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明細書 :水素の液化促進法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3765050号 (P3765050)
公開番号 特開2003-089501 (P2003-089501A)
登録日 平成18年2月3日(2006.2.3)
発行日 平成18年4月12日(2006.4.12)
公開日 平成15年3月28日(2003.3.28)
発明の名称または考案の名称 水素の液化促進法
国際特許分類 C01B   3/00        (2006.01)
F25J   1/00        (2006.01)
FI C01B 3/00 Z
F25J 1/00 C
請求項の数または発明の数 7
全頁数 17
出願番号 特願2001-274461 (P2001-274461)
出願日 平成13年9月11日(2001.9.11)
審査請求日 平成14年8月27日(2002.8.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】笠井 秀明
【氏名】中西 寛
【氏名】ディニョ、ウイルソン、アンジェリコ
【氏名】ムヒダ、リフキ
個別代理人の代理人 【識別番号】100110168、【弁理士】、【氏名又は名称】宮本 晴視
審査官 【審査官】繁田 えい子
参考文献・文献 特開平11-188878(JP,A)
Wilson Agerico Dino,Rotational polarization and filtering of hydrogen molecules by metal surface isotope effect,Surface Science,1999年,vol.427-428,p.358-363
調査した分野 C01B 3/00
F25J 1/00
CA(STN)
JICSTファイル(JOIS)
特許請求の範囲 【請求項1】
オルソ水素とパラ水素が混在する原料水素を動的量子フィルター効果を持つ手段へ供給し、前記量子フィルター効果を持つ手段によりカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けし、該ラベル付け水素分子のいずれもがカートホイール型回転でパラ水素に変換するオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に衝突する手段により、オルソ・パラ変換させる工程を含むことを特徴とする水素の液化方法。
【請求項2】
該飛行速度ラベル付けされた水素分子のいずれもがパラ水素に変換するオルソ・パラ変換反応触媒作用表面にカートホイール型回転で衝突する手段は、該ラベル飛行速度別に選別する飛行時間選別手段であることを特徴とする請求項1に記載の水素の液化方法。
【請求項3】
飛行時間選別手段は飛行速度ラベル付け工程からの水素分子供給口に対して変位した回転軸を有する円筒の表面に間隔を持って取り付けられた螺旋状羽を有し、該円筒の回転により該螺旋状羽の間隙に供給される飛行速度ラベル付けされた水素分子の飛行速度の違いにより、該螺旋状羽の表面を利用してオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対して前記選別された水素をカートホイール型回転で接近反応させることを特徴とする請求項2に記載の水素の液化方法。
【請求項4】
オルソ水素とパラ水素が混在する原料水素をカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けする工程が解離吸着、原子状水素の浸透および会合脱着する手段を利用するものであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の水素の液化方法。
【請求項5】
会合脱着することにより該飛行速度ラベル付けする手段が水素分子を表面にに吸着させた場合分子が解離し水素原子状で吸着する性質をもつCu、Al、Ag、Pd、Pt、Ir、Niからなる群から選択される金属又は前記金属をベースとする合金の膜からなるものであることを特徴とする請求項4に記載の水素の液化方法。
【請求項6】
オルソ水素とパラ水素が混在する原料水素をカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けする工程が活性化障壁を有する表面の散乱を利用するものであることを特徴とする請求項1、2または3に記載の水素の液化方法。
【請求項7】
活性化障壁を有する表面の散乱を利用して原料水素を該飛行速度ラベル付けする手段が水素吸着に対して活性化障壁があるCu、Al、Agからなる群から選択される金属表面または前記金属をベースとする合金表面を有する手段からなるものであることを特徴とする請求項6に記載の水素の液化方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、公知のオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に供給する水素分子を予め水素分子の軸が該オルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対して垂直に(カートホイール型回転水素分子として)衝突するようにしたことを特徴とするオルソ・パラ変換反応に配向依存性があることを利用した水素の効率的な液化方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、水素ガスをより高温で、かつ高圧の条件、換言すればより緩和された条件において液化するための手段は色々と提案されている。
例えば、吸着材の存在下で水素ガスを冷却していくと、吸着材の存在しない状態での水素ガスの液化条件よりも高温かつ低圧で水素ガスが液化することができることが報告されている(特開2001-12693)。
水素にはスピン間の角運動量の違いに基づくパラ水素とオルソ水素とがあり、常温では、オルソ水素とパラ水素の比は3:1である。低温ではパラ水素のエネルギーの方が低いため、全てがパラ水素となる。しかし、一般にこの変換速度は遅く、オルソ水素からパラ水素への自然転換の時定数は、数日から数十日が一般的であり、そのまま冷却液化すると、後から徐々にオルソ・パラ変換が生じ、そこで発生する変換熱のため液化水素はたちまち蒸発するという不都合があった。
【0003】
パラ水素とオルソ水素との比率は温度に依存するとともに、平衡状態に到達する時間は温度や圧力に依存するので、ある時刻でのパラ水素濃度をp(t)、その温度における平衡状態のパラ水素濃度をpeq、最初のパラ水素濃度をp0、時間をt、時定数をτとすると、
p(t)=(p0-peq)exp(-t/τ)+peq・・・(1)と表される。
このように、公知の触媒作用表面を利用して効率よくオルソ・パラ変換をしても、得られる水素ガスは温度に依存する、平衡状態まで達成する時間を短縮するだけで、依然として高い比率でオルソ水素を含んでいる。
【0004】
そして、液化の際にパラ水素とオルソ水素が混じっていることは、液化そのものの効率を低下させると共に、液化後の管理にも前記のような不都合がある。
したがって、前記不都合を改善するためには、液化前のパラ水素比率を100%に近づける手段を見出すことが前記不都合を取り除くには重要である。
【0005】
ところで、本発明者らは、金属(Cu、Pdなど)面から脱着してくる水素は該表面から脱着する際様々な速度を持つこと、そして、その速度の違いの現象は、脱着する水素分子の回転軸が吸着表面に対して水平(カートホイール型回転)であるか、または垂直(ヘリコプター型回転)であるかと関連することを確認したことを報告している〔文献、1,Surface Science 418巻(1998年),L39-L44頁、2、Journal of the Physical Society of Japan 67巻,5号,(1998年),1517-1520頁、3、Surface Science 427-428巻(1999年),358-363頁〕。この現象を動的量子フィルター効果と称する。すなわち、吸着表面からの脱着時の速度が小さい水素分子は、回転軸が表面に対して平行であり、その状態をカートホイール型回転〔図1(a)〕といい、脱着時の速度が大きい水素分子は、回転軸が表面に対して垂直であり、この状態をヘリコプター型回転〔図1(b)〕という(現象B)。
このような現象は、脱着する水素分子だけでなく、金属表面で分子が散乱される場合にも起こることを本発明者らは確認している〔散乱における動的量子フィルター効果:文献、4、Journal of the Physical Society of Japan 69巻,12号(2000年),3878-3884頁〕。但し、散乱の場合は、脱着の場合とは、逆に速度の小さな分子がヘリコプター型回転をし、速度の大きな分子がカートホイール型回転をする(現象B’)。
【0006】
前記文献1では、Cu(111)表面から脱着してくる水素分子が、脱着時の最終的なエネルギー移動により、分子の飛行速度の増加に伴ってカートホイール型回転が優位な状態からヘリコプター型回転が優位な状態へと変わって行くことが説明されている。動的量子フィルター効果によって前記回転状態と飛行速度に前記の関連を有して脱着する現象(現象B)を起こすことを、理論計算結果から説明している。
前記文献2では、Pd(111)表面でも、前記現象Bがおこること、および、Cu(111)表面における現象Bの温度依存性等の詳細な特性を理論計算結果から説明している。
前記文献3では、同位体効果、すなわち、水素分子が軽水素か、重水素かにより前記現象Bが、どのようになるかについて調べ現象Bの特性を明らかにしている。
前記文献3では、一度吸着せずとも、単に表面に水素分子を当て,跳ね返ってきた(散乱)水素分子にも前記現象Bと類似の現象(現象B’)がおこることを理論計算結果から説明している。
前記のように、吸着表面からの脱着および金属等の表面での散乱の際、それぞれの分子が、それぞれの水素分子の回転型に固有の飛行速度領域内の速度を持つことを、水素分子の飛行速度のラベル付けという。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前記従来のオルソ・パラ水素変換触媒によりパラ水素に変換して水素ガスを液化する時のオルソ・パラ水素変換効率を改善した水素ガスの液化方法を提供することである。
本発明者らは、前記水素ガスの液化をする際のオルソ・パラ水素変換効率、特に、オルソ・パラ水素変換速度を促進する方法に、換言すれば、オルソ・パラ水素が混在する水素を液化する場合に起こる前記不都合を取り除くのに、前記本発明者らが提案してきた表面から脱着する水素分子または表面で散乱される水素分子の現象Bおよび現象B’による分子回転軸の配向の違いを利用できないかと考え、鋭意検討する中で、前記脱着時または散乱時に、表面に対する水素分子の回転軸の配向に関連して前記水素分子の速度に違いがあることを発見し、この違いを利用して、カートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けをし、該飛行速度ラベル付けされた水素分子の飛行速度の違いを利用して、水素をオルソ・パラ水素変換触媒作用表面に、オルソ・パラ水素変換効率の良い分子回転軸配向で供給する手段を開発することにより、前記不都合を取り除いた効率的な水素の液化が可能であることを確証し、前記本発明の課題を解決することができた。
【0008】
【課題を解決するための手段】
基本発明は、オルソ水素とパラ水素が混在する原料水素を、動的量子フィルター効果を持つ手段へ供給し、前記量子フィルター効果を持つ手段から会合脱着または散乱により水素分子を前記脱着表面または散乱表面に対してカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けする(現象BまたはB’を利用)工程、および該飛行速度ラベル付けされた水素分子のいずれもがパラ水素に効率良く変換するオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対してカートホイール型回転で接近反応させる工程を有することを特徴とする水素の液化方法である。好ましくは、該飛行速度ラベル付けされたカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子をオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対してカートホイール型回転で接近反応させる工程が該ラベル飛行速度別に選別する飛行時間選別手段を用いることを特徴とする前記水素の液化方法であり、より好ましくは、飛行時間選別手段は該飛行速度ラベル付け工程からの水素分子供給口に対して変位した回転軸を有する円筒の表面に間隔を持って取り付けられた螺旋状羽を有し、該円筒の回転により該螺旋状羽の間隙に供給される飛行速度ラベル付けされた水素分子の飛行速度の違いにより、該螺旋状羽の表面を利用して前記飛行速度ラベル付けされた水素をオルソ・パラ変換反応触媒の作用表面に対してカートホイール型回転で接近反応させる機能を有するものであることを特徴とする前記各水素の液化方法である。
【0009】
応用発明の第1は、前記各基本発明において、オルソ水素とパラ水素が混在する原料水素をカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けする工程が、水素分子の解離吸着、原子状水素の浸透拡散および会合脱着することにより水素分子をカートホイール型回転分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子として飛行速度ラベル付けする手段を利用するものであることを特徴とする水素の液化方法であり、好ましくは、会合脱着することにより水素分子をカートホイール型回転分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子として飛行速度にラベル付けする工程が水素分子を表面に吸着させた場合分子が解離し水素原子状で吸着する性質をもつCu、Al、Ag、Pd、Pt、Ir、Niからなる群から選択される金属または前記金属をベースとする合金の膜からなるものであることを特徴とする前記第1の応用水素の液化方法である。
【0010】
応用発明の第2は、前記各基本発明において、該オルソ水素とパラ水素が混在する原料水素をカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付する工程が吸着に対して活性化障壁を有する表面での散乱を利用するものであることを特徴とする水素の液化方法であり、好ましくは、活性化障壁を有する表面散乱を利用して原料水素をカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けする工程が水素吸着に対して活性化障壁があるCu、Al、Agからなる群から選択される金属または前記金属をベースとする合金の表面を有する手段からなるものであることを特徴とする前記第2の応用水素の液化方法である。
【0011】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
A.本発明の特徴を図面を参照しながら説明する。
図2は、表面に吸着していた水素原子が表面から離れて出てくる時、すなわち脱着時〔図2(a)〕に原子が会合し分子となってでてくる現象、および吸着に対する活性化障壁より低い運動エネルギーをもつ水素分子を表面に当て跳ね返ってきた水素分子、すなわち表面散乱時〔図2(b)〕に表面から水素分子が来る現象を説明するものであり、本発明において、動的量子フィルター効果を持つ手段を用いてカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けする工程に採用されている手段を説明するものである。
ここで、注意すべきことは、応用発明の第1で利用する現象Bでは脱着速度の小さな分子がカートホイール型回転をし、速度の大きな分子がヘリコプター回転をしており、応用発明の第2で利用する現象B’では逆に散乱速度の小さな分子がヘリコプター型回転をし、速度の大きな分子がカートホイール型回転をしていることである。
【0012】
図3の2にあるオルソ水素とパラ水素が混在する原料水素をカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けする手段の一例を示す。該手段は水素のオルソ・パラ変換前処理手段として、図4に示す、供給された水素分子1を解離吸着し、水素原子として浸透し、他方の面で水素分子として会合脱着する機能をする動的量子フィルターQFが配置されている。この前処理手段は、ある速度(しきい値、Vc)より速い分子はヘリコプター型で回転し、遅い分子は型でカートホイール回転し脱着する。これにより、QFの脱着表面に対しカートホイール型回転水素分子、ヘリコプター型回転水素分子および中間型回転水素分子に対応する飛行速度にラベル付けされる。すなわちQFの脱着表面に対しヘリコプター型回転水素分子はVcより大きな飛行速度、カートホイール型回転水素分子はVcより小さな飛行速度、中間型回転水素分子はVcに等しい飛行速度をもつ。動的量子フィルターQFは水素分子を表面に吸着させた場合分子が解離し水素原子状で吸着する性質をもつCu、Al、Ag、Pd、Pt、Ir、Niからなる群から選択される金属又は前記金属をベースとする合金からなる薄膜(数百μm厚)により構成される。
【0013】
このように、該飛行速度ラベル付けされた水素分子は、図3および図5に示される水素分子注入口Enから、距離rの所に回転軸4を持ち、該回転軸4により回転(毎秒f回転)する円筒に適当な間隔を置いて螺旋状に取り付けられた選別羽HBが設けられた構造に設計された飛行時間選別手段に注入される。
【0014】
前記回転軸4を持つ円筒の表面に適当な間隔を置いて螺旋状に取り付けられた選別羽HBが設けられた構造に設計された飛行時間選別手段は、一態様としては、図6に示される構造である。螺旋選別羽HBは軸中心から半径r位置(水素分子注入口が配置された位置)で、回転軸4に平行に距離a進むのことに対し、円周方向に距離b進む傾斜をもって円筒に取りつけられる(図6(a))。この時、関係式a:b=Vc:2π×r×fを満たすよう設計されている。該螺旋選別羽HBの水素分子を注入する側の面をSF、その裏側の面をSBとする。図6(b)に示すようにSF側には、円筒より放射方向に平行かつ回転軸4に平行な補助選別羽HSFを取りつけ、SB側には、回転軸4に垂直な補助選別羽HSBを取りつける。また、補助選別羽HSFおよびHSBの水素分子が衝突する面は、オルソ・パラ変換反応触媒作用表面により形成されている。
【0015】
これにより、注入された水素分子は、水素注入口Enと回転軸4との距離r、回転速度f、との関連で、カートホイール型回転の飛行速度ラベル付けされた水素分子は補助選別羽HSBに衝突し、ヘリコプター型回転の飛行速度ラベル付けされた水素分子は補助選別羽HSF衝突する。その衝突の際、両飛行速度ラベル付けされた水素分子は、補助選別羽表面を形成するオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対してカートホイール型回転で接近反応する為、オルソ・パラ変換が効率的に促進される。残りの中間型回転に飛行速度ラベル付けされた水素分子は選別羽HB及び補助選別羽HSF、HSBに衝突することなく通過し、オルソ・パラ変換反応触媒作用表面CBに衝突し、従来型のオルソ・パラ変換がおこる。
【0016】
これを、図7-9により具体的に説明すると、螺旋選別羽HBは軸中心から半径r位置(水素分子注入口が配置された位置)で、回転軸4に平行に距離a進むのことに対し、円周方向に距離b進む傾斜をもって円筒に取りつけられる(図6(a))。この際、水素分子の注入位置rでの選別羽HBの速度は、回転円周方向にVrot=2π×r×f(図7の6)となる。水素分子は入射時の速度に加え入射方向に垂直な方向に新たに、-Vrotの速度(図7の7)を、選択羽HBに対して持つことになる。水素分子は、円筒回転軸4(図6)と平行方向に速度V(図7の8)で入射される場合、水素分子の羽HBとの相対速度は図7の9に示すVreとなる。a:b=Vc:2π×r×fと設定すると,速度V=Vcで選別羽の間隙に入射した中間型回転の飛行速度ラベル付けされた水素分子は、回転する選別羽HBおよび補助選別羽HSF、HSBに衝突せずに通過(図7)する。通過した中間型回転分子に飛行速度ラベル付けされた水素分子は、オルソ・パラ変換反応触媒作用表面CB(図5)に衝突し、従来型のオルソ・パラ変換がおこる。
【0017】
図8に示す様に、V<Vcなる速度(図8の8’)で入射するカートホィール型回転に飛行速度ラベル付けされた水素分子は、選別羽HBに対し図8の9’に示す角度で飛行し、補助選別羽HSBに衝突する。このとき,衝突面に対し水素分子はカートホィール型で回転している為、オルソ・パラ変換が効率的に促進される。
【0018】
図9に示す様に、V>Vcなる速度(図9の8’’)で入射するヘリコプター型回転に飛行速度ラベル付けされた水素分子は、選別羽HBに対し図9の9’’に示す角度で飛行し、補助選別羽HSFに衝突する、このとき,衝突面に対し水素分子はカートホィール型で回転している為、オルソ・パラ変換が効率的に促進される。〔0014〕~〔0018〕は、飛行速度ラベル付け工程に応用発明の第1(現象B利用)を用いた場合の該飛行速度ラベル付けを用いて、オルソ・パラ変換が効率的に促進される条件でオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に衝突させる飛行時間選別手段の一例である。
【0019】
次に飛行速度ラベル付け工程に応用発明の第2(現象B’利用)を用いた場合の該飛行速度ラベル付けを用いて、オルソ・パラ変換が効率的に促進される条件でオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に衝突させる飛行時間選別手段の一例をしめす。この場合、前記回転軸4(図5)を持つ円筒の表面に適当な間隔を置いて螺旋状に取り付けられた選別羽HBが設けられた構造に設計された飛行時間選別手段は、一態様としては、図10に示されるように、回転軸4を持つ円筒表面に螺旋階段状に折り曲げ整形された選別羽HBが取り付けられた構造である。回転軸4に平行な選別羽の面の長さをa’(螺旋階段の段の高さ)とし、軸中心から半径r位置(水素分子注入口が配置された位置)での回転軸に垂直な選別羽の面の半径方向に垂直な方向の長さをb’(螺旋階段ステップの幅)とした場合、関係式a’:b’=Vc:2π×r×fを満たすよう設計されている。また、選別羽HBの水素分子が衝突する面は、オルソ・パラ変換反応触媒作用表面により形成されている。
【0020】
これにより、注入された水素分子は、水素注入口Enと回転軸4との距離r、回転速度fとの関連で、カートホイール型回転の飛行速度ラベル付けされた水素分子は選別羽螺旋階段のステップ面(S)に衝突し、ヘリコプター型回転の飛行速度ラベル付けされた水素分子は選別羽螺旋階段の立上り面(T)に衝突する。その衝突の際、両飛行速度ラベル付けされた水素分子は、選別羽のオルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対してカートホイール型回転で接近反応する為、オルソ・パラ変換が効率的に促進される。のこりの中間型回転分子に飛行速度ラベル付けされた水素分子は選別羽HBの表面(S及びT)に衝突することなく通過し、オルソ・パラ変換反応触媒作用表面CBに衝突し、従来型のオルソ・パラ変換がおこる。
【0021】
これを、図11-13により具体的に説明すると、選別羽HBは、前記(図10(b))のように、階段状に折り曲げ整形され、円筒回転軸4に平行な面(螺旋階段の立上り面T)の円筒回転軸4に平行な長さはa’、円筒回転軸4に垂直な面(螺旋階段のステップ面S)の円周方向の長さはb’とされている。この際、水素の注入位置rでの選別羽HBの速度は、回転円周方向にVrot=2π×r×f(図11の6)となる。水素分子は入射時の速度に加え入射方向に垂直な方向に新たに、-Vrotの速度(図11の7)を、選択羽HBに対して持つことになる。水素分子は、円筒回転軸4(図10)と平行方向に速度V(図11の8)で入射される場合、水素分子の羽HBとの相対速度は図11の9で示すVreとなる。a’:b’=Vc:2π×r×fと設定すると,速度V=Vcで入射した中間型回転分子に飛行速度ラベル付けされた水素分子は、回転する選別羽HBに衝突せずに通過する(図11)。通過した中間型回転水素分子に飛行速度ラベル付けされた水素分子は、オルソ・パラ変換反応触媒作用表面CB(図5)に衝突し、従来型のオルソ・パラ変換がおこる。
【0022】
図12に示す様に、V<Vcなる速度で入射するヘリコプター型回転に飛行速度ラベル付けされた水素分子は、選別羽HBの螺旋階段状の立上り面(T)に衝突する、このとき,衝突面に対し水素分子はカートホィール型で回転している為、オルソ・パラ変換が効率的に促進される。
【0023】
図13に示す様に、V>Vcなる速度で入射するカートホィール型回転に飛行速度ラベル付けされた水素分子は、選別羽HBの螺旋階段状のステップ面(S)に衝突する、このとき,衝突面に対し水素分子はカートホィール型で回転している為、オルソ・パラ変換が効率的に促進される。
【0024】
図14は、動的量子フィルター効果を持つ手段QFから取り出されるカートホイール型回転水素分子およびヘリコプター型回転水素分子を、本発明の飛行時間選別手段中で、オルソ・パラ変換触媒作用表面に対してカートホイール型回転で接近反応させる機能を原理的に説明するものである。飛行速度ラベル付け工程に応用発明の第1(現象B利用)を用いた場合〔0017〕によりQFに対しカートホイール型回転水素分子は、補助選別羽HSBに対しカートホイール型回転をして衝突反応し〔図14(a)〕、〔0018〕によりQFに対しヘリコプター型回転水素分子は、補助選別羽HSFに対しカートホイール型回転をして衝突反応する〔図14(b)〕。飛行速度ラベル付け工程に応用発明の第2(現象B’利用)を用いた場合〔0023〕によりQFに対しヘリコプター型回転水素分子は、選別羽HBの表面Tに対しカートホイール型回転をして衝突反応し〔図14(b)〕、〔0024〕によりQFに対しカートホイール型回転水素分子は、選別羽HBの表面Sに対しカートホイール型回転をして衝突反応する〔図14(a)〕。
動的量子フィルター効果を持つ手段QFから取り出されるカートホイール型回転水素分子およびヘリコプター型回転水素分子の両方とも衝突面に対し水素分子はカートホィール型で回転している為、オルソ・パラ変換が効率的に促進される。QFに対し中間型回転をする残りの水素分子は、〔0016〕および〔0022〕によりオルソ・パラ変換反応触媒作用表面CB(図5)に衝突し、従来型のオルソ・パラ変換がおこる。水素の液化における、オルソ・パラ変換反応触媒作用表面の配向依存性を巧みに利用して、水素の液化を促進させている。
これに対して、図15は、前記飛行時間選別手段を通過しないで、したがって、水素分子を選別して配向することなくオルソ・パラ変換触媒作用表面に衝突させる従来の場合を説明するものである。オルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対して分子軸を垂直にする水素分子〔図15(a)〕、平行にするもの〔図15(b)〕、およびその間のものが均等に存在し、有効にオルソ・パラ変換されるものは、そのうち垂直のものだけである。
【0025】
【実施例】
実施例1
前記水素液化前の処理の有効性を示すために、具体例を示す。
会合脱着することにより該飛行速度ラベル付けする手段におけるQF及び現象Bの具体例を示す。図16および図17は、Cu(111)から会合脱着してくる重水素分子の回転方向配列指数Aの脱着水素分子の並進運動エネルギー依存性を水素分子の回転量子数jが1から7(文献1のFig.2を抜粋)および8から14(文献1のFig.3を抜粋)までの場合について示したものである。回転方向配列指数とは、脱着表面の法線方向の回転量子数をjzとするとき、A=(3Jz2-j2)/j2で定義される量であり、A>0の場合は脱着表面に対し水素分子はヘリコプター型回転をし、A<0の場合は脱着表面に対し水素分子はカートホィール型回転をしていることを示す指標である。
この図から速度ラベル付けの閾値Vcを評価した結果を表1および2に示す。
【0026】
【表1】
JP0003765050B2_000002t.gif
【0027】
【表2】
JP0003765050B2_000003t.gif
【0028】
図18は、Cu(111)から会合脱着してくる水素分子の回転方向配列指数Aの脱着水素分子の並進運動エネルギー依存性における水素分子の回転量子数jが11の場合の同位体効果を示したものである(文献3のFig.2を抜粋)。この図から重水素と軽水素の場合の速度ラベル付けの閾値Vcを評価した結果を表3に示す。
重水素の場合と同様に軽水素においても現象2が存在し、同様に飛行速度ラベル付けが可能であることが示された。
【0029】
【表3】
JP0003765050B2_000004t.gif
【0030】
水素吸着に対して活性化障壁がないPd、Pt、Al、Ni等からなる群から選択される金属表面または前記金属をベースとする合金表面から会合脱着してる水素分子においては、Ecは0であり、Vc=0となる。
【0031】
この場合(Vc=0)、QFから脱着してくる水素分子は全てQFに対しヘリコプター型回転をしている。そこで、選別羽HBを、円筒から放射状にかつ回転軸4に平行に取りつけた平板とした、図19に示す形状の飛行時間選別装置を用いる。
【0032】
水素分子が表面から脱着する場合のjの分布は、用いる表面および温度に依存する。図20に表面温度570KのPd(110)面から脱着する軽水素のjの分布〔L. Schroer, R.David and H.Zacharias; Surface Science 258巻(1991年)259-268頁のFig.3を参照〕を示す。この例の場合、j=0に比べj=3の水素分子の量は4桁低いものとなりj>2の水素分子は、殆ど存在しない。j=0およびj=2は、パラ水素の為、変換の必要が無い。j=1のオルソ水素をパラ水素に変換するためには、この例の場合j=1の飛行速度ラベル付け閾値Vcを用いれば良い。なお、j=1の場合、カートホイール型回転分子(jz=0)とヘリコプター型回転水素分子(jz=1及び-1)のみで、中間型回転水素分子は存在しない。
【0033】
オルソ・パラ変換反応触媒作用表面に対して水素分子がカートホイール型回転をして該表面に接近する場合とヘリコプター型回転をして接近する場合のオルソ・パラ変換確率の水素分子と該表面間距離Z依存性の理論計算結果を図21に示す。図21は、水素分子の回転運動エネルギーが、15.2meVの場合(このとき、j=1である。)、jzは、-1、0、1の3通りをとりうる。jZ=0がカートホィール型回転で、jZ=-1と1の場合がヘリコプター型回転である。
ヘリコプター型で回転している分子(○)のオルソ-パラ変換確率は,ほぼゼロであり、カートホィール型で回転している分子(●)の優位性は、明らかである。なお若干、ヘリコプター型で回転している分子においても、オルソ・パラ変換確率が有限である領域が見出される(Z=0.5Bohr付近)。これは、ヘリコプター型回転から一度カートホィール型回転に変換した後に、オルソからパラに変換する高次過程によって生じている。高次過程は、一般に極めて確率が低い為、この様にヘリコプター型で回転する分子のオルソ-パラ変換確率は、極めて低いものとなる。
j=1の場合、jZ=0のカートホィール型で回転する分子と、jZ=-1およびj=1のヘリコプター型で回転する分子の存在比は、1:2であるから、オルソ-パラ変換の前にヘリコプター型回転をカートホィール型回転に変換しておけば、オルソ-パラ変換確率は従来の約3倍になる。
【0034】
【発明の効果】
以上述べたように、液化前の水素を本発明の方法により、オルソ・パラ変換触媒作用表面に対する水素分子の回転軸の配向を制御することにより、公知のオルソ・パラ変換触媒作用表面を用いる水素の液化を促進できるという優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 表面から脱着するカートホイール型回転水素分子(a)およびヘリコプター型回転水素分子(b)の説明
【図2】 表面に吸着していた水素原子の会合脱着現象(a)および飛来する水素分子の表面散乱現象(b)の説明
【図3】 本発明の方法を実施するための一態様装置
【図4】 応用発明1(現象B利用)の場合の飛行速度ラベル付け手段の一例の構造
【図5】 飛行時間選別手段の一例の内部構造
【図6】(a)飛行時間選別手段の回転軸4を持つ円筒表面に螺旋状に選別羽HBを取り付けた構造、(b)選別羽HBにとりつけられた補助選別羽HSFおよびHSBの構造(選別羽HB一枚抜粋)
【図7】 飛行時間選別手段による飛行速度Vとその分子の処理の関係、V=Vcなる飛行速度ラベル付けされた水素分子の処理の工程
【図8】 飛行時間選別手段によるV<Vcなる飛行速度ラベル付けされた水素分子の処理の工程(a)拡大図(b)
【図9】 飛行時間選別手段によるV>Vcなる飛行速度ラベル付けされた水素分子の処理の工程(a)拡大図(b)
【図10】飛行速度ラベル付け手段に応用発明の第2(現象B’利用)を用いた場合の(a)飛行時間選別手段の回転軸4を持つ円筒表面に螺旋階段状に折り曲げ整形された選別羽HBを取り付けた構造、(b)選別羽HBの詳細構造(選別羽HB一枚抜粋)
【図11】 飛行速度ラベル付け手段に応用発明の第2(現象B’利用)を用いた場合の飛行時間選別手段による飛行速度Vとその分子の処理の関係、V=Vcなる飛行速度ラベル付けされた水素分子の処理の工程
【図12】 飛行速度ラベル付け手段に応用発明の第2(現象B’利用)を用いた場合の飛行時間選別手段によるV<Vcなる飛行速度ラベル付けされた水素分子の処理の工程
【図13】 飛行速度ラベル付け手段に応用発明の第2(現象B’利用)を用いた場合の飛行時間選別手段によるV>Vcなる飛行速度ラベル付けされた水素分子の処理の工程
【図14】 本発明で実現される、動的量子フィルターQFからのカートホイール型回転水素分子(a)およびヘリコプター型回転水素分子(b)のオルソ・パラ変換触媒作用表面へのオルソ・パラ変換に有効な衝突形態の説明
【図15】 従来型のオルソ・パラ変換触媒作用表面への水素分子の衝突の説明
【図16】Cu(111)から会合脱着してくる重水素分子の回転方向配列指数Aの脱着水素分子の並進運動エネルギー依存性、j=1~7の場合の理論計算結果
【図17】Cu(111)から会合脱着してくる重水素分子の回転方向配列指数Aの脱着水素分子の並進運動エネルギー依存性、j=8~14の場合の計算計算結果
【図18】Cu(111)から会合脱着してくる重水素分子および軽水素分子の回転方向配列指数Aの脱着水素分子の並進運動エネルギー依存性、j=11の場合の理論計算結果
【図19】Vc=0の場合の飛行時間選別手段における回転軸4を持つ円筒表面に取り付けた選別羽HBの構造(a)、その詳細(b)(選別羽HB一枚抜粋)
【図20】表面温度570KのPd(110)面から脱着する軽水素のjの分布の実験結果を示す
【図21】j=1のカートホイール型回転分子とヘリコプター型回転分子のオルソ・パラ変換確率の計算結果
【符号の説明】
1 原料水素
2 飛行速度ラベル付けをする手段の容器(応用発明1(現象B利用)の場合)
3 飛行時間選別手段の容器
4 飛行時間選別手段の回転軸
5 生成されたパラ水素
En 飛行時間選別手段の容器への飛行速度ラベルつき水素分子注入口
Ex 飛行時間選別手段の容器からの生成パラ水素回収孔
QF 動的量子フィルター
B 動的量子フィルター処理後の飛行速度ラベル付けされた水素分子
HB 螺旋状選別羽
SF 螺旋状選別羽の水素分子を入射する側の面(飛行速度ラベル付けに応用発 明1(現象B利用)を用いる場合)
SB 螺旋状選別羽の水素分子を入射する側の裏面(飛行速度ラベル付けに応用 発明1(現象B利用)を用いる場合)
HSF 螺旋状選別羽のSFに取りつける補助選別羽(飛行速度ラベル付けに応用発明1(現象B利用)を用いる場合)
HSB 螺旋状選別羽のSBに取りつける補助選別羽(飛行速度ラベル付けに応用発明1(現象B利用)を用いる場合)
S 選別羽の螺旋階段のステップ面(飛行速度ラベル付けに応用発明2(現象B’利用)を用いる場合)
T 選別羽の螺旋階段の立上り面(飛行速度ラベル付けに応用発明2(現象B’利用)を用いる場合)
CB オルソ・パラ変換反応触媒作用表面(中間型回転水素分子用)
H 水素原子
MA 水素分子の回転軸
r 水素の注入位置Enと回転軸4との距離
a、b 螺旋選別羽HBの取りつけ勾配をあらわす。螺旋選別羽HBは軸中心から半径r位置(水素分子注入口が配置された位置)で、回転軸4に平行に距離a進むのことに対し、円周方向に距離b進む傾斜をもって円筒に取りつけられる。
(飛行速度ラベル付けに応用発明1(現象B利用)を用いる場合)
a’ 螺旋階段状選別羽の回転軸に平行な面の長さ (飛行速度ラベル付けに応用発明2(現象B’利用)を用いる場合)
b’ 螺旋階段状選別羽の回転軸に垂直な面の軸中心から半径r位置での円周方向の長さ(飛行速度ラベル付けに応用発明2(現象B’利用)を用いる場合)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
14
【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20