽出物から脂質成分をさらに精製するために、窒素乾固後にCHCl3 を加えて超音波破砕を行った後、精製水を加えて混和してから遠心分離を行った。遠心分離後、上層(水層)、中間層(タンパク質層)、下層(クロロホルム層)が見られ、この3層のうち下層のみ回収し、窒素乾固を行った。精製した総脂質抽出物を2%トリトンX-100および2%コール酸ナトリウムを含む水溶液に溶解した後、コレステロール量はコレステロールE-テストワコー(和光純薬工業株式会社)、トリグリセリド量はTG-ENカイノス(株式会社カイノス)を使用して測定した(図6)。コレステロールおよびトリグリセリドともにapoE欠損マウスでは野生型マウスと比べ有意な増加が見られたが(図6;*: p<0.05,**: p<0.01, ***: p<0.001)、SAT-I/apoE二重欠損マウスではapoE欠損マウスと比較して有意な差は見られなかった(図6;n.s.により示す)。【0057】
次に,apoE欠損マウス,SAT-I/apoE二重欠損マウスおよび野生型マウスの血漿中および肝臓中のスフィンゴ糖脂質の発現を解析した。スフィンゴ糖脂質分析法を以下に記す。マウス血漿1mlに対してクロロホルム/メタノール(1 : 1, v/v) を8 mL加えて水浴超音波装置にて超音波処理を行い、40℃でインキュベートした後、遠心分離して上清を回収した。遠心沈殿物に再度クロロホルム/メタノール(1 : 2, v/v) を8 mL加えて超音波処理し,40℃でインキュベートをした後、遠心分離して上清を回収し、先の上清と混合して窒素乾固して総脂質抽出物とした。総脂質抽出物を中性脂質と酸性脂質とに分離するため,グラスフィルター付きカラム (φ10mm) にDEAE-SephadexA-25 (GE Healthcare) を詰めたDEAEカラムを使用した。総脂質抽出物をクロロホルム/メタノール/精製水 (30 : 60 : 8, v/v) に溶解してDEAEカラムに添加した後、クロロホルム/メタノール/精製水(30 : 60 : 8, v/v) を流すことによって中性脂質を溶出した。続いて、クロロホルム/メタノール/1規定酢酸ナトリウム水溶液(30 : 60 : 8, v/v) を流すことによって酸性脂質を溶出した。それぞれの溶出物を窒素乾固した。次に、各脂質分画に含まれるグリセロ骨格を有する脂質を分解するためアルカリメタノリシスを行った。0.1Mの水酸化ナトリウムメタノール溶液を加えて超音波処理して40℃でインキュベートした後,1規定の塩化水素メタノール溶液を添加して溶液を中和した。続いて、50mM塩化ナトリウム水溶液を加えて混和してSep-Pak C18カートリッジ(Waters Associates社)に通した後、精製水を通して脱塩し、メタノールで1回目の脂質を溶出した。さらに、中性脂質画分ではクロロホルム/メタノール(2 : 1, v/v)を用いて、酸性脂質画分ではクロロホルム/メタノール(1 : 2, v/v) を用いて2回目の溶出を行った。溶出後,乾固させて,少量のクロロホルム/メタノールに溶かし、TLC用シリカゲルプレート (Merck社) にスポットした。脂質の分離は、まずクロロホルムのみで1回目の展開を行い、プレートを乾燥させた後、酸性脂質分画は、クロロホルム/メタノール/0.2%塩化カルシウム水溶液(55 : 45 : 10, v/v)で2回目の展開を行った。中性脂質分画は、クロロホルム/メタノール/精製水(60 : 40 : 10, v/v)で2回目の展開を行った。展開後、オルシノール硫酸試薬(糖鎖構造を有する化合物を呈色する試薬)を噴霧して120℃程度に加熱して発色させた。検出されたバンドはネットワークスキャナと画像処理ソフトウェア(Image J)により定量した。
図7に示すように,野生型マウスにおいて血漿中の主要なスフィンゴ糖脂質はGM2であり、apoE欠損マウスの中性画分ではGM2、GlcCer、LacCerが増加することが確認された。一方、SAT-I欠損マウスの酸性画分においても野生型と比較して少ないながらもGM2が検出された。また、SAT-I欠損マウスの中性画分においてLacCer、GA2の代償的な増加が認められた。SAT-I/apoE二重欠損マウスの酸性画分および中性画分においてもSAT-I欠損マウスと同様の発現パターンが見出された。
【実施例】
【0058】
次に肝臓中のスフィンゴ糖脂質の解析結果を図8に示す。野生型マウスにおいて肝臓中の主要なスフィンゴ糖脂質はGM2であることが確認された。一方、SAT-I欠損マウスの酸性画分において野生型と比較して少ないながらもGM2が検出された。また、SAT-I欠損マウスの中性画分において、LacCerおよびGA2の代償的な増加が認められた。また、apoE欠損マウスおよびSAT-I/apoE二重欠損マウスでは、それぞれ野生型マウスおよびSAT-I欠損マウスと同様の発現パターンが見られ、発現量には両群間に差は認められなかった。
図9にSAT-I欠損マウスおよび野生型の心臓、肝臓および筋肉におけるガングリオシドの解析結果を示す。GM2の発現が肝臓でのみ認められる。本研究に用いたSAT-I欠損マウスはSAT-I遺伝子のエキソン2およびその周辺部位がネオマイシン耐性遺伝子に置換されている(図2)。SAT-I遺伝子の肝臓での遺伝子解析の結果、肝臓特異的にエキソン2を必要とないSAT-I変異体が発現している可能性が示唆された。さらに、SAT-Iの酵素触媒部位をコードするエキソン6を欠損させた別のSAT-I欠損マウスでは肝臓にGM2が発現しないことが確認されており、このことはSAT-IがGM3を合成する唯一の酵素であることも示している。以上より、SAT-I欠損マウスの血漿および肝臓で認められるGM2については肝臓由来のものであると考えられる。
【実施例】
【0059】
以上の結果をまとめると,以下のとおりである。
1) 血漿総コレステロールおよび血漿トリグリセリド量は、apoE欠損マウスと比べてSAT-I/apoE二重欠損マウスでは約半分に減少していた。その減少はCM、VLDL、LDL分画に起因した。
2) 血漿および肝臓中のスフィンゴ糖脂質組成について、SAT-I遺伝子欠損によりガングリオシド量は減少し、代償的にGlcCer、LacCer、GA2、GA1など中性スフィンゴ糖脂質が増加した。
3) 内因性のコレステロールおよびトリグリセリド合成やそれらを輸送するVLDLの合成が行われる臓器である肝臓において、コレステロールおよびトリグリセリド量に違いがあるかを検討した。その結果、SAT-I/apoE二重欠損マウスではapoE欠損マウスと比較して有意な差が認められなかった。
1)と2)より、血漿や肝臓において、減少したガングリオシドまたは代償的に増加した中性スフィンゴ糖脂質により、コレステロールやトリグリセリドの合成、代謝、排出およびVLDLの合成、放出、組織への取り込みなどが影響を受けている可能性が示唆された。3)より、肝臓のコレステロールやトリグリセリド量に差が見られなくても、それらの合成、代謝、排出などには差があり、これらの総合的な結果として、血漿総コレステロールおよび血漿トリグリセリドの増加が抑制されていると考えられた。
【実施例】
【0060】
この結果をさらに確認するために,SAT-I欠損マウスに対して高コレステロール食を負荷して,血清中のコレステロールやトリグリセリド量について野生型マウスと比較した。
野生型マウスおよびSAT-I KOマウスに高コレステロール食負荷を10週間行った後、血清を採取した。総コレステロールおよび遊離脂肪酸の定量を和光純薬のキットを用いた実施した。総コレステロールの統計処理はSheffe’s F test、遊離脂肪酸の統計処理はTukey-Kramer法にて行った。その結果,野生型マウスに高コレステロール食負荷した際に認められる血清コレステロール値の上昇がSAT-I KOマウスに高コレステロール食負荷した際には全く認められなかった(図10)。
以上の結果より、SAT-I遺伝子発現制御によりガングリオシドの生合成を制御することによって(GSL全体の発現制御ではなく)、高脂血症を治療できる可能性が初めて明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、ガングリオシドGM3の選択的な制御により血中脂質レベルを正常レベル程度に低下できる、今までにない画期的な発明である。この発明に基づいた、高脂血症の新規の予防・治療方法、さらにはアテローム性動脈硬化症、高LDL血症、低HDL血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症及び家族性高コレステロール血症の新規の予防・治療法の開発が期待できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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