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明細書 :組織の冷却保存液

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3694730号 (P3694730)
公開番号 特開2001-247401 (P2001-247401A)
登録日 平成17年7月8日(2005.7.8)
発行日 平成17年9月14日(2005.9.14)
公開日 平成13年9月11日(2001.9.11)
発明の名称または考案の名称 組織の冷却保存液
国際特許分類 A01N  1/02      
A61J  3/00      
FI A01N 1/02
A61J 3/00 301
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願2000-057143 (P2000-057143)
出願日 平成12年3月2日(2000.3.2)
審査請求日 平成12年3月2日(2000.3.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】宮本 元
【氏名】杉本 実紀
【氏名】眞鍋 昇
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100100125、【弁理士】、【氏名又は名称】高見 和明
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
【識別番号】100123652、【弁理士】、【氏名又は名称】坂野 博行
審査官 【審査官】穴吹 智子
参考文献・文献 特表平11-507380(JP,A)
特開平06-292564(JP,A)
特開平02-025401(JP,A)
特開昭63-035501(JP,A)
特開平11-228301(JP,A)
特開2000-239101(JP,A)
調査した分野 A01N 1/02
A61J 3/00 301
C12N 1/04
特許請求の範囲 【請求項1】
メタノール、又はエタノールから選択される少なくとも1つの細胞膜透過性物質と、ジメチルスルフォキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも1つの氷晶形成抑止能力を有する物質と、ショ糖、トレハロース、ラフィノース、ラクトース、フルクトースからなる群から選択される少なくとも1つの細胞膜非透過性脱水促進物質とを含有することを特徴とする組織の冷却保存液。
【請求項2】
氷晶形成抑止能力を有する物質が、ジメチルスルフォキシドであることを特徴とする請求項1項に記載の冷却保存液。
【請求項3】
氷晶形成抑止能力を有する物質が、エチレングリコールであることを特徴とする請求項1項に記載の冷却保存液。
【請求項4】
細胞膜非透過性脱水促進物質が、ショ糖であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の冷却保存液。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、細胞又は組織の冷却保存液に関し、特に、動物類の雌性生殖器官等の器官を保存するための冷却保存液に関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞を生かしたままである期間保存するには、大別して4℃程度の低温保存と凍結保存がある。低温保存は代謝速度を低下させて生存期間の延長を図るもので、細胞は比較的緩やかな生存率の減少を示し、実用的な保存期間は数日間から2週間程度である。一方、長期的な保存法としては、-80℃または-196℃の凍結保存がある。凍結保存は、細胞機能を回復可能な状態に保ったまま凍らせて保存することである。凍結保存は、グリセロールまたはジメチルスルホキシド(5~10%)を凍結保護剤として培地に加え、毎分1℃程度の速度でゆっくり凍結し、-196℃の液体窒素温度に保存したのち毎分200℃程度て急速に溶解し、保護剤を取り除いたのち培地に移す方法が標準的である。
【0003】
このような凍結保存において、凍結保存に用いる冷却保存液を改良し、より効果的な保存法の開発が行なわれている。細胞の保存のうち、特に生殖細胞の保存は、生物の系統を維持するための効率的な方法であり、保存された系統は遺伝資源として有効に活用できる。また生物集団の遺伝的多様性の維持にも役立つ。さらに、哺乳類においては、雌の成熟生殖子である卵子は極わずかしか排卵されないため、卵巣内に多数存在する未成熟卵母細胞を保存する方が効率が良い。
【0004】
かかる条件下、動物類の卵巣などの大きな組織の凍結保存のために、保護物質としてジメチルスルフォキシド、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ショ糖を用い、コンピューター制御されたプログラムフリーザーを利用した緩慢凍結法が知られている。
【0005】
さらに、精子、卵子、受精卵のような極微小な細胞の保存のために、冷却保存液として、例えば、ジメチルスルホキシド、アセトアミド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの高濃度の保護物質を含有する急速冷却法(ガラス化法)が知られている。
ここで、このガラス化法について、捕捉説明する。ガラス化法とは、細胞や組織に含まれる水分にガラス化を起こさせて氷晶形成による傷害を避ける保存法である。水を氷点下まで冷却すると、通常は結晶構造を持つ氷に相転移し氷の結晶(氷晶)が形成される。細胞又は組織の保存のためには、細胞質内や細胞近傍に形成される氷晶による傷害の防止が必須である。そのために各種の方法が開発されてきたが、ガラス化法もその中の一種で、現在最も優れたものである。
【0006】
水は、特殊な条件下では氷晶形成することなくガラス状の非晶質の固体になる。このような、結晶化を伴わない固体化をガラス化(vitrification)と呼ぶ。水のガラス化が生じる条件としては、急速な冷却、高静水圧、および凍害保護物質の高濃度での存在が挙げられる。 これらはそれぞれ単独でもガラス化を起こさせることができるが、単独の場合は条件が非常に厳しくなり細胞死をもたらす。すなわち、冷却完了までの間に生じる細胞への悪影響、処理できる組織・細胞のサイズの制限から、細胞・組織の超低温保存においては単独使用できない。そのため、これまでに開発されているガラス化法では、高濃度の保護物質と急速冷却をたくみに併用することにより、これらの負の側面を緩和し、それぞれについて必要とされる条件が実用的なレベルになっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記緩慢凍結法については、細胞内氷晶形成を回避することができるが、緩慢な速度での冷却は長い処理時間と特殊な装置を必要とし実用的には不満足な結果しか得られていない。
【0008】
また、急速冷却法は、微小な細胞に対して有効に作用するが、ガラス化法で、高濃度の保護物質と急速冷却とを併用しても、冷却保存液に高濃度のジメチルスルホキシド、アセトアミド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールを含有するため、毒性が高く、細胞や組識を損傷してしまう可能性があり、卵巣のような大きな組織の凍結保存には応用できていない。
【0009】
したがって、細胞や組識の損傷を防止し、完全な形で細胞、特に、保存の困難な動物類の生殖細胞を保存し得る冷却保存液の開発が求められている。
【0010】
しかし、このような冷却保存液はこれまで知られていない。
【0011】
そこで、本発明は、微小な細胞の保存のみならず、大きな組織の保存に対しても有効な冷却保存液を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の冷却保存液は、細胞膜透過性凍害保護物質、氷晶形成抑止能力を有する凍害保護物質、及び細胞膜非透過性脱水促進物質とを含有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の好ましい実施態様として、細胞膜透過性物質が、メタノール、エタノール、ホルムアミド、又はアセトアミドからなる群から選択される少なくと1つであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の好ましい実施態様として、氷晶形成抑止能力を有する物質が、多価アルコール、又はジメチルスルフォキシドの少なくとも1つであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の好ましい実施態様として、多価アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の好ましい実施態様として、細胞膜非透過性脱水促進物質が、ショ糖であることを特徴とする。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の冷却保存液は、細胞膜透過性物質、氷晶形成抑止能力を有する物質、及び細胞膜非透過性脱水促進物質とを含有する塩類溶液である。
【0018】
本発明の冷却保存液は、保存する対象が細胞の場合に限らず、細胞より大きい組織に対しても適用することができる。また、本発明の冷却保存液は、保存対象が細胞であれば、動物細胞、植物細胞を問わず適用することができ、特に限定されることはない。保存対象は、精子、卵子、胚、血球細胞、幹細胞類のなどの微小な細胞から、卵巣等の細胞より大きな組織を対象とすることができる。以下では、組織のうち保存価値の高い卵巣を主として説明するが、本発明はこれに限定される意図ではない。
【0019】
また、凍結保存とは、主として「氷晶形成」させることを意味する場合があり、一方、ガラス化法は、氷晶形成をなるべく生じさせないように、保存させることを意味する。したがって、本明細書において、氷晶形成をなるべく生じさせない場合の保存を、特に超低温保存と定義して用いることとする。
また、組織・細胞の凍結保存を行う際に、ある種の化合物を冷却液に添加することにより、冷却及び凍結により生じる傷害、すなわち凍害を防止あるいは低減することができる。このような化合物を凍害保護物質と定義して用いることとする。凍害保護物質の作用機序としては氷晶形成の抑制、タンパクの変性防止等が挙げられるが、ある化合物が凍害保護物質であるか否かは、その物質が凍害から細胞を保護する能力があるかによって決定され、その作用機序がどのようなものであるかは問わない。
【0020】
細胞膜透過性物質は、細胞又は組織内部において凍害保護を行なうために用いる。細胞膜透過性物質は、凍害保護物質の1つである。超低温保存の対象とする細胞又は組識に対して、凍害保護物質が短時間に均質に分布されるようにするためである。細胞膜透過性物質は、一般的には、低分子量の物質が好ましいが、細胞及び組識の生体膜を通過することが容易な凍害保護物質であれば、特に限定されない。
【0021】
細胞膜透過性物質は、細胞又は組織の生体膜透過性が優れていれば、特に限定されることはないが、メタノール、エタノール、ホルムアミド、アセトアミドを挙げることができる。分子量が小さく組織又は細胞中への透過性に優れ、細胞への毒性が比較的低いという観点から、細胞膜透過性物質としては、好ましくは、メタノールが挙げられる。
【0022】
氷晶形成抑止能力を有する物質は、細胞又は組織内及びその近傍において超低温保存中に氷晶形成が生じるのを防止するために用いる。氷晶形成抑止能力を有する物質も、凍害保護物質の1つである。この氷晶形成抑止能力を有する物質は、細胞膜透過性物質と併用することにより、各成分による毒性が許容範囲となる濃度の溶液において氷晶形成抑制を可能とする。
【0023】
氷晶形成抑止能力を有する物質には、多価アルコール又はジメチルスルフォキシドを挙げることができる。これら氷晶形成抑制能力を有する物質の少なくとも1つを用いることができる。多価アルコール、ジメチルスルフォキシドなどを単独で用いても良く、これらを併用しても良い。併用する場合には、多価アルコールのうち1つと、ジメチルスルフォキシドとの組み合わせが、保存能力を向上させるという観点から好ましい。その他の任意の組み合わせによって使用する場合には、同等の保存能力を有する。
【0024】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、グリセロールからなる群から選択される少なくとも1つを挙げることができる。これらを単独で用いても良くこれらを任意に組み合わせて用いても良い。これらを、メタノールなど他の物質と組み合わせて低濃度で使用することにより、各成分による毒性が許容範囲となる濃度の溶液において保存能力を向上させることができる。
【0025】
多価アルコール、ジメチルスルフォキシドなどの氷晶形成抑止物質に併用することができる成分としては、ポリエチレングリコール、フィコール、デキストラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルアルコール、ポリビニールビロリドン、パーコール、アルブミンなどを挙げることができる。ガラス化を行なうために冷却保存液に含まれる保護物質濃度が十分でない場合に、これらの成分を添加すると保存能力をさらに向上させることができる。これらの成分及び成分の用量は、氷晶形成抑止物質の量、保存対象と組織の種類などに応じて適宜決定することができる。
【0026】
細胞膜非透過性脱水促進物質は、細胞を適度に脱水させることにより、細胞内での氷晶形成を抑制するとともに、細胞内への過剰な保護物質浸透による傷害を抑制するために用いる。また、細胞膜非透過性脱水促進物質は、細胞外液の塩濃度を過度に上昇させずに細胞の脱水を促進し、細胞内氷晶形成の抑制及び透過性保護物質の毒性低減を補助するために必要である。基礎溶液として使用する細胞培養液、緩衝液などの塩類溶液はそのままでは細胞質とほぼ同じ浸透圧であるため脱水促進効果を持たない。また細胞培養液あるいは緩衝塩類溶液の溶質濃度を上昇させて細胞の脱水を行おうとすると、細胞外液の塩濃度が過度に上昇し細胞に悪影響をおよぼす可能性が高いので不適当である。細胞膜非透過性脱水促進物質としては、ショ糖、トレハロース、ラフィノース、ラクトース、フルクトースなどを挙げることができる。
【0027】
上記細胞膜透過性物質、氷晶形成抑止能力を有する物質及び細胞膜非透過性脱水促進物質の比率は、保存する細胞、組織などの種類により適宜変更して使用することができる。細胞膜透過性物質及び氷晶形成抑止能力を有する物質の用量は、用いる物質の細胞毒性をパラメータとして許容限界を設定することができる。また、氷晶形成抑止能力を有する物質の用量は、超低温保存に必要とされる濃度を勘案して適宜設定することができる。
【0028】
一般に、これらの比率は、細胞膜非透過性脱水促進物質を1として固定して考えると、細胞非透過性脱水促進物質:細胞膜透過性物質:氷晶形成抑止能力を有する物質=1:0.1~0.5:0.3~0.85である。好ましくは、これらの比率は、細胞非透過性脱水促進物質:細胞膜透過性物質:氷晶形成抑止能力を有する物質=1:0.2~0.3:0.5~0.7である。
【0029】
この冷却保存液は、細胞膜透過性保護物質及び細胞膜非透過性脱水促進物質をダルベッコ-リン酸緩衝生理食塩水等の塩類溶液と適宜混和して作製することができる。
塩類溶液を細胞培養液または緩衝液とすることは、組織内の細胞の細胞質のイオン組成の過大な変動を防ぐために必要である。細胞培養液および緩衝液(緩衝塩類溶液)については、細胞の培養や保存に使用可能な組成が従来より多数開発されており、これらのいずれかを使用すればよい。いずれの組成を用いるかにより、保護効果に影響が生じる可能性はあるが、決定的な因子ではないと考えられる。
前記塩類溶液は、例えば、NaCl、KCl、Na2HPO4、NH2PO4 、MgCl2・6H2O及びCaCl2を含有することができる。
【0030】
1リットル中の水の各成分の含有量については、好ましくは、NaClは、6000~10000mg/l、KClは、100~300mg/l、Na2HPO4 は、1000~1300、NH2PO4は、100~300、MgCl2・6H2Oは、50~150、CaCl2は、50~150である。このように調製した塩類溶液のpHは、好ましくは6~8、さらに好ましくは、pH7~7.5である。このような範囲としたのは、生体内での状態に近い範囲とするためである。これらの範囲で適宜変更して使用することができる。
なお、水は、蒸留水、純水、超純水などを特に限定されないが、好ましくは、超純水である。超純水は、蒸留水をミリポア製ミリQフィルターなどのフィルターを通して濾過することにより得られる。
【0031】
なお、細胞非透過性脱水促進物質、細胞膜透過性物質及び氷晶形成抑止能力を有する物質が含まれていれば良く、本発明の冷却保存液には、従来の他の成分、例えば、緩衝剤、抗生物質、抗菌剤、高酸化剤、血清、糖及びその分解産物、ビタミン、タンパク質、アミノ酸、pH指示薬、キレート剤、浸透圧調節剤などを含むこともできる。
【0032】
冷却保存液の使用方法
次に、本発明の冷却保存液を用いた保存方法について説明する。本発明の冷却保存液は、原則として常法の冷却保存法に組み込み使用することができる。
【0033】
即ち、保存の対象となる細胞又は組織などを、本発明による冷却保存液が入った保存用容器中に封入した後、液体窒素に投入して急速冷却して長期間液体窒素中にて保存する。保存した細胞又は組織を使用する場合、水中で急速融解した後、素早く培養液中に浸漬して、冷却保存液中に含まれる様々な添加物質を除去する。
【0034】
前記添加物質を除去した後、細胞又は組織を取り出し体外受精に供する。
但し、組織を超低温保存を行なう際に、そのまま適用できない場合には、以下のような他の処理を施すことができる。
【0035】
他の処理としては、超低温保存前については、脱水処理及び浸漬処理などの前処理、超低温保存後については、洗浄処理などの後処理を挙げることができる。
【0036】
超冷凍保存前に、脱水処理や浸漬処理を行なう理由は、本発明の冷却保存液を直接適用した場合、細胞、組織の種類によっては、細胞及び組織の表面側の冷却保存液の濃度が高くなり、一方、細胞及び組織の内部での冷却保存液の濃度が低くなり、細胞及び組織内の状態が均質化されない場合があるからである。均質化されなければ、細胞又は組識内で冷却保存液の行き届かない部分において、完全な保存が困難となるからである。
【0037】
脱水処理は、保存する細胞又は組織内の状態を均質化するために行なう。細胞又は組織内の状態を均質にできれば、脱水処理の条件は特に限定されない。脱水処理を行なう場合には、室温(15℃~25℃)が好ましい。また、脱水処理は、細胞膜非透過性脱水促進物質を含む塩類溶液を用いるのが好ましく、例えば、0.5Mシュークロース添加ダルベッコ-リン酸緩衝生理食塩水に10~30分間浸漬して行なうことができる。脱水時間は、組織内の状態を均質化するために要求される時間で特に限定されない。
【0038】
次に、浸漬処理も保存する組織内の状態を均質化するために行なう。特に浸漬処理は、保存対象である細胞又は組織の内部の水分、及び保護物質の分布を均一にするために行なう。浸漬処理を行なう場合、室温(15℃~25℃)が好ましい。また、浸漬処理には、冷却保存液の構成成分の1部又は全てからなる溶液を用いるのが好ましく、例えば、冷却保存液を用いることができる。冷却保存液に保存する細胞や組織を数分間~数十分間の間、浸漬することにより浸漬処理を行なうことができる。保存対象である細胞や組織により浸漬の処理時間は異なる。必要以上に浸漬すると、保存対象によっては、損傷を受ける場合があるので、細胞又は組織に応じて上限を設定する。
【0039】
卵巣組織の場合には、浸漬処理時間は、2分~7分間が好ましい。特に好ましくは、処理時間は5分前後である。
【0040】
また、超低温保存後の洗浄処理は、保存後の組織又は細胞から冷却保存液中に含まれる様々な添加物質を除去するために行なう。洗浄処理は、室温(15℃~25℃)で、5~15分間程度行なうことができる。洗浄処理は、異なる洗浄液によって、複数回行なっても良い。例えば、始めに、0.5Mシュークロース添加ダルベッコ-リン酸緩衝生理食塩水を使用し、その後ダルベッコ-リン酸緩衝生理食塩水を使用して行なうことができる。このようにすると、非透過性物質を含む溶液を用いた洗浄により浸透圧ショックによる細胞侵害を防ぐことができると考えられる。また、非透過性物質自体も最終的には組織から除去する方が好ましいからである。
【0041】
但し、あまり多く洗浄を行なうと、細胞及び組織を損傷する虞が有る。したがって、洗浄時間、洗浄回数の上限は、細胞及び組識を損傷しない程度に設定される。
【0042】
【実施例】
ここで、本発明の一実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0043】
比較例
比較例として、超低温保存せずに移植した場合の移植後の組織について試験した。まず、8~11週齢雌性ddY系マウスを麻酔し、麻酔下において左側卵巣を摘出した。この左側卵巣を摘出したマウスの右腎被膜下に自家移植し、さらに右側卵巣を切除した。膣スメア検査を手術2日後から12日後まで毎日1回実施し、性周期の回帰(角化細胞からなる膣スメアの出現)の有無を判定した。性周期の回帰したマウスでは移植した卵巣が機能を果たしていることが分かった(エストロゲン分泌を行なっている)。手術後12~14日目に解剖し、移植部における卵巣組織の形態を判定した。移植後の結果は、スメア検査及び卵巣形態から卵巣機能ありと判定された割合は、100%であった(6匹中6匹)。
【0044】
実施例1
10~11週齢雌性ddY系マウスを麻酔し、麻酔下において左側卵巣を摘出した。0.5Mシュークロース添加ダルベッコーリン酸緩衝生理食塩水に室温で20分間浸漬して脱水処理した。そして、0.5Mシュークロース添加生理食塩水:メタノール:エチレングリコール=1:0.25:0.66である組成の冷却保存液を準備した。これらの冷却保存液に摘出した前記左側卵巣を室温で、5分間浸漬した。その後、ガラス試験管に(これらの冷却保存液と共に)前記左側卵巣を入れ、液体窒素中で急速冷却した。さらに、30分以上、-196℃で超低温保存した。その後、保存した各左側卵巣を室温の水中で加温し融解した。次に、各左側卵巣を、0.5Mシュークロース添加ダルベッコ-リン酸緩衝生理食塩水中に室温で10分間浸漬して、さらにダルベッコリン酸緩衝生理食塩水中に室温で10分間浸漬して洗浄した。左側卵巣を摘出したマウスの右腎被膜下に自家移植し、右側卵巣を切除した。膣スメア検査を手術2日後から12日後まで毎日1回実施し、性周期の回帰(角化細胞からなる膣スメアの出現)の有無を判定した。性周期の回帰したマウスでは移植した卵巣が機能を果たしていることが分かった(エストロゲン分泌を行なっている)。手術後12日目に解剖し、移植部における卵巣組織の形態を判定した。移植後の結果は、スメア検査及び卵巣形態から卵巣機能ありと判定された。卵巣機能有りと判定された割合は、33%であった。
【0045】
【発明の効果】
本発明の保存液によれば、微小な細胞の保存のみならず、大きな組織の保存に対しても有効に保存効果を発揮するという有利な効果を奏する。
【0046】
また、本発明の保存液を用いることで、細胞養鯉大きな組織、例えば、卵巣及び卵胞を含む卵巣組織などの小片の超低温保存を簡便かつ好成績に実現できるという有利な効果を奏する。