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明細書 :新規なコバルト膜、新規なエレクトロクロミー材料、およびアルカリイオン電池の正極材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3855156号 (P3855156)
公開番号 特開2003-183873 (P2003-183873A)
登録日 平成18年9月22日(2006.9.22)
発行日 平成18年12月6日(2006.12.6)
公開日 平成15年7月3日(2003.7.3)
発明の名称または考案の名称 新規なコバルト膜、新規なエレクトロクロミー材料、およびアルカリイオン電池の正極材料
国際特許分類 C25D   3/12        (2006.01)
C01G  51/00        (2006.01)
C25D   7/00        (2006.01)
G02F   1/15        (2006.01)
H01M   4/02        (2006.01)
H01M   4/58        (2006.01)
H01M  10/40        (2006.01)
FI C25D 3/12
C01G 51/00 A
C25D 7/00 Y
G02F 1/15 505
G02F 1/15 508
H01M 4/02 C
H01M 4/58
H01M 10/40 Z
請求項の数または発明の数 7
全頁数 10
出願番号 特願2001-387206 (P2001-387206)
出願日 平成13年12月20日(2001.12.20)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成13年9月7日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第80秋季年会(2001) 化学関係学協会連合協議会研究発表会 連合討論会 合同大会 講演予稿集」に発表
審査請求日 平成15年9月24日(2003.9.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】星野 勝義
【氏名】北村 孝司
【氏名】岡 淳一
【氏名】杉浦 聡哉
個別代理人の代理人 【識別番号】100110168、【弁理士】、【氏名又は名称】宮本 晴視
審査官 【審査官】市枝 信之
参考文献・文献 特開平10-284130(JP,A)
特開平03-291862(JP,A)
特開昭60-190588(JP,A)
調査した分野 C25D 1/00 ~ 3/66
C25D 5/00 ~ 7/12
H01M 4/00 ~ 4/62
H01M 10/36 ~ 10/40
C01G 51/00
G02F 1/00 ~ 1/125
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも配位子NH及びClと結合したCo錯体を電解質を添加した電解液中で0~-1.2V以下の飽和カロメル参照電極に対する電位にて還元することにより得られた紫外、可視および赤外領域の全てのスペクトル領域において入射光を吸収する
特性を有し、X線回折分析測定ではCoのみが検出されるが、X線光電子分光分析において531.1eVにピークを示すX線光電子分光スペクトルを持つことを特徴とする新規なコバルト膜。
【請求項2】
新規なコバルト膜がアルカリ金属イオンを含む電解液中で+1.2Vまでの飽和カロメル参照電極に対する電位による酸化により茶色に変化し、該茶色に変化させた後に-1.2V~+1.2V間の飽和カロメル参照電極に対する電位の印加により淡黄色と茶色のエレクトロクロミー特性を示すことを特徴とする請求項1に記載の新規なコバルト膜。
【請求項3】
新規なコバルト膜が形成されるものの表面が-1.2V~+1.2V間の飽和カロメル参照電極に対する電位に対して電気化学的に安定な導電性材料により構成されていることを特徴とする請求項2に記載の新規なコバルト膜。
【請求項4】
請求項3に記載の新規なコバルト膜をアルカリ金属イオンを含む電解液中で飽和カロメル参照電極に対して+1.2Vまでの正電位を印加して電解酸化して得られる茶色を呈する茶膜。
【請求項5】
請求項4に記載の茶膜をアルカリ金属イオンを含む電解質と組み合わせ、該組み合わせを該茶膜に領域選択的に飽和カロメル参照電極に対して-1.2V~+1.2V間の電位を印加できる電極と組み合わせて使用するための前記茶膜のエレクトロクロミズムを利用したディスプレイ材料。
【請求項6】
請求項3に記載の新規なコバルト膜を飽和カロメル参照電極に対して+1.2Vまでの正電位を印加して酸化して得られる茶色を呈する茶膜からなるアルカリイオン電池用の正極材料。
【請求項7】
アルカリイオンがLiイオンであることを特徴とする請求項6に記載の正極材料。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コバルト錯体、特に無機の配位子が配位したコバルト錯体を電解還元して得られる黒体に近い入射波長に対する吸収特性を示す新規なコバルト膜、該コバルト膜をアルカリ金属カチオンが存在する電解液中で酸化して形成した茶色を呈する茶膜、該茶膜が持つエレクトロクロミズム特性を利用する該茶膜のディスプレイ材料としての使用、および該茶膜がアルカリイオン、特にLiイオンの出し入れが可能であり、該出し入れの応答性が高いことからリチウムイオン電池の正極材料としての使用に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、Liイオンを出し入れすることにより、充放電が可能なLiイオン電池の正極材料には、合成のし易さ、取り扱い性の良いことから、LiCoO2材料が用いられてきた。これらに代わる正極材料としてLiNiO2やLiMn24などについても盛んに検討されている。
しかし、前記何れの正極材料においても、該材料の代表的な製造プロセスは正極活性なLi源および遷移金属源となる出発物質を固相反応させて製造するのが一般的である。その際、前記出発物質を粉砕・分級により適度な粒径の粉体、例えば超微粒子とし、できるだけ低温において固相反応させて正極材料の合成を行っている。得られた正極材料は、導電材、結合材などを加えて正極形成材とし、これを導電体基板上に塗布・乾燥などを経て、正極が作成されている。この際、形成されるLiCoO2の一次粒子の大きさは電池性能に影響を及ぼし、前記粉体の製造技術は再現性の良いものでなければならないが、固相反応であるから生成物の安定性に欠ける。前記固相反応による方法以外にも、溶融含浸法、水熱合成法、イオン交換法、液相法などが検討されているが、焼成による合成前の原料を均一に混合するなどの必要があり、正極材料の製造に加熱が必要であり、また、作成される正極材料の特性の再現性などに問題があった。
【0003】
正極材料のユニークな形成方法としは、エキシマレーサー(KrF 248nm)を用いたレーザーアブレーション技術による方法、およびRFスパッタリング技術による方法があるが、この場合においても、転写前の正極材料の構成を所望の特性に近づけておく必要があり、結局前記固相反応を用いる場合などと同様の問題がある。
従って、前記従来の発想とは全く異なるアプローチによるLiイオンの出入りが可能な正極材料、および正極材の製造方法の開発が望まれる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
よって、本願発明の課題は、前記従来のLiイオン電池の正極材料の製造方法とは全く異なる方法、特に機械的粉砕、熱処理といった問題のないLiイオン電池の正極材料の形成方法により製造可能な正極材料を提供することである。前記課題を解決すべく、従来から良く知られている表面修飾技術である電気化学的方法によりLiイオンなどアルカリイオンを出し入れ可能な膜または層、すなわち正極材料が形成できないか、種々のCo化合物を検討する中で、従来光化学反応における酸化性の犠牲試薬として使用されていた〔Co(NH35Cl〕Cl2をアルカリ金属をカチオン成分とする電解質を加えた電解液中で〔Co(NH35Cl〕Cl2をITO(インジウム錫酸化物)電極表面に対して電解還元(飽和カロメル参照電極に対に対して-1.2Vの定電位、または0~-1.2Vまでの電位を一定速度で電位掃引して。)することにより形成されるCo膜が、その面に入射される光が、波長に依存しない高い吸収を示すこと、X線回折測定ではCoのみが観察されるが、X線光電子分光分析では531.1eV(ヒドロキシ基の酸素)にピークが現れることで特徴付けられる新規なコバルト膜が形成されることが観察された。驚くべきことに、該コバルト膜は、アルカリ金属をカチオンとする電解質を加えた電解液中で、0V~+1.2Vの飽和カロメル参照電極に対する電位(以下、電位という場合、飽和カロメル参照電極に対する電位をいう。)を印加して酸化することにより茶色を呈する茶膜に変化し、次いで電位を0~-1.2Vにすると該茶膜が淡黄色の淡黄膜に変化し、以後+1.2V~-1.2で電位を変えることにより、前記茶色と淡黄色の間を可逆的に変化するエレクトロクロミー特性を持つことが観察され、更に、驚くべきことに、この現象がLiイオンの出し入れによって起こっていることが分かり、イオン正極材料として機能することが確認でき、本発明の前記課題を解決することができた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1は、(1)少なくとも配位子NH及びClと結合したCo錯体を電解質を添加した電解液中で0~-1.2V以下の電位にて還元することにより得られた紫外、可視および赤外領域の全てのスペクトル領域において入射光を吸収する特性を有し、X線回折分析測定ではCoのみが検出されるが、X線光電子分光分析において531.1eVにピークを示すX線光電子分光スペクトルを持つことを特徴とする新規なコバルト膜である。好ましくは、(2)新規なコバルト膜がアルカリ金属イオンを含む電解液中で+1.2Vまでの電位による酸化により茶色に変化し、該茶色に変化させた後に-1.2V~+1.2V間の電位の印加により淡黄色と茶色のエレクトロクロミー特性を示すことを特徴とする前記(1)に記載のコバルト膜であり、より好ましくは、(3)新規なコバルト膜が形成されるものの表面が-1.2V~+1.2V間の電位に対して電気化学的に安定な導電性材料により構成されていることを特徴とする前記新規なコバルト膜である。
【0006】
本発明の第2は、(4)前記第1の発明の表面が-1.2V~+1.2V間の電位に対して電気化学的に安定な導電性材料により構成された表面に形成された新規なコバルト膜をアルカリ金属イオンを含む電解液中で+1.2Vまでの正電位を印加して電解酸化して得られる茶色を呈する茶膜である。本発明の第3は、(5)前記第2発明の各茶膜をアルカリ金属イオンを含む電解質と組み合わせ、該組み合わせを該茶膜に領域選択的に-1.2V~+1.2V間の電位を印加できる電極と組み合わせて使用するための前記各茶膜のエレクトロクロミズムを利用したディスプレイ材料である。本発明の第4は、(6)前記第1の発明の表面が-1.2V~+1.2V間の電位に対して電気化学的に安定な導電性材料により構成された表面に形成された新規なコバルト膜をアルカリ金属イオンを含む電解液中で+1.2Vまでの正電位を印加して電解酸化して得られる茶色を呈する茶膜からなるアルカリイオン電池用の正極材料である。好ましくは、(7)アルカリイオンがLiであることを特徴とする前記正極材料である。
【0007】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
A.第1の発明の新規なコバルト膜を形成するのに使用されるCo錯体化合物は、基本的には請求項1に記載の条件を満たすものであればよい。新規なコバルト膜は、-1.2Vの電位の印加により、水の還元反応が起こり、それによりOHイオンが発生し、コバルト錯体はOHイオンの攻撃を受け、該攻撃によりコバルトに配位している配位子が脱離し、錯体中のコバルトはCo2+に姿を変え、Co2+が-1.2Vで電極上に還元されて堆積することにより形成されるものと考えられ、コバルトの配位子は配位子として前記少なくともNH及びClを含むことが重要である
【0008】
具体例としては、前記錯体の他に、〔Co(NHCl〕Cl、〔Co(NH(HO)Cl〕Clなどの少なくとも配位子NHおよびClを含むものを挙げることができる。
【0009】
更に、公知のCo錯体として以下のものを挙げることができる。CoX・6NH (X=F、Cl、Br、I、ClO、SO、NO、C、SCN)、CoX・6py(py=ピリジン、X=Cl、Br、I、NO)、CoX・4NH (X=Cl、ClO、SO)、CoX・4py(X=Cl、Br、I、NO、SCN)、CoX・3NH (X=F、Cl、ClO、SO) 、CoX・3py(X=NO)、CoX・3N2H(X=NO、NO、SO)、CoX・2NH (X=Cl、Br、I、ClO、SO、NO、C、CN、SCN)、CoX・2py(X=Cl、Br、I、SO、NO、CHCOO、SCN)、CoX・3N (X=Cl、Br、I、CHCOO)、CoX・NH (X=F、Cl、Br)、〔CoA3+(A=NH、Aとして、en(エチレンジアミン)、dip(2,2’-ビピリジン)、〔CoAL〕2+または〔CoA5L〕+(A=NH3、L=Cl、Br、NO2、ONO、NO3、NCS、OH、N3、CHCOO、SO4、C2O4、CO3)、〔CoAM〕3+(Aとして(NH、(NH)en2、M=OH)、〔CoA(A=NH、Lとして =Cl、Br、(NCS)、(NCS)Cl、(NO)Cl、(NO、(OH)、(NO、(NO、(OH)、 CO、C、(OH)、CO、C、Aとして=en、Lとして=Cl、Br、(NCS)、(NO、C)、Aとして=py2、dip、phen(フェナントリン)、L=Cl)、〔CoALM〕または〔CoALM〕(A=NH、L=Cl、 CN、SO、M=OH)、〔CoALM〕(Aとして=(NH、en4、(NHpy2、M=OH)、 〔CoA(A=NH、Lとして=Cl、(NO、(NO、(OH)(C)、(OH)(NO)、〔CoAM〕または〔CoAM〕(A=NH、Lとして=Cl、(NO、(SO、C、M=OH)、 〔CoALM2+または〔CoALM(A=NH、L=Cl、SO、M=OH)、〔CoA3+(A=NH、M=OH2)、〔CoA2L4〕-(A=NH、L=(NO、(NO、(C、(SO)、〔CoA〕+(A=NH、L=Cl、M=OH)、〔CoA3+(A=NH、M=OH)、〔CoAL2+(A=NH、L=NO)。その中で少なくとも配位子NHおよびCl含むものが好ましい。
【0010】
B.第1発明の新規なコバルト膜を形成する材料としては電解に必要な導電性と、金属コバルトを析出できる安定な電極を形成できるものであれば良く、新規なコバルト膜の前記有用な特性を利用して使用できる電極材料から選択される。この様な条件は、電極材上に直接、新規なコバルト膜、茶膜および淡黄膜を形成するときに必要な条件であり、前記電解条件に適した電極上に新規なコバルト膜、茶膜および淡黄膜を形成した後、無機の膜材料の転写にも適用できる技術である前記レーザーアブレーションの技術を用いれば、前記膜はあらゆる材料の表面に形成できる。
【0011】
電解により直接、新規なコバルト膜、茶膜または淡黄膜を形成できる材料としては以下のものを挙げることができる。ITO、SnO基板(ネサガラス)などの酸化物、白金、金、銀などの貴金属、炭素(カーボン電極)など非金属、ステンレス、鉄、アルミニウム、銅などの卑金属、さらにはシリコン、ガリウム砒素、酸化チタン、酸化亜鉛などの半導体も-1.2Vの負電位でも安定であるので、黒色膜の特性を利用する電極基板を形成する材料として挙げることができる。また、ITO、SnO基板(ネサガラス)などの酸化物、白金、金などの貴金属、炭素(カーボン電極)などの材料は+1.2Vの電位を加えても安定であるので、エレクトロクロミー特性、アルカリイオン出し入れの特性をもつ茶膜や淡黄膜の形成用の電気化学的に安定な電極基板としても使用できる。
【0012】
新規なコバルト膜の利用用途としては、前記電解酸化処理により現れるエレクトロクロミー特性やLiイオンの出し入れ特性を利用するディスプレイ用やLiイオン電池の正極材料の他に、入射光の優れた吸収特性を利用する光の熱変換材料などとしての利用が考えられる。このことは、ネサガラス表面に形成された第1発明の新規なコバルト膜は、摩擦しても剥離しないなどの機械的強度も十分であるから、太陽光の熱への変換材料として有望である。
【0013】
C.第1発明において、電位の限界を0~-1.2Vに限ったのは、この範囲外の電位を超えて電位を加えて得られるCo膜は視覚による観察では違いが分からないが、前記各特性の観察において、本発明の新規なコバルト膜の特性がほとんど観察されなく、前記電位の範囲は全く特異的といって良い。電解液中に加える電解質は、前記ディスプレイ用、アルカリイオン電池、特にLiイオン電池の正極材料との関連でアルカリ金属、特にLi、Kをカチオンとする電解質が好ましいが、特に限定されず、電解還元電位が前記の範囲であればよい。
【0014】
D.前記ディスプレイ用およびアルカリイオン電池、特にLiイオン電池の正極材料としての特性を持つ材料は、新規なコバルト膜を0~+1.2Vで電解酸化することにより現れ、用いられる電界の上限は+1.2Vである。
E.膜を作成するための原理を説明する電解装置を図1に示す。
ITOは、インジウム錫酸化膜からなる電極材料として利用されているものである。PtはITO電極に対向する白金電極である。SCEは飽和カロメル参照電極であり、ITO電極の電位はこれとの電位を測定して制御される。電解液は窒素ガス(N2)の吹き込みにより電解前の溶液から溶存酸素が取り除かれる。
【0015】
ここでは、更に具体的な例を実施例として示すが、これは本発明をより理解し易くするためのものであり、本発明を限定するものではない。膜の分析に用いた装置:
1,赤外吸収スペクトル:日本分光社製、フーリエ変換赤外スペクトル(FT-IR 410)
2,X線光電子分光分析装置(XPS):アルバック・ファイ社製、ESCA5400スペクトロメーター
3,X線回折測定装置:リガク社製、X線回折装置ガイガーフレックス
4,サイクリックボルタンメトリー:北斗電工社製、ポテンショスタット/ガルバノスタット HAB-151
【実施例】
実施例1
〔Co(NHCl〕Clを13mM(ミリモル)とKSO(あるいはLiSO)を0.1M(モル)溶解した水溶液を作成し、これに図1に示すようにITO電極とPt電極を浸漬する。ITO電極に飽和カロメル参照電極(SCE)に対し-1.2Vの電位を印加する(電界の印加は、0~-1.2V電位を一定速度で電位掃引して行う方法でもよい。)。これによりITO電極上に新規なコバルト膜である黒色膜が生成する。生成する膜厚(nm)と電解時間(分)の相関を図2に示す。膜厚は電解時間と共に増加し続けており、任意の膜厚のものが電解時間を制御することにより得られることを示している。電解時間20分で1μmの膜の生成が可能である。膜の成長は飽和しないから、更に厚い膜の生成も可能である。
【0016】
原料として用いた〔Co(NH35Cl〕Cl2粉末および前記電解で形成された新規なコバルト膜である黒色膜のフーリエ変換赤外吸収スペクトルを図3に示す。原料粉末で観測されていたN-H結合に起因する吸収ピーク(3000-3300cm-1付近の吸収ピーク)が黒色膜では完全に消失しており、配位子のNH3は-1.2Vでの電解により錯体から脱離している。
【0017】
前記電解により形成された新規なコバルト膜である黒色膜表面のエックス線光電子分光分析(XPS)スペクトルの測定結果を図4に示す。ピークにおける結合エネルギーの値は531.1eVであり、これは水酸化コバルト中の酸素の値であり、黒色膜表面は水酸化コバルトであることを示している。
【0018】
前記電解により形成された新規なコバルト膜である黒色膜のエックス線回折測定の結果を図5に示す。○は電極材料のITOであり、▲は電解により形成された新規なコバルト膜である黒色膜の内部の組成は金属Coであり、図4の表面とは異なり内部は金属Coであることを示している。
【0019】
以上のことから、新規なコバルト膜である黒色膜の形成機構が推測される。
すなわち、先ず、-1.2Vの電位がITOに印加されると、水の還元反応が起こり、OH-イオンの生成により〔Co(NH35Cl〕Cl2錯体が該イオンの攻撃を受け配位子のNH3およびClの脱離が起こり、錯体のCo2+イオンとなり、次いで、Co2+が-1.2VでITO上で還元されCoとなって堆積する。膜表面は、表面の周りの水分により水酸化コバルトに変化したものと推測される。
【0020】
実施例2
前記新規なコバルト膜である黒色膜を、Li2SO4(またはK2SO4)を含む水溶液中で電位を印加すると+1.2Vで前記膜の酸化電流が流れ、膜の色が黒から茶色に変化する。
該茶色を呈する膜は、印加電位を-1.2Vにすると膜の還元電流が流れ膜の色が淡黄色の淡黄膜に変化した。そこで、前記黒色膜の電気化学的特性を知るために、先ず0~-1.2Vの間で電位掃引を加えた。掃引速度は50mV/秒である。その結果を図6の(a)に示す。電流はほとんど流れず、酸化還元反応は起こっていない。次に0~+1.2Vの間で電位掃引を加えたところ、0.5V付近に酸化電流が観察され、黒色の金属コバルト膜は酸化物の茶色の茶膜に変化した。この結果を図6の(b)に示す。
そこで、前記黒色膜を+1.2V~-1,2Vの間で掃引速度50mV/秒でK2SO4を0.1M加えた電解液中で電位掃引をして膜の電気化学的変化を調べた(サイクリックボルタンモグラムの作成)。その結果を図5の(c)に示す。1回目のスタートから図(a)、(b)の変化をたどり、0.5V以降に酸化電流が流れ茶色の酸化膜への変化が見られる。また-0.8Vと-1.0Vに還元電流が流れ、膜の色は茶色から淡黄色に変化をする。この2つの還元電位の観察から、膜の還元以外に別の還元反応が進行していることが分かる。さらに-0.3Vに酸化電流が流れ、還元反応の逆の酸化ステップが見られる。このよな電気化学的な観察から、この膜は充放電可能な膜であることが分かった。
【0021】
茶色を呈する茶膜および淡黄色を呈する淡黄膜のエックス線光電子分光分析(XPS)スペクトルの測定結果を図7に示す。実線のスペクトルは茶膜のスペクトルであり、水酸化コバルトの酸素のピークである531.1eVと酸化コバルトの酸素のピークである529.5eVにピークが観察された。これに対して、淡黄膜では酸化コバルトのピークが減少している。また、淡黄膜の組成の分析結果から、淡黄膜中には電解液に添加したK2SO4のK+イオンが取り込まれていることが観察された。これに対し、茶膜中ではK+イオンが観察されないことを合わせて考えると、-1.2Vでは膜の還元と同時にK+イオンのドーピングが起こっており、+1.2VではK+イオンの脱ドーピングが起こっていることを示す。このことから、茶膜はアルカリイオン二次電池の正極材として有用であることを示している。
【0022】
本発明で得られた、黒色膜、茶色を呈する茶膜および淡黄色を呈する淡黄膜の光線の吸収特性を図8に示す。黒色膜は紫外、可視および赤外領域の全てのスペクトル領域において入射光を吸収する、黒体的な特性を示し、光-熱変換膜として有用であることを示している。
【0023】
本発明の新規なコバルト膜である黒色膜から+1.2Vでの酸化および-1.2Vでの還元で得られた淡黄膜のLiイオン電池の正極材としての有用性を見るために、0.1モルのLiSO4水溶液中に前記淡黄膜を浸漬し、この膜に+1.2Vを印加したときの電流、次いで、-1.2Vの電位を印加した場合の電流を観察した。その結果を図9に示す。この実験の場合の+1.2Vの反応は、電池を組んだときの充電反応に、また、-1.2Vでの反応は電池の放電反応に相当する。負極材を用いての測定でないので半電池に相当する。
図9から、前記淡黄膜はLi+イオンの出し入れが可能な正極材料として有用であることが理解される。
【0024】
【発明の効果】
以上述べたように、アルカリ電池の正極材などとして有用な材料を、常温、常圧で、且つ水という環境に負荷を与えない媒体を用いて製造できるという本発明により提供される技術は、極めて画期的な技術であり、産業における貢献度が高いことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の新規な膜類を電解酸化・還元により作成するための装置の原理図を示す
【図2】 生成する新規なコバルト膜である黒色膜の膜厚(nm)と電解時間(分)の相関
【図3】 〔Co(NH35Cl〕Cl2粉末および前記電解で形成された新規なコバルト膜である黒色膜のフーリエ変換赤外吸収スペクトル
【図4】 新規なコバルト膜である黒色膜表面のエックス線光電子分光分析(XPS)スペクトル
【図5】 新規なコバルト膜(▲)である黒色膜表面のエックス線回折測定の結果、○は電極材料のITO
【図6】 黒色膜の電気化学的特性、(a)は0~-1.2Vの間で電位掃引での膜の変化、(b)は0~+1.2Vの間での電位掃引での膜の変化、(c)は-1.2V~+1.2Vの間でのサイクリックボルタンモグラム
【図7】 茶膜および淡黄膜のエックス線光電子分光分析(XPS)スペクトル
【図8】 本発明で得られた、黒色膜、茶膜および淡黄膜の光線の吸収特性
【図9】 +1.2Vを印加したときの電流、および-1.2Vの電圧を印加した場合の電流の観察
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8