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明細書 :抗テネイシンCモノクローナル抗体及び当該抗体を産生するハイブリドーマ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3646159号 (P3646159)
公開番号 特開2002-234900 (P2002-234900A)
登録日 平成17年2月18日(2005.2.18)
発行日 平成17年5月11日(2005.5.11)
公開日 平成14年8月23日(2002.8.23)
発明の名称または考案の名称 抗テネイシンCモノクローナル抗体及び当該抗体を産生するハイブリドーマ
国際特許分類 C07K 16/32      
C12N  5/10      
C12N 15/02      
G01N 33/53      
G01N 33/574     
G01N 33/577     
C12P 21/08      
C12P 21/08      
C12R  1:91      
FI C07K 16/32
G01N 33/53 D
G01N 33/574 A
G01N 33/577 B
C12N 5/00 B
C12N 15/00 ZNAC
C12P 21/08
C12P 21/08
C12R 1:91
請求項の数または発明の数 6
微生物の受託番号 FERM P-18070
FERM P-18173
全頁数 13
出願番号 特願2001-032003 (P2001-032003)
出願日 平成13年2月8日(2001.2.8)
審査請求日 平成13年2月8日(2001.2.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
発明者または考案者 【氏名】吉田 利通
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】▲高▼ 美葉子
参考文献・文献 国際公開第00/063699(WO,A1)
Invest. Ophthalmol. Vis. Sci.,2000年,41 [13],p.4101-4107
Int. J. Cancer,1992年,52 [5],p.688-692
Nucleic Acids Res.,1991年,19 [3],p.525-531
調査した分野 C07K 16/00-16/46
C12N 15/00-15/90
G01N 33/48-33/98
BIOSIS/WPI(DIALOG)
SwissProt/PIR/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
テネイシンC 分子内のフィブロネクチンIII 型反復配列のBCD 配列部分を認識するモノクローナル抗体4C8 。
【請求項2】
乳癌組織を認識する請求項1記載のモノクローナル抗体4C8 。
【請求項3】
請求項1記載のモノクローナル抗体4C8 を産生する機能を有するハイブリドーマ細胞、FERM P-18070。
【請求項4】
請求項1記載のモノクローナル抗体4C8 を標識化した事を特徴とする、診断薬。
【請求項5】
抗テネイシンC一次抗体を固定化したプレート、及び前記一次抗体に結合したテネイシンCを検出するための標識化抗テネイシンC二次抗体の両要素を少なくとも備え、前記一次抗体又は前記二次抗体の少なくともいずれか一方が請求項1記載のモノクローナル抗体4C8 である事を特徴とする、診断薬キット。
【請求項6】
請求項1記載のモノクローナル抗体4C8 を用いて、前記テネイシンCの癌間質に特異的なフィブロネクチンIII 型配列のBCD 配列部分を検出する方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗テネイシンCモノクローナル抗体及び抗テネイシンCモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞に関する。更に詳しくは、癌組織をはじめとして組織再構築の間質において特異的に発現するテネイシンCのスプライシングバリアントを認識し、癌や炎症の診断、あるいは抗癌剤の選択的投与を可能とする抗テネイシンCモノクローナル抗体とその産生細胞に関する。
【0002】
【従来の技術】
テネイシンC(TN-C)は、細胞外マトリックス糖蛋白質の一種であり、分子量約25万のポリペプチドがN末端付近で3分子でコイル状に合わさり、更に2つのジスルフィド結合によって六量体を形成している。各ポリペプチド鎖には上皮増殖因子(Edidermal growth factor : EGF )様ドメイン、フィブロネクチン(Fibronectin : FN)III 様ドメイン、およびフィブリノーゲン様ドメインが含まれている(Jones FS et al.,(2000) Dyv Dyn 208:235-259)。
【0003】
初期の研究では、TN-Cは癌間質に特異的に発現する細胞外マトリックスであると考えられていた。しかし、現在では癌間質における発現は極めて高いが、正常組織でもある程度発現していることが明らかになっている(Kalembeyi I et al.,(1997) Int.J.Dev.Biol. 41:569-573)。他方、ある種のTN-Cスプライシングバリアントは腫瘍間質に特異的に発現していることが明らかとなっている(JonesFS et al.,(2000) Dyv Dyn 208:235-259 ; Borsi L. et al.,(1992) Int.J.Cancer 52:688-692 ; Mighell AJ et al.,(1997) Int.J.Cancer 72:236-240)。FNIIIドメインは、基本的な8個(1-8)の反復が連続しており、5番目と6番目の間に、9個のスプライシングされる反復(A1-A4、B、AD2、AD1、C、D)が知られている。この反復が7個(A1、A2、A3、A4、B、C、D)挿入されるもの、前半の4個のいずれかの組み合わせが挿入されるもの、または全く挿入されないものが大部分であろうとされている。このうち癌組織では7個のドメインがはいったものが多く発現しており、後半の3つの反復(BCD)が癌間質に比較的特異的であると考えられる。この部位を認識するモノクローナル抗体を作製すれば、癌診断などの臨床応用が可能と思われる。この様な、癌間質などの組織再構築部位に特異的に発現するTN-Cバリアントのみを認識するモノクローナルは、これまで存在しなかった。
【0004】
抗TN-C抗体は、現在ヒト神経膠芽腫の治療や診断に用いるための臨床研究が進められている(Bigner DD et al.,(1998) J.Clin.Oncol. 16:2202-2212 ; RivaP et al.,(1994) Cancer 73:1076-1082 ; Riva P et al.,(1997) Cancer 80:2733-2742)。しかしながら、広範なヒト疾患でこの抗体の有用性を明らかとするためには、動物実験が不可欠であるが、既存の抗体はマウス・ラットなどの一般的な実験動物のTN-Cへの交差性を有していない。ヒトとマウスのTN-Cは相同性が高いことが知られており、マウスおよびヒトの両者に交差する抗体を作製すれば、ヒト疾患に対するTN-Cを標的とした臨床予備実験を、同一抗体を用いてモデル動物でも行うことが可能となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上の知見に鑑みて、癌間質などに特異的に発現するTN-Cスプライシングバリアントを認識するモノクローナル抗体と、この抗体を産生するハイブリドーマを提供し、このモノクローナル抗体を医療分野へ利用するために資することが、本発明の課題である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の課題を解決するものとして、癌間質に特異的に発現するTN-Cスプライシング部位のリコンビナント蛋白を抗原とするモノクローナル抗体と、この抗体を産生するハイブリドーマを提供するものである。具体的には、以下の(1)~(6)の発明を提供するものである。
(1)テネイシンC 分子内のフィブロネクチンIII 型反復配列のBCD 配列部分を認識するモノクローナル抗体4C8 。
(2)乳癌組織を認識する前記のモノクローナル抗体4C8 。
(3)前記のモノクローナル抗体4C8 を産生する機能を有するハイブリドーマ細胞、FERM P-18070。
(4)前記のモノクローナル抗体4C8 を標識化した事を特徴とする、診断薬。
(5)抗テネイシンC一次抗体を固定化したプレート、及び前記一次抗体に結合したテネイシンCを検出するための標識化抗テネイシンC二次抗体の両要素を少なくとも備え、前記一次抗体又は前記二次抗体の少なくともいずれか一方が前記のモノクローナル抗体4C8 である事を特徴とする、診断薬キット。
(6)前記のモノクローナル抗体4C8 を用いて、前記テネイシンCの癌間質に特異的なフィブロネクチンIII 型配列のBCD 配列部分を検出する方法。
以下、この出願の発明について、実施形態を詳しく説明する。
【0007】
【発明の実施の形態】
上述した様に、テネイシンC(TN-C)は細胞外マトリックスの一種であり、いくつかのスプライシング・バリアントの存在が知られている。そして、そのいくつかは、癌間質に特異的に発現することが知られている。本発明は、癌間質に特異的なフィブロネクチンtypeIII 反復内のスプライシング部位(BCD)の組み換え蛋白質を抗原として、モノクローナル抗体を作製したものである。本願明細書において、「癌間質に特異的なテネイシンCスプライシングバリアント」とは、上記のフィブロネクチンtypeIII 反復内のスプライシング部位の、癌間質に比較的特異的な後半の3つの反復(BCD)配列に相当する部位を含む、TN-Cのバリアントを意味する。その様なバリアントを認識する本発明のモノクローナル抗体は、癌細胞を検出するためのツールとして有用である。また、炎症などの組織再構成を示す疾患でこの様なバリアントが発現されているという知見もあり、本発明のモノクローナル抗体は、炎症を検出するためのツールとしても有用である。また、下記の実施例で示す様に、本発明のモノクローナル抗体はマウスと交差性を有する為に、動物実験での検討においても使用可能である。
【0008】
下記の実施例で示す様に、本発明者らは、TN-CのフィブロネクチンtypeIII 反復内のBCD部位をコードするcDNAを用いて当該部位の融合蛋白質を採取し、当該融合蛋白質で動物を免疫することにより、癌間質に特異的なスプライシングバリアントを認識するモノクローナル抗体を採取した。具体的には、配列表の配列番号1記載のポリヌクレオチド組み込んだベクターを大腸菌に導入し、配列表の配列番号2記載のポリペプチドの融合蛋白質を産生させた。その様にして得られた融合蛋白質を、TN-Cの遺伝子欠損マウスに投与することにより、当該動物を特異的なスプライシング部位の蛋白質により免疫することができる。組み換え蛋白質を抗原として用いることにより、エピトープのはっきりとしたモノクローナル抗体を作製することが可能である。免疫を行う際に、内在性のTN-Cの影響を除く為に、TN-C遺伝子欠損マウスを使用することが好ましい。その様な遺伝子欠損マウスを用いることにより、種交差性を有する反応性の高いモノクローナル抗体を得ることが期待できる。
【0009】
免疫したマウスから脾細胞を調製し、脾細胞とマウスミエローマ細胞を融合し、限界希釈法により目的とするクローンをクローニングすることができる。この際に、融合した細胞を選択する方法が確立されている、HGPRT (Hpoxanthin-guanine phosphoribosyl transferase )欠損株を用いることが好ましい。抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、例えばポリエチレングリコール等の高濃度ポリマー溶液中で行うことができる。更に、融合細胞の選択は、公知のHAT (ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン)選択法を用いて行うことが好ましい。上記のHGPRT 欠損株のミエローマ細胞は、代謝系の欠損のためにアミノプテリン非存在下では生存することができない。しかし、融合したハイブリドーマ細胞は、脾細胞よりHGPRT が供給されるために、HAT 培地中で生存することができるために、非融合細胞からハイブリドーマを選択する事ができる。更に、限界希釈法により、増殖するけれども抗体を産生しないクローンを除くことにより、クローニングを確立することができる。
【0010】
その様にして得られた陽性クローンが4C8 と19C4であり、本発明のハイブリドーマ細胞FERM P-18070とFERM P-18173に、それぞれ対応する。本発明のハイブリドーマ細胞を公知の方法で培養して精製することにより、本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。ハイブリドーマ細胞の培養は、培地中で培養することにより行う事が好ましい。また、マウス腹腔内にハイブリドーマ細胞を注射し、腹水からモノクローナル抗体を採取することもできる。この様にして得たモノクローナル抗体の精製は、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過法、硫安塩析法等の、本技術分野において公知の方法により行うことができる。この様にして得られた本発明のモノクローナル抗体は、下記の実施例で示す様に、癌間質を特異的に認識する事が確認された。本発明の抗体は特異性を有するために、例えば本発明の抗体に抗癌剤を結合させることにより、病変部位に効率良く薬剤を投与することが可能であると考えられる。
【0011】
本発明はまた、上記のモノクローナル抗体をマーカー標識することにより作製した、癌又は炎症の診断薬である。ここでマーカーとしては、酵素、放射性同位元素、蛍光色素等を用いることができる。ここで用いる酵素としては、turnover number が大きく、かつ酵素と結合しても安定であること、基質と特異的に反応して発色させることができる等の条件を満たす物であれば特に制限されるものではなく、通常の酵素免疫アッセイ(EIA )に用いられる酵素を使用することができる。好ましい酵素の例としては、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を用いることができる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。
【0012】
これら酵素とモノクローナル抗体との結合は、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法により行うことができる。基質としては、使用する酵素に応じて公知の物質を使用することができる。例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジンを、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。
【0013】
マーカーとして用いる放射性同位元素としては、 125Iや 3H等の通常のラジオイムノアッセイ(RIA )で用いられているものを使用することができる。蛍光色素としては、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC )等の通常の蛍光抗体法に用いられるものを使用することができる。また、本診断薬は、腫瘍間質を特異的に染色することが可能な、免疫組織学的染色として使用することができる。また、放射性同位体を標識した場合には、体内に投与することによって、癌や炎症の病変部を画像化するために使用することもできる。
【0014】
本発明はまた、ヒト又は動物の血液から血清を調製し、血清中における癌間質に特異的なスプライシングバリアントのTN-C蛋白質の量を定量する、癌又は炎症の診断薬キットである。本方法において、いわゆるサンドイッチELISA 法(Enzyme-linked immunosorbent assay :酵素免疫測定法)によってこれらの病変に特異的に発現するスプライシングバリアントのTN-Cを検出することができる。
【0015】
本発明の診断キットを用いる場合には、まず抗TN-C一次抗体を固相化したプレートに試料を接触させて両者を結合させ、この結合体にマーカー標識した抗TN-C二次抗体を結合させ、この三者の結合体におけるマーカーのシグナル強度を測定することにより、癌間質に特異的なスプライシングバリアントの量を測定する。ここで、下記の実施例で示す様に、本発明のモノクローナル抗体を標識化して、二次抗体として使用する事が可能である。また、本発明のモノクローナル抗体を一次抗体として使用し、その一次抗体を標識化した抗TN-C二次抗体で検出する事もまた可能である。
【0016】
二次抗体の標識としては、上記の診断薬において述べた種々の酵素標識、即ちペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素等を使用することができる。また、25Iや 3H等の放射標識、フルオレッセンスイソチオシアネート(FITC)やテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC )等の蛍光標識を使用することができる。マーカーが酵素の場合には、酵素活性によって発色する基質もまた備えるようにする。
【0017】
このような診断キットは、被検成分の種類に応じて各種のものが市販されており、本発明の診断キットも、抗体としてTN-Cモノクローナル抗体を使用すること、二次抗体として必要な場合には抗TN-C抗体を用いることを除き、公知公用のキットに用いられている各要素によって構成することができる。また、非結合TN-Cモノクローナル抗体及び/又は非結合二次抗体を洗浄するための洗浄液を備えることは好ましい。
【0018】
本発明の診断キットを用いる場合には、以下の過程により、癌間質に特異的なスプライシングバリアントの量を定量することができる。
(1)プレートに、一次抗体である抗TN-C抗体を固相化する。
(2)上記の固相化した抗TN-C抗体に、血清等の試料を接触させて、抗原抗体複合体を生成する。
(3)当該複合体にマーカー標識した二次抗体である、抗TN-C抗体を接触させる。
(4)二次抗体の標識のシグナルにより、抗原である癌間質に特異的なスプライシングバリアントの量を定量する。
以下、実施例を用いて本発明につき、詳細にかつ具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
【0019】
【実施例】
実施例1:抗体の作製とその特性の確認
(免疫原の調製)
TN-Cのフィブロネクチン(FN)III 型配列のBCD部分をコードするcDNAであるポリヌクレオチド(配列番号1)をpQE-31ベクターに組み換え、コンピテントセル(JM-109)に導入した。この大腸菌を培養し、イソプロピル-β-D(-)チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加した後一晩培養し、pQE-31ベクターに組み込んだcDNAの融合蛋白質を生成させた。大腸菌の細胞膜を破壊することにより融合蛋白質を抽出した後、His trapカラム(Pharmacia )で生成した。
【0020】
(モノクローナル抗体の作製)
TN-Cの遺伝子欠失マウスは三重大学医学部付属動物実験施設で継代飼育されている、BALB/Cに戻し交配されたものを用いた。FNIII 配列のBCDの融合蛋白質(上記工程にて調製)100 μg とComplete adjuvant を等量混合してエマルジョンを作製し、マウスに2週間の間隔で2回免疫した。さらに、細胞融合3日前にマウスの尾静脈内に100 μg の融合蛋白質を注射した。免疫したマウスから採取した脾臓から脾細胞を調整し、脾細胞とマウスミエローマ細胞(Sp2/0 )を5:1で混合し、ポリエチレングリコール(PEG )溶液を用いて融合を行った。
【0021】
その後、PEG を除去してBriclone(Bio Research)5%と20%FCS を添加したIMDMに再浮遊し、96穴マイクロプレートに1×105 個/穴の濃度でまきこみ、CO2 7%、37℃で培養を行った。4日後HAT 培地を添加し、7-10日後にヒトグリオーマ由来精製TN-Cを抗原としてELISA を行い、抗体産生を確認した。クローンは、HT培地を用いてさらに選択培養し、限界希釈法によってクローニングを2回繰り返した。さらに、マウス胎児切片およびヒト乳癌組織を用いて免疫組織化学的に使用できるクローンを選択した。モノクローナル抗体のアイソタイプは、Mouse monoclonal antibody isotype kit (Amersham LIFE SCIENCE) を用いて決定した。また、比較のためにTN-Cのすべてのバリアントを認識する抗体として、本発明者らが以前に作製した4F10を用いた。
【0022】
(抗体の精製)
抗体産生細胞を無血清培地のGIT培地(和光)で培養し、細胞の80%が死滅するまで抗体を産生させた。遠心(1000rpm 15min )により細胞を取り除いた後、硫酸アンモニウム50%飽和状態にして4℃で一晩静置し、沈殿を遠心(1000rpm 30min )で回収した。この沈殿を2倍に希釈したbinding buffer(Protein AMAPS IIkit)に溶解させた後、Protein A カラム(Pharmacia-Amersham)にIgGを吸着させた。その後、PBS 透析を一晩行った。
【0023】
ヒト神経膠芽腫培養上清から精製したTN-Cを抗原として、ネイティブなTN-Cに反応する抗体を産生するクローンをELISA 法によってスクリーニングし、抗体価の高い13クローンを選択した。この13クローンに対して、マウスおよびヒトの組織中のTN-Cとの反応性を調べるために、マウス胎児組織およびヒト乳癌組織のパラフィン切片を用いて免疫組織化学染色を行い、両者ともに反応性の高かった2クローン(4C8,19C4)を選びだした。なお、これらのクローンの免疫グロブリンのアイソタイプはいずれもIgG1、κであった。
【0024】
これら2クローン(4C8,19C4)のうち、4C8 に相当するハイブリドーマα-hTNC/B-D を、2000年10月4日付けで、工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM P-18070として寄託した。また、19C4に相当するハイブリドーマα-hTNC/B-D/2 を、2001年1月23日付けで、産業技術総合研究所生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM P-18173として寄託した。
【0025】
(ウエスタンブロット法)
次に、これらの抗体がTN-Cのスプライシング部位を認識することを確認するために、精製ヒトTN-Cを電気泳動し、ウエスタンブロッティングを行った。この際、ヒトTN-Cの全てのバリアントを認識する抗体(4F10)を対照として用いた。ヒトTN-Cは、Aukhilらの方法(Aukhil I et al.(1990) Matrix 10:98-111)に従い、ヒト神経膠細胞株U251 の細胞株から50%硫酸アンモニウム飽和による塩析とSephacryl S500カラム、モノQカラム(Pharmacia Biotech )により精製した。
【0026】
Polyacrylamide Gel Electrophoresis MULTIGE L2/15(第一化学薬品)上でLaemmli の方法で電気泳動(SDS-PAGE法)を行った。電気泳動された蛋白は、Immobilon Transfer Membranes(MILLIPORE )へ電気的に転写した。メンブレンは0.5 %スキムミルク添加50mM Tris-buffered saline (TBS )でブロッキングし、0.1 %スキムミルク添加TBS で4000倍に希釈したモノクローナル抗体と一晩反応させ、0.1 %スキムミルク溶液で洗浄し、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG (H+L-chain )(Biorad)で500 倍に希釈して二次抗体として反応させ、洗浄後、DAB/H2O2溶液で発色させた。
【0027】
結果を図1に示す。4F10では200 から300kDaに幅広いバンドを認識し、特に210kDa付近および300kDa付近に濃いバンドが見られた。これに対し、4C8 および19C4では300kDa付近に濃いバンドを確認し、210kDa付近のバンドは見られなかった。即ち、4C8 および19C4においては低分子のバリアントを認識せず、高分子量のバンドのみを認識した。210kDaのバンドはスプライシング部位の挿入がないTN-Cと考えられ、300kDa付近のバンドは7つのFNIII 反復が挿入されたバリアントであると考えられる。したがって、4C8 および19C4は、210kDaのTN-Cは認識できず、正常ではスプライシングされる反復を含むTN-Cを認識することができた。
【0028】
(マウス凍結切片を用いた免疫組織化学染色)
マウスとの交差性を確認するために、マウス乳癌組織の凍結切片を用いて免疫組織化学染色を行った。マウス乳癌組織から凍結切片を作製し風乾後、10%ホルマリンで10分間固定した。PBS 洗浄を3回行った後、PBS で10倍希釈した正常ヤギ血清を用いて30分間ブロッキングした。一次抗体としてFITC標識TN-Cモノクローナル抗体(4C8 、19C4および4F10)をPBS で20倍希釈したもので、切片を2時間反応させ、PBS で洗浄し封入した。FITCに適したフィルターをセットした落射蛍光顕微鏡を用いて観察し、写真撮影を行った。結果を図2に示す。乳癌間質は、4F10、4C8 では強く染色された。19C4においては程度は弱いものの染色性は陽性であった。
【0029】
実施例2:ヒト組織における免疫組織化学染色
(免疫組織化学染色)
得られた4C8 が認識するスプライシング部位を含むTN-Cが、癌間質に特異的に発現しているか調べるために、ヒト組織のパラフィン切片を用いて免疫組織化学染色を行った。作製された抗体のうち、4C8 クローン抗体を用いて免疫染色を行った。病理解剖により得たヒト組織のパラフィン切片をキシレンで脱パラフィンを行った後、エタノール系列で水和化した。0.3 %H2O2/メタノール溶液に10分間つけて内因性ペルオキシダーゼを不活化した。4F10抗体を一次抗体とするものはペプシン処理により、4C8 抗体は0.1 %サポニンにより室温、20分間処理して抗原性を賦活化した。PBS 洗浄を3回行った後、PBS で10倍希釈した正常ヤギ血清を用いて30分間ブロッキングした。その後、一次抗体としてそれぞれ200 倍に希釈した4F10、4C8 を用いて一晩反応させた。ラベリングはサイテック・ポリバレント・HPRキット(SCYTEK)を用いて行い、DAB/H2O2溶液で発色させた後にヘマトキシリンで15秒染め出し、永久標本とした。
【0030】
サンプルの組織としては、ヒトの乳腺(乳癌)、食道、胃、小腸、脾臓、心筋、脾臓、腎臓、肝臓、肺、気管軟骨、および副腎を用いた。なお、比較するために対照として全てのバリアントを認識する4F10を一次抗体とする免疫組織化学染色も行った。結果を表1にまとめた。
【0031】
【表1】
JP0003646159B2_000002t.gif【0032】
図3に、各種ヒト組織の免疫組織化学染色の結果を示す。図3において、a,bは乳腺組織、c,dは小腸粘膜、e,fは腎髄質、g,hは気管軟骨における結果を示す。用いた抗体は、a,c,e,gは4F10抗体、b,d,f,hは4C8抗体である。4C8 は、乳腺組織において腫瘍組織の間質を強く染色し、残存する正常乳癌組織では陽性像は見られなかった(図3b)。他の組織では、腎髄質間質(図3f)や消化管筋層(図3d)が弱く染色された他は、染色は見られなかった。
【0033】
4F10は乳腺組織において、腫瘍間質に高度に発現していた他、正常乳腺腺管の基底膜においても染色がみられた(図3a)。また、他の正常組織においては、消化管粘膜(図3c)や腎尿細管上皮の基底膜、腎髄質の間質(図3e)が染色された。また粘膜筋板および固有筋層の平滑筋細胞間、中小動脈の筋性血管壁に陽性像が観察された。また、通常の毛細血管の基底膜および脾洞や類洞、肺胞壁などもよく染色した。副腎皮質の束状帯、網状体でも毛細血管壁の染色が見られた。また、気管の軟骨では、軟骨膜や軟骨細胞が染色された。
【0034】
実施例3:ELISA 法によるTN-Cの添加回収試験
96穴のマルチウェルプレートに、100 μl のリン酸緩衝液生食水で500 倍に希釈した4F10抗体を入れ、4℃で一晩静置し、抗体を吸着させた。抗体溶液を除去し、1%ウシアルブミン(BSA )溶液でブロック後、Tris緩衝生理食塩水(TBS)で洗浄した。ヒト神経膠芽腫細胞U251の培養上清から精製したTN-Cを標準品とし、これを1%BSA 液3倍の段階希釈を行い、100 μl /ウェル内に入れた。また、ヒト正常血清を1%BSA 液で2倍に希釈したものにTN-C標準品を段階希釈で添加し、回収試験を行った。TN-Cの希釈液をいれ、2時間室温で静置後、TBS で洗浄し0.2 μg/ 100μl のペルオキシダーゼ標準抗TNC 抗体(19C4)Fab'を加え、1時間室温で静置した。その後、TBS で洗浄し、o-phenylenediamineを発色剤として発色させ、マイクロプレートリーダーで測定した。
【0035】
その結果、2倍希釈のヒト正常血清では、64ng/ml のTN-Cであり、この値は、他のヒト血清における正常範囲であった。添加量に従い、標準品によって測定された標準曲線に沿って上昇し(図4)、添加したTN-Cは良く回収されていた。図5において、X印は標準曲線を、○印は回収試験の結果を、それぞれ示す。
【0036】
実施例4:ELISA 法による心筋梗塞患者血中のTN-Cの測定
8例の心筋梗塞患者の経時的に採取された血清のうち、入院時、数日後(2~4日)、一週間後の3点を計測した。血清は、4倍希釈したのち、上記の回収試験と同様の方法でELISA 法で測定した。標準曲線は精製ヒトTN-Cを標準品として用いて作製した。
【0037】
心筋梗塞患者の血清では、入院後数日後に高値を示し、一週間後には入院時のレベルに低下した。結果を図5に示す。実験動物の組織学的検討では、TN-Cは心筋の障害後早期から発現し、数日後に発現は最大となり、一週間後には発現は低減することが知られている。血清中のTN-C濃度はこのような組織発現を反映しているものと考えられる。この結果より、本モノクローナル抗体は病変組織から流出した血清中のTN-Cを測定しうることが判明したばかりでなく、組織壊死後などの炎症性変化や組織再構築過程において発現する高分子量のTN-Cを検出しうることが明らかとなった。
【0038】
【発明の効果】
本発明により、癌組織や炎症組織で特異的に発現するTN-Cスプライシングバリアントを認識するモノクローナル抗体、及び当該抗体を産生するハイブリドーマ細胞が与えられた。本発明のモノクローナル抗体は、癌や炎症の診断に有用である。
【0039】
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の抗TN-C抗体(4C8,19C4)が高分子量のバリアントを認識すること示す、ウエスタンブロッティングの写真である。
【図2】図2は、マウス乳癌組織の凍結切片を、対照の抗TN-C抗体(4F10)及び本発明の抗TN-C抗体(4C8 )により、免疫組織化学染色した結果の写真である。
【図3】図3は、各種ヒト組織を、対照の抗TN-C抗体(4F10)本発明の抗TN-C抗体(4C8 )により、免疫組織化学染色した結果の写真である。
【図4】図4は、抗TN-C抗体のELISA において作製した標準曲線と、回収試験の結果を示したグラフである。
【図5】図5は、心筋梗塞患者において、血清中TN-C濃度の経時変化を、ELISA により測定したグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
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