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明細書 :プレーナーパッチクランプ装置及びプレーナーパッチクランプシステム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年3月2日(2017.3.2)
発明の名称または考案の名称 プレーナーパッチクランプ装置及びプレーナーパッチクランプシステム
国際特許分類 C12M   1/42        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
FI C12M 1/42
C12Q 1/02
国際予備審査の請求
全頁数 34
出願番号 特願2015-534348 (P2015-534348)
国際出願番号 PCT/JP2014/072808
国際公開番号 WO2015/030201
国際出願日 平成26年8月29日(2014.8.29)
国際公開日 平成27年3月5日(2015.3.5)
優先権出願番号 2013180684
優先日 平成25年8月30日(2013.8.30)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LT , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG
発明者または考案者 【氏名】宇理須 恒雄
【氏名】ワン,ツーホン
【氏名】宇野 秀隆
【氏名】長岡 靖崇
【氏名】小林 啓
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】100099759、【弁理士】、【氏名又は名称】青木 篤
【識別番号】100077517、【弁理士】、【氏名又は名称】石田 敬
【識別番号】100087871、【弁理士】、【氏名又は名称】福本 積
【識別番号】100087413、【弁理士】、【氏名又は名称】古賀 哲次
【識別番号】100117019、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 陽一
【識別番号】100150810、【弁理士】、【氏名又は名称】武居 良太郎
【識別番号】100166165、【弁理士】、【氏名又は名称】津田 英直
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B063
Fターム 4B029AA27
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC03
4B029CC08
4B029DG10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS39
4B063QX04
要約 細胞配置領域(4)内に細胞は通過しないが液体は通過する貫通孔(3)を有する電気絶縁性基板(2)と、基板(2)の第一表面(2S)側で貫通孔(3)と連通可能に設けられ第一導電性液体を保持する第一液溜部(6)と、第一液溜部(6)と電気的導通可能に配置される第一電極部(7)と、基板(2)の第二表面(2S’)側で貫通孔(3)と連通可能に設けられ第二導電性液体を保持する第二液溜部(6’)と、第二液溜部(6’)と電気的導通可能に配置される第二電極部(7’)と、第二液溜部(6’)に第二導電性液体を送液する送液流路(8)と、第二液溜部(6’)から第二導電性液体を排液する排液流路(9)と、送液流路(8)及び/又は排液流路(9)に設けられ第二導電性液体の流通を許容又は停止し得ると共に、第二液溜部(6’)と第二電極部(7’)との電気的導通を許容又は停止し得るバルブ(10)とを有する、プレーナーパッチクランプ装置。
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞配置領域を有する第一表面及びその反対面である第二表面を有すると共に、細胞配置領域内に細胞を通過させないが液体を通過させ得る貫通孔を有する電気絶縁性基板と、
電気絶縁性基板の第一表面側で貫通孔と連通可能に設けられ、第一導電性液体を保持するための第一液溜部と、
第一液溜部と第一導電性液体を介して電気的導通可能に配置される第一電極部と、
電気絶縁性基板の第二表面側で貫通孔と連通可能に設けられ、第二導電性液体を保持するための第二液溜部と、
第二液溜部と第二導電性液体を介して電気的導通可能に配置される第二電極部と、
第二液溜部に連結され、第二液溜部に第二導電性液体を送液する送液流路と、
第二液溜部に連結され、第二液溜部から第二導電性液体を排液する排液流路と、
送液流路及び/又は排液流路に設けられ、第二導電性液体の流通を許容又は停止し得ると共に、第二液溜部と第二電極部との電気的導通を許容又は停止し得るバルブと
を有する、プレーナーパッチクランプ装置。
【請求項2】
電気絶縁性基板が細胞配置領域及びそれに対応する貫通孔をそれぞれ複数有するとともに、複数の細胞配置領域に対応して第二液溜部が複数設けられ、
送液流路が、送液主流路と、送液主流路から分岐され、複数の第二液溜部にそれぞれ連結される複数の送液支流路とを有し、
排液流路が、複数の第二液溜部にそれぞれ連結される複数の排液支流路と、複数の排液支流路が合流する排液主流路とを有し、
第二電極部が、送液主流路及び/又は排液主流路に設けられ、
バルブが、各送液支流路及び/又は各排液支流路に設けられる、
請求項1に記載のプレーナーパッチクランプ装置。
【請求項3】
バルブ閉時におけるバルブ前後の電気抵抗値が1メガオーム以上である、請求項1又は2に記載のプレーナーパッチクランプ装置。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載のプレーナーパッチクランプ装置と、
前記プレーナーパッチクランプ装置の各バルブの開閉を制御する制御部と、
前記プレーナーパッチクランプ装置の各電極部における電気信号を検出する電気検出部と
を備えるプレーナーパッチクランプシステム。
【請求項5】
前記プレーナーパッチクランプ装置を複数備える、請求項4に記載のプレーナーパッチクランプシステム。
【請求項6】
前記プレーナーパッチクランプ装置に配置された細胞に由来する光信号を検出する光検出部を更に備える、請求項4又は5に記載のプレーナーパッチクランプシステム。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のプレーナーパッチクランプ装置、又は請求項4~7のいずれか1項に記載のプレーナーパッチクランプシステムを用いて、神経ネットワークに影響を与える薬剤をスクリーニングする方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜の電気活動に伴う電流等を計測するプレーナーパッチクランプ装置及びプレーナーパッチクランプシステムに関する。また、プレーナーパッチクランプ装置又はプレーナーパッチクランプシステムを用いた薬剤のスクリーニング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
細胞膜に埋め込まれている膜タンパク質であるイオンチャンネルは、生体系の信号伝達に関わる重要なタンパク質である。斯かるイオンチャンネルの機能の計測や、当該機能を利用した薬品開発において、イオンチャンネルを流れる電流を計測することが求められる。斯かる要求に応え、イオンチャンネル電流を計測する技術として開発されたのが、パッチクランプ法である。
【0003】
パッチクランプ法として最初に開発されたのはピペットパッチクランプ法であるが、細胞のイオンチャンネル電流を単点でしか記録できず、多点計測によるハイスループットスクリーニングに応用できないという課題があった。斯かる課題を解決する技術として、プレーナーパッチクランプ法が開発された。プレーナーパッチクランプ法は、例えば特表2003-511668号公報(特許文献1)、特表2005-536751号公報(特許文献2)等に開示されるように、シリコンチップ等の固体基板に複数の微細な貫通孔を設けるとともに、各貫通孔上に細胞を配置し、電極を用いて各細胞のイオンチャンネル電流を計測することにより、イオンチャンネル電流の多点計測を可能にしたものである。具体的には、基板上の細胞の周囲にバス溶液、基板の貫通孔の下部にピペット溶液をそれぞれ配置し、バス溶液及びピペット溶液にそれぞれ電気的に導通された電極(上部電極及び下部電極)を配置して、電極間に膜電位を印加することにより、イオンチャンネル電流が測定される。
【0004】
本発明者等はこれまで、プレーナーパッチクランプ法に対して種々の改良を提案してきた。例えば、特開2009-204407号公報(特許文献3)及びUrisu et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, (2008), 391:2703-2709(非特許文献1)には、基板貫通孔の周縁に細胞外マトリックス形成物質を設けることにより、貫通孔の開口部に配置された細胞の寿命を延長して、細胞を培養しながらイオンチャンネル電流を測定することを可能とした、培養型プレーナーパッチクランプ装置が開示されている。国際特許公開第2013/094418号パンフレット(特許文献4)には、電極容器末端を無機多孔質材料で構成し、飽和電極溶液を密閉した電極部(塩橋型電極部)を用いることで、膜電位変動を防止してノイズを低減し、電流測定精度を向上させたプレーナーパッチクランプ装置が開示されている。国際特許出願第PCT/JP2013/57976号(WO2014/045618:特許文献5)には、細胞培養基板の貫通孔を含む細胞配置領域に、突起部で囲まれた細胞定着箇所を形成することで、神経細胞移動を制約しつつ神経ネットワークを構成させることを可能とし、電流測定精度を向上させたプレーナーパッチクランプ装置が記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2003-511668号公報
【特許文献2】特表2005-536751号公報
【特許文献3】特開2009-204407号公報
【特許文献4】国際公開第2013/094418号
【特許文献5】国際公開第2014/045618号
【0006】

【非特許文献1】Urisu et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, (2008), 391:2703-2709
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、プレーナーパッチクランプ装置では、基板貫通孔下に、ピペット溶液等の導電性液体を保持する液溜部が配置されると共に、斯かる液体の導入や交換のために、液溜部に送排液用の流路が連結される。下部電極は通常、斯かる流路に設けられる。しかし、斯かる送排液流路を介して導電性液体が漏液し易いと共に、非測定時にも斯かる送排液用流路を介して下部電極に電流が漏電し易く、電極が劣化し易いという課題があった。
【0008】
また、プレーナーパッチクランプ装置を各種のスクリーニングに応用する場合、そのハイスループット化は極めて重要である。原理的には、単一チャンネルのパッチクランプ装置を多数配置することによって、ハイスループット化が達成される。しかし、斯かる構成のパッチクランプ装置では、装置全体が大型化して嵩張ってしまう上に、装置毎に電極を配置しなければならず、その保守や交換の作業が必要となるという課題があった。
【0009】
特に、培養型プレーナーパッチクランプ法では、前記特開2009-204407号公報(特許文献3)に記載のように、貫通孔の周縁に細胞外マトリックス形成物質を付着した基板が使用される。このため、前記国際公開第2013/094418号パンフレット(特許文献4)に開示されるように、トラップされた細胞の細胞膜と基板表面との間に僅かな隙間が生じ、これによってシール抵抗が低下する上に、斯かる隙間を流れるリーク電流のため、印加膜電位の変動に対してノイズ電流が大きくなるという課題があった。よって、印加膜電位の変動を低減するために、銀線表面をクロライド化したAgCl/Ag線を容器に収納し、KCl及びAgClを各々飽和状態で溶解させた飽和電解液で容器を充填した上で、電極容器末端を無機多孔質材料で構成し、飽和電極溶液を密閉した、精密且つ繊細な電極部(塩橋型電極部)が用いられる。電極部は、短期間(例えば一日等)使用の毎に、電極部の解体や洗浄、飽和電解液の交換、更には電極部自体の交換等の作業が必要となる。塩橋型電極部内の飽和電解液の交換時には、気泡が入らないよう細心の注意を払う必要があり、その結果、保守に費やす作業や時間が膨大なものになる。多チャンネルでは保守がさらに大変になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は斯かる課題に鑑み鋭意検討した結果、基板の細胞配置面とは反対側の液溜部と電極部との間の送排液流路にバルブ(好ましくはマイクロバルブ)を配置し、当該バルブによって電解液の流通及び電気的導通の許容/停止を制御する構成のプレーナーパッチクランプ装置を創案し、これによって上記課題が解決されることを見出した。
【0011】
即ち、本発明の主旨は、以下に存する。
[1]
細胞配置領域を有する第一表面及びその反対面である第二表面を有すると共に、細胞配置領域内に細胞を通過させないが液体を通過させ得る貫通孔を有する電気絶縁性基板と、
電気絶縁性基板の第一表面側で貫通孔と連通可能に設けられ、第一導電性液体を保持するための第一液溜部と、
第一液溜部と第一導電性液体を介して電気的導通可能に配置される第一の電極部と、
電気絶縁性基板の第二表面側で貫通孔と連通可能に設けられ、第二導電性液体を保持するための第二液溜部と、
第二液溜部と第二導電性液体を介して電気的導通可能に配置される第二電極部と、
第二液溜部に連結され、第二液溜部に第二導電性液体を送液する送液流路と、
第二液溜部に連結され、第二液溜部から第二導電性液体を排液する排液流路と、
送液流路及び/又は排液流路に設けられ、第二導電性液体の流通を許容又は停止し得ると共に、第二液溜部と第二電極部との電気的導通を許容又は停止し得るバルブと
を有する、プレーナーパッチクランプ装置。
[2]
電気絶縁性基板が細胞配置領域及びそれに対応する貫通孔をそれぞれ複数有するとともに、複数の細胞配置領域に対応して第二液溜部が複数設けられ、
送液流路が、送液主流路と、送液主流路から分岐され、複数の第二液溜部にそれぞれ連結される複数の送液支流路とを有し、
排液流路が、複数の第二液溜部にそれぞれ連結される複数の排液支流路と、複数の排液支流路が合流する排液主流路とを有し、
第二電極部が、送液主流路及び/又は排液主流路に設けられ、
バルブが、各送液支流路及び/又は各排液支流路に設けられる、
項目[1]に記載のプレーナーパッチクランプ装置。
[3]
バルブ閉時におけるバルブ前後の電気抵抗値が1メガオーム以上である、項目[1]又は[2]に記載のプレーナーパッチクランプ装置。
[4]
項目[1]~[3]の何れか一項に記載のプレーナーパッチクランプ装置と、
前記プレーナーパッチクランプ装置の各バルブの開閉を制御する制御部と、
前記プレーナーパッチクランプ装置の各電極部における電気信号を検出する電気検出部と
を備えるプレーナーパッチクランプシステム。
[5]
前記プレーナーパッチクランプ装置を複数備える、項目[4]に記載のプレーナーパッチクランプシステム。
[6]
前記プレーナーパッチクランプ装置に配置された細胞に由来する光信号を検出する光検出部を更に備える、項目[4]又は[5]に記載のプレーナーパッチクランプシステム。
[7]
項目[1]~[3]のいずれか一項に記載のプレーナーパッチクランプ装置、又は項目[4]~[7]のいずれか1項に記載のプレーナーパッチクランプシステムを用いて、神経ネットワークに影響を与える薬剤をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプレーナーパッチクランプ装置によれば、基板(2)下部の液溜部に連結された送排液流路における液体(電解液等)の流通及び電気的導通を、バルブによって共に制御することができるため、送排液流路を介した漏液や漏電を確実に防止することが可能となる。これにより、非測定時の漏電による電極の劣化を防ぐことができる。また、基板下部の液溜部の液体の交換もより容易となる。
【0013】
また、複数のパッチクランプ装置を配置した多チャンネル型パッチクランプでも、電極部を共通化することができ、電極部の保守作業を簡略化・短縮することが可能になる。特に、電極部の保守作業が煩雑な培養型プレーナーパッチクランプ装置では、斯かる電極部の保守作業の簡略化・短縮の利点は極めて大きく、装置のハイスループット化に大いに寄与する。更には、電極部の共通化によって、装置の小型化も可能となる。
【0014】
更に、本発明のプレーナーパッチクランプ装置を複数設けた複合型のプレーナーパッチクランプシステムによれば、プレーナーパッチクランプ装置間でも電極部を共通化することが可能となる。これにより、更なるハイスループット化が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、単一チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1)の構成の一例を表す概略図である。
【図2】図2は、塩橋型電極部(7,7’)の構成の一例を表す概略図である。
【図3】図3(a)~(c)は、マイクロバルブ(31)の構成の一例を表す概略図である。図3(a)は、マイクロバルブ(31)の斜視図であり、図3(b)は、図3(a)のマイクロバルブ(31)の上面図であり、図3(c)は、図3(a)のマイクロバルブ(31)のa-a’及びb-b’断面図を示す。図3(a)~(c)において、左側の図は閉状態のマイクロバルブ(31)を、右側の図は開状態のマイクロバルブ(31)を示す。
【図4A】図4A及びBは、多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1a)の構成の一例を表す概略図である。
【図4B】図4A及びBは、多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1a)の構成の一例を表す概略図である。
【図4C】図4Cは、電極部を2つ設けた場合の多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置の構成の一例を表す概略図である。
【図5】図5(a)は、多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1a)を複数設けた複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)の構成の一例を表す概略図である。図5(b)は、図5(a)の複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)が有する流路系の構成の一例を説明するための概念図である。図5(c)は、図5(a)の複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)における4つの多チャンネル型プレーナーパッチクランプ基板を配置した基板配置領域を表す概略図である。
【図6】図6は、多チャンネル(5チャンネル)型プレーナーパッチクランプ基板の一例を表す概略図である。
【図7】図7は、多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置のバルブ(10)の制御系の構成の一例を表す概念図である。
【図8】図8(a)は、図5に示す複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)の20チャンネルの内の1チャンネルを利用して行ったCa2+イメージングの画像を示す。図8(b)は、図8(a)に示す細胞1に対して2回の電流注入を行った際に、図8(a)に示す細胞1~4に観察された活動電位をCa2+イメージング化して得られた蛍光強度の経時変化を表すグラフである。
【図9】図9は、図5に示す複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を用いたチャンネルロドプシン発現細胞におけるチャンネル電流の経時変化を表すグラフである。
【図10】図10は、細胞定着箇所に神経細胞を配置し、神経ネットワークを形成させたことを光学顕微鏡で観測した写真である。
【図11A】図11Aは、貫通孔に配置された神経細胞に小孔を開けてホールセルモードを形成した場合に、印加膜電位に応じて生じたチャンネル電流を示す。NoNT-n30は、ナイアシン添加せずに、ホールセルモードになっていない場合のチャンネル電流を示し、その場合電流変化がほぼ生じていないことが示される。
【図11B】図11Bは、グルタミン酸を添加した場合における、印可膜電位に応じて生じたチャンネル電流を示す。
【図11C】図11Cは、グルタミン酸の添加後に、AMPA受容体アンタゴニストおよびNMDA受容体アンタゴニストを添加した場合のチャンネル電流を示す。
【図12】図12は、図11の印加膜電位-20mVのチャンネル電流に着目して、観測されている一つ一つのパルス状波形の面積を計算してグラフ化した図である(図12(a)~(c)。横軸は各パルスの面積、縦軸は所定の面積のパルスの数である。チャンネル電流パルスの総和を図12(d)に示した。
【図13】図13は、形成された神経ネットワークにおけるCa2+イメージングの結果を示す写真である。図13(a)は、未添加状態でCa2+イメージング計測を行った結果であり、図13(b)は、その後に10μM濃度のグルタミン酸を加えた緩衝溶液(500μL)を添加した状態でCa2+イメージングを行った結果であり、図13(c)は、グルタミン酸の添加後に、2.5mMのD-AP5および2.5mMのCNQXを添加した状態でCa2+イメージングを行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[概要]
本発明のプレーナーパッチクランプ装置は、基板の細胞配置面とは反対側の液溜部と電極部との間の流路にバルブ(好ましくはマイクロバルブ)を配置し、当該バルブによって電解液の流通及び電気的導通の許容/停止を制御する構成を有する。プレーナーパッチクランプ装置においては、単一チャンネル装置毎に、送液流路及び排液流路という一対の流路が設けられる。

【0017】
本発明者等は、送液流路及び/又は排液流路にバルブ、好ましくはマイクロバルブを設けることにより、全体の動作時間を大きく変えることなく、電極部を共通化し、装置の小型化及び保守作業の簡略化・短縮を達成できることを見出した。

【0018】
即ち、マイクロバルブがマイクロ流路を開閉するのに必要とする時間は、通常は数秒以下である。また、電極からのチャンネル電流を記録する際に、あるチャンネルから別のチャンネルに切り替える際の電子回路の応答速度は、通常はマイクロ秒程度と極めて速い。本発明者等はこれらの点に着目し、複数(例えばn個)の単一チャンネル装置に接続された複数(例えばn本)の支送液流路及び排液流路を、それぞれ一本の送液主流路及び排液主流路に連結するとともに、送液主流路及び/又は排液主流路内の溶液に導通するように単一の電極を設置し、測定対象となる単一チャンネル装置の送液支流路及び/又は排液支流路のみをマイクロバルブで開状態にして測定する構成を創案した。

【0019】
斯かる構成により、全体の動作時間を大きく変えることなく、電極の数を(例えば1/nに)減らすことが可能となる。また、マイクロバルブは電極に比べて大幅に小さいので、装置全体の寸法も大幅に小型化することが可能となる。

【0020】
[単一チャンネル型パッチクランプ装置]
まず、単一チャンネル型のプレーナーパッチクランプ装置(これを適宜「単一チャンネル装置」と略称する。)について説明する。単一チャンネル装置は、プレーナーパッチクランプ法による測定が可能な単一の構造単位(これを「チャンネル」と呼ぶ)を有する装置である。
図1に、本発明の一実施形態に係る単一チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(単一チャンネル装置)(1)の模式断面図を示す。但し、本発明のプレーナーパッチクランプ装置は、図1の単一チャンネル装置(1)に限定されるものではない。

【0021】
図1の単一チャンネル装置(1)は、第一表面(2S)及び第二表面(2S’)を有する電気絶縁性基板(2)を有する。電気絶縁性基板(2)の第一表面(2S)には細胞配置領域(4)が配置され、細胞配置領域(4)内には第一表面(2S)と第二表面(2S’)とを連通する貫通孔(3)が設けられる。当該貫通孔(3)の大きさは、細胞配置領域(4)に配置される細胞(5)を通過させないが、液体は通過させ得る大きさに設定される。従って、貫通孔(3)の内径は、使用する細胞(5)の大きさに応じて適宜選択すればよい。例えば、神経細胞を用いる観点からは、貫通孔(3)の内径は1~3μm程度が好ましいが、これに限定されない。

【0022】
電気絶縁性基板(2)の材料も制限されない。例としては、ガラス製、セラミックス製、プラスチック製等の基板を任意に選択することができる。但し、下面からのレーザーの照射や、顕微鏡による観察を行う観点からは、透明基板であることが好ましい。また、電気絶縁性基板(2)は、単一材料から形成されてもよいし、複数の材料を混合又は積層することにより形成されてもよい。一例として、シリコン基板を用いる場合、第一表面(2S)側のシリコン層と、中間の酸化シリコン層と、第二表面(2S’)側のシリコン層とが順次に積層された構造を有するシリコン基板(SOI(Silicon on Insulator)基板)が好ましい。このような積層構造のシリコン基板においては、極めて絶縁性の高い中間層が二つのシリコン層間に存在するので、測定対象細胞(5)のイオンチャンネル閉鎖時に高抵抗状態を確立でき、バックグラウンドのノイズを低減できる。

【0023】
SOI基板を用いる場合、中間層の厚さは、寄生容量低減と絶縁抵抗増大の観点からは厚い方が好ましい。また、中間層の厚さが十分でないと、容量が大きくなり、抵抗が低くなってノイズが増大する場合がある。よって、中間層の厚さは、例えば5nm以上、なかでも10nm以上、さらには100nm以上であることが好ましい。一方で、中間層が厚すぎると、孔開け加工が簡単でなくなる場合がある。これらの観点から、中間層の厚さは、10μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下である。

【0024】
また、基板(2)表面の貫通孔(3)周辺部に、細胞(5)が固体表面で生存するのに必要な細胞外マトリックス形成物質を塗布し、その上に細胞(5)を配置することが好ましい。これにより、細胞(5)を培養しながらそのチャンネルイオン電流を継続的・長期的に測定することが可能となる。斯かる細胞外マトリックス形成物質を用いた培養型プレーナーパッチクランプ法の詳細については、本発明者等による特開2009-204407号公報(特許文献3)及びUrisu et al., Analytical and Bioanalytical Chemistry, (2008), 391:2703-2709(非特許文献1)を参照のこと。使用されうる細胞外マトリックス形成物質としては、ポリリジン、コラーゲン(I型、II型、IV型)、フィブロネクチン、ラミニン、プロテオグリカン(バーシカン、デコリンなど)、プロテオグリカン(アグリカン)、リンクタンパク質、エンタクチン、テネイシン、プロテオグリカン〔コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(パールカンなど)、ケラタン硫酸プロテオグリカン、デルマタン硫酸プロテオグリカン〕、ヒアルロン酸(グリコサミノグリカンの一種)、エラスチン、フィブリンなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。

【0025】
また、基板(2)表面の貫通孔(3)周辺部に、突起部(後記[複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置]において説明する図6の符号(25)参照)で囲まれた細胞定着箇所を形成することも好ましい。これにより、特に神経細胞を測定対象とする場合に、神経細胞の移動を制約しつつ神経ネットワークを構成させることが可能となる。斯かる突起部(25)で囲まれた細胞定着箇所を用いたプレーナーパッチクランプ法の詳細については、本発明者等による国際特許出願第PCT/JP2013/57976号(WO2014/045618)を参照のこと。具体的には、基板表面上の貫通孔(3)の周囲に、複数、例えば3、4、5、6、又はそれ以上の突起部(25)を設けて細胞(5)の移動を妨げることができる。かかる突起部(25)間には、神経細胞の細胞体を通過させない限りにおいて広い間隔が設定されており、かつ複数の突起部(25)により規定される細胞定着箇所の内径が、1~9個の、好ましくは1~5個の神経細胞の細胞体を収容できるサイズである。突起部(25)の代わりに、細胞(5)より大きな幅と深さを有する凹部を形成して、細胞定着箇所とすることもできる。更に、これらの複数の凹部を細胞体より小さな幅の溝で相互に連絡することにより、神経細胞の移動を制約しつつ神経ネットワークを構成させることが可能となる。

【0026】
電気絶縁性基板(2)の第一表面(2S)側には、貫通孔(3)と連通可能に第一液溜部(6)が設けられる。第一液溜部(6)には、細胞配置領域(4)に配置される細胞(5)の周囲に充填された第一導電性液体(例えばバス溶液と呼ばれる緩衝液や培養液等)が保持される。第一液溜部(6)は、例えば、主液溜部(6a)と副液溜部(6b)とが導入用通液路(6c)を介して電気的に連通された構成を有する。第一液溜部(6)には、導電性液体を導入したり排出したりするための通液路を備えてもよいし、または、蓋部材(13)により開閉可能な開口部を備えてもよい。

【0027】
第一導電性液体は、細胞配置領域(4)に配置した細胞(5)の培養や、パッチクランプ法による電気信号の検出を可能にする液体である。例えば、第一導電性液体として、細胞培養液を用いて、細胞を培養後、パッチクランプによる電気信号の検出を行うためのバス溶液に置換して用いることもできる。また、バス溶液に置換せずに、細胞培養液のまま、パッチクランプを行ってもよい。細胞培養液は、細胞種や分化段階に応じて、任意の細胞培養液や分化誘導培養液を適宜選択することができる。細胞培養液の例として、イーグル培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF10、F12培地などの基礎培地に、塩類、血清、抗生物質、成長因子、微量栄養素等の添加剤を加えた培地を用いることができる。細胞配置領域(4)に幹細胞、例えばiPS細胞、ES細胞や神経幹細胞、さらには分化途上の細胞を播種し、培養して、所望の細胞、例えば神経細胞へと分化させて、本発明のプレーナーパッチクランプ装置において電気信号の検出をおこなってもよい。その場合、幹細胞培養液、分化誘導培養液、神経細胞培養液はそれぞれ異なる培養液であってよく、順次置換して用いることができる。運動ニューロンやグリア細胞の培養液としては、上記の細胞培養液に、微量栄養素としてレチノイン酸、ソニックヘッジホック、cAMPなどが添加されてもよいし、成長因子として、インスリン、トランスフェリン、インスリン様成長因子(IGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、培養グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)が添加されてもよい。バス溶液は、パッチクランプ法において用いられるバス溶液であれば任意の溶液であってよい。第一導電性液体には、細胞に刺激を与えるため、又は細胞のイメージングを可能にするため、各種試薬が添加されることもある。

【0028】
また、第一導電性液体を介して第一液溜部(6)と電気的に導通されるように、第一電極部(7)が配置される。この第一電極部(7)は、第一液溜部(6)(例えばその副液溜部(6b))内の第一導電性液体に挿入された状態で配置される。また、第一電極部(7)にはアース電位が印加され、これにより第一液溜部(6)内の第一導電性液体は、基準電位となるように維持されうる。

【0029】
一方、電気絶縁性基板(2)の第二表面(2S’)側には、貫通孔(3)と連通可能に第二液溜部(6’)が設けられる。第二液溜部(6’)には、第二導電性液体が保持される。第二導電性液体は、細胞(5)の培養や、パッチクランプ法による電気信号の検出を可能にする液体である。例えば、第二導電性液体として、細胞培養液を用いて、細胞(5)を培養後、パッチクランプによる電気信号の検出を行うためのピペット溶液などの緩衝液に置換して用いることもできる。また、貫通孔(3)は非常に微小な孔であることから、細胞培養液を用いずに、最初からピペット溶液を用いて細胞(5)を培養してもよい。細胞培養液は、第一導電性液体に用いられる細胞培養液と同じであってもよいし、異なる組成の培養液であってもよい。ピペット溶液は、パッチクランプ法において用いられるピペット溶液であれば任意の溶液であってよい。第二導電性溶液には、イオンチャンネルの開閉に係わる化学物質や、その他実験に用いる試薬を溶解させて用いてもよい。別の態様では、細胞膜に微小な孔を穿孔する目的で、細胞膜穿孔性の抗生物質を添加した第二導電性液体を第二液溜部(6’)に導入することができる。細胞膜穿孔性の抗生物質としては、ポリエン系の抗生物質、例えばアムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシンなどが挙げられる。

【0030】
第一液溜部(6)及び第二液溜部(6’)(これらを纏めて単に「液溜部」という場合がある。)は、導電性液体を保持し、かつ導電性液体に対して電極部(7,7’)を通電可能に配置するという要求を満たす限りにおいて、任意の構成を取ることができる。例えば、液溜部(6,6’)は、ウェルであってもよい。また、基板(2)の第一表面(2S)側及び/又は第二表面(2S’)側に絶縁性のスペーサー部材(11,11’)を重ね、スペーサー部材(11,11’)には液溜部(6,6’)に対応する位置に切欠き部を設けることで、液溜部(6,6’)を形成してもよい。第一表面に存在するスペーサー部材を第一スペーサー部材(11)とし、第二表面に存在するスペーサー部材を第二スペーサー部材(11’)とする。さらに第一スペーサー部材(11)の基板反対側の最外周に第一プレート部材(12)を配置し、プレート部材に蓋部材(13)を配置することで、第一液溜部(6)を閉空間又は液密に構成してもよい。第二スペーサー部材(11’)の基板反対側にさらに第二プレート部材(12’)を配置して第二液溜部(6‘)を液密に構成してもよい。第二プレート部材(12’)には、第二液溜部(6’)に連結する送液流路(8)及び排液流路(9)が貫通している。

【0031】
必ずしも限定はされないが、スペーサー部材(11,11’)は、絶縁性の部材であれば任意の部材であってよく、絶縁性基板(2)と同じ材料であってもよいし、異なってもよい。レーザー励起による散乱光を抑制する観点から、第一表面(2S)側の第一スペーサー部材(11)は光不透過性の材料からなることが好ましい一方で、顕微鏡観察を行う観点から、第二表面(2S’)側の第二スペーサー部材(11’)は光透過性の材料からなることが好ましい。

【0032】
また、第二液溜部(6’)には、第二液溜部(6’)に第二導電性液体を送液する送液流路(8)と、第二液溜部(6’)から第二導電性液体を排液する排液流路(9)とが連結される。送液流路(8)及び排液流路(9)の素材は任意であり、テフロン(登録商標)や塩化ビニル等のチューブで構成することも可能であるが、後述のバルブ(10)を設ける観点からは、シリコン基板の表面にホトリソグラフィによりレジストパターンを形成したモールド等を用い、PDMS(ポリジメチルシロキサン)やRTV(room temperature vulcanizing:室温硬化型)ゴム等のシリコーンゴムに転写して形成されるマイクロ流路等を用いることが好ましい。斯かるマイクロ流路を用いることにより、プレーナーパッチクランプ装置の組み立てが極めて容易になり、流路が外れる等の不具合を避けることが可能となる。送液流路(8)及び排液流路(9)のサイズも任意であるが、例えば幅100μm、高さ約50μmである。送液流路(8)は、第二導電性液体を貯蔵する貯液槽と連結しており、流路の任意の箇所に配置されたポンプにより流路内に送液される。送液された第二導電性液体は、排液流路(9)を通り排液される。ポンプは圧力印加駆動式であってもよいし、吸引駆動式であってもよい。好ましくは、ポンプは排液流路(9)に配置された液体吸引デバイスであり、第二液溜部(6’)に陰圧を付加することができる。陰圧の付加により、貫通孔(3)に存在する細胞(5)による貫通孔(3)の密封をより強固なものにすることができる。これにより、細胞(5)と電気絶縁性基板(2)とのあいだのシール抵抗を高めることができる。一方で、別の態様では、細胞膜を穿孔する目的でより強い陰圧を付加することもでき、ホールセルモードを達成することもできる。

【0033】
また、第二導電性液体を介して第二液溜部(6’)と電気的に導通されるように、第二電極部(7’)が配置される。この第二電極部(7’)は、通常は送液流路(8)又は排液流路(9)に設けられ、当該流路内に第二導電性液体を導入した場合に第二導電性液体に接触するように配置される。これにより、第二液溜部(6’)及び各流路内の第二導電性液体の電位を、第二電極部(7’)を介して測定することができるように構成される。また、第二電極部(7’)を介して、第二液溜部(6’)及び各流路内の第二導電性液体に、任意の電圧を印加することもできるように構成される。

【0034】
なお、第一電極部(7)及び第二電極部(7’)(これらを纏めて単に「電極部」という場合がある。)としては、従来のプレーナーパッチクランプ装置に用いられる周知の各種の電極部を使用することが可能である。但し、上述した培養型のプレーナーパッチクランプ装置では、ピペットパッチクランプ装置や非培養型のプレーナーパッチクランプ装置と比較して、格段にシール抵抗が低く、電極の界面電位変動による雑音電流が生じ易いことが知られている。よって、電極の界面電位変動を極力防止し、雑音電流を低減する観点から、本発明では電極部として、本発明者等が国際特許公開第2013/094418号パンフレット(特許文献4)等で報告した塩橋型電極部を用いることが好ましい。斯かる塩橋型電極部の構成の一例を図2に模式的に示す。図2の塩橋型電極部(7,7’)は、銀線表面をクロライド化したAg/AgCl電極(16)を、KCl飽和溶液である電極溶液(15)で満たした電極容器(14)内に収納し、ピペット溶液と接する電極容器(14)先端を無機多孔質材料(17)でシールした構成を有する。Ag/AgCl電極(16)は、電極ピン(18)を介して導線に繋がれている。斯かる構成により、ピペット溶液の塩濃度に変動があっても、Ag/AgCl電極(16)とそれに接する電極溶液(15)との間の界面電位にほとんど電位変動を誘起しないため、雑音電流を極めて低く保つことが可能である。

【0035】
更に、図1の単一チャンネル装置(1)においては、送液流路(8)及び/又は排液流路(9)にバルブ(10)が設けられる。このバルブ(10)は、第二導電性液体の流通を許容又は停止し得ると共に、第二液溜部(6’)と第二電極部(7’)との電気的導通を許容又は停止し得るように構成される。すなわち、バルブ(10)が開の場合、第二導電性液体の流通が許容されると共に、第二導電性液体を通して電気的導通が許容される一方で、バルブ(10)が閉の場合、バルブ(10)により第二導電性液体が分離されるとともに、バルブ(10)前後の抵抗値により電気的導通が遮断される。ここで、送液流路(8)及び排液流路(9)の両方にバルブ(10)を配置してもよい。この場合、これらのバルブ(10)は一括して開閉を制御してもよく、個別に開閉を制御してもよい。一方で、送液流路(8)又は排液流路(9)の何れか一方のみにバルブ(10)を配置してもよい。この場合、バルブ(10)が配置された流路に対して第二電極部(7’)を設ければよい。

【0036】
従って、バルブ(10)は非電導性又は絶縁性バルブである。具体的には、閉時の電気抵抗値が、例えば1メガΩ以上であることが好ましく、より好ましくは3メガΩ以上、更に好ましくは5メガΩ以上、より一層好ましくは10メガΩ以上である。電気抵抗値の上限値については特に制限はない。

【0037】
バルブ(10)の種類は制限されないが、例としては、マイクロ流路を開閉可能なマイクロバルブが挙げられる。マイクロバルブは、マイクロ流路内の液体の流通を許容・停止するバルブであって、通常は可撓性の材料で形成されたマイクロ流路と、マイクロ流路に隣接して配置された可動弁と、可動弁を駆動可能な駆動系とを有する。マイクロバルブの開時には、可動弁はマイクロ流路を実質的に圧迫しない位置に存在し、流路内の液体の流通を許容する。マイクロバルブの閉時には、駆動系により可動弁がマイクロ流路を圧迫する位置に変位し、マイクロ流路を変形させて流路内孔を閉止し、流路内の液体の流通を停止する。駆動系としては、駆動源として圧縮空気(圧空)や液体等の流体圧力を用いた圧力駆動系や、ピエゾ素子になどによる機械駆動系等が挙げられる。斯かるマイクロバルブは種々知られており、本発明では何れを使用することも可能であるが、一例としては、Stephen Quake等が開示する液圧制御マイクロバルブ(Journal of Applied Physics, vol95, (2004) 393-398)等が挙げられる。

【0038】
ここで、本発明のプレーナーパッチクランプ装置におけるマイクロバルブの構成の一例を、図3(a)~(c)を参照しながら説明する。但し、本発明で使用可能なマイクロバルブは、決してこれに限定されるものではない。図3(a)は、マイクロバルブ(31)の斜視図であり、図3(b)は、図3(a)のマイクロバルブ(31)の上面図であり、図3(c)は、図3(a)のマイクロバルブ(31)のA-A’及びB-B’断面図を示す。図3(a)~(c)に示すマイクロバルブ(31)は、圧縮空気(圧空)駆動型のマイクロバルブ(31)であって、可撓性の材料からなるマイクロ流路(32)(送液流路(8)又は排液流路(9)に相当する)と、マイクロ流路(32)下方に配置された膨張・収縮可能な空圧パット(33)(可動弁)と、空圧パット(33)に連結される圧空ライン(21)とを備える。圧空ライン(21)は、圧縮空気を空圧パット(33)内に導入し、或いは空圧パット(33)から排出することにより、圧縮空気の圧力を介して空圧パット(33)を膨張・収縮させる空圧駆動系を構成する。斯かるマイクロバルブ(31)において、マイクロ流路(32)と空圧パット(33)とは相互に固定されるとともに、空圧パット(33)が膨張すると、マイクロ流路(32)下面に隣接する空圧パット(33)上面が上方に変位してマイクロ流路(32)下面を圧迫し、マイクロ流路(32)の内孔を変形させて変形部(34)を形成して閉止するように構成される。これにより、マイクロバルブ(31)の開状態(図6(a)~(c)の左側の図)では、空圧パット(33)は収縮状態にあり、マイクロ流路(32)の内孔は開放されているため、内部の液体の流通は許容された状態にある。一方、マイクロバルブ(31)の閉状態(図6(a)~(c)の右側の図)では、圧空ライン(21)(空圧駆動系)から空圧パット(33)に圧縮空気が導入されてこれを膨張させ、マイクロ流路(32)を変形させてこれを閉止することにより、内部の液体の流通が停止される状態にある。その後、マイクロバルブ(31)を再び開状態(図6(a)~(c)の左側の図)にすると、圧空ライン(21)(空圧駆動系)により空圧パット(33)から圧縮空気が排出されてこれを収縮させ、マイクロ流路(32)の変形を回復させて、内部の液体の流通が再開される。こうして、マイクロバルブ(31)によりマイクロ流路(32)(送液流路(8)又は排液流路(9))内の液体(第二導電性液体)の流通を制御することが可能となる。

【0039】
なお、本発明で使用されるマイクロバルブ(31)は、送液流路(8)又は排液流路(9)内の第二導電性液体の流通を許容・停止し得るだけでなく、第二導電性液体を介した第二液溜部(6’)と第二電極部(7’)との電気的導通も許容・停止し得るように構成される。斯かるマイクロバルブ(31)を達成するために、少なくともマイクロバルブ(31)部分のマイクロ流路(32)(送液流路(8)又は排液流路(9))を、電気絶縁性を有し、且つ可撓性に優れた材料で形成することが好ましい。これにより、可動弁によってマイクロ流路(32)を圧迫・変形した際に、マイクロ流路(32)内孔が十分に変形してその内孔の空隙が絶縁性材料によって十分に閉止され、電気的導通を遮断することが可能となる。斯かる電気絶縁性を有し、且つ可撓性に優れた材料としては、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)やRTV(room temperature vulcanizing:室温硬化型)ゴム等のシリコーンゴムが挙げられる。

【0040】
更に、マイクロバルブ(31)によってマイクロ流路(32)の電気的導通を遮断するためには、液体の流通を停止する場合と比べて、可動弁によってマイクロ流路(32)をより強く圧迫し、その内孔をより確実に閉止する必要がある。このために必要な可動弁の変位量や圧力等は、マイクロバルブ(31)の構成によって異なるため一概には規定できないが、マイクロバルブ(31)の構成を考慮し、十分な電気抵抗値(例えば、好ましくは1メガΩ以上、より好ましくは3メガΩ以上、更に好ましくは5メガΩ以上、より一層好ましくは10メガΩ以上)が達成されるように、当業者であれば容易に決定することが可能である。

【0041】
斯かる構成を有する図1の単一チャンネル装置(1)を用いた細胞のイオンチャンネル電流の測定は、以下の手順で行われる。

【0042】
まず、電気絶縁性基板(2)の第一表面(2S)の細胞配置領域(4)に、貫通孔(3)を覆うように測定対象の細胞(5)を配置する。また、第一液溜部(6)には第一導電性液体(例えばバス溶液等)が、第二液溜部(6’)には第二導電性液体(例えばピペット溶液等)が、それぞれ充填された状態とする。

【0043】
続いて、貫通孔(3)と接する細胞膜の表面に微細な穴をあけて、細胞(5)内部と第二液溜部(6’)の第二導電性液体(ピペット溶液等)とを電気的に導通した状態(通常「ホールセル」状態と呼ばれる)にする。細胞(5)をホールセル状態とする手法は制限されないが、例としては、特定の抗生物質(例えばナイスタチン又はアンフォテリシン等)を第二導電性液体に溶解した溶液を調製し、斯かる抗生物質溶液を電流測定直前に第二液溜部(6’)に導入して細胞膜に接触させ、細胞膜に微細な穴を形成する手法が挙げられる(この場合、ホールセル状態の達成後、電流測定前に、第二液溜部(6’)内の溶液を再度、抗生物質を含まない第二導電性液体に置き換える。)。

【0044】
その後、第一電極部と第二電極部との間に、所定の電圧(膜電位と呼ばれる)を印加する。これにより、細胞膜のイオンチャンネルを通過する電流をチャンネル電流として記録することができる。

【0045】
なお、以上説明した単一チャンネル装置(1)において、第一液溜部(6)は通常は絶縁性基板(2)の上側に配置されるが、その上壁を開閉可能に構成してもよい。ここから細胞配置領域(4)への細胞の配置、細胞配置領域(4)からの細胞の採取、第一導電性液体の充填や交換、その他の各種の処理(例えば、イオンチャンネルのブロッカーや細胞の薬剤応答を調べるための薬剤溶液の添加等)を行うことができる。但し、第二液溜部(6’)と同様に、第一液溜部(6)にも送液流路(8)及び排液流路(9)を設け、これらを用いて第一導電性液体の充填や交換等を行ってもよい。

【0046】
一方、第二液溜部(6’)内の第二導電性液体の充填や交換は、送液流路(8)及び排液流路(9)を介して行われる。即ち、外部の供給源(図示せず)から、送液流路(8)を通じて第二導電性液体を送液し、第二液溜部(6’)内に充填する。液体の駆動は、通常は送液流路(8)又は排液流路(9)にポンプ等の駆動部(図示せず)を設けて行う。また、第二液溜部(6’)内に液体が予め存在する場合は、排液流路(9)を介して外部に排出され、これにより第二液溜部(6’)内の液体が交換される。

【0047】
ここで、図1の単一チャンネル装置(1)では、送液流路(8)及び/又は排液流路(9)に設けられたバルブ(10)を操作することにより、第二導電性液体の流通・停止を制御すると共に、第二液溜部(6’)と第二電極部との電気的導通の形成・絶縁を制御することが可能である。これにより、送液流路(8)及び/又は排液流路(9)を介した漏液や漏電を確実に防止することが可能となる。ひいては、非測定時の漏電による電極の劣化を防ぐことができる。また、第二液溜部(6’)における第二導電性液体の交換もより容易となる。

【0048】
培養型パッチクランプ装置の場合には、細胞(5)の配置後に装置をインキュベーター等に入れて、細胞を培養してもよい。この場合、装置をインキュベーター等に入れる際の取り扱い性やサイズ制限等を考慮すると、基板を含む装置の一部(例えば電源や液体源等を含まない部分)を切り離し可能な構成としてもよい。これにより、装置の一部のみを切り離して、インキュベーターに入れることが可能となる。特に、切り離し部分の末端にバルブ(10)を配置することにより、切り離し時にバルブ(10)を閉として、流路からの液体の流出を防ぐことが可能となる。電流の測定に際しては、第一液溜部(6)には第一導電性液体(例えばバス溶液等)が、第二液溜部(6’)には第二導電性液体(例えばピペット溶液等)が、それぞれ充填された状態とする。

【0049】
[多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置]
次に、単一チャンネル装置を複数組み合わせた多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(これを適宜「多チャンネル装置」と略称する。)について説明する。多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置は、プレーナーパッチクランプ法による測定が可能な構造単位(チャンネル)を複数有する装置である。
図4Aに、本発明の一実施形態に係る多チャンネル型装置(1a)の模式断面図を示す。但し、本発明のプレーナーパッチクランプ装置は、図4Aの多チャンネル装置(1a)に限定されるものではない。例えば、図4Bに示すように、第一液溜部(6)において細胞配置領域が連続しており、測定対象の細胞間で神経ネットワークを形成させることもできる。さらに、図4Cに示すように第二電極部を備える送排液系を2以上設けてもよい。送排液流路に設けられたバルブにより、測定対象の細胞をそれぞれの送排液系で選択することができる。それにより、細胞ネットワークを形成している細胞における電流変化又は電位変化を二以上の測定点で測定することができ、バルブにより測定対象細胞を切り替えることもできる。

【0050】
図4A~Cの多チャンネル型装置(1a)は、電気絶縁性基板(2)が、細胞配置領域(4)及びそれに対応する貫通孔(3)を、それぞれ複数有する。また、複数の細胞配置領域(4)に対応して、第二液溜部(6’)も複数設けられる。

【0051】
また、送液流路(8)は、送液主流路(8a)と、送液主流路(8a)から分岐される複数の送液支流路(8b)とから構成され、複数の送液支流路(8b)は、複数の第二液溜部(6’)にそれぞれ連結される。

【0052】
また、排液流路(9)も、排液主流路(9a)と、排液主流路(9a)から分岐される複数の排液支流路(9b)とから構成され、複数の排液支流路(9b)は、複数の第二液溜部(6’)にそれぞれ連結される。

【0053】
また、第二電極部(7’)は、送液主流路(8a)及び/又は排液主流路(9a)に設けられる。
また、複数の第二液溜部(6’)の各々に連結される送液支流路(8b)及び/又は排液支流路(9b)に、バルブ(10)が設けられる。
第二電極が配置されていない流路については、支流路が合流して主流路を形成しなくてもよい。例えば、送液主流路(8a)に第二電極部(7’)が配置された場合、排液支流路(8b)は、排液主流路を形成せずに、そのまま排液されてもよい。
その他の構成等は、図1の多チャンネル型装置(1)と同様である。

【0054】
斯かる構成を有する図4A~Cの多チャンネル型装置(1a)を用いた細胞(5)のイオンチャンネル電流の測定は、以下の手順で行われる。

【0055】
まず、電気絶縁性基板(2)の第一表面(2S)の複数の細胞配置領域(4)の各々に、貫通孔(3)を覆うように測定対象の細胞(5)を配置する。また、第一液溜部(6)には第一導電性液体(例えばバス溶液等)が、第二液溜部(6’)には第二導電性液体(例えばピペット溶液等)が、それぞれ充填された状態とする。

【0056】
続いて、貫通孔(3)と接する細胞膜の表面に微細な穴をあけて、細胞内部と第二液溜部(6’)の第二導電性液体(ピペット溶液等)とを電気的に導通した状態(ホールセル状態)にする。

【0057】
次に、計測したいチャンネルの送液流路(8)及び/又は排液流路(9)のバルブ(10)を開とし、他のバルブ(10)を全て閉とすることにより、計測したいチャンネルの細胞(5)のみを、第二導電性液体を介して第二電極部(7’)と導通させる。

【0058】
その後、第一電極部(7)と第二電極部(7’)との間に、所定の電圧(膜電位と呼ばれる)を印加する。これにより、所望のチャンネルに存在する細胞(5)のイオンチャンネル電流を記録することができる。

【0059】
なお、図4A~Cの多チャンネル型装置では、第一液溜部(6)に複数の細胞配置領域(4)が存在し、細胞配置領域(4)に対応した数の貫通孔(3)が存在する。ここで、細胞配置領域(4)の間に仕切りを加えることもでき、それにより第一液溜部(6)を複数の液溜区画(22)に区分することができる。かかる仕切りは、パーティション部材(23)により形成されてもよい。例えば、基板(2)の第一表面(2S)側に、第一スペーサー部材(11)を重ね合わせる際に、第一スペーサー部材(11)の切欠き部に、パーティション部材(23)を配置することにより、液溜区画(22)に区分することができる。複数の液溜区画(22)が存在する場合、第一電極部(7)をそれぞれの液溜区画(22)の中に設置してもよい。但し、これら複数の液溜区画(22)間で電気的導通を許容することにより、1つの第一電極部(7)で全ての液溜区画(22)の細胞配置領域(4)の細胞(5)について電気信号を測定することが可能になる。従って、この場合、パーティション部材(23)として電気伝導性の部材、例えば金属や多孔質材料を用いてもよいし、絶縁性の部材を用い、さらに液体の行き来はほとんどないような十分狭い通路で連結することにより、液溜区画(22)間で電気的導通を達成することができる。第一液溜部(6)を複数の液溜区画(22)に区分することにより、各液溜区画に添加された薬剤の細胞に対する効果や、イオンチャンネルの応答などについて、マイクロバルブ(31)の開閉により計測するチャンネル、すなわち計測する第一液溜部(6)の液溜区画(22)を選択して計測できるので、複数の薬剤の効果を短時間で測定することが可能になり、ハイスループットスクリーニングに用いることができる。また、基板(2)上に配置されたパーティション部材(23)は、蓋部材(13)、例えばカバーガラスなどからの上方からの圧力から基板(2)の細胞配置領域(4)に形成された複数の柱状の突起部(25)から構成される細胞定着箇所(24)を保護することもできる。

【0060】
[複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置]
多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置を複数組み合わせることにより、複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置を構成することができる。図5は、かかる複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)の一例を示し、具体的には、5チャンネルの培養型プレーナーパッチクランプ装置を4個組み合わせた合計20チャンネルの複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を表す。図5(a)はかかる装置(1b)の上面図であり、中央の円形部に4つの正方形型の多チャンネル基板(D1~D4)が配置され、かかる多チャンネル基板(D1~D4)における5の液溜区画(22)において電気信号を測定することができる。さらに円形部の周囲に、4つの流路分岐板(M1~M4)と、4つの前置増幅器(P1~P4)が配置されている。各流路分岐板には、バルブ(10)の制御を可能にする5の圧空(圧縮空気)ライン(21)が連結しており、各前置増幅器は、一方で流路分岐板(M1~M4)内に配置された第二電極部(7’)と接続され、もう一方でチャンネル電流計測用の機器に接続される。図5(b)は、流路分岐板(M1~M4)の拡大図であり、送液主流路端子(19a)から伸びる送液主流路(8a)、そして送液主流路(8a)から分岐する送液支流路(8b)からなる送液系と、排液主流路端子(20a)から伸びる排液主流路(9a)、そして排液主流路から分岐する排液支流路(9b)からなる排液系、並びにそれらの液体の流通及び電気的導通を許容又は停止するバルブ(10)、そして第二電極部(7’)が配置されている。図5(b)において、バルブ(10)に接続している圧空ライン(21)は図示しておらず、2対の送液支流路(8b)及び排液支流路(9b)のみを図示しており、他の3組の送液支流路(8b)及び排液支流路(9b)は図を複雑にしないため省略してある。図5(c)は、図5(a)の中央の円形部の拡大図であり、図5(b)の送液支流路(8b)と排液支流路(9b)が、送液支流路端子(19b)及び排液支流路端子(20b)を介して基板上の1の液溜区画(22)に接続されている。第二電極部(7’)はそれぞれの流路分岐板(M1~M4)に1個設置してある。5対のバルブ(10)のうち所定の1対のバルブ(10)を開として、基板上の所定の液溜区画(22)に存在する細胞(5)の電気的特性を、同時に最大4チャンネルで計測可能である。

【0061】
図6は、図5で示された複合多チャンネル培養型プレーナーパッチクランプ装置(1b)において多チャンネル基板(D1~D4)として使用される5チャンネル基板(D)の一例を示す上面図である。この基板は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)からなり、厚み200μm、一辺60mmの正方形状を有する。この基板には一辺20mmの正方形状の細胞配置領域(4)が5つ配置されており、その他の領域にはスペーサーが存在し、液体の移動を制限している。各細胞配置領域(4)の中央部に、直径1.5~2μmの貫通孔(3)が存在し、この貫通孔(3)の下部に直径150μmの第二液溜部(6’)が形成されており、その部分の基板の厚みは15μmである。細胞配置領域(4)には、多数の細胞定着箇所(24)が形成されており、各細胞定着箇所は直径30μm、高さ約10μmの円柱状の突起部(25)で囲ってあり、細胞(5)がこの細胞定着箇所(24)から出られないよう、円柱(25)と円柱(25)の間隔は10ミクロン以下に制限されている。貫通孔(3)の位置に配置された細胞定着箇所(24)以外にも細胞定着箇所(24)を制作することにより、この基板を神経細胞ネットワーク形成に利用することができる。貫通孔(3)の下の第二液溜部(6’)には、一対の送液流路(8)及び排液流路(9)が、マイクロ流路として形成されている。

【0062】
[プレーナーパッチクランプシステム]
本発明のパッチクランプ装置は、流路制御システムと、チャンネル電流計測システムに接続されて制御される。図7は、多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置のバルブの制御系の構成の一例を表す概念図である。流路制御システムは、流路に配置されたポンプにより第二導電性液体の液流を生じさせ、さらにバルブ(10)の開閉についての制御信号を出力するシーケンサー(26)を作動させてバルブ(10)を開閉させることにより、第二導電性液体の流通及び電気的導通の許容又は停止を制御することができる。バルブ(10)の開閉が圧縮空気により制御される場合、シーケンサー(26)による出力された制御信号を、バルブ(10)を制御する空気圧へと変換する電磁弁(29)が使用される。シーケンサー(26)と電磁弁(29)は接続ライン(28)を介して接続されており、電磁弁(29)に伝えられた電気信号は、空気圧へと変換される。電磁弁接続端子(30)に接続された圧空ライン(21)を介して、空気圧はバルブ(10)へと伝えられて、流路を開閉する。シーケンサー(26)は流路制御用の制御パソコン(27)に接続ライン(28)を介して接続しており、制御パソコン(27)により操作することができる。チャンネル電流計測システムは、プレーナーパッチクランプの通常のシステムを用いることができ、例えば電流増幅器、ローパスフィルター、及びアナログデジタルコンバーターを制御する電流計測用のパソコンを含む。流路制御用のパソコン(27)と電流計測用のパソコンはそれぞれ協働して作動してもよいし、単一のパソコンで制御が行われてもよい。

【0063】
[スクリーニング方法]
本発明のプレーナーパッチクランプ装置、多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置、複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置、並びにプレーナーパッチクランプシステムを用いて、神経細胞ネットワークに影響を与える候補薬剤のハイスループットスクリーニングを行うことができる。候補薬剤をスクリーニングするための条件として、本発明の装置により測定したチャンネル電流が、(1)健康状態、(2)疾患状態、を表現しえるものであって、かつ、(3)疾患状態に候補薬剤を作用させて健康状態に戻りえること、を実証できる構造となっていることが必要である。実施例で示したとおり、本発明のプレーナーパッチクランプ装置は、上記(1)、(2)、及び(3)の状態をそれぞれ測定することができ、薬剤のスクリーニングが可能であることが示された。装置構成としては、図1に表されるような単一チャンネル装置をたくさん準備すればそのことは可能であるが、電極部のメンテナンスが大変であることから、図4A~Cに表される多チャンネル型装置を用いることが好ましく、さらには図5の装置のように、多チャンネル型基板(D1~D4)を複数含む複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置を使用して、バルブの制御により各液溜区画のチャンネル電流を順次測定することにより、効率的にスクリーニングを行うことが可能になる。

【0064】
本発明において、スクリーニング方法は、本発明のプレーナーパッチクランプ装置、好ましくは多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置、複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置に対し、細胞を播種し、神経細胞ネットワークを形成する工程が必要である。神経ネットワーク形成後に、神経細胞のチャンネル電流を測定し、候補薬剤を第一液溜部に添加後にさらにチャンネル電流を測定し、チャンネル電流の変化に基づいて候補薬剤を選択することができる。好ましい態様では、疾患型のチャンネル電流の波形から、健康型のチャンネル電流の波形へと変化させる候補薬剤を治療に有効な薬剤として選択することができる。使用する細胞としては、ヒト又は動物から取得した神経細胞を使用してもよいし、幹細胞、例えばiPS細胞、ES細胞を播種し、分化誘導をかけて神経ネットワークを形成してもよい。神経細胞ネットワークを形成させる神経細胞として、疾患モデルの神経細胞を使用することができる。疾患モデルの神経細胞は、市販のものを使用することもできるし、疾患誘導剤を添加して誘導してもよい。薬剤をスクリーニングする観点から、ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病などの疾患モデルの神経細胞を用いることが好ましい。健常な神経細胞を播種した後に、さらに疾患誘導薬剤を添加し、疾患状態を作り出し、疾患状態の神経ネットワークにおけるチャンネル電流を測定する工程を含んでもよい。その場合、疾患状態から通常状態へとチャンネル電流を変化させる薬剤をスクリーニングすることにより、疾患に対して効果を有する薬剤を選択することができる。

【0065】
以上、本発明について具体的な実施形態に即して説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、任意の変形を加えて実施することが可能である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にも限定されるものではなく、任意の変形を加えて実施することが可能である。
【実施例】
【0067】
実施例1:複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を用いた神経細胞のCa2+イメージング
図5に示す構成の複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を用意した。当該装置が有する20チャンネルのうち、観察を行わない19のチャンネルに対応する19対のマイクロバルブ(31)を圧空により閉状態とし、観察を行うチャンネルに対応する1対のバルブを開状態として、第二電極部(7’)に電圧を印加し電流を注入することによりCa2+イメージングを行った。より具体的に、本実施例では、前もって神経細胞用培地を満たした35mmデイッシュ内に基板を設置し、細胞配置領域(4)に、ラット大脳皮質神経細胞を播種し、細胞定着箇所に細胞を定着させた。ついで、この培地にCa2+イメージング用の蛍光色素、Oregon Green BAPTA1(インビトロジェン)を400nMの濃度で溶解して37℃、5%CO2環境下の培養容器内で約1時間放置した、その後基板のみをデイッシュより取り出し、当該観測を行うチャンネルに貫通孔(3)の位置を合わせて設置した。そしてまず、第一液溜部(6)にバス溶液として、2.5mM CaCl、1.25mM MgCl、10mM d-グルコース、140mM NaCl、3mM KCl及び10mM 4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)(pH7.4)の溶液を満たした。次に、第二液溜部(6’)に排液流路(9)を通して約10kPaの陰圧を印加した状態で送液流路(8)より、バス溶液と同一の溶液を導入した。ついで、第二電極部(7’)からピーク値10μA幅100μsの電流を注入し電気刺激を行った。電気刺激に応じて上昇した細胞内のCa2+の濃度に応じて発せられる蛍光をCCDカメラのついた蛍光顕微鏡(ニコン社製正立顕微鏡NikonLV100)で観察し、撮影を行った。得られた蛍光観察像を図8(a)に示す。細胞1、2、3、4と番号付けがなされており、細胞1が微細貫通孔(3)の上に存在する。細胞1への2回の電流注入に応じて、細胞1~4の活動電位発生に応じて細胞内にCa2+が流入し、蛍光の発光が観察された。得られた蛍光強度の経時変化のグラフを図8(b)に示す。細胞1に発生した活動電位が周囲の細胞2~4にも伝搬していることが観察された。
【実施例】
【0068】
実施例2:複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を用いたチャンネルロドプシン発現細胞におけるチャンネル電流記録
図5に示す複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)の20チャンネルのうち観察を行わない19のチャンネルに対応する19対のバルブを圧空により閉状態とし、観察を行うチャンネルに対応する1対のバルブを開状態として、チャンネルロドプシン発現細胞におけるチャンネル電流を記録した。より具体的にはプレーナーパッチクランプ装置の細胞配置領域(4)にチャンネルロドプシンChRWRプラスミドを遺伝子導入して得たチャンネルロドプシン発現HEK293細胞を播種し、細胞定着箇所に細胞を定着させた。第一導電性液体及び第二導電性液体には、細胞培養液として、基礎培地DMEM(Gibco)に10% FBS(Gibco)、1% グルタマックス(Gibco)、0.5%ペニシリンストレプトマイシンおよび500μg/ml G418を添加した培地を用い、37℃、5%CO雰囲気下で培養器内で5日間培養した。そしてプレーナーパッチクランプ装置を培養器より取り出し、蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse 80i)の試料台に設置し、ピペットを用いて第一導電性液体をバス溶液に置換した。続いて、排液流路(9)から-10kPaの陰圧を印加し、第二導電性液体としてピペット溶液を送液流路(8)から導入した。ついで、同様に-10kPaの陰圧の印加のもと、ナイスタチン添加(100μg/ml)ピペット溶液を送液流路(8)から導入した。これにより貫通孔(3)部の細胞膜にナイスタチンを埋め込み細胞内と下部液溜部が電気的に導通状態となるようにし、いわゆるホールセル状態を実現した。次に波長473nmのレーザー光(パワー1.5mW)(住友大阪セメント(株)、LD473-F5)を照射し、ホールセルモードで得られるチャンネル電流出力を前置増幅器Pで増幅し、2kHzのローパスフィルターを通した後A-Dコンバーターで変換した信号を記録した。得られた電流の経時変化のグラフを図9に示す。使用したバス溶液は実施例1と同じである。ピペット溶液として、100mM l-グルタミン、120mM CsOH、50mM HEPES、2.5mM MgCl、及び1.25mM NaEGTA(pH7.4)の溶液を用いた。
【実施例】
【0069】
実施例3:複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を用いたスクリーニング方法
薬剤の投与によるチャンネル電流変化の測定
本発明の複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を用いて、神経ネットワークに作用する薬剤のハイスループットスクリーニングが可能であることを示す実験を行った。図5に示す複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)の約2ミクロン径の貫通孔(3)を有するSi基板表面(2S)の細胞定着箇所(24)に胎生17日のラット大脳皮質を解剖して得た神経細胞(5)を播種した。市販の神経細胞培地(住友ベークライト株式会社)を添加して、デイッシュ内で11日間培養し、神経細胞ネットワークを形成させ、光学顕微鏡で観測した(図10)。次にその神経細胞(5)が配置されたSi基板(2)を複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)にセットし、第一液溜部(6)の各液溜区画(22)にバス溶液(145 mM NaCl + 3 mM KCl + 10mM HEPES + 2 mM CaCl2 + 8 mM Glucose + 1 mM MgCl2・6H2O,pH7.3)を添加して満たした。次に送液支流路及び排液支流路に設置されたバルブを開状態として、送液支流路から第二液溜部にピペット溶液(140mM KCl + 10 mM HEPES + 2 mM CaCl2+ 5 mM EGTA + 2 mM Mg-ATP, pH7.3)を導入した。次に、20チャンネルのうち観察を行わない19のチャンネルに対応する19対のバルブを圧空により閉状態とし、観察を行うチャンネルに対応する1対のバルブを開状態として、第一電極部(7)及び第二電極部(7’)間に、30mVの電圧をかけ、電流を測定した。ホールセルモードを形成する以前はチャンネル電流は観測されず、印加膜電位に関係なく平らなベースラインが記録された。次に、第二液溜部に、ナイスタチン溶液(100 μg/mL)を導入し、貫通孔に接触している細胞膜に小孔を開けて、ホールセルモードを形成した。ホールセルモードを形成すると、印加膜電位に依存して振幅するチャンネル電流が観測された(図11A)。印可膜電位は、それぞれ+10mV、+20mV、+30mV、+40mV、+50mV、-10mV、-20mV、-30mV、-40mV、及び-50mVであった。この状態で第一液溜部にグルタミン酸を最終濃度が20μMとなるように添加した。これにより、チャンネル電流に変化が見られた(図11B)。60分程度計測を行った後、第一液溜部の1の液溜区画(22)に、AMPA受容体アンタゴニストである6-シアノ-7-ニトロキノキサリン-2,3-ジオン(CNQX)(200μM)およびNMDA受容体アンタゴニストであるD-(-)-2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸(D-AP5)(200μM)を溶解したバス溶液を導入し、再度チャンネル電流を計測した(図11C)。図11A、図11B、及び図11Cの間で明瞭な違いが見られ、それぞれ健康状態、グルタミン毒性による疾患状態及び薬品でグルタミン毒性を緩和した状態に相当する。この状態をより明瞭に表示する目的で、印加膜電位-20mVのチャンネル電流に着目して、観測されている一つ一つのパルス状波形の面積を計算した。結果を図12(a)、図12(b)、図12(c)にグラフとして表した。横軸は各パルスの面積、縦軸は所定の面積のパルスの数である。グルタミン酸毒性の状態の下では、大きな面積のパルスのチャンネル電流が増加し(図12(b))、この増加は、AMPA受容体アンタゴニストであるCNQXおよびNMDA受容体アンタゴニストであるD-AP5を加えることで、ほぼ増加が消失した。チャンネル電流パルスの総和を図12(d)に示すが、この健康状態、グルタミン毒性の状態、アンタゴニスト添加による毒性の消失あるいは緩和の様子がより明瞭に観察できた。別の液溜区画(22)に、他の候補薬剤を導入し、計測する区画に対応する送液支流路(8b)及び排液支流路(9b)のバルブ(10)を開状態とし、その他のバルブ(10)を閉状態として、同様にチャンネル電流を測定することにより、候補薬剤の神経細胞ネットワークに及ぼす影響を測定することができ、これにより候補薬剤のハイスループットスクリーニングが可能になる。
【実施例】
【0070】
薬剤の投与によるCa2+イメージングの変化の測定
チャンネル電流の変化の測定結果(図12(a)~(d))が、健康状態、グルタミン酸添加による疾患状態、及び薬剤添加による回復状態を表していることを示すため、以下に述べるCa2+イメージングを行った。Ca2+イメージングにより、グルタミン酸毒性の影響である細胞内のCa2+の濃度の変調を測定することができる。
【実施例】
【0071】
35mmデイッシュ(a)内に図6の基板(PLLコーティング済)を置き、酵素トリプシンで単離した胎生17日目のラットの大脳皮質細胞を市販の神経細胞培地(住友ベークライト株式会社)で2.5x10 cells/mLになるように懸濁した。この細胞懸濁液2mL(=5.0x10 cells)をディッシュ(a)に添加した。5% CO存在下、37℃で17日間培養した。神経細胞ネットワーク形成後、その基板を別のデイッシュ(b)内に移設した。このデイッシュ(b)に神経細胞培地(2mL)を加え、この培地にBAPTA-1(1μL)およびCremophor(10μL)を添加して37℃で1時間インキュベートした。培養上清を捨て、緩衝溶液(145mM NaCl+10mM HEPES+8mM Glucose+3mM KCl+2mM CaCl+1mM MgCl2、pH7.3)2mLを添加した。使用直前まで遮光して室温で保管し、Ca2+の蛍光強度計測(Ca2+イメージング計測)をおこなった(図13(a))。この後、10μM濃度のグルタミン酸を加えた緩衝溶液(500μL)を添加し、2.5分後にCa2+のイメージングのタイムラプス計測を開始した(図13(b))。9.5分後これに2.5mMのD-AP5および2.5mMのCNQXを含むアンタゴニスト混合液10μLを添加した。さらに10.5分後にCa2+イメージングのタイムラプス計測を行った(図13(c))。
【実施例】
【0072】
脊髄損傷、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの病態の一つとして、グルタミン酸毒性が知られており、図13(b)は神経細胞ネットワークがグルタミン酸毒性の環境下に置かれた場合のCa2+イメージングを示している。グルタミン酸毒性の影響で観察している細胞内のCa2+の濃度が振動的に上昇している状態が観察されている。一方で、図13(c)は、アンタゴニスト混合溶液の添加により、細胞内Ca2+濃度がグルタミン酸添加前の状態に復帰したこと、即ち毒性の影響を受けない状態を実現できたことを意味する。
【実施例】
【0073】
Ca2+イメージングによりグルタミン酸毒性を検出できる理由は、グルタミン酸の影響で代謝型受容体が活性となり、細胞内部でセカンドメッセンジャーであるイノシトール3リン酸(IP3)が形成され、これにより細胞内小胞体表面のIP3受容体が活性化され、引き続いて、リアノジン受容体(RyR)が活性化され、細胞内Ca2+濃度が増大するためである。この過程で、場合によってはCa2+振動が発生する。この細胞内Ca2+の増大により、シナプス前段膜からの神経伝達物質であるグルタミン酸のパルス上の放出(エキソサイトーシス)頻度が増大し、これによりシナプス後段膜のAMPA受容体やNMDA受容体が刺激され活性化し、パルス状のチャンネル電流が増大する。この増大は、AMPA受容体やNMDA受容体のアンタゴニストCNQXおよびD-AP5の添加により消失あるいは、減衰することができる。
【実施例】
【0074】
チャンネル電流計測とCa2+イメージングの両方の結果を参照すると、グルタミン酸添加培地で培養した場合のグルタミン酸毒性の影響を両実験で測定することができることが示された。さらにAMPA受容体アンタゴニストであるCNQXおよびNMDA受容体アンタゴニストであるD-AP5を添加することで、グルタミン酸毒性の影響を抑制することができることが両実験で示された。これにより、プレーナーパッチクランプ装置を用いたチャンネル電流計測により、得られた電流変化の結果が、グルタミン酸毒性と、CNQXおよびD-AP5によるグルタミン酸毒性の緩和を指すことが示された。これにより、複合多チャンネル型プレーナーパッチクランプ装置(1b)を用いて、グルタミン酸毒性を緩和する薬剤のハイスループットスクリーニングが可能になることが示された。
【実施例】
【0075】
また、このようにチャンネル電流の計測とCa2+イメージングの計測をあわせて行うことにより神経細胞ネットワークの状況をより精密に理解できるとともに、チャンネル電流波形は本実施例で解析した以外にきわめて豊富な情報を含んでおり、健康、疾患、回復のより詳細なマーカーを提供するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のプレーナーパッチクランプ装置により、神経細胞における電気信号の多点観察を行うことが可能になり、神経細胞に対する薬剤スクリーニングやニューラルネットワークにおける信号解析の分野において用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 単一チャンネル装置
1a 多チャンネル装置
1b 複合多チャンネル型パッチクランプ装置
2 電気絶縁性基板
2S 第一表面
2S’ 第二表面
3 貫通孔
4 細胞配置領域
5 細胞
6 第一液溜部
6a 主液溜部
6b 副液溜部
6c 導入用通液路
6’ 第二液溜部
7 第一電極部
7’ 第二電極部
8 送液流路
9 排液流路
8a 送液主流路
9a 排液主流路
8b 送液支流路
9b 排液支流路
10 バルブ
11 第一スペーサー部材
11’ 第二スペーサー部材
12 第一プレート部材
12’ 第二プレート部材
13 蓋部材
14 電極容器
15 電極溶液
16 Ag/AgCl電極
17 無機多孔質材料
18 電極ピン
D、D1~D4 多チャンネル型基板
P1~P4 前置増幅器
M1~M4 マイクロ流路分岐板
19a 送液主流路端子
20a 排液主流路端子
19b 送液支流路端子
20b 排液支流路端子
21 圧空ライン
22 液溜区画
23 パーティション部材
24 細胞定着箇所
25 突起部
26 シーケンサー
27 制御パソコン
28 接続ライン
29 電磁弁
30 電磁弁接続端子
31 マイクロバルブ
32 マイクロ流路
33 空圧パット
34 変形部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4A】
3
【図4B】
4
【図4C】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図9】
9
【図11A】
10
【図11B】
11
【図11C】
12
【図12】
13
【図13】
14
【図8】
15
【図10】
16