TOP > 国内特許検索 > 紫外透明導電膜とその製造方法 > 明細書

明細書 :紫外透明導電膜とその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4083396号 (P4083396)
公開番号 特開2002-093243 (P2002-093243A)
登録日 平成20年2月22日(2008.2.22)
発行日 平成20年4月30日(2008.4.30)
公開日 平成14年3月29日(2002.3.29)
発明の名称または考案の名称 紫外透明導電膜とその製造方法
国際特許分類 H01B   5/14        (2006.01)
C23C  14/08        (2006.01)
C23C  16/40        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
H01L  31/04        (2006.01)
FI H01B 5/14 A
C23C 14/08 J
C23C 16/40
H01B 13/00 503B
H01L 31/04 M
請求項の数または発明の数 8
全頁数 11
出願番号 特願2001-182643 (P2001-182643)
出願日 平成13年6月15日(2001.6.15)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2000年12月18日 American Institute of Physics発行の「APPLIED PHYSICS LETTERS VOLUME77,NUMBER25」に発表
優先権出願番号 2000209139
優先日 平成12年7月10日(2000.7.10)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成16年11月2日(2004.11.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】500037942
【氏名又は名称】太田 裕道
【識別番号】500038215
【氏名又は名称】折田 政寛
発明者または考案者 【氏名】折田 政寛
【氏名】太田 裕道
【氏名】平野 正浩
【氏名】細野 秀雄
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】冨士 美香
参考文献・文献 Naoyuki Ueda et al.,Synthesis and control of conductivity of ultraviolet transmitting Ga2O3 single frystals,Applied Physics Letter ,米国,1997年 6月30日,Vol.70, No.26,3561-3563
調査した分野 H01B 5/14
C23C 14/08
C23C 16/40
H01B 13/00
H01L 31/04
特許請求の範囲 【請求項1】
パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて基板上に成膜されたGa結晶からなり、波長240nmから800nmの中紫外から可視域全域において透明であり、形成された酸素欠陥または添加されたドーパント元素により電気伝導性を有することを特徴とする紫外透明導電膜。
【請求項2】
パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて基板上に成膜されたGa結晶からなり、波長240nmから400nmの中紫外から近紫外全域において透明であり、形成された酸素欠陥または添加されたドーパント元素により電気伝導性を有することを特徴とする紫外透明導電膜。
【請求項3】
ドーパント元素が、Sn、Ge、Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの少なくとも一つの元素であることを特徴とする請求項1または2記載の紫外透明導電膜。
【請求項4】
波長248nmにおける光透過率が4%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の紫外透明導電膜。
【請求項5】
波長248nmにおける光透過率が15%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の紫外透明導電膜。
【請求項6】
波長248nmにおける光透過率が30%以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の紫外透明導電膜。
【請求項7】
パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて成膜する際に、基板を600℃~1500℃に保持し、酸素分圧を0~1Paとして成膜することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の紫外透明導電膜の製造方法。
【請求項8】
パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて成膜する際に、熱以外のエネルギーをアシストして、または好ましくない表面吸着種を除去して基板を600℃未満に保持し、酸素分圧を0~1Paとして成膜することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の紫外透明導電膜の製造方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、発光デバイスや太陽電池用の透明電極、紫外線透過性帯電防止膜として使用することができる紫外線領域から可視光領域にかけて透明性を有する透明導電膜とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、透明導電膜は、太陽電池用の透明電極またはフラットパネルディスプレイ用の透明電極として用いられてきた。これらの用途においては、透明性は波長400nm~800nmの可視域において重要視されており、錫をドープした酸化インジウム(ITO)、フッ素をドープした酸化錫(FTO)、アルミニウムをドープした酸化亜鉛(AZO)が代表的な透明導電性材料であった。この他に、Ga(特開平7-335030号公報)、Ga-In(特開平9-259640号公報)、AB2-x4-y(AはMg、Cd、Zn等、BはAl、In、Ga等)で示される非晶質透明導電膜も知られている。
【0003】
これらの材料は、禁制帯幅が3.2eV程度、波長換算して390nm程度であるので、これより短波長の近紫外光、中紫外光を透過させることができない。これまで、禁制帯幅5eV(波長換算250nm)を越える透明導電膜は提供されておらず、波長240nm~400nmまたは波長240nm~800nmの領域において透明な導電膜は提供されていなかったが、本発明者は、先に、一般式In2-x+αwt%SnOまたはIn2-x+αwt%Sbである400nmより短波長の光を透過させることのできる透明導電性薄膜を開発した(特開2000-90745号公報)。
【0004】
これまでに、Ga、ZnGaが、紫外透明導電材料となりうることが報告されているが、透明電極や帯電防止膜として用いる際に必要な、薄膜形状での透明導電性は確認されていない。Gaが導電性を示すことは、Lowrenzらによって古くから知られている。Lowrenzらは、還元雰囲気を用い、ベルヌーイ法によって単結晶を作製し、0.03 S/cmの導電率を確認した(Journal Physical Chemistry of Solids, 28巻、1967年、403頁)。
【0005】
最近、植田らは、Snをドーパントとして添加したロッドを用い、フローティング・ゾーン法によって単結晶を作製し、38S/cmの導電率を確認した(Applied Physics Letters、70巻、1997年、3561頁)。植田らは、さらに導電率の異方性を調べ、Ga結晶格子のb軸方向に導電率が高いことを明らかにした。b軸方向は、GaOらなる酸素八面体が稜共有して鎖状に連なる方向である。b軸方向の禁制帯幅は4.79eVであって、厚さ0.32mmの単結晶試料は波長266nmの光に対して20%の透過率を示した。植田らは、KrFエキシマー・レーザー光(波長248nm)も透過できるだろうと考えている。
【0006】
Ga薄膜の導電性はFleischerらが系統的に調べてきた。Fleischerらはスパッタリング法を用い、高純度Gaをターゲットに、基板温度を500℃として、Ga薄膜を作製した(Thin Solid Films、190巻、1990年、93頁)。Fleischerらは1μm厚の薄膜の電気抵抗を1000℃において測定し、10kΩの値を得た。導電率は1000℃において0.3S/cm程度であり、温度を800℃に下げると0.01S/cmに低下した。室温での導電性は確認されていない。
【0007】
さらに、Fleischerらは、Journal of Applied Physics、74巻、1993年、300頁に、800℃から1000℃におけるGaの電気伝導機構を報告しており、1000 ℃でのキャリア移動度は10cm/Vs程度であるとしている。室温における導電性はここでも報告されていない。
【0008】
Fleischerらは、最近、SnOをドーパントとして用いて、導電率を二桁向上させた(Sensors and Actuators B 49巻、1998年、110頁)。薄膜は、Ga/SnO/Ga/SnO/Gaのサンドイッチ構造とし、高純度セラミックのターゲットを用い、マグネトロン・スパッタリング法により成膜した後、1050℃で10時間加熱処理して結晶化させた。薄膜の厚みは50~200nmであり、SnOを0.5モル%添加したとき、最も抵抗値が下がり、900℃で0.5kΩ程度、600℃で100kΩ程度であった。
【0009】
伝導率は記載されていないが、800℃におけるキャリア密度が1020/cmとされていること、先の報告で移動度が10cm/Vsとされていること、導電率が二桁向上したと記載されていることから見て、10S/cm程度の値と推定される。もっとも、これらの値はすべて600℃以上の高温域でのものであり、室温の導電率はここでも報告されていない。また、透明性に関する記載はなく、透明導電膜として使用できる可能性についても全く触れられていない。
【0010】
ZnGaは、30S/cmの導電率を発現し、波長250nmに吸収端があると、小俣らが報告している(日本セラミック協会93年会講演予稿集585ページ)。小俣らは、Applied Physics Letters、64巻、1077頁、1994年により詳細な報告をしており、試料はZnOとGaの粉末を混合し、1000℃で24時間仮焼し、円盤状に加圧成形した後、1300℃で48時間焼成して作製した焼結体であった。この試料には導電性が見られない。
【0011】
さらに、水素中700℃でアニール処理すると、30S/cmの電気伝導度が得られた。吸収端波長は、焼結体試料を用いて測定した拡散反射率スペクトルから測定している。したがって、薄膜試料を作製して導電性を確認したものではなく、また、透過率スペクトルを測定して透明性を確認したものではない。
【0012】
当該論文の共著者である川副は、さらに詳しい検討を行い、Journal of American Ceramic Society、81巻、1998年、180頁に新たな報告をしている。これによると、ZnGa薄膜がスパッタリング法で作製されたが、絶縁性であって、導電性のあるものは得られていない。単結晶試料もasgrownの状態では絶縁体であり、水素雰囲気中、600℃以上で熱処理することにより導電性が現れた。しかし、導電性は表面から50μm程度の表面層だけでしか確認できず、単結晶内部は絶縁性のままにとどまった。
【0013】
透過電子顕微鏡により調べたところ、この表面層は結晶構造が変化しており、もはやスピネル型のZnGaではなく、2(Zn0.5GaO)で示される稜面体晶型ordered岩塩構造になっていた。水素雰囲気中の熱処理により、ZnとともにOが蒸発したためと考えられている。小俣らの焼結体試料も同様に水素雰囲気中で熱処理しているから、表面の結晶構造は稜面体晶型ordered岩塩構造に変化していると強く推定される。
【0014】
本発明者等は、先に、一般式Zn(Ga(1-x)Alで示され、スピネル型結晶構造を有する固溶体である波長250nm以下の光に対する透明性と導電性を有する材料を提供した。しかし、透明導電性を有するZnGa薄膜に関する公知例は存在しない。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
近年、青色発光や紫外発光の機能を有する発光材料や発光デバイス、太陽光を電力に転換する太陽電池が社会に広く普及し始めた。これらの電子デバイスには透明電極が必要であり、発光デバイスではITOが、太陽電池ではATOが用いられている。しかし、ITOもATOも波長400nm付近の青色光や、より短波長の紫外線を十分に透過させることができない。このため、透明電極の膜厚が厚くなると、発光デバイスの発光効率が大きく低減されてしまう。また、太陽光中の紫外光を太陽電池内に取り込むことができない。また、紫外線を透過する帯電防止膜は存在しなかった。
【0016】
従来、ハーフトーン層には、導電性のない物質が用いられていた。位相シフトマスクは、照射光の半分の波長でパターンを切ることができるマスクであり、マスク表面の一部にハーフトーン層を形成したものである。ハーフトーン層は照射光の透過率を4~20%程度に抑制した層であり、光の位相を半波長シフトさせる役割を持つ。このため、ハーフトーン層を透過した光とハーフトーン層を透過していない光の位相は半波長ずれており、二つの光の干渉効果によって、パターン界面の解像度が極めて良くなる。
【0017】
ハーフトーン層は、基板ガラス表面上に一様に成膜した後、電子線リソグラフィによってパターニングして形成する。もっとも、従来のハーフトーン層は導電性を有しなかったため、電子線リソグラフィ中に照射する電子によって帯電しないように、ハーフトーン層表面に導電性を有する有機物材料を塗布したり、ハーフトーン層中にSnO等の導電性材料を複合化したりしていた。このハーフトーン層を形成する材料として、紫外線透過透明導電膜を使用するならば、有機物材料を塗布する工程を省くことができ、ハーフトーン層の構造を単純化することができる。
【0018】
また、Lab-on-a-Chipは、近年研究が盛んになった概念であり、Si基板やSiOガラス基板の表面に微少なセルを形成し、セル中に物質を微少量入れ、セルを反応容器や分析用容器として用いて、微小な実験系として用いるものである。特に、DNA、蛋白分子、薬剤、光電子機能性有機分子など、有機分子の合成や分析を目的として研究が進められている。
【0019】
一般に、これらの有機分子は波長300nm付近の紫外光に対して活性を有するので、有機分子に対して電場をかけながら紫外線を照射したり、紫外線発光を検出したりすることが重要であるが、従来は、この目的に用いることができる紫外透明導電膜は存在していなかった。紫外透明導電膜は、Lab-on-a-Chipなど、DNA、蛋白分子、有機分子の合成や分析を目的としたデバイスの透明電極として有用である。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記の通り、Ga、ZnGaについては、単結晶試料および多結晶試料によって、透明導電材料となり得ることが確認されているが、従来は、これらを薄膜にして、かつ、透明導電性を付与することができなかった。本発明者らは、成膜時の基板温度を600℃~1500℃の高温にすることで、Gaの結晶薄膜中に酸素欠損を形成することができ、また、Snイオンのドーパントを薄膜中に添加することができるようになり、これらの材料を薄膜にして、かつ、透明導電性を付与することができることを見いだした。
【0021】
すなわち、本発明は、パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて基板上に成膜されたGa結晶からなり、波長240nmから800nmの中紫外から可視域全域において透明であり、形成された酸素欠陥または添加されたドーパント元素により電気伝導性を有することを特徴とする紫外透明導電膜である。
【0022】
また、本発明は、パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて基板上に成膜されたGa結晶からなり、波長240nmから400nmの中紫外から近紫外全域において透明であり、形成された酸素欠陥または添加されたドーパント元素により電気伝導性を有することを特徴とする紫外透明導電膜である。
【0023】
また、本発明は、ドーパント元素が、Sn、Ge、Si、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの少なくとも一つの元素であることを特徴とする上記の紫外透明導電膜である。
【0024】
また、本発明は、波長248nmにおける光透過率が4%以上であることを特徴とする上記の紫外透明導電膜である。また、本発明は、波長248nmにおける光透過率が15%以上であることを特徴とする上記の紫外透明導電膜である。また、本発明は、波長248nmにおける光透過率が30%以上であることを特徴とする上記の紫外透明導電膜である。
【0025】
また、本発明は、パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて成膜する際に、基板を600℃~1500℃に保持し、酸素分圧を0~1Paとして成膜することを特徴とする上記の紫外透明導電膜の製造方法である。
【0026】
また、本発明は、パルス・レーザー蒸着法、スパッタリング法、CVD法、MBE法のいずれか一つの成膜方法を用いて成膜する際に、熱以外のエネルギーをアシストして、または好ましくない表面吸着種を除去して基板を600℃未満に保持し、酸素分圧を0~1Paとして成膜することを特徴とする上記の紫外透明導電膜の製造方法である。
【0027】
Gaには、α、β、γ、ε、δの5つの結晶構造があることが知られており、常温常圧においてはβ相が安定相である。加圧下ではα相が得られる。γ、ε、δの3つの相は、湿式法によって合成した場合に析出すると報告されている結晶相である(R.Roy, V.G.Hill and E.F.Osborn, J.Amer.Chem.Soc., 74 (1952) 719)。各結晶相中でGaイオンはGaOまたはGaOの多面体を形成し、鎖状構造を作っているので、キャリア電子を注入することによって電気伝導性を発現することができる。
【0028】
通常、薄膜ではβ相が形成されるが、適当な単結晶基板を用いて薄膜内に応力を形成するなどすると、高圧相のα相を形成できる可能性がある。α相ではβ相に比べてGaイオン間の距離が短く、結晶の対称性が高いので、電気伝導率が高く、異方性のない紫外透明導電膜とすることができる。
【0029】
本発明の紫外透明導電膜材料のGa結晶中において、GaイオンはGaOまたはGaOの多面体を形成し、互いに頂点共有または稜共有して鎖状構造を作っていることが必要である。鎖状に並んだGaイオンは互いの4S軌道を重ね合わせて、伝導帯を形成し、結晶に電気伝導性を与えるからである。
【0030】
本発明の紫外透明導電膜は、波長240~400nmの全域または240~800nmの全域における透明性を有する。透明性を有する領域は、中・近紫外の範囲の透明性だけが重要な場合には、波長400~800nmの範囲の透明性は不要であり、透明性を有する領域は波長240~400nmの中紫外から近紫外全域でよいが、波長240nm~800nmの中紫外から可視域全域において透明な膜も有用である。
【0031】
一般に、波長800nm~400nmの光を可視光、波長400~300nmの光を近紫外光、波長300~200nmの光を中紫外光と呼ぶ。可視域全域の発光デバイス、フルカラーディスプレイ等の透明電極に、従来のITO膜に比べて青色透過性を高めることを目的として用いる場合には、透明性は波長380nm~800nmの領域、すなわち、可視域全域に加えて近紫外域の透明性が必要である。太陽電池に可視光に加えて中・近紫外光を利用することを目的として用いる場合にも同様である。
【0032】
一般に、透明導電膜の透明性において、長波長側の限界は透明導電膜中に導入したキャリアによるプラズマ吸収によって定まる。透明導電膜中に導入したキャリアによるプラズマ吸収が近赤外領域に存在するためで、キャリア密度が大きくなるにつれて、プラズマ吸収波長は短波長側にシフトする。波長240nm~800nmの領域での透明性が必要である場合には、キャリア密度は、プラズマ吸収が波長800nm以下で起こらない限度に抑制しなければならない。プラズマ吸収は、分光光度計で容易に観測することができる。
【0033】
一方、可視域全域における透明性が不要であり、中・近紫外域における透明性だけが必要な場合がある。例えば、GaN、ZnO等のような近紫外光発光デバイスからの光や、水銀線、重水素線、YAGレーザー光3倍波、XeFエキシマー・レーザー光、KrFエキシマー・レーザー光を透過させればよい場合には、可視域における透明性を犠牲にして、より高密度のキャリアを導入して導電性を高めることができる。キャリア密度は、プラズマ吸収が波長400nm以下で起こらない限度に抑制すれば良い。すなわち、波長240~800nmの中紫外から可視域全域における透明性を有する紫外透明導電膜に比べて、導電性が高く、波長240~400nmの中紫外から近紫外全域における透明性を有する紫外透明導電膜とすることができる。
【0034】
透明性は、例えば、紫外・可視分光光度計を用いて光透過スペクトルを測定する。分光光度計からの入射光が垂直に入射するように紫外透明導電膜付基板をセットし、透過光の強度を測定する。参照試料には紫外透明導電膜付基板に用いた基板を使用する。入射光強度に対する透過光強度の比を光透過率と定義する。本発明の紫外透明導電膜の光波長248nmにおける透過率は4%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは30%以上であり、さらに可視光線全領域から近紫外域にかけて内部透過率(後述)は好ましくは80%以上である。紫外発光デバイスや太陽電池用の透明電極として用いる場合には、該内部透過率は80%以上であることが好ましい。
【0035】
紫外透明導電膜は、紫外線を利用する分野で用いられる。例えば、青色発光材料または紫外発光材料用の高効率な透明電極となる。また、例えば、太陽電池用の透明電極として用いるならば、太陽光線中に含まれる紫外線を電気エネルギーに有効に変換することができる。紫外透明導電膜は、光リソグラフ工程において用いられるフォトマスク上の帯電防止膜として利用することもでき、この場合は、光透過率は4~20%であることが適当である。
【0036】
有機材料や検査試薬に紫外線を照射して特性を測る実験においては、基板表面等の帯電を防止するために、紫外線に対して透明な導電膜が有用である。紫外線レーザー光を利用した加工技術においても、加工機器表面等の帯電を防止することが有用である。この場合には、特に、波長248nmの光を透過させる透明導電膜は、KrFエキシマー・レーザー光を用いたプロセスに使用することができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明の紫外透明導電膜の材料は、Gaである。Ga結晶の導電性は、酸素欠陥を形成するか、またはドーパント元素を添加することによって発現させる。Ga結晶は、完全結晶である場合には、絶縁体である。Ga結晶に酸素欠陥を形成すると、酸素欠陥一つ当たり二つの電子が生成する。またドーパント元素を添加すると、ドーパント元素の価数に応じて、ドーパント元素一原子当たりいくつかの電子が生成する。生成した電子は、伝導帯を占有し、電気伝導性のキャリアとなる。
【0038】
β-Gaの光学的禁制帯幅は4.9eVであり、250nmの光波長に対応する。このため、250nmより長波長側に位置する中紫外光、近紫外光および可視光を透過することができる。一方、250nmより短波長側では光透過率が急激に減少するので、KrFエキシマー光の波長である248nmにおいては、光透過率は小さくなる。
【0039】
ただし、本発明では、β-Gaに導電性を付与するために伝導帯にキャリア電子を注入するので、バースタイン=モス・効果により光学的な禁制帯幅はやや広がり、光吸収端が短波長側にシフトして、波長248nmでの光透過率は増大する。キャリア電子密度を大きくすると光吸収端はより短波長側にシフトして、波長248nmにおける光透過率は増大し、さらに短波長の光も透過できるようになる。
【0040】
また、Alなど、β-Gaより禁制帯幅の広い物質をβ-Ga格子中に固溶させる方法も禁制帯幅の増大に対して有効であるが、キャリア電子を注入しにくくなったり、固溶させた物質がキャリア電子の散乱中心となったりして、電気伝導性を劣化させる危険があることに注意して行う必要がある。
【0041】
パルス・レーザー蒸着法またはスパッタリング法を用いる場合には、ドーパント元素はターゲット中に含めればよい。例えば、GaにドーパントとしてSnOを3モル%添加する場合には、例えば、Ga粉末とSnO粉末をモル比で1:0.03となるように秤量し、例えば、1000℃で5時間仮焼したのち、ディスク状に成形して、例えば、1500℃で2時間焼成すれば、セラミックス・ターゲットを作製することができる。
【0042】
CVD法またはMOCVD法を用いる場合には、ドーパント元素は個別のガスラインを準備して反応容器中に流入させればよい。ドーパント元素の添加量は、流入量を調整して制御する。MBE法を用いる場合には、ドーパント元素は個別の蒸発セルを準備して、これから基板上へ照射すればよい。ドーパント元素の添加量は、照射量を調整して制御する。
【0043】
ドーパント元素には、Ga結晶を形成する金属イオンよりも価数の大きな金属イオンを用いることができる。例えば、Gaイオンは3価であるので、4価以上の価数を有する金属イオンを用いることができる。具体的には、Sn4+、Ge4+、Si4+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V5+、Nb5+、Ta5+、Cr6+、Mo6+、W6+等がある。これらの金属イオンは、他の価数も取りうるものがあるが、4価以上の価数であれば良く、例示した価数に限定する必要はない。
【0044】
本発明のGa系紫外透明導電膜の製造方法においては、好ましくは、パルス・レーザー蒸着法を用いる。スパッタリング法、CVD法、MO-CVD法、MBE法を用いることもできる。いずれの成膜法においても、基板温度は600℃~1500℃が好ましい。600℃未満では、Ga結晶に酸素欠損が生じず、導電性を与えることができない。また、ドーパントを加えた系でも、ドーパント・イオンが結晶中に固溶せず、導電性を与えることができない。
【0045】
1500℃を超えると、Ga成分の蒸気圧が高くなるために、基板上に堆積させることができなくなる。基板温度が高くなるにつれ、β-Gaの蒸気圧が高くなり、いったん基板表面上に堆積したβ-Gaが蒸発して、見かけの堆積速度が小さくなり、表面粗さが増大する傾向があるので、より好ましい温度範囲は700~1100℃である。酸素圧は0~1Paとする。1Paを超えると、Ga結晶に酸素欠損が生じず、導電性を与えることができない。また、ドーパントを加えた系でも、ドーパント・イオンが結晶中に固溶せず、導電性を与えることができない。
【0046】
本発明の製造方法では、基板には石英ガラスや種々の結晶性基板を用いることができる。石英ガラス基板は、表面を平坦に加工しやすく、大変安価に入手できる点で好適であるが、融点が高くないので、1200℃以上に加熱して成膜することができない。結晶性基板には、例えば、YSZ、Al(サファイア)、MgO、CaF、Si、SiC、等を用いることができる。
【0047】
紫外域の透明電極として用いる場合には、基板も透明であることが必要であるから、YSZ、サファイア、MgO、CaF等の基板が適当である。特に、サファイアは6インチ等の大口径の基板が市販されている。また、紫外域の発光デバイス用の電極等として用いる場合には、基板も導電性を持っていることが好ましいから、SiやSiC等の半導体基板が適当である。
【0048】
基板温度は600℃~1500℃が好ましいが、表面原子の酔歩運動を熱以外のエネルギーによってアシストしてやったり、好ましくない表面吸着種を除いたりする方法をとることによって、基板温度を低下できる場合がある。例えば、熱エネルギー以外のエネルギーとして、光を基板表面に照射する方法が採用できる。光源は、例えば、水銀灯、ハロゲンランプ、紫外レーザー光等を用いる。
【0049】
また、例えば、CVD法において、原子層状成長モードを誘起するとテラス上への好ましくない原料吸着が起こらないようにすることができる。これらの方法を採用することによって、基板温度を600℃未満としても、Ga系紫外透明導電膜が得られる。特に、MO-CVD法を基礎とする成膜法は、基板温度の低温化を図ることができる方法である。
【0050】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を説明する。
実施例1~3,比較例1~3
レーザー・アブレーション用超高真空容器(入江工研(株)社製 St-1200G3)に、YSZ単結晶基板を設置し、IRランプヒーターによって加熱し、容器中に0~2Paの酸素を導入した。実施例1~3、比較例1~3について基板温度と酸素分圧を表1に示すとおりとした。
【0051】
実施例1~3および比較例1~3はターゲットをドーパントとしてSnOを3モル%含有する自作の高純度Gaターゲットとした。ArFエキシマー・レーザー光(ラムダ・フィジクス(株)社製レーザー発光装置)をターゲットに照射し、ターゲットから30mm離して対向させたYSZ単結晶基板上にGaを堆積させた。膜厚は200nmとした。
【0052】
X線回折装置(理学電機製:RINT)により、薄膜の回折パターンを測定し、β-Ga相が形成され、SnO相は析出していないことを確認した。透過スペクトルを紫外・可視分光光度計(日立製作所製、U-4000)で、導電率を4端子法(自作)により測定した。波長1000nm~250nmにおける平均透過率(%)、KrFエキシマー・レーザー光の波長である248nmにおける光透過率(%)、及び導電率(S/cm)を表1に示す。
【0053】
【表1】
JP0004083396B2_000002t.gif
【0054】
実施例4
レーザー・アブレーション用超高真空容器に、石英ガラス基板を設置し、IRランプヒーターによって700℃~900℃の範囲で加熱し、容器中に1×10-5Pa~1×10-3の範囲で酸素を導入した。ドーパントとしてSnOを1モル%含有させた高純度Gaをターゲットとして、ArFエキシマー・レーザー光をターゲットに照射し、ターゲットから30mm離して対向させた石英ガラス基板上にGaを堆積させた。膜厚は、約100nmとした。
【0055】
基板温度および酸素分圧に対する薄膜の導電率を図1に等高線図として示す。横軸は基板温度、縦軸は酸素分圧の常用対数値、等高線は、導電率の常用対数値である。基板温度750℃の場合には、導電率は酸素分圧に対して敏感であり、酸素分圧を低くするに従って導電性が増大する傾向がある。基板温度を高くすると導電性の酸素分圧依存性は小さくなり、広い酸素分圧の範囲で相対的に高い伝導率が得られる。
【0056】
実施例5
実施例4と同様に石英基板上にGaを堆積させた。基板温度を880℃とし、酸素分圧を6×10-5Paとした際に、1.0S/cmの伝導率を持つβ-Ga薄膜が得られた。この薄膜の移動度は0.44cm/Vs、キャリア密度は1.4×1019/cmであった。この薄膜の光透過スペクトルを図2に示す。横軸は光の波長、縦軸は光の内部透過率T(int)である。
【0057】
ここで内部透過率とは、薄膜表面における光の反射の寄与を取り除いた透過率であり、紫外可視分光光度計を用いて測定した光透過率T(obs)と反射率R(obs)を用い、T(int)=T(obs)/(100-R(obs))の式に従って算出した値(膜厚を100nmとして換算)であり、薄膜中に入射した光が薄膜中を透過した比率を百分率で示したものである。Rは通常0.1~0.2(10~20)である。
【0058】
可視光線領域から近紫外域にかけて内部透過率は80%以上の値を有し、中紫外域の波長250nm付近で急激に減少した。このグラフの横軸を光エネルギー、縦軸を(αhν)として取り直したのが挿入図である。ここで、αは吸収係数、hはプランク定数、νは光の振動数である。接線のx切片から、薄膜の光学的禁制帯幅を4,9eVと求めた。なお、KrFエキシマーレーザー光の波長である248nmにおける光透過率は45%、内部透過率は55%であった。この値は、例えば、KrFエキシマーレーザーを用いたパターニングプロセスにおける位相シフトマスクのハーフトーン層の透過率として、充分な値である。
【0059】
【発明の効果】
本発明は、Gaからなる波長240nm以上の中・近紫外光および可視光全域を透過できる透明導電膜を実現したものであり、紫外発光デバイス用透明電極、紫外太陽光発電用透明電極、生体材料分析用透明電極、紫外レーザー加工用帯電防止膜等に利用することによって優れた特性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例4によって得られたGa薄膜の導電率の等高線図である。
【図2】実施例5によって得られたGa薄膜の光透過スペクトル図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1