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明細書 :光学材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3551317号 (P3551317)
公開番号 特開2002-328404 (P2002-328404A)
登録日 平成16年5月14日(2004.5.14)
発行日 平成16年8月4日(2004.8.4)
公開日 平成14年11月15日(2002.11.15)
発明の名称または考案の名称 光学材料
国際特許分類 G02F  1/355     
C01B 33/20      
C01G 41/00      
G02B  1/00      
FI G02F 1/355 501
C01B 33/20
C01G 41/00 A
G02B 1/00
請求項の数または発明の数 5
全頁数 9
出願番号 特願2001-135236 (P2001-135236)
出願日 平成13年5月2日(2001.5.2)
審査請求日 平成13年5月2日(2001.5.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012718
【氏名又は名称】岡崎国立共同研究機構長
発明者または考案者 【氏名】村上 英利
【氏名】猿倉 信彦
【氏名】大竹 秀幸
【氏名】山瀬 利博
【氏名】西 信之
【氏名】井上 克也
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】植田 高盛
参考文献・文献 特開平10-213824(JP,A)
調査した分野 G02F 1/29-7/00
特許請求の範囲 【請求項1】
分子構造が非中心対称化され、非線形を発現しているケギン型構造を有するヘテロポリ酸イオンを構成要素とし、前記ヘテロポリ酸イオンのポリ原子が少なくとも1つ欠損しているか、または、ヘテロポリ酸イオンの一部のポリ原子が他の原子で置換されている非線形光学材料。
【請求項2】
前記ヘテロポリ酸イオンが、次の一般式:[XMM′12-y40n-(式中、Xはヘテロ原子、Mはポリ原子、M′はMとは異なるポリ原子、nは価数、y=1~11である。)で表されるケギン型構造を有する請求項1の光学材料。
【請求項3】
前記ヘテロポリ酸イオンが、一般式:[XM1139n-(式中、Xはヘテロ原子、Mはポリ原子、nは価数である。)で表されるケギン型構造を有する請求項1の光学材料。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸イオンが、次の一般式:[XMM′11-z39n-(式中、Xはヘテロ原子、Mはポリ原子、M′はMとは異なるポリ原子、nは価数、z=1~10である。)で表されるケギン型構造を有する請求項1の光学材料。
【請求項5】
前記ヘテロポリ酸イオンのヘテロ原子が、Ge、Si、P及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の原子であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項記載の光学材料。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光波長変換材料、光位相変調材料として利用可能な、光学材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
これまで、多くの非線形結晶が、様々な研究や工業利用のために開発されてきた。
【0003】
例えば、二次の非線形光学材料としては、リン酸二水素カリウム(KDP)やホウ酸バリウム(BBO)に代表される無機化合物が多く用いられていた。
【0004】
また、p-ニトロアニリン誘導体やカルコン誘導体等の有機化合物からなる非線形材料も開発され、知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらの非線形光学材料の選定は、どのような性能が必要とされるかに依存する。また、これらの非線形光学材料を利用する場合、最適な結晶は、それぞれの場合によって異なってくる。
【0006】
非線形光学材料であって、広範囲に適用できるものは、知られていない。そのため、波長変換用等の非線形結晶の開発は、いまだに大きな関心が持たれている分野である。
【0007】
本発明の課題は、ポリ酸イオンを構成要素とする新規な光学材料を得ることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、分子構造が非中心対称化され、非線形を発現しているケギン型構造を有するヘテロポリ酸イオンを構成要素とし、前記ヘテロポリ酸イオンのポリ原子が少なくとも1つ欠損しているか、または、ヘテロポリ酸イオンの一部のポリ原子が他の原子で置換されている非線形光学材料に係るものである。
【0009】
本発明は、所定のポリ酸イオンを構成要素とする光学材料が、従来用いられてきた非線形光学材料とは異なり、ポリ酸イオンの分子サイズ、構造等を制御することによって、使用目的に合った性能を得ることができるという知見に基づくものである。
【0010】
本発明の光学材料は所定のポリ酸イオンを構成要素とする。本発明の光学材料は、ポリ酸イオンが陰イオンであるので、ポリ酸イオンと対を形成する陽イオンを構成要素とする。
【0011】
光学材料であって、所定のポリ酸イオンを構成要素とするものは、本発明で初めて見出された。
【0012】
本発明によれば、光学材料は、熱的・機械的に安定なポリ酸イオンからなることができ、従来用いられてきた無機材料及び有機材料に比べ、分子サイズ、構造等を制御することで、使用目的に合った性能を得ることが可能である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を説明する。
本発明の光学材料は、ポリ酸イオンを構成要素とする。
本発明にかかるポリ酸イオンは、金属原子に酸素原子が、通常4又は6配位した、四面体又は八面体を基本単位として、これが綾又は頂点を介して結合した構造を持っており、金属の種類、結合様式の相違により、多種多様の構造を示す。
【0014】
かかるポリ酸イオンの特徴として、(1)水及び極性溶媒に対し高い溶解度を示し、多くの配位水を持つ場合が多いこと、(2)分子サイズ、構造、イオン電荷量、金属を分子レベルで制御することが容易であること、(3)金属の一部を非常に多くの異種金属で置換することが可能であること、(4)中性分子、イオンをゲストとするカプセル分子を形成し易いことが挙げられる。
【0015】
本発明では、このポリ酸イオンを光学材料として用い、ゲスト分子の選定、一部金属原子の置換、構造の制御(分子構造の部分的な欠損)といった分子レベルでの非中心対称化によって、大きな非線形性を発現する光学材料が実現可能となる。
【0016】
本発明では、かかるポリ酸イオンは、特に制限されず、種々のポリ酸イオンを光学材料として用いることができる。
【0017】
図1~3は、本発明で用いられる代表的なポリ酸イオンの分子構造を示す図である。かかるポリ酸イオンは、二次非線形光学材料の例として、今回の測定に用いたものであり、ヘテロポリ酸イオンの一種であり、ケギン型構造と称される構造を有するものである。図1の(a)は、一例のポリ酸イオンの分子構造を示す図であり、(b)は、(a)のポリ酸イオンを八面体モデルで示す図である。
【0018】
図1(a)及び(b)のポリ酸イオンは、一般式:[XM1240n-で示される分子式を有する。ここで、Xは中心の原子(へテロ原子)で、Mは金属原子(ポリ原子)であって八面体の中心に位置し、酸素原子(O)は八面体の頂点に位置する。この種のヘテロポリ酸イオンの価数(n)は、へテロ原子に依存して変化し、例えば、へテロ原子が、ゲルマニウム(Ge)であればn=4、リン(P)であればn=3、ケイ素(Si)であればn=4、ホウ素(B)であればn=5である。
【0019】
ケギン型構造は、八面体ユニット(MO)が1個又は3個欠損した構造を採ることが可能である。これらは欠損型ポリ酸と呼ばれる。1欠損型ポリ酸は一般式:[XM1139n-で表され、3欠損型ポリ酸は一般式:[XM34n-で表される。図2(a)及び(b)は、一例の1欠損型ポリ酸の構造、及びその八面体モデルのそれぞれを示す図である。図3(a)及び(b)は、一例の3欠損型ポリ酸の構造、及びその八面体モデルのそれぞれを示す図である。
【0020】
本発明では、ポリ酸分子の一部、例えばポリ原子を少なくとも1つ欠損させることにより、分子内の中心対称性を壊すことができる。これにより、ポリ酸分子の分子レベルでの非線形性を発現でき、光学材料の非線形性を実現できると考えられる。
【0021】
本発明では、ポリ原子の一部を、他の元素の原子、例えば同類の元素の原子で置き換えることが可能である。一般式で言うと[XMM′12-y40n-(式中、Xはヘテロ原子、Mはポリ原子、M′はMとは異なるポリ原子、nは価数、y=1~11である。)というものであり、一例として[PMo12-y403-といった一連の混合ポリ酸が挙げられる。また、1欠損型及び3欠損型ポリ酸においても同様にポリ原子の置換が可能で、それぞれ一般式[XMM′11-z39n-(z=1~10)、[XMM′9-a34n-(a=1~8)で表される欠損型の混合ポリ酸を得ることができる。これにより、ポリ酸分子のさらなる非中心対称化が可能である。
【0022】
さらに、本発明では、ポリ酸イオンのヘテロ原子を、Ge、Si、P及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の原子から選定することによって、ポリ酸分子のさらなる非線形性の発現が期待できる。
【0023】
本発明の光学材料は、かかるポリ酸イオンと対を形成する陽イオンを構成要素とする。かかる陽イオンとしては、特に制限されず、Na、K、Cs等の種々の元素の陽イオンを用いることができる。好ましくは、ポリ酸イオンと陽イオンとの組合せは、得られる光学材料の非線形性を高めるか、又は安定させるものがよい。
【0024】
本発明の光学材料は、ポリ酸イオンと陽イオンとから形成される単結晶とすることができる。かかる結晶は、ポリ酸イオンと陽イオンとを含有する溶液中での、核投入、核形成又は析出、及び核成長によって形成することができる。
【0025】
本発明では、例えば、従来に比べてより大きな第二高調波の発光強度が得られる光学材料、つまり大きな性能指数をもった二次非線形光学材料を提供することができる。
【0026】
従来のKDPやBBO等の無機化合物では、必ずしも十分に大きな性能指数が得られない。また、従来の光学材料は、非常に小さい分子からできていることから、その構造が極めて単純であり、構造や構成原子を制御することでさらなる高性能な非線形材料を生み出す取り組みは、既に限界に達している。
【0027】
このような無機非線形材料の限界を打ち破り、より高性能な二次非線形材料を見い出すために、潜在的に大きな性能指数が期待できる電子供与基(ドナー)及び電子吸引基(アクセプタ)を有するπ電子共役系有機化合物についての研究が続けられ、p-ニトロアニリン誘導体やカルコン誘導体等の大きな性能指数を持った非線形材料が開発された。
【0028】
しかし、有機分子を非中心対称的に配置することは極めて困難であり、そのため、実用上十分に大きな結晶を作製することは非常に難しい。また、有機材料は熱的・機械的な耐久性が小さいこと等から、従来の無機非線形材料を超える実際に利用可能な有機非線形光学材料は今だ得られていない。
【0029】
誘電体での光による分極は、主として、原子の外殻の原子核に弱く結合された価電子が光電熱に応じて変位することによって生ずる。この時、入射した光電場が弱い場合には、分極は光電場に比例(線形分極)するが、強い場合には、二次、三次といった高次の分極が発生する。
【0030】
この高次の分極による物質の光学応答を、非線形光学応答という。例えば、二次の非線形光学応答としては、第二高調波発生(SHG)や光パラメトリック発振、三次の非線形光学応答としては、第三高調波発生(THG)等がある。
【0031】
ところが、材料が中心対称を持つ場合、偶数次の分極は消滅してしまうため、二次の非線形材料として使用することは不可能である。そのため、二次非線形光学材料として使用するには、分子レベルで中心対称性を持たない材料を使用しなければならない。
【0032】
本発明では、このような二次の非線形光学材料を、分子サイズや構造を容易に制御可能な金属酸化物クラスターイオンであるポリ酸イオンを用いることで実現することができる。
【0033】
本発明によれば、光学材料は、有機材料に比べ、熱的・機械的に安定な無機材料からなることができ、従来用いられてきた非線形材料に比べ、大きな性能指数を持ち、分子サイズ、構造等を制御することで、使用目的に合った性能を得ることが可能である。
【0034】
本発明では、二次の非線形光学材料を提供することができ、かかる非線形光学材料は、二次の非線形光学結晶、及びそれを用いた各種レーザ装置とそれらの周辺装置、例えば光パラメトリック発振器(OPO)、自己相関器(オートコリレータ)、全固体グリーンレーザ等の各種製品に適用できる。
【0035】
【実施例】
本発明を、図面を参照して、実施例に基づき説明する。
図4は、各種ケギン型構造ヘテロポリ酸の第二高調波の発光強度を示すグラフである。図5は、実施例の光学材料の拡散反射スペクトルを示すグラフである。図6は、3欠損型ケギン構造ヘテロポリ酸の第二高調波の発光端波長を示すグラフである。図7は、実施例の光学材料の結晶を示す図面代用写真である。
【0036】
(1)ゲスト分子(ヘテロ原子)の選定、(2)一部の金属原子(ポリ原子)の置換、(3)構造の制御(分子構造の部分的な欠損)という三つの分子の設計指針に基づき、種々のケギン型構造ヘテロポリ酸について、粉末法を用い第二高調波発生による二次非線形性の評価を行った。
【0037】
実験例1
いずれも3欠損型のポリ酸である、Na10SiW34・18HO(D3S0)とNa10GeW34・18HO(D3S0)とのそれぞれから構成される光学材料(実施例1及び2)をリン酸二水素カリウム(KDP)と比較した。試料名の後にある指標は、DがMOユニットの欠損数を表し、Sがポリ原子の置換数を表している。
【0038】
図4に示すように、KDPの約10倍といった、非常に大きな発光強度を示した。図4では、QスイッチNd:YAGレーザの基本波(1064nm)励起による第二高調波(532nm)の発光強度を示す。横軸には発光強度をログスケールでプロットし、参照試料であるKDPの発光強度を1としている。
【0039】
実験例2
1欠損型のポリ酸であるKPW1139・zHO(D1S0)と、そのポリ原子であるタングステン(W)を二個のモリブデン(Mo)に置換したKPWMo39・zHO(D1S2)とのそれぞれから構成される光学材料(実施例3及び4)を比較した。
【0040】
図4に示すように、置換をしていない試料(実施例3)に比べて、置換した試料(実施例4)において、約10倍といった、非常に大きな非線形性の増大が観測された。
【0041】
実験例1及び2の結果から、MOユニットの欠損、及びポリ原子の置換による分子の非中心対称化が、二次の非線形性発現に対し極めて大きな影響を与えていることがわかる。
【0042】
実験例3
上記実験例で用いた光学材料と、KBW1240・9HO(D0S0)、CsPW10Ti40(D0S1)、NaSiW1240(D0S0)及びCsPW11TiO40・3HO(D0S1)のそれぞれから構成される光学材料(実施例5~8)を比較した。
【0043】
図4に示す結果から、へテロ原子は、Ge>Si>Pのように、より重いものほど非線形性を大きくする傾向があることが分かった。
【0044】
実験例4
実施例1、2及び4の光学材料の第二高調波発生が可能な最短波長を見積もるため、拡散反射スペクトルを測定した。なお、比較のために、KDPについても測定した。結果を図5に示す。
【0045】
図5に示すように、実施例の光学材料の遮断波長は、20%の反射率での値で規定された。また、実施例1、2及び4の光学材料の遮断波長は、それぞれ、300nm、288nm、及び334nmに達した。
【0046】
かかる紫外領域までの優れた透過は、従来の紫外線透過性に乏しい有機光学材料に比べ、実施例の光学材料が優れていることを示す。
【0047】
実験例5
実験例1及び2で、最も大きな発光を示した二つの試料(実施例1及び2)の光学材料について、波長可変のパルスレーザ光源である光パラメトリック発振器(OPO)を用いて、第二高調波の発光端波長を調べた。
【0048】
図6は、その発光強度をプロットしたものである。比較のために同じ測定をKDPについても行った。図6において、縦軸は第二高調波の強度を任意単位で示すものであり、横軸は波長である。
【0049】
図6に示すように、実施例1及び2の欠損型ヘテロポリ酸から構成される光学材料の第二高調波の発光端は、300nm近くまでのびており、各種近赤外レーザ、例えば、チタンサファイアレーザやNd:YAGレーザ等の波長変換用の非線形光学材料として十分利用可能であることがわかった。
【0050】
実験例6
PWMo39・zHO(D1S2)を溶液から成長させ、結晶化した光学材料(実施例9)を作製した。図7は、数mmの大きさに成長した単結晶を示す光学顕微鏡写真である。析出条件を検討することにより、1cm以上の大きさの単結晶を得ることも可能であると考えられた。
【0051】
このように、本発明の光学材料を二次の非線形光学材料として単結晶化した場合、従来用いられている二次の非線形光学結晶との置き換えが可能である。
【0052】
また、本発明の光学材料は、現在二次の非線形光学結晶を使用している各種レーザ装置等において、その設計をほとんど変更することなしに利用することが可能である。
【0053】
さらに、本発明の光学材料を、二次の非線形光学結晶として従来の非線形結晶と置き換えた場合、その高い非線形性から、従来の非線形結晶を用いる各種装置を容易に高性能化することが可能となる。例えば、光パラメトリック発振器や全固体グリーンレーザといったレーザ装置では、高出力化が可能であり、短パルスの幅を測定する装置である自己相関器では、より低い入射パワーで装置を動作させることが可能となる。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、光学材料は、熱的・機械的に安定なポリ酸イオンからなることができ、従来用いられてきた無機材料及び有機材料に比べ、分子サイズ、構造等を制御することで、使用目的に合った性能を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、一例のポリ酸イオンの分子構造を示す図であり、(b)は、(a)のポリ酸イオンを八面体モデルで示す図である。
【図2】(a)は、一例の1欠損型ポリ酸の構造であり、(b)は、その八面体モデルの図である。
【図3】(a)は、一例の3欠損型ポリ酸の構造であり、(b)は、その八面体モデルの図である。
【図4】各種ケギン型構造ヘテロポリ酸の第二高調波の発光強度を示すグラフである。
【図5】実施例の光学材料の拡散反射スペクトルを示すグラフである。
【図6】3欠損型ケギン構造ヘテロポリ酸の第二高調波の発光端波長を示すグラフである。
【図7】実施例の光学材料の結晶を示す図面代用写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6