TOP > 国内特許検索 > 有機化合物の分解方法 > 明細書

明細書 :有機化合物の分解方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3564532号 (P3564532)
公開番号 特開2001-334262 (P2001-334262A)
登録日 平成16年6月18日(2004.6.18)
発行日 平成16年9月15日(2004.9.15)
公開日 平成13年12月4日(2001.12.4)
発明の名称または考案の名称 有機化合物の分解方法
国際特許分類 C02F  1/30      
B01J 19/12      
G21H  5/00      
FI C02F 1/30
B01J 19/12 C
G21H 5/00 C
請求項の数または発明の数 5
全頁数 7
出願番号 特願2000-155089 (P2000-155089)
出願日 平成12年5月25日(2000.5.25)
審判番号 不服 2002-024406(P2002-024406/J1)
審査請求日 平成12年5月25日(2000.5.25)
審判請求日 平成14年12月19日(2002.12.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012224
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】吉田 朋子
【氏名】田辺 哲朗
【氏名】吉田 寿雄
【氏名】服部 忠
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
参考文献・文献 特開平8-197044(JP,A)
調査した分野 C02F 1/30 - 32
A62D 1/00 - 9/00
特許請求の範囲 【請求項1】
水溶液中に溶解した有機化合物を、金属を含む固体材料の存在下において、X線及び/又はγ線を照射することにより得られる二次電子又は光によって分解することを特徴とする有機化合物の分解方法。
【請求項2】
さらに、前記X線及び/又はγ線の照射自体によって、前記有機化合物を分解することを特徴とする請求項1記載の有機化合物の分解方法。
【請求項3】
金属を含む固体材料が、放射線を照射することにより二次電子及び/又は光を放出する材料であることを特徴とする請求項1又は2項に記載の方法。
【請求項4】
金属が、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、モリブデン、タングステン、鉛、白金、金、及びその他の希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~3項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記X線及び/又はγ線が、放射性廃棄物由来のものであることを特徴とする請求項1~4項のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機化合物の分解方法に関し、特に、放射線を利用した有機化合物の分解方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、内分泌攪乱物質(環境ホルモン)など有機化合物の生体への影響が大きな問題となっている。このため、生体への影響を低減化すべく有機化合物の分解、無害化が研究されている。
例えば、TiO(二酸化チタン)をはじめとする光触媒を利用した排水中の有害物質の分解が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、環境ホルモンは非常に微量でもその効果が著しいため、環境中の超微少量を処理しなければならない。吸着剤による吸着除去、触媒を利用した吸着分解など様々な試みがなされているものの決定的な有機化合物の分解方法は未だ知られていない。
【0004】
また、TiO(二酸化チタン)を利用した有機化合物の分解方法においては、紫外光や可視光照射を必要とするため懸濁液等の不透明溶液の処理が困難である。また、有害物質の分解に伴って触媒の排水中への溶解が進み、触媒が劣化するという問題点がある。更に分解効率を向上させるために、従来の光触媒は、表面積の大きな固体粉末やその焼結体を利用する場合が多い。このため分解反応後、触媒を排水から回収し、あるいは再利用することは殆ど不可能であった。従って、かかる触媒を用いることなく、有機化合物を除去するか、別の方法で、有機化合物を分解することが望まれていた。しかし、このような有機化合物の分解方法は、これまで知られていない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、有機化合物を分離除去することなしに、溶液中の有機化合物を分解し無害化することができる有機化合物の分解方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、発明者らは、放射線エネルギーを有効利用することによって、固体材料の共存下において水溶液中に存在する内分泌撹乱物質(環境ホルモン)等の有害有機化合物を溶液中から分離除去することなく分解し無害化できることを見出した。
【0007】
本発明の有機化合物の分解方法は、水溶液中に溶解した有機化合物を、金属を含む固体材料の存在下において放射線を照射することによって分解することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の好ましい実施態様としては、金属を含む固体材料が、二次電子及び/又は光を放出する材料であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の好ましい実施態様としては、前記有機化合物は金属を含む固体材料に放射線を照射することによって得られる二次電子及び/又は光により分解されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の好ましい実施態様としては、金属が、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、鉛、モリブデン、タングステン、白金、金、及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の好ましい実施態様としては、放射線が、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、及び粒子線からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の有機化合物の分解方法は、水溶液、特に排水又は排溶液中に存在する有機化合物を、固体材料の存在下において放射線を照射することによって分解する。排水又は排溶液は、透明、不透明を問わない。γ線、電子線又は放射性廃棄物からの各種放射線は、紫外、可視光に比べて著しく透過性が高いため、不透明溶液の処理も可能だからである。有機化合物は、排水等の水溶液中に溶解した状態が好ましいが、懸濁した状態のものであってもよい。
【0013】
一般に、有機化合物とは、一酸化炭素、二酸化炭素などの少数の簡単な化合物を除いた炭素化合物を意味するが、本発明の分解の対象となる有機化合物には、これらすべての有機化合物が含まれ、特に限定されるものではない。本発明によれば、特にベンゼン環を有する有機化合物に対して効果的に分解して作用する。ここでは、環境に悪影響を及ぼす有害有機化合物を対象として説明するが、本発明は、これらの有機化合物に限定される意図ではない。
【0014】
具体的に、例えば、有機化合物としては、フタル酸エステル類、ダイオキシン、PCB、DDT、フェノール類、有機ハロゲン化合物などの環境ホルモン等の有機化合物を挙げることができる。
【0015】
一般的に、放射線分解として、α線によるパラ水素のオルト水素への転換(H・>+p-H → o-H+H)、α線やγ線によるO、NO、NO、CO、COの分解反応がある。また、放射線による炭化水素のC-H結合、C-C結合の切断が知られている。
これら放射線による直接分解はそのままでは効率が悪いので、本発明においては、効率よく分解させるために以下の点を試みた。
【0016】
すなわち、(1)放射線を化学的効果の強い二次電子あるいは光に変換すること、(2)吸着剤を用いて、有機化合物の濃度を高めた上で、効率よく分解を行うことである。この2点を同時に行うために、放射線を照射することによって二次電子又は光を放出する固体材料を水中に浸漬または分散させ、その固体材料の表面に有機化合物を吸着させ、放射線照射により発生した二次電子を用いて分解、無害化するのである。
【0017】
すなわち、本発明の有機化合物の分解方法は、1)放射線それ自体が炭化水素のC-H結合、C-C結合を切断すること、2)放射線が固体材料によって電子や光に変換され、それら電子や光が、C-H結合、C-C結合を切断すること、3)放射線、又は、放射線と固体との相互作用によって発生する電子や光が水をOHラジカルに変え、このOHラジカルがC-H結合、C-C結合を切断すること、等のいずれか1つ又はこれら上記1)~3)の相乗効果によって分解を促進するものである。なお、吸着は、物理吸着、化学吸着によるもので、本発明では、これら吸着の作用により、固体材料に有機化合物を集中させて、効率的に該有機化合物の分解を行うことができる。
【0018】
本発明に用いる固体材料は、特に限定されない。固体材料の形態は、粉末状、板状、バルク形状等特に限定されない。有機化合物を吸着させやすくするという観点から、表面面積の大きい固体材料が好ましい。また好ましくは、固体材料は、二次電子及び/又は光を放出する材料である。二次電子とは、一般的には、固体に外部から電子を打ち込むとき、入射電子の運動エネルギーをもらって固体から放出される電子を意味するが、ここでは、放射線や粒子線の照射によって物質から放出される電子をも含む広い概念を意味する。
【0019】
また、放射線の照射によって放出される光としては、紫外光、可視光、などを挙げることができる。放出された光により、二次電子と同様、有機化合物の分解を促進することができる。
【0020】
また、固体材料に含まれる金属としては、単体、合金のいずれの状態であっても良く、金属酸化物等をも含む趣旨である。金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第3~5族金属、遷移金属等の全ての金属を挙げることができる。二次電子(コンプトン電子を含む)又は光の放出率が高いという観点から、金属としては、質量数の大きい元素が好ましい。
【0021】
入手が容易で、水中で安定であるという観点から、金属としては、好ましくは、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、鉛、タングステン、モリブデン、白金、金及び希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種を挙げることができる。これらの金属を単独で、又は、組み合わせて固体材料として使用することができる。
【0022】
放射線は、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、及び粒子線からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。固体材料から二次電子を効率的に放出させるという観点から、放射線としては、好ましくは、X線、γ線を挙げることができる。
【0023】
放射線の吸収線量としては、分解の対象となる有機化合物の種類、大きさ等により異なり特に限定されるものではない。水質汚染の程度に応じて適宜、放射量を設定することができる。汚染の程度が軽い場合には、数Gyの放射線でベンゼン環の分解が確認されるので、数Gyであっても有効である。10Gy~50kGyの放射線量で、通常、ほとんどの有機化合物を分解し、無害化することができる。但し、水質汚染の程度に応じて、この放射線量を多くすることも可能である。
【0024】
なお、放射線を有機化合物に照射するに際して、有機化合物を含む水溶液を入れる容器は、特に限定されない。これは、放射線は、紫外、可視光と比較して著しく透過性が高いことによる。例えば、ガラス製の透明容器に限定されず、金属製の不透明容器を利用することもできる。
【0025】
【実施例】
ここで、本発明の一実施例を説明するが、本発明は、下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0026】
実施例1
環境ホルモンの1つの代表例であるフタル酸ジブチル17ppmが溶解した水10mlをパイレックスガラス製容器またはステンレス製容器に密封し、室温でコバルト60照射装置を用いてγ線照射を行った。γ線による分解をガスクロマトグラフにより確認し、環境ホルモンとしての機能を発揮するベンゼン環やカルボニル基の消失分解を紫外吸収分光により、確認した。
その結果、照射開始後5分間(0.75kGy)で、パイレックスガラス製容器では44%、ステンレス製容器では97%のフタル酸ジブチルが分解した。対照的に、照射無しでは、ブタル酸ジブチルの分解は全く起らなかった。このように、放射線によるブタル酸ジブチルの分解は非常に有効であり、金属容器の場合の方が効果が高いことも判明した。
【0027】
実施例2
実施例1と同じ17ppmフタル酸ジブチル水溶液10mlをステンレス製容器に密封し、同条件でγ線照射を行った。照射開始後約5分で、環境ホルモンの特徴であるベンゼン環の分解が起こり、更に数時間照射を続けると、フタル酸ジブチルは炭素数の少ない微小分子にまで分解された。
【0028】
実施例3
次に、吸着および二次電子による分解促進を確認するため、質量の異なる材料(ステンレススチール)(SS)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉛(Pb))を、環境ホルモンを溶解させた水中に浸漬させ、その効果を比較した。
実施例1と同じ17ppmフタル酸ジブチル水溶液10mlと各種金属片50×10×0.2mm6枚をパイレックス製ガラス容器に入れ密封し、γ照射を行った。
照射後の水溶液について、ガスクロマトグラフで分解率を測定すると共に紫外吸収(UV)スペクトルを測定し、分解生成物に関する情報を得た。
【0029】
その結果を表1に示す。表では、金属1原子当たりの変化率として示した。表1に示すように、特に原子番号の大きな金属片を入れるとフタル酸ジブチルの分解は速くなった。例えば、ステンレス片を入れた時と、モリブデン、タングステン、鉛等の金属を入れた場合を比較すると、後者の金属1原子あたりの分解率は、前者の約2.5~5倍に向上した。
従来例として、代表的な光触媒であるTiOを本系に応用したところ、分解率の向上は認められず、パイレックス製ガラス容器のみを用いた時と殆ど同じであった。
【0030】
【表1】
JP0003564532B2_000002t.gif【0031】
また、重い金属を浸漬させるほど分解が早いことから、γ線による直接分解よりも、二次電子等による効果が強いことが示唆される。相体的分解率は、各種金属片の分解率から、ガラス容器の分解率をひいた値を示す。
このようにフタル酸ジブチルの分解は非常に早いが、これが直ちに無害化されたことにはならない。放射線を利用した単なる分解では受け入れられず、無害化は必要不可欠である。
そこで、環境ホルモンの特徴の一つであるベンゼン環の分解を確認した。ベンゼン環の分解の確認を、γ線照射後の水溶液のUVスペクトルを測定することにより行った。
【0032】
図1に、例としてステンレス容器を用いた場合の照射によるUVスペクトルの変化を示した。照射前のフタル酸ジブチルには200nm、225nm付近にベンゼン環に起因するスペクトルが明瞭に現れているが、照射と共にこれらのピークは弱くなり、44kGy照射によりほぼ消失する。しかし照射中に190nm付近に新たなピークが出現し、このピークはさらなる照射により徐々に消失していくこともわかる。
【0033】
このことは環境ホルモンそのものは、非常に容易に分解するが、一気にHOやCOあるいはCH などの微小分子にまで分解されるのではなく、190nmのピークに見られるように分解によりいったん反応中間体を形成し、その後さらなる照射により、微小分子に分解、無害化されるものと理解される。これは、どの金属片を入れた場合も同様であった。
MoとWの場合には、反応中間体生成にともなって、金属原子の水中への溶解が起こることがUVスペクトルからわかり、この溶解が、表1のMoやWではPbよりも分解が促進されている一因となっていることが示唆された。
【0034】
【発明の効果】
本発明の有機化合物の分解方法によれば、γ線、電子線或いは放射性廃棄物からの各種放射線は、紫外・可視光に比べて著しく透過性が高いため、不透明溶液の処理も可能であるという有利な効果を奏する。
また、本発明の有機化合物の分解方法によれば、排水・排溶液を入れる容器として、ガラス等の透明容器だけでなく金属等の不透明容器も利用することができるという有利な効果を奏する。
また、本発明の有機化合物の分解方法によれば、高原子番号材料を排水・排溶液中に共存させる、或いは容器にこれらを用いることによって、前記放射線を化学的効果の高い二次電子や紫外・可視光に変換し有害有機化合物の分解を促進させることができるという有利な効果を奏する。
また、本発明の方法によれば、本発明で使用する放射線は、特に限定されないことから、長期にわたって貯蔵あるいは監視の必要な放射線廃棄物の持つ放射能を有効利用することも可能となるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ステンレス製容器を用いた場合の照射によるUVスペクトルの変化を示す図である。
図面
【図1】
0