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明細書 :不適切な認知的負荷の推定方法、ドライバーの注意喚起方法および警告装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-174058 (P2017-174058A)
公開日 平成29年9月28日(2017.9.28)
発明の名称または考案の名称 不適切な認知的負荷の推定方法、ドライバーの注意喚起方法および警告装置
国際特許分類 G08G   1/16        (2006.01)
FI G08G 1/16 F
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-058245 (P2016-058245)
出願日 平成28年3月23日(2016.3.23)
発明者または考案者 【氏名】イヴァン タネヴ
【氏名】下原 勝憲
【氏名】ディパク シャルマ
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
【識別番号】100117097、【弁理士】、【氏名又は名称】岡田 充浩
審査請求 未請求
テーマコード 5H181
Fターム 5H181AA01
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL20
要約 【課題】ドライバーが不適切な認知的負荷の状態にある場合に、その状態を推定すると共に、ドライバーの注意を喚起する方法を提供する。
【解決手段】運転中の車の操舵角を検出し、検出信号から車のハンドル操作の遅延に伴って生じる振動成分を取り出し、取り出された振動成分の値が予め定めた閾値を超えたときに、ドライバーの認知的負荷が不適切な状態にあると推定し、事故を未然に防止するため、推定結果に基づいてドライバーの注意を喚起する。
【選択図】図8
特許請求の範囲 【請求項1】
ドライバーによって運転される車の操舵角を検出するステップと、
前記検出信号からドライバー起因性の振動成分を取り出すステップと、
前記取り出された振動成分の値が予め定めた閾値を超えたときに、前記ドライバーの認知的負荷が不適切な状態にあると推定するステップと、を含むことを特徴とする不適切な認知的負荷の推定方法。
【請求項2】
前記操舵角の代わりに車体の横方向の加速度を検出する、請求項1に記載の不適切な認知的負荷の推定方法。
【請求項3】
前記車が走行する車線のうちコーナーの入口もしくは出口において前記ドライバー起因性の振動成分を取り出す、請求項1または2に記載の不適切な認知的負荷の推定方法。
【請求項4】
ドライバーによって運転される車の操舵角を検出するステップと、
前記検出信号からドライバー起因性の振動成分を取り出すステップと、
前記取り出された振動成分の値が予め定めた閾値を超えたときに、音声または光の少なくとも一方を用いてドライバーの注意を喚起するステップと、を含むことを特徴とするドライバーの注意喚起方法。
【請求項5】
前記操舵角の代わりに車体の横方向の加速度を検出する、請求項4に記載のドライバーの注意喚起方法。
【請求項6】
前記車が走行する車線のうちコーナーの入口もしくは出口においてドライバー起因性の振動成分を取り出すことを特徴とする、請求項4または5に記載のドライバーの注意喚起方法。
【請求項7】
前記ドライバー起因性の振動成分は、車の種類および速度に応じて周波数特性が変化するフィルタを用いて前記検出信号から取り出される、請求項4ないし6のいずれかに記載のドライバーの注意喚起方法。
【請求項8】
前記閾値は、前記車の種類および速度に応じて変化する、請求項4ないし7のいずれかに記載のドライバーの注意喚起方法。
【請求項9】
ドライバーによって運転される車の操舵角を検出する操舵角センサと、
音声または光の少なくとも一方を用いてドライバーの注意を喚起する報知手段と、
前記操舵角センサの検出信号から所定の周波数の振動成分を取り出すと共に、取り出された振動成分の値を、予めメモリに格納された閾値と比較する演算手段と、
前記演算手段の出力に従って前記報知手段の動作を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記演算手段において振動成分の値が閾値以上であったときに、前記報知手段を動作させることを特徴とする警告装置。
【請求項10】
前記操舵角センサの代わりに、前記車体の横方向の加速度を検出する加速度センサを用いる、請求項9に記載の警告装置。
【請求項11】
前記メモリとして不揮発性メモリを用い、かつ前記閾値は、前記車の種類および速度に応じて変動する、請求項9または10に記載の警告装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、運転中のドライバーが不適切な認知的負荷の状態にあることを推定する方法、およびその推定に基づき、事故防止のためにドライバーの注意を喚起する方法、更にはその方法を実行する警告装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライバーが事故を起こす原因のほとんどは、ヒューマンエラーすなわち意図しない結果を生じる人間の行為にある。例えば、正しくない運転操作であり、あるいは遅すぎる反応などである。そしてそれらは、運転に向けられている注意力が、当該時点の交通状況で運転に必要とされる注意力より低いときに生じる。
【0003】
具体的には、空いた高速道路を走行しているときのように周囲に注意を払う必要が少ない状態や、疲れのために寝ているように見える状態(「マイクロスリープ」といい、0.5秒~1.5秒の短時間に生じる。)、更には、ドライバーが運転以外の何かに注意力を割いている状態が挙げられる。ドライバーが運転以外の何かに注意力を割いている状態として、携帯電話をかけていたり、空想にふけっていたりする場合がある。
【0004】
上述した運転に向けられる注意力が運転に必要とされる注意力より低くなる状態は、ドライバーが認知的に不適切な状態、すなわち「不適切な認知的負荷」の状態にあることに原因がある。
【0005】
不適切な認知的負荷の兆候は、ドライバーの反応遅れとして現れる。従って、運転中の周囲からの刺激に対するドライバーの動作の遅れ量(例えば、ハンドル操作の遅れやブレーキペダルの踏み込みの遅れの量)を計測することによって、認知的負荷が不適切な状態にあることを推定できる。
【0006】
しかし、ハンドル操作の顕著な遅れやブレーキペダルの踏み込みの遅れは直接事故を引き起こす可能性があるため、ドライバーの動作の遅れ量の直接的な計測が事故の予防になるとはいえない。
【0007】
また、居眠り運転を防止するため、上述の方法と同様に、ドライバーの反応遅れを検出する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、ドライバーの注意力が低下したときに、車の進行方向の変化に対してハンドル操作が常に遅れることから、ハンドル操作の遅れを検出することにより、ドライバーの注意力の低下を判定している。
【0008】
具体的には、進行方向センサから出力される進路情報と、ハンドルの操舵センサから出力される操舵角情報とを比較し、車の進行に対してハンドルの操作が遅れている場合に、ドライバーが居眠りをしていると判定して警告を行なっている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開平11-263143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の方法を用いて、ドライバーの認知的負荷が不適切な状態にあることを推定し、ドライバーの注意を喚起することが考えられる。しかし、交特許文献1に記載の方法は、進路情報と操舵角情報とを一定期間比較する必要があることから、居眠りの状態が一定期間継続することが前提となる。すなわち、この方法で不適切な認知的負荷が推定できたとしても、そのとき既に事故を起こしている可能性がある。
【0011】
本発明は上述の状況に鑑みてなされたもので、ドライバーが不適切な認知的負荷の状態にあり、緊急の対応を必要とする前に、その初期的兆候を推定すると共に、推定結果に基づいてドライバーの注意を喚起して、事故を未然に防止する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明にかかる不適切な認知的負荷の推定方法は、ドライバーによって運転される車の操舵角を検出するステップと、
前記検出信号からドライバー起因性の振動成分を取り出すステップと、
前記取り出された振動成分の値が予め定めた閾値を超えたときに、前記ドライバーの認知的負荷が不適切な状態にあると推定するステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記操舵角の代わりに車体の横方向の加速度を検出するようにしてもよい。
【0014】
また本発明にかかるドライバーの注意喚起方法は、ドライバーによって運転される車の操舵角を検出するステップと、
前記検出信号からドライバー起因性の振動成分を取り出すステップと、
前記取り出された振動成分の値が予め定めた閾値を超えたときに、音声または光の少なくとも一方を用いてドライバーの注意を喚起するステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
ここで、前記操舵角の代わりに車体の横方向の加速度を検出するようにしてもよい。
【0016】
また前記車が走行する車線のうちコーナーの入口もしくは出口において前記ドライバー起因性の振動成分を取り出すことが好ましい。
【0017】
また、前記振動成分は、車の種類および速度に応じて周波数特性が変化するフィルタを用いて前記検出信号から取り出されることが好ましい。更に、前記閾値は、前記車の種類および速度に応じて変化することが好ましい。
【0018】
また本発明にかかる警告装置は、ドライバーによって運転される車の操舵角を検出する操舵角センサと、
音声または光の少なくとも一方を用いてドライバーの注意を喚起する報知手段と、
前記操舵角センサの検出信号から所定の周波数の振動成分を取り出すと共に、取り出された振動成分の値を、予めメモリに格納された閾値と比較する演算手段と、
前記演算手段の出力に従って前記報知手段の動作を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記演算手段において振動成分の値が閾値以上であったときに、前記報知手段を動作させることを特徴とする。
【0019】
ここで、前記操舵角センサの代わりに、前記車体の横方向の加速度を検出する加速度センサを用いてもよい。
【0020】
また、前記メモリとして不揮発性メモリを用い、かつ前記閾値は、前記車の種類および速度に応じて変動することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる方法を採用すれば、認知的負荷が増大してハンドル操作の遅れが増えつつあるときに、早い段階でドライバーにそのことを知らせて、事故を未然に防止することができる。
【0022】
更に、本発明にかかる方法によれば、ハンドル操作の遅れによるドライバー起因性の振動の発生を短時間(2秒以内)に検知できるため、衝突回避などの緊急避難的な措置にも十分対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態におけるシミュレーションに用いた車(レーシングカー)の外観と仕様を示す図である。
【図2】同シミュレーションにおける車の走行軌跡を示す図である。
【図3】図2のケース1の軌跡を走行する車の操舵角、偏移および横方向の加速度を示すグラフである。
【図4】シミュレーションにおいて車が走行する車線の形状を示す図である。
【図5】シミュレーションにおけるハンドル操作の遅延と操舵角および車体の横方向の加速度との関係を示すグラフ(直進走行)である。
【図6】シミュレーションにおけるハンドル操作の遅延と操舵角および車体の横方向の加速度との関係を示すグラフ(コーナーの入口の走行)である。
【図7】シミュレーションにおけるハンドル操作の遅延と操舵角および車体の横方向の加速度との関係を示すグラフ(コーナーの出口の走行)である。
【図8】本発明の実施の形態にかかる警告装置の構成を示すブロック図である。
【図9】操舵角センサが取り付けられた車の概略構成を示す斜視図である。
【図10】警告装置の他の構成を示すブロック図である。
【図11】加速度センサが取り付けられた車の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態にかかる不適切な認知的負荷の推定方法、ドライバーの注意喚起方法および警告装置について、図面を参照して説明する。

【0025】
<不適切な認知的負荷の推定方法>
前述したように、ドライバーの認知的負荷が増大して不適切な状態にある場合、その兆候がドライバーの反応の遅れとして現れる。具体的には、ハンドル操作の遅れとして顕在化する。

【0026】
しかし、実際に人間のドライバーを使って実験するのは危険が伴い、それ以前に人間の反応遅れを正確に測定することは困難である。

【0027】
そこで、発明者等は、レーシングカーのシミュレータを用いて、認知的負荷の増大に伴ってハンドル操作に遅れが生じたときに、車の走行にどのような影響が出るかシミュレーションを行なった。

【0028】
本実施の形態においては、シミュレータとして、オープンソースであるTORCS(The Open Racing Car Simulator)を用いた。そして人間のドライバーと同様の運転操作が可能な運転エージェント(Driving Agent)を設定すると共に、下記に示すハンドルの操舵角の関数(Steering Angle Function、以降、「SAF」という)に基づいて運転状態のシミュレーションを行なった。

【0029】
【数1】
JP2017174058A_000003t.gif
ここで、θは横方向の加速度、dはセンターラインからの偏移、d'はその微分、αは車線のセンターラインと車の進行方向の軸とのなす角度である。

【0030】
上述の関数SAFの詳細な説明は割愛するが、最適化されたSAFは比例微分(PD)制御のような挙動を示す。

【0031】
図1(a)に、本実施の形態で用いるシミュレータ(TORCS)において設定した車(レーシングカー)の外観を示し、図1(b)にその主な仕様を示す。TORCSを用い、かつ上述の関数SAFを用いてハンドル操作を介した操舵角を算出することにより、図1に示す仕様の車を用いて、実際に道路上を運転したときと同様の運転状態を実現できる。

【0032】
次に、上述の関数SAFを用い、仮想の運転エージェントによって運転される車の走行について説明する。図2に、車線の右端を走行中の車1がセンターラインに移動するときの車の軌跡を示す。図1において、車体10の下部には一対の前輪11と一対の後輪12が取り付けられ、運転エージェントがハンドル(図示せず)を操作することによって前輪11の操舵角を変え、車の軌跡を変化させる。

【0033】
図2では、シミュレータを用いて実現される3つのケースについて、車の中心部の走行軌跡を示している。図2において、当初、車は広く真直ぐな車線のセンターラインから右側に8m離れた場所に、センターラインと並行な状態で置かれ、この状態から時速50kmまでゆっくりと加速する。そして単純なフィードバック制御のソフトウェアを用いてアクセルペダルを踏み込んだり緩めたりすることによって、その速度を維持する。

【0034】
車の速度が時速50kmに到達すると、実際のドライバーが操作するように関数SAFによって(20msのサンプリング間隔で)車の前輪11の操舵角が算出されてハンドル操作が行われる。

【0035】
図2においてケース1の軌跡(実線で示す)は、正確な操作によって車線のセンターラインに迅速かつ滑らかに戻る場合を示す。

【0036】
参考として、図3に、図2のケース1で説明した軌跡を通ったとき、すなわち運動エージェントによって最適の操作が行われたときの車の操舵角、センターラインからの偏移および横方向の加速度を示す。図3のグラフは、横方向の加速度が10m/s2以下で、円滑な動きであることを示している。

【0037】
一方、図2のケース2の軌跡(破線で示す)は、ハンドル操作が早すぎる場合を示す。戻りが早すぎる場合、動きが不自然であり、センターラインに戻るときに振動が生じる。更に、そのような戻りの軌道は、横方向の加速度によってドライバーや乗客に不快感を与え、安全性にも問題がある。

【0038】
図2のケース3の軌跡(一点差線で示す)は、ハンドル操作が遅すぎる場合を示し、ケース1に比べ、軌跡がセンターラインと重なるまでに時間を要している。実際の運転において、ドライバーの認知的負荷が不適切である場合に、ハンドル操作が遅れることによって、コーナーの入口や出口においてセンターラインから外れることがある。

【0039】
<シミュレーションの結果>
次に、ハンドル操作に遅延が生じたときのシミュレーション結果について説明する。前述と同様に、運転エージェントによって車線のセンターライン付近を時速50kmの一定速度で走行し、遅延時間をそれぞれ0、100ms、200ms、400msとしたときの3つのテストケースについて説明する。これらの遅延時間は、もしドライバーが人間であれば、不適切な認知的負荷によって生じるであろう反応遅れに相当する。

【0040】
図4に示すように、テストケース1においては車線の直線部分を走行し、テストケース2においてはコーナーの入口を走行し、テストケース3においてはコーナーの出口を走行しているときに、ハンドル操作に遅延が生じたとしてシミュレーションを行なった。

【0041】
これら全てのテストケースにおいて、ハンドル操作の遅延は2秒間だけ加えられる。その際、ブレーキを踏むとかハンドルを操作するような緊急の対応が要求されない通常の運転状態に設定される。

【0042】
前述したように、ハンドル操作の遅延は、ドライバーの認知的負荷が不適切なことによって生じる。シミュレーションにおいて遅延時間を2秒としたのは、認知的負荷の最も危険な期間、前述したマイクロスリープが起こり得る期間を想定したものである。典型的なマイクロスリープの期間は0.5秒~1.5秒である。

【0043】
また、シミュレーションでは、実際の車による運転とシミュレーションとの間に生じるギャップを埋めるために、TORCSのソースコードに、2つのタイプのステアリングノイズを導入している。

【0044】
1つは、約50Hz程度の周波数のランダムノイズである。このノイズは道路の表面に存在するマイクロバンプのような不規則性や、車の4つの車輪の回転半径の違いによって回転する車輪が振動することにより生じる。

【0045】
一方、車線の直進部分では、車のステアリング機構の部材同志を結合するジョイント部分(ステアリングシャフト、ギアボックス、タイロッド、関節部のアーム、キングピン等)に存在する遊びやヒステリシスによる操舵角の変動によって生じる。このもう1つのノイズは、1Hz程度の低い周波数のノイズである。

【0046】
上述のシミュレータを用い、ハンドル操作における遅延時間を0、100ms、200ms、400msとしたときのシミュレーション結果について説明する。図4において、テストケース1では、直進する車が破線で囲んだエリアを通過する2秒間、ハンドル操作を遅延させたときの車の走行状態をシミュレートした。図5にその結果を示す。

【0047】
図5(a)において、横軸は走行距離、縦軸は操舵角を示す。図5(a)のグラフにおいて、破線で囲んだ部分は、ハンドル操作に遅延を加えたとき(2秒間)の操舵角の変化を示し、グラフの右上の枠内に示すように、遅延時間によって線の種類を変えている。図5(b)は、図5(a)のグラフの破線で囲った部分(すなわちハンドル操作を遅延させた部分)を切り出して横軸を拡大させたものである。

【0048】
一方、図5(c)において、横軸は走行距離、縦軸は車体の横方向(車の進行方向と直交する方向)の加速度を示す。図5(c)のグラフにおいて、破線で囲んだ部分は、図5(a)と同様にハンドル操作を遅延させたとき(2秒間)の加速度の変化を示し、また遅延時間によって線の種類を変えている。図5(d)は、図5(c)のグラフの破線で囲った部分(すなわちハンドル操作を遅延させた部分)を切り出して横軸を拡大させたものである。

【0049】
図5(a)(c)において、遅延の有無に関係なく、操舵角および加速度のいずれにも周波数の高い(50Hz程度)ノイズ成分が含まれているが、前述したように、このノイズ成分は道路の凹凸や車輪の径の変動によって生じるものである。

【0050】
また図5(b)(d)のグラフに実線で示したように、ハンドル操作の遅延時間が大きくなると(400ms)、0.5Hz程度の低い周波数の振動成分が含まれるが、その強度は高い周波数のノイズ成分と変わらない。すなわち、直進部分では、ハンドル操作に遅れが生じても、他のノイズ成分と区別できる程度の振動が生じないことを意味する。

【0051】
図4に戻って、テストケース2について説明する。テストケース2では、車が車線のカーブした部分に入ったときから2秒間、ハンドル操作に遅延が加わったときの車の走行状態をシミュレートした。図6にその結果を示す。

【0052】
図6(a)~(d)のグラフの内容は、図5(a)~(d)において説明した内容と変わらない。図5の場合と異なり、図6(a)および(c)では車線のうちコーナーに入ってから出るまでの間の操舵角と加速度を示しているため、それに応じてグラフの形状が変わっている。

【0053】
具体的には、コーナーに入るまでおよびコーナーから出た後は、図5(a)および(c)のグラフと変わりがないが、コーナーに入ると操舵角および横方向の加速度が共にマイナスの値を示している。

【0054】
図6(a)および(c)の点線内を拡大した図6(b)および(d)に示すように、ハンドルの操舵角および車体の加速度のそれぞれにおいて、遅延時間が大きくなるに従って低周波(約0.5Hz)の振動成分の値が大きくなっており、道路の表面状態やタイヤの径の違いによって生じるノイズ成分とは波形が明確に異なっている。このことは、コーナーの入り口においてドライバーのハンドル操作に一定以上の遅れが生じた場合(図では400msの遅延)、ハンドルが回転方向に振動し、また車体が横方向に振動することを意味している。すなわちドライバー起因性の(driver-induced)振動が発生する。

【0055】
図4に戻って、テストケース3について説明する。テストケース3では、車が車線のカーブした部分から出たときから2秒間、ハンドル操作を遅延させたときの車の走行状態をシミュレートした。図7にその結果を示す。

【0056】
図7(a)~(d)のグラフの内容は、図5(a)~(d)において説明した内容と変わらない。また図6と同様に、図7(a)および(c)ではコーナーに入ってから出るまでの間の操舵角と横方向の加速度を示しているため、それに応じてグラフの形状が変わっている。

【0057】
図7(a)および(c)の点線内を拡大した図7(b)および(d)に示すように、ハンドルの操舵角および車体の横方向の加速度のそれぞれにおいて、遅延時間が大きくなるに従って低周波(約0.5Hz)のドライバー起因性の振動成分の値が大きくなっている。このことは、コーナーの入口と同様にコーナーの出口においても、ドライバーのハンドル操作に一定以上の遅れが生じた場合(図では400msの遅延)、ハンドルが回転方向に振動し、また車体が横方向に振動することを意味している。

【0058】
PD制御系などの一般のフィードバック制御系においても、遅延が発生するとナイキスト条件が崩れ、系が振動することが知られているが、人間による車操作に近い関数SAFを有する制御系においても、同様な現象が生じ得る。

【0059】
上述した3つのテストケースにおけるシミュレーションの結果から明らかなように、ドライバーの認知的負荷が不適切な状態にあるためハンドル操作に所定値以上の遅れが生じたときに、操舵角に振動が生じ、更に車体に横方向の振動が生じる。従って、このドライバー起因性の振動を検出することにより、ドライバーが不適切な認知的負荷の状態にあることを推定することができる。

【0060】
更に、振動の強さは認知的負荷の大きさに比例していると考えられるため、振動の強さが一定値を超えたときに、音声や光を用いてドライバーの注意を喚起することにより、事故の発生を未然に防止することができる。

【0061】
具体的には、本実施の形態では、操舵角または車体の横方向の加速度を検出すると共に、検出信号から所定の周波数の振動成分を取り出し、その値が一定値(閾値)を超えたときにドライバー起因性の振動と判断し、不適切な認知的負荷の状態にあると推定して、ドライバーの注意を喚起している。

【0062】
なお、基準となる振動成分の強さは、車の仕様(大きさや重量)および走行速度によって変動するため、予め車の種類および速度に応じて振動成分の閾値を設定し、そのデータをメモリに格納しておく必要がある。

【0063】
<警告装置の構成と動作>
次に、図8および図9を参照して、上述したドライバーの注意喚起方法を実現する警告装置について説明する。図8は、警告装置の構成を示すブロック図、図9は、同装置の操舵角センサの取り付け位置を説明する概略斜視図である。

【0064】
警告装置3は、インターフェース31、CPU32、ROM33、RAM34、フラッシュメモリ35および報知手段36で構成されており、車1の操舵角を検出する操舵角センサ21の出力信号から振動成分を抽出し、その強さが一定値を超えたときに、ドライバーの認知的負荷が不適切な状態にあると推定し、報知手段36を用いてドライバーの注意を喚起している。

【0065】
図9に示すように、操舵角センサ21は、ハンドル13の回転を、ステアリングシャフト14を介して前輪11に伝えるステアリング機構16の近傍に取り付けられており、前輪11の操舵角を検出する。

【0066】
インターフェース31は、操舵角センサ21からの信号を受信し、その信号を内蔵のA/Dコンバータを用いてデジタル信号に変換した後、CPU32に転送する。

【0067】
CPU32は、ROM33に記憶されたソフトウェアを読み出して演算を行うと共に、その結果に基づいて報知手段36の動作を制御するもので、演算手段321と制御手段322の機能を実現する。なおRAM34はワーキングメモリとして機能し、またフラッシュメモリ35には演算の際の閾値データが格納されている。

【0068】
報知手段36は、音声と光を用いてドライバーの注意を喚起するものであり、スピーカとLEDで構成されている。演算手段321の演算結果に基づいて、ドライバーが不適切な認知的負荷の状態にある推定された場合、スピーカから警告音を発し、またLEDを点滅してドライバーに知らせる。

【0069】
次に、警告装置3の動作を説明する。演算手段321はフィルタおよびコンパレータの機能を実現し、操舵角の検出信号から振動成分を取り出し、その値をフラッシュメモリ35から読み出された閾値と比較し、振動成分が閾値を超えている場合は、制御手段322に通知して報知手段36を動作させ、ドライバーの注意を喚起する。

【0070】
前述したように、車の仕様および速度によって、操舵角の検出信号に含まれる振動成分の周波数および強さが異なるため、フラッシュメモリ35には、車の種類と速度に対応した閾値のデータが格納されている。

【0071】
フラッシュメモリ35に格納する閾値のデータは、シミュレータを用いて算出する。閾値のデータを、実際の車を運転して測定することも可能であるが、実際の運転において不適切な認知的負荷の状態を実現することは難しく、またそのような状態は危険を伴うため、シミュレータを用いて算出することが好ましい。

【0072】
なお、図8に示した警告装置では、操舵角センサ21の出力信号に基づいて、ドライバーが不適切な認知的負荷の状態にあるか否かを推定したが、図10に示すように、加速度センサ22の出力信号に基づいて、ドライバーが不適切な認知的負荷の状態にあるか否かを推定してもよい。

【0073】
この場合、図11に示すように、加速度センサ22を車の車体10に取り付ける。図11では、加速度センサ22をダッシュボードに取り付けているが、加速度センサ22の取り付け位置は、車体10の横方向の振動を検出できる場所であれば、どこでもかまわない。

【0074】
加速度センサ22の出力に基づいて認知的負荷の状態を推定する場合、フラッシュメモリ35に格納される閾値のデータは、加速度センサ22の出力に対応した値にする必要がある。

【0075】
また本実施の形態では、報知手段36において音声と光によりドライバーの注意を喚起したが、音声と光のいずれか一方のみを用いてドライバーの注意を喚起してもよい。

【0076】
以上説明したように、本発明は、レーシングカーのシミュレータを用いて車の運転のシミュレーションを行った結果、ハンドル操作の遅れが大きくなると、操舵角にドライバー起因性の振動が生じ、更に車体が横方向に振動することを見出したこと基づいてなされたものである。本発明はこの現象を利用し、実際のドライバーの認知的負荷が不適切な状態にあることの初期的兆候を、ハンドル操作の遅れに基づいて推定し、ドライバーにそれを知らせて、事故を未然に防止するものである。

【0077】
本発明の方法によれば、ハンドル操作の遅れによるドライバー起因性の振動の発生を短時間(2秒以内)に検知できるため、衝突回避などの緊急避難的な措置にも十分対応できる。

【0078】
なお、上述のシミュレーションでは、オープンソースであるシミュレータ(TORCS)を用いて認知的負荷とハンドルの回転方向の振動または車体の横方向の振動との関係について解析を行ったが、シミュレータはこれに限定されるものではない。市販されている他のシミュレータを用いて解析を行なってもよいことは云うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
1 車(レーシングカー)
3 警告装置
10 車体
11 前輪
12 後輪
21 操舵角センサ
22 加速度センサ
31 インターフェース
32 CPU
33 ROM
34 RAM
35 フラッシュメモリ
36 報知手段
321 演算手段
322 制御手段
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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