TOP > 国内特許検索 > 観測装置及び観測方法 > 明細書

明細書 :観測装置及び観測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-173211 (P2016-173211A)
公開日 平成28年9月29日(2016.9.29)
発明の名称または考案の名称 観測装置及び観測方法
国際特許分類 F23R   3/00        (2006.01)
F23N   5/00        (2006.01)
F02C   7/00        (2006.01)
F01D  25/00        (2006.01)
FI F23R 3/00 E
F23N 5/00 K
F02C 7/00 A
F01D 25/00 V
F01D 25/00 W
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2015-053624 (P2015-053624)
出願日 平成27年3月17日(2015.3.17)
発明者または考案者 【氏名】後藤田 浩
【氏名】衣川 輝
【氏名】奥野 佑太
【氏名】道免 昌平
出願人 【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
個別代理人の代理人 【識別番号】110000280、【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 3K003
Fターム 3K003FA09
3K003FB03
3K003FB05
3K003GA03
要約 【課題】物理現象の観測装置及び観測方法を提供する。
【解決手段】時間的に変化する物理現象の物理量を検出する検出部と、検出した各時刻の物理量をノードとして設定し、複数のノードを以下に示す条件(A)及び(B)にしたがってエッジにより接続した複雑ネットワークを経時的に生成する生成部313と、複雑ネットワークにおける所定の特徴量を求める演算部314と、特徴量に基づいて物理現象の状態を推定する推定部316と、を備えている。(A):検出時刻が隣接する物理量により設定されるノード同士(B):時刻tに検出された物理量yと、時刻tよりも後の時刻tに検出された物理量yと、時刻tと時刻tとの間の時刻tに検出された物理量yとが、次の式を満たす場合における、物理量yと物理量yにより設定されるノード同士
JP2016173211A_000011t.gif
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
時間的に変化する物理現象の物理量を検出する検出部と、
検出した各時刻の物理量をノードとして設定し、複数のノードを以下に示す条件(A)及び(B)にしたがってエッジにより接続した複雑ネットワークを経時的に生成する生成部と、
前記複雑ネットワークにおける所定の特徴量を求める演算部と、
前記特徴量に基づいて物理現象の状態を推定する推定部と、を備えている観測装置。
(A):検出時刻が隣接する物理量により設定されるノード同士
(B):時刻tに検出された物理量yと、時刻tよりも後の時刻tに検出された物理量yと、時刻tと時刻tとの間の時刻tに検出された物理量yとが、次の式を満たす場合における、物理量yと物理量yにより設定されるノード同士
【数1】
JP2016173211A_000009t.gif

【請求項2】
前記生成部は、前記複雑ネットワークにおいて、エッジによって接続するノードの範囲を所定の規則に基づいて制限する、請求項1に記載の観測装置。
【請求項3】
前記ノードの範囲が、所定の物理現象が発生したときの物理量の変動周期あたりの物理量の検出回数に基づいて設定される、請求項2に記載の観測装置。
【請求項4】
前記特徴量が、前記複雑ネットワークの平均次数である、請求項1~3のいずれか1項に記載の観測装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記平均次数と所定の閾値との比較に基づいて、物理現象の状態を推定する、請求項4に記載の観測装置。
【請求項6】
前記物理現象が、燃焼器における燃料の燃焼であり、前記物理量が、燃焼器内の圧力である、請求項1~5のいずれか1項に記載の観測装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記燃焼器における燃焼の不安定の発生を推定する、請求項6に記載の観測装置。
【請求項8】
前記推定部は、前記燃焼器における燃焼の不安定として、吹き消えの発生を推定する、請求項7に記載の観測装置。
【請求項9】
時間的に変化する物理現象の物理量を検出するステップと、
検出した各時刻の物理量をノードとして設定し、複数のノードを以下に示す条件(A)及び(B)にしたがってエッジにより接続した複雑ネットワークを経時的に生成するステップと、
前記複雑ネットワークにおける所定の特徴量を求めるステップと、
前記特徴量に基づいて物理現象の状態を推定するステップと、を含む観測方法。
(A):検出時刻が隣接する物理量により設定されるノード同士
(B):時刻tに検出された物理量yと、時刻tよりも後の時刻tに検出された物理量yと、時刻tと時刻tとの間の時刻tに検出された物理量yとが、次の式を満たす場合における、物理量yと物理量yにより設定されるノード同士
【数2】
JP2016173211A_000010t.gif
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、物理現象を観測する観測装置及び観測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスタービン燃焼器においては、燃焼振動及び吹き消えのような不安定な燃焼状態の発生は好ましくない。また、ガスタービンエンジンでは、かかる不安定な燃焼状態以外にも、回転翼フラッタ、旋回失速、及びサージ等の不安定な現象が発生することもある。また、ガスタービンエンジン以外の分野では、例えば熱交換器又は化学反応器において、流体の好ましくない不安定な流動状態が発生することがある。従来、かかる不安定な物理現象の発生を検知することが望まれている。
【0003】
不安定な物理現象には、ガスタービン燃焼器における吹き消えのように突発的に発生するものがある。このような突発的に発生する不安定な物理現象は、周波数解析のような線形解析では正確に検知することが困難である。そこで、従来、非線形解析を用いて、不安定な物理現象を検知する方法が開発されている。例えば特許文献1には、カオス時系列解析で用いられている手法を採用して、火炎のゆらぎを測定する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、ターケンスの埋め込み定理を用いてアトラクタを再構成し、相関次元と最大リアプノフ指数とを求め、これらから燃焼状態を計測するようになっている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法において用いられている相関次元及びリアプノフ指数は古典的な非線形解析理論であり、特に相関次元では膨大なデータ点数の時系列データを必要とする。したがって、演算負荷が高く、しかもまとまった時系列データを取得した後にしか演算処理を行うことができない。このため、特許文献1に記載の方法は、物理現象の発生を高い即時性で推定するような用途には向かず、その応用分野が限られる。
【0005】
また、特許文献2には、時間的に変化する物理量を検出し、検出された物理量に関する並進誤差を演算し、演算された並進誤差に基づいて、特定の物理現象の発生を推定する方法が開示されている。
特許文献2に記載の方法では、特許文献1に記載の方法に比べて演算に使用する物理量のデータ数を少なくすることができ、データ量を大幅に削減して特定の物理現象の発生を高い即時性で推定することができる。そして、特許文献2に記載の方法を用いることによって、ガスタービン燃焼器等において燃焼に伴う圧力の変動を検出し、この圧力変動から不安定な燃焼状態の発生を推定することによって、燃料供給量の制御を行うようにしている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2006-138517号公報
【特許文献2】特開2013-238365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、燃焼器における不安定な燃焼状態に応じた燃料供給の制御のように、高い即時性でより短時間に物理現象の推定を行うことが必要とされる場合には、より簡単なアルゴリズムによって演算の高速化を図り、より応答性及び安定性の高い処理が求められるところである。
【0008】
本発明は、従来とはさらに異なる手法によって、より応答性等の高い物理現象の観測を可能とする観測装置及び観測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る観測装置は、
時間的に変化する物理現象の物理量を検出する検出部と、
検出した各時刻の物理量をノードとして設定し、複数のノードを以下に示す条件(A)及び(B)にしたがってエッジにより接続した複雑ネットワークを経時的に生成する生成部と、
前記複雑ネットワークにおける所定の特徴量を求める演算部と、
前記特徴量に基づいて物理現象の状態を推定する推定部と、を備えている。
(A):検出時刻が隣接する物理量により設定されるノード同士
(B):時刻tに検出された物理量yと、時刻tよりも後の時刻tに検出された物理量yと、時刻tと時刻tとの間の時刻tに検出された物理量yとが、次の式を満たす場合における、物理量yと物理量yにより設定されるノード同士
【数1】
JP2016173211A_000003t.gif

【0010】
この観測装置によれば、所定の条件にしたがって物理現象の物理量についての複雑ネットワークを生成し、この複雑ネットワークの特徴量に基づいて物理現象の状態を推定する。これにより、簡単なアルゴリズムによって物理現象の状態を推定することが可能となり、演算の高速化を図り、より応答性の高い処理を実現することができる。
なお、複雑ネットワークの特徴量としては、平均次数、平均頂点間距離、クラスター係数、次数分布の最頻値、次数分布の最頻値の頻度等を用いることができる。また、生成部は、複雑ネットワークを記述するための隣接行列や隣接リストを生成するものであってもよいが、これに限らず、単に所定の特徴量を演算するために必要なデータ(ノード数、エッジ数等)を取得するものであってもよく、この場合、生成部としての処理が実質的に演算部として処理に含まれていてもよい。
【0011】
(2)前記生成部は、前記複雑ネットワークにおいて、エッジによって接続するノードの範囲を所定の規則に基づいて制限することが好ましい。
このような構成によって、計算量を効率よく減少させることができ、より演算の高速化を図ることができる。
【0012】
(3)前記ノードの範囲は、所定の物理現象が発生したときの物理量の変動周期あたりの物理量の検出回数に基づいて設定されることが好ましい。
このような構成によって、所定の物理現象が発生した場合のノードに接続されるエッジの数、すなわち次数の意図しない増加を抑えることができ、所定の物理現象が発生しているときと発生してないときとの間で、次数に差異を生じさせることができる。複雑ネットワークの特徴量は、通常、次数との間に高い関連性を有しているため、上記構成を採用することによって、物理現象の状態を推定するために好適に活用することができる。
【0013】
(4)前記特徴量は、前記複雑ネットワークの平均次数であってもよい。
このような構成によって非常に簡単な演算によってネットワークの特徴量を求めることができる。
【0014】
(5)前記推定部は、前記平均次数と所定の閾値との比較に基づいて、物理現象の状態を推定するものであってもよい。
【0015】
(6)前記物理現象は、燃焼器における燃料の燃焼であり、前記物理量は、燃焼器内の圧力であってもよい。
この場合、燃焼に伴う圧力の変化から物理現象の状態を推定することができる。
【0016】
(7)上記(6)において、前記推定部は、前記燃焼器における燃焼の不安定を推定することが好ましい。
このような構成によって、燃焼振動又は吹き消えのような燃焼の不安定の発生を推定し、燃料の供給制御等のために活用することができる。
【0017】
(8)前記推定部は、前記燃焼器における燃焼の不安定として、吹き消えの発生を推定することが好ましい。
近年、燃焼器においては、予混合気を希薄化させることによって二酸化炭素及びNOxの発生を低減させることが行われているが、この希薄化によって吹き消えが発生する可能性が高くなるので、本発明のように吹き消えの発生を推定することは極めて有用である。
【0018】
(9)本発明に係る観測方法は、
時間的に変化する物理現象の物理量を検出するステップと、
検出した各時刻の物理量をノードとして設定し、複数のノードを以下に示す条件(A)及び(B)にしたがってエッジにより接続した複雑ネットワークを経時的に生成するステップと、
前記複雑ネットワークにおける所定の特徴量を求めるステップと、
前記特徴量に基づいて物理現象の状態を推定するステップと、を含む。
(A):検出時刻が隣接する物理量により設定されるノード同士
(B):時刻tに検出された物理量yと、時刻tよりも後の時刻tに検出された物理量yと、時刻tと時刻tとの間の時刻tに検出された物理量yとが、次の式を満たす場合における、物理量yと物理量yにより設定されるノード同士
【数2】
JP2016173211A_000004t.gif

【0019】
この観測方法によれば、所定の条件にしたがって物理現象の物理量についての複雑ネットワークを生成し、この複雑ネットワークの特徴量に基づいて物理現象の状態を推定する。これにより、簡単なアルゴリズムによって物理現象の状態を推定することが可能となり、演算の高速化を図り、より応答性の高い処理を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、応答性の高い物理現象の観測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る燃焼状態の観測装置の構成を示す模式図である。
【図2】信号解析装置の機能ブロックである。
【図3】複雑ネットワークの生成に使用される圧力変動信号の一例を示すグラフである。
【図4】一般的な複雑ネットワーク(グラフ;Graph)の一例を示す説明図である。
【図5】可視グラフの一例を示す説明図である。
【図6】(a)は、可視グラフにおいて頂点(ノード)を枝(エッジ)で接続した結果を示す図であり、(b)は、その結果から生成された複雑ネットワークを示す図である。
【図7】可視グラフ上においてエッジで接続するノードの範囲(視力)の一例を示す図である。
【図8】可視グラフ上においてエッジで接続するノードの範囲(視力)の他の例を示す図である。
【図9】視力の設定を説明するためのグラフである。
【図10】複雑ネットワークの平均次数と当量比との関係を示すグラフである。
【図11】燃焼制御処理の手順を示すフローチャートである。
【図12】2次燃料流量計算処理の手順を示すフローチャートである。
【図13】観測装置の性能評価試験の結果を示すグラフである。
【図14】観測装置の性能評価試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
以下では、ガスタービン燃焼器の燃焼状態を観測する観測装置の構成及びその動作について説明する。

【0023】
[1.観測装置の構成]
本実施形態に係る観測装置は、ガスタービンモデル燃焼器(ガスタービンエンジン燃焼器の部分要素を模擬した燃焼器)の燃焼状態(物理現象)を複雑ネットワークの特徴量を用いて解析し、燃焼状態を推定するものである。特に、本実施形態では、安定した燃焼状態と不安定な燃焼状態である燃焼振動と吹き消えの発生とをそれぞれ識別できるように推定する。まず、観測装置の構成について説明する。

【0024】
図1は、本実施形態に係る燃焼状態の観測装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、この観測装置100は、ガスタービンモデル燃焼器(以下、単に「燃焼器」ともいう)1と、圧力トランスデューサ2と、制御部3と、燃料タンク4と、コンプレッサ5とを備えている。

【0025】
燃焼器1は、燃料と空気の混合気を燃焼させる予混合燃焼器(希薄予混合燃焼器)である。燃焼器1は、燃焼室11と、水冷室12と、インテーク部13と、図示しないスワーラとを具備する。この燃焼器1は、コンプレッサ5から供給される空気と、燃料タンク4から供給されるメタンとをインテーク部13で混合させて予混合気を形成し、スワーラによって当該予混合気に旋回を与えながら燃焼室11で燃焼させる構成である。
なお、燃焼器1は、ジェットエンジンや産業用ガスタービンエンジンの燃焼器であってもよい。

【0026】
燃焼室11には、圧力トランスデューサ(検出部)2が取り付けられている。この圧力トランスデューサ2は、燃焼室11の壁面位置の圧力変動(物理量)を検出する。圧力トランスデューサ2は、検出した圧力変動に応じた電圧信号である圧力変動信号を出力するようになっている。

【0027】
圧力トランスデューサ2には、増幅器21が接続されており、圧力トランスデューサ2から出力された圧力変動信号は増幅器21によって増幅される。

【0028】
制御部3は、信号解析装置31と、マスフローコントローラ32,33とを具備する。信号解析装置31は、以下に説明する燃焼制御処理を実行するコンピュータプログラムをコンピュータにインストールして構成されたものであり、信号解析装置31における各種の機能は、このコンピュータプログラムによって実現されている。
なお、信号解析装置31を構成するコンピュータは、演算処理装置、記憶部、入出力デバイス等を有している。

【0029】
図2は、信号解析装置31の機能ブロックを示している。この信号解析装置31は、圧力変動信号入力部311、記憶部312、複雑ネットワーク生成部313、平均次数演算部314、閾値設定部315、吹き消え発生推定部316、2次燃料流量計算部317、及び2次燃料流量制御部318としての機能を有している。

【0030】
圧力変動信号入力部311は、圧力トランスデューサ2から出力され、増幅器21によって増幅された圧力変動信号を受信するためのものである。図3に、圧力変動信号の時間の経過に伴う変化をグラフで示している。

【0031】
記憶部312は、所定期間(例えば、50msec)の圧力変動信号を記憶するためのものである。燃焼室11の圧力変動は、圧力トランスデューサ2によって検出され、時系列の圧力変動信号として出力される。圧力変動信号入力部311により取り込まれた圧力変動信号は、FIFO形式で記憶部312に記憶される。つまり、記憶部312には、新たな圧力変動信号が追加されると、古い圧力変動信号(約50msec前に記憶された圧力変動信号)が消去される。このように記憶部312の圧力変動信号が更新されることにより、常時50msecの期間の圧力変動信号が記憶されるようになっている。

【0032】
複雑ネットワーク生成部313は、記憶部312に記憶されている圧力変動信号に基づいて、複雑ネットワークを生成するためのものである。
平均次数演算部314は、この複雑ネットワークの特徴量である平均次数を演算により求めるためのものである。

【0033】
ここで、複雑ネットワークとは、多数の構成要素が複雑な繋がり方をしたネットワークの総称をいう。図4に複雑ネットワークの一態様としてのグラフ(Graph)を例示する。グラフとは、ネットワークの数学的表現方法であり、複数のノードと、各ノードを接続するエッジとから構成される。また、各ノードから出ているエッジの数のことを「次数」という。図4に示す各ノードには、次数(エッジの数)が記載されている。グラフで表現される1つのネットワークにおいて、各ノードから出ているエッジの数の平均を「平均次数」という。したがって、平均次数<k>は、次の式(1)で表される。

【0034】
【数3】
JP2016173211A_000005t.gif
ここで、nは、ノードの数、kは各ノードの次数である。

【0035】
例えば、図4に示す例においては、平均次数<k>は、
<k>=(1+4+2+3+2)/5=2.4
となる。

【0036】
本実施形態の複雑ネットワーク生成部313は、図3に示すような圧力変動信号から複雑ネットワークを生成する。そして、複雑ネットワークの生成のために、次に説明するような「可視グラフ」を利用する。

【0037】
図5は、可視グラフの一例を示す説明図である。可視グラフは、障害物を避けて見えるノード同士(見通しのあるノード同士)をエッジで繋ぎ合わせるものである。図5に例示する可視グラフは、棒グラフにより構成され、各棒グラフの頂点をノードとして設定する。そして、各ノードは、自身よりも右側にあるノードにエッジで接続される。

【0038】
例えば、左端の棒グラフのノードn1から右側の棒グラフのノードn2~n6を見たときに、ノードn2~n5は視界が遮られることなく見通すことができるが、ノードn6及びそれより以降(右側)の全てのノードは、ノードn5を有する棒グラフによって視界が遮られ、見通すことができない。したがって、この場合、ノードn1は、ノードn2~n5とエッジによって接続され、ノードn6以降とは接続されない。このように可視グラフを用いて複数のノードをエッジで接続することにより、複雑ネットワークを生成することができる。

【0039】
可視グラフにおいて、横軸方向に隣接するノード同士は、エッジによって必ず接続される。横軸方向に1つ以上離れたノード同士をエッジでつなぎ合わせるか否かは、次の式(2)を満たすか否かによって判定する。

【0040】
【数4】
JP2016173211A_000006t.gif

【0041】
ここで、tは、図5の可視グラフの横軸の値、yは、縦軸の値を示す。添字aは、接続元となるノードを示し、添字bは、接続先となるノードを示し、添字cは、接続元と接続先の間にある中間のノードを示す。
式(2)は、接続元のノードと接続先のノードとを結ぶ線の傾きが、接続元のノードと中間のノードとを結ぶ線の傾きよりも大きいことを条件とするものである。この条件を満たす場合、接続元のノードと接続先のノードとを接続する。図5において上向きの矢印は傾きが大きいことを示し、下向きの矢印は傾きが小さいことを示し、水平の矢印は傾きが同一であることを示している。

【0042】
図5の可視グラフの下側には、左端の棒グラフのノードを接続元aとし、他のノードを接続先bとした場合の接続関係を表で示している。中間のノードはc1,c2・・・で示す。この表の左端には、接続の可否を示す「○」「×」が示されている。すなわち、接続元のノードと接続先のノードとを結ぶ線の傾きが、接続元のノードと中間のノードとを結ぶ線の傾きよりも大きい場合には、両ノードをエッジで接続するので「○」を付し、接続元のノードと接続先のノードとを結ぶ線の傾きが、接続元のノードと中間のノードとを結ぶ線の傾きよりも小さい場合には、両ノードをエッジで接続しないので「×」を付している。

【0043】
図6(a)は、式(2)の判定にしたがって、各ノードをエッジで接続したものである。その結果、生成された複雑ネットワークを図6(b)に示す。図6(b)において、水平に延びる線は、隣接するノード同士を接続するエッジを意味し、水平に延びる線から上下に湾曲する線は、1つ以上離れたノード同士を接続するエッジを意味する。

【0044】
以上のような手順により、可視グラフを用いて複雑ネットワークを生成することができる。そして、本実施形態における複雑ネットワーク生成部313は、図3に示す圧力変動信号のグラフを可視グラフとすることによって、上記と同様の手順で複雑ネットワークを生成する。図3に示す圧力変動信号は時系列データであり、複雑ネットワーク生成部313は、1又は複数の圧力変動信号が取得される毎に経時的に複雑ネットワークを生成することができる。なお、一般に、複雑ネットワークは、複数のノードの接続関係が隣接行列や隣接リストによって記述されるが、本実施形態の複雑ネットワーク生成部313は、明確なかたちで隣接行列や隣接リストを生成せずに、次に説明する平均次数演算部314で用いられるノード数や次数のデータを取得するものとなっている。したがって、高速な演算処理が可能となる。

【0045】
図2に示す平均次数演算部314は、式(2)を用いて生成した圧力変動信号の複雑ネットワークに対象として、上述した式(1)によって平均次数<k>を演算する。本実施形態では、平均次数の演算を50msec毎に繰り返し、高い即時性で観測を行う。

【0046】
可視グラフを用いて複雑ネットワークを生成する場合、例えば、時系列データに、突発的に高い値が発生した場合や変動が非常に緩やかになった場合に、エッジの数が膨大となり、平均次数<k>もそれに伴って増加する。
例えば、図7(a)に示すように、時系列のデータ中に、例えば外れ値のような高い値が1つだけ存在すると、そのノードと他のノードとの間の見通しがよくなるため、全体の次数が顕著に高くなる。
また、図8(a)に示すように、時系列のデータが低周波の周期で緩やかに凹状に変動した場合、ノード同士の見通しがよくなるため、全体の次数が顕著に高くなる。

【0047】
本実施形態では、上記のいずれの場合にも次数が顕著に高くなることを抑制し、特定の周波数帯においてのみ次数が高くなるように、各ノードからの見通しを制限する「視力」という概念を導入している。

【0048】
図7(b)は、図7(a)と同一の可視グラフに「視力」の概念を導入した状態を示している。視力は、エッジによって接続するノードの範囲を表す数値とされ、「Nvis」で表される。図7(b)に示す例では、Nvis=3となっている。これは、接続元のノードから3個先(右側)のノードまでを接続先のノードとし、その中で見通しのあるノードのみをエッジで接続する。したがって、各ノードの次数は、最大で3となる。なお、図7(a)に示す例では、視力による制限を与えないので、Nvis=inf(インフィニティ;無限大)に設定している。

【0049】
図8(b)は、図8(a)と同一の可視グラフに「視力」の概念を導入した状態を示している。視力は、Nvis=3とされている。
図7及び図8から明らかなように、「視力」の概念を導入することによって、突発的に高い値が発生した場合や、特定の周波数帯よりも低周波数の状態が発生した場合に、平均次数が極端に上昇することを抑えることができる。

【0050】
具体的な視力の設定は、次の式(3)により行う。
【数5】
JP2016173211A_000007t.gif
ここで、nは自然数、fはサンプリング周波数(Hz)、fは検知したい周波数(Hz)である。

【0051】
サンプリング周波数fは、1秒間に取得される圧力変動信号のデータ数となる。検知したい周波数とは、平均次数を最も高く設定したい周波数である。したがって、式(3)において、f/fの値は、図9(a)に示すように、検知したい周波数の1周期に取得される圧力変動信号のデータ数となる。そして、f/fの値を2のべき乗で近似した値を視力Nvisとする。式(3)を用いて視力Nvisを設定すると、検知したい周波数よりも高い周波数で圧力変動信号が変動した場合は、平均次数は低下しないが(図9(b)参照)、検知したい周波数よりも低い周波数で圧力変動信号が変動した場合は、平均次数が低下する(平均次数の上昇が抑えられる)ことになる(図9(c)参照)。また、式(3)において、視力Nvisを2のべき乗で近似するのは、燃焼振動で確認されるピーク周波数が常に一定ではないためである。なお、視力Nvisの近似には、2のべき乗以外の他の形態を採用してもよい。

【0052】
燃焼室11における不安定な燃焼状態には燃焼振動と吹き消えとがある。図10は、複雑ネットワークの平均次数と当量比との関係を例示するグラフである。図10において、当量比が約0.51よりも小さい領域は、吹き消えが発生しやすい領域(以下、「吹き消え発生領域」ともいう)となり、当量比が約0.61以上の領域は、燃焼振動が発生しやすい領域(以下、「燃焼振動発生領域」ともいう)となる。吹き消え発生領域と燃焼振動発生領域との間は、燃焼状態が安定した領域であり、この領域に維持されるように燃料の供給量を制御することが望ましい。したがって、当該領域を、制御対象とする領域(以下、「制御領域」ともいう)とする。

【0053】
燃焼室11内の圧力は、燃焼振動発生領域では、比較的低い周波数帯で安定した変動となり、制御領域では、これよりも高周波数の変動が生じる。さらに、吹き消え領域では、これよりも高周波数でより複雑な変動が生じる。したがって、本実施形態においては、上述のような視力Nvisを導入するにあたって、燃焼振動発生領域における平均次数が高くなるように、当該領域の周波数を検出したい周波数fとして設定する。このように設定することで、燃焼振動発生領域における平均次数を高くすることができ、燃焼振動発生領域以外の領域における平均次数を低くすることができる。

【0054】
図10に示す例では、当量比が約0.61以上の燃焼領域発生領域において平均次数が高くなり、当量比が約0.61よりも小さい制御領域において平均次数が低くなり、両者が明確に区別されることが分かる。また、制御領域内においては、当量比が低下するに従って平均次数も大きな変化で低下していることがわかる。

【0055】
図2に戻って、閾値設定部315は、吹き消えが発生するか否かを判定するための平均次数の閾値<k>threを設定するためのものである。本実施形態においては、閾値<k>threはコンピュータのハードディスク等に記憶されており、閾値設定部315がこの記憶された閾値<k>threを読み出し、RAMに設定値として格納することで設定する。なお、閾値設定部315は、ユーザから閾値<k>threを示す情報を受け付けて当該閾値<k>threを設定値として記憶部に記憶するものであってもよいし、他のソフトウェアから与えられた閾値情報を受け付けて記憶部に設定値として記憶するものであってもよい。

【0056】
吹き消え発生推定部316は、平均次数演算部314によって演算された平均次数<k>に基づいて、吹き消えの発生を推定するためのものである。図10に示すように、燃焼室11内の燃焼状態が吹き消え発生領域に近づくほど、平均次数<k>は小さくなる。そこで、吹き消え発生推定部316は、平均次数演算部314によって演算された平均次数<k>と、閾値設定部315により設定された閾値<k>threとを比較して、平均次数<k>が閾値<k>threより小さい場合に、吹き消えの発生に近づくと推定する。

【0057】
2次燃料流量計算部317は、吹き消え発生推定部316による推定結果に基づいて、2次燃料流量を計算するためのものである。後述するように、燃料タンク4から延びる燃料供給路は途中で分岐しており、一方が主燃料供給路、他方が2次燃料供給路となっている(図1参照)。2次燃料流量計算部317は、この2次燃料供給路から供給される2次燃料の流量を計算する。

【0058】
図10に示す制御領域においては、平均次数<k>が小さい程、吹き消えの発生が近いことが推定される。吹き消えは予混合気の当量比が小さいときに発生する現象であり、吹き消えの発生を解消するためには、当量比を増大させる必要がある。そこで、2次燃料流量計算部317は、平均次数<k>と閾値<k>threの差が大きくなるにしたがって、2次燃料流量を増大させる。具体的には、次の式(4)にしたがって2次燃料流量の変化量を計算し、その時点における2次燃料流量に対して、当該変化量だけ変化させた値を、2次燃料流量の目標値として決定する。

【0059】
【数6】
JP2016173211A_000008t.gif
ΔQCH4,secondaryは、50ms間の2次燃料流量の変化量、αは、比例定数、<k>は、50ms間の圧力変動信号のデータから求めた平均次数、<k>threは、平均次数の閾値である。比例定数αは、例えば、α=0.01に設定することができる。

【0060】
2次燃料流量制御部318は、2次燃料流量計算部317によって決定された2次燃料流量の目標値に近づけるよう、2次燃料流量を制御するためのものである。かかる2次燃料流量制御部318は、2次燃料供給路の途中に設けられたマスフローコントローラ33(図1参照)に、前記目標値を示す情報を出力する。

【0061】
マスフローコントローラ32は、主燃料供給路の途中に設けられている。このマスフローコントローラ32は、信号解析装置31に接続されており、信号解析装置31から出力される制御信号にしたがって、主燃料供給路における主燃料流量を制御する。

【0062】
マスフローコントローラ33は、2次燃料供給路の途中に設けられている。かかるマスフローコントローラ33は、信号解析装置31に接続されており、信号解析装置31から出力される制御信号(目標値を示す情報)にしたがって、2次燃料流量を目標値に近づけるよう制御する。

【0063】
燃料タンク4は、燃料であるメタンを収容する。かかる燃料タンク4からは燃料供給路が延びており、ガスタービンモデル燃焼器1のインテーク部13に接続されている。

【0064】
コンプレッサ5は、酸化剤である酸素を含有する空気を供給する。かかるコンプレッサ5からは空気供給路が延びており、ガスタービンモデル燃焼器1のインテーク部13に接続されている。

【0065】
空気供給路の途中には、マスフローコントローラ51が設けられている(図1参照)。かかるマスフローコントローラ51は、与えられた設定値にしたがって、ガスタービンモデル燃焼器1へと供給される空気流量を制御する。

【0066】
[2.観測装置の動作]
以下、観測装置100の動作について説明する。
信号解析装置31の指示に応じて、マスフローコントローラ32及び33のそれぞれが、主燃料流量及び2次燃料流量を制御し、これによって燃料タンク4からメタンが供給される。また、コンプレッサ5からは空気が供給され、その供給量はマスフローコントローラ51によって制御される。

【0067】
燃料タンク4から供給されるメタン及びコンプレッサ5から供給される空気は、インテーク部13に取り込まれる。インテーク部13は、燃料と空気とを混合して混合気を生成する。生成された混合気は、スワーラによって旋回され、燃焼室11へと導入され、混合気が燃焼される。

【0068】
圧力トランスデューサ2によって、燃焼室の圧力変動が検出される。圧力トランスデューサ2から出力される圧力変動信号は、増幅器21によって増幅され、信号解析装置31に与えられる。

【0069】
信号解析装置31は、燃焼制御処理を実行し、これによって求められた2次燃料流量の目標値を示す制御信号をマスフローコントローラ33へ出力する。マスフローコントローラ33は、目標値に近づけるよう2次燃料流量を制御する。このようにして、ガスタービンモデル燃焼器1の燃焼状態がフィードバック制御される。

【0070】
以下、信号解析装置31による燃焼制御処理について説明する。図11は、燃焼制御処理の手順を示すフローチャートである。まず、圧力変動信号の取得が行われる(ステップS1)。この処理では、圧力変動信号入力部311が、入力された圧力変動信号を記憶部312に記憶する。ここで、記憶部312には50msec分の圧力変動信号の時系列データが格納される。例えば、圧力変動信号のサンプリング周波数が5kHzである場合、250個の時系列データが記憶部312に格納される。

【0071】
次に、複雑ネットワークの生成処理が実行される(ステップS2)。複雑ネットワークの生成処理では、記憶部312から読み出された圧力変動信号の時系列データから可視グラフを生成し、上述した式(2)によりノードとエッジからなる複雑ネットワークを生成する。また、エッジによりノードを接続する際には、上述した式(3)により求めた視力Nvisを考慮する。

【0072】
次に、複雑ネットワークにおける平均次数の算出処理が実行される(ステップS3)。この算出処理では、前のステップS2において生成された複雑ネットワークのノード数と、各ノードに接続されるエッジ数(次数)が取得され、上述した式(1)により平均次数が算出される。

【0073】
次に、2次燃料流量計算処理が実行される(ステップS4)。図12は、2次燃料流量計算処理の手順を示すフローチャートである。まず、2次燃料流量計算処理では、平均次数<k>の閾値<k>threが設定される(ステップS41)。この処理では、閾値設定部315が、閾値<k>threをハードディスク等から読み出し、RAMに格納することで閾値<k>threを設定する。閾値<k>は、例えば、図10に示す例においては、<k>thre=8.87に設定することができる。

【0074】
次に、その時点における2次燃料流量QCH4,secondaryが算出される(ステップS42)。この処理では、2次燃料流量計算部317が、マスフローコントローラ33の設定値等を用いて、その時点における2次燃料流量QCH4,secondaryを算出する。

【0075】
次に、2次燃料流量の変化量ΔQCH4,secondaryが算出される(ステップS43)。この処理では、吹き消え発生推定部316が、平均次数<k>と閾値<k>threとを比較することにより吹き消えの発生を推定し、平均次数<k>と閾値<k>threとの差に応じた2次燃料流量の変化量ΔQCH4,secondaryを、上述した式(4)にしたがって算出する。

【0076】
次に、現在の2次燃料流量QCH4,secondaryに変化量ΔQCH4,secondaryが反映される。すなわち、2次燃料流量の目標値として、2次燃料流量QCH4,secondaryと、2次燃料流量の変化量ΔQCH4,secondaryとを加算することにより、2次燃料流量QCH4,secondaryの目標値を算出する(ステップS44)。この処理が終わると、メインルーチンにおける2次燃料流量計算処理の呼び出しアドレスに処理が戻される。

【0077】
図11に戻って、次に、2次燃料流量制御処理が実行される(ステップS5)。この処理では、2次燃料流量制御部318が、ステップS4において算出された目標値を示す制御信号をマスフローコントローラ33へ送信し、これによって目標値に近づけるように2次燃料流量を制御する。

【0078】
ステップS5の処理が終わると、燃焼制御処理を終了するか否かが判定される(ステップS6)。この処理では、例えばユーザから信号解析装置31に動作の停止が指示される等、所定の終了条件が満たされた場合に、燃焼制御処理を終了すると判定される。燃焼制御処理を終了しないと判定された場合には(ステップS6においてNO)、ステップS1に処理が戻され、これによって50msec毎に上記のステップS1~S6の処理が繰り返し実行される。他方、ステップS6において燃焼制御処理を終了すると判定された場合には(ステップS6においてYES)、燃焼制御処理が終了される。

【0079】
上記のように、燃焼制御処理は、50msec毎に繰り返し実行される。つまり、図3に示すように、50msecの期間分の圧力変動信号から、複雑ネットワークが生成され、平均次数<k>が算出される。したがって、50msec毎にガスタービンモデル燃焼器1の燃焼状態が制御される。

【0080】
[3.評価試験結果]
本出願の発明者らは、本実施形態に係る観測装置100の性能評価試験を実施した。図13及び図14は、この性能評価試験の結果を示すグラフである。
図13に示す性能評価試験では、上段のグラフに示すように、主燃料の流量を約8L/minの初期値から、約6L/minまで一定の比率で減少させ、その後約6L/minの流量を維持した。吹き消えの発生限界は、燃料の総流量が約6.5L/minのときであるので、この限界を下回るまで主燃料流量を変化させたことになる。

【0081】
本実施形態に係る観測装置100では、主燃料流量が約6.7L/min付近に至った時点でフィードバック制御が掛かり、中段のグラフに示すように、2次燃料の供給が開始された。その結果、下段のグラフに示すように、当量比は、吹き消えの発生限界である約0.48を上回る値で維持された。

【0082】
図14に示す性能評価試験では、上段のグラフに示すように、主燃料の流量を約8L/minの初期値から、約6L/minまで一定の比率で減少させ、その後約8L/minまで一定の比率で増加させた。この場合も、吹き消えの発生限界は、燃料の総流量が約6.5L/minのときであるので、この限界を下回るまで主燃料流量を変化させたことになる。

【0083】
本実施形態に係る観測装置100では、主燃料流量が約6.9L/min付近に至った時点でフィードバック制御が掛かり、中段のグラフに示すように、2次燃料の供給が開始された。そして、主燃料流量が減少している間は、2次燃料流量が増加し続け、主燃料流量が減少から増加に転じると、2次燃料流量は増加から減少に転じた。その結果、下段のグラフに示すように、当量比は、吹き消えの発生限界である約0.48を上回る値で維持された。主燃料流量が元の値(約8L/min)まで回復すると、2次燃料の供給が停止された。

【0084】
この種の燃焼器1においては、二酸化炭素及びNOの発生を低減させるために、予混合気を可及的に希薄化させることが望まれている。しかしながら、予混合気が希薄すぎると、吹き消えが発生することになり、安定した燃焼状態を維持することができない。以上の評価試験結果からは、本実施形態に係る観測装置100が、吹き消えの発生を回避しつつ、吹き消え発生限界付近の低当量比を維持することが分かる。このように、本実施形態に係る観測装置100によれば、安定した希薄予混合燃焼を維持することができる。

【0085】
本実施形態では、図10に示すように、制御領域における当量比の変動に伴って平均次数<k>が約6~約14の間で大きく変化し、吹き消え発生領域に近づいてもその変化量は大きいままである。そのため、吹き消え発生領域付近における平均次数<k>の値を閾値<k>threとして設定することで、吹き消えの発生の推定を安定して行うことができる。

【0086】
また、図10に示す例のように、燃焼振動発生領域と制御領域との境界付近では、平均次数<k>の値が顕著に変化していることが分かる。このような平均次数<k>を利用することによって、燃焼振動が発生しているか否かを推定することも可能である。

【0087】
本実施形態に係る観測装置100は、圧力変動信号の時系列データによる可視グラフを用いて複雑ネットワークを生成し、この複雑ネットワークの特徴量である平均次数<k>によって燃焼の不安定の発生を推定している。そのため、非常に簡潔なアルゴリズムによって演算を行うことができる。したがって、演算の高速化を図ることができ、燃焼器の燃焼状態等を高い即時性で応答性よく観測することができる。また、信号解析装置31に高い能力が要求されることもなくなる。

【0088】
また、本実施形態の観測装置100は、演算に使用するパラメータの設定を少なくすることができる。具体的には、特許文献2記載の技術では、パラメータの設定数が7個であったが、本実施形態では、時系列データのデータ数と視力との実質的に2つのパラメータを設定するだけでよいので、パラメータ設定が容易である。

【0089】
また、複雑ネットワークを生成するにあたって「視力」という概念を導入し、エッジによって接続するノードの範囲を適切に制限するようにしたので、時系列データの突発的な変動の影響や、低周波数の変動の影響を低減し、計算量を効率的に減少させ、より演算の高速化を図ることができる。

【0090】
また、本実施形態に係る観測装置100によれば、吹き消えが発生すると推定されたときに、2次燃料流量を制御して、吹き消えの発生を回避する構成としている。これにより、吹き消えの発生を抑制することができ、ガスタービンモデル燃焼器1において安定した燃焼状態を維持することができる。

【0091】
また、本実施形態に係る観測装置100によれば、新たに入力された圧力変動信号により、記憶部312に記憶された圧力変動信号を更新することにより、常時50msec分の圧力変動信号を記憶するようにし、この記憶部312に記憶されている50msec分の圧力変動信号を用いて、50msec毎に平均次数を演算する構成としている。このため、高い即時性で継続して燃焼状態の観測を行うことができ、2次燃料流量の制御も適切に行うことができる。

【0092】
[4.その他の実施形態]
上述した実施形態においては、ガスタービンモデル燃焼器における燃焼状態を観測する構成について述べたが、これに限定されるものではない。例えば、ジェットエンジンや産業用ガスタービンエンジンに搭載された燃焼器が対象であってもよい。また、ガスタービンエンジンの回転翼(ファンや圧縮器)の歪みや回転翼前後の圧力変動の時系列計測信号について、複雑ネットワークの特徴量を演算し、この特徴量に基づいてフラッタ、旋回失速、サージの発生を推定する構成とすることもできる。さらに、工業用プラントを対象として、蒸発管内の気液二相流の不安定な圧力変動信号や温度差の異なる2流体が混合する配管合流部における流体の温度変動信号についても複雑ネットワークの特徴量を演算し、ボイラーの蒸発管の破損やサーマルストライピングによる配管部の破損のヘルスモニタリングなど、他の物理現象の発生を推定する構成とすることもできる。

【0093】
また、上述した実施形態においては、複雑ネットワークの特徴量に基づいて、吹き消えの発生を推定し、吹き消えの発生を回避するように燃焼状態を制御する構成について述べたが、これに限定されるものではない。例えば、複雑ネットワークの特徴量に基づいて、吹き消えの発生を推定するが、燃焼状態を制御しない構成とすることもできる。他の物理現象の発生を推定する構成の場合も同様である。

【0094】
また、上述した実施形態においては、ガスタービンモデル燃焼器における燃焼の不安定として、吹き消えの発生を推定する構成について述べたが、これに限定されるものではない。複雑ネットワークの特徴量に基づいて、燃焼振動の発生を推定する構成としてもよい。また、この場合、燃焼振動の発生を回避するために、複雑ネットワークの特徴量に基づいて、主燃料流量又は2次燃料流量を制御する構成とすることもできる。

【0095】
また、上述した実施形態においては、2次燃料流量を制御して、吹き消えの発生を回避するように燃焼状態を制御する構成について述べたが、これに限定されるものではない。複雑ネットワークの特徴量に基づいて主燃料流量を制御することで、吹き消えの発生を回避するようにしてもよいし、空気流量を制御することで、吹き消えの発生を回避するようにしてもよい。また、主燃料供給路と2次燃料供給路とを個別に設ける構成ではなく、1つの燃料供給路のみを設け、この燃料供給路における燃料流量を、複雑ネットワークの特徴量に基づいて制御することで、吹き消えの発生を回避する構成とすることも可能である。

【0096】
また、上述した実施形態においては、50msec分の圧力変動信号を記憶部に記憶し、この記憶部の圧力変動信号を更新しつつ、50msec毎に繰り返し特徴量の演算を行う構成について述べたが、これに限定されるものではない。例えば100msec等、50msec以外の期間の圧力変動信号を記憶部に記憶し、これを用いて特徴量を演算する構成とすることもできる。

【0097】
また、50msec以上の期間(例えば、1sec)の圧力変動信号を記憶部に記憶しておき、このうち最新の所定期間(例えば、50msec)の圧力変動信号を特徴量の演算に使用する構成としてもよい。

【0098】
また、50msec毎に繰り返し特徴量の演算を行うのではなく、例えば、10msec等、50msec以外の期間毎に繰り返し特徴量の演算を行う構成としてもよい。しかし、高い即時性で燃焼状態の制御を適切に行うためには、制御対象とする現象の特性時間に応じて、10μsec~300msecの周期で特徴量を演算し、燃焼状態を制御する構成とすることが好ましい。

【0099】
複雑ネットワークの特徴量としては、平均次数に限定されるものではなく、平均頂点間距離、クラスター係数、次数分布の最頻値、又は、次数分布の最頻値の頻度等を用いてもよい。ただし、平均次数は、各ノードに接続されたエッジ数を取得するだけで算出できるので、他の特徴量に比べて演算負荷が小さく、より高速に演算できるという利点がある。

【0100】
なお、平均頂点間距離は、ノードからノードに到るまでの最小エッジ数の平均値である。平均頂点間距離は、上記実施形態の視力を適用することによって変動量を小さくすることができる。クラスター係数は、互いに隣接する3つのノード間のエッジ数を、当該3つのノード間の取り得る最大のエッジ数で割ったものである。クラスター係数は、ノードが密に接続されると増加する点で平均次数と同様の性質を有する。次数分布の最頻値は、ノードに接続されるエッジ数である次数のうち最頻値となる次数である。次数分布の最頻値の頻度は、最頻値となる次数が現出する頻度である。時系列データが正弦波で変動する場合、次数分布の最頻値はその正弦波の1波長分のデータ数に依存し、その頻度は顕著に高くなり、偏った次数分布になるという性質がある。したがって、次数分布は、平均次数よりも顕著に変化する場合がある。次数分布の最頻値やその頻度は、ローレンツ方程式から得られる時系列データ等に適用することができる。

【0101】
また、上述した実施形態においては、コンピュータにより信号解析装置31を実現する構成としたが、これに限定されるものではない。例えば、ASIC、FPGA等により燃焼制御処理を実行可能なハードウェアを構成し、これを信号解析装置としてもよい。また、1つのコンピュータにより信号解析装置31を構成するのではなく、燃焼制御処理を複数のコンピュータにより分散処理で実行させて、複数のコンピュータからなる分散システムとしてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 :ガスタービンモデル燃焼器
2 :圧力トランスデューサ(検出部)
3 :制御部
31 :信号解析装置
100 :観測装置
313 :複雑ネットワーク生成部
314 :平均次数演算部
316 :吹き消え発生推定部
vis :視力
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図11】
3
【図12】
4
【図3】
5
【図5】
6
【図6】
7
【図7】
8
【図8】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図13】
12
【図14】
13