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明細書 :シガトキシンCTX3Cの全合成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3755082号 (P3755082)
公開番号 特開2003-212878 (P2003-212878A)
登録日 平成18年1月6日(2006.1.6)
発行日 平成18年3月15日(2006.3.15)
公開日 平成15年7月30日(2003.7.30)
発明の名称または考案の名称 シガトキシンCTX3Cの全合成方法
国際特許分類 C07D 493/22        (2006.01)
FI C07D 493/22
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2002-012460 (P2002-012460)
出願日 平成14年1月22日(2002.1.22)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成13年9月1日発行の「第43回天然有機化合物討論会 講演要旨集」に発表
特許法第30条第1項適用 「SCIENCE」2001,VOL294(2001年11月30日発行)の第1904-1907頁に発表
審査請求日 平成14年1月22日(2002.1.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】平間 正博
個別代理人の代理人 【識別番号】100110168、【弁理士】、【氏名又は名称】宮本 晴視
審査官 【審査官】渕野 留香
参考文献・文献 大石徹 他,シガトキシンの全合成研究,有機合成シンポジウム講演要旨集,2001年,第79回,p.49-52
調査した分野 C07D493/22
CAPLUS(STN)
REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記のCTX 3Cのトリベンジル体を、液体アンモニウム中でNa、テトラヒドロフラン(THF)およびアルコールの混合物の存在下で還元することにより3つのベンジル(Bn)基を脱保護基させことにより下記のシガトキシンCTX 3Cを製造する方法。
【化1】
JP0003755082B2_000005t.gif
【化2】
JP0003755082B2_000006t.gif

【請求項2】
アルコールがエチルアルコール(EtOH)であり、反応温度が-90±5℃であることを特徴とする請求項1に記載のシガトキシンCTX 3Cを製造する方法。
【請求項3】
THF:EtOHが5:1~1:5であることを特徴とする請求項2に記載のシガトキシンCTX 3Cを製造する方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シガトキシンの全合成に関する、特に本発明者らが開発した、ABCDE環部とHIJKLM環部との連結とFG環の形成反応によるシガトキシンCTX 3Cの前駆体であるトリベンジル-CTX3Cを合成する方法を経由するシガトキシンCTX 3Cの全合成において、前記前駆体の3つのベンジル保護基を、完成したA~Mまでの環を維持しつつ取り除いてシガトキシンCTX 3Cを製造する方法に関する。
【0002】
【従来技術】
本来無毒な魚類が毒化して起こる食中毒シガテラは、熱帯、亜熱帯の珊瑚礁域で広く発生し、年間の患者数は2万人を超える。死亡率は低いものの、知覚異常、下痢、倦怠感、関節痛、痒みなどの症状が場合によっては数ヶ月も続く。このシガテラの主要原因毒として単離・構造決定されたシガトキシン(CTX)類(化合物1など)は、13個のエーテル環が縮環する分子長3nmの巨大分子である。CTX類は渦鞭毛藻(Gambierdicus toxcus)により生産され、食物連鎖を通じて魚類に蓄積する。400種類にも達する毒魚は、見た目、味、においなどが正常であることから、南方海域の魚類資源開発の大きな障害となっており、CTX類の簡便かつ高感度な免疫学的測定法による検出法の開発が待たれている。
【0003】
また、CTX類は神経興奮膜の電位依存性Na+チャネルに特異的に結合し、これを活性化して毒性を発揮するが、その構造レベルでの活性発現機構は明らかにされていない。自然界のCTX類は微量成分であり、生産微細藻による培養生産も遅いことから、天然物に依存した詳細な前記生物学的研究、および抗CTX抗体調製は事実上不可能である。このような状況下、実用的な化学合成による天然物の量的供給が強く望まれている。
【0004】
前記のことから、本発明者らも、前記化学構造を持つシガトキシンCTX3Cの前駆体であるトリベンジル体の効率的な合成法の開発をすでに報告している(第79回「有機合成シンポジウム講演要旨集」平成13年6月6日~8日、科学技術館サイエンスホールにて開催。第49頁~第52頁)。前記合成におけるA~M環の形成を、ABCDE環部とHIJKLM環部とをそれぞれ合成した後、この2つの環を結合すると共に、F、Gの2つの環を形成するという独自に開発した方法により達成している。しかしながら、天然物の全合成において、中間化合物は最終化合物までの工程を想定しつつ設計しても、合成工程は最終段階に近づくほど、標的の反応位置へ影響する周辺の原子が多くなり、また、官能基の数や分子量が増すため、望む化学変換の条件設定には厳密さを要求される。とくに、合成過程に要求される様々な反応からある官能基を保護するために利用される保護基は、最終段階までの化学的安定性と最終段階での除去の容易さという2つの矛盾しうる性質を要求され、脱保護が全合成でもっとも困難な工程となる場合も多い。前記本発明者らが開発したCTX 3C前駆体の合成で用いられたベンジル保護基も、前記合成における有効な保護基となるであろうとの予想の下に採用された。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前記本発明者らが開発した方法により合成されたCTX 3C前駆体から、前記化学構造のA環~M環までの環構造を維持しつつ、3つのベンジル保護基を脱離し、所望のするCTX 3Cを得る方法を提供することである。
ベンジル基の脱保護方法として、すでにいくつか知られているが、水素添加されうる多数のオレフィンを持つシガトキシン類に金属触媒を使ってベンジル基の過水素分解する方法は適用できないであろうとの予測はできる、しかし、どのような方法が前記CTX 3C前駆体の脱保護に適用できるかは、全く予想が付かない。従って、有効な手段は試行錯誤よって初めて明らかにできるというのが現状である。本発明者も、従来提案されている方法を試行錯誤する必要があった。本発明者は、DDQ(2,3-dichloro-5,6-dicyano-1,4-benzoquinone)を用いた酸化的脱保護を試みたが、複雑な混合物が得られ、CTX 3Cの生成は確認できなかった。
【0006】
そこで、バーチ(Birch)還元やその類似法による還元的脱保護の方法を試みるために反応基質S-1を用いて表に示す条件で脱保護基の有効性を見た。モデル反応を以下に示す。
【0007】
【化3】
JP0003755082B2_000002t.gif
【0008】
【表1】
JP0003755082B2_000003t.gif
【0009】
前記モデル反応の結果から、還元剤としてLiDBB (lithium di-tert-butyldiphenylide)を用いた場合(実験No.2)と、金属としてナトリウム、プロトン源としてエタノールを用いた場合(実験No.4)にS-2が比較的選択性よく得られることがわかった。とくに実験No.4の条件の場合、溶媒比が選択性に重要でエタノールの量が多い場合、S-3の副成が増えることがわかった(実験No.3)。また、カリウムを用いた場合選択性はまずまずだったものの、反応スケールの上昇に伴い収率は低下した(実験No.5)。
【0010】
上記の検討の結果、実験No.4の条件が、CTX3C前駆体の脱保護基に最も適していることが予想されたので、実験No.4の条件で、最終脱保護を検討した。この結果、反応温度を実験No.4よりもさらに低くし-90℃、反応時間を10分とすることによって望みとする前記CTX3Cを得ることに成功した。粗生成物をHPLCで精製して、合成CTX3Cを単離した結果、天然から単離されたCTX3Cと物理データが完全に一致した。以上のようにして、CTX3Cの最初の全合成に成功し、前記課題を解決することができた。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記CTX 3C前駆体のトリベンジル体を、液体アンモニウム中でNa、テトラヒドロフラン(THF)およびアルコールの混合物の存在下で還元することにより3つのベンジル(Bn)基を脱保護基させことにより下記のシガトキシンCTX 3Cを製造する方法である。好ましくは、アルコールがエチルアルコール(EtOH)であり、反応温度が-90±5℃であることを特徴とする前記シガトキシンCTX 3Cを製造する方法であり、より好ましくは、THF:EtOHが5:1~1:5であることを特徴とする前記シガトキシンCTX 3Cを製造する方法である。
【0012】
【本発明の実施の態様】
本発明をより詳細に説明する。
本発明の反応の概要は以下のとおりである。
【0013】
【化4】
JP0003755082B2_000004t.gif
【0014】
反応時間は温度条件などにもよるが、10±5分程度である。
時間が長いと副反応が起こる。
【0015】
【実施例】
ここでは、本発明を実施例を挙げて説明するが、より本発明を理解した易くするためのものであり、本発明はこれにより限定されないことは当然である。
【0016】
実施例1
0.23mg(0.18μL)のトリベンジルCTX3Cを、THF(2.5mL)-EtOH(0.5mL)に溶かし、-90℃に冷却した。別のフラスコを-90℃に冷却し、液体アンモニアを蒸留してためた。これから、前記の反応容器に液体アンモニアを1mL程度蒸留して加えた。この容器に、金属ナトリウムを20mg程度素早く加え、10分間撹拌後、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え反応を停止した。冷却バスを除去後、反応液を酢酸エチルで3回抽出し、合わせた有機相を飽和塩化ナトリウム水溶液で洗い、硫酸マグネシウム存在化乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別後、減圧下濃縮した。この粗生成物をHPLCを用いて精製すると、CTX3Cが0.013mg、収率7%で得られた。
【0017】
前記HPLC条件;
カラム:AsahipakODP-50(150×7.5mm)、溶媒:CH3CN/H2O=75/25、流速:1mL/分、UV:210nm、保持時間:17分、である。
【0018】
物理データ;
1H NMR(600MHz,C55N,25℃):δ0.91(3H,d,J=7Hz,Me54),0.97 (3H,d, J=7Hz,Me57),1.23-1.32(9H,m,Me53,55,56),1.49-1.56 (1H,m,H35), 1.60 (1H,dq,J=10,7Hz,H48),1.63-1.98 (11H,m,H10,32,35,36,37,40,47,50x2,51x2),2.02(1H,brd,J=15 Hz,H37),2.23-2.33(4H,m,H17,22,25,32),2.40-2.61(6H,m,H4,10,28x2,40,43),2.67 (1H,ddd,J=16,8,4Hz,H4),2.82-2.88(1H,m,H17),2.95-3.08(2H,m,H22,25),3.20(1H,dd,J=10,4Hz,H42),3.17-3.23(1H,m,H38),3.28-3.39(4H,m,H9,31,33,39),3.43(1H,t,J=9Hz,H8),3.43(1H,t,J=9Hz,H11),3.40-3.50(2H,m,H5,34),3.53 (1H,t,J=9 Hz,H6),3.55-3.75 (4H,m,H16,21,26,27),3.85-3.90(2H,m,H52x2),3.94(1H,t,J=10Hz,H46),4.04(1H,brd,J=10Hz,H45),4.05-4.20(6H,m,H1,7,12,15,20,29),4.21(1H,brs,H44),4.33(1H,dd,J=16,6Hz,H1),4.45-4.50(1H,m,H41),5.71-5.77(1H,m,H3),5.81-5.89(3H,m,H2,13,18),5.93(1H,brd,J=13Hz,H14),5.98(1H,dd,J=11,5 Hz,H19),6.00-6.06(2H,m,H23,24);MALDI-TOF MS計算値、C5782Naに対する計算値〔M+Na〕+ 1045.5501;実験値 1045,5553;CD(MeOH,1.0×10-5 M)λext203nm(Δε-5),〔天然〕CTX3C(MeOH,1.0 x10-3 M) λext203nm(Δε-7)〕.
【0019】
【発明の効果】
以上のように、本発明の脱ベンジル手段を用いることにより、天然物からの入手が困難であった前記CTX3Cを、工業的に得ることの可能性を高めたという、顕著な効果をもたらすものである。