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明細書 :エピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4007477号 (P4007477)
公開番号 特開2002-119286 (P2002-119286A)
登録日 平成19年9月7日(2007.9.7)
発行日 平成19年11月14日(2007.11.14)
公開日 平成14年4月23日(2002.4.23)
発明の名称または考案の名称 エピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C07K  14/155       (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
A23L   1/305       (2006.01)
A61K  31/711       (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61K  39/112       (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  37/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12P 21/02 C
C07K 14/155
C07K 19/00
A23L 1/305
A61K 31/711
A61K 37/02
A61K 39/112
A61K 39/395 D
A61K 39/395 H
A61P 37/02
請求項の数または発明の数 7
全頁数 62
出願番号 特願2000-314288 (P2000-314288)
出願日 平成12年10月13日(2000.10.13)
審査請求日 平成15年8月21日(2003.8.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】芝 清隆
【氏名】大野 典也
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
審査官 【審査官】六笠 紀子
参考文献・文献 特表平8-510210(JP,A)
Eur.J.Immunol.,Aug.2000,Vol.30,No.8,p.2115-2124
Bioconjugate Chem.,May.2000,Vol.11,No.3,p.363-371
Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,Vol.92,p.315-319
Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1995,Vol.92,p.10693-10697
調査した分野 C12N 15/00-15/90
JSTPlus(JDream2)
MEDLINE(STN)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/PIR/Geneseq
特許請求の範囲 【請求項1】
ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列から構成されていることを特徴とするエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法であって、
前記人工タンパク質をコードするDNAとして、塩基配列の読み枠を異にした場合に、該塩基配列の少なくとも1つの読み枠にペプチド性エピトープがコードされ、他の読み枠に該ペプチド性エピトープの抗原性を高めるαヘリックス形成能力、βシート形成能力、疎水性度向上能力に関する性質、又は、クラスI、クラスIIのMHC分子との親和性向上能力に関する性質を付与しうるペプチドがコードされているDNAの重合体を用い
この人工タンパク質をコードするDNAを発現させる
ことを特徴とする人工タンパク質の製造方法
【請求項2】
ペプチドタグ又はマーカータンパク質が融合している人工タンパク質であることを特徴とする請求項1記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法
【請求項3】
ペプチドタグがポリヒスチジン残基であることを特徴とする請求項2記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法
【請求項4】
ペプチド性エピトープのアミノ酸配列が、配列番号1に示されるアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法
【請求項5】
ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列が、配列番号24~47のいずれかに示されるアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載の製造方法により得られる、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列から構成されていることを特徴とするエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質。
【請求項7】
塩基配列の読み枠を異にした場合に、該塩基配列の少なくとも1つの読み枠にペプチド性エピトープがコードされ、他の読み枠に該ペプチド性エピトープの抗原性を高めるαヘリックス形成能力、βシート形成能力、疎水性度向上能力に関する性質、又は、クラスI、クラスIIのMHC分子との親和性向上能力に関する性質を付与しうるペプチドがコードされているDNAの重合体からなり、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列から構成されており、エピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質をコードするDNA。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質や、該人工タンパク質を含んでなる免疫応答の誘導剤や、該人工タンパク質を抗原として用いる抗体の製造方法や、該人工タンパク質を有効成分として含有する機能性食品や、該人工タンパク質を発現する腸内細菌からなる脱感作・免疫寛容状態の誘導剤や、該人工タンパク質をコードするDNAを含んでなる免疫応答誘導用DNAワクチン等に関する。
【0002】
【従来の技術】
分子進化工学の誕生により、生命反応の根幹を形成するタンパク質あるいはそれらをコードする遺伝子DNAを、実験室の中で人工的に創り出すことが行われている。この技術により、自然には存在しない新たな活性を持った酵素・タンパク質や、天然のタンパク質とは大きく構造の異なるタンパク質を産み出すことが可能となり、医療領域や工学領域への様々な応用が期待されている。分子進化工学では、タンパク質又はそれをコードする遺伝子を構成するアミノ酸又はヌクレオチドのブロック単位のランダムな重合体プールの中から、目的とする活性を持つ分子を選び出す操作が行われる。例えば、Szostakらのグループは、100塩基の長さをもつランダムな配列をもったDNA集団をDNA合成機で作製し、このDNA集団をインビトロでRNAに転写し、1013の多様性をもつRNA集団を用意し、このRNA集団の中から特定の色素に特異的に結合するRNA分子を選択し、どのような配列構造を有するRNA分子が与えられた機能を満足するかについて報告している(Nature,346:818-822,1990)。Szostakらのグループはさらに同様のアプローチで、リガーゼ活性といったより複雑な活性をもつRNA分子を創出することに成功している(Science,261:1411-1418,1993)。
【0003】
一方、遺伝子は小さな遺伝子が繰り返し重合して誕生したのではないかという仮説があり(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:3391-3395,1983)、また、繰り返し構造に富むポリペプチドは安定な高次構造を取りやすいと考えられるので、大きなタンパク質や遺伝子を対象とする分子進化工学では、短い構造単位を繰り返し重合させ巨大分子を合成する技術が要求されている(Nature,367:323-324,1994)。短いDNA単位の繰り返し重合体を得る方法として、ローリング・サークル合成法が報告されている(Proc,Natl,Acad.Sci.USA,92:4641-4645,1995)が、この方法はリン酸化反応、連結反応、重合反応、二本鎖形成反応などのステップを何段階も経なければならないため、反応系が複雑である。
【0004】
そこで本発明者らは、効率的かつ単純にマイクロ遺伝子の繰り返し重合体を作製する方法として、少なくとも一部の配列が互いに相補しているオリゴヌクレオチドA及びオリゴヌクレオチドBに、DNAポリメラーゼを作用させて重合反応を行うことを特徴とするマイクロ遺伝子重合法(特開平9-322775号公報)を提案している。
【0005】
また、絹タンパク質やエラスチン等の天然タンパク質の反復単位に類似する反復単位を有するアミノ酸ポリマーをコードするDNA(特開平10-14586号公報)や、繰返しアミノ酸配列を有する人工タンパク質をコードする遺伝子カセット(米国特許第5089406号明細書)や、アミノ酸の繰返し配列を有する大ポリペプチド作製用の合成反復DNA(米国特許第5641648号明細書)や、アミノ酸の繰返し単位を有するペプチドをコードするDNA配列(米国特許第5770697号明細書)や、アミノ酸の反復配列を含む大ポリペプチド作製用の合成反復DNA(米国特許第5830713号明細書)が知られている。また、6つの読み枠の1つがαヘリックス構造を形成しやすいDNA断片をデザインし、そこから作成したライブラリーが高頻度に安定なタンパク質をコードすることや、同様に、6つの読み枠の中の1つがβストランド構造を形成しやすいDNA断片をデザインすることが報告(Proc,Natl,Acad.Sci.USA,94:3805-3810,1997)されている。
【0006】
従来また、ペプチド性エピトープの抗原性を増強する手法としては、ペプチド性エピトープをタンデムにいくつも連結し、得られる種々のペプチド性エピトープのタンデム重合体を免疫原として用いる手法が知られており(J. Immunol. 153:5634-5642, 1994)、例えば米国特許第5,951,986号明細書には、HIVのエピトープを多価にもつペプチドの免疫原としての利用について開示されている。また、枝状に連結し多価にエピトープをもつ巨大分子を作製する方法(米国特許第5,229,490号明細書、特表平08-511007号公報)や、ペプチド性エピトープを提示するファージを免疫原として利用する方法(Nature Biotechnology, 18:873-876, 2000)なども知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記、ペプチド性エピトープをタンデムに重合する手法は簡便ではあるが、かならずしも全てのエピトープで有効に機能するわけではない(Mol. Immunol. 34:599-608, 1997)。例えばHIVのgp120ループ3ペプチドは、タンデムに重合して、さらにキャリアータンパク質と融合させた型ではマウスでの免疫誘導反応の改善が見られるが、キャリアータンパク質と融合しない状態では単独のペプチドを用いた免疫との有意な差は見られない(Vaccine 17:2392-2399, 1999)。このような免疫原性の極めて弱いペプチド性エピトープについて、強い免疫原性を与える新しい手法の開発が望まれていた。本発明の課題は、従来の手法からは十分な免疫応答誘導活性が得られないペプチド性エピトープに関しても、強い免疫応答誘導能力を付与する手法を提供することにある。より具体的には、エピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質や、該人工タンパク質を含んでなる免疫応答の誘導剤や、該人工タンパク質を抗原として用いる抗体の製造方法や、該人工タンパク質を有効成分として含有する機能性食品や、該人工タンパク質を発現する腸内細菌からなる脱感作・免疫寛容状態の誘導剤や、該人工タンパク質ををコードするDNAを含んでなる免疫応答誘導用DNAワクチン等を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
ペプチド性エピトープが十分な抗原性をもつためには、そのペプチド性エピトープが、免疫担当細胞に取り込まれ、プロセシングを受けた後に、MHC分子によりB細胞、T細胞へと効率よく提示される必要がある。このような「取り込み」「プロセシング」「MHCによる提示」反応が効率よく進むためには、ペプチド性エピトープが、天然のタンパク質に近いコンテクストの中に存在する必要があると考えられる。このような考えのもとに、「ペプチド性エピトープを少なくとも1コピーもつような天然のタンパク質に近い性質をもった人工タンパク質」をデザイン・作製し、この人工タンパク質の免疫原性を調べる実験をまず実施した。
【0009】
エイズウイルスのもつgp120タンパク質のループ3と呼ばれる領域は、中和エピトープとして知られており、このエピトープに対する抗体のいくつかは、ウイルスの増殖を抑えるといった中和活性をもち、エイズ治療に利用できる重要な抗体となる。エイズウイルスは、急速に自身の遺伝子配列を変化させることにより、ループ3領域のアミノ酸配列を変化させ、この中和抗体からの攻撃を逃れることが知られている。中和抗体の臨床利用の観点から考えると、このようにして新たに出現したエイズウイルス変異体に対する新しい中和抗体の迅速な作製が必要となるが、gp120タンパク質そのものを免疫原としても、あるいは、ループ3領域に相当するペプチドを免疫原としても、十分な免疫誘導が引き起こすことができないことも知られており、中和抗体の新たな作製には多大の時間と労力が必要であるのが現状であった(Nature 376:115, 1995)。そして、従来用いられているようなエピトープ配列のタンデム重合体を抗原として用いても、ループ3ペプチド配列に対する十分な免疫を誘導できないことが報告されている(Vaccine 17:2392-2399, 1999)。gp120タンパク質そのものを免疫原としてもループ3領域に対する抗体ができない理由は、ループ3ペプチドが、gp120タンパク質の内部に埋もれているからと考えられている。ループ3領域に相当するペプチドが弱い免疫原性しかもたないのは、免疫担当細胞による「取り込み」「プロセシング」「MHCによる提示」反応が、このペプチドでは効率よく進まないためだと考えられる。
【0010】
そこで、「全体としては天然のタンパク質に近い性質」をもちながら、その構造上に少なくとも1コピーのループ3ペプチド配列をもつような人工タンパク質を作製し、これを用いた効率の良い免疫誘導法を試みた(図1)。なお、人工タンパク質の作製には「多機能塩基配列及びそれを含む人工遺伝子」(特願2000-180997)や、「マイクロ遺伝子重合法」(特開平9-322775号公報)に記載された方法を用いた。
【0011】
まず、エイズウイルスの中和抗原として知られているループ3ペプチド「RKSIRIQRGPGRTFVTIGKI」を読み枠の1つにコードするマイクロ遺伝子をデザインすることとした。例えば、最初のR(アルギニン)には「CGT」「CGC」「CGA」「CGG」「AGA」「AGG」の6つのコドンが対応するがこの中から特定のコドンを選択し、次のK(リシン)には「AAA」「AAG」の2つのコドンが対応するがこの中から特定のコドンを選択し、以下同様にして特定のコドンを順次選択しマイクロ遺伝子をデザインする場合、上記中和抗原ペプチドを読み枠の1つにコードする塩基配列は、コドンの縮重から約1,651億種あることになる。また、単一マイクロ遺伝子はプラス鎖及びマイナス鎖に各3種の読み枠をもつことから、6種の異なるペプチドをコードすることができることになり、例えば、同じ方向の異なる2つの読み枠では、上記中和抗原ペプチドとは全く異なる2つのペプチドがコードされることになる。そこで、同じ方向の他の読み枠2つのいずれかで「二次構造を形成しやすい」という性質を有するペプチドをコードする塩基配列を、上記約1,651億種の塩基配列の中から計算機により検索することにした。
【0012】
計算機としてSunのEnterprise250を用いて実行したところ、約1,651億種の塩基配列全てを同時に計算するには無理があることがわかったので、上記中和抗原ペプチドの両端を削除した「IRIQRGPGRTFVT」の13個のアミノ酸からなるペプチドについて計算することとした。1つの読み枠でこのペプチドをコードする可能性のある塩基配列を全て計算機内に書き出したところ、約5億種の塩基配列が作成された。これら5億種の塩基配列の、同じ方向の他の2つの読み枠を翻訳し、終止コドンが現れて翻訳が途中でストップするものや、ペプチド配列として重複するものを除いた、約1,506万種のペプチド配列の集団を計算機の中に作成した。次に、この約1,506万種のペプチドの中から「二次構造を形成しやすい」という性質をもつペプチドを、二次構造予測プログラムを用いて個別に計算してスコアづけを行った。この計算に1週間以上要したが、得られた結果をスコアの高い順にソートしたところ、第2読み枠でαヘリックスを非常に形成しやすい塩基配列として、「ATACGCATTCAGAGAGGCCCTGGCCGCACTTTTGTTACT」を選択することができた。
【0013】
上記計算は、エイズウイルス中和抗原ペプチド20アミノ酸残基の真ん中部分13アミノ酸残基について実施したので、未計算の両端部分についても同様の計算をおこない、それらの結果を合わせてマイクロ遺伝子「デザイン-25」を得ることができた。このマイクロ遺伝子「デザイン-25」は、その読み枠の1つに中和抗原配列をコードし、他の読み枠2つに終止コドンをもたず、さらに、そのうちの1つにαヘリックスを形成しやすい性質のペプチドをコードし、「エイズウイルス中和抗原性」と「構造形成能力」といった2つの生物機能構造が潜源化したマイクロ遺伝子ということができる。次に、かかるマイクロ遺伝子「デザイン-25」を、前記本発明者によるマイクロ遺伝子重合法(特開平9-322775号公報)を利用して重合し、「中和抗原配列」と「αヘリックスを形成しやすい配列」とが複雑に組み合わさった種々の人工遺伝子からなる人工遺伝子ライブラリーを作製した。これら人工遺伝子ライブラリーを用いて種々の人工タンパク質を大腸菌で発現させ、全体としてはαヘリックスの構造に支えられながら、その中のところどころにエイズウイルス中和抗原配列をもつ人工タンパク質が得られた。かかる人工タンパク質を用いてマウスを免疫し、gp120タンパク質のループ3領域に対する抗血清を効率よく作製することができることや、対照実験としてのループ3領域に相当する合成ペプチドを用いた免疫からは有意な免疫誘導が生起しないことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列から構成されていることを特徴とするエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法であって、前記人工タンパク質をコードするDNAとして、塩基配列の読み枠を異にした場合に、該塩基配列の少なくとも1つの読み枠にペプチド性エピトープがコードされ、他の読み枠に該ペプチド性エピトープの抗原性を高めるαヘリックス形成能力、βシート形成能力、疎水性度向上能力に関する性質、又は、クラスI、クラスIIのMHC分子との親和性向上能力に関する性質を付与しうるペプチドがコードされているDNAの重合体を用い、この人工タンパク質をコードするDNAを発現させることを特徴とする人工タンパク質の製造方法(請求項1)や、ペプチドタグ又はマーカータンパク質が融合している人工タンパク質であることを特徴とする請求項1記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法(請求項2)や、ペプチドタグがポリヒスチジン残基であることを特徴とする請求項2記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法(請求項3)や、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列が、配列番号1に示されるアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法(請求項4)や、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列が、配列番号24~47のいずれかに示されるアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質の製造方法(請求項5)や、請求項1~5のいずれか記載の製造方法により得られる、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列から構成されていることを特徴とするエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質(請求項6)に関する。
【0015】
また本発明は、塩基配列の読み枠を異にした場合に、該塩基配列の少なくとも1つの読み枠にペプチド性エピトープがコードされ、他の読み枠に該ペプチド性エピトープの抗原性を高めるαヘリックス形成能力、βシート形成能力、疎水性度向上能力に関する性質、又は、クラスI、クラスIIのMHC分子との親和性向上能力に関する性質を付与しうるペプチドがコードされているDNAの重合体からなり、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列から構成されており、エピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質をコードするDNA(請求項)に関する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質としては、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列の全部又はその一部を含むアミノ酸配列から構成されているタンパク質又はペプチドであれば特に制限されるものではなく、ここで人工タンパク質とは、天然に存在しないタンパク質又はペプチドであって、例えば前記文献(Vaccine 17:2392-2399, 1999)に記載された、HIVのgp120ループ3ペプチドのタンデム重合体とキャリアータンパク質との融合体など、公知のペプチド性エピトープのタンデム重合体や、公知のペプチド性エピトープ又は公知のペプチド性エピトープのタンデム重合体と公知のキャリアタンパク質との融合タンパク質や融合ペプチドは除かれる。かかるエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質としては、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列の全部又はその一部を含み、タンパク質の高次構造形成を補助する性質が付与されたアミノ酸配列から構成されている人工タンパク質や、ペプチド性エピトープのアミノ酸配列の全部又はその一部を含み、免疫担当細胞による抗原提示処理を補助する性質が付与されたアミノ酸配列から構成されている人工タンパク質を好適に例示することができる。
【0018】
上記タンパク質の高次構造形成を補助する性質としては、αヘリックス形成能力、二次構造形成能力、疎水性度向上能力に関する性質を例示することができ、また、免疫担当細胞による抗原提示処理を補助する性質としては、クラスI、クラスIIのMHC分子との親和性向上能力に関する性質を例示することができるが、その他、天然のタンパク質に類似させた種々の性質を付与することもできる。そして、これらの有用な性質を有するアミノ酸配列は、アミノ酸組成や配列の繰り返し性を調整することにより、あるいは、かかる性質を保持した既知の配列を参考にすることにより調製することができる。また、本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質のエピトープのアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列以外のアミノ酸配列として、上記タンパク質の高次構造形成を補助する性質を付与しうるペプチド配列や免疫担当細胞による抗原提示処理を補助する性質を付与しうるペプチド配列の他、例えば、糖の付加シグナルをもったペプチド配列を用いることもでき、かかるペプチド配列を加えることにより、合成された天然タンパク質は糖修飾され、タンパク質-糖のハイブリッド人工タンパク質などとすることもできる。
【0019】
本発明の人工タンパク質として、具体的には、免疫原性のきわめて弱いペプチド性エピトープであるHIVのgp120ループ3に強い免疫原生を付与することができる、該ペプチド性エピトープループ3の全部又はその一部を含むアミノ酸配列、例えば配列番号24~47のいずれかに示されるアミノ酸配列から構成される人工ペプチドあるいは人工タンパク質を挙げることができる。これら人工ペプチドあるいは人工タンパク質を含め、本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質は、生体おける体液性免疫や細胞性免疫等の免疫応答を誘導するための免疫応答の誘導(薬)剤として用いることができる。
【0020】
本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質をコードするDNAとしては、塩基配列の読み枠を異にした場合、該塩基配列の少なくとも1つの読み枠にペプチド性エピトープがコードされ、他の読み枠に該ペプチド性エピトープの抗原性を高めるような性質を付与しうるペプチドがコードされているDNAや、同じ読み枠にペプチド性エピトープと該ペプチド性エピトープの抗原性を高めるような性質を付与しうるペプチドがコードされているDNAを例示することができ、例えばかかるDNAを組み込んだ発現ベクターは細胞性免疫や体液性免疫等の免疫応答誘導用DNAワクチンとして用いることができる。
【0021】
本発明はまた、上記本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質を発現することができる発現系を含んでなる宿主細胞に関し、宿主細胞としては、サルモネラ菌、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真菌細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞等の動物細胞や、植物細胞等を挙げることができるが、サルモネラ菌等の腸内細菌を好ましく例示することができる。かかる人工タンパク質を発現する腸内細菌を生体に投与すると、脱感作・免疫寛容状態を誘導することができることから、これら腸内細菌は脱感作・免疫寛容状態の誘導剤として期待できる。
【0022】
また、発現系としては、上記本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質を宿主細胞内で発現させることができる発現系であればどのようなものでもよく、染色体、エピソーム及びウイルスに由来する発現系、例えば、細菌プラスミド由来、酵母プラスミド由来、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス由来のベクター、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来及びこれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドやファージミドのようなプラスミドとバクテリオファージの遺伝的要素に由来するものを挙げることができる。この発現系は発現を起こさせるだけでなく発現を調節する制御配列を含んでいてもよい。また、読み枠を変えて翻訳することができる発現ベクターシリーズも有利に用いることができる。
【0023】
本発明の人工タンパク質をコードするDNAや該人工タンパク質をコードするDNAが組み込まれた発現系の宿主細胞への導入は、Davisら(BASIC METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, 1986)及びSambrookら(MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載される方法、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング (scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)、感染等により行うことができる。
【0024】
本発明の人工タンパク質の製法としては、従来公知のタンパク質の製造方法であれば特に制限されるものではなく、例えば、該人工タンパク質をコードするDNAを発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換し、該形質転換細胞を培養することにより、あるいはペプチド合成法により得ることができる。上記人工タンパク質をコードするDNAは、例えば実施例に説明されているようなマイクロ遺伝子重合法を用いることにより作製することができ、その際エピトープをコードする塩基配列に付加する人工タンパク質の性質は、マイクロ遺伝子の同じ読み枠に存在していても異なる読み枠に存在していてもよいが、人工タンパク質をコードするDNAの作製はこれらの方法に限定されるものではない。また、上記発現ベクター由来の翻訳領域に、ポリヒスチジン残基をコードする塩基配列を存在させるなどして、該人工タンパク質のアミノ酸配列の一部にポリヒスチジン残基等の分離精製用のペプチドタグを存在させることもできる。
【0025】
また、本発明の人工タンパク質を、マーカータンパク質及び/又はペプチドタグと結合させた融合タンパク質や融合ペプチドとすることもできる。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、抗体のFc領域、HRP、GFPなどを具体的に挙げることができ、またペプチドタグとしては、Mycタグ、Hisタグ、FLAGタグ、GSTタグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合タンパク質や融合ペプチドは、常法により作製することができ、Ni-NTAとHisタグの親和性を利用した本発明の人工タンパク質の精製や、T細胞誘導活性を有するタンパク質の検出や、本発明の人工タンパク質に対する抗体の定量、免疫不全症の診断用マーカーなどとして、また当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0026】
本発明の抗体の製造方法としては、エピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質を抗原として用いる方法であれば特に制限されるものではなく、かかる抗体の種類としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらは本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質又はその一部を抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点で好ましく、特にエイズウイルスの増殖に対する中和活性をもったモノクローナル抗体がより好ましい。かかるモノクローナル抗体等の抗体は、例えば、エイズ等の免疫不全症等の治療ばかりでなく、エイズ等の免疫不全症の発症機構を明らかにする上で有用である。
【0027】
また、本発明の抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質又はその一部を、あるいはかかる人工タンパク質の一部とMHCとの複合体を膜表面に発現した細胞を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV-ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc., 1985)など任意の方法を用いることができる。
【0028】
本発明の上記人工タンパク質に対する一本鎖抗体をつくるために、一本鎖抗体の調製法(米国特許第4,946,778号)を適用することができる。また、ヒト化抗体を発現させるために、トランスジェニックマウス又は他の哺乳動物等を利用したり、上記抗体を用いて、本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質を発現するクローンを単離・同定したり、アフィニティークロマトグラフィーでそのポリペプチドを精製することもできる。本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質やその抗原エピトープを含むペプチドに対する抗体は、エイズ等の免疫不全症の診断や治療に使用できる可能性がある。また本発明の上記抗体を産生する細胞としては、株化した培養細胞が好ましく、例えば、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ、株化B細胞等を例示することができる。
【0029】
本発明の機能性食品としては、本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質を有効成分として含有するものであればどのような食品でもよく、かかる人工タンパク質を飲食品原料の一部として用いたり、あるいは製造工程又は製造後に添加・配合することにより得ることができる。かかる機能性食品としては特に制限されるものではなく、クッキー、パン、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、ラムネ菓子等などの錠菓、羊羹などの和菓子、プリン、ゼリー、アイスクリーム類などの冷菓、チューインガム、キャンディ等の菓子類や、クラッカー、チップス等のスナック類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、チーズ、バターなどの乳製品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ、スープ、シチュー等の各種総菜や、ヨーグルト、ドリンクヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、酒類、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、スポーツ飲料等の各種飲料などを具体的に例示することができる。
【0030】
【実施例】
以下に、実施例を揚げてこの発明を更に具体的に説明するが、この発明の範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1
HIVウイルスの一群の亜種がもつgp120タンパク質の部分配列である、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列を読み枠の1つとし、かつ同方向の他の読み枠2つのうちの少なくとも1つの読み枠で2次構造を形成しやすいアミノ酸配列からなるペプチドをコードすることができるマイクロ遺伝子をデザインするために、図2に示すフローチャートにしたがってマイクロ遺伝子を構築した。計算機の処理能力を考慮して、配列番号1に示される20アミノ酸残基を、互いに一部重複する部分配列である3つのアミノ酸配列、すなわち配列番号2、配列番号3、配列番号4にそれぞれ示される3つのアミノ酸配列からなるペプチドに分割し、それぞれについて計算を実行した。
【0031】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列の場合、まず読み枠の1つに配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードすることのできる全ての塩基配列(塩基長は13×3=39)である約5億種の塩基配列を計算機内に作成し、この配列集団の中から、同方向の他の2つの読み枠に終止コドンをもたない約1,135万種の塩基配列を計算機内で選び出した。次に、これら選び出された塩基配列の読み枠1と同方向の他の2つの読み枠のコードする全てのアミノ酸配列約2,270万種を計算機内に作成し、このアミノ酸配列からなるペプチド集団の中から同じアミノ酸配列をもった重複配列を除き、それぞれ異なる配列をもつペプチド集団約1,506万種を選び出した。このそれぞれのペプチド集団に対して、そのαヘリックス、あるいは、βシートの二次構造形成能力を前記の二次構造予測プログラムを用いたスコアーによって評価し、二次構造形成能力が高いと予想されるペプチドの中から、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを選定した。このペプチドは、配列番号6に示される塩基配列の第2読み枠にコードされるアミノ酸配列であり、αヘリックス構造を形成しやすい配列と予想された。
【0032】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする塩基配列についても、上記同様の計算を実行し、第1読み枠で、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを、第2読み枠でαヘリックスを形成する可能性が高いペプチドをコードし、かつ、そのペプチドの4番目から6番目のアミノ酸配列が、上記配列番号5に示されるアミノ酸配列の1番目から3番目のアミノ酸配列に一致する、配列番号7に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを選び出した。このペプチドは、配列番号8に示される塩基配列の第2読み枠にコードされるアミノ酸配列である。
【0033】
配列番号4についても上記同様の計算を実行し、第1読み枠で、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを、第2読み枠でαヘリックスを形成する可能性が高いペプチドをコードし、かつ、そのペプチドの1番目から3番目のアミノ酸配列が、配列番号5の11番目から13番目のアミノ酸配列に一致する、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるペプチドを選び出した。このペプチドは、配列番号10に示される塩基配列の第2読み枠にコードされるアミノ酸配列である。
【0034】
上記の操作で得られた配列番号6、配列番号8、配列番号10にそれぞれ示される塩基配列を、重複を考慮しながら連結し、配列番号11に示される塩基配列を有するマイクロ遺伝子「デザイン-25」を得た。このデザインされたマイクロ遺伝子は、図3に示すように、第1読み枠でHIVウイルスの一群の亜種がもつgp120タンパク質の部分配列をコードし、第2読み枠で、αヘリックス構造を形成しやすいペプチドの配列をコードする。なお、マイクロ遺伝子デザイン-25の場合、マイクロ遺伝子のマイナス鎖(配列番号11に示される塩基配列に対して相補的な配列)に関しては、終止コドンの出現の回避などの制限を加えていない。
【0035】
上記のデザインされたマイクロ遺伝子「デザイン-25」を出発材料とし、前記特開平9-322775号公報記載の高分子マイクロ遺伝子重合体の作成方法の技術を用いて、マイクロ遺伝子重合体ライブラリーを作製した。なお、重合の基礎となるオリゴヌクレオチドAとして、配列番号12に示される塩基配列からなるKY-1197を、オリゴヌクレオチドBとして、配列番号13に示される塩基配列からなるKY-1198をそれぞれ合成して用いた。これら34ヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドAの3′側10残基と、36ヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドBの3′側10残基とが、ともに3′端を除いて互いに相補的な配列として構成されている。
【0036】
上記オリゴヌクレオチドAとオリゴヌクレオチドBとを用いた重合反応の条件は、50μLの反応容量では以下の通りである。
KY-1197 20pmol
KY-1198 20pmol
KCl 10 mM
(NH4)2SO4 10 mM
Tris-HCl(pH8.8) 10 mM
MgSO4 2 mM
TritonX-100 0.1 %
2.5mM dNTP 7 μL
上記反応液を94℃で10分間処理した後、DNAポリメラーゼ(ニューイングランドバイオラブス社製「VentR」)を5.2ユニット加えた。
【0037】
重合反応は、パーキン・エルマー社の2400ジーンアンプPCRシステムを用いて行った。反応条件は、94℃で10秒間熱変性させ、66℃で60秒間アニーリングと伸張反応を行うというサイクルで55サイクル繰り返し、最後の伸張反応を66℃で7分間行った。重合反応産物として得られた本発明の人工遺伝子をプラスミドベクターpTZ19R(Protein Eng.,1:67-74,1986)にクローニングし、その挿入DNA断片の塩基配列をシークエンサー(パーキン・エルマー社)を用いて決定した。クローニングした10種類のDNA断片、すなわちpTH127、pTH133、pTH136、pTH142、pTH143、pTH145、pTH155、pTH167、pTH171及びpTH176を図4及び図5に示す。このうち、pTH133、pTH142、pTH143及びpTH167は、その挿入断片が長く、また繰り返し配列といった性質をもつために、その全長の塩基配列を決定することができないので、その部分配列が図4及び図5に示している。これら図4及び図5に示される各挿入塩基配列を配列番号14~23にそれぞれ示す。
【0038】
上記マイクロ遺伝子重合体である人工遺伝子を大腸菌内で発現させるために、プラスミドベクターpTZ19Rにクローニングした10種の挿入DNA断片を切りだし、方向、読み枠などを考慮しながら、方向、読み枠を選んで発現させることができる発現プラスミドベクターシリーズpKS600~pKS605のいずれか1つに再クローニングした。この6種の発現プラスミドベクターpKS600~pKS605は、キアゲン社から発売されている読み枠を1つずつずらした発現ベクターシリーズであるpQE-9、pQE-10、pQE-11のクローニングサイトを改変したもので、プラス鎖とマイナス鎖のそれぞれ3読み枠、合計6種の読み枠のいずれかにより翻訳産物を大腸菌の中で大量発現させることができるように作製したものである。
【0039】
これら人工遺伝子が挿入された24種類の発現プラスミドベクターpTH177~pTH200、すなわち、pTH127の挿入配列をpKS601に移し変えたpTH177、pTH133の挿入配列をpKS601に移し変えたpTH178、pTH136の挿入配列をpKS600に移し変えたpTH179、pTH143の挿入配列をpKS600に移し変えたpTH180、pTH145の挿入配列をpKS601に移し変えたpTH181、pTH155の挿入配列をpKS601に移し変えたpTH182、pTH167の挿入配列をpKS601に移し変えたpTH183、pTH171の挿入配列をpKS601に移し変えたpTH184、pTH176の挿入配列をpKS601に移し変えたpTH185、pTH127の挿入配列をpKS603に移し変えたpTH186、pTH133の挿入配列をpKS603に移し変えたpTH187、pTH142の挿入配列をpKS602に移し変えたpTH188、pTH143の挿入配列をpKS602に移し変えたpTH189、pTH155の挿入配列をpKS603に移し変えたpTH190、pTH167の挿入配列をpKS603に移し変えたpTH191、pTH171の挿入配列をpKS603に移し変えたpTH192であり、pTH176の挿入配列をpKS603に移し変えたpTH193、pTH127の挿入配列をpKS605に移し変えたpTH194、pTH133の挿入配列をpKS605に移し変えたpTH195、pTH143の挿入配列をpKS604に移し変えたpTH196pTH155の挿入配列をpKS605に移し変えたpTH197、pTH167の挿入配列をpKS605に移し変えたpTH198、pTH171の挿入配列をpKS605に移し変えたpTH199、pTH176の挿入配列をpKS605に移し変えたpTH200、が導入された大腸菌XL1Blue株を、発現誘導剤であるIPTG存在下で培養することにより、HIVgp120のループ3ペプチド配列の全部、あるいは一部をもつ人工タンパク質が得られた。
【0040】
上記pTH177~pTH200翻訳産物であり、それらのN末とC末には発現プラスミド由来ペプチド配列が融合している24種類の人工タンパク質のアミノ酸配列を図6~9に示す。なお、図6~9には、その重合体塩基配列の部分配列しかわからないものについては、N末領域のペプチド配列のみが示されている。図6~9に示されるpTH177の挿入ペプチド配列を配列番号24に、pTH178の挿入ペプチド配列を配列番号25に、pTH179の挿入ペプチド配列を配列番号26に、pTH180の挿入ペプチド配列を配列番号27に、pTH181の挿入ペプチド配列を配列番号28に、pTH182の挿入ペプチド配列を配列番号29に、pTH183の挿入ペプチド配列を配列番号30に、pTH184の挿入ペプチド配列を配列番号31に、pTH185の挿入ペプチド配列を配列番号32に、pTH186の挿入ペプチド配列を配列番号33に、pTH187の挿入ペプチド配列を配列番号34に、pTH188の挿入ペプチド配列を配列番号35に、pTH189の挿入ペプチド配列を配列番号36に、pTH190の挿入ペプチド配列を配列番号37に、pTH191の挿入ペプチド配列を配列番号38に、pTH192の挿入ペプチド配列を配列番号39に、pTH193の挿入ペプチド配列を配列番号40に、pTH194の挿入ペプチド配列を配列番号41に、pTH195の挿入ペプチド配列を配列番号42に、pTH196の挿入ペプチド配列を配列番号43に、pTH197の挿入ペプチド配列を配列番号44に、pTH198の挿入ペプチド配列を配列番号45に、pTH199の挿入ペプチド配列を配列番号46に、pTH200の挿入ペプチド配列を配列番号47に示す。
【0041】
前記24種類の人工遺伝子が挿入された発現ベクターpTH177~pTH200の翻訳産物の中で、発現量の多いpTH177、pTH178、pTH180、pTH181、pTH183、pTH184、pTH185、pTH186、pTH187、pTH188、pTH189、pTH190、pTH192、pTH194、pTH195、pTH196、pTH197、pTH198、pTH199、pTH200の各人工タンパク質について、発現ベクターに由来するN末端のポリヒスチジン残基を利用することによって次のように精製した。各発現プラスミドをもつ大腸菌XL1Blue株の500mlスケールの培養を37℃で開始し、培養液のOD660が0.2に達した時点で発現誘導剤であるIPTGを0.24g/lになるように加え、さらに3時間培養を続け、培養液を3,000gで10分間遠心し、集菌した。
【0042】
上記集菌した菌体を40mlの溶菌バッファー(50mMのNaH2PO4(pH8.0)、10mMのTris-HCl(pH8.0)、6Mの塩酸グアニジン、100mMのNaCl、1mMのPMSF)に懸濁し、37℃で1時間インキュベートし、7,000g×30分間遠心して得られた上清を、溶菌バッファーで平衡化前処理した50%TALON樹脂(クロンテック社)液4mlと混合し、室温で20分間緩やかに攪拌した後、700g×5分間遠心した。次いで、上清を捨て、20mlの溶菌バッファーで洗浄し、室温で10分間緩やかに攪拌した後、700g×5分間遠心して上清を捨て溶菌バッファーによる洗浄を繰り返した。次に、2mlの溶菌バッファーを加え、voltexで懸濁し、カラムに充填し、6mlの洗浄バッファー(50mMのNaH2PO4(pH7.0)、8Mの尿素、100mMのNaCl、15mMのイミダゾール)で洗浄した後、溶出バッファー(50mMのNaH2PO4(pH5.0)、20mMのMES(pH5.0)、8Mの尿素、100mMのNaCl、250mMのイミダゾール)でTALON樹脂に結合した精製タンパク質を溶出させた。精製タンパク質を含む溶出分画を50mMのTris-酢酸、pH4.0、100mMのNaCl、1mMのEDTAで透析(ピアス社、分画分子量1万)し、限外濾過膜(アミコン社、セントリップ、分画分子量1万)で濃縮後、濃度を測定し精製標本とした。
【0043】
実施例2
20種の精製タンパク質を3週ごと3回にわけて、20~25μgをそれぞれ5匹のマウス(BALB/c)、合計100匹の脾臓に注射することにより免疫し、最終免疫から5日目に血液をマウス網膜血管から採取した。また、HIVgp120ループ3領域を含む40merの合成ペプチドINCTRPNNNTRKSIRIQRGPGRTFNTIGKIGNMRQAHCNI(配列番号48)を用いて同様に免疫した5匹のマウス(BALB/c)から採取した血液を対照(V3)として用いた。次に、常法により、HIVgp120ループ3領域を含む40merの合成ペプチドを用いたELISA実験を行い、免疫誘導能力を評価した。ELISAは、96穴プレート(ファルコン社、3539)に上記合成ペプチド(配列番号48)を固相化した後、マウス血清を一次抗体として吸着させ、洗浄の後、二次抗体としてペルオキシダーゼ結合ヒツジ抗マウスIgG抗体(アマシャムファルマシアバイオテク社)を加え、洗浄の後、OPD(o-Phenylenediamine)を基質として発色させ、波長492nmにおける吸光度を測定することにより行った。
【0044】
pTH177、pTH178、pTH180、pTH181、pTH184、pTH185、pTH186、pTH188、pTH190、pTH192からの精製タンパク質及び対照としてのHIVgp120ループ3領域を含む40merの合成ペプチドを免疫原として用いた免疫実験の、それぞれ5匹の免疫マウスから得た血清を2500倍希釈し、ELISAを行った。結果を図10に示す。図10に示される結果は、これらの人工タンパク質がマウスの生体内で異物として認識され、免疫反応を誘導することを示している。また、対照実験であるHIVgp120ループ3領域を含む40merの合成ペプチドで免疫したマウスからは該合成ペプチドに対する抗血清は予想通りの結果が得られなかった。
【0045】
図10の実験で用いた同一サンプルを、同一抗原の5匹のマウス内で混合し、いろいろな希釈の後にHIVgp120ループ3領域を含む40merの配列をもつ合成ペプチドを抗原としたELISA実験を行った結果を図11に示す。この結果は、人工タンパク質のgp120ループ3配列に相当する部分に対する抗体が多くのマウスで作られていることを示している。
【0046】
pTH194、pTH195、pTH196、pTH198、pTH199からの精製タンパク質を用いた免疫実験の、それぞれ5匹の免疫マウスから得た血清を別々に4000倍希釈し、HIVgp120ループ3領域を含む40merの合成ペプチドを抗原としたELISAの結果を図12に示す。この結果は、人工タンパク質のgp120ループ3配列に相当する部分に対する抗体が多くのマウスで作られていることを示している。
【0047】
pTH183、pTH187、pTH189、pTH197、pTH200からの精製タンパク質を用いた免疫実験の、それぞれ5匹の免疫マウスから得た血清を5000倍希釈し、HIVgp120ループ3領域を含む40merの合成ペプチドを抗原としたELISAの結果を図13に示す。
【0048】
【発明の効果】
本発明のエピトープの免疫原性が増強された人工タンパク質を用いると、生体での体液性免疫を誘導することができる。また、かかる人工タンパク質を用いてマウスその他の動物を免疫することにより、前記エピトープに対する抗体を簡便かつ効率的に製造することができ、得られた抗体は、抗体を用いた治療や抗体を用いた診断に利用できる。前記人工タンパク質をコードするDNAをDNAワクチンとして用いることにより、生体での細胞性免疫を誘導することができる。そして、これらの体液性免疫、細胞性免疫の誘導は、マラリアなど広い抗原に対するワクチンとして利用できることを示している。さらに、人工タンパク質を発現する腸内細菌等は脱感作・免疫寛容の誘導にも利用できる他、生体内で免疫寛容状態のタンパク質(癌抗原や胎児抗原など)に免疫反応を引き起こさせる手法としても利用できる。
【0049】
【配列表】
JP0004007477B2_000002t.gifJP0004007477B2_000003t.gifJP0004007477B2_000004t.gifJP0004007477B2_000005t.gifJP0004007477B2_000006t.gifJP0004007477B2_000007t.gifJP0004007477B2_000008t.gifJP0004007477B2_000009t.gifJP0004007477B2_000010t.gifJP0004007477B2_000011t.gifJP0004007477B2_000012t.gifJP0004007477B2_000013t.gifJP0004007477B2_000014t.gifJP0004007477B2_000015t.gifJP0004007477B2_000016t.gifJP0004007477B2_000017t.gifJP0004007477B2_000018t.gifJP0004007477B2_000019t.gifJP0004007477B2_000020t.gifJP0004007477B2_000021t.gifJP0004007477B2_000022t.gifJP0004007477B2_000023t.gifJP0004007477B2_000024t.gifJP0004007477B2_000025t.gifJP0004007477B2_000026t.gifJP0004007477B2_000027t.gifJP0004007477B2_000028t.gifJP0004007477B2_000029t.gifJP0004007477B2_000030t.gifJP0004007477B2_000031t.gifJP0004007477B2_000032t.gifJP0004007477B2_000033t.gifJP0004007477B2_000034t.gifJP0004007477B2_000035t.gifJP0004007477B2_000036t.gifJP0004007477B2_000037t.gifJP0004007477B2_000038t.gifJP0004007477B2_000039t.gifJP0004007477B2_000040t.gifJP0004007477B2_000041t.gifJP0004007477B2_000042t.gifJP0004007477B2_000043t.gifJP0004007477B2_000044t.gifJP0004007477B2_000045t.gifJP0004007477B2_000046t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質が強い免疫誘導能力を獲得することを説明するための図である。
【図2】マイクロ遺伝子の自動デザインの計算作業のフローの一例を示す図である。
【図3】デザインされた2本鎖多機能DNA配列からなるマイクロ遺伝子とそれがコードするアミノ酸配列を示す図である。
【図4】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質をコードするDNAの一例を示す図である。
【図5】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質をコードするDNAの一例を示す図であり、図4の続きである。
【図6】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質の一例を示す図である。
【図7】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質の一例を示す図であり、図6の続きである。
【図8】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質の一例を示す図であり、図7の続きである。
【図9】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質の一例を示す図であり、図8の続きである。
【図10】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質を用いて得られた抗血清のELISAの結果を示す図である。
【図11】本発明のエピトープの免疫原生が増強された人工タンパク質を用いて得られた抗血清の種々の希釈物のELISAの結果を示す図である。
【図12】本発明のエピトープの免疫原生が増強された他の人工タンパク質を用いて得られた抗血清のELISAの結果を示す図である。
【図13】本発明のエピトープの免疫原生が増強された他の人工タンパク質を用いて得られた抗血清のELISAの結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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