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明細書 :微生物測定装置とそのために使用される微生物測定用電極チップ、及び微生物測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3869686号 (P3869686)
公開番号 特開2003-000223 (P2003-000223A)
登録日 平成18年10月20日(2006.10.20)
発行日 平成19年1月17日(2007.1.17)
公開日 平成15年1月7日(2003.1.7)
発明の名称または考案の名称 微生物測定装置とそのために使用される微生物測定用電極チップ、及び微生物測定方法
国際特許分類 C12M   1/34        (2006.01)
C12Q   1/06        (2006.01)
G01N  27/02        (2006.01)
G01N  27/06        (2006.01)
G01N  27/447       (2006.01)
G01N  33/02        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
G01N  33/483       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
G01N  33/543       (2006.01)
G01N  33/569       (2006.01)
FI C12M 1/34 D
C12Q 1/06
G01N 27/02 D
G01N 27/06 A
G01N 27/06 Z
G01N 27/26 301Z
G01N 27/26 331Z
G01N 33/02
G01N 33/48 M
G01N 33/483 E
G01N 33/53 Y
G01N 33/543 521
G01N 33/569 B
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2001-192652 (P2001-192652)
出願日 平成13年6月26日(2001.6.26)
審査請求日 平成16年6月11日(2004.6.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】末廣 純也
個別代理人の代理人 【識別番号】100103621、【弁理士】、【氏名又は名称】林 靖
審査官 【審査官】斎藤 真由美
参考文献・文献 特開2001-013148(JP,A)
調査した分野 C12M 1/00-3/10
C12Q 1/00-70
C12N 1/00ー9/99
C12P 1/00-41/00
G01N 33/50ー98
PubMed、MEDLINE(STN)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
特許請求の範囲 【請求項1】
試料液を収容することができる測定チャンバーと、
前記測定チャンバー内の試料液に浸漬され、不平等電界を発生して第1の誘電泳動により該試料液に含有される複数種類の微生物を濃縮し、この濃縮された微生物と抗体とを反応させたときに第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより前記抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、このときのインピーダンスを測定することができる一対の電極と、
前記電極間に交流電圧を印加する誘電泳動用電源部と、
前記電極間のインピーダンスを測定することができる測定部と、
前記誘電泳動用電源部と前記測定部の制御を行う演算制御部と、
測定対象の微生物毎に測定制御データと検量線データを格納した測定用テーブルが格納されたメモリ部と、
前記電極間で濃縮された微生物に対して抗原抗体反応させるための抗体液を前記測定チャンバーに供給する抗体液供給部とを備え、
前記演算制御部が、前記誘電泳動用電源部によって第1の交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、前記抗体供給部から抗体液を供給して前記特定の微生物と特異的に反応させ、該特定の微生物には前記流動作用に伴う流体力より大きな誘電泳動力を作用させるとともに、前記他の微生物には前記流動作用に伴う流体力より小さな誘電泳動力を作用させる第2の交流電圧を印加し、前記特定の微生物を凝集するとともに前記他の微生物を分離し、前記測定部によって測定した前記電極間のコンダクタンス変化から前記特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定装置。
【請求項2】
前記抗体液供給部が、抗体液を収容した抗体液タンクと、前記測定チャンバーに抗体液を導入する抗体液供給管と、該抗体供給管に設けられた抗体液バルブを備えて、複数種類の微生物を濃縮した後に抗体液を前記測定チャンバーに供給することを特徴とする請求項1に記載の微生物測定装置。
【請求項3】
前記測定チャンバーには攪拌装置が設けられ、試料液の攪拌を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の微生物測定装置。
【請求項4】
前記測定チャンバーには洗浄液の洗浄管が設けられるとともに、前記洗浄管に洗浄バルブが設けられ、前記演算制御部が時計手段の行う計時に基づいて、前記洗浄バルブを開いて洗浄液を前記測定チャンバーに供給し、流体力で特定の微生物を分離して洗い流すことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の微生物測定装置。
【請求項5】
試料液を収容することができる測定チャンバーと、
前記測定チャンバー内の試料液に浸漬され、不平等電界を発生して第1の誘電泳動により該試料液に含有される複数種類の微生物を濃縮し、この濃縮された微生物と抗体とを反応させたときに第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより前記抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、このときのインピーダンスを測定することができる一対の電極を備えた微生物測定用電極チップと、
前記電極間に交流電圧を印加する誘電泳動用電源部と、
前記電極間のインピーダンスを測定することができる測定部と、
前記誘電泳動用電源部と前記測定部の制御を行う演算制御部と、
測定対象の微生物毎に測定制御データと検量線データを格納した測定用テーブルが格納されたメモリ部とを備え、
前記微生物測定用電極チップには、前記一対の電極の基板上に特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、
前記演算制御部が、前記誘電泳動用電源部によって交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、固相化された抗体と前記特定の微生物とを特異的に反応させて前記第2の誘電泳動力と前記流動作用に伴う流体力によって分離し、前記測定部によって測定した前記電極間のコンダクタンス変化から前記特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定装置。
【請求項6】
抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離するとき、該特定の微生物と前記他の微生物に交流電圧を印加してそれぞれに誘電泳動力を作用させ、該誘電泳動力と前記流動作用に伴う流体力の差を利用して分離することを特徴とする請求項5記載の微生物測定装置。
【請求項7】
請求項6記載の微生物測定装置で使用される微生物測定用電極チップであって、
前記電極間の基板上には特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、
反応した特定の微生物以外の微生物は誘電泳動力より大きい流体力によって分離され、
前記電極間のコンダクタンス変化から前記特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定用電極チップ。
【請求項8】
一対の電極間に交流電圧を印加して複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、濃縮された微生物に抗体液を供給し、該抗体液と特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加え、前記特定の微生物には流体力より大きな誘電泳動力、前記他の微生物には流体力より小さな誘電泳動力を作用させることによって前記特定の微生物を凝集するとともに他の未反応の微生物を分離し、その後前記電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出することを特徴とする微生物測定方法。
【請求項9】
一対の電極間に交流電圧を印加して複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、前記電極間に固相化された抗体特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加え、該第2の誘電泳動力と流体力によって抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、その後前記電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出することを特徴とする微生物測定方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誰でも特定の微生物を選択して簡便且つ定量的に検出することができる微生物測定装置、そのために使用される電極チップ、及び微生物検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、微生物、中でも病原性大腸菌O-157等の悪性の病原菌による集団感染や、食品製造工程での菌混入事件が社会問題の一つとなっている。こうした集団感染や菌混入事件などで直ちに間違いの無い最善の対策をとることは難しく、対策が遅れれば遅れるほど被害が広がって甚大な損害を与えるものである。対策が遅れる最大の理由は、感染の原因である病原菌の究明が迅速且つ高感度に行えないという点にある。従って、病原菌を早期に且つ高感度で検出する新しい技術が切望される所以である。
【0003】
今のところ病原菌を検出する方法としては、コロニーカウント法がもっとも一般的に利用されるものである。すなわち、この方法は、微生物を含有した懸濁液のサンプルを培地上に散布し、この微生物の増殖に伴って形成されるコロニー(集落)の数から生菌数を定量するものである。しかし、このコロニーカウント法は、コロニーが形成されるまでに1日から数日という驚くほどの長時間を必要とし、定量が行えるとはいえ、緊急を要する集団感染や食中毒等では被害の拡大を食い止めることができないものであった。そして、検査用の試料液には複数の細菌が含有されていることがほとんどであり、選択的定量を行うための補助処理なしに特定の細菌を定量することはできないものであった。また、検査対象からのサンプリング、濃縮や希釈、培地への植えつけ、コロニー数(CFU)のカウントなど、専門家による煩雑な手作業が必要である。こうしたことから、検査に必要なランニングコストの上昇や、人為的ミスを招来する可能性も否定できないものであった。
【0004】
なお、本明細書において微生物というのは、一般に細菌、真菌、放線菌、リケッチア、マイコプラズマ、ウイルス等、いわゆる微生物学の対象となっているあらゆる微生物を含んでいる。
【0005】
微生物の選択的定量を行うこのほかの方法として、発光を利用するATP(Adenosine Tri Phosphate)法がある。動物、植物、細菌などの細胞には、必ずATP(アデノシン三リン酸)が含まれているため、検査試料中の細菌内に含まれるATPをATP抽出試薬により抽出し、更に抽出したATPを蛍の酵素(ルシフェラーゼ)により発光させ、発光量を測定することでATP量を検出するものである。微生物中のATP含有量はある一定の数値になっているので、発光強度から推定されるATP量を検出することでサンプルに含まれる菌数を推定するものである。
【0006】
しかし、ATP抽出試薬によるATPの抽出や、酵素を作用させたり、発光量の測定、ATP量の推定等は専門家による高度で複雑な作業が必要で、とても素人が迅速な測定が行えるものではなかった。また、生きている全ての細胞はATPを持っているため、測定に当ってはこれらがバックグラウンドATPとなるため、分離技術が完全でないこともあり検査が不確実になるものであった。そして、この方法は微生物として細菌、酵母、真菌等の区別ができない方法であり、選択的な定量が難しいものであった。
【0007】
さらに、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法がある。ELISA法は、抗体または抗原を酵素により標識化することにより検査対象物質を高感度に測定する方法で、主に臨床検査等で利用されている。プラスチックの表面などの固相に、検査試料液を接触させ、溶液中の検査対象菌を、菌が持つタンパク質を介し吸着させる。その後液相を除いて固相に吸着した細菌だけを残し、ここに目的とする細菌に含まれるタンパク質のみに特異的に反応する抗体の液を加える。最初に加える抗原(細菌)の量と後から加えた抗体の量が適切な範囲にあれば、固相に吸着している抗原の量に応じて抗原抗体反応で結合する抗体の量が変化する。用いる抗体に酵素標識をしておけば、結合した抗体の量に比例して酵素もたくさん存在することになり、酵素反応が 強く起こる。酵素反応によって発色する化学物質を用いれば、色の濃さ(吸光度)を測定することにより結合した抗体の量がわかり、ひいては元々存在した抗原蛋白質(検査対象菌)の量もわかる。
【0008】
しかし、この検査法は、複雑な実験手順を踏まなくてはならず、高度の専門性が要求され、吸光度の測定に適した検査対象濃度を得るために濃縮を行う必要があり、検出には長時間をかけなければならないという欠点がある。また、以上説明したELISA法は抗体に修飾を行って発色を測定するものであるが、同じく抗原抗体反応を利用するもので簡単に肉眼で確認する方法として凝集法、沈降法が存在する。ただ、この凝集法、沈降法で測定するには、高濃度の微生物が必要であり、前段階で培養などにより微生物数を飛躍的に増加させる必要があり、検出にはきわめて長時間を要するものである。
【0009】
次に、PCR(Polymerase Chain Reaction)法は、ポリメラーゼ連鎖反応を利用し、特定の遺伝子の配列を元に、その遺伝子を短時間に何十億も複製する技術である。まず、検査対象からDNAを抽出し、加熱することによりDNAの二重らせん構造をほどき、一本鎖の状態とする。遺伝子は4つの塩基により構成されており、それぞれの塩基は特定の塩基と結合する。この塩基の配列が遺伝子配列というものであり、これに対となる遺伝子の断片(プライマーと呼ばれる)を加える。このプライマーは極めて高い精度で目的とする遺伝子配列と結合し、ここに耐熱性酵素(Taq酵素)を加えることにより、プライマーが一本鎖遺伝子と結合している部位から元の二重らせんDNAを再生させる。この過程を繰り返すことによって、DNAは指数関数的に増加し、蛍光検知装置により検査対象のDNAのみを検出する。しかし、死菌のDNAも増幅させるので、事前に培養の手順を踏み、検査対象の活性を調べる必要がある。そして、この微生物活性を簡易に定量的に測定する方法は確立されていない。また、DNAが爆発的に増加するため、細菌の初期数を推定するのは困難で、定量性に欠けるという問題を有すものであった。
【0010】
従来の技術は、微生物の定量に時間がかかるという致命的な共通の欠点を有しているため、本発明者は、他の研究者らとともに誘電泳動と電気インピーダンスを組み合わせて微生物数を測定する方法(DEPIM法 (Dielectrophoretic Impedance Measurement Method))を提案した。
【0011】
このDEPIM法は、微生物の濃縮プロセスと菌濃度検出プロセスのいずれのプロセスも電気的に行うのが特徴である。濃縮プロセスは、誘電泳動現象(電界中で分極した誘電体粒子に電気的な力が作用し、一定方向に運動する現象)により細菌を集積型マイクロ電極上で濃縮し、菌濃度検出プロセスは、濃縮する時の電極間インピーダンスの変化から菌濃度を定量的に推定するものである(八浪、他:「誘電泳動インピーダンス計測による大腸菌の懸濁濃度測定(1)~原理と装置概要~」、静電気学会講演論文集'99、pp.337~340 (1999);濱田、他:「誘電泳動インピーダンス計測による大腸菌の懸濁濃度測定(2)~懸濁濃度の推定モデル~」、静電気学会講演論文集'99、pp.341~344 (1999))。
【0012】
このDEPIM法で微生物を検出するためには、微生物を誘電泳動力によりマイクロ電極に捕集することが必要である。言い換えれば、誘電泳動力が十分に作用しないような条件下ではマイクロ電極に捕集される菌数が減少するため、検出信号は低下するという特徴を有している。微生物に作用する誘電泳動力FDEPは複素数表現すると、理論的に以下の(数1)で与えられる。
【0013】
【数1】
JP0003869686B2_000002t.gifここで、複素誘電率Kは(数2)で表され、
【0014】
【数2】
JP0003869686B2_000003t.gifまた、懸濁液の複素誘電率εは(数3)で表され、
【0015】
【数3】
JP0003869686B2_000004t.gifε :懸濁液の誘電率
ε :懸濁液の複素誘電率
ε :微生物の複素誘電率
σ 懸濁液の導電率
ω :電界の角周波数
また、
a :球形近似したときの微生物の半径
Re[K] :微生物と懸濁液の複素誘電率に依存するパラメータ
E :電界強度
である。この(数1)(数2)(数3)から明らかなように、懸濁液と微生物の大きさが一定であれば、誘電泳動力FDEPはパラメータRe[K]に比例することがわかる。
【0016】
図8は細胞質導電率をパラメータとするRe[K]の周波数特性図である。図8において、誘電泳動に用いる電界の周波数fをパラメータとして、誘電泳動力を細胞質導電率σiの関数として表している。図8によると、周波数10kHz~1MHzで正の誘電泳動力が働き、それ以外では負の誘電泳動力が働くのがわかる。細胞質導電率σiと周波数fによっては負の誘電泳動力が働き、誘電泳動力FDEPが微生物に作用しても、捕集できない場合があることが分かる。
【0017】
従って、微生物(細胞質導電率σi)の種類に応じて周波数fを選択すると、正の誘電泳動力を作用させて捕集したり、負の誘電泳動力を作用させて排除することも可能である。但し、実際の誘電泳動には懸濁液導電率等の影響も考慮しなければならない。
【0018】
しかし、微生物の種類によって、パラメータRe[K]が正で、他の菌種のそれがすべて負となるようなことはなく、誘電泳動力の正負の振り分けは一般化できることではない。すなわち、微生物固有の誘電特性(誘電率、導電率)を利用して、多種の微生物の混合懸濁液中から特定の微生物のみに選択的に正の誘電泳動力を作用させ、DEPIM法によりその微生物のみを検出することは困難である。
【0019】
また、DEPIM法を実際に応用する場合は、多種且つ未知の種類の微生物が含まれている懸濁液から特定の微生物のみを検出することが要求されることが多いと予想されるが、従来のDEPIM法ではこのような選択的微生物検出は不可能である。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
以上説明したように、従来のコロニーカウント法は、微生物を含有した懸濁液を培地上に散布し、この微生物の増殖に伴って形成されるコロニーの数から生菌数を定量するが、コロニーが形成されるまでに1日から数日という驚くほどの長時間を必要とするものであった。そして、複数の細菌が含有された試料液の場合には、補助処理なしには特定の細菌を選んで定量することはできない。また、専門家による煩雑な手作業が必要であり、検査に必要なランニングコストの上昇や、人為的ミスを招来する可能性すらあった。
【0021】
また、ATP法は、ATP抽出試薬によるATPの抽出や、酵素を作用させたり、発光量の測定、ATP量の推定等は専門家による高度の知識が必要で、測定に時間が要求され、測定に当ってはバックグラウンドが多く、検査が不確実になるものであった。微生物として細菌、酵母、真菌等の区別ができない方法であり、選択的な定量が難しいものであった。
【0022】
そして、ELISA法は、他の方法と同様に複雑な実験手順を踏まなくてはならず、高度の専門性が要求され、吸光度の測定に適した検査対象濃度を得るために濃縮を行う必要があり、検出には長時間をかけなければならないという欠点がある。
【0023】
そして、PCR法は、死菌のDNAも増幅させるため、事前に培養の手順を踏み、検査対象の活性を調べる必要がある。また、DNAが爆発的に増加するため、細菌の初期数を推定するのは困難で、定量性に欠けるという問題を有すものであった。専門性が要求されるのは他の方法以上である。
【0024】
本発明者が他の研究者らとともに提案したDEPIM法は、微生物の濃縮と菌濃度検出のいずれのプロセスも電気的に同時に行うため、専門家が行わなくとも短時間で微生物を定量することができるが、複数種類の微生物を混合した懸濁液の特定の微生物だけに誘電泳動力を作用させて検出することはできないものであった。他の微生物の定量方法が専門家によって長時間の測定を行わざるを得ない中で、DEPIM法だけがこれらを解決できるものであるが、複数種類の微生物が含有された試料液の中で特定の微生物を高感度に定量できるものではなかった。従って、複数種類の微生物が含有された試料液であっても、特定の微生物を迅速、高感度で選択的に定量できる新しい微生物測定装置が切望される。
【0025】
そこで、本発明は、複数種類の微生物が含有された試料液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量できる微生物測定装置を提供することを目的とする。
【0026】
また、本発明は、複数種類の微生物が含有された試料液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量でき安価な微生物測定用電極チップを提供することを目的とする。
【0027】
そして、本発明は、複数種類の微生物が含有された試料液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量できる微生物測定方法を提供することを目的とする。
【0028】
【課題を解決するための手段】
上記の問題点を解決するため本発明の微生物測定装置は、電極間で濃縮された微生物に対して抗原抗体反応させるための抗体液を前記測定チャンバーに供給する抗体液供給部とを備え、演算制御部が、誘電泳動用電源部によって第1の交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、抗体供給部から抗体液を供給して特定の微生物と特異的に反応させ、該特定の微生物には流動作用に伴う流体力より大きな誘電泳動力を作用させるとともに、他の微生物には流動作用に伴う流体力より小さな誘電泳動力を作用させる第2の交流電圧を印加し、特定の微生物を凝集するとともに他の微生物を分離し、測定部によって測定した電極間のコンダクタンス変化から特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする。
【0029】
これにより、複数種類の微生物が含有された試料液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0030】
本発明の微生物測定用電極チップは、電極間の基板上には特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、反応した特定の微生物以外の微生物は流体力で分離され、電極間のコンダクタンス変化から特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする。
【0031】
これにより、複数種類の微生物が含有された試料液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量でき安価な微生物測定用電極チップを提供することができる。
【0032】
本発明の微生物測定方法は、一対の電極間に交流電圧を印加して複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、濃縮された微生物に抗体液を供給し、該抗体液と特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加え、特定の微生物には流体力より大きな誘電泳動力、他の微生物には流体力より小さな誘電泳動力を作用させることによって特定の微生物を凝集するとともに他の未反応の微生物を分離し、その後前記電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出することを特徴とする。
【0033】
これにより、複数種類の微生物が含有された試料液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の発明は、試料液を収容することができる測定チャンバーと、測定チャンバー内の試料液に浸漬され、不平等電界を発生して第1の誘電泳動により該試料液に含有される複数種類の微生物を濃縮し、この濃縮された微生物と抗体とを反応させたときに第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、このときのインピーダンスを測定することができる一対の電極と、電極間に交流電圧を印加する誘電泳動用電源部と、電極間のインピーダンスを測定することができる測定部と、誘電泳動用電源部と測定部の制御を行う演算制御部と、測定対象の微生物毎に測定制御データと検量線データを格納した測定用テーブルが格納されたメモリ部と、電極間で濃縮された微生物に対して抗原抗体反応させるための抗体液を測定チャンバーに供給する抗体液供給部とを備え、演算制御部が、誘電泳動用電源部によって第1の交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、抗体供給部から抗体液を供給し特定の微生物と特異的に反応させ、該特定の微生物には流動作用に伴う流体力より大きな誘電泳動力を作用させるとともに、他の微生物には流動作用に伴う流体力より小さな誘電泳動力を作用させる第2の交流電圧を印加し、特定の微生物を凝集するとともに他の微生物を分離し、測定部によって測定した電極間のコンダクタンス変化から特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定装置であるから、交流電圧を電極間に印加して試料液に含有される複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮するため濃縮のために長時間をかける必要がなく、この濃縮した微生物に特定の微生物と特異的に反応する抗体液を供給し、第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより特定の微生物だけ凝集して他の微生物から分離するから、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0035】
本発明の請求項2に記載の発明は、抗体液供給部が、抗体液を収容した抗体液タンクと、測定チャンバーに抗体液を導入する抗体液供給管と、該抗体供給管に設けられた抗体液バルブを備えて、複数種類の微生物を濃縮した後に抗体液を測定チャンバーに供給することを特徴とする請求項1に記載の微生物活性測定装置であるから、抗体液バルブを操作することにより、濃縮した複数種類の微生物に抗体液を自動的に供給することができる。
【0036】
本発明の請求項3に記載の発明は、測定チャンバーには攪拌装置が設けられ、試料液の攪拌を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の微生物活性測定装置であるから、微生物濃度を均一化し、電極近傍に補修することができる。さらに、抗原抗体反応後に、抗体と特異的に反応した特定の微生物以外の微生物を攪拌による流動によって分離することができる。
【0037】
本発明の請求項4に記載の発明は、測定チャンバーには洗浄液の洗浄管が設けられるとともに、洗浄管に洗浄バルブが設けられ、演算制御部が時計手段の行う計時に基づいて、洗浄バルブを開いて洗浄液を測定チャンバーに供給し、流体力で特定の微生物を分離して洗い流すことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の微生物活性測定装置であるから、抗体と特異的に反応した特定の微生物以外の微生物を洗浄液の流体力で分離することができ、分離した未反応の微生物を洗い流してインピーダンス測定を可能にすることができる。
【0038】
本発明の請求項5に記載の発明は、試料液を収容することができる測定チャンバーと、測定チャンバー内の試料液に浸漬され、不平等電界を発生して第1の誘電泳動により該試料液に含有される複数種類の微生物を濃縮し、この濃縮された微生物と抗体とを反応させたときに第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、このときのインピーダンスを測定することができる一対の電極を備えた微生物測定用電極チップと、電極間に交流電圧を印加する誘電泳動用電源部と、電極間のインピーダンスを測定することができる測定部と、誘電泳動用電源部と測定部の制御を行う演算制御部と、測定対象の微生物毎に測定制御データと検量線データを格納した測定用テーブルが格納されたメモリ部とを備え、微生物測定用電極チップには、一対の電極の基板上に特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、演算制御部が、誘電泳動用電源部によって交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、固相化された抗体と特定の微生物とを特異的に反応させて第2の誘電泳動力と流動作用に伴う流体力によって分離し、測定部によって測定した電極間のコンダクタンス変化から特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定装置であるから、交流電圧を電極間に印加して試料液に含有される複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮するため濃縮のために長時間をかける必要がなく、特定の微生物と特異的に反応する抗体を固相化し、特定の微生物だけ微生物測定用電極チップに固定し第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより他の微生物を分離するから、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0039】
本発明の請求項6に記載の発明は、抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離するとき、該特定の微生物と他の微生物に交流電圧を印加してそれぞれに誘電泳動力を作用させ、該誘電泳動力と流動作用に伴う流体力の差を利用して分離することを特徴とする請求項5記載の微生物測定装置であるから、反応した特定の微生物の集合体と他の微生物の大きさの違いによる差が誘電泳動力と流体力の差に変換され、この差を利用することで分離が簡単且つ迅速に行える。
【0040】
本発明の請求項7に記載の発明は、請求項6記載の微生物測定装置で使用される微生物測定用電極チップであって、電極間の基板上には特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、反応した特定の微生物以外の微生物は流体力で分離され、電極間のコンダクタンス変化から特定の微生物数を算出して出力することを特徴とする微生物測定用電極チップであるから、特定の微生物と特異的に反応する抗体を固相化し、特定の微生物だけ微生物測定用電極チップに固定し、他の微生物を流体力で分離することができ、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することが安価に実現できる。
【0041】
本発明の請求項8に記載の発明は、一対の電極間に交流電圧を印加して複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、濃縮された微生物に抗体液を供給し、該抗体液と特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加え、特定の微生物には流体力より大きな誘電泳動力、他の微生物には流体力より小さな誘電泳動力を作用させることによって特定の微生物を凝集するとともに他の未反応の微生物を分離し、その後電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出することを特徴とする微生物測定方法であるから、交流電圧を電極間に印加して試料液に含有される複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮するため濃縮に長時間をかける必要がなく、この濃縮した微生物に特定の微生物と特異的に反応する抗体液を供給し、第2の誘電泳動と流動作用を加えて特定の微生物だけ凝集して他の微生物を分離するから、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0042】
本発明の請求項9に記載の発明は、一対の電極間に交流電圧を印加して複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、電極間に固相化された抗体特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加え、該第2の誘電泳動力と流体力によって抗体と特異的に反応した特定の微生物だけを残して他の微生物を分離し、その後電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出することを特徴とする微生物測定方法であるから、交流電圧を電極間に印加して試料液に含有される複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮するため濃縮に長時間をかける必要がなく、特定の微生物と特異的に反応する抗体を固相化し、特定の微生物だけ微生物測定用電極チップに固定し第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより他の微生物を分離するから、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
(実施の形態1)
以下、本発明における実施の形態1における微生物検出装置及び微生物検出方法について説明する。図1は本発明の実施の形態1における微生物測定装置の構成図、図2(a)は本発明の実施の形態1における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための濃縮プロセス図、図2(b)は本発明の実施の形態1における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための抗原抗体反応プロセス図、図2(c)は本発明の実施の形態1における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための洗浄プロセス図、図3は本発明の実施の形態1における微生物測定装置の微生物選択可能領域図、図4は本発明の実施の形態1における測微生物定装置の特定の微生物の測定結果図である。
【0043】
図1において、1はDEPIM法 (Dielectrophoretic Impedance Measurement Method)で特定の微生物を測定するために複数の微生物が懸濁液に混合された試料液を収容する測定チャンバー、2は微生物数を測定するための電極部、2a,2bは電極部2に設けられた一対の電極である。本実施の形態1は、この電極2a,2b間で行う後述する誘電泳動によって、微生物の濃縮作用、抗原抗体反応によって凝集した特定の微生物と他の微生物を流体力で分離するための篩い分け作用を行う。
【0044】
すなわち、本実施の形態1の特徴は、誘電泳動によって複数の微生物を含有した試料液を電極2a,2b間に前処理として濃縮し、この前処理で濃縮を終えた微生物に対して特定の微生物と特異的に反応する抗体液を導入する。抗原抗体反応によってこの特定の微生物を凝集させた後、電極2a,2b間に弱い誘電泳動力を作用させながら、後述するように洗浄液の導入と攪拌のいずれかもしくは双方で電極2a,2b上の試料液を流動させ、この流体力と誘電泳動力の関係によって未反応の他の微生物だけを分離除去し、最終的に洗浄液で洗い流す。その後電極2a,2b間で特定微生物数をカウントすることを特徴としている。これらの処理がすべて電極部2の表面で行われる。なお、実施の形態1では、凝集による集合体の大きさの差を利用するものであるが、この大きさの違いは流体抵抗や誘電泳動力等に反映される
【0045】
ここで、上記した複数種類の微生物の中で特定の種類の微生物を分離する前提となる抗原抗体反応処理について説明を行う。特定の微生物に含まれる固有のタンパク質のみに特異的に反応する抗体の液を加えると、抗原抗体反応を起こす。この性質を利用すれば、特定の微生物(抗原)を選択的に検出することが可能となる。本実施の形態1の場合、誘電泳動によって微生物全体を濃縮後、抗原抗体反応により特定の微生物同士を凝集させ、未反応の微生物は凝集しないから、この大きさの違いによって生じる誘電泳動力の差を利用し、洗浄液導入や攪拌の流体力によって特定の微生物だけを残して測定する。従来のように培養することなく、抗原抗体反応を行うのに必要な微生物濃度を誘電泳動力で得るため、短時間で検出することができる。微生物数は電気的なインピーダンス信号として検出するため、定量的測定が可能である。
【0046】
電極2a,2bの形状は、誘電泳動を行うために不平等電界を発生して、電極2a,2b間にパールチェインと呼ばれる微生物の鎖を多数橋絡できる形状、例えばキャッスルウォール型電極、櫛歯型電極等の形状が好ましい。キャッスルウォール型電極は、両側に1ピッチ(例えば50μm~100μm)おきに突出する多数の矩形電極片が形成された電極2a,2bを1ピッチずらして5μm~10μm離して配設したもので、電極2a,2bの各矩形電極片のエッジ間に電界が集中するものである。また、櫛歯型電極は、櫛のように歯(例えば30μm~100μm幅)を形成された一対の電極が溝に入れ子状に挿入、組み合わされ、狭いギャップ(例えば5μm~10μm幅)で対向した電極であり、電界は厚さ方向のエッジ間に不平等電界が形成され、パールチェインが多数形成されるものである。微生物の大きさでギャップやピッチは最も適当な値を選択するのが望ましい。
【0047】
そして、電極2a,2bはクロムや白金等の薄膜電極として構成し、ガラス基板やプラスチック基板にスパッタリングや蒸着、メッキ等で成膜し、フォトリソグラフィー等でエッチングして形成するのがよい。薄膜の厚さは50nm~200nm程度のものが多数のパールチェインを形成する上で望ましい。なお、電極2a,2bの材質はクロムや白金に限らず、交流電圧を印加したとき電気分解が生じないイオン化傾向の小さい金属であればよい。
【0048】
測定チャンバー1は、図1に示すように電極部2を別体として内部に収容するほかに、電極部2の基板を覆った構造とすることもできる。例えば、電極2a,2bの周囲にスペーサを配置して、このスペーサ上にガラス板やプラスチック板等を載せて接着すれば微小な測定チャンバー1をコンパクトに作ることができる。試料液が少量である場合に有効であり、攪拌に代えて閉じた流れで流動させ微生物を電極2a,2b付近に導き、微生物濃度を均一化することができる
【0049】
次に、3は電極2a,2b間に誘電泳動を発生させるために交流電圧を印加する誘電泳動用電源部、4は電極2a,2b間のインピーダンスを測定することができる測定部、5はマイクロプロセッサ等から構成され、作業域に制御用のプログラムや各種データをロードして機能し、少なくとも誘電泳動用電源部3及び測定部4を制御するとともに、演算を行う演算制御部、6は時計手段である。誘電泳動用電源部3は、電極2a,2b間に印加する交流電圧の電圧と周波数を演算制御部5によって制御される。本実施の形態1においては、1kHz~10MHzの間で周波数を変えることができ、ピーク間電圧(以下、ppと表す)1Vpp~20Vppを印加できるファンクションジェネレータを採用されている。なお、本明細書で交流電圧というのは、正弦波のほか、ほぼ一定の周期で流れの向きを変える三角波、方形波等の電圧を意味し、正負両サイドの電流の平均値が等しいものである。周波数は微生物の種類や懸濁液導電率によって変化し、電圧は電極2a,2b間で電気分解が発生せず、誘電泳動力が大きくなるような値が選択される。
【0050】
測定部4には500Ω程度の電流検出用の抵抗が設けられ、図1に示す電圧印加回路に直列に挿入されており、これを流れる電流を測定して、電極2a,2b間のコンダクタンス(抵抗成分の逆数)を算出している。すなわち、演算制御部5は、時計手段6の計時する、例えば10sec間隔というタイミングで、誘電泳動用電源部3の周波数と電圧を制御し、電極2a,2b間に最適な周波数の交流電圧を印加すると同時に、このとき測定部4に電圧印加回路を流れる電流の測定を行わせ、試料液中の微生物が濃縮されたことによる抵抗成分の測定を行い、逆数をとってコンダクタンスの算出をしている。時計手段6はこのサンプリングのタイミングだけでなく、実施の形態1における微生物測定装置の自動運転のためのスケジューリングのための時間管理を行う。
【0051】
さて、7は演算制御部5にロードするプログラムや各種データを格納したメモリ部、7aはメモリ部7の中に設けられ、特定の微生物を捕集して濃縮するための測定用制御データと、コンダクタンスを示す測定部4の出力(以下、DEPIM出力)から微生物数を換算するための検量線データ等を格納した測定用テーブルである。測定用制御データは、微生物毎に、微生物を懸濁した試料液の懸濁液導電率と、微生物に正の誘電泳動力を作用させることが可能な最適周波数がデータ化されている。同様に、(表1)に示すように、測定用テーブル7aには、微生物毎に抗原抗体反応を起こさせる抗体の種類、捕集のため印加する電圧VC1、流体抵抗を利用して分離するとき印加しておく電圧VC、抗原抗体反応で凝集させるための設定時間tc1、洗浄を行う洗浄時間tc2が格納されている。
【0052】
【表1】
JP0003869686B2_000005t.gif続いて、図1において、8は微生物名や抗体の種類等を入力するためのデータ入力部、9はデータ入力のための表示を行ったり、演算制御部5が検量線データに基づいて算出した微生物数を表示するためのLCD等の表示部である。また、10は微生物を含有した試料液を貯めた試料液槽、11は試料液槽10と測定チャンバー1を接続し、試料液槽10内の試料液を測定チャンバー1に導く供給管である。12は測定チャンバー1から測定後の試料液を排出するための排出管、13は供給管11に設けられた電磁弁等の供給バルブ、14は排出管12に設けられた排出バルブである。
【0053】
15はスターラ等の撹拌装置であって、時計手段6の行う計時に基づいて演算制御部5が誘電泳動を行う前と間に試料液の攪拌を行うものである。これにより、試料液を供給管11から導入して誘電泳動するとき、微生物濃度を均一化するとともに、多くの微生物を電極2a,2b近傍に導くことができる。さらに、必要に応じ、攪拌装置15は抗原抗体反応が終了した後、反応で凝集化した特定の微生物を残して他の微生物を分離するために流れを起こし、大きさに対する誘電泳動力の差を利用して不要な微生物を洗い流す作用を有している。
【0054】
また、測定チャンバー1を、電極2a,2bの周囲にスペーサを配置して、このスペーサ上にガラス板等を載せて接着した微小な測定チャンバー1の場合等には、攪拌装置15に代えて排出管12を試料液層10に接続して閉回路として流動させることで微生物を電極2a,2b付近に導くとともに、微生物濃度を均一化する方法と組み合わせで用いるのが適当である。
【0055】
16は洗浄液タンク、17は洗浄管、18は洗浄バルブである。抗原抗体反応によってこの特定の微生物を凝集させ、攪拌装置15で流れを発生して未反応の微生物を流体力(後述する誘電泳動力に抗して加える流体の力であって、粘性力に基づく流体抵抗に基づく力)で分離するとともにこれを洗い流す。試料液槽10や洗浄液タンク16はヘッド(水頭)が確保できない場合や調節が難しい場合には、ポンプを設けるのも好適である。時計手段6の時間管理で、演算制御部5が所定の時間tc2が経過すると、洗浄バルブ18を開いて洗浄液を測定チャンバー1に供給し、電極2a,2b間を洗浄する。なお、上述のように未反応の微生物を分離して洗い流すために洗浄液を用いるが、未反応の微生物を分離するプロセスにおいては、洗浄液による分離に代えて、攪拌装置15の攪拌作用を併用することもできるし、場合によっては攪拌装置15単独の攪拌作用で分離することも可能である。
【0056】
19は特定の微生物と特異的に反応する抗体を含有した抗体液を収容した抗体液タンク、20は抗体液を測定チャンバー1に導入する抗体導入管、21は抗体供給バルブである。抗体液タンク19と抗体導入管20、抗体供給バルブ21が本実施の形態1の抗体供給部を構成する。本実施の形態1においては、誘電泳動によって複数の微生物を含有した試料液を電極2a,2b間に抗原抗体反応前の前処理として濃縮し、この前処理で濃縮した微生物に特定の微生物とだけ特異的に反応する抗体液を導入する。抗原抗体反応によってこの特定の微生物を凝集させ、攪拌装置15や洗浄液によって凝集しなかった微生物を流体力で分離し、最後は洗浄液で洗い流し、その後電極2a,2b間で特定微生物数をカウントする。これらの処理はすべて電極部2の表面で行われる。
【0057】
さらに、本実施の形態1の微生物測定装置は、測定セルフチェック機構を備えてそれほど知識がなくとも正しく測定できるようになっている。すなわち、本微生物測定装置が正しく準備されていなければ、測定を行っても無駄になってしまう。そこで、本微生物測定装置は測定開始直後にセルフチェックを行う。測定開始したばかりの状態では微生物が捕集されていない。この状態で電極2a,2b間のインピーダンス測定を行ってDEPIM信号を検出すると、懸濁液の導電率と誘電率だけに依存した初期値を示す。もし、演算制御部5が、測定開始直後にDEPIM信号を検出して、懸濁液が示す初期値が通常値の範囲と大きく異なっていると判断すると、電極部2が破損して短絡されていたり汚染されているなどの可能性があり、アラームを鳴らし、または表示部9によって警告を表示して電極や装置の確認や交換を促す。懸濁液が示す初期値の通常値は、測定用テーブル7aに懸濁液毎に用意しておくか、格納されている検量線データを利用して判定すればよい。このようなセルフチェックを行うことによって、専門家でなくとも簡単に微生物数の測定が確実に行える。
【0058】
続いて、図2(a)(b)(c),図3,図4に基づき、本実施の形態1の微生物数測定装置及び微生物数測定方法により特定の微生物だけを選択的に測定する手順について説明する。図2(a)(b)(c)では簡単のため、懸濁されている微生物は微生物A,Bの2種類のみであり、微生物濃度はほぼ等しい場合を想定している。図2(a)に示すように、ステップ1において誘電泳動による前捕集を行う。試料液中に設置した電極2a,2b間に電圧Vc1を印加し、誘電泳動力によりすべての微生物A,Bを捕集する。DEPIM信号が飽和傾向を示したら前捕集を終了する。これら微生物A,Bの大きさや誘電特性に顕著な違いがない場合、(数1)から分かるように両者にはほぼ等しい誘電泳動力が作用し、共に電極に捕集される。この時、DEPIM法によるインピーダンス計測を行うと、微生物A,Bどちらの捕集もほぼ同じインピーダンス変化をもたらし、このような場合両者を区別することはできない。
【0059】
ステップ2において、複数種類の微生物A,Bから抗原抗体反応で特定の微生物Aのみを選択する。すなわち、微生物A,Bの前捕集が完了した状態で、微生物Aと特異的に反応する抗体を含有した抗体液を添加する。このとき誘電泳動により微生物Aは密集して互いに接触した状態となっており、このような状態の微生物に抗体を作用させると抗体が架橋となって微生物Aのみが集合体を形成し、いわゆる凝集反応が起こる。時計手段6が所定の時間tc1を計時すると、凝集反応が終了したと判断する。
【0060】
続いて、ステップ3において、時間tc1が経過すると、演算制御部5は電圧を誘電泳動力による微生物捕集がそれ以上起こらない程度の電圧Vc2に低下させる。ただし、電極2a,2b間では十分に高い電界が維持されるので既に捕集された微生物は拡散せずにそのまま保持される。そして、流体力で微生物の選別を行う。(数1)から明らかなように、誘電泳動力FDEPは基本的に電界(電圧V)の二乗ならびに微生物の大きさ(半径a)の3乗に比例し(数4)が成立する。
【0061】
【数4】
JP0003869686B2_000006t.gif但し、Aは比例定数である。誘電泳動を行う際、測定チャンバー1内の試料液を攪拌し、流れを生じさせると、試料液中の微生物には粘性力に基づく流体抵抗が発生する。攪拌や洗浄液の流れで生じる流速は低いためレイノルズ数との関係から、微生物と試料液の相対速度が一定の場合、通常粘性力Fは微生物の大きさ(半径a)に比例し(数5)が成立する。
【0062】
【数5】
JP0003869686B2_000007t.gif但し、Bは比例定数である。
(数4)(数5)より、粘性力Fに対する誘電泳動力FDEPの比を相対誘電泳動力F*DEPとして定義すると、F*DEPは(数6)で表される。
【0063】
【数6】
JP0003869686B2_000008t.gif(数6)の関係を図示すると図3に示すようになる。抗体液を添加するより微生物が凝集反応を起こすとその見かけ上の半径が大きくなり、電圧の二乗Vに対する増加割合は上昇する。すなわち、凝集前の微生物に作用する相対誘電泳動力F*DEPは、図3中の直線OAに沿って変化するが、凝集後は直線OBに沿って変化する。
【0064】
電極2a,2b表面に流れがある場合、粘性力Fに打ち勝って誘電泳動力で微生物を電極に捕集・保持するためには、相対誘電泳動力F*DEPが一定以上の大きさである必要がある。目安としては、誘電泳動力が粘性力よりも大きい場合、即ち相対誘電泳動力F*DEP>1をその条件と考えることができる。この相対誘電泳動力F*DEPの閾値を図中では直線CDで表しており、この直線よりも上側の領域(図中ハッチング部分)では誘電泳動力が相対的に流れから受ける粘性力Fよりも勝っている。
【0065】
図3中で電圧をVC1に設定したときの相対誘電泳動力F*DEPは、凝集した微生物(半径a1)、凝集していない微生物(半径a2)のどちらに対しても直線CDより上側にあるので、粘性力に打ち勝って微生物を捕集することができる。一方、電圧をVCに設定したときの相対誘電泳動力F*DEPは、凝集した微生物に対しては点Eとなり直線CDより上側にあるので微生物を捕集することができるが、凝集していない微生物では直線CDより下側の点Fとなり、粘性力Fの方が優勢であるため誘電泳動力で微生物を捕集できない。
【0066】
従って、ステップ1での前捕集を電圧VC1で行えば、微生物A,Bの両方が誘電泳動で捕集される。しかし、ステップ2に進み凝集反応を行った後、ステップ3で電圧をVCまで低下させ、試料液を流動させると、凝集体を形成した微生物Aは電極2a,2bに捕集されたままであるが、凝集していない微生物Bは粘性力Fによって電極2a,2bから離脱して洗い流されてしまう。即ち、最終的に検出対象である微生物Aだけが電極に捕集された状態で残ることになり、この状態でインピーダンスを測定すればDEPIM法により微生物Aだけを選択的に検出することができる。
【0067】
以上説明したステップ1~3に従って、具体的に、大腸菌と緑膿菌の等量混合した試料液から大腸菌を選択的に測定したときの測定結果を図4に示す。図4において、測定は懸濁液導電率0.1mS/m、誘電泳動周波数1MHzの条件下で行ったものである。大腸菌と緑膿菌は大きさや誘電特性が類似しており、従来のDEPIM法では試料液からどちらかだけを選択的に検出することはできない。
【0068】
図4の測定は、ステップ1で電圧10Vで誘電泳動による前捕集を行っている。この時認められるコンダクタンスの過渡的増加は、図2(a)に示すように誘電泳動力により試料液中の大腸菌と緑膿菌が共に電極ギャップ間に捕集された結果生じたものである。次に、ステップ2で試料液に大腸菌の抗体を10ml添加し、図2(b)に示すように大腸菌の凝集体を電極2a,2b間で形成した。この時コンダクタンスは一定に保たれたままである。凝集反応終了後、ステップ3で電圧を1Vに低下させ、図2(c)に示すように試料液を攪拌し洗浄液を導入して粘性力によって凝集していない緑膿菌のみを電極から離脱させると、コンダクタンスが約50%急激に低下している。ステップ3の後で観測されるコンダクタンス(残留コンダクタンス)は凝集して電極2a,2b間に保持されている大腸菌の濃度に対応しており、この残留コンダクタンスによって試料液中の大腸菌濃度を定量されたことになる。
【0069】
なお、以上の説明は二種類の微生物が混合された試料液を対象としているが、三種類以上の場合であっても同じ方法で特定の微生物のみを選択的に検出できるものである。
(実施の形態2)
以下、本発明における実施の形態2における微生物検出装置及び微生物検出方法について説明する。図5は本発明の実施の形態2における微生物測定装置の構成図、図6(a)は本発明の実施の形態2における微生物測定装置の測定実施前の電極チップ図、図6(b)は本発明の実施の形態2における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための凝集プロセス図、図6(c)は本発明の実施の形態2における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための洗浄プロセス図、図7は本発明の実施の形態2における測微生物定装置の特定の微生物の測定結果図である。実施の形態1の微生物測定装置と同一符号の部材は、実施の形態2の微生物測定装置においても同一の部材を示しており、詳細な説明は実施の形態1の微生物測定装置に譲って詳細な説明は省略する。
【0070】
図5において、1は複数の微生物が混合された試料液を収容する測定チャンバー、2’は微生物数を測定するための微生物測定用電極チップ、2a,2bは微生物測定用電極チップ2’に設けられた一対の電極である。図6(a)(b)(c)において、2cは微生物測定用電極チップ2’上で電極2a,2b間に固相化された抗体である。本明細書においては、抗体をガラス基板等の表面に吸着させ、抗原抗体反応に利用することを抗体の固相化という。本実施の形態2においては、誘電泳動によって複数の微生物を含有した試料液を電極2a,2b間に抗原抗体反応の前処理として濃縮し、この前処理で濃縮した微生物に対して特定の微生物と特異的に反応する固相化された抗体2cを作用させる。抗原抗体反応によってこの特定の微生物は微生物測定用電極チップ2’上に抗体2cを介して固定される。後述するように攪拌装置15によって試料液を流動させ、未反応の微生物を分離し、洗浄液を導入して未反応の微生物を洗い流す。その後電極2a,2b間で特定微生物数をカウントする。これらの処理がすべて微生物測定用電極チップ2’の表面で行われる。
【0071】
固相化の方法は、物理的方法や化学的方法など様々であるが、本実施の形態2においては、抗体2cは微生物測定用電極チップ2’の電極基板をアセトンで清浄化し、その後透析済みの抗体溶液を電極基板上に滴下し、そのままの状態で4℃に保ち、15から18時間放置して固相化する。なお、微生物測定用電極チップ2’は測定毎に交換するといった使い捨てタイプの電極とすることができる。
【0072】
3は誘電泳動用電源部、4は電極2a,2b間のインピーダンスを測定することができる測定部、5は演算制御部、6は時計手段である。また、7はメモリ部、7aはメモリ部7の中に設けられ、特定の微生物を濃縮するための測定用制御データと、微生物数を換算するための検量線データ等を格納した測定用テーブルである。実施の形態2の測定用制御データは(表2)に示すようなもので、測定用テーブル7aには、微生物毎に抗原抗体反応を起こさせる抗体の種類、捕集のため印加する電圧VC1、流体力で分離するとき印加しておく電圧VC、抗原抗体反応で凝集させるための設定時間tcl、洗浄を行う洗浄時間tc2が少なくとも格納されている。
【0073】
【表2】
JP0003869686B2_000009t.gif8は微生物名や懸濁液導電率を入力するためのデータ入力部、9は表示部、10は試料液槽、11は試料液を測定チャンバー1に導く供給管である。12は測定チャンバー1から測定後の試料液を排出するための排出管、13は供給管11に設けられた電磁弁等の供給バルブ、14は排出管12に設けられた排出バルブである。15は撹拌装置である。16は洗浄液タンク、17は洗浄管、18は洗浄バルブである。
【0074】
続いて、図6(a)(b)(c),図7に基づき、本実施の形態2の微生物数測定装置及び微生物数測定方法により特定の微生物だけを選択的に測定する手順について説明する。図6(a)(b)(c)では簡単のため、懸濁されている微生物は微生物A,Bの2種類のみであり、微生物濃度はほぼ等しい場合を想定している。図6(a)に示すように、ステップ1において、抗体2cの微生物測定用電極チップ2’への固相化を行う。DEPIM法で用いる微生物測定用電極チップ2’は、ガラス基板の表面にクロムなどの金属薄膜を作製した後にフォトリソグラフィーによりパターン形成したものであり、電極2a,2b間はガラス基板が露出した状態であり、このギャップ部分に抗体2cを固相化する。
【0075】
次に、ステップ2において、微生物の誘電泳動による前捕集と、固相化した抗体2cによる微生物測定用電極チップ2’への特定の微生物の固定を行う。すなわち、試料液中に設置した電極に電圧Vc1を印加し、誘電泳動力により先ずすべての微生物A,Bを捕集する。DEPIM信号が飽和傾向を示したら前捕集は終了である。微生物A,Bの大きさや誘電特性に顕著な違いがない場合、(数1)から予想されるように両者にはほぼ等しい誘電泳動力が作用し、共に電極2a,2bに捕集される。この時、DEPIM法によるインピーダンス測定を行うと、微生物A,Bどちらの捕集もほぼ同じインピーダンス変化をもたらし、両者を区別することはできない。誘電泳動された微生物A,Bの一部は、電極2a,2b間のガラス基板表面に接触する状態で保持される。ステップ1で微生物Aの抗体がガラス基板上に固相化してあるので、ガラス基板表面に接触した微生物Aは抗体と結合し、従って結果的にガラス表面に固定される。
【0076】
続いて、ステップ3において、洗浄液の流体抵抗(粘性力)による選別を行う。時計手段6が予め設定した時間tc1が経過したら、抗原抗体反応は終了したと判断し、電圧Vc2に低下させて誘電泳動力を減少させ、さらに攪拌か洗浄液の導入で試料液を流動させ微生物に流体力(粘性力)を作用させる。粘性力が適当な値であれば、ステップ2で固相化された抗体2cによりガラス表面に固定された微生物Aは、電圧を下げても電極2a,2b間に保持される。一方、固定化されていない微生物Bは流動する液の粘性力によって電極2a,2bから離脱して最終的には洗浄液で洗い流されてしまう。すなわち、最終的には検出対象である微生物Aだけが電極に捕集された状態で残ることになる。この状態でインピーダンスを測定すれば本実施の形態2の微生物測定装置で微生物Aだけが選択的に検出されたことになる。
【0077】
以上説明したステップ1~3に従って、具体的に、大腸菌と緑膿菌の等量混合した試料液から大腸菌を選択的に測定したときの測定結果を図7に示す。図7において、測定は懸濁液導電率0.1mS/m、誘電泳動周波数1MHzの条件下で行ったものである。大腸菌と緑膿菌は大きさや誘電特性が類似しており、従来のDEPIM法では混合懸濁液からどちらかだけを選択的に検出することはできない。
【0078】
まずステップ1において、電極のガラス基板表面に大腸菌の抗体を物理的吸着法によって固相化する。ステップ2では電圧10Vで誘電泳動による前捕集を行っている。この時認められるコンダクタンスの過渡的増加は、誘電泳動力により懸濁液中の大腸菌と緑膿菌が共に電極ギャップ間に捕集された結果生じたものである。DEPIM法ではこのコンダクタンスの初期増加率から菌濃度を定量的に推定することができるが、混合懸濁液では両方の細菌の混合濃度に対応した信号が得られる。また、この時捕集された大腸菌の一部は、ガラス基板表面に固相化された抗体2cと結合する。
【0079】
前捕集終了後、ステップ3で電圧を1Vに低下させ、図6(c)に示すように攪拌や洗浄液の導入で流動を起こし、粘性力により固相化した抗体2cと結合していない緑膿菌のみを電極から離脱させると、コンダクタンスが約50%急激に低下した。ステップ3の後で観測されるコンダクタンス(残留コンダクタンス)は固相化された抗体2cによって電極2a,2b間に保持されている大腸菌の濃度に対応しており、この残留コンダクタンスによって混合懸濁液中の大腸菌濃度を定量できる。
【0080】
以上の説明は二種類の微生物の試料液を対象としているが、三種類以上の場合であっても同じ方法で特定の微生物のみを選択的に検出できる。
【0081】
【発明の効果】
本発明の請求項1に記載の微生物測定装置は、複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮し、抗体供給部から抗体液を供給し、特定の微生物と特異的に反応させこれに第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより凝集して他の微生物を分離し、電極間のコンダクタンス変化から微生物数を算出して出力するから濃縮のために長時間をかける必要がなく、この濃縮した微生物に特定の微生物と特異的に反応する抗体液を供給し、第2の誘電泳動と流動作用を加えることで複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0082】
本発明の請求項2に記載の微生物測定装置は、抗体液供給部が抗体液タンクと、抗体液供給管と、抗体液バルブを備えたから、抗体液バルブを操作することにより、濃縮した複数種類の微生物に抗体液を自動的に供給することができる。
【0083】
本発明の請求項3に記載の微生物測定装置は、測定チャンバーには攪拌装置が設けられ、演算制御部が誘電泳動を行った後に、特定の微生物以外の微生物を分離するための試料液の攪拌を行うから、微生物濃度を均一化し、電極近傍に補修することができる。さらに、抗原抗体反応後に、抗体と特異的に反応した特定の微生物以外の微生物を攪拌による流動によって分離することができる。
【0084】
本発明の請求項4に記載の微生物測定装置は、演算制御部が時計手段の行う計時に基づいて、洗浄バルブを開いて洗浄液を測定チャンバーに供給し、試料液を排出した後チャンバー内を洗浄するから、抗体と特異的に反応した特定の微生物以外の微生物を洗浄液の流体力で分離することができ、分離した未反応の微生物を洗い流してインピーダンス測定を可能にすることができる。
【0085】
本発明の請求項5に記載の微生物測定装置は、微生物測定用電極チップに、一対の電極の基板上に特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化され、交流電圧を印加して複数種類の微生物を濃縮し、固相化された抗体と特定の微生物とを特異的に反応させて分離し、電極間のコンダクタンス変化から特定の微生物数を算出して出力するから、交流電圧を電極間に印加して試料液に含有される複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮するため、濃縮のために長時間をかける必要がなく、特定の微生物と特異的に反応する抗体を固相化し、特定の微生物だけ微生物測定用電極チップに固定し第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより他の微生物を分離するから、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0086】
本発明の請求項6に記載の微生物測定装置は、特定の微生物と他の微生物に交流電圧を印加してそれぞれに誘電泳動力を作用させ、該誘電泳動力と流動作用による流体力の差を利用して分離するから、反応した特定の微生物の集合体と他の微生物の大きさの違いによる差が誘電泳動力と流体力の差に変換され、この差を利用することで分離が簡単且つ迅速に行える。
【0087】
本発明の請求項7に記載の微生物測定用電極チップは、電極間の基板上には特定の微生物と特異的に反応する抗体が固相化されたから、特定の微生物と特異的に反応する抗体を固相化し、特定の微生物だけ微生物測定用電極チップに固定し、他の微生物を洗浄することができ、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することが安価に実現できる。
【0088】
本発明の請求項8に記載の微生物測定方法は、複数種類の微生物を第1の誘電泳動で濃縮し、濃縮された微生物に抗体液を供給し、該抗体液と特定の微生物と特異的に反応させ、さらにこの微生物に第2の誘電泳動と流動作用を加えて他の未反応の微生物を分離し、その後電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出から、交流電圧を電極間に印加して試料液に含有される複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮するため濃縮に長時間をかける必要がなく、この濃縮した微生物に特定の微生物と特異的に反応する抗体液を供給し、第2の誘電泳動と流動作用を加えて特定の微生物だけ凝集して他の微生物を分離するから、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【0089】
本発明の請求項9に記載の微生物測定方法は、複数種類の微生物を第1の電気泳動で濃縮し、電極間に固相化された抗体によって特定の微生物と特異的に反応させ、これを第2の誘電泳動と流動作用を加え、該第2の誘電泳動力と流体力によって分離し、その後電極間のインピーダンスを測定して特定の微生物のみの微生物数を算出するから、交流電圧を電極間に印加して試料液に含有される複数種類の微生物を第1の誘電泳動により濃縮するため濃縮のために長時間をかける必要がなく、特定の微生物と特異的に反応する抗体を固相化し、特定の微生物だけ微生物測定用電極チップに固定し第2の誘電泳動と流動作用を加えることにより他の微生物を分離するから、複数種類の微生物の中から測定対象の特定の微生物だけを選択することができ、選択した後の特定の微生物をインピーダンス測定することにより、コンダクタンス変化から微生物数を測定するため、混合懸濁液の中で特定の微生物を高感度で迅速に、専門家によらなくとも簡易に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1における微生物測定装置の構成図
【図2】(a)本発明の実施の形態1における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための濃縮プロセス図
(b)本発明の実施の形態1における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための抗原抗体反応プロセス図
(c)は本発明の実施の形態1における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための洗浄プロセス図
【図3】本発明の実施の形態1における測微生物定装置の微生物選択可能領域図
【図4】本発明の実施の形態1における測微生物定装置の特定の微生物の測定結果図
【図5】図5は本発明の実施の形態2における微生物測定装置の構成図
【図6】(a)本発明の実施の形態2における微生物測定装置の未処理時の電極チップ図
(b)本発明の実施の形態2における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための凝集プロセス図
(c)本発明の実施の形態2における微生物測定装置の電極部が特定の微生物を選択的に測定するための洗浄プロセス図
【図7】本発明の実施の形態2における測微生物定装置の特定の微生物の測定結果図
【図8】細胞質導電率をパラメータとするRe[K]の周波数特性図
【符号の説明】
1 測定チャンバー
2 電極部
2’ 微生物測定用電極チップ
2a,2b 電極
2c 抗体
3 誘電泳動用電源部
4 測定部
5 演算制御部
6 時計手段
7 メモリ部
7a 測定用テーブル
8 データ入力部
9 表示部
10 試料液槽
11 供給管
12 排出管
13 供給バルブ
14 排出バルブ
15 撹拌装置
16 洗浄液タンク
17 洗浄管
18 洗浄バルブ
19 抗体液タンク
20 抗体導入管
21 抗体供給バルブ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7