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明細書 :インフルエンザ治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-160168 (P2017-160168A)
公開日 平成29年9月14日(2017.9.14)
発明の名称または考案の名称 インフルエンザ治療剤
国際特許分類 A61K  39/395       (2006.01)
A61K  31/196       (2006.01)
A61P  31/16        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
C07K  16/18        (2006.01)
FI A61K 39/395 ZNAN
A61K 31/196
A61P 31/16
A61P 43/00 121
A61P 43/00 111
A61K 45/00
C07K 16/18
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-047807 (P2016-047807)
出願日 平成28年3月11日(2016.3.11)
発明者または考案者 【氏名】西堀 正洋
【氏名】劉 克約
【氏名】塚原 宏一
【氏名】森島 恒雄
【氏名】八代 将登
【氏名】野坂 宜之
【氏名】畑山 一貴
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C085
4C206
4H045
Fターム 4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB33
4C084ZC20
4C084ZC41
4C084ZC75
4C085AA14
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4C206AA01
4C206AA02
4C206HA31
4C206MA02
4C206NA05
4C206ZB33
4C206ZC20
4C206ZC41
4C206ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045EA29
4H045FA72
4H045FA74
要約 【課題】インフルエンザ治療剤を提供する。より詳しくは、インフルエンザウイルス感染に伴う肺炎の予防及び/又は治療によるインフルエンザ治療剤を提供する。
【解決手段】抗HMGB1モノクローナル抗体の投与による。本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とするインフルエンザ治療剤によれば、インフルエンザによる死亡リスクを低減化することができる。本発明の有効成分としての抗HMGB1モノクローナル抗体は、インフルエンザウイルスに対して直接的に作用するのではなく、インフルエンザウイルス感染に伴う症状を抑制することにより効果を発揮する。特にインフルエンザウイルス感染に伴う肺炎に対して有効な予防剤及び/治療剤となり得る。さらに、本発明のインフルエンザ治療剤は従来のインフルエンザ治療剤とは作用機序が異なるため、従来公知のインフルエンザ治療剤と併用して使用することができる。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする、インフルエンザ治療剤。
【請求項2】
インフルエンザ治療剤が、インフルエンザウイルス感染に伴う炎症に対するものである、請求項1に記載のインフルエンザ治療剤。
【請求項3】
インフルエンザ治療剤が、インフルエンザウイルス感染に伴う肺炎の予防及び/又は治療によるインフルエンザ治療である請求項1に記載のインフルエンザ治療剤。
【請求項4】
抗HMGB1モノクローナル抗体を、1回当たり0.2~5 mg/kg投与するものである請求項1~3のいずれか1に記載のインフルエンザ治療剤。
【請求項5】
抗HMGB1モノクローナル抗体とは作用機序の異なるインフルエンザ治療剤を併用することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1に記載のインフルエンザ治療剤。
【請求項6】
抗HMGB1モノクローナル抗体とは作用機序の異なるインフルエンザ治療剤が、ノイラミニダーゼ阻害薬である、請求項5に記載のインフルエンザ治療剤。
【請求項7】
抗HMGB1モノクローナル抗体とは作用機序の異なるインフルエンザ治療剤が、ペラミビルである、請求項5に記載のインフルエンザ治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、インフルエンザ治療剤に関するものである。より詳しくは、インフルエンザウイルス感染に伴う炎症に関し、特に肺炎の予防及び/又は治療に関する。更に本発明は、作用機序の異なる他のインフルエンザ治療剤との併用に関する。
【背景技術】
【0002】
かぜ症候群の原因は約9割以上がウイルスに感染し発症する病気で、原因ウイルスは200種類以上あるといわれている。インフルエンザはかぜ症候群の一種で、原因となるインフルエンザウイルス(主にA,B)は感染力が非常に強く、高熱を特徴とした様々な全身症状を起こす。かぜ症候群は初期に喉や鼻の上気道炎症状が表れる。それに対しインフルエンザは急激な発熱があり、続いて倦怠感、筋肉痛、関節痛などの全身症状や上気道炎症状が強く表れる。大多数の人では、1~2週間で自然治癒するが、体力のない高齢者や乳幼児などは気管支炎や肺炎を併発し易く、重症化すると脳炎や心不全を起こすこともある。
【0003】
インフルエンザと肺炎の関係について、インフルエンザウイルスによるウイルス性肺炎や、インフルエンザに引き続いて発症する肺炎(二次感染)が挙げられる。肺炎はその後に発症するARDS(acute respiratory distress syndrome)や、インフルエンザが治癒したと思えた頃に発症する二次感染による肺炎等、重症化しやすく、インフルエンザで死亡する人の殆どが肺炎によるといわれている。
【0004】
インフルエンザに対する治療剤には、抗ウイルス薬としてオセルタミビルリン酸塩(商品名:タミフル)、ザナミビル水和物(商品名:リレンザ)、アマンタジン塩酸塩(商品名:シンメトレル等)、ペラミビル水和物(商品名:ラピアクタ)、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名:イナビル)等がある。これらの薬剤は、感染後の有効時間帯が略48時間とされており使用に制限がある。また抗ウイルス剤耐性株の出現が報告されている。さらに、危惧される高病原性の鳥インフルエンザの流行に対しては、ワクチンの安定供給体制も整っていない。前述のオセルタミビルリン酸塩、ザナミビル水和物、ペラミビル水和物、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物は、いずれもインフルエンザウイルスの表面に存在するノイラミニダーゼ(NA)に対する阻害剤であり、感染初期のみで有効である。発症から48時間以降の場合は、個体治癒効果は殆ど期待できない。また、これらの薬剤は耐性ウイルスに対しては有効ではない。耐性ウイルスとしては、例えばノイラミニダーゼの274番目のアミノ酸が通常のヒスチジンからチロシンへの置換したものが挙げられる。
【0005】
抗ウイルス剤とは異なる作用機序であって、薬剤耐性インフルエンザウイルス、ウイルスサブタイプに影響を受けずインフルエンザの症状を改善しうる薬剤の開発が望まれている。
【0006】
HMGB1(High Mobility Group Box 1:以下、「HMGB1」という)タンパク質は、代表的なDAMP(danger-associated molecular patterns)である。HMGB1 はDNA の編成や転写調節に関わる非ヒストンクロマチン関連性タンパク質ファミリーの一員である。IL-1αと同様に細胞のネクローシスにより細胞核から細胞外に放出され炎症反応を誘導する。HMGB1 は樹状細胞や単球などに作用し、成熟化・浸潤・サイトカインや炎症メディエーターの放出を誘導することが示唆されている。また、好中球上のTLR4 に認識されると、疾患との関連としてHMGB1 は関節炎やシェーグレン症候群における炎症反応に寄与していることが示唆されている。また、HMGB1 は癌において高発現しており、NF-κB の活性化を介して細胞の生存・増殖を助長していることが示唆されている。近年、細胞の壊死によりHMGB1が細胞外に遊離したり、血管炎症性シグナル応答で細胞外に能動分泌が見られるなど、新たな炎症マーカーとしても注目されている。HMGB1はげっ歯類からヒトまで99%以上のアミノ酸配列について相同性を有するタンパク質である。このHMGB1は正常細胞にも存在するが、敗血症(全身性炎症反応症候群)において放出される菌体内毒素であるLPS(リポ多糖)による刺激によって血中濃度が上昇し、最終的な組織障害をもたらす。このHMGB1に対する抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする薬剤について、脳血管攣縮抑制剤(特許文献1)及び脳梗塞抑制剤(特許文献2)がすでに特許されているが、インフルエンザやインフルエンザウイルス感染に伴う肺炎の予防及び/又は治療については開示されていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第3882090号公報
【特許文献2】特許第3876325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、インフルエンザ治療剤を提供することを課題とする。より詳しくは、インフルエンザウイルス感染に伴う炎症に関し、特に肺炎の予防及び/又は治療によるインフルエンザ治療剤を提供することを課題とする。更に本発明は、作用機序の異なる他のインフルエンザ治療剤との併用によるインフルエンザ治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記課題を解決するためにインフルエンザウイルス感染モデルに対して抗HMGB1モノクローナル抗体を投与したところ、抗HMGB1モノクローナル抗体の投与により生存率の改善が認められた。さらに鋭意検討を重ねた結果、抗HMGB1モノクローナル抗体によりインフルエンザウイルス感染による炎症症状を改善したことを見出し、本発明を完成した。作用機序の異なる他のインフルエンザ治療剤との併用により、より効果的なインフルエンザ治療薬を提供することができる。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする、インフルエンザ治療剤。
2.インフルエンザ治療剤が、インフルエンザウイルス感染に伴う炎症に対するものである、前項1に記載のインフルエンザ治療剤。
3.インフルエンザ治療剤が、インフルエンザウイルス感染に伴う肺炎の予防及び/又は治療によるインフルエンザ治療である前項1に記載のインフルエンザ治療剤。
4.抗HMGB1モノクローナル抗体を、1回当たり0.2~5 mg/kg投与するものである前項1~3のいずれか1に記載のインフルエンザ治療剤。
5.抗HMGB1モノクローナル抗体とは作用機序の異なるインフルエンザ治療剤を併用することを特徴とする、前項1~4のいずれか1に記載のインフルエンザ治療剤。
6.抗HMGB1モノクローナル抗体とは作用機序の異なるインフルエンザ治療剤が、ノイラミニダーゼ阻害薬である、前項5に記載のインフルエンザ治療剤。
7.抗HMGB1モノクローナル抗体とは作用機序の異なるインフルエンザ治療剤が、ペラミビルである、前項5に記載のインフルエンザ治療剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とするインフルエンザ治療剤によれば、インフルエンザウイルス感染による死亡リスクを低減化することができる。本発明の有効成分としての抗HMGB1モノクローナル抗体は、インフルエンザウイルスに対して直接的に作用するのではなく、インフルエンザウイルス感染に伴う肺炎に対して有効な予防剤及び/治療剤となり得る。本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とするインフルエンザ治療剤によれば、インフルエンザウイルス感染により上昇した生体内のHMGB1に作用して効果を発揮する。そのため、インフルエンザ治療剤耐性インフルエンザウイルスに係るサブタイプには影響なくインフルエンザウイルス感染に伴う炎症を抑制することができ、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ヒト、ラット及びウシのHMGB1を特定するアミノ酸配列を示す図である。本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体は、これらのアミノ酸配列の内、特に配列番号5で特定されるC末端領域をエピトープとするモノクローナル抗体である。
【図2】HMGB1を特定するアミノ酸配列に基づいて、本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体に関するエピトープマッピングの手法及び結果を示す図である。(実施例1)
【図3】抗HMGB1モノクローナル抗体のインフルエンザに対する効果を確認するための実験手法を示す図である。(実施例2)
【図4】抗HMGB1モノクローナル抗体をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の生存率を確認した結果図である。(実施例2)
【図5】抗HMGB1モノクローナル抗体のインフルエンザに対する効果を確認するための実験手法を示す図である。(実施例3)
【図6】抗HMGB1モノクローナル抗体をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の肺病理学的所見を確認した写真図である。(実施例3)
【図7】抗HMGB1モノクローナル抗体をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の組織学的所見(好中球浸潤)を確認した写真図である。(実施例3)
【図8】抗HMGB1モノクローナル抗体をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の組織学的所見及び気管支肺胞洗浄液(BALF)中の好中球数を測定した結果図である。(実施例3)
【図9】抗HMGB1モノクローナル抗体をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の感染ウイルス量を測定した結果を示す図である。(実施例3)
【図10】抗HMGB1モノクローナル抗体をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の血清及びBALFについて、HMGB1量を測定した結果を示す図である。(実施例3)
【図11】抗HMGB1モノクローナル抗体をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の酸化ストレス量を測定した結果を示す図である。(実施例3)
【図12】抗HMGB1モノクローナル抗体及び作用機序の異なる他のインフルエンザ治療剤をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の生存率を確認した結果図である。(実施例4)
【図13】抗HMGB1モノクローナル抗体及び作用機序の異なる他のインフルエンザ治療剤をインフルエンザウイルス感染マウスに投与した場合の体重減少に及ぼす効果を確認した結果図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のインフルエンザ治療剤は、抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とする。抗HMGB1モノクローナル抗体は、原則としてHMGB1のみに結合して無毒化し、他の化合物等には作用しない。よって副作用が生じる可能性はないか、極めて少ないと考えられる。抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とするインフルエンザ治療剤を投与することで、インフルエンザウイルス感染に伴う肺炎を予防及び/又は治療し、その結果インフルエンザを治療することができる。

【0014】
本明細書において抗HMGB1モノクローナル抗体の調製は、自体公知の方法に従うことができる。例えば、市販のHMGB1を用いてマウスやラット等を免疫し、その抗体産生細胞や脾細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを得ることができる。このハイブリドーマをクローニングし、HMGB1へ特異的に反応する抗体を産生しているクローンをスクリーニングすることができる。このクローンを培養し、分泌されるモノクローナル抗体を精製することができる。例えば特許文献1又は2に示す方法により得ることができる。参考として、ヒト、ラット及びウシのHMGB1タンパク質のアミノ酸配列を以下に示す。C末端部分において、下線を施した部位が種特異的配列である。本明細書において、好適な抗HMGB1モノクローナル抗体はHMGB1 のC末端部分、例えば配列番号4~6のいずれかの部位をエピトープとするモノクローナル抗体である。特に配列番号5に示すアミノ酸配列をエピトープとする抗HMGB1モノクローナル抗体はHMGB1との強い結合能を示す。

【0015】
Human HMGB1 (NCBI Reference Sequence: NP_002119.1)(配列番号1)
mgkgdpkkpr gkmssyaffv qtcreehkkk hpdasvnfse fskkcserwk tmsakekgkf edmakadkar yeremktyip pkgetkkkfk dpnapkrpps afflfcseyr pkikgehpgl sigdvakklg emwnntaadd kqpyekkaak lkekyekdia ayrakgkpda akkgvvkaek skkkkeeeed eedeedeeee edeededeee dddde

【0016】
Rat HMGB1 (NCBI Reference Sequence: NP_037095.1)(配列番号2)
mgkgdpkkpr gkmssyaffv qtcreehkkk hpdasvnfse fskkcserwk tmsakekgkf edmakadkar yeremktyip pkgetkkkfk dpnapkrpps afflfcseyr pkikgehpgl sigdvakklg emwnntaadd kqpyekkaak lkekyekdia ayrakgkpda akkgvvkaek skkkkeeedd eedeedeeee eeeededeee dddde

【0017】
Bovine HMGB1(配列番号3)
mgkgdpkkpr gkmssyaffv qtcreehkkk hpdasvnfse fskkcserwk tmsakekgkf edmakadkar yeremktyip pkgetkkkfk dpnapkrpps afflfcseyr pkikgehpgl sigdvakklg emwnntaadd kqpyekkaak lkekyekdia ayrakgkpda akkgvvkaek skkkkeeeed eedeedeeee edeedeeeee dddde

【0018】
HMGB1ペプチドNo.41: edeededeee dddde (配列番号4)
HMGB1ペプチドNo.41部分: eee dddde (配列番号5)
HMGB1ペプチドNo.40: deeeeedeededeee (配列番号6)

【0019】
本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とするインフルエンザ治療剤は、その剤形や投与形態は特に問わない。有効成分としての抗HMGB1モノクローナル抗体とともに、溶液、マイクロエマルジョン、分散液、リポソーム、又は高薬物濃度に好適なその他の適確な形状として、製剤化することができる。必要量の抗HMGB1モノクローナル抗体を、必要に応じて上に列挙した成分の1つ又は組み合わせとともに、適切な溶媒中に組み入れた後、ろ過滅菌することによって、調製することができる。

【0020】
本発明のインフルエンザ治療剤は、当分野で知られている多様な方法によって投与することができる。投与形態は特に問わないが、インフルエンザ治療を考慮すれば、注射剤として静脈内投与することが好ましい。その場合、溶媒としては、pHを調整した生理食塩水やグルコース水溶液など、血漿の等張液を用いることができる。また、抗体を塩類等と共に凍結乾燥した場合には、純水、蒸留水、滅菌水等も使用できる。その濃度も通常の抗体製剤のものとすればよく、1~5 mg/mLとすることができる。但し、注射剤の浸透圧は、血漿と同等にする必要がある。

【0021】
本発明のインフルエンザ治療剤の投与時期は特に制限されないが、インフルエンザ感染後、早ければ早いほど好ましいが、具体的にはインフルエンザウイルス感染後7日以内、好ましくは48時間以内、より好ましくは24時間以内である。

【0022】
後述する実施例に示す通り、マウスに対して1回当たり2 mg/kgの抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合に、インフルエンザウイルス感染に伴う死亡率に顕著な改善効果が認められた(図4参照)。また、インフルエンザウイルス感染に伴う肺組織中の好中球浸潤や炎症症状について抗HMGB1モノクローナル抗体の投与により改善が認められた(図6、7、8参照)。一方、感染したインフルエンザウイルスのコピー数は抗HMGB1モノクローナル抗体の投与によっても減少しなかった。このことより、本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体は、インフルエンザウイルスそのものに直接作用するのではなく、インフルエンザウイルスの感染に伴う炎症、特にインフルエンザウイルスの感染に伴う肺炎の予防及び/又は治療に対して有効に作用するものと考えられる。

【0023】
これらの結果から考えると、ヒトに対する投与量は1回当たり抗HMGB1モノクローナル抗体を0.2~5 mg/kgとすることができ、より好適には1~2 mg/kgとすることができる。但しこれら薬剤の投与量は、患者の年齢や性別、疾患の重篤度等によって適宜変更することができる。また、本発明のインフルエンザ治療剤は、複数回にわたって、又は持続的に投与することができる。

【0024】
さらには、本発明のインフルエンザ治療剤とともに、他のインフルエンザ治療剤を併用して用いることもできる。本発明のインフルエンザ治療剤の有効成分である抗HMGB1モノクローナル抗体を、1以上の別のインフルエンザ治療剤とともに製剤化し、及び/又は併用して投与してもよい。併用可能な別のインフルエンザ治療剤としては特に限定されず、既に市販されている治療剤、又は今後開発される治療剤の何れであってもよい。当該別のインフルエンザ治療剤は、抗HMGB1モノクローナル抗体とは作用機序の異なるインフルエンザ治療剤が好適である。例えばノイラミニダーゼ阻害薬、M2タンパク質阻害剤等が挙げられる。ノイラミニダーゼ治療薬として、ペラミビル(商品名:ラピアクタ)、 オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビル(商品名:リレンザ)等が挙げられ、特に好適にはペラミビルが用いられる。有効成分としてのペラミビル、オセルタミビル、ザナミビル等は、薬学的に許容しうる塩や水和物も含まれる。既に市販されている治療剤の投与量は、既存の投与量を適用することもできるし、本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体による併用効果を期待し、既存の投与量よりもより低い投与量で使用することもできる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、明細書記載の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0026】
(実施例1) 抗HMGB1モノクローナル抗体の調製
特許文献1に記載の方法と同手法により、抗HMGB1モノクローナル抗体を調製した。具体的には、以下のとおりである。
【実施例】
【0027】
1.ラットの免疫
市販のウシ胸腺由来HMGB1とHMGB2との混合物(和光純薬工業社製、コード番号:080-070741)1 mg/mLを2 mLガラス製注射筒にとり、別の2 mLガラス製注射筒にとった等容量のフロイント完全アジュバンドと連結管を通じて徐々に混和することによって、エマルションとした。セボフルレンにより麻酔したラットの後肢足蹠に、得られたエマルションを0.05 mLずつ、計0.1 mL注射投与した。2週間後、頚静脈から試験採血し、抗体価の上昇を確認した。次いで、腫大した腸骨リンパ節を前記注射投与から3週間後に無菌的に取り出した。得られた2個のリンパ節から、約6×107 個の細胞を回収することができた。
【実施例】
【0028】
2.細胞融合とクローニング
上記腸骨リンパ節細胞とマウスミエローマSP2/O-Ag14(SP2)細胞を、ポリエチレングリコールを用いて融合させ、得られた融合細胞を96穴マイクロプレートに蒔いた。1週間後、最初のELISAスクリーニングを行ない、陽性細胞を含むウェルの試料について、ウェスタンブロットにより二次スクリーニングを行なった。陽性を示すウェルの細胞を24穴マイクロプレートに移し、細胞をほぼコンフルエントな状態(約2×105)に殖やしてから、0.5 mLの凍結培地(GIT培地にウシ胎児血清を10 v/v%とジメチルスルホキシドを10 v/v%添加したもの)を用いて、液体窒素中で凍結保存した。この凍結保存細胞を解凍した後、96穴マイクロプレートでクローニングした。
【実施例】
【0029】
3.抗体の精製
回転培養装置(SARSTEDT社製)により上記陽性細胞を2週間大量培養し、濃度2~3 mg/mLの抗体液を得た。この抗体液をアフィニティゲル(インビトロジェン社製、MEP-HyperCel)と中性pH下で混和し、抗HMGB1抗体をゲルへ特異的に結合させた。特異的にゲルに結合した抗体を、酢酸ナトリウムバッファー(pH 4)により溶出した。溶出液を限外濾過装置により濃縮した後、セファロースCL6Bゲル濾過カラム(直径2 cm×長さ97 cm)によって、さらに精製し、抗HMGB1モノクローナル抗体を得た。
【実施例】
【0030】
4.エピトープの確認
上記精製して得られた抗HMGB1モノクローナル抗体(クローン#10-22抗体)についてエピトープマッピングを行った(図2)。その結果クローン#10-22抗体は配列番号4に示すペプチド、特に配列番号5に示すペプチドをエピトープとし、強い結合定数(Kd)を示した(表1、図2)。以下の実施例では、抗HMGB1モノクローナル抗体としてクローン#10-22抗体を用いた。
HMGB1ペプチドNo.41: edeededeee dddde (配列番号4)
HMGB1ペプチドNo.41部分: eee dddde (配列番号5)
【実施例】
【0031】
【表1】
JP2017160168A_000003t.gif
【実施例】
【0032】
(実施例2)インフルエンザウイルス感染モデルマウスに対する効果
本実施例では、インフルエンザウイルス感染モデルマウスに対する抗HMGB1モノクローナル抗体の効果として、生存率に対する効果を確認した。
【実施例】
【0033】
1.インフルエンザの感染及び抗体の投与スケジュール
8~9週齢の雄マウス(C57/BL6J)を用いた。インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34 (H1N1))を100PFU/マウスで経鼻的に感染させ、本実施例のインフルエンザウイルス感染モデルとした。インフルエンザウイルス感染後1時間、24時間及び48時間後に抗体を2 mg/kg尾静脈投与した。抗体の投与は、実施例1において作製した抗HMGB1モノクローナル抗体(#10-22)の投与群15匹と対照抗体(抗Keyhole Limpet hemocyanin(KLH)抗体:自家製)投与群15匹に分けた(図3)。
【実施例】
【0034】
2.生存率
本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体投与群及び対照抗体投与群のインフルエンザウイルス感染に伴う生存率をカプランマイヤー(Kaplan-Meier)法にて確認した。生存時間の差についてはCox-Mantel検定を行った。その結果、抗HMGB1モノクローナル抗体投与群において、明らかに生存率の改善が認められた(図4)。
【実施例】
【0035】
(実施例3)インフルエンザウイルス感染モデルマウスに対する効果
本実施例では、インフルエンザウイルス感染モデルマウスに対する抗HMGB1モノクローナル抗体の効果として、病理学的検討を行った。具体的には感染局所での炎症(肺病理学的検討(HE/Gr1))、気管支肺胞洗浄液(BALF)における好中球数、感染ウイルス量、HMGB1、酸化ストレスを確認した。
【実施例】
【0036】
1.インフルエンザの感染及び抗体の投与スケジュール
実施例2と同様にインフルエンザウイルス感染モデルを作製し、インフルエンザウイルス感染後1時間、24時間及び48時間後に抗体を2 mg/kg尾静脈投与した。抗体の投与は、実施例1において作製した抗HMGB1モノクローナル抗体(#10-22)の投与群と対照抗体(抗KLH抗体)投与群に分けた。インフルエンザウイルス感染後3日、5日、7日及び10日目に肺、BALF及び血清を採取した(図5)。
【実施例】
【0037】
2.肺病理学的検討(HE/Gr1)
感染10日目のマウスを開腹し、肺病理学的な症状を確認した。その結果、対照抗体を投与したマウスでは肺及びその周辺で炎症状態が認められるのに対して、抗HMGB1モノクローナル抗体投与したマウスでは炎症が抑制されていることが確認された(図6)。
【実施例】
【0038】
3.組織学的所見(好中球浸潤)
感染後3日、5日、7日及び10日目のマウスから肺組織を採取し、組織学的所見を行った。その結果、対照抗体を投与したマウスでは炎症細胞浸潤が認められた(図7)。さらにBALF中の好中球数を確認した結果、何れの感染時期においても抗HMGB1モノクローナル抗体投与した場合に、対照と比較して好中球数が抑制されていることが認められた(図8)。
【実施例】
【0039】
4.感染ウイルス量
感染後3日、5日、7日及び10日目のマウスから採取した血清及びBALFについて、インフルエンザウイルス量を測定した。インフルエンザウイルス量は、RT-PCR法により測定した。その結果、何れの感染時期においても抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合に、対照と比較してインフルエンザウイルス量の違いは特に認められなかった(図9)。このことより、抗HMGB1モノクローナル抗体は、インフルエンザウイルスに対しては直接作用するものではないと考えられた。
【実施例】
【0040】
5.血清中及びBALF中のHMGB1量
感染後3日、5日、7日及び10日目のマウスから採取した血清及びBALFについて、HMGB1量を測定した。HMGB1量は、ELISA法により測定した。その結果、血清中においては、何れの感染時期においても抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合に、対照と比較してHMGB1値が抑制されていることが認められた(図10)。また、BALF中では、感染後7日目、10日目において抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合に、対照と比較してHMGB1値が抑制されていることが認められた(図10)。
【実施例】
【0041】
6.酸化ストレス量(抗酸化作用)
感染後3日、5日、7日及び10日目のマウスから採取したBALFについてd-ROMsテスト(Diacron社Reactive OxygenMetabolitie:活性酸素代謝物テスト)を生体試料分析 Vol.32, No.4 (2009)に示す方法に基づき行なった。得られたU. CARR(ユニット・カール)値により酸化ストレスの程度を確認した。その結果、何れの感染時期においても抗HMGB1モノクローナル抗体を投与した場合に、対照と比較してU. CARR値が抑制されていることが認められた(図11)。このことより、抗HMGB1モノクローナル抗体は、インフルエンザウイルス感染による酸化ストレスを軽減しうると考えられた。
【実施例】
【0042】
(実施例4)インフルエンザウイルス感染モデルマウスに対する効果
本実施例では、インフルエンザウイルス感染モデルマウスに対し、抗HMGB1モノクローナル抗体と、作用機序の異なる既存の抗インフルエンザウイルス剤の併用効果を確認した。効果として、生存率及び体重による効果を確認した。
【実施例】
【0043】
1.インフルエンザの感染及び抗体の投与スケジュール
8~9週齢の雄マウス(C57/BL6J)を用いた。インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34 (H1N1))を400PFU/マウスで経鼻的に感染させたものを、本実施例のインフルエンザウイルス感染モデルとした。抗HMGB1モノクローナル抗体として実施例1で作製した抗HMGB1モノクローナル抗体(#10-22)を用いた。併用する既存の抗インフルエンザウイルス剤として、ペラミビル(商品名:ラピアクタ)を用いた。
【実施例】
【0044】
インフルエンザウイルス感染後2-4日目にペラミビルを10 mg/kg/日を筋注投与した。抗HMGB1モノクローナル抗体はインフルエンザウイルス感染後2-4日目に5 mg/kg/日を尾静脈投与した(図12参照)。抗HMGB1モノクローナル抗体及びペラミビルの併用投与群(n=9)、ペラミビルの単独投与群(n=14)について、生存率及び体重減少に及ぼす効果を確認した。
【実施例】
【0045】
2.生存率
上記各投与群でのインフルエンザウイルス感染に伴う生存率をカプランマイヤー(Kaplan-Meier)法にて確認した。生存時間の差についてはCox-Mantel検定を行った。その結果、ペラミビルの単独投与群に比べて抗HMGB1モノクローナル抗体及びペラミビルの併用投与群で、生存率の改善が認められた(図12)。
【実施例】
【0046】
3.体重
上記各マウスについて、インフルエンザウイルス感染後、各薬剤の投与群についてインフルエンザウイルス感染直前の体重を100%とし、その後の体重の変動率を確認した。その結果、いずれの群においてもインフルエンザウイルス感染後に体重の減少傾向が認められ、感染後9~11日ごろに体重減少が最も激しかった。しかしながら、抗HMGB1モノクローナル抗体及びペラミビルの併用投与群では体重減少の割合が抑制されていることが確認された(図13)。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明の抗HMGB1モノクローナル抗体を有効成分とするインフルエンザ治療剤によれば、インフルエンザによる死亡リスクを低減化することができる。本発明の有効成分としての抗HMGB1モノクローナル抗体は、インフルエンザウイルスに対して直接的に作用するのではなく、インフルエンザウイルス感染に伴う症状を抑制することにより効果を発揮する。特に、肺炎に対して有効な予防剤及び/治療剤となり得る。本発明のインフルエンザ治療剤によれば、インフルエンザウイルス感染により上昇した生体内のHMGB1に作用して抗肺炎作用を発揮するため、インフルエンザ治療剤耐性インフルエンザウイルスに係るサブタイプには影響なくインフルエンザウイルス感染に伴う肺炎を抑制することができ、極めて有用である。
【0048】
さらに、本発明のインフルエンザ治療剤は従来のインフルエンザ治療剤とは作用機序が異なるため、従来公知のインフルエンザ治療剤と併用して使用することができ、より確実なインフルエンザ治療効果が期待できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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