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明細書 :シトルリンを含有する活性酸素消去剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3843298号 (P3843298)
公開番号 特開2002-226370 (P2002-226370A)
登録日 平成18年8月25日(2006.8.25)
発行日 平成18年11月8日(2006.11.8)
公開日 平成14年8月14日(2002.8.14)
発明の名称または考案の名称 シトルリンを含有する活性酸素消去剤
国際特許分類 A61K  31/198       (2006.01)
A61P  39/06        (2006.01)
A23L   1/305       (2006.01)
C09K  15/22        (2006.01)
FI A61K 31/198
A61P 39/06
A23L 1/305
C09K 15/22
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2001-027772 (P2001-027772)
出願日 平成13年2月5日(2001.2.5)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成12年8月25日 社団法人日本生化学会発行の「生化学 第72巻 第8号」に発表
審査請求日 平成13年2月5日(2001.2.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】河内 孝之
【氏名】横田 明穂
【氏名】三宅 親弘
【氏名】明石 欣也
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
【識別番号】100101096、【弁理士】、【氏名又は名称】徳永 博
【識別番号】100086645、【弁理士】、【氏名又は名称】岩佐 義幸
【識別番号】100107227、【弁理士】、【氏名又は名称】藤谷 史朗
【識別番号】100114292、【弁理士】、【氏名又は名称】来間 清志
【識別番号】100119530、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 和幸
審査官 【審査官】井上 明子
参考文献・文献 特開平09-241637(JP,A)
特開昭61-074558(JP,A)
特表平09-505822(JP,A)
米国特許第06028107(US,A)
調査した分野 A61K 31/198
A23L 1/305
C09K 15/22
CAOLD(STN)
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
シトルリンを有効成分として含有する、活性酸素消去剤。
【請求項2】
シトルリンを有効成分として含有することを特徴とする、化粧品用抗酸化剤
【請求項3】
シトルリンを添加することによって活性酸素を消去する方法(但しヒトに適用する場合を除く)。
【請求項4】
シトルリンを添加して活性酸素量を低下させることにより、嫌活性酸素物質の保存性を改善する方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シトルリンを有効成分として含有する活性酸素消去剤、及びシトルリンを添加することによって活性酸素を消去する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
活性酸素障害を防止するために、食品や化粧品へ抗酸化物質を添加する事が、広く行われている。その様な目的で、主に化学合成した人工の化合物を用いる例が多い。その様な目的で用いられている抗酸化剤として、アスコルビン酸、トコフェロール、ユビキノン、グルタチオン、カロチノイド等が挙げられる。しかし、これら従来の抗酸化剤はしばしば人体に対して副作用を有すると共に、環境汚染の原因となっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術の問題点を解決するため、優れた活性酸素消去能力を持ち、しかも安全性の高い、天然由来の抗酸化物質の発見および利用が嘱望されていた。その様な優れた性質を有する新規の抗酸化物質を検索することにより、食品の品質、安全性の向上や人体の不老、美顔の欲求を充足する化粧品を創出するにあたり、活性酸素を効率よく消去し、同時に副作用や環境汚染の心配のない構成成分が得られ、食品や化粧品の分野において非常に有益であると思われる。
【0004】
【課題を解決するための手段】
種々の環境ストレスに対応するために、植物細胞は乾燥、塩、低温等の乾燥ストレスにより、プロリン、ベタイン、マンニトール、ピニトール等の溶質を蓄積させる。これらの溶質は、高濃度に蓄積しても細胞の代謝活動を阻害しないことから、適合溶質と呼ばれている。これら適合溶質は、浸透圧調節剤として水ストレスの緩和に貢献するだけでなく、高温耐性賦与、活性酸素消去、生体膜の安定化、炭素/窒素/エネルギー源の貯蔵転流、NAD(P)H/NAD(P)+ 比の調節など、多くの機能が推定、議論され、解析の対象になっている。そこで、これまでに知られていない適合溶質性物質を得る事ができたら、優れた抗酸化物質になると思われる。
【0005】
図1に示す構造を有するシトルリンは、動物において窒素代謝の過程で生成する事が広く知られている物質である。即ち、シトルリンは尿素の生合成に関与し、尿素回路の中間体の一つであることが知られている。しかし、植物においては、シトルリンの機能はほとんど知られていなかった。
【0006】
本発明者らは、スイカ等のウリ科植物において、環境ストレスに応答してシトルリンが大量に蓄積する現象に着目した。即ち、ボツアナ原産の野生スイカにおいて乾燥処理により、シトルリンは約600mM もの高濃度で細胞内に蓄積するという知見から、環境ストレスを防御するためにシトルリンが有効ではないかと考えて検討を行った。
【0007】
葉緑体の電子伝達系は、活性酸素種を生成する主要な発生源であり、乾燥ストレスに伴って、その産生量が増大すると考えられている。活性酸素種の中でも、ヒドロキシルラジカルは最も反応性が高く、蛋白質、DNA 、脂質を攻撃して代謝機能不全、細胞死へと至らしめる。従って、乾燥耐性の野生種スイカは、ヒドロキシラジカルの生成を抑制する機構、或いは生成したヒドロキシルラジカルを速やかに消去する機構に優れていると予想される。本発明者らは、種々のストレス応答に対するシトルリンの効果を検討したところ、シトルリンは活性酸素、特にヒドロキシルラジカル(OH. )の消去能力に優れ、しかも副作用等が見られないことを明らかにした。
【0008】
他の研究者らにより、マンニトールやプロリンなどの適合溶質は、活性酸素種と反応してこれを消去することで、過酸化ストレス障害から植物を防御している可能性が議論されている。そこで本発明者らは、下記の実施例で示す様に、シトルリンとヒドロキシルラジカルとの反応速度を解析し、これを他の適合溶質と比較することにより、活性酸素スカベンジャーとしてのシトルリンの機能を評価した。その結果、シトルリンは他の適合溶質と比較して、効率よくヒドロキシルラジカルを消去する事が示された。
【0009】
ヒドロキシルラジカルは、極めて反応性の高い活性酸素種で、ほとんどの有機化合物と拡散律速に近い速度で反応する。酵素蛋白質についても、そのアミノ酸残基が酸化修飾を受け、不可逆的に失活することが報告されている。マンニトールやプロリンなどの適合溶質は、ラジカルが酵素と反応して失活する前にこれを捕捉することで、酵素蛋白質を保護する作用を持つことが示唆されている。そこで本発明者らは、シトルリンが、ヒドロキシルラジカルから酵素を保護する作用を示し得るかどうかにつき検討を行った。即ち、蛋白質、DNA 等の生体高分子の活性酸素による損傷が、効果的に防御されることを、下記の実施例において実証した。
【0010】
ところで、スーパーオキシドジスムターゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ等の酵素もまた、活性酸素を除去する事が知られている。これらの酵素により消去される活性酸素種は、主としてO2- 、H2O2等の、比較的寿命の長い活性酸素種である。一方、アスコルビン酸、トコフェロール、ユビキノン、グルタチオン、カロチノイド等や、適合溶質により消去される活性酸素種は、主としてヒドロキシルラジカル(OH. )であり、ヒドロキシルラジカルは寿命が短く、反応性が高い性質がある。本発明は、ヒドロキシルラジカルを効率よく消去する事が可能な活性酸素消去剤を、新たに与えるものである。
【0011】
安全性という点では、シトルリンはヒトを含めた哺乳類の体内にも若干量存在し、代謝的に無害であるために、シトルリンを含有する活性酸素消去剤の安全性は高いと考えられる。シトルリンと構造の類似したアミノ酸の一つにアルギニンがあるが、本発明者らはシトルリンの生理学的な安全性を検討した。シトルリン側鎖のカルバミド基は電荷を持たないが、アルギニン側鎖のグアニジン基は生理的pH条件下で正に荷電する。
【0012】
一般に、電解性の溶質は、酵素活性の阻害、生体膜の変性、オルガネラの機能低下などにより細胞の代謝活動に損害を与える。それに対して適合溶質は、生理的pHにおいて全体として電荷を持たないことが多く、高濃度では蓄積しても細胞の代謝活動に阻害的ではない。従って、シトルリンはアルギニンと異なり、蛋白質機能、細胞代謝に対して悪影響を及ぼさないと予想される。下記の実施例において、アルギニンとシトルリンの生体内における安全性を、高濃度のシトルリン及びアルギニンが諸酵素の活性に及ぼす阻害の程度を調べることで検定したところ、シトルリンはアルギニンと比較して、酵素活性を阻害する作用が低いことが示された。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、シトルリンを含有する活性酸素消去剤である。上述した様に、シトルリンは生体内に存在して窒素代謝に関与する事が知られている既知の物質であるが、シトルリンが活性酸素、特にヒドロキシルラジカルを除去する作用を有することは、これまで全く知られていなかった。本発明者らは、シトルリンは、シドロキシルラジカルを効率よく消去し、蛋白質や核酸を活性酸素障害より防御する事を実証した。
【0014】
ここで、活性酸素消去剤とは、シトルリンを含有する製剤であり、固体でも液体に溶解した状態でも良い。シトルリンを単独で使用することも可能であるが、通常は必要に応じて賦形剤、保存剤等の他の補助剤を添加することが好ましい。本発明の活性酸素消去剤はシトルリンを含有する事を特徴とするが、本発明の活性酸素消去剤は、使用時におけるシトルリン濃度が10mMから1000mM、好ましくは50mMから400mM の範囲内である事が好ましく、この様な濃度においてシトルリンの活性酸素消去作用は顕著である。本発明の活性酸素消去剤は、任意の量のシトルリンを含有することが可能であり、必要とする効果を示す様に、シトルリンの濃度を調製することができる。また、シトルリンを溶解する溶剤としては、必要量のシトルリンを溶解し、かつシトルリンの活性酸素消去作用に悪影響を及ぼさない限り、任意の溶剤を用いることが可能である。生物に適用する場合には、その目的に適合するために、適切なpH緩衝作用及び塩濃度を有する溶剤である事は、特に好ましい。
【0015】
図1より判る様に、シトルリンは親水性の高い物質であるが、シトルリンをエステル化等の手法で誘導体化してその疎水性を高めることにより、脂質等の疎水性物質に対する保護効果をより高めたり、細胞膜の透過性を高めることもまた可能である。その様な目的の為に好ましいシトルリンの誘導体化の手段としては、具体的にはエステル化、アシル化による誘導体化が挙げられる。
【0016】
シトルリンは活性酸素の除去に有効であるために、シトルリンを含有することにより活性酸素消去作用を有する医薬組成物、化粧品組成物又は食品添加物を作製することができる。シトルリンを含有する医薬組成物は、例えば心筋梗塞等により虚血に陥った臓器への血流再開に伴う、いわゆる再潅流障害(reperfusion injury)に有効である可能性が考えられる。再潅流障害には、再潅流時に白血球等により生じる活性酸素が関与しており、シトルリンが再潅流時の活性酸素を消去することにより、再潅流障害を防止できるのではないかと考えられる。また、活性酸素が細胞を障害して老化の原因となる事が知られているので、シトルリンを含有する医薬組成物は、老化に対して有効である可能性が考えられる。
【0017】
また、シトルリンを化粧品組成物に添加することにより、紫外線等により生じた肌の障害を予防できると考えられる。活性酸素による肌の障害は、美顔の欲求を考えると、化粧品業界にとっては大きな問題である。シトルリンを含有する化粧品組成物は、活性酸素が生じることによる肌の障害、例えばシミやソバカスの予防に有効である可能性があり、シトルリンを含有する化粧品の価値は非常に大きい。
【0018】
その様な医薬組成物、化粧品組成物を又は食品添加物を作製するにあたり、本技術分野における通常の方法を用いることができる。即ち、10mMから1000mMの範囲内の有効量を含有する様に、種々の賦形剤、保存剤、及びその他必要な補助剤を添加して、本発明の組成物を調製する事ができる。その様な種々の技術は本分野では良く知られており、慣用技術を用いることにより、本発明の医薬組成物、化粧品組成物又は食品添加物を作製することができる。
【0019】
シトルリンの活性酸素消去作用を用いて、活性酸素障害を防御する方法もまた、本発明の範囲内である。本発明はシトルリンの活性酸素消去作用を見出したものであり、効率よく活性酸素障害を防御するための、新たな方法を与えるものである。活性酸素障害を防御する目的は、10mMから1000mM、好ましくは50mMから400mM の濃度のシトルリンを用いる事により達成する事が可能である。
【0020】
また、シトルリンの活性酸素除去作用を利用して、活性酸素により品質が劣化する、「嫌活性酸素物質」の保存性を改善することができる。本願明細書中における「嫌活性酸素物質」とは、活性酸素により品質が劣化する可能性を有する物質を総称的に意味するものであるが、具体的には、医薬品、食品や化粧品等が含まれる。その様な物にシトルリンを添加して、活性酸素による品質劣化を防止する方法も、本発明の範囲内である。
【0021】
また、シトルリンを含む活性酸素消去剤を植物に投与することにより、植物の活性酸素障害を回避することができると考えられる。具体的には、シトルリンを植物の根から吸わせることにより、又は葉に散布することにより、活性酸素障害を回避することができる可能性がある。その様な目的においては、「ハイポネックス」等の液体肥料にシトルリンを添加して植物に投与する事は、特に好ましい。
【0022】
【実施例】
(シトルリンが酵素活性に及ぼす効果)
高濃度のシトルリン及びアルギニンが、リンゴ酸脱水酵素(MDH )及び乳酸脱水素酵素(LDH )の活性に及ぼす阻害の程度を調べることで、シトルリンの安全性をアルギニンと比較した。アルギニンのイオン対としては塩化物イオンを用い、その塩化物をイオンの影響を評価するために塩化カリウムの検定も行った。
【0023】
野生型スイカ(Citrullus lanatus sp.No 101117-1)の葉組織を液体窒素冷却下で破砕し、抽出バッファー(50mM Tris-HCl pH=7.5, 5mM DTT, 5μg/ml BSA,15% glycerol)により抽出した後、10,000g で5分間遠心した上清を、リンゴ酸脱水酵素(MDH )粗抽出画分として用いた。乳酸脱水素酵素(LDH )はオリエンタル社のブタ精製酵素標品を用いた。MDH 反応溶液は100mM Tris-HCl pH7.5, 150 μM NADH, 250 μM オキサロ酢酸と10μL の酵素液を含み、全量を1mL とした。LDH 反応溶液は10mM Tris-HCl pH7.5, 150 μM NADH, 250 μM lithium pyruvateと10μL の酵素液を用いた。シトルリンなどの各種の溶質が酵素活性に及ぼす影響を見るときは、異なる濃度の溶質を添加した後にpHを7.5 に、KOH を用いて再調整した。反応は25℃で基質添加により開始し、NADHの減少に伴う340nm の吸光度変化によりその初速度を測定した。MDH における結果を図2に、LDH における結果を図3に、それぞれ示す。なお、図2及び図3において、白抜きのカラムはシトルリンの結果を、黒抜きのカラムは塩化アルギニンを、斜線のカラムは塩化カリウムを、それぞれ示す。
【0024】
その結果、高濃度のシトルリンは、野生種スイカのリンゴ酸脱水素酵素(MDH)に対して阻害的な影響を全く与えなかった(図2、白抜きカラム)。シトルリン存在下におけるMDH 活性は、非存在下に比べて若干上昇しており、200mM シトルリン下で約109 %であった。また、哺乳類の乳酸脱水素酵素(LDH )活性に対しても阻害効果は小さく、600mM シトルリン存在下において約10%低下しただけであった(図3、白抜きカラム)。
【0025】
それに対して高濃度の塩化アルギニンは、MDH とLDH の両酵素に対して強い阻害効果を及ぼした(図2及び図3、黒抜きカラム)。600mM 塩化アルギニン存在下におけるMDH とLDH の活性は、それぞれコントロールの10%並びに54%にまで低下した。これらの値は、同濃度の塩化カリウムによる両酵素の阻害(それぞれ21%、64%)よりも厳しいものであった(図2及び図3、斜線カラム)。このことは、アルギニンイオンはカリウムイオンよりも両酵素の活性に対して阻害的であることを表している。この結果は、シトルリン添加による細胞代謝への阻害効果はほとんどないことが判明した。従って、シトルリンは、化粧品、食品添加物、医薬品の構成成分として安全性に優れていることが示された。
【0026】
(シトルリンとヒドロキシルラジカルとの反応の、反応速度論的解析)
シトルリンとヒドロキシルラジカルとの反応速度を解析し、活性酸素スカベンジャーとしてのシトルリンの機能の評価を行った。ヒドロキシルラジカルは、アスコルビン酸-過酸化水素系により活性させ、サリチル酸の水酸化をラジカル検出の指標として用いた。反応液組成は、40mM K-Pi バッファー、pH7.4, 0.26mM ascorbate, 0.15mM FeEDTA, 0.6mM H2O2, 2mM salicylateと種々の適合溶質を含み、全量を400 μL とした。25℃で90分間反応させた後、サリチル酸とヒドロキシルラジカルとの反応産物である2,3-Dihydroxy-benzoic acidを誘導体化して発色させ、510nm の吸光度により定量した。その結果、シトルリンとヒドロキシルラジカルとの二次反応速度定数は、競争反応理論により算出した。基準反応速度定数として、マンニトールの文献値1.7x109M-1 s-1を用いた。
【0027】
生成させたヒドロキシルラジカルに対する、サリチル酸と適合溶質間の競争補足反応の度合いを図4に示す。図4において、○はグリシンベタイン、▲はプロリン、□はマンニトール、●はシトルリンを、それぞれ示す。サリチル酸の水酸化の減少は、ヒドロキシルラジカルが適合溶質によって効率良く補足されていることを示す。この図から、解析に用いた4種の溶質のうち、シトルリンが最も効率良いスカベンジャー活性を有することが示唆された。
【0028】
図4から、各種溶質によるサリチル酸水酸化の50%阻害濃度を算出し、その結果を表1に示す。溶質とヒドロキシルラジカルとの二次反応速度定数を概算したところ、サリチル酸の酸化をを50%防御するシトルリンの濃度は約4.3mM であることから、シトルリンのID50値は約3x109M-1 s-1となった。よって、優れたラジカルスカベンジャーとして知られるマンニトールに比べ、ほぼ同等か若干優れた反応性を有すると考えられた。またシトルリンの値は、植物一般で乾燥ストレスにより蓄積されるプロリンやグリシンベタインの値に比べ、約1桁および2桁速いことが示された。以上の結果から、シトルリンは、ヒドロキシルラジカルの捕捉能に非常に優れていることが明らかとなった。従ってシトルリンは、従来の抗酸化物資に比べて活性酸素の消去能力に大変優れていることが示された。よってシトルリンは、化粧品、食品添加物、医薬品の品質を改良するにあたり、極めて有用な化合物であると考えられる。
【0029】
【表1】
JP0003843298B2_000002t.gif【0030】
(生体分子の活性酸素障害に対する、シトルリンによる保護)
シトルリンが、ヒドロキシルラジカルから酵素や核酸等の生体分子を保護する作用を示し得るかどうかにつき検討を行った。即ち、アスコルビン酸-過酸化水素系により発生したヒドロキシルラジカルが、ピルビン酸キナーゼ(PK)の酵素活性に及ぼす影響を検討した。失活反応組成液は、100mM Tris-HClバッファーpH7.4, 2.5U ブタPK(オリエンタル社), 0.2mM ascorbate, 0.15mM FeEDTA, 0.6mM H2O2と種々の濃度のシトルリンを含む様に調製し、全量を250 μL とした。失活反応は25℃でH2O2を添加することにより開始し、一定時間毎に10μL を分取して酵素の残存活性を測定した。活性測定反応液組成は、80mM Tris-HCl バッファーpH7.4, 7.5mM MgCl2, 75mM KCl, 3.75mM ADP, 0.15mM NADH, 10UブタLDH, 0.8mM PEP及び10μL 失活処理済PK酵素を含む様に調製した。反応は、25℃で基質を添加することにより開始し、NADHの増減に伴う340nm の吸光度変化によりその初速度を測定した。シトルリンが、ピルビン酸キナーゼのヒドロキシルラジカルによる失活に及ぼす影響を図5に示す。図5において、○はシトルリン無添加、●はシトルリン200mM 添加、▲はシトルリン400mM 添加、□は活性酸素なしを、それぞれ示す。
【0031】
PKの活性に関して、シトルリンは顕著な防御効果を有する事が、図5より示された。シトルリンを添加しない場合、活性酸素による120 分後のPK残存活性は初期値の約36%まで低下した。これに対し、200mM または400mM シトルリン添加により残存活性は、それぞれ61%、74%まで上昇していた。以上の結果から、この過酸化ストレス実験系においては、シトルリンはPKに対して顕著な防御効果を有することが示唆された。
【0032】
更に、シトルリンが活性酸素障害からDNA を防御し得るか、検討を行った。200ng の環状プラスミドDNA と種々の濃度のシトルリンを含む溶液に、3mM H2O2,0.01mM FeEDTA によりヒドロキシルラジカルを発生させ、2時間後にDNA の損傷をアガロースゲル電気泳動により評価した。結果を図6に示す。図6において、レーン1は電気泳動サイズマーカー、レーン2は未処理プラスミドDNA 、レーン3は二価鉄のみを添加した系、レーン4は二価鉄及び過酸化水素を添加し、過酸化水素を発生させた系、レーン5は活性酸素を発生させた系(レーン4)にシトルリンを50mM添加して活性酸素を消去させた系、レーン6は活性酸素を発生させた系(レーン4)にシトルリンを100mM 添加して活性酸素を消去させた系、レーン7は活性酸素を発生させた系(レーン4)にシトルリンを200mM 添加して活性酸素を消去させた系を、それぞれ示す。
【0033】
図6の結果より、活性酸素を発生させた系(レーン4から7)における比較を行った。シトルリンを添加しない場合には、活性酸素により環状プラスミドDNAの2本鎖が切断されて直鎖状DNA を生じ、アガロースゲル電気泳動において明瞭に検出された(レーン4)。これに対し、シトルリンを50mM(レーン5)、100mM (レーン6)ないし200mM (レーン7)添加した系においては、シトルリン添加により、DNA の切断は大幅に軽減された。以上の結果から、シトルリンは、活性酸素による損傷からDNA を保護する優れた効果を有することが示された。
【0034】
【発明の効果】
本発明により、シトルリンが活性酸素消去能力を有する事が、初めて示された。シトルリンを有効成分とする新規な活性酸素消去剤は、優れた活性酸素消去能力を有し、かつ安全性が高いという特徴を持つ。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、シトルリンの分子構造を示す図である。
【図2】図2は、リンゴ酸脱水素酵素(MDH )の活性に、シトルリンとアルギニンが及ぼす効果を示したグラフである。
【図3】図3は、乳酸脱水素酵素(LDH )の活性に、シトルリンとアルギニンが及ぼす効果を示したグラフである。
【図4】図4は、種々の適合溶質及びシトルリンが、サリチル酸の酸化を防御する活性を示したグラフである。
【図5】図5は、ヒドロキシルラジカルにより障害されたピルビン酸キナーゼ(PK)の酵素活性に、シトルリンが及ぼす保護効果を示したグラフである。
【図6】図6は、ヒドロキシルラジカルにより障害された環状プラスミドの構造に、シトルリンが及ぼす保護効果を示した写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5