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明細書 :接合構造体及び接合方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-155151 (P2017-155151A)
公開日 平成29年9月7日(2017.9.7)
発明の名称または考案の名称 接合構造体及び接合方法
国際特許分類 C08J   5/12        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C08J 5/12 CFD
A61L 27/00 M
請求項の数または発明の数 26
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2016-040414 (P2016-040414)
出願日 平成28年3月2日(2016.3.2)
発明者または考案者 【氏名】網代 広治
【氏名】▲カン▼ 凱
【氏名】藤城 真也
出願人 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C081
4F071
Fターム 4C081AB01
4C081AB02
4C081AC04
4C081BA16
4C081CA172
4C081CG07
4C081DC03
4F071AA43A
4F071AA43B
4F071CA01
4F071CB06
4F071CC02
4F071CD01
4F071CD02
要約 【課題】 生体適合性及び生体内分解吸収性を有する部材の特性を阻害することなく、該部材を接合する。
【解決手段】本発明に係る接合構造体は、接合面においてポリL-乳酸が付着している第1部材と、前記第1部材の接合面に接合される接合面においてポリD-乳酸が付着している第2部材とを備え、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面の間に、前記ポリL-乳酸と前記ポリD-乳酸により形成されたステレオコンプレックス構造を有する。
【選択図】図2
特許請求の範囲 【請求項1】
a)接合面においてポリL-乳酸が付着している第1部材と、
b)前記第1部材の接合面に接合される接合面においてポリD-乳酸が付着している第2部材とを備え、
前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面の間に、前記ポリL-乳酸と前記ポリD-乳酸により形成されたステレオコンプレックス構造を有することを特徴とする接合構造体。
【請求項2】
前記第1ポリマーの接合面及び前記第2ポリマーの接合面に、前記ポリL-乳酸及び前記ポリD-乳酸がそれぞれ側鎖として結合していることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項3】
前記第1ポリマーの接合面及び前記第2ポリマーの接合面に、前記ポリL-乳酸及び前記ポリD-乳酸が、それぞれ物理吸着していることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
【請求項4】
前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面との間に導入される、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤を更に備えることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項5】
前記接合補助剤が、表面にポリL-乳酸が側鎖として結合している第1ナノ粒子と、表面にポリD-乳酸が側鎖として結合している第2ナノ粒子を含むことを特徴とする請求項4に記載の接合構造体。
【請求項6】
a)接合面においてポリ乳酸の一方の鏡像異性体が付着している第1部材と、
b)前記第1部材の接合面に接合される接合面においてポリ乳酸の一方の鏡像異性体が付着している第2部材と、
c)前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面との間に導入される、ポリ乳酸の他方の鏡像異性体が側鎖として表面に結合しているナノ粒子を含む、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤と
を備えることを特徴とする接合構造体。
【請求項7】
前記第1部材の接合面及び前記第2部材の接合面に、前記ポリ乳酸の一方の鏡像異性体が側鎖として結合していることを特徴とする請求項6に記載の接合構造体。
【請求項8】
前記第1部材の接合面及び前記第2部材の接合面に、前記ポリ乳酸の一方の鏡像異性体が物理吸着していることを特徴とする請求項6に記載の接合構造体。
【請求項9】
前記ナノ粒子が金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項5~8のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項10】
前記金属ナノ粒子が、直径が10nm~100nmの金ナノ粒子であることを特徴とする請求項9に記載の接合構造体。
【請求項11】
前記接合補助剤の溶媒が、水、ジメチルカーボネート、ジメチルコハク酸、ジメチルマレイン酸、ジメチルアジピン酸、及びジメチルグルタル酸から選ばれる1種又は複数種から成ることを特徴とする請求項4~10のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項12】
前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方が、ポリマーから構成されていることを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項13】
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリL-乳酸を側鎖として結合させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリD-乳酸を側鎖として結合させ、
c)前記ポリL-乳酸の側鎖と前記ポリD-乳酸の側鎖との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合する接合方法。
【請求項14】
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリL-乳酸を含む溶液をディップコートすることにより該ポリL-乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリD-乳酸を含む溶液をディップコートすることにより該ポリD-乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
c)前記ポリL-乳酸と前記ポリD-乳酸との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合する接合方法。
【請求項15】
前記第1部材の接合面と、前記第2部材の接合面との間に、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤を導入することを特徴とする請求項13又は14に記載の接合方法。
【請求項16】
前記接合補助剤が、表面にポリL-乳酸が側鎖として結合している第1ナノ粒子と、表面にポリD-乳酸が側鎖として結合している第2ナノ粒子とを含むことを特徴とする請求項15に記載の接合方法。
【請求項17】
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を側鎖として結合させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を側鎖として結合させ、
c)前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を対向させ、これら接合面の間に、ポリ乳酸の他方の鏡像異性体が側鎖として表面に結合しているナノ粒子を含む、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤を導入し、前記第1部材の接合面に結合している側鎖及び前記第2部材の接合面に結合している側鎖と、前記ナノ粒子の表面に結合している側鎖との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合する接合方法。
【請求項18】
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を含む溶液をディップコートすることにより該ポリ乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を含む溶液をディップコートすることにより該ポリ乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
c)前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を対向させ、これら接合面の間に、ポリ乳酸の他方の鏡像異性体が側鎖として表面に結合しているナノ粒子を含む、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤を導入し、前記第1部材の接合面に物理吸着しているポリ乳酸及び前記第2部材の接合面に物理吸着しているポリ乳酸と、前記ナノ粒子の表面に結合しているポリ乳酸の側鎖との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合する接合方法。
【請求項19】
前記ナノ粒子が金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項16~18のいずれかに記載の接合方法。
【請求項20】
前記金属ナノ粒子が、直径が10nm~100nmの金ナノ粒子であることを特徴とする請求項19に記載の接合方法。
【請求項21】
前記接合補助剤の溶媒が、水、ジメチルカーボネート、ジメチルコハク酸、ジメチルマレイン酸、ジメチルアジピン酸、及びジメチルグルタル酸から選ばれる1種又は複数種から成ることを特徴とする請求項15~20のいずれかに記載の接合方法。
【請求項22】
前記第1部材及び前記第2部材の少なくとも一方が、ポリマーから構成されていることを特徴とする請求項13~21のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項23】
表面にポリ乳酸の一方の鏡像異性体が側鎖として結合している部材を内部に含む、
ポリ乳酸の他方の鏡像異性体を主成分とする樹脂成形品。
【請求項24】
前記部材が、ナノ粒子であることを特徴とする、請求項23に記載の樹脂成形品。
【請求項25】
前記ナノ粒子が金属ナノ粒子であることを特徴とする、請求項24に記載の樹脂成形品。
【請求項26】
前記金属ナノ粒子が、直径が10nm~100nmの金ナノ粒子であることを特徴とする請求項25に記載の樹脂成形品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、部材と部材を接合するために用いられる接合方法及び部材と部材の接合構造体に関し、特には、生体適合性や生体内分解吸収性を有する部材の接合に用いられる接合方法及びそのような部材の接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
部材同士を接合したり、欠損した部材を修復したりする方法の一つに接着剤を用いる方法がある。接着剤には、セメント等の無機系接着剤、天然樹脂・合成樹脂等の樹脂を材料とする有機系接着剤等の種類があり、接着しようとする部材(被着材)の材質や接着力に応じたものが採用される。ところが、一般的に、被着材と接着剤とは異なる材料からなる場合が多く、被着材の用途によっては接着剤を用いることができない。
【0003】
例えば、骨折した箇所を固定するために用いられるボルトやピン、プレート等の骨治療用具のように、生体内に長期間留置される部材の場合、生体適合性を有する材料が用いられる。また、近年では、生体適合性に加えて生体内分解吸収性を有する例えばポリL-乳酸のような材料を用いることにより、治療後に生体内から取り出す必要のない骨治療用具等も開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-233257号公報
【0005】

【非特許文献1】Hongjin Qiu, et al., "PLA-Coated Gold Nanoparticles for the Labeling of PLA Biocarriers", Chem. Mater. 2004, 16, 850-856
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した骨治療用具のような部材を従来の接着剤を用いて接合すると、その部材の生体適合性、生体内分解吸収性を阻害することになる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、生体適合性及び生体内分解吸収性を有する部材の特性を妨げることなく該部材を接合することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る接合構造体は、
a)接合面においてポリL-乳酸が付着している第1部材と、
b)前記第1部材の接合面に接合される接合面においてポリD-乳酸が付着している第2部材とを備え、
前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面の間に、前記ポリL-乳酸と前記ポリD-乳酸により形成されたステレオコンプレックス構造を有することを特徴とする。
【0009】
ポリL-乳酸及びポリD-乳酸が接合面に付着している形態としては、前記第1部材の接合面及び前記第2部材の接合面に、前記ポリL-乳酸及び前記ポリD-乳酸がそれぞれ側鎖として結合している形態、又は、前記第1部材の接合面及び前記第2部材の接合面に、前記ポリL-乳酸及び前記ポリD-乳酸が、それぞれ物理吸着している形態が好ましい。第1部材及び第2部材を構成する材料としては、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸がグラフト重合あるいは物理吸着するものが用いられ、例としてポリマー、シリカ(酸化シリコン)、金等が挙げられる。また、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸を第1部材及び第2部材の材料としても良い。
【0010】
本発明において、ポリL-乳酸(又はポリD-乳酸)が側鎖として結合している、とは、第1部材(又は第2部材)の接合面にポリL-乳酸(又はポリD-乳酸)が、その片末端が自由端となる状態で結合していること(いわゆる「グラフト重合」)をいい、このような構造は「グラフト構造」と呼ばれている。この接合形態の接合構造体の例を図2(a)に示す。
【0011】
生体適合性、生体内分解吸収性に優れたポリマーであるポリ乳酸には鏡像異性体としてL体(ポリL-乳酸)とD体(ポリD-乳酸)が存在し、これらポリL-乳酸とポリD-乳酸はステレオコンプレックスと呼ばれる高分子錯体構造を形成することが知られている。ステレオコンプレックスは、ファン・デル・ワールス相互作用を基にした高分子鎖間の立体的な構造適合により形成される構造であり、L体同士、D体同士の、ファン・デル・ワールス相互作用を基にした結合構造に比べると機械的強度に優れる。本発明に係る接合構造体では、第1部材の接合面と第2部材の接合面にそれぞれポリL-乳酸とポリD-乳酸が付着しているため、これらポリL-乳酸とポリD-乳酸がステレオコンプレックス構造を形成することにより第1部材の接合面と第2部材の接合面とが強固に接合する。この場合、第1部材の接合面と第2部材の接合面の間の接合の強さ、或いは、接合した第1部材の接合面と第2部材の接合面の剥離に必要な力は、両接合面に付着しているポリ乳酸の長さ(ポリ乳酸の分子量)や数によって決まる。
【0012】
上記接合構造体においては、第1部材の接合面と第2部材の接合面との間に、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤を導入するようにすると良い。これにより、接合面に付着しているポリL-乳酸とポリD-乳酸が接合補助剤に溶解し、両者がステレオコンプレックスを形成し易くなる。第1部材の接合面と第2部材の接合面との間に導入される接合補助剤は、ポリL-乳酸とポリD-乳酸がステレオコンプレックス構造を形成した後に蒸発させる。
【0013】
ポリ乳酸が溶解可能な溶媒としては、クロロホルム、アセトニトリル、水、エタノール、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルコハク酸、ジメチルカーボネート、ジメチルマレイン酸、ジメチルアジピン酸、及びジメチルグルタル酸から選ばれる1種又は複数種の混合液を用いることができるが、生体内に留置される部材に用いることを考慮すると、水、ジメチルカーボネート、ジメチルコハク酸、ジメチルマレイン酸、ジメチルアジピン酸、及びジメチルグルタル酸から選ばれる1種又は複数種の混合液を用いることが好ましい。
【0014】
また、接合補助剤が、表面にポリL-乳酸が側鎖として結合している第1ナノ粒子と、表面にポリD-乳酸が側鎖として結合している第2ナノ粒子とを含むことが好ましい。この場合、直径が10nm~100nm程度のナノ粒子を用いるとよい。この構成の接合構造体の例を図2(b)に示す。
【0015】
上記構成によると、第1ナノ粒子の表面のポリD-乳酸の側鎖と第2ナノ粒子の表面のポリL-乳酸の側鎖の間、第1ナノ粒子の表面のポリD-乳酸の側鎖と第1部材の接合面のポリL-乳酸、及び第2ナノ粒子の表面のポリL-乳酸の側鎖と第2部材の接合面のポリD-乳酸との間でそれぞれステレオコンプレックス構造が形成されるため、第1部材と第2部材を強固に接合することができる。この場合、接合補助剤に含まれる第1ナノ粒子及び第2ナノ粒子の数や比率、これらナノ粒子に結合している側鎖の長さ(ポリ乳酸の分子量)、数を調整することにより、第1部材の接合面と第2部材の接合面の接合の強さ、或いは接合した第1部材の接合面と第2部材の接合面の剥離に必要な力を調整することができる。
【0016】
また、別の態様として本発明に係る接合構造体は、
a)接合面においてポリ乳酸の一方の鏡像異性体が付着している第1部材と、
b)前記第1部材の接合面に接合される接合面においてポリ乳酸の一方の鏡像異性体が付着している第2部材と、
c)前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面との間に導入される、ポリ乳酸の他方の鏡像異性体が側鎖として表面に結合しているナノ粒子を含む、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤と
を備えることを特徴とする。
【0017】
上記構成において、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体が第1部材及び第2部材の接合面に付着している形態としては、該接合面に、前記ポリ乳酸の一方の鏡像異性体がそれぞれ側鎖として結合している形態、又は、該接合面に、前記ポリ乳酸の一方の鏡像異性体が、それぞれ物理吸着している形態が好ましい。従って、上記構成においても、第1部材及び第2部材を構成する材料としては、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸がグラフト重合あるいは物理吸着するものが用いられ、例としてポリマー、シリカ(酸化シリコン)、金等が挙げられる。また、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸を第1部材及び第2部材の材料としても良い。
【0018】
上記接合構造体では、第1部材の接合面と第2部材の接合面は、各接合面に付着しているポリ乳酸が、接合補助剤に含まれるナノ粒子の表面に結合しているポリ乳酸の側鎖との間でステレオコンプレックス構造を形成することにより、接合される。第1部材の接合面及び第2部材の接合面にポリ乳酸の一方の鏡像異性体が側鎖として結合している場合の接合構造体の例を図2(c)に示す。図2(c)では、第1及び第2部材の接合面にポリL-乳酸を、ナノ粒子の表面にポリD-乳酸を、それぞれ側鎖として結合させたが、逆でも良い。この構成においても、接合補助剤に含まれるナノ粒子の数や該ナノ粒子に結合している側鎖の長さ(ポリ乳酸の分子量)、数を調整することにより、第1部材と第2部材の接合の強さを調整することができる。
【0019】
接合補助剤に含まれるナノ粒子は、生体適合性及び生体内分解吸収性を有する材料から構成することが好ましいが、銀ナノ粒子や金ナノ粒子等の金属ナノ粒子を用いることができる。また、シリカゲルを用いても良い。本発明では、ナノ粒子は、その表面がポリ乳酸の側鎖で覆われているため、生体適合性を有する。また、ナノ粒子が金属ナノ粒子の場合は該ナノ粒子は生体内分解吸収性を有しないが、非常に小さいため、第1部材や第2部材の生体内分解吸収性に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0020】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係る接合方法は、
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリL-乳酸を側鎖として結合させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリD-乳酸を側鎖として結合させ、
c)前記ポリL-乳酸の側鎖と前記ポリD-乳酸の側鎖との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合することを特徴とする。
【0021】
ポリL-乳酸及びポリD-乳酸(両者をまとめてポリ乳酸という)を側鎖として結合(グラフト重合)させる方法は種々あるが、例えばポリ乳酸の末端をシリル基で化学修飾し、これをシリカ基板に化学結合させることにより、シリカ基板上にポリ乳酸を側鎖として(ポリ乳酸グラフト鎖として)結合(グラフト)することができる。また、ポリ乳酸の末端をチオール(SH基)で化学修飾し、これを金基板に化学結合させることにより、金基板上にポリ乳酸を側鎖として結合することができる。さらに、基板上に水酸基(OH基)が存在していれば、これを開始点としてラクチドを重合させることにより、ポリ乳酸を側鎖として結合させることができる。
【0022】
あるいは、本発明に係る接合方法は、
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリL-乳酸を含む溶液をディップコートすることにより該ポリL-乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリD-乳酸を含む溶液をディップコートすることにより該ポリD-乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
c)前記ポリL-乳酸と前記ポリD-乳酸との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合することを特徴とする。
【0023】
ディップコートの作製方法としては、プラスチック板やガラス板などの基板を、ポリ乳酸を含むクロロホルムなどの有機溶媒中へ浸しこみ、これを引き上げた後、溶媒を蒸発させ、基板上に残存したポリ乳酸によりディップコートを作製する方法がある。
【0024】
また、本発明の別の態様に係る接合方法は、
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を側鎖として結合させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を側鎖として結合させ、
c)前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を対向させ、これら接合面の間に、ポリ乳酸の他方の鏡像異性体が側鎖として表面に結合しているナノ粒子を含む、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤を導入し、前記第1部材の接合面に結合している側鎖及び前記第2部材の接合面に結合している側鎖と、前記ナノ粒子の表面に結合している側鎖との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合することを特徴とする。
【0025】
あるいは、本発明の別の態様に係る接合方法は、
a)第1部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を含む溶液をディップコートすることにより該ポリ乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
b)第2部材の表面に位置する接合面に、ポリ乳酸の一方の鏡像異性体を含む溶液をディップコートすることにより該ポリ乳酸を前記接合面に物理吸着させ、
c)前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を対向させ、これら接合面の間に、ポリ乳酸の他方の鏡像異性体が側鎖として表面に結合しているナノ粒子を含む、ポリ乳酸が溶解可能な溶媒から成る接合補助剤を導入し、前記第1部材の接合面に物理吸着しているポリ乳酸及び前記第2部材の接合面に物理吸着しているポリ乳酸と、前記ナノ粒子の表面に結合しているポリ乳酸の側鎖との間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、前記第1部材の接合面と前記第2部材の接合面を接合することを特徴とする。
【0026】
上述した接合方法において、第1部材及び第2部材を構成する材料としては、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸がグラフト重合あるいは物理吸着するものが用いられ、例としてポリマー、シリカ(酸化シリコン)、金等が挙げられる。また、ポリL-乳酸及びポリD-乳酸を第1部材及び第2部材の材料としても良い。
【0027】
さらに、本発明は、
表面にポリ乳酸の一方の鏡像異性体が側鎖として結合している部材を内部に含む、
ポリ乳酸の他方の鏡像異性体を主成分とする樹脂成形品に適用することができる。
【0028】
上記構成の樹脂成形品は、図3に示すように、内部に含まれる部材との界面において、ポリ乳酸の鏡像異性体によるステレオコンプレックスが形成されるため、別の部材を内部に含むことによる樹脂成形品の強度の低下を抑えることができる。
上記樹脂成形品の例としては、表面にポリD-乳酸が側鎖として結合している金ナノ粒子を含む、ポリL-乳酸を主成分とする樹脂成形品が挙げられる。金ナノ粒子を内部に含むことにより、蓄熱性、導電性、ガスバリア性等の機能性を付与することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、部材と部材の接合界面に、生体適合性及び生体内分解吸収性に優れたポリマーであるポリ乳酸の鏡像異性体により形成されるステレオコンプレックス構造を形成し、該ステレオコンプレックス構造によって2つの部材を接合するため、部材の生体適合性や生体内分解吸収性を阻害することがない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る接合構造体の接合の仕組みを説明するための概念図。
【図2】本発明に係る接合構造体の例を示す図。
【図3】本発明に係る樹脂成形品の例を示す図。
【図4】引張試験に用いたポリ乳酸基板とポリ乳酸グラフト粒子の構成を示す図。
【図5A】ポリプロピレンフィルム(a)、ポリL-乳酸をポリプロピレンフィルムにディップコートしたもの(a)、ポリL-乳酸とポリD-乳酸をポリプロピレンフィルムに滴下したもの(c)のIRデータ。
【図5B】図5Aの一部の波長範囲を横軸方向(波長軸方向)に拡大して示す図。
【図6A】ウンデカンチオール(C11H23SH)(a)、C11H23S-金ナノ粒子(b)、PDLA-SH(c)、ポリD-乳酸が結合した金ナノ粒子のIRデータ。
【図6B】図6Aの一部の波長範囲を横軸方向(波長軸方向)に拡大して示す図。
【図7】L/Lホモ界面及びL/D界面に溶媒を導入したとき及び導入しなかったときの引張試験の結果(a)、有意差検定の結果(b)を示す図。
【図8】L/Lホモ界面にポリL-乳酸グラフト粒子又はポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を導入したときの接合力の実験結果(a)、有意差検定結果(b)。
【図9】L/Dヘテロ界面にポリL-乳酸グラフト粒子又はポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を導入したときの接合力の実験結果(a)、有意差検定結果(b)。
【図10】L/Lホモ界面にポリL-乳酸グラフト粒子又はポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を導入したときの接合力のポリ乳酸グラフト粒子の濃度の効果を調べた実験結果(a)、有意差検定結果(b)。
【図11】L/Lホモ界面にポリL-乳酸グラフト粒子又はポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を導入したときの接合力のポリ乳酸グラフト粒子の濃度の効果を調べた実験結果(a)、有意差検定結果(b)。
【図12】L/Dヘテロ界面にポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を導入したときの、ポリ乳酸グラフト粒子の濃度及び側鎖の分子量の効果を調べた実験結果(a)、有意差検定結果(b)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明に係る接合方法は、2つの部材の接合面に、ポリ乳酸の2つの鏡像異性体をそれぞれ側鎖として結合させて、これら側鎖の間でステレオコンプレックス構造を形成させること、或いは、2つの部材の接合面のそれぞれにポリ乳酸の一方の鏡像異性体を側鎖として結合させ、その間に、他方の鏡像異性が側鎖として表面に結合しているナノ粒子を介在させて、2つの部材の側鎖とナノ粒子の側鎖の間でステレオコンプレックス構造を形成させることにより、2つの部材の接合させたものである。そして、このような方法により本発明に係る接合構造体が形成される。

【0032】
図1は、本発明に係る接合構造体の例を示す概略図である。図1に示す接合構造体では、2つの部材の間にナノ粒子を介在させている。図1に示すように、2つの部材の接合面にはポリL-乳酸及びポリD-乳酸が側鎖として結合している(図1において、ポリL-乳酸の側鎖を破線で、ポリD-乳酸の側鎖を実線で示す。)。また、各ナノ粒子(金ナノ粒子Au)の表面には、ポリL-乳酸又はポリD-乳酸がそれぞれ側鎖として結合している。このため、2つの部材の接合面、及びナノ粒子の表面のそれぞれに結合しているポリL-乳酸の側鎖及びポリD-乳酸の側鎖の間、或いは、ポリL-乳酸の側鎖同士、ポリD-乳酸の側鎖同士の間で様々な相互作用(ファン・デル・ワールス相互作用)が働く。これらのうち、ポリL-乳酸の側鎖とポリD-乳酸の側鎖の間で働くファン・デル・ワールス相互作用に基づく構造がステレオコンプレックス構造であり、ポリL-乳酸同士、ポリD-乳酸同士の間に作用する力よりも強い力で結合する。

【0033】
従って、2つの部材の接合面、及び、ナノ粒子の表面に結合させるポリL-乳酸とポリD-乳酸の長さや数、両者の比率を変化させると、両者間の相互作用が変化し、その結果、2つの部材の接合の強さが変化する。このため、2つの部材の接合面、及び、ナノ粒子の表面に結合させるポリL-乳酸とポリD-乳酸の長さや数、両者の比率を適宜に調節することにより、2つの部材の接合面の間の結合の強さや剥離に必要な力を調整することができる。ここでは、2つの部材やナノ粒子にポリ乳酸を側鎖として結合させた場合を説明したが、2つの部材にポリ乳酸を物理吸着させ、ナノ粒子にポリ乳酸を側鎖として結合させた場合も同様である。

【0034】
ポリ乳酸は生体適合性、生体内分解吸収性を有するポリマーであるため、本発明に係る接合構造体及び接合方法は、生体内で使用される医用材料や歯科材料の接合に利用することができる。また、接合構造体を構成する一方の部材を固定し、他方の部材に荷重がかかるように構成するとともに、2つの部材の接合の強さ、接合した2つの部材の剥離に必要な力を調節することにより、接合構造体を荷重センサーとしても利用することができる。

【0035】
以下、本発明に係る接合方法により2つの部材を接合した接合構造体の接合の強さについて調べた実験結果について説明する。

【0036】
(1)ポリ乳酸基板の作製
ポリL-乳酸(分子量Mn=8500)、ポリD-乳酸(分子量Mn=8300)をそれぞれクロロホルムに溶解して、ポリL-乳酸溶液及びポリD-乳酸溶液を作製した(いずれも濃度10mg/mLの溶液)。これらを、それぞれ、図4の(a)に示すポリプロピレン製のフィルム(幅20mm、長さ100mm、厚さ0.2mm)の接合面にディップコートした後、乾燥させて溶媒を蒸発させた。これにより、ポリプロピレン製のフィルムの接合面とポリL-乳酸の相互作用により該ポリL-乳酸が接合面に物理吸着したもの、及びポリD-乳酸が接合面に同様に物理吸着したものが作製された。以下、これをポリL-乳酸基板及びポリD-乳酸基板という(これらをまとめてポリ乳酸基板ということもある。)。

【0037】
(2)ポリ乳酸グラフト粒子の作製
非特許文献1を参考に、下記の手順で作製した。すなわち、水に塩化金酸(10mg/mL)を溶解し、これを激しく撹拌しながら、クロロホルムに溶解させたN(C8H17)4Br(0.1M)をゆっくり加えて(N(C8H17)4Br/Au =2.22)、混合溶液を作製した。この混合溶液が二層に分かれ、塩化金酸が有機層に完全に移動したことを確認した後、クロロホルムにポリL-乳酸またはポリD-乳酸(それぞれMn=3000、5000、10000、20000)を溶解してポリL-乳酸またはポリD-乳酸のクロロホルム溶液(0.004M)を調製し、これを前記混合溶液に加えた。さらに、水に溶解させたNaBH4(0.41M)を混合溶液にゆっくり加え(NaBH4/Au=11.0)、4時間激しく撹拌した後、有機層を抽出して濃縮した後、メタノールで再沈殿を行った。そして、混合溶液を -20℃で48時間静置した後、遠心分離し、減圧することで、ポリL-乳酸またはポリD-乳酸が側鎖として表面に結合している金ナノ粒子を作製した。以下、これらをポリL-乳酸グラフト粒子、ポリD-乳酸グラフト粒子という(これらをまとめてポリ乳酸グラフト粒子ということもある。)。

【0038】
(3)ポリ乳酸の吸着の確認
ポリ乳酸基板の接合面にポリ乳酸が吸着していることを確認するため、赤外吸光分析(IR)を行った。その結果を図5A及び図5Bに示す。図5A及び図5Bの(a)はポリプロピレンフィルム、(b)はポリL-乳酸基板のIRデータを示す。また、図5A及び図5Bの(c)は、上述した方法とは別の方法で作製したポリ乳酸基板のIRデータを示す。具体的には、このポリ乳酸基板は、Mn=8000のポリL-乳酸及びポリD-乳酸をクロロホルムに溶解したポリ乳酸溶液(10mg/mL)をポリプロピレンフィルムの接合面に滴下することにより作製した(以下、これを「ポリ乳酸滴下基板」という)。図5A、図5Bに示すスペクトル中、波長1750nm付近のピークがポリ乳酸を示す。図5A及び図5Bから分かるように、ポリ乳酸基板(ポリ乳酸溶液をディップコートしたもの)、ポリ乳酸滴下基板のいずれにおいても、ポリプロピレンフィルムの表面にポリ乳酸が付着していることが確認された。

【0039】
同様に、ポリ乳グラフト粒子の表面にポリ乳酸が結合していることを確認するため、赤外吸光分析(IR)を行った。その結果を図6A及び図6Bに示す。図6A及び図6Bの(a)~(c)は比較のための試料であり、(a)はウンデカンチオール(C11H23SH) 、(b)はC11H23S-金ナノ粒子、(c)はポリD-乳酸(PDLA-SH)のIRデータを示す。また、(d)はポリD-乳酸を結合させた金ナノ粒子のIRデータを示す。図6A、図6Bの(d)から分かるように、金ナノ粒子の表面にポリ乳酸が結合していることが確認された。

【0040】
(3-1)引張試験(溶媒の作用)
上述したポリ乳酸基板(ポリ乳酸溶液をディップコートした基板)2枚を、接合面同士を対向させて接合した後、試験機(小型卓上試験機、商品名「EZ-test」、株式会社島津製作所製)を用いて引張試験を行った。引張試験では、2枚のポリ乳酸基板を接合させた後、図4の(b)に白抜き矢印で示す方向に力を加えて、2枚のポリ乳酸基板が剥離したときの力(試験力(N))を測定した。その結果を図7に示す。図7中、サンプルa~hの内容は次の通りである。
a:ポリL-乳酸基板の上に溶媒A(CH3CN/H2O(3:7))を塗布した後、ポリL-乳酸基板を接合
b:ポリD-乳酸基板の上に溶媒Aを塗布した後、ポリD-乳酸基板を接合
c:ポリL-乳酸基板の上に溶媒Aを塗布した後、ポリD-乳酸基板を接合
d:ポリL-乳酸基板の上にポリL-乳酸基板を接合(溶媒なし)
e:ポリD-乳酸基板の上にポリD-乳酸基板を接合(溶媒なし)
f:ポリL-乳酸基板の上にポリD-乳酸基板を接合(溶媒なし)
g:ポリL-乳酸基板の上に溶媒B(CHCl3)を塗布した後、ポリL-乳酸基板を接合
h:ポリL-乳酸基板の上に溶媒Bを塗布した後、ポリD-乳酸基板を接合

【0041】
図7(a)から明らかなように、ポリL-乳酸基板とポリD-乳酸基板を、その間に溶媒Aを介在させて接合したとき(サンプルc、h)に、大きい試験力が必要であった(つまり、2枚のポリ乳酸基板が強く接合していた。)。また、溶媒Aよりも溶媒Bの方が、試験力が大きかった。

【0042】
図7(a)に示す結果につき有意差検定を行ったところ、ヘテロ界面(ポリL-乳酸基板/ポリD-乳酸基板(L/D))において、溶媒の有無の間(サンプルcとf、サンプルfとh)で有意差(有意水準1%、5%)がみられた。また、溶媒を介在させたサンプルにおいては、溶媒A、Bのいずれにおいても、ホモ界面(ポリD-乳酸基板/ポリD-乳酸基板(D/D)、ポリL-乳酸基板/ポリL-乳酸基板(L/L))とヘテロ界面(L/D)の間(サンプルaとc、サンプルbとc、サンプルgとh)で有意差(有意水準1%)がみられた(図7(b)参照)。

【0043】
(3-2)ポリ乳酸の分子量と相互作用の関係
分子量がMn=3000, 5000, 10000 及び20000のポリ乳酸を側鎖として結合させたポリ乳酸グラフト粒子を溶媒(クロロホルム)に添加して接合補助剤(濃度1mg/mL)を作製し、これを、分子量Mn=8000のポリ乳酸が付着したポリ乳酸基板の所定の2箇所にそれぞれ10μLずつ滴下した。図4(d)に示すように、滴下した箇所はポリ乳酸基板の接合面(ポリプロピレンフィルム上のポリ乳酸が付着した面)の両端からそれぞれ20mmの箇所である。そして、接合面に接合補助剤を滴下した2枚のポリ乳酸基板を、接合面同士貼り合わせて引張試験を行った。引張試験に用いた試験機、及び試験方法は(3-1)に示した通りである。その結果を図8(a)及び図9(a)に示す。また、その有意差検定の結果を図8(b)及び図9(b)に示す。

【0044】
図8は、2枚のポリL-乳酸基板の間(L/Lホモ界面)に、ポリL-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させたとき(図8(a)のサンプルa、c、e、g)、及びポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤をそれぞれ介在させたとき(図8(a)のサンプルb、d、f、h)の結果を示している。また、図9は、ポリL-乳酸基板とポリD-乳酸基板の間(L/Dヘテロ界面)の間にポリL-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させたとき(図9(a)のサンプルa、c、e、g)、及びポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤をそれぞれ介在させたとき(図9(a)のサンプルb、d、f、h)の結果を示す。なお、図8及び図9では、接合させた2枚のポリ乳酸基板を「左膜」及び「右膜」と表し、該基板に付着しているポリ乳酸の種類(L体、D体)を表中に示している、また、接合補助剤を「中間粒子」と表し、それに含まれるポリ乳酸グラフト粒子の種類(L体、D体)を表中に示している。

【0045】
ポリ乳酸基板の間にポリ乳酸グラフト粒子を介在させずに行った試験結果である図7(a)との比較から分かるように、L/Lホモ界面に、同じ鏡像異性体であるポリL-乳酸が側鎖として結合しているグラフト粒子を介在させても試験力は増加しなかったが、異なる鏡像異性体であるポリD-乳酸が側鎖として結合しているグラフト粒子を介在させると試験力が増加した。また、分子量Mn=5000のポリD-乳酸が側鎖として結合しているグラフト粒子を用いたときの試験力が最も大きかった。この結果は、2枚のポリL-乳酸基板の接合面に付着しているポリL-乳酸とポリD-乳酸グラフト粒子の表面に側鎖として結合しているポリD-乳酸との間でステレオコンプレックス構造が形成され、接合力が向上したことを裏付けるものであった。
一方、L/Dヘテロ界面の場合は、L体、D体いずれのポリ乳酸グラフト粒子を介在させても接合力はそれほど増加しなかった(図9参照)。

【0046】
(3-3)ポリ乳酸グラフト粒子の濃度と相互作用の関係
分子量がMn=5000及びMn=10000のポリ乳酸(L体、D体)を側鎖として結合させた4種類のポリ乳酸グラフト粒子をそれぞれ溶媒(クロロホルム)に添加して接合補助剤を作製した。このとき、接合補助剤中のポリ乳酸グラフト粒子の濃度を0.1mg/mL、1mg/mL、10mg/mLとした。これらの接合補助剤を、分子量がMn=8000のポリ乳酸(L体、D体)を接合面に付着させたポリ乳酸基板の間(ホモ界面(L/L)、ヘテロ界面(L/D))に(3-2)と同じ方法で介在させて引張試験を行った。その結果を図10(a)、図11(a)、図12(a)に示す。また、その有意差検定の結果を図10(b)、図11(b)、図12(b)に示す。
図10及び図11は、ホモ界面(L/L)にポリL-乳酸グラフト粒子、ポリD-乳酸グラフト粒子をそれぞれ介在させたとき、図12は、ヘテロ界面(L/D)にポリD-乳酸グラフト粒子を介在させたときの結果を示す。これらの図の見方は図8及び図9と同様である。

【0047】
図10(a)及び図11(a)に示すように、ホモ界面(L/L)にポリL-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させたときは、ポリ乳酸グラフト粒子の濃度による試験力の変化はみられなかった。一方、ホモ界面(L/L)にポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させたときの試験力は、ポリL-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させたときと比べて増加し、特に、分子量Mn=5000のポリD-乳酸グラフト粒子をその濃度が1.0mg/mLとなるように調整した接合補助剤、分子量Mn=10000のポリD-乳酸グラフト粒子をその濃度が0.1mg/mLとなるように調整した接合補助剤を介在させたときに、試験力が大きく増加した。

【0048】
これに対して、ヘテロ界面(L/D)の間にポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させた場合は、そのグラフト粒子に結合しているポリD-乳酸の分子量の違いによる試験力の変化、ポリD-乳酸グラフト粒子の濃度による試験力の変化はみられなかった(図12(a)参照)。ただし、ヘテロ界面(L/D)の間にポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させた場合の試験力は、ホモ界面(L/L)にポリL-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤及びポリD-乳酸グラフト粒子を含む接合補助剤を介在させたときの試験力よりも大きかった(図10(a)、図11(a)参照)。このことから、接合界面を構成する2枚のポリ乳酸基板の接合面にそれぞれ付着しているポリL-乳酸とポリD-乳酸の間で形成されるステレオコンプレックス構造が、2枚のポリ乳酸基板の接合力に大きく寄与しており、ポリ乳酸基板のポリL-乳酸とポリ乳酸グラフト粒子のポリD-乳酸、及びポリ乳酸基板のポリD-乳酸とポリ乳酸グラフト粒子のポリL-乳酸との間で形成されるステレオコンプレックス構造の寄与分は小さいことが推測された。

【0049】
なお、上述した実験では、接合補助剤がポリL-乳酸グラフト粒子及びポリD-乳酸グラフト粒子の一方のみを含むようにしたが、ポリL-乳酸グラフト粒子及びポリD-乳酸グラフト粒子の両方を含むようにしても良い。この場合は、ポリL-乳酸基板とポリD-乳酸基板の間、ポリL-乳酸基板とポリD-乳酸グラフト粒子の間、ポリD-乳酸基板とポリL-乳酸グラフト粒子の間、ポリL-乳酸グラフト粒子とポリD-乳酸グラフト粒子の間で、それぞれ、ポリL-乳酸とポリD-乳酸によるステレオコンプレックス構造が形成されることになる。

【0050】
また、上述した実験では、ポリプロピレンフィルムの接合面にポリ乳酸溶液をディップコートして該接合面にポリ乳酸を付着(物理吸着)させたが、ポリ乳酸を側鎖として結合、つまり、グラフト重合させても良い。ポリプロピレンフィルムに対するポリ乳酸のグラフト重合は、ポリ乳酸グラフト粒子と同様の手順で行うことができる。また、ポリ乳酸溶液をポリプロピレンフィルムの上に滴下して、該基板の表面にポリ乳酸を付着させても良い。
さらに、上述した実験では、ポリ乳酸基板の材料(つまり、本発明の第1部材及び第2部材の材料)としてポリプロピレンフィルムを用いたが、これに代えて金やシリカを用いても良い。

【0051】
接合補助剤に用いる溶媒としては、クロロホルムに限らず、水、ジメチルカーボネート、ジメチルコハク酸、ジメチルマレイン酸、ジメチルアジピン酸、及びジメチルグルタル酸から選ばれる1種又は複数種を混合して用いることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5A】
4
【図5B】
5
【図6A】
6
【図6B】
7
【図7】
8
【図8】
9
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
13