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明細書 :培養基材、細胞組織体及びそれらの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3653543号 (P3653543)
公開番号 特開2001-321157 (P2001-321157A)
登録日 平成17年3月11日(2005.3.11)
発行日 平成17年5月25日(2005.5.25)
公開日 平成13年11月20日(2001.11.20)
発明の名称または考案の名称 培養基材、細胞組織体及びそれらの製造方法
国際特許分類 C12M  3/00      
C12N 11/12      
FI C12M 3/00 A
C12N 11/12
請求項の数または発明の数 4
全頁数 12
出願番号 特願2000-140342 (P2000-140342)
出願日 平成12年5月12日(2000.5.12)
審査請求日 平成12年5月12日(2000.5.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】岩田 博夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100100125、【弁理士】、【氏名又は名称】高見 和明
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
【識別番号】100123652、【弁理士】、【氏名又は名称】坂野 博行
審査官 【審査官】田中 晴絵
参考文献・文献 特開平05-252941(JP,A)
特開平06-141851(JP,A)
調査した分野 C12M 3/00-3/10
C12N 11/12
特許請求の範囲 【請求項1】
タンパク質又はペプチドをセルロースに固定化させた細胞培養基材上で細胞を培養し、セルラーゼにより前記セルロースを除去することを特徴とする細胞組織体の製造方法。
【請求項2】
タンパク質が、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テイネシン、トロンボスポンジン、エンタクチン、オステオポンチン、フォンビルブラント因子、フィブリノーゲン、コラーゲン、ゼラチン及びエラスチンからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1記載の方法。
【請求項3】
ペプチドが、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸-セリン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸、ロイシン-アスパラギン酸-バリン、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン、アスパラギン酸-グリシン-グルタミン酸-アラニン、グルタミン酸-イソロイシン-ロイシン-アスパラギン酸-バリン、グリンシン-プロリン-アルギニン-プロリン、リジン-グルタミン-アラニン-グリシン-アスパラギン酸-バリン、グルタミン酸-イソロイシン-ロイシン-アスパラギン酸-バリン、チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン、及びバリン-グリシン-バリン-アラニン-プロリン-グリシンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記セルロースの形状が、平膜、中空糸、又は3次元構造物である請求項1記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【従来の技術】
バイオ関連産業で付着性の動物細胞が多量に培養されている。この細胞を継代培養するときには、細胞と培養基材との間に存在する細胞接着タンパク質をタンパク分解酵素で消化分解することによって、細胞を基材から遊離させている。従来から、ポリスチレンなどの極めて安定な材料からなる培養基材が多用されている。
【0002】
また、近年、注目されている組織工学では、細胞から擬似組織を作製し、これを治療に用いている。例えば、バイオ人工皮膚では、表皮細胞シートを培養基材から剥がす場合には、やはりタンパク質分解酵素であるディスパーゼが用いられている。
【0003】
表皮細胞シートを非酵素的に回収する方法として、N-イソプロピルアクリルアミド等の感温性高分子を表面グラフトした培養基材が知られている。この方法は、基材の細胞接着能をコントロールすることで細胞を培養基材から遊離させているため、細胞を基材表面から剥がすのに優れた方法である。
【0004】
また、現在では、ポリグリコール酸やポリ乳酸などの生体内吸収性の高分子から3次元の培養基材を作製し、この培養基材に細胞を播種、さらに増殖させる細胞組織体の製造方法が知られている。生体内吸収性高分子は一定期間経過後、分解されて消失するため、細胞のみからなる3次元組織体となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、細胞を培養基材から遊離させる際又は、表皮細胞シートを培養基材から剥がす際に、多くの場合ではタンパク質分解酵素を用いる。タンパク質分解酵素は、細胞接着性タンパク質のみならず、細胞膜タンパク質をも分解し、細胞に少なからず傷害を与える。
【0006】
また、細胞を非酵素的に回収する感温性高分子を用いた方法は、基材が消えてなくなるわけではなく、細胞が3次元組織体を形成した場合には、培養基材をこの細胞集合体から除去するのは非常に困難である。
【0007】
さらに、生体内吸収性高分子を用いた方法は、ポリグリコール酸やポリ乳酸の分解は非酵素的な単なる加水分解で進行するため、望むときに迅速に生体内吸収性高分子を除去することができない。このため、ポリグリコール酸においては数週間、ポリ乳酸においては1年以上の間、これらの生体内吸収高分子が細胞組織体の中に残存する。また、生体内吸収高分子等が分解されて生じた分解産物の細胞毒や分解残査による異物反応の誘起などが指摘されている。このように動物細胞は極めて病弱であるため、細胞に傷害を与えることなく細胞が付着している培養基材を除去することは困難である。従って、細胞側に培養基材が残存することがない、いわゆる異物を含まない細胞集合体を作製できれば、異物反応の誘起などの問題を解決することが可能となる。しかし、このような細胞集合体及び細胞集合体の作製方法はこれまで知られていない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、培養基材などの異物を含まない細胞集合体及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の培養基材は、セルロース又はセルロース誘導体と、細胞接着作用を有するタンパク質又はペプチドとからなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の培養基材の好ましい実施態様としては、セルロース誘導体が、酢酸セルロース又はカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の培養基材の好ましい実施態様としては、前記細胞接着作用を有するタンパク質が、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テイネシン、トロンボスポンジン、エンタクチン、オステオポンチン、フォンビルブラント因子、フィブリノーゲン、コラーゲン、ゼラチン及びエラスチンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の培養基材の好ましい実施態様としては、前記細胞接着作用を有するペプチドが、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸-セリン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸、ロイシン-アスパラギン酸-バリン、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン、アスパラギン酸-グリシン-グルタミン酸-アラニン、グルタミン酸-イソロイシン-ロイシン-アスパラギン酸-バリン、グリンシン-プロリン-アルギニン-プロリン、リジン-グルタミン-アラニン-グリシン-アスパラギン酸-バリン、グルタミン酸-イソロイシン-ロイシン-アスパラギン酸-バリン、チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン、及びバリン-グリシン-バリン-アラニン-プロリン-グリシンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の細胞組織体の製造方法は、タンパク質又はペプチドをセルロースに固定化させた細胞培養基材上で細胞を培養し、セルラーゼにより前記セルロースを除去することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る細胞組織体の製造方法の好ましい実施態様としては、タンパク質が、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テイネシン、トロンボスポンジン、エンタクチン、オステオポンチン、フォンビルブラント因子、フィブリノーゲン、コラーゲン、ゼラチン及びエラスチンからなる群から選択させる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る細胞組織体の製造方法の好ましい実施態様としては、前記セルロースの形状が、平膜、中空糸、又は3次元構造物であることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるセルロースとは、D-グルコピラノースがβ1-4グルコシド結合で連なった繊維状高分子を意味し、地球上で最も多い炭水化物で植物体の約1/3を占めている物質である。
【0017】
本発明の培養基材は、セルロース又はセルロース誘導体と、細胞接着作用を有するタンパク質又はペプチドとからなる。セルロース誘導体には、酢酸セルロース又は、カルボキシメチルセルロースを含む。また、細胞接着性を有するタンパク質又はペプチドとは、細胞に結合する領域を有するタンパク質又はペプチドを意味する。
【0018】
細胞接着作用を有するタンパク質としては、細胞に結合する領域を有するタンパク質であれば特に限定されるものではないが、例えば、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、テイネシン、トロンボスポンジン、エンタクチン、オステオポンチン、フォンビルブラント因子、フィブリノーゲン、コラーゲン、ゼラチン及びエラスチン等を挙げることができる。多くの種類の細胞に接着性を有するという観点から、細胞接着性を有するタンパク質としては、好ましくは、 フィブロネクチン、ビトロネクチンを挙げることができる。
【0019】
また、細胞接着作用を有するペプチドとしては、細胞に結合する領域を有するペプチドであれば特に限定されるものではないが、例えば、アルギニン-グリシン-アスバラギン酸、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸-セリン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸、ロイシン-アスパラギン酸-バリン、アルギニン-グルタミン酸-アスパラギン酸-バリン、アスパラギン酸-グリシン-グルタミン酸-アラニン、グルタミン酸-イソロイシン-ロイシン-アスパラギン酸-バリン、グリンシン-プロリン-アルギニン-プロリン、リジン-グルタミン-アラニン-グリシン-アスパラギン酸-バリン、グルタミン酸-イソロイシン-ロイシン-アスパラギン酸-バリン、チロシン-イソロイシン-グリシン-セリン-アルギニン、及びバリン-グリシン-バリン-アラニン-プロリン-グリシン等のオリゴペプチドを挙げることができる。多くの種類の細胞に接着性を有するという観点から、細胞接着性を有するペプチドとしては、好ましくは、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸、アスパラギン酸-グリシン-グルタミン酸-アラニン等のオリゴペプチドを挙げることができる。
【0020】
次に、本発明の細胞集合体の製造方法は、タンパク質又はペプチドをセルロースに固定化させた細胞培養基材上で細胞を培養し、セルラーゼにより前記セルロースを除去する。
【0021】
本発明の細胞集合体の製造方法においては、上述したセルロース、タンパク質及びペプチドを用いることができる。
【0022】
目的とする細胞集合体に応じて、セルロースを所望の形状に加工して用いることができる。セルロースは、優れた物性を有することから、その加工も容易に行うことが可能である。平膜を作製する場合には、一般的には、プラスチックの場合は射出成形やホットプレスで形状をつくり、この表面をプラズマ処理やコロナ処理にて親水性にして、細胞接着性を付与する。一方、セルロース誘導体の場合プラスチックではないので、まずセルロース誘導体を含む溶液を作り、これをガラス板などの上にキャストし、乾燥する。乾燥物を加水分解してセルロースのフィルムを得る。このフィルムにフィブロネクチンなどの細胞接着性を有するタンパク質やアルギニンーグリシンーアスパラギン酸の細胞接着性を有するペプチドを固定して細胞接着性を付与することにより、平膜を作製することができる。
【0023】
また、中空糸は、一般的には、血液透析器(人工腎臓)などで用いられている。セルロース誘導体製の中空糸の場合は、セルロース誘導体の溶液をノズルから凝固液へ押出し、中空糸を作成する。この中空糸に、フィブロネクチンなどの細胞接着性を有するタンパク質やアルギニンーグリシンーアスパラギン酸の細胞接着性を有するペプチドを固定して細胞接着性を付与する。
【0024】
また、セルロース又はセルロース誘導体製の中空糸を用いて、3次元構造物を作製することができる。形を固定するために、酢酸セルロースなどのセルロース誘導体の溶液に浸漬する。その後、溶液を乾燥し、乾燥物を得る。さらに、この乾燥物をアルカリ加水分解して、セルロースに変換し所望の3次元構造物を得る。その後、この3次元構造物に、フィブロネクチンなどの細胞接着性を有するタンパク質やアルギニンーグリシンーアスパラギン酸の細胞接着性を有するペプチドを固定して細胞接着性を付与する。
【0025】
タンパク質又はペプチドの固定化は、セルロースの多数の水酸基を利用して行うことができる。この多数の水酸基によって固定化を容易に行うことができる。固定化の方法は、まず、セルロースの活性化を行う。セルロースの活性化は、例えば、トレシルクロライド、アセトン、ピリジン混合溶液や、アセトン、クロロホルム、ジオキサン等の極性有機溶媒に溶解し、これらの溶液に0.5~3時間浸漬して行うことができる。この浸漬時間は、セルロースが活性化されれば、特に限定されない。
【0026】
例えば、図1は、セルロース中空糸を用いた3次元組織体を作る方法の概念図を示す。生体外で細胞を培養する間、細胞は増殖し中空繊維に多細胞層を形成していく。
【0027】
トレシルクロライドを用いた場合の反応式を示すと下記式1のようになる。
【数1】
JP0003653543B2_000002t.gif式1によって、セルロース中空繊維のトレシル化とフィブロネクチンの固定化過程の様子が分かる。細胞接着作用を有するタンパク質又はペプチドを含む緩衝液にセルロースを浸漬することにより、セルロースと前記タンパク質又はペプチドとを反応させて、セルロース上に前記タンパク質又はペプチドを固定化することができる。
【0028】
緩衝液としては、一級または二級アミノ基を含む緩衝液はトレシル化セルロースと反応するため好ましくはないが、これらを含まない緩衝液であれば、特に限定されない。好ましくは、リン酸緩衝生理食塩水、酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液等を挙げることができる。
【0029】
その後、細胞接着作用を有するタンパク質又はペプチドを固定化したセルロースを、培養プレートに入れ、細胞を培養することができる。
【0030】
【実施例】
実施例1
再生セルロースの中空糸(内径200μm、外径230μm、長さ15mm)5本をアセトンで洗浄後、減圧下に十分乾燥させ、乾燥後エチレンオキシドガス滅菌を行った。これ以後の操作は、全て無菌下で行った。トレシルクロライド(1g)とピリジン(1.5ml)を乾燥アセトン(30ml)に溶解し、この混合溶液に中空糸を1時間浸漬することによって、セルロースの水酸基を活性化させた。さらに、活性化させた中空糸を0.1mg/mlmの細胞接着タンパクフィブロネクチンを含む培養液0.4mlに浸漬した。フィブロネクチン固定化中空糸を培養皿に移し、この培養皿に細胞懸濁液(8×10細胞/ml)を加えて5%CO2雰囲気下で37℃にて培養を行った。その後、1週間に2回培養液を交換し、培養を続けた。30日後、培養液をセルラーゼ(メイセラーゼ、明治製菓製)8mg/mlを含む培養液0.4mlと交換し、さらに培養し、24時間継続した後、元の培養液に戻し、さらに7日間培養を行った。形成された細胞集合体を中性ホルマリン溶液に浸漬して固定した。
【0031】
その後、光学顕微鏡観察するために、厚さ10μmの薄切片を作製し、さらにヘマトキシリン-エオジン染色を行った。組織に約5個の直径約10μmの中空部分が見られ、その周囲には細胞成分が粗で細胞外マトリクッスが多く見られる層、さらにその外側に細胞に富む組織が存在した、このように、上記の操作により、人工物を全く含まない中空の組織体を形成することができた。
【0032】
実施例2
中空繊維を使用して毛細管を有する3次元組織体を再構築した。セルロース中空繊維を、細胞培養の基材として使用した。生体外で細胞を培養する間、細胞は増殖し、中空繊維に多細胞層を形成した。細胞として、L細胞及び牛冠動脈平滑筋(BCASMC)を使用して、より詳細な比較検討を行った。
【0033】
固定化についての評価
修飾セルロースの表面特性を調べた。表面特性は、修飾中空繊維の表面を、X線光電子分光法(ESCA)によって調べることにより行った。X-線光電子分光法(ESCA)は、材料表面層約50オグストロームの原子組成を分析する方法であり、これにより、中空繊維表面の原子組成を把握できる。後述するように、フィブロネクチンを固定化した中空糸を加水分解後、高性能液体クロマトグラフィーHPLCを用いてアミノ酸分析によってフィブロネクチンの固定化量を決定した。
【0034】
【表1】
JP0003653543B2_000003t.gif【0035】
表1は、再生繊維、トレシル化した中空繊維及びフィブロネクチン-固定化中空繊維のESCA分析の結果を示す。トレシル化した繊維のフッ素/炭素(F/C)率は、セルロース繊維の2つのピラノース基毎に1つのトレシル基が導入されたことを示す。
【0036】
フィブロネクチン固定化後、F/C率は0.04まで減少し、フィブロネクチン固定の間、トレシル基が加水分解されたことを示す。窒素/炭素(N/C)率は、繊維上にフィブロネクチンを固定化したことによって増加することが予想されたが、あまり明確な変化が観察されなかった。この分析結果より、セルロース表面にはフッ素は存在しないが、セルロースの水酸基をトレシルクロライドでまず活性化すると、式1に示したようにフッ素が導入されることが判る。
【0037】
中空繊維上の固定化フィブロネクチンの量を、HPLCを使用してアミノ酸分析によって決定した。結果を図2に示す。図2は、中空繊維上のフィブロネクチン固定化の量と反応時間との関係を示す。図2に示すように、フィブロネクチン固定化の量は、反応時間とともに増加した。反応時間10時間では、フィブロネクチン固定化の量は、0.05~0.1μg/cmへ落ち着いた。
【0038】
フィブロネクチン固定化の影響
フィブロネクチン固定化が細胞付着へ及ぼす影響を調べるために、セルロースフィルムディスクを使用した。セルロースフィルムを培養皿に入れ、これに0.3mlの細胞懸濁液(4×105細胞/ml)を載せ、5%CO2下37℃にて培養した。
【0039】
フィブロネクチン固定化が細胞の付着と成長に及ぼす影響を評価するために、細胞(L細胞及びBCASMXC)を、血清のない培地において未処理セルロースフィルム及びフィブロネクチン固定化フィルム上にはん種した。中空繊維上の細胞培養には、10本の中空繊維の塊を細胞培養の基材として使用した。細胞懸濁液(8×10細胞/ml)を載せ、5%CO2下、37℃にて培養した。細胞を、所定の培養時間間隔にて培養した。
【0040】
細胞の種類に関わらず、少数の細胞が未処理のセルロースフィルム上に存在した。図3は、セルロースフィルムとフィブロネクチン固定化セルロースフィルム上への細胞の接着と細胞の増殖を示す図である。図3に示すように、7日培養後でさえ、未処理のフィルムにおいて細胞の増殖は観察されなかった。
【0041】
対照的に、フィブロネクチンの固定化は、セルロースフィルムの細胞付着能力を改善した。図3に示すように、フィブロネクチン固定化フィルムの細胞の数は、未処理フィルムでのものより3倍高かった。さらに、培養を続けたとき、細胞は、迅速に増殖した。2週間培養後、BCASMACの数は1.8×10細胞/cm2へ増加した。
【0042】
中空繊維上に付着したL細胞及びBCASMCの形態を位相差光学顕微鏡によって観察した。図4は、未処理繊維及びフィブロネクチン固定化繊維上で培養したL細胞及びBCASSMCの光学顕微鏡写真を示す図である。図4(a)は、未処理繊維及びフィブロネクチン固定化繊維上のL細胞の光学顕微鏡を示す。L細胞は、その形態からもわかるように未処理繊維に十分に付着しなかった。L細胞の数も培養時間とともに増加しなかった。対照的に、L細胞は、フィブロネクチン固定化繊維上に良く付着した。培養を続けたとき、フィブロネクチン-固定化繊維上の細胞は、急速に増殖し、9日培養後、L細胞は繊維上に3~4層の細胞層を形成した。図4(b)は、フィブロネクチン固定化繊維上のBCASMCの形態を示す。これらは、BCASMCがフィブロネクチン固定化繊維上に十分に付着したことを示す。40日培養後の光学顕微鏡に見られるように、BCASMCは、増殖し、多層細胞層を形成し、繊維間の空間を占有した。
【0043】
セルラーゼによるセルロースの中空繊維の消化
フィブロネクチン固定化中空繊維を、セルラーゼ(8mg/ml)を溶解させた0.1M酢酸ナトリウム-酢酸緩衝液(pH4.1)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS(-)緩衝液(pH7.0)、グルコース及び血清(pH7.0)なしのD-MEM/F-12培養液、血清(pH7.0)なしのMEM/F-12培養液、10%FBS(pH7.0)を有するD-MEM/F-12培養液中に放置した。
【0044】
下記表2は、種々の溶液におけるセルラーゼによるセルロース繊維の消化試験の結果を示す。
【0045】
【表2】
JP0003653543B2_000004t.gif1.pH4.1:酢酸緩衝液、pH7.0:PBS(-)緩衝液、MEM(-)+:グルコース及び血清のない培養液(pH7.0)、MEM(-):血清のない培養液(pH7.0)、MEM(+):10%血清を有する培養液(pH7.0)
2.セルラーゼ溶液(8mg/ml)を毎日交換した。
【0046】
この試験に使用したセルラーゼは、セルビオハイドラーゼI及びIIを含む。セルラーゼ溶液の培地として、酢酸ナトリウム-酢酸緩衝液(pH4.1)を使用したとき、セルロース繊維は、セルロース繊維の化学修飾なく1日以内に完全に分解された。PBS(-)セルラーゼ溶液(pH7.0)においては、未処理中空繊維を完全に分解するのに1日以上かかった。トレシル化した繊維及びフィブロネクチン固定化繊維の場合、4日後、繊維の大部分が消失した。
【0047】
10%FBSを用いた培地を使用したとき、中空繊維は、最初の3日間の間一部分解された。しかしながら、追加の7日間の間ではさらなる分解は観察されなった。グルコース及び血清のない培地において、繊維の形状が、最初の2,3日の間劣化し、分解が進行したが、小数の断片が混合物において発見された。
【0048】
セルラーゼ消化による細胞集合体の中空繊維の除去
L細胞に対して9日間培養し、BCASMCに対して30日間培養した後に形成された細胞集合体を、5%CO2の下37℃にて1mlのセルラーゼ溶液(8mg/ml、pH7.0、培地)中に放置した。
【0049】
図5は、セルラーゼ処理中の中空繊維上のL細胞集合体の形態の変化を示す。L細胞を担持した中空糸を、10%FBSを有する培地においてセルラーゼによって処理したとき、L細胞集合体は、1日のセルラーゼ処理後不安定化した。いくらかの細胞は、培地皿表面に落ちた。セルロース溶液がセルラーゼを含まない新しい培養液に取り換えた後、培養皿に落ちたL細胞は再び増殖を始めた。
【0050】
一方、BCASMC集合体を有する中空繊維がセルラーゼ溶液に曝されたとき、2日間のセルラーゼ処理中にBCASMC集合体には変化が見られなかった。セルラーゼ処理後、セルラーゼを含まない新しい培養液に取り換えた。BCASMC集合体を追加の培養期間中に、少し収縮した。
【0051】
細胞組織体の形態
セルラーゼ消化の前後の細胞組織を、10%の中性のホルマリン溶液で固定し、エタノールで脱水し、パラフィン中に包埋した。10μm厚の組織片を、光学顕微鏡観察のために調製した。断片を、メイヤーのヘマトキシリン-エオジン(H-E)溶液で染色した。同様に、エラスチカ・ワンギ—ソン染色、マッソントリクロム染色、マッソン・トリクロム染色を適用し、細胞組織における細胞外マトリクッス(ECM)の影響を見た。
【0052】
図6は、様々な染料で染色したBASCSMC集合体の薄部分の微細顕微鏡写真を示す。セルラーゼ処理前の図6(a)に見られるように(HE染色)、BCASMCは、各繊維上に多細胞層を形成した。BCASMC集合体がセルラーゼ溶液に曝された後でさえ、集合体の構造に分解が観察されなかった。集合体は小さくなったが、集合体は、その中にいくつかの管腔が存在した。セルラーゼ消化前の図6(a)から、中空糸管にも細胞や細胞外マトリックスが存在するのが判る。セルラーゼ消化後の図6(a)から、中空糸がセルラーゼの作用で消化・除去されて、細胞や細胞外マトリックスからなる中空の3次元組織が形成されているのが判る。
【0053】
図6(b)は、マッソン・トリクロムで染色したBCASMC集合体の微細写真を示す。集合体において、BCASMCは互いに十分に付着し、ECM(青色部分)は、細胞集合体の全体に渡って広がった。大部分の細胞が集合体の表面に存在するのが観察された。もう少しセルラーゼ消化後の図6(b)の像を詳しく観察すると、中空の3次元組織の中側が青く染色され、組織の内側に細胞外マトリックスのコラーゲンが存在し、外側に生きている細胞が存在するのがわかる。
【0054】
セルラーゼ消化後の図6(c)から余りきれいに染色されていないが、よく見ると黄色に染色された筋繊維が存在するのが判る。このことから、エラスチン(黄色い部分)の存在が、エラスチカ・ワンギーソン染料によって同定された(図6(c))。毛細管構造がエラスチン繊維によって支持されたのが示唆された。
【0055】
【発明の効果】
本発明の細胞組織体は、培養基材などの人工物を含まず、かつ、容易に体内で分解可能なタンパク質又はペプチドを細胞の接着に使用しているので、分解産物の細胞毒、分解残査による異物反応の誘起等の虞がないという有利な効果を奏する。
【0056】
本発明の細胞組織体の製造方法によれば、細胞に傷害を与えることのないセルラーゼにより培養基材を除去することが可能となるという有利な効果を奏する。
【0057】
また、本発明の細胞組織体の製造方法は、優れた物性を有しその加工も容易であるため、特定形状の培養基材を作製することが容易であるという有利な効果を奏する。
【0058】
さらに、本発明の細胞組織体の製造方法は、セルロースは、多数の水酸基を有することから、この水酸基を用いて細胞接着性タンパク質やオリゴペプチドの固定が容易に行えるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、セルロース中空糸を用いた3次元組織体を作る方法の概念図を示す。
【図2】 図2は、中空繊維上のフィブロネクチン固定化の量と反応時間との関係を示す。
【図3】 図3は、セルロースフィルムとフィブロネクチン固定化セルロースフィルム上への細胞の接着と細胞の増殖を示す図である。
【図4】 図4は、未処理繊維及びフィブロネクチン固定化繊維上で培養したL細胞及びBCASSMCの光学顕微鏡写真を示す図である。図4(a)は、未処理繊維及びフィブロネクチン固定化繊維上のL細胞の光学顕微鏡を示す。図4(b)は、フィブロネクチン固定化繊維上のBCASMCの形態を示す。
【図5】 図5は、セルラーゼ処理中の中空繊維上のL細胞集合体の形態の変化を示す。
【図6】 図6は、様々な染料で染色したBASCSMC集合体の薄部分の微細顕微鏡写真を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5