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明細書 :多孔性ポリマーの製造方法および多孔性ポリマー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-141335 (P2017-141335A)
公開日 平成29年8月17日(2017.8.17)
発明の名称または考案の名称 多孔性ポリマーの製造方法および多孔性ポリマー
国際特許分類 C08G  63/78        (2006.01)
C07D 323/00        (2006.01)
C08G  65/34        (2006.01)
C08G  63/40        (2006.01)
FI C08G 63/78
C07D 323/00 CSP
C08G 65/34
C08G 63/40
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2016-022476 (P2016-022476)
出願日 平成28年2月9日(2016.2.9)
発明者または考案者 【氏名】仁科 勇太
【氏名】西原 洋知
【氏名】京谷 隆
【氏名】大和田 真生
【氏名】針谷 明夫
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100095359、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 篤
【識別番号】100143834、【弁理士】、【氏名又は名称】楠 修二
審査請求 未請求
テーマコード 4C022
4J005
4J029
Fターム 4C022NA06
4J005AA21
4J005BA00
4J005BB00
4J029AA01
4J029AC01
4J029AC05
4J029CB06
4J029FC32
4J029HA01
4J029HB05
4J029KE09
要約 【課題】フラーレンを主成分とした、より大きい比表面積を有する多孔性ポリマーの製造方法および多孔性ポリマーを提供する。
【解決手段】複数の水酸化フラーレンを、2以上の官能基を有する架橋剤で架橋反応させる。このとき、1つの水酸化フラーレンに付加された架橋剤の平均数が2以上5以下となるよう、架橋反応させることが好ましい。また、架橋反応は、エステル化反応またはエーテル化反応であることが好ましい。これにより、3次元の架橋構造を有し、フラーレンの含有量が50wt%より大きい多孔性ポリマーが得られる。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の水酸化フラーレンを、2以上の官能基を有する架橋剤で架橋反応させることにより、3次元の架橋構造を有し、フラーレンの含有量が50wt%より大きい多孔性ポリマーを得ることを特徴とする多孔性ポリマーの製造方法。
【請求項2】
溶媒中に前記複数の水酸化フラーレンと前記架橋剤とを加えて加熱することにより、架橋反応させることを特徴とする請求項1記載の多孔性ポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、有機溶媒であることを特徴とする請求項2記載の多孔性ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記複数の水酸化フラーレンをエステル化反応させることにより、前記多孔性ポリマーを得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔性ポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記複数の水酸化フラーレンをエーテル化反応させることにより、前記多孔性ポリマーを得ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔性ポリマーの製造方法。
【請求項6】
1つの水酸化フラーレンに付加された架橋剤の平均数が2以上5以下となるよう、架橋反応させることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多孔性ポリマーの製造方法。
【請求項7】
複数の水酸化フラーレンが3次元的に架橋された構造を有し、フラーレンの含有量が50wt%より大きいことを特徴とする多孔性ポリマー。
【請求項8】
1つの水酸化フラーレンに付加された架橋剤の平均数が2以上5以下であることを特徴とする請求項7記載の多孔性ポリマー。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンを主成分とする多孔性ポリマーの製造方法および多孔性ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレン(C60)は、炭素原子のみで構成される最小のクラスターで、一つの粒子として見なすこともできる。フラーレンは、熱安定性を有し、非常に安定した構造を有している。また、フラーレン分子の表面は、吸着能、水素化触媒能、ラジカル捕集能など多くの機能を有している。しかし、フラーレン結晶は、ファンデルワールス力により面心立方格子構造をとるため、結晶中に存在するフラーレン分子の殆どは、その表面が外部に露出していない。このため、その優れた表面機能を十分に発揮することができない。実際、フラーレン1分子の比表面積を計算すると、2625 m2/g と非常に大きいが、フラーレン結晶の比表面積をガス吸着により測定すると、ほぼ0 m2/gになっている。
【0003】
そこで、フラーレン結晶のような密な構造ではなく、フラーレン同士の間に空間が生じるよう、架橋分子を介してフラーレン同士を連結したポリマー構造にすることにより、比表面積の大きい材料が得られると考えられる。従来、フラーレンを架橋分子で連結したポリマーとして、鎖状の架橋分子でフラーレン同士を連結したもの(例えば、非特許文献1乃至5参照)や、フラーレンを組み入れた2次元の有機金属錯体(例えば、非特許文献6参照)、フラーレン薄膜(例えば、特許文献1参照)、フラーレンを含み、3次元規則構造を有する多孔性の共有結合性有機構造体(例えば、非特許文献7参照)などが報告されている。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Bunker, C. E.; Lawson, G. E.; Sun, Y. P., “FULLERENE-STYRENE RANDOM COPOLYMERS - NOVEL OPTICAL-PROPERTIES”, Macromolecules, 1995, 28, (10), p.3744-3746
【非特許文献2】Chiang, L. Y.; Wang, L. Y.; Kuo, C. S., “POLYHYDROXYLATED C-60 CROSS-LINKED POLYURETHANES”, Macromolecules, 1995, 28, (22), p.7574-7576
【非特許文献3】Rao, A. M.; Eklund, P. C.; Hodeau, J. L.; Marques, L.; NunezRegueiro, M., “Infrared and Raman studies of pressure-polymerized C-60”, Physical Review B, 1997, 55, (7), p.4766-4773
【非特許文献4】Kuang, L.; Chen, Q. Y.; Sargent, E. H.; Wang, Z. Y., “[60] fullerene-containing polyurethane films with large ultrafast nonresonant third-order nonlinearity at telecommunication wavelengths”, Journal of the American Chemical Society, 2003, 125, (45), p.13648-13649
【非特許文献5】Giacalone, F.; Martin, N., “Fullerene polymers: Synthesis and properties”, Chemical Reviews, 2006, 106, (12), p.5136-5190
【非特許文献6】Peng, P.; Li, F. F.; Neti, V.; Metta-Magana, A. J.; Echegoyen, L., “Design, Synthesis, and X-Ray Crystal Structure of a Fullerene-Linked Metal-Organic Framework”, Angewandte Chemie-International Edition, 2014, 53, (1), p.160-163
【非特許文献7】Minar, N. K.; Hou, K.; Westermeier, C.; Doblinger, M.; Schuster, J.; Hanusch, F. C.; Nickel, B.; Ozin, G. A.; Bein, T., “A Highly-Ordered 3D Covalent Fullerene Framework”, Angewandte Chemie-International Edition, 2015, 54, (26), p.7577-7581
【0005】

【特許文献1】特開2010-229021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1乃至5に記載のポリマーは、鎖状の架橋分子の含有割合が大きいため、比表面積が小さくなってしまうという課題があった。非特許文献6に記載の2次元の有機金属錯体や、特許文献1に記載のフラーレン薄膜では、2次元での比表面積は大きくとも、それらを積層して3次元構造にしたときにまで大きい比表面積を保持するのは困難であるという課題があった。非特許文献7に記載の3次元規則構造を有する多孔性の共有結合性有機構造体は、比表面積が 494 m2/gと比較的大きいが、組成式がC(60+54)O42Si12H72であり、フラーレンの含有量が僅か29.4 wt%であるため、フラーレンが主成分の多孔質材料にはなっていないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、フラーレンを主成分とした、より大きい比表面積を有する多孔性ポリマーの製造方法および多孔性ポリマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法は、複数の水酸化フラーレンを、2以上の官能基を有する架橋剤で架橋反応させることにより、3次元の架橋構造を有し、フラーレンの含有量が50wt%より大きい多孔性ポリマーを得ることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る多孔性ポリマーは、複数の水酸化フラーレンが3次元的に架橋された構造を有し、フラーレンの含有量が50wt%より大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法は、本発明に係る多孔性ポリマーを製造することができる。本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法は、架橋反応により、フラーレン同士の間に空間を有する3次元の架橋構造を有し、フラーレンの含有量が50wt%より大きい多孔性ポリマーを得ることができる。こうして得られた本発明に係る多孔性ポリマーは、フラーレン同士の間に空間を有し、フラーレンの含有量も大きいため、従来のものより大きい比表面積を有している。本発明に係る多孔性ポリマーは、比表面積が大きいため、例えば、吸着剤やガス貯蔵剤、触媒などとして利用することができる。
【0011】
本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法は、溶媒中に前記複数の水酸化フラーレンと前記架橋剤とを加えて加熱することにより、架橋反応させることが好ましい。この場合、容易に比表面積の大きい多孔性ポリマーを得ることができる。溶媒は、例えば有機溶媒など、架橋反応を促進するものであればいかなるものであってもよい。また、架橋反応として、例えば、複数の水酸化フラーレンをエステル化反応またはエーテル化反応させることにより、多孔性ポリマーを得てもよい。
【0012】
エステル化反応させたときの一般的な反応例を、図1に示す。図1に示すエステル化反応では、反応の際に発生する塩酸を除去するために、塩基存在下で反応を行っている。水酸化フラーレンをエステル化反応させたときの具体的な反応例を、図2に示す。図2に示す一例では、架橋剤としてテレフタロイルクロリド(Terephthaloyl chloride)を用いている。図2に示すように、エステル化反応により、フラーレン同士の間に空間を有し、比表面積が大きい多孔性ポリマーのフラーレンポリエステルを得ることができる。
【0013】
本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法は、1つの水酸化フラーレンに付加された架橋剤の平均数が2以上5以下となるよう、架橋反応させることが好ましい。本発明に係る多孔性ポリマーは、1つの水酸化フラーレンに付加された架橋剤の平均数が2以上5以下であることが好ましい。この場合、フラーレンの含有量が50 wt%より大きく、フラーレンを主成分とする、大きい比表面積を有する多孔性ポリマーを得ることができる。例えば、図2に示すエステル化反応では、1つの水酸化フラーレン分子に付加された架橋剤の個数が2,3,4,5の場合、フラーレンの含有量は、それぞれ81.5、74.5、68.7、63.7 wt%であり、フラーレンが主成分である多孔性ポリマーを得ることができる。
【0014】
本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法は、水酸化フラーレンと架橋剤との配合比を2:1~1:4とし、80 ℃~120 ℃で1日以上加熱を行ってエステル化反応させることが好ましい。この場合、比表面積が大きい多孔性ポリマーを得ることができる。特に、2日以上加熱を行うことが好ましい。この場合、より大きい比表面積を有し、全細孔容積も大きい多孔性ポリマーを得ることができる。
【0015】
また、本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法は、水酸化フラーレンと架橋剤との配合比を2:1~1:4とし、密封した状態で、150 ℃~200 ℃で15分以上加熱を行ってエステル化反応させることが好ましい。この場合、比表面積が大きい多孔性ポリマーを得ることができる。特に、架橋剤がテレフタロイルクロリドから成り、水酸化フラーレンと架橋剤との配合比が2:1~1:1であることが好ましい。この場合、より大きい比表面積を有し、全細孔容積も大きい多孔性ポリマーを得ることができる。また、架橋剤が1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリドから成り、50 分以上加熱を行うことが好ましい。この場合、より大きい比表面積を有する多孔性ポリマーを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フラーレンを主成分とした、より大きい比表面積を有する多孔性ポリマーの製造方法および多孔性ポリマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法に関する、エステル化反応させたときの反応例を示す反応式である。
【図2】本発明に係る多孔性ポリマーの製造方法の、水酸化フラーレンをエステル化反応させたときの反応例を示す反応式である。
【図3】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法に関する、水酸化フラーレンの熱重量分析(TG)結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法に関する、水酸化フラーレンのフーリエ変換型赤外分光(FT-IR)測定結果を示すスペクトルである。
【図5】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法に関する、水酸化フラーレンの昇温脱離法(TPD)による放出ガスの脱離率の測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法に関する、水酸化フラーレンのN吸脱着等温線(-196 ℃)を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法により得られたフラーレンポリエステルの、N吸脱着等温線(-196 ℃)を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法により得られたフラーレンポリエステルの、1:4 (4)の試料のフーリエ変換型赤外分光(FT-IR)測定結果を示すスペクトルである。
【図9】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法で、マイクロ波合成装置を用いてフラーレンポリエステルを合成したときの、(a)tere 1:4(20)の反応後、(b)tri 1:4(20)の反応後、(c)tere 1:2(60)の反応前、(d)tere 1:2(60)の反応後、(e)tri 1:2(60)の反応前、(f)tri 1:2(60)の反応後の状態を示す図面である。
【図10】本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法で、マイクロ波合成装置を用い、架橋剤として(a)テレフタロイルクロリド、(b)1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリドを用いて得られたフラーレンポリエステルの、N吸脱着等温線(-196 ℃)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施例等に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の多孔性ポリマーは、本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法により製造される。すなわち、本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法は、複数の水酸化フラーレンを、2以上の官能基を有する架橋剤で架橋反応させる。これにより、複数の水酸化フラーレンが3次元的に架橋された構造を有し、フラーレンの含有量が50 wt%より大きい、本発明の実施の形態の多孔性ポリマーを得ることができる。
以下では、まず、原料である水酸化フラーレンの分析を行い、次にその水酸化フラーレンを用いて多孔性ポリマーの製造を行った。

【0019】
[水酸化フラーレンの分析]
原料の水酸化フラーレンとして、フロンティアカーボン株式会社製「nanom spectra」を用いた。この水酸化フラーレンの組成は、C(OH)n・mH2Oであり、n個の水酸基とm個の水和水を有している。

【0020】
<元素分析>
水酸化フラーレンに対して、有機元素分析によりCHN比の分析を行った。その結果を、表1に示す。ここで、Nの含有量は、0.3 wt%以下と非常に少なかったため、ゼロとみなしている。また、水酸化フラーレンには、無機不純物(灰分)が含まれないため、元素分析の結果から得られるCおよびHの含有量を 100から差し引くことにより、Oの含有量を求めている。表1に示す結果から、水酸化フラーレンの元素組成は、C60(OH)8.5・6.1 H2Oと求められた。また、水和水の質量は、全体の約11.2 %であることが確認された。

【0021】
【表1】
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【0022】
<熱重量分析(TG)>
水酸化フラーレンの灰分の有無や水和水の量を見積もるために、空気流通下で熱重量分析を行った。その結果を、図3に示す。図3に示すように、試料の水酸化フラーレンを加熱していくと、230 ℃までは水和水の脱離と思われる重量減少が緩やかに生じる。230 ℃までの重量減少は、13 wt%であり、元素分析から見積もった水和水の量とほぼ一致している。なお、元素分析の結果と完全に一致しないのは、水和水の量が保存状態によって若干変化するためであると考えられる。

【0023】
230 ℃から300 ℃にかけて重量減少は無くなるが、300 ℃に到達すると急激な重量減少が生じる。このとき、温度プロファイルに小さいピークが発生している。温度を試料セルに接触した熱電対で測定しているため、このピークは試料が急激に発熱したことを示している。重量減少の原因として、隣接水酸基が脱水縮合してC-O-Cのエポキシ環が生じている可能性が考えられるが、脱水縮合は吸熱反応であるため、エポキシのみが生じているのであれば、試料は発熱しない。このため、生じたエポキシのC-O結合が一瞬で切れ、気相の酸素が付加する酸化反応(発熱反応)が同時に生じているものと考えられる。

【0024】
さらに温度が上昇して350℃に達すると、再び急激な重量減少が生じ、温度プロファイルに小さいピークが発生している。その後、重量減少が継続して全ての試料が燃焼していることから、350℃で燃焼反応が始まっているものと考えられる。燃焼後の試料の重量はほぼ0になっており、測定後に取り出した試料セルには、灰などの残渣の存在は確認されなかった。このことから、水酸化フラーレンに無機不純物(灰分)は含まれていないことが確認された。

【0025】
<フーリエ変換型赤外分光(FT-IR)測定>
水酸化フラーレンのFT-IR測定を行った。測定は、KBrペレットによる透過法で行った。測定では、まず、KBrを150 ℃で3時間の真空乾燥を行った後、6 MPaで1分間加圧してペレット状にし、バックグラウンド測定を行った。次に、水酸化フラーレン約1.5 mgを乾燥させたKBrと混合し、150 ℃で3時間の真空乾燥を行った。なお、水酸化フラーレンの含有量は、0.5 wt%である。乾燥後、真空引きしながら、6 MPaで1分間加圧してペレット状にし、測定を行った。測定結果を、図4に示す。

【0026】
図4に示すように、水酸化フラーレンに一般的な、1040、1380、1620、3400 cm-1のピークが確認された。これらはそれぞれ、C-O伸縮、C-O-H変角、C=C環伸縮、O-H伸縮に由来するピークである。加えて、1720 cm-1にもピークが確認された。このピークは、フラーレンが過度に酸化された際に生じるヘミケタールが開裂して生じたケトンのC=O伸縮、もしくは隣接OH基からのピナコール(Pinacol)転移により生じたケトンのC=O伸縮に由来するピークである。

【0027】
<昇温脱離法(TPD)によるガス分析>
FT-IRでヘミケタールやケトンの存在が示唆されたため、水酸化フラーレンに含まれる含酸素官能基の定量分析を、TPDによるガス分析により行った。TPDは、1800 ℃まで昇温可能な高感度真空TPDシステムにて実施した(Ishii et.al., Carbon, 2014, 80, p.135-145 参照)。四重極形質量分析計にて検出した放出ガスの脱離率(Desorption rate)のパターンを、図5に示す。図5に示すmass2、mass18、mass28、mass44は、それぞれH、HO、CO、COに対応している。

【0028】
図5に示すように、HOは、100~700 ℃程度の範囲で脱離することが確認された。HO放出は、水和水の放出および隣接OH基の脱水縮合による放出によるものである。また、CO放出は、200~900 ℃の広い温度範囲に渡っていることが確認された。このことから、様々な形態の官能基からCOが放出されていると考えられる。これらは、脱水縮合により生じたエポキシC-O-C、孤立-OH基、ケトンC=Oからの放出と考えられる。さらに、200~700 ℃の範囲で、CO放出が検出された。これは、ヘミケタールおよび類似のO-C=O構造からの脱離であると考えられる。

【0029】
CO放出パターンが広い温度範囲に渡っている点と、CO放出が観測されたことから、FT-IRで示唆されたように、用いた水酸化フラーレンは過度に酸化されており、ヘミケタール構造等、乱雑な構造が存在していると考えられる。しかし、多量の水酸基を有することは間違いないため、図2に示す反応による高分子合成は可能である。

【0030】
<N吸脱着測定>
水酸化フラーレンの比表面積を測定するために、マイクロトラックベル製「BELSORP-mini II」を用いて、N吸脱着測定を行った。試料の水酸化フラーレンは、測定前に150 ℃で、3時間の真空乾燥を行った。比表面積は、BET法を用いて算出し、BET法適用範囲を、P/P=0.01~0.05とした。得られたN吸脱着等温線(-196 ℃)を、図6に示す。

【0031】
図6に示すように、IUPAC(国際純正・応用化学連合)の定義で、I型の等温線を示しており、2 nm以下のサイズの細孔をもつ、ミクロ多孔性物質であることが確認された。このことから、水酸化フラーレンは、フラーレン(C60)と異なり、固体状態で最密充填をしておらず、分子間に僅かな隙間が存在しているものと考えられる。これは、OH基や水和水の間に生じる水素結合の影響であると考えられる。

【0032】
水酸化フラーレンのBET比表面積は、110 m2/gであった。水酸化フラーレンそのものにも細孔が存在するが、その比表面積はC60の比表面積である2625 m2/gよりは大幅に小さいことが確認された。このことから、水酸化フラーレンの表面のほとんどは露出していないと考えられる。
【実施例1】
【0033】
複数の水酸化フラーレンをエステル化反応させることにより、フラーレンポリエステルの合成を行った。まず、バイアル瓶に、溶媒のピリジン5 ml、水酸化フラーレン(F-OH)、架橋剤のテレフタロイルクロリド(以下、「tere」と呼ぶ)を入れ、オーブンで100 ℃に加熱し、ポリマーを合成した。このとき、表2に示すように、反応時間や配合量を様々に変化させて合成を行った。合成されたポリマーは、沈殿物として得られる。得られた沈殿物に溶媒を加えて遠心分離(14000 rpm、1分間)し、上澄みを捨てて再び溶媒を加えて遠心分離をする、という操作を繰り返すことにより、沈殿物を洗浄した。溶媒として水とエタノールとを用い、それぞれ4回以上繰り返して洗浄を行った。最後にエタノールで洗浄後、100 ℃で3時間の真空乾燥を行うことにより、粉末状のフラーレンポリエステルを得た。
【実施例1】
【0034】
【表2】
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【実施例1】
【0035】
<N吸脱着測定>
マイクロトラックベル製「BELSORP-mini II」を用いて、合成したフラーレンポリエステルのN吸脱着測定を行った。比表面積は、BET法を用いて算出し、BET法適用範囲を、P/P=0.01~0.05とした。前処理条件として、150 ℃で、3時間の真空乾燥を行った。
【実施例1】
【0036】
得られたN吸脱着等温線(-196 ℃)を、図7に示す。図7に示すように、いずれの試料も、IUPACの定義でI型の等温線をしており、ミクロ多孔質であることが確認された。吸脱着等温線から求めたBET比表面積(SBET)および全細孔容積を、表3に示す。なお、全細孔容積は、P/P=0.96の吸着量から求めた。表3に示すように、F-OH:tere=1:4、反応時間4日間のものが最も比表面積が大きく、494~558 m2/gであった。
【実施例1】
【0037】
【表3】
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【実施例1】
【0038】
<FT-IR測定>
得られたポリマーのうち、1:4 (4)の試料についてFT-IR測定を行った。測定手順は、図4に示す水酸化フラーレンのFT-IR測定と同様である。測定結果を、図8に示す。なお、比較のため、tereの測定も行い、その結果も図8に示す。また、図4に示す水酸化フラーレン(F-OH)の測定結果も、合わせて示す。
【実施例1】
【0039】
図8に示すように、tereは、1728 cm-1、1789 cm-1に、酸ハロゲン化合物に典型的な2つのピークを示していることが確認された。前者のピークはフェルミ共鳴吸収、後者のピークはC=O伸縮である。また、得られたポリマーは、F-OHに見られるνC-O、δ C-O-H、νC=C、νC=O、νO-Hのピークを全て示しているが、νC-O、δ C-O-HおよびνO-Hの強度が若干減少していることが確認された。これは、水酸基の一部がエステル化したことを示している。また、tere由来のピークは殆ど見られないことから、F-OHが主成分のポリマーが得られていることがわかる。
【実施例1】
【0040】
以上の結果から、本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法により、水酸化フラーレンと架橋剤との配合比を1:2~1:4とし、100 ℃で1~4日間加熱を行ってエステル化反応させることにより、比表面積が大きいフラーレンポリエステルが得られた。特に、反応時間を2日以上とすることにより、より大きい比表面積を有し、全細孔容積も大きいフラーレンポリエステルが得られた。
【実施例2】
【0041】
マイクロ波合成装置を用いて複数の水酸化フラーレンをエステル化反応させることにより、フラーレンポリエステルの合成を行った。まず、密閉容器に、溶媒のピリジン5 ml、水酸化フラーレン(F-OH)、架橋剤を入れ、マイクロ波合成装置(アントンパール社製「Monowave300」)で180 ℃に加熱してポリマーの合成を行った。このとき、表4に示すように、反応時間や配合量、架橋剤の種類を変えて合成を行った。架橋剤としては、テレフタロイルクロリド(tere)と1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド(以下、「tri」と呼ぶ)の2つを用いた。
【実施例2】
【0042】
【表4】
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【実施例2】
【0043】
いくつかの試料について、反応前後の状態を図9(a)~(f)に示す。図9に示すように、反応前は水酸化フラーレンおよび架橋剤が溶媒に分散・溶解しているが、反応後には合成されたポリマーが沈殿していることが確認された。なお、溶液の吸光度による濃度測定から、約50 mgの水酸化フラーレンは、室温でピリジン5 mlに完全に溶解することを確認している。また、tereおよびtriのいずれに関しても、反応に用いた最大量をピリジン5 mlに混合しても、180 ℃に加熱後には完全に溶解し、室温に冷却しても再結晶化しないことを確認している。このことから、表4に示す反応において、基質は液相に存在しているといえる。
【実施例2】
【0044】
各試料の反応後、沈殿物に溶媒を加えて遠心分離(14000 rpm、1分間)し、上澄みを捨て同様の操作を繰り返すことにより、沈殿物を洗浄した。溶媒として水、エタノールを2回、水、アセトンを2回、エタノールを1回用いて、この順で洗浄を行った。エタノール除去後、100 ℃で3時間の真空乾燥を行うことにより、粉末状のフラーレンポリエステルを得た。
【実施例2】
【0045】
<N吸脱着測定>
マイクロトラックベル製「BELSORP-mini II」を用いて、合成したフラーレンポリエステルのN吸脱着測定を行った。比表面積は、BET法を用いて算出し、BET法適用範囲を、P/P=0.01~0.05とした。前処理条件として、150 ℃で、3時間の真空乾燥を行った。
【実施例2】
【0046】
得られたN吸脱着等温線(-196 ℃)を、図10に示す。また、吸脱着等温線から求めたBET比表面積(SBET)および全細孔容積を、表5に示す。図10(a)に示すように、tereを架橋剤として、それぞれ反応時間20分および60分で合成したtere 1:4(20)およびtere 1:4(60)のN吸脱着等温線はほぼ一致しており、表5に示すように、BET比表面積および全細孔容積もほぼ同じであることが確認された。このことから、tereを用いた場合には、反応が20分でほぼ完了していることがわかる。
【実施例2】
【0047】
【表5】
JP2017141335A_000007t.gif
【実施例2】
【0048】
一方、図10(b)に示すように、triを架橋剤として、それぞれ反応時間20分および60分として合成したtri 1:4(20)およびtri 1:4(60)のN吸脱着等温線は大きく異なっており、表5に示すように、BET比表面積は後者の方が101 m2/g高くなっていることが確認された。このことから、triを用いた場合には、反応は20分ではまだ完了していないといえる。このようなtereとtriでの反応速度の違いは、立体障害によるものと考えられる。すなわち、triの方がC60同士の距離が接近するため、立体障害の影響が大きく、重合に時間がかかったものと考えられる。
【実施例2】
【0049】
表5に示すように、tereを用い、その配合量を低減させて合成したtere 1:1(60)およびtere 2:1(60)では、BET比表面積がさらに増加し、最大で657 m2/gとなっていることが確認された。これは、フラーレンの比表面積 2625 m2/gの約25 %に達している。また、表4に示すように、tere 2:1(60)で、収率が60 %と最大になることも確認された。
【実施例2】
【0050】
<H吸着量測定>
フラーレンを構成する炭素は、黒鉛の炭素に比べてsp3性を帯びているため、ラジカルとの相互作用が大きいと考えられる。そこで、合成したフラーレンポリエステルにPtナノ粒子を担持して、水素スピルオーバーによる水素ラジカル吸着量を測定した。一般に、多孔性の炭素にPtナノ粒子を担持してHガスに接触させると、HはPt上で解離吸着され、水素ラジカルが炭素担体へと移動して炭素上に貯蔵される。このため、フラーレンポリエステルでは、水素ラジカルの貯蔵量が通常の炭素よりも大きいと考えられる。
【実施例2】
【0051】
水素ラジカルの吸着量を、本発明者等が開発した方法で測定した(Nishihara, H et.al., The Journal of Physical Chemistry C 2014, 118, (18), p.9551-9559参照)。具体的な手順を以下に示す。
1.Pt未担持の炭素の比表面積を窒素吸脱着測定により求める。これを SC [m2/g]とする。
2.Pt担持した炭素の比表面積を窒素吸脱着測定により求める。これを SCPt [m2/g]とする。
3.Pt未担持の炭素の温度T [℃]におけるH吸脱着等温線を測定する。等温線は、ほぼ直線で近似でき、その近似曲線を V = aP + b とする。V [cm3(STP)/g]は圧力 P [kPa]における吸着量、a, bはそれぞれ定数である。
【実施例2】
【0052】
4.Pt担持した炭素の温度T [℃]におけるH吸脱着等温線を測定する。この等温線において、圧力 P [kPa]における全吸着量を Vtotal [cm3(STP)/g]とする。10 kPa以下では化学吸着が生じるため、それ以上の圧力領域の線形近似曲線をひき、切片 Vchem [cm3(STP)/g]を求める。VchemがPtへの水素化学吸着量に相当する。一方、圧力 PにおいてPt担持した炭素に物理吸着するHの量(Vphys [cm3(STP)/g])を、以下の式で求める。
Vphys = (SCPt/SC)×(aP + b)
ここで、比表面積 SC、SCPtとして、BET比表面積を用いる。
5.次に、10 kPa以上の領域について、以下の式によって圧力 P における水素ラジカル貯蔵量 Vspill [cm3(STP)/g]を求める。なお、Vspill、Vtotal、Vphysは Pの関数である。
Vspill = Vtotal - Vchem - Vphys
【実施例2】
【0053】
まず、tri1:2(60)のフラーレンポリエステルに、以下の手順でPtナノ粒子を担持した。約300 mgのtri1:2(60)を秤量し、Ptナノコロイド溶液(田中貴金属製、Pt濃度350 mg/l、粒径2~3 nm)を加えた。Ptナノコロイド溶液の量は、Pt担持量が 1 wt%になるよう調節した。混合液を5分間、45 kHzの超音波で処理し、フラスコに移して徐々に減圧し、試料から気泡が発生しなくなったところで密閉し、室温で15時間撹拌した。撹拌後の溶液は、80 ℃で12時間、150 ℃で6時間真空乾燥することにより粉末試料を得た。これを、Pt/tri1:2(60)とする。
【実施例2】
【0054】
比較のため、多孔性の炭素の代表例として、ライオン株式会社製のケッチェンブラックEC600JD(以降、「KB」と呼ぶ)にも、同様の手順でPt担持を行った。得られた試料をPt/KBとする。KBは、1348 m2/gと大きい比表面積を有している。
【実施例2】
【0055】
Pt/tri1:2(60)とPt/KBの25 ℃、100 kPaにおける水素ラジカル吸着量を、上記の方法で測定したところ、それぞれ15.7 μmol/g、6.6 μmol/gとなり、Pt/tri1:2(60)の方が2.4倍ほど多く水素ラジカルを貯蔵できることが確認された。このことから、Pt/tri1:2(60)は、多孔性炭素よりもラジカル捕集能に優れているといえる。
【実施例2】
【0056】
以上の結果から、本発明の実施の形態の多孔性ポリマーの製造方法により、水酸化フラーレンと架橋剤との配合比を2:1~1:4とし、密封した状態で、180 ℃で20~60 分間加熱を行ってエステル化反応させることにより、比表面積が大きいフラーレンポリエステルが得られた。架橋剤がtereの場合、水酸化フラーレンと架橋剤との配合比を2:1~1:1とすることにより、より大きい比表面積を有し、全細孔容積も大きいフラーレンポリエステルが得られた。また、収率も高くなった。架橋剤がtriの場合、反応時間を60 分間にすることにより、より大きい比表面積を有するフラーレンポリエステルが得られた。
【実施例3】
【0057】
表6に示すように、水酸化フラーレン50 mgに、22.7 mgのジブロモプロパン(架橋剤)と溶媒4 mlとを加え、マイクロ波合成装置を用いて、180 ℃に加熱して架橋反応させた。反応後の沈殿物に、溶媒を加えて遠心分離(14000 rpm、1分間以上)し、上澄みを捨て同様の操作を繰り返すことにより、沈殿物を洗浄した。溶媒としてメタノールを2回、精製水を2回、エタノールを2回、アセトンを2回用いて、この順で洗浄を行った。溶媒を除去後、100 ℃で3時間の真空乾燥を行うことにより、粉末状のフラーレンポリマーを得た。
【実施例3】
【0058】
【表6】
JP2017141335A_000008t.gif
【実施例3】
【0059】
表6に示すように、架橋剤としてジブロモプロパンを用いたとき、エーテル結合により、BET比表面積 227 m2/gのポリエーテルが得られた。また、架橋剤としては、芳香族のみならず、脂肪族も利用できることが確認された。さらに、溶媒は、ピリジンに限定されず、DMSOも可能であることが確認された。塩基としては、ピリジンに限定されず、水素化ナトリウムも可能であることが確認された。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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