TOP > 国内特許検索 > 12CaO・7Al2O3化合物とその作成方法 > 明細書

明細書 :12CaO・7Al2O3化合物とその作成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3560580号 (P3560580)
公開番号 特開2003-128415 (P2003-128415A)
登録日 平成16年6月4日(2004.6.4)
発行日 平成16年9月2日(2004.9.2)
公開日 平成15年5月8日(2003.5.8)
発明の名称または考案の名称 12CaO・7Al2O3化合物とその作成方法
国際特許分類 C01F  7/18      
A01N 59/06      
B01J 23/02      
C01B 13/02      
G01N 31/00      
H01B  1/08      
H01M  4/86      
H01M  8/02      
H01M  8/12      
FI C01F 7/18
A01N 59/06 Z
B01J 23/02 A
C01B 13/02 Z
G01N 31/00 K
H01B 1/08
H01M 4/86 T
H01M 8/02 K
H01M 8/12
請求項の数または発明の数 5
全頁数 11
出願番号 特願2001-321251 (P2001-321251)
出願日 平成13年10月18日(2001.10.18)
審査請求日 平成13年10月19日(2001.10.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人 科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】林 克郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】安齋 美佐子
参考文献・文献 特開2002-003218(JP,A)
JOURNAL OF SOLID STATE CHEMISTRY,1989年,81,pp.152-164
INORGANIC CHEMISTRY,1987年,26[8],pp.1192-1195
JOURNAL OF THE CERAMIC SOCIETY OF JAPAN,1994年,102[8],pp.772-777
調査した分野 C01F 7/16-7/18
CA(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
包接するOHイオンの濃度が2×1019cm-3以下である12CaO・7Al化合物に、Onイオンラジカルを2×1019cm-3超の高濃度に包接することを特徴とする12CaO・7Al化合物。
【請求項2】
カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)を原子当量比で12:14の割合で含む混合原料を用い、焼成温度1200℃以上、1449℃未満、酸素分圧10-2MPa以上、水蒸気分圧10-4MPa以下の乾燥酸素雰囲気で固相反応させ、焼成温度から300℃以上800℃以下の温度領域を徐冷することにより、包接するOHイオンの濃度が2×1019cm-3以下であり、Onイオンラジカルを2×1019cm-3超の高濃度に包接する化合物を得ることを特徴とする請求項記載の12CaO・7Al化合物の作成方法。
【請求項3】
で表されるマイナス一価のイオンおよびイオン分子の濃度を2×1019cm-3以下にしか包接しない12CaO・7Al化合物を、酸素分圧10-2MPa以上、水蒸気分圧10-4MPa以下の乾燥酸素雰囲気で、300℃以上800℃以下の温度領域の一定温度に保持し、室温まで急冷または徐冷することを特徴とする請求項記載の12CaO・7Al化合物の作成方法。
【請求項4】
請求項1に記載される12CaO・7Al化合物を、酸素分圧10-2MPa以上、水蒸気分圧10-4MPa以下の乾燥酸素雰囲気で、300℃以上800℃以下の温度領域で昇温または降温することを特徴とするOnイオンラジカルの可逆的包接・放出方法。
【請求項5】
カルシウムとして炭酸カルシウム、水酸化カルシウムまたは酸化カルシウムを、アルミニウムとして、酸化アルミニウムまたは水酸化アルミニウムを原料とすることを特徴とする請求項記載の12CaO・7Al化合物の作成方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Onで示す酸素イオンラジカルおよびOHイオンの包接量を制御した12CaO・7Al化合物(C12A7と称される)、その作成方法、その用途に関する。なお、本明細書において、Onは、OイオンラジカルおよびOイオンラジカルを一般化して記述したもので、nは1または2の整数である。
【0002】
【従来の技術】
1970年に、H. B. Bartlらは、12CaO・7Al結晶においては、2分子を含む単位胞にある66個の酸素のうち、2個はネットワークには含まれず、結晶の中に存在するケージ内の空間に「フリー酸素」として存在すると主張した(H.B.Bartl and T.Scheller,Neuses Jarhrb.Mineral.,Monatsh.1970,547)。
【0003】
本発明者らの一人である細野らは、CaCOとAlまたはAl(OH)を原料として空気中で1200℃の温度で固相反応により合成した12CaO・7Al結晶中に1×1019cm-3程度のOイオンラジカルが包接されていることを電子スピン共鳴の測定から発見し、フリー酸素の一部がOイオンラジカルの形でケージ内に存在するというモデルを提案している(H.Hosono and Y.Abe,Inorg.Che.26,1193,1987、「材料科学」,第33巻,第4号,p171~172,1996)。
【0004】
本発明者らは、カルシウムとアルミニウムを概略12:14の原子当量比で混合した原料を、雰囲気と温度を制御した条件下で固相反応させ、1020cm-3以上の高濃度の活性酸素種を包接する12CaO・7Al化合物を新たに見出した。その化合物自体、その製法、包接イオンの取り出し手段、活性酸素イオンラジカルの同定法、および該化合物の用途に関して、特許出願した(特願2001-49524
,PCT/JP01/03252)。
【0005】
さらに、本発明者は、水中、または水分を含む溶媒中、もしくは水蒸気を含む気体中で水和反応させた12CaO・7Al化合物粉体を、酸素雰囲気で焼成することにより、OHイオン濃度1021cm-3以上含むC12A7化合物を合成し、その化合物自体、製法、OHイオンの同定法、および該化合物の応用に関し、特許出願している(特願2001-117546)。
【0006】
C12A7中に、高濃度の活性酸素イオンラジカルが含まれる機構に関して、本発明者らは、C12A7中に存在するフリー酸素と、C12A7中に侵入した雰囲気中の酸素分子が可逆的に反応するためと提案した。また、OHイオンが高濃度に含まれる機構に関しては、本発明者らは、C12A7中に存在するフリー酸素と、C12A7中に侵入した雰囲気中の水分子が可逆的に反応するためと提案した。その機構の詳細な説明は、以下の通りである。
【0007】
図1は、12CaO・7Alの結晶構造を示す模式図である。12CaO・7Alは、立方晶の結晶系(格子定数=11.97Å)で空間群はI43dで、単位格子あたり2式量の酸素イオンが存在する。融点は、1449℃である。該結晶はAlOの4面体が、重合したネットワーク構造にCa2+イオンが配した構造をとっており、結晶格子中に空隙(ケージ)を有している。
【0008】
2(12CaO・7Al)=Ca24Al2866= [Ca24Al2864]4+・2O2-であり、O2-イオンはフリー酸素と呼ばれ、ケージの中に存在している。一般に、O2-イオンは、固体構造中では常にカチオンで配位されており、フリーな状態になることはほとんどない。しかし、12CaO・7Al結晶中では、O2-イオンは、ケージ内に存在し、カチオンと結合できず、フリーな状態になっている。この状態は、固体表面に吸着した状態と類似しており、化学的に非常に活性な状態であると考えられる。
【0009】
ケージ内に包接されたO2-イオンは、ケージ内にあるため、直接、外界雰囲気との反応が防がれている。しかし、高温度になると、熱膨張でケージのサイズが大きくなり、雰囲気からの酸素分子がケージのボトルネックを通過できるようになりケージ内に包接される。その結果以下の反応が起こる。
2-(ケージ内)+O(ケージ内)=O(ケージ内)+O(ケージ内)
この反応の結果、C12A7中には、大量の活性酸素イオンラジカルが包接される。
【0010】
すなわち、単位胞あたり2ヶ存在する酸素イオンO2-から2つのOnイオンラジカルが生成される。Onイオンラジカルを高濃度に包接する12CaO・7Al化合物は、[Ca24Al2864]4+ ・(2-m)O2-(2m)Onと記述される。ここで、m≦2であり、OnイオンラジカルとO2-イオンはケージ内に包接されている。ケージ内の酸素分子と雰囲気中の酸素分子は、ケージのボトルネックを通過できる高温度域では、雰囲気中の酸素分子と平衡状態にある。一般的には、ボイル・シャルルの法則により、温度が高くなると、C12A7中の酸素分子は減少するので、より高温では、活性酸素イオンラジカルは減少すると考えられる。
【0011】
合成されたC12A7にHOが含まれていると、O2-(ケージ内)+HO(ケージ内または結晶格子間)=2OH(ケージ内)の反応が起こり、ケージ内にOHイオンが包接される。OHイオンを高濃度に包接する12CaO・7Al化合物は、[Ca24Al2864]4+ ・(2-m)O2-(2m)OHと記述される。ここで、m≦2であり、OHイオンとO2-イオンはケージ内に包接されている。HO分子がケージのボトルネックを通過できる温度域では、ケージ中のHOは、雰囲気中の水蒸気と平衡状態にある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
イオン包接機構では、Onイオンラジカルおよび/またはOHイオンを高濃度に包接させるための出発化合物として化学当量組成C12A7を仮定しているが、その化合物の実存性、特に、その化合物の作成方法は知られていなかった。もし、OHイオンを含まないか低濃度にしか含まないC12A7化合物、すなわち、化学当量組成の酸素元素を含むC12A7化合物、あるいは、実質的に化学当量組成とみなせるC12A7化合物が作成できれば、活性酸素イオンラジカルなどのXイオンを該化合物中に、より制御性良く、選択的かつ可逆的に包接させることが可能になると期待される。
【0013】
OHイオンは、Oイオンラジカルおよび/またはOイオンラジカルに比べ、より安定に包接されており、1200℃以上の高温で長時間焼成しないと、雰囲気に放出されない。また、Xイオンの総濃度は、最大、O2-イオン濃度の二倍であるので、C12A7化合物中に包接されるOHイオン濃度を低減化しないと、Onイオンラジカルなど他のXイオンの包接濃度を高めることができない。すなわち、C12A7化合物中のOHイオン濃度を低減することができれば、OHイオン以外のXイオン包接濃度を大きくすることができる。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、カルシウムとアルミニウムを概略12:14の原子当量比で混合した原料を、雰囲気と温度を制御した条件下で固相反応させ、12CaO・7Al化合物を作成し、該化合物を850℃以上の温度で、雰囲気を制御した条件下で長時間保持した後、該化合物を、例えば、約100℃/秒以上の降温速度により急冷し、OHイオンおよびOnイオンラジカルを2×1019cm-3以下にしか含まないC12A17を得た。
【0015】
該化合物は、2分子を含む単位胞に66個の酸素をもつ(2個のケージに包接された酸素イオンと64個の格子酸素)化学当量組成のC12A7化合物と近似される。該化合物
を制御した雰囲気中で、300℃以上800℃以下、望ましくは、400℃以上600℃以下の領域の一定温度に保つ、あるいは、緩やかに温度を上下させることにより、可逆的に、活性酸素イオンラジカルを包接、放出させることができる。
【0016】
また、カルシウムとアルミニウムを概略12:14の原子当量比で混合した原料、望ましくは、炭酸カルシウムとγ-酸化アルミニウムを分子当量で12:7で混合した原料を、酸素分圧10-2MPa以上、水蒸気分圧10-4MPa以下、好ましくは酸素分圧10-1MPa以上、水蒸気分圧10-5MPa以下に制御した雰囲気内で、1200℃以上、好ましくは1300℃の高温度の条件下で、固相反応させ、12CaO・7Al化合物が得られる。
【0017】
該雰囲気内で、得られた化合物を室温まで、例えば、約600℃/時間以下、好ましくは約100℃/時間以下の降温速度により徐冷した場合、該化合物にはOnイオンラジカルが1019cm-3を超えて包接されている。また、OHイオンは、2×1019cm-3以下しか含まれていない。
しかし、該雰囲気内で850℃以上、好ましくは900℃以上に保持し、その後、300℃以下、好ましくは室温にまで、例えば、約100℃/秒以上の降温速度により急冷することにより、Onイオンラジカルを2×1019cm-3以下にすることができる。
【0018】
すなわち、こうして得られたC12A7化合物には、Xで表されるマイナス一価のイオンおよびイオン分子を、濃度2×1019cm-3以下にしか包接しないものと包接するOHイオンの濃度が2×1019cm-3以下であり、Onイオンラジカルを2×1019cm-3超の高濃度に包接するものがある。Xで表されるマイナス一価のイオンおよびイオン分子とは、OH,On,F,Cl,Br,およびAuイオンである。活性酸素種O(n=)イオンラジカル及び/またはO(n=1)イオンラジカル包接量は、電子スピン共鳴およびラマン散乱スペクトルにより分析できる。
【0019】
図2、図3に、Onイオンラジカルを包接するC12A7化合物のそれぞれ室温および77Kでの電子スピン共鳴スペクトルを示す。用いたマイクロ波は、9.75GHzである。室温では、磁界343mTに対称的な形状を持つg=2.02の吸収バンドが観測され、この吸収強度から、包接されたOnイオンラジカル濃度を定量することができる。また、77Kの吸収バンドには、いくつかの構造が見られる。吸収バンドは、g=2.00、gy=2.01、g=2.07にて規定されるOイオンラジカルによる吸収バンドと、g=gy=2.04、g=2.00にて規定されるOイオンラジカルの吸収バンドの重ね合わせによって構成されている。それぞれの吸収バンドの強度から、OイオンラジカルおよびOイオンラジカルの包接濃度を定量することができる。
【0020】
図4に、Oイオンラジカル濃度が、それぞれ、3×1018cm-3、および3×1020cm-3包接されているC12A7化合物の室温でのラマン散乱スペクトルを示す。Oイオンラジカルの濃度は、別途、電子スピン共鳴吸収バンド強度から定量した。Oイオンラジカルを3×1020cm-3包接したC12A7化合物では、ラマンシフト1128cm1に、Oイオンラジカルによるピークが見られる。該ラマンピークの強度から、包接されているOイオンラジカルを定量することができる。また、OHイオン種包接量は、赤外吸収スペクトルおよびラマン散乱スペクトルにより分析できる。
【0021】
OHイオンを包接するC12A7化合物の室温での、赤外吸収スペクトルを図5に示す。3550cm-1付近に、OHイオンに基づく吸収バンドが観測される。この吸収バンドから、OHイオンのモル吸光係数εをε=90mol-1dmcm-1として、OHイオン濃度を定量することができる。OHイオンを包接するC12A7化合物の室温でのラマン散乱スペクトルを図6に示す。ラマンシフト3500cm-1近傍に、OHイオンによるピークが見られる。該ピークの強度から、OHイオンを定量することができる。OHイオン濃度は、核磁気共鳴スペクトルから、定量することもできる。一方、F,Cl,Br,およびAuイオンは、意図的に含有させない限り、C12A7に包接されることはない。
【0022】
焼成雰囲気の水蒸気分圧が10-4MPa超のときは、包接されるOHイオンが、2×1019cm-3超になる。該化合物を酸素分圧10-2MPa以上、水蒸気分圧10-4MPa以下、好ましくは酸素分圧10-1MPa以上、水蒸気分圧10-5MPa以下に制御した雰囲気内で、1200℃以上で焼成すれば、OHイオン濃度を減少させることができるが、この場合には、この温度に非常に長時間保持することが必要になる。
【0023】
焼成温度が1200℃未満では、酸素分圧10-2MPa以上かつ水蒸気分圧10-4MPa以下の乾燥酸化雰囲気で焼成しても、12CaO・7Al化合物が合成されにくい。焼成温度が1449℃を超えると、原料が溶融し、12CaO・7Al化合物が合成されにくい。固相反応で、12CaO・7Alを合成する場合、原料は、炭酸カルシウムとγ-酸化アルミニウムが適しているが、水酸化カルシウムもしくは酸化カルシウムと水酸化アルミニウムもしくは各種酸化アルミニウム(α、δ、θ相)の組み合わせでも合成は可能である。
【0024】
活性酸素イオンラジカル種を含む12CaO・7Al化合物の77Kでの電子スピン共鳴スペクトルは、g=2.00,g=2.01,g=2.07 にて規定されるスペクトルと、g=g=2.04,g=2.00 にて規定されるスペクトルとの重ね合わせによって構成されている。これらのg値はそれぞれ、固体中でのOイオンラジカルおよびOイオンラジカルのg値と一致することから、12CaO・7Al化合物には、OイオンラジカルとOイオンラジカルが包接されていると結論される。
【0025】
ESR吸収バンドは、室温では、対称的であり、77Kの低温では、非対称になる。これは、室温では、ケージ内でOイオンラジカルとOイオンラジカルは回転運動しているが、低温では、ケージの壁にあるCa2+イオンと静電気的に結合し、空間的に固定されていることに対応している。また、吸収バンドの強度からOイオンラジカルおよびOイオンラジカルの濃度を定量することができる。
【0026】
該化合物のラマン散乱スペクトルには、1130cm-1付近に強い散乱ピークが見られる。このピークは、K.Nakamotoらによって報告されている(K. Nakamoto,
Infrared and Raman Spectra of Inorganic and Coordination Compound,1978,Wiley) Oイオンラジカルのピークに一致する。ESRの吸収バンドと、ラマン散乱強度には、相関関係があり、ラマン散乱強度から、包接されているOイオンラジカル強度を定量することができる。
【0027】
Onイオンラジカルを、2×1019cm-3超の高濃度に含むC12A7化合物には、OHイオンが、2×1019cm-3濃度以下しか含まれていない。OHイオン濃度は、3560cm-1付近の赤外光吸収スペクトルを用いて定量できる(特願2001-117546)。
【0028】
こうして得られたOHイオン包接量2×1019cm-3以下かつOnイオンラジカル包接量2×1019cm-3以下のC12A7化合物を、酸素分圧10-2MPa以上、好ましくは、10-1MPa以上かつ水蒸気分圧10-4MPa以下の乾燥酸素雰囲気で、300℃から800℃、好ましくは、400℃から600℃の温度領域の一定温度に保持することにより、該化合物中に2×1019cm-1超の高濃度にOnイオンラジカルを含ませることができる。
【0029】
一定温度に保持する代わりに、乾燥酸素中雰囲気中で高温焼成した該C12A7化合物を、高温状態から温度を降下させ、その際、300℃から850℃の温度域を徐冷させても良い。徐冷速度は、該C12A7化合物の焼成の程度により成長した結晶粒子の大きさによるが、概ね600℃/時間以下であれば良い。
【0030】
該C12A7化合物に含まれたOnイオンラジカルは、包接された酸素分子を介して、雰囲気中の酸素分子と平衡状態にあるので、300℃以上の高温では、一部、雰囲気中の酸素分子と交換する。該C12A7化合物を電気絶縁状態に置くと、電気中性を保つ必要があるために、Onイオンラジカルは、該化合物に電子を奪われ、雰囲気中に、電気的中性な酸素ラジカル(O・)または酸素分子として放出される。該化合物に電場を印加し、外部からの電子供給を行なうと、Onイオンラジカルを、そのまま、雰囲気中に、放出させることができる。
【0031】
また、表面に酸化されやすい化合物または分子が付着した場合は、電場を印加しなくても、Onイオンラジカル、特にOイオンラジカルは、付着した化合物または分子を酸化する。この場合は、酸化された化合物あるいは分子から、電子が該C12A7化合物に移動し、電気中性が保たれる。表面近傍のOイオンラジカルおよび/またはOイオンラジカルは移動・放出されやすいので、炭化水素化合物のように酸化されやすい化合物に対しては300℃以下の低温でも該酸化反応が起こる。
【0032】
すなわち、該C12A7化合物の表面では、300℃以下の低温でも酸化反応が起こるので、該C12A7化合物を300℃以下の低温で作用する酸化触媒および抗菌材として利用することができる。
C12A7に包接されたOnイオンラジカルが電場で取り出される。またはOnイオンラジカルが被酸化物との反応により消費されたときは、雰囲気中のOがC12A7中に取り込まれ、O2-イオンとの反応でOnイオンラジカルが生成される。
【0033】
すなわち、該C12A7化合物は、300℃から850℃に保持すると、雰囲気中の酸素分子をOイオンラジカルおよび/またはOイオンラジカルに変換させる機能を有する。したがって、該化合物を酸素含有雰囲気中に保持すれば、酸化触媒作用を継続させることができる。酸素を含む自動車エンジン排ガスを該C12A7化合物に接触させることにより、自動車エンジン排ガス中に含有される炭化水素、炭素微粒子などの不完全燃焼化合物を酸化することができる。よって、該C12A7化合物は、自動車エンジン排ガス浄化触媒として有用である。
【0034】
300℃以上の高温で、Onイオンラジカルまたは酸素イオンあるいは酸素分子を放出させることができるので、本発明の12CaO・7Alを用いて、有機物を酸化することができる。Onイオンラジカル、特に、Oイオンラジカルは、優れた抗菌作用を持つことが知られており、Onイオンラジカルを多量に包接する本発明の12CaO・7Alを抗菌剤として使用することができる。表面での酸化反応は、300℃より低温でも発生する。
【0035】
該化合物中のOnイオンラジカルは、850℃以下では、化合物中に保持され、比較的フリーな状態で存在して、結晶中を移動できるので、本発明の12CaO・7Alは、イオン伝導体として使用することができる。Xイオンを2×1019cm-3以下にしか包接しない、すなわち、包接Oイオンラジカルを高濃度に含むC12A7化合物は、Oイオンラジカルの移動によるイオン伝導体として使用することができる。また、該化合物の有するイオン伝導性と、各種化合物を酸化する能力を組み合わせることにより、酸化物固体燃料電池の電極材料として用いることができる。
【0036】
【実施例】
以下に実施例を示す。
参考例1
炭酸カルシウムとγ-アルミナを12:7の当量混合した原料粉末を、水蒸気圧:10-5MPa以下の乾燥酸素10-1MPaの雰囲気で、1300℃で2時間焼成した。その後、該乾燥酸素雰囲気中の室温領域に移動させ、そこに設置した水冷した白金ブロックに接触させた。この冷却過程での冷却速度は、約100℃/秒と計算された。得られた化合物は12CaO・7AlであることをX線回折により確認した。
【0037】
得られた化合物中に含まれるOHイオン濃度は、赤外吸収スペクトルおよびラマン散乱スペクトルから、2×1019cm-3以下と定量された。また、得られた化合物中に含まれるOnイオンラジカル濃度は、電子スピン共鳴スペクトルから1.5×1019cm-3と定量された。すなわち、乾燥酸素雰囲気中で合成したC12A7化合物を、室温まで、急冷することにより、OHイオンおよびOnイオンラジカルを、2×1019cm-3以下にしか含まないC12A7化合物が得られることが示された。
【0038】
実施例
炭酸カルシウムとγ-アルミナを12:7の当量混合した原料粉末を、水蒸気分圧:10-5MPa以下の乾燥酸素10-1MPaの雰囲気中で、1300℃で2時間焼成し、そのまま乾燥酸素10-1MPa中で600℃/時間の速度で、室温まで徐冷して合成した。得られた化合物は12CaO・7AlであることをX線回折により確認した。得られた化合物中に含まれるOHイオン濃度は、赤外線吸収スペクトルおよびラマン散乱スペクトルから2×1019cm-3以下と定量された。また、該化合物中に含まれるOイオンラジカル濃度は電子スピン共鳴スペクトルからOイオンラジカルおよびOイオンラジカルの濃度は、それぞれ3×1020cm-3、2×1020cm-3と定量された。すなわち、乾燥酸素雰囲気中で合成したC12A7化合物を室温まで徐冷することにより、OHイオンを2×1019cm-3以下しか含まず、Oイオンラジカルを5×1020cm-3含むC12A7化合物が得られた。
【0039】
実施例
炭酸カルシウムとγ-アルミナを12:7の当量混合した原料粉末を、水蒸気を含む空気中(酸素分圧:2×10-2MPa、水蒸気分圧:10-4MPa)で、1300℃で2時間焼成した後、さらに乾燥酸素10-1MPaの雰囲気で、1300℃で2時間焼成し、そのまま乾燥酸素10-1MPa中で600℃/時間の速度で、室温まで徐冷して合成した。得られた化合物は12CaO・7AlであることをX線回折により確認した。
【0040】
得られた12CaO・7Al化合物中に含まれるOHイオンは、赤外吸収スペクトルおよびラマン散乱スペクトルから2×1019cm-3以下と定量された。また、該化合物に含まれるOイオンラジカル濃度をESRおよびラマン散乱スペクトルにより定量したが、包接量は、3×1020cm-3であった。また、ESRスペクトルから、Oイオンラジカルが2×1020cm-3包接されていることがわかった。
【0041】
実施例および実施例で得られた12CaO・7Al化合物に包接されるOイオンラジカルの総量は、5×1020cm-3で、単位格子あたり0.8で、理論的に予想される最大合計値2+2=4の20%である。
【0042】
実施例で得られた12CaO・7Alの昇温・降温質量変化を測定した。測定室の雰囲気は、真空であった。その結果を、図7に示す。実施例1で得られた化合物は、昇温カーブでは、600~1350℃の温度範囲にわたって、質量の減少が見られ、さらに、降温カーブでも、昇温カーブに対応して、1400~900℃及び800~600℃の温度領域で、質量の増加が見られる。
【0043】
実施例
実施例で得られた12CaO・7Al化合物を、降温カーブの白丸で示した各温度(1350℃,1050℃、800℃および550℃)まで、乾燥酸素雰囲気中で4℃/分の降温速度で徐冷し、その温度に30分間保持した後、約100℃/秒の降温速度で、室温まで急冷した。急冷した各試料のOnイオンラジカル濃度を電子スピン共鳴スペクトルから定量した。得られたOnイオンラジカル濃度を図8に示した。この濃度は、急冷開始温度でのOnイオンラジカル包接量を示している。
【0044】
したがって、Onイオンラジカルの包接は、550℃程度の温度から開始され、それより高温になると、包接量は次第に減少し、850℃以上では、2×1019cm-3以下しか包接されていないことが示された。また、この包接は可逆反応であり、温度の上下により、Onイオンラジカルを雰囲気に取り出せることが示された。さらに、850℃以上の高温から、試料を急冷することにより、Onイオンラジカル及びOHイオンを2×1019cm-3以下しか含まないC12A7化合物が得られることも示された。
【0045】
比較例1
化学当量比のCaCOとγ-Alの混合粉末を、水蒸気圧8×10-4MPaを含む大気中で、温度1300℃で固相反応させて、室温まで600℃/時間の降温速度で冷却して合成した。得られた粉末を200MPaの圧力で静水圧プレスすることよって得られた圧粉体を、酸素分圧10-1MPa、水蒸気分圧10-5MPa以下の乾燥酸素雰囲気下で1300℃で12時間から48時間焼結した。12時間、24時間、48時間焼結した試料中に含まれるOHイオン濃度を赤外吸収スペクトルから定量した。
【0046】
OHイオン濃度の焼結時間依存性を図9に示す。この図9から、水蒸気を1×10-5MPa以上含む雰囲気で合成したC12A7化合物には1×1020cm-3以上のOHイオンが含まれ、該化合物を乾燥酸素雰囲気中1300℃で1000時間焼成しても、3×1019cm-3のOHイオンを包接しつづけることが分かる。
【0047】
すなわち、水蒸気圧の高い雰囲気で焼成すると、OHイオンが2×1019cm-3超の高濃度に含まれること、一度包接されたOHイオンは、乾燥酸素中で焼成しても、短時間では、濃度を減少させることができないことが示された。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、12CaO・7Al(C12A7化合物)の結晶構造を示す模式図である。
【図2】図2は、Onイオンラジカルを含むC12A7化合物の室温での電子スピン共鳴スペクトルの例を示すグラフである。
【図3】図3は、イオンラジカル(3×1018cm-3)のみを含むC12A7化合物およびOイオンラジカル(2×1020cm-3)とOイオンラジカル(3×1020cm-3)を同時に含むC12A7化合物の77Kでの電子スピン共鳴スペクトルの例を示すグラフである。
【図4】図4は、Oイオンラジカルを3×1020cm-3含むC12A7化合物のラマン散乱スペクトルの例を示すグラフである。
【図5】図5は、OHイオンによる、3560cm-1近傍の赤外吸収スペクトルの例を示すグラフである。
【図6】図6は、OHイオンによる、3500cm-1近傍のラマン散乱ピークの例を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例で得られた12CaO・7Alの昇温・降温質量変化を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例で得られた12CaO・7Al化合物を、急冷した試料のOnイオンラジカル濃度を示すグラフである。
【図9】図9は、比較例1で得られた12CaO・7Al化合物中に包接されるOHイオンの濃度の温度1300℃における焼結時間による変化を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8