TOP > 国内特許検索 > 定電場によるマイクロサイズの物体の輸送および力学的仕事の取り出し > 明細書

明細書 :定電場によるマイクロサイズの物体の輸送および力学的仕事の取り出し

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5867920号 (P5867920)
登録日 平成28年1月15日(2016.1.15)
発行日 平成28年2月24日(2016.2.24)
発明の名称または考案の名称 定電場によるマイクロサイズの物体の輸送および力学的仕事の取り出し
国際特許分類 B01J  19/00        (2006.01)
B01J  19/08        (2006.01)
B25J   7/00        (2006.01)
B81B   7/02        (2006.01)
B81B   1/00        (2006.01)
G01N  37/00        (2006.01)
G01N  35/08        (2006.01)
G01N  35/10        (2006.01)
FI B01J 19/00 321
B01J 19/08 Z
B25J 7/00
B81B 7/02
B81B 1/00
G01N 37/00 101
G01N 35/08 Z
G01N 35/10 Z
請求項の数または発明の数 33
全頁数 51
出願番号 特願2011-500666 (P2011-500666)
出願日 平成22年2月19日(2010.2.19)
国際出願番号 PCT/JP2010/052566
国際公開番号 WO2010/095724
国際公開日 平成22年8月26日(2010.8.26)
優先権出願番号 2009038446
優先日 平成21年2月20日(2009.2.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年9月5日(2011.9.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】吉川 研一
【氏名】瀧ノ上 正浩
【氏名】厚見 悠
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
審査官 【審査官】増田 健司
参考文献・文献 国際公開第2006/087890(WO,A1)
国際公開第2000/047322(WO,A1)
特開2000-271475(JP,A)
特開2008-3074(JP,A)
国際公開第2006/053892(WO,A1)
米国特許出願公開第2004/0055536(US,A1)
特表2006-500596(JP,A)
調査した分野 B01J 19/00
B01J 19/08
B25J 7/00
B81B 1/00
B81B 7/02
G01N 35/08
G01N 35/10
G01N 37/00
特許請求の範囲 【請求項1】
サイクリックな運動を利用することによって力学的仕事を取り出す方法であって、
A)電場を発生させる2つの電極を、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置し、絶縁性液体中で誘電体に該電場をかけることによって該誘電体のサイクリックな運動を実現させる工程;および
B)マイクロタービンを、該誘電体がサイクリックな運動をしうる空間に配置し、該誘電体のサイクリックな運動によって回転するマイクロタービンから仕事を取り出す工程であって、該マイクロタービンは、回転軸と羽の部分があり、羽が回転軸の周りに回転できるものである、工程を包含する、方法であって、
該電極は、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有し
該電場は、1V~1000Vの範囲のものであり、
該誘電体は、該電極間に配置され、0.1μm~100μmの範囲のサイズのものである、
方法。
【請求項2】
誘電体を輸送する方法であって、
A)電場を発生させる2つの電極を、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置し、絶縁性液体中で該誘電体に該電場をかけることによって該誘電体のサイクリックな運動を実現させる工程を包含する、方法であって、
該電極は、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有し
該電場は、1V~1000Vの範囲のものであり、
該誘電体は、該電極間に配置され、0.1μm~100μmの範囲のサイズのものである、
方法。
【請求項3】
前記サイズは、1μm~100μmの範囲のものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記誘電体は、静電場を加えたときに誘電分極を生じるが電流を生じない物質であり、さらに静電気の帯電性がある物質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記誘電体は、水滴、ポリマー性物質およびガラスビーズからなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記誘電体は、界面活性剤を含むエマルジョンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤は、ジオレオイル・ホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイル・ホスファチジルセリン(DOPS)、eggPC、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STAC)、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド(STAB)、ソディウムドデシルサルフェイト(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドおよびペンタエチレングリコールドデシルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの物質を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記絶縁性液体は、不揮発性で、導電性がなく、常温常圧下で流動性のある物質であり、前記電体との比重が±50%以内のものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
前記絶縁性液体は、ミネラルオイル(鉱油)、流動パラフィン、アルカンおよびシリコンオイルからなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
前記電場は、定電場である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
前記電場を発生させる陽極と陰極とは、それらの中心軸が平行でないように配置される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
前記電極は、タングステン、タングステンカーバイド、金、白金、銀、銅、鉄およびアルミニウムからなる群より選択される導電性物質からなる群より選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
前記電場は、陽極・陰極の少なくとも2つの電極のセットによって発生され、該少なくとも2つの電極のセットの方向は、少なくとも2つが互いに異なる方向であり、前記電場および該電場を発生するための電極の空間的配置を制御することによって、運動のルートまたはモードを変更する工程をさらに包含する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
前記制御は、3次元それぞれの座標を1μm単位で操作可能なマイクロマニュピレーターを用い、それぞれの座標を操作し電極を所望の位置へ動かすか、手もしくはピンセットでの操作によって実現される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記誘電体を前記の電極の空間的制御及び印加電圧の強さの制御により、間接的に制御することによって該誘電体を輸送する工程、をさらに包含する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
前記誘電体が複数存在し、該複数の誘電体の集団運動をさせることによって、モーターの働きをさせることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
薬剤の液滴輸送、化学反応、薬剤調合、バイオ試料の非接触輸送、マイクロタービンまたはモーターにおいて用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
サイクリックな運動を利用することによって誘電体を輸送する装置であって
A)該誘電体を受け入れるための絶縁性液体;および
B)該絶縁性液体中に存在する、2つの電極を含む電場をかけることによって該誘電体のサイクリックな運動を実現させる手段であって、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置される、手段
を備え、
該電極は、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有し
該電場は、1V~1000Vの範囲のものであり、
該誘電体が該電極間に配置されるように適合されており、0.1μm~100μmの範囲のサイズのものである、
装置。
【請求項19】
サイクリックな運動を利用することによって力学的仕事を取り出す装置であって
A)絶縁性液体;
B)該絶縁性液体中に配置された誘電体;
C)該絶縁性液体中に存在する、2つの電極を含む電場をかけることによって該誘電体のサイクリックな運動を実現させる手段であって、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置される、手段;および
D)該誘電体からサイクリックな運動を利用することによって力学的仕事を取り出す手段であって、該手段はマイクロタービンであって、該マイクロタービンは、回転軸と羽の部分があり、羽が回転軸の周りに回転できるものである、手段を備え、
該電極は、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有し
該電場は、1V~1000Vの範囲のものであり、
該誘電体が該電極間に配置されるように適合されており、0.1μm~100μmの範囲のサイズのものである、
装置。
【請求項20】
前記サイズは、1μm~100μmの範囲のものである、請求項1または19に記載の装置。
【請求項21】
前記誘電体は、静電場を加えたときに誘電分極を生じるが電流を生じない物質であり、さらに静電気の帯電性がある物質である、請求項1または19に記載の装置。
【請求項22】
前記誘電体は、水滴、ポリマー性物質およびガラスビーズからなる群より選択される、請求項1または19に記載の装置。
【請求項23】
前記誘電体は、界面活性剤を含むエマルジョンである、請求項1または19に記載の装置。
【請求項24】
前記界面活性剤は、ジオレオイル・ホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイル・ホスファチジルセリン(DOPS)、eggPC、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STAC)、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド(STAB)、ソディウムドデシルサルフェイト(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドおよびペンタエチレングリコールドデシルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つの物質を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項25】
前記絶縁性液体は、不揮発性で、導電性がなく、常温常圧下で流動性のある物質であり、前記電体との比重が±50%以内のものである、請求項1または19に記載の装置。
【請求項26】
前記絶縁性液体は、ミネラルオイル(鉱油)、流動パラフィン、アルカンおよびシリコンオイルからなる群より選択される、請求項1または19に記載の装置。
【請求項27】
前記電場は、定電場である、請求項1または19に記載の装置。
【請求項28】
前記電極は、タングステン、タングステンカーバイド、金、白金、銀、銅、鉄およびアルミニウムからなる群より選択される導電性物質である、請求項1または19に記載の装置。
【請求項29】
前記電場をかける手段は、陽極・陰極の少なくとも2つの電極のセットであり、該少なくとも2つの電極のセットの方向は、少なくとも2つが互いに異なる方向に配置される、請求項1または19に記載の装置。
【請求項30】
3次元それぞれの座標を1μm単位で操作可能なマイクロマニュピレーターをさらに備え、該マイクロマニュピレーターは、それぞれの座標を操作し電極を所望の位置へ動かすものであり、あるいは、ピンセットをさらに備える、請求項29に記載の装置。
【請求項31】
前記誘電体を前記の電極の空間的制御及び印加電圧の強さの制御により、間接的に制御することによって該誘電体を輸送するための手段、をさらに備える、請求項1または19に記載の装置。
【請求項32】
前記誘電体が複数存在し、該複数の誘電体の集団運動をさせることによって、モーターの働きをさせることを特徴とする、請求項19に記載の装置。
【請求項33】
薬剤の液滴輸送、化学反応、薬剤調合、バイオ試料の非接触輸送、マイクロタービンまたはモーターにおいて使用するための請求項19に記載の装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、定電場によるマイクロサイズの物体の輸送および力学的仕事の取り出しに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、振動性、周期性のある運動には、交流電場が使用されている。このような場合、電流が発生することによって運動が生じる。
【0003】
また、マイクロサイズでは、流れの慣性力と粘性力の大きさの比を表わすレイノルズ数が低いことから、メカニカルな運動から仕事を取り出すことは困難とされている。
【0004】
非特許文献1は、定電場が、油中における数十μmの直径の水滴に与える効果について記載する。
【0005】
一般的に、本発明が対象とするマイクロサイズの世界は、低レイノルズ数の世界といわれている。このようなスケールの世界では、方向性を持たない直線上の周期運動を行わせるだけでは仕事を取り出すことができないということが知られている。従って、非特許文献1で記述しているような、直線的な往復運動だけでは仕事を取り出すことができない。
【0006】
以上から、マイクロサイズにおいて、定電場下でも自律的にかつ自由自在に物体を運動させ、輸送し、力学的仕事を取り出すことができる技術の提供が求められている。
【0007】
また、非特許文献2~5も知られているが、マイクロ物体を直線的に動かすことはなされているが、仕事を取り出す上で最も重要な二次元的な運動を行わせることはできておらず、それに関する発想も全く記載が見当たらない。
【0008】
ナノメートル~マイクロメートルスケールでは、レイノルズ数が非常に低く、物体の慣性力は重要な役目を果たさず、その物体の運動は環境の粘性力によってただちに減衰される。したがって、物体を持続的に推進させるためには、なんらかの駆動エネルギーが供給されなければならない。このように、マイクロ物体の運動は、非線形系および非平衡系における重要な問題を提起している。加えて、生体高分子および細胞を含むマイクロ物体を推進および制御する能力は、応用物理学および生体物理学の研究において、そしてMEMSおよびμTAS技術において重要であり、多くの適切な技術が活発に開発されてきたが、まだまだ実用化には程遠い。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】Masahiko Hase,Shun N. Watanabe,and Kenichi Yoshikawa,PHYSICAL REVIEW E 74,046301 2006
【非特許文献2】T. Mochizuki,Y. Mori,and N. Kaji,AIChE Journal 36,1039 (1990).
【非特許文献3】J. Eow,M. Ghadiri,and A. Sharif,Colloids Surf. A 225,193 (2003).
【非特許文献4】Y. Jung,H. Oh,and I. Kang,J. Colloid Interface Sci. 322,617 (2008).
【非特許文献5】W. D. Ristenpart,J. C. Bird,A. Belmonte,F. Dollar,and H. A.Stone,Nature 461,377 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
マイクロサイズにおいて、自由自在に電流を発生させずに定電場でも物体を運動させ、輸送し、力学的仕事を取り出すことができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、油中などの絶縁性流体中で、たとえばマイクロサイズ(本明細書では、代表的に、数nm~1000μmの範囲をいう。)などの誘電体に電場を発生させる2つの電極を、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置して電場(たとえば、定電場)をかけるだけで、誘電体を3次元的に自在に輸送することができ、また、それにより力学的な仕事を取り出すことができることを見出した(図1)。本発明では、誘電体とは、例えば、水滴、ポリスチレンビーズ、ガラスビーズなどのような任意の誘電物体であるが、マイクロサイズの物体は誘電体であればよく物質に依存しないことが判明した。また、周囲の媒質も油に限らず絶縁性流体ならばよいことが判明した。そして、非特許文献1~5では、認識すらされていなかった課題を解決した。したがって、本発明では、仕事を取り出す上で最も重要な二次元的な運動の一つである、回転運動を実施することに世界で始めて成功したということが大きな進歩となっているといえる。また、上記非特許文献1~5では、仕事を取り出すという観点を全く持ち合わせていないので、そこから容易に推測可能な範囲で今回の発明があったというわけではない。換言すれば、これらの文献は、「動く」という点で記載されているに過ぎない。本発明で特徴となる「仕事の取り出し」という点は示唆すらされていない。一定電場のもとでの高次元のサイクリックな運動についてはなんら報告されていない。マイクロサイズの運動から仕事およびエネルギーを取り出すためには、少なくとも2次元のサイクリックな運動が要求される。本発明で報告する誘電体のマイクロ物体の回転運動は、マイクロ物体の制御のための単純かつ有用な戦略の発展に有用であり得る。
【0012】
すなわち、本発明は、単に液滴を運動させたというだけの問題ではなく、非常に重要なサイクリックな運動を実現して見せたことに意義があり、本発明のようなサイクリックな運動を利用することにより、仕事を取り出せることができることも実証した。
【0013】
本発明は、定常直流電場のもとでの油相内のマイクロ水滴の回転運動に関する。液滴は、プラス電極およびマイナス電極の適切な幾何学的配置のもとで回転運動を行う。本発明において、回転運動は、特定の臨界電位を超えると発生し、その周波数は電位の増大に伴って増大する。本発明は、回転運動の発生を記述する単純な理論的モデルを提供すると共に、マイクロ回転モーターを実現するための本願発明のシステムの応用例も提供する。
【0014】
したがって、本発明は、以下を提供する。
(1)誘電体を輸送するか、または力学的仕事を取り出す方法であって、
A)電場を発生させる2つの電極を、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置し、絶縁性流体中で該誘電体に電場をかける工程
を包含する、方法。
(2)前記誘電体は、マイクロサイズであり、該マイクロサイズは、数nm~1000μmの範囲にある、上記項目に記載の方法。
(3)前記マイクロサイズは、1μm~100μmの範囲のものである、上記項目に記載の方法。
(4)前記誘電体は、静電場を加えたときに誘電分極を生じるが電流を生じない物質をいい、さらに静電気の帯電性がある物質である、上記項目に記載の方法。
(5)前記誘電体は、水滴;ポリスチレンビーズ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリルアミドゲルなどのポリマー性物質;ガラスビーズからなる群より選択される、上記項目に記載の方法。
(6)前記水滴は、界面活性剤を用いて生成される、上記項目に記載の方法。
(7)前記界面活性剤は、ジオレオイル・ホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイル・ホスファチジルセリン(DOPS)、eggPC、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STAC)、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド(STAB)、ソディウムドデシルサルフェイト(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ペンタエチレングリコールドデシルエーテル、などを用いて生成される、上記項目に記載の方法。ここで、界面活性剤とは、親水基と疎水基を一分子中に併せ持つ物質で、疎水性の油液の中に水滴を形成させることができる物質であり、油水の界面に存在するものである。
(8)前記絶縁性流体は、不揮発性で、導電性がなく、常温常圧下で流動性のある物質であり、前記マイクロサイズの誘電体との比重が±50%以内のものである、上記項目に記載の方法。
(9)前記絶縁性流体は、ミネラルオイル(鉱油)、流動パラフィン、アルカンおよびシリコンオイルからなる群より選択される、上記項目に記載の方法。
(10)前記電場は、定電場である、上記項目に記載の方法。
(11)前記電場は、1V~1000Vの範囲のものである、上記項目に記載の方法。
(12)前記電場を発生させる陽極と陰極は、それらの中心軸が平行でないように配置される、上記項目に記載の方法。電極の中心軸が同一直線上に乗ってしまう形ではサイクリックな運動が取り出せないことから、非対称な配置であることが重要である。また、平行でないように配置することにより、平行な場合よりもさらにサイクリックな運動を取り出すことができる。
(13)前記電極は、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有する、上記項目に記載の方法。
(14)前記電極は、タングステン、タングステンカーバイド、金、白金、銀、銅、鉄、アルミニウムなどの導電性物質である、上記項目に記載の方法。
(15)前記電場は、陽極・陰極の少なくとも2つの電極のセットによって発生され、該少なくとも2つの電極のセットの方向は、少なくとも2つが互いの異なる方向であり、前記電場および該電場を発生するための電極の空間的配置を制御することによって、運動のルートまたはモードを変更する工程をさらに包含する、上記項目に方法。
(16)前記制御は、3次元それぞれの座標を1μm単位で操作可能なマイクロマニュピレーターを用い、それぞれの座標を操作し電極を所望の位置へ動かすか、手もしくはピンセットでの操作によって実現される、上記項目に記載の方法。
(17)前記誘電体を前記の電極の空間的制御及び印加電圧の強さの制御により、間接的に制御することによって該誘電体を輸送する工程、をさらに包含する、上記項目に記載の方法。
(18)さらにマイクロタービンを、前記誘電体が運動しうる空間に配置し、該誘電体の運動によって運動するマイクロタービンから仕事を取り出すことを特徴とし、該マイクロタービンは、回転軸と羽の部分があり、回転軸の周りに羽が回転できるものである、上記項目に記載の方法。ここで、マイクロタービンとは、マイクロ加工技術によって作ることが可能な、たとえば、1μm~100μmのサイズの物体で、回転軸と羽の部分があり、羽が回転できる物体である。たとえば、マイクロサイズに加工を行ったSiOレイヤーによる水車(例として、Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,T.Q.Uyeda,Proc.Natl Acad.Sci.USA103,13618-13623(2006).の中で利用されているものなど。)が挙げられる。
(19)前記誘電体が複数存在し、該複数の誘電体の集団運動をさせることによって、モーターの働きをさせることを特徴とする、上記項目に記載の方法。
(20)ポリマーの力学的コントロール、薬剤の液滴輸送、化学反応、薬剤調合、バイオ試料の非接触輸送、マイクロ流路については、以下説明される。
【0015】
ポリマーの力学的コントロール:DNAなどのポリマーの両端をそれぞれ別々のポリマービーズに結合させる手法は確立されている。本研究の成果を利用すれば、ポリマーの両端に付いたポリマービーズを自在にコントロールすることができるので、その結果としてポリマーを力学的にコントロールできる。
【0016】
薬剤の液滴輸送:前述のように水滴が作れるので、この水滴の中に薬剤を入れておけば容易に輸送が可能である。
【0017】
化学反応:輸送している液滴を衝突させて融合させることで、液滴中で化学反応を開始できる。
【0018】
薬剤調合:化学反応と同様に、輸送している液滴を衝突させて融合させることで、混合などができる。反応をスタートさせる前には混ぜたくないものを別々の液滴で用意しておいて、混ぜたい場所で混ぜることができる。しかも、マイクロサイズの微小空間でそれが可能である。
【0019】
バイオ試料の非接触輸送:細胞や生体高分子も一種の誘電体であるので、本技術が適用可能である。
【0020】
マイクロ流路との組み合わせ:前述のマイクロタービンと同様。マイクロ技術の一環である。
【0021】
半導体技術との組み合わせとは、運動を直接制御するわけではなく、電場のコントロールを半導体素子、回路基板を利用して行うという意味である。
【0022】
本発明はまた、以下のような装置にかかる発明をも提供する。
(21)誘電体を輸送する装置であって
A)該誘電体を受け入れるための絶縁性流体;および
B)該絶縁性流体中に存在する、2つの電極を含む電場をかける手段であって、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置される、手段を備える、装置。
【0023】
ここで、電場をかける手段は、絶縁性流体中に、電極を配置し、電圧をかける装置であればなんでもよい。
(22)力学的仕事を取り出す装置であって
A)絶縁性流体;
B)該絶縁性流体中に配置された誘電体;
C)該絶縁性流体中に存在する、2つの電極を含む電場をかける手段であって、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置される、手段;および
D)該誘電体から力学的仕事を取り出す手段を備える、装置。
【0024】
このような誘電体から力学的仕事を取り出す手段あるいは誘電体の運動を仕事に変換する手段としては、1μm~数千μm程の大きさのプロペラ状の物質を水車のように回転させタービンとして仕事を取り出したり、誘電体に磁化された物質を付着させることで間接的に磁場を制御し、近傍にタービンを配置することで仕事を取り出すことなどが考えられる。
【0025】
さらなる実施形態では本発明はまた、以下のような装置にかかる発明をも提供する。
(23)前記誘電体は、マイクロサイズであり、該マイクロサイズは、数nm~1000μmの範囲にある、上記項目に記載の装置。
(24)前記マイクロサイズは、1μm~100μmの範囲のものである、上記項目に記載の装置。
(25)前記誘電体は、静電場を加えたときに誘電分極を生じるが電流を生じない物質をいい、さらに静電気の帯電性がある物質である、上記項目に記載の装置。
(26)前記誘電体は、水滴;ポリスチレンビーズ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリルアミドゲル、などのポリマー性物質;ガラスビーズなどである、上記項目に記載の装置。
(27)前記水滴は、界面活性剤を用いて生成される、上記項目に記載の装置。
(28)前記界面活性剤は、ジオレオイル・ホスファチジルコリン(DOPC)、ジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイル・ホスファチジルセリン(DOPS)、eggPC、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STAC)、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド(STAB)、ソディウムドデシルサルフェイト(SDS)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ペンタエチレングリコールドデシルエーテルなどを用いて生成される、上記項目に記載の装置。
(29)前記絶縁性流体は、不揮発性で、導電性がなく、常温常圧下で流動性のある物質であり、前記マイクロサイズの誘電体との比重が±50%以内のものである、上記項目に記載の装置。
(30)前記絶縁性流体は、ミネラルオイル(鉱油)、流動パラフィン、アルカンおよびシリコンオイルからなる群より選択される、上記項目に記載の装置。
(31)前記電場は、定電場である、上記項目に記載の装置。
(32)前記電場は、1V~1000Vの範囲のものである、上記項目に記載の装置。
(33)前記電場を発生させる陽極および陰極は、それらの中心軸が平行でないように非対称に配置される、上記項目に記載の装置。
(34)前記電極は、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有する、上記項目に記載の装置。
(35)前記電極は、タングステン、タングステンカーバイド、金、白金、銀、銅、鉄およびアルミニウムからなる群より選択される導電性物質である、上記項目に記載の装置。
(36)前記電場をかける手段は、陽極・陰極の少なくとも2つの電極のセットであり、該少なくとも2つの電極のセットの方向は、少なくとも2つが互いの異なる方向に配置される、上記項目に記載の装置。
(37)3次元それぞれの座標を1μm単位で操作可能なマイクロマニュピレーターをさらに備え、該マイクロマニュピレーターは、それぞれの座標を操作し電極を所望の位置へ動かすものであり、あるいは、ピンセットをさらに備える、上記項目に記載の装置。
(38)前記誘電体を前記の電極の空間的制御及び印加電圧の強さの制御により、間接的に制御することによって該誘電体を輸送するための手段、をさらに備える、上記項目に記載の装置。
(39)さらにマイクロタービンを備える、上記項目に記載の装置。マイクロタービンとしては、マイクロサイズに加工を行ったSiOレイヤーによる水車(例として、Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,T.Q.Uyeda,Proc.Natl Acad.Sci.USA 103,13618-13623(2006).の中で利用されているものなど。)がある。
(40)前記誘電体が複数存在し、該複数の誘電体の集団運動をさせることによって、モーターの働きをさせることを特徴とする、上記項目に記載の装置。
(41)ポリマーの力学的コントロール、薬剤の液滴輸送、化学反応、薬剤調合、バイオ試料の非接触輸送、マイクロ流路において使用するための上記項目に記載の装置。
【0026】
これらのすべての局面において、本明細書に記載される各々の実施形態は、適用可能である限り、他の局面において適用されうることが理解される。
【発明の効果】
【0027】
以上から、本発明は、定電場をかけてマイクロサイズの誘電体に力学的な運動を発生させることに成功した。したがって、本発明は、回転モーターライクな運動を提供し、交流電場ではないのに、振動性・周期性のある運動が発生させられることを達成した。また、電流は発生していないので電流による運動ではなく、電場の強さ、電極の空間的配置により、運動のルートや運動のモードを自由に変えられることを達成した。加えて、無接点・定電場で、モーターライクの運動が取り出せる点が重要であり、非接触で物体を輸送できることが判明した。

【0028】
特に、図3に示されるように、電極を同一直線上に配置すると単純な周期運動しか取り出せない(非特許文献1)が、図3の中央図や、右図のように電極を同一直線上に配置しないようにすると、誘電体にかかる力のうち、荷電体に働く力(図4(i)参照)および誘電的な力(図4(ii)参照)の両方を利用したような状態にすることができることから、サイクリックな運動を取り出すことができる。このような状態にすることができるかどうかに関しては、従来技術では予測できず、教科書的なレベルでは自明ではなく、新規な技術であるといえる。
【0029】
この点は、非特許文献1に記載される式など自体からは、容易に想像つかないレベルのものであり、2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置することを採用することによって達成された予想外の現象であるサイクリックな運動が本発明によって初めて達成された点に本発明の顕著な効果の一つがあるといえる。
【0030】
最後に、一般に、マイクロサイズは低レイノルズ数の領域なのでメカニカルな運動から仕事を取り出しにくいが、今回の発明はそれを可能にしたという点で顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
複数の図面にわたって現われる同じ参照番号は、同じ要素を示す。
【図1】図1は、マイクロサイズ物体輸送の概念図である。
【図1A】図1Aは、陽極と陰極とがそれらの中心軸が同一直線上にならないように配置された場合の模式図である。本発明において用いられる電場を構成する陽極と陰極とは、それらの中心軸が同一直線上にならないように配置されることが有利であることを示す。
【図1B】図1Bは、中心軸が平行になっていないような場合を説明する図。平行な場合よりもさらにサイクリックな運動を取り出すことができることが説明される。
【図1C】図1C(a)は、実験設定の側面図である。水滴を含む鉱油をスライドグラス上に配置し、該鉱油内に電極を挿入した。顕微鏡を用いることにより、上方から実験を観察した。Vは、電極間に印加した一定電圧である。X-Z座標は、垂直平面である。O(原点)は、マイナス電極の頂点である。図1C(b)は、実験設定の上からの図(顕微鏡画像)である。X-Y座標は、水平平面である。ここで、図1C(a)および図1C(b)において、100は水滴、102はミネラルオイル(鉱油)、104はマイナス電極、106はスライドグラス、108は一定電圧、110はプラス電極、112は顕微鏡の対物レンズを示す。

【0032】
【数1】
JP0005867920B2_000002t.gif

【0033】
は、水滴の中心である。(l,d)は、プラス電極の頂点である。
【図2】図2は、実験のセットアップ(左)とサイクリックな運動している1個の水滴のスナップショットを連続撮影して重ね合わせた合成写真(右)を示す。電極:タングステン製、界面活性剤:リン脂質DOPC
【図2A】図2A(a)~図2A(d)は、w/o液滴の回転運動である。l=d=100μmであった。液滴のサイズは、r=17.1μmであった。左側の図は、液滴のスナップショットの重ね合わせである。中央の図は、液滴の経時的変化である。x(実線)、y(破線)で示している。右側の図は、それらのフーリエ変換(FT)のスペクトルである。x(実線)、y(破線)で示している。図2A(a)ではV=20Vであり、2秒ごとのスナップショットである。図2A(b)ではV=60Vであり、0.4秒ごとのスナップショットである。図2A(c)ではV=120Vであり、0.2秒ごとのスナップショットである。図2A(d)ではV=160Vであり、0.2秒ごとのスナップショットである。図2A(e)は、数値シミュレーションである。左側の図は、液滴の軌跡である。中央の図は、経時データである。右側の図は、フーリエ変換のスペクトルである。ここで、図2A(a)~(e)において、221は開始点を示す。210は小滴を示し、212および215は電極を示す。図2A(e)のシミュレーションで使用された定電場および数値パラメータは実施例において記載したとおりである。
【図3】図3は、スナップショットの重ね合わせ(別の実験例)を示す。図中の各番号(a)~(c)は、それぞれ電極の配置を示している。ここで、(a)電極の配置(左):中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に0μm;(b)電極の配置(中央):中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に40μm;(c)電極の配置(右):中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に120μmである。この実験(c)では電極の配置を変更している。電極はタングステンカーバイト製であり、界面活性剤はリン脂質DOPCである。
【図4】図4は、物理モデルとシミュレーションの結果である。左には、本発明を説明する運動方程式を記載し、右には、その計算結果を示す。すなわち、図4左(I)は、粘性が強いときの運動方程式(over-damped system)を表す。この運動方程式の右辺について、(i)右辺第一項は、荷電体に働く力を示し、ここで、帯電した誘電体は電極と引き合うか、または反発しあうことを示す;(ii)右辺第二項は、誘電体に働く力を示し、ここで、誘電体は電気力線の密度の高い方へ引き寄せられることを示す。図4左(II)は、電荷のチャージ・放電に関する方程式を示し、電極接触時の場合と電極非接触時の場合とを示す。電極接触時には電荷チャージが起こり、電極非接触時には放電が起こる。図4右上のグラフは、シミュレーションの結果を示す。図4左(I)に示される(i)および(ii)の力の方向が違うのでそのバランスによって運動方向が決まる。つまりバランスによって回転運動が発生する。
【図5】図5は、シミュレーションの結果の詳細説明模式図である。図中の各番号(1)~()は、それぞれ(1)陽極から誘電体に電荷をチャージすること;(2)静電気的な反発力で陽極とプラスに帯電した誘電体とが反発し、プラス電荷が除々にリークすること;(3)静電的な引力が働き、電極の陰極に引き寄せられて接触すること;(4)陰極から誘電体に電荷をチャージすること;(5)静電気的な反発力が陰極とマイナスに帯電した誘電体との間で生じ、電荷が除々にリークし;(6)その後、誘電的な引力が働き、電極の陽極に引き寄せられ(1)に戻ることを示す。
【図5A】図5Aは、図5A(a)~図5A(f)は、印加した電圧に対する回転運動の周波数の依存性を示す実験結果である。図5A(a)では、r=14.0μm(rは、小滴の直径を示す)、図5A(b)では、r=17.1μm、図5A(c)では、r=18.8μm、図5A(d)では、r=19.5μm、図5A(e)では、r=31.8μm、図5A(f)では、r=34.6μmである。領域(I)~(III)は、図5A(g)のフェーズダイヤグラムにおける運動モードに対応する。図5A(g)は、印加した電圧に依存する液滴の運動である。ここで、図5A(g)において、G1は(モードI)非回転運動、G2は(モードII)回転運動、G3は(モードIII)電極上でのバウンドを伴う回転運動を示す。
【図6】自由自在な輸送および仕事の取り出しを示す模式図である。図中の各番号(a)および(b)は、それぞれ(a)自由自在な輸送;(b)仕事の取り出しを示す。各参照番号について、600はマイクロサイズ誘電体、610はマイクロタービン、602,604,606,608,612,614は電極を示す。
【図7】マイクロサイズ誘電体の集団運動によるモーターおよびポリマーの力学的コントロールを示す模式図である。図中の各番号(a)および(b)は、(a)マイクロサイズ誘電体の集団運動によるモーター;(b)ポリマーの力学的コントロールを示す。各参照番号について、700はマクロサイズ誘電体、710はポリマー、702,704,712,714,716,718は電極を示す。
【図8】薬剤等の液滴輸送、液滴の融合による化学反応、薬剤調合、細胞などのバイオ試料の非接触輸送を示す模式図である。図中の各番号(a)~(c)は、それぞれ(a)薬剤等の液滴輸送、液滴の融合による化学反応、薬剤調合。;(b)細胞などのバイオ試料の非接触輸送。細胞は接触によるダメージがあるので、非接触である点は非常に重要である。液の無駄がなく、低コストが実現でき、μTASの性質も兼ね備えたものが実現することができる。各参照番号は、800は液滴、810はバイオ試料、802,804,806,808,812,814,816,818は電極を示す。
【図9】マイクロ流路を示す模式図である。円形流路内に誘電体が導入される。マイクロ流路との組み合わせでより大きな回転運動が取り出される。各参照番号は、900は円形流路、902,904は電極を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。

【0035】
(用語の定義)
本明細書において「誘電体」とは、電気伝導をになう自由電子をもたず,電場を加えたときに電気分極を生じる物質をいう。代表的には、静電場を加えたときに誘電分極を生じるが電流を生じない物質をいい、さらに静電気の帯電性がある物質である。誘電体としては、たとえば、水滴、ポリマー性物質(たとえば、ポリスチレンビーズ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリルアミドゲル)およびガラスビーズなどを挙げることができる。

【0036】
本明細書において「輸送」とは、当該分野で通常使用されるものと同じ意味を有し、ある標的物体を移動させることをいう。

【0037】
本明細書において「力学的仕事」とは、「仕事」ともいい、物体の動く方向にその成分をもつような力が物体に加えられ,物体が移動するときに起こるエネルギーの移動をいう。物体が移動する行程全体での力の一次積分に等しいものである。

【0038】
本明細書において「絶縁性流体」とは、電気を通さない流動性物質をいう。好ましくは、不揮発性で、導電性がなく、常温常圧下で流動性のある液体および気体であり、マイクロサイズの誘電体との比重が±50%程度以内のものが有利に使用される。たとえば、絶縁性流体としては、ミネラルオイル(鉱油)、流動パラフィン、アルカン、シリコンオイルを使用することができる。好ましくは、絶縁性流体は、容器に入れて提供される。絶縁性流体は非電解質であってもよい。

【0039】
従来技術では、マイクロサイズのもののように粘性が強い状況でモーターを実現することが困難であった。本発明では、今回はこれを実現することに成功した。本発明の技術は、このように、粘性が強いにも拘らず実現できるという点にも特徴がある。また、当然であるが、本発明は、粘性が弱くでも実施することができることが理解される。

【0040】
本明細書において、「電場」とは、当該分野で通常使用される意味で用いられ、電体が他の荷電体を引きつけたり反発したりする原因となる自然界の基本的な場をいい、電界ともいう。通常、複数の電極(陽極および陰極)によって発生される。

【0041】
本明細書において、「定電場」とは、一定の値の電場をいう。たとえば、1V~1000Vの範囲のものでありうるがこれに限定されない。本発明は、定電場であったとしても周期運動や回転運動などの力学運動を取り出せる点においても、従来技術にない利点を提供することができる。

【0042】
本明細書において、電場は、代表的には、陽極と陰極とからなるセットによって発生される。電極は、好ましくは、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有するもので実現されうる。電極は、タングステン、タングステンカーバイド、金、白金、銀、銅、鉄、アルミニウムなどの導電性物質を挙げることができる。たとえば、陽極・陰極の少なくとも2つの電極のセットによって発生され、該少なくとも2つの電極のセットの方向は、少なくとも2つが互いの異なる方向であり、前記電場および該電場を発生するための電極の空間的配置を制御することによって、運動のルートまたはモードを変更することができる。

【0043】
ここで、制御は、3次元それぞれの座標を1μm単位で操作可能なマイクロマニュピレーターを用い、それぞれの座標を、たとえば、必要に応じてツマミなどの手段で操作し電極を所望の位置へ動かすか、手もしくはピンセットでの操作によって実現される。

【0044】
本明細書において、「マイクロサイズ」とは、一般には数nm~1000μm程度の範囲であり、場合により、サブマイクロン(0.1μm)~1000μmの範囲をマイクロサイズであり、この中でも特に本技術を有効に利用できる1μm~100μmの範囲でありえるがそれに限定されない。ここで数nmとは、少なくとも1nmを指し、サブnm~1nm程度の分子が集合したもののサイズであれば、該当することが理解され、代表的には、約2~3nm以上のものを指すがそれに限定されない。下限としては、サブnm~1nm程度の分子が集合した数nmの誘電体であれば、実現できるというべきである。他方、理論に束縛されることを望まないが、本発明の原理は、少なくともμmのスケール、すなわち1000μmまでの範囲において、適用されうると当業者に理解されることから、上限として、少なくとも1000μmを挙げることができる。たしかに、それより大きいミリメートルスケールでは現象を支配する方程式(原理)が異なり得るが、本発明の適用を排除するものではなく、1000μmより大きなサイズであっても、本発明の原理が適用されうる限り、本発明が実施され得ることが理解される。

【0045】
本明細書において、「界面活性剤」とは、親水基と疎水基を一分子中に併せ持つ物質で、疎水性の油液の中に水滴を形成させることができるものをいう。この場合、界面活性剤は油水の界面に存在していることが通常である。界面活性剤としては、たとえば、アルキル硫酸塩類(例:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、アルキルトリメチルアンモニウム塩類(例:ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STAC)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド(STAB))、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類(例:ペンタエチレングリコールドデシルエーテル)、ジアシルフォスファチジルコリン類(例:ジオレオイル・フォスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイル・フォスファチジルコリン(DPPC))、ジアシルフォスファチジルエタノールアミン類(例:ジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジパルミトイル・フォスファチジルエタノールアミン(DPPE))、ジアシルフォスファチジルセリン類(例:ジオレオイル・ホスファチジルセリン(DOPS)、ジパルミトイル・フォスファチジルセリン(DPPS))、ジアシルフォスファチジルグリセロール(例:ジオレオイル・ホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイル・フォスファチジルグリセロール(DPPG))、eggPC、などを挙げることができるがこれに限定されない。たとえば、使用できる可能性のあるものはこのほかにも存在し、たとえば、ジアシル・・・の類は、接尾のPC/PE/PS/PGはよく使われるものはこの4つであるが、接頭のDO/DP/DS/・・・などはまだ多数挙げることができ、これらも本発明において使用することができる。

【0046】
本明細書において「マイクロタービン」とは、マイクロ加工技術によって作ることが可能な、たとえば、1μm~100μmのサイズの物体で、回転軸と羽の部分があり、回転軸の周りを羽が回転できる物体である。たとえば、マイクロサイズに加工を行ったSiOレイヤーによる水車(例として、Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,T.Q.Uyeda,Proc.NatlAcad.Sci.USA103,13618-13623(2006).の中で利用されているものなど。)が挙げられる。マイクロタービンを用いて、前記誘電体が運動しうる空間に配置し、該誘電体の運動によって運動するマイクロタービンから仕事を取り出すことができる。ここで、マイクロタービンは、回転軸と羽の部分があり、羽が回転できるものであるものが好ましい。

【0047】
1つの実施形態では、本発明では、誘電体が複数存在し、該複数の誘電体の集団運動をさせることによって、モーターの働きをさせることができる。

【0048】
(好ましい実施形態の説明)
以下に、本発明の好ましい実施形態を記載するが、本発明は、これらの好ましい実施形態に限定されるべきではなく、本明細書の記載全体に基づいて、当業者が適宜改変することができることが理解される。

【0049】
(サイクリックな運動発生方法およびその応用)
1つの局面において、本発明は、誘電体を輸送するか、または力学的仕事を取り出す方法であって、A)電場を発生させる2つの電極を、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置し、絶縁性流体中で該誘電体に電場をかける工程を包含する、方法を提供する。

【0050】
本発明は、単に液滴を運動させたというだけの問題ではなく、非常に重要なサイクリックな運動を実現して見せたことに意義があり、従来の技術(たとえば、非特許文献1)記載されるような技術では、単純に予想できなかった、2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置するという特徴によって、サイクリックな運動を達成することができるという点において顕著性を有するというべきである。また、本発明のようなサイクリックな運動を利用することにより、仕事を取り出せることができることも実証した。

【0051】
したがって、電極の中心軸が同一直線上に乗ってしまう対称性の良い形ではサイクリックな運動が取り出せないことから、電極の中心軸が同一直線上に配置されないこと、好ましくは、平行でないように配置されることが有利であり得る。

【0052】
本明細書において「2つの電極の中心軸が同一直線上にならない」とは、電場を発生させる2つの電極の配置についていい、それらの電極の中心軸がひとつの直線上に配置されていないことを意味する。ここで、「電極の中心軸」とは、当該分野において通常使用される意味で用いられ、前述の鋭利な電極形状において、長さの最も長い方向に平行な中心線をいう。好ましくは、中心軸は、平行でないように配置されることが有利である。

【0053】
マイクロサイズの誘電体に定電場をかけるだけで、誘電体を3次元的に自在に輸送することができ、また、それにより力学的な仕事を取り出すことができることを見出した(図1)。本発明では、誘電体とは、例えば、水滴、ポリスチレンビーズ、ガラスビーズ、・・・などのような任意の誘電物体であるが、マイクロサイズの物体は誘電体であればよく物質にも形状にも依存しないことが判明した。また、周囲の媒質も油に限らず絶縁性流体ならばよいことが判明した。最後に、一般に、マイクロサイズは低レイノルズ数の領域なのでメカニカルな運動から仕事を取り出しにくいが、今回の発明はそれを可能にしたという点で顕著である。本発明は、定電場をかけてマイクロサイズの誘電体に力学的な運動を発生させることに成功した。

【0054】
したがって、本発明は、回転モーターライクな運動を提供し、交流電場ではないのに、振動性・周期性のある運動が発生させられることを達成した。また、電流は発生していないので電流による運動ではなく、電場の強さ、電極の空間的配置により、運動のルートや運動のモードを自由に変えられることを達成した。加えて、無接点・定電場で、モーターライクの運動が取り出せる点が重要であり、非接触で物体を輸送できることが判明した点従来不可能であったマイクロモータなどの応用をすることができる点において優位である。

【0055】
従来技術では、図3に示されるように、電極を同一直線上に配置すると単純な周期運動しか取り出せない(非特許文献1)。しかし、本発明において開示されるように、図3の中央図や、右図のように電極を同一直線上に配置しないようにすると、誘電体にかかる力のうち、荷電体に働く力(図4(i)参照)および誘電的な力(図4(ii)参照)の両方を利用したような状態にすることができることから、サイクリックな運動を取り出すことができる。このような状態にすることができるかどうかに関しては、従来技術では予測できず、教科書的なレベルでは自明ではなく、新規な技術であるといえる。また、本発明は、非特許文献1における1次元運動とは空間的には本質的に全く異なる2次元以上の運動を、「電極を同一直線上に配置しない」という手法によって実現している点が重要である。

【0056】
他方、本発明は、実施例において提示された実施形態に限定されないことが理解される。すなわち、本発明の現象が物理法則の範疇の中にあるわけであり、運動方程式や電磁気学の法則のような最も根本的な宇宙の支配原理の組み合わせで当然に説明することができる。すなわち、本明細書の記載に基づけば、物理法則などの当該分野における知識を用いて、他の実施形態に関しても、本発明ので実証された現象を予測することができ、設計変更することができるという点にある。つまり、どのような条件をどのように変えれば思い通りの運動を生み出すことができるのか、などといったことを実験すること無しに、計算から求めることが可能である。

【0057】
従って、理論的に説明が付くということは、一種のシミュレータを開発する基盤ができたということになる。

【0058】
本発明において開示された技術は、それを応用する際に、非常に有用な方法論を提供することにもつながる。ある現象の理論的枠組みを作れたということは、その現象が平凡であることを証明するものではない。その先の応用性を示す手段となるといえる。

【0059】
本発明は、一般の物理理論の教科書からは予想することができないものである。なぜならば、一般の教科書では「荷電体に働く力」というものを一般的には誘電体には適用しないからである。すなわち、誘電体には「誘電体に働く力」とされている力が働くのみとして、一般的には扱われているからである。しかも、一般的に知られている誘電泳動と呼ばれる手法では、この誘電体に働く力を「水・油などの液体」の中で「周期電場(非定電場)」をかけて利用しているのである。従って、本発明において、「荷電体に働く力と誘電体に働く力の融合」および「定電場においてサイクリックな運動を取り出す」ということは一般の物理理論の教科書、および他の論文などからは簡単に予想できるものではないといえる。

【0060】
本発明において見出された理論自体は、新たな発見であり、サイクリックな運動という現象を発見し、これを輸送および仕事の取り出しという本発明の完成をもたらした後、本発明で見出された運動が可能なのかということを、物理の基本法則を利用して説明することにも成功したという点でも本発明は注目すべきである。すなわち、本発明は、例示的に示された実施形態のみならず、本発明において提示された理論に基づいて、任意の実施形態を設計して実施することができるという点においても注目に値すべきであるといえる。換言すれば、従来の教科書に記載されている事項からは、本発明の理論が容易に導かれるものではなく、また、それを利用して実験したらその通りになったというような単純な流れでもないことに留意すべきである。

【0061】
本発明において用いられる絶縁性流体は、電気を通さず流動性のある物質であれば、何でも使用することができ、好ましくは、不揮発性で、導電性がなく、常温常圧下で流動性のある液体・気体であり、マイクロサイズの誘電体との比重が±50%程度以内のものが有利に使用される。たとえば、絶縁性流体としては、ミネラルオイル(鉱油)、流動パラフィン、アルカン、シリコンオイルを使用することができる。好ましくは、絶縁性流体は、容器に入れて提供される。そのような容器は、この絶縁性流体に適合性であれば何でも使用することができる。

【0062】
従来技術では、マイクロサイズのもののように粘性が強い状況でモーターを実現することが困難であった。本発明では、今回はこれを実現することに成功した。本発明の技術は、このように、粘性が強いにも拘らず実現できるという点にも特徴がある。また、当然であるが、本発明は、粘性が弱くでも実施することができることが理解される。そして図4の物理モデルとシミュレーションの結果の記載からあるように、粘性の強さに拘らないことが理解されうる。

【0063】
本発明では、定電場でも周期運動や回転運動などの力学運動を取り出せるという点においても、従来技術にない利点を提供することができる。

【0064】
1つの実施形態では、本発明において用いられる誘電体は、マイクロサイズであることが好ましい。誘電体のサイズは、代表的には、縦横高さのいずれを測定してもよく、シミュレーションに最も適合する部分のサイズを採用することができる。一般にマイクロサイズとは、μmの領域またはそれより小さい範囲をいい、一般には数nm~1000μm程度の範囲であり、場合により、サブマイクロン(0.1μm)~1000μmの範囲をマイクロサイズであり、この中でも特に本技術を有効に利用できる1μm~100μmの範囲でありえるがそれに限定されない。1つの実施形態では、1μm~100μmの範囲のものであり、別の実施形態では、5μm~50μm、10μm~100μm、1μm~10μmなどであり得るが、これらに限定されるものでもない。この中でも特に本技術を有効に利用できる1μm~100μmの範囲でありえるがそれに限定されない。ここで数nmとは、少なくとも1nmを指し、サブnm~1nm程度の分子が集合したもののサイズであれば、該当することが理解され、代表的には、約2~3nm以上のものを指すがそれに限定されない。下限としては、サブnm~1nm程度の分子が集合した数nmの誘電体であれば、実現できるというべきである。他方、理論に束縛されることを望まないが、本発明の原理は、少なくともμmのスケール、すなわち1000μmまでの範囲において、適用されうると当業者に理解されることから、上限として、少なくとも1000μmを挙げることができる。たしかに、それより大きいミリメートルスケールでは現象を支配する方程式(原理)が異なり得るが、本発明の適用を排除するものではなく、1000μmより大きなサイズであっても、本発明の原理が適用されうる限り、本発明が実施され得ることが理解される。

【0065】
別の実施形態において、本発明において用いられる誘電体は、静電場を加えたときに誘電分極を生じるが電流を生じない物質をいい、さらに静電気の帯電性がある物質であれば、任意のものを使用することができる。本発明において使用される誘電体としては、たとえば、水滴、ポリマー性物質(ポリスチレンビーズ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアクリルアミドゲル、その他プラスチック類など)、ガラスビーズなどを挙げることができる。

【0066】
1つの実施形態である水滴を用いる場合、好ましくは、水滴は界面活性剤を用いて生成される。界面活性剤としては、親水基と疎水基を一分子中に併せ持つ物質で、疎水性の油液の中に水滴を形成させることができるものであれば、その目的に応じ、どのようなものを利用してもよい。この場合、界面活性剤は油水の界面に存在していることになる。本発明において使用されうる界面活性剤としては、アルキル硫酸塩類(例:ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、アルキルトリメチルアンモニウム塩類(例:ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(STAC)、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド(STAB))、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類(例:ペンタエチレングリコールドデシルエーテル)、ジアシルフォスファチジルコリン類(例:ジオレオイル・フォスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイル・フォスファチジルコリン(DPPC))、ジアシルフォスファチジルエタノールアミン類(例:ジオレオイル・ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジパルミトイル・フォスファチジルエタノールアミン(DPPE))、ジアシルフォスファチジルセリン類(例:ジオレオイル・ホスファチジルセリン(DOPS)、ジパルミトイル・フォスファチジルセリン(DPPS))、ジアシルフォスファチジルグリセロール(例:ジオレオイル・ホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイル・フォスファチジルグリセロール(DPPG))、eggPC、などを挙げることができる。

【0067】
好ましい実施形態では、本発明において用いられる絶縁性流体は、不揮発性であり、導電性がなく、流動性のある物質である。絶縁性流体が不揮発性であることが好ましいのは、誘電体の長期の輸送・移動に適切であるからであり、蒸発による液体の対流で、誘電体の輸送・移動を阻害しないのに適切であるからである。好ましくは、常温・常圧で一日あたり体積の0.1%以下の揮発性しか見られない程度の不揮発性が有利である。本発明の絶縁性流体の導電性がないことが好ましいのは誘電体に働く電場の強度が確保されうるからであり、誘電体への電荷の帯電を効率よくするからである。

【0068】
また、本発明の絶縁性流体の比重は、本発明において用いられる誘電体との比重が±50%以内のものであることが好ましい。誘電体の輸送、移動において、比重が極端に異なると、スムーズな輸送、移動を行うことができないからである。

【0069】
本発明において使用されうる絶縁性流体としては、ミネラルオイル(鉱油)、流動パラフィン、アルカン、シリコンオイルなどを挙げることができる。

【0070】
好ましくは、本発明において利用される電場は、定電場である。本発明は、定電場においても、等しく利用でき、輸送および仕事の取り出しなどの周期運動、回転運動等の動力学運動を行うことができるという点で顕著である。

【0071】
好ましい実施形態では、本発明において用いられる電場は、1V~1000Vの範囲のものであり、好ましくは、5V~50V、50V~500V、あるいは10V~100Vであるが、使用する誘電体や電極の配置に依存して適切な使用範囲がことなることが理解される。

【0072】
1つの実施形態では、本発明において用いられる電場を構成する陽極と陰極とは、それらの中心軸が同一直線上にならないように配置されることが有利である。この点は、図1Aを参照して説明することができる。すなわち、たとえば、目安としては、それぞれの電極の中心軸のずれ(D)が、電極直径(R)以上で、電極の先端間の幅(L)の5倍程度以内の時により有効にサイクリックな運動を取り出すことができる。すなわち、図1AにおいてR<D<5Lの条件が成立する時に有効に取り出せる。また、図1Bのように、中心軸が平行になっていないような場合は、むしろサイクリックな運動を取り出しやすく、0<D<5Lのように、下限の条件を緩めることが可能である。いずれにせよ、これらの条件に限ることはなく、電極形状・印加電圧などによりその範囲を広げることは可能である。

【0073】
別の実施形態では、本発明において利用される電極は、先端が鋭利な角錐・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質で構成される。角錐・円錐形の場合は、先端の角度が45度程度以下の鋭利さ、角柱形・円柱形の場合は、先端の直径が100μm以下の細さが有利である。

【0074】
1つの実施形態では、本発明において利用される電極は、タングステン、タングステンカーバイド、金、白金、銀、銅、鉄、アルミニウム、ステンレスなどの導電性物質で構成される。

【0075】
1つの好ましい実施形態では、本発明の電場は、陽極・陰極の少なくとも2つの電極のセットによって発生され、この少なくとも2つの電極のセットの方向は、少なくとも2つが互いの異なる方向であり、(たとえば、異なる2つの方向に配置されたセットの電極における運動を制御することにより)前記電場および該電場を発生するための電極の空間的配置を制御することによって、運動のルートまたはモードを変更することができる。このようなルート・モードの変更には、以下の理論を応用することができる。

【0076】
【数2】
JP0005867920B2_000003t.gif

【0077】
ここで、

【0078】
【数3】
JP0005867920B2_000004t.gif

【0079】
は、誘電体の位置ベクトルを示し、

【0080】
【数4】
JP0005867920B2_000005t.gif

【0081】
である(x、x、xは各座標の値)。
qは、誘電体に帯電している電荷量を示し、

【0082】
【数5】
JP0005867920B2_000006t.gif

【0083】
は、電場ベクトルを示し、
αは、電気感受率を示し、電場による誘電体の分極の度合いを表している。

【0084】
【数6】
JP0005867920B2_000007t.gif

【0085】
は、位置による偏微分をする演算子を示し、

【0086】
【数7】
JP0005867920B2_000008t.gif

【0087】
である。ここで、

【0088】
【数8】
JP0005867920B2_000009t.gif

【0089】


【0090】
【数9】
JP0005867920B2_000010t.gif

【0091】
による偏微分を示す。
Eは、電場の値を示し、
電場ベクトル

【0092】
【数10】
JP0005867920B2_000011t.gif

【0093】
の絶対値と同義である。
tは、時間を示す。
kは、誘電体が流体から受ける粘性抵抗を示す。

【0094】
ここで、荷電体に働く力、および帯電した誘電体が電極と引き合うまたは反発しあう力は、右辺の第1項(i)である

【0095】
【数11】
JP0005867920B2_000012t.gif

【0096】
で表される。

【0097】
そして、誘電体に働く力の方向は、電気力線の密度の低い方から高い方であり、従って、誘電体は電気力線の密度の高い方向へ引き寄せられる。これは、右辺の第二項(ii)である

【0098】
【数12】
JP0005867920B2_000013t.gif

【0099】
で表される。電極と誘電体が接触すると、誘電体は電荷をチャージされる。誘電体が電極から離れた直後は誘電体が帯電しているため、誘電体は荷電体に働く力を受け、上記の数11の項が支配的となる。しかし、誘電体が電極から離れた後に、徐々に電荷がリークして帯電している電荷量が減少してくると、誘電体は荷電体に働く力を受けにくくなり、上記の数12の項で表される力の影響が支配的となる。

【0100】
(i)および(ii)の力の方向が異なることから、そのバランスによって運動の方向を決定することができる。すなわち、バランスによって回転運動を発生させることができる。

【0101】
具体的に、パラメータを決定して計算した結果を下記に示す。以下に示すように、本発明は、上記運動方程式を用いて、シミュレーションを行うことができることが理解される。

【0102】
運動方程式と電荷のチャージ・放電に関する方程式はそれぞれ、以下のようにあらわされる。

【0103】
【数13】
JP0005867920B2_000014t.gif

【0104】
である。取り扱いやすくするため、

【0105】
【数14】
JP0005867920B2_000015t.gif

【0106】
の定義に従って規格化すると、運動方程式と電荷のチャージ・放電に関する方程式は、以下のようにまとめられる。

【0107】
【数15】
JP0005867920B2_000016t.gif

【0108】
ここで、

【0109】
【数16】
JP0005867920B2_000017t.gif

【0110】
とし、電極の中心軸に平行な方向のずれlと垂直な方向dと、液滴の半径r0の規格化した値を

【0111】
【数17】
JP0005867920B2_000018t.gif

【0112】
とした場合を考え、微分方程式の数値積分法Runge-Kutta法を用い、C言語でプログラムを作成すると、図5に図示するようなシミュレーション結果を示すことができる。

【0113】
ここでは、(1)電極の陽極から誘電体にプラス電荷をチャージし、(2)静電的な反発力で陽極とプラスに帯電した誘電体とが反発し、電極から離れた状態になり、プラス電荷が徐々にリークする。(3)その後、誘電的な引力が働き、電極の陰極に引き寄せられて接触、(4)電極の陰極から誘電体にマイナス電荷がチャージされ、(5)静電気的な反発力が陰極とマイナスに帯電した誘電体との間で生じ、電極から離れた状態になり、マイナス電荷が徐々にリークし、(6)その後、誘電的な引力が働き、電極の陽極に引き寄せられ(1)に戻る。これにより、電極が同一直線上にない場合には、誘電体の回転運動を生じることになる。


【0114】
1つの実施形態では、本発明における、運動の制御は、例えば、3次元それぞれの座標を1μm単位で操作可能なマイクロマニュピレーターを用い、それぞれの座標を、たとえば、ツマミなどの手段で操作し電極を所望の位置へ動かすか、手もしくはピンセットでの操作によって実現され得る。自動でも手動でも実現することができる。ここで用いられるマニピュレーターは、上記サイズに限定されるものではない。

【0115】
1つの実施形態では、本発明において使用される誘電体を前記の電極の空間的制御及び印加電圧の強さの制御により、間接的に制御することによって該誘電体を輸送することができる。具体的には以下のようにして行う。陽極と陰極を中心軸と平行な方向に50μm~100μm程度、中心軸と垂直な方向に50μm~100μm程度離して設置し、電極間に誘電体を配置する。この状態で、100V程度の電圧を印加すると、自然と誘電体がサイクリックな運動を始める。

【0116】
1つの特定の実施形態では、本発明では、マイクロタービンを用いることができる。ここで、マイクロタービンとは、マイクロ加工技術によって作ることが可能な、マイクロサイズ(代表的には、数nm~1000μm)、例えば、1μm~100μmのサイズの物体で、回転軸と羽の部分があり、羽が回転できる物体である。たとえば、マイクロサイズに加工を行ったSiOレイヤーによる水車(例として、Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,T.Q.Uyeda,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、103,13618-13623(2006).の中で利用されているものなど。)が挙げられる。好ましい実施形態では、本発明では、マイクロタービンを、前記誘電体が運動しうる空間に配置し、該誘電体の運動によって運動するマイクロタービンから仕事を取り出すことができる。

【0117】
1つの実施形態では、本発明において用いられる誘電体は、複数存在し、該複数の誘電体の集団運動をさせることによって、モーターの働きをさせることができる。このような例としては、図7を挙げることができるがそれらに限定されない。

【0118】
この場合、一つの誘電体を利用した場合に比べ、より多くの仕事を取り出すことができる。例えば、複数の誘電体が集団的にサイクリックな運動する中心に、前述のマイクロタービンを配置することで、仕事を取り出すことができる。

【0119】
種々の実施形態において、本発明は、このほかに、ポリマーの力学的コントロール、薬剤の液滴輸送、化学反応、薬剤調合、バイオ試料の非接触輸送、マイクロ流路などにおいて用いることができる。ここで、サイズは、代表的にはマイクロサイズ(例えば、数nm~1000μm)を用いうることができる。

【0120】
たとえば、本発明は、ポリマーの力学的コントロールにおいて利用することができる(図7)。DNAなどのポリマーの両端をそれぞれ別々のポリマービーズに結合させる手法は確立されていることから、その手法を用いて本発明を応用することができる。そして、本発明の成果を利用すれば、ポリマーの両端に付いたポリマービーズを自在にコントロールすることができることから、その結果としてポリマーを力学的にコントロールできる。

【0121】
1つの実施形態では、本発明は、薬剤の液滴輸送に用いることができる(図8)。本発明において実証されるように本発明においては水滴を利用することができ、そのような水滴を製造することは、当該分野において周知であることから、この水滴の中に薬剤を入れておけば容易に輸送が可能であることが理解される。本発明は、モーター、切換要素または可変駆動装置として用いられ、薬物学、化学及びバイオテクノロジーのような各技術分野に応用可能な超小型配量装置、ポンプ及びバルブ等に組込むことができる。本発明におけるごとく特に顕著な小型化が実施される場合、モーターの始動に要する時間をマイクロ秒範囲の時間に短縮することが可能になる。

【0122】
1つの実施形態では、本発明は、化学反応において応用することができる(図8)。本発明の実施例において実証されたように、液滴を輸送することができること、および液滴の輸送を制御することができることから、輸送している液滴を衝突させて融合させることで、液滴中で化学反応を開始することができることが理解される。

【0123】
1つの実施形態では、本発明は、薬剤調合に応用することができる(図8)。薬剤の調合は、実質的には化学反応と同様であるから、本発明の実施例において実証されたように、輸送している液滴を衝突させて融合させることで、混合などを実施することができる。たとえば、反応をスタートさせる前には混ぜたくないものを別々の液滴で用意しておいて、混ぜたい場所で混ぜることができる。本発明は、このようなカスタマイズされた調合を、マイクロサイズの微小空間で行うことができる点で顕著である。

【0124】
1つの実施形態では、本発明は、細胞、組織、DNA、タンパク質、脂質、およびそれらの複合体などのバイオ試料の非接触輸送に応用することができる(図8)。細胞および生体高分子も一種の誘電体であることから、本発明において実証されるように、本発明の技術を適用することができることが理解される。

【0125】
さらに別の実施形態では、本発明は、マイクロ流路との組み合わせにおいて利用することができる。マイクロ流路は、マイクロタービンと同様の様式において設計することができる(図9)。したがって、マイクロ流路のサイズも、マイクロサイズであればどのようなものでもよいことが理解される。これにより、より大きな回転運動を取り出すことができる。このようなことの設計も、上記において説明した運動方程式を利用することで設計することができる。したがって、このようなマイクロ流路もマイクロ技術の一環であるといえる。

【0126】
本発明を、半導体技術との組み合わせで利用する場合、電場のコントロールを半導体素子、回路基板を利用して行うことによって利用することができる。ただし、この場合は、運動を直接制御するわけではなく、間接的に制御するという意味で有用である。

【0127】
(輸送装置および仕事取り出し装置)
別の局面において、本発明は、誘電体を輸送する装置であってA)該誘電体を受け入れるための絶縁性流体;およびB)該絶縁性流体中に存在する、2つの電極を含む電場をかける手段であって、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置される、手段を備える、装置を提供する。

【0128】
本発明において利用される電場をかける手段は、絶縁性流体中に、電極を配置し、電圧をかける装置であればなんでもよく、たとえば、タングステン製のプローブニードル間または金の細線の間に、市販の定電圧電源を用いて、電圧を100V程度印加すればよい。

【0129】
他の局面において、本発明は、力学的仕事を取り出す装置であってA)絶縁性流体;B)該絶縁性流体中に配置された誘電体;C)該絶縁性流体中に存在する、2つの電極を含む電場をかける手段であって、該2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置される、手段;およびD)該誘電体から力学的仕事を取り出す手段を備える、装置を提供する。

【0130】
このような誘電体から力学的仕事を取り出す手段あるいは誘電体の運動を仕事に変換する手段としては、1μm~数千μm程の大きさのプロペラ状の物質を水車のように回転させタービンとして仕事を取り出したり、誘電体に磁化された物質を付着させることで間接的に磁場を制御し、近傍にタービンを配置することで仕事を取り出すことなどが考えられる。

【0131】
本発明は、単に液滴を運動させたというだけの問題ではなく、非常に重要なサイクリックな運動を実現して見せたことに意義があり、従来の技術(たとえば、非特許文献1)記載されるような技術では、単純に予想できなかった、2つの電極の中心軸が同一直線上にならないように配置するという特徴によって、サイクリックな運動を達成することができるという点において顕著性を有するというべきである。また、本発明のようなサイクリックな運動を利用することにより、仕事を取り出せることができることも実証した。ここで、サイクリックな運動を利用することで仕事を取り出すことができる点については、当該分野において周知の知識を利用することができ、たとえば、Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,T.Q.Uyeda,Proc.Natl Acad.Sci.USA 103,13618-13623(2006)では、大腸菌にサイクリックな運動を行わせ、その中にマイクロタービンを配置して、仕事を取り出している。これと同様の考え方で、本技術のサイクリックな運動から仕事を取り出すことができる。

【0132】
種々の実施形態において、本発明の装置では、「2つの電極の中心軸が同一直線上にならない」、「誘電体」、「絶縁性流体」、「電極」などの点については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0133】
1つの実施形態において、本発明の装置において、前記誘電体は、マイクロサイズであることが好ましく、マイクロサイズ(すなわち、数nm~1000μm程度の範囲)については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。好ましくは、絶縁性流体は、容器に入れて提供される。そのような容器は、この絶縁性流体に適合性であれば何でも使用することができる。したがって、容器が使用される場合は、容器もまた装置の一部を構成する。容器が用いられる場合は、誘電体が収容可能であることのみならず、電極または電場を発生する手段をも収容することができてもよい。

【0134】
別の実施形態において、本発明の装置において、利用される誘電体は、静電場を加えたときに誘電分極を生じるが電流を生じない物質をいい、さらに静電気の帯電性がある物質であり、この点について、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0135】
本発明の好ましい実施形態では、利用される水滴は、界面活性剤を用いて生成される。界面活性剤等の点について、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0136】
好ましい実施形態では、本発明の装置において用いられる絶縁性流体は、不揮発性であり、導電性がなく、常温常圧下で流動性のある物質である。絶縁性流体が不揮発性であることが好ましいのは、誘電体の長期の輸送・移動に適切であるからであり、蒸発による液体の対流で、誘電体の輸送・移動を阻害しないのに適切であるからである。好ましくは、常温・常圧で一日あたり体積の0.1%以下の揮発性しか見られない程度の不揮発性が有利である。本発明の絶縁性流体の導電性が低いことが好ましいのは誘電体に働く力の強度が確保されうるからであり、誘電体への電荷の帯電を効率よくするからである。また、本発明の絶縁性流体の比重は、本発明において用いられる誘電体との比重が±50%以内のものであることが好ましい。これらの点について、および利用されうる絶縁性流体について、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0137】
好ましくは、本発明において利用される電場は、定電場である。本発明は、定電場においても、等しく利用でき、輸送および仕事の取り出しなどの周期運動、回転運動等の動力学運動を行うことができるという点で顕著である。

【0138】
本発明において使用される定電場を発生させることができる手段としては、たとえば、タングステン製のプローブニードル間または金の細線の間に、市販の定電圧電源を用いて、電圧を100V程度印加する方法などを挙げることができる。この点について、さらに、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0139】
本発明の装置において利用される電場は、1V~1000Vの範囲のものであり、好ましくは、5V~50V、50V~500V、あるいは10V~100Vであるが、使用する誘電体や電極の配置に依存して適切な使用範囲がことなることが理解される。この点について、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0140】
好ましくは、本発明で利用される電場を発生させる陽極および陰極は、それらの中心軸が同一直線上にならないように非対称に配置される。この点について、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0141】
好ましい実施形態では、本発明において利用される電極は、先端が鋭利な角錐形・円錐形または角柱形・円柱形という形状を有し、導電性があるという材質を有する。この点および具体的な材質等については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0142】
1つの実施形態では、本発明の装置において、利用される電場をかける手段は、陽極・陰極の少なくとも2つの電極のセットであり、該少なくとも2つの電極のセットの方向は、少なくとも2つが互いに異なる方向に配置される。この点および具体的な材質等については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0143】
1つの実施形態では、本発明の装置において、対象となる誘電体を陽極と陰極を中心軸と平行な方向に50μm~100μm程度、中心軸と垂直な方向に50μm~100μm程度離して設置した間に配置し、この状態で、100V程度の電圧を印加し、電極間の距離や印加電圧を制御することによって該誘電体を輸送するための手段、をさらに備える。この点および具体的な材質等については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0144】
別の実施形態では、本発明の装置において、3次元それぞれの座標を1μm単位で操作可能なマイクロマニュピレーターをさらに備え、該マイクロマニュピレーターは、それぞれの座標を操作し電極を所望の位置へ動かすものであり、あるいは、ピンセットをさらに備える。ここで、座標の操作は、ツマミなどによって実現することができる。この点および具体的な材質等については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0145】
1つの好ましい実施形態では、本発明の装置は、さらにマイクロタービンを備える。マイクロサイズに加工を行ったSiOレイヤーによる水車の例として、Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,T.Q.Uyeda,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103,13618-13623(2006).の中で利用されているものなどを挙げることができる。この点および具体的な材質等については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0146】
別の実施形態では、本発明の装置において、誘電体が複数存在し、該複数の誘電体の集団運動をさせることによって、モーターの働きをさせることができる。この点および具体的な材質等については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0147】
種々の実施形態において、本発明の装置は、以下の応用を行うことができる。:ポリマーの力学的コントロール、薬剤の液滴輸送、化学反応、薬剤調合、バイオ試料の非接触輸送、マイクロ流路。この点および具体的な材質等については、(サイクリックな運動発生方法およびその応用)に記載された事項を参酌して応用することができる。

【0148】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。

【0149】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0150】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、この実施例等により本発明の技術的範囲が限定されるものではない。以下において使用した試薬類は、特に言及した場合を除いて、市販されているものを使用した。
【実施例】
【0151】
(実験概略)
図1Cは、実験設定の概略図を示す。水滴をスライドグラス上のミネラルオイル(鉱油)内に懸濁し、円錐形のタングステン電極を用いることにより、一定電圧を液滴に印加した(図1C(a))。これらの電極を同じ高さに配置した(図1C(a))が、非同軸に配置した(図1C(b))。液滴の運動を、光学顕微鏡(日本国、キーエンス製、VH-Z75)を用いることにより観察した。
【実施例】
【0152】
(実施例1)
本実施例では、陽極および陰極を用い、そこに絶縁性流体として、油および誘電体として水滴を用いて、回転運動が起こるかどうかを実証した。その材料および方法は以下のとおりである。
【実施例】
【0153】
(材料および方法)
(図2について)
陽極:タングステン製(エヌピイエス株式会社製)
陰極:タングステン製(エヌピイエス株式会社製)
油:ミネラルオイル(ナカライテスク製)
水滴:リン脂質DOPC(和光純薬製)によって調製
電極の配置:陽極と陰極を、中心軸と平行・垂直それぞれの方向に50μmずつ離して設置
電極のかけ方:定電圧として100V
(図3について)
陽極:タングステンカーバイド製(エヌピイエス株式会社製)
陰極:タングステンカーバイド製(エヌピイエス株式会社製)
油:ミネラルオイル(ナカライテスク製)
水滴:リン脂質DOPC(和光純薬製)によって調製
電極の配置(左):中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に0μm
電極の配置(中央):中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に40μm
電極の配置(右):中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に120μm
電極のかけ方:左右中央いずれも120V)。
【実施例】
【0154】
(実験)
(液滴の作製<図2および図3共通>)
vortex mixerを用いることにより、w/o液滴を生成した。界面活性剤を含む鉱油を用意した。10μMの界面活性剤(DOPC、ジオレオイル・ホスファチジルコリン)(日本国、和光純薬製)を50℃に保ちながら、90分間音波をかけて鉱油(日本国、ナカライテスク製)内に溶かした。2μlの超純水(日本国、ミリポア製)を、用意した200μlの鉱油に加え、その後、およそ3秒間vortex mixerによって混ぜた。より詳細には以下の手順を用いた。
【実施例】
【0155】
1.5ml以上入るダーラム管(マルエム製)又はマイクロチューブ(アシスト製)を用意。
【実施例】
【0156】
クロロホルム(ナカライテスク製)対メタノール(ナカライテスク製)を体積比で2:1に混合した有機溶剤を溶媒として、界面活性剤DOPCを1mMになるように溶かした溶液を用意し、上記の容器に10μl注入。
【実施例】
【0157】
注入した溶液に窒素ガスを吹きかけ、有機溶剤が完全に無くなるまで乾燥させると、容器の底面にDOPCの薄膜ができる。
【実施例】
【0158】
これに1000μlのミネラルオイル(ナカライテスク製)を注入。
【実施例】
【0159】
超音波発生装置付恒温槽(ソニケーター)(エスエヌディ製US-1KS型)を用い、上記溶液を50℃に保ちながら、溶液に超音波をかけて(90分間)、DOPCをミネラルオイルによく溶かす。
【実施例】
【0160】
ここで作製された溶液は12時間以内に用いるのが望ましい。
【実施例】
【0161】
この溶液を200μl取り、別の容器に移してMilliQ水1.75μlを加える。
【実施例】
【0162】
この溶液をvortexを用いて撹拌すると、溶液には直径1μm~100μmの大小さまざまなサイズの球形のdropletが混在して生成される。
【実施例】
【0163】
DOPC以外の界面活性剤を利用した場合も操作は同様であるが、濃度は物質に依存して異なる場合がある。
【実施例】
【0164】
(定電場による小滴(droplet)の輸送)
小滴(droplet)が生成した上記の202μl程度の溶液をスライドグラスの上へ移す。この時、シリコンコーティングされたスライドグラスを用いると実験をしやすいがこれに限定されない。
【実施例】
【0165】
スライドグラスを顕微鏡にセットする。
【実施例】
【0166】
先端半径5μmのタングステンカーバイトの電極を二本用意する。先端半径としては1μm~100μmくらいまで幅広く利用が可能。電極の材質は導電性のあるものならどのようなものでもよい(金、白金、銀、銅、鉄、アルミニウム、タングステン、タングステンカーバイド、など)。
【実施例】
【0167】
両電極と定電圧電源装置を回路的に接続し、電極の片方を陽極、もう一方を陰極とする。
【実施例】
【0168】
両電極をプレパラート上の液へ浸す。この時、液の底及び液と空気の界面両方から30μm以上の距離が離れた状態となるようにする。
【実施例】
【0169】
電極の先端が互いに向かい合うように、電極の中心軸を平行にして配置する。先端が、軸と平行方向に100~120μm、軸と垂直方向に50~100μmの距離を置くようにして配置する。
【実施例】
【0170】
顕微鏡の可動ステージを調節し、この両先端の間近辺に10~20μmのdropletが来るようにする。
【実施例】
【0171】
定電圧電源装置をONにして、両電極間に定電圧をかける。電圧としては100V~120Vの範囲でいずれも可能である。
【実施例】
【0172】
(結果)
図2、図2A、図3に記載されるように、定電場によるマイクロ物体の輸送・空間的な周期運動の様子を示す。この例では油中でマイクロサイズの水滴にサイクリックな運動を発生させた。
【実施例】
【0173】
図2の左は油液の中に電極と水滴が入っている状態である。水滴は界面活性剤によってエマルジョンとなって油中に浮遊している。この状態で定電圧をかけると、水滴は図2の右に示したようなサイクリックな運動を始める。この例では定電圧としてDC100Vをかけている。電圧が低すぎると電極間を行き来するような運動モードは現れないが、片方の電極の近辺を揺らぐような運動モードが現れる。また電圧を強くするとサイクリックな運動ではなく、電極間を直線的に行き来するようなリニアな運動モードが現れる。
【実施例】
【0174】
図2では、左=実験のセットアップの場面が記載され、右に、サイクリックな運動している1個の水滴のスナップショットを連続撮影して重ね合わせた合成写真を示す。動画で示すとよりこの運動はよく理解できる(電極:タングステン製、界面活性剤:リン脂質DOPC)。
【実施例】
【0175】
水滴の運動を、図2A(a)~図2A(d)の左側スナップショット画像に示す。印加した電圧が低かった場合(V=20V、図2A(a))、液滴は彷徨し、誘電体の捕獲力から逃げた(モードI)。印加した電圧が臨界電圧を超えていた場合、液滴はサイクリックな運動を開始した(図2A(b)~図2A(d))。まず、液滴はいずれかの電極の頂点にひきつけられ、その後、一方の電極から反発し、反対側の電極に向けて移動した。この運動は、持続した。液滴の運動は、液滴の初期位置に依存しない、一方向性の円形の軌跡をたどった。すなわち、回転運動の軌跡は、一種のリミットサイクルであった。この回転運動は、1つの水滴で観察しただけではなく、2つ以上の液滴でも観察した。2つの水滴の回転運動のデータをみると、実際に運動していることがわかる。
【実施例】
【0176】
実験では、単純な回転運動(モードII)と電極上のバウンドを伴う回転運動(モードIII)との、2種類の回転運動を観察した。これらの挙動は、印加した電圧に依存して切り替わった。60Vおよび120Vでは(図2A(b)および図2A(c))、液滴は、電極間で単純な回転運動を行った(モードII)。図2A(b)および図2A(c)における中央の経時グラフと右側のフーリエ変換のスペクトルとが示しているように、回転運動の速度は、印加した電圧に伴って増大した。印加した電圧が160Vであった場合、液滴は速い回転運動を行った(図2A(d))。この場合、経時データにおける揺らぎによって表されているように、液滴は常に、その液滴がいずれかの電極に接触したときに数回のバウンドを行った(モードIII)。
【実施例】
【0177】
図3は、別の実験例における、スナップショットの重ね合わせである。この実験では電極の配置を変更しており、左は、中心軸と平行方向に120μmかつ同一直線上(すなわち中心軸と垂直方向に0μm)に配置した場合、中央および右側は、それぞれ、中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に40μm、中心軸と平行方向に120μm・垂直方向に120μmである(電極:タングステンカーバイト製、界面活性剤:リン脂質DOPC)。
【実施例】
【0178】
図3左のように、電極を同一直線上に配置すると単純な周期運動しか取り出せない(日特許文献1と類似の条件)が、図3の中央や、図3右のように電極を同一直線上に配置しないようにすると、誘電体にかかる力のうち、荷電体に働く力(図4(i))と誘電的な力(図4(ii))の両方を利用したような状態にすることができることから、サイクリックな運動を取り出せる。このような状態にすることができるかどうかに関しては、教科書的なレベルでは自明ではなく、新規な技術事項といえる。
【実施例】
【0179】
(実施例2:誘電体の材料)
本実施例では、様々な条件を検討した結果以下のような特徴があることが判明したことを示す。基本的な実験手法は、実施例1に基づいて行った。
【実施例】
【0180】
(誘電体の材料)
本実施例では誘電体の材質は何でも良いことを確認した:マイクロ水滴でなくとも動くポリスチレンビーズ、ガラスビーズなどでも同様の運動をすることを確認した。
【実施例】
【0181】
(実施例3:電極の材質)
本実施例では、様々な条件を検討した結果以下のような特徴があることが判明したことを示す。基本的な実験手法は、実施例1に基づいて行った。
【実施例】
【0182】
本実施例では電極の材質には無関係(導電性のみが必要)であることを確認した。すなわち、タングステン、タングステンカーバイト、金で確認した。図3がタングステンの実施例であり、図4がタングステンカーバイドの実施例である。金でも同様の効果が確認された。
【実施例】
【0183】
(実施例4:水滴生成のための界面活性剤)
本実施例では、様々な条件を検討した結果以下のような特徴があることが判明したことを示す。基本的な実験手法は、実施例1に基づいて行った。
【実施例】
【0184】
本実施例では水滴生成のための界面活性剤は何でも良い:DOPC,DOPE,DOPSなどでも機能することを確認した。また、ポリスチレンビーズやガラスビーズなどの場合は、界面活性剤は不要であることをも確認した。
【実施例】
【0185】
(実施例5:使用電圧の範囲)
本実施例では、様々な条件を検討した結果以下のような特徴があることが判明したことを示す。基本的な実験手法は、実施例1に基づいて行った。
【実施例】
【0186】
本実施例では使用電圧の範囲は広いことを実証した。数ボルトから数百ボルトの範囲で実証した。
【実施例】
【0187】
(実施例6:シミュレーション)
本実施例では、本発明の原理が、一般の物理理論で説明可能であるかどうかを検証するために、物理モデル(運動方程式)とシミュレーションを行った結果を示す(図4、図5)。
【実施例】
【0188】
この系では、マイクロサイズの物体に働く2つの力が重要な役割を果たしている。(i)荷電体に働く力と(ii)誘電体に働く力である。マイクロサイズの誘電体は、電極と接触することで電荷がチャージされる(帯電する)。+の電極との接触では+に帯電し、-の電極との接触では-に帯電する。
【実施例】
【0189】
その結果、この誘電体は荷電体としても振舞うことになり、静電的な引力および反発力の影響を受ける(図4の(i)の力、電気泳動)。また、この誘電体が電極から離れると、電荷は自然と徐々に放電してしまい、荷電体としての振る舞いよりは誘電体としての振る舞いの方が支配的になる。一般に誘電体は電気力線の密度の高い方へ引き寄せられる性質がある(図4の(ii)の力、誘電泳動)。これら2つの力の向きは平行ではないので、両者のバランスで運動の方向が決定される。
【実施例】
【0190】
このシミュレーション結果は、以下のモデルを用いて計算した。
【実施例】
【0191】
運動方程式と電荷のチャージ・放電に関する方程式はそれぞれ、以下のようにあらわされる。
【実施例】
【0192】
【数18】
JP0005867920B2_000019t.gif
【実施例】
【0193】
である。取り扱いやすくするため、
【実施例】
【0194】
【数19】
JP0005867920B2_000020t.gif
【実施例】
【0195】
の定義に従って規格化すると、運動方程式と電荷のチャージ・放電に関する方程式は、以下のようにまとめられる。
【実施例】
【0196】
【数20】
JP0005867920B2_000021t.gif
【実施例】
【0197】
ここで、
【実施例】
【0198】
【数21】
JP0005867920B2_000022t.gif
【実施例】
【0199】
とし、電極の中心軸に平行な方向のずれlと垂直な方向dと、液滴の半径rの規格化した値を
【実施例】
【0200】
【数22】
JP0005867920B2_000023t.gif
【実施例】
【0201】
とした場合を考え、微分方程式の数値積分法Runge-Kutta法を用い、C言語でプログラムを作成すると、図5に図示するようなシミュレーション結果を示すことができる。
【実施例】
【0202】
ここでは、(1)電極の陽極から誘電体にプラス電荷をチャージし、(2)静電的な反発力で陽極とプラスに帯電した誘電体とが反発し、電極から離れた状態になり、プラス電荷が徐々にリークする。(3)その後、誘電的な引力が働き、電極の陰極に引き寄せられて接触、(4)電極の陰極から誘電体にマイナス電荷がチャージされ、(5)静電気的な反発力が陰極とマイナスに帯電した誘電体との間で生じ、電極から離れた状態になり、マイナス電荷が徐々にリークする。これにより、電極が同一直線上にない場合には、誘電体の回転運動を生じることになる。
【実施例】
【0203】
(実施例7:印加した電圧に対する回転運動の依存性)
本実施例では、印加した電圧に対する回転運動の依存性を実証した(図5A(a)~図5A(f))。
【実施例】
【0204】
図1Cおよび図2Aに示されているように、電極の間に液滴を配置し、電圧をかけ、液滴の回転運動を観測し、図2Aのようなグラフを作成し、その回転の振動数を測定した。電圧を0Vから160Vまで、20V刻みで変化させ、各電圧ごとにその振動数を記録したものが図5Aである。図5A(a)~図5A(f)はそれぞれ、液滴の直径が(a)14.0μm、(b)17.1μm、(c)18.8μm、(d)19.5μm、(e)31.8μm、(f) 34.6μm の例である。
【実施例】
【0205】
周波数は、印加した電圧(およそ40~160V)に伴って、およそ0.1Hzからおよそ0.8Hzまで増大した。およそ80Vを超えると、液滴は電極上でのバウンドを伴う回転運動を行った(モードIII)。およそ40~80Vでは、液滴は単純な回転運動を行った(モードII)。しかしながら、はるかに低い電圧(およそ20~40V)では、液滴は回転運動を行わなかった(モードI)。これは、0Hzとしてプロットされている。電圧に依存する液滴の挙動を、フェーズダイヤグラムとして概略的に示した(図5A(g))。
【実施例】
【0206】
w/o液滴の回転運動を記述するモデルを提案する。ナノメートル~マイクロメートルスケールでの運動方程式において、粘性力の項は慣性力の項よりも支配的である。なぜならば、レイノルズ数Rが、非常に小さいからである。すなわち、
【実施例】
【0207】
【数23】
JP0005867920B2_000024t.gif
【実施例】
【0208】
である。ここで、ρ(~10kg/m)およびη(~10Pa・s)は、それぞれ鉱油の密度および粘性であり、ν(~10-4m/s)およびr(~10-5m)は、水滴の速度および直径である。したがって、一定電場
【実施例】
【0209】
【数24】
JP0005867920B2_000025t.gif
【実施例】
【0210】
のもとでの過減衰の運動方程式は、
【実施例】
【0211】
【数25】
JP0005867920B2_000026t.gif
【実施例】
【0212】
によって与えられる。ここで、k(=6πηr~10-7kg/s)は粘性抵抗係数であり、
【実施例】
【0213】
【数26】
JP0005867920B2_000027t.gif
【実施例】
【0214】
は、直径rおよび速度
【実施例】
【0215】
【数27】
JP0005867920B2_000028t.gif
【実施例】
【0216】
で液滴を移動させるための粘性抵抗を表す。
【実施例】
【0217】
【数28】
JP0005867920B2_000029t.gif
【実施例】
【0218】
および
【実施例】
【0219】
【数29】
JP0005867920B2_000030t.gif
【実施例】
【0220】
は、電荷qおよび分極率α(~10-30C・m/V)での液滴上に作用する電気力および誘電力を示す。
【実施例】
【0221】
図5A(a)~図5A(f)は、印加した電圧に対する回転運動の周波数の依存性を示す。図5A(a)では、r=14.0μm、図5A(b)では、r=17.1μm、図5A(c)では、r=18.8μm、図5A(d)では、r=19.5μm、図5A(e)では、r=31.8μm、図5A(f)では、r=34.6μmである。領域(I)~(III)は、図5A(g)のフェーズダイヤグラムにおける運動モードに対応する。図5A(g)は、印加した電圧に依存する液滴の運動である。ここで、図5A(g)において、G1は(モードI)非回転運動、G2は(モードII)回転運動、G3は(モードIII)電極上でのバウンドを伴う回転運動を示す。
【実施例】
【0222】
リミットサイクルの軌跡を示すためには、エネルギーの散逸が要求される。液滴の回転運動の場合、液滴のチャージ・放電のプロセスは、エネルギーの散逸において一定の役目を果たすと考えられる。単純化のために、電荷qの時間に依存するレートが、以下のように記述されると仮定する。
【実施例】
【0223】
【数30】
JP0005867920B2_000031t.gif
【実施例】
【0224】
これは、液滴がプラス/マイナスの電極付近で±αの速度でチャージされ、電極がない状況で-bqの速度で放電されることを意味する。
【実施例】
【0225】
図2A(e)は、式(1)および(2)を用いて計算した数値シミュレーションの結果を示す。図2A(e)のシミュレーションで使用された定電場および数値パラメータは以下のとおりである。
【実施例】
【0226】
ここで使用された定電場は、
【実施例】
【0227】
【数30A】
JP0005867920B2_000032t.gif
【実施例】
【0228】
と表現でき、以下の小滴の関数
【実施例】
【0229】
【数30B】
JP0005867920B2_000033t.gif
【実施例】
【0230】
と表現できると仮定する。
【実施例】
【0231】
そうすると、
【実施例】
【0232】
【数30C】
JP0005867920B2_000034t.gif
【実施例】
【0233】
と計算できる。ここで、
【実施例】
【0234】
【数30D】
JP0005867920B2_000035t.gif
【実施例】
【0235】
は、長さ単位の正規化係数であり、
【実施例】
【0236】
【数30E】
JP0005867920B2_000036t.gif
【実施例】
【0237】
は、印加した電圧である。ここで、小滴は、
【実施例】
【0238】
【数30F】
JP0005867920B2_000037t.gif
【実施例】
【0239】
の距離よりも近くには、電極に近づくことができないと仮定し、そして、小滴は
【実施例】
【0240】
【数30G】
JP0005867920B2_000038t.gif
【実施例】
【0241】
の距離以内にその小滴が電極に近づく場合に荷電されると仮定する。
【実施例】
【0242】
使用したパラメータは、以下のとおりである。
【実施例】
【0243】
【数30H】
JP0005867920B2_000039t.gif
【実施例】
【0244】
および
【実施例】
【0245】
【数30I】
JP0005867920B2_000040t.gif
【実施例】
【0246】
式(2)のパラメータは以下のとおりである。
【実施例】
【0247】
【数30J】
JP0005867920B2_000041t.gif
【実施例】
【0248】
および
【実施例】
【0249】
【数30K】
JP0005867920B2_000042t.gif
【実施例】
【0250】
である。
【実施例】
【0251】
【数30L】
JP0005867920B2_000043t.gif
【実施例】
【0252】
および
【実施例】
【0253】
【数30M】
JP0005867920B2_000044t.gif
【実施例】
【0254】
の初期条件は、以下のとおりである:
【実施例】
【0255】
【数30N】
JP0005867920B2_000045t.gif
【実施例】
【0256】
および
【実施例】
【0257】
【数30O】
JP0005867920B2_000046t.gif
【実施例】
【0258】

【実施例】
【0259】
シミュレーションにおける液滴の軌跡は、一方向性の回転運動であり、これは実験結果と合致する。周波数もまた、実験の傾向に対応する。
【実施例】
【0260】
印加した電圧に対する回転運動の依存性について、このモデルを用いて説明することができる。
【実施例】
【0261】
【数31】
JP0005867920B2_000047t.gif
【実施例】
【0262】
である。ここで、fは回転運動の周波数であり、Lは周長である。したがって、式(1)から、Vに対するfの依存性について、以下のように導出することができる。
【実施例】
【0263】
【数32】
JP0005867920B2_000048t.gif
【実施例】
【0264】
ここで、cおよびcは比例係数である。式(3)は、図3(a)~図3(f)において観察したように、周波数が印加した電圧に伴って増大することを意味している。
【実施例】
【0265】
(考察)
要約すると、観察した回転運動のメカニズムは、以下のように説明することができる。まず、誘電力によって、液滴がいずれかの電極の頂点にひきつけられる。液滴は、電極付近でチャージされた後に、静電気的な斥力によって電極から反発され、電気力によって反対側の電極に向けて移動を開始する。反対側の電極に向けたこの運動の間に、液滴はバルク油相にほぼ放電する。誘電電位の寄与により、液滴は、再び反対側の電極にひきつけられる。電荷の散逸によって引き起こされた電気力と誘電力との間の切り替えが、一方向性の回転運動を生じる。なぜならば、電気力と静電気力とは、概して、同じ方向を有さないからである。したがって、2つの電極の配置は、回転運動を生じさせるために重要である。例えば、本発明者らの以前の仕事[非特許文献1]に示されているように、線形配置では、液滴は回転運動を行わない。加えて、回転運動は、w/o液滴に限って生じるわけではない。本実施例において実証されたモデルが示しているように、理論的には、どのような誘電体の物体でも、本システムでは回転運動を行うことができる。
【実施例】
【0266】
基本的に、ナノメートル~マイクロメートルスケールでは、一方向性の力学的運動を生じることは困難である。なぜならば、レイノルズ数が非常に低く、慣性力に比べて環境の粘性力が支配的だからである。したがって、従来の回転モーターのサイズを小型化することには限界がある。すなわち、通常モーターはリールの中心に回転軸を有するので、環境の粘性力に起因する摩擦力が、モーターの回転運動を抑制するのである。回転モーターのサイズの小型化に伴って、摩擦に起因するこの抑制効果は著しく増大する。本発明で観察した回転運動は、ナノメートル~マイクロメートルスケールで仕事およびエネルギーを取り出すことができる[E.M.Purcell,Am.J.Phys.45,3(1977).]および[Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,and T.Q.P.Uyeda,Proc.Natl.Acad.Sci.USA103,13618(2006)]非接触回転モーターの発展にとって重要であり得る。本発明における実施例の結果は、新しい戦略のもとでのマイクロメカニカルシステムの発展を刺激することが期待される。
【実施例】
【0267】
(実施例8:具体的応用例)
マイクロサイズの物体の輸送技術としては、レーザーピンセット法やマイクロ流路技術などが考えられるが、これらの手法に比べ、定電場による方法は非常に簡便でかつ半導体回路技術との組み合わせによる大きな発展性を持つ。また、既存のマイクロ技術との組み合わせで、さらに発展させることも可能である。以下、図6~図9に、応用例を示す。
【実施例】
【0268】
(自由自在な輸送の例;図6)
電極の材質はタングステン・タングステンカーバイド・金・白金・鉄などなんでもよい。また、配置は10~100μmくらいの距離を離して設置すればよい。
【実施例】
【0269】
(マイクロタービンを用いた仕事の取り出し;図6)
マイクロタービンとしては、マイクロ加工技術でよく利用されるPDMSやマイクロレジスト用フィルムSAL601(Shipley Microelectronics)などを利用することができる。
【実施例】
【0270】
(マイクロサイズ誘電体の集団運動によるモーター;図7)
マイクロサイズ誘電体として、水滴、ポリマー性物質(たとえば、ポリスチレンビーズ、PDMS、ポリアクリルアミドゲル)およびガラスビーズなどを実施例と同様にタングステン・タングステンカーバイドなどの電極設置の間に配置し電圧を印加することができる。
【実施例】
【0271】
(ポリマーの力学的コントロール;図7)
ポリマー:としてDNA・タンパク質などの両端をポリスチレンビーズ等に結合させ、実施例と同様にタングステン・タングステンカーバイドなどの電極設置の間に配置し電圧を印加して実施することができる。
【実施例】
【0272】
(薬剤などの液滴輸送;図8)
任意の薬剤を、上記実施例と同様に、界面活性剤を利用して水滴の中に任意の薬剤を入れ、タングステン・タングステンカーバイドなどの電極設置の間に配置し電圧を印加することができる。
【実施例】
【0273】
これらの構成より、液の無駄がなく、低コストが実現でき、微小化学システムの性質も兼ね備えたものが実現できる。
【実施例】
【0274】
(液滴の融合による化学反応;図8)
例として、
薬剤A:酢酸水溶液
薬剤B:水酸化ナトリウム水溶液
化学反応:AおよびBを用いた中和反応を行うことができる。
【実施例】
【0275】
薬剤AおよびBを前述の水滴作製法により調整し、タングステン・タングステンカーバイドなどの電極の間に配置し電圧を印加することで実施することができる。
【実施例】
【0276】
これらの構成より、液の無駄がなく、低コストが実現でき、微小化学システムの性質も兼ね備えたものが実現できる。
【実施例】
【0277】
(液滴の融合による薬剤調合;図8)
液滴に複数の抗生物質、鎮痛剤などを含め、これを融合させることにより、薬剤を調合することができる。これらの構成より、液の無駄がなく、低コストが実現でき、微小化学システムの性質も兼ね備えたものが実現できる。
【実施例】
【0278】
(バイオ試料の非接触輸送;図8)
バイオ試料として、大腸菌等の細菌、細胞、組織切片などをタングステン・タングステンカーバイドなどの電極の間に配置し電圧を印加することができる。すなわち、液滴に細胞、細菌等を内包させておいて、本発明において実現される運動を利用して、輸送したり、中の細胞の性質などに応じて分離(ソーティング)したりといった応用を行うことができる。ソーティングに関しては、例えば、レーザーピンセットなどの技術と組み合わせることで、実現が可能である。また、MEMS・マイクロ流路などと組み合わせて液滴の行き先を分岐させるなども可能である。
【実施例】
【0279】
この構成により、細胞などのバイオ試料は、接触によるダメージがあるが、非接触で移動させることができることから、従来にない実験系などを実現することができる。このようにして、大腸菌等の細菌、細胞、組織切片などの個別輸送・分離を実現することができる。
【実施例】
【0280】
(マイクロ流路との組み合わせでより大きな回転運動を取り出す;図9)
マイクロ流路としては、マイクロ加工技術によって作製された円形流路中にタングステン・タングステンカーバイドなどの電極の間に配置し、任意の誘電体を流路中に導入し、電圧を印加することができる。
【実施例】
【0281】
(マイクロ化学反応系での送液・撹拌)
本発明を利用して、マイクロ化学反応系において、液滴に反応溶液をいれ、あるいは検査用の検体または試薬などを入れておいて、今回発明した運動を利用して液滴として送液・攪拌することができる。
【実施例】
【0282】
(マイクロ臨床検査システムでの送液・撹拌)
本発明を利用して、マイクロ臨床検査システムにおいて、液滴に反応溶液をいれ、あるいは検査用の検体または試薬などを入れておいて、今回発明した運動を利用して液滴として送液・攪拌することができる。
【実施例】
【0283】
<応用例>
本発明は、以下の例を参考にして、応用することができる。例えば、光学ピンセット[D.G.Grier,Nature424,810(2003)]、電気泳動および誘電泳動[J.Voldman,Annu.Rev.Biomed.Eng.8,425(2006);P.Tabeling,Introduction to Microfluidics(Oxford University Press,2006);T.B.Jones,Electromechanics of Particles(Cambridge University Press,1995)]、マイクロ流体デバイス[P.Tabeling,Introduction to Microfluidics(Oxford University Press,2006);D.R.Link,E.Grasland-Mongrain,A.Duri,F.Sarrazin,Z.Cheng,G.Cristobal,M.Marquez,and D.A.Weitz,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.45,2556(2006);S.Teh,R.Lin,L.Hung,and A.Lee,Lab Chip8,198(2008)]、バクテリア駆動モーター[Y.Hiratsuka,M.Miyata,T.Tada,and T.Q.P.Uyeda,Proc.Natl.Acad.Sci.USA103,13618(2006);B.Behkam and M.Sitti,Appl.Phys.Lett.90,023902(2007)]、モータータンパク質[S.Hiyama,R.Gojo,T.Shima,S.Takeuchi,and K.Sutoh,Nano Lett.9,2407(2009);M.G.L.van den Heuvel and C.Dekker,Science317,333(2007)]などである。
【実施例】
【0284】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【実施例】
【0285】
本願はまた、2009年2月20日に出願した日本国出願特願2009-038446号に対して優先権を主張するものであって、特願2009-038446号の内容もまた、具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0286】
以上から、本発明は、定電場をかけてマイクロサイズの誘電体に力学的な運動を発生させることに成功した。したがって、本発明は、回転モーターライクな運動を提供し、交流電場ではないのに、振動性・周期性のある運動が発生させられることを達成した。また、電流は発生していないので電流による運動ではなく、電場の強さ、電極の空間的配置により、運動のルートや運動のモードを自由に変えられることを達成した。加えて、無接点・定電場で、モーターライクの運動が取り出せる点が重要であり、非接触で物体を輸送できることが判明した。したがって、本発明は、ポリマーの力学的コントロール、薬剤の液滴輸送、化学反応、薬剤調合、バイオ試料の非接触輸送、マイクロ流路等多方面の分野において、利用することができる。
【符号の説明】
【0287】
100 水滴
102 ミネラルオイル(鉱油)
104 マイナス電極
106 スライドグラス
108 一定電圧
110 プラス電極
112 顕微鏡の対物レンズ
210 小滴
212 電極
215 電極
221 開始点
600 マイクロサイズ誘電体
602,604,606,608,612,614 電極
610 マイクロタービン
700 マイクロサイズ誘電体
710 ポリマー
702,704,712,714,716,718 電極
800 液滴
802,804,806,808,812,814,816,818 電極
810 バイオ試料
900 円形流路
902,904 電極
図面
【図1】
0
【図1A】
1
【図1B】
2
【図1C】
3
【図2】
4
【図2A】
5
【図3】
6
【図4】
7
【図5】
8
【図5A】
9
【図6】
10
【図7】
11
【図8】
12
【図9】
13