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明細書 :エルゴチオネインの産生方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年10月26日(2017.10.26)
発明の名称または考案の名称 エルゴチオネインの産生方法
国際特許分類 C12P  13/12        (2006.01)
FI C12P 13/12 Z
国際予備審査の請求
全頁数 22
出願番号 特願2016-566355 (P2016-566355)
国際出願番号 PCT/JP2015/085698
国際公開番号 WO2016/104437
国際出願日 平成27年12月21日(2015.12.21)
国際公開日 平成28年6月30日(2016.6.30)
優先権出願番号 2014259232
2015156037
優先日 平成26年12月22日(2014.12.22)
平成27年8月6日(2015.8.6)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】谷 明生
出願人 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
Fターム 4B064AE03
4B064AE61
4B064CA02
4B064DA16
要約 本発明は、メチロトローフであるC1化合物資化性菌及び/又は酵母を、炭素源としてC1化合物及び/又はグリセリン等を含む培地を用いて培養し、EGTを産生させる方法に関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
C1化合物資化性細菌及び/又は酵母を、炭素源を含む培地を用いて培養し、エルゴチオネインを産生する工程を含む、エルゴチオネインの製造方法。
【請求項2】
C1化合物資化性細菌及び/又は酵母を、炭素源としてメタノール、メチルアミン及び/又はグリセリンを含む培地を用いて培養し、エルゴチオネインを産生する工程を含む、請求項1に記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項3】
C1化合物資化性細菌が、Methylobacterium属細菌である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
酵母が、Rhodotorula属の酵母である、請求項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項5】
培地中の炭素源が、0.1~5 %の濃度で含有される、請求項1~4のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項6】
培地中にアンモニウム塩が、0.2~2.0 g/Lの濃度で含有される、請求項1~5のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項7】
培地中にアンモニウム塩として、塩化アンモニウム又はリン酸二水素アンモニウムが含有される、請求項1~6のいずれか1に記載の製造方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、エルゴチオネインの製造方法:
1)請求項1~7のいずれか1に記載の方法でC1化合物資化性細菌及び/又は酵母を培養する工程;
2)前記培養したC1化合物資化性細菌及び/又は酵母を熱処理し、産生したエルゴチオネインをC1化合物資化性細菌菌及び/又は酵母から抽出する工程。
【請求項9】
C1化合物資化性細菌が、受託番号NITE BP-02088、NITE BP-02089、およびNITE BP-02090としてそれぞれ寄託されたMethylobacterium属のC1化合物資化性細菌より選ばれたものである、請求項1~8のいずれか1に記載のエルゴチオネインの製造方法。
【請求項10】
酵母が、受託番号NITE BP-02171、およびNITE BP-02172としてそれぞれ寄託されたRhodotorula属の酵母より選ばれたものである、請求項1~9のいずれか1に記載のエルゴチオネインの製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、エルゴチオネインの産生方法及び製造方法に関し、詳細にはC1化合物資化性細菌及び/又は酵母を用いたエルゴチオネインの産生方法及び製造方法に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2014-259232号優先権及び特願2015-156037号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
エルゴチオネインはアミノ酸の一種であり、高い抗酸化活性を有するが、その生物学的な役割は不明な点が多い。ヒドロキシラジカルを早く消去できることから、細胞内の活性酸素除去に関わっていると考えられている。エルゴチオネインはヒスチジンから生合成され、イオウ原子はシステインから供給される。しかしながら、エルゴチオネインは哺乳類の体内では合成されないため、外部から摂取する必要がある。
【0004】
エルゴチオネインの製造方法として、例えば化学合成法、エルゴチオネインを産生する子のう菌や担子菌を培養後、エルゴチオネインを抽出精製する方法、発酵法、エルゴチオネインを含有する動物血液等から抽出する方法等がある。しかしながら、エルゴチオネインを生産する生物についての情報はそう多くなく、限られたカビ、キノコ、バクテリアでその生産の報告があるのみであり(非特許文献1)、大量に蓄積する生物についての情報はさらに限られている。
【0005】
他の方法として、タモギタケ(Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)から抽出したエルゴチオネインは最適条件で生産量が450 mg/Lに達することが報告されている(特許文献1)。特許文献1に記載の方法は高い生産性を示しているが、培養時間が長いこと、菌体からの抽出に有機溶媒を用いていること、培地中にメチオニンを添加しており、コストなどについて問題が残されていると考えられる。また、特許文献2に示す化学合成方法で得られたエルゴチオネインは、合成試薬が高価であり、精製にもコストがかかるなどの問題点が残されている。カビ、キノコ、バクテリアでその生産に関し、生産量として特許文献1に示す方法を超える報告はない。
【0006】
近年、Mycobacterium属細菌においてエルゴチオネインの生合成経路が明らかにされ、その遺伝子が幅広い微生物に保存されていることが報告されている(非特許文献2)。クラスターを形成しているegtABCDE遺伝子はエルゴチオネイン合成遺伝子としてMycobacterium属細菌に認められ、egtBとegtDのホモログ遺伝子もMethylobacterium属細菌を含んだ多くの真核生物や細菌において認められている。egtABCDE遺伝子はヒスチジンをエルゴチオネインに変換するタンパク質をコード化する遺伝子である。しかしながら、Methylobacterium属細菌等のこれらの遺伝子を持つ微生物が、実際にエルゴチオネイン合成能を有しているかどうか、またそれら微生物のエルゴチオネインの生産性については解明されていない。
【0007】
微生物中には、炭素数を1つだけ含む化合物を炭素源として利用するC1化合物資化性菌(メチロトローフ、methylotroph)がある。C1化合物資化性菌の代謝開始物質としてのC1化合物とは、メタノール(methanol)、メチルアミン(methyl amine)などが挙げられる。C1化合物資化性菌に関し、エルゴチオネインの生合成に係る報告はない。C1化合物資化性菌の微生物として、Methylobacterium属細菌が報告されている(特許文献3)。Methylobacterium属細菌はメタノールを単一炭素源として利用可能なグラム陰性細菌であり、植物の表面に多くみられる。M. extorquens AM1株をモデルとしてメタノール代謝経路について研究が進んでいる。Methylobacterium属細菌はMxaFとXoxFのメタノール脱水素酵素を保持している(非特許文献3)。ここでは、MxaFの破壊株は通常の培地ではメタノールに生育できないが、希土類元素であるランタンの存在下で生育することが報告されている。これはXoxFがランタンを補欠分子属として含むメタノール脱水素酵素であることによる(非特許文献4)。一方、XoxFの遺伝子破壊株はAM1株ではカルシウム存在下メタノールへの生育が遅れ、MxaFの発現にXoxF1が必要であることが示唆されている(非特許文献5)。
【0008】
また分裂酵母のSchizosaccharomyces pombeについて、グルコースを枯渇した条件下でのメタボローム解析を行ったところ、代謝産物としてエルゴチオネインが生成されることが報告されている(非特許文献6)。しかしながら、酵母のエルゴチオネイン合成能について詳細な解析は行われておらず、特に出芽酵母によるエルゴチオネイン合成に関する報告はない。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2012-105618号公報
【特許文献2】特開2006-160748号公報
【特許文献3】特許第5394259号公報
【0010】

【非特許文献1】J. Biol. Chem. 1956, 223: 9-177
【非特許文献2】J Am Chem Soc. 2010 May 19;132(19):6632-3
【非特許文献3】PLoS ONE, 7, e50480 (2012) DOI: 10.1371/journal.pone.0050480
【非特許文献4】J Biosci Bioeng, 111, 547-549 (2011) DOI: 10.1016/j.jbiosc.2010.12.017
【非特許文献5】J Bacteriol, 193, 6032-6038 (2011) DOI:10.1128/JB.05367-11
【非特許文献6】PLoS One. 2014; 9(5): e97774. DOI: 10.1371/journal.pone.0097774
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、安全性が高く、容易にエルゴチオネイン(Ergothioneine: 以下「EGT」という。)を産生し、製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、C1化合物資化性細菌及び/又は酵母の細胞内代謝物をメタボローム解析により解析したところ、C1化合物資化性細菌及び/又は酵母がEGTを産生しうることを見出した。選別された菌をC1化合物またはグリセリンを含む培地を用いて培養したところ、C1化合物またはグリセリンを炭素源としてEGTを産生しうることから、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.C1化合物資化性細菌及び/又は酵母を、炭素源を含む培地を用いて培養し、エルゴチオネインを産生する工程を含む、エルゴチオネインの製造方法。
2.C1化合物資化性細菌及び/又は酵母を、炭素源としてメタノール、メチルアミン及び/又はグリセリンを含む培地を用いて培養し、エルゴチオネインを産生する工程を含む、前項1に記載のエルゴチオネインの製造方法。
3.C1化合物資化性細菌が、Methylobacterium属細菌である、前項1または2に記載の製造方法。
4.酵母が、Rhodotorula属の酵母である、前項1~3のいずれか1に記載の製造方法。
5.培地中の炭素源が、0.1~5 %の濃度で含有される、前項1~4のいずれか1に記載の製造方法。
6.培地中にアンモニウム塩が、0.2~2.0 g/Lの濃度で含有される、前項1~5のいずれか1に記載の製造方法。
7.培地中にアンモニウム塩として、塩化アンモニウム又はリン酸二水素アンモニウムが含有される、前項1~6のいずれか1に記載の製造方法。
8.以下の工程を含む、エルゴチオネインの製造方法:
1)前項1~7のいずれか1に記載の方法でC1化合物資化性細菌及び/又は酵母を培養する工程;
2)前記培養したC1化合物資化性細菌及び/又は酵母を熱処理し、産生したエルゴチオネインをC1化合物資化性細菌菌及び/又は酵母から抽出する工程。
9.C1化合物資化性細菌が、受託番号NITE BP-02088、NITE BP-02089、およびNITE BP-02090としてそれぞれ寄託されたMethylobacterium属のC1化合物資化性細菌より選ばれたものである、前項1~8のいずれか1に記載のエルゴチオネインの製造方法。
10.酵母が、受託番号NITE BP-02171、およびNITE BP-02172としてそれぞれ寄託されたRhodotorula属の酵母より選ばれたものである、前項1~9のいずれか1に記載のエルゴチオネインの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のC1化合物資化性細菌及び/又は酵母でEGTを産生させる方法によれば、C1化合物またはグリセリン等を炭素源として培養することで培養期間が7日間で菌体内にEGTを蓄積させることができる。菌体を培養する培地にメチオニンの添加の必要もない。また培養した菌を熱処理することで菌体からEGTを容易に抽出することができ、菌体を破砕したり有機溶媒を用いる必要がなく、簡便かつ安全にEGTを産生、精製、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】M. aquaticum strain MA-22Aゲノム上のEGT産生に係る遺伝子(egtABCED)の配置を示す図である。
【図2】Methylobacterium属細菌の各菌株について、HPLC分析(波長:254nm)によりEGT産生を定量した結果を示す図である。(実施例1)
【図3】メタノール・ミネラル培地中の炭素源を変えたときのM. aquaticum strain MA-22AによるEGT産生を定量した結果を示す図である。(実施例2)
【図4】メタノール・ミネラル培地中の、メタノールの添加濃度を変えたときのM. aquaticum strain MA-22AによるEGT産生を定量した結果を示す図である。(実施例3)
【図5】メタノール・ミネラル培地中の、窒素源を変えたときのM. aquaticum strain MA-22AによるEGT産生を定量した結果を示す図である。(実施例4)
【図6】メタノール・ミネラル培地中の、窒素源濃度を変えたときのM. aquaticum strain MA-22AによるEGT産生を定量した結果を示す図である。(実施例5)
【図7】メタノール・ミネラル培地中に添加するアミノ酸を変えたときのM. aquaticum strain MA-22AによるEGT産生を定量した結果を示す図である。(実施例6)
【図8】メタノール・ミネラル培地中に添加するNH3の有無によるM. aquaticum strain MA-22AでのEGT産生能及びpHの変化を確認した結果を示す図である。(実施例7)
【図9】ergBD-欠損変異株(ΔergBD)におけるEGTの産生能をHPLCにて解析した結果を示す図である。(実施例8)
【図10】M. aquaticum strain MA-22Aの野生型株及びΔergBDについて、培地中のメタノール濃度を変えたときの菌の増殖を確認した結果を示す図である。(実施例9)
【図11】M. aquaticum strain MA-22A細胞中のアミノ酸含量を解析した結果を示す図である。(実施例10)
【図12】M. aquaticum strain MA-22Aを大量培養したときの菌の増殖及びEGTの産生量を示す図である。(実施例11)
【図13】メタノール・ミネラル培地中にメチオニンを添加したときの、M. aquaticum strain MA-22AによるEGT産生を定量した結果を示す図である。(実施例12)
【図14】M. aquaticum strain MA-22Aを培養し、菌体から熱処理によりEGTを抽出した抽出液について、EGTおよび他のアミノ酸量を解析した結果を示す図である。(実施例13)
【図15】M. aquaticum strain MA-22Aを培養し、菌体から熱処理によりEGTを抽出した抽出液について、タンパク質をSDS-PAGE分析した電気泳動結果を示す図である。(実施例13)
【図16】メタノールまたはグリセリンを添加した培地で培養したときの、M. aquaticum strain MA-22AによるEGT産生能を確認した結果を示す図である。(実施例14)。
【図17】様々な植物から収集したMethylobacterium属細菌をメタノールまたはグリセリンを添加した培地で培養したときの、各細菌のEGT生産能を確認した結果を示す図である。(実施例15)
【図18】グリセリンを添加した培地で培養したときの、Methylobacterium属の各細菌のEGT生産能を確認した結果を示す図である。(実施例15)
【図19】メタノールを添加した培地で培養したときの、Methylobacterium属の各細菌のEGT生産能を確認した結果を示す図である。(実施例15)
【図20】メタノールを添加した培地で培養したときの、酵母によるEGT産生能を確認した結果を示す図である。(実施例16)
【図21】グリセリンを添加した培地で培養したときの、酵母によるEGT産生能を確認した結果を示す図である。(実施例16)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、C1化合物資化性細菌及び/又は酵母をメタノール(CH3OH)、メチルアミン(CH3NH2)及び/又はグリセリン(C3H5(OH)3)等の炭素源を含む培地を用いて培養することを特徴とするEGTの産生方法及び製造方法に関する。本明細書においてEGTとは、以下の式(I)で表されるアミノ酸の一種である。
【化1】
JP2016104437A1_000003t.gif

【0017】
EGTは、C1化合物資化性細菌及び/又は酵母をメタノール、メチルアミン及び/又はグリセリン等の炭素源を含む培地を用いて培養し、EGTを菌体内に産生させる工程を含むことにより製造することができる。さらに、EGTを菌体内に産生したC1化合物資化性細菌及び/又は酵母を熱処理し、EGTをC1化合物資化性細菌及び/又は酵母から抽出することができる。上記抽出工程の後、得られたEGTを精製しても良い。

【0018】
本明細書において「C1化合物資化性細菌」とは、炭素を1つだけ含む化合物(例えばメタノール及び/又はメチルアミン等)の資化性を有する細菌(資化性菌)をいい、より好適にはメタノールの資化性菌をいう。メタノールの代謝経路に関わる遺伝子や酵素は細菌によって異なるが、多くの場合はメタノールを二酸化炭素まで酸化しエネルギーを得、ホルムアルデヒド又は二酸化炭素を固定して菌体構成成分を合成する。メタノールは一連のアルコールの中で最も単純な分子構造を有し、食糧と競合しない炭素源となりうる安価な供給材料である。メタノールは、石炭又は天然ガスの部分酸化で製造した一酸化炭素(CO)に、酸化銅-酸化亜鉛/アルミナ複合酸化物等を触媒として工業的に容易に産生され得る。なお本明細書における発明における「C1化合物資化性細菌」には、C1化合物以外も炭素源として利用可能である細菌も含まれる。

【0019】
本明細書においてC1化合物資化性細菌として、具体的にはMethylobacterium属細菌が挙げられる。Methylobacterium属細菌としては、例えばM. aquaticumM. oryzaeM. extorquensM. radiotoleransM. nodulansM. extorquensM. brachiatum、、M. adhaesivumM. aerolatumM. aminovoransM. cerastiiM. fujisawaenseM. hispanicumM. komagataeM. marchantiaeM. oxalidisM. populiM. rhodesianumM. rhodinumM. soliM. tardumM. thiocyanatumM. zatmaniiなどが挙げられる。本発明におけるC1化合物資化性細菌は、好気性菌である。より好ましくは、M. aquaticum strain MA-22A(平成19年11月28日(国内受託日)に寄託されたFERM P-21449より、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)においてブダペスト条約に基づく国際寄託に移管した国際受託番号FERM BP-11078により示される細菌)、M. brachiatum strain 99d、M. brachiatum strain z1b、M. brachiatum strain z1e(それぞれ、平成27年7月15日(国内受託日)に寄託されたNITE P-02088、NITE P-02089、NITE P-02090より、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 112号室)においてブダペスト条約に基づく国際寄託に移管した受託番号NITE BP-02088、NITE BP-02089、NITE BP-02090により示される細菌)から選択される細菌である。

【0020】
本明細書において「酵母」とは、炭素源の存在下でエルゴチオネインを産生し得るものであれば特に限定されない。本明細書における酵母は出芽酵母が好ましい。より好ましくは不完全酵母類であり、具体的にはRhodotorula属、Cryptococcus属などの酵母が挙げられる。Rhodotorula属の酵母としては、例えばRhodotorula mucilaginosaRhodotorula glutinisなどが挙げられる。より好ましくは、Rhodotorula mucilaginosa z41c、Rhodotorula mucilaginosa z41d(それぞれ、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 112号室)においてブダペスト条約に基づき平成27年12月4日に国際寄託された、受託番号NITE BP-02171、NITE BP-02172により示される酵母)から選択される酵母である。またCryptococcus属の酵母としては、例えばCryptococcus flavescensCryptococcus phenolicusCryptococcus terreusなどが挙げられる。

【0021】
本発明における培地中の炭素源は、本発明のC1化合物資化性細菌及び/又は酵母、例えばMethylobacterium属細菌及び/又はRhodotorula属の酵母が利用可能な炭素源を含むことが必要である。炭素源としては、例えばC1~C5化合物、好ましくはC1~C3化合物が挙げられる。また好ましくはC1~C5のアルコール、カルボン酸、エステル、アミン、または塩化物が挙げられ、より好ましくはC1~C5のアルコールまたはアミンが挙げられる。C1~C5化合物としては、具体的にはメタノール、メチルアミン、グリセリン、エタノール、乳酸、イソアミルアルコール、メチル酢酸、ジクロロメタン、ピルビン酸、フマル酸等が例示される。本発明において、培地中の炭素源として、C1化合物及び/またはグリセリンを含むことがより好ましい。C1化合物は、具体的にはメタノール及び/又はメチルアミンが挙げられ、好適にはメタノールが挙げられる。培地中に含有される炭素源濃度は0.1~5 %であり、好ましくは0.5~3 %であり、最も好ましくは約2 %である。 メタノールは上述の通り、食糧と競合しない炭素源となりうる安価な供給材料である。またグリセリンは油脂からバイオディーゼルを合成した際の副産物または廃棄物としても合成される安価な供給材料である。本明細書において、成分の濃度を表す「%」は、成分が液体である場合は「容量%(v/v%)」であり、成分が固体である場合は「重量%(w/v%)」を意味する。

【0022】
本発明における培地中の無機窒素源は、本発明のC1化合物資化性細菌及び/又は酵母、例えばMethylobacterium属細菌及び/又はRhodotorula属の酵母が利用可能な窒素源を含むことが必要であり、例えばアンモニウム塩を含むことが必要である。具体的には塩化アンモニウム(NH4Cl)及び/又はリン酸二水素アンモニウム((NH4)H2PO4)が挙げられる。培地中に含有されるアンモニウム塩の濃度は0.2~2.0 g/Lの濃度で含有されるのが好適である。

【0023】
本発明における培地中のミネラル成分は、本発明のC1化合物資化性細菌及び/又は酵母、例えばMethylobacterium属細菌及び/又はRhodotorula属の酵母が利用可能なミネラル成分を含むことが必要であり、例えば塩化アンモニウムや硫酸マグネシウムなどが挙げられる。

【0024】
本発明における培地に含まれるその他の成分としては、ビタミン類が挙げられる。ビタミンの種類としてはビタミンB類、例えば、塩酸チアミン(ビタミンB1)、ビタミンB2、塩酸ピリドキシン(ビタミンB6)、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、p-アミノ安息香酸(葉酸の前駆体)、ビオチン、イノシトール等が挙げられる。

【0025】
本発明において、EGT産生のためのC1化合物資化性細菌及び/又は酵母の培養条件は、EGTを産生し、菌が死滅しにくい条件から適宜選択することができる。培養は、好ましくは28℃付近で培養することができる。培養期間はEGTを産生し、菌が死滅しにくい条件であれば特に限定されない。例えばメタノール2 容量%を含む液体培地を用いて28℃で培養した場合にEGTが菌体内に蓄積され、菌が死滅しない状態で維持可能であれば、菌の増殖が平衡状態を維持した状態であっても培養を継続することができる。具体的には培養期間を7日以上とすることができ、30日間培養により菌の増殖が平衡状態を維持した状態でも、菌体内のEGT量は増加し続けるのであれば、培養を継続することができる。培養条件の最適化には、例えば7日間の培養で生産量を比較検討することができる。

【0026】
本発明のC1化合物資化性細菌の内、特にMethylobacterium属細菌の場合は、ゲノム上のEGT産生に係る遺伝子としてegtABCDEが挙げられる。例えば、M. aquaticum strain MA-22AにおいてegtBDが直列でコードされ、egtA、C及びEが異なる位置でコードされている(図1参照)。egtBD遺伝子はEGT産生に重要な遺伝子である。例えばM. aquaticum strain MA-22AでのegtBD遺伝子欠損株の場合、細胞増殖率は野生型に比べてやや増加するが、EGTは全く産生しない。

【0027】
本発明のC1化合物資化性細菌及び/又は酵母の培養により菌体内に蓄積したEGTは、菌体から抽出し、精製することができる。菌体からのEGTの抽出は、例えば熱抽出方法により行うことができる。熱抽出は、菌体を水に懸濁したものを60~98℃、好ましくは80~98℃、例えば約95℃で約10分間処理することにより行うことができる。精製法としては、自体公知の方法や今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、HPLCの手法により精製することができる。

【0028】
従来の方法によりEGTを産生及び精製する方法に比べて、本発明の方法は以下の点で特に優れている。例えば特許文献1(特開2012-105618号公報)ではタモギタケ(Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)から抽出したEGTについて、最適条件で生産量が450 mg/Lに達することが報告されているが、背景技術の欄で示したように、菌の培養期間が長いこと(一次培養14日、二次培養14日)、菌体からのEGTの抽出に有機溶媒を用いていること、培地中にメチオニンを添加している等、培養及び抽出方法に関し、コストなどについて問題が残されている。一方、本発明のC1化合物資化性細菌及び/又は酵母で産生させる方法によれば、菌の培養期間は短く、菌体からのEGTの抽出には有機溶媒を用いる必要もない。菌体を培養する培地にメチオニンの添加の必要もない。
【実施例】
【0029】
以下に本発明についてより理解を深めるために実施例を示して説明するが、本発明はこれら実施例の記載のみに限定されるものでないことはいうまでもない。
【実施例】
【0030】
(実施例1)各菌株によるEGTの産生
まず初めに、Methylobacterium属細菌のうちゲノム情報が公知の各菌株について、EGTの産生を確認した。
【実施例】
【0031】
(1)菌株
Methylobacterium属細菌ではM. oryzae DSM18207、M. aquaticum strain MA-22A(国際受託番号FERM BP-11078)、M. extorquens (NRBC15687T)、M. radiotolerans (IAM12098T)、及びM. extorquens strain AM1 (ATCC14718)について、EGTの産生能を確認した。
【実施例】
【0032】
(2)メタノール・ミネラル培地
メタノール・ミネラル培地は、ミネラル塩溶液(200 mL)、緩衝液(300 mL)、鉄溶液(0.33 mL)、TE溶液(1 mL)、ビタミン溶液(10 mL)と、メタノール及び水からなり、各溶液を各々殺菌した後混合して調製した。各溶液の組成は、以下の通りである。
・ミネラル塩溶液:1 L当たりNH4Cl 8.09 g及びMgSO4・7H2O 1.0 g
・緩衝液:1 L当たりK2HPO4 8.0 g及びNaH2PO4・H2O 3.6 g
・鉄溶液:1 L当たりFeSO4・7H2O 13.9 gを1 M塩酸に溶解
・ビタミン溶液:1 L当たりパントテン酸カルシウム0.4 g、イノシトール0.2 g、ナイアシン0.4 g、p-アミノ安息香酸0.2 g、塩酸ピリドキシン0.4 g、塩酸チアミン0.4 g、ビオチン0.2 g及びビタミンB12 0.2 g
・メタノールは異なる濃度で用いた。
・エタノール、コハク酸、グルコースを用いるときはメタノールの代わりに所定の濃度用いた。
【実施例】
【0033】
(3)各菌株の培養
各菌株のうち、Methylobacterium属細菌は、3 容量%のメタノールを含むメタノール・ミネラル培地を用い、7日間培養した。M. aquaticum strain MA-22Aは、0.5 容量%のメタノールを含むメタノール・ミネラル培地を用い、28℃で7日間培養した。
【実施例】
【0034】
(4)EGTの産生能の確認
液体培地中で培養した各菌を25℃で12000×g、10分間遠心処理を行い、得られた菌体を0.85 重量% NaClを用いて洗浄した。菌の湿重量を計測し、記録した。菌の湿重量10~50 mgあたりに1 mLの水を加え、95℃で10分間処理し、菌体内のEGTを抽出した。細胞の懸濁液をミキサー(Vortex)を用いて1600rpmで30分処理し、その後25℃で14000×g、10分間遠心処理して上清を得、細胞片を除去した。得られた上清を0.2μmフィルターで膜ろ過し、ろ過物についてEGTの産生量を測定した。
【実施例】
【0035】
本実施例では、EGT量はAsahipak NH2P-50カラムを用いたHPLCで定量した。溶出液A(0.1 容量%トリエチルアミン、50 mMリン酸ナトリウムバッファー: pH 7.3)及び溶出液B(100 mM NaCl)の濃度勾配液を用いてEGTを溶出した。EGT量は、波長254 nmの吸光度で測定した。本測定条件ではEGTは約6.1 minに溶出が認められた。
【実施例】
【0036】
上記、各菌株におけるEGTの産生量を図2に示した。各菌株をメタノール・ミネラル培地で7日間培養した結果、EGTを約200~約800μg/g湿重量の値で産生することが確認された。M.oryzae DSM18207でのEGTの産生量が最も高く、 M. aquaticum strain MA-22Aは次に高い値であった。
【実施例】
【0037】
(実施例2)各種炭素源の違いによるEGT産生量
M. aquaticum strain MA-22Aについて、培地中の炭素源及びその濃度を変えた場合のEGTの産生能を確認した。
【実施例】
【0038】
実施例1に示すメタノール・ミネラル培地に、メタノール(Methanol: 0.5 容量%、1 容量%、2 容量%、3 容量%)、又はメタノールに代替する炭素源としてエタノール(Ethanol: 0.5 容量%、1 容量%、1.5 容量%)、コハク酸(Succinate: 1 重量%、2 重量%、3 重量%)、グルコース(Glucose: 0 重量%、1 重量%、2 重量%、3 重量%)のいずれかを含む培地、あるいはLB(Luria-Bertani medium)培地に炭素源としてメタノール(Methanol: 0 容量%、1 容量%、2 容量%、3 容量%)のいずれかを含む培地(LB+Methanol)、又はクエン酸ナトリウムとグルタミン酸を炭素源として含むミネラル培地であるMycobacterium属細菌用のMiddlebrook 7H9培地にメタノール(Methanol: 0 容量%、1 容量%、2 容量%、3 容量%)のいずれかを含む培地(7H9+Methanol)のいずれか5 mLを用い、28℃で7日間培養した。
【実施例】
【0039】
EGT産生量は実施例1に示す方法でHPLCにより定量した。炭素源の違いによりEGT産生量の違いが認められた(図3)。炭素源がメタノールの場合に湿重量当たりのEGTの産生量が最も高かった。
【実施例】
【0040】
(実施例3)メタノール濃度を変えた場合のEGT産生量及び菌の増殖
M. aquaticum strain MA-22Aについて、培地中のメタノール濃度を変えたときのEGTの産生能を確認した。培養は実施例1に示すメタノール・ミネラル培地に各濃度のメタノール(0.5 容量%、1 容量%、2 容量%又は3 容量%)を含む培地を100 mL用い、28℃で38日間行なった。EGT産生量は実施例1に示す方法でHPLCにより定量した。
【実施例】
【0041】
メタノール濃度の違いによりEGT産生量の違いが認められた(図4)。培地中のメタノール濃度が2 容量%の場合に湿重量当たりのEGTの産生量が最も高く、培養を継続することで菌体内にEGTの蓄積が認められた。一方、EGTの蓄積量と菌の増殖は一致しておらずメタノールの濃度によらず3-7日で培養は定常期に達し、それ以降培養液の濁度は増加しないが、菌体当たりのEGT蓄積量は、特にメタノール濃度が2又は3 容量%の時に増加を続けた。この実験では2 容量%メタノールを用いたときに最大1 mg/100 mL培養液(1.2 mg/g 湿重量菌体、6.3 mg/g 乾燥重量菌体)の生産性を示した。
【実施例】
【0042】
(実施例4)窒素源の種類を変えた場合のEGT産生量
M. aquaticum strain MA-22Aについて、培地中の窒素原を変えた場合のEGTの産生能を確認した。
【実施例】
【0043】
実施例1に示すメタノール・ミネラル培地の窒素源として、含まれるNH4Clを他の窒素化合物に変更して培養を行った。NH4Cl、(NH4)2HPO4、(NH4)H2PO4、(NH4)2SO4、(NH4)NO3のいずれかを0.4 g/L含む培地5 mLを用い、28℃で7日間培養した。EGT産生量は実施例1に示す方法でHPLCにより定量した。窒素原として(NH4)H2PO4又はNH4Clを用いた場合に高いEGT産生量を認めた(図5)。
【実施例】
【0044】
(実施例5)NH4Cl濃度を変えた場合のEGT産生量
M. aquaticum strain MA-22Aについて、培地中のNH4Cl濃度を変えたときのEGTの産生能を確認した。実施例1に示すメタノール・ミネラル培地に各濃度のNH4Cl(0.025、0.05、0.1、0.2、0.4、0.6、0.8、1.2、2.0、4.0又は6.0 g/L)を含む培地を5 mL用い、28℃で7日間培養した。EGT産生量は実施例1に示す方法でHPLCにより定量した。培地中のNH4Cl濃度の違いによりEGT産生量の違いが認められ、0.4~1.2 g/Lの場合に培地5 mL当たりの産生量が最も高かった(図6)。
【実施例】
【0045】
(実施例6)培地にアミノ酸を添加した場合のEGT産生量
M. aquaticum strain MA-22Aについて、培地に様々な濃度のアミノ酸を添加したときのEGTの産生能を確認した。実施例1に示すメタノール・ミネラル培地に各濃度のヒスチジン(His)及び/又はシステイン(Cys)を含む培地を5 mL用い、28℃で7日間培養した。EGT産生量は実施例1に示す方法でHPLCにより定量した。ヒスチジン及びシステインは、EGTの前駆体である。ヒスチジン及びシステインをそれぞれ10 mM含む場合に培地5 mL当たりの産生量が最も高かった(図7)。
【実施例】
【0046】
(実施例7)窒素源有無によるEGT産生量
M. aquaticum strain MA-22Aについて、培養中に炭素源であるメタノールと窒素源である塩化アンモニウムを消費してしまうと、さらなる増殖が期待できないこと及び培地のpHが下がり増殖を妨げることが考えられたため、培養4、8及び11日目にアンモニアとメタノールを追加する検討を行った。実施例1に示すメタノール・ミネラル培地100 mLでM. aquaticum strain MA-22Aを培養し、10 容量%水酸化アンモニウム水溶液を1 mL(終濃度窒素源として0.1 容量%)及び2 mL のメタノール(終濃度2 容量%)を追加してEGT量と培地pHを測定した。28℃で15日間培養した。EGT産生量は実施例1に示す方法でHPLCにより定量した。添加した場合はpHを中性付近に維持できるがEGT産生量は培養8~11日目をピークとし、その後低下傾向を示したのに対し、添加しない場合はpHが5以下に下がるものの培養期間が15日であってもEGT産生量は増加し続けた(図8)。
【実施例】
【0047】
(実施例8)EGT産生に係る遺伝子
MycobacteriumにおけるegtABCDE遺伝子と相同性を持つ遺伝子を、M. aquaticum strain MA-22Aゲノム中にBLAST解析によって探索した。M. aquaticum strain MA-22AにおいてegtBD(contig 199)が直列でコードされ、egtA、C及びEが異なる位置でコードされていることが確認された(図1)。M. aquaticum strain MA-22Aの中のEGTの機能を解明するために、相同組換えによってergBD-欠損変異株(ΔergBD)を構築した。ΔergBDのEGT産生能を実施例1に示す方法でEGTの抽出処理を行い、HPLCにより定量した。その結果を図9に示した。波長254nmの吸光度測定によるHPLC解析において、標準EGT(100μM)及び野生型M. aquaticum strain MA-22Aの抽出物では6.2分の位置でEGTが検出されたが、ΔergBDの抽出物ではEGTは認められなかった。このことより、egtBD遺伝子はEGT産生に必要な遺伝子であると考えられた。
【実施例】
【0048】
(実施例9)メタノール濃度を変えた場合の菌の増殖
M. aquaticum strain MA-22Aの野生型株及びΔergBDについて、培地中のメタノール濃度を変えたときの菌の増殖を確認した。実施例1に示すメタノール・ミネラル培地に各濃度のメタノール(0.5 容量%、1 容量%、2 容量%又は3 容量%)を含む培地を200μL用い、各菌株について96ウェルプレートで28℃で300時間培養した。菌体量は波長600nmでの吸光度(OD600)測定により定量した。その結果、ΔergBDは1 容量%-3 容量%のメタノールを含む培地で野生株よりも良好な生育を示した(図10)。
【実施例】
【0049】
(実施例10)細胞中のアミノ酸含量の解析
M. aquaticum strain MA-22Aを、実施例1と同様にして、0.5 容量%メタノールを含むメタノール・ミネラル培地100 mLを用いて7日間培養した。培養液の内10 mLについてEGT産生量を実施例1に示す方法でHPLCにより定量した。残りの培養液は、細胞中のアミノ酸含量測定のために用いた。菌体をメタノールで抽出し、抽出物をAmberliteTM CR1310NA(4 mL 樹脂)を用いて精製した後乾燥させ、再度水に溶解した試料について、高速アミノ酸分析計(Hitachi L-8500B)を用いてアミノ酸含量を分析した。その結果、M. aquaticum strain MA-22A菌体中に占めるEGT量はアルギニン量とほぼ同等量含まれていることが確認された(図11)。
【実施例】
【0050】
(実施例11)大量培養によるEGT産生
M. aquaticum strain MA-22Aを、実施例1と同様にして、0.5 容量%メタノールを含むメタノール・ミネラル培地200 mLを用いて7日間予備培養した後、2 容量%メタノールを含むメタノール・ミネラル培地10 Lを用いて28℃で66日間培養した。通気量440 mL/分で100rpm撹拌しつつ培養を行った。pHは調整しなかった。培養液20 mL又は50 mLを時折採取し、菌の湿重量及びEGT産生量を定量した。EGT産生量は、培養31日目がピークで15.8 mg/10 Lに達した。EGTの産生量は徐々に低下したが、菌体量はあまり減少しなかった。実施例3の結果に比べて生産性が低かったが、スケールアップによる培養槽の空気の撹拌等の影響があったと考えられた(図12)。しかしながら、培養条件の改善により大量培養によるEGT産生量の向上が期待できる。
【実施例】
【0051】
(実施例12)メチオニン添加によるEGT産生への影響
M. aquaticum strain MA-22Aを、実施例1と同様にして、2 容量%メタノール及び0, 10μM, 100μM, 1 mMのメチオニンを含むメタノール・ミネラル培地5 mLを用いて28℃で7日間培養し、実施例1に示す方法でEGT産生量をHPLCにより定量した。
その結果、1 mMのメチオニン添加によりEGT産生量の増加が見られた(図13)。本発明においては、培地にメチオニンの添加しない場合であってもEGTを生産可能であるが、メチオニンを好適な濃度で添加することにより、EGTをより良好に生産できることがわかった。
【実施例】
【0052】
(実施例13)菌体からの熱抽出物のアミノ酸組成とタンパク濃度及び組成
実施例10に示したアミノ酸含量は菌体内のアミノ酸をメタノールで抽出したものである。本実施例では、培養菌体から実施例1に示す熱抽出により得られたEGT含有溶液について、アミノ酸組成を調べた。培養した菌、培地、および培養条件は実施例10と同様である。熱抽出は実際の菌体からのEGT精製に適していると考えられる。アミノ酸組成の分析方法は、実施例10と同様である。
その結果、菌体中にはEGT以外にも通常のアミノ酸が含まれており、メタノールで抽出したものより組成は少し異なるものの、EGTが最も多く含まれる点は共通していた(図14)。また上記方法による熱抽出により、菌体からアミノ酸だけでなく、タンパク質も抽出されると考えられたことから、SDS-PAGE法によりタンパク質を分析した。その結果、サンプルは約0.28 mg/mlのタンパク質を含み(牛血清アルブミンをスタンダードとしたBradford法による)、その分子量の多くは10 kDa以下の低分子量のタンパク質を含むことが分かった(図15)。
【実施例】
【0053】
(実施例14)グリセリンを炭素源としたEGT生産
実際のEGT生産を考慮し、メタノール以外の炭素源としてグリセリンを用いた。実施例1に示す方法で、メタノールを0.5, 1, 2容量%グリセリンに変更し、M. aquaticum strain MA-22Aを同様に培養、EGT抽出を行った。
その結果、2容量%グリセリンを用いるとメタノールを用いた際の生産性とほぼ同量の生産性を示した(図16)。
【実施例】
【0054】
(実施例15)メタノールまたはグリセリンを炭素源としたEGT生産
自然界から分離したMethylobacterium属細菌のライブラリ(PLoS ONE 7(7): e40784. doi:10.1371/journal.pone.0040784 (2012))を用い、2容量%メタノールまたは2容量%グリセリンを炭素源として実施例1に示す方法で培養、EGT抽出を行った。
その結果、M. aquaticum strain MA-22Aは実施例14に示した結果と同様に、どちらの炭素源でもEGT生産性は変わらなかった(図17)。メタノールを用いるとM. aquaticum strain MA-22Aよりも生産性の高い菌株が見つかったが、それらのグリセリンによる生産性はM. aquaticum strain MA-22Aに及ばなかった(図18及び図19)。図18及び図19において、棒グラフがEGT産生性、ひし形が細胞湿重量を示す。なお、Methylobacterium属細菌のライブラリのうち、M. brachiatum strain 99d、M. brachiatum strain z1b、M. brachiatum strain z1eについて、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 112号室)に、NITE P-02088、NITE P-02089、NITE P-02090の受託番号にて国内寄託を行い(国内受託日:平成27年7月15日)、ブダペスト条約に基づき国際寄託に移管を行った(受託番号NITE BP-02088、NITE BP-02089、NITE BP-02090)。
【実施例】
【0055】
(実施例16)酵母によるEGT生産
自然界から分離した酵母であるRhodotorula mucilaginosa z41c、Rhodotorula mucilaginosa z41d、Cryptococcus flavescens z64b(PLoS ONE 7(7): e40784. doi:10.1371/journal.pone.0040784 (2012))について、EGTの産生能を確認した。これらの酵母を2%メタノールまたは2%グリセリンを炭素源として、実施例1に示す方法で培養、EGT抽出を行った。
【実施例】
【0056】
結果を図20及び図21に示す。図20及び図21において、棒グラフがEGT産生性、ひし形が細胞湿重量を示す。図20に示すようにメタノールを含む培地により培養することにより、Rhodotorula mucilaginosa z41c、Rhodotorula mucilaginosa z41d、Cryptococcus flavescens z64bのいずれの株にもEGT生産性が見いだされた。またRhodotorula mucilaginosa z41c、Rhodotorula mucilaginosa z41d、Cryptococcus flavescens z64bいずれも、グリセリンを含む培地を用いた場合に、メタノールを含む培地を用いた場合よりも高いEGT生産性が確認された。
Rhodotorula mucilaginosa z41c, Rhodotorula mucilaginosa z41dについて、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 112号室)に、NITE BP-02171、NITE BP-02172の受託番号にて国際寄託を行った(受領日:平成27年12月4日)
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上詳述したように、本発明のC1化合物資化性細菌及び/又は酵母で産生させる方法によれば、C1化合物及び/又はグリセリン等を炭素源として培養することで、培養期間が7日間で菌体内にEGTを産生させることができる。また培養した菌を熱処理することで菌体からEGTを抽出することができ、菌体を破砕したり有機溶媒を用いる必要がなく、容易かつ安全にEGTを産生、精製、製造することができる。係る方法によれば、従来の方法によりEGTを産生及び精製する方法に比べて培養に要する費用を軽減化でき、抽出等の操作が簡便であるとともに、精製して得られたEGTは安全性が高く、優れたものである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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